少々暴れた形跡が残る和室に黒ウサギ達は集まっていた。
部屋の主である銀髪の少女、いや幼女は頬を痙攣させながらなんとか笑顔を作ろうとしている。
理由は言うまでもない。
「私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている《サウザンドアイズ》幹部の白夜叉だ。まぁ、黒ウサギのコミュニティーには多少の貸しがあるのだが・・・・・・その貸しも今日で急増した気がするの」
「すみませんっ。本当にすみませんっ」
平謝りする黒ウサギに責任はない。
その責任を負うべき当人達は出されたというより見つけ出した茶を啜ってくつろいでいる。
あげくの果てに、
「うーん、フェリスが淹れた奴の方が美味くね?」
「うむ。私はだんごを美味く食べる努力を惜しまない。つまりは美味い茶を淹れる努力も惜しまないのだ」
「へー、なるほどね。お前もがんばってんだなぁ」
「そう思うなら敬うがいい。当然だんご神様も敬え」
なんて話をしている。
足の先ほどの責任も感じていない。
これでは怒ろうにも怒れないというものだ。
ちなみに、ライナとフェリスの二人が何をやらかしたかについては語るまい。
もはや筆舌に尽くしがたいというより、筆を執るのもおこがましいのである。
機嫌がいいとは言えなさそうな幼女と謝り続ける苦労人と、原因である馬鹿二人の作り出すこの空気、とても落ち着けるような雰囲気ではない。
流石の問題児三人も気をつかって話を別のところへ持っていこうと行動を開始した。
「そ、そういえば、外門って何かしら?」
「俺もそれが気になってたんだ」
「私も」
一応嘘はついていない。
確かに彼らはそのことについて疑問を持っている。
三人の努力の甲斐あってか、やがて白夜叉はいったん気分を変えて説明の為に口を開いた。
◇
「――――なるほど。つまりは巨大なだんごの形か」
「いったいどの辺りがそう見えるんですか!?」
フェリスの意味不明な例えに黒ウサギが叫ぶようにツッコんだ。
箱庭は七つの階層に分けられていて、それを区切る外壁の門を『外門』という。
門に与えられた数字が若くなるほど、その内側に住む者達は強力になっていき、四桁の外門といえば完全な人外魔境である。
上から見ればタマネギやバームクーヘンに見えるかもしれないが、決してだんごには見えない。
「丸いではないか」
「そこだけですよ!?丸いものなんて他にもいくらでもありますよ!?」
「なんだと!だんごに似たものなど存在しない!」
「どういう流れでそんな話を!?」
混沌だった。
状況が、でもあるが、
フェリスが、という方が適格だ。
彼女の相棒を続けている誰かさんの苦労をわずかながら黒ウサギは体験してるのであった。
で、暴走を止めるべき相棒―――ライナはというと、話の途中から寝てしまっている。
ツッコミに参加してくれる気配は、ない。
むしろこの寝つきの速さにツッコむべきだろう。
このいろんな意味で難解な状況を他に止める者も、止める気のある者もいなかった。
十六夜は面白そうに観ているだけ。
飛鳥は呆れてものも言えない。
耀に至っては我関せず。
白夜叉でさえ疲れた様子で見守っていた。
間違いなく、
誰がこの状況を見ても、
太鼓判を押すだろう。
ライナとフェリスはそこらの問題児など足元にも及ばない超問題児、もはや狂人である、と。