「あー、死ぬ。マジで死ぬ。十日徹夜とか冗談じゃねえよ。俺ってば『めんどくさい』の『め』って言うのも『めんどくせえ!』って言う奴なのに」
夜の街を力のない足取りでふらふらと行く男の名はライナ・リュート。
疲労のせいで、やる気というものが消滅したような表情と猫背の長身痩躯もいつも以上に無気力だ。
というのも、ここローランド帝国は前王の腐りきった時代から立ち直ったばかりでやらなければならないことが山積しているのだ。
そのローランド帝国の王というのがライナの親友であり国民から英雄王と言われ慕われるシオン・アスタールで、ここのところは毎日ライナを執務室に閉じ込めて寝る間も与えず仕事させている。
本人もライナと同様、いやライナ以上に寝ていないのだが休憩すらする気配がない。
ワーカーホリックという奴である。
「シオン・アホターレめ。いつか絶対殺す」
そんな恨み言を呟いても実行に移す元気は彼にはなく、実行してもシオンの策略に引っかかり更なる嫌がらせを受けることを彼は理解しているのだろうか。
亡霊のように宿に近づいていくライナは途中で最も会いたくない相手に遭遇した。
「げっ、フェリス・・・」
フェリス・エリス。
スタイル抜群、この世のものとは思えないほど美しい金髪に、女神のような美貌を持つ美女だ。
無表情なのが気になるが、彼女ほどの美貌だとむしろ神秘的に思える。
フェリスもライナに気づくと、ライナにしかわからないくらいの小さな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
「フェリス、俺十日徹夜で死にかけてるからお前の相手はできないぞ。だから、何もせずここを通してくれると嬉し―――」
「ライナ、これを見ろ」
要望は通りそうになかった。
ライナはフェリスが突き出してくる二枚の封筒を見て露骨に嫌な顔をする。
面倒事である可能性が高いからだ。
「嫌だ」
「見ろ」
「嫌だ。眠い」
「・・・・・・(チャキン)」
フェリスは無言で剣を抜いた。
それを見たライナの態度が急変する。
「いやいや、冗談だって。俺がフェリスの頼みを聞かないはずがないじゃないか。ほらその手紙見せてみろって。うわー、めっちゃ気になるわ、その手紙」
「ん。そんなに見たいか。ならしょうがない」
脅しであった。
ライナは仕方なく片方の封筒を受け取った。
「二枚あるのか?一枚はお前当て?」
「うむ。お前が私宛にしたためたラブレターだ。内容は『グへへ。お前のその綺麗な顔を汚してやりたいぜ。さあ、今から行くから―――』」
「そんな変質者全開のラブレター書いてないから。ていうか、早く開いてみろって。お前当てなんだろ」
「『夜が楽しみだ。待ってろよ。グへへ』と・・・・・・。貴様ッ!私にそんな劣情を抱いていたのか!?」
「って、続くのかよ!?・・・・・・で、満足した?」
「うむ」
フェリスは満足げに頷いた。
「じゃあ、開けるぞ」
ライナとフェリスは同時に封筒を開けた。
手紙に書かれていたのは・・・・・・
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その恩恵を試すことを望むならば、
己の家族を友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』
「へ?」「む?」
そして、光に包まれた。