PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題)   作:双葉寛之

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差し替え版です。
1500文字程度と特に大きく修正はしてはいませんが、読みにくいと感じた部分を幾分か修正。

それでもやっぱり読みにくいですが(´・ω・`)


EPISODE:4 Rev1.0

「なぁ、春希。ちょっと話……いいか?」

 

 学食での馬鹿騒ぎを起こした――かずさと初めて昼食を取ったその日の夕方。

 放課後を迎え、教科書を鞄にしまおうとする春希に武也は話があると声をかける。

 座っている春希は武也を見上げる。どこか真剣な顔をしていた。

 

 何か大事な話だろうか。長引くようなのであれば先にこっちの用事を済ませないと……。

 春希はちらりと横目をする。自分の席の左ではかずさが――昼の騒動でよっぽど疲れたのか、もしくは久しぶりの昼食で満腹感を得たのだろうか。

 机に突っ伏しているも微かに覗くその顔は気持ちよさそうに、すやすやと眠っていた。――よだれを垂らしながら。

 

 

「あぁ、武也……ちょっとまって。――冬馬、起きろ。放課後だぞ」

 

「んぁ……」

 

 ズズッとお世辞にも上品とはいえない音を立てながら覚醒するかずさを見やる春希。

 

 

――堂々とかずさの肩を揺する事ができるのはクラス委員長の特権だよな。

 

 そんな優越感に浸りかける春希だが、それではあまりによこしま過ぎる考えじゃないか。

 俺はむっつりじゃない。ともすれば不名誉な烙印を押されてしまいそうな感情を抑え、待たせたな。と武也に振り返った。

 

 

「……で、武也。話って?」

 

「……あ、あぁ……実は――」

 

 話を切り出そうにも、先程の出来事が武也にまともな思考を与えさせてくれない。

 

 

――あの冬馬がこんな顔するのかぁ!?

 

 冬馬かずさというものは隔絶した壁のようなものを常に周りに与えている

 音楽科時代はクラスメイトと会話らしい会話をすることもなく、他者を決して寄せ付けず。癇癪を起こして物を投げつけたり、あまつさえ教師陣にも謝ることはせず刃向かう……。

 おそらく、自分と周囲との音楽に関する考え方の違いから反りが合わない故のことだとは思うが、協調性というものには全く無縁の、孤高の人という言葉がぴったりの人間だった。

 

 およそ不良ともいえない――とっくに放校処分になってもおかしくないが、実親である冬馬曜子の学園に対する多額の寄付と、コンクール受賞の実績からそれも出来ないという。

 学園始まって以来、前例があるのかわからないほどの問題児。

 

 それが武也の知ってる冬馬かずさ、その印象だった。

 

 そのかずさが、こうも無防備に寝顔を晒し、春希に肩を揺すられることすら許す。

 しかも昼休みでは自分の間の前で、顔を赤くし怒りながらも他者との会話を楽しむ表情さえ見せたのだ。

 

 

――本当、今日はありえないことが続くな。こうまで周りを受け入れるようになったのは、春希、お前の影響なのか。いや、さすがにお前だけじゃここまでの心境の変化を与えるとは考えにくいか。では、他に誰が……。

 

 

 4月の新学期当初、気軽に口説こうとした結果。

 激しく罵られながら蹴り倒された過去をもつ武也にとって受け入れがたい現実にしばし反応に遅れる。

 なんとか用件を切り出そうとするが、大事なことを伝えたいときに限って邪魔が入るものだった。

 

 

「春希ー、飯塚君ー。帰りにグッディーズに寄ろうよ!水沢さんが行きたいって!」

 

 

 よだれに気づき顔を赤くしながらあたふたとティッシュで机を拭くかずさを遮るように背を向け武也と話していた所に千晶から誘いがかかる。

 

 

「瀬能さんのほうが先に行きたいって言ったじゃない!――冬馬さんも行こう。いいでしょ?」

 

「あ、あぁ。あたしは別にいいけど」

 

 口元を新しいティッシュで拭きながら慌てて答えるかずさ。それを勘違いした千晶が「スイーツを想像したからってそんな口元拭うほど緩めなくても」と囃し立て、かずさが否定し噛み付く。まぁまぁと諌める春希。

 

 

「良いけど瀬能、今日はもう奢らないぞ」

 

「春希って瀬能さんに尻に敷かれてる感じ?」

 

「私胸を強調したことはあるけど、春希は胸よりお尻派だったのー?」

 

「クラスに誤解を招くような事を言うなぁぁぁ!」

 

「きゃぁ!水沢さーん!」

 

 そこはまだダメよぉー!と手で隠しながら逃げる千晶を割と必死で追いかける春希。

 

 A組とG組がなんで完璧にE組に馴染んでるんだよ。と呆れるかずさ。

 今日一度も開けていないカバンを手に取り、行くなら早く行こうと促す彼女は、大の甘党であり、グッディーズのなめらかプリンに目がなかった。

 クールに促しているつもりでも早く向かいたいというオーラがプンプンと漂っている。

 

 

 完全にタイミングを逃した武也は、こんな状況じゃ話せやしない、と諦めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 峰城大の敷地から程近い、ここグッディーズ南末次店は夕方以降になると学生たちで賑わう。

 その一角で昼休み学食中を注目させた5人が場所を変えてとばかりに再び騒いでいた。

 

 

――この底抜けのハイテンションは疲れるけど。こうやって冬馬を誘って絡む機会が出来るなんて、そこは瀬能に感謝すべきかな。

 

 千晶の振る舞いは春希にとっては悪魔の如き所業――例えばかずさという弱みを握られてひたすらたかられたり……という点はまさにそれだと断言していいと思っているが、こう見えて千晶は美少女だと断言していいレベルである。

 加えて演劇部部長を努め女優を目指すような彼女だからだろうか、なにか他者とは違う周りを惹きつける不思議な力があるように思える。

 それになんだかんだとかずさとの仲を取り持ってくれている。

 先日までじわりじわりと牛歩の如くゆっくりとした足取りで、おっかなびっくり近づいては離れてを繰り返していたかずさとの精神的な、物理的な距離は今日だけで恐ろしく近づいたと思っている。

 

 春希からすれば多少憎い部分もあるものの隣に座る瀬能を評価せざるを得ない。

 

 かずさが自分達の仲間として騒いでいる、この雰囲気を大切にしたいな。そう浸っていた春希に、少しの安寧も許さんとばかりに新たな爆弾が降り注いだ。

 

 

 

「春希こないださ、詞を書いてたの。歌詞。それがもうラブレターか!ってくらいビックリする程の内容でさー」

 

 

 気を許した途端。いきなりバラした。

 

 スッと、春希に冷房以上の寒気が襲う。

 

 

「な、な……。おま……ッ!」

 

 ゴポッ!と口にしていたストローへ思い切り吹き込んでしまう春希。こぼれてしまいそうなほどせり上がってくる空気で暴れるアイスコーヒーを見て、依緒は心底汚いという非難の表情を向けてくる。

 

 突然の裏切りにうまく言葉が出ない春希。――裏切り?いや、こいつはこのタイミングを狙っていたんだ、きっと。

 畜生、なんてことだ。昼飯代が全く意味をなしてなかったじゃないか。やっぱり悪魔だ。

 

 

 この話はなんとかしてやめさせよう。じゃないと――

 

 

「でもね、それがすごい良くてね。こう、心情というか情景というか、自分もその気持ちになったように思えるようなね。良い詞だったんだ」

 

 結露しているグラス――よく冷えたオレンジジュースを手に取ろうとしながら、意外な方向に持っていく千晶に武也が言葉をつなげる。

 

 

「そういや、同好会に入ってしばらくして一曲形にしたいって言ってたもんな春希。出来てるのか?」

 

 意外でもなんでもない。そういやそうだったと武也の反応に少々毒気を抜かれる春希。

 確かに武也には話したことがある。それまでに上手くなるほうが先なー、とあしらわれていたが。

 

 

「飯塚君、同好会って何? ポエムクラブ?」

 

「曲だって言っただろ。軽音楽同好会なんだよ。俺達」

 

 納得したー。だから少し韻を踏ませたような作り方だったのねー。と感心する千晶。

 

 

「作詞?お堅い北原にしちゃ少々はっちゃけてるな」

 

 逆に想像がつかなかった一面に、春希の向かいに座るかずさはカップから口を離しながら驚いた、と伝える。

 

 

 その反応に敏感に気付く武也。

 今日の春希の周りに起こる騒動を見る限り、どうやら春希はかずさに気があるようだ。と武也は考える。

 お堅い北原。そのイメージを覆す意外性をかずさに与えれば春希にとってプラスの要素になり得るだろう。

 ならば、春希の想いを手助けしてやることこそが親友の務め。

 サポートしてやるぞ! と決意をした武也は、努めて明るく話題を続けようとした。

 

 

「そうそう! 俺がギターやってるとモテるぞっていうと春希、食いついちゃってなー。

 こいつ意外と男なんだなーって、俺も驚いたよ」

 

「……なんだ、種馬の影響か」

 

 

 ――うわぁ……そういやあの冬馬かずさだった……。話してる相手を忘れてた。

 

 ギロっと睨むかずさに、嫌な汗をかきながら武也は硬直する。

 蛇に睨まれたカエル。武也は春希の手助けをしてやれない無力感に打ちひしがれる余裕すら無かった。

 

 

「でさ、でさ。また見せてよ。こないだのそのノートをさ!

 ねぇ、いいじゃないー」

 

「へぇ……。ラブソングなんでしょ? 春希がどういうの書くのかあたしも興味ある」

 

 と催促する千晶に興味津々の依緒。

 

 どうしようかと戸惑う春希に対して、歌にするなら見せるのは当然だろと武也は言う。

 そして意外にも、かずさもノリ良く食いついてきた。

 

 ここで断っては空気が読めない。仕方がない、観念しよう。と鞄を取ろうとした手が宙を切る。横では「えっとねー、確かこのノート!」と言いながら千晶が勝手に取り出していた。

 

 わーわー、と「お前勝手になに人の鞄を漁ってんだよ!」「いいじゃん、もったいぶる春希がいけないんじゃん」と騒ぎながらノートを開き、机に広げる千晶。

 

 

 作曲を多少意識して構成された文章を見て悪くないな。と武也。

 

 依緒は意外と乙女チックな所があるらしく楽しむように見ている。

 

 

「春希って意外と心に訴えるようなことを書くんだねー」

 

「依緒、こういうの好きなのか?」

 

「何不思議そうにしてんのさ、春希。あたしだって普通に興味あるよ。

 恋愛、いいじゃん? 何故か告白してくるのは女子ばかりだけど……」

 

「……あぁ、ご愁傷様……」

 

 女子バスケのキャプテンで、面倒見がよく、容姿もそれなりに整っている依緒。これでモテないはずはないのだ。

 しかし悲しいかな、どうしてか同性にばかり打ち明けられる事が多い。

 おそらく、勝ち気な性格が強すぎるせいだろうが……。

 

 

「ね、この歌詞、悪くないでしょ」

 

 千晶は私が春希ですと言わんばかりに答える。

 

 

「なんでお前が返事しているんだよ」

 

 そう突っ込みを入れる春希だが、先程からこの歌詞のイメージ対象である人物――目の前に座るかずさを見れないでいる。

 

 何しろ意識して書いた相手、その張本人だ。短文だから気付く筈はないだろうが。もしかして、と思われても大丈夫か? ……あるいは。

 

 

「ふぅん……。これが北原の……か」

 

 えっ、と前を向いた春希にかずさは「悪くない」と、完成を楽しみにしてるよ。とかすかに微笑んだのだった。

 

 

「あ、メモ紙が落ちた」

 

 ノートを戻そうとした千晶が間に挟まれていた紙が落ちたことに、あららと声をだす。

 

 ん、メモ紙? と落ちた紙に視線を見やる春希の目に「冬馬」「かずさ」「伝えたい」と書かれた文字が映る。

 

 

――んあぁ!そのメモ紙は!!見られちゃヤバイ!!

 

 

「あー、なんだろうなーこのメモはー(棒読み)」

 

 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら、それを拾い上げようとする千晶に覆いかぶさる事すら厭わんと奪いにかかる春希。

 

 

「せ、瀬能。貸せ!!」

 

「いいじゃない少しくらい。ちょっとー、オッパイ触るのはやめてよー」

 

 メモを持つ手を掴もうとする春希を、身をよじって背中を向けて避ける千晶。

 きゃー、そこを掴んじゃだめー。とあらぬ想像をもたせるセリフを放つ千晶に春希は「触れてないだろ!」と必死に否定しながらもメモを取り上げようとする。

 

 

「あぁん! やっぱり春希はお尻よりオッパイ派じゃないー。冬馬さん、はい!これ!」

 

 ジト目で春希を睨むかずさに千晶が後は任せた! といわんばかりに顔の前にメモ紙を押し付ける。

 

「せ、瀬能。な、何だ。こっちに――」

 

 押し付けられたメモ紙を受け取り損ねたかずさ。

 ヒラヒラと落ちるそれを「駄目だぁー!」と春希が手を伸ばし……。

 

 

 

 昼休みに春希を釘付けにした”素晴らしき武器”ごと掴まえた。

 

 

 (メモ紙を)しっかりと掴む。しかし何故か柔らかい感触。

 思わず力を入れたり緩めたり確かめる仕草をする春希の右手は、脳内から「ヤバイ」という信号が送られてきても……離すことが出来ない。

 

 

「おぉー……」

 

「は、春希?」

 

「春希……勇者だな」

 

 あまりの展開に三者三様の反応をする千晶、依緒、武也。

 

 

「あ……」

 

 事態に気付いた春希。

 目の前では顔を真赤にしながらも身体を震わせるかずさ。

 

 「北原ぁ!」の怒声と共に、テーブル下で強烈な勢いで加速づいたローファーが春希の脛に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「あ、依緒だ――」

 

 ミス峰城大付属――峰城大のミスコンと違って、非公式に行われる付属高校の人気投票に2年連続1位という輝かしい経歴を持つ女子生徒――小木曽雪菜は、帰宅途中に通りがかったグッディーズの窓の向こうに、クラスで数少ない話し相手である依緒を見かけた。

 

 何か慌てて取り返そうとしている学年でも有名な『いいんちょくん』とそれから逃れようとする女子生徒。

 囃し立てるようにそれを煽る依緒。

 

 店員にとっては迷惑な客だろうが、その仲の良い雰囲気は自分の憧れる学園生活そのもの……。

 

 先程まで同じ附属生にナンパまがいにしつこく誘われていたのを丁寧に断りながらようやく開放された雪菜には、依緒達5人がワイワイと騒ぐ姿がすごく眩しかった。

 

 耳に入った、去り際の附属生の話す会話を思い出す。

 

 

『残念だなー、また今度ね』

 

『だからー、お前にゃ小木曽ちゃんは無理だって』

 

『うっせー。わかんねーだろそんなん。って、わかってたからとかいうなよ……』

 

『当たり前だろ、ミス付属だぜ? お前には高嶺の花だっての』

 

 

 

 

――わたしをステータスとしか見てない。わたしの本当の姿を見てくれようとしない。

 

――ううん、本当の姿を出せないのはわたし自身。

 

――わたしが弱いから、勝手にキャラを作りこんで勝手に避けているだけ。

 

 偽りの自分で形作られた。偶像(アイドル)を演じてしまったのは自分自身なのだ。

 

 

 雪菜にも、本来の自分を知っている、受け入れてくれる。どんなくだらないメールをしても返事をしてくれる”お友達”はいる。

 

 

 しかし、付属の学園生活では孤独である。

 

 『ミス峰城大付属』の小木曽雪菜に集まる人達。

 

 『お嬢様』の小木曽雪菜に集まる人達。

 

 雪菜の思い込みかもしれない。

 

 中には本当に、何もかも心から話せる友人として付き合いたいと思ってくれている人がいるかもしれない。

 が、一度覚えてしまったこの違和感は拭うことが出来ない。

 

 

 自分をさらけ出さない限り……"あちら側"に映る依緒達みたいに集まり、騒ぎ、笑い合う。そんな雪菜にとっては羨ましい、”普通”の日常を得ることはもう叶わないのだろうか……。

 

 

 ふぅっ……。溜息がこぼれる雪菜。

 自分と依緒達を遮る窓ガラスまで2mもない。

 しかし自分のいるこの歩道と、グッディーズを挟む花壇がやけに、その2mを遠く感じさせた。

 

 無意識に手を窓ガラスの奥――依緒達に向けて伸ばす。

 

 うっすらと透けるように自分の姿も映し出しているその窓ガラス。

   

 

――遠い、遠いよ……。ぼやけて見える。

 

 

 「あぁ……届かないや……」

 

 

 それが自分と、彼らとの距離だった。

 

 

 

 




少しでも、少しでも皆さんに描写が伝わるようにと手を加えては見るんですが……。

かえってそれがテンポを悪くする要因となったりして、物を書くというのは本当に難しいと実感します。

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