ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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第一部
さらば愛しきメカよ


●薄暗い見通し

 執務室へ投げ出された資料にはV作戦とある。

転生して長い月日がたったが、ようやく始まったかといった風情だ。

 

しかし口を開けば内心とは反対のことを喋ってしまう。

どうせ転生するならもっと別の人物。せめて数年前から始めて欲しかった。

 

「レビルがぶち上げた計画だが、どう思う?」

「本心を言えばナンセンスですな。既存の兵器運用とは明らかに一線を画します」

 ジャミトフ・ハイマンとして三十年待ったのだ。

待ち過ぎて、もはや素直には成れない。口を開けば憎まれ口がつい顔を出す。

 

というか考えてみると良い。

軍務官僚として長く勤め、ジーン・コリニーの腹心となってからは調達に編成にと既存兵器の運用にドップリと浸かっていた。

軍産企業とズブズブとは言わないが、筋が通る人物としてポスト・ゴップ枠の一人に入れてもらっている。

 

今更V作戦だの言われても、正直困る。

 

「操縦や戦術だけではありません。補給に整備に管理運用面でも大きな変更を余儀なくされるでしょう。調達する会社を変更すれば何もかも収めてくれるなら別ですが」

「そっそんな!」

 解説にハービックやウェリントンの連中が口を挟むが無視した。

参考意見を聞くためにコリニーが呼んだのだろうが、悲鳴を上げる以前にすべきことがあるだろう。

 

「本心は反対という事は、この案は通ると見たのか?」

「はい。レビル大将が必須と信じている事が致命的です。押し通すために彼は自らの進退をかけるでしょう」

 この場合の進退とは、モビルスーツが上手くいかなかったら引退するという意味ではない。

成功しようが失敗しようが、戦争終了後に全責任を取って引退し『席』を譲り渡すという意味だ。

 

権力の多くは派閥に残るだろうが、役職が空けば席次が下の者にチャンスが回ってくる。

数人いる中将の内、この戦争で活躍した者がレビルの代わりに席に座るだろう。

 

「ラインは既にフル稼働なのです。今更増産を止めるといわれても……」

「我が社などは軍の求めに応じて工場に投資までしたのです。このままでは社員一同、首を括らねばなりません。何とかなりませんか?」

 文句はレビルに言って欲しい。

 

というかこのままだと、こいつら全員アナハイムに吸収合併されるけどな。

軍としては天下り先が変わるだけなので、涼しい顔で無視しても構わない。だが散々リベートをもらったコリニー達は、少しは考えてやれというだろう。

 

「何とか、か。……どうなんだジャミトフ」

「最大まで粘って二か月というところですか? それでは方針の転換もままなりますまい。万が一、モビルスーツが躍進すればこちらに火が及びます。ですが……」

 既存の兵器でも行けるはずだが、モビルスーツが活躍することは目に見えている。

少なくとも無意味に逆張りしたら、見る目がない無能だと言われかねない。

 

だが普通ではダメなら、普通ではない方法で何とかすればよいのだ。

途中まで悲鳴を上げていた連中も、方法があると臭わせた事で穴が開きそうなほどこちらを凝視している。

 

「むしろ積極的に協力する条件に、幾つか受注をいただいてきましょう。配備されるのはもちろん……」

「ワシの軍管区という訳だな? 詳細は任せる」

 今度は含みを持たせたのではなく、当然の反応だ。

コリニー中将も判っているのだが、企業連中に文句を言わせないために頷いた。

 

これでようやく一年戦争に関われる。

……ただし、まずはモビルスーツ以外でだがな!

 

●密室の取引

 コリニー中将の執務室から、自らの所属する参謀部の部屋に戻る。

出迎える部下たちを制し、そのうちの一人を呼び寄せた。

 

「やはり例の件だった。青写真は描いてやる。三日で仕上げろジャマイカン中尉」

「ご、ご命令とあれば! しかし三日ですか!?」

 説得力を増すために運用計画を作って、レビルの元に持っていく。

この話を嗅ぎ付けた段階で、その話自体はしていた。

 

しかし三日でありもしない兵器の資料をでっちあげろと言われて、さすがにジャマイカンも青ざめる。まあ仕方ないと言えば仕方あるまい。彼は才能はあっても天才ではなく、ゴマを擂るのも含めて地味な努力で行動する男だ。

難しいとは思うが、忠誠心も含めて任せられる人間はそうはいない。

 

「青写真は描いてやるといった。それに……二人目の子供が生まれるのだろう? 将来有望な父親としては、ジオンとの戦争が終わったら軍大学に行っておいて損はあるまい」

「わ、私に推薦枠を!? 御子息ではなく? 非常にありがたい話ですが……」

 レビルを唸らせる計画をでっちあげれるならという前提だが……。

大尉に昇進させた上で、軍大学から将官コースに進ませる。

 

バスクに余計なことをされても困るので、ジャマイカンを上に上げるための措置だった。

しかし未来のことなど知らない小心者は、喜ぶやら青ざめるやらで忙しい。

 

「リチャードはパイロット畑で将官は好まぬそうだ。それに、まさか私に公私混同しろとでも言うのか?」

「ま、まさか。めっそうもない! 立案に成功しましたらありがたく……」

 私事で推薦するくせに公私混同しないとは片腹痛い。

だがこの程度の専横ならば、まあ可愛い方だろう。実際にジャマイカンは地味で堅実な男なので、焦りさえしなければバスクよりもマシであるのは確かだ。ヤザンの方が好きだけどな。

 

ちなみにリチャードと名前を付けた息子は何故かガトーみたいな武人肌に育ってしまった。解せぬ。

 

「コレを適当に使え。事前にまとめておいた」

「拝見いたします。……なるほど、コロンブスやミデアを母艦として運用するのですな。四機編制でジオンの三機編成に対抗すると」

 転生後に夢中に成って色々と考えたものだが、今では立派な黒歴史である。

『オレの考えたガンダム運用計画!』とか恥ずかしくて見返すこともできない。

レビル専用のターン・アジア・ガンダムとでも銘付けたヒゲ付きなんか、酔っぱらったとしか思えないではないか。

 

だが数で圧倒する連邦ならではの方法であれば、何の不備もないし、否定されるとも失敗するとも思えなかった。

ザクに連邦の技術を載せたザニーだとか、ガンダム廉価版のジム量産などは、放っておいても誰かがやるだろう。

 

「そっ。そういえば……先ほどの件で、良ければ閣下に子供の名付け親になっていただければ……」

「私にゴッドファーザーの真似事をしろというのか? まあ良い。考えておこう」

 ジャマイカンのゴマ擂りも堂に入ったもので、別れ際にこんなバカなことを言い出した。

 

せっかくなので名前を考えるかと思ったが、どう考えてもマルコ以外にないので、自分のネーミングセンスに閉口するのが精々だった。

ジャミトフに転生して三十年にもなるのに、昔のアニメのことを思い出すなど苦笑しかない。もっともウロ覚えなので違ったかもしれないが。

もしかしたら息子が堅物になったのも自分に原因があるのかと思いつつ、レビルとのアポイントメントを取った。

 

 

「それで用件は何かね? あまり時間もないのだが」

「お時間を取らせて申し訳ありません。早速、用件に入らせていただきますが、コリニー中将は条件次第でV作戦を後押ししても良いと」

 連邦軍は軍管区制なので、そのまま派閥形成に至るという悪癖がある。

当然ながら担当の中将ごとに意見があり、すべての票を集めるのは難しい。

 

もちろん小さな物資調達なら権限内でいくらでも可能だが、さすがに次期主力を勝手に変更などできない。

仮にゴップ大将が全面的に協力したとしても、あと数人の推薦が必要になる。

レビルと同じく痛い目にあったティアンム中将が乗るとしても、一人ひとり説得するのは時間が掛かる。ゆえにコリニー中将の推薦は、説得攻勢の弾みをつける意味でも是が非でも欲しいはずだ。

 

「ありがたい話だが、条件は何かね? 言っておくが推薦などはできんよ」

「でしょうな。ひとまずV作戦での一次成果物をいただきたい」

 自分の席を開けて、それで中将たちを釣ろうというのだ。

ここで約束できるはずもあるまい。そこで私はV作戦を推進する中で、最初にできる成果物を手に入れることにした。

 

「成果物……」

「はい。新型の融合炉。新開発のコンピューター。宇宙でしか作れない装甲板。ソレを既存の兵器に使って計画が軌道に乗るまで時間を稼ぎます」

 とはいえこの場合の成果物とは、コアファイターやガンタンクのことではない。

もっと素材的、部品的なものである。

 

ミノフスキー核融合炉や教育型コンピューター。そして何よりルナチタニウム合金は大きい。

もちろん使うにも苦労のある装甲だとは知っているが、その欠点は覚えているので問題はない。というよりも、既存の兵器の間に合わせとして使うにはちょうど良い使用法があるのだ。

 

「大々的に生産してモビルスーツが不要などという気はありません。その点はご安心ください」

「ふむ。……完成品を真っ先にという事ならば文句をつける者も居ようが、技術の使用許可ならば構うまい。取りまとめをお願いするとしようか」

 土産としてジャマイカンを酷使して作った資料を手渡しておく。

こんな物まで用意して引っ掛けるも何もない物で、かつ、V作戦の完成品をコリニー閥に寄こせという文言は削っておいた。

 

重要なのは先にも上げた成果物なのだ。

既存の兵器で押し返し、モビルスーツの運用と並行させることで、その後の運命を変えることが重要なのである。

 

レビルから言質を取って契約を交わすと、敬礼してその場を後にした。

 

●既存兵器のリニューアル

 それからV作戦に関する取りまとめを行い、史実よりも早くスタートさせた。

ジオンでドムやゲルググが三か月早ければ戦争は変わっていたといわれるが、連邦ならば一か月でも十分だ。

 

ここからさらに史実にはない兵器をでっちあげるので、こちらが勝利する運命は変わるまい。

あとは水爆やソーラレイに巻き込まれないことを祈るのみである。

 

「ジャミトフ大佐。私どもを召喚した理由は何でしょう?」

「我々全員を呼んだ以上は、なにがしかの理由がおありと思うのですが……」

「君たちを呼んだのは他でもない。兵器のことだよ」

 呼びつけたのは幾つかの開発チームや、その生産企業だ。

全て既存兵器の開発を担当しており、現在は次期主力を転げ落ちる兵器を少しでも性能良い物にしようと頑張っている(対立し合っているともいう)。

 

モビルスーツよりも既存兵器を活躍させようと思っているので、そこは好感が持てるところだ。

しかし彼らには危機感が欠けている。『どっちの内容を先にするか』という下らない争いにかまけていた。

もちろん今までの連邦軍ならば仕方がないし、これからも即座に判断されても困るのだが。

 

「君らは戦闘機と爆撃機。あるいは砲の設計で争っている。これは間違いないかね?」

「はい。細かい仕様を除くと、概ねその通りです」

 モビルスーツに対抗するため、高性能化や武装の大型化を図るのは当然だ。

しかしながら軍にも予算と編成計画があり、いちいち、どちらの順番を先にするか悩まねばならない。

 

もちろんモビルスーツに持たせて手持ちの利を活かせばよいのだが、何でもかんでもという訳にはいくまい。

それに一部の分野では、その後も既存兵器が有効で、再設計されることも多いのだ。

 

ならばその計画を早回しでやってしまっても良いだろう。

 

「V作戦の成果を開示しても良いとのことだ。大型炉心の本体を作り、あるいは軽量な装甲を間に入れれば少しは君たちの苦労も払えるのではないかね?」

「そ、それならば確かに。ペイロードに各種ミサイルや、大型砲を導入できます」

 61式戦車からの改良、あるいは新型設計で悩んでいるがガンタンク並みのサイズにすればよい。

新型炉心は今までよりも小さく、大型戦車を作って、巨大なカノン砲や榴弾を載せることも可能。

いずれガンタンクⅡは原点回帰してロボットではなくなるのだ、最初から大型戦車で良いだろう。ルナチタニウムは簡単な構造でしか量産できないらしいが、戦車の前面装甲くらいならば問題ないはずだ。

 

同様に戦闘機と爆撃機の区別だって、融合炉による大型化をすればいい。

コアブースターからジェットコアブースターが作られて量産されたが、アレをセイバーフィッシュから設計して悪い道理はないだろう。

 

「モビルスーツを優先されて腐って居る者も居るだろう。だが戦場の女王は戦車であり戦闘機だ。実用化される前に頑張ってくれたまえ」

「はっ! 了解しました!」

 技術者たちを先に返して、企業の連中をあとに残す。

もちろん彼らに仕事を持って帰ったことに感謝してもらうためだ。

 

具体的に言うと、戦力を納入してもらわねばならない。

レビルに言った事と180度違うが、手の平をドリルのように回転させることにした。

どうせモビルスーツほどの成果が上がらないのは確かなのだ。精々、コリニー閥の戦果を増やしてもらわねばなるまい。

 

「彼らにはああ言ったが、いきなり開発できるはずもあるまい。まずは間に合わせで良い。適当に納入して欲しいものだ」

「もちろんでございます。砲門や装甲板を牽引車両ごと試験的に導入するのは直ぐにでも可能ですとも」

 将来の手前、技術者たちは良い面を挙げておいた。

だが開発が成功ばかりとはいかないし、V作戦よりも先に完成し易いという程度だ。

 

そこであらかじめ企業に根回しをしておいたのは、技術者たちが開発までこぎつけた砲門の方だ。

ルナチタニウムも前面装甲なら軽量化の役に立つかもといったが、最初から装甲版としてテスト運用する。

牽引車両と砲門をその装甲版で隠し、大型砲である120mm無反動砲や、220mmキャノンをぶっ放せばいい。なんだったらビッグトレーと同時に運用することで、火砲を増やすだけでも良いのだ。

 

「これからもよろしくお願いします、閣下」

「私は佐官だがね。まあ君たちのこれからの活躍には期待しておこう」

 モビルスーツよりも既存兵器が活躍することはないだろう。

だが原作よりも割合が下がることは間違いがないし、グっと減るはずだった企業の受注もそれなりのレベルになるはずだ。

 

加えて事前情報を渡したがゆえに、経営危機に陥らないように対策もできる。

全てが全て上手くいかないだろうが、少なくともアナハイムの一人勝ちにはならない程度の状況になれば充分である。

 




 指導者転生というのも何番煎じだと思うので、モビルスーツには頼らないことにしました。

この当時は参謀の一人でしかないが、本来は敵対派閥である。

派閥の主人を説得して、V作戦を一か月前倒しにする。

既存兵器をリニューアルして戦争を終わらせる。

アナハイムは独占企業にはならない

メラニーの奴ザマぁ!(同期の桜でアナハイムの社長になった)

という感じです。
ガンタンクⅡとジェットコアブースターあったらモビルスーツ要らんよねという話。まあモビルスーツ以前に、ザクを撃破できる大砲を用意するので猶更ですが。

・大型戦車というか牽引車両。
 余計な機能を持たない牽引車両なら、手早く作成できる。
もしかしたらシャトル牽引用のアレを流用すらできるかもしれない。
ならば榴弾砲と重砲を用意して、それだけルナチタニウムの装甲版で守れば良いじゃん(覆わない)。という考え方です。
宇宙だと避けられるので無理ですが、地上だと障害物だとか計測射撃でなんとかなりますので。後方陣地に置くならば有線でのリンク射撃も可能ですしね。

●オマケ
 前世を多少思い出して他の作品をちょびっと語っているだけです。
ジャマイカンはキートン山田、そうだちび円子ちゃんのパパだよね。
じゃあ生まれる子供はマルコにしよう。
いやいや、パパじゃなくてナレーターだよというくらいには記憶が怪しくなっているというオチ。
読者の方に指摘されて、自分も昔を思い出すくらいです。

同じようにリチャード・ハイマンという堅物のキャラが、少年魔法師に居るので、それを思い出したというだけ(それも忘れてた)。
きっと孫か養子はカルノーとでも言うのでしょう。

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