PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題)   作:双葉寛之

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一応、0時頃です!


EPISODE:9

 浅倉拓未 3年B組。

 所属していた部活はなし。

 

 過去に2回停学処分を受けており、その内訳は校外での喧嘩が発覚した際の学内処分と喫煙問題。

 風紀には甘いとされる峰城大付属だが、まるでホストかと思うようなセンスの悪い脱色と長髪をしているのは彼以外には見当たらない。

 

 

 校内でも他生徒や教師陣と揉め事になることも多く、素行の良くない生徒以外の評判は悪い。しかしながらそういう不良(ワル)に憧れる夢子ちゃんもそれなりにいるらしく、多少の女性関係の話を耳にすることもある。

 もちろん教師陣からの評価も低いが、陰湿な反抗的行動を取ることは無い為か比較的扱い易いワルガキといったところか。

 しかしながら去年の今頃。一年近く前からそういった悪評を聞くことは少なくなった。尤も、存分に知り渡ってしまった結果、なかなかそれまでの評価を払拭することは出来なかったが。

 

 成績は問題のある言動に反して平均より少し上程度。しかしながら当然のごとく(峰城大)への推薦は絶望的。

 

 

 あと、個人的に――冬馬と仲が良いのが気に入らないし、『ギター君』とやけに横柄な態度が更に苛立たせる。もう少し欠点を上げるとすれば、自分より身長が低いこと。

 

 

 

 

 それが春希の持つ浅倉拓未の印象――そしてそれはあながち間違いではなく。というよりかなり正しかった。

 

 

 そんな拓未が軽音楽同好会に加入することになった。

 

 反対しようにも「実力」という彼我の戦力差と、何より雪菜とかずさの圧力によって屈しざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 今まで『外』で活動していたとはいえ、彼にとっての初めての――同好会という扱いだが部活動、軽音楽同好会に入部を決意した初日。多少なりとも今日から起こる新しい出来事を期待していたのは拓未にとって無理からぬことだろう。だからこそ突きつけられた事実は予想外のことであり、受け入れがたかった。

 

「はぁ、練習が週に2回しかないだって?」

 

 第二音楽室に彼の呆れた声が鳴り響く。ここは大学の飲みサーか?とありがたくない比喩まで付け加える。

 

 

「あぁ。火曜日と木曜日の放課後の第一音楽室。それが軽音楽同好会に与えられた時間と場所だ」

 

 春希は拓未に事実だと答える。武也は新しく加入した部員の入部届――正式な部活動ではないが届け出が必要なそれを提出に行っている。

 

 

 マジで同好会な活動だな、やる気感じねぇ。そうボヤく拓未。そして「ん?」と何かに気づく。

 

「今日月曜だな、なんで集まってるわけ。あとここ第二音楽室だろ?」

 

 ここはあの『開かずの間』じゃなかったか?と疑問を口にする。

 

 

「ここはあたしが自由に使っている教室だからね。部活がないときはここで北原に教えてる」

 

 拓未の疑問をかずさが解消する。なるほど、ここは部室代わりみたいなものか、と。

 

 

「いやいやいや、学校の教室を自由に使って(占領して)いる? かずさ、お前も結構ヤンチャしてんなぁ」

 

 かずさの学校内での話を知らない拓未は妙なところに関心をしていた。

 

 

 教室を見渡すと、授業用の机と椅子。そしてピアノと1台のJ○-120(ギターアンプ)だけ。これじゃ練習なんか出来やしない。と拓未はぼやく。

 

 

「よぉ、雪菜ちゃん、浅倉。入部届、受理してもらえたぜ。これで晴れて軽音楽同好会の一員となったってわけだ」

 

「ありがとう、飯塚君」

 

「おう、サンキュ」

 

 

「んで、飯塚。今日これからどうするんだ? 活動は火曜と木曜らしいじゃないか」

 

「……ここ最近は、崩壊の危機だったからな……。

 今まではここで冬馬が春希のギターを見てくれててさ、その代わり俺がメンバー探しに行ってるっていう毎日だった」

 

 辛い毎日だった……とでも言いたそうな目で遠くを見る武也。つまり最近は活動らしい活動をしていなかったんだな?と拓未は話を理解する。

 

「なるほどねぇ、音楽室で二人だけの特別授業か」

 

 

 

 

 

夏の盛りを見せる日差しを遮る、厚めのカーテンが風に揺らいで時折教室に光を注ぐ。

 

 窓の外では運動部の掛け声が遠く聞こえる放課後のここ、音楽室に一組の男女がまるで重なりあうのではないかという距離で真剣に、しかし恥ずかしさも含ませたような空気を醸し出しギターの練習をしていた。

 

『違う、ここはこう――そう、きちんとセーハ出来たか3弦の音を鳴らして見て……』

 

 そういって彼――春希の後ろから指板を覗くように顔を突き出し、慣れずに苦戦している指を優しく添えて矯正する、かずさ。

 

 ふっと風で揺れる彼女の黒い髪が春希をからかうように靡く。春希は心を乱されながら彼女に言われた通り弦を弾く。

 

『そう、出来た。ちゃんと、綺麗に音が出てるでしょ』

 

 そういって春希に振り向くかずさ。髪からいい香りが伝わり思考を鈍くさせる。そしてうっすらとだが、はにかむような仕草で春希に微笑む彼女の唇の動きを見つめてしまった春希は……。

 

 

 

 

 

 

「変な朗読はやめろおぉぉ!」

 

 

 春希にブラウスの襟を引っ張られ中断させられる千晶――なまじ上手すぎただけに誰も違和感を感じる人がいなかったその朗読は、潰れたカエルのような声で終わった。

 

 からかっているのだとは春希自身理解している。それに現実の練習(スパルタ教育)は千晶の朗読したそれと大きく乖離しているとはいえ。実際ありえないが、そういう状況に陥ってしまった場合の自分を考えると強く否定出来ないだけに余計にムキになってしまう。

 

 

「なによぉ……。せっかくアドリブで『音楽室の甘いひととき、彼女の誘惑レッスン』を語っていたのに」

 

 

「要らんわ!そんなん!」

 

 

「あらぁ? 今日のこれからの練習中意識しちゃうんだ。むっつりだね春希は」

 

「お前がそう仕向けさせたいのはよくわかったよ瀬能!」

 

 

 打てば響く。ツーといえばカー。諸田真といえばお金貸して。そんな息のあったコントを見せる春希と千晶。

 

 尤も、千晶はともかく春希は狙ってやっていないだけにその様は滑稽としかいいようがない

 

 

 そのやりとりを堪え切れずゲラゲラと笑う拓未。

 

「飯塚、こいつらいつもこんな調子か?」

 

「まぁ、だいたいこんな調子だな」

 

 

 

 

 

「……ふぅ。落ち着いた。それで、今日は月曜日だから解散するのか?」

 

「あ、水沢さんが今日は早めに終わるから少し待っていようよ」

 

「瀬能? なんでお前が水沢の予定を知ってるんだ?」

 

 演劇部と女子バスケットボール部、文化部と運動部程も違うのになんでそんなに詳しいのだ、とかずさは怪訝に思いながらも千晶に尋ねる

 

「それはね、今日は女バスの3年生の引退と2年生への引き継ぎやらで体育館が貸し切りだからね。同じ体育館を使う演劇部だから知ってるんだよ」

 

 女子バスケの県大会がちょうど期末試験の一週間前と前後した今年。依緒達3年は残念ながらも早めの引退を行う結果となってしまった。

 

 悔し涙を浮かべていた依緒をしる武也。依緒の、精一杯の夏。そんなあいつの夏はもう終わったんだなと3年生であるという自分達の置かれた状況を実感した事を覚えている。

 

 

「あー! 飯塚君、それなら依緒のお疲れ様会と同好会のバンド結成会をしようよ!」

 

「雪菜ちゃん、いいアイデア!」

 

 雪菜の提案をナイスだと受け入れる武也。それなら話は早いと自分の考えを伝える

 

「よし! じゃあ、今日は久しぶりに春希の練習の成果を見ていくか!」

 

「俺も自分が入るバンドのギターの腕前を知っておかないとな」

 

 

「そ、それなら! 拓未も一緒に練習を――」

 

 

――拓未もあたしと一緒にギターの練習を見てやってよ。

 

 

「んで、少しみたら雪菜、屋上にあがるぞ。俺も詳しくないがボイトレを教えるから」

 

「っ……」

 

「あーっそうだね! なんかボーカルって感じがしてきたー!」

 

 

 かずさに気付くことなく、時間を無駄に使わないでおこうと雪菜に練習を持ちかける拓未。

 

 

 その一方で春希は、拓未がずっと自分に張り付く予定ではないことを知って安堵する。

 

――この練習時間はかずさが俺のことだけを考えてくれる、俺のことだけを見てくれる。俺にとって大事な時間なんだ。

 

 実際そうはっきりと表現できるほど強く認識していたわけではないが、独占欲ともいえる感情。今後バンドとして活動する以上そういったことは許せないとわかっていても、湧き出た気持ちはうまく塞ぐ事はできなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……。その、北原。お前さ、ギター初めて1ヶ月だっけ」

 

 春希の練習の成果を聞いて拓未は、自分が知っている春希のギター歴は聞き間違えだったのかなと考える。

 

 

「……いや、もうすぐ3ヶ月だ」

 

「なるほど、確かに聞いた通りだ。……ほんと下手くそだなお前って」

 

「うるさいなっ。ここ数週間冬馬が面倒見てくれたおかげでようやくここまで出来るようになったんだ」

 

「かずさ、それまで以前の北原の腕前は?」

 

「前にも言ったでしょ。コードを弾くだけなのに音を外すくらいだって」

 

 

 だれでも初めてはこんなものだったかなと考えるも、かずさも上達していっていると判断している。

 

 楽器屋デートで弾いているところを見たり、かるく連弾したりしたぐらいだが、拓未はかずさの素質をある程度は知っている。そのかずさが言うのなら、まぁ間違ってはいないだろう。

 

 

「そっか……。じゃあ、上達はしていってるんだな。なら問題ねーよ。ライブに間に合うんならな」

 

「も、もう行くのか?」

 

 まだ少し早かったかな?そう思わせるかずさの声音。

 

「おう、だってお前ら出かけるんだろ? それまでに少しでもボーカルの練習時間取りたいしな。

 千晶、お前も暇だろ、ついてきてくれよ舞台女優なら発声くらい教えてやってくれ」

 

「えー、春希と私を離れさせようっていう魂胆でしょ」

 

「今日だけだ、我慢しろよ」

 

 軽口を叩く千晶をあしらい、拓未は雪菜にちょっと先に行っててくれと伝えた。

 

 

 

 

 

 

「――そう、声量ってのはつまり、単純に大声を出せるかっていう話じゃなくて。声を遠くまで届けることが出来るかってのが大事だからね。

 それを意識してもう一回やってみて」

 

 

 

 

「――じゃあ、次。拓未ー、『ド』の音を出して。ん、じゃあ小木曽さんは音に合わせて「ア」って言って。そう、伸ばして……。短く切って……。拓未、次は『ミ』の音――」

 

 

 拓未は第一音楽室から借りてきたアコースティックギターで音を出しながら千晶の合唱部経験者かと思わせるような指導に感心していた。部長とは聞いていたが、なかなかどうして教え方が上手いじゃないかと。

 

 

「驚いた。発声練習や滑舌練習だけじゃなくて、音階練習までやるのか演劇部は」

 

「演劇部っていうか私がね。ミュージカルの練習していたこともあったし、基礎程度なら知ってるよ」

 

 普通は音階練習とかはやらないよ。と伝えながらも頃合いをみて雪菜の練習を止める。

 

「小木曽さん、喉乾いたでしょ。飲み物取ってくるね」

 

 そういって千晶は鉄扉を開け、階下に降りていく。はじめて練習したー、結構難しいねと言いながら雪菜は拓未の横に座った。

 

 

「お父さんがね、拓未くんにあったらお礼をいいなさいって」

 

「土産のことか?」

 

「わざとはぐらかしてるでしょ。同好会のことだよ。口添えしてくれたんでしょ」

 

「……出過ぎた真似だったよ。目上にするような事じゃない」

 

「それも言ってた。わかっているから強く言えないってね」

 

「そっか……。まぁ、雪菜が言いたいってんならありがたく受け取っとくよ」

 

「うん、受け取ってて。

 ……ほんとはね。拓未くんが学校で私を避けてる理由、なんとなくわかってるんだ」

 

「そっか」

 

「2年までの拓未くん。結構暴れていたもんね。でもせっかく出来た友達と学校で話せなかったのは辛かったよ」

 

「そっか、すまなかったな。俺のせいで」

 

「ううん。それってどちらかというとわたしのせいだよね? わたしが周りの顔色ばかり伺っていたから。

 たぶんそのあと拓未くんがおとなしくなったのもわたしと関係があるよね?

 だからもう、そういうのやめようと思うの。まずはこの同好会で、隠さずに私らしさを出していこうかなって」

 

「少し、つよくなったな。雪菜は」

 

 拓未が何かしたわけじゃない。雪菜が前向きに、自分を隠したまま過ごそうとしていた事をやめさせるきっかけとなったのは、かずさと春希。

 

 ちょっとした、自分の役割とでもいうべきか、そういった活躍を奪われたかのような気分を拓未は感じさせられるものの、結果として雪菜にとって良い方向に向かうのは単純に嬉しかった。

 

 

 

 

「あれれーお邪魔だったー?」

 

「瀬能さんー、ホントにわたしのぶんまで持ってきてくれたの? ありがとうー!」

 

「おい、千晶。なんで手に2本しか持ってねーんだよ。俺のは?」

 

「だって拓未は声だしてないじゃない」

 

「声出していなくてもなー。いくら日陰といっても。それなりに暑いぞここ」

 

「なんなら私の飲ませてあげようか?く・ち・う・つ・し。で」

 

「それが出来る度胸があればお前はあの時素直に俺に――」

 

「だああ、それはいわないで!」

 

 

 

 

 下の階から”WHITE ALBUM”が聞こえる。

 

――これが雪菜を変えさせた音か……。下手くそなギターだけど、悪くない音だな

 

 

 そう思った矢先に間違え止まる演奏。

 

 

「だぁぁぁ! アイツほんと下手くそだな! イライラして聴いてらんねぇ!」

 

 

 そういって拓未もギターを弾き始める。これがお手本だといわんばかりの”WHITE ALBUM”を。

 

 

「えぇー。すごい! ギターなのにピアノの部分も一緒に弾いてるの?

 

「いわゆるソロギターVer.ってやつ?右手の親指で伴奏しながら他の指でメロディを弾くんだよ」

 

「ほんと、拓未ってジャンル問わずだね」

 

「ジャンル問わずじゃないぞ。好きなものしか弾かないからな」

 

「それって拓未くんも”WHITE ALBUM”好きってことだよね? 古臭いって言ってたくせに。もう」

 

 

 

 再び春希のギターの音が聞こえてくる。

 

 さっきよりだいぶ安定したコード演奏。

 

 それを導くかのようにピアノの旋律が重なる。

 

 

 

――ま、こんなのも悪くねーよな。

 

 

 

 拓未はギターのボディを指の腹で叩きリズムを作ると二人を補うようなメロディを弾き始める。

 

 

 

「ほら、雪菜。歌えよ」

 

 

 

「……うん!」

 

 

 

 夏の日差しも強い7月の放課後。到底そんな時期に似合う曲ではないが3人が奏でる旋律に乗せた彼女の歌声は心地よさをその場にいた者達に運んでいた。

 

 

 

 




お気に入り、30件もいただきありがとうございます。

また、評価欄に励ましのメッセージもいただき、感激の極みです。

どマイナーな作品が題材の上、稚拙ではありますが。これからも付き合っていただければ幸いです。

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