仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第75話 闇の破壊者

 

 

「エルドラン、里奈ちゃんを学校に連れて行ってくれ」

 

「!」

 

 

BATが前に構える中でキバはその命令を下す。

一瞬迷った様な表情をした里奈だが自分が足手まといになる可能性が高い、里奈は無言で頷くと一言だけ亘に告げて学校へ戻るのだった。

 

 

「がんばってね、亘君」

 

「ああ」

 

 

あっという間にエルドランは里奈を乗せて小さくなっていく。

BATも興味が無いのか特に彼女に関しては追うつもりもなく、無言で一連の流れを見ていた。というよりも彼はずっと亘に注目している。

 

 

「それにしても実に興味深い、貴方は何者なのでしょう?」

 

 

たびたび人を超えた力を持つ敵とBATは会っていた。

どんな事が起きるか分からないのが世界、それだけならば特に驚くことも無いが――

キバの姿に良く似た姿を過去を通して何度か確認しているのも事実。それも他世界間で、そしてどの固体も微妙に姿が違っている。

 

 

「貴方は一組織の人間なのか――」

 

 

ならばそれはショッカーに歯向かう害虫、ショッカーの為にも今ココで正体を明かして殺しておきたいと言うのがBATの思いである。

それを鼻で笑い一蹴するキバ、ボクが知るか。そんな事を言って彼はごまかしの笑みを浮かべる。

 

 

「なるほど、話し合いは不可能ですか」

 

「話し合い? 何を話し合うっていうんだよ」

 

 

マントを翻すBAT、キバが何者なのかを明かせば命だけは助けてやると彼は告げる。

対してそれをまた一蹴するキバ、何を今更と。

 

 

「ボクはお前を倒して前に進む。それだけさ」

 

「やれやれ、若さが起こす勢いは罪です――……よ!」

 

 

先に動いたのはBAT、彼はマントを広げる事で飛行を開始した。

その勢いで蹴りを繰り出すBAT、キバも対抗してとび蹴りを仕掛ける。

ぶつかり合う蹴りと蹴り、BATは空中を飛行できる以上キバの攻撃を届かない範囲まで飛べる。

さてどうするか? 弾かれたキバは着地と同時に作戦をたてていた。

 

 

「キバット! 銃を」『了解ッス、バッシャーマグナム!』

 

 

空間を突き破り鎖がキバの四肢や体中を縛り上げる。

鎖の中にキバが消えた時、鎖が弾け飛んで緑に染まったキバが姿を見せた。

そして砕け散ったのは鎖だけでなく空間もまた同じ、美しい月とソレを反射する水面はウェイクアップバッシャーを発動した証だった。

 

 

「ほう!」

 

 

とはいえ空中に止まるBATには湖になったフィールドに意味は無い。

キバはすぐにバッシャーマグナムをキバに噛ませて魔皇力を注入する。バッシャーバイト、その言葉と共に水のトルネードがキバを中心に発生。

向こうはショッカーの中でも実力者の筈、ならば出し惜しみはしない。キバは巨大な水球を構えてBATを狙う。

 

 

「くらえッッ!!」

 

「おっと!」

 

 

発射される水球をBATは素早い動きでかわしてみせる。

だが甘い! アクアトルネードで練成された水球は早く、そして相手をどこまでも追いかける。

今回もまた逃げるBATを水球はしっかりと追尾して追いかけていく。BATはそれに気がついたのか猛スピードで空を飛びながらケラケラと小馬鹿にしたように笑っていた。

 

 

「ヒャハハハハハ! これは面白い物だ!!」

 

 

しかしある程度で彼は満足したのかマントで自分を包みこんで水球を受ける。

しばらくは競り合いを続けるマントと水球、しかし気づいたのはマントの下から人影が落ちてきた事。

 

 

「!」

 

 

見ればそれはマントを取ったBATだった。骨組みの翼に見えるだけの物で空を飛翔して彼はゆっくりと地面に降り立つ。

彼の頭上では今もな攻めあうマントと水球が見えた、つまり彼はマントを盾にして自分だけ逃げたのだ。

 

 

「翼が無いのに飛べるのか……ッ!」

 

「アレは力の一部ですよ。マントが翼と言う意味ではない」

 

 

そう言って手を指揮を取る様にして動かすBAT、するとマントは水球を包み込むようにして連動した動きをとる。

空に浮かび上がる巨大な黒い球体、BATは手でそれを握りつぶす様にアクションを取った。

すると圧縮されるマント、バッシャーの水球が破壊されて大量の水がBATの背後に着水していった。

 

 

「!」

 

 

キバは見る。BATのマントがその姿を変えたのを。成程、元々の飛行能力はマントがあったからではなくBATその物の力だった。

マントはあくまでも彼の飛行速度を上げる、加えて彼の盾になるアイテムだったと言う訳だ。

そしてそのマントの正体は――

 

 

『キィイイイイイイイイイイイ!!』

 

 

BATの両肩に足を置いて鳴き声を上げるのは巨大な機械蝙蝠、どうやらBATは一人の人間と一体の機械蝙蝠にて構成されているらしい。

さらにこの機械蝙蝠は複数からなる合成獣だ、BATが合図を行うと無数の蝙蝠となってキバに襲い掛かっていく。

 

 

「チッ!」

 

 

蝙蝠達に向けて引き金を引くキバだが、バッシャーの連射を超えるスピードで襲い掛かる蝙蝠達には抵抗できない。

また蝙蝠達もそれなりの防御力があるらしく、バッシャーでは対処できない!

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ガルルフォームに変わるキバ、素早い動きと跳躍で機械蝙蝠達を押していく。

しかしやはり数の勝負、無数に迫る闇は次々に爪と牙で美しい青の装甲に傷をつくっていく。

 

 

「クソッ!!」

 

 

鎖がキバを縛りつけ、開放させる。

ドッガフォームに変わったキバはその重厚な鎧で襲い掛かる攻撃を全て弾き飛ばす事に成功、逆に巨大なハンマーの一撃で蝙蝠達を押しつぶしていく。

 

 

「おやおや、もう力の全てを見せてしまったのですか? 駄目ですよ、相手に手の内を簡単に晒すのは」

 

 

椅子に座るようにして空に浮遊していたBATはそれを見ると指を鳴らす。

すると一勢にキバから離れていく蝙蝠達、何だ? キバが防御の姿勢をとると次々に蝙蝠達は口から怪音波を発射し共鳴させる。

 

 

「うぐぁああああああああああああ!!」

 

 

衝撃波はキバを鎧の中から破壊していく。

あっという間に地面が削がれて倒れるキバ、ドッガの力が失われてキバフォームへ戻ってしまった。

それを空中から余裕の雰囲気で見ているBAT。

 

 

「やれやれ、この程度ですか? 何だか期待はずれですねぇ」

 

「………」

 

「戦い方が青い。子供のソレだ」

 

 

見下されているのだろう。キバはそれを感じて拳を握り締める。

 

 

(困るよなぁ、マジで……!)

 

 

思い出すのはヒーローショーで司が言った言葉、俺には才能が無い。

突飛した才能が無いから何をしても心残りが残ったなどと彼は言っていた。おいおい、ちょっと待てよ。

自分は里奈に兄にどこか劣っていると告げたじゃないか。だったら何か? 自分はそんな不満を抱えていた兄にずっとどこか劣等感を覚えていたと?

 

 

「ざけんじゃねぇええええええええええええええッッ!!」

 

「!?」

 

 

突如叫び声を上げて立ち上がるキバにBATは思わず肩を震わせる。

同時にキバの周りに浮かび上がったのは三本の光の柱。青、緑、紫の柱はキバを守る様に輝き、その光で蝙蝠達を怯ませて追い払う。

 

 

「こ、これは!!」

 

 

怯むBAT、いつの間にか周りの景色が夜に変わっている。

それだけじゃなくキバが居た場所にはいつの間にか巨大なステンドグラスが壁の様にそびえ立っていた。

一瞬で変わる景色にBATも戸惑いを浮かべていた。

 

 

「あー! もう止めた!!」

 

 

ステンドグラスを挟んだ所で立っていた亘、彼は自分が持っていた魔皇力を全てつぎ込んでウェイクアップの空間を構築する。

その証拠があの巨大なステンドグラスなのだろう。亘は残っていた僅かな魔皇力を示す正装姿、スーツの様な衣装に変わりダルそうに頭をかく。

 

 

「つまんねぇな……ああもうつまんねぇ!!」

 

 

亘はスーツのポケットに手を突っ込んでふんぞり返る。

いろいろつまらない事で悩んでいたり、劣等感を抱えていたり。どうでもいい、もうどうでもよくなった。

兄が何だ、他が何だよ! 大ショッカーが何なんだよ!! どいつもコイツも見下した様な目をしていたと思ったが、どうでもいい。むしろこっちが見下してやる!!

 

 

「ボクはボクだ!! くだらねぇマイナス感情なんて糞食らえだぜ!!」

 

「――ッ、フフ……! ヤケになったか?」

 

 

いや、違う。亘は手を出してビシッと横に払う。

それを見て背後に構えた三本の光の柱が、明確な人の姿を現した。

亘はステンドグラスの向こう側にいるBATを睨みつけて、直後ニヤリと笑う。

 

 

「なあ、最強って誰のことだと思う?」

 

「亘様でございます」

 

「うっし、さすが!」

 

 

緑色の光の中から現れたのは黒いゴスロリドレスを着た者、彼は亘に跪き自分の思いを述べる。

それを聞くとニヤリと笑って頷く亘、彼はまたも自問を混じた質問を口から放つ。

 

 

「頂点に立つべき人間ってのはどんな奴だろう」

 

「亘様、以外、なし」

 

「はいはい来た来た!」

 

 

燕尾の執事服の男が跪いて言い放つ。

それを聞いてテンションを上げていく亘、彼は拳をグッと握り締めて闇を強く睨んでいく。

 

 

「ボクはこんな所で負けない。だろ?」

 

「その通り、亘様はこんな場所で手こずるお方ではない」

 

 

スーツを着崩した青の青年が亘に告げる。

亘はそれを聞いてスッと雰囲気を変えて静かに言い放つ。目の前に迫るのは強大な闇、恐怖を具現し絶望の象徴たる存在。

しかし問題は何も無い、なぜならば自分の背後には彼等がいるからだ。

恐怖に呑まれるな、自分は強い、逆に相手を飲み込むんだ!

 

 

「恐怖を切り裂く刃よ」

 

 

その言葉と共にスーツの青年が青きウルフェン、ガルルの姿に変身する。

 

 

「絶望を砕く紫電の鉄槌」

 

 

その言葉と共に燕尾服の青年が紫のフランケン、ドッガの姿に変身する。

 

 

「闇を撃ち抜く弾丸」

 

 

その言葉と共にゴスロリの少年が緑のマーマン、バッシャーの姿に変身する。

 

 

「汝等の主君の名を示せ!」

 

 

適当に決めた彼等の真名らしい物を叫び、手を上げる亘。

ステンドグラスの光は蝙蝠達を撥ね退ける力、亘はそれを見つめ叫んだ。

すると跪く三体の力は顔を上げて亘を、仕えるべき主君を見る。テレビ局でも行った配下への誓い、それは彼を頂点とする誓い。

 

 

「「「聖亘様です!!」」」

 

「うっし!」

 

 

亘はニヤリと笑い握り締めた拳を構える。そうだ、彼らは自分に期待を向けてくれている。

だったらこんなつまらない所で、つまらない相手に負ける理由がどこにあるのか。

 

 

「成る程、随分手の込んだ自信の付け方だ」

 

「そうだ、ショッカーなんてボクの相手じゃないんだよ!!」

 

 

潰す! 亘はそう言ってBATを指差した。

 

 

「仮面ライダーの力の前にひれ伏せ――ッッ!!」

 

 

亘は大きく振りかぶって、その拳を思い切りステンドグラスの壁に打ち付ける!!

 

 

「変身!!」『行くッスよみんなーッッ!!』

 

 

粉々になるステンドグラス。

それらの破片は一勢に亘の身体へと収束されていき、同時に三体の配下は亘の身体に光となって一つとなった。

眩い光と共に現れたのは大量の鎖、それは輝く亘の身体をがんじがらめにして縛り上げる。亘はその自らを縛る拘束を己の力にて引きちぎる!

 

 

「!」

 

 

BATの前に再び現れたキバ、既に里奈から受け取った魔皇力とアームズモンスターの力を全て合わせたドガバキフォーム。

彼はゆっくりと月の光をバックにBATの方へと歩いていく。

 

 

(まだこんな力が……!)

 

 

蝙蝠達を向かわせるBAT、しかしドッガの装甲の前には全ての攻撃は意味を成さない。

すぐに音波攻撃のフォーメーションへシフトする蝙蝠達だが、キバは既にアクションを起こしていた。

蝙蝠達はいつの間にか巨大なシャボン玉の中に閉じ込められていたではないか。

 

バッシャーの力でつくりあげた結界、さらにキバはガルルセイバーのハウリングショックを発動して衝撃波を発生させる。

音撃はシャボンの結界の中で反響して威力を強化、次々に蝙蝠達の音波を消し飛ばして爆発させていく。

 

 

「なっ!」

 

 

驚くBATを無視してドッガハンマーを振りかぶるキバ、彼は地面に広がる大量の水に向かってハンマーを振り下ろす!

その衝撃で大量の水しぶきや波が発生しキバの姿をその中に隠した。そしてその水しぶきの中でキバはドッガハンマーを思い切り上へ投げる。

そこに注意を取られるBAT、キバはその隙にガルルの力を発動して音速のスピードへと変化。バッシャーの力で一気に水を滑り跳躍、BATの背後を取る。

 

 

「落ちろぉおおおおおおッッ!!」

 

「グッッ!!」

 

 

ガルルセイバーで叩き割る様に切り下ろすキバ。

BATは衝撃と共に湖へ着水、巨大な水しぶきをあげて苦痛の声をあげた。

さらにキバは倒れるBATへとび蹴りを命中させて彼の身体を衝撃で跳ね上げらせる。

そこへ連続で刻み込むガルルセイバーの斬撃、下から払い、上から振り下ろし、左右に振りぬく青き斬光。

 

 

「ぐあああッッ!!」

 

 

止めにハウリングショックでBATを吹き飛ばす。

水面を切りながらキバとの距離を取られたBAT、彼はいきなり加速したキバに対処する事はできなかったのだろう。

しかし既に能力は把握した。彼は再び蝙蝠を生成するとマントに変えて優雅に立ち上がる。

 

 

「クッ! 中々やり――」

 

 

言葉を言い終わる前にBATの目の前に巨大な水しぶきがあがる。見ればキバが投げたドッガハンマーが振ってきたのだ。

つまりキバはBATを吹き飛ばす位置を計算していた事になる。そして垂直に突き刺さるドッガハンマー、そこには巨大な目が。

攻撃かと構えていたBATは当然その目を――トゥルーアイを見てしまう!

 

 

「―――ァ」

 

 

ステンドグラスに変わっていくBAT、キバはバッシャーマグナムを連射しながら彼へ歩み寄っていく。

蓄積されるダメージと共にステンドグラス化は進んでいく。まさかコレほどとは、BATはワナワナと拳を震わせながら意識が薄れていくのを感じた。

数十秒後完全にステンドグラスに変わるBAT、同時に彼の目の前に来てハンマーを回収するキバ。彼は大きく振りかぶるとそのまま全力を込めた一撃をBATに叩き込む!

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「――――」

 

 

天高くBATを空に打ち上げたキバ、彼は同時にガルルセイバーに魔皇力を込めて投擲しておいた。

空中でセイバーがBATに突き刺さると、それは姿を変えて巨大な月の結界へと変わる。

ウェイクアップ空間に輝く二つの満月、BATは月に磔にされて動きの全てを封じられた。

 

 

「こ、こんな力が――ッッ!!」

 

「覚えておけよ。世界を壊す事は、ボクを相手にする事だ」

 

 

そしてボクは、ショッカーを潰す者。

 

 

「お前等が勝てる道理なんて、どこにもないんだよ!!」

 

 

飛び上がるキバ、既にヘルズゲートは解放されている。

彼は両足を突き出して魔皇力を解放、巨大な足となって月に飛んでいく。

 

 

「砕けろォオオオオオオオオオオ!!」

 

「ぐああああああああああああ!!」

 

 

強化ダークネスムーンブレイクが月に炸裂して粉々に吹き飛ばす。

地面に叩きつけられるBATと元に戻る空間、キバもまた魔皇力を使いすぎたのか膝をついて呼吸を荒げていた。

 

 

「………」

 

「ふ、ふふ――ッ!」

 

 

よろよろと立ち上がるBAT、キバはその仮面の中で歯を食い縛る。

今の自分に出せる最大の攻撃を行ったつもりだがBATを倒す事ができなかった。

化け物め、キバは仮面の奥で汗を浮かべながら彼を睨んでいた。実力の差と言う物なのか?

対してマントを翻すBAT、まだ余裕をどこかに見せて彼は笑っているじゃないか。

 

 

「今回は……! これで、終わりにしましょうか」

 

「……ッ」

 

「その方が、お互いにとってよさそうだ」

 

「……ああ。そうかもね」

 

 

BAT軽く頷くと、地面を蹴って空に飛び上がる。

 

 

「………」

 

 

何も言えないキバ、五つの生命を合わせるドガバキフォームは身体に掛かる負担も相当な物だ。

もって五分が限界、それを超えれば強制的にキバフォームへと戻ってしまうだろう。

そしてBATには四つのフォームいずれも勝てない結果に終わった、既に三分は経った現在――

 

 

「貴方とはいずれまた会いそうな気がします」

 

「ハッ、不本意だ」

 

 

ではまたいつか、そう言ってBATはあっという間にキバの前から姿を消す。

変身を解除した亘は、いつまでも彼が飛んで行った方向を見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「ウフフ!」

 

 

キバーラのサーベルを軽やかな動きでかわしていくSNAKE、かと思えば彼女は急に脚を伸ばして蛇のようにキバーラを撃つ。

もちろん本当に足が伸びている訳ではない、彼女はバレエの動きを中心とした蹴り技で変則的に距離を詰めて攻撃を行う。

まさにその動きは"スネーク"と名乗るに相応しい。

 

 

「えいッ!」

 

「おっと」

 

 

キバーラの突きを背中を反らして回避するSNAKE、さらに彼女はその反動で脚を上げキバーラの顎を打ち抜く。

よろよろと後退していくキバーラとY字開脚で余裕を示すSNAKE。

 

 

「大丈夫? フラフラよ」

 

「ムッカぁぁああ!」

 

 

キバーラはサーベルを握り締めて走り出す。

彼女が繰り出す突きはかなりのスピードだった、そもそもキバーラはスピードタイプに分類されるステータスと言っていい。

しかしSNAKEはその突きを冷静にかわしていった。顔の下部分が露出している彼女は、ニヤリと笑っているのがよく分かる。

 

 

「左、危ないわよ」

 

「!」

 

 

その言葉通りSNAKEはキバーラの左に向けて右足で蹴りを放つ。

すぐに彼女は左にサーベルを構えて防御を行う。速さは問題ない、しかしSNAKEはその瞬間跳ね上がりもう左足でキバーラの右を狙った。

これには対処できずに固まってしまうキバーラ、結果的に彼女は胴体をSNAKEの両脚で挟まれる形に。

 

 

「敵の言う事を信じるなんて、貴女本当に純粋なのね」

 

「ッ! きゃ、きゃあああっっ!!」

 

 

何が起こったのか分からなかった。

視界がグルンと一回転したかと思えば激しい痛みが走り、自分は地面に伏している。

そして背中には馬乗りになっているSNAKEが。要するに彼女は脚で胴体を挟まれた後にSNAKEに投げ伏せられたと言う訳だ。

 

 

「は、離してください!!」

 

「はいはい」

 

 

SNAKEは瞬時立ち上がると片足に体重を乗せて思い切りキバーラの背中を蹴って跳躍する。

ピンポイントに襲い掛かった衝撃にキバーラは苦痛の声すらあげられず呼吸を止めて悶えた。

 

対して空中をクルクルと回転し、そのままフワリと街灯に着地するSNAKE。

彼女の服はピッチリとしたボディラインを強調する物であり、彼女の細身の身体と長い脚が相まって本当の蛇に思えた。

 

 

「よっと!」

 

「!!」

 

 

立ち上がるキバーラ目掛けそのまま一気に跳躍するSNAKE、彼女はとび蹴りをキバーラに仕掛けた。

当然キバーラもそのまま蹴りを受けるつもりなどない、弾き返そうと武器を振るうがその時またもニヤリとSNAKEの唇が釣りあがる。

 

 

「なんてね」

 

「えっ!」

 

 

カシュン! そんな音が聞こえると空中でSNAKEの軌道が変わる。

彼女はとび蹴りを放った筈なのに空中でバックステップ、そのおかげでキバーラの振り払いは虚しく空を切る。

そして再びカシュンと空気が圧縮して弾ける音、すると後ろへ跳んだ筈のSNAKEは再び空中で起動を変えてとび蹴りの続行を選択した。

 

 

「アアッッ!!」

 

「うふっ! フフフフ!」

 

 

どうやらSNAKEは空中で己の行きたい方向に移動ができるらしい。

一度か二度かは知らないが彼女の変則的な動きを後押しするアシスト機能にキバーラはまんまと引っかかってしまった。

そしてその能力は空中だけに止まらない。次はバシュンと音がしてSNAKEは地面を文字通りスライドして移動する。

さらに加えて高速回転、地面を滑りながら連続でキバーラに回し蹴りを当てていった。

しかも彼女は回し蹴りの途中で姿勢を低くしたり高くしたりする事でキバーラの防御を崩しに掛かる。

 

 

「くあっ!」

 

 

結果、キバーラは蹴り飛ばされて茂みの中に消えていく。

涼しげな表情と声で笑うSNAKE、彼女は髪をかきあげてヤレヤレと笑った。

 

 

「まだやるの? 正直、そろそろ飽きてきたわ」

 

「う、うぅぅッッ!」

 

 

ヨロヨロと立ち上がるキバーラ、彼女はフラフラだがSNAKEはノーダメージである。

双方共通する特徴として攻撃のスピードは速いが、防御力は低めと言う物がある。

そしてSNAKEはそのスピードに数々のアシスト能力を所持してカバーを行っている。

 

 

「もう諦めたら? 貴女、私には勝てないわよ」

 

 

確かにキバーラの戦闘経験の少なさではSNAKE程の上級怪人には勝てないかもしれない。

現に戦いが始まってまだキバーラはまともなダメージを彼女に与える事さえできないのだから。

 

 

「ですね……キバーラ!!」

 

『おっけー!』

 

 

しかし、それは夏美の力だけではの話。

彼女はサーベルを腰にしまうとベルトからフエッスルを取り出してキバーラに噛ませた。

鳴り響く美しい音色、神々しい中に怪しさを秘めた音色――

 

 

『ドロロス・ローブ!』

 

 

藍色の羽衣がキバーラに付与されえ天女の様な姿に変わる。

SNAKEはまだこの効果を知らない、故に複雑な動きながらも近づいてきてしまった。

すぐにキバーラを蹴り飛ばそうとする彼女、しかしその瞬間キバーラの姿が消失して今度はSNAKEの方が虚しく空ぶる事に。

 

 

「!」

 

 

どこへ? SNAKEが呆気に取られると同時に背中に無数の衝撃が。

見ればキバーラがいつの間にか背後を取って、連続突きを行っているところだった。SNAKEは一瞬で旋回すると回し蹴りを行う。

しかし既にキバーラの姿はなく、SNAKEが捉えたのは彼女の幻影だった。

 

 

「そこです!」

 

「ッ!」

 

 

上空斜め上からキバーラが現れてサーベルをSNAKEの肩に突き入れる。

火花をあげて仰け反るSNAKE、彼女が辺りをみると既にキバーラの姿はどこにもなかった。

成程、爪を噛んで不快だと表情を歪めるSNAKE。どうやら向こうも向こうで厄介な能力を所持しているらしい。

おそらく幻影、透明化、相手を惑わす能力に長けた力というわけか。

 

 

『ゴースト族が魂を込めて作った一品、なめないでほしいわね』

 

 

その言葉を聞いてフンと鼻を鳴らすSNAKE、彼女はその仮面の目を光らせると何も言わずに構える。

すると瞬間彼女は何も無い場所へ飛翔して蹴りを食らわせる。普通ならばソレは意味の無い行動に思えるが――

 

 

「きゃあ!」

 

「ごめんね、こういう力も持ってるの」

 

 

そこには透明になったキバーラが潜んでいて、SNAKEに蹴り飛ばされ彼女は地面に倒れる。

SNAKEはその視界に存在する物体を全て示す事ができ、目で確認した相手を蹴る場合に能力を無視する事が可能なのだ。

まさに相手は蛇に睨まれたカエル。キバーラのドロロスローブもまた例外ではない、彼女が消えていようともSNAKEが力を発動すればどこにいるかは見えてしまうのだ。

 

 

「だったら、これはどうですか!」『ザッパーヒール!』

 

 

キバーラの四肢に装着されるブレード、彼女は走り出してSNAKEに肉弾戦を挑む。

どちらも踊るようにして攻撃を繰り出す為に演舞の様な戦いが繰り広げられる。

しばらくはSNAKEに食い下がっていたキバーラだが、やはりセンスはまだ足りない様で徐々に押され始めてしまう。

 

 

「もら――ッ!」

 

 

捉えた! SNAKEが踵を振り下ろすが――

 

 

「!?」

 

 

地面の中にキバーラが消える。

何だ!? 彼女が怯んで動きを止めると、水しぶきを上げて地面からキバーラが飛び出してきた。

 

 

「きゃっ!」

 

 

SNAKEの体からダメージを受けた証拠の火花が散る。倒れる彼女が見たのは下半身が魚の様に変わったキバーラだった。

彼女はそのヒレと手にもったサーベルで自分を攻撃したと言う事だ。マーメイド族の力を集めた一品、この美しさを破るなどはそう簡単には許さない!

 

 

「やるじゃない、でも無駄!」

 

 

力を発動させるSNAKE、地面を泳ぐキバーラを彼女はしっかりと確認して踵を振り下ろしていく。

その一撃が直線上にキバーラを捉えたとき、彼女にダメージを与える事ができるのだろうが――

 

 

「えいっ! えいえいえいえいえい!!」

 

「クッ! 鬱陶しい!!」

 

 

SNAKEは素早いキバーラを捉える事はできない。

さらに地面から顔をだした彼女はサーベルやヒレで次々とSNAKEにダメージを与えていく。

SNAKEも防御力は高くない、最初は余裕を見せていた彼女の表情から遂に笑みが消えた。

 

 

「なんなのよ!!」

 

「ウェイクアップ!!」

 

「!?」

 

 

怒りの叫びを上げると同時に弾け跳ぶ空間、見れば美しいセルリアンブルーの月がSNAKEを照らす。

さらにいつの間にかあたりは湖の様に変わっており、彼女の胸まで水に覆われているじゃないか!

 

 

「そんな!」

 

 

水の中ではSNAKEの動きが大きく鈍る。

一方で必殺技を発動させたキバーラ、全てのヒレが光り輝き、彼女は勢い良く月に向かって跳ね上がった。

光と重なるキバーラ、彼女はそのまま水面に思いきり身体を打ち付けて急旋回、その勢いで水の斬撃を発射する。

 

 

「シュトロームエッジ!!」

 

「くァアアアアッッ!!」

 

 

元に戻る空間、大量の水と共にSNAKEは地面に打ち付けられた。

対して華麗に着地するキバーラ、どんなモンですかと彼女に胸を張る。

 

 

「私一人じゃ弱いかもしれませんけど、この力は一人のものじゃないんです!!」

 

 

ゴースト族、マーメイド族、そしてまだ見せてはいないがギカント族、ホビット族、ゴブリン族の伝統品。

彼らの思いが詰まった武器を使う以上そう簡単には負けられないのだ。それに彼女には前回SNAKEに妨害されて敗北した苦い思いがある。

 

 

「人を見下している様な貴女に、私は絶対に負けません!!」

 

「クッ!!」

 

 

新たなるフエッスルを発動するキバーラ、ホビット族とギガント族の技術を合わせた武器。

その名も――

 

 

『ヒュース・ウィップ!』

 

 

真っ白な剣がキバーラの手に装備される。

サーベルとの二刀流で構えるキバーラ、このヒュースウィップだが文字通りただの剣ではない。

要するに蛇腹剣、キバーラが剣を振るうとそれが鞭と変わりSNAKEに襲い掛かる。さらにこの鞭、打った部分が凍りついていくのだ。

先ほど水の一撃を受けたSNAKEにはより一層効果が上乗せされる。走る痛みと冷気に苦痛の声をあげるSNAKE。

 

 

「うおおおおおおおおおっっ!!」

 

「チィイッッ!!」

 

 

鞭の範囲はかなり広く、自由自在に振り回すキバーラにSNAKEは近づけない。

しかも鞭を振るう毎に地面が凍りついていく。恐らく彼女は地面を凍らせる事でスリップを狙うのだろう。

 

 

「残念ね、もう見切ったわ」

 

「!!」

 

 

だが、そもそもSNAKEの靴は強力な滑り止めがついており氷の上でも何の問題も無く移動できる。

さらにスライド機能、彼女は迫る鞭を蹴りで的確に弾き返してキバーラへ一気に距離を詰める。

すぐに鞭を剣に変えて二刀流で応戦するキバーラ、しかし激しい蹴りの前には――

 

 

「きゃ!」

 

 

SNAKEはまず回し蹴りでウィップを弾く。怯んだキバーラ、SNAKEは急旋回を行い逆回し蹴りでサーベルを弾く。

武器が無くなったキバーラ、後退していく彼女の両肩をしっかりとSNAKEは掴んで笑った。

 

 

「ごめんなさい、誤解していたわ。貴女なかなか強いじゃない」

 

「うっ!」

 

 

必死に逃れようとするキバーラだが、SNAKEが彼女を放す事は無かった。

そのままSNAKEは飛び上がりキバーラの頭に手を置いて逆立ちを行う。何を? 必死にもがくキバーラ、しかし遅い。

SNAKEは振り子の様に勢いをつけてキバーラの胴に蹴りを撃ち込む!

 

 

「―――カハッ!」

 

「ふふふ! おしまいね」

 

 

きりもみ状に彼女は何度か地面にバウンドして動かなくなった。正確には苦しそうに呻いており、立ち上がるだけの力はなさそうだ。

着地して身体についた霜や水滴を払うSNAKE、彼女は再び余裕の笑みを浮かべるとボロボロになって倒れているキバーラを見る。

 

 

「残念だったわね。やっぱり貴女、私に勝てない運命なのよ」

 

「―――私は」

 

「?」

 

 

キバーラは顔だけをSNAKEに向けて口を開く。

 

 

「私は……絶対に負けません!」

 

「はぁ、諦めが悪いのね」

 

 

だったらもう終わりにしましょうと、SNAKEは地面を蹴って跳び上がる。彼女はキバーラに止めを刺すつもりだった。

ドリルの様に高速回転して相手を貫く必殺キック、"スパイラル・スヴァスティカ"を発動したSNAKEはキバーラへと――

 

 

「待ってました!!」

 

「!?」

 

 

急に立ち上がるキバーラ、彼女はまだ立てる力を残していたのだ。

さらに彼女は新たに発動した武器を構えてフルスイング、SNAKEの必殺技に真っ向から勝負を挑んだ!

キバーラ第四の武器、その名は――

 

 

「馬鹿な!! きゃああああああああああ!!」

 

 

キックを打ち破られ絶大な衝撃に吹き飛ばされるSNAKE、彼女が見たのは巨大な斧だった。

ゴブリン族が作り上げた巨大な真紅の斧、"グオーグ・アックス"は文字通り一撃必殺の威力を備えているのだ。

しかし欠点としてはキバーラが持つには重量がある事、加えてドッガハンマーのようにキバーラ自身の装甲が厚くなる事はないので非常に使いどころに困る武器だった。

だからこそ彼女はソレを当てるタイミングを自分で作り上げた。それは彼女が自分を仕留めようと必殺技を発動する事!

 

 

「勝利を確信した貴女はきっと油断する筈! それにあの技ならすぐには解除できないでしょう!!」

 

「カ――ハァ!!」

 

 

ベルトから離れた『キバーラ』がサーベルを拾ってくれた。

同時にキバーラの背中に生える光の翼、彼女は反撃に自らの必殺技を発動してSNAKEに向かっていく。

吹き飛ばされたSNAKEはダメージが大きいのかキバーラが向かって行っても彼女は動けない!

 

 

「ハァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

逆手にサーベルを構えてキバーラは音速となる。

その状態で相手に一撃を与える"ソニックスタッブ"、もらった! キバーラはSNAKEに――

 

 

「―――ッぅ!」

 

 

その時SNAKEに意識が戻り彼女は空中で体勢を立て直す。向かってくるキバーラを発見して、彼女は瞬間的に横へ飛ぶ。

結果一撃目は『かする』だけで済んだのだが、キバーラはすぐに旋回してもう一撃を浴びせようと試みた。

だが既にキバーラの動きを読んで踵を上げていたSNAKE。

 

 

「「ハァアアアアアアアッッ!!」」

 

 

重なる二人の声。そして――

 

 

「ぐっ! きゃぁあッッ!!」

 

「―――っ」

 

 

キバーラのサーベルがSNAKEにあと僅かで届いた所で彼女はSNAKEの踵落としを受けてしまい墜落する。

地面に叩きつけられるキバーラと少しよろけながら着地するSNAKE、やはり最初に受けたアックスのダメージが響いている様だ。

もしあのままソニックスタッブを受けていたならば危険な状態だったが何とかソレは回避する事ができた。

しかも反撃の一撃をしっかりと決めたSNAKE、今度こそキバーラは動けないはず。

 

 

「フフフ!」

 

「……うぅッ!」

 

「フフフ! アハッ! アハハハハ!」

 

 

勝利を確信したのか笑い出したSNAKE。

 

 

「アハハハハハハハハハ!!」

 

「………」

 

 

だが気のせいだろうか?

何か様子がおかしいような。それを感じていたのは他でもない、SNAKEだった。

 

 

「アハハハハハハ! な、何を――あはは! 何をしたッッ!! アハハハ!!」

 

「――――」

 

 

SNAKEは勝利を確信して笑ったのではない。

 

 

「笑いの――ツボ!!」

 

「!?」

 

 

そう、彼女は強制的に笑わされている。キバーラはそう言いながらヨロヨロと立ち上がった。

彼女はソニックスタッブの一撃目でかすった訳だが、その時にSNAKEの首にサーベルの柄で刺激を与えていたのだ。

得意とする笑いのツボを押すと言う攻撃を。

 

 

「そ、そんな! そんな馬鹿な! アハッ! あははは!!」

 

 

必死に構えようとするSNAKEだが笑みがこみ上げてきてまともに立つ事ができない、その間に完全に立ち上がって構えるキバーラ。

もう完全にココからは気合だった、キバーラは自分の胸にある思いを全て込めて叫び声をあげる。

消し飛ぶ空間、巨大な月が輝くフィールドへ辺りは姿を変えた。キバーラは持っていたサーベルを投げ捨てると両手を前にかざす。

そこから桃色の光が手から放たれてSNAKEに命中、すると巨大な月が現れてその中にSNAKEを閉じ込めた。

 

 

「アハッ! あはははは! そ、そんな! あははは!!」

 

 

抵抗しようにも力が入らない。

その隙に跳び上がるキバーラ、彼女は月に重なりあうと飛び蹴りを放った!

 

 

「セイクリッド! ムーンブレイク!!」

 

「キャアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

キバーラは月に閉じ込めたSNAKEをそのまま蹴り飛ばす! 粉々になる月と共に吹き飛ぶSNAKE。

同時にキバーラも度重なる必殺技の使用とダメージからくる疲労で限界を向かえ、その場に倒れた。

 

 

「ふ、フフ! こ……んっかいは、貴女の勝ちでいいわ。うふふ……!」

 

 

蹴りを受けた部分を押さえて苦しそうに立ち上がるSNAKE、まだ少し笑みを浮かべながら彼女は徐々に後退していく。

正直気を抜けば崩れ落ちそうになる状態、今すぐに撤退しなければ危険という判断だった。

SNAKEはキバーラに背を向けると、そのままフラフラと消えていくのだった。

 

 

「も、もう動けません……」

 

『大丈夫?』

 

 

変身が解除される夏美、キバーラに笑みを浮かべながら彼女は地面に伏していた。

何とか勝利したものの、完全な勝利とは少し言えない。その事が悔しいのか夏美はすぐに唇を噛んで苦笑した。

 

 

『いいんじゃなーい? 上等よ、上等』

 

 

だといいんですけど、キバーラの言葉に安心した様に夏美は笑う。

しかし本当に疲れた、彼女は立ち上がるだけの力も残っていない。けれども勝ちは勝ちだ、それを思い夏美は目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 

エンジンを全開にして向かっていく二人、そしてバイクがぶつかろうと言う所で二人は同時に上へ跳んだ!

 

 

「ハァッッ!!」

 

「ラァアッ!!」

 

 

マシンディケイダーとシュヴァルツが正面同士でぶつかり合い爆発する。

データの残骸となって砕け散るマシンディケイダーと、闇の残骸となって砕け散るシュヴァルツ。

そしてその上空では互いに拳を打ち付けあう二人の男が見えた。

 

 

「クッ!」

 

「ッッ!」

 

 

ダメージを受けて地面に落下する両者、立ち上がるのもまた二人同時だった。

COBRAはその豪腕を振るいディケイドにダメージを与えようとするが、ディケイドは攻撃を地面を転がってかわすとライドブッカーを銃に変えて引き金を引く。

 

 

「お前はこの試練が全て無駄だと言ったな!!」『アタックライド・ブラスト!』

 

「ああ、真実だ」

 

 

数発はCOBRAに着弾した弾丸だが、彼はすぐに闇の暴風を発生させてディケイドの弾丸を無効化する。

それを見ると地面に弾丸を命中させるディケイド、小規模の爆発が起きて爆煙が彼の姿を隠した。

 

 

「今ココでお前等が戦う事を伸ばしたとして、それは死への延長でしかない」

 

「そうならない為に、俺たちは戦うんだろうが!!」『アタックライド・スラッシュ!』

 

 

剣を重ね合わせて爪の様に変えるディケイド、彼はそのまま煙の中から飛び出して切りかかる。

咄嗟に腕を重ねる事で何とか防御に成功するCOBRA、ギリギリと押し合いが開始される。にらみ合う両者の仮面の下では瞳が光っているのが分かった。

 

 

「少し前まで何の個性も取り柄も無い、モブキャラのお前達が力を与えられて調子に乗る」

 

 

滑稽だと思わないか?

少し力を付けただけで、持て囃されただけで、自分が主人公だと錯覚する。

物語の主要キャラだと錯覚してしまう。

 

 

「だが違う。お前達は、どこまで行っても無力な引き立て役にしか過ぎない!」

 

 

ディケイドとしてはCOBRAの言葉は何よりも重いものだ。彼に何があったかは知らないが、恐らく彼の言っている事は実体験を元にした真実であろう。

 

 

「歴史は繰り返されるだけだ。今からでも遅くない、諦めろ!」

 

 

押し合いに勝利したのはCOBRAだった。

彼はディケイドの剣を弾くと、がら空きになった胴体に掌底を打ち込んだ。

収束し弾ける闇、ディケイドは大きく吹き飛んで欄干の下へと落ちていく。

 

 

「そうだったとしても、俺たちは戦う事を選んだんだ!!」

 

「!」

 

 

背後から声が聞こえる。落ちたはずのディケイドが剣を構えてCOBRAの背後をとっていたのだ。

分身か? やられた、COBRAは舌打ちをして鞭を操作、ディケイドの腕を絡め取るとそのまま上空へ投げ飛ばす。

残念だったな、彼はそう言って拳を握り締める。

 

 

「死ぬ選択を取ったのか、本当に馬鹿だな。愚かとしか言いようが無い」

 

「グッ!!」

 

 

アッパーがディケイドの腹部を貫く。ディケイドは苦しそうに、しかしガッシリと彼の腕を掴んで抵抗を示した。

舌打ちを放つCOBRA、何が彼をそこまでさせるのか。正義? そんなふざけた物で彼は自分や周りを犠牲にするというのか。

 

 

「それとも試練者として選ばれたという使命感か? ハッ、代わりはいくらでもいるんだぞ! 君達が死んでも、ゼノン達はすぐに新しい試練を開始するだろう」

 

「かもな……ッ!」

 

「それを分かっているなら尚更馬鹿だな! 使い捨ての電池になる人生を選ぶとは!」

 

 

そこでデータとなり消滅するディケイド、これもまた分身だったのだ。流石にこれには驚くCOBRA、どこだ? 本物は――!

すると先ほどの爆煙が晴れた所から銃を構えているディケイドが見えた。既にファイナルアタックライドを発動していたらしく、巨大な弾丸がCOBRAに向けて発射される。

 

 

「グッッ!!」

 

「でも俺達が戦う事で、少しでもショッカーの勢力が削れるならそれでいい!!」

 

 

銃弾を受け止めるCOBRA。

ディケイドに何があったのかは知らないが、あきらかに前回よりもパワーが上がっている。

その事に焦りを感じつつ耐えるCOBRA、だが追撃で放たれたディケイドの拳で限界を向かえ彼は吹き飛ばされる。

 

 

「うぐッ! ――ッッ」

 

 

倒れるCOBRA。ディケイドは呼吸を荒げ、拳を握り締めて自分を見ている。

自分が倒れているからなのだろうが、酷く見下されたような気がしてCOBRAの心に激しい怒りが燃え上がった。

 

 

「大ショッカーの兵力は増えていく。君達が減らした所で意味なんてない!」

 

 

立ち上がるCOBRA。

ディメンションブラストもガードでダメージが減っていたのか、彼にはまだまだ余裕が見える。

 

 

「それでも、戦わないよりはマシだ!!」

 

 

走り出す両者、ディケイドはライドブッカーを剣に変えて無茶苦茶にCOBRAへ切りかかっていく。

それを防御し的確な反撃ルートを見出すCOBRA、だがディケイドもまた彼の攻撃を剣かカードホルダー部分で受け止めていく。

何も考えていない様に見えて、かなり計算された乱舞だったと言う訳だ。

 

 

「よくある"やってみなくちゃ分からない"って奴かな? 一番イラつくんだよ……そう言うのがッッ!!」

 

 

COBRAは蹴りや拳でどんどんとディケイドを押していく。だがディケイドは必死に食い下がって反撃を行ってきた。

どこまで行っても諦めないつもりなのか、それがよりCOBRAの心を燃え上がらせる。

ディケイドの姿勢は『彼』に似ているのだ、いつも笑って、いつも諦めなかった良空に!

 

 

「悪いな! 俺もそれは嫌いだ! だいたい分かるだろ、やる前から!」

 

「だったら自分の弱さも分かるだろ!」

 

「そうだな、だけど俺は諦めないッッ!!」

 

 

大きく舌打ちを放つCOBRA、そこまで分かっているのに。

 

 

「弱いくせに。何故、諦めないんだ」

 

「弱いからだ!!」

 

 

強くなりたいんだよ俺達は、弱いまま終わりたくないんだよ!

ディケイドは遂にCOBRAの攻撃を打ち返して反撃の一閃を刻み込んだ。

よろけるCOBRA、ディケイドは拳を握り締めて彼の顔面にストレートを叩き込む!

 

 

「自分を犠牲にしたとしても、皆変わりたくて戦ってる!」

 

 

自分の為に、他者の為に、世界の為に。

確かに自分達が選ばれたのは偶然だったのかもしれない、次があるのかもしれない。

だけど戦い続ける事を決めたのは偶然なんかじゃなく、たまたまなどでもない。

 

 

「自分達がそう決めた! 俺たちの意思だ!!」

 

 

剣を振り上げるディケイド。

そう、たとえこの先に自分達が全滅しようが。大切な誰かを失おうが――

世界を守れなかったとしても今こうして戦う意思を固めた自分達の想いは無駄なんかじゃない。

ただの高校生だった自分達が、今こうして自分の世界を守ろうと思えたのは数々の出会いと成長があったからだ。

それを大切にしたい、そしてそれを無駄にはしたくない。たとえ待っている未来が悲しみだったとしても必ずそれを壊せると信じられるのはライダーの力があるからこそだ。

そのライダーの力を手に入れられたのは、自分一人じゃ無理だった。みんなそう思っている筈だ!

 

 

「だから俺たちの試練は無駄なんかじゃないんだ!!」

 

「ッッ!!」

 

 

振り下ろされたディケイドの剣をCOBRAはその体で受ける事になる。

走る火花、彼は苦痛の声をあげて後退して行った。なるほど、COBRAは傷を抑えて少しだけ笑う。

どうやら力を上げているのは嘘ではないらしい、しかし――

 

 

「気に入らないな、そこまで死にたいなら今ココで殺してやるよ!」

 

 

急に旋回するCOBRA、彼は鞭を振るいディケイドに連続で攻撃をしかけていく。

長いリーチに高い攻撃力、ディケイドは思わず動きを止めてしまった。

その隙に再び走るCOBRA、彼は蹴りでディケイドのライドブッカーを弾き飛ばすとその顔面をわしづかみにする。

 

 

「しまッ! ぐぅううッ!!」

 

「正義だの何だのと。お前等は所詮観測者共の玩具でしかない、そんな分際で何を語れるんだよ」

 

 

その現実を教えてやる。COBRAはそのままディケイドの頭を掴んで下に飛び降りる。

高所からの勢いを加えてディケイドの頭を地面に叩きつけるCOBRA、衝撃と痛みがディケイドの脳に直接打ち込まれたようだ。

しかも彼は能力で痛覚補正を解除している。ディケイドはそのあまりの衝撃に意識を失って意識を失うのだった。

 

 

「フッ、所詮そんな物さ……」

 

 

COBRAは笑みを浮かべ、踵を返すとゆっくり歩き出す。

所詮正義だの何だのと吼えていたが、やはり力の前には全て飲み込まれいく夢物語にしか過ぎない。

『彼』も、そう彼だって強かった。しかし結果は力に負けて死んでいった。正義に燃える奴ほど早死にする。悲しい現実だ――

 

 

「待てよ――ッ! まだ終わってないぜ……!!」

 

「!!」

 

 

背後から最も耳障りな声が聞こえてCOBRAは振り返る。そこには素早く意識を取り戻してコチラを見ているディケイドがいた。

一瞬意識を失った彼は、重なり合う10の激励にて目を覚ました。お前が眠る場所はココじゃない、そうだろ?

 

 

「COBRA、お前だって……ライダーが好きだった筈だ」

 

「………」

 

「初めて会ったときにお前はそう言ったよな」

 

 

司にはCOBRAが過去にどんな想いをしたのか知らない。彼がどんな経緯を経てショッカーに入ったのかも分からない。

分かる事はただ一つ、彼は自分と同じライダーが好きだった試練者だと言う事だ。

 

 

「お前も俺の事は知らないと思うけど、俺が目指す正義は分かるだろ?」

 

「……ああ」

 

 

分かる。自分もその正義が好きだった、自分もその正義に憧れていた。

だけどなれなかった! それだけじゃない、その正義に倒されるべき相手に自分は命が惜しいと言う理由で入ったのだ!!

 

この手で人を殺し、この手で罪を掴み、尚自分はココに立っている。

もしも少しだけ運命が違っていたなら、今司が立っている場所には自分がいたかもしれないのに――ッッ!!

 

 

「だから、お前は気に入らないんだ――……ッ」

 

 

自分が手に入れられなかった物を彼は掴んでいる。正義と言う力を彼は掴んでいる。

現実の前に散った自分と、現実を受け入れて苦しむ事を知りながらも戦う司、気がつけば二人は再び拳を交えていた。

固定ダメージを持っているCOBRAが圧倒的に有利な状況、現にディケイドも負けじとCOBRAを打つが、やはり先に倒れたのは彼だった。

 

 

「また俺が、否定してやるよ。お前の戦う理由」

 

 

しかし、再びディケイドは立ち上がる。

 

 

「来いよ……ッ! 俺の正義は、そう簡単には壊させないぜ」

 

「沈めてやるさ、真っ黒な闇の中に」

 

 

走りだすディケイド、構えるCOBRA。拳を交える中でやはり実感していくディケイドの実力。

何が彼をそこまで短時間の内に変えたのか、興味はあるが結果は同じだ。COBRAはそう思い拳を振るう。

確かにディケイドの力は上がっているが、やはり痛みを完全に克服したわけじゃない。打ち合い時に優先される固定ダメージに怯み、怯え、彼は押し合いには負けてしまう。

 

 

「ぐぁッ!!」

 

「――ちぃッ!」

 

 

倒れる寸でで彼はストレートをCOBRAの胴に打ち込んでいた。だが倒れたのはディケイドだけ。

そんな物かとCOBRAは笑みを浮かべてディケイドを睨む。やはりどれだけ力が上がろうとも未だに自分は超えていない。

つまりディケイドはまだ弱いままだと。

 

 

「君は、俺には勝てない……!」

 

「勝つさ。今からその固定概念をぶっ壊してやる!」

 

 

首を振るCOBRA、彼は何度打ち倒されても立ち上がるつもりなのだろう。それが彼の正義のあり方なんだろう。

そうだな、自分が知っているライダーはいつだって倒れなかった。諦めなかった、そして最後は勝っていたっけ?

 

 

「俺は何度だって立ち上がってやる!」

 

 

文字通りディケイドはCOBRAに倒され、九度立ち上がっていた。

そして今、彼は十度目に立ち上がる。

 

 

「ハッ、まるで虫けらだ――……な」

 

 

否定のために使った言葉だが、そこでCOBRAはふと思ってしまう。

虫けらか、そう言えばライダーの多くは虫だったな。

 

 

「……だったら、永遠に立ち上がれないようにしてやるよ」

 

 

ありったけの闇を収束させて握りつぶすCOBRA。

 

 

「もう分かっただろ、実力の差が。君では僕には勝てない、絶対にね」

 

「そうだな、俺一人じゃ……司って言う人間じゃお前には絶対に勝てなかったろうぜ」

 

 

しかし、ディケイドは拳を握り締めてCOBRAを指差す。

 

 

「俺は一人じゃない!」

 

「……!」

 

 

司が今持っているの力、それは彼一人が創り上げたものなんかじゃない。彼はそういって拳を振り払った。

このディケイドライバーに輝く10の紋章は、文字通り10の想いが合わさって完成されたもの。

 

 

「ディケイドは皆の力があってこそ生まれた正義だ!!」

 

「くっ!」

 

「俺の正義が砕かれても、必ず俺の仲間が砕けた正義を元に戻してくれる!」

 

 

舌打ちを放つCOBRA、いや"秋人"は知っている。試練は確かに苦しいものだがその中にも楽しい事や共に笑いあった仲間がいる事を。

普通に考えれば強制的に戦わされると言う殺伐とした状況の中、心が壊れなかったのはそこに彼らがいたから――

 

 

「俺は一人で戦っているんじゃないんだよCOBRA。俺は、俺たちは――ッ!!」

 

 

ユウスケ、薫、翼、葵、真志、美歩、拓真、友里、椿、咲夜、我夢、アキラ、双護、真由、鏡治、良太郎、ハナ。

モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジーク、デネブ、亘、里奈、ガルル、ドッガ、バッシャー、キバット、キバーラ。

ドラグレッダー、ブランウイング、オートバジン、茜鷹、瑠璃狼、緑大猿、浅葱鷲、鈍色蛇、黄蘗蟹、カブトゼクター、ガタックゼクター、エルドラン――

そしてスートスペードと、ハートのアンデッド達。

 

 

「56人と14体の意思、特別クラスで戦ってるんだよ!!」

 

「………!」

 

 

言葉にすれば多いものだ。それは自分の味方がこんなにいるのだとディケイドには自信に変わる。

仲間、COBRAにとっては耳の痛い話だった。生きる為とは言え仲間を裏切る様な選択を取った自分達、今も未央の憎しみと涙に濡れた顔は時々思い出してしまう。

だがだからこそ、COBRAの力を手に入れたと考えればそれはそれで割り切れる話。

 

 

「面白い、その馴れ合いの絆で僕に勝てるかな?」

 

「ハッ! 一人称が崩れてるぜ」『カメンライド』

 

「!!」

 

 

焦りか? COBRAは拳を振り払うと走り出す。

ディケイドはバックルを展開させ、地面に落ちていたブッカーからクウガのカードを取り出す。

それぞれの紋章を通り抜けたとき、無地だったカードに再び絵柄が刻まれていたのだ。

 

 

「変身!」『クウガ!』

 

 

電子音と共にクウガに変わるディケイド、全身の力を込めた一撃一撃をCOBRAに打ち込んでいく。

その中で司の頭にユウスケの姿が浮かんだ。彼とは何だかんだで一番付き合いが長い気がする。

幼い時にいつの間にか知り合って、いつの間にか友達になっていた。

 

そのまま特に何か特別なイベントがあったかと言う訳でもなく高校までダラダラと一緒に行っている。

恐らく最も自分に影響を与えていない人物かもしれないが、きっと一番仲がいいのはコイツかもしれない。

というより親友を一人挙げろと言われたなら、多分ユウスケの名前を書くんだろう。

 

 

『ウォリャアアアアアアアアアアア!!』

 

 

戦いの中でディケイドの脳裏に広がる景色、それはクウガがズ・グムン・バにマイティキックを浴びせている所だった。

そうだ、彼も戦っている。だったら自分も彼に負けてはいられない!

 

 

「そうだろ、ユウスケ!」『ファイナルアタックライド』『ククククウガ!』

 

 

COBRAの鞭を前転でかわし、そのままの勢いで足を振り払う様にして繰り出すローリングマイティキック!

 

 

「おりゃあああああああああ!!」

 

「チィイッ!」

 

 

COBRAも負じと蹴りを合わせ、ディケイドと真正面からぶつかり合う。

固定ダメージはやはり優先され、それがディケイドの勢いを殺して彼は打ち合いに勝利する。

吹き飛び転がるディケイドと態勢を立て直すCOBRA、彼は追撃を行おうとすぐに走り出す。

 

 

「ははッ! 所詮こんなもの――」

 

 

その時、ピタリと走り出したCOBRAが急停止。

 

 

「……フッ!」

 

「な、な――ッッ!!」

 

 

起き上がりニヤリと笑うディケイド、彼はブッカーから新しいカードを取り出してバックルを展開させる。

対して立ち止まり震えだすCOBRA、彼は苦しそうに呻きながらディケイドを睨む。

 

 

「こ、これは――……ッッ!!」

 

「悪いな、クウガの力は――」『カメンライド』

 

 

COBRAがマイティキックとぶつけ合った足の裏、そこにクウガの紋章が強く光り輝いている事に彼は気づいているだろうか?

 

 

「遅れて効くぜ。変身!」『アギト!』

 

「グゥウウウウウウッッ!!」

 

 

封印の力が足を通してCOBRAの全身に流れ込む。

膝を着くCOBRAの前に広がったのはアギトに変身したディケイドの拳だった。

 

 

「ラァアッッ!!」

 

「グハッッ!!」

 

 

気がつけばCOBRAはディケイドのパンチで吹き飛んでいる。

その時に脳に浮かび上がった翼の姿、半ば強制的に利用されてしまった翼は今まで何一つ不満を言わずに保護者として振舞ってくれた。

まだ彼も若いのに考えるのはいつも他者の事だったと印象を受ける。恐らく自分が最も頼れる相手だろう、彼がいる事で無意識に甘えと言う余裕ができる。

 

 

『ハァァァアッッ!!』

 

 

浮かび上がったアギトの姿、彼はジャガーロードに必殺のライダーキックを浴びせていた。

吹き飛ぶ天使、その頭上に終わりの輪が広がっていく。そうだ、今まで守ってくれていた彼の為にもココで終わる訳にはいかない!

 

 

「行きます、翼先生ッ!」『ファイナルアタックライド』『アアアアギト!』

 

 

構えを取るディケイド、クロスホーンが展開して彼は上空へ舞い上がる。

倒れたCOBRAが立ち上がると、既にそこにはディケイドの蹴りが見える。

 

 

「ハァアッ!!」

 

「チィイイッッ!!」

 

 

何とかガードを行うCOBRAだが威力が高くガードの姿勢をとったまま地面を擦って後方へ押されていく。

目を見開くCOBRA、それはそうだ。何故なら自分は反動で動けないが、ディケイドは龍騎に変わりストライクベントを構えている。

 

 

「ハァァアアアアア……ッッ!!」

 

 

ドラグクローの口が光り輝いていく中で、真志の姿が浮かんだ。

いつも誰かの為に行動し、ある種完全な善の塊として評価されていた彼だが、その心内にあった闇は司にもよく分かる。

しかしそれでも彼の道は一つしかなかったのか? 迷う正義と定義に踊る心、恐らく彼は最も自分と似ている。

彼がどう思っているのかは知らないが、司にはそう思えた。

 

 

『ダアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

浮かぶ龍騎、彼はディスパイダー・リボーンにドラゴンライダーキックを命中させて爆発させる。

迷いながらも突き進む龍の姿、自分だって同じだ。止まるよりも進みながら迷った方がいい。

 

 

「だろう? 真志!」

 

 

ドラグクローを突き出すディケイド、そこから強力な炎の塊が発射されてCOBRAのガードを打ち崩す。

炎に包まれてよろける彼を見てディケイドはファイズに変身、そのままファイナルアタックライドを発動する。

 

 

「セイッッ!!」

 

「!」

 

 

地面を伝いCOBRAに命中する赤き閃光、ディケイドはそのまま紅く染まったライドブッカーを構えて走り出す。

その際に浮かぶ拓真の姿、彼の正義は悲しみに包まれていた。苦痛の超え、彼は尚も自分のいるべき理由をそこに見出す。

守るために傷つく姿は彼が望むべき姿だったのか? 彼は恐らく自分がもっとも知りたい相手かもしれない。

しかし彼と一日語り合ったとしても恐らく自分は至れない。彼を見て知るしかないと思う。尤も、一日語り合おうなんて言ったら引かれるだろうし……

 

 

『………』

 

 

ファイズの姿が見える。

無音だった、彼は拳を握り締めて命乞いをしているだろうスティングフィッシュオルフェノクを見ている。

既に『旅人』の姿に戻った彼は、人間となんら姿が変わらない。しかし拳を握り締めるファイズ――

彼は悲痛の叫びをあげてグランインパクトを発動、彼に止めを刺した。

 

 

『―――』

 

 

Φの紋章と共に灰と変わる旅人、ファイズは崩れ落ちる様に膝を着き。しかしすぐに立ち上がると歩き出した。

安心しろ拓真、全てを背負うには重過ぎるだろ? だったら俺が半分くらい持ってやるよ。それで笑ってやる。

 

 

「拓真、じゃないと悲しすぎるだろ!!」

 

 

ディケイドは飛び上がり剣を振り下ろす。

しかしそこで意識を取り戻したのか、COBRAは能力を発動して拘束を解除。ディケイドが振り下ろしたスパークルカットを腕をクロスさせて受け止めた。

 

 

「ッッ!!」

 

 

気に入らないな、ああ気に入らない! COBRAはディケイドの複眼に写る仲間達の姿を見出して舌打ちを放つ。

黒と紅が混じりあい、互いを打ち消しあおうと激しい光を放つ。

そして――

 

 

「「!!」」

 

 

剣を振り切ったディケイドと剣を弾き返したCOBRA、結果は引き分け。

COBRAは剣を弾いたが、反動で動く事ができずディケイドは剣を弾かれた衝撃で動けない。

どちらが早く動くのか――!?

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」『カメンライド』『ブレイド!!』

 

「ッッ!!」

 

 

ほぼ同時に動く二人。

ディケイドはカメンライドでブレイドに変身、COBRAは拳を振るってディケイドを捉えようとするが――

 

 

「ラァアアアアアアアアッ!!」

 

「チィイイ……ッ!!」

 

 

ディケイドは変身時にもう一枚のカードを既にセットしていた、アタックライド・ブレイラウザー。

迫った拳を逆手に持ったソレで弾き、ディケイドはもう一方の手に持っていたライドブッカーをCOBRAの胴に向けて突き出した!

硬いCOBRAの服には剣も突き通らない。しかしディケイドはダメ押しのカードをセットする。

 

 

『アタックライド』『ライトニングスラッシュ!』

 

 

ライドブッカーに激しい電流が走る。

ほとばしる雷は抵抗しようとしたCOBRAにダメージを与え動きを鈍らせていった。そのままディケイドはCOBRAに突きを当てたまま走り出す。

電撃を身に受けながら押し出されていくCOBRA、しかし倒れる訳にはいかないと彼は全身に力を込めて後退していく。

対して意地でも彼をダウンさせたいディケイド、二人は激しい雷と光を纏い橋を移動していった。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

そこで光の中に見える椿の姿、彼もまた気がつけば友達になって一緒に学校を過ごしていった。

別に、彼には特にメッセージは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんのお馬鹿ぁあああああああああっ!!』

 

 

怒られた気がする。

同時に見えたブレイドの姿、彼はローカストスペードにライトニングソニックを命中させて打ち倒していた。

冗談冗談、彼は常に軽い調子で何も考えていない様に見えて、恐らく一番物事を考えているのかもしれない。

それに彼は自分が出会った人の中で最も面白い人物に違いない、もちろんいい意味で。

 

 

「まだまだこんなモンじゃないだろ、椿ッ!」

 

 

ディケイドは最大電力を開放して叫ぶ。

その時、ついに耐えていたCOBRAがバランスを崩した!

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「クソッッ!!」

 

 

COBRAを突き倒すディケイド、既に手には響鬼のカードがあった。

変わるディケイドと発動させるファイナルアタックライド。音撃打を次々にCOBRAへ打ち当てていく!

 

 

「グゥウウウウウウッッ!!」

 

 

体内に直接ダメージを与えられる感覚、なるほどこういう事なのか。

COBRAはそう思いながらも飛び飛びになる意識の中にいた。一方のディケイド、激しい音の中に我夢の姿を見る。

 

 

『タァアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

響鬼の音撃打が同じくしてツチグモを消し飛ばす。

初めは礼儀正しい弟の友達という印象だったが、響鬼の試練では彼にいろいろ教えられた気がする。

そして理解する。彼には無限の可能性がある気がした。恐らくだが彼は最も自分が目指していた存在に近い気がする。

と言うより自分が作者なら彼を主人公にするだろう。要するに羨ましいって事、彼は自分が思うライダー像に一番近い位置にいる気がしてならない。

 

 

「でも、俺だって負けないぜ我夢!!」

 

「クソォオオオオオオオッッ!!」

 

 

最後の一撃を撃ち込む前にCOBRAは意識を覚醒して能力を発動、音撃鼓の拘束を無効化すると、上に乗っているディケイドを蹴り飛ばして跳ね上がった。

仰け反るディケイドはカブトへフォームチェンジ、ファイナルアタックライドを発動してエネルギーを足へ供給させる。

後ろにいるんだろ? ディケイドは一瞬だけ笑みを浮かべると回し蹴りのライダーキックを放つ!

 

 

「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 

同じく回し蹴りを放っていたCOBRA、光と闇がぶつかり合い衝撃波を発生させた。

固定ダメージが先行してディケイドは吹き飛ぶが同じくダメージを受けたCOBRAも吹き飛んでいった。

 

 

「ク……ッ!」

 

 

呼吸を荒げるディケイド、空に双護の姿が見える。

彼は凄い奴だ、凄いと言うか本当に凄すぎてその一言で全て終わる。

だって本当に凄いんだから仕方ない、何が凄いって凄いのに凄い所が凄いと思う。

 

 

『フッ!!』

 

 

空にはカブトも見えた。得意のカウンターキックでアラクネワーム達を倒す、相変わらず余裕の笑みを浮かべて。

恐らく自分は絶対に彼を超える事ができない、それだけアイツは凄い奴なんだ。

 

 

「凄いな……双護、お前は凄い!」

 

 

その言葉と共に起き上がるディケイド、その視線の先には同じく立ち上がっていたCOBRAが見えた。

既に疲労やダメージは二人の体を大きく蝕んでいる、どちらも呼吸を荒げて双方を見ていた。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

何も語りはしないが先に走り出したのはCOBRA、彼は真正面からディケイドに殴りかかっていく。

対して不動のディケイド、諦めたのか? COBRAは知っている。そんな訳が無いと!!

 

 

「変身!」『カメンライド』『デンオウ!』

 

 

COBRAがディケイドに触れようとした瞬間、彼の周りに電王の装甲が現れてCOBRAの拳を受け止める。

弾かれるCOBRAと変身を完了させた電王、その時に良太郎の姿を見た。

野上良太郎。永遠の憧れだと思っていた存在だったが、彼は自分の前に現れて自らが司達と同じ様な人間だと言う事を教えてくれた。

それは司にとって何よりの希望、最後の救いだった。

 

 

『俺の必殺技、パートツー!』

 

 

電王が見えた。彼はバットイマジンを一閃で捉え、爆発させる。

彼は自分達と同じように苦しみ悩む存在、しかし彼は前に進んで戦った。

彼も同じだった、そして彼は自分達よりずっと前に答えを出して道を示した。だから、だから――

 

 

「だから良太郎は仮面ライダーになれたんだ!!」『ファイナルアタックライド』『デデデデオンオウ!』

 

「ッッ!!」

 

 

恐らく、何だかんだで自分は彼に憧れ続けるだろう。それでいい、それがいい!

 

 

「くらぇええええええええええええ!!」

 

「グアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

ディケイドは怯んだCOBRAの肩に剣を押し当てて、そのままエネルギーが満ちた剣を一気に切り抜いていった。

赤い一閃がCOBRAを捉え、ディケイドはその隙にキバへフォームチェンジ。必殺技を発動して空高く舞い上がる!

そうやってディケイドが月と重なったとき亘が見えた。まあ何だ、いろいろあるが彼は唯一の弟だ。

だから何だと言う訳ではないが――

 

 

「お前には、負けない! 亘ッッ!!」

 

 

ダークネスムーンブレイクが動きを止めたCOBRAを狙う。

しかしそこで強い光を放つCOBRAの目、彼は襲い掛かるディケイドの蹴りを二つの拳で受け止めた。

COBRAを通して地面に刻まれるキバの紋章、しかし同時にディケイドの足に収束していく巨大な闇の塊。

 

 

「闇に、沈め」

 

「クッ!!」

 

 

弾け飛ぶ闇、その衝撃でディケイドは吹き飛びCOBRAは足を地面に叩きつけてキバの紋章をかき消す。

受けたダメージは確かな物だが、COBRAは倒れずにディケイドを睨みつける。

一方で地面に倒れたディケイド、そのダメージでキバの変身が解除され彼はディケイドの姿に戻った。

双方意識が薄れいく中で、体を動かしているのは心の中にある本能だったのかもしれない。

 

 

「COBRA……ディケイドが使える9人のカードは、はじめは何もかかれてなかった……ッ!」

 

 

立ち上がるディケイド、今の彼ならば何度倒れても立ち上がるのではないか?

COBRAにそんな考えがよぎる。

 

 

「でも、皆が戦う中で、必死に答えを探す中でカードは力を手に入れた!!」

 

 

地面を蹴るディケイド、全速力で走ってくる彼をCOBRAは正面から受け止め。

そして弾き、その想いと強さを否定するつもりだった。

 

 

「今のディケイドがあるのは俺一人の力だけじゃない、皆がいるから完成された力なんだッッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「だから俺は、お前には負けないッッ!!」

 

 

拳を突き出すCOBRA、同じく拳を突き出すディケイド。

二人腕はクロスを描いて交差し、お互いの仮面に全てをぶつける様にして命中した。

凄まじい衝撃が二人を駆け巡り、双方はきりもみ状に回転しながら吹き飛んでいく!

 

 

「「……ッ!!」」

 

 

意識を取り戻し起き上がる両者。しかし双方同時に気づいた事がある。

お互いの顔を隠す仮面が破損していたと言う事。

それだけの力だったか、COBRAは面割れしていた仮面を脱ぎ捨てて顔を露出させる。

そしてディケイドの仮面もまた破損していた。彼もまた仮面に手をかけると引き剥がす様にして顔を露出させる。

データの残骸となって消滅する仮面、対して闇の残骸となって消滅する仮面。

 

 

「「………」」

 

 

顔だけは司と秋人に戻り、そして睨み合う二人。

風が二人の髪を揺らし、沈黙の時を作り出す。

 

普通に考えればこのまま戦えば不利なのは司だ。

いくらゼノンたちによって強化補正を授かっているとは言え、改造手術を受けたCOBRAとは比べ物にならない弱点をさらす事になる。

だがお互いはこのままで良いと悟る。なぜならもう決着はすぐにつくからだ、COBRAはその時少しだけ唇を吊り上げていただろう。

 

 

「……認めるよディケイド、いや"仮面ライダーディケイド"。君の力は確かな物だ」

 

 

かつては自分も彼の場所を目指し、そしてそれが正しいと信じて疑わなかった。

しかし自分はライダーにはならなかった、いやなれなかった。COBRAは端的に自分の過去をディケイドに打ち明ける。

かつて同じ志を掲げ、そして大切な物を守るために、失いたくない怖さに負けて悪に堕ちた。

 

後悔しているかは置いておいて、自分は間違った選択をしたとは思っていない。

そして目の前にいるディケイドもまた同じだろう。歩む道に後悔こそ抱く事はあれど、それを後悔しない選択にするため戦う筈だ。

 

 

「僕と君は、恐らく似ている様で似ていない」

 

 

共にヒーローに憧れ、そして試練を受けた者。

しかし今立っている道は全く逆の物と言ってもいい。ショッカーと仮面ライダー、自分は彼に倒されるべく生まれてきたのか?

いや違う。そうであっていい筈は無い、だから最後まで彼を否定しなければならない。

自分がココにいる意味を、ちゃんと正当化する為にも仮面ライダーを否定しろ。

 

 

「君は、僕の影だ」

 

 

COBRAではなく、永時秋人としてディケイドに――司を指差し言い放つ。

影、形は同じだが全く違う物。影には色が無い、影には顔が無い。存在しない物は立っていてはいけないのだ。

COBRAの足に今までで最大の闇が宿っていく。持っている力をすべて注ぐようだ。

 

 

「消えろ……!」

 

 

そう呟いて彼は腰を落とす、その構えはある意味ライダーを象徴する構えである。

ディケイドは彼の思いを理解して自身の紋章が刻まれた金色のカードをセットした。

同じように腰を落とし構えるディケイド、彼の前に10枚に増えたホログラムカードが並んでいく。

 

 

「COBRA――」

 

「………」

 

「俺達が手を取り合える可能性は、あると思うか?」

 

「………」

 

 

COBRAは笑った。ディケイドも笑う。

 

 

「あったかも、しれないな」

 

「……そうか」

 

 

何故なら仮面ライダーもまた元々は――。

いや、意味の無い話か。

 

 

「「ハァッッ!!」」

 

 

同時に飛び上がる二人。

COBRAは闇を纏った飛び蹴りであるブレイクアウトを、ディケイドは破壊の力を纏ったディメンションキックを発動してぶつかり合う!

 

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」

 

 

通常ならば固定ダメージの影響ですぐに決着はつく筈なのだが、今回はそうじゃない。

ディケイドはこの瞬間破壊者としての力が開放される。ファイナルアタックライドは相手の特殊能力を破壊して突き進むのだ。

つまり相手が液状化していようが、鉄になっていようが、死なない体だろうが関係ない。ディケイドの攻撃は全てを破壊する!

 

 

「ディケイド!!」

 

「COBRAッッ!!」

 

 

そして固定ダメージが破壊された今、純粋な力のぶつけ合いで勝敗を決めなければならない。

全ての力をキックに込める両者、魂が擦り切れる程の声をあげてエネルギーをぶつけ合った。

 

 

「「お前を――」」

 

 

ディケイドの力がCOBRAの闇を破壊していく。COBRAの闇がディケイドを包む。

 

 

「壊すッッ!!」   「殺すッッ!!」 

 

 

橋の上に爆発が起こる。

激しい光が辺りを包み、立っていたのは――

 

 

 





好きだからこそ、それが嫌いになれば負の感情も強くなる。
分かり合えない奴とは永遠に分かり合えない。
劣等感と嫉妬。

これら複雑な思いが司と秋人にはあるのかも。
という訳で次回決着でございます。
木曜日らへん予定。

ではでは

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