仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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はい、と言うわけでキバ編ラストです。

コレは予約なんですが、もしかしたら昼かなんかそこらへんにキャラ紹介だけもう一度更新するかもしれません。まああくまでも未定なんですが。


第6話 テンペストーゾ・wake up

 

「種族がどうとかは関係ない!

 外見は大きく違うかもしれない。だけど……それでも魂は同じじゃないか!」

 

「戯言をォオッッ!」

 

 

サガの剣が鞭の様にしなり、キバに襲い掛かる! 

だが切りかかる剣を避け、得意の蹴りで応戦していくキバ。

戦闘センスは圧倒的に低いが、切り掛かるルートを予測してキバットが亘に声をかけてくれる。

その為、何とか五分五分の戦いに持ち込む事ができていた。ジャラジャラと鎖の擦れる音がキバの耳を貫く。

 

 

『亘さんっ! 右っす!』

 

「ああ、ありがとう!」

 

「くっ!」

 

 

しっかりとガードを決めて蹴りを浴びせ続ける。

サガの変則的な剣筋には手こずったが、キバットがしっかり亘を支えた事でサガを押し始める事ができた。

しかしやはりリーダーであるサガの実力は凄まじい、赤い閃光が次々にキバの体を刻んでいく。

まともに戦ってはまず勝ち目は無い、亘はキバの防御力を信じて半ば強引にゴリ押しと言う先方に出る!

 

 

「ぐわッ!!」

 

 

勢いに任せてサガを蹴りで吹き飛ばし、キバはベルトから笛を模したアイテム、フエッスルを取り出した。

使い方は確かに頭に入ってきた。サガの隙を突く今がチャンス、キバはそれをキバットに噛ませる事で発動する。

 

 

『ウエェェェイク・アァァァップ!!!』

 

 

キバットの掛け声とともにキバの足にある鎖によって縛られたカテナの封印が解き放たれる!

ヘルズゲートと呼ばれるキバの真の力が開放され、闇の力が辺りを夜へと変化させた。

ガラスが砕ける様に空間が変化し、深闇の世界がサガを向かえる。

 

 

「くっ、この力! やはり只者ではないかッ!」

 

 

サガもエネルギーを剣へと装填しキバに狙いを定める。

確かに危険な力ではあるが、やはり彼はまだその力を完全には使いこなせないはず。

ならば経験が高いコチラの方が有利の筈。

 

 

『させないっすー!!』

 

「!?」

 

 

だがその瞬間目の前にキバットが現れてチョコマカと動きつつ突進を仕掛けてきたじゃないか!

これがキバの特徴のひとつ、ベルトのキバットが自由に分離できてアシストができると言う事だ。

そのギミックを知らなかったサガは思わずキバットに気をとられて狙いをズラしてしまう。

 

 

「しま――ッ!」

 

「もらった!」

 

 

サガの剣が触れる瞬間、キバはサマーソルトキックで剣を上空へと弾き飛ばす!

それと同時にキバは地面を思い切り蹴って空へ飛翔した。

巨大なエネルギーで形成された月とキバは重なり合い、幻想的な光景を作り上げる。

事実サガはソレに見惚れていたのだ、剣の修正を加える事すら忘れるほど美しい月。

 

 

『ダークネス・ムーンブレイク!』

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

「グっ! オオオオオオオオオオ!!」

 

 

直撃だった、サガはキバのライダーキックであるダークネスムーンブレイクに押され後退していく。

そして壁に叩きつけられると同時にキバの紋章(エンブレム)が出現し衝撃とダメージを送り込んだ。

体内に直接ダメージと衝撃が流れ込みサガは言葉を失った。

 

 

「ッッ……ぐ――ぁ!!」

 

 

全力を込めた蹴り、変身が解かれサガは気絶する。

キバもそれを確認すると変身を解除して子供達を家に帰した。

力を込めすぎたか、膝をつく亘。どうしたものか? キバットも考えるがいい案が浮かばない。

とは言えいつまでも悩んでいる訳にもいかない。仕方ない、亘は立ち上がるとサガを担ぎファンガイア側の陣地へと足を進めた。

 

 

「直接話し合うか……」

 

『亘さんって結構危ない事考えるっすね――……』

 

 

半ば尊敬の念も入っているキバットの視線を、亘は苦笑で返すのだった。

結構ギャンブルは嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、キバ……!?」

 

「え?」

 

 

亘がキバに覚醒した直後クイーンはその力を感じとった。

そしてそれを夏美達に説明する。本来キバが現れる事はめったに無いが今は事態が事態だ。

互いの争いを止めるのが混血であるキバの役割、故なのかキバットが誰かと契約したらしい。

 

 

「ちょっと待て、ということは亘が変身した……って事だよな? やるじゃんかよ!」

 

「亘君……!」

 

 

安堵とも不安ともつかないため息を里奈は流す。

亘が変身できた事は嬉しいが――

 

 

「……これで、亘君は戦いから逃げられなくなったんですね」

 

「ああ。だが亘も譲れぬ思いで変身したんだろう」

 

 

里奈は静かに頷いた。

亘がどういう思いで変身したのかは分からないが、それはとても凄い事だと思う。

それに比べて自分はどうだろう? 何か――……できているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……うん! 分かったよ! うん、また――」

 

『うれしそうっすね亘さん』

 

 

携帯をしまう亘、彼はキバットに向かって笑顔で答えた。

電話の相手は夏美、少しお互いパニックになっていた為に情報の交換が遅れたがとにかく無事を知れてよかった。

 

 

「キバットの妹達も無事みたいだ」

 

『えぇ! 本当っすかぁー!』

 

 

亘とキバットは互いにはしゃぎ合う。だがしかしその場所はファンガイアの陣地そのもの。

亘たちは今現在、無数のファンガイアに囲まれている。しかし攻撃はしてこない、一応サガを運んできた手前下手に攻撃はできないからだ。

とは言えこんな殺気じみた場所、一刻も早く逃げ出したいところではあるが……

 

 

「う――……っく!!」

 

 

サガが目を覚ます。目の前の状況を瞬時に理解すると、サガはゆっくりとため息をついた。

目を覚ましたとたんにもう一度襲ってくるんじゃないかと言う心配もあったが、流石は代表を名乗るだけあって落ち着いてはいるみたいだ。

サガは自分が負けたと言う事をよく理解し、同時に認めていた。もう一度争うと言う事は無意味なものだと言う事も分かっていたのだ。

まさか契約したての子供に負けるとは、彼は苦笑交じりに彼を見る。しかしその表情はすぐに険しい物へと変わったのだが。

 

 

「……なにが目的だ?」

 

「人間側と和解してほしい」

 

「嫌だと、言ったら?」

 

「人間側にも交渉しに行くだけさ」

 

 

サガは暫く沈黙する、緊張が亘をつつんだ。

なるべく気圧されない様に振舞っているが嫌な汗が流れる。サガは分かってくれるのか――?

 

 

「……少し、考えさせてくれ。コレは俺だけの問題じゃない」

 

 

亘は頷く。亘自身すぐに答えてもらえるなどとは思っていないから。

これは簡単な問題に見えてそうじゃない。和解したとて、またいつ同じ問題が起こるか分からないからだ。

もっと根本を、二つの種族の信頼を回復させなければ真の意味で和解は無いだろう。

サガとイクサが和解するだけじゃ意味はない。国民全体が和解しなければならないのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか考え直してはくれんか?」

 

「嫌だよおじいちゃん、アイツらは野蛮な連中なんだ。私たちがキングを殺したとか言ってきて……常識知らずもいいとこさ」

 

 

人間側の街、そこでは大臣とイクサが話し合っている。

大臣は孫でもあり人間側のリーダー、イクサを説得しようとしている所だった。

イクサとサガは王直属の護衛隊長であった為に忠誠心も高い、だからこそ勝手なことを言っている双方が許せなかったのだろう。

まして同じ護衛体であるアームドモンスター達を犯人ではないかと疑っているため、説得も無駄の様だった。

 

 

「お前もサガ君とは仲良くやっていただろうに……」

 

「昔は昔、サガもそれは分かっている筈だよ」

 

「今はまだ死人こそ出ていないが負傷者は出ている。このままでは引けに引けなくなるぞ」

 

 

イクサは少し苦い顔を浮かべる。

まだ心の片隅に後悔が残っているのだろう。彼女はソレを否定するように首を振った。

大臣もまた一つため息をつく、死人が出ていないとは言えそれはこの戦いが始まってからの事。

心中した男女の事もあるのだろう。それを感じて大臣は眉をひそめた。

 

 

「……む?」

 

 

ふと、一つの音がこちらに近づいてきた。音はどんどん二人がいる広場へ迫ってくる。

この音は? イクサは知っている。

これは――

 

 

「うおおおおおおおおッッ!!」

 

「!」

 

 

トライチェイサーがエンジン音と共に広場に現れる。

やはりバイクのエンジン音だったか、乗っているのは一人の少年。人間の様だが――?

 

 

「アンタがイクサだな! 悪いけど話を聴いてもらう!」

 

 

バイクに乗っていた少年、小野寺ユウスケはイクサの目をまっすぐに見てそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、貴方は私にあの汚らわしいファンガイアと和解しろと言うのですね」

 

「ああ、お願いだ。アンタも昔はファンガイアの事を毛嫌いしてなかったはずだろ?」

 

 

イクサは目を閉じて沈黙した。先程自分も同じことを考えていたから――

目の前の少年、小野寺ユウスケはイクサに人間とファンガイアの和解会議を開いてくれないかと言ってくる。

成る程、しかしイクサはニヤリと笑う。

 

 

「私は君をファンガイア側のスパイ、罠として見ることができる。私には君を信用することなどできない!」

 

「……っ、ダメって事なのか?」

 

 

イクサは再びにやりと笑い、手を後ろに回す。同時に電子音。

ユウスケはその意味を理解して目を細めた、予想していた範囲ではあったがこうなるとは――。

 

 

『R・E・A・D・Y』

 

「そうしたい所だが私もそろそろこの状況に終止符を打ちたい」

 

『F・i・s・t o・n』

 

 

イクサの目の前に鎧が現れる。

ユウスケもイクサが何を言っているのか、よく理解していた。

これは戦いだ、話し合いも大切だがまずは何よりも実力が物を言う。

 

 

「要は力ずくで連れて行けって事か……」

 

 

両手を腰へかざすユウスケ、すると光と共にアークルが出現した。

ユウスケは右手の小指と薬指は折り、そのまま右腕を左上に力強く突き出す。

そのまま並行に突き出した腕を右へと移動させていく。

 

 

「変身ッ!!」

 

 

その言葉と共に右手を左腰に添えていた左手の上に移動させ、グッと力強く押し込む動作をとった。

そして両手を広げるユウスケ、するとその体に次々とクウガの鎧が追加されていく。

現れたマイティフォームに興味を示すイクサ、どうやら彼もまた力ずくを可能にする手を持っていたか。

 

 

「ふふっ、正解だ少年! 力で私を説得して見せろ!!」

 

 

同時に走り出すイクサとクウガ。

クウガは先に手を伸ばす、しかしそれはイクサの罠だった。

彼女は素早く体制を低くしてクウガの足を払う、そしてそのままクウガを地面へと叩きつけた。

しかしクウガもそこからの追撃をガードしてすぐに反撃の蹴りをイクサへと叩き込む。

よろけるイクサと立ち上がるクウガ。一見クウガが有利に見えるが――?

 

 

「ファンガイアではないようだが、なかなかやるじゃないか!」

 

「くっ、どうも! ……ぐあっ!」

 

 

やはりまだ戦闘経験が浅いためにクウガはイクサの攻撃をまともに受けてしまう。

攻撃のルートと回避手段がどうしても単調になってしまう為、イクサは簡単にクウガの攻撃を避け、自分の攻撃を当てる事ができる。

だがクウガの力、それがユウスケに圧倒的な力を与える。戦いの中でクウガは確実に成長していくのだ!

 

 

「うらああああッッ!」

 

 

クウガはイクサの攻撃を受け流し拳を叩き込む。

彼もまたイクサの攻撃ルートを予測する事ができた。

さらに追撃として、よろけるイクサをしっかりと掴みそのままとび蹴りをくらわせる。

 

 

「ぐ――ぅッッ!!」

 

 

吹き飛ぶイクサと、一気に距離を詰めるため走り出すクウガ。

このままもう少しダメージを与えてマイティキックを叩き込めば勝てる!

そう確信しクウガはスピードを上げた。だが、そのときイクサもまた確信を持っていた。

 

 

「ふっ、ふははっ!」

 

「!」

 

 

笑うイクサ。

瞬時に身の危険を感じつつも、もう止まることはできない。

クウガは完全にイクサの射程範囲にいる!

 

 

「覚えておけ少年――」

 

「くっ!」

 

 

止まろうとするがはやりスピードがありすぎる。クウガはもう逃げられない!

 

 

「切り札は――」

 

「………!」

 

「最後まで取っておくものだと言う事をっ!」

 

 

イクサの面部分が解放される。

それと同時に激しいエネルギーが溢れ、クウガを吹き飛ばした。

 

 

「っ! ああああああ!」

 

 

激しい熱に包まれ、近くの柱に叩きつけられるクウガ。

それだけでは終わらなかった、イクサはどこからか取り出した銃でクウガを撃ちまくる。

その威力は高く、クウガは実質柱に磔とされた。

 

 

「くくく、イクサ・バーストモード。そしてイクサカリバーの威力はどうかな?」

 

 

セーブからバーストへ、イクサはフォームチェンジの際に放たれる衝撃波を切り札と称した。

そして銃を剣に変えてイクサは接近戦に切り替える。むろんクウガに抵抗する隙すら与えずにひたすら切りつけていく。

 

 

「少年、理想を現実にかえるにはそれ相応の力、実力が必要なんだよ?」

 

 

イクサはクウガの首を掴んで持ち上げる。

凄まじい力だ、とても女性の物とは思えない。これがリーダーを称する彼女の力と覚悟なのか。

クウガは彼女の手を掴むが離れる気配は無い。

 

 

「う……くッッ!!」

 

「威勢だけじゃ現実は変えられない。残念だがこれが世界なんだ」

 

 

そういってイクサはクウガを思い切り投げ飛ばした。

空に放り出されるクウガ、視界が反転する。

 

 

「うわっ!」

 

「空中じゃ自由にうごけないだろう? 残念だがもうお終いだ」

 

 

イクサは最後の攻撃を決めるためにフエッスルを手にする。

――そしてイクサは見る。クウガの仮面の下、ユウスケの表情を……

 

 

「な……に?」

 

 

仮面の下で、ユウスケは笑っていた!

その笑みは先程より勝利を確信した表情に見える。混乱するイクサ、そしてその声が答えになる。

 

 

『そうね、私もそう思うわ。あとさっきの言葉、そのまま貴女に返すから』

 

「悪いね、おれだって負けられないんだ!!」

 

 

聞こえてくるはずはないのだが、女の声が聞こえた。

 

 

『「超変身!」』

 

「しまっ――!」

 

 

フエッスルが手から弾き飛ばされる。

なぜ? 決まっている。ペガサスへ変わったクウガが放った矢がホイッスルを打ち貫いたから!

さらに超変身、ドラゴンフォームとなったクウガは特殊能力である二段ジャンプ・エアスライドを使用して華麗に着地を決めた。

どうやらフォームチェンジを使用できるのは自分だけではなかった様だ。イクサは舌うちをして剣を銃に変えた。

まだ負けた訳ではない。まだ――

 

 

「『超変身! うおおおおおおおおおおおおおお!』」

 

 

刹那、光るクウガ。

現れし紫の戦士がこちらに猛スピードで向かってくる!

 

 

「うっ、うおおおおおおッッ!」

 

 

その迫力に思わず焦るイクサ、ヤツを近づけまいとイクサカリバーを乱射する。

しかし紫の戦士は全く止まらない。効いていないのか!? それがイクサの焦りをさらに加速させる事になる。

避ける手段をとらず意地でも銃で止めようとする彼女の行為が大きな隙を作り出す。

 

 

「うおりゃああああっ!!」

 

「ウッッ!!」

 

 

タックルでイクサは逆に吹き飛ばされ、空中に放り出される。

そしてマイティフォームに変わるクウガ、もはや形成は完全に逆転していた。

 

 

「はぁああああああああああああッッ!!!」

 

 

足に紅蓮の炎を纏わせ走り出す。

一歩、また一歩地面を踏む度溢れる力、そしてそれをイクサへと叩き込むマイティキック!

 

 

「ぐわっあああッ!!」

 

 

地面に倒れるイクサ、だがまだ予想していた範囲のダメージだ。

彼女はすぐに立ち上がって反撃の準備を――

 

 

「―――ッッ!!」

 

 

体にあふれる強烈な力の脈動、イクサは恐る恐る視線を蹴られた部分へと移動させた。

するとあるではないか、鈍い光を放ちながらもそこに確かに刻まれているクウガの紋章が。

 

 

「なっ! こ、これは――ッ! あぁぁぁ!!」

 

 

光はさらに強くなり、より鮮明にクウガの紋章が浮かび上がってくる。

そして完全にクウガの紋章がイクサの鎧に刻まれたとき、イクサの変身は解かれそのまま地面へと倒れた。

それを確認するとユウスケと薫も変身を解いて彼女に駆け寄った。

 

 

「ぐぅ…まさか、君も武器を持っていたとはね! しかも、女の子かい……ッ!」

 

「ごめんなさいね、今まで黙ってて」

 

「でも、悪いけど約束は守ってもらうよ、イクサさん!」

 

 

そう言ってユウスケは彼女に向けて手を差し出す。

イクサは舌打ちを行いつつも首を振って自らの負けと愚かさを悔やむ。

ああ言ってしまった以上話を聞かないわけにはいかないからだ。

 

 

「あ、ああ。わかったよ……全く、とんだマジシャンだ君は」

 

 

イクサは苦笑しながらもユウスケの手をしっかりと握ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、そのころ司、ディケイドは――

 

 

「「「待てーッッ!」」」

 

「ひぃいいい!」

 

 

クイーンを除くチェックメイトフォーがディケイドを追いかけている。

上級ファンガイアだけあって、ディケイドは戦うのをあきらめて必死に逃げていた。

ただもう追いかけてくる、追いかけてくる! マシンディケイダーのスピードをいくら上げても……なんか後ろ見たらいるんですけど!!

 

 

「あはは! ねえねえ見てゼノン。ディケイドが必死になって逃げているわ! おかしいわね!」

 

「ははっ、滑稽だねディケイド!」

 

「お、お前ら! 頼む! 助けてくれーッ!」

 

 

民家の屋根に二人が座っていた。

ディケイドは駄目もとで助けを求めてみる。

 

 

「嫌だよ逃げピンク。ボク達は君達にあまり関わってはいけないからね」

 

「おい、今なんつった? ピンクって言ったか? おい、おい! おいってッッッ!!!」

 

「うふふ、まあ頑張ってね逃げピンク。運が良かったらまた会いましょ」

 

 

そう言って二人は姿を消す。え? 終わり!?

 

 

「な、何しに来たんだ…あいつら……!」

 

「「「逃げるなぁああああッ!」」」

 

「ひぃいいーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キバとクウガの活躍によって、何とか話し合いの場がもたれるまでは成功した。

しかしそこからは二つの種族の問題だ。自分達には何もできないから見ているだけしかできない。

 

 

「なんか……いまいちみたいだね……」

 

「結局ダメなのかしら」

 

 

良太郎達電王組が見守る中、ファンガイア陣と人間陣の話し合いが行われていた。

だがやはり両者の仲は最悪と言ってもよく、ついに険悪な雰囲気は爆発する。

 

 

「やはり低能なファンガイアでは話にならないようだな!」

 

「力なき人間が! ぶち殺してやる!」

 

 

一気に場を包む殺気の嵐、良太郎はため息交じりにベルトを装着する。

だが良太郎とて少し迷う。ここで戦いを止める為に戦うのは意味があるのだろうか?

もちろん止めなければならない。が、しかし力で力を抑えても何の解決にもならないんじゃないかと思ってしまう。

 

 

「でも、こうしないと……変――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてくださいッ!」

 

「―――ッ?」

 

 

広場に響く少女の声、あまりにも唐突だった為に皆一斉に沈黙する。

一瞬時が止まったかと錯覚する程それはいきなりの一声だった。

良太郎も思わず変身を止める。この声は――

 

 

「どうしてなんですか?」

 

 

悲しそうな表情で里奈は車椅子を押す。

ざわつき始める広場、あまりの自然さに道を開けるファンガイアと人間達。

 

 

「あなた達は……外見が違うから、能力が違うから異端とみなすんですか?」

 

 

沈黙。

しかし先程と決定的に違うのは皆呆気に取られているのではなく、質問に対しての沈黙だった。

 

 

「人間の皆さん。私は――」

 

 

そういって里奈は手に力を込める。

立ち上がろうとしているのだ、しかし当然ながらソレはかなわない。里奈は力なく倒れ、地面に伏せる。

泥にまみれる里奈、しかし彼女は尚も立ち上がろうと這いずっていた。

 

 

「里奈ちゃん……」

 

 

良太郎は走り出しそうになる心をぐっとこらえる。

今自分が助けに行けば、里奈の覚悟さえ踏みにじることになるかもしれない。

それは彼女が最も望んでいない事だ。良太郎は歯を食いしばって里奈を見るだけにした。

 

 

「良太郎……」

 

 

ハナは良太郎の袖を軽くつまむ。

彼女もまた耐えているのだろう、良太郎はハナの手をそっと握った。

 

 

「大丈夫だよハナさん、今は里奈ちゃんの声を聞こう」

 

「うん……そうね」

 

 

里奈は言う。

 

 

「私は……歩くことができません」

 

 

言いたくは無いのだろう。

彼女は苦しそうに唇を噛んで言葉を搾り出す。

 

 

「ねえイクサさん、歩くことのできない私は人間ですか? 体が皆と違う私は人外ですか!?」

 

「い……いや、違う。君は確かに人間だよ」

 

 

地面に伏せながらも里奈の目は確かにイクサをとらえていた。

そのあまりの気迫にイクサも思わず息をのむ。とてもじゃないが中学生とは思えない。

大きな苦しみも、大きな悲しみも、彼女の目にはあった。

 

 

「どうしてですか?」

 

「えっ?」

 

 

里奈は腕にありったけの力を入れる。

しかしどんなに頑張っても踏ん張っても足に力は無く、立ち上がることはなかった。

これが現実であり、真実、そして自分自身だ。

 

 

「どうしてって、君は人間だからに決まってるじゃないか。見た目も、中身だって――」

 

「私は……一人じゃ階段すら楽に上れません――」

 

「っ?」

 

「着替えだって、電車に乗る事だって……遊ぶことすら普通の人と同じにできません」

 

 

イクサは表情をゆがめる。

彼女は何が言いたいのだろうか?

 

 

「イクサさん、貴女はファンガイアの人を人間よりも出来の悪い生き物と言ったそうですね。

 でも、ファンガイアの皆さんはちゃんとできます。だったら――」

 

 

里奈はうつむきながらもはっきりと言った。

卑怯な事かもしれないが、自分の意見を彼女に聞いてほしかったからだ。

 

 

「だったら私は人間とファインガイア以下ですね」

 

「ちっ、ちがう!」

 

 

イクサは里奈を抱きかかえるようにして駆け寄る。

違うんだ、そう言ってイクサは何度も里奈に違うと言う事を説いた。自分でもよく分からない程に――

 

 

「君は体が……その、すこし皆と違うだけだろ?

 それをそんな風に解釈するのは間違ってる。君がそんなに考える必要はないんだよ。

 私は君をそんな風に見たりはしていないさ、私は君を人間として――」

 

「じゃあ、私がファンガイアでも同じことが言えてますか?」

 

「ッ!」

 

 

イクサは里奈から目を逸らす……事ができなかった。

逸らそうとするが――目が、瞳が彼女を捉えて離さない。イクサは口を閉じたまま里奈を見つめるしかできないのだ。

 

 

「イクサさん、あなたは優しい人……だからお願いします、どうか争いを止めてください……ッ!!」

 

「………ぅ」

 

「人間の皆さん、ファンガイアの皆さん……昔を思い出してくれませんか? あなた達は互いに助け合って生きてきた筈です」

 

 

考え方が違い、故に争いが起きたかもしれない。

でもそれは同じ種族でもあり得る事だろうと里奈は言う。

 

 

「私たちは人間である前に生きてるんです、命があって感情がある」

 

 

思い出してと彼女は言う。

 

 

「どんな過去でもいいです。楽しいと感じた時に、隣にいたのは誰でしたか?

 一緒に笑う時、ファンガイアも人間も関係なかったんじゃないですか! 大切なのは心じゃないんですか!?」

 

 

里奈はこの足を枷と感じたことはない。いや、否定してきた。

だって悲しい事もたくさんあったけど嬉しいことも同じくらい――

 

 

「ううん。それ以上ありました!

 その時、私の隣で一緒に笑ってくれた人……その人と私の心は同じだとおもってます!

 だからどうか種族で争うなんて悲しい事は止めてください! 私たちは『人』なんです、ファンガイアだって人間だって同じ『心』を持ってるはずなんです!」

 

 

里奈は思い切りその長い言葉を言い放った。

今までの人生で出した事のない大声に、彼女は思わずせき込む。

イクサは何も答えない。しかしイクサは里奈を抱く手を放すことはなかった、むしろ先程より強くしっかりと握っている。

それは当たり前の事なのかもしれない、里奈が言った言葉は何の重みもない物なのかもしれない。

だけど、それを忘れていたのも確かだった。

 

 

「……イクサよ、ファンガイアは楽しい時笑う。そして悲しい時に泣く」

 

「あ、ああ……そうだなサガ。人間は楽しい時に笑い、悲しい時に泣く」

 

 

イクサとサガ、二人は頷き合う。

皆知っていた事だが、誰も言わなかった事でもある。

 

 

「里奈、すまない。ずっと目を背けていた、心にかすかにあった種族の壁が私たちを遮断していたんだ」

 

「しかしソレは種族ではない、同族とて同じ……」

 

 

イクサは里奈を抱きかかえ車椅子へ連れて行く。

 

 

「今すぐにはできないかもしれない……だが約束しよう。

 私たちは再びお互いに手を取り合える関係へと時を戻そうじゃないか」

 

「我々は愚かだったのだ、里奈……無知だった我らを許してくれ」

 

「は……はい!!」

 

 

里奈は優しく微笑む。

自分の声が届いてくれたのが嬉しくて、彼女は目に涙を浮かべて頷いた。

これで少しはよりよく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまらん、実につまらんな』

 

「え?」

 

 

ふいに、そんな声が聞こえた。

再びざわつき始める群衆達、そしてそいつは人間側から現れた。

漆黒の鎧、禍々しくも気高さすら感じさせる一本角。一目で分かる、彼は人間ではない。

なら――

 

 

「ファンガイア……?」

 

『女…余計なことを…』

 

 

そのファンガイアは手を掲げる、すると巨大な剣がソコに出現した。

派手な装飾が成されたその剣は、先を里奈へと向けている!

 

 

「あ、危ないッッ!!」

 

『死ぬがいい』

 

 

ファンガイアは剣を里奈に向かって投げた。

イクサは里奈を抱えると、全速力で剣と距離をとる。何とか剣を避ける事はできたが――

 

 

「やめろ貴様! 何をするッッ!? 我々はこれ以上争う必要などないのだ!」

 

 

サガはファンガイアに詰め寄る。

しかしファンガイアはサガを突き飛ばし、エネルギー弾を乱射した。

 

 

「ぐっ、あああああああああ!」

 

『サガ、貴様には失望したぞ。もうすこし利口かと思ったが……』

 

「なんだとッ!? ぐッッ!!」

 

『貴様がもっと人間を敵視すれば……』

 

 

ファンガイアはサガを蹴り飛ばすと淡々と言い放つ。

 

 

『王を殺したのはこの私、エルザドルだ』

 

 

その声はなんとも濁っていた。

しかし言葉の意味だけは誰しもの耳にハッキリと届いていたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今……なんと言った?」

 

『聞こえなかったのか? 王を殺したと言った』

 

 

あまりにも普通、あまりにも希薄、あまりにも虚無に語るエルザドル。

イクサ達もそのあまりの冷淡さに思考を麻痺させてしまう。しかし彼は相当苛立っている様だ、まさかあそこまで争っていた二つの種族がこんなちっぽけな少女一人の声で考えを変えるなんて――

 

 

『私の計画ではもっと凄惨な状況になる筈だった。

 人とファンガイアは憎しみ合い殺し合う、そうまさに地獄絵図と言ったところか?

 しかしそれはかなわなんだ。人に化け、ファンガイアとして舞台を滅茶苦茶にしてやるつもりだったが――』

 

 

興が覚めた。

そういってエルザドルはイクサの目の前に移動する。

 

 

「な――……っ」

 

『死ね、使えぬ長に価値は無い』

 

 

小型ナイフを瞬時に出現させる。

そのままイクサの喉を貫けば――

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

そこでガルルが飛び込んできた。

怒りからか目が血走っている。当然だ、目の前にいるのが王の仇なのだから!

 

 

「貴様が王を! 王をぉおおおおおおおおおおおッッ!」

 

『つまらん王だったよ。人とファンガイアは互いに助け合える?

 馬鹿が、ファンガイアなど所詮力だけの存在。まして人間など生きる価値も無し』

 

「貴様さえいなければ!! くそっおおおおおおおおお!」

 

 

ガルルの攻撃をエルザドルは簡単に受け流す。

もやはエルザドルの瞳にガルルは映っていない、瞳さえ虚無を見通していた。

群集は事態を理解し悲鳴を上げる、ファンガイアも人間も同じだった。

怒りに震える者、悲しみに嘆く者、恐怖に震える者、人間もファンガイアも同じ。

 

 

『つくづくつまらん奴らだ。呆れる』

 

 

濁った声でエルザドルは辺りを、群集を見回す。

エルザドルを攻撃しているのはもやはガルルだけではない、バッシャーやドッガも駆けつけエルザドルを攻撃している。

にも関わらずエルザドルにはかすり傷さえついていない。おかしい、明らかに一般のファンガイアとしての実力を遥かに凌駕しているじゃないか。

 

 

「くっ、なんでこんなに――ッッ!!」

 

『言葉は何よりの武器だ、それに惑わされるから墜落の日をみる』

 

 

エルザドルは頷くとずっと手に持っていたナイフを投げた、里奈に向かって。

しまった! ガルル達、イクサもサガも里奈から離れている。彼女を守れる者はいない、間に合わないと言う事。

自分が狙われた事に反応しつつも目をつぶる里奈。避けられない! 彼女は襲い掛かるであろう痛みに備えて歯を食いしばった。

 

 

「―――ッッ!!! ―――………?」

 

 

しかし痛みは無い、代わりにガキンっと音がして里奈は目を開ける。

 

 

「大丈夫か!」

 

「あ………」

 

 

そこには見たこともないファンガイアが変身して立っていた。

それだけでない、人間の何人かも同じように里奈を庇っている。

里奈は一瞬何が起こったのか分からずに、だらしなく口を開けたまま沈黙していた。

しかし気づく、皆が自分を守ってくれたのだと。

 

 

「あのっ、ありが――あ、ごめんなさい!」

 

「……すまなかった、君みたいな子供にまでこの問題を抱えさせて……」

 

「え?」

 

「そうだな俺たち大人よかガキどもの方がよっぽど賢かったぜ……ははっ!」

 

 

次々に里奈を庇おうと立ち上がる大人たち。

ソレを見てエルザドルは深いため息をつく。両手を広げてやや煽る様にあきれた様子を前面に出していた。

 

 

『うん? 何だ、昨日まで憎しみ合ったモノ共が少女一人守る為に団結する?』

 

 

襲い掛かるドッガ達を蹴飛ばして大きく彼は首を振った。

 

 

『笑わせるなよ、ファンガイア!

 昨日までお前らはその少女を憎しみの対象とでしか見ていなかったろう。だったら、さあ殺せ! 殺すのだ!』

 

「なんでだろうなぁ、お前を見てたらどれだけ自分たちが馬鹿だったのか思い知らされたよ」

 

『何?』

 

「俺達はただのバカだった。エゴだけで動いてた……大馬鹿野郎だ!」

 

「み、皆さん………!!」

 

 

次々と里奈を守るように立つ国民達。エルザドルはうんざりしたようにため息をつく。

気品と禍々しさを感じるほどのオーラを持つエルザドル、しかし国民たちはそれに怯む事なく立ち向かった。

共通の敵がそこにある。それは皮肉にも国民達の心を次々に繋ぎ止めていく。それに何よりも里奈を守りたいと思う事に種族の壁は存在していなかった。

 

 

『馬鹿ばかりか……! 腹が立つ』

 

「なら、馬鹿で結構!」

 

 

エルザドルは剣を国民たちへと向ける。

だが同時に電子、お待たせしましたの一言と共に現れたのは――

 

 

『SWORD・FORM』「おい! よそ見してんじゃねぇええええええええ!」

 

『ッッ!』

 

 

モモタロス、電王だ。

電王は素早くデンガッシャーを組み立てて剣に変えると、エルザドルへと赤い斬撃をたたき込んでいく!

激しい剣閃に凄まじい量の火花が散った。

 

 

『貴様はファンガイア……いや、人間でもない……? 何者だ!』

 

「ああん? 俺は俺よ!」

 

 

頭突き、予想外の攻撃がエルザドルの動きを止める!

そこに刻み付ける赤い斬撃、エルザドルの高貴な鎧に初めて傷がついた。

さらに電王はエルザドルを蹴り飛ばし、大きな隙を作らせる!

 

 

「皆! 彼に続け!」

 

 

この一撃をきっかけにガルル達の攻撃もヒットするようになり、善戦をくりひろげるようになった。

現状まだエルザドルが有利ではあるが、それでも少しずつ希望と言う可能性が出てきたのも確かか。

 

 

『ふん、無力な少女の声で随分良くやれたものだ!!』

 

 

何気に放った一言、しかしそれは里奈の心に深く突き刺さる――

 

 

「……私、また何もできない――ッッ! 守られてるだけ……! ごめんなさい!!」

 

 

涙があふれる。大人達もこれには何も言ってやれなかった。安易な言葉では傷つけてしまうだけだ。

彼女もずっとその事について苦しんできたのだろう。

 

 

「私は…もっと……強くなりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちがうよ里奈ちゃん――」

 

「!」

 

 

そっと肩に触れる手。

里奈はソレが誰かを確認せずに呟く。

 

 

「あ……えへへ、どうにもうまくいかないね」

 

「そんな事ないさ。君は、充分自分で歩けてるじゃないか」

 

 

里奈は視線を下に落とす。

 

 

「そう……かな。私まだ皆に迷惑かけて」

 

「人間は絶対誰かに毎日迷惑かけてるモンさ。里奈ちゃんは兄さんよりはるかに迷惑の数、少ないって」

 

「あはは、ありがとう。でも――」

 

 

後ろにいた人物は笑った。

里奈からは表情を確認する事はできない筈だが、それでも彼女は彼が笑っていると思っている。

 

 

「でもは無しって言っただろ? 君は特別扱いされたくないって言ってたっけ?

 じゃあ自分だってそう振る舞わなきゃ。あの時、君は自分の足を枷にしないっていっただろ?」

 

「で――……ごめん。ねえ? 私自分で歩けてるかな?」

 

「そうだね、君は自分の『足』で歩いてるよ。知ってるよボク、里奈ちゃんって結構決めたこと曲げるの嫌いだよね」

 

「う、うん……まあそれは――」

 

「だったら大丈夫、君はもう立派に歩いてるよ」

 

 

高速で何かがエルザドルに向かっていく。

それは素早い動きで相手を翻弄し、隙あらば魂心の一撃を決めた。

 

 

『くっ、なんだ!』

 

『うおおおおおおおおおおっす!』

 

「キバット!」

 

 

ソレはその声に反応すると声の主に舞い戻っていく。

 

 

「里奈ちゃん、君は皆と同じなんだ」

 

「うん……! ありがとう。亘君!」

 

 

振り返る里奈、そこには亘が変わらない笑顔で立っている。

亘はキバットに自らの腕を噛ませエルザドルを見た。

ファンガイアを現す刻印が顔に刻まれた、そのまま亘はもう一度里奈に微笑みかけた後キバットをベルトへと装着させる。

 

 

「イクサさん、サガさん。一緒に戦ってください!」

 

「ああ、もちろんだ。我々の償いの為にも!」

 

「私達は立ち上がっていなかった。里奈のように自らの『足』で歩かなければ!」

 

 

三人は頷くと一列に並ぶ。イクサとサガ――

そして、キバに変わる為の言葉を三人は大きく言い放つ!

 

 

「「「変身!!」」」

 

 

変身を完了させた三人はエルザドルに向かって駆け出す。

 

 

「「「うおおおおおおおおおッッ!!」」」

 

『………』

 

 

周りにいるガルル達を吹き飛ばし、エルザドルもキバ達を直視する。

三人の実力は大きな脅威だ、ならば近づかせてはいけない。

エルザドルは無数の剣を出現させ、それを三人に向かって投げつけた。

無数に降り注ぐ弾丸、それを受ければ自らの前にたどり着く前に勝敗は決するだろう。

 

 

「まかせろ!」

 

 

だが三人も黙ってやられる訳がない。

サガは前に出ると、鞭の様にしならせた剣で次々にそれらを破壊していく!

行く手を阻もうとする剣はサガによって突破された。それだけではない、サガは剣をエルザドルの方へと弾き飛ばしていたのだ。

おかげでそれが目くらましとなってエルザドルの動きを鈍らせる。

 

 

「「はっ!!」」

 

『ッ!』

 

 

イクサとキバの拳がエルザドルに命中する。

エルザドルは舌打ちをするとバックステップで三人との距離をはなした。

なるほど、なかなかダメージが大きいか。これはいよいよ本気で戦わなければ、エルザドルは自らの力を解放させてキバ達を睨みつける。

 

 

「キバ! 俺達を使ってくれ! 俺たちはお前を支えるためにいるのだ」

 

「皆……うん、サンキュー!」

 

 

ガルル達はホイッスルに変身してキバのベルトへ装填する。

キバは頷くと素早く緑の笛をキバットに噛ませた。するとキバットの瞳が緑に染まり、美しい笛の音が響き渡る。

 

 

『バッシャーマグナム!』

 

 

闇の鎖がキバを包み、弾ける。そこには色が緑に変わったキバが立っていた。

バッシャーフォーム。遠距離と水中戦に特化した形態、武器である銃を構えて彼は引き金を引いた。。

 

 

「エルザドル! なんでお前は人種を隔てるんだ! 皆が楽しく生きる事をなんで拒絶するんだよっ!」

 

 

バッシャーマグナムの弾はある程度相手を追尾する為、エルザドルは避けるのではなく防御に徹する。

だがそこにイクサとサガが猛攻撃をしかけ、確実にダメージを与えていった。一人ではどうしようもないが、三人ならば勝てるかもしれない!

 

 

『人間とファンガイアは互いに殺し合うのが定め、私は掟を尊重しているだけにしか過ぎない』

 

「誰が決めたんだよそんな事っ!」

 

 

笛の音が聞こえる、次は紫に変わるキバ。

ドッガハンマーの一撃は強靭なエルザドルの鎧を打ち砕き! 破壊する!!

ソードフォームも応戦し、徐々にエルザドルが押され始めていた。彼の呼吸がだんだんと荒くなっていく。

 

 

『血塗られた歴史が語る。一度争った二つの種族には確固たつ壁が存在するのだ』

 

「それは違う。壁を固める事じゃなく壊すことに我々は徹するべきだった……!」

 

「一人の少女に面と向かって言われるまで気がづかなかった愚かな私達。

 だがその愚かさを嘆くのではなく前に進む為に活かそうではないか!」

 

 

笛の音と共にキバが青く染まる、ガルルセイバーだ。

狼の様に荒々しく、息もつかせぬ連撃。エルザドルと三人の攻防はどんどん激化していく。

国民達はその激しい命がけの戦いに誰しもが言葉を失い、ただ立ち尽くすだけ。

 

 

『か弱い少女にたった一言指摘されただけで心動く貴様らに何を語る資格があろうか! 貴様らは感情論に諭されたただの馬鹿共よ!』

 

『里奈は傷ついた我々に手を差し伸べてくれた。危険だと分かっていながら!』

 

「我らは互いを罵り合いながらも心の奥で関係の修復を望んでいた。しかしソレを認めよともせず仕舞い込んでいた!」

 

 

サガの剣が鞭に変わりエルザドルの手を縛り上げる。

そこへキバの拳、イクサの蹴りがえぐり込む。苦痛の声を漏らすエルザドル、完全に流れは変わっていた。

 

 

『後からでは何とでも言えよう! 本質はお互いに恨み、憎む! これが全てだ!』

 

「里奈だけではない、我々は全員それを言う資格を持っていた。だができなかった! 何故か!? 弱いからだ!」

 

「彼女のように否定しない心を持った大人が一人でも居ればよかったのに……気づくのが遅かった!!」

 

 

サガの蹴りがエルザドルを吹き飛ばす。

立ち上がろうとするエルザドルに浴びせられるイクサの銃弾。再び倒れるところにキバの斬撃が刻み込まれた。

三人の攻撃を受けて彼は大きく吹き飛んでいく。このままでは負ける! エルザドルはそう判断して切り札を発動させた。

 

 

『ならばその弱さと共に消えろぉおおおおお!!』

 

 

エルザドルから強大な闇が溢れる。まだこんな力を!? 焦る一同。

闇で構成されたオーラはエルザドルに巨大な鎧を与えた。その大きさはビルほどもあり、周囲を圧倒させる。こんな奥の手を持っていたとは――ッッ!

 

 

『この一撃は貴様らではかわせんぞ! 消し炭になるがいい!』

 

 

エルザドルは強大なエネルギーをチャージし始める。そこから放たれる一撃を想像しただけで恐ろしい。

もう誰もあれを止められる術が想像できなかった。

 

 

「くっ!」

 

「あんなエネルギーを……ッ!!」

 

『わっ、亘さん! あれは危険っす! ヤバいっす!』

 

「っ!」

 

「良太郎!」『うん!』『FULL CHARGE』

 

 

ソードフォームの必殺技がエルザドルのエネルギーを散らしていく。

しかしチャージは止まることはなく、せいぜい時間を遅らせる程度のようだ。

イクサもサガもチャージを止める為に攻撃をしかけるが、特に意味もなくチャージは続行された。

 

 

「くそっ!」

 

『人とファンガイアの共存など不可能な夢物語。そんな幻想を語る連中など、全て消してやる!』

 

「それでも! 夢でも信じなきゃ! 信じあわなきゃ叶わない!」

 

 

里奈は叫ぶ。

自分を守ってくれる人の為にも叫ばなければいけなかった。

 

 

「人間とファンガイアは共に生きていける!

 ファンガイアでも人間でも、信じる人の為に戦える! それが心持つものの証だから!」

 

 

里奈は思いっきり叫んだ、自分の弱さを醜さを全部言葉に託して。

そしてその言葉に皆は頷き、エルザドルを睨む。

 

 

『種族の壁は絶対なのだ!』

 

 

エルザドルのチャージが終了した様だ。

キバ達はせめてもの抵抗に必殺技を当てる準備を行う、しかしそれでも止められる可能性は低かった。

同時にエルザドルの攻撃を受けて再び立ち上がる可能性も……だ。駄目なのか? ここで終わりなのか? キバは一瞬そう思ってしまう。だが――

 

 

「あきらめるなぁああああッッ!!」

 

「頑張れぇええええええ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

ふと、群集の中から応援の声が聞こえた。

最初は一つや二つ程度だったが――

 

 

「お願いだ! 勝ってくれぇ!!」「頑張れサガぁあああ!!」「負けないでイクサさん!!」

「頼むキバ! 皆を守ってくれぇえええッッ!!」「負けないで!」「頑張れぇえええええ!」

「お願いします!」「頑張って! 希望を捨てないで!!」

 

 

次々にあがる応援の声、もう国民の心は一つだった。

エルザドルを倒し、平和な世界で暮らしたい――ファンガイアと人間で一緒に!!

その思いと共に、新たな電子音が広場に響いた!

 

 

『ファイナル・アタックライド――ディディディディケイド!』

 

 

ホログラムカードを越え、ディケイドがエルザドルにディメンションキックを決める。

これも大きなダメージにはならない。しかしチャージを遅らせる事はできた様だ、打ち込んだ一撃は無駄なんかじゃない。

 

 

「兄さん!」

 

「わ、悪いな! 遅くなった!」

 

『っ! 貴様は特に異質な気を感じる、何者だ!?』

 

 

登場したディケイドは振り向きながら指をさす。

 

 

「俺は破壊者さ! だからこの世界の『壁』を……」

 

 

ディケイドはカードを手にしてキバに見せる。

それはキバのカード、つまりキバの封印が解かれたと言う事!

 

 

「破壊する!」『ファイナル・フォームライド』『キキキキバ!』

 

「う、うわぁ!」

 

 

キバの体が変形してキバットを模した巨大な弓となる、キバアローの完成だ。

ディケイドはそれを構えてエルザドルと対峙する。威力か貫通力か、ディケイドは仮面の下でニヤリと笑った。

 

 

「狙い撃つぜぇ――……」

 

『もういい! 消えろッッ!』

 

 

チャージは完了した。

エルザドルはエネルギーを一気に放出する!!

 

 

『兄さん! 来る! 外さないでくれよ!!』

 

「おいおい、俺がお前に嘘ついたことなんてあるか!?」『ファイナル・アタックライド――』

 

『今ついた!』

 

「か、勘弁してくれよ!!」『キキキキバ!』

 

 

カテナが解放される。ディケイドは思い切りアローを振り絞り――ッッ!!

 

そして放った!!

 

 

「いっけぇええええええええええええええええええええええええ!」

 

 

高速で放たれた弓は一気にエネルギー波をぶち抜いていく!

強大な一撃も、絶大な貫通力の前には無意味と化した。

 

 

『な、なにッ!? ぐああああああああああッッッ!!』

 

 

弓はエルザドルを貫き同時に爆発する、まさに一瞬の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か――勝った……のか?」

 

「あ、ああ……」

 

 

サガとイクサは互いに顔を見合わせ頷き合う。

 

 

「やっ……やったあああああああああああああああああああ!!」

 

 

一気に観衆達は歓喜に踊る!

同時に変身を解除するライダー達。

 

 

「終わった……! というか兄さんどこ行ってたんだよ!!」

 

「チェックメイトフォーに追われてたんだよ! あいつ等全然手加減しないんだよ、参ったぜ……」

 

 

そういって歩いていく司、それとすれ違いにイクサ達がやってきた。

里奈は亘を確認すると笑顔で彼の元に移動する。

 

 

「亘君!」

 

「里奈ちゃん!」

 

 

二人は駆け寄ると互いの無事を確かめ合う。

泥だらけだね、亘が笑うと里奈は恥ずかしそうに微笑む。

しかしそこには自信に満ち溢れた表情もあった、それを見ながらサガとイクサは微笑む。

 

 

「約束するよ里奈、亘。私達は必ずまた仲良くなれると!」

 

「ああ、必ずな。そしてもう二度とエルザドルの様な者を生まない様にしなければ……」

 

「……はい!」

 

 

エルザドルだって元々は自分達と変わらぬ存在の筈、差別が人を変えるのかもしれない。

だからもう絶対に争ってはいけないのだ、サガ達は互いに喜び合う人とファンガイアを見て切にそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

一方エルザドルは傷口を抑えながら歩いていた。そう、彼は生きていたのだ。

場所は城、そしてエルザドルを迎えるのは大臣とクイーン。

どういう事なのか、敵であった彼を二人は微塵も警戒する様子を見せない。

 

 

「お疲れ様でした……」

 

「ああ、すまなかったないろいろ迷惑をかけて」

 

 

濁っていたエルザドルの声が鮮明になっていく。

大臣はエルザドルに深く頭を下げ、クイーンは優しく彼を抱き締める。

そこに殺意などは微塵も無かった。そう――

 

 

「これで……よかったんですよね? キング」

 

「ああ、いや……もはや私はキングではないか。

 大臣よ、次の王はイクサとサガの両名に継がせてくれ。私はもう死んでる事になっているからな」

 

 

そう言ってエルザドルは王座に腰掛ける、おそらく今この瞬間が最後の着座となろう。

エルザドル、彼こそがこの世界のキングだった。ファンガイアとしての姿を国民にさらした事は無い。

だから今回の作戦が成功したのだ。ちなみに、クイーンの力で射抜かれた所はすっかり元どおりになっている。

 

 

「……本当にガルル達には申し訳ないと思っている、まして国民達にも――」

 

「非常に危険な賭けだったとは思います、ですが結果論としては成功だったかと」

 

 

エルザドルは自嘲的な笑みを浮かべた。

もはや限界だったのだ、種族間抗争は日に日に激化していきいずれは取り返しがつかなくなるところまでいってしまう。

だからこそエルザドルは、王は苦悩の選択を取ったのだった。自分がやった事で多くの民が犠牲になるかもしれない。

しかしそれを乗り越える事ができれば、エルザドルは王を捨て危険すぎるとも言える賭けにでた。

 

それは、自分の死をトリガーにあえて種族間抗争を激化させる事。

そうすれば急激に変わった状況で国民たちは自らの存在を見つめなおすかもしれない。

里奈の様な者が現れるかもしれないと期待を込めていたのだった。

 

ちなみに、心中したと言うカップルには協力してもらっただけで実際は誰も死んでいない。

クイーンと大臣に協力してもらいエルザドルも自ら暗躍して回っていたのだ。

死人が出そうになれば全力で邪魔をしたりと――

 

 

「すまない、あの里奈と言う少女にコレを渡しておいてくれ……」

 

 

そういってエルザドルは立ち上がる。

 

 

「はい……どこへ?」

 

「私は死んだ身だ。人目のつかぬ所で存在しなければならん」

 

 

それはもうこの世界には関わらないと言う事。

彼は死人としてこれからを生きなければならない。その王に、大臣は深く頭を下げた。

大臣として、一人の友として。

 

 

「私もお供させてくださいキング、いえエルザドル様……」

 

 

クイーンはエルザドルの隣を歩く。

エルザドルはすまないと小さく呟いて彼女の手を握った。

大臣は二人が見えなくなった後も頭を下げ続けた。おそらく、大臣としてはもう二度と会う事はないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……綺麗…だね」

 

「うん、すごいね」

 

 

里奈はキラキラと光る竜のブローチを大臣から貰った。

真由も気に入ったらしく、二人はさっきからソレをじっとみている。

 

 

「あれから里奈ちゃんも結構成長したみたいだよ、少し明るくなったっていうか」

 

「ま、今回は里奈がいなきゃヤバかったからな」

 

 

ソレを聞くと里奈はブイサインを送る。もう学校には新しい絵が現れていたのだ。

何も描かれていないと思っていたが、実は無地と言うのが次の絵らしい。

ゼノン達が猛すぐ世界移動をすると言ってきた。だから、もう行かないと――

 

 

「行ってしまうんだね」

 

「ああ、俺たちはいろんな世界を巡ってるから――」

 

 

イクサとサガは別れの挨拶を言う。

 

 

「ガルル達ともお別れか……私は正直君たちが王を殺めたのではないかと疑っていた。

 許してもらおうとは思っていないが……すまなかった」

 

「気にするな、それより国を頼んだぞ」

 

「ああ…ありがとう」

 

 

いずれまた会う時まで。そう言って亘達は別れた。

こうして司達はキバの世界を後に――

 

 

『はぁい、アタシも来ちゃった』

 

『わぁ! キバーラ!だめじゃないっすか!』

 

「ははっ、いいんじゃないかい? 大勢の方が助かるよ」

 

 

こうして新たな仲間と力を手にして、司たちはキバの世界を後にするのだった。

 

 





たしか今日からニコニコで電王が無料配信はじまってた気がします。
電王はね、僕が二番目に好きな平成ライダーなんでまだ見てない人はぜひ見ようぜ(宣伝!

はい、と言うわけで次もよろしくお願いします。たぶん月曜はお休みかな。

ではでは

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