仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第74話 復活の破壊者

 

 

 

「チッ! 所詮色が変わっただけだろがぁ!!」

 

 

和織は一旦距離を取ったが、すぐにまた響鬼に距離を詰めて嵐の様な乱舞を刻み込んでいく。

ガードを行う響鬼だが、彼の刀はそのガードを簡単に弾き返して一閃を響鬼の体に刻んでいった。

しかし違う点が一つ、それは刻んだ線がすぐに消え去ってしまうと言う事だ。

 

 

(コイツ……回復して――)

 

 

響鬼は痛みを強引に無視して自分へ音撃棒を振るってくる。厄介な、和織は仕方なく刀で音撃棒を防いだのだが、そこで展開される紋章。

響鬼紅の能力を知らなかった和織は突然動かなくなった体に激しく混乱する事となる。

あくまでも音撃鼓が展開しているのは刀その物の為、和織は刀を放せばよかったがソレに気がつく訳もなし。彼はそのまま響鬼の大きな一撃を受ける事に。

 

 

「ぐぅああああああッッ!!」

 

 

一撃目で手が刀から離れたため和織はすぐに音撃打からは開放される。

そこで彼が見たのは同じく姿が変わったクウガを相手にしていた墨姫だった。彼女は和織同じく二丁拳銃で防御力が無くなった筈のクウガを撃っていくが――

 

 

「……――ッ」

 

 

墨姫は銃を連射しながら少しずつ後ろへ後退していく。

それはそうだ、何故なら彼女の前には銃弾を物ともせず歩いてくるクウガがいる。

おかしい、墨姫は何度も黒い糸を伸ばすがそれすらもクウガは弾き返してしまうのだ。

この墨の糸は攻撃というよりは彼女の特殊能力、なのにも関わらずクウガはソレを簡単に防いでしまうじゃないか。

 

 

「よっと! ウチの姫様苛めないでほしいねぇ!」

 

 

和織は一気に跳躍で墨姫の前に着地する。

紅の一撃を受けながらもヘラヘラと笑い余裕を見せる和織、彼はもう一本残った刀を構えてクウガへ切りかかっていく。

遅そうなクウガ、あんなん余裕だろと和織は言いながら駆けた。

 

 

「そらよッ!!」

 

 

振り下ろされた和織の刀、当然クウガはその紫の装甲で攻撃を受け止める。

今までならばそれで終わったのだが――

 

 

「あででででででででッッ!!」

 

 

金色の雷が和織の刀を伝って彼へカウンターのダメージを与える。

これがライジング化した新しいタイタンの力だった。カウンターの雷を相手に与える事、さらに防御力は格段に上昇、和織の刀を一撃で粉砕する。

 

 

「うっそ……!」

 

 

折れた刀を見て引きつった笑みを浮かべる和織、彼は懐から新たな刀を取り出してクウガの足を狙った。

装甲が薄そうなこの部分ならばと狙ったのだろう。しかしクウガの防御力は変わらない、足を狙った刀は先ほどと同じく大きな音をたてて折れてしまう。

 

 

「えぇぇぇ……!」

 

 

和織は折れた刀を見つめながらどうしようもないと手を上げる。

しかも反撃の雷もそこそこの威力を持っているようだ、和織と墨姫は見詰め合うとうなずいて大きく後ろへ跳んだ。

何だ? 構えるクウガと響鬼、しかしその時和織の元に一匹の折鶴が飛んでくる。

どうやら向こう側の式神の様、和織は素早くその折鶴を展開すると書いてあったメッセージを読み抜く。

 

 

「はいはい、成程成程」

 

「………」

 

 

和織は頷くと墨姫を横抱きにして笑みを浮かべる。

無言で抱えられて和織にしがみ付く墨姫、同時に彼女は手を天にかざして糸と銃を使いそこそこ厚いだろう天井に穴を開ける。

さらに墨の糸を発射する墨姫、完全に二人が逃げる姿勢にしか見えない。

 

 

「何をッ?」

 

「今、政府からの決断が出たそうな」

 

 

和織はニヤリと笑って一同を見る。

シェード創始者である徳川を解放しろと訴えたこのテロ、しかし政府側はそれを拒否して強行突破の方法を選んだ様だ。

既にテレビ局の周りには機動隊や警官がうじゃうじゃと見える。スタジオにいる人質の誰かが情報を伝えていたのか、既に機動隊はこの場所に人質がいると言う事を把握している様だ。

尤も、敵が人でない事を知っているのかは微妙だが。

 

 

「とにかく、お国さんはあんた等の命を危険にさらす方法を選んだって事よぉ」

 

 

少し捻くれた言い方をしながら和織は一気に空へ跳躍、墨の糸を使って天井の向こうにあった空へ昇る。

追おうとするクウガと響鬼だが人質を置いていく訳にも行かない、二人は自分達を見下す和織と目を合わせるだけだった。

 

 

「いい事を教えてあげるぜ、政府の判断を見て大ショッカーはこの世界を滅ぼして徳川を連れ去る判断をとった」

 

 

イラつくんだろうよ、人間なんかが大ショッカーに逆らうって事自体が。

和織はやれやれと首を振る。

 

 

「!!」

 

「正直、神なる世界以外を滅ぼしても無駄な労力を使うだけと言えばそうなんだけどさぁ。

 まあ絶望のエネルギーが増える事で力が強化されるオプションもあるし、無駄とはいい切れないのが罪なトコだよなオイ」

 

 

和織が言うには前回までに派手とは言わないが、それでも各世界に散らばった怪人達を呼び寄せて暴れまわる。

かつ最後にはノアと呼ばれる船で全てを吹き飛ばすと言う事らしい。

 

 

「あの未完成(ノア)がちゃんと動くかどうかは微妙だし、集まる怪人も前回に比べればよほど少ないだろうけど……それでもこの世界を滅ぼす方法ならいくらでもあるだろうぜェ」

 

 

クウガ達の前にフラッシュバックしていく光景、あの惨劇が再び繰り返されるというのか?

絶望と焦りで立ち尽くす二人を見て和織はニヤニヤと笑っている。しかし彼は意外な事を二人に告げる。

それはこの世界にショッカーがやってくるまでの過程における話だった。

 

 

「まあ、このままだとこの世界は終わる」

 

「……ッ」

 

「だけども、何とかする方法もあるんだよねぇ」

 

「「!!」」

 

 

墨姫をおろして腕を組む和織、彼はニヤニヤと笑みを浮かべて説明を開始した。

先ほども言ったとおり大ショッカーの目的はあくまでも神なる世界への到達、および支配である。

その過程に立ち寄る世界はよほどの例外がある場合以外滅ぼすのがルール。

というのも神なる世界というのは謎に包まれた世界、それを見つけるには破壊する寸前まで持っていかないと駄目だという。

 

 

「まあ行くだけで分かるって話もあるし、そこら辺はまだ誰もたどり着いた事がないからこその噂だろうよぉ」

 

 

いずれにせよ、到達して破壊行動を開始すれば分かると聞いている。

そして世界を破壊できたならそこは神なる世界では無い。しかし破壊した事で関係者のステータスが大幅に上昇するのだ、無駄な行動では無いと言う事である。

つまり世界を破壊していく価値は十分にあると言う事だった。

 

 

「関係者ってのは世界を破壊する事に関わった怪人達な。要するにその世界にいる怪人って訳だ」

 

「何が言いたいんですか? それに何とかするって……どうすれば――っ」

 

 

身を乗り出す響鬼を静止させる様なジェスチャーを取る和織。

最近の子供はすぐに欲しがるんだから、たまにはお兄さんの言う事を黙って聞いてみるものだよ。そう言って和織は言葉を続けた。

 

 

「関係者の中には、確実に一人だけ代表担当者……要するに"リーダー"になる怪人がいる」

 

「リーダー……」

 

「そうさ、破壊者(ブレイク・エネミー)って言うな」

 

 

先ほど和織は世界を破壊する事に成功すれば力が上がると言った。

しかし"成功"には当然その逆に"失敗"という物が存在する。それはつまり世界を破壊出来なかった場合を指す訳だが、では破壊できない明確な基準とは何か?

様々な要因がそこには存在するが、明確なものが一つある。それが彼の言ったブレイクエネミーが関わっている事だった。

 

 

「"ブレイクエネミーが担当した世界から消える事"、それが世界破壊の失敗条件の一つなんだよね」

 

「ッ?」

 

 

死か、もしくは完全に世界から消えるのか。

そのどちらかによって完全にその存在が無くなった時点で世界の破壊は失敗される。

例外は力を残す事、これは道化師がファイズの試練時に行ったことだ。彼は自分の一部であるクラウンをブレイクエネミーとして置き、同時に別世界での行動を行っていた。

 

 

「世界は生き物みたいなモンでさ、やっぱお兄さん達や君達みたいな異物は異物ってちゃーんと理解してるのよ。

 だから世界も自分で身を守ろうと免疫反応みたいな行動を取る訳だ」

 

 

数字で例えるならば、世界は侵略者が現れた時に抵抗力のチャージを始める。

その数値は段々と上昇していき、それが100パーセントまで溜まると以後は何をしても世界は破壊できなくなる。

大ショッカーはその世界に住む人間を傷つける事ができなくなってしまうのだ。

 

 

「だから、つまりぃ、君達が世界を守りたかったらその抵抗数値、『ワールド・カバー』を100パーセントまで溜めればいいのさ」

 

 

そして先ほど彼が言ったブレイクエネミーの消失がそこに絡んでくる。

 

 

「成程、ブレイクエネミーを倒せば一気に抵抗力を最大まで上げられるんですね」

 

「その通り! 物分りがいい子はお兄さん好きだよぉ」

 

 

世界は物語、物語はラスボスを倒せば終わりを迎える。ブレイクエネミーとは即ち『ラストボス』なのだ。

簡単にいえばリーダーを倒せばその時点で戦闘が終わりと言う事。以後は戦いなど起きないと言う事か、そしてその抵抗数値を上げる方法はいくつもあると和織は言う。

 

先ほど言ったリーダーを殺す事、その陣営の企みを壊す事。

破壊行動を目的としているのに何もせず長時間その世界に滞在する事、存在している怪人の全滅できれば100パーセント上昇ってのもあったりする。

 

 

「当然、お前等が他の怪人を倒すことでも抵抗数値は上がっていく。しかも強敵を倒せばそれだけ世界は抵抗力を上げて破壊からの防御を行うようになる」

 

「ッ???」

 

『やば、私はさっぱりだわ……』

 

 

混乱するクウガと薫、響鬼もまだイマイチ理解できない点が多いのは確かだった。

これはどの視点で語るかによってまた混乱を招く。それにそのルールは本当に信用できるのか?

 

 

「そんな……ゲームみたいな話」

 

「ああ、ゲームなんだよ。俺達がやってるのはな。世界や神様が仕組んだゲーム」

 

 

神なる世界の争奪戦、加えていくつ世界を取り合えるかの陣取りゲーム。

一方は世界を壊し、もう一方は世界を守る。"壊す側"と"守る側"、世界は必ずその二つを作り出す。

そして世界を壊せれば大ショッカーの力が上がり、世界を守る事ができればライダー達の力があがると言う簡単な戦争だ。

 

 

「抵抗数値をあげる方法は色々あるってのは言ったけど、今からお前等が狙うとしたらリーダーを殺す事が一番だと思うぜ」

 

 

ちなみに今回のブレイクエネミー、つまりリーダーはフィロキセラワームな。和織はサラリととんでもない事を口にした。

さらにペラペラと重要な情報を彼は口にしていく、世界を確実に破壊するだろうノアは抵抗数値が一定以上あると世界に侵入できない。

その間に抵抗数値を上げるしか方法は無いのだと和織は念を押した。

 

 

「前回の起動を考えるに、あと二時間――あって三時間程度でノアは大量の戦闘員を連れてココにやってくるだろう」

 

 

そうなればあの地獄が再び始まる。究極にして、絶対の絶望が世界を包み破壊していくのだ。

 

 

「つまり、それまでにフィロキセラを倒すしかない――ッ」

 

 

尤もブレイクエネミーが隠れていると言う可能性も十分に考えられる。

だがあまりにも無様だった場合、世界はブレイクエネミーを他の異物に移し変える事もあるらしい。

とはいえ大ショッカーの加入者のほとんどが大きなプライドを持っているため逃げ回る事は無いだろうが、二時間程度なら逃げまわる可能性も有ると和織は煽る。

しかも向こうはクロックアップ持ち、追いつくのはかなり厳しい場合もあるだろう。

 

 

「そうなった場合、君等は他の怪人を殺す事に専念するべきだな」

 

 

尤も時間までに一定の抵抗数値をためられる事ができるのかは疑問だが。

そう言って和織はもう一度声を出して笑った。

 

 

「ああ、あと気をつけなさいよ。抵抗値は下がる可能性もあるからね」

 

「……どうして僕達にそこまで情報をくれるんですか?」

 

「そ、そうだ! それにお前等はなんでそこまで知ってるんだよ!!」

 

 

頷く和織、たしかに響鬼視点では自分の存在は非常に胡散臭い位置にある筈だろう。

それは和織だって十分に承知している。しかし、そこを疑われてはどうしようも無いのもまた事実だった。

 

 

「実はウチのボスがお前等を気に入っててね」

 

「ッ! ヒトツミですか?」

 

「ああそうだ。正直、アイツはお前等が邪神に勝つなんてコレっぽっちも思ってなかったんだ」

 

 

しかし結果とて響鬼達は今ココにいる。邪神の主な攻撃は精神攻撃にあった。

ヒトツミが仕掛けた絶望に皆飲み込まれる物とばかり考えていた様だが、結果として司達は邪神の絶望を破壊して勝利した。

これにはヒトツミも注目した様だ、彼女は司達を大変気に入ったそうな。

 

 

「ただアイツは変態だからねぇ。気に入った奴は、同時に殺したい奴でもあるらしい」

 

 

ヒトツミは成長させ、そして最後には自分達魔化魍の手で殺すつもりらしい。

ココで終わるなんてつまらないと考えている様だ。ただし、コレだけ情報を与えてクリアできないレベルじゃその程度だったと見限るだろうが。

 

 

「だから、今現在でお前等が世界移動を繰り返している事を知っているヤツらは少ないのよ。ヒトツミはこれからも黙っているだろうし、適当にごまかすかもね」

 

 

他の魔化魍もその意見に反対しない、どうでもいいと言えばそれまでだが。

 

 

「まあそう言う事なのだよ若人達よ。お兄さん達はそろそろ帰るから、後は頑張りなさい」

 

 

だけどこのまま二人にやられただけって言うのも、それはそれでコッチの気が晴れないと和織は言った。

だから彼等は自分達の『子』をココに残すと呟いて消える。子? クウガと響鬼が不思議そうに顔を見合わせると、直後地響きと共に衝撃が。

二人はスタジオを飛び出すと窓で外の様子を確認する。

 

 

「なっ!」

 

「成程……ッ」

 

 

外にいたのは文字通り巨大な蜘蛛、魔化魍・ツチグモだった。

虎の様な模様に墨の様に黒い脚を持った神無月の子、その姿を見て響鬼が音撃棒を握り締める。

ツチグモは響鬼に視線を移すと、まるで彼を挑発するように鳴き声をあげた。

 

 

「……ユウスケ先輩、薫先輩、人質の皆さんをお願いできますか?」

 

 

気のせいなのかもしれない、だが響鬼にはある思いがあった。

 

 

「アイツだけは、僕が倒さないといけない気がするんです」

 

「……ああ、分かったよ」

 

 

クウガは頷くとまだ混乱気味の人質達を出口に案内する事に。

同時に窓を破り下へ飛び降りる響鬼、巨大な敵は彼の専門分野な訳だがそれ以外にも譲れない何かがあったのだ。

 

 

「ッ!」

 

 

響鬼は音撃棒をまわす。その時、美しい鈴の音が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いいんですかね? 本当に……」

 

「いいんだよ、ほら見てみろよ! 最近のショーって凄いんだな!!」

 

 

夏美、司、亘、里奈の順に並んで一同は子供やその親達に混じってヒーローショーを見ていた。

テレビ局の事があり、一時は中止されそうになったショーだったがせっかく来てくれた子供達の為にと主催者側が企画を続行したらしい。

ここからテレビ局まではソコソコ距離があるとは言え、なかなか思い切った判断である。

 

 

「「「「うぉー!」」」」

 

 

時代が変わればショーも変わる物だ。たかがショーとはいえない程のクオリティである。

テレビで多用しているCGが使えない代わりに、見せ方を変えたり歌を多様したりと見る側を飽きさせない作りになっていた。

 

 

「「「「うぃー!」」」」

 

 

散々渋っていた夏美と里奈もいざ見始めると気になるのか司達と同じようなリアクションを取ってショーを見ていた。

しばらくはそうやっていた四人、しかしある程度ショーが進んだ時にふと亘が口を開く。

ショーの音楽と周りの歓声で、亘の声は四人にしか聞こえない程度だった。

 

 

「なんで、兄さんは昔からヒーローが好きだったんだよ?」

 

「………」

 

 

司を見る夏美と里奈、彼女達もそれはずっと前から気になっていた。

と言ってもずっと理由は特に無いと言っていた司、今回もまた同じようにそう言うのかと夏美は思っていたのだが――

 

 

「亘、お前……父さんと母さんがいないって気づいた時、どう思った?」

 

「――ッ」

 

 

司は色々な意味を含めて首を振った、そして彼は夏美と里奈に視線を向ける。

 

 

「ごめん。夏美、里奈、酷いこと聞くけどさ――」

 

 

夏美は両親が死んだと知った時、里奈は足が動かないと知った時、それぞれ何を思ったのか?

この四人だけじゃないが、少なくとも自分達はまだ子供といえる時期に大きな衝撃を伴う想いをした。

その時に一体自分は何を思ったんだろうと。司は別に答えを求めているわけじゃない、だから皆が答える前に自分が口を開く。

 

 

「俺は嫌で嫌で仕方なかった! 今でこそもう何も思わなくなったけど、あの時は本当に狂いそうだった」

 

 

と言うよりも幼心に狂っていた部分があったのかもしれない。

だって考えてもみてくれ、周りの皆が家族で旅行や映画、外食をしている風景を見ているのに自分にはそれができない。

母親の手料理を食べて育つ、父親に遊んでもらう。誰しもがそれを経て育つだろう物が自分には無いと知ったとき、幼い自分は苦痛で仕方なかった。

 

 

「嫌だって何度も思った。悲しみよりも悔しさが勝って俺は泣き続けたよ」

 

 

苦痛の思いから逃れる為に、子供だった司にできた行為は泣き喚く事だった。

泣けば、悲しみが膨れ上がれば神様が同情してくれて両親を与えてくれるとでも思っていたのだろうか?

とにかく泣けばいいと思って馬鹿みたいに毎日泣き喚いていたのは覚えていた。

 

 

「「………」」

 

 

夏美も亘も言葉にはしなかったが記憶にはある。

両親がいないと分かったのは三人がほぼ同時、そこから泣きじゃくっていた三人は詠次郎の誓いがあって克服した様に思えた。

しかし誓いの後もやはり納得できない部分があったのか、司は泣いていた。亘と夏美が耐え切った後も続き、それはもう悲痛の叫びだった。

 

 

「それに、どこかで俺は両親が"何故"いなくなったのかを悟っていたのかもしれない」

 

「………」

 

 

表情を険しく変える亘、それは彼も薄々子供ながらに分かっていた事だ。

一番最初に詠次郎から言われたのは仕事で外国に行かなければならないといけなくなったと言う理由だったか。

しかし何故かもう分かっていた気がする。本当は仕事ではない、蒸発でもない、どこかで死んでいたんじゃないかと。

それは今の歳になって尚打ち明けられない所を見るとマシな死に方では無い様な気がしていた。

 

 

「そんな訳で俺は相当落ち込んでた。その時だったかな、祖父さんが見せてくれたビデオ――」

 

 

それが司にとって始めてのヒーローだった。

タイトルは覚えていない、内容は怪人が少年の両親を殺して少年も殺そうとする今に考えてみれば中々ハードな物だった。

そして少年が殺されてしまうかの所でヒーローが助けに来て、後はもう怪人を倒して終わりだ。そしてそれは司の心を大きく揺るがした。

 

 

「俺の求めていた答えが、俺の望んでいた世界がそこにあった」

 

 

それは彼が求めいていた最強の盾だった。

自己防衛、行き場の無い怒りや悲しみを全て背負ってくれる最高に都合のいい存在だと。

同じにしてしまえばいい、重ねてしまえばいい、自分の両親も悪役に殺された。そしてその最低な悪は正義のヒーローによって殺されたのだ。

これで救われた――司は、救われたのだ。

 

 

「苦しみも、悲しみも全ては悪と言う存在に乗せて、それを倒すヒーローに憧れたんだ」

 

 

弱いからこそ、強さに憧れる。ヒーロー物を見ている時だけは嫌な事を忘れられた。

迫る怪獣、襲い掛かる怪人、それを倒すのはいつだって濁りながらも輝こうと足掻く真っ直ぐな正義だったんだから。

とは言え、テレビの中の人は救われても司本人に明確な変化が齎される訳ではない。当然嫌な事は続く時もあるし、ヒーロー物を見たからと言ってどうにかなる訳でもなかった。

 

 

「そういう時は悪役の方に心が揺らいでいったっけな」

 

 

人間は縛られて生活をしていく生き物だ。

それは自分が望んでいなくても強制される物、だがその鎖を簡単に壊していくのは怪人――敵だった。

彼等は己の力を存分に振るい、邪魔な存在を容赦なく消していく。司はそこにある種、羨ましいと思う気持ちを何度も持った。

 

 

「俺だって嫌な存在や、嫌な事を消してしまいたいと思う時だってある」

 

 

好き勝手暴れる悪役もそれはそれで輝いて見えた時があったものだ。しかしヒーローものでは悪役は最後には正義の攻撃で敗れ去る。

自分が持っていた黒い心が負けた、間違った考えはいつか正しい考えによって破壊されると言う事実。それだけで司は十分だった。

彼は不満を悪役に重ね、そしてその不満が正義によって滅ぼされる一連の流れに救いを重ねた。

 

 

「俺には突飛した才能なんて無かった。何をしても凡以下、何をしても不満がどこかにあった」

 

「………」

 

 

その時、亘の眉が少し動く。

 

 

「でも、ヒーローに自分を重ねれば……俺は安心できた」

 

 

悪意を敵に重ね、そして善意をヒーローに重ねる事で自分は自己を律する事ができる。

必ず最後には正義が勝つのだから――

 

 

「――なーんて思ってみたりしたけど、まあやっぱり純粋にカッコいいだろ?」

 

「は、はぁ」

 

 

ヒーローは偶像かもしれない、自分はソレになる事なんてできない。しかし確かな影響は受けている。

人を守るために正しい事を信じて戦う姿は目指すべき道なのではないだろうか? なれないからこそ、そこに憧れを求めて近づこうとする。

誰もがどちらかと言えば怪人側へ寄って行く可能性の中で、それを否定しようとする思いこそが心の奥にある願望ではないのだろうか。

 

 

「自分の世界を憎んで、逃げたいと思う心を壊してくれる」

 

 

人はいつからかその偶像から離れて自分の世界を生きていくのだ。

それでもやりきれない日々や思いに苦しむ事はあるだろう。だがヒーローの世界には憧れた日々や想いが明確にしっかりと生きている。

だから人はそこに救いを求めるんだ。

 

 

「皆を守ってくれる。皆を幸せにしてくれる存在……最高にかっこいいじゃないか」

 

 

なりたいんだよ、俺は。なりたかったんだよ。

司はそう言って三人に笑いかける。しいて理由をあげるならそんな所だろうと司は答えを示した。

 

 

「まあ、そんなとこだ」

 

「そうだったんですか……」

 

 

司は次に夏美に疑問をぶつける。

彼女が戦い続ける理由、それを知るには自分が戦う意思を示せば良かったはずだ。

 

 

「俺は続けるつもりだぜ? 約束は守ってくれよ、夏ミカン」

 

「むむむっ! 私は……」

 

 

暴露大会をしに来た訳じゃないが、まあいいか。夏美はため息をつくと自分が戦い続ける理由を呟いていく。

彼女は少し迷う様に視線を泳がせると四人にだけ聞こえる様な声で――

 

 

「実は私……一度死のうと思ったことがあるんです」

 

「「「!」」」

 

 

表情を変える三人、夏美は苦笑いを浮かべると頭をかく。

いつも明るかった彼女が何かに悩んでいたとは思えないが? 司も亘も里奈も彼女がそんな事を思っていたなんて全然知らなかった。

 

 

「というのも、私……友達に誘われて」

 

「えっ?」

 

「一緒に死んで欲しいって……」

 

 

彼女は中学校時代に部活をしていなかった。写真館の手伝いもあったし、お金の問題も多少なりとも考慮しての事だ。

しかしやはり彼女も年頃の学生、何かやりたいと思っていたのも事実だった。

 

 

「そんな時に友達の女の子に誘われて……その、JSクラブってのに」

 

「ジェー……エスですか?」

 

 

夏美は複雑そうな表情を浮かべて頷く。

名前は出さなかったが『千夏』と言う友達に誘われたJSクラブ、その本当の名前は"自殺クラブ"だった。

もちろん正式な部活ではない、千夏を初めとした数名が勝手につくって勝手に名づけた非公式の部活だった。

人生に退屈した者や疲れた者、将来が不安な者が集っているグループである。要するに人生に不満を感じた者が集まるもの。

部活と言う名がついたのはソコに教員もいた事、そして彼が使っていない教室を貸してくれた事なのかもしれない。

 

 

「な、なんて物騒な……」

 

「もちろん本当に自殺する部活じゃないですよ! 軽い心持ちだってことです。皆色々な事があって……」

 

 

例えば部を作った千夏は生徒会長を任される程の真面目な性格だったが、本当はその心に常に抑圧された物を抱えていた。

両親からの異常なまでの期待、そしてそれに応えられないと悩んでいた千夏。彼女はプレッシャーに耐えられなかったのだろう。

小学校の時は毎日毎日習い事で遊ぶ時間もなかったと言う。自分の人生はこれからも親に強制されていくのかと思えば死にたくなってくる。

だから彼女は自分を殺す部活を作ったのだった。

 

それだけじゃない。酷いイジメにあっていた青柳くん、両親がギャンブルで多額の借金を負ってしまった佐藤くん、田中先生は奥さんが浮気して出て行ったらしい。

しかも何故か慰謝料を払わされる事になったとか……

 

 

「とにかく、皆心に闇を抱えてました」

 

 

夏美は熱心な勧誘に断れず入ったが、活動と言えば本当に遊びみたいな物だった。

窓の外で必死に頑張る運動部を見ながらお菓子を食べたり、子供に戻った様に外で遊んだり――そういえば秘密基地を作った時もあったか。

 

 

「私も楽しかったですし、しばらくはそうやって皆で笑ってました」

 

 

今思えば傷の舐めあいだったのだろうか?

だけどある日、夏美は千夏から涙ながらに持ちかけられてしまった。

 

 

『お願い夏美……私と一緒に死んで欲しいの!!』

 

 

果たして本気だったのか、それとも直前で立ち止まるつもりだったのかは今になっては何ともいえない話だ。

しかし少なくとも彼女はそう言った。なんでもJSクラブで塾をサボっているのがばれてしまったらしく、親に物凄く怒られたらしい。

頬を叩かれ、以後は一切部活には行くなと。彼女の心は擦り切れていた、だから優しい夏美に救いを求めたのだ。

一人で死ぬのは怖い、だから一緒に――、と言う事。

 

 

「私……必死に頼んでくる彼女を見て何も言えませんでした」

 

 

弱かったからか、夏美はかけてあげる言葉が全く浮かんでこなかった。

一応セオリーどおりと言えばいいか、そんな事をしたら駄目だよなどと言葉を述べてみるが食いつかれた時に夏美は言葉を失った。

 

 

「その時は……私は分かったって言うしかありませんでした」

 

 

両親を幼い時に失って夏美は祖父にあまり叱られる事無く成長した。

優しく育ったのは幸いだったが、逆に彼女は人の痛みを受け入れる事しかできなかった。

だからこそ夏美は苦しむ彼女を見て分かったと言うしかできなかった。

 

 

「そんな事が……」

 

 

頷く夏美、でもそんな時だった。学校から帰る司を見かけて彼女は思いきって相談してみる事に。

夏美は縋るような声で司に問い掛けた、もしも友達が自殺しようとしたらどうするか?

 

 

『決まってるだろそんなの――』

 

 

彼は迷わずに、即答する。

 

 

『助けるよ』

 

 

理由を聞く夏美、すると彼はおもむろに次々とヒーローの名前を羅列していく。

いきなり何を? 夏美が戸惑っているとヒーローの名前を止める司、彼は少なくともその名前を挙げた番組で同じようなエピソードがあったという。

自殺しようとしている人がいて、ヒーローがそれを見つけた場合――

 

 

『助けた率は100パーセントだ』

 

 

だから? 夏美が問い掛けると彼はニヤリと笑う。

 

 

『だから助ける。俺が知っているヒーローはそうしていたからな』

 

 

食い下がる夏美、それが本当にその人に為になるのだろうか?

 

 

『知らん、でも助ける』

 

 

そんな無責任な、夏美が言うと――

 

 

『それでも助ける』

 

 

司が見たヒーローはほとんどが助けていた。そして少なくともそのお話では助かった人は前を向いて歩くことを決めた。

それは結局作り物じゃないか、夏美が言っても司の答えは同じだった。確かに見ていた物は作り物だ、ヒーローと同じようにそう簡単には人の心なんて救える訳がない。

 

 

『でも、俺たちはそれを真似る事はできる筈だ』

 

 

テレビで見た英雄達はその行動を取り正義を示した。

そして結果的に笑って終わる事ができたのだ。だったら、自分は其方の行動を真似ると司は言う。

たとえそれで自殺しようとしていた人の心が救われなかったとしても、いつか助けた事が間違いなんかじゃないって分かる日が来る筈。

もちろん現実はテレビよりはずっと辛い、助ける事が必ずしも正しい事にはならない可能性だってある。

 

 

『だけど、俺はそっちの方がいいと思うぜ』

 

 

救うのは他者であり、そして――

 

 

『そうした方が、俺は救われる』

 

「私にとって、その言葉は衝撃でした」

 

 

ずっと他者だけをを救う事を考えていた夏美、しかし司はそこに自分への救いを乗せた。

エゴを交えた正義だが、それが一番だと司は言う。

 

 

『自分が納得できる行動をすればいい』

 

「私はその言葉で決めました、彼女を助けるって!!」

 

 

夏美は千夏を必死に止めた。それが夏美が本当に望んでいた事だと気づいたからだ。

彼女は人を救うことにだけ思考を働かせていたが、やはりどこかでモヤモヤとした迷いがあった事も事実だった。

本当にコレで良いのか? 彼女がそう迷っていた事は司の当たり前の様にも聞こえる言葉によって破壊された。

 

 

「その娘は最初は渋ってましたけど、段々と私の言ってることを分かってくれて」

 

 

本当は千夏は死ぬ気など無く、その苦しみを誰かに分かって欲しかったのかもしれない。

彼女は夏美の必死の訴えに折れて、そして現在は普通に夏美や司と同じクラスで夏美と楽しく笑っている。

確かに以前よりは彼女の生活はより窮屈になっていったが、それでも夏美と遊ぶときの彼女は楽しそうに笑っていた。

 

 

「だから私は、戦おうと思ったんです人の為に」

 

 

誰かの為に戦う事、誰の役に立てる事を自分は知ったから。

 

 

「……そして、私の為にも」

 

 

戦い続ける事が、自分が一番納得できる答えだと知った。

だから彼女は傷ついても尚キバーラでありたいと願う。しかしとそこで口を開く亘、記憶が消えれば関係ないのではと?

 

 

「確かに記憶が消えればもう関係ないかもしれません。だけど、今の"光夏美"を救うには、戦う事しかないと思うんです」

 

 

それにと彼女は少し俯いて小さく呟く。

 

 

「私にその事を教えてくれたのは司君でした」

 

「………」

 

 

司は今までも色々なヒーロー理論で様々なことを乗り切ってきた。

そしてそれは試練が始まってからも同じだ、彼が自分の信じる正義の味方を信じていた。

だからこそ彼はディケイドとして今まで戦えたのだと夏美は思っていた。しかし彼は今、その力を失ってしまった。

彼女はそれが自分のせいだと思っていたのだ。自分が負けたから、傷ついてしまったから。

 

 

「私のせいで司君が変わっちゃうって……思っちゃいましたっ」

 

「それは――……そんな事は」

 

 

少し声を震わせてうつむく夏美、ぽたりと手の甲に雫が落ちる。

しかしそれに反して司と一緒に戦いたいと思う自分への想い。相反する二つの思いが夏美を苦しめる。

でも一つだけ分かる事があれば、それは自分が変わらなければ――変えなければならないと言う事だ。

 

 

「みんなの為に、自分の世界のために、そして司君のために私は強くならなくちゃいけないんです」

 

「夏美さん……」

 

「あ、あはは……! ちょっと恥ずかしいですね!!」

 

 

いつか必ず話すから、この話は皆には内緒にしておいてくださいね。

夏美はそう言って悲しげに笑う。無言の司と亘、その中で唯一口を開いたのは里奈だった。

夏美はこの想いを皆に話すつもりらしいが、その事に里奈は首を振る。

 

 

「別に、話さなくてもいいと思います」

 

「え?」

 

 

里奈は夏美と席が一番離れているため、彼女の方を向かずに口を開く。

 

 

「誰でも胸に秘めた想いがあります」

 

 

それは汚い事かもしれない、それは誰にも言いたくない事かもしれない。

いくら仲間だからと言って全てを話し、全ての弱さをさらけ出す必要は無いと里奈は説いた。

自分だけが知っている思い、自分だけが理解できる感情。それを抱えるからこそ人は人として強くなれる筈だ。

 

 

「多分きっとそれは皆も同じじゃないかって……私、思うんです」

 

 

司に打ち明けた思い以外にも皆誰にも言えない想い、それぞれの決意を抱えている筈だ。

 

 

 

 

 

例えばそれはクウガ、ユウスケ――

彼は今人質を安全な場所に送り届けた後に再びテレビ局へ戻っていった。そんな彼の前に現れたのは蜘蛛の特性を持った"グロンギ、ズ・グムン・バ"。

一度試練時に戦ったことのある相手だが、クウガはソレを見て響鬼が先ほど言っていた事を理解した。

何故か分からないが、アイツだけは絶対に自分が倒さなければならないと思った。

それが何故かは分からないが、薫の力も使いたくない。ただただ自分の力で、自分が得たクウガの力で倒したいと強く願った。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

クウガはマイティフォームで走り出す。皆を本当に笑顔で終わらせられる事ができるのか?

目の前に居る敵は自分自身と言ってもいい、アイツを倒さなければ前には進めない。

そんな気がしてクウガは自分の胸に溢れる想いを拳に乗せた。その想いは彼だけが知っているもの。

 

 

『愚かなる人よ、足掻くのは止めよ。その先には絶望しかない』

 

「だとしたら僕は足掻くんじゃなく、お前に勝つだけだ!!」

 

 

例えばそれはアギト、彼はテレビ局にて自分に襲い掛かってきた天使、"ジャガーロード・パンテラス・ルテウス"と激しい肉弾戦を繰り広げていた。

いつも年長者として振舞ってきた彼だが、それが疲れる時だってある筈だ。それを翼は口にした事が無いし、そう言った雰囲気も見せた事は無いが彼だって人間。

司達を守ろうと思う事にプレッシャーを感じる、そんな想いを抱えた事もあるのだろうか? それはアギトだけが知っている。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ドラグレッダーを使役した龍騎は上半身が蜘蛛の怪人、下半身が巨大な蜘蛛の体になっている"ディスパイダー・リボーン"と戦っていた。

既に徐々に他の世界から怪人が集まり始めているのか、様々な組織の怪人達が世界に集結しつつあった。

龍騎はその巨大な敵にドラグレッダーと共に咆哮を上げて切りかかっていく。世界を疑った彼は世界の為に戦っている。

彼が思う正義とは? 彼が思う悪意とは何なのだろう? それは彼だけが知っている。

 

 

「ハァッッ!!」

 

「グッ!!」

 

 

拳を思い切り敵に打ち付けるのはファイズだ。

彼の前には『旅人』である"スティングフィッシュオルフェノク"が立ちはだかっていた。

恐らくコレから彼は自身が最も嫌っていた行動を取るのだろう。彼はそれを理解しているのか?

だからこそアレだけ鋭い拳を振り下ろすのか? それは彼だけが知っている事。

 

 

「ウェア!!」

 

 

一階ロビーにて、堕落、廃止、損失を司るアルカナ、"ローカストスペード"との戦闘を繰り広げるのはブレイド。

彼の刃がローカストを切り裂き、ローカストの蹴りがブレイドを打つ。

走る衝撃と痛み、自らを駆け抜ける苦痛や恐怖、日々感じていた劣等感や不満をブレイドは全て切り裂いて進む。

彼が司に語った戦う理由は、本当にそうだったのか? それは彼だけが知っている真実だろう。

 

 

「フッ! ハァアアッ!! ラアアアアアアアッッ!!」

 

 

誰も居なくなったテレビ局の中庭で響鬼は巨大な"ツチグモ"と戦っていた。

巨大な一撃をかわして炎弾を発射していく。鏡治たちと並び始めに飛び出していった彼、本当に後悔していないのだろうか?

今目の前で暴れている化け物を見て彼は本当に怯えていないのだろうか? いや、どちらにせよ彼は選んだ。だから戦わなければならない。

その覚悟、彼にしか知らない思いがあっての事だろうか?

 

 

「………フッ」『Clock Over』

 

 

無数の"アラクネワーム"をガタックと共に排除していくカブト。

クロックアップを使用してカブトは次々に襲い掛かるアラクネワーム達を爆殺していった。

襲い掛かる攻撃は全て受け流すカウンター、余裕の笑みを浮かべている彼だが、その心に隠すものは何なのだろうか?

常に余裕の笑みを浮かべ、常人を超えた行動を時に行う彼の心は彼にしか理解できないのかもしれない。彼がこれから突き進む道は、彼だけが知っている選択。

 

 

「そうだ、そうなんだよな。俺はやっぱりこういうのがしたくて着いたんだよ!!」

 

「チッ! 厄介な!!」

 

「来いよ! 俺ははじめっから最初から最後まで徹底的にクライマックスだぜ!」

 

 

"バットイマジン"から火花が散った。傷を抑える彼と、傷を刻み付けた電王。

自らの世界に放棄され、そして他者の世界とも相容れない存在となってしまった電王。

彼等は本当にそこまでして司達に味方する意味があったのだろうか? そして司達にそこまでの価値はあったのだろうか?

ただ一つ分かるとすれば、今電王は剣を振るっていると言う事だけ。全ての真意は電王達本人にしか知らないことなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆おそらく自分にしか分からない想いとか、口じゃ説明できない感情を抱えてるんだと思います」

 

 

司も亘も夏美も思い当たる節はある。人間と言うのは恐らく一番面倒な生き物だろう。

自分自身ですら自分の心を完全に理解しているとは言いがたい、そこにある様々な想いを理解していない。

今もきっとどこかに世界なんてどうでもいいと言う考えだってある筈だ、世界を見捨ててもいいと思う気持ちだってある筈だ。

どうして自分達がココまでしなくちゃならない? ライダーの力だけくれればいいのに――などと思っているかもしれない。

そうでしょう? 次々と溢れる里奈の言葉に司達は沈黙するだけだった、肯定もしなければ否定もできない。

 

 

「ただ、醜い心も、弱い心も、汚い心も、全てひっくるめて人間なんだと私は思う」

 

 

そしてそれを受け入れ、否定した時に人は前に進める筈だ。

里奈はそう言って司達を見る。やっと分かった、彼女はそう言って司達に頭を下げた。

 

 

「私は戦えません。役立たずかもしれません、弱いです――ッッ」

 

「里奈ちゃん……」

 

「だけど、皆について行きたいって思ってます!!」

 

 

里奈は最後に司だけを見る。

 

 

「私はライダーを全然知りませんでした。だから司さんに教えられた姿が、みんなを見てて知った姿が私にとっての仮面ライダーなんです」

 

 

司は仮面ライダーの事を正義のヒーローだと言った。

悪を倒し、悲しみを破壊する力だと言った。だが今はどうだ? 司は複雑な表情を浮かべると思わず里奈から視線を反らす。

とは言え、肝心の里奈は尚も司を見て言い放つ。

 

 

「司さん、わがままなお願いかもしれないけど――」

 

 

里奈は拳をギュッと握り締めた。

 

 

「どうか私に、これからも仮面ライダーの姿を見せてくれませんか?」

 

「!」

 

 

反射的に里奈に視線を戻す司、目が彼女の強い意思を灯した瞳とぶつかった。

 

 

「どうか、正義を教えてください――っ」

 

「……里奈」

 

 

そこにあったのは信頼だ、司はしばらく何も言わず里奈と見詰め合う。

しかしそんな時空中から飛んできたのはキバットだ、彼は亘の肩に着地すると近くに敵を発見したと彼に告げる。

 

 

「ッ! だった私と亘君で――」

 

 

そう言って立ち上がろうとした夏美、しかしそれを止めたのは亘だった。

戸惑う夏美に亘はソイツだけは自分で倒したいと告げる。それはクウガや響鬼が感じた事と同じだった。

いや、彼等だけでなくクウガからキバまでの9人が全員共通して思った事。別に因縁の相手と言う訳でもないが――

 

ズ・グムン・バ。

 

ジャガーロード・パンテラス・ルテウス。

 

ディスパイダー・リボーン。

 

スティングフィッシュオルフェノク。

 

ローカストスペード。

 

ツチグモ。

 

アラクネワーム。

 

バットイマジン

 

そして、今キバットが教えてくれた敵の名はホースファンガイア。

何故かそれぞれのライダー達は、この敵を自分の手で倒したいと強く思った。

 

 

「ちょっと行ってくるよ!」

 

 

亘はそう言って席を立つ。

そんな彼を呼び止めたのは司だった、敵が迫る中でどうしても聞いておきたい事ができた様だ。

 

 

「なあ亘」

 

「何?」

 

「今の俺……かっこいいか?」

 

 

目を丸くする三人、亘は吹き出す様に笑うと初めてそこで司に視線を合わせた。

 

 

「ぶふーっ! 兄さんをかっこいいなんて思った事なんて、一度もねぇよ」

 

「ブッ! お、お前なぁ!」

 

「だってそうだろ? いい歳してヒーローだのなんだのって! 第一自分でかっこいいとか思ってたの? ほざいてろよ!」

 

「そ、それは――! って、お前きつ過ぎるぞ!! 慈悲は無いのか!」

 

 

亘は踵を返すと足を一歩進める。

ヤレヤレと司は再び俯いたが、そこで亘は口を開いた。

 

 

「まあ、でも……そうだね」

 

「?」

 

「ヒーローの話しをしている時の兄さんは嫌いじゃないぜ。ディケイドになってる時は、まあカッコいいかもね」

 

 

そう言って走っていく亘。

司は俯き亘は背を向けている為に双方から双方の表情は見えないが、実は二人とも同じようにニヤリと笑っていた。

何故彼等がそう笑うのか、それは聖兄弟にしか分からない事。

 

その時、ショーのヒーローがピンチに陥る。

司会のお姉さんが皆にヒーローを応援してと皆に訴えかけた。

直後、会場は子供や両親の応援の声で溢れかえった。皆必死にヒーローを応援している。英雄の活躍を待っている。

 

 

「さてと……そろそろ行くか!」

 

 

司は顔を上げ、そう言って笑った。

 

 

「いいんですか? まだショーはありますよ」

 

 

恐らくこれから盛り上がるのだろうが、司はゆっくりと首を振る。

 

 

「ああ、もういいんだ」

 

「そう……ですか」

 

 

夏美は意味を理解したのか優しく微笑んで頷いた。

司は次に里奈に視線を送る。いろいろと思いが交差する事で迷っていたが、大切で当然の事を彼女から教えられた様な気がした。

 

 

「俺は里奈が今何を考えてるか分からないし、里奈も俺の考えは分からない。それが普通なんだもんな」

 

「……はい。だから私は、自分の意思を行動や言葉にして皆に示します」

 

「ああ、助かったよ。当たり前だけど言われて実感する」

 

 

それを聞くと照れた様に笑う里奈、役に立てたのなら嬉しいと頭を下げた。

今ままで少し疎外感を感じてしまっただけに嬉しさも膨れ上がる。それを聞くと首を傾げる夏美。

 

 

「疎外感ですか?」

 

「は、はい。ほら……やっぱり私以外一緒に暮らしてる家族じゃないですか」

 

 

確かに司、亘、夏美の三人と里奈では少し里奈が仲間はずれになってしまう感じが強い。

そこに彼女は若干の寂しさを持っていたのだろう。それを聞くと首を大げさにブンブンと振ってみせる夏美、もう特別クラスは家族の様な物じゃないかと彼女は笑う。

 

 

「それに、なんなら本当の家族になっちゃいますか?」

 

「え? それってどういう意味ですか?」

 

 

にんまりと笑みを浮かべる夏美。

 

 

「司君がお兄ちゃんは嫌ですか?」

 

「え……? ええええええええ!!」

 

 

意味を理解して真っ赤になる里奈。おいおいと司は呆れ顔で夏美を見る。

もしもこんな事を言ったのがバレたら亘はかんかんに怒るに違いない。きっと夏美の食事をずっとミカン一個に縛ってくるはずだと。

 

 

「いいじゃないですか! ねぇ?」

 

「あの……! えっと!!」

 

「あ、ごめんなさい! もしかして嫌……でした?」

 

「い、嫌とかじゃないです! 全然!! む、むしろ……う、嬉しいと言うか――っ」

 

「んじゃあいいじゃないですかぁ? ねえ? あー、でも亘くんはああ見えてヘタレな部分がありますからねぇ」

 

 

小声で言い合う二人を見て司は笑みを浮かべる。そうだな、何を思ったっていい。

だからこそ自分の思いにはハッキリと意思を示さなければならない。司はディケイドライバーを取り出すと力強くソレを握り締める。

おい、聴いてるのか? 俺は今から戦う理由を変えるぞ、司はそれを念じてより力を込める。今までは夏美を、仲間を守りたいと思ったが止めた!

 

 

「おい、まだショーは終わってないぞ」

 

「!」

 

 

その時だ、司の後ろに座っていた青年が彼に声をかけた。

夏美は里奈を車椅子に乗せる手伝いをしている為か二人とも気づいていない様子。司は仕方ないと、自分だけ青年に向かい合って頷いた。

 

 

「何故だ? ショーはこれから盛り上がるのに」

 

 

青年もまた一人でショーを見に来ているのだろうか? 周りに人は居ない。

司はそれを確認しつつも特に気にする事はなかった。青年に自分が抱えた理由を説明する事の方が遥かに大切だと思ったからだ。

 

 

「はい、ちょっとやる事ができて」

 

「……それは、楽を捨ててまでする事なのか?」

 

 

このまま座り続け、ショーを見ていれば楽に終わる。

少しおかしな青年の言葉に司はあえて答えた。そのままの、司の想いを乗せた言葉をだ。

 

 

「はい。どうしてもやらなきゃいけない事ができたんです」

 

「それは、お前にしかできない事なのか?」

 

 

どうだろう? いや、きっとそれは少し違う。司が思い出すのはクウガからキバまでのライダーだ。

ディケイドは彼等に変身できるが、思えば既に役者はそろっているじゃないか。

ユウスケ達もまた自分となんら変わりない、むしろ変身できない今ならば彼等の方が余程強いし役に立っている。

 

 

「別に俺だけににしかできないかって言われるとそうじゃないかもしれない」

 

 

しかし――

司はまっすぐに青年と視線をぶつけ合う。

 

 

「だけど、俺がやらなくちゃいけないのも確かなんだ」

 

「……そうか」

 

 

青年はそう言って納得した様だった。

それで二人の会話は終わったと思われた、しかし意外にも今度は司の方から青年へ言葉を投げ掛ける。

どうして見ず知らずの青年にそこまで話すのかは司自身分かっていない事。しかし何故か冷静だった、司はちゃんと自分で判断して青年との会話を続けたのだ。

 

 

「俺、今までいろんな所を旅してきて――」

 

 

そして疲れてしまった。迷ってしまった。だから得たものを失ったのか? 自問を繰り返した先に答えは無かった。

だが仲間に教えられた事で、司はやらなければ行けない事に――

いや、やりたい事を決めた。

 

 

「だから、続けたい」

 

 

普通ならばいきなりそんな事を言われても意味なんて分からないだろう。

しかし何故か青年はフッと笑うと足を組んでふんぞり返る。随分とえらそうな態度かもしれないが、そこには確かなエネルギーがあった。

とは言え、彼は少し悲しげな表情で言葉を司に向ける。

 

 

「人は誰でも自分のいるべき世界を探している」

 

「……!」

 

「そこは偽りの無い、陽の当たる場所。そこへ行く為に人は旅を続けるんだ」

 

 

達観したように、経験があるかの様に青年は語る様に言った。そして司も

 

 

「そして旅を恐れない。お前はどうだ?」

 

「………」

 

 

司はニヤリと笑う。それを見て青年もニヤリと笑った。

 

 

「俺は……まだいろいろ分からない事もあるけど、それでもココで止まれないってのは知ってます。だから、俺は旅を続けて自分の想いを貫きたい」

 

「そうか――……」

 

 

その時だった、夏美が司に声をかけた。

里奈と二人既に会場の出口にいた様で、司に早く来いと手招きをしている。頷く司、もう行かないと――

そう言って彼は青年へ背中を向ける。

 

 

「お前は、自分に才能が無いって言ったな」

 

「ッ?」

 

 

背後から聞こえる声、青年も司に背を向けていた。しかし放たれた言葉は司に向けられている事が分かる。

どうやら青年は先ほどの司の言葉を聞いていた様だ、司としては何気なく言っていただけだったが――

 

 

「他人のために動く事は、それだけで才能だ」

 

 

その才能に優劣はない。等しく、そして誇れる才能なのだと青年は言う。

どんな理由があれど他者の為に自分が動く事は簡単そうで、難しい。司にはそれがあると青年は少し偉そうに言って笑った。

 

 

「忘れ物だ。しっかり持って行け」

 

「!」

 

 

青年は何かカードの様な物を司に向けて投げる。

風を切って飛んでくるカードを何とか受け取る司、何だ? 彼はすぐにソレが何かを確認する。

忘れ物をした覚えは無いが――?

 

 

「次はもう、無くすなよ」

 

「ッッ!!」

 

 

司はその忘れ物を見て表情を変える。そして聞こえるのはカメラのシャッターの音。

なんだ? 司はすぐに青年の方へ視線を向けた。だがしかし既に青年の姿はどこにも無い、司は辺りを見回すがやはり彼の姿を発見する事はできなかった。

 

 

「………っ」

 

「司君! 何やってるんですか? 行こうって言ったのは司君でしょ!」

 

 

司は夏美の呼びかけてハッと我に返る。

適当に謝って夏美達の元へ走る司、彼は二人に後ろにいた青年の事を問い掛ける。

すると首を傾げる二人、目を丸くして不思議そうな顔で司を見る。

 

 

「何言ってるんですか司くん。私達が一番後ろの席だったじゃないですか」

 

「………」

 

 

そうだな、そうだった。

後ろの席なんて無かったんだ。司はその意味を理解して受け取ったカードを強く見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ! ハァアアアアア!!」

 

『ブルルルッッ!!』

 

 

双子のペテン師が夢見る誠実と憂鬱、キバはホースファンガイアに鋭い蹴りを食らわせる。

右に向けて放つ回し蹴りは殴りかかってきた手を弾き、さらにそのまま左に振り払う蹴りはホースが持っていた剣を弾き飛ばす。

キバはさらに蹴りを勢いを利用してバック転、サマーソルトキックでホースの顎を粉砕。衝撃で空中に跳んでいくホース、キバも地面を蹴って空中へ飛び出した。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ホースを越えて上がっていくキバ、フォームチェンジは使いたくない。

キバのままでコイツを倒したいと言うのが彼に溢れる想いだった。その信念を解き放ち空間を夜に変えるキバ、カテナは既に開放されてヘルズゲートが姿を見せる。

 

 

「ダークネスッッ!!」

 

 

逆さになり月と重なるキバ。

 

 

『ムーン!』

 

 

彼はその足をホースの胴体へ叩きつけた。

そしてそのまま一直線に地面を目指し、ホースを地面に叩きつける!

 

 

「『ブレイク!!』」

 

 

地面に刻み込まれるキバの紋章、ホースファンガイアはステンドグラスに姿を変えて粉々に砕け散った。

立ち上がり変身を解除する亘、そこへ夏美達が駆け寄ってきて彼の無事を確かめた。

既に我夢からブレイクエネミーの件は聞いている、そしてテレビ局にいたメンバーから屋上にオーロラが出現したという情報を受けた。

とにかくフィロキセラを倒すか他の怪人を倒すかしなければ――

 

 

「時間は無い、さっさと行こうか!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

 

夏美はマシンキバーラに、里奈はキバットと亘に手伝ってもらいマシンキバーの後ろに乗った。

司はと言うとココまではアギトに乗せてもらったから次は必然的に夏美となる訳だが――

 

 

「いや、いい」

 

「は? おいおい、まさか照れてんのかよ兄さん」

 

 

まさか! 司は首を振って笑った。

しかしバイクが無ければテレビ局までは相当な時間がかかる筈、それは司だって分からない訳が無いだろうに。

それを聞くとニヤリと笑みを浮かべる司、彼が夏美のバイクに乗るのを断った理由は酷く簡単なものだった。

 

 

「俺には、俺のバイクがある」

 

「「「!!」」」

 

 

司の前に現れたのは"マシンディケイダー"! 三人は目を丸くしてしばらくは沈黙していた。

しかしすぐに笑顔になってワッと歓声を上げる。司は少し安心した様に笑うと、すぐに力強い目でテレビ局がある方向を睨む。

見えたのはオーロラ、何となくそんな気はしていたが、おそらくあそこには――『彼』がいる筈だ。

 

 

「さあ……行こうぜ!!」

 

 

司の言葉に頷く三人、しかし――

 

 

「何いきなり仕切り始めてんだよ!」

 

 

そう言って司の背中を思いっきり亘は叩く。

 

 

「ブッ!」

 

「そうですよ、今まで何やってんですか!」

 

 

そう言って夏美も司の背中を思い切り叩く。

そこは仕切らせろよ! 司はそう言って涙目でうずくまる。そこがたまたまマシンキバーの近くだったので、里奈は司の背中を優しく撫でていた。

 

 

「よし! じゃあこのまま行っちゃいましょ!!」

 

 

里奈がガッツポーズを取って笑った。

その言葉に一勢に手を上げる司、夏美、亘。

 

 

「「「おーッ!!」」」

 

 

結局仕切ったのは里奈。とにかく司を中心にして夏美と亘、里奈はバイクのスピードを上げていく。

テレビ局に近づいていくにつれて人の数は少なくなり、より三人はアクセルグリップを回していった。

悲しみの声を掻き消す様なエンジン音、線になっていく景色は風を切り裂いている証拠だ。

迷いも、悲しみも、焦りも全て振り切って司はマシンディケイダーのスピードを上げていく。気のせいだろうか? 徐々に周りが無音になっていく。

いや、どうだっていい! 司はよりいっそうエンジン音を上げようとアクセルを回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『空が綺麗だね』

 

 

いつの間にかそこは司が走っていた景色とは大きく変わっていた。

しかしそれでも司がスピードを緩める事は無い、ただひたすらに司はスピードを上げる。

そんな彼の前を走る男が一人、彼は司が知っているバイクに乗っていた。司から男の顔は確認できない、しかし声だけは何故か鮮明に聞こえる。

 

空? 司は空を見上げる。

視界いっぱいに広がったのは快晴の空だった、とはいえ夜空とも青空とも夕焼け空とも言えない不思議な空。

からっぽの空、からっぽの星、時代はゼロから始まった。

 

 

『そんなにスピード出してさ、怖くない?』

 

 

男は自分よりも早く走っている筈なのにそんな事を言う。

先ほどまではバイクの乗り方が頭から消えていたが、いつの間にか自分はバイクに乗って全ての振り切る様なスピードで走っている。

何とも不思議なものだ、司はそう思いながらまたもスピードを上げようとアクセルを回す。けれども、一向に男に近づける気配は無かった。

と言うよりも、何となく分かる。自分は彼には追いつけない――?

 

 

「怖い」

 

 

司は言った。

 

 

『止まらないの?』

 

 

男は言う。

 

 

「………」

 

 

司は少しだけ沈黙するが、男の背中を見つめて言った。

バイクは爆音を上げているはずなのに、司の声は鮮明に星を中を駆ける。辺りに散らばる星の欠片が光り、ネガフィルムの中を司は駆ける。

まるで静止画のスライドショー、けれども自分は走っている。違和感と言う世界を疾走する。

 

 

「止まった方が、怖いって……俺は思うから」

 

 

それを聞くと前にいた男はスピードを落として司の隣に移動する。

そしておもむろに手を司に向かって突き出した。司の視界いっぱいに広がるのは指、司は少し引いてそれの正体を確かめた。

どうやら指は親指だったらしい、

 

 

『これ、自分の行いに納得してる者だけがやっていいポーズだって俺の尊敬する先生に教えてもらった。

 俺はこのポーズをいつもやってたい、だから君もコレ真似して良いよ』

 

 

司は頷くと自分の手を見つめる。片手で運転なんて危なっかしい物だが彼がバランスを崩す事はない。

彼は拳をグッと握り締めて目を閉じた、思い出すのは拓真を殴った時の感触だ。待ってろ拓真、司は頷くと男に向かって親指を一本立てた。

 

 

「――ッ!」

 

 

男はそれを見ると光になる。

顔はぼやけていて分からない、声も何故か印象に全く残らずに誰だか分からない。

司は再び視線を前に戻し、目いっぱい広がっている"始まりの紋章"を通り抜ける為にバイクを走らせた。

そうやってバイクが紋章を通過すると、空に一つ星が輝いた。

 

 

『好きな食べ物、あります?』

 

「………」

 

 

横から現れた青年は唐突にそんな事を聞いてくる。

バイクを横につける青年、司は意味不明な質問にも迷わず答えた。何故かそうしたい、そんな気分だったからだ。

 

 

「オムレツ」

 

『ああ、美味しいよねぇ。俺も好きだなぁ』

 

 

恐らく何を言ってもそう言われていたのかもしれないが、大切なのはソレを美味しいと思える気持ちにあると青年は言う。

好きな物を食べられて、それを美味しいと思えるのならば君は大丈夫だと青年は説いた。

 

 

「でも、そう思えない人もいる」

 

 

恐怖に落とされ、絶望に縛られ、好きだった物さえ悲しみの中に沈む。

そんなの、そんなの悲しすぎるだろ! 司は光の中を駆け抜けた。じゃあ君はどうする? 青年の言葉に司は叫ぶようにして声をあげる。

 

 

「変える! そんな悲しい現実は、俺がぶっ壊してやる!!」

 

『……そう! ま、大丈夫大丈夫! 俺がついてるからさ』

 

 

君は君のままで変われば良いんだ、そう言って顔が見えぬ青年は司を追い抜くと光になって紋章へ変わる。

司は何も言わずアクセルを全開にしたまま"未来の紋章"を通り抜けた。すると、空にまた一つ星が輝く。

 

 

『命を賭けてまで、叶えたい願いってある?』

 

「ある」

 

 

龍の姿をしたバイクが司の目にとまる。

何だろう? 見たことがあるのに、乗っている人も知っている筈なのに司には全くそれが何なのか分からなかった。

唯一理解できたのは質問の内容だけ、司はすぐに自分の答えをぶつける。

 

 

「これは、俺の……俺だけの願いなんだ!」

 

 

聖司が抱いた希望、命を燃やしても叶えたい思いがある。

現実にしたい願いがある。それを聞くと龍のバイクに乗った男は悲しげに呟いた。

 

 

『俺は、俺の願いを叶えられなかった……』

 

 

だけど、君ならできるかもしれない。そう言うと男はビシッと司を指差して笑った。

司の願いに、司の心に芯があったのなら、自分は――『皆』は君について行ってくれるだろうと。

そうじゃないと誰も司の言うことなんか聞いちゃあくれない。その『皆』がどれだけの人を指しているのかは分からないが司は強く頷いた。

 

 

「!」

 

 

その時、誰よりも強い命の音が聞こえた気がする。

気がつけば消えていた男、そして目の前には"命の紋章"が広がっていた。司がそれを潜ると、空に一つ星が輝いた。

 

 

『………』

 

 

司の隣にはいつの間にか他の男が並走していた。

ダルそうな雰囲気の男は、小さな星の話をする。人の闇、過酷な運命、逃れられない戦い、青年の話は何とも悲しい物語だった。

それは現実と言う名前のお話だ、司も前に進むというのならそんな現実を前にしてしまうかもしれない。それでも行くのか? 青年は急に湧き上がった雑音の中で叫ぶ。

 

 

「………」

 

 

この雑音は迷いか、司の中にあるジレンマか――

 

 

「――ッ! はい!!」

 

 

しかし司はそう言ってスピードをまた一段上げた。

吹き出たエンジン音は雑音をかき消すとすぐに静寂を齎す。青年は面倒そうに首を振ると、少し渋るようにして声を出す。

彼もまた、顔はよく見えない。

 

 

『めんどくせぇから、一度しか言わねぇぞ』

 

 

司は男からのメッセージを受けて"夢の紋章"を通り抜ける。

一体司は男から何を言われたのだろう? 応援のメッセージか、それともアドバイスかは知らないが司はニヤリと笑ってバイクを走らせた。

空には星が一つ増えて輝いている。『悲しみ』を繰り返し、自分達はどこへ行くのだろう?

 

 

『君は何故そこまでして戦う!?』

 

 

未来、『悲しみ』が終わる場所。

バイクが跳んでくる。司の前に着地した男は彼に戦う苦しみを説いた。悲しみを終わらせるには苦しみが伴う。

司もここまでやってきたならソレを知っている筈だ、そうまでして戦うには自分の心を突き動かす理由がある筈。

 

 

『俺の体を動かすのは義務とか使命なんかじゃない! そこにいる人を守ろうとする想い! そうだ、俺は人を愛しているから戦えた!』

 

 

男は叫ぶ。悲しみも、苦しみも、喜びもそこにはあった。

司は既に幾重もの光になっている景色を見つめてただひたすらにスピードを上げた。

ぶれる世界で、彼の姿だけは鮮明に写っている。声も、顔も分からないが司は必死に目の前にいる男を追いかけた。

 

 

「俺を突き動かすのは――ただ一つ、正義!!」

 

 

それを聞いた男は頷いて光と変わる。

男に追いつくことはできなかったが、司はスピードを下げる事は無い。

先に待つのは、そこにあるものは希望か絶望? 司はそのまま"運命の紋章"を潜り抜けて空に一つ星を灯した。

 

 

『やりたくない事はいっぱいある。でも、そういう事に限って案外どっかで役に立つもんだ』

 

「!」

 

 

初めて後ろから声が聞こえてきた。しかし司は振り向かない、後ろにいる男もそれでいいと笑っていた。

人間が旅立つ時は晴れた時に胸を張るのが一番いい、後ろを振り返っていく必要は無い。

 

 

『もし今すごく辛いと思うんなら、これからは辛くならないようにすればいい』

 

 

それはきっと大変な事かも知れない。

 

 

『でも落ち込む奴は強く成長するんだよ』

 

 

それに、司には皆がいるじゃないかと男は笑った。

何も司は一人で戦っている訳じゃない、頼れる仲間がいるじゃないか。彼が信頼できる人達が特別クラスには集まっている。

こんなに頼もしい事が、こんなに嬉しい事は他に無い。

 

 

『俺たちはいろんな人に出会える事で、どんどん強くなっていくんだ』

 

 

それは世界を旅する中でもそうだろう。きっとこれからも彼は色々な人と出会い成長していく。

 

 

『強いやつは笑顔になれるぞ! それに人を笑顔にする事だってできる』

 

 

しかしその為には心を鍛えておかなくてはならない。

力は人を傷つける可能性だってある。その道を間違えないためには心をしっかりと持たなければ。

 

 

『辛かったなら逃げても良いけど、自分の心に負ける事だけはするなよ』

 

「はい!!」

 

 

司はありったけの声で叫ぶ。

すると男はどこからか火打石を取り出すと、それをカチンカチンと音を立てて鳴らす。

それが、君の響き、だ。

 

 

『頑張ってなー、応援してるぞー!』

 

 

消える男と司の前に広がっていく"心の紋章"、司は男の応援を受けて紋章を潜り抜けた。

空に一つ星が輝き始める。

 

 

『おばあちゃんが言っていた。世界は自分を中心に回っている。そう思った方が楽しいってな』

 

 

司の脳に直接叩き込まれるかの様にして声が響き渡った。

周りを見ても誰も居ない、しかし声は尚も祖母から言われたらしい言葉を羅列していく。

彼の祖母は相当凄い人物だったのだろう。数分、もしかしたら数十分、あるいは数時間? 時間は知らないが、いくつもの名言を司に教えていった。

そして段々と司の前から迫ってくる影。なるほど、前から現れたと言う事か。

 

 

『おばあちゃんが言っていた。正義とは俺自身、つまり俺が正義だ』

 

 

前からどんどんと近づいてくる影、このままならば司と正面衝突だろうが二人とも減速する気は無い。

むしろ逆にスピードを上げて双方向かって行った。影は言う、まだ距離はあるが声は鮮明に聞こえた。

 

 

『お前はどうだ?』

 

 

司は叫ぶ。どんなに離れていても聞こえる様に!

 

 

「俺が、正義だ!!」

 

 

この正義を見逃すな、ついて来れるなら!!

 

 

『面白い。ならば覚えておけ! 世の中で覚えておかなければならない名前はただ一つ。天の道を行き、総てを司る男――』

 

 

男が司とぶつかりそうになった時、彼は"正義の紋章"に姿を変えた。

それを通りぬける司、空に一際強く輝く星が現れた。

 

 

「―――ッ!」

 

 

司の脳裏に強く良太郎達の姿がフラッシュバックする。

見てるか良太郎? 聞いてるか良太郎? まあ恐らく聞いてないだろうけど、聞いてくれ。

司はバイクから身を乗り出すと声が嗄れるほどの勢いで叫ぶ。俺はずっとお前に憧れていたが、もうそれじゃ駄目なんだろ?

そうだ、俺はお前を超えてやるつもりで走るぜ! きっと多分それは無理だろうけど、俺はやるぜ!

だから良太郎、一緒に戦ってくれ。俺には、俺達にはお前の力が必要なんだ。でも俺は負けない、いつか本当のライダーになるんだ!!

 

 

「俺はッッ!! 世界と言う生簀から悲しみを全部釣ってやる! 根絶やしにしてやる!!」

 

 

叫びながら彼はアクセルを回す。もう既に限界までまわしている筈なのに、もっと回せる気がして。

 

 

「俺の力で悪党共を号泣させてやる! 俺の強さは泣けるほど凄いんだ!!」

 

 

それに応えてますます加速するマシンディケイダー。

 

 

「俺は世界を変えてやる! そうだ変えてやる!! 誰の答えも聞いてない! これは俺自身の意思だ!!」

 

 

だってそうだろう?

 

 

「俺は――ッッ!!」

 

 

目の前に広がっていく"思い出の紋章"。

諦めない、諦めたらそこが終点になってしまう。

 

 

「俺は最初っから最後まで徹底的に、究極的にクライマックスなんだよぉおおおおおおおおおお!!」

 

 

紋章を突破する司、空には様々な色を持った綺麗な星が煌いていた。

 

 

『貴方の旅に、終わりは来ると思いますか?』

 

 

隣に居た亘が声を掛ける。いや、それは亘でない事は分かっていた。

ココには亘も夏美も里奈もいない。聖司だけが走っているのだから。そして隣にいるバイクにのった青年はピッタリと司の横を走っている。

 

 

『多くの悲しみを、貴方は超えられますか?』

 

「………」

 

 

無音になる世界、司はその中で必死にバイクを走らせていた。

司の前に広がるのは無限の大地、ゴールはあるのだろうか?

 

 

「俺は、必ず世界を救う! そのゴールを俺は諦めない」

 

 

そして人を悲しみに叩き落す悪を倒す。

 

 

「それが俺の、仮面ライダー!」

 

 

俺の正義はこの無限さえも破壊する。それを聞いた青年は静かに頷くと"愛の紋章"に変わった。

無音だった世界にはいつの間にか美しいヴァイオリンの曲が響いている。

それは青年からのエールなんだろう。彼の声が司にははっきりと聞こえてくる。

 

 

『頑張ってください。僕も、力を貸します』

 

 

そこにある、確かな絆を忘れないでと彼は言い残した。

 

 

「はい!」

 

 

紋章を通り抜け、そして司は空を見上げる。ゼロから始まった(じだい)、しかし今見上げる星にはそれぞれの歴史が輝いていた。

それは互いに正座の様に線で結ばれていき、"伝説の紋章"をつくりあげた。九つの道は一つに重なり合い、司をその紋章へ誘う道しるべとなる。

その道を駆け上がる司、そして彼がその伝説の紋章を――

 

 

ディケイドの紋章に触れた時――

 

 

「司君!!」

 

「!」

 

 

景色は元に戻る。

夏美に話しかけられて我に返る司、彼の視線には見覚えのある姿が二つ並んでいた。

特に夏美はその姿を見てキュッと唇をかんだ、それだけ苦い思い出のある相手だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ、まさか本当に現れるなんて驚いたわ」

 

「ええ、本当に驚きだ」

 

 

既に変身していたSNAKEとBAT、彼女達は夏美達とテレビ局に続く道にて再会を果たした。

どうやら二人は夏美達がココに来る予想を聞かされていたらしい。

てっきりSNAKEたちは夏美が死んだとばかり思っていたが、まさかまたも自分達の前に現れるとは思っていなかった。

 

 

「でも、何度来ようともまた殺してあげるわ。お嬢ちゃん」

 

「――ッ!」

 

 

バイクを停止させる三人、前からはBATとSNAKEが余裕の雰囲気を出して近づいてくる。

小声で素早くやり取りを行う四人、司は最後に一言だけ亘達に向けて言い放つ。

 

 

「死ぬなよ」

 

「その言葉、そのままそっくり返すぜ」

 

 

ニヤリと笑い合う四人。

すると一気にアクセルを入れる司、ウィリーになりながら彼はSNAKE達を抜けて行こうと走り出す!

対して嘲笑を投げる二人、行かせる訳が無いだろうとそれぞれは戦闘態勢に入った。

だが、同じくバイクから跳躍する亘と夏美、彼らの頭上にはキバットとキバーラが素早く飛翔してくる。

 

 

『行くッスよ亘さーんっ!!』

 

『構えて! 夏美!!』

 

 

二人はそれぞれ空中でキバット達をキャッチするとスムーズな流れてで自分の手を差し出して噛ませた。

 

 

『ガブーッッ!!』

 

『かぷっ☆』

 

 

同時に手を突き出す亘と夏美!

 

 

「「変身!!」」

 

 

キバとキバーラは持ち前の素早さを活かして司を妨害しようとした二人を止める。

キバはBATに掴みかかり、キバーラはサーベルでSNAKEを突き出していく。その隙に二人の間を駆け抜けていく司、あっという間に彼は小さくなっていった。

 

 

「なるほど、初めからこれが狙いでしたか」

 

「ああ、お前の相手はボクだ!!」

 

 

キバを蹴り飛ばすとマントを翻すBAT、同じ蝙蝠同士でつぶし合うのも面白いと彼は笑った。

対して両手を広げて構えを取るキバ、BAT笑いながら彼へ手招きをして挑発を行う。

 

 

「しぶとく生き残った事は褒めてあげる。でも、次は手加減しないわ」

 

「上等です。かかってこいです!!」

 

 

仮面からはみ出た黒い長髪をかきあげてニヤリと笑うSNAKE、対してキバーラはサーベルを向けて威嚇を行う。

にらみ合う両者、一度は大敗を喫したキバーラだが今回も同じ結果とはいかない。

みんなの為に、司の為に、そして何よりも自分の為にも。

 

 

「私は貴女に勝つ!!」

 

「フフフ、残念だけど不可能よ!!」

 

 

走り出す両者。キバーラはサーベルを、SNAKEは自慢の蹴りをそれぞれぶつけ合った。

大きな火花が二人の間に散り、戦いの開始は宣言される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして二人のアシストを受けてSNAKE達を引き抜いた司、しかし彼は確実に自分に迫ってくる気配を感じていた。

それはそうだろう、SNAKE達はあくまでも彼の部下でしかない。そして先ほどは彼の姿がどこにも無かった、おそらく彼は自分がとる行動を既に予測していたはず。

 

 

「だろ?」

 

 

司は真横に迫ってくるエンジン音を見てニヤリと笑った。

 

 

「COBRAッッ!!」

 

「………」

 

 

司の横に並走するのは秋人だ、彼は自身のバイクである"シュヴァルツ"に乗り込みマシンディケイダーと並走する。

にらみ合う両者、バイクのエンジン音と吹きぬける風だけが二人を包んでいる。

 

 

「何故またやって来た……! 僕の忠告を聞いていなかったのかッッ!!」

 

 

秋人はその表情にありったけの怒りを乗せて司を睨む。

あのままリタイアしておけば良かった物を! 彼はそう言ってシュヴァルツをマシンディケイダーに接触させる。

ガリガリとぶつかり合い火花を散らす二つのマシン、その中で司と秋人は視線をぶつけ合っている。

猛スピード、どちらかがバランスを崩せば終わりだった。しかし二人は尚もスピードを上げる。

 

 

「俺は答えを見つけた。もう迷わない!!」

 

 

司は秋人の襟を掴んで言い放った。

 

 

「大ショッカーは、俺が潰すッッ!!」

 

「馬鹿が!」

 

 

マシンディケイダーを蹴り飛ばす秋人。

二人の間は再び大きく開き、ちょうど前方には川を渡るための大きな橋が見えた。

加速する両者、そしてなんと二人はマシンを跳ね上がらせると橋の欄干に着地して尚も加速する。

少しでも外にバランスを崩せば下に落ちる状況の中で二人はバイクを走らせる。しかもその状態で二人は互いを睨みあう!

 

 

「痛みを知り、守れない怖さを知って尚君は戦うと?」

 

「ああ、それが俺の答えだ!」

 

「呆れて物も言えないよ。戦いは遊びじゃない! これは殺し合いだ!」

 

 

欄干は坂道になっていく、しかしそれでも二人は互いを見て声を張り上げた。

司もあの敗北を知って色んな事を学んだ。いろいろな事と向き合った。そして尚まだココにいるのだ。

 

 

「今度こそ彼女が死ぬぞ!」

 

「死なせない! 俺が、アイツ自身が止める!!」

 

「何を根拠にッ!?」

 

 

そんな物は無い。司も秋人も知っている。

 

 

「だから戦うんだろ! 守るために! 信じる為に!!」

 

「無理なんだよ! お遊びレベルのお前等じゃ!!」

 

 

沈黙する司、坂はますます急になり二人は落とされないようにスピードを限界まで上げていく。

そして司が浮かべる表情は、またしても笑みだった。それを見て秋人は表情を変える。

コイツ――!

 

 

「羨ましいか? COBRA!」

 

「な、なにッ?」

 

「俺はライダーになれた。そしてこの力を手放したくない!!」 

 

 

お前にとっては遊びかもしれない。

誰が見ても遊びかもしれないと思われようが、俺達にとってこの力は何よりの希望なんだと司は言い放つ。

そこには怯む心も、焦る心も無かった。

 

 

「この力は、俺たちの希望、正義だ!!」

 

「………!!」

 

 

司はそう言ってディケイドライバーを取り出してCOBRAにそれを見せる。

馬鹿な! 彼は思わず叫ぶ。その力は消滅した筈では? そしてそれを教えたのは自分だ、なのに何故かれはまだソレを構える!?

 

 

「そうか! 君は、戦う理由を変えたのか――ッ!」

 

 

しかしそんな簡単に変えられるのか?

承認される物なのか? 秋人は新しい理由を司に問い掛ける。すると彼は迷わず叫んだ。

 

 

「俺は、正義の為に戦う!!」

 

「ふざけてるのか! そんな抽象的な理由があってたまるか!!」

 

 

今の時代誰もが自らを正義だと主張している。

そんな意味不明で不確かな理由を糧にするとでも言うのか彼は。

 

 

「俺の正義は、俺が知っているヒーロー達が教えてくれた!!」

 

「!」

 

 

何の罪も無い優しい人が絶望にまみれて死んでいく。

そんな事があっていい筈がないだろ、自分の好きな人達が無残に死んでいくなんておかしいだろ!

絶望にまみれた地獄を壊す力が正義なのだと。

 

 

「お前だって、知ってるんじゃないのかよ!!」

 

 

欄干の頂点にやってくる二人、そこでそれぞれは一旦バイクを止める。

頂点には左右をつなげる部分が存在しており行き来は可能と言う事になった。その頂点で睨み合う両者、先に笑みを浮かべたのは秋人だ。

そうだな、そうだ、忘れる所だった。自分はショッカーとして生きる道を選び、そして彼はライダーとして生きることを決めた。

ただそれだけの事じゃないか、秋人は笑みから一気に殺意に満ちた表情に変わると服をCOBRAのスーツへと変化させる。

 

 

「司、悪いが今度こそ殺す! ショッカー怪人COBRAとして!!」

 

「来いよッ! COBRA!! 俺も仮面ライダーとしてお前を壊す!!」

 

 

司はディケイドライバーを装備すると、同じく復活したライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

その絵柄を見つめて力を込める司、欄干の上に再び風が吹いて二人の髪を揺らす。

 

 

「いいだろう。そしてお前の正義を見せてみろ!」

 

 

COBRAは仮面を被り目を光らせる。

変身、彼は大ショッカーの怪人であるCOBRAに変わって司を指差した。

対してカードを構えなおす司、彼はディケイドライバーのバックルを展開させるとヒーローショーで青年から忘れ物だと渡されたカード。

そう、絵柄が確かに刻まれたディケイドのカードを装填させる!

見せてやるぜCOBRA、これが俺の――

 

 

「仮面ライダーだ! 変身ッッ!!」『ディケイド!!』

 

 

違いは明らかだった。

今までは変身時に各ライダーの紋章だけが収束していたが、今現在司の周りに現れたのはクウガからキバまでのライダーの幻影。

シルエットライダー達のベルトに刻まれているそれぞれの紋章、そのままライダー達の影は司に収束してディケイドの姿を構成した。

刻まれていくプレート、そして鮮やかなマゼンダが彼の色を形作る。そして最後に一瞬だけディケイドの紋章が背後に浮かび上がり、彼の変身は完了した。

仮面ライダーディケイド、見た目は変わっていないが溢れるエネルギーは前回見たときよりも強く感じる。

 

 

「俺は破壊者ディケイド――ッ!!」

 

「………」

 

 

ディケイドは再びマシンディケイダーのハンドルを握る。

同じくシュヴァルツのハンドルを握るCOBRA。

 

 

「この世界を蝕む悪を――」

 

「ッ!」

 

 

一気にアクセルグリップを回す両者、視線は双方だけを捕らえている。

ライダーになり続ける事を選んだ司と、ライダーになる事を放棄したCOBRA。何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にも分からない。

しかし、世界には常に正義と悪が生まれるのだ。悲しきルールである。

 

 

「大ショッカーを破壊するッ!! ウォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「来いディケイド! ショッカーの力が、正義を闇へと沈めてやるッッ!!」

 

 

二人はバイクのスピードを一気に上げて、それぞれに向かい合っていくのだった。

 

 

 

 

 




これ前も言ったかもだけど原作のファーストで並び立つコブラ達が滅茶苦茶カッコいいんですよね。
ファーストとネクストは怪人のデザインがツボに入ってます。

はい、まあ次はちょっと未定で。

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