PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題)   作:双葉寛之

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FireFoxだとルビ打っても正常に表示されないようですね……。

というわけでブラウザはそれ意外をオススメしたい今日このごろ。私の常用しているブラウザはFireFoxなんですけどね。


EPISODE:5

「そっか……。そうだったのか」

 

 

――俺に教えていたのは冬馬だった。

 

 

 カッコ良い所見せたい。

 詞を綴って歌と共に伝えたい。

 仲良くなりたい。

 振り向いてほしい。

 その為に始めたギターだった。

 

 

 誰に? 冬馬かずさだ。

 

 あろうことか、そのかずさが実は春希にギターの指導をしていたという事実。

 

 

 本末転倒のような恥ずかしさで――自分が道化のような、掌の上で転がされてるような。そんな負の感情も僅かだが湧いてきたのも確かであるし、普段通りの自分であるならば「どうして教えてくれなかった」「本当に趣味が悪い」「いいか、大体お前はそんなことより……」など言い訳がましく説教をして誤魔化すところだが。

 今回は、ただただ感謝することにした。そう素直に思わせる程に目の前のかずさの表情は、余計な感情はすべて吹き飛ばしてくれたから。

 

「冬馬……。その、本当にありがとう。教室越しにピアノでとはいえ、何もわからなかった俺にとってすごく助かったし、楽しかったよ。」

 

「物覚えが悪いヤツでイライラしてたよ」

 

 全く教え甲斐がない。そんな風に答えるかずさの様子は不機嫌そうにはとても見えない。

 

 

「え、マジかよ。そんなことってあり?」

 

 春希の斜め向かいに座る武也もまた驚きを隠せないでいる。

 依緒も話の理解がうまく追い付いていないのか目を点にした状態だ。

 千晶も、いや千晶は……ニヤニヤしていた。――絶対良からぬことを考えてる。そう春希に思わせる顔だった。

 

 

 かずさはさすがに恥ずかしさを覚えたのか、顔を赤くしながら話を逸し始めた。

 

「い、飯塚、お前部長なのに、本当に部員(北原)の面倒を見ていなかったのか?」

 

 軽く咳払いをすると共に、よくそんなので部長が務まるな。と批難するかずさ。

 

 そのブーイングに乗る依緒と千晶

 

 依緒も千晶も運動部と文化部の違いはあれど部長だ。部長と部員で同じギター同士なのに少しも教えていなかったという事実は非難されても仕方がないだろう。

 

 言い訳がましく自己弁護する武也に。そんなことしていると部員無くしちゃうよ。と千晶は指摘する。

 

 どうやってこの場を逃れようかと考えてるのがありありと見て取れる武也だったがその指摘で何かを思い出したように顔を変えた。

 

 

 春希もまた、部長と部員という言葉で気付かされる。

 自分のことしか考えていなかったが、自分もまた同好会というメンバーの一員なのだ、と。――きちんとメンバーの迷惑にならないよう。そして補欠から昇格出来るよう精進しなくてはいけないんだと。そう意識させられた一言であった。

 

 

「あの、冬馬! 頼みがあるんだ」

 

 軽く息を吸い、意を決して、はっきりとかずさに聞こえるように話し始める。

 

「俺を、学園祭のステージに――補欠じゃなくレギュラーとして立てるように指導してくれ!」

 

 

「俺、少し自分勝手だったみたいだ。本当のことをいうとさ、ギターで目立ちたいとかいっても、全然上達出来ないし、ならせめて作詞だけでもと、なにか形だけ残せたらいいやって、逃げていたんだ。

 でも、それじゃダメなんだよなやっぱり。

 ステージの上に立てるのかどうかわからないだなんて、楽曲のパート編成だって考えないといけないのにそんな不確定な状態は同好会のメンバーとしてあっちゃいけないと思う。

 それに…例え俺自身が知らなかったとはいえ、今まで教えてくれていた冬馬の親切を徒労に終わらせるなんて不誠実だ。

 ――だから、だから、お願いします!」

 

 そう言い切って、春希はかずさに向かって頭を下げた。

 

 少し上擦ったように「春希ぃ……」と呟く衣緒の声が左耳から聞こえる。

 

 

 かずさはどう答えてくるのだろうか。親切ではなく暇つぶしだ、とでも言い捨てられるだろうか。

 いつからお仲間になったと錯覚している? 笑わせんな。とか言われたらさすがに立ち直れないかもしれない。

 

 そんな春希に振り注ぐ言葉は……。

 

 

「お前にゃ無理だな。北原」

 

 

 想像ができた答えとはいえ、その言葉は春希にとってひどく冷たさを感じさせる、淡々とした声だった。

 

 

 

「同好会のメンバーとして迷惑を掛けたくない。なるほど…『委員長』らしい責任感のある言葉だな、北原。

 あたしのことまで考えてくれるなんて、例え間接的にだが教えた者として冥利に尽きるし。誠実であろうとするその姿勢には敬意を表するよ。

 だが無理だろうな。それに、所詮学園祭だろ。そこまで責任を持たなくちゃいけないことか?」

 

 

「お、おい冬――」

 

 身を乗り出し抗議の声を上げようとする武也を、千晶は手で遮ってそれを止める

 

 

 春希はそんな二人を見ることも気にすることもせず、ただかずさに向かって答える

 

「俺にとっては大事なことだ」

 

 

「ギター一人欠けても飯塚がいるからいいだろ。期日までにお前の上達は間に合わないよ」

 

「……ッ。間に合わせて見せる」

 

 

「だから無理だ。お前は詩だけを作り上げて舞台裏で見てろよ」

 

 

 突き放すかずさに春希の抑えていた、我慢していた感情がついに限界を迎える。

 

 

――……るな、よ。

 

 

「…っ巫山戯んな! 無理だ無理だ無理だって! 勝手に決めつけて馬鹿にするな、俺はステージに立ちたいんだ!」

 

 

 俺の、ガキっぽい上に遠回りな恋慕の行方を、誰でもないお前が否定するな。

 誰でもないお前が、俺を見くびるな。

 巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな、見返してやる。お前を見返してやる。

 

 

 思わず怒鳴る春希。それは意中の相手から過小評価を受けたからだろうか、それとも春希の、少ないと自覚しているとはいえ――男としての意地だろうか。

 

 

 

 

 

 

怒声を浴びせられたかずきは、微動だにせず。ただフン、と鼻を鳴らすと

 

 

 

 

「そんな啖呵はなァ。これから数ヶ月間あたしのシゴキに耐え切ってから言うんだな」

 

 

 願望でも義務感でもない、明確な春希自身の意志をたたきつけられたかずさは、まるで賭け事に勝った賭博師みたいだと春希に思わせる顔をしていた。

 

 

 

――発破を掛けられたのか?

 

 

 

 自分の生涯数えても珍しい程の感情の発露を誘導された……? かずさにコントロールされてる――”してやられた感”に呆然とする春希。

 

 

 かずさは一旦コーヒー――コーヒーというのはコーヒー自身に失礼な程甘ったるい黒い何かを一口飲むと話を続ける。

 

 「言っておくけど、さっき指摘したのはウソじゃない。今のままじゃいつまでたっても――それこそ本当に学園祭を迎えるその日まで北原はギターを持ってステージに立つことは出来ない。取ってつけたような建前じゃなくて、本当にお前がギターを弾きたい。上達したいという覚悟がないとな。

 あたしが……自分の過去を引き合いに出したくはないが――ピアノの全国コンクールで優勝をいくつか果たしたあたしが音楽を教えるということ。本当にお前はその覚悟があるのか?」

 

 

 あらためて決意の程を問うかずさ。上等だ、といわんばかりに春希は頷いた。

 

「ま、あたしも偉そうなこと言ったけど、管楽器や弦楽器――日本でいうストリングスの類は触ったことはあるけど、ギターはしたことがないからね。あくまで音楽で教えるということしか出来ないけど」

 

 未経験の楽器故に若干参ったなという表情を見せるかずさだが、音楽そのものについては充分教えれる。その自信の程からか、失望させてくれるなよ? と春希に付け加えた。

 

 

 

 

 

 

「あのぅ……。盛り上がってる所非常に申し訳ないんですが……」

 

 かずさと春希、二人の学園バンド物にお約束のシナリオをぶち壊す男がいた――武也だ。

 

「本当は、今日放課後すぐに春希に話そうと思ったんだが……」

 

 

――モジモジした仕草の種馬とか見たくもない。

 

 言い出しにくいことなのか、なかなかはっきり話を切り出さない武也に苛立ちを覚えるかずさ。

 

 逆に相談事なら慣れっこだといわんばかりの「いつもの顔」の春希。

 

 

 

 こういう展開じゃなかったら話しやすかったんだけどなぁ。とボヤきながら武也は気まずそうに告げた。

 

 

 

「学園祭を目指す軽音楽同好会、そのバンドがですね。昨日、空中分解してしまいました……」

 

 

 

 

『はぁ!?』

 

 

 

 グッディーズの客席の一角で驚きの表現がハモる。

 

 

 

 意味がわからなかった。自分が嫌われる覚悟で春希に発破を掛けた覚悟が。

 せっかく出来た仲間と仲違いを起こすかもしれないという不安を振りきって発破を掛けた覚悟が。

 

 ほんの数分もしないうちにそれが無駄骨になったと知ってそれ以上言葉が出ないかずさ。

 

 春希を見ると彼自身もさっきあれだけ啖呵を切ったのに……。と呟いてる。

 

 かずさは依緒を見ると今度こそ話しについていけなさそうな顔をしてる。

 千晶の方は……。いや、こいつの今の表情は読みたくない。

 

 この展開でもニヤニヤと興味ありますという顔をしている千晶を見やったのを、かずさは後悔した。

 

 なかったことにしつつ、騒ぎの元凶へ問い詰める。

 

 

「で……だ。種馬、どういうことだ」

 

 

 さっきまで、嫌な顔をしていただけの「種馬」という単語に、武也はビクッと震えた。

 

 

 

「実は……。昨日同好会の活動が無かったのは藤代たちに呼ばれて……」

 

 

 話の経緯はこうだ。

 

 軽音楽同好会のボーカルとして名乗りを上げた2年C組、柳沢朋。

 去年の準ミス峰城大付属に輝いた彼女は今年こそ優勝を飾らんとアピールし知名度を上げるための活路をステージ上に見出した。

 強引に加入を迫る彼女を快く思わないメンバーをあの手この手を使ってコントロールしようと懐柔を画策した結果。メンバー全員が抱いたの抱いてないのだのと。メスを奪おうとする本能か、男として衝突が発生するという事態に陥ったのだという。

 

 

 「まさにサークルクラッシャー……。サークラ柳原だな」

 

 ぼそっと呟くのはかずさのテーブル向かいに座る春希である。

 

 

 しかし、全く下らない話である。男性心理を理解出来るほど人間関係が成熟していないかずさにとってはあまりにも下らない話だった。

 

 尤も、かずさに比べて遥かに人間関係において()があるはず依緒も「こんの……バカタレがぁ!」といわんばかりに武也の肩を掴み脳内シェイクをかけてる最中であるが。

 

 春希が「お前もいい思いしたんだろ」と武也に追い打ちをかけるとさらにその激しさを増す。その勢いはまるで人間の耐Gの限界を越えるんじゃないかといわんばかりだった。

 

 

「と言うわけで、昨日は揉めに揉めて。一気にボーカルを筆頭にドラムとベース、そしてキーボードが居なくなっちゃいました」

 

 もうどうにでもなーれ! といわんばかりに、いっそ正々と包み隠さず話す武也

 

「もともと一ヶ月で集めたメンバーだ。まだ7月に入ろうとする前だし、新しく探す機会はある。本当はそう気楽に探しながらダメだったら解散でもいいかなと思ってた。

 けどさ、さっきの春希のやりとりをみたらそんなことも言えなくなった。春希――なんとしてでも他のメンバーを見つけるから、お前はギターの練習を続けてくれ」

 

 懺悔するように独白するように話し始めながらも、最後は春希を見ながらそう説明する武也だが、「でも」と付け加えた上でかずさ――依緒越しではあるが。身体ごと向けて話すのを続けた。

 

「ドラムやベースとボーカルは案外すぐに見つかるだろうけど。ただ、キーボードだけは人口が少ない希少なパートだから中々見つからないかもしれない。冬馬、結局俺らが全部悪いんだけど。それを踏まえた上でお願いする。

 代わりの人が見つかるまでだけでもいい。キーボードの担当になってくれないか。

 冬馬にとっては学園祭のライブだなんてお遊戯に等しいかもしれないが――春希のさっきの決意を、思いを遂げさせてやってくれ。頼む!」

 

 

 ――あの飯塚武也が頭を下げた。

 

 4月の始めに、春希の横の席であるかずさに、そこらにいる(ビッチ)と同じようなノリで(あくまでかずさ主観だが)口説いてきた武也が。友達のために頭を下げたその姿は、かずさをはじめ、他の皆をも驚かせた。

 

 

 かずさは無言で目を閉じ考える。

 

 確かにかずさは――自分の生涯をかけんと研鑽してコンクールに挑む人達を知るかずさにとっては学園祭のライブなど、武也自身も述べたとおり”子供のお遊戯”に等しいという思いはあるし、あまり気乗りするものでもない。

 

 今までは。それこそ春希をピアノでからかってる時までは理解できなかった思考だが。最近の自分、特に今の自分にならうっすらとだが、その”真剣なお遊戯の価値”をわかるくらいには彼らの――春希のことを応援したいと思っている。

 

 

 それに……。

 

 

 目を開けたかずさは武也に質問というか提案を持ちかける。

 

「なぁ、その同好会というかライブの出場メンバーって、付属の生徒じゃないとダメなのか?」

 

 心当たりのある人物――拓未のことを考えながら口にするかずさ。だがやはりそれはダメだろうと申し訳なさ気な武也に否定される。

 

 

「瀬能、あんたならボーカル出来るんじゃない?」

 

 演劇、特に高校の演劇なら普通はマイクによる拡声ではなく、生声であることが殆どだ。

 その演劇部きっての大女優であり部長である千晶なら、声量も申し訳なくボーカルとしての素質はあるのじゃないか。そう踏まえての問いだった。

 

「あー、冬馬さん。ごめん、参加してみたいとは思うけどさ、あたしもその日演劇部として出演する予定だし」

 

 それに学園祭とニアミスに近い形で、演劇コンクールの地区大会があるんだよね。と、さすがに手一杯だと千晶は断る。

 

 その年は文化祭の一週間前に地区のコンクールの中央発表会がある。現状部員の力量を考えるとそれでさえ余裕がなかった。

 

 

「なるほど……。水沢は?」

 

 女子バスの水沢ならバッティングすることもないだろう。

 

「え、あたし? あたしはさすがにそういうには苦手だし出ようとも思わないから。申し訳ないけど」

 

 依緒にとってはステージに立つことそのものに興味がないようだ。

 

 

「冬馬、やっぱり……。ダメか」

 

 説得は失敗に終わったのか。それもやむ無しか。そんな声音でかずさに問いかける武也。

 

 かずさは武也と春希、それぞれを見ると首を振った。

 

 

「いいや、他の人間が決まるまでの代理だ。受けていいよ」

 

 

 武也と春希はにわかに表情を明るくすると

 

「本当か、冬馬!」

 

「冬馬、ありがとう!」

 

 と口々に感謝の意を述べる。今日は感謝をされることが多いなと考えつつも、普段お礼などされないからどう対応していいかわからず。

 

「べ、別に春希の師匠としてある程度の責任は取ってやらないとな!」

 

 端から見ればツンデレとして開花しようとしつつあるのではないかという態度を取る。向かいから「おぉ……冬馬ぁ」という涙声が聞こえるのは無視することにした。

 

 代理とはいうものの、かずさは心では最後までやり遂げるのも構わないと思っていた。

 

――だって……。

 

――ステージに立てばあいつも見に来てくれるかもしれないしな。

 

 

 拓未が見に来てくれる可能性は充分にある。それならお遊戯も楽しいのではないか。そう考えながら。

 

 

 

 

 




雪菜がかずさを説得すると思った?

残念、うちのかずさは強い子です。

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