進撃のほむら   作:homu-raizm

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 GGxrd面白いですね(白目
 さすがにヘイトクルーは直球過ぎたかなーと思うので、そのうち変わるかもしれません。何かいい単語ないですかね。


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・マジカル☆機関銃 MINIMI軽機関銃ほむほむカスタム。アニメ原作でも景気よく乱射している一品。魔法少女だからこそあんな撃ち方が出来る代物。


第9話 Invisible embodiment

 突然だが、何故グリーフシードはソウルジェムの穢れ、つまり絶望を吸収することが出来るのだろうか。昨夜消し飛ばした魔人のグリーフシェルを指先で弄びつつ、そんな益体もないことを考える。

 魔女は魔法少女の成れの果てなのだから、この事例に限っては卵が先か鶏が先かといった論争にはならない、つまり先にソウルジェムがあってジェムが穢れきった結果、グリーフシードに反転するという一方通行の関係だ。とすると、立ち位置が正反対なだけで、私たち魔法少女と魔女、そしてソウルジェムとグリーフシードは本質的には同じ存在であると考えていい。だから、ジェムに溜まった穢れ、絶望はより性質の近いグリーフシードに引かれ、その結果としてジェムの絶望が浄化されているように見えるだけなのだろう。

 では何故グリーフシードは絶望を吸収するのか、私たちのジェムと正反対且つ同じ性質を持っているのならば、グリーフシードそのものは絶望で満たされていなければならない。つまり、ジェムの絶望が臨界に達したとき、反転したジェムは溜めきった絶望を振り撒いて魔女を産み、そして産んだ残骸のグリーフシードは空っぽの状態になるということ。魔女を倒した後に拾うグリーフシードが絶望を吸えるのは魔女を生み出したときに中身を空にしたからだと考えられる。

 そして、人為的に絶望を吸わせることで再度臨界に達したグリーフシードはどうなる、文字通り魔女の卵なのだから、もう一度溜まった絶望を振り撒いて魔女を産む。そうやってグリーフシードを定期的に生産していた魔法少女がいるのだから間違いない。

 

「だとするなら」

 

 グリーフシードに良く似たこいつ、グリーフシェルもまた、限界まで絶望を吸わせれば再度魔人として人々に害悪を振り撒くことになりそうだ。そうなる前に、昨日真っ黒にした四個のシェルをどうにかしないと拙いのだが。はぁ、と溜息を吐いて虚空を睨む。

 

「クソ虫いないし、どうしましょう」

 

 あの白いナマモノはどういう理屈でか知らないが、絶望を吸ったグリーフシードを食っていた。元々そうやって感情エネルギーを集めることが連中の目的だったわけで、食うこと自体に驚きはないのだが、何も考えずにくれてやっていたせいで今更ながらこいつの処理に困る。

 果たして私が食べても大丈夫なのだろうか、どう見たって体に悪いを通り越してソウルジェムに直接ダメージを受けそうな気がしてならないが。指でつまんだそれをじっと見つめ、口を開いてみて、嫌な予感がするのでやっぱり止める。

 

「……とりあえず、後回しね」

 

 盾の中に仕舞っておけば時間が経過して勝手に孵化することもないからそこまで急ぐ必要もない、袋に入れておけば盾の中で散乱することもないだろう。いよいよとなったら壁の外で再度魔人にしてもう一度処理してしまえばいい。リサイクルはいつの時代だって重要だ、出現場所に時間を選べてしかも街の外も可となれば街中では使えない大火力も使用できるし。

 

「戻ったぞー」

「あら、お帰り」

 

 そうこうしているうちにハンネスが戻ってきたので、見られる前にシェルを隠す。その声は昨日とは違って少しだけだが明るいものだった。きっと、昨日私が魔人をとりあえず狩りつくしたために行方不明者が出なかったからに違いない。一応日の出ギリギリまで粘ったが、その後さらに魔人が出てたらそれは私のせいじゃない。

 

「ほら、飯」

「ありがとう」

 

 差し出された相変わらず味のしないパンをもそもそと齧りながらハンネスの様子を伺う。まだ疲れている様子なのは変わらないが、あの今にも死にそうな表情は鳴りを潜めていた。貴重なRPGを一発ぶっ放した甲斐もあったというものだろう。

 

「大丈夫だったか?」

「……何の話?」

 

 表情には出さないものの内心安堵しつつパンを齧っていたところにハンネスからの疑問、なのだが、何を指して大丈夫だったかと問うているのかが分からない。確かに昨日は色々と危ない場面もあったが、ハンネスがそれを知り得る理由はないわけで、一体何だろうか。

 心当たりがないわけじゃないのだが、誰にも話せる内容じゃないので首を傾げてよく分かりませんという態度を取る。

 

「昨日だよ、昨日。凄かったじゃねーか」

「……戸締りはしっかりしてたし特に何もなかったわよ」

 

 随分と気になる聞き方をしてくる。カマ掛けなのだろうか、何が凄かったか分からないが、私は寝てた、だから何にも気付かなかった、そんな空気を前面に押し出しつつ怪訝な表情をハンネスへと向ける。まさか昨日のあれは見られていないはず、帰るときも周囲には随分気を使ったし、変装も完璧だったはずだ。

 

「……マジで言ってんのか?」

「ええ、悪いけど皆目見当もつかないわ」

「そうか……いや、昨日の夜にすげえ揺れただろ」

「……揺れた?」

「んだよ、寝てて気付かなかったのか? 結構凄かったぞ、俺は昨夜は難民キャンプの巡回だったんだけどな、やたらでかい音がしたと思ったら地面がぐらぐらって揺れたんだよ」

 

 それは、もしかしなくても、私がぶっ放したRPGの余波だろうか。またしても私が原因であろう事態で色々と迷惑をかけたのか、それもまた誰にも言えないだけでトロストの住人のためになっているのは間違いないのだが。

 しかしそんなに揺れたかしら、震度で表せばせいぜいが二ぐらいだろうか、あの程度の揺れなんて地震大国出身の私にしてみれば日常茶飯事でなんとも思わないのだが、やはり地震に対する日本人と外人の反応の差というのは事実だったか。

 

「……悪いけど、寝てたわ」

 

 どうでもよすぎたことだったから全く覚えてなかったが、寝てたことにしておかないと色々とボロを出しそうというのもあるのでなるべく感情を殺しつつ呟く。というか、本当の地震ならばともかく、RPGの爆発が原因の揺れがこの宿舎にまで届くだろうか。実際、ハンネスのその疑問は正しいし、私も色々と後ろ暗いことをやっているのは事実なのだが、こうも遠まわしに探りを入れられるのは腹立たしい。

 

「そっか」

「それで、何か大変そうだった割には機嫌がよさそうなのはどういうこと?」

「ああ、まあ確かに大変だったけど、その代わりに行方不明者が出なかったんだよ。一人だけ怪しかったけどどういうわけか屋根の上で無事発見されてな」

 

 それは間違いなく私が屋根の上に放置した女の子だろう、元いた場所に返せなかったのは悪いことをしたと思うが、まさかあんな路地のど真ん中に放置するわけにもいかなかったから仕方ない。とりあえず無事でよかったと思っておこう。

 さっきの質問からもハンネスは私のことを疑っているようだし、ここいらである程度それを払拭する必要があるか、とりあえず何も知らない体を装ってハンネスへと質問する。

 

「それは良かったじゃない。犯人はどんな奴だったの?」

「あー……それが犯人は見つかってねーんだ。痕跡が残ってないのも同じ、だからまだ安心は出来ないんだよな」

「屋根の上で見つかったとかいう一人は何も言わなかったの?」

「さあな。今ちょうど詰め所で色々聞かれてるだろうからそれ待ちだ」

 

 恐らく、真っ黒い巨人がいましたという証言は出るだろう。かといって兵士達や他の住人が誰一人それを見ていないなら兵団がどう捉えるかば微妙な線だろう、妄言として片付けるか、あるいは人員をさらに投入して調査するか。調査したところで兵士に何か出来るわけはないのだが、人が増えればそれだけ私は動きにくくなるから、寝ぼけていたとかそのあたりで処理して欲しいとは思う。

 かといって余計な口出しをして藪蛇になっても困るので、もどかしいながらも当たり障りのない答えを返さざるを得ない。

 

「ふうん……無事解決するといいわね」

「そうだな。ってもまだまだ当分は気が抜けないだろうけどよ」

 

 私としてもこれから先当分は毎晩難民キャンプを見張るつもりだから恐らく今後行方不明者が続出することはないだろうが、そのことを言うわけにもいかないので適当に流して会話を終わらせる。

 午前中は昨夜の疲れを抜くために休んでしまったから、午後は今夜に備えて憲兵団詰め所からブレードを頂戴しないとならない。

 

「んじゃ、俺は寝るわ」

「ええ、お休みなさい」

 

 ハンネスが寝室に消え、そして気配が中で動かなくなったのを確認してから外出の準備を整えつつ赤外線スコープで壁越しにハンネスを伺う。若干下がった体温と規則正しく動く輪郭がハンネスが狸ではなく正しく寝入ったことを示しているのを確認し、外套を羽織って街に繰り出した。

 

 

 

 

 

 太陽が傾きかけたころ、憲兵団詰め所を建物の影から伺う。まだそこまで遅くない時間だからか人の出入りはそこそこあるが、昨日行方不明者が出なかったためか、兵士達の醸し出す空気自体は少しだが緩くなったように感じる。

 真夜中に潜入するのとはまた違ったアプローチが必要になるので、二つ目の潜入セットである金髪ロングのウィッグと青のカラコンを身につけ、髪は佐倉杏子のようにポニーテールに、そしてメガネを掛けて詰め所から交代を終えた憲兵が出てくるのを待つ。ここ一週間の調べで交代のシフトは把握してある、もう間もなく朝番を終えた憲兵が街に繰り出す時間だ。

 

「……来たわね」

 

 程なくして憲兵が都合よく一人だけ出てきたので、その後を追う。狙いは懐の財布、詰め所からある程度離れた段階でおもむろに前を歩いていた兵士へと駆け寄り、その背中に衝突する。兵士が着るジャケットの構造はハンネスの物で把握してある、素早く手を滑り込ませて目標を攫うなど造作もない。

 

「うおっ!?」

「ご、ごめんなさい!」

 

 よそ行き用の甲高い声で本来の肉声を誤魔化しつつ、掠め取った財布を憲兵が認識できるように懐に仕舞いこみ、そのまま人のいない横道に飛び込む。その直後、背後に怒号が響き、気配が一つ凄い勢いで私を追ってくるのを背中で感じ、ほくそ笑む。

 

「待ちやがれこのクソ餓鬼!」

 

 さすがにこんな狭い道で立体機動装置を使うのは難しいか、狙ったとおり憲兵は足で追って来ている。また、障害物が多すぎる上に私がちょこまか進路を変えるせいで背負った銃での攻撃もできない、現に銃弾は飛んで来ていない。まあ、単発のマスケット銃だし無尽蔵に銃を出せる巴マミと違って外したら終わりだから撃つわけもないのだが。

 転がしてある木箱やゴミを跳び越えた先の大通りから三本ほど中に入った狭い道、兼ねてからの計画通りことは進んでいる。チラと後ろを伺うと、まだ視認出来る、けれども多少離れた理想の距離。直角に曲がった先は行き止まりながら、そこだけ少し広くなったデッドスポット、憲兵の視界から外れた瞬間に魔力強化を全開にして建物の壁を垂直に駆け上る。

 

「っ!? どこ行きやがった!」

 

 背を追って同じく曲がり、行き止まりに追い詰めたはずの獲物が忽然と消えた、そんな光景に気を取られた憲兵の背後に降り立ち、気付いてこちらを向くよりも早く無防備に晒された背中へスタンガンを打ち付ける。中の回路を勝手にいじってリミッターを外した特別製のスタンガン、その威力、象をも昏倒させる。

 

「な――ぐあっ!?」

 

 さすがに象は冗談だが、人間サイズならば宇宙服レベルの代物を着てない限りは確実に昏倒させられる。しっかり意識も吹っ飛んでいることを確認し、パパッと制服を剥ぐ。サイズ的に随分とぶかぶかだが、そこは魔力による形質変化で誤魔化す。ちょっちょっといじってある程度普通に見えるレベルにまで直すと、転がっている憲兵の銃を背負って奪った財布を手の中に握らせて通路を後にした。

 走ってきた道を今度はゆっくり引き返す。今の私は憲兵団の一員、何も疚しいことはない、急ぐあまり挙動不審にならないように気を配りつつ、詰め所の扉を押し開く。

 

「――お疲れ様です」

「おう」

 

 帰宅か休憩か、出て行こうとする憲兵とすれ違うが、その声色に特に怪しんだ色は見えなかった。よし、いける、次は適当な誰かをとっ捕まえてそれとなく倉庫の場所を聞き出さなくては。軽く会釈をして建物の奥へと向かおうとしたところで、すれ違ったはずの相手から声が掛かる。

 

「……おい待て」

「何でしょう?」

 

 立ち止まり、ゆっくり振り返りながら一瞬跳ねた心臓を落ち着ける、ここでキョドってはダメだ、落ち着け私。内心冷や汗をかきながらも、あまり表情の変化しない自分の顔に感謝しつつ目を細めて上から見下ろしてくる男の視線を真っ向から受け止める。

 

「……お前、名前なんつったっけ」

「えーっと……」

 

 やばい、まさか本名を名乗るわけにもいかないし、かといってハンネスと決めた偽名を名乗るわけにもいかないし、どうしたものか。だが、そんな私の態度に何か思ったか、男の視線が少しだけ鋭くなったように思う、あまり答えを引き伸ばすわけにもいかない。

 

「どうした?」

「いえ、冗談かと思いまして。私はオクタヴィアです」

 

 ホムリリーといいオクタヴィアといい、それらの名前はどっから出てきたと自分でも突っ込みたいが、適当に言ったにしてはおかしくないんじゃなかろうか。一瞬の沈黙とにらみ合い、というほどでもないけれども二人の視線が交錯し、そして引いたのは男のほうだった。

 

「あー、そういえばそうだったな。悪い悪い」

「いえ、お気になさらず。それでは」

 

 頭をがしがしと掻きながら悪かったという男に対し、これで会話は終わりと頭を下げて今度こそその場を去る。背後では未だ男がその場から動かずに私を視線で追っているのが分かったが、だからといって再度咎めるようなことはないだろう。視界から外れるために適当なところで曲がり、誰もいないのを確認して小さく息を吐く。

 

「ふぅ……憲兵団は仕事してないって言ってたのに、ハンネスのやっかみ半分に見たほうがいいかしらね」

 

 ぼやきながらもう少し緩そうな憲兵を探して建物を適当に歩き回る。何人かとすれ違い、いい加減な挨拶をしながらも複数名だったりで見送って、条件に合致しそうな人物を漸くながら発見する。制服をだらしなく着崩し、大あくびを隠そうともせずに歩いてくる男が一人、倉庫の場所を聞いても鶏よろしく三歩ぐらい歩いたら忘れてくれそうだ。

 

「お疲れ様」

「ん……ああ、今日の夜番はあんたか。ひひっ、ついてねーな」

 

 すれ違って背後から聞いてみようと思ったのだが、なにやら嫌らしい笑みを浮かべると私の前を遮り声をかけてくる。ちっ、人選を失敗したか、街中を歩いていても業務中にもかかわらず平気でナンパしてくるし、っと、これは今はどうでもいいのだけれど。

 

「……そうね。でもまあ、誰かがやらないといけないでしょう」

「あんなん駐屯の連中にやらせときゃいーんだよ。なあ、仕事なんてサボって今夜どうだ?」

「悪いけど遠慮しておくわ。それよりも倉庫の場所、どこだったかしら」

「んだよつれねーな……倉庫はこの突き当りを右だがよ、行ってどうすんだあんな場所」

「銃の調子が悪くてね、交換できそうならと思ったの。それじゃ、ありがと」

 

 肩を掴もうと伸ばされた男の腕をするりと避けて言われたとおりに道を突き当たりに向かって歩き出す。まだ尚背後から言い募る男を完全に無視し、突き当たりを右へ。伸びる廊下を歩いたその先にあった扉は他の部屋に比べて随分と大きく、確かに倉庫であろうことが伺える。

 

「鍵は……開いてるわね。無用心にも程があるでしょうに……」

 

 電子式のキーでもない限り開けるのは容易いとはいえ、まさか鍵が掛かってないとは思わなかった。呆れの溜息を吐いた後、取り出した針金を仕舞いながら立て付けの悪い扉を開く。ギギギ、と鉄の擦れる耳障りな音とともに飛び込んできた光景は鍵の杜撰さに反してきちっと整頓されたものだった。最悪ゴミ屋敷のような様相すら覚悟していただけあって、強奪が素早く終わりそうな倉庫はありがたい。

 

「さて、と」

 

 これから先は見つかったら即現行犯だ。メガネをサングラスに変え、マスクを着けて帽子を被る。これで顔を見られる心配はなくなった、髪も本来のものからは随分かけ離れた色形をしているし、捜査の手が私まで伸びることは考えにくいだろう。おまけに可能性は薄いだろうが、指紋対策として革の手袋まで嵌めている、パーフェクトだ。

 よし、と気合を入れて倉庫内を素早く調べ、あっさりと予備のブレードがまとめて置いてある区画へとたどり着く。盾を顕現し、目に付く端から突っ込んでいく、その数は恐らく三桁を超えるだろう。そう何度も何度もできる犯行じゃないし、一度にいけるだけいってしまえ。

 

「止まれ」

 

 だからか、景気よくがっしゃんがっしゃんやってた私がまさか背後に忍び寄る誰かに気付かないなんて失態を犯してしまうとは。内心盛大に舌打ちしつつ、素早く周囲の状況を確認する。盾は恐らく私の体が邪魔になって見えていない、今いる場所は狭く左右からの目もないし、見られる前にこっそりと消しつつ、狭さが仇になって左右に逃げ出すことも難しいだろう。仕方なく言われるままに動きを止める。

 

「両手を挙げてゆっくりこっちを向け」

 

 相手に見えるようにゆっくりと両手を挙げたが特に何も言われない、どうやら本当に盾には気付いていないようだ、太陽が沈み始めたこともあって倉庫が薄暗かったことに感謝しつつ、言われたとおりさらにゆっくり振り返る。その際、袖にフラッシュグレネードを仕込んでおくことを忘れない。

 

「さて、お楽しみの尋問タイムだ。オクタヴィアなんつー団員はいないんだが、お前は何者だ。そんで、お前はここで何してやがった」

 

 憲兵団の象徴であるマスケット銃を私に突きつけながら、ドスの効いた声で詰問してくるのは詰め所で最初にすれ違った男だった。こんなことなら私の名前を聞いてきた時点でどうにかして昏倒させるべきだったか、と一瞬思ってすぐさまそんな状況じゃなかったことを思い出す。

 

「…………」

「……だんまりか。じゃあいい、お前を殺してその体に聞くとするわ」

 

 しかし、ちょっと黙っていただけで問答無用で射殺とは、憲兵団はそれだけ大きな権限を持っているのだろうか。気になるが、あまり会話を交わして声を覚えられてしまうのも拙いので、帰ったらハンネスに聞くことにしようと思う。

 そんな益体もないことを考えつつも、無意識のうちに呼吸を小さくゆっくりと抑えて男の全身を視界に収める。指先の動きを見逃すな。呼吸を盗んでタイミングを奪え。撃つ瞬間の意を感じ取れ。

 永遠にも似た一瞬、男が息を吐いた後に呼吸を止め、男の視線が私の眉間に一点集中する、準備が完了したようだ。そしてトリガーに掛かった男の指がゆっくりと引き絞られていく、炸薬に点火し銃弾が発射されるまで後一瞬。極限の集中で全ての動きがスローモーションに見える世界で、その一瞬に全てを賭ける。

 

「じゃあな」

 

 男の目に最後、殺害の意が灯る、それが合図。トリガーを引いた直後かつ銃弾が放たれるまでの刹那の間に身をかわす。

 銃は撃ってから軌道を変えることは出来ない、果たして男の目には今の光景がどう映ったか。眉間に風穴を開けられるはずの私の体は瞬時のうちに一歩、20cmほど右にずれていた。

 

「なっ!?」

 

 放たれた銃弾は靡いた髪を吹き散らしつつ倉庫の壁を穿つ。まさかこの近距離で銃弾が避けられるとは思ってもなかったか、驚愕に停止する男をよそに背中で隠すように袖に仕込んだフラッシュグレネードを投下、床で跳ねた瞬間男に向かって蹴り転がす。意図の見えない私の行動に男の思考が乱され動きが停止する中、次に備えてサングラスに隠されたままの瞳を閉じる。

 

「――っ!!」

 

 薄暗い倉庫が強烈な白光で満ちる。サングラスを掛けて瞼を閉じていたにも関わらず目が灼かれたと錯覚するほどの強烈な光、それをまともに食らった男が激しく動揺しながらその場で無防備に立ち竦んでいることなど目を閉じていても手に取るように分かる。

 

「くそっ!」

 

 男は慌てて手にした銃を闇雲に振り回すが、絶望的に遅い。視界を奪われたと脳がようやく判断したときには私は既に背後で本日二度目の使用になるスタンガンを振りかざしていた。

 

「ぐがあっ!」

 

 悲鳴と共にどさりと男がその場で昏倒する。一瞬待ったがどうやら完全に意識を飛ばせたようで、一安心。

 これでこの場は問題ない。だが、さっきの銃声を聞きつけて誰かがやって来る可能性は非常に高いだろう。収納しきれなかったブレードは非情に惜しいが、こだわりすぎて状況を悪化させるのだけは避けなければならない。尽きたらまたどっかから調達すればいい、さっさと脱出するのが先決だ。

 閃光が収まった後にちらと確認した倒れ伏す男を放置し、倉庫を抜け出し側にあった窓を蹴破って詰め所を逃げ出す。街を適当に逃げ回りながら奪った制服をその辺に投げ捨て、つけていたウィッグやカラコンを外し、それでも何となくほとぼりが冷めるのを待ってのんびりと帰ったときには太陽も完全に沈んでいた。

 今夜の見回りまであまり時間はないが、使い捨て可能な武装が大量に手に入ったことで魔力と残弾の両方を気にして二重に神経をすり減らすことはなくなるだろう。宿舎の階段を上りつつ、心の中で大きく安堵の息を吐くのだった。




 巨人や魔人は基本的に倒すときは一撃必殺なので、あんまり無双させても面白くないというのが悩みどころ。アニメだとアクション満載で押し切れますが、文章だとそうもいかないですし。


 新話を投稿するときと投稿した後のどきどきはいつまで経っても慣れませんね。毎日投稿してる人はよく頭禿げないなーと尊敬します。

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