浮かべる城ぞ頼みなる   作:ことかわひなた

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最初の報告書はただの僕の趣味なので、ナナメ読みや読み飛ばししてもらっても大丈夫です。
初見バイバイになってしまってスミマセン……



01-非現実

 イージス護衛艦きりしま提出

リムパック演習事件 報告書概略

 

 

 2014年

5月29日

 リムパック演習参加のため、海上自衛隊横須賀基地を出港

 

 

6月10日

 真珠湾米海軍基地へ入港、演習のための準備及び訓練を開始

 

 

6月23日

 環太平洋合同演習リムパック開始

 

 

6月24日

 合同艦隊行動訓練開始

 

 

7月4日 

 対艦ミサイル迎撃訓練開始

 

 米空軍F-16C戦闘機が模擬対艦ミサイルを複数発射

 これに対し本艦がSM-2スタンダードミサイル、護衛艦あきづきが発展型シースパローミサイルをそれぞれ発射し、これを迎撃に成功

 

 

7月8日 

 対潜行動訓練開始

 

 海上自衛隊通常動力潜水艦なるしおを敵潜水艦役として実践演習を開始

 一度目の演習では米海軍イージス駆逐艦ポール・ハミルトンがこれを発見、撃沈判定を取るが、二度目の演習ではなるしおを発見することができず、米海軍空母ジョージ・ワシントンが撃沈判定を受ける

 

 

 注:なおこの際、なるしおの行った海底地形スキャンにより、海底に異物を発見

   以前のデータと一致しないことから地震などの地殻変動による海底の隆起と判断

 

 

7月17日

 仮想戦闘訓練開始

 

 各国艦艇をそれぞれ仮想国「オレンジ」と「ブルー」へ分割

 本艦は「ブルー」へ配属、所定の位置へ着く

 

 

 

7月19日 

 

1200時

 第三次仮想戦闘演習開始

 

 「ブルー」艦隊は米空母ジョージ・ワシントンを中心に輪形陣を取る

 全艦、空母との距離40km、僚艦距離30kmの円形放射状に位置を取る

 

 

1303時

 「ブルー」所属の米海軍イージス駆逐艦カニンガムから対潜警戒中に、方位2-5-1、距離2000に不明潜水艦を計3隻確認との報告を受ける

 訓練を中止、全艦へ対潜戦闘用意命令が下される

 

 

1304時

 リムパック演習へ参加していたロシア海軍、中国海軍へ、本海域で作戦行動中の同国潜水艦が存在するか確認するもこれを否定

 

 

1309時

 海上自衛隊P-3C哨戒機が音響探知機ソノブイを投下、アクティブソナーの音波による警告を行う

 

 

1312時

 不明潜水艦全隻が一斉に浮上を開始、対潜警戒を最大のまま維持

 米駆逐艦カニンガムが聴音による艦種特定を試みるも識別不能、アクティブソナーの反射波を解析したところ、潜水艦ではないことが判明

 

 

1320時

 不明艦全隻、米駆逐艦カニンガムの距離1000に浮上、本艦もレーダー上にて確認、不明艦は重巡洋艦級1、駆逐艦級2の編成であることが判明

 

 これより、不明重巡洋艦を目標アルファ、不明駆逐艦2を目標ブラボー、チャーリーと呼称する

  

 全艦ともに艦橋等に人影は認められず

 不明艦はいずれも無線、汽笛、各種信号へ応答せず

       

 

 注:不明艦は現存する全ての国籍の艦艇に該当せず、外見は第二次世界大戦期の戦闘艦に酷似

   しかし目や歯に当たる部位が見当たり、深海魚のような艦影に見えたという

 

 

 

1322時

 目標ブラボー、主砲塔を米駆逐艦カニンガムへ指向、同艦はこれを発砲前に主砲にて迎撃するも撃沈に至らず、同不明駆逐艦の攻撃を受け後部艦橋大破

 この攻撃により米海軍は不明艦三隻を敵性と判断、攻撃を開始、並びに各国艦隊へ支援攻撃を要請

 全艦に対水上戦闘用意発令

 

 米駆逐艦サンプソンが目標ブラボーへ

 米イージス巡洋艦モービル・ベイが目標アルファへ

 同米巡洋艦チャンセラーズビルが目標チャーリーへハープーンミサイルをそれぞれ2発ずつ発射

 

 米駆逐艦カニンガムは最小誘導射程圏外のためハープーンミサイル発射不能、主砲にて反撃を続行

 本艦及び自衛艦隊全艦は別命あるまで待機

 

 

 

1323時

 「ブルー」所属の米海軍及び多国籍合同艦隊は敵性不明艦全隻へ攻撃を開始

 敵艦全隻、「ブルー」艦隊へ対し無差別攻撃を開始

 

 目標アルファの砲弾2、護衛艦すずなみの右舷200mに着弾

 これを自衛艦隊への敵対行為と見なし自衛権を発動、海上自衛隊全艦は敵艦に対し攻撃を開始

 

 すずなみが目標チャーリーへ、

 本艦は目標アルファへ90式艦対艦誘導弾をそれぞれ2発発射

       

 

1324時

 米駆逐艦カニンガムへ敵の攻撃が集中、同駆逐艦はミサイル誘爆のため轟沈

 

 ハープーンミサイル2発、目標ブラボーへ命中、同駆逐艦沈黙、撃沈を確認

 

 

1325時

 ハープーンミサイル及び90式艦対艦誘導弾、目標アルファ、チャーリーへそれぞれ2発命中 

 目標チャーリー大破炎上、戦闘能力喪失を確認

 

 目標アルファ、艦橋大破を確認

 

 

1326時

 ハープーンミサイル及び90式艦対艦誘導弾、目標アルファ、チャーリーへそれぞれ2発命中

 目標チャーリーの爆発轟沈を確認

 

 目標アルファ、大破炎上するも、継戦能力は失わず、未だ抵抗の意志ありと認む

 

 

 海上自衛隊護衛艦すずなみ、目標アルファの砲撃が艦尾に被弾、艦尾大破、航空機格納庫大破、死者6名、重軽症者多数

 航行に支障をきたすも戦闘続行可能

 

 すずなみ、目標アルファへ90式艦対艦誘導弾2発発射 

 

 

1328時

 90式艦対艦誘導弾、目標アルファへ2発命中

 

 目標アルファ、爆発炎上、同艦の轟沈を確認

 

 

 

1330時

 戦闘の終了を確認、全艦、戦闘用意用具収め

 

 沈没した米駆逐艦カニンガムの生存者救助を開始

 

1504時

 全要救助者の収容を確認

 

 

 

 環太平洋合同演習リムパックの中止が決定

 海上自衛隊全艦艇は、海上自衛隊横須賀基地へ帰投する

 

 

 護衛艦すずなみは自力での長距離航行不可能のため、本艦が曳航する

 

 すずなみの重傷者は米海軍哨戒ヘリ、シーホークにてハワイ海軍病院へ搬送

 同艦の殉職者は自衛隊内にて葬送式を行い、後に遺族への受け渡しを行うことが決定

 

 

8月15日

 海上自衛隊横須賀基地へ帰港

 

 本艦及び護衛艦すずなみは直ちに乾ドックへの入渠、修理が決定

 同艦乗員へ無期限の両舷上陸と謹慎命令が下される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、これがどうかしたんですか」

 まだ若い士官は、手にした資料をもてあましたように、苦い顔をしつつデスクの向こう側へ視線を向ける。

 幼さの残る顔つきだが、それもそのはず海上自衛隊幹部学校を卒業したばかりのしがない三等海尉である。

 

 

 その視線の先で、顎に手を当てて椅子に座っているのは海上自衛隊で実質的な最高位である海将様だ。

 ただし、海将という割には軽薄そうな表情と態度をしているが。

「どうって、ほら、ハル君ならこういうの得意そうかなって。オタクだし」

 

 ハル君、と呼ばれた三等海尉は深く溜息をついた。

「オタクですが、……どうしてそれとこれが結び付くんですか?」

「だってさぁ、海の底から亡霊みたいな謎のフネが襲ってくる、って漫画やゲームにありそうじゃんか」

 

 

「…………」

 呆れて言葉すら出なくなった。

 

 軽薄そうな海将は話を続ける。

「いやー、ウチの情報課の連中も、こんな非現実的な報告書にゃお手上げでね。

 事件から二ヶ月も経った今でさえ、現状では解析不能、だとよ。ホント嫌になっちゃうよなぁ。

 というワケで、非現実的な事に詳しくて非常に信頼のおけるところであるハル君に、白羽の矢が立ったということさ」

 

「ただ自分の息子だから、というだけでしょう」

「それもある」

 ニカッっと笑いかけてくる海将を見て、三等海尉は更にうなだれる。

 

 

「いやな、信頼というのは非常に大事だ。分かっているだろうが、この案件は部外秘だ。まだ海自内でも、俺みたいなごく一部と現場にいた連中しか知らない。

 そんな重大な案件の相談ができるのは、隊内じゃハル君くらいしかいないんだよ」

 

「……他に適任がいるでしょう。こんごう艦長の黒木一佐とか。仲良いんでしょう?」

「あぁ、クロちゃんはダメだ。石頭だよ。ゲーム機はみんなファミ○ン扱いするような奴だ」

 

 

「それでも、もっと適任が……」

 まだ渋る三等海尉。

 

 海将はそれまでのおちゃらけた様子から急に真剣な表情になった。

「ハル君。これは相談だ。ただの、相談だ。別にハル君にこの案件を任せると決まったわけじゃない。

 本当に、信頼できると分かった上で、相談できるのがハル君しかいなかったんだよ」

 

 三等海尉は顔に手を当てて考え込む。

「それに、ここまで資料読んでおいて今更戻れると思う?」

「…………」

 

「お願いだ、ハル君」

 

 

 

 

 

「……分かりました、ご相談に乗りましょう」

 

 

 その言葉を聞いて、海将の表情が一気に明るくなる。

「そうか! ありがとう! じゃあ早速だけど何か気になることを……」

 

 

 プルルルル…… プルルルル……

 

 海将が話し始めた瞬間、デスクの上に置いてあった内線電話が鳴り始めた。

 三等海尉に申し訳なさそうな顔をしつつ海将は受話器を取ったが、話し始めてすぐに眉を顰めた。

 そして、

「ごめんハル君、別の案件が入っちゃったよ。この話はまた今度ね。その資料はあげるからよく考えておいてね」

 と、部屋を出るようにジェスチャーをした。

 

 

 それを受けて、やや乱暴に海将を一瞥した後、資料をスーツケースに入れて、三等海尉は何も言わずに部屋を出ていった。

 

 

 海将は一つ溜息をついてから、改めて受話器を耳に当てた。

「で、何だ話って、 ……え? 不明艦? 例のか? ……なんだ違うのか、で? 別の不明艦だって? 拿捕したの? それはなんとまぁ。

 海自に管轄を回すって? ったく海保の奴ら…… えー? こっちまで持ってくるの? あー……、まあいいよ、なんとかなるでしょ」

 

その軽薄そうだが、力強い眼差しは、部屋のドアの向こうを見据えていた。

「なんとかしてくれるよ、ハル君なら。……あぁ、いやいやこっちの話」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀 臨海公園

 

「ったく…… 何だよ、何なんだよ父さんは」

 最早何度目になるか分からない、同じセリフを繰り返し呟く。

 

 ハル君こと、千島春樹三等海尉は部屋を追い出されてからずっと、公園のベンチで愚痴をついていた。

 

 横須賀の艦隊司令部から出てきた後、護衛艦を眺めつつ、ふらふらとしばらく歩いていたら見つけた公園だった。

 一先ず、誰にも邪魔されなくて、腰を据えて、落ち着いて考え事をできる場所が欲しかった春樹は、これだとばかりに空いていたベンチを陣取っていた。

 それから、もう二時間ほど考え込んでいる。

 

 

 

 本当に訳が分からない。

 

 一体どうして、あの海将様は、こんな重大な機密を自分にバラしたのだろうか。

 

 本当に、息子だから、という理由なのだろうか。

 

 オタクだから、とはいってもオタクなら自衛隊内にいくらでもいるだろう。

 

 何か裏があるのではないか。

 

 もうずっとそんな事ばかり考えていた。

 

 

 

  

 ぼー……っと、正面の海を眺める。

 

 冷たい潮風と、磯の匂いが鼻をくすぐる。

 奥の方に見える護衛艦や米海軍の艦船、あそこで働いている人たちは大変だろう。 

 

 こんな冷たい海の上、一度航海に出れば長らく陸には帰れない。

 

 でも皆それぞれの想いがあって、フネに乗っている。

 

 

 殉職された方々にも、そういった想いがあったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 何故、あんな事件が起こったのだろうか。

 

 確かに非現実的だが、実際に被害が出ている以上、事実と認めざるを得ないだろう。

 護衛艦すずなみも、未だにドックから出てきていないままだ。

 

 

 実戦演習中に、本当に実戦が起きてしまった。

 まるで笑い話のような状況だが、護衛艦が大きな被害を受け自衛権を発動し、あまつさえ敵を自らの発射したミサイルで撃沈するなど、自衛隊発足以来の大事件である。

 このことが公に知られるようになれば、いずれ教科書に載るような大事になるだろう。

 

 しかも、相手の正体は分からないときた。

 

 

 日頃から自衛隊を批判している者にとっては願ったり叶ったりだろう。

 

 集団的自衛権の適応だったのではないか。

 殉職者が出たのは不備ではなかったのか。

 隠蔽があったのではないか。

 戦争をするつもりなのか。

 

 

 いくらでも批判材料が湧いてくる。

 

 

 

 

 

 

 海中から駆逐艦? 重巡洋艦?

 潜水能力を持った水上艦なんてそれこそ漫画の中でしか見たことが無い。 

 

 それに現代に重巡洋艦なんて艦種は無い。時代遅れにも程がある。

 某アニメでは重巡洋艦が潜水しながらビームを撃っていたが、それとは明らかに違うだろう。

 

 大体、漫画ゲームに詳しいといっても、それはその特定の作品に関してだけなのだ。

 しかもこれは現実。フィクションじゃない。

 

 第二次世界大戦時の艦船? それじゃ本当に亡霊じゃないか。

 自衛隊員は幽霊船に殺されたというのか。

 

 考えれば考えるほど分からなくなる。

 第一、情報分析の専門家がお手上げだというのに一端の三等海尉でしかない自分が分かるはずがない。

 

 

 千島春樹は苦悩していた。

 自らに掛けられた、あまりの重圧に。

 

 

 

 

 

 

 もう日が落ち始めてきた。

 海面は夕焼けに染まり、その上に浮かぶ艦船を鮮やかなオレンジ色に照らし出している。

 

 そろそろ戻らないとマズイだろう。

 春樹はまず溜息を一つついてから、随分と重くなった腰を上げる。

 

 その時ふと、奥の方に入港してくる護衛艦が見えた。

 タグボートに曳かれて、なされるがままに動いている。

 

 だが、すぐその違和感に気付く。 

 

 

「小さい……?」

 普段見慣れた護衛艦よりも一回り小さな艦影。

 そびえ立つ二本の煙突に、

 まるで砲雷撃戦を行うために備え付けられたような複数の主砲塔と魚雷発射管。

 

 その姿は、

「あれじゃ本当に昔の駆逐艦じゃないか……」 

 まさしく、第二次世界大戦、太平洋戦争当時の駆逐艦であった。

 プラモデル等で見たことがある、その形のままだった。

 

 しばらく眺めていると、急にその駆逐艦の船体が淡く光り出し、段々と消えていった。

 目を疑うような光景に、春樹は何が起こっているのか分からなかった。

 

 事態がまだ呑み込めないうちに、海の上をこちらに向かって進んでくるものが見えた。水上オートバイのようだった。

 だが近づいてくるにつれて、少しずつその正体が分かってきた。

 

 武器のようなものを背負った女の子が、水飛沫を上げて、海面をスキーのように進んでいる。

 

 

 

 春樹の頭は更に混乱した。全く状況を理解できないでいる。

 そして気が付いた時には、その女の子は海から飛び上がって、春樹の目の前まで来ていた。 

 

 

 女の子は春樹に向けて話しかける。 

「えっと…… そこの士官さん、私を、助けてほしいのです……」

 春樹はまだ言葉が出ない。

 

「あの…… どうか、お願いします。早くしないと大変なのです……っ」

 おどおどした話し方の裏側から、どこか血気迫るものを感じる。

 

「……ぁ、ああ、いいけど…………何を?」

 その場の雰囲気と圧力に呑まれて、思わず承諾してしまった。

 が、すぐに春樹は後悔の念に襲われる。

 

 

 

「私に、乗ってほしいのです」

 女の子がそう言うと同時に、彼女の背後に見える海に光が集まり出したのが分かった。

 軽い逆光がかかり、女の子の姿や背負った砲のようなものがシルエットになる。

 先ほど見た、駆逐艦の淡い光と同じだった。

 

 そうして、そのことを証明するかのように、淡い光の中から、先ほど見た駆逐艦が目の前に現れていた。

 

 それは、本当に非現実的な光景だった。

 

 

 それこそ、漫画やゲームの中の出来事のような、海の底から亡霊みたいな謎のフネが現れたような、

 ただ目の前の光景は、それが亡霊などではなく、実際に質量を持ってそこに存在していることを主張していた。

 全く理解が追い付かない。

「えっ、……君に、乗る? って、どういうこと?」

 

 

「言葉の通りです。今、タラップ出しますね」

 と言うと、もう一度駆逐艦の、今度は舷側が光り出し乗船用のタラップが現れた。

 

 女の子はそのタラップを渡って駆逐艦に乗り込む。

 まるで自分の家の階段を上っていくかのような軽快な足取りに、春樹は込み上げてきた純粋な疑問を投げかける。

「君は、一体何者なんだ……?」

 

 

 その問いに、女の子はくるりと振り返って答える。

 

「あ……、申し遅れました。電です。どうか、よろしくお願いいたします」

 


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