PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題) 作:双葉寛之
SOUND OF DESTINIYが大好きです。
水樹奈々のオリジナルも好きですが、SETSUNAバージョンのSOUND OF DESTINYは音源のクオリティが段違いですよね。今でもパワープレイしています。
『女三人寄れば姦しい』という言葉がある。女性はおしゃべりだから三人も寄れば騒がしくて仕方がないということ。
類義語に『女三人寄れば市をなす』という言葉もある。
確かに女子高生が集まったグッディーズやヤックは非常に騒がしいし言い得て妙だと思う。
昔から現代まで意味が通じるというのはやはり女性の本質そのものを的確に表しているのだろう。
だけど今、この瞬間だけはその言葉を信じたくはなかった。
あり得ないものを見てしまった。誰がこの光景を信じられるだろうか。と武也は隣に座る春希にだけ聞こえるように呟く。
冬馬かずさ――現在ウィーンで活躍している世界的ピアニスト、あの有名人、冬馬曜子の娘。
昨年度までは音楽科在籍。
1年生の時からすでに数々のコンクール で入賞をかっさらう音楽科の”優等生”。
しかし才能を持つものの独特の思考か周囲のやっかみか判断はつかないがクラス内での問題を起こすことが多く。すぐに孤立することになる。
そして今年、3年生になって普通科へ移籍。
音楽科時代は誰とも話そうとしないとの評判だったが、普通科に移籍してからは、ぶっきらぼうな口調ではあるが、クラスメイトとの最低限の受け答えは出来ている
……もっとも、誘われることがあっても断るのが常ではあるが。
問題行動云々においても春希のお節介に耐えかねて激昂するくらいだ。
相変わらず気性が激しい部分はあるが、音楽科時代の評判と比べると遥かにマシ。
ただ、自分が口説こうとした時はかなり機嫌が悪かったらしく、怒り心頭で強烈な蹴りをお見舞いされたのは軽くトラウマである。
もしタイミングが違えばこのような苦手意識は持たなかっただろう。
以上が武也のかずさに対する印象である。
そんな自分の苦手な女――冬馬かずさが、目の前で武也のクラスメイトである千晶にからかわれ顔を赤くして反論している。そんなかずさを宥めるようにまぁまぁ、落ち着いてと肩を叩く依緒。
ぱっと見て、喧嘩のようだが笑みのような表情も含まれていて――つまり、彼女らなりの付き合い方で、随分と仲良くしていた。
◇
前日と同じように千晶はE組を訪れ、前日と同じように春希を昼食に誘っていた。
そしてこれもまた前日と同じようにかずさも誘う。「冬馬さんも一緒に行こう、春希が冬馬さんを食べたがってるよ?」と。
続けて、演劇部にしては妙に棒読みで「あっ、春希も冬馬さんと食べたがってるよ、だった。ま、でもどっちも間違ってなんかないかなぁ?」とケタケタ笑いながら、とんでもないことを口にする。
――冗談じゃない、昨日でさえあの怒りの含ませ方だったんだぞっ。
昨日のかずさの怒り具合は、無言だけど半端なかった。あのプレッシャーを覚えている春希は、千晶に要らないちょっかいを出すなと口に出しかける。
しかし言い終わる前にかずさが動く。椅子を引く音が響く中、立ち上がるかずさ。
思わず緊張のあまりビクッと肩を震わせる春希。
だがかずさはそんな春希をよそに、千晶に目をやると――幾分か挑発的な表情で「いいよ、行こうか」と予想外にも了承したのだった。
――え、受け入れた?
にわかに信じられないものの、目の前をかずさは通り過ぎ千晶に付いていく。
このメンツで学食へ向かうことを想像するとまさに昨日クラスメイトが言っていた「修羅場」という単語にふさわしい光景が目に浮かぶ。
千晶にからかわれて怒り狂うかずさ。
千晶にからかわれる自分を見てなぜか怒るかずさ。
もしかしたら二人まとめてからかって……結局怒るかずさ。
――駄目だ、どう考えても俺じゃ対処できない。
「春希ー、早く行かないと混んじゃうよー!」
助けを求めようと、武也に連絡することを思いつくが、千晶の無慈悲な催促は、春希に携帯電話を触る機会を与えてはくれなかった。
◇
学食の定食というのは利用しやすいようにリーズナブルであることが定番である。それは公立でも私立でもそれほど変わらない。よっぽどの裕福な家庭専用の学校でもなければ……。
しかし、2日間続けて定食大盛りを千晶に貢ぐこと、そして今日は売店でかずさにも昼食――と言って良いのかわからないスイーツだらけのソレを振る舞うことになった春希は、続く想定外の出費に頭痛を覚えていた。
――アルバイトをしていない小遣い生活が憎い、それ以上に2日もせびってくる瀬能が憎い。
学業を優先するあまり……あの
憮然とした表情で席につく春希。
戦利品を勝ち取ったように喜びながら座る千晶。
先程までの春希にとって危機感を覚える表情はどこへやら――微かにだが嬉しそうな顔をしながら、これまた奢ることになった苺ミルクにストローを刺すかずさ。
座るなり、学食を利用している生徒らの視線が集まるのを感じる。それも当然だろう。
かずさは例え自分の恋慕で贔屓しても、もちろんしなくても間違いなく美人であると断言出来るし、千晶もまた顔立ちは整っている。
それに加えて生来の役者としての素質だろうか、他人を惹きつけるようなオーラのようなものを持っている。
付け加えて二人ともスタイルは素晴らしい。性格は……
学園のアイドルと言われている3年A組の小木曽雪菜には遠く及ばないが、それでもこの二人が揃うとかなりの注目を浴びることとなった。
……しかし、今回の場合。その注目の中でも大半の部分は目の前の美少女2人ではなく、主に自分に、ではあるが。それも嫉妬という名の視線……春希はまだ箸をつけてもいないのに先程までの空腹が消えるのを感じていた。同時に胃痛も感じてはいたが。
「なんで2日間も昼飯を奢らないといけないんだ」
「あららぁ? 別に私は無理に奢ってもらわなくても大丈夫だったんだよ?」
視線を気にしてはいけない。そう決め込んだ春希は当初の不満を千晶にぶつける。
千晶はその不満もどこ吹く風といった感じで、ねっとりとした声――言外に一昨日の弱みを含ませた声で応える。
その証拠に、春希の定食のトンカツを千晶は行儀悪く寄越せと指し箸で催促している。
「でも、美少女二人に振る舞うなんて男冥利に限るじゃない」
「美少女だなんて、お褒めに預かり光栄ですわ、瀬能さん。……これで満足か」
棒読みで、しかし不満を隠さず厭味ったらしく答えるかずさ。
そもそも、春希が奢ろうが奢らないだろうが関係ないだろ。そんなかずさの内心が春希には見て取れた。
「それに、なんで2日もあたしを誘うんだ。あたしは昼休みは眠っていたいんだ」
「冬馬さんに興味があったからね。形は違えども、芸を志す者として、ね」
新たな戦利品を口元に運びながら千晶は答える。
「音楽科のことか? それならお生憎、あたしはもう移籍した身だ。参考になれなくて悪かったな」
平然としているようでかずさは結構我慢をしているのだろう。火に油を注ぎそうで春希はうかつに口を挟めない。
やはりこうなるのか。この先はかずさが怒鳴るんだろう。十分に予想できたパターンだ。
しばらく関わらないでおこう、それより。と春希はテーブルの下でゴソゴソと隠れながら携帯電話を扱う。
「そうね、以前コンクールであなたの演奏を聴いたことがあるけど、誰かへの強い感情を打ち付けるような音だった。
あんなに気持ちを表現出来る音を出せる冬馬さん、あなたが音楽科を離れたのはその人に見てもらえなくなったから?」
「何がいいたい? あたしを怒らせるために呼んだのか、瀬能」
「そんなわけないじゃない。
……そうだね、音楽科時代と普通科の今を見比べてどこか塞ぎこんでしまった感じがしたから気になったんだよ」
「ッ……!」
――武也、メールに気づいたら早く来てくれ!
春希が祈りながら打ち込み終わった携帯電話のメールを送信する。。
「そんな冬馬さんを元気付けることができたらいいなと思ってね、『ピアノの向こうのその人』がどんな人かは知らないけどさ、新しい『ピアノの向こうの人』を見つけたらいいじゃない」
「お前……ッ。勝手な事を――」
「簡単だよ、だって冬馬さんこんなに美人だしなにより素晴らしい武器を持ってるじゃない――」
誰もが羨むこのボディをっ!と声を上げると同時にかずさの背後に回り込み、両手でその”素晴らしい武器”を揉みしだく。
かずさの口から出るとは思えない可愛らしい悲鳴が小さく響く。
解こうと抵抗するもうまくいかないかずさ。
その”ありがたい武器”を揉むことよりも、くすぐることに比重を変えたのだろう。かずさの頬が赤みを増すのが加速した。
息遣いの荒い、悩ましげな声が聞こえる。
今夜の”参考資料”としては申し分ないのだが、あまりの展開に思考が追いつかない。
周囲の学生も何事かと注目する。その注目の的のすぐ近くにいる春希は強調される”やんごとなき武器”に気を取られてしまい、止めさせることも忘れてしまった。
「ほらっ、この顔と、この胸があれば、目の前の堅物だって、”イチコロ”だよっ」
ようやく開放する千晶、息も絶え絶えに新しい酸素をと必死に整えようとするかずさ。
「止めようともせずにガン見する春希って、むっつりスケベだね、私がやめなければずっと鼻の下伸ばしていたよきっと」
いたずらが成功したと言わんばかりの顔をしながら千晶は春希に向かって強烈な一撃を放つ。
「え、いや、だっていくらなんでも想像できないだろ!
目の前であんなに胸が揺れたら仕方ないじゃないか」
俺だって男なんだから仕方ないじゃないか。そう言いそうになるのを堪えながら弁明する春希。
――いや、口に出してしまった。
「……北原、お前ってそんな奴だったんだな」
未だ顔が赤いかずさは胸元を手で押さえて「ドン引きしました」といわんばかりに身を引きながら春希に侮蔑を含んだ目を向ける。
「いや、違うって――」
「黙れ、変態」
「ちょ、だから――」
「見るな、変態」
話を聞いてくれ!と懇願し始める春希とばっさりと捨て去るかずさ。
「ね。怒り以外で思っきり感情を発散するのも悪くないでしょ?
……肩肘張るのもいいけどさ、ガス抜きすることも必要だよ」
「ッ……。突然くすぐってくれば……あんな風にもなる!」
春希とかずさ、2人のやりとりを見てケタケタ笑いながら、でも「少しは楽になった?」とかずさに話す千晶。
それに反論するかずさだったが、先ほどまでの怒りの感情は含まれていなかった。
「あれ、春希ー。珍しい組み合わせじゃん?」
後ろから声がかかり、春希は振り返る。話しかけてきたのは武也の幼なじみ、A組の水沢依緒だった。
「依緒、学食だったのか?」
「ううん、お弁当食べ終わって。売店にジュース買いによったら春希を見かけたから……。んん……?」
春希に答えながら、この子、春希のクラスで見かけたことがあるっけ、こっちは確か演劇部の……。と見慣れない二人の事を考えながら依緒は自己紹介を始めた。
サバサバしつつも友好関係が気軽に築ける――時には後輩のメンタル面にも気を使うことがある。
女子バスケットボール部の部長を務める水沢依緒はそういうことが自然に出来る子だった。
そういう意味で依緒は女子生徒に人気があるし、そのはつらつな姿は2年連続のミス峰城大付属と比べることは流石にできないが――依緒に好意を寄せる男子生徒もそれなりにいる。
美少女二人に加えて、更にもう一人の参入に、学食を利用している生徒の春希に対する視線は嫉妬からともすればやや暴力的な感情を含むものに変わりつつあった。
あぁ、やっぱり春希のお隣なんだ。じゃあ冬馬さんも大変だね、春希の『いいんちょさん』ぶりが、とか。
G組の飯塚武也の被害者をこれ以上出さないように頼むよ、瀬能さん。とか。
あたしと武也っていう友人がお節介の対象者だったから冬馬さんが新しい獲物だね。とか。
そういや見たことあるなと思ったけど演劇部だよね!体育館とかで!と直ぐに打ち解け始める依緒。
それを見て安心した春希も加わろうと口を開くが
「話しかけるな変態」
「いや、だからそれは――」
「春希はスケベだなぁ」
「元はといえばお前のせいだろ瀬能!」
「……春希。……あんたいったい何したのよ?」
「依緒、話を聞いてくれよ――」
「水沢もそんな目で見ようとするのか、変態」
うがぁー!と叫ぶのを堪えて頭を抱える春希。女三人寄れば姦しいなんてもんじゃない、俺の胃がいくつあっても足らない!
と、ようやく春希が学食についてから送ったSOSメールを受け取った武也が辿り着き、冒頭のようにその惨状を見て驚き恐れ慄くのだった。
◇
前夜。
グッディーズ南末次店。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?おタバコはお吸いに――禁煙席はこちらとなります」
案内を受けて席についたかずさは改めて挨拶する。
「こんばんは。久し振りだね――拓未」
「あぁ、久しぶりだな、かずさ。5月の終わりにカラオケに行って以来だな。寂しかったか?」
「馬鹿いうんじゃないよ」
なにいってんのさ、とかずさは目の前の男――浅倉拓未という男に笑いかけながら話す。
「そうか? そりゃ残念かな。しかしまぁ久しぶりなのは事実だな。忙しいんじゃないのか? かずさ」
「ううん、そうでもないよ。でも最近少しだけだけど楽しいかな。昔よりは」
今日は嫌なことがあったが拓未の顔みたらどうでもよく思えてきたよ。と続けるかずさに拓未は「俺の顔ってそんなに脱力を誘う顔か?」と苦笑交じりに答える。
ウェイトレスを呼びコーヒーを2つ。なめらかプリンを3つ注文しながらかずさは拓未に逆に問いかける。
「拓未、あんたは忙しいのか?」
「俺か? 今はそうでもないが、来週末からはツアーだな。昔、初めの頃にお世話になったバンドの、ヘルプとして」
ま、平日はツアー先とこっちの行ったり来たりだな。と続ける。
そう告げられたかずさは「そっか……」と少しだけ寂しそうにするが拓未は「そんなことより、最近楽しく思えてきたってのが気になるな」とかずさの話を促す。
ウェイトレスが運んできたコーヒーを、拓未はミルクを注ぐ。
一方かずさは水位が上がるのが明らかにわかるほどスティックシュガーを入れた”ブラック”コーヒーにする。
「あぁ、最初は4月の終わりくらいからだったんだけどね――」
放課後、暇つぶしに音楽室でピアノを弾いていたら隣の部屋から下手くそなギターが聞こえて我慢するのに大変だったこと。
コードを弾くだけなのに音を外すのが理解出来なかったこと。
5月半ばを過ぎた辺りからあまりに我慢ならずについつい教室越しにピアノでギターを引っ張ろうとサポートしたこと。
教室から出て来たギターを弾いていた子は自分にとって”うざしつこい”同じクラスの『いいんちょくん』だったこと。
なんでも出来て信頼も厚い、画に書いたような優等生があまりに下手くそな音を出すから、いい気味だと優越感を覚えながらもピアノで教えていくうちに。ほんの少しだけだが上達していくのを聴いていながら楽しくなってきたこと。
あたしは出来るのにあいつは出来ない。あいつは出来るのにあたしは出来ない。最初は理解出来なかったが段々とそれがとてもユニークであると思えてきた。と、かずさはなめらかプリンを食べながら拓未に語った。
話を終えたかずさに拓未はにこやかに言葉を返す。
「いやー、お前ってほんっと、そのプリン好きだよな。何個目だそれ?」
テーブルに頭を打ち付けるかずさ。ゴンッ、と鈍い音が響く。
コーヒーが髪を汚すじゃないかと慌ててかずさのコーヒーを自分の近くに退避させる拓未。
「あんた……あたしの話ちゃんと聞いてたの?」
「いやいや、前も言ったけど甘いものを食べるときのかずさはホント素直で可愛いからなぁ。
さっきのお前の話もそうだけどさ、周りを少しでも受け入れてさ、いつもとちょっと違う視点で見てみたらさ。案外、世界ってそれほど悪くないもんじゃないって気付くかもしれないぜ?」
初めて出会った時のかずさ。
何にでも食って掛かるような、なりふり構わないキレ方を見せていた彼女に、拓未は自分の過去を見ているかのような気にさせられていた。
だが数度会ううちに、そんなカミソリのようだったかずさは幾分と柔らかい表情を見せるようになっていく。
目の前の甘いものを食べる時の可愛い顔。常にそんな彼女でいて欲しいと思っていた拓未は、楽しそうに音楽室での出来事を語るかずさを見るのが嬉しかった。
「……あたしと一つしか違わない癖に随分と偉そうだね、拓未は」
「一つでも違えば先輩は先輩、言うことは聞きなさい」
「あたしの周りは”うざしつこい”やつばかりだ」
お前はきっとそういう運命にあるんじゃねーの?と言う拓未とかずさはクスクスと笑いあう。
「そうだな。もう少しだけ、違った視点で考えてみるようにするよ」
「ん、そうしてみたらいいよ。応援する」
拓未は笑いながら手元の”ブラック”コーヒーを口にすると、あまりの甘さに噴き出した。
あまり加筆はしてませんが少しおかしいと思った点を修正。
ですがやっぱり違和感ありますよねぇ。どうしたらいいんでしょう。