仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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久しぶりの投稿です。
久しぶりなんですが、番外編+前編だけって感じで申し訳ないです。

なかなか現在リアルが忙しく、今後も間が開いてしまうかもしれませんがご理解いただければなと!

ちなみに今回の話は前回と繋がってます。
いろいろ小説の事に対してメタ的な意見を書いてますが、全部個人の発言なんであんまり気にしないでください……w

ではどうぞ



番外編 パラノイアインデックス(前編)

 

 

 

「あ、あの! 9周年おめでとうございます!」

 

「ああ、ありがとう。そう言えば君とももう9年の付き合いになるね」

 

 

カチャリと男性はメガネを上に上げる。

そして大げさに首をふってそれを否定した。

 

 

「え、えっと最初はアレなので! は、はちっ! 8年ですね!」

 

「ああ、そうだっけ」

 

 

緊張しているのか、汗を浮かべて声を震わせている男性。黒い髪がボサボサになっていて服装もオシャレとはかけ離れている。

もう見慣れた服装だ、男性が差し出した封筒を文庫レーベルの編集者は特に疑問を持たずに受け取った。

そうか、もうこれで八回目なのか。

 

 

 

 

そして時間は流れ。

 

 

「ど、どうですか!!」

 

 

期待に目を輝かせる男性は、紙に目を通す編集者のリアクションを期待していた。

悪くない、決して悪くない自信作だ。今回は自分で言うのもあれだが相当な自信がある。焦る気持ちと期待に体を震わせて男性は大きなメガネを整えていた。

 

 

「うん、悪くないね」

 

「ほ、本当ですか!!」

 

「悪くは無い、悪くは無いけど……」

 

「え?」

 

 

悪くは無いが、良くも無い。

そう言って編集者の男は原稿を彼に返した。

 

 

「なんて言うのかな、ちょっとありきたりと言うか――」

 

「は、はあ」

 

「悪い意味で守りすぎなんだよな、君の作品は。もっと冒険しなきゃ」

 

「と、と言うと?」

 

 

どこかで見たような展開が多すぎる。

確かに王道はいいが、それを真似するだけではオリジナルに欠けると次々に批評の言葉が彼に投げかけられた。

最初こそは自信に溢れていたがそう言われると自分の粗が目立ってしまう。

 

 

「まあ今回はアレだけどさ。9周年コンテストには是非参加してね、応援してる」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

そう言って男性を置いてさっさと離れる編集者、男性は大きなため息をついて持ってきた小説を封筒にしまう。

これで8回目の没だ、まあ最初からうまく行くとは思っていなかったが駄目なら駄目でキツイものがある。

やっぱり才能ないのかな? 男性は肩を落としてもう一度深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

一方学校の特別クラス、そこで何やら男達が集まって話し合いをしている。

前に立っているのは椿、彼は適当な棒でビシバシホワイトボードを叩きながら指導を行っていた。

 

 

「ツンデレ、クーデレ、まああとヤンデレか。何だかんだ言って属性は豊富だ」

 

 

椿は素早くホワイトボードにペンで今言った単語を書き記していく。

早いが故に字は汚いってモンじゃない。これお前しか分からないよね? ってなレベルである。

 

 

「お前らだって好きな種類くらいあるだろ。今回は多数決で多いのを採用したいと思う。ただまあそうだな、ヤンデレは難易度が高い様な気がするからオススメはできないんだけど……」

 

 

頭をかく椿、じゃあまずは双護と棒で彼を指し示す。

 

 

「ゴリラ」

 

「双護くん!? 俺の話聞いてたかな! え? 何? 君ゴリラみたいな女の子が好きなの!?」

 

「そうかすまない、質問を勘違いしていた。動物園で一番最初に見に行く奴じゃないんだな」

 

「何でだよ! 今のどこに勘違いする要素があったんだよ!!」

 

 

ギャーギャーと騒ぐ椿、こんな調子で本当に形になるのか? 机に伏した数名の男子は大きなため息をついたのだった。

彼らは何をしているのか、時を少し巻き戻して見てみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日前

 

 

「禁書黙録?」

 

「禁書目録じゃなくて?」

 

 

メタ世界の一角、そこでソファに座ったゼノンは紅茶を置いて話しに興味を示した。

彼の膝に頭をおいて寝転がっているフルーラは逆に興味が無いのか、シャルルの方を見ようとせずにルービックキューブをガチャガチャと。

 

 

「ええ、読みは禁書黙録(パラノイア・インデックス)です」

 

 

向かい側に置いてあるソファでシャルルがカップに入ったミルクを舐めながら答えた。

くつろいでいる様に見えるが、実はこれで中々焦っているらしい。

彼が面倒な事になったと話しを振ってきたのはつい先ほど、なにやらその禁書黙録と言うのが厄介なアイテムだとか。

 

 

「妖刀や、呪いの宝石。持った者を不幸にする道具の話は聞いた事があるでしょう?」

 

「まあね」

 

「要するに、あれの本バージョンですよ」

 

 

読んだ人間を狂わせるだけでなく、そこに記載されているのは世界を食らう方法だとか何とか。

とにかく呪いのアイテムである事には変わりない、しかしそれが何だというのか? 自分達にはあまり関係の無い話に思えるが?

するとシャルルは首を振って否定した。

 

 

「禁書黙録は意思を持っています。そして学習もする」

 

「へえ、生きてるの」

 

「うふ! できたぁ!!」

 

 

フルーラは一面を揃えてニンマリと笑っている。

しかし揃ったのは一面だけであとはバラバラ、他を揃える為に一面を崩さなければならないのはご不満の様だ。

彼女はパズルを止めてシャルルの話を聞くことに。

 

 

「そうです、そして世界を移動する方法を手に入れたとナルタキさんが発見しました」

 

 

禁書黙録は別名ブックイーターとも言われる。本を取り込み、自分の力として学習するのだ。

何も知らないならまだしも、世界の謎に少しでも踏み込めば本は世界として認識される。禁書黙録は世界を食う本へと進化した訳だ。

 

 

「成る程、そりゃ面倒だ」

 

 

話しが見えてきた、ちゃちな問題と思えど世界が絡んでくると裏には当然大ショッカー。

なにはともあれ奴らに好き勝手させるのはコチラとしても阻止したい筈、ならば――

 

 

『ゼノン、フルーラ。私の所まで来て欲しい』

 

「ほら、噂をすればだ」

 

「ええ、おそらくは禁書黙録の奪還か破壊でしょう。あれは放置しておくとまずい」

 

 

ゼノンはハットを整えるとフルーラからルービックキューブを奪いカチャカチャと動かしてテーブルに置いた。

ハッと目を開く彼女、ゼノンが置いたキューブは全ての面の色が揃っているじゃないか!

 

 

「すてきぃいいいいいいいい! 流石はダーリン!! ワタシの色も揃えてほしぃわー!!」

 

 

ゼノンは笑顔でフルーラの額にキスをすると、彼女を抱き起こしながら立ち上がる。

テーブルに置いてあったガイアメモリを内ポケットのホルダーに入れて準備完了だ。

フルーラもピョンと跳ねて立ち上がると、同じくテーブルにあったメモリを服の中に入れてミニベレーをかぶる。おでかけだ、そう言って二人は笑っていた。

 

 

「気をつけてください。禁書黙録は厄介な能力を持っていますよ」

 

 

今なら世界を書き換える程の。

シャルルの言葉にゼノンは笑みで返すだけ、二人はそのままナルタキの部屋へと転移するのだった。

 

そして、案の定ナルタキから下された命令は禁書黙録の奪還。

世界を移動する事を覚えた魔本は歪な成長を繰り返して、やがて世界を危険に晒す脅威となるだろう。ゼノン達は早速禁書黙録がいると言う世界に到着する。

メモリガジェット達に捜索を任せる事数分、早速バットから怪しい連中を見つけたと報告が入る。

二人はすぐその怪しい連中がいるらしい場所へハードボイルダーを走らせていく。

辺りは既に夜の闇に包まれていた。ライトの軌跡が線の様に駆け、ゼノン達は怪しい奴らを視界に捕らえた。

そこは人気の無い高架下、ゼノン達は何の躊躇いも無くトリガーマグナムを突きつける。

だってあまりにも――

 

 

「怪しいってレベルじゃないよね君達、もうモロじゃん」

 

「人間態とか持ってないのかしら?」

 

「ムッ! 誰だ!?」

 

 

ゼノン達に気づいたのか、振り返るのは見るからに化け物。

隠す事無くその姿を人間達が蠢く世界に晒している。

数は3、中にはどこからどう見ても機械そのモノな容姿もあった。

 

 

「俺は偉大なるクライシス帝国最強怪人、怪魔異生獣フラーミグラーミ!」

 

 

カラフルなクラゲの怪人が鞭となっている手でゼノン達を指し示す。

最強? まさかクライシスはそこまでして禁書黙録に拘ると言うのか。これは確かにシャルルの言うとおり気をつけなければ――

 

 

「我は偉大なるクライシス帝国最強怪人、怪魔ロボット・ネックスティッカー!」

 

 

ドッシリとした図体のロボット。最強!? あれ? なんかさっき聞いた気がするが気のせいだったか?

しかしクライシスはそこまでして禁書黙録に拘ると(ry

 

 

「私は偉大なるクライシス帝国最強怪人、怪魔獣人ガイナガモス!」

 

 

蛾の様な怪人が言い放つ。

いやお前もかよ! お前も最強なの!? っていうか最強ってどういう意味だっけ?

ゼノンとフルーラは汗を浮かべて三体の怪人を見る。どこを見ても最強じゃないか、そこまでしてクライシスは(ry

 

 

「と、とにかく君達が持っている本が欲しいんだよね」

 

 

ガイナガモスの手にあるの禍々しい表紙の本、あれはまさに禁書黙録ではないか?

しかし欲しいと言ってくれる連中じゃない、三体の怪人はゼノン達を敵とみなして攻撃態勢に移る。

 

 

「せっかく他世界から盗んだのだ、そう簡単に渡せるものか!!」

 

 

そんな事まで言わなくていいのに。尤もゼノン達も渡してもらう気などさらさらない。

さっさと倒して奪うだけだ、ゼノンとフルーラはダブルドライバーを装着してメモリを構える。

 

 

「汝の罪の証明されたし」『ヒィト!』

 

「汝の罰の具現されたし」『トリガァ!』

 

「「変身」」『ヒート・トリガー!』

 

 

気取ったポーズを取って光へと変わり一つになる二人。

交わる二つの光が弾けると、そこには左右非対称のカラーリングの者が。

驚き怯む三体の怪人、明らかに人でないモノがそこに立っていたのだから仕方ないだろう。

 

 

「『さあ、清算の時間と行こうか』」

 

「貴様、仮面ライダーか!!」

 

 

絶対の敵、怪人達は一勢に走り出して攻撃をしかけていく。

 

 

「そう、ボクはダブル」

 

 

彼もまた開口一番にトリガーマグナムの引き金を引いていく。

銃からは紅蓮の弾丸が放たれ、怪人達を焼き尽くさんと飛来していく。

しかし流石は最強怪人、それなりに早い弾速ではあるが確実に避けていくじゃないか。重そうなネックスティッカーにかかっては回避はとらず、身で受け止めている。

ナメられたモノだ、ダブルは出力をあげて再び攻撃を――

 

 

「後ろががら空きだ!」

 

「何ッ! ぐあッッ!!」

 

 

いつのまにか背後を取っていたフラーミグラーミ、彼はその鞭でダブルの背中を強く打つ。

馬鹿な、いつの間に? ダブルは蹴りで彼を牽制して銃弾を放つ。

 

 

「なッ!!」

 

『消えた!?』

 

 

その時フラーミグラーミは文字通り消失した。

空を切る銃弾、高速移動? いやそれにしてはあまりにも一瞬だった。

戸惑うダブルの背後に再び現れたフラーミグラーミ。

 

 

「フハハハ! 俺は体内に持つGクリスタルの力によって一定の空間を瞬間移動する事ができるのだ!!」

 

 

鞭に打たれ怯むダブル。

それ別に言わなくてよくね? 等とは思ったが相手の能力が分かったのは幸いだった。

とにかく何か良い感じにGクリスタルってヤツが凄いのは分かった。

ダブルは地面を転がるとメモリチェンジを行いながら立ち上がる。

 

 

「フッ!」『ルナ・トリガー!』

 

 

黄色に光る弾丸を連射するダブル。

当然敵は瞬間移動でダブルの背後を取るが、既に軌道を変えていた弾丸はそのままフラーミグラーミに直撃していった。

ルナトリガーの弾丸ならば相手が消えようがどこまでも追いかけてくれる。

 

しかし問題は敵は一人じゃないと言う事だ、飛び込んできたガイナガモスはサーベルを片手にそれを振り回してくる。

ダブルも負けじと銃で応戦するが弾丸はガモスが発射する超音波にかき消されてしまった。

 

 

「くらえ!!」

 

「ちっ!!」

 

 

遠くではエネルギー弾を発射してくるネックスティッカーが。

エネルギー弾の威力はすさまじく、当たった部分が吹き飛んで破片を撒き散らせる。

回避していくダブルだが、倒れる街頭や破壊されるポストを見れば申し訳なく思ってしまう。

 

 

「なんなんだよアイツ! 出てくる作品ガンダムと間違えてるんじゃないかな!」

 

『隠してゼノン! モロだしよ!!』

 

 

これじゃあルナトリガーでは分が悪いと言う物。

ただのお笑い連中かと思っていたら、とんだ実力者だった様だ。

伊達に最強最強言ってはいないか。

 

 

『ゼノン! ワタシに任せて!!』

 

「仕方ない、頼んだよフルーラ!」

 

 

大きく後ろへ跳ぶダブル、フラーミもワープで追いかけるがそこへ白い閃光が乱入して彼を吹き飛ばす。

ギャオ太、ファングメモリをダブルは手にすると慣れた手つきでメモリを変形、セットだ。

 

 

『ファング・ジョーカー!』

 

 

変身と同時にダブルはショルダーファングを発射、風を切りながら空を駆ける黒の残痕は敵がワープしようとも執拗に追いかける。

さらに接近戦でもダブルは猛威を振るった。襲い掛かる超音波を無視して彼女は荒々しく腕についた刃を振るっていく。

しかしやはり最強が三体集まっているだけはあり、中々劣勢とも言える状況。

だが考えてみれば今回は敵を倒すより本を奪って逃げればいい、何とかして禁書黙録を――

 

 

「う、うわぁぁあ! 化け物!!」

 

「!!」

 

 

高架下がいくら人気の無い場所とは言え、全く人が来ないとは限らない。

酔っ払っている男性は自分達の姿を見て腰を抜かしていた。無理もない話だ、気持ちよくお酒を飲んだ帰りにリアルヒーローショーが開催されていたのだから。

ただ事態は思ったよりも深刻だ。真っ先に男性に目をつけたのはネックスティッカー。彼は男性に向かってヘッドギアのような物を発射して強制的に装備させる。するとネックスティッカーが変形、頭部が長くなり怪電波が発生して男性の動きが止まった。

 

 

「お前ッ! 何を!」

 

「ふはははっ! 行けッ!!」

 

 

ネックスティッカーが合図を出すと先ほどの男性が無言でダブルに向かって殴りかかってきたではないか。

しかも動きが普通の人間ではない、確実に武術を極めた物の動きだ。ダブルは一瞬反撃の手にでようとしたが、相手は一般人であり洗脳されているだけ。

簡単に傷つける訳にはいかない。

 

 

「チッ! 退きましょうか」『ルナ!』『マキシマムドライブ!』

 

 

バットが強力なフラッシュを放ち、怯む怪人達。その隙にダブルは三体の怪人から距離をとる。

しかしこのまま逃げるのはナンセンス、本当は全員倒しておきたいがココはせめて禁書黙録だけでも!

 

 

『ルナ・メタル!』『スパイダー』『メタル! マキシマムドライブ!!』

 

 

連続して鳴り響くテンションの高い電子音。

メモリガジェット・スパイダーショック。クモを模したガジェットが、ルナメタルの力に自らの能力を付与する。

ガジェットから強靭な糸が発射されてガイナガモスの持っていた本に張り付いた。

 

 

「ムッ!!」

 

「もらった!!」

 

 

シャフトを引くダブル。

するとガモスの手から本がすっぽ抜けてダブルの方へと――

 

 

「逃がさん!!」

 

 

しかしガイナガモスが手を伸ばすとそこから無数の蛾が出現、猛スピードで本に張り付いた糸を食いちぎる。

だが本は勢いがついていた為に、そのまま空中を舞ってどこかへ飛んでいってしまった!

 

 

「やばい!」

 

「しまった!!」

 

 

焦るダブルとガイナガモス。すぐにダブルと怪人たちは禁書黙録を探しに別行動を開始していく。

ネックスティッカーは男性を解放してヘッドギアを回収していた。あの能力は厄介だ、とにかく一旦怪人たちと離れて禁書目録を追うゼノン達。

それほど離れてはいないのでデンデンセンサーを使えばすぐに見つかると思ったが――

 

 

「あれ~! 無いわゼノン!」

 

「おかしいな、スタッグ達も見失っている」

 

 

と言うより大ショッカー達も見失っているようだ。ウロウロと禁書黙録を探し回っている。

その内に諦めたのか一旦撤退する怪人たち、これはチャンスかと思ったがゼノン達とてどれだけ探し回った所で見つかる事は無かった。

 

 

「どうしてなのかしら~? そんなに遠くには行ってない筈なのにぃ」

 

「誰かが持ち去った可能性が高いね。やれやれ、面倒な事をしてくれるよ」

 

 

とりあえずその日は捜索を切り上げる二人。

正直ナルタキからもそんなに説明を受けてはいないし、彼自身知らないのか禁書黙録の明確な特殊能力は知らない。

ただ分かるのは危険な物と言う事だけだ、誰かの手に渡ったのならば心配だが――

 

 

そして翌日、ゼノン達はあるチラシを見て目を丸くしていた。

 

 

「おいおい、なんでなのさ……」

 

「むむ、困ったわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、君達にはある文庫レーベルが主催するイベントに参加してもらいたい」

 

「と言うわけでの、"と言うわけ"が全く説明されてないんだが……」

 

「おい、だいたい何で俺まで呼ばれてんだ? コッチは溜めてある深夜アニメの続きを早く見てぇんだよ。一刻も早くブヒりてぇんだよ」

 

 

学校、突然現れたゼノン達は司と椿を収集してある取引を持ち出した。

差し出すのはこの世界で配られているチラシ。訝しげな目でゼノン達を見つつチラシを手に取る司と、それを覗き込む椿。

せっかくの休憩に用意された世界だと言うのに自由時間を潰されて二人はイライラしている様だ。

一方でチラシには、とある文庫レーベルが主催したイベントの広告が。

 

 

「なになに……」

 

 

そこに書いてあったのは――

『君の作品小説がすぐにその場で評価!』

『入賞賞金あり! すぐにその場で届けます!!』

――と言う文字だ。さらに『グランプリには秘密の魔本を贈呈!』『※中には小説の極意が!?』などと言う煽り文句まで。

ちょっとまて、椿は顔を歪めてメガネを整える。

 

 

「この文どっかで見たな」

 

「それはそうさ、以前君たちはこの世界に来ているからね」

 

 

思い出した。幻のギャルゲーと呼ばれた『お前のお茶漬けにお湯は無い』を買う為に以前こんなやり取りをしたっけな。

思い出せば話は早い、つまりこの世界はあの時と同じ世界と言う訳か。

――で、その会社が9周年記念と言う事で今年も例外なくノベルコンテストが開催されるらしい。

編集員総動員で行われる持込企画、誰でも書いた小説を持参すればその場で評価を受けられると言うものだ。

前回は強盗の襲撃であやふやになった企画ではあるが、今年も警備を強化しての開催だった。

 

さらに持込小説が編集員のお気に入りになればその場で参加賞として賞金が振舞われるらしい。

そこから審査員達の目に通り、最終的に大賞作品は商品として販売されると来た。

加えて最も評価の高い作品には商品も付け足される。

 

 

「要するに、前と一緒って事だろ?」

 

「んー、そう言う訳でも無いよ。よく見てごらん」

 

「?」

 

 

椿がチラシを細かく見ると確かに前とは明らかに違う部分が一つ。

それを見て思わず声をあげる椿、これは相当面倒なルールだと彼は頭をかいた。

 

 

「このご時世に手書きかよ……しかもリレー小説とか冗談だろ!?」

 

 

前回のコンテストは個人で行われる物だったが今回は何とチーム戦である。

デビューさせる気ないだろと突っ込みたくなるが、とにかく数を集めてソレを証明する為に手書きで完成させなければならないのだ。

 

 

「人数の最大指定は無し。最小は五。人数が多ければ一人が作業が楽にはなるが、その分矛盾も多くなるかもって事か」

 

「どれだけうまくまとめられるかも評価基準に入ってるみたいだね」

 

 

つうか、こんなの誰も見てないんだから個人が書いたシナリオを分割してやる方法でいいんじゃないか?

椿はそう思うが、ゼノンの話ではソレは不可能らしい。確実に不正なく挑むしかないと言うことだった。

 

 

「なんでだよ、誰かがリークしなけりゃいけるだろ」

 

「それは秘密さ。とにかく、君達にはこのコンテストに出て正当な手段でグランプリを取ってもらいたい」

 

「おいおい、さすがに無理だろ」

 

 

当然今回のコンテストにデビューの夢を賭けて挑む者達だって多い筈だ。

しかも今回は通常の新人賞とは違い、多くの人に本に近づいて親しんでもらおうと気軽に参加できる形態になっている。

まあ簡単に言えば参加人数がとにかく多い訳だ。そんな人達に紛れて素人の自分達が挑んで勝てる等とは思えなかった。

しかも気になるのは、どうしてゼノン達がそんな事を持ち出してくるのかだ。昨日いきなりこの世界に転送されたかと思えば今まで説明も無かったし。

休憩の世界じゃなかったのか? 二人のイライラは更に加速していく。

 

 

「ボク達はね、グランプリで得られる商品が欲しいんだよ」

 

「商品? この小説の極意が書いてあるとか言う胡散臭いヤツか?」

 

「そう、それさえ貰えれば賞金の100万円はあげるよ」

 

「ひゃ、100万ッ!? マジか!!」

 

「そう、だから是非とも君達にお願いしたい」

 

 

司達は目を見開いて賞金の欄を凝視する。確かに最高賞金は100万と書いてある。

ゼノン達は小説を書くのが面倒だと言う理由で押し付けてきたと言う事か、司達はなんとか納得した様だった。

しかし納得したからと言ってオーケーするとも限らない。

 

 

「そもそもソレが人に物を頼む態度かよ!!」

 

「んあ?」

 

 

フルーラはソファに寝転びながら、ゼノンは足を組んで踏ん反りかえりながらガムを噛んでいる。

とてもじゃないがお願いの態度ではない、それを伝えると大きなため息をつくゼノン。

日本人はこう言う礼儀がどうのこうのってウザイから仕方ない。

 

 

「はいはーい、どうぞお願いしまーす」

 

「適当すぎるだろ!! 棒読みってレベルじゃねーぞ!!」

 

「仕方ない、じゃあこれが前金って事で―――ブッ!」

 

 

ビチャァッ! ゼノンが口から発射されたガムが椿の額に汚らしい音を立てて命中する!

 

 

「………」

 

 

ビキ! ビキッ! ビキキッ!! 椿は目を見開いて青筋を立てていく!

青ざめる司とケラケラ笑うゼノン達。割と本気で何してんのこいつ等!? 誠意を見せる空気じゃなかったのかよ!!

 

 

「キャハハ! お間抜けな顔が余計お間抜けになったわ!!」

 

「ハッハー! これでオーケーしてくれるだろぉ?」

 

 

ブチ☆

 

 

「こ、殺しゅ! 殺ちてやるぅッッ!!」

 

「お、落ち着け椿ぃいッ!! 仮にも相手は子供だ! それに記念作品で言う言葉じゃないぞ!! っていうか相当顔がヤバイ! 一旦落ち着けぇええ!!」

 

「そーそ、そこのアホピンクの言うと・お・り・だよ! ペェッ!」

 

 

ビチョォオッ! 軽快かつ汚い音が司の耳を貫く。

二つにガムを分けてあったのか残りの一発を司の額に命中させる。ビキキキキィッ! 司の顔に筋が幾重も刻まれていくじゃないか。

 

 

「やーっめた! やっぱり子供とて悪い事は悪いと言える大人にならないとな!」『カメンライド』

 

 

ディケイドライバーを展開させて司はカードを構える。

同じくブレイバックルを構えている椿、二人とも殺気を全開にしてゼノン達を睨んでいる。

しかし特にノーリアクションのゼノン、彼はやれやれと首を振って二人を見る。

 

 

「こんなに頼んでも駄目とはね」

 

「君気づいてないと思うけどまともに頼んでないからね。それに、駄目な理由はもう一つある」

 

 

首を傾げるゼノン。百万円があれば彼らは好きな物を買える筈なのに、珍しく金で釣れないときた。

そしてその理由は椿が説明してくれた。彼は前回の出来事で物を書くと言う辛さ、苦悩、難しさを少しでも理解したつもりだ。

それに応募してくる人達はこの機会に夢を賭けている。

 

 

「たかが金と商品に目当てに応募する俺たちが、夢を叶えようと努力している人たちに勝てると思うか? いや、勝っちゃ駄目なんだ!!」

 

「そうだな、それじゃあ賞金を奪って逃げた強盗達と変わらない」

 

 

司の言葉に深く深く頷く椿、そんな煩悩に塗れた男達の書く文章なんて汚い物だ。人を感動させる事や希望を与える事なんてできる訳も無い。

必死に今まで小説家を目指してきた人たちが、目指そうとする者の為にこのコンテストはあるんだ。

作品を世に出したいと思わない自分達が参加する事は、小説家達への冒涜であり悲しみしか生み出さない。

 

 

「俺にはまた読みたいと思うラノベがある。俺達(もえぶた)希望(エサ)なんだ」

 

「ん? 今なんかおかしなルビが――」

 

「金じゃねぇんだよ大切なモノは。夢を追う奴らを邪魔するなんて俺は絶対にしないぞ!!」

 

「ま、まあいいか。しかしよく言った椿! 俺も同じ考えだ!!」

 

 

頷きあう椿と司。

彼らが望むのはこのコンテストによって多くの人を魅了する作品が生み出される事だ。

それが叶うならば金なんて要らない、こんな他人の夢を踏みにじって掴み取る物に価値なんて無い!

 

 

「消えなゼノン、フルーラ! 俺たちは絶対にお前らには協力しない。これは守輪椿のプライドに賭けて誓うぜ」

 

「ああ、俺もだ。特別クラス一同はこの問題には絶対に関わらないと観測者共に伝えておけ!!」

 

「「クッ! 馬鹿のクセに!」」

 

 

表情を歪ませて立ち上がるゼノン達。

彼らは帽子で目を覆うように振舞うと舌打ち交じりに踵を返す。譲れない想いがあるようだね、その言葉に強く頷く司と椿。

 

 

「心までは買えねぇぜ、ゼノン」

 

「ああ、夢を追いかける人たちの味方だからな。俺たちは」

 

 

敵わないな、最後にはゼノン達は清清しい表情を浮かべて笑っていた。

男のプライド、フルーラには分からないがきっとソレは凄い物なのだろう。二人は満足そうな表情で扉に手を掛ける。

これで良かったのかもしれない、誰もが皆そう思い笑っていた。

 

 

「ああ、残念だねブレイド。せっかくグランプリを取ったら君の好きなアニメの世界に連れて行ってあげようと思ってたのに」

 

「へっ! 今更負け惜しみか? そんな事で動くわけ無いだろ、な? 椿!」

 

 

椿の肩に手をおいて笑う司。彼が期待するのは椿のおう! と言う声だが。

 

 

「………」

 

「椿?」

 

「―――ち」

 

「ち?」

 

「ち……ちょ待てよ」

 

 

凄くかっこいい声で彼はそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁゼノンさん。さっきから思ってたんですけど、今日もまたお召し物が素敵ですねぇ!」

 

「いやいや、当然だよ。ボクの愛するフルーラがアイロンをかけてくれてね」

 

「ああ、そうでしたかぁ! いやフルーラさんもいつも増して可愛らしいッ!」

 

「当然だわ。ダーリンにいつでもドキドキしてもらう為、ワタシは常に努力を欠かさないもの」

 

「素晴らしい! 是非あの咲夜(ゴリラ)にはフルーラ様の爪の垢煎じて飲んでほしいものです!」

 

 

そうですか、そうですか。

椿は満面の笑みを浮かべて手を揉み合わせている。大切な客人に立ち話も何だと椿は二人をソファに引き戻していった。

パンパンパンパンと二人が座るだろう位置のほこりを手で払う椿、あっと言う間にゼノン達は最初の位置に逆戻りである。

 

 

「あいや! よく見ればお菓子もお茶も用意してない!」

 

「そう言えばそうだね、客人に対するおもてなしが、なってないんじゃないかなココは」

 

「いやぁ、コレは失礼しました。この椿一生の不覚でございます!」

 

 

ペチンと頭を叩く椿、彼はドタドタと慌てて扉へと向かい、顔だけを外に出してあたりを見回す。

 

 

「あ、ちょっと我夢君! 今すぐお茶とお菓子持ってきて! 大切なお客様がいらっしゃってるのよ!!」

 

 

えぇ!? 僕ですか! そんな困った声が遠くで聞こえてくる。

たまたま通りかかっただけなのだろう、かわいそうに。

 

 

「早く! お客様が待ってるよ!!」

 

「は、はいぃ! 分かりました!!」

 

 

一分もしない内にテーブルには我夢が用意したお茶とお菓子が並んでいた。

満足そうに笑ってお菓子に手を出すフルーラとニヤリと笑ってお茶を手にするゼノン。

 

 

「申し訳ありませんでした。ただ今女性陣が女子会などと言う物に興じておりまして。不在なのですよ」

 

「いやいや構わないよ、ボクは君達にお願いに来ただけだからね」

 

「お願い!? あ、えっと……どういったお願いでしたっけ?」

 

 

もう一度始めから説明するゼノン。

コンテストで見事グランプリを勝ち取って商品の本をゼノン達に渡す。

後の賞金は椿達が好きに使っていいし、それからそれから――

 

 

「あの、さっきの話は――……好きな作品の世界に連れてってくれるって」

 

「ああもちろん。ボクらもお願いしている以上、ソレ相応のお礼はするつもりさ。それともコレじゃ不満かな?」

 

「いや! いやいやいや! あ、あのスイマセン……それってアニメ限定ですか?」

 

「そんな事は無いよ。小説やゲームでも、全ては世界なんだから」

 

 

打ち震える椿、彼はゼノンの耳に小さく作品名を告げる。

その世界にも行けるのか? その世界にいるキャラクターと会話できるのか? あわよくばハグか何かしてもらえるのかッ!?

 

 

「行けるとも。何ならほっぺにキスくらい話しつけてもいいよ」

 

「な、なんだとぉおおおおおおおおお!!」

 

 

目を見開く椿、あのヒロインに会える!? しかもほっぺにき、きききき!

駄目だ! これ以上はDTには言えない魔法の言葉じゃないか。とにかく報酬は十分に理解した。

 

 

「うるさいよ! まあいいや、改めて聞こうかブレイド。ボクらのお願いを――」

 

「喜んで協力させて頂きます!」

 

「おいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

司は椿に詰め寄り襟元に掴みかかる。

夢が何たらかんたらと熱弁していた彼は一体どこへ? ちょっと堕ちるの早すぎじゃないかな、司は自分を奮い立たせて椿を止めようと試みる。

 

 

「椿! 俺たちはこのコンテストに出ちゃいけないんだ! 出るべきじゃないんだよ!!」

 

「んー、そう言えばブレイドくん。君はさっきボクのお願いを断っていたね。やっぱり嫌、と言う事なのかな?」

 

 

ゼノンはガッカリだとため息をつく。

それを見てゆっくりと首を振る椿、目に光が戻ったのを見ると分かってくれたのか?

司は安心した様に微笑んで手を離した。

 

 

「若さ故の反発」

 

「は?」

 

「誰にでも噛み付きたいと思うアウトローな心、青さ。それがさっきの俺だ」

 

「え?」

 

「司、俺は思うんだ。小説家ってのは誰でも夢を追いかけられるかもしれない、素敵な仕事だって事を」

 

 

もちろん厳しい仕事である事も重々承知だ、これは決して小説家を馬鹿にしている訳でもなければナメている訳でもない。

ただ自分が思い描く世界を他人に知ってもらえ、そしてもし面白かったと思ってもらえるならばソレはとても素敵な事だろう。

文才は必要になるかもしれない、ただ今回のコンテストは誰にでも等しくチャンスが与えられて一度だけでも形にしてもらえるかもしれない。

この世には小説家になりたくても訳あってなれない人がたくさんいる。そんな人たちにチャンスを与えるのが今回のイベントじゃないか?

 

そこには歴史も地位も関係ない、ただ面白いと思われる作品だけで良い。

小説を書く事は自由だ。紙とペン、パソコンとワードがあれば誰だって新しい世界を作る事ができる。その世界を人に知ってもらえる!!

 

 

「当然グランプリが与えられるのはそう言った作品だ。なら、目指してみないか? 俺たちの思いを形にして、他に人に感動を与えようぜ!」

 

「椿……」

 

 

司は頷いた。

 

 

「いや絶対嘘だろお前ぇえええええええ!!」

 

「いでででで!」

 

 

どんな体で言ってるんだよコイツは、司は恐怖すら覚えていたかもしれない。

完全にこの男はゼノン達の報酬に釣られたのだ。これはいけない、せめて自分だけはこいつ等にハッキリと反対して皆の夢を守らなければならない。

司は使命感のような物を覚えて椿を止めようと試みる。

 

 

「あら、じゃあディケイドは了解してくれないのね」

 

「当たり前だろ! このコンテストは本気で小説家を目指す人たちに譲るべきだ」

 

 

もちろん何もしてこなかった自分達がグランプリを取れる訳も無い。負けるべくして負けるイメージしか湧いてこなかった。

椿だってグランプリを取れないに決まっているのだから、下手な希望を持つのは止めておいて方がいいだろ。

 

 

「つまり君は参加しないと」

 

「当たり前だ! 俺はどんな報酬を積まれても受けないからな!!」

 

「何故?」

 

「それが俺の、プライドって奴だからだ!!」

 

 

椿は買収できても俺はできないぞ、司は強い目で二人を睨む。

一方で誤解だと椿。そう、彼は大きな誤解をしている。自分は別に報酬なんてどうでも良いんだ。

 

 

「司くん、僕は最初から普段お世話になっているゼノンくん達を助けようと思っていただけだよ」

 

「失せろハイエナ!」

 

 

椿を跳ね飛ばし立ち構える司。

成る程と頷くゼノン、彼はハットを整えて一つ咳払いを行う。

司の意思は分かった、コレはもうどんな言葉を言っても動かせそうに無い。残念だと彼は首を振った。

 

 

「せっかく、歴代ライダーに会わせてあげようと思ったのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小説家を目指す人たちは、その過程に置いて多くの壁にぶつかるだろう。スランプ、同じくデビューするライバル達。そして今回はその後者が大きく関わってくる筈だろう。多くのライバルがいる中でグランプリを取るからこそ、人は壁を壊したことに自信を持ち、これからより良い作品を世に出せるはずだ。いや、よく考えてみればライバルが多ければ多いほどに対抗意識が燃えて作品にも磨きがかかるかもしれない。あえて壁を作る。あえて障害となる。そうする事でプロを目指す者たちの意識を高められる筈だ。だったら俺は、いや俺達はあえてその壁になってやろう。その壁になる汚れ役を引き受ける事で多くの小説家を目指す人たちを奮い立たせてやる。もしも俺達を超えられなければ、所詮その程度の作品(おもい)だったって事だよな椿? ほら、彼も頷いてる。だから俺達はあえて! あえてこのコンテストに参加する事によって小説家を目指す人を応援する! そして出るからには本気でグランプリを目指させてもらう。それがある意味、コンテストに参加する礼儀なのではないだろうか? 一種の恩返し、俺はそう思う」

 

「あーうん、つまり?」

 

「聖司、喜んで参加させていただきます!!」

 

 

拍手を行う椿と敬礼を行う司、ゼノンはよろしいと笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「しかし大丈夫かい? 君も言ったけど中には本当に小説家を目指している連中もいるんだろ?」

 

「問題ありませんよゼノンさぁん! 所詮今の今までチャンスを掴む事ができなかったカス共なんて相手になるかどうか!」

 

「ソレに大切なのは心なんだからぁ! うはははは! ぶははははは!」

 

「あの……なんか、ボクが言うのもアレだけど君達って中々ゲスだよね」

 

「「だーっははははは!!」」

 

 

男のプライドって何なのかしら?

フルーラはそんな事を思いながら煎餅をバリボリと食べているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ今から作戦会議といきまーす!」

 

「椿センセー、何がどうなってこうなってるんですかー?」

 

「はい答えましょう! 実は――」

 

 

ゼノンと別れた後に男子生徒を招集した椿、もちろん集められた者達はいきなり小説を書けなんて言われてやる気が出る訳も無い。

当然各々断ろうとするのだが――

 

 

「馬鹿野郎! 仲間(ゼノン)達が困ってるなら助けるのが普通だろうが!!」

 

「バビルス!」

 

 

何故か殴られるユウスケ、不憫である。

 

 

「ハッ! そうだ、おれ達は仲間なんだ!!」

 

「そうだよ真の仲間だバカヤロー! ね! 先生もそう思うでしょ!?」

 

「え゛!? ま、まあ何だかんだで彼らには色々助けてもらってるしね」

 

 

殴られた事でスイッチが入ったのかユウスケを始めとして人のいい翼や拓真、良太郎や鏡治、我夢が賛成の声をあげる。

それに前回の世界で楽しさを覚えたのか双護もすんなりとオーケーを出した。

 

 

((め、めんどくせぇぇえ!))

 

 

しかし亘と真志は乗り気ではないのか視線を合わせて頷きあっている。

何とかして止めたい物だ、彼らは腕を組んで黙っている司に声を掛ける。しかし司もまた――

 

 

「いや、やっぱり俺達はゼノン達がいたからこそココまでこれた訳だからな。彼らのために、頑張ろう」

 

(あぁクソッ! コイツ向こう側だったか!)

 

(胡散臭せぇええ……ッ!!)

 

 

二人は顔を見合わせてため息をつく。無理だ、こうなったらもう嫌とは言いにくい。

まあだが確かにゼノン達には世話になった所が多い、ココは協力するのも悪くないか。諦めたのか二人も折れた様だ。

 

 

「じゃあ全体の流れなんだが、とりあえず俺達は10人でリレーを回そうと思う。鏡治は双護のサポートについてくれ、あと女子もそれぞれについてもらう」

 

「ああ、そうだな。了解だぜッ!!」

 

 

今から決めるべきはジャンル、主人公、ヒロイン、そして一番大切なお話だ。

今回はリレー&手書きと言う事もありスピード勝負と言う事もできない。さらに複数人に分かれているのが問題であると告げた。

 

 

「リレー小説ってのは案外難易度が相当高いジャンルだ」

 

「へー、なんで?」

 

「まあそうだな。何つっても個々の温度差だったり、まとめ役の負担だったり」

 

 

複数人が胸に秘めている設定などあっては困るし、登場人物が多いと個々の役割がそれだけ増える事になる。

まあ幸い自分達は知り合いだから会議はし易いのが幸いな所ではあるが。

 

 

「あとは人によって文章のクセが違いすぎると違和感が強かったり、だな」

 

「そうは言ってもココにいる人間ほぼ小説書いた事無いだろ?」

 

 

前の記念作品の時に作業をしていた者を除いてだが。そもそもやはり自分達にどれだけの実力者がいるのだろうか?

チーム戦の時は味方に強い人がいると安心する様に、誰か小説に長けた者がいればいいのだが。

 

 

「椿は書いた事無いのかよ、昔とか」

 

「……フッ」

 

「?」

 

 

遠い目をして笑う椿、その目には悲しみも喜びも後悔も見えた。

何やら複雑な過去がありそうだ。一同はゴクリと喉を鳴らして彼の言葉を待った、そうこうしていると椿はため息を一つ。

 

 

「あるさ、それくらい。中学生の時に投稿サイトへ更新した事がある」

 

「え? でもお前は前は書いた事ないって……」

 

 

その言葉を一旦スルーする椿。彼は二ヶ月毎日遅くまで好きな作品の二次創作を書いて一つの作品を完成させた事がある。

自信作だった、はっきり言って自分じゃ何の欠点も無い完璧な作品だった。

 

 

「だが長期の睡眠不足が問題だったのか、何をトチ狂ったか俺は熟女のマダムが集うと言われるオリジナルBL専門サイトに作品を投稿してしまったんだ」

 

「………」

 

「ガチガチの男女カップリング描写がある作品を投稿した俺は、聖域を荒らす魔女としてすぐに異端審問(あらし)にかけられた。そして俺の全てが詰まった作品は三日もしない内に絶対正義である運営によって消失(ロスト)させられてしまったのさ」

 

「……お、おう」

 

「俺は幸いにもバックアップを取っておいたから他の小説サイトにすぐに投稿した。しかしオリジナルBLサイトに男女の恋愛描写がある二次創作を投稿した俺の名は各界に罪人として知り渡っていた。ネットじゃマナーがより一層重要視される。掟を破った俺は、もはや言い逃れできない罪に縛られ、苛まれた」

 

 

椿は達観した表情でホワイトボードに何か文字を殴り書きしていく。

何か嫌な沈黙がクラスには漂っていたが、誰しもがそこへ触れる事はしない。触れてはいけない様な禁断の空気を感じていたのだ。

 

 

「これが俺の当時のハンドルネームだ。亘、読み方は分かるか?」

 

 

ホワイトボードに(くろ)鎮魂歌(ちんこんか)と書いてある。

亘とて椿と伊達に長い時間を過ごしてはいない、そのまま読むのではないと言う事はすぐに分かった。

そうするとなると、ココはある意味直球で言ってみるか。彼は顎に手を当ててフムと頷いてみせる。

 

 

「ダーク・レクイエムですか?」

 

「狙いは悪くない。正解はブラッディ・クリスマスだ」

 

「あ、あぁぁ……」

 

 

読める訳ねーだろ、そんな空気から目を逸らす様に椿は背を向けてホワイトボードの字を消していく。

そのまま椿は会話を続けた、一同からは背中しか見えない状況だが、故に彼の悲しみが背中から感じられる。

 

 

「黒ノ鎮魂歌の失態は既に多くのサイトや晒しスレに知れ渡っており、別の所へ投稿しても規則違反に溺れた裏切者(ユダ)としか人に見てもらえず、誰も俺の作品を評価してくれる事は無かった」

 

 

それだけじゃない、椿は再びホワイトボードに文字を羅列していく。

そのペンを持つ手が悲しみに震えていたのを誰もが見逃さなかった。彼は悲しみを押し殺す様に歯を食いしばっているじゃないか。

 

 

「俺の最大のミスはこの時に起こった」

 

「さ、最大のミス?」

 

「ああ、俺は黒ノ鎮魂歌が最高にカッコいいと本気で思っていた。しかし当時俺は辞書登録をまだしておらず、そのまま『くろのちんこんか』と打ち込んでいたんだ」

 

 

しかし悲しいかな、キーボードの変換と言うのはたまに本人が全く意図しない結果を紡いでしまう物だ。

文字を一文字打ち忘れた場合に多いソレ。椿もそう、彼は自らが犯した変換ミスに気づかずそのまま投稿を続けてしまった。

 

 

「これが、俺が犯したミスだ」

 

 

ホワイトボードに書いてあったのは一文字を忘れ、そしてそれが原因で変換が滅茶苦茶になってしまったハンドルネームの残骸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"黒のチンコか"

 

 

「ぶホッ! ……ごめん」

 

 

ざわつく一同。

亘と真志は下を向いてプルプルと震えている。そんな光景さえ、椿には過去を懐かしむ清清しさを覚えるに十分だった。

既に吹き出した亘に至っては、椿は祖父が孫を見つめる様な優しげな眼差しを送っている。

 

 

「いいんだ、いっそ笑ってくれ。俺が悪かっただけなのだから」

 

 

とにかく椿が思いついた最高にカッコいいハンドルネームは、肝心の小説サイトには最高に低俗な下ネタとして表記されてしまった。

そんな名前の男が書いた小説を誰が評価すると言うのか、誰が見ようと思うのか。椿はすぐにハンドルネームが誤字だったと表記して元のネームに変えた。

だが、もう全てが遅かったのだ。

 

 

「俺はどこのサイトに行ってもブラックちんちんが来たぞ、ポコチン大魔王の襲来だと馬鹿にされ、作品が全うな評価を受ける事は無かった」

 

 

椿は強めに文字を消していく。それはまるで思い出と共に歴史を消していく様な。

彼は少し寂しげな表情で小さく笑う。やばい、これどんな雰囲気で聞けばいいんだろう? そんな空気がひしひしと感じられたが椿はあえてそれを無視する。

 

 

「以後、俺はこれを絶対の黒歴史として小説を書く事を止めた」

 

「そ、そんな悲しい過去が――っ」

 

 

お祝い作品を作るってのにこんな話しをするのはどうかと思う。

しかし覚えていて欲しい、この世には作品を評価される事無く消えていった二次創作家がいるのだと言う事をだ。

 

 

「俺はあのとき、どんな表情をすれば良かったんだろうな?」

 

 

誰を責めれば良かったのだろう? 今でも時折ふと思ってしまう。

BLサイトに突っ込んだ自分なのか? それともガチガチの厨二ネームを考えた自分なのか? はたまた低俗な誤字を晒してしまった自分なのか?

あれ? おいちょっとまて、全部自分しかねーぞ!!

 

 

「笑えば、いいと思うよ」

 

「………」

 

 

椿は頷いて、笑みを一同に見せた。なんともまあ引きつった汚い笑みだった。

やはり過去の傷は消せない、しかし今彼はそれをあえてこじ開ける。全ては成功報酬を貰うために!

 

 

「さあ! というわけで切り替えていくぞ! とにかく文章で勝負するのは少しキツイ」

 

 

一番大事な部分かもしれないが、その点に関しては経験をつんでいるものにはどうにも及ばない筈だ。

だからせめてしっかりとストーリー、キャラクター、それを通した組み立てを完成させておきたいと椿は言う。

一同も流石に椿の話に同情したのか、特に文句を言うでもなく協力してくれるようだ。

 

 

「ストーリーは女子が帰ってきてから決めよう。今はとにかくヒロインを決めるぞ」

 

「話しが決まっていないのにキャラを決めるのか?」

 

「まああくまでもストーリーはファンタジックな恋愛でいこうと思う。バトルはバトルでいいかもしれないが、とにかく恋愛はいれておきたい」

 

 

恋愛は女キャラの可愛さを引き立てると共に、男を引き立てる要素にもなってくる。

それはまるで光と影だ、片方がいるからこそもう片方が引き立つ。さらにヒロインがいるだけで話しはグッと広がり、展開させやすくもなる。

 

 

「女キャラはリアルじゃなくていい、多少男の夢が入っていた方が受けやすいのさ」

 

「なるほどねぇ、じゃあまあ決めますか?」

 

 

頷く一同、しかしいざヒロインを決めろと言われても少し戸惑ってしまう。

確かに男が見て良いと思う女性は男にしか分からないが、結局はそれぞれの好みがあったりとバラバラになってしまう。

特にリレーは参加する全員がキャラクターを理解していなければならないと言う問題すらある。結局一同はどうしていいか分からずに椿を頼る事に。

 

 

「一部の奴には前に話したと思うが、あくまでもヒロインは属性によって成り立っている」

 

 

言わば料理だと椿は例に挙げる。

 

 

「いろんな要素をなべの中にぶち込めばヒロインはできあがる」

 

 

さらに応用もできると。

 

 

「簡単に言うとだな……そうだな、じゃあ拓真!」

 

「う、うん!」

 

「パンの中にレタス、ピクルス、スライスチーズ、ハンバーグがあります。何の料理か分かるか?」

 

「ハンバーガー?」

 

 

正解だと椿は言う。

何故彼がハンバーガーを当てる事ができたのか、それは今言った条件の中に当てはまる料理で最も有名なのがハンバーガーだからだ。

これは拓真じゃなくてもハンバーガーだと答えたろう。つまり分かりやすいのだ、質問が。

 

 

「じゃあ拓真。背が低くて、金髪でツリ目でツインテールで、それで常に腕組んでる奴の性格は分かるか?」

 

「ええ!? あった事も無い人の性格なんて分からないよ!」

 

「ツンデレなんだよな! ほぼ間違いなく! 80パーセント以上はツンデレだ」

 

 

これは今言った属性から導き出される一番近いイメージであると椿は言う。

要するにこれだけの情報でツンデレがイメージできるのだから、ヒロインを分解すると言う方法にいたる。

 

 

「確かに腕を組むっていうのがキツメなのかも」

 

「そう、こんな感じでじゃあ分解していくか」

 

 

椿は一同に属性と言う物を強く知ってもらう為に知り合いの女性を例えて説明を始める。

いくら自分達がリアルとは言え自分達も元々は一作品として生まれる筈だった存在だ。おかげである程度はそれぞれにキャラがついていてくれる。

 

 

「まず空野妹な、アイツはメイン属性は友達系だ。さらに副属性にポニテ、サバサバ、同じクラスがある」

 

「友達系? サバサバ?」

 

 

基本的には一緒に馬鹿をやりつつ、悪態もつくが理解と信頼がある。

憧れの先輩ではなく、可愛いらしい後輩でもない親友と言ったポジション。これはかなり距離が近い存在ではないだろか?

 

 

「こう言ったキャラは友情が愛情に変わる描写と、普段の馬鹿から女の子に変わる部分をしっかり描写できればかなり武器になる」

 

 

ここで椿は薫の髪型を持ち出した。挿絵が無いから身なりは適当でもいいと言えばそれまでだ、小説とは読むもののイメージで楽しむ物。

自分で声をあてたり、景色を思い描いたりの楽しさがある。だがあえて髪型を指定する事によりイメージを強固たる物へ変えるものありではないか!

 

 

「髪型に萌える奴もいるからな、案外大事なところなんだ」

 

「成る程……」

 

「じゃあ次、葵さんな。あの人はメインは年上系。副はお姉さん、巨乳、家事上手って所か」

 

 

ホワイトボードに書き記していく椿。彼は年上の文字をグルグルと赤で囲う。

何やら覚えてもらいたい事があるらしい。至急メモの準備をしろと彼は一同を急かした。

 

 

「あくまでも主人公の性格が左右する問題だから絶対じゃない。が、よく聞け!」

 

「あ、ああ!」

 

「年上ヒロインの場合主人公は、最初はさんづけで呼べ。つまり敬え」

 

 

年上を全力で強調していくにはそれが一番早く分かりやすいと言う。

やはり一番安定なのは先ほども言ったように憧れの先輩シチュエーションが刺さると言う。

始めはただの後輩、もしくは弟としか見ていなかった主人公を徐々に男性として意識しはじめる事。

さらに年上の余裕を見せつつ迫らり、逆に迫られれば隙を見せて赤くなる。

 

 

「翼先生、正直に言ってください。そう言う時あったでしょ?」

 

「うーん、そう言われれば確かに」

 

「どうでした?」

 

「どうでしたって……言われてもね、あはは」

 

 

確かに椿の言っている事は分かる気がする。年上の余裕などと言ってボディタッチを行ってきたりしていた様な。

でもこっちが本気を見せるとどうしていいか分からずあたふたしていたり。

 

 

「正直に」

 

「いやそれは――……」

 

 

しかしその時の気持ちなど言いにくいとしか。

 

 

「ハッキリと!!」

 

「あはは、いやいや……」

 

「翼!!」

 

「最高でした」

 

「そら見てごらんなさい!」

 

 

年上属性をつけるなら年上らしさを武器にするのが一番だ。じゃないと年上にする意味が無い。

さらに胸の大きさも案外重要である。想像は創造だ、胸も立派な萌え属性なのだから設定はするべきなのだと。

 

 

「次は白鳥か。アイツはギャル系だ。副属性はお嬢様、無知、友達系だな」

 

 

これは非常にメインヒロインとしては扱い辛いと言う。

しかし副属性に注目すればありえない事はないと。

 

 

「アイツ本当に狙った様な属性だな!!」

 

 

実はお嬢様ってのはギャルとは関係なく武器になる属性だ。

あと無知は馬鹿とは違うと言う。ここも重要なポイントであると椿は言った、言い方を変えれば過剰な程の純粋さがある。

 

 

「園田は幼馴染系になる。あとツインテール、貧乳、友達系だな」

 

 

幼馴染は強いと椿は言った。

最近は負けヒロインにありがちな属性ではあるが、それでも幼馴染とつくだけで相当な武器になってくれる。

意外にも幅広い応用が利く属性でもあると。子供のときのエピソードをいかに絡められるかが重要であり、最初から高感度マックスでも違和感が無い。

 

 

「まあ次は咲夜か。アイツは怪力糞ゴリラ系だな。副属性は腕力、剛力、怪力っていう誰の得にもならない糞属性って言って――」

 

 

熱弁する椿だが一同の顔は引きつっている。

 

 

「つ、椿……」

 

「わーってるよ! どうせまた後ろにいんだろ!? つか扉が開く音が聞こえた時点で何となく分かってたよ! つうかコレ前もあったな、また同じネタかよホント飽きねーな糞ッ! あ!? はいはい分かった分かりました! もう俺分かってるから自分でセッティングするわ!!」

 

 

椿は分かりましたと連呼しながら四つん這いになって尻を高く突き上げる。

 

 

「はい、じゃあお願いしまーす!」

 

 

………。

 

 

「いいですよー、さっさと粉砕してくださーい」

 

 

………。

 

 

「ん? おそいっすね、メガ進化でもしてるんですかー?」

 

 

………。

 

 

「あれ? ゴリラちゃん? 聞いてる?」

 

 

………。

 

 

「あれ、ん? え? これひょっとしていないパターン? え? これもしかして居ないパティーンだよね!!」

 

 

………。

 

 

「うぉっしゃあ! え? マジか!? ヤッべちょーうれし! やばたんだわー!」

 

 

………。

 

 

「うはは! 勝った! 俺はついにあのゴリラに勝利を収めたんだな!!」

 

 

椿は立ち上がって満面の笑みで背後を振り返る。

するとどうだろう! やっぱりそこには誰もいなかっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イルジャーンッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り返った椿に襲い掛かった彼女の蹴り上げ。

わざとなのか知らないが、蹴り上げは見事に椿の股間にヒットして彼の動きを一瞬で停止させる。

そこにいたのは怒りの表情を浮かべている咲夜、どうやら女子会が終わって帰ってきたようだ。

どこにも男子がいないから探してみればココについたと言う事なのだろうが、相変わらず奇跡の様なタイミングである。

 

 

「つ、司きゅん……か、彼女達に説明を――……っ」

 

「あ、ああ。咲夜、皆を集めて図書室に来てくれ。俺が全部説明する」

 

「フン!」

 

 

腕を組んで鼻を鳴らす咲夜、彼女が退出して行った所で再び椿はふらふらと立ち上がる。

 

 

「大丈夫か? 結構……その、リトルボーイの方がエグイ事に……ッ!」

 

「あの糞女、いつか倍返しだぜ……!!」

 

「しょ、正直お前が悪いだけに何とも言えない……!!」

 

 

仕切りなおしだ。

冗談を抜きにすれば咲夜はクール系だという。服属性に幼馴染、巨乳、そして暴力を兼ねそろえたタイプだとか。

 

 

「先輩系のクール部分はコイツが近い。喋り方っていうかな、あと見るべきは暴力だ」

 

 

その威力を一同に知ってもらうために現在に至ると彼は飛び跳ねながら言う。

最近ボコデレなどとツンデレに入る場合があるがコレは注意が必要だと念をおした。

 

 

「少なくとも俺は理解ができねー! 暴力系ヒロインの何が人気なんだよ、ドMか? 頭沸いてんじゃねーのッ!?」

 

 

落ち着いたのか深いため息をつく椿、次はアキラか。

 

 

「アイツもクール系だ。副は敬語、後輩、ボーイッシュか」

 

 

後輩キャラは後輩であると言う事を武器にできる。

先輩への敬い、甘える時は甘える弱さ。年下を強調させる部分をメインとするのもありだろう。

さらにクール系は今人気が高いジャンルではないだろうか? 一番メインなシーンはやはりデレる所か?

 

 

「天王路妹は純粋系だ。あとボクっ娘、おっとり系、お嬢様か」

 

 

純粋で優しい事はいい事だ、椿は自らの尻をさすりながら呟く。深い、彼が言うと深い! 誰もがそう思ってメモを取る。

あともう一つ属性を言うならば変な兄貴がついてくるって事だろうか? 椿はそれを言う事は無かったが。

 

 

「ハナはツンデレ系だ。あと料理下手、暴力、弱点あり。あとまあロリつうか……」

 

「弱点?」

 

「そう、これは暴力とも関わる」

 

 

考えても見て欲しい。完全にハナを例えに出すが、彼女が良太郎を気遣った事は何度もある。

しかし暴力を振るった事はあるだろうか? ココが徹底的に咲夜とは違う暴力の使い方になると椿は熱弁していた。

良太郎の言葉に赤面した事はあれど、彼を直接傷つける事はしない! 弱点とは意外に女の子らしい一面があると言うのが色濃くでる事である。

 

 

「殴られる理由もだいたいモモタロスが悪いしな!」

 

『お前にだけは言われたくねーよ……』

 

 

確かに。椿はバツが悪くなったか里奈に話しをすりかえる。

 

 

「里奈は隣の席系だ」

 

「そんな属性まであるんですか……」

 

「まあ要するに理解あるクラスメイトだ。あとはまあ後輩、部活設定、友達思いだな」

 

 

等身大な部分があり、親しみやすい性格があるオールマイティーキャラだと言う。

これらの属性は味付けが非常に大切であり、ストーリーにあわせて色々変更していくのがベストだと言う。

特殊な属性を持ったヒロインが多い中でこそ、こういった普通の女の子らしい里奈は武器になる。

 

 

「んで光か。アイツは従姉妹系、副属性は幼馴染、敬語、同居だな」

 

 

従姉妹というのは中々都合のいい属性の様な気がすると椿は言った。

幼馴染よりも距離が近く下手をすれば一緒に住んでる。あと妹や姉萌えを代用でき、しかも妹や姉と違いちゃんと恋愛として成立できるのだから驚きだ。

ただ逆に妹萌えや姉萌えの魅力には劣ると言う点もあるが。

 

 

「従姉妹は従姉妹として使った方がいいのかもしれんな」

 

「む、難しいな……!」

 

 

その内に慣れると椿は言う。さらに続ける様だ、次はフルーラか。

 

 

「あれは主人公ラブ系だ。サブはゴスロリ、天然、ややダークって感じか。こいつもロリだな」

 

 

主人公をひたすらに愛する系のヒロイン、分かりやすく好意を示してくれるのは逆にミステリアスな部分も魅せる事ができる。

応用が利く存在であり、展開によって一度仲たがいさせるのもありか。

 

 

「朱雀は強気系。サブはオレっ娘、大食い、友達系だ」

 

 

マリンはお嬢様系。サブは無気力、ですわ口調、清楚。

巳麗はビッ●系。サブは残念美人、エロ、お姉さん。

組み合わせで特殊なことになっているが個々の属性を抜き取れば問題ないと椿は言った。

 

 

「城ヶ咲さんについては申し訳ないが電波系だ。あと特徴衣装、これは白衣の事な。あと料理下手、科学系か」

 

 

さらに助手と言うのも何気にヒロイン属性としてはありかもしれないと椿は言う。

 

 

「最後にシェリーさんか。もちろんメイド系ってのはもうコテコテだな。しかも幼馴染、同居。かと思えば友達も入ってやがる」

 

 

メイドはドジにするか完璧超人にするか、それともシェリーの様に万能にするか。

まあとにかくこういったヒロイン像を形作る属性、それらを組み合わせれば何とかなると椿は言った。

 

 

「さらに他にも食いしん坊属性や語尾キャラなんかもある」

 

 

ちょっとした部分萌えとでも言えばいいか。

誰だってこんな性格の娘が好き、こんな髪型の娘に萌える。なんてのはある話じゃないか。

それを組み合わせて色々なヒロインを作り上げるのだ。

 

 

「ツンデレ、クーデレ、まああとヤンデレか。何だかんだ言って属性は豊富だ」

 

 

こうして冒頭へと。

 

 

「お前らだって健全な高校生。好きな種類(タイプ)くらいあるだろ?」

 

「はぁ……」

 

「今回は多数決で多いのを採用したいと思う。ただまあそうだな、ヤンデレは難易度が高い様な気がするからオススメはできないんだけど……」

 

 

頭をかく椿、じゃあまずは双護を指し示す。

 

 

「ゴリラ」

 

「双護くん!? 俺の話聞いてたかな! え? 何? 君ゴリラみたいな女の子が好きなの!?」

 

「そうかすまない、質問を勘違いしていた。動物園で一番最初に見に行く奴じゃないんだな」

 

「何でだよ! 今のどこに勘違いする要素があったんだよ!!」

 

 

しかしやはり人によって好みはバラバラ、多数決をしたとしても全員一致でなければリレー小説は厳しいか。

 

 

「よし分かった! じゃあこうしよう、今から色んな種類の属性を書いて箱にいれるから引いた奴にしよう」

 

 

ランダムでもとりあえず形にはなるだろう。

椿は一同に属性を分担させて書かせてそれを箱に入れる。性格、髪型、サブ属性と箱を分けて数分でそれは完成した。

 

 

「よしじゃあ引くぞ、まず髪型な」

 

 

正直大切と言えばそうだが、どうでもいいと言えばそうだ。

記述しないで想像に任せると言う紙も入れてある。とにかくキャラ付けの一つなのだから個々は特に気にする事は――

 

 

「はいこれ! えっと何々……? えー、スキンヘッドね! じゃあ次は――」

 

 

は?

 

 

「はい! 椿先生今怒ってまーす。今もの凄く怒ってまーす。誰ですかー? ふざけたのは、今すぐ名乗り出てきなさい。そしたら許してあげるから」

 

「ごめんなさい、ボクです」

 

「ふざけんなああああああああああああああ!! どこの世界に禿のヒロインがいるんだらぁあああああああああああ!!」

 

(怒らないって言ったのに……)

 

 

亘の言い分はこうだ、ハズレがあった方がいいのかと思って。

 

 

「良い訳ねぇだろうがあああああ!! 引きなおすぞッッ!!」

 

「いや、待て椿。そのままで行こう」

 

「はぁ!?」

 

 

そう言ったのは真志、彼の言い分はこうだ。

前回は入賞で良かったのかもしれないが今回は頂点を目指さなければならない。参加者は大勢、しかし自分達はド素人だ。

そんな実力差がある中で勝利を目指すには奇抜さで注目を集めるしかないのでは?

 

 

「まあ確かにお前の言う事は分かる。だが奇を前面に出した所で上にはいけてもグランプリを目指すのは厳しいぞ!」

 

「じゃあだったらよ、正攻法で行って勝ち目なんてあんのかよ?」

 

「――……ッ!」

 

 

ゼノンには余裕と告げたが確かに考えてみればソレはそうかもしれない。

自分達の実力では多くの参加者を跳ね除けて頂点に立つなど不可能か? ならばやはり可能性は少なくても希望がある方を目指すのがいいのだろう。

 

 

「まじか? いやまあそうか……? じゃあスキンにする?」

 

 

頷く一同、絶対適当だろ。

 

 

「じゃあ続き行くぞ……え? ホントにスキンでいいの? 分かってると思うけど髪の毛無いのよ」

 

 

頷く一同、もしかしら適当じゃないかもしれない。椿はそんな思いを抱きつつ次の箱に手を伸ばす。

胸のサイズ、これもまあ大事な様で大事じゃないと言うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミサイルになる』

 

「お前らいい加減にしろよッッ! なあ! なあて!!」

 

「いや待て椿、ここは正攻法で行っても――」

 

「邪道過ぎるだろ! どうすんだ? もう人間じゃなくなっちゃった!!」

 

 

しかもコレサイズじゃねーし、能力だし。バーカ! 椿は半ばヤケクソになりながら次の箱に手を伸ばした。

一番大事なメインの属性だ、ツンデレだったり理解あるクラスメイトだったり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴリラ』

 

「双護ぉおおおおおおおおおおおお! うおおおおおおおおおおお! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「すまない、ゲームじゃド●キーコングが一番好きだから……」

 

「んな事聞いてねぇよぉおおおおお!! うおおおおおおおおおおお!!」

 

「いや待て椿、ここは正攻法で――」

 

「じゃあ逆に聞くけどコレ可愛いか!? いや皆これで行って可愛いと思えるかな!? 俺ゼッテー思えねぇわッッ!!」

 

 

ここで苦笑交じりに提案を出したのは翼だった。

このままだと一向に終わる気配もないし、とりあえず女子を呼んでお話しを少し考えたほうがいいかもしれないと。

今ココでヒロインを決めても女子が何か言って来る可能性だってあるから、それを聞くと椿は頷いて作業を先に進める事に。

 

司達も同じくして全ての説明が終わったのか女子を連れてやってきた。

司がまた適当にゼノン達へ恩返しなどと説明を行ったのか誰一人とて面倒がらずに協力してくれるらしい。

一応女子はサブとは言えお話しを作る段階では会議に参加してもらいものだ。

 

 

「じゃあどんな感じの作品にするか」

 

「あたし推理物が好き! それにしようよ!!」

 

 

勢い良く手を上げるのは友里だ。

 

 

「探偵の主人公が、ヒロインの助手と一緒に事件を解決するの!」

 

 

かっこいい主人公と、推理に行き詰るとヒントになる行動を偶然起こすヒロイン。

素敵じゃないかと友里は目を輝かせる。

 

 

「そうだな、まあ悪くは無いが……」

 

 

しかしと首を振る椿、推理物は何と言っても難易度が高い。

確かにトリックはいろいろな推理物から拝借できると言えばそうだが、話の組み立てはおそらく最高難易度ではないだろうか?

 

 

「まあ俺も良く分からんが。あとリレー向きではないんじゃないかな」

 

 

読むのと書くのは大きく違う。しかもあくまでも短編で済ませるには推理物はやや不向きか?

簡単な事件を一つ出すならいけるが、少なくとも自分達では危険と判断した。

 

 

「でも週間連載とかでさ、たまに短編で見た奴が長期連載として始まる事あるじゃん」

 

「そうだな、一概に短編で終わらせようとしなくてもいい」

 

 

これは椿も聞いた話だが、連載用として考えられていたものの諸事情あって短編で掲載される事になった作品。

そういったものは短編として枠に収めるものの設定は非常に細かく設定されているとか。

 

 

「ふぅん、じゃスポーツは?」

 

「すまん、俺が無理だ」

 

 

ほぼ帰宅部だし。ルール何一つ知らないし。熱い気持ちなんて持ってないし。

椿は遠い目をして薫に頭を下げる。ココがネックだ、ジャンルは誰しもが完遂できる物でないとキツイ。

 

 

「だから恋愛を俺は推したい。これは現実に恋愛をしてくなくても理解できるだろ」

 

 

今日日どんな作品にも恋愛は絡んでくる。それを見ていれば理解はできるだろう。

それに高校生ならば一度くらい恋をした事はある筈だ、たとえそれが幼稚園の先生に対する想いであったとしても。

 

 

「ってな訳で他にいるか? 別にどんな意見でも出してくれれば――」

 

「は、はい! はいはーい!!」

 

 

そこで手を上げるのは里奈、彼女は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせてアピールを行う。

少し頬を蒸気させている彼女、良い案が浮んだと見た。椿は期待して彼女へ詳細を問う。

 

 

「ヒロインに強いコンプレックスがあるのはどうですか!?」

 

「おお、成る程」

 

 

例えば宇宙人だったり、もしくは自分と同じく少し周りの人の理解を得られないハンデを負ってしまったり。

 

 

「そんなヒロインを内心では面倒だと思いつつ、諸事情あって一緒に居なきゃいけなくなった主人公がですね!!」

 

「おっけ、読めたぜ! だんだん触れ合いを通じて理解を持ち、惹かれあってくってヤツだろ?」

 

 

パチンと指を弾く椿、里奈はブンブンと大きく首を振って笑みを浮かべた。

 

 

「そうなんです! 周りの人と少し違う存在となった悲しみ、それを理解してあげる優しさに満ちた作品です!!」

 

「流石は里奈てぃー! 他の馬鹿共とは持ってるアイディアが違うね」

 

 

うるせー! ってか私の意見はお前のせいで没になったんだろー! 等とうるさい声が聞こえてくるが椿は耳を塞いで口笛である。

これなら恋愛は絡めやすいしちゃんとした理由にもなってる。さらにメッセージや多少のダークさが良い感じに心に喪失感を生んでくれるかもしれない。

それにコンプレックスは誰もが持っているものだ、理解できない所は無いだろ。

 

 

「例えば咲夜に相談にされたのはな、肉まんを見るたびに自分の胸を思い出して食べられなくなるって言うコンプレックスが――わ、悪い! 冗談、嘘! だから立ちあがんな! 蹴るな! やめて! お願いッ!!」

 

 

舌打ちをしながら席に戻る咲夜を見てホッと椿は胸をなでおろす。

しかしこの案はいいかもしれない、椿は改めて一同に自論を持ち出した。

それは椿が思う名作の秘訣だ。この世に多くある作品で、大切な事があると椿は言う。

 

 

「咲夜、何か分かるか?」

 

「ん? 万人受けする……とか?」

 

「そうだな、ほとんどそうだ」

 

 

つまり子供が見ても、大人が見ても面白いと思えるものだ。

さらに言えば子供の時に見て感じるものと、大人になったときに見て感じるものが違っていれば尚いいと椿は思っている。

実はこの話しは深かったと言うヤツだ、それに気づく時に人は成長を感じられる。

 

 

「ライダーだってそうじゃないのかよ、まあ俺は正直途中で見るの止めたけどさ」

 

 

幼い時はテレビの中にいるヒーローが現実にいるものと信じ、そこに正義を見る。

そして大人になったときに正義を示す脚本家、動作で演技をこなすスーツアクター、キャラクターを演じる俳優を見る。

エンターテイメントを求めると同時に、込められたメッセージを見る。

 

 

「ま、あくまでも俺の個人的な意見だけどな」

 

 

子供もハマれて、大人も夢中になれる作品が一番いいだろ? 椿はそう言って笑った。

 

 

「そうなんですよ! それにまだこの作品の魅力は終わりません!!」

 

「へ?」

 

 

里奈はいつの間にか取り出したのか設定資料と書かれたファイルを持って熱い思いを口にしていった。

何やらずっと前からアイディアだけは浮んでいたらしく、漫画にしようとしていたのか主人公やヒロインのラフ画まで作っていたのだ。

 

 

「見ます!?」

 

「あ、いやまあ後で……」

 

「それでですね! 主人公は――」

 

「……え?」

 

 

二時間後。

 

 

「まあ今言ったのは没になった案だったんですが、これがまあ中々没にするには惜しいと思ってですね!」

 

 

目を閉じて熱く語る里奈。

しかし周りには数名しか残っておらず――

 

 

「おーい! そっちいったぞー!」

 

「やばいぞ! ホームランじゃねコレ!?」

 

「椿! 魔球投げれるとか嘘ついてんじゃねぇよ! 思い切り打たれてるじゃねーか!!」

 

「うるせー! 信じる方が悪いんだー!」

 

 

外で男子達が楽しそうに遊ぶ声が。

 

 

「まだ秘密はあるんですよ! 聞きたいですか? 聞きたいですよね!!」

 

「ZZZZZZZZ……」

 

 

美穂や薫は眠りこけている。

曖昧に笑みを浮かべている葵やアキラの視線を気にする事無く里奈は熱弁を続けた。

 

 

「どうしよっかなー、ネタバレしちゃうのもなぁ! でも言っちゃうもん! 実はですね、主人公もまた一つの特殊なハンデを抱えているんですよ! なんとヒロインと同じだったんですねー!!」

 

 

さらに一時間後。

 

 

「うお! あっぶね!!」

 

「悪い椿、大丈夫か?」

 

「馬鹿野郎! メガネにとって球技は命を賭ける"死合"なんだぞ!!」

 

「主人公は女性なんですけど、実は双子の弟が体の中にいて、人格として宿っているんですよ! で、ですね! その弟くんは強くて、実はヒロインの事が! どうしよう! 三角関係ですよコレ!!」

 

 

さらに一時間後。

 

 

「――それでそれで、バトル物にも対応しようかと思って! ガンアクションですよガンアクション!!」

 

「へえ、凄いじゃないか里奈! ずっと聞いていたけど、凄いぞ!」

 

 

椿達は笑ってサムズアップを彼女に送る。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな優しい嘘聞きたくない! 私知ってるもん! 皆校庭で野球してたもん!!」

 

「馬鹿言え里奈! ちゃんと聞いていたよ! 主人公はハンバーグを作るのがうまいんだろ!!」

 

「そんな事一言も言ってないもんッッ!!」

 

 

等と少し誤解? はあったが、ちゃんと椿達も話は聞いていた様だ。

他の意見がアレと言うのもあるが、とりあえず今まで出てきた意見の中では一番里奈の物がしっかりしている。

 

 

「二重人格とか人によってはツボにくる属性も抑えてるしな」

 

 

と言うわけで、一応彼女の意見を採用と言う形に話しを進める事に。

椿も中学生の時に異世界の魔王が副人格になったっていう設定でしばらく生活を――え? 興味ない? ごめんと彼は頭を下げた。

 

 

「次はキャラの名前でも決めるか。これ前も言ったけどキャラクターの名前はなるべくこだわりが無い以上現実に無さそうな方がいい」

 

 

ヒロインの名前が自分の母親だった時の喪失感は凄まじい。

どんな名作でもその瞬間に萎えてしまうと言う物だろ? とは言えあり得ないのが過ぎても奇妙な事になってしまうが。

 

 

「ちなみに椿くん、この前買ったギャルげーの主人公の名前が裕輔(ユウスケ)だったんで、ディスク叩き割りましたー」

 

「おい! いいじゃないか、おれで!」

 

「嫌でーす。肝心の告白シーンで振られてる気しかしないなんてー!」

 

 

そんなこんなで名前の候補を挙げて、そこに知り合いの名前があったら没にする事に。

 

 

「まずは――」

 

「あー、ごめん。それ叔父さんの名前」

 

「じゃあ――」

 

「ゲッ! それ生活指導のアイツと一緒じゃーん!」

 

「なら――」

 

「ドラマでよく見る俳優と同じ名前だな。ちょっとそっちのイメージ強すぎないか?」

 

「えっと――」

 

「おいおい、それ親父の名前なんだけど!!」

 

 

流石にこれだけ人がいれば決まりにくい物。

椿は少しカタカナが混じった物で攻める事に。流石にこれならば大丈夫だと思う名前を彼はいくつかストックしておいたのだ。

 

 

「まずは――」

 

「すまない、屋敷で飼っていたウサギの名前だ」

 

「まじかよ……じゃあ――」

 

「それ……ボクの…ぬいぐるみ」

 

「お、おう。だったら――」

 

「犬の名前だ」

 

「じゃあ――」

 

「猫の名前だ」

 

「だったら――!」

 

「セミの名前だ」

 

「セミ!? え、何? お前セミ飼ってんの!? マジでか、嘘だろ!? うるさくない? すっごくうるさくない? あと七日しか絆育めないよね!?」

 

 

この後も暫く長い戦いが繰り広げられたが何とか名前は確定した。

そして椿は本番に入る前に少し皆の実力を確認したいと提案を出した。それは今から何でもいいからお話をつくってほしいと言う物だ。

幸いコンテストまではまだ少し日にちがある。一旦ココはそれぞれの文章力や構成力を確かめたい所だった。

面倒な事と思われるかもしれないが、それだけ今回は本気で望みたい。

主に自分のために。自分の欲望の為に。

 

 

「じゃ、頼むぞ」

 

 

頷く一同、こうして彼らの短編集が生まれる事になった。

のだが――

 

 

「ざっけんなあああああああああああああ!!」

 

 

やはりと言うか、なんと言うか……。

 

 

「おい真志ぃいいい! 美歩に任せんなよ! 読めねーよこんな字! なんだよアイツ黒魔術師かなんかか!?」

 

 

できあがったのはカオスと言うか、とてもじゃないが目も当てられない作品ばかりだった。

これで本当にいけるのか? 一気に不安がこみ上げてくる。やはり今の今まで小説なんて書いた事の無い自分達には厳しい戦いだったか?

 

 

「おい亘! 超展開が過ぎるぞ!」

 

「良太郎! って言うかウラタロスだろ! これ一応全年齢向けなんだっての!」

 

「鏡治かコレ? 日記になってんぞ! あとお前俺のおやつ食べたろ! 全部書いてあるぞココに! おいちょっとまて! なんかとんでもない事書いてあ―――おあああああああああああああああ!!」

 

 

やっぱ無理かもしれない。

椿は頭を抱えて唸り声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビッ●がヒロインで人気出る訳ねーだろうが!! あとお前のっけから下ネタで始めるの止めろ!!」

 

「えー、案外いいと思うけどぉ?」

 

 

一方学校と同じくして別場所に転送されてきたマリンの屋敷では海東達が司達と全く同じ事をしていた。

それを少し離れたソファにて確認していたゼノンとフルーラ、やはりコチラも出来上がる小説は闇鍋の様な物だろう。

海東達は司達とは違い全ての情報を聞かされていた。あの日ゼノン達が逃した禁書黙録、それが翌日には何故か文庫レーベルの商品として掲載されていたのだ。

おそらく地面に落ちた禁書黙録を拾ったのが文庫レーベルの人間だったか、禁書黙録は持つ物や周囲に洗脳をかけられると言う。

つまり持った人間を操って自らを商品にしたのではないかとゼノンは睨んだ。

 

司達に伝えれば変にプレッシャーを与えると思い黙っていたが、力ずくで取る方法も考えていた、さっさと会社に進入して奪うと言う方法を。

それをゼノン達は海東に頼んだ、禁書黙録がお宝だと説明すれば彼は興味を示して仲間と共に文庫レーベルに向かう。

最悪銃で脅して奪う方法も海東のプランにはあったが、結果は何と失敗に終わった。

と言うのもオーズの変身が会社に入った瞬間に解けてしまったのだ。洗脳の力が無意識に影響したのか、とにかくコレで活動できるのはディエンドだけとなった。

しかしディエンドだけでも十分な筈ではあった、だが結局会社の隅々を探しても見つからなかったと。

 

 

「おそらくは誰かが持っているか、他の場所にあるかだね」

 

 

とにかく正攻法で手にするしかない。最悪誰かの手に渡れば、そこから奪うと言う方法を取るだけだ。

まだ慌てる段階ではなし、一般人から奪うのは気が引けるが簡単だろう。何とかはなりそうではあるが、強制変身解除等を見ると侮れないかもしれない。

 

 

「こう言う事があるから面倒なのよね」

 

「全くだよ……」

 

 

他世界に置いて厄介なアイテムや敵が、別の世界に渡る可能性が出てきた。

世界移動を誰かが覚えるとろくな事が無い。厄介で終わっていた禁書黙録も、他の世界の影響を受ければ最悪の脅威となりかねないのだ。

現に今このリレー小説のリレーの部分に片鱗が見え隠れしている。不正を働いた場合には禁書黙録が反応して審査にすら通らないとシャルルから言われたのだ。

つまり向こうは自分が決めたルールを絶対にルールに昇華させる能力を持っている。そんな危険な物が力をつければとんでもない事になるぞ。

 

事実その力に魅入られて大ショッカーも禁書黙録を狙っているのだろうから。

とにかく今はチームディケイドか、チームディエンドがうまい事グランプリをとってもらうのを祈るしかない。

 

 

「ま、無理かもしれないけど……」

 

 

こいつ等基本バラバラだし。特にもう朱雀なんて興味なさげにチラシの様な物を食い入る様に見ているじゃないか。

ゼノンは大きなため息をついて立ち上がった。一応念のためにもう一組くらい候補を作っておくかと。

 

 

「うーん、どれにすっかなー」

 

 

一方その朱雀。

なにやら一枚の紙を持って、先ほどからジッと穴があくのではないかと思うほど強くソレを見つめている。

 

 

「マックスフレア……ファンキースパイクもいいし、いやでもミッドナイトシャドーも捨てがたいな」

 

「何見てるの? 朱雀ちゃん」

 

「おお、リラか。いや実はな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、良かったのかな? 抜け出してきて」

 

「いいよいいよ、どうせ今日は提出すれば良かったし」

 

 

横に流れる川を見ながら里奈は言う。

それにやや適当な返しをする亘、二人は学校を抜け出して散歩中。

まあ確かにあの塞ぎ込んだ空気や空間でずっと文を書いているのは逆にストレスになる。里奈もそれは納得して亘の誘いに乗ったのだった。

 

 

「うーん! やっぱりお外は気持ちいいね!」

 

 

大きく伸びをする里奈、しかしそこで彼女は何かを発見したようだ。

 

 

「わ、亘くん! あれあれ!!」

 

「ん?」

 

 

里奈が指し示した方向には川原を走る男性の姿が見えた。

それだけなら驚く事は無かったが、なんとその男性は川の方に走っていくではないか。

足が水に浸ろうとも関係ない、彼はどんどん深い方へと向かっていく。遂には泳ぐ位置まできたのだが、泳ぐと言うよりは明らかに――

 

 

「まさか……じ、じさ――ッ!」

 

「や、やばい!」

 

「私はいいから行って亘君!!」

 

 

ごめんと亘は里奈から離れて一直線に男性の元へ向かう。あれはどう見ても泳いでるのではなく溺れている。

どうして自分からそんな状況に持っていたのかは知らないがこのまま見逃せる訳がない!

 

 

「キバット!」

 

『うおおおおお! 了解ッス!!』

 

 

バッシャーフォームに変身したキバは川に飛び込んですぐに男性を救出する。

幸い変身した姿は見られていないので、すぐに変身を解除して男性を川原へと引き戻した。

 

 

「ゲホッ! かはっ!!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 

幸いすぐに助けた為に問題は無い様だが――

 

 

「小説を?」

 

「う、うん……いや本当に申し訳ない」

 

 

男性を家まで送り届けた亘達、そこで二人は男性から詳しい話を聞くことに。

そんなに広くない部屋に、無数の紙くずが転がっている。どうやら小説家を目指している途中らしい。

名は流助(りゅうすけ)と言い、髪はボサボサで伸びっ放し。大きなメガネをかけていて見るからにと言った風貌だった。

 

 

「持って行った小説を没にされてね。悔しさと悲しさが混じって物にあたったんだ」

 

 

持って行った小説をもう要らないと川に投げ捨てた。

しかしやはり自分が書いた物には愛着が湧くと言うか、彼は我に返って捨てた小説を拾い上げ様とあんな行動に出ていたのだ。

そう言えば引き上げたときに封筒を持っていた、あれがそうだったのかと亘は頷く。

 

 

「僕は、毎年一作と小説を送っていてね、結構自信作ばかりなんだけど」

 

 

結果は毎年没になってしまう。そうするとショックでしばらくは書けず、結局一年に一作のペースになってしまうのだとか。

このままバイトだけの生活で本当に実るだろうか? それを考えると自信はなくなってしまう。

 

 

「やっぱり才能ないのかなって思ってさ」

 

「でも、流助さんは小説が好きなんですよね?」

 

 

里奈は彼の気持ちが分かると言う物だ。

子供の時は絵が下手てよく馬鹿にされていたが、自分は絵が好きだったから止める事はなく書き続けた。

おかげで今は少しは技術が身についたと考えている。それを聞くと困ったように頷く流助、全くその通りだと彼は言う。

 

 

「諦められなくてね。でも、今年で最後にしようかと思うんだ」

 

 

好きや夢だけじゃどうにもならない事がある。彼はそう言って諦めた様に微笑んだ。

ふとそこで気になった亘、彼は今回のコンテストに参加するのだろうか?

 

 

「うん。参加したいとは思っていたけど……」

 

 

恥ずかしい話、一緒にリレー小説を作るメンバーがいないと。

最低でも5人は必要なために彼は諦めるしかないと言っていた。本当は出たいが出られないと言うのは中々にキツイと彼は言う。

 

 

「協力しますよ!」

 

「え?」

 

「そうそう! ボクらでよければ!!」

 

 

里奈としては諦めたくないのに諦めなければならない辛さがよく分かる。

それに亘だってグランプリとはこう言う人が取るものでは? などと思ってしまうのだ。あの兄と椿の欲に塗れた目を見てつくづく思う。

 

 

「本当かい?」

 

「ええ、ボクらでよければ」

 

「いやいや、ありがたいよ!」

 

 

別にグランプリを取れなくてもいい、参加して少しでも評価をもらえれば自信がつくからと流助は笑った。

しかしそうは言っても亘と里奈だけでは人数が足りない。どうしたものか、二人が唸っていると浮ぶのはやはり――

 

 

「相談してみるか」

 

 

数分後。

 

 

「はじめまして、僕らも喜んで協力させていただきます」

 

「は、はあ。どうも……!」

 

 

流助の家にはいつの間にか5人を超える人が集まっていた。

しかもこの集まった人と言うのが流助視点かなり特殊である。まずは深い青のスーツに身を包んだ少年、さらに外国の貴族の様な男性。

白衣に身を包んだ目つきの悪い少年と、スーツ姿の男性。果ては長髪を結った和服姿の男性まで、時代も国もバラバラな人たちと交流があるなんて――

 

 

「き、君は凄いね! みんなテレビから飛び出してきたみたいだ」

 

「いや、まあ……あはははは!」

 

 

亘の言葉に反応してゼノンがハットを持ち上げる。

彼自身もこれは都合が良かった、やはり司や海東だけでは不安が残ると言うもの。ここは候補を増やすに持って来いだ。

メンバーも協力的な者と、他世界に興味がある者で協力的だったし話は早い。

 

 

「とにかく皆で協力して頑張りましょう」

 

 

クロークの言葉に頷く一同、結弦は見るからに形がおかしいペンを持って花を鳴らした。

 

 

「まかせろ、僕の開発した手書き君三号の力によってどんな文章もいい感じにしてやろう」

 

「なんだいそのアバウトな感じのメカは……」

 

 

とにかく結弦博士の作った手書き君によって文章修正は約束された。

さらに母が小説家だったという事もありクロークは安定した文章を書ける。

ここにはゼノン達も協力してくれるらしく、彼らも安定した能力を持っていた。

 

 

「サポートは僕に任せてくれ。いいワインといい文章は眠らせる事によって味が出る」

 

 

分かるようで全く分からない事を言っていたゴロウ。

彼は料理やアロマキャンドルなどを用意してストレスを軽減する作業を行ってくれた。剣丸は全力の応援をするとニコニコ笑っている。

 

 

「いやぁ、拙者も源氏物語の大人の雰囲気には参ったでござるー!」

 

 

顔を赤くして頭を叩く剣丸。

何をしにきたのかイマイチ分からないと言えばそうだが、応援してくれるのは素直に嬉しいことだ。

こうして流助のスートーリーを中心に彼らも作業を始めるのだった。

 

 

「どうして流助さんは小説家を目指そうと思ったんですか?」

 

 

作業の途中に里奈が彼に聞いてみる。恥ずかしいと最初は渋っていた彼だが、その内に想いを告げる様になっていた。

幼い時に読んだ小説が面白くて面白くてボロボロになるまで読んだ物だ。目を閉じれば世界が広がり、自分が想像する景色や人物の容姿、声がある。

そしていつからかそんな世界をつくりたいと思う様になっていた。

 

 

「世界を作る楽しさっていうのかな」

 

 

キャラクターも最初は作ると言う思いだが、次第に自立して頭の中で自由に走り回っている。

そして自分の想いが世界に変わり、夢や希望、冒険がそこにはある。

 

 

「楽しいんだ、純粋に」

 

 

そしてその楽しさが他の人にも伝わるなら、それは素晴らしい事じゃないか。

もしも悲しんでる人や塞ぎこんでいる人に元気を与えられるなら、こんなに嬉しい事はない。

 

 

「まあ、でも……なかなかうまくいかなくてね」

 

 

自分の作ったキャラクターは自分を恨んでいるかもしれない。

いつまで経っても他の人に知られる事無く消えていくのだから。流助は水にぬれて変形した紙を見てため息をついた。

イライラしたくらいで自分のつくった世界を簡単に壊そうとした。

 

 

「申し訳ない事をしたよ」

 

 

あの小説にもキャラクターは生きている。そんな事を言って彼は悲しげに微笑んだ。

だから今回で自信をつけて、是非とも次の投稿で評価されたいと彼は意気込んでいる。

もしもそれで駄目なら――……

 

 

「引き際かもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれぞれは己の思いを文章に乗せて形にしていく。

最初は不可能かと思われた司達も欲望によるパワーでみるみる形になっていった。

海東たちも、亘達もそれぞれはとにかくひたむきに感性を目指す。

 

 

そして日は流れ――

 

 

「うし! 完成だな!!」

 

「あぁぁ、やっと終わった」

 

 

椿はできあがった小説を封筒に入れてドッと疲れた様にため息をついた。

これで後は翌日の開催期間に文庫レーベルへ持って行けばいいだけだ。とりあえず封筒は椿が預かるとして一同は散っていくのだった。

 

 

「フフフ」

 

 

食堂では葵が、皆が一番最初に書いた滅茶苦茶な文章を読んで笑っている。確かにコレじゃ無理だと思うだろう。

しかしこれでも皆が頑張って書いた立派な作品じゃないか、そう思うと葵はソレを捨てられなかった。

保管しておこうかな、葵は適当に見つけた封筒の中にそれを入れて――

 

 

「葵さん! ちょっと来てくれるかな!!」

 

「あ、うん! ちょっと待ってね!!」

 

 

呼ばれた、葵は封筒をそこに置いて食堂を後にする。

 

 

「プリンプリンー♪」

 

 

そこへやってきたのはモモタロス、彼は冷蔵庫にあるプリンを食べに食堂へやってきた。

そこでふと目に入るのはテーブルの上に置いてある封筒、なんだこりゃ? 彼はそれを一緒に来ていた良太郎へと見せる。

 

 

「あ、それ椿くんが明日持って行く封筒だよ。誰かが持って行ったのかな?」

 

 

届けておくよ、良太郎はそう言って封筒を預かった。

そう言って食堂を出て行く良太郎とプリンを食べ始めるモモタロス、そこへ葵が戻ってくる。

 

 

「あれ? ここに封筒しらない?」

 

「ああ、良太郎が持って行ったぜ」

 

「ならいいの。あ、モモタロスくん。生クリームあるからかける?」

 

「いいのか!? おう、かけるかけるー!」

 

 

こうしてカオスな文章が入った封筒は良太郎の手に渡る。そして一方椿の部屋には美歩の姿が。

 

 

「ねね! できたやつ見せてよ~!」

 

「いいけど、ちゃんと返せよ! 明日だからな!」

 

「わーってるってぇ!」

 

 

椿は完成品が入った封筒を美歩に渡す。

不幸にも、この完成品が入った封筒とカオスなヤツが入った封筒は同じ種類だった。こうして完成品は美歩の手に渡り――

 

 

「椿君いいかな?」

 

「おう良太郎か、いいぞ」

 

 

良太郎は明日の封筒を返しに来たと告げる。

ははあと唸る椿、美歩め良太郎に又貸ししたと言う事か。つか読むの早くね? アイツ飽きたな。

 

 

「悪い、ありがとう」

 

 

しっかり保管しておかなければ、椿は封筒の中身を確認せずにしまった。

そして時間が経って読み終えた美歩は封筒を返しに椿の部屋へ向かう。そこに鉢合わせるのは葵、彼女はそれを良太郎が持って行ったものと勘違いし――

 

 

「あ、美歩ちゃん? それわたしにちょうだい」

 

 

美歩は葵も読みたいのかと納得する。

 

 

「おっけ、後はよろしくね葵さん」

 

「うん、おやすみ」

 

 

こうして、一連の悲劇は終わった。

葵は中身を確認する事も無くそれを自分の部屋にしまう。

 

 

あとは、分かるな?

 

 

 

 





後編は4月2日か3日を予定しています。




ではでは

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