PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題)   作:双葉寛之

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中盤に入ります。
もうね、完全に別の話になってきて自分でも違和感を覚えますw




EPISODE:14

 場所は変わって放課後の第二音楽室。今日ここにいるメンバーは春希、武也、雪菜、かずさ、そして拓未の正規部員のみ、である。

 千晶は部活動に。依緒は同じく部活だが、後輩の面倒を見に。それぞれ体育館に向かっていた。

 

 

『この声が聞こえたら アクセスして欲しい――♪』

 

 教室に入り、蒸し暑い空気を入れ替えようと窓を開けて回る拓未と武也。かずさは目もくれずにピアノに向かう。

 そして……よほど部活動が本格的に活動するのが嬉しいのだろう。雪菜の身体は舞うように回りながらアカペラで歌い出す。

 

 

「”ACCESS”って……。どマイナーな上に”WHITE ALBUM”より古いじゃないか……」

 

「いいじゃない、北原くん。昔だろうとなんだろうと好きなもんは好きなんだよ?」

 

「まぁ、俺も小学校初め辺りの曲は結構印象に残ってるけどさ……

 それにしてもマイナーすぎるだろ」

 

「おーい、春希に雪菜ちゃん。選曲決めるぞー」

 

 ミスコン2連覇という偉業を果たす、傍目には抜群の可愛さを誇る雪菜。しかしその実態は懐メロ好きで趣味は温泉などという地味の一言に尽きる性格である。

 

 このバンドには、何か若さというのが足らなくないか? そう呟く春希。

 もっとも、森川由綺推しの彼が言うほど滑稽なこともないが……。

 

 そんな二人に武也から何してるんだと声がかかる。

 

 

「あぁ、悪い悪い。いまどきの10代の好む音楽傾向について考察していた」

 

「はぁ? まぁそれはいいから。一ヶ月を切ろうとしているんだ。曲について決めようぜ」

 

 

 

 

 

「そうだなぁ、まず条件だが。HOTLIVEはライブといえどオーディション形式。3曲が限度だ」

 

「3曲~?そんなのあっという間に終わっちゃうよ」

 

「そりゃ、小木曽は一度に5曲入れるような子だもんな……」

 

「ははっ、北原も犠牲になったのか? アレは普通に顰蹙買うよな」

 

 3曲、転換込みで20分。それが自分達に与えられた時間である。当然準備がスムーズに済めばその分曲数を稼ぐことは出来るが、どう考えても3曲が限度である。

 

 そう告げた拓未に非難をあげる雪菜。彼女にとって3曲などゲームで言えば1ターンにも満たないのだ。

 あの”勝負”の日を思い出す春希。かずさがただ、1曲を入れるのにどんなに全力を注いだか……。思い出して苦笑しか出てこなかった。

 

 

「そう、3曲だ。そして都内、特に御宿の野外だからな。激しいコアやメタルといったジャンルは敬遠される。

 夏のクソ暑い時期に、激しい曲を入れることが出来ない。夏のHOTLIVE予選は結構条件が厳しいんだ」

 

「なるほど、つまり俺達は比較的ポップな曲を中心に揃えるしかないわけだな」

 

「そうだ、飯塚。付け加えるなら、入場料は無料。音楽ファンだけでなく一般の人だって見に来る。ベストなのはポップで、かつ有名な曲だな」

 

 いろいろ条件がきつく、選曲範囲が狭まられることに、難しい顔を作る武也。彼は意外にも結構激しい曲調というのを好むのだ。もちろん、女の子とカラオケに行くときは砂糖を口から吐くような甘い歌を囁くのが得意ではあるが……。

 

 そうした武也と拓未のやりとりを――いや、拓未をじっと見続けるかずさ。

 

 

「おい、かずさ。どうした」

 

「――い、いや! なんでもない!」

 

 あたしに気にせず、続けてくれ。と反対方向を向きながら慌ててそう告げるかずさ。

 昼休みもそうだったが、今朝からかずさは変だ。一体何があったんだろうか。疑問を感じながらも拓未は選曲の話を続けることとする。

 

 

「――まぁ。そういうわけなんだが皆、何かいい曲あるか?」

 

「曲ならさ、もう1曲は決まったようなもんじゃない?

 私達が、知りあうきっかけになった――」

 

「”WHITE ALBUM”か」

 

 雪菜の言葉に、反応する春希とかずさ。

 

 きっかけは初夏に、春希が弾いていた”WHITE ALBUM”に重なるように合わせたかずさ。

 そしてその二人の演奏に合わせて雪菜が歌うことで集まったこのメンバー。

 

 軽音楽同好会、特にこの三人には思い入れのある曲と言っていいくらいだった。

 

「ね、これ以外は考えられないよね! それに今練習しているのもこの曲だし!」

 

「そうだよなぁ」

 

「ま、そうなる予感はしていたけどね」

 

「……ダメだ」

 

「えっ?」

 

 1曲目は”WHITE ALBUM”に決まり!――そんな空気を打ち破るかのようにあり得ない、と否定する拓未。

 そんな拓未に、どうして。拓未くんだって好きだって言ってたじゃない!と割と本気で怒る雪菜。

 

「だってさ。8月だぜ? 夏だぜ? 夏といったらT○BEっていうくらい暑いんだぞ。

 そんな中に冬のド定番の曲を歌ってみろ。それこそジングルベルって口ずさむくらい場違いだって」

 

「まぁ、当然だろうなぁ……」

 

 拓未に同意する武也。武也としても真夏に真冬の歌は出来る事なら避けたかった。

 真冬に半袖で真夏の曲を熱唱するくらいには嫌だった。そんなもの某元テニスプレイヤーくらいしか似合う人いないじゃないか。

 武也は完全に思考がそれているが、冬だろうが夏だろうが暑苦しいあの姿で演奏しているのを想像など、到底思いつきたくもなかった。

 

 

「じゃあ何が良いっていうの? 拓未くん。言っとくけど、わたしを満足させるのは厳しいよ」

 

「お前何で上から目線……。まぁまぁ、お前の好きな懐メロも考えようぜ。だから、な?機嫌直せよ」

 

 

 ぶーぶー、と文句をいう雪菜。結局歌なら何でもいいんだろ、ヒトカラだと思えよ。という拓未にヒトカラって言わないでよ!と反論する。

 

 そんな二人のやりとりをみながらかずさは先程のアカペラを思い出す。この構成なら……いけるかな、と。

 

 

「小木曽、拓未。あのさ……さっきの”ACCESS”の繋がりでさ、”Feeling Heart”はどう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「おいおい、春希。まだ落ち込んでいるのかよ」

 

「だって、本来ならレギュラーの武也のポジションだろ。なんで補欠の俺が……」

 

「しょうがないだろ。あの顔を見せられちゃ。俺も譲るしか無いと思ったよ」

 

「それに、北原。ボーカルのモチベーションってのはバンドにおいては大切なファクターだよ」

 

 放課後、岩津町で降りた春希、武也、かずさの3人。向かう先はもちろん――冬馬邸である。

 

 しかしその春希の足取りは重い。4ヶ月は先だと思っていた本番が一気に1ヶ月後にまで迫り、なおかつ自身の担当するパートが伴奏を中心としたサイドギターだと思っていたのが……。

 

 

 

 

 

『飯塚には悪いが、北原。俺はお前にはリードギターをやってもらいたいと思うんだが』

 

『リードギター?』

 

『伴奏を中心としたリズム隊の1員として数えてもいいサイドギターとは違って、バンドの前面にギターの音を出す、ソロも演るパート。それがリードギターだな』

 

『え、俺が!? そういうのは武也じゃないのか』

 

 ”WHITE ALBUM”は含まない、全く新規の曲を3つも覚えなくてはいけない。その大変さを感じていた春希にさらなるプレッシャーが拓未から与えられる。

 

『俺も最初はそう思っていたさ。

 まぁでも、お前よりリズム感に長けている飯塚がサイドギターするなら安定するだろ。

 ……それに。お前、アレを見て断れるか?』

 

 アレ――顎でその先を指すのは、かずさにボーカルパートについて説明を受けている雪菜だ。北原のギターで歌いたいって言ってたぞ。その拓未の言葉が聞こえたのか雪菜がこちらを向く。

 

 

『北原くんなら大丈夫だよね? わたし、楽しみにしてるね』

 

 そういってにこりと微笑む雪菜。男子生徒が羨む――伝説になりつつある学園アイドルが自分だけに向ける笑顔に、先程まで無理だ武也の方がいいと言い張っていた春希も陥落するしかなかった。

 

 

 

 

「大丈夫だ、北原。あたしも拓未も、部長もお前を鍛えてやるから。

 お前は安心してひたすら練習しておけばいいんだ」

 

 ま、起きてから寝るまでギター漬けの毎日になるだろうけどね。そういってクツクツと笑うかずさ。

 自分を大丈夫と言ってくれるかずさを春希はありがたいとは思ったが、それを実現するための日々を思うと気が重くなる。

 しかし、やるしかないのだ。決まった以上、最後になって出来ませんでした、では許されない。

 

 

「んで、その浅倉は何時になったら来るって?」

 

「あぁ、瀬能に小木曽を稽古つけてもらうって言ってたから、もう3時間くらい後かなぁ」

 

「雪菜ちゃんねぇ。さすがの問題児も学園のアイドルには弱いよな。あいつ、去年から雪菜ちゃんと仲が良いんだろ? もしかして付き合っている、とかな」

 

 

――っ……。

 

「まさか、それならもっと小木曽に黒い噂が流てもおかしくないだろ」

 

「ははっそうだよな。ってか春希、やっぱりお前浅倉に対して容赦ねぇな……」

 

 軽口を叩く春希と武也。横に並んでいたはずなのに、いつのまにかその後ろを歩くかずさは微かに唇を噛み締め険しい顔を作る。

 どうした? と尋ねる春希になんでもないと答えるが、先程までの軽口に合わせるようなセリフを考えるのはかずさには無理だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「瀬能さん、ごめんね。付き合ってもらって」

 

「おまたせー。小木曽さん。拓未、あたしお腹へってるんだけど?」

 

「ほらクリームパンとミルクティー。とりあえずこれで我慢してくれ」

 

「これだけかぁ……。まぁいっか。ありがとね」

 

 夕暮れを迎え次々と部活動が練習を終えていく中。屋上で千晶を待っていた拓未と雪菜。

 夏休みを目前に迎える真夏だが、日差しが弱くなればここ、屋上は風が適度に吹いて心地の良い場所だった。

 

 瀬能が来るまで拓未が演奏する、借りてきたアコースティックギターで新たな課題曲3曲を練習していた雪菜。

 そんな二人のもとに演劇部の練習を終えた千晶がやってきた。

 

 

「ふーん……。”Feeling Heart”に”Routes”それに”夢想歌”かぁ……。

 割と、ノリのいい曲を集めたね?」

 

「あまり激しく出来ないけど、夏の野外だからな。少しでもノリがいいのを取らなくちゃいけなかったんでな」

 

「なるほどねぇ。最初の2つは結構、高いキーでの伸びを要求されるよね。そこらの発声を中心に、かなぁ」

 

「よろしくお願いします。瀬能さん!」

 

 事も無げに素早くクリームパンを平らげた千晶。「まだあるでしょ」と催促され拓未は隠していた自分用のメロンパンを苦々しげに差し出す。

 そのメロンパンを咥えながら課題曲を聞いた千晶は今回のポイントをさらりと挙げる。

 

 音楽をやっているならピアノであれバンドであれ、歌い手と関わる機会はある。

 拓未もかずさも、音に合わせて歌うだけのアドバイスなら雪菜には出来る。

 しかし、”声を届ける”それに関しては千晶以上に的確なアドバイスを出来る人間は少ない。

 

 それが今日、千晶を待っている理由だった。

 

 

「――それじゃ小木曽さん、こないだのおさらいからしよっか!

 

 

 

 

 

 

「なぁ、千晶。お前こないだ北原にご熱心だって言ってたよな。アレ、どうしてか聞いてもいいか?」

 

「なーに、拓未。もしかしてまだ私の事狙ってるぅ?」

 

「狙ってきたのはお前だろ……。それに途中で逃げられるのはもう嫌だからな」

 

 屋上の、フェンスの近くで校庭に向けて発声練習をしている雪菜から少し離れた所で紫煙を燻らせながら千晶に尋ねる拓未。今度見つかれば退学ものではあるが……。

 

 その拓未の風上で雪菜を見ながら千晶は先程の問いに少しだけ逡巡するような仕草を見せるも、言葉を紡ぎだした。

 

 

「私がさ、他人に接近する理由は知ってるでしょ?

 自分の役の糧になるように、少しでも吸収したいから近づくってこと」

 

「あぁ、俺んときもそうだっただろ。最初から気付いていたさ。何せ住む世界が違いすぎる」

 

「知ってて食べようとするんだからタチが悪いね、拓未も。

 ……で、春希だけど。私が見た時は詞を作っていたんだよ。作詞。同好会に入った理由なんだってさ。

 真面目な人間だけど何かを伝えたい。そう考えて詞を書くのは、まぁそんなに不思議な話じゃないんだけどね」

 

 けどね、と千晶は言葉を続ける。

 

 

「そんな作詞に集中している春希は、一見普通の顔を装っているんだけど、時折、ほんの瞬間だけ本当の顔を見せたんだ。

 なんていうのかな、思いつめたような、真面目故に強迫観念に駆られたような顔。

 お節介で有名な優等生『いいんちょ』くんが見せる、危うさを持った一面。そこが今回のポイントかなぁ」

 

 6月のあの日、学食のテーブルで見かけた時の春希について話す千晶。

 潜在的に秘めた危うい表情を見ぬいた千晶。それが今後どんな波乱を起こすのか、それが気になると告げる。

 

 

「強迫観念、か。作詞をするってことは……まぁ恋だろうなぁ。

 案外、初恋なのかもしれねぇな。辛いことにならなければいいが……。

 あまり北原をいじめてやるなよ? あと初めてを捨てたければ俺に言えよ」

 

「やだよ、だってもう拓未すっかり丸くなっちゃってさ。全然興味わかないもん」

 

「丸くなったァ? ……まぁ去年からに比べりゃ確かに問題行動は起こしてないが、そこまでいうほどか?」

 

「あんたのその髪型がすべてを表してるよ。逆に考えると、そう決意させるほどのことが今起こっている。それはそれで興味が沸くんだけどね」

 

「ホント、お前性格悪いよな」

 

「拓未くん、何話してるの?」

 

「うおっ、雪菜。いつの間に!」

 

「あぁ小木曽さん。拓未は私のことを性格悪いって言うけど、私はあんたのセンスのほうが悪いんだって話してたんだよ」

 

 突如、口を挟んだ雪菜に驚く拓未。どこまで聞かれていただろうか。そう焦っている中で平然と切り返す千晶はやはり役者なのだろう。

 全く隙を見せつけないその態度に拓未は感嘆した。

 雪菜にはドロドロした人間の醜い部分などは見せたくない。いつも明るく人を信じる雪菜でいて欲しい。

 エゴだとは感じつつも先ほどの春希の云々を知られては欲しくなかった。

 それを回避してくれた千晶に感謝を感じる。

 

 

「あーあの髪型? 確かにライブだったらカッコイイかもしれないんだけど。さすがにねぇ。

 ……って拓未くん、またタバコ吸った!? 匂うんだけど。

 お父さんに言いつけるよ?」

 

「お父さんって、親父のこと? 晋さんだけは勘弁してくれよ。親父より怖いんだから」

 

 晋の、あの淡々と正論でする説教は拓未にとって父親の怒りより苦手だった。なんせ正論すぎて反論出来ない。胸ポケットにうっかりタバコを入れたまま訪問して没収、そして怒られることが何回あったか。

 それはもう嫌だと雪菜に嘆願する。結果、拓未は校内では二度と吸わないと約束させられるハメになった。

 

 学園でも有名なミス峰城大付属に説教される、教師も手を焼かされる問題児。

 その光景に千晶は、やはり軽音楽同好会に――春希に、拓未を接近させたのは正解かな。と今後何を見せてくれるのかと意地悪げな期待をしていた。

 

 

 

 

 

 

 




ルート、定めました。
当初とはちょっと違う方向ですが、敢えて受け入れて進めます。

合わせて初期の投稿分を改修していくので、若干新規の更新ペースは落ちます。



追伸:艦これを初めて5ヶ月目にしてやっとレアでもなんでもない白露ちゃんが来てくれました。ワキ見せがたまりません。

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