問題児と創る昼寝だんご王国   作:神ジーク

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第六章 奴隷が正式に奴隷になった瞬間だった。

「ところで白夜叉とやら、訊きたいことがある」

「あれだけやらかしておいて随分と尊大な態度だが・・・・・・まあ、いいだろう。言うてみよ」

 

フェリスに質問を許可した白夜叉の顔は諦観に満ちていた。

人の何十倍も長く生きてきた白夜叉をここまで疲れさせるとは・・・・・・フェリスもある意味傑物である。

 

「お前、何だ?」

 

フェリスらしからぬ若干の狼狽を含めたその問いにライナはピクリと眉を動かした。

ライナもフェリスと同じようなものを感じていたのだ。

いや、ライナの場合特殊な眼を持っている。

さらに衝撃は大きいはずだ。

これまで吸血鬼の話を聞いても、猫耳少女を見ても、一片の驚きも見せなかった二人が目の前の幼女を異常なほど警戒している。

その様子は黒ウサギや問題児三人にも見て取れた。

 

「ふふ。少なくともおんしらと同じ人間ではない」

「ならば、何だというのだ?」

「それをわかりやすく説明するには、ちょっとしたアトラクションに付きおうてもらった方がよいな。どうする?」

「・・・わかっ―――」

「待てよ」

 

フェリスが頷きかけた時、現在まで静観していた問題児筆頭が立ち上がった。

続いて、飛鳥も耀も立ち上がる。

三人の表情、特に十六夜の顔は好戦的で獰猛な笑みに満ちていた。

 

「この際だ。俺はお前に喧嘩を挑む」

「ほう。面白いな小僧」

「お前はあの図体だけの白蛇よりは強いんだろ?今まで何が起ころうと好き勝手してた無表情女の豹変ぶりを見れば嫌でもわかる」

「おんし、あれを倒したのか?」

「ああ。だが今はそんなことどうでもいい。遊ぼうぜ白夜叉」

 

珍しいものを見るような目で十六夜を観察していた白夜叉は視線を飛鳥と耀に移した。

 

「おんしらも同様か?」

「ええ。面白そうだもの」

「以下同文」

 

二人の返事を聞いた白夜叉の顔から表情が消え、代わりに楽しげな、本当に楽しげな笑みを浮かべた。

それを了承と受け取った黒ウサギが慌てて割って入る。

 

「白夜叉様!?」

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えておる」

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

遊びで済むのだろうか。

フェリスとライナに好き放題されたストレス解消を目論むのではないだろうか。

と、黒ウサギは不安に駆られるが、止める手段がないことに気が付いてガックリと項垂れた。

 

「ふふ、そうか。――――しかしゲームの前に一つ確認しておくことがある」

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から双女神の紋様が描かれたカードを取り出し、喜悦の表情をさらに強くして一言。

 

 

「おんしらが望むのは『挑戦』か―――――もしくは『決闘』か?」

 

 

瞬間、全員の視界が激変した。

 

 

        ◇

 

 

辺りは一面の銀世界。

雪が積もっているというレベルではなく、全てが停止したように凍っている。

空さえも白夜という形で雰囲気づくりに一役買っているのだ。

当然、南の地方にいたライナが雪や氷など名前を知ってはいても、見たことがあるわけがないし、付随する『寒さ』を識っているわけもない。

加えて着地時に湖に落ちれば、

 

「さむさむさむ!」

 

こうなる。

両手で肌を擦る仕草が何とも哀れだ。

しかし、同じ座標に落ちたはずのフェリスは濡れていない。

理由は簡単。

ライナが水中に落ちる寸前に彼を足場にして跳躍したのだ。

で、見事に岸に着地。

今は氷の地面を刺したり、しきりに頷いていたりしている。

 

「ふむ。これが氷か」

「んなこと言ってる場合か!お前なんかあったかいものもってねえ!?さっきのお茶とかさ!」

「これか?」

「そうそう!それだよ!」

 

ライナはフェリスがどこからか取り出した湯呑を手に取ろうとするが、フェリスはそれをヒョイと軽やかに身をかわして防いだ。

 

「な、何すんだよ!?」

「ふ、このお茶が欲しいかライナ?」

「あたりめえだろ!」

「どうしてもか?」

「ああ!!」

「万難を排してもか?」

「そうだって言ってんだろ!」

 

ライナの言動に余裕がない。

当然だ。

地球でいう南極の海に落ちたも同然なのだから。

普通ならその時点で死にかけている。

会話が成り立っているほどの理性が残っているのはひとえにライナの丈夫さゆえだろう。

が、今回はその半端な理性が仇となった。

冷静になり切れていないため、いつもなら見抜けたであろうフェリスの微かな笑みに気づいていない。

 

「よし。そうまで言うなら仕方ない」

「早く!」

「ただしあることを誓ってもらおう」

「何でもいいから早くしろ!」

「このお茶を飲んだ瞬間からダメダメ君ライナは超絶完璧美少女天使フェリスちゃんの言いなりであると」

 

こんな無茶な条件、いつもの彼なら絶対に飲まない。

天地がひっくり返っても飲まない。

そう。

いつものライナなら。

 

「わかった!わかったから早く!」

「そう慌てるな。ほら」

 

ライナはフェリスから奪い取ったお茶(沸騰水並)を一気に飲み干した。

飲み乾して、

 

「あっつ!し、舌が、口があっつッ!」

 

盛大に吹いた。

フェリスはやり切った思いで微妙に清々しい顔だ。

 

「言っただろう?慌てるなと。やはりお前はダメダメ君だな」

「テメエのせいだろが!ふざけんなよフェリス!」

 

綺麗に舌が回っている。

どうやら湖の水を飲んで中和したらしい。

 

「そんなに怒り狂って・・・・・・いいのかライナ?」

「何がだよ」

「お前今私の奴隷だぞ」

「へ?」

 

ライナは怒りも忘れて間抜けた顔をした。

自分が口走った最悪の返答を覚えていないらしい。

だが、心なしか少しニヤニヤしながらこっちを見るフェリスを見て思い出したようだ。

1秒も経たず、顔面が蒼白になる。

 

「あ、あの、フェリスさん。無しにできませんかね、さっきの約束?」

 

ライナは相変わらずの悪魔を前に膝をつくしかなかった。

 


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