仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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ちょっと予定よりも早い更新かな?
まあ予定は予定なんであんまり参考にしないでください。


第73話 気づく破壊者

 

 

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオッッ!!」『ガードベント』

 

 

龍騎は両手に構えたドラグシールドでカブトが撃ち込むプラズマ弾を無効化しながら突進していく。

後退しながら連射を行うカブトだが、ドラグシールドは破れず彼は地面を転がって龍騎の突進をかわす。

 

 

「甘いんだよッ!」

 

「フッ!」

 

 

龍騎はすぐに軌道を修正してカブトへ向かっていく。

避けきれぬと踏んだが、カブトはその身でタックルを受け止める事に。クナイガンをアックスモードに変えてドラグシールドとぶつかり合う!

激しい火花がお互いの身体を包み込んだ。

 

「「――ッッ」」

 

 

二人の力は均衡だった。故に次にどちらがどう動くかで戦況は変わる筈、そう思い先に動いたのは龍騎だ。

彼は素早くアドベントのカードを発動させてドラグレッダーを召喚する。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!」

 

 

カブトの背後から突進してくるドラグレッダー、赤い龍はカブトを弾き飛ばすと倒れた彼へ紅蓮の炎を命中させる。

炎を纏って転がっていくカブトだが、彼もまた既にアクションを起こしていた。

 

 

『TWO』『KABUTO POWER』

 

 

仰け反りながらもカブトはクナイガンの銃口をしっかりと龍騎に向けていた。

 

 

「アバランチシュート」『AVALANCHE・SHOOT』

 

「させるかっ!」『コピーベント』

 

 

龍騎の手にもまたチャージを完了させたクナイガンが握られる。

それぞれ発射される二つの光球、巨大なプラズマ弾がぶつかり合って屋上を震わせる。

揺らめくエネルギーの中で気だるそうに立ち上がるカブト、彼はゼクターの角に手を掛ける。一方それを確認して新たなカードをセットする龍騎。

 

 

『リターンベント』

 

 

龍騎が戻すのはガードベント、再び彼の手に二対のドラグシールドが装備される。

対して角を弾くカブト。キャストオフ、音声と共に龍騎へ無数の装甲が襲い掛かった。

同時にクロックアップを発動させようとカブトは動くが――

 

 

「成程、考えたな」『Clock Over』

 

「………」

 

 

カブトの視界には紅蓮の竜巻が。ガードベントの技である"竜巻防御"、ドラグレッダーに炎を纏わせ自身の周りを旋回させる事で炎の竜巻を発生させる。

龍騎はその中に入ることでクロックアップの対策をとった訳だ。いくら加速しようとも攻撃対象が炎の中にいてはカブトも迂闊には手を出せなかった。

 

 

「だが、いつまでもそうしている訳にはいかないだろ」

 

「ああ、そうだな」『リミッツベント』

 

 

龍騎が炎の中でカードを発動する。

炎越しに彼の複眼が発光するのを確認、同時に炎の竜巻が巨大になっていくじゃないか。

覚醒のカードによって技の威力と範囲をあげたらしい。このままだと確実にカブトを捉える事になるわけだが、相変わらずカブトは冷静だった。

 

 

「クロックアップ」『Clock Up』

 

 

世界がスローに変わる。カブトは広がっていく炎を見つめると思い切り後ろに跳んだ。

柵を越えたジャンプ、当然彼は地面に向かって落ちる筈だったが、同じく地面から跳ね上がるようにしてカブトへ向かうバイクが一台。

 

 

「フ――ッ!」

 

 

クロックアップ状態となったカブトエクステンダー、自動操縦でカブトの元へ駆けつけたと言う訳だ。

カブトは空中でエクステンダーの角に着地、それをジャンプ台として彼は更に高く跳び上がる。

炎の竜巻には確かに太刀打ちできない。だがそれは正面から行けばの話、竜巻の中心から狙えば何の問題もない。

カブトは三つのボタンをタッチ、すかさずゼクターの角を弾く!

 

 

「ライダーキック!」『RIDER KICK』

 

 

光を纏いながらとび蹴りを仕掛けるカブト、しかし龍騎が見えてくると彼はなにやらカードをバイザーにセットしているところだった。

既にカードは装填済みの様、キックが届く前にドラグバイザーの目が光り――

 

 

『アクセルベント』

 

「ッ!!」

 

 

龍騎はカブトが上からくる事を予想していた。

アクセルベントがギリギリ間に合い、彼はカブトのとび蹴りをなんとかガードする。さらに手にはもう既にストライクベントから装備されるドラグクローが。

 

 

「くっそぉッッ!!」

 

「何!」

 

 

リミッツの恩恵か、龍騎は何とかライダーキックを耐えるとカブトの脚を掴んで身動きが取れない状態に無理やりもっていく。

そしてゼロ距離でドラグクローを押し当てて火球を発射した。紅蓮の炎がカブトのど真ん中に直撃して押し出す。

 

 

「くっ!」

 

「ぐああッ!!」

 

 

炎をまとって地面を転がるカブト、エネルギーをまとって地面を転がる龍騎。二人は柵にぶつかるまで転がり続けていた。

ダメージは龍騎のほうが高いと言った印象か、カブトは何事もなかったかのようにすぐ立ち上がるとゆっくりと龍騎に視線を移す。

既に二人とも高速移動は解除され、屋上には再び風が正しい速度で吹き抜ける。

 

 

「変身したのも、カードをセットしたのもお前の意思だろう」

 

「………」

 

 

確かに魔女が言っていた世界構造は確かなものなのだろう。

自分達は言い方を変えれば作り上げられた偶像の存在なのかもしれない。

だがそれであったとしても自分達は今、ここに意志を持って立っている。それはきっと神々には理解できない話なのかもしれない。

 

 

「だが俺にとっては現実だ」

 

「………」

 

 

同じく立ち上がり沈黙する龍騎、カブトは構わず自分の意見をぶつけていく。

龍騎の悩む事も彼には痛いほど理解できる。何故ならばそれが真実だから、世界の理だからだ。

 

 

「だが、真実が正しいこととは限らないだろ」

 

「……!」

 

「お前だって、それはよく分かってる筈だ」

 

「そんなの――ッッ!! そんな事ッッ!!」

 

 

龍騎は焦燥に身を焦がしデッキに手を掛ける。抜き取るのは自分の紋章が刻まれたファイナルベントのカード。

それを見てカブトはいつもの様に笑みを漏らした、手を掛けるのはゼクター。

 

 

「決めるのはお前だ。その責任から、お前は逃げられはしない」

 

「―――っ」

 

 

そう言いながら変身を解除する双護、彼は両手を広げて龍騎に笑みを向ける。

 

 

「当てるなら当ててみろ、お前の手で、お前の意思でカードを入れるんだな」

 

「………ッッ!!」

 

 

震える龍騎の手、カードをバイザーに近づけた時点で手がそれ以上動かなくなってしまった。

何でだよ、龍騎は歯を食いしばってカードを見る。しかしどれだけ時間が経っても手がそれ以上動く事は無かった。

それは簡単な話、龍騎が――真志が手を動かさなかっただけ。

 

 

「くそ……ッ」

 

 

ファイナルベントのカードを地面に落とし膝を着く龍騎、彼はよつばいの格好でしばらく動きを止める。

彼はカードを入れなかった、自分の意思で。ただそれだけの事を彼は受け入れられない。全ては神が、作者が仕組んだ事だと決めて。

 

 

「お前は前回の世界からずっと迷っていた。そんな状態じゃ、カードを発動できる訳が無い」

 

「なんだと……?」

 

「そんな事、神じゃなくて俺にだって分かる」

 

 

変身が解除される龍騎、彼は双護にメタ世界で知らされた全ての出来事を告げる。

とは言えソレは彼の心持ちの話、全ての世界は所詮新なる世界に住む神の遊びでつくられた。

そしてそれは今も同じ、彼は世界に縛られている。

 

 

「俺は、俺達は今まで自分で考えて生きてきただろう。それは変わっていない筈だ。昔も、今も、そしてこれからも」

 

「……双護、お前――」

 

 

遠足とか、行った事あるか?

 

 

「………」

 

 

何をいきなり? 双護は唐突な質問に一瞬言葉を失うが、過去を振り返り自虐的な笑みを浮かべながら頷く。

遠足くらい学校に行っていれば、まして保育園の時からあったろう。行ったことのない人間のほうが珍しい筈だ、当然彼はイエスを真志に示した。

 

 

「じゃあ運動会は?」

 

「ある」

 

 

"体育祭"とは言わず"運動会"と言う辺り、何か意味を感じるが双護は素直に答えていく。

膝と手をついて下を向いている真志、彼の表情は読み取れない。しかし今は笑っていると言うのが声色で分かった。

尤も、今現在彼の声は震えているのだが。

 

 

「楽しいよな」

 

 

ニヤリと笑う双護。あれはまだ、本当の家族と――

 

 

「ああ、そうだな。前日は楽しみで寝れなかった」

 

「そう……だな。でもオレは、大嫌いだったよ」

 

 

真志はグッと手に力を込める。今でも簡単に思い出せる。

遠足や運動会で必ずやってくるのは食事の時間だ、皆母親に作ってもらった弁当を楽しそうに自慢したり嬉しそうに食べたりしている。

物心ついた時から、真志の手にあったのは市販のコンビニ弁当だった。

 

 

「周りの奴らはオレの弁当を見てヘラヘラ笑いやがる」

 

 

どうしてコンビニのお弁当なの? お母さんは作ってくれなかったの?

お弁当作ってくれないなんて真志君のお母さんって変だね。それって愛されてないんじゃない?

 

 

「自慢する為には下を作らなくちゃいけねぇよな。その役回りとあればいつもオレさ。どいつもコイツも……ハハハ」

 

 

その度に自分もヘラヘラ笑って気にしていない素振りを見せていた。

忙しいから作ってくれねぇんだよ酷いよな? お前らが羨ましいぜ、家の馬鹿親に見習って欲しいね。

 

 

「滑稽だぜ、ガキの頃から同じガキにご機嫌取りさ」

 

 

自分の親を卑下して他人を立てる。そんないい訳ばっかり繰り返していた。

現にアイツ等は一日中パソコンをしていたから仕方ないってオレは思ってたし。

 

 

「でも、途中でアイツ等は完全にオレの前から姿を消した」

 

 

それからも遠足や運動会は続いていく。オレは行きたくないって何度も叔母にいったぜ。

だけど彼女はオレに気を使ってか、無理やりにでも行かせたがった。『真志君は関係ないから』って苦しそうに笑って。

そんな顔されたら、断れない。オレは断る勇気が無かった。

 

 

『ねえ真志くん。お父さんとお母さんが捕まったって本当?』

 

『どんな気持ちなの? 悲しい?』

 

 

空気の読めない馬鹿がオレにそう聞いてきたのは今でも鮮明に覚えている。

本当はそいつ等を殴り殺してやりたかったけど、叔母のオレを見る複雑な目を思い出すと力が入らなかった。

オレは両親とは何の関係も無い? そんな事、思っている訳ないじゃないか。きっと叔母だってオレの事を不審に思っている筈だ。

オレのせいで自分達にも被害が及ぶんじゃないかって顔に書いてあったろうが。だから、オレは自分で――

 

 

自分の意思で口を開いたんだ。

 

 

「オレは、シナリオどおりじゃない。オレ自身の言葉で言った」

 

『そうなんだよ。まあ、うざい親だったから別にいいんだけどな』

 

 

ポタリと、その瞬間屋上に一滴の点が。

双護は相変わらず笑みを浮かべたままだったが、その目はしっかりと真志を見ていた。

真志は拳をギリギリと握り締めてより深く笑みを強くしていく。泣いているくせに。

 

 

「そうヘラヘラ笑いながら言ったオレの気持ちが……お前に分かるか!?」

 

「………」

 

 

それだけじゃない、授業参観の日に一人だけ親が来なかった。

周りが家族に手を振っている中で一人だけ窓の外を見ているだけしかできなかったんだ。真志は笑みを漏らしながら淡々と続けていく。

 

 

「周りの奴らが両親の仕事について作文を読んでいくんだ――ッ!」

 

「……そうか」

 

「皆、オレの番がくるまで楽しそうに笑ってた」

 

 

そして自分の前にくると教師が言うんだ。

真志くんは事情があって両親がいないから、叔父と叔母に作文を書いてもらいましたって。

本当はそんな下らない物書きたくなかった。ただ教師達はオレだけ作文書けないのは可哀想とか言う理由で無理やりにも書かせるお膳立てをしてくれたんだ。

分かるか? オレは言われたぜ、"可哀想"だからってな!!

 

 

「オレが何したってんだよ!? 全部アイツ等が勝手にやって、勝手に捕まっただけだろうが! なのに、なのに何でオレが可哀想とか言われなきゃいけねぇんだよ!!

 

 

なんで見下されなきゃいけねぇんだよ! 真志は笑いながら泣いていた。

 

 

「想像できるか? 来ても無い叔父達へ感謝の言葉を述べるオレの気持ちが。本当は事情を知っている連中の視線を受けて、オレは叔母達の面子を立てたんだ」

 

「……欠席しなかったのか?」

 

「ああ、馬鹿だろ! 嫌々言ってんのにオレは毎日ヘラヘラしながら学校に行ってたんだ」

 

 

その理由が、お前に理解できるか!?

真志は泣きながらも先ほどから口にしているヘラヘラとした笑みを双護に向けた。いつの間にか笑みを消していた双護、彼は少しの時間を経て首を振る。

横に、つまりはノーを示すと言う事だった。

 

 

「もしコレが小説なら、お前の心情が書かれているのかもしれない」

 

 

だが、双護にとってコレは小説でも何でもないリアルその物だ。

双護に他人の考えを読む特殊能力など持ち合わせていない。だからこそ、当たり前だが双護には真志の考えている事が分からない。

 

 

「クソみたいな時間だったよ」

 

 

だけどコレが、自分達が誰かによって作られた存在ならば。

誰かによって進む人生が決められていたのだとしたら。作者が、いてくれたなら――

 

 

「オレは全てをソイツのせいにできる!」

 

 

こんな人生を自分に与えた神の仕業にする事ができる。

所詮自分はそういった役割を持ったキャラクターだと言う事にしてしまえば、苦しむ事だってなくなるんじゃないのか。

 

 

「オレが感じた屈辱! オレが書いた叔父達へ送る作り物の感謝(てがみ)!!」

 

「………」

 

「オレが、仮面みてぇな笑顔の中で食っていたクソまずいコンビニ弁当だって――ッ! 全部全部作者のせいにできるじゃねぇか!!」

 

 

双護は無言で頷くと目を閉じる。何かを思い出しているのだろうか、彼もまた険しい表情に戻り目を開けた。

そして彼はもう一度首を振る。向きは、先ほどと何も変わらず。

 

 

「俺にはお前の感じてきた物は理解できない」

 

 

だが、双護はだったらと真志に問い掛けた。

 

 

「お前は、守りたかった人が目の前で死ぬ光景を見た事があるか?」

 

「………!」

 

 

あと少し手を伸ばせば届いたのに、届かなかった。

双護は端的だったが自らの過去を真志に打ち明けていく。父と母、いつも笑顔だった妹はただの瓦礫の塊によって命を落とした。

 

 

「死体はドラマで見るような綺麗な物じゃなかった。今でも思い出そうとすれば、吐きそうになる程の血のにおいが鼻につく」

 

 

それが全て話を盛り上げるために行われたと言われれば?

 

 

「愛していた人が、目の前で脳みそをぶちまける光景を見た事があるのか?」

 

「お前、マジかよ……ッ」

 

「真志、お前に俺の気持ちが分かるか?」

 

「―――……ッッ!」

 

 

言葉を失う真志、双護だってそれがシナリオの一言で片付けられる様な世界構造ならば納得はいかなかっただろう。

真志も双護も自分のふざけた人生の過程が他者によって仕組まれたのだとすれば、これからもそうなのだと認識してしまう。

 

 

「だが俺は、そうだったとしても今までどおりに生きるしかないと思っている」

 

「………」

 

「今まで通り、戦うしかないと思っている」

 

 

それは双護の答えだった。

彼はリタイアを選択しない、カブトとしてこれからも戦い続けると言う事だった。

 

 

「俺はもう二度とあんな思いはしたくないんでな。真由を守る為には、カブトの力が必要なんだ。

 たとえ神々が用意したシナリオがあったとしても、俺たちがその通りに動いているのだとしても、俺に向けられた真由の笑顔は俺にとって偽りなんかじゃない!」

 

「オレには……そうは思えないんだ」

 

 

もう結末が決まっている気がして――真志はそう言ったが、双護はフッと笑ってその考えを否定する。

結末が決まっているから戦えないと言うのは分かる事だが、それが自分達に当てはまるかと言われればそうじゃない。

 

 

「もし本当に作者がいたとして、お前がそんな弱気ならお前が誰かに勝つ場面を書くなんてできないだろう?」

 

「そ、それは――」

 

「同じなんだ、たとえ俺たちがキャラクターだとしてもな」

 

 

ずいぶんとメタな話を真志は持ち出しているが、双護はなんら変わりないと言う。

自分の態度、振る舞いがストーリーを決めていくのだと。だから自分達が戦う意思を、覚悟を持てば世界はきっと変わるはずだ。

 

 

「いつだって世界を変えるのは、自分だった筈だ」

 

 

それに、俺たちはしっかりと今を生きているじゃないか。

双護はフェザリーヌが言った言葉を例に挙げる。Episode DECADEは自分達の行動を記しているが全てでは無いと。

 

 

「今までだって、これからだってそうだ」

 

 

たとえ自分達が小説の一登場人物にしか過ぎなかったとしても、自分達の振る舞いが結果に繋がるはずだ。

小説のストーリーを決めるのは登場人物の行動なのだから。双護はそう言って真志の前に立つ。

その雰囲気に気圧される真志、そんな事分かっている筈だったが改めて言われると考える物がある。

 

 

「俺達が全うに生きれば、きっと作者がいても俺たちを気に入って生かしてくれるさ」

 

「オレは――……分からないんだよ」

 

 

真志の言葉にため息をつく双護。

 

 

「悩みは晴れないか。だったら、お前に言っておきたいことがある」

 

「?」

 

 

双護はフッと微笑んで表情を柔らかく変えた。

何だ? 真志は思わず双護のほうへと視線を移す。

 

 

「俺は今、パンツをはいていない」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パ ン ツ を は い て な い ! ?

 

 

 

 

 

「ブゥウウウウウウウウウウウウ!!??」

 

 

吹き出す真志、え? コイツ何言ってんの? 真志はドヤ顔の双護を見てガクガクと震え始めた。

怖い怖い怖い、涙引っ込んだわ! 対して双護、彼はまたフッと笑い――

 

 

「なんてな、冗談だ」

 

「は……? あ、なんだ冗談か――」

 

「というのが冗談だ。ズボンの下は、ふるチンだッッ!!」

 

「ブゥウウウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 

いやいやいやいや、違う違う。絶対にこういう事する場面じゃないし、そういうシーンじゃないって。

真志は首を振って彼を見る。何故今そんな事を言う? それは今言わなければならない話なのか? そもそも何でパンツはいてねぇんだよ!

とりあえず真志は次々にあふれ出る疑問を彼にぶつけていく。

 

 

「そうだ、俺はお前に今そんな事を言う必要はなかった」

 

「は?」

 

「というより、そもそもパンツをはかない必要もなかった」

 

 

な、なに言ってんだコイツ。真志は呆然と口を開けて双護を見つめる。

 

 

「これが小説ならこんな下らない事実を記載する必要もないだろう。シリアスなシーンでお下劣な下ネタなどと……」

 

 

まあ今はもうバレてしまったろうがと鼻を鳴らす双護。

いや、つまり彼が言いたいのはこんな無駄な事をしたのは自分の――要するに双護自身の意思で行ったと言う事だ。

 

 

「いや、ぜんっぜん意味が分からねぇんだが」

 

「そうだ、それでいい。現実なんて意味不明な事しかないんだ」

 

 

双護はニヤリと笑って天に指をさす。

何故かキラキラと後光のような物が彼から見えるのは気のせいだろうか?

 

 

「それに、俺の想いは文字で表せる程簡単じゃないからな」

 

「!!」

 

 

目を見開く真志、それは彼の迷いを全て否定する一言である。

 

 

「それはお前もだろ? 真志」

 

 

俺は自由に生きる。

たとえ俺の行う事が他人にとって意味が分からないものだとしても、小説だったら記載する価値もない様な事だとしても。

全ては天王路双護が決めた事を自分は全うするだけだ。彼はスラスラと迷いなく自分の思いを口にしていく。

 

 

「どうする真志? お前はこのまま迷いながら過ごすのか?」

 

 

リタイアを選んだとしてもショッカーの恐怖が完全に終わった訳じゃない。

むざむざ殺されるだけのモブに落ちる可能性があるのだ。そんなのはゴメンだと双護は言う。

手にしてたカブトの、仮面ライダーの力をココで終わらせるなんて勿体無いにも程があるだろ。彼はそういって"ヘラヘラ"と笑っていた。

 

 

「ハンバーグとオムライスが食べたいとするな」

 

「またお前は唐突に……」

 

 

いいから聞け、双護はへたり込む真志の隣に移動すると下で殴り合いを繰り広げている司達を見た。

どんどん激しさを増していく彼らの殴り合いを見て、また双護は小さく笑みを浮かべていた。

 

 

「だったら俺は、今日ハンバーグを食べて明日オムライスを食べる」

 

「……あっそ」

 

「でもお前は、今日のハンバーグを食べて終わりにしようとしているんだ」

 

 

オムライスを食べたい気持ちを忘れる事はあっても、やっぱりあの時オムライスを食べていればと思う日がくるかもしれないだろ?

双護は自信に満ちた表情で得意げに語っていた。

 

 

「つまり……どういう事なんだよ」

 

 

真志の問いかけに双護は頷く。

とは言え真志には双護の言葉の意味が何となくだが理解できると言うもの。

要するにココで諦めてはいつか必ず後悔する日がやってくるのだと彼は言いた――

 

 

「正直俺は今言った二つよりティラミスの方が食べたい。つまり、そういう事だ」

 

「……え?」

 

「ティラミスって反対から読むと――スミラィテだな」

 

「………」

 

「ラィテって、どう発音するんだろうな」

 

「―――」

 

「俺がもしティラミス双護って名前だったら、真由は喜ぶと思うか?」

 

 

やべぇ、やっぱマジで意味わかんねぇ。

真志は嫌な汗を全身にかいて必死に双護の言葉の意味を理解しようと踏ん張る。

何か途中までは凄い良い感じに、良い事を言われていた気がするが今現在はどう考えてもノーパンの男とスイーツの会話をしているだけだ。

 

 

「……ハハ」

 

「?」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

真志は屋上の柵にもたれ掛かり大笑いだ。

彼を見ていると真面目に考えていた自分がただの馬鹿にしか思えなくなる。

彼はいろいろな意味を含めてしばらく間ひたすらに笑い続けた。ひとしきり笑い終えると、真志はため息をついて俯いた。

 

 

「まさかノーパンの男に気を使われる日がくるなんて思ってなかったぜ」

 

「フッ、俺もノーパンになるなんて思わなかったぞ」

 

 

そうやって笑い合う真志と双護、生きていれば意味の分からない事に直面する時なんて幾度となくあるだろう。生きていれば、生きていけば。

その時カランと音を立てて落ちる龍騎のデッキ。真志はそれを拾い上げてジッとそれを見つめる。

龍騎の試練で自分は本当の正義感を知った、そして響鬼の世界で自分に誓ったじゃないか。世界を守りたいと――

 

 

「一度そう思えたなら、思い出せばいいだけの話だろ」

 

「そう……だな」

 

 

真志はゆっくりと立ち上がり双護と同じ景色を見る。

悲しげに、苦しそうに殴りあう司達。足掻きたいと、前に進みたいと彼らは自分と戦っている。

自分の守りたいものを守るために、そして進みたい道を進むために。

 

 

「戦わなければ……生き残れない」

 

 

幸か不幸か、それが龍騎の力を持った自分へ向ける言葉だろう。

真志はその宿命を思い苦笑する。とはいえ、今までの彼よりずっと安心した様な雰囲気だったが。

そうだ、そうだな。今までだって自分は必死に考えて生きてきたじゃないか。それが正しい選択かどうかは知らないが、これからも自分は自分の頭で考えて進まなければならない。

 

 

「悪かったな、双護……」

 

「答えは出たのか?」

 

「いや、分からねぇ!」

 

 

だからこそ自身を勝ち得るために旅を続けなければならないのかもしれない。

自分の正体を突き止めるために。

 

 

「しんじくーん」

 

「!」

 

 

テトテトと危なっかしく走ってきたのは真由だ。彼女は両手で何か箱の様な物を抱えてコチラに向かってくる。

急いでいたのか少し汗を浮かべて頬を赤くしている真由、彼女は真志の前に立つと呼吸を整えて持っていた箱を差し出す。

 

 

「これ……あげるね」

 

「ん? 真由ちゃんこれって――」

 

 

真志が受け取ったのは文字通り四角い箱だった。

正方形の箱は白い紙が巻いてあるだけの物で、何か仕掛け等は何もなかった。

これは一体? 真志が真由に問い掛けると彼女は少し寂しげに笑う。

 

 

「うん、真志君が…悩んでるってお兄ちゃんから聞いて……」

 

 

双護を見る真志、彼はフッと笑って髪をかきあげる。美形の彼が行うと何とも様になる仕草だった。

 

 

 

 

 

 

ノーパンなのだが。

 

 

「ボクもね、どうしていいか分からない時…あるよ。だからね、コレ…つかって」

 

「さ、サンキュー真由ちゃん」

 

 

しかしコレは一体何なのか、真由に聞くと彼女は少し自慢げに説明を始める。

 

 

「うんとね、ココに迷ってる事を書くんだよ」

 

 

六面の場所にそれぞれ選択肢を書いて、それを転がす。

 

 

「それでね、出た面の事をすればいいんだよ…!」

 

「ハハッ、成程。サイコロって事だ」

 

 

ちなみに真由は最近それを使ったらしい。

いちご、メロン、ぶどう、レモン、コーラ、パイン、何味の飴を舐めればいいか分からなかったから。

それを聞いて吹き出す真志、成程それは重大な問題だと。

 

 

「………」

 

 

ふと真志は気になってしまう。真由はいったいどちらの選択を選ぶつもりなのだろう?

双護に視線を送ると彼は無言で頷いて、真志の疑問とした質問を真由にぶつけてみる。すると彼女はニッコリと微笑んで言った。

そしてやはり、そこに迷いは無い。彼女は兄と同じ目をしていた。

 

 

「ボクは……お兄ちゃんと一緒にいたいから」

 

「そっか――」

 

 

納得する真志だが、真由は少し悲しそうに眉毛を下げる。

彼女はジェスチャーで真志に近づいてもらうように合図した。なんだろうか? 真志は彼女に顔を近づける。

すると真由は真志に耳元で彼だけに聞こえるよう言葉を放った。

 

 

「でもね、ボク…本当はお兄ちゃんだけじゃなくて皆と一緒にいたい……」

 

「!」

 

「真志君は……いなくなっちゃう?」

 

 

真志はしばらく無言で俯いた。心配そうに見つめる真由と、しっかりと見つめる双護。

二人の視線を受けながらも真志はジッと目を閉じて今までの事を思い出していた。自分が見た景色、自分が抱いた思い。

そして自分が手にした仮面ライダー龍騎の力、それは紛れもなく条戸真志が得た力なのだと。

 

 

「真由ちゃん……」

 

 

真志は目を開けると真由の頭を優しく撫でる。

そして彼女に一つのお願いをした、このサイコロを投げて欲しいと。

 

 

「え? だけど――」

 

 

サイコロには当然だが何も書かれていない、それになのに真志は投げてくれと言う。

戸惑う真由だったが、真志は首を振る。そこにはしっかりと自分の選びたい選択肢が書かれていると彼は言った。

 

 

「???」

 

 

しかし真由にとってはどうみても無地である。

というよりは本当に何も書かれていない、しかし真志はしっかり書かれていると言う。

 

 

「確かに、書かれてるな」

 

「……?」

 

 

そう言ってニヤリと笑う双護、真由は戸惑いながらも言われた通りにサイコロを投げる事に。

コロコロと転がるサイコロは徐々に減速していき一つの目を出した。と言ってもそれは無地、真由は首を傾げてハテナマークを頭に浮かべているが真志は満足そうに笑っていた。

 

 

「っしゃ、サンキュー真由ちゃん。いい目だな」

 

 

その言葉を聞いて双護も意味を理解した様だ、彼もまた真志と同じ事を言ってみせる。

すると意味の分かっていない真由も笑顔の二人をみて嬉しそうに笑う、自分がいい目を出せたという気持ちがあるんだろう。

真志もそれを読み取って――

 

 

「いやー、流石だぜ真由ちゃん。やっぱ君に投げてもらえてよかったぜ」

 

「うん……! どう…いたしまして!」

 

 

真由はピョンと少し跳ねて嬉しそうに頬を蒸気させた。

さて、これで真由の用事は済んだよう。また彼女は食堂に戻ると言って走り出した。

しかしある程度進んだ所で急停止する真由、彼女は振り向くと――

 

 

「真志君……困ったら、また…いつでもご相談してね……」

 

 

そう言って彼女は屋上を去っていく。

それを笑みを浮かべて見ている両者、真由が完全に姿を消した事を確認すると双護が真志に答えを聞いた。

そうだな、真志は吹っ切れたと笑い外を見る。まだ完全に不信感が消えた訳じゃないが、隣にいるノーパンを見ていると自分の考えがちっぽけに思えてならなかったから。

 

 

「まあ、なんつーの? 下らねぇ事でうじうじ悩んでも仕方ないつーか」

 

 

ある意味どうでも良くなったつうか。

この景色は自分の目で見える物、風の感触、木々の色、色々な香り。全ては自分が感じている世界じゃないか。

これがただの文字の羅列な訳が無い、真志はそう言って真由から受け取ったサイコロを見る。

 

 

「オレは(アイツ)や真司さんみたく凄くない」

 

 

両親の事もあってか、世界中の人を守りたいとは思えなかった。ただそれでも何も守りたくないとは思わない。

 

 

「オレはさ、お前らといる時が一番面白いと思ってる」

 

「……そうだな、俺もだよ」

 

 

頷く真志、司達が自分の世界を守るって言うのなら何も自分まで世界を守ろうとする必要は無いだろう。

だからこそ自分は自分の守りたい物を守るために戦おうと思っている。

 

 

「オレは、自分の世界ってよりは特別クラスを守るよ」

 

「それもまた、一つの答えだな」

 

 

双護はそこで真志とはまったく別の方向を向く。

それは先ほど真由が消えていった場所だ、一見すれば誰もいないように思えるが双護は声を大きくして其方に話しかける。

 

 

「らしいぞ。出てきたらどうだ? 美歩!」

 

「!!」

 

 

入り口からピョコンと真由が顔を見せる。そしてその手を握っていたのは美歩だった。

彼女はどうやら先ほどからずっとソコにいたらしい、今も真由に何を話していたのかを詳しく聞いていたと言う訳だ。

しかしどうしてバレたのか、その答えは彼女に浮遊している赤いカブトムシ。

 

 

『おいおい、俺もいるって事忘れないでくれよ~』

 

 

カブトゼクターは変身解除時に飛び立つ訳だが、その時に美歩を発見したと言う訳だった。

美歩は逃げられないと悟り、ばつの悪そうな表情で頭をかく。なかなか思う所があるらしく動けなかった美歩だが、真由が手を引いて兄達の所へ歩いていった。

 

 

「いつからいたんだよ」

 

「し、真志達が変身を解除したくらい」

 

「フッ、何か用か?」

 

 

双護が聞くと美歩はチラリと真志を見る。

すぐに目を反らして冷や汗をかく美歩、言い渋る彼女だったが真由が笑顔でツンツンと背中をつつくと意を決した様に口を開いた。

 

 

「あ、あのさぁ。この前は……何ていうか――言い過ぎたっていうかさ」

 

「この前?」

 

 

美歩は少し上ずった声で目を反らしながら笑う。

 

 

「いやほら、仮面ライダーじゃないとか……屑とか言っちゃって」

 

 

吹き出す双護。

お前そんな事を言われていたのか、真志に向ける言葉に本人はうるせーと苦笑する。

 

 

「ああ、まあ……気にしてないぜ」

 

 

確かにアレは少し酷かったかもしれない。

真志は美歩に謝罪すると、むしろ正しいのは彼女の方だったと頭を深く下げる。とはいえ美歩もどうしていいか分からないといった表情だ。

先ほどから真志と双護の会話を聞いていたが、なにやら彼らは自分の想像をはるかに超えた次元の話で悩んでいた様じゃないか。

 

 

「なんつーか、そんなんアタシだって分かんないけどさ……」

 

 

ちょっとくらい、相談してくれてもいいじゃん。

美歩は少し悲しげにボソボソと呟いた。申し訳なさそうに謝る真志、すると双護がすかさずフォローを入れる。

これは非常に複雑な問題だ、下手をすれば真志の様に深みにはまってしまう。現に真志はそうなった訳だからなと。

 

 

「お前達に迷惑をかけたくなかったんだろう。真志はな」

 

「双護……」

 

 

なんていいフォローなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ノーパンのくせに。

 

 

「でも、これからは……なんつーかもっと頼ってよ!」

 

「美歩……」

 

「じゃねぇと勘違いしたまま終わりそうだったじゃんか!」

 

 

それは彼女の答えでもあった。やはり戦い続ける道を選ぶのか、双護の言葉に美歩は強く頷く。

今まで人の役にたった事なんて無かった、自分が好きな様に生きていろいろな人に迷惑をかけてあの結果に繋がったのかもしれない。

 

 

「だけどこんなアタシでも誰かの役に立てるって分かったし」

 

 

それにと彼女はデッキを見る。美穂から受け継いだこの力をそう簡単に捨てられるかよと。

その言葉に同意する真志、もう少しで大切な物を失う所だった。彼の意思に呼応する様に現れるドラグレッダー、いつの間にか真志の目からは悩みと言う闇が消えていた。

どうやら彼にとって自分を変える一番の起爆剤は、尤も敬遠していた"他者との関わり"だった様だ。

 

 

「オレはオレだ。その事に気づくのが……少し遅かった」

 

「だが気づけたんだ、それは大きな一歩だろう」

 

 

心の中で双護は自分に言い聞かせる。

彼もまた自分の想いに気づくのが少し遅かった、だから大きな過ちを犯しそうになったんだ。

それを気がつけたのは、双護もまた他者との関わりだ。

 

 

「ショッカーはブッ飛ばす。これは、間違いなくオレの意思だぜ」

 

 

真志の決意にドラグレッダーも咆哮をあげる。力強い咆哮に頼もしいと双護達は笑みを浮かべた。

そこで、あーあとため息をつく美歩。彼女は真由に小さな声で話しかける。

 

 

「真由のおにーちゃんは凄いな。アタシが解決できなかった真志のうじうじを一発で解決しちゃったよ」

 

 

ちょっと悔しい。美歩の言葉に真由はううんと首を振る。

 

 

「この世界には…男同士でしか解決できないお話とか…あるんだって……! お兄ちゃんが言ってたよ…!」

 

 

そんなモンかね、美歩は困ったように笑うと一同と目を合わせる。

もしかしたら今回の世界はそれなのかも。そんな気がして美歩はハッと目を開いた。

 

 

「さてと」

 

 

頷くライダー達、とは言えじゃあすぐにテレビ局に行こうかと言われればノーだ。

既に鏡治たちは向かってくれているので、あえてそこは任せる事に。

 

 

「い、行かねぇの?」

 

 

走り出そうとした美歩は思わずずっこけて二人を見る。

今完全にそういう流れだったじゃん! 美歩は二人に詰め寄るが、二人は全く同じ場所を見ていた。

これはただ自分達が答えを出せばいいと言う問題じゃない。目指すのは、そういう事だろう?

 

 

「まだウチの大将が残ってる」

 

「ああ、一番大事な男がな」

 

 

二人はニヤリと笑って下にいる男を見る。釣られて下を見る美歩と真由、二人はすぐに成程と頷いて納得する。

そこでハッと顔を上げる真由、彼女はごそごそごとポケットから何かを取り出す。

 

 

「お兄ちゃん、おぱんつ忘れてるよ」

 

「……ああ」

 

「………」

 

 

ビッシリ決まってたのになぁ、真志はそう言えばと天を仰いだ。

隣にいる男は――

 

 

「え!? 双護あんたノーパンなの! ばっちぃ!!」

 

「おい美歩、止めてやれ! 双護だってオレを説得する為不本意に――」

 

「これが本当のキャストオフってか?」

 

「うるせぇよ! つかお前もお前で悪ノリしてるんじゃねぇぜ! 今オレがフォローをだな――」

 

「お兄ちゃん、おパンツははかないと駄目なんだよ…!」

 

「わわわ真由ちゃん! 駄目だって女の子がそんなモン振り回しちゃ!」

 

「気をつけなよ真由ゆん! 真志の奴はこう言ってるけどさ、コイツ昔"おぱんつリンボーダンス"とか言うやらしーDVD持ってたんだよ」

 

「ブッ! 馬鹿野郎! アレは椿が勝手にオレのカバンに入れただけだって言ったろうが!」

 

「どうだかねー、あやしーね真由ぅ」

 

「あやすぅぃね……!」

 

「おいおい冗談だろ真由ちゃんまで! 何とか言ってくれよ双護!」

 

「しかし案外コレはコレでスースーしていいな。やみつきになり――」

 

「「ならんでいいッ!!」」

 

 

とまあこんな感じで解決も、決断も、その後もグダグダではあったが、また昔の雰囲気に戻ったような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……コレ?」

 

「すごい――ッ」

 

 

場面はテレビ局の亘へ移る。

惠理に教えられたスタジオにやってきた亘だが、そこで彼らはおかしな光景を目にする事になった。

亘としては当然敵がいるものとばかり考えていたのだが、いざスタジオを除いてみると既に倒されている兵士の姿が飛び込んでくる。

 

 

「あれ? もう誰か来てるのかな」

 

「うーん……」

 

 

それならばソレで心強いが早めに合流したいところではある。

スタジオに入って周りを見回す亘と里奈達、すると物陰から番組の司会者がチラリと顔を覗かせた。どうやら亘達の声に気がついたようだ。

 

 

「き、君! 大丈夫なの!?」

 

「!」

 

 

司会者の女性はココに立ち寄った亘達を見ていろいろな意味で驚いた様だ。

いきなり現れる子供、外には未だシェードの兵士達がうろついている筈なのにと。

亘は頷くとある程度の事情を女性に説明する。もちろん自分がライダーとして戦いました等とは言わず、入り口付近の兵士達は全て退けたと言う事をだ。

 

 

「じゃ、じゃあ出られるの?」

 

「はい、護衛をつかせます。バッシャー君お願い」

 

 

了解と頷くバッシャー、女性は安心した様にため息をついた。

ただその前に亘としても聞きたいことがある。ここで何があったのか、惠理はどこに行ったのか、そして兵士達は誰が倒したのかだ。

女性はそれを聞くと自分が見た光景を亘に説明し始める。なんでも、ナンバー5が生放送を行ったスタジオがココだったと。

そして彼をみた瞬間、惠理の様子がおかしくなった事も告げる。

 

 

「惠理さん、その兵士の人と知り合いだったみたいで……」

 

「えっ! そうなんですか!?」

 

「ナンバー5って人だったっけ?」

 

「はい、三年も姿を消してとか何とか言ってました」

 

 

唸る亘、思い出すのは惠理の言っていた行方不明の友人。彼がなんらかの形でシェードに入っていたと?

 

 

「二人はそれから?」

 

「は、はい。最初は兵士の人は覚えていなかったんですけどワインを飲んだら思い出したみたいで」

 

「ワインですか?」

 

 

女性は惠理が持ってきたワインを指差した。

成程と亘、あれは惠理に見せてもらったパンフレットにもあったっけ、あれが友人の最も愛したワインと言う事だ。

そしてそれを彼が飲んだ瞬間人が変わったようなリアクションをとったと言う。

 

 

「どうやら惠理さんの事を思い出したみたいで――」

 

「コレ……と」

 

「はい。彼は兵士達を倒した後、惠理さんを連れて逃げていきました。他の皆さんも逃げて、でも私は怖くてココから動けずに震えてたんです」

 

 

成程成程、読めてきたと亘は頷く。

どうやら何らかの形で惠理の友人だったソムリエは記憶を無くしてしまい、シェードにナンバー5として入っていたと。

しかし惠理のワインを飲んだことで記憶が戻りシェードを裏切ったと言う訳だ。

 

 

「二人がどこにいったか分かりますか?」

 

「さ、さあ? 向こうの方に逃げていったとしか……」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

亘と里奈はお礼を言うと女性と別れた。取り合えずそのナンバー5は敵ではなさそうなので話を聞きたいところだ。

運がよければ他の人質がどこにいるのか一気に分かるかもしれない。二人は行き先を惠理たちの所へ変更する。

女性から聞いた方向を進んでいく亘達、するとそこには階段が。

 

 

「うーん……」

 

 

出口を目指すならば下だろうが、亘には人質を助けたいと目標がある。

おそらく人質は出口から遠い場所にいるだろうから少し迷った挙句二人は上へ向かう事に。

しかし本当にテレビ局と言うのは複雑な物だ、まさに迷路みたいじゃないか。

 

 

「あ。なんかね、わざと迷路みたいにしてテロ対策してるってテレビで見たよ!」

 

 

ドッガに抱えられた里奈が得意げに答える。

 

 

「ははは……まさか本当に入られるとは思って無かったろうけどね」

 

 

踊り場で上層の階をチラリと確認する亘、敵と鉢合わせのパターンもある為に緊張感が募る。

物音がしない辺り、近くに敵はいなさそうだが――

 

 

「一番怖いのは敵がクロックアップ状態でコッチが見つかる事だよな」

 

 

常に変身しておくのは身体に負担がかかるし、かといって無防備なのはそれはそれで危険だ。

取り合えず里奈に小規模の結界を張ってもらうことで対策は取ったが、強度は低いために攻撃を受けたと確認した瞬間に変身しなければならない。

 

 

「うわっ!」

 

 

上の階について廊下を確認すると、またもそこには倒れた兵士達が見えた。

 

 

「これもナンバー5さんがやったのかな?」

 

「うん、多分ね」

 

 

しかし彼らは全員が気絶しているものとばかり思っていたが、一人だけは違った。

次々に消滅していく兵士達の中に一人だけは頭を抑えて立ち上がった者がいたのだ、すぐに逃げようとする亘達だったが時既に遅し。

 

 

「おのれナンバー5………!? なんだ貴様らは!!」

 

「やべっ!」

 

 

亘はすぐに里奈を逃がすが、起き上がった男はすでに亘を敵と認識したらしい。

人質のすべては同じ場所に拘束しているのにもかかわらず彼はココにいる、それが結果だった。

ナンバー8・"ランピリスワーム"はワナワナと怒りに震え亘たちを睨む。

 

 

「あれ? ちょっとガルルに似てるねアイツ」

 

『言ってる場合っすか! 来ますよ亘さん!』

 

 

サナギを飛ばしていきなり成体に変身するランピリス。

緑色の体に髑髏の顔、そして右手には巨大な球体が装備されていた。

対して既に変身を完了させていたキバ、ガルルフォームとなってウェイクアップを発動する。

 

 

「「ッッ!」」

 

 

共に音速状態となりぶつかり合う二人、しかしランピスの球体は中々パワーがありガルルセイバーが押しやられてしまう。

弾かれる毎にビリビリとした衝撃が手に残り、キバの攻撃頻度も下がってしまう状況だった。

長期戦はスタミナが減るこちらが圧倒的に不利、キバはバックステップで後ろに下がるとガルルセイバーを構えて衝撃波を発生させようと準備する。

 

 

「受けろ!」

 

「なっ!!」

 

 

だが迂闊だった、敵もまた特殊能力を備えていたのだ。

ランピリスのモチーフは蛍、彼は右手の球体を掲げるとそこから強力なフラッシュを発動させる。

視界が光にそまり声をあげるキバ、視界も鮮明にならぬまま彼が感じたのは胴体に走る痛みと衝撃だ。

ランピリスはひるんだキバに一瞬で距離を詰めると、球体を彼の体にぶつけていく。弾かれ、叩き落され、吹き飛ばされるキバ。

 

 

「ぐあぁッッ!!」

 

 

壁に叩きつけられたところでウェイクアップが解除されてしまう。

地デジを推進するポスターを巻き込みながら地面に落ちるキバ、怯む彼へ球体を構えて歩いてくるランピリス。

 

 

(やべぇ!)

 

 

フラッシュに対抗する手段がない、キバは焦りながら周りを見る。すると窓の外に見える赤い鳥、あれは――

そこでランピリスの背後から駆けてくる青い閃光。閃光は手に刃を構えて跳躍、キバを襲おうとしていたランピリスの前方に降り立つと思い切りその武器をふるう。

 

 

「ぐあッ!!」

 

「!」

 

 

思い切り豪快に刃を振るうのはガタックだ。

ランピリスはある程度後退していくと反撃にフラッシュを放つ。目を覆うキバとガタック、光が晴れるとそこにはランピリスの姿はもうなかった。

 

 

「鏡治さん!」

 

「ああ、亘君! 無事で良かったぜ」

 

 

周りに敵がいない事を確認して変身を解除する両者、物陰に隠れていた里奈も駆け寄っていく。

クロックアップを使える彼が来てくれたのは心強いが、気になるのは何故自分達がココにいるのかが分かったのか?

答えは窓外にあった。先ほど亘が確認した赤い鳥とは響鬼のディスクアニマルである茜鷹、彼が亘を発見して位置情報を鏡治たちへ伝えたという事だ。

その言葉通り数分後には我夢とユウスケ、薫も亘の下へやって来る。

 

 

「というか、亘達って会議にいませんでしたよね」

 

「う゛ッ……まあ、おかげで情報は持ってるよ」

 

「情報?」

 

「実は――」

 

 

亘はココで知った事を一同に伝える。とりあえず気になるのはシェードを裏切ったナンバー5だ。

彼を見つけて人質の居場所を聞きたいが、難しい場合はコチラで探すしかないと言ったところか。

ランピリスの様子から察するに残りの100人も同じ場所にいる可能性が高い、だとすればその場所を見つけたいものだ。

今は我夢がディスクアニマルをテレビ局に潜ませて調査を行っているが見つかるかどうかは微妙なライン。

 

 

「時間は? 二時間で処刑始めるとか言ってたよな?」

 

 

ユウスケはキョロキョロと確認するが時計が無い。すると薫が自分の腕時計を一同に示した。

 

 

「まだ少し余裕があるわね。その間に探しましょ」

 

 

頷く一同、しかしそこで亘は学校にいるだろう兄と従姉妹の事を聞いた。

ユウスケ達は知らないが我夢と鏡治は先ほどまで話していた事を伝える。

彼だけは戦うかリタイアを選択するとはまた違うベクトルに立っている人物だ。彼が戦いを選択したとしてディケイドの力は戻ってくるのか?

 

 

「そもそも、戦いの理由を疑問視したとして力が無くなる物なんですかね?」

 

「どゆこと?」

 

「正直僕は司先輩の力が消えたことはまた別問題と思うんです」

 

 

尤も、それがどういった問題なのかまでは分からないが。

我夢の言葉に複雑な表情を浮かべる亘、それを見た鏡治は彼にある提案を持ち出した。

 

 

「ああそうだ、一度学校に戻って司と話しをしてみたらどうだ?」

 

「え? あ……うーん。別にボクが話した所で何も変わらないっすよ」

 

 

いやいや、それは少し違うと鏡治は首を振る。

何も変わらないという事は何もしない結果がそうだと。答えや状況こそ変わらないにせよ、何かしらの影響は必ず与えられる筈だ。

 

 

「それがどんな小さな事でも、少しは反応してくれるだろ」

 

「う、うーんでもなぁ」

 

 

敵は多いかもしれない。

なるべくライダーは多いほうがいいのでは? そう思うが、薫は鏡治の意見に賛同している。

 

 

「いいじゃない、ココからはそれほど離れてないし」

 

 

渋る亘だったが、そのうちに里奈が裾を引っ張る。

 

 

「行こうよ亘君、司さんとお話しよ?」

 

「そ、そう?」

 

 

だったらと渋々亘は了解する。まあクウガ、響鬼、ガタックと揃っていれば大丈夫か。

その内他の人も来るだろうし、亘は頷くと里奈と一緒に一度学校に戻る事に。しかし今から入り口に戻るのは時間が無駄に掛かってしまう。

薫はキョロキョロと辺りを見回すと窓の一つを適当にぶち破る。

 

 

「「「ブッ!!」」」

 

 

何やってんだよ! ユウスケが言うと薫は鼻を鳴らしてバレなきゃいいとの事。

 

 

「よし! 亘ゴーッ!!」

 

 

戸惑いながらも頭を下げて変身する亘、里奈を抱えるとそこから下に飛び降りる。

着地点には既にマシンキバーが控えており二人はすぐにエンジンを入れて学校を目指していく。

それを見送るユウスケ達、薫は少し頬を膨らませて小さくなるキバを見ていた。

 

 

「何よ何よ亘ってば、私に言われて悩むのに里奈に言われたらすぐ決めちゃってさー」

 

「すねんなよ~」

 

 

ユウスケが笑う中で我夢も頷く、薫が背中を押して里奈が同調しただけだと。

それを聞くと満足そうに笑う薫、我夢の肩に手を回してニヤニヤと表情を変える。

嬉しい事を言ってくれる。彼には年上キラーの才能があるかもしれない、これは将来が楽しみだ。

 

 

「ん? でも我夢君、このお姉さんの魅力にメロメロにならない様に気をつけなさいよ」

 

「ぐ、ぐるじぃ」

 

「か、薫! 我夢くんがガタックと同じ色になってるぞ!!」

 

 

割と締め付けられているのか涙目になる我夢、薫はゴメンゴメンと彼をすぐに解放する。

さて、そこで慌しくなるディスクアニマル。気がつけば透明を解除した瑠璃狼が我夢に飛びついていた。

何かを見つけたのだろうか? 我夢はすぐに彼がみた景色を映し出してみる。

 

 

「これは!」

 

 

そこには移動させられる人質の姿が映っていた。

さらに先頭には敵らしい服装の男女が一瞬見える。成程、残りの人質はこの場所に捕らえられているに違いないと一同は目指すべき場所を決めた。

 

 

「!」

 

 

しかし敵もコチラの存在に気がついてきたのか、前方からは無数のサナギ態がコチラに向かってくる。

すぐに戦闘態勢に変わるユウスケ達、変身の準備を整えるが――その時だった、室内にいるにも関わらず一同は風を感じることになる。

 

 

「え?」

 

 

直後――

 

 

「「おわああああああああ!!」」

 

 

消し飛んでいくガラスとワーム、こうしてユウスケ達を狙ったワームは一瞬で消滅した。

それを口を開けてみている一同、何だ? 何が起こった!? 誰も何もわからずにただ口を開けているだけ。

 

 

「え? 我夢くん何かした?」

 

「い、いえ! 鏡治先輩ですか?」

 

「ああ、そうだな。俺じゃないぜ!」

 

 

だったら今の衝撃波は誰が誰が発生させたのか、しかもワームだけを倒すなんて。

一瞬ガラスも完全に破壊されたかと思えば、どこも壊れていないときた。若干の幻影効果すらあるなんて――

 

 

「………」

 

 

確実に分かることはこの場にいる誰も衝撃波を発生させていないという事、ならば考えていても仕方が無い。

気になる所ではあるがユウスケ達はディスクアニマル達が示した場所に向かう事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーでもなぁ」

 

「あはは、まだ言ってるの?」

 

 

一方の亘だが、未だに渋っているようだ。今更兄に会ったところで何を言えばいいのか全く分からない。

というより、やはり自分が司にあったところで何も変わらない様な――

 

 

「ちがうよ亘君」

 

「え?」

 

「司さんが影響を受けるんじゃなくて、君が影響を受けるんだよ」

 

「………」

 

 

なるほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、ユウスケ達は全く気がついていなかったがその衝撃波の爆発はある一つの文字を形成していた。

ワームを殺すだけでなく、幻影の文字を形成させたと言う訳だ。そしてその文字とは――

 

 

『G』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の校庭では息を荒げて倒れている少年が二人、司と拓真。

殴りあいは少し前に終了したが、それぞれ大の字で倒れているのは身体が動かないからだった。

ダメージよりも精神と身体の疲労が凄い。拓真は途切れ途切れの言葉で何とか司に話しかける。

 

 

「司君……ずっと気になってたんだけど――喧嘩ってどうやって勝ち負けが決まるの?」

 

「まあ……成り行きだ」

 

 

じゃあこの喧嘩はどっちが勝ったのかな? 拓真の言葉に司は一瞬沈黙する。

そんなの分からないのは司も同じ、結果二人はじゃんけんで勝敗を決める事にした。拓真はグー、司はチョキ。

と言う訳でこの喧嘩の勝者は拓真という事に決まった。

 

 

「だああッ! クソ! 本当はパー出そうと直前まで思ってたんだけどな!」

 

「あはは! やったよ、僕は司君に勝ったんだ」

 

 

笑う拓真だがすぐに彼は無表情に変わり沈黙する。

同じく無表情で空を見ている司、彼は拓真に喧嘩の感想を聞いた。

果たして彼が望む喧嘩とはこれでよかったのだろうか? 結構強く殴ったし、逆に強く殴られたものだが。

 

 

「初めて分かったよ」

 

「?」

 

 

拓真は自分の手をジッと見つめる。まだそこには司の顔を殴った感触が強く残っていた。

彼はそれをみて苦悶の表情を浮かべる。今まで知らなかった事、それは――

 

 

「人を殴るって……こんなに、痛いんだね」

 

「……ああ」

 

 

そうだな、司は自分の手に残る鈍い痛みを感じて頷いた。

しばらくは無言の二人、そのうちに一筋の涙が拓真の頬を伝う。

殴る事がこんなに痛いなんて知らなかった、それともう一つ分かったことがあるのだと。

 

 

「殴るほうは痛いけど、殴られる方がよっぽど痛い……それに、怖いね」

 

「―――そうだな」

 

 

今でも立てないのは足が震えてしまうから。拓真は小さな、司だけに聞こえる様な声で会話を続ける。

彼は今まで暴力を振るう人間を最低だと思い、心のどこかで見下してきた。

だから自分はそうならない、なりたくないと心に決めて今までを生きてきたんだ。

どんなに嫌な事があったとしてもそれだけはやってはいけないと親からも言われてきたから。

等と、律儀に子供の時に言われた言いつけを守り続けていた拓真、嫌な事もたくさんあったけど暴力を振るわないと言う事に正義性を見出していたのだろうと。

 

 

「だからファイズになれた時は嬉しかった。皆を守れるって」

 

 

いつも殴られていただけの自分が、力を手に入れたんだから。

 

 

「でも人型の敵に止めを刺すとき、僕は始めてそこに自分自身の姿を見た」

 

 

敵の瞳に写る自分の姿は、いつも自分が最低だと見下してきた暴力を振るう人間のソレだったのだ。

 

 

「僕自身が、一番なってはいけないと思う姿になってたんじゃないかって」

 

「そんな事はないだろ。戦う中では仕方ない事もある」

 

 

頷く拓真。確かに守るために拳を振るうのと、殺すために拳を振るうのは似て非なる物かもしれない。

だが先ほども言った通り根本は全て暴力に収束する物でもある。今まで自分は力を振るっていたという事の責任をどこか軽視していたのかもしれないと。

 

 

「響鬼の試練で僕は泥田坊っていう人間の姿をした妖怪と戦ったんだ」

 

 

その時は止めの一撃を放つ事ができた。殺さないと分かっていたからだ。

要するに自分は人の姿をしたものを傷つける事が怖いのではない。殺す事が怖いのだ。

暴力が行き着く先の頂点にある命を奪うという行為、それをどうしても理解する事ができなかった。

 

 

「それに僕は――」

 

 

光が拓真を包む。

そして現れる異形、司は視線を空に固定したままだったが何が起こったのかを理解する事は簡単だった。

司はあえて何も言わずに拓真からの言葉を待ち続ける。

 

 

「僕は、もう普通の人間じゃないから」

 

「………」

 

 

クロウオルフェノクは空に手を掲げる。

そしてすぐにまた拓真の姿に戻ると、彼はゆっくりと身体を起こす。

その行動には反応を示す司、彼は顔を拓真に向けて思わず聞いてしまう。

 

 

「答えは出たのか?」

 

「……分かったんだ」

 

 

殴る事も、殴られる事も心が抉られるほど辛い。

しかし確実にその痛みを感じていない奴らがいる。それがショッカー、奴らは人間をゴミと称して一方的な暴力を仕掛けてくる。

それはもう暴力ですらない、殺戮だ。

 

 

「ユウスケ君の言った事が、鏡治君の言っていた事が今になって分かるよ」

 

 

殴るのも嫌だ。殴られるのはもっと嫌だ。だから――

 

 

「そんな思いをするのは、もう僕で終わりにしたい」

 

 

次の試練者にファイズを渡す事は、つまり自分と同じような思いをする人間を増やすかも知れないと言う事だ。

苦しい思いをするのは、痛みを感じるのは自分だけで――

自分達の代だけでいい。

 

 

「もう、たくさんだ」

 

 

それは誰に向けた言葉なのか。

自分か、敵にか、それとも傷ついていく人達へなのか。

 

 

「それに、やっぱり僕は友里ちゃんや皆が死ぬ事の方が怖いから」

 

 

 

怖い事をより怖い事で塗りつぶす。それはある種、最大の自傷行為かもしれない。

司はその途方も無い彼の意思を読み取り、思わず声を震わせる。彼は問題の解決を自分の意思を捻じ曲げる事で通すつもりだ。

悲しい決断じゃないか。

 

 

「損な生き方だな、拓真」

 

「そうだね、僕も……そう思う」

 

 

でも――

 

 

「僕には、この考えしか浮かばないんだ」

 

 

拓真は完全に司に背を向ける。彼の願いは仲間を守る事、その気持ちを変えた事はない。

人の夢を守る事、ファイズになれた自分には丁度いい目的じゃないか。拓真はそういって複雑そうに笑った。

同時に彼の前に降り立つオートバジン、どうやら彼の選択が決まったらしい。

 

 

「戦うよ。犬養拓真として、ファイズとして」

 

 

拓真はオートバジンをビークルモードに変えてシートに座る。

今、彼は何を思っているのか司はどうしても気になってしまう。答えを見つけながらも、それが迷いの炎をより激しく揺らめかせる。

 

 

「そうだな……気持ちは――」

 

 

拓真は、そこで少しだけ笑った。

 

 

「死にたいよ。これからの事とか、少し先の未来を想像すると」

 

「………」

 

「でも、僕はその中で笑ってる」

 

 

それに――

彼はオートバジンのアクセルを入れる。

 

 

「諦めたら、文字通り僕は死ぬだろうから」

 

 

死にたくないんだ、彼はそういい残して学校を去っていった。

それを聞いて無言で空を見上げる司、皆それぞれの想いを抱いて戦う訳か。

俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のテレビ局、人質がいるらしい場所を目指すユウスケ達だがその途中でおかしな物を発見する。

それはたまたま見えた窓の外の景色、下の地面に何か文字が書かれているのだ。

それは地面が凹んだ際にできた物だろうが、文字の形になるのは珍しい話ではないか。そしてその文字は――

 

 

「G……?」

 

 

何であんな地面に? 一同はまたも不思議に思うが、これまた考えていてもどうしようもない話である。

ただ明らかにあれは偶然できた物ではないだろう、何か明確な意図があって気ざれた文字としか思えない。

 

 

「黒光りするあんちきしょうかしら? お姉ちゃんが世界で一番嫌いなモンよ」

 

「ぜ、絶対違うと思いますけど……」

 

 

などと会話を行いながらスタジオを目指す一行、しかし敵も増援を繰り返しているのか目の前から迫る無数のワーム。

数は厄介だが既にディスクアニマルが場所を把握している為に切り抜けるかどうかの勝負だった。

 

 

「俺があいつ等を止めるからその隙に行ってくれ!」

 

 

飛び出していく鏡治、彼は一瞬で変身とキャストオフを済ませると無数のワームと交戦を開始する。

それぞれは頷いて全力疾走、ディスクアニマルが示した場所を目指す事になった。

 

 

 

 

ではそのスタジオの景色を少し見てみよう。

 

 

「はぁ……暇だねぇしかし」

 

 

ディスクアニマルが示したスタジオには当然残りの人質がいる。バラエティの特設セットが目立った場所で、派手な装飾品や美術物が目につく。

しかしお笑いを提供する場所とは逆に観客席にて捉えられた人質達は皆涙を流して絶望の表情を浮かべていた。

それはそうだ、二時間が経てばこの中から一人ずつ死んでいくのだから。

 

 

「やれやれ、人間は嫌に死ってモンを怖がるんだから困ったもんだ」

 

 

銃を構える兵士達がいる中で、中心のステージでは対照的に和服を着た少年が肘をついて横向きに寝ていた。

少年は扇子で顔を仰ぎながら恐怖に怯える人間をつまらなそうに見ている。怖いなら怖いで死んだ方が楽なのに、涙を流してまで彼等は生を望んでいる。

少年にはそれが全く理解で聞き無い話だった、彼の名は和織(わおり)、涼しげな雰囲気の少年である。

 

 

「しっかし泣かれてばかりだとコッチの気が滅入るだけどさぁ」

 

 

ねっとりとした話し方の和織、彼は扇子を閉じると仕方ないと言って身体を起こす。

人間のご機嫌をとるのは非常に面倒だが、このままだというのもネガティブなオーラに包まれる気がしてうんざりだった。

 

 

墨姫(すみひめ)ちゃん! お願いします!」

 

「………」

 

 

和織の隣に立っていたのは彼よりも少し背が低い"墨姫"と言う少女だ。

和織と同じく和服だが、彼女のほうが高級感があふれている。和織は浴衣で、墨姫は着物と言った印象か。文字通り黒をイメージする風貌だった。

着物が黒を中心とした白との二色だけの色彩、さらに真っ黒なおかっぱの髪は普通の黒よりも深い様な気が。

対して彼女の色は病的なまでに白く、目は澄み渡るような程の赤である。墨姫は和織の言葉に反応するとゆっくりと前にでた。

表情はロボットの様に無表情だが――

 

 

「ふとんが、ふっとんだ」

 

「ぶひゃはははははははッッ!! ちょ、ちょっと墨姫ちゃんってばいきなりそんな爆笑必須のネタを出しちゃうんなんて反則――……」

 

 

墨姫の一言で和織は吹き出して笑い転げるが、しばらくして笑っているのが自分だけだと言う事に気がつく。

言葉を放った墨姫本人も相変わらずの無表情、感情がないのではないかというくらい静かである。

 

 

「あ、あれ? 面白くなかったのか?」

 

 

人質達はハッキリ言って笑える程の余裕なんて無い。

ましてこの程度のネタじゃ逆に引きつってしまうものだが、和織はそれが不満らしい。

どうせもうすぐ誰かは死ぬ、ならば笑って人生を終えた方が遥かにいいのに。

 

 

「あんた等人間って奴ァ、人を傷つける事で笑えるのに傷つけられる事には笑えないとくる。随分とまあ面倒なつくりだよ」

 

 

つまらなそうに苦笑しながら再び横になる和織、するとその時勢いよくスタジオに飛び込んでくる者達の姿があった。

誰だ? 一勢に銃を向ける兵士と視線を向ける和服の男女。

 

 

「キィイイイイイイ!!」

 

「アオォオオオオオン!」

 

「キキィ!」

 

 

扉から飛び出したのは茜鷹、瑠璃狼、緑大猿のディスクアニマルだった。

三体の式神は銃を構えていた兵士に飛び掛っていくと動きを鈍らせて混乱の渦に叩き込む。

さらに兵士へ着弾していく炎、遅れてやってきたのは変身を済ませていた響鬼とクウガ。

二人は一瞬で兵士に擬態していたワームを全滅させると人質を庇うようにして男女の前に立つ。

ワームがやられている間はジッと響鬼達を見ていた和織達、兵士が全滅すると欠伸を一つして立ち上がった。

 

 

「お前さん達……」

 

 

頭をかきながら視線を泳がせる和織、なんだったかなと呟く彼へ墨姫がソっと近づいて耳打ちする。

すると手を叩いてそうだったと笑う和織、彼は咳払いを一つすると響鬼たちに向かって一礼を行う。

 

 

「妖怪城では仲間がご迷惑をかけたねぇ」

 

「「!」」

 

 

服装的にそうではないかと思っていたが、やはり魔化魍だったか。

となれば話合いは不可能と考えていい、しかし一応にと響鬼は二人に人質を解放する様に訴えかけた。

 

 

「いやいや、それはできないねぇ。ってか坊やってば人質の意味分かってるのか?」

 

「ク……ッ!」

 

 

そもそもの話、自分達は当然この世界を滅ぼすつもりでやっているのだから人質なんて一時的な形を取っているだけにしか過ぎない。

創始者である徳川さえ解放されれば全ての人間を殺す方法を行使している筈だ。

つまりココで人質を解放しようがどうでもいい話、とは言えこの世界は神なる世界ではない。

徳川が開放されれば放置、という事も考えられるが――

 

 

「まあ、お兄さん達はお上の命令に従うだけなんでぇ。どうでもいいちゃ、どうでもいいんだけどさ」

 

 

とにかく自分達は監視役としてココにいる。

勝手な判断はできない、和織は言葉を失い震えている人質を見てニヤリと笑った。

まあ、何だ。正直もう面倒な話し合いなんて無駄だって事くらい双方分かってるだろ? 彼はそう言って響鬼とクウガを見る。

 

 

「一応言っておくけどさ、コッチの仲間になるつもとか無いのかぃ?」

 

 

和織は墨姫の着物に刻まれたショッカーの刻印を二人にチラつかせる。

その言葉に一番初めに返したのは薫だった、彼女はいつもどおり銃となってクウガの腰にくっついているのだが言葉はしっかりと和織達の耳に届いたようで。

 

 

『あんた等こそ、ごめんなさいすれば許してあげるわよ』

 

「んまぁ、かわいくないお嬢さんだ!」

 

 

つばの無い刀を出現させる和織、さっさと倒して、さっさと終わらせたいだろ? どっちもな。

彼はそう言ってステージから一気に跳躍、刀をふるって響鬼達の所へ突っ込んで行くのだった。

 

 

「神無月の男女、和織。参る!」

 

「!」

 

 

 

既にそう言った時点で和織は刀を響鬼に向かって振り下ろしていた。

何とか音撃某で受け止める響鬼だが、すぐに和織は蹴りを彼の胴体に撃ち込む。

それで緩んだ防御を刀の乱舞で崩すと連続で響鬼を切りつける!

 

 

「グッッ!!」

 

「このッ!」

 

 

響鬼を守ろうと構えるクウガだが、その瞬間彼の体から無数に火花が散っていった。

何だ? クウガが辺りを確認すると、薫が先に声をあげた。彼女が指し示すのはステージの上、そこに立っている少女。

 

 

『あの娘!』

 

「クッ!」

 

 

墨姫は和のイメージを強調したハンドガンを持っていた。

当然クウガはソレで撃たれたという事、なるべくなら女性は攻撃したくなかったが仕方ない。

クウガはドラゴンフォームで一気に墨姫の元へ跳ぶとタイタンで彼女の前に立つ。あの程度の威力ならば装甲は貫けない、そう判断しての行動だったが――

 

 

「来ないで……」

 

「え?」

 

 

墨姫は小さく呟いて後ろへ跳ぶ。すると彼女の背後から文字通り墨で書いた様な蜘蛛の巣が広がっていくではないか。

何だこれ!? クウガは防御の構えを取るが、蜘蛛巣は瞬時にクウガを捉えて全身を黒く染め上げる。

 

 

「う、うごけな――ぐあああああああっっ!!」

 

 

動きを封じられたと思えばそこへ打ち込まれる墨姫の銃弾。

しかしおかしい、黒く染まった所はタイタンの防御力が無効化されている気がする。

事実、それが墨姫の力の一つであった。墨で塗りつぶした所は文字通りただの生身と変わらぬ防御力、クウガは動きを封じられつつダメージを蓄積されていく。

 

 

「ユウスケさん!」

 

 

それを確認して火炎弾を墨姫に放とうと音撃棒を振るう響鬼、しかし瞬時そこへ和織が割り入って炎弾を全て切り裂いてしまう。

早い! 響鬼はすぐに刻まれる事になり、どんどんクウガから距離を離されていく。

 

 

「お前等はいつも必死だねぇ、もっと余裕持った方がいいと思うけど!」

 

「クッ!!」

 

 

激しく、豪快に、そして優雅に刀を振るう和織。

いつの間にか二刀流に変わってた彼は完全に響鬼を圧倒していた。

彼が音撃棒を振るっても全て刀で弾き返して逆に反撃の一閃を響鬼に刻む。

 

 

「「うわああああああああッッ!!」」

 

 

クウガと響鬼、二人の体から一段と大きな火花が舞った。

対して笑みを浮かべる和織、これが人間の限界だと彼は言って再び刀を振り下ろしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

校庭では相変わらず司が大の字で倒れていた。

拓真が去ってからそれほど時間は経っていないが、どうにも彼には立ち上がれる気力が無かったのだ。

彼が言っていた言葉はよく分かる。分かるからこそ、どうしようもない焦燥感が司を包む。拓真には選択肢があった、しかし自分には――

 

どうなのだろうか?

 

 

「大丈夫? 結構本気でやってたみたいだけど」

 

「あ、ああ……はは。見てたのか」

 

 

そんな司に差し出される手、良太郎だった。

司よりも小さな手だが、彼はそれをしっかりと掴んで身体を起こす。軽く礼を言って苦笑する司、何ともまあ変な所を見せてしまったと。

 

 

「まだ、行ってなかったんだな。良太郎……」

 

「………」

 

「行くんだろ?」

 

 

行くんだろ? その言葉は純粋にテレビ局へ向かうのかを問い掛けた物ではない。

頷く良太郎、既にモモタロスは暴れさせろとしきりに行ってくる様だ。しかし良太郎は少しだけ司と話がしたくて残ったらしい。

話? 司が言うと良太郎は頷いて彼の隣に座る。

 

今ではすっかり慣れたものの、彼は自分達の世界じゃ有名人。

それも偶像だと思っていた人物だ。それが今こうして自分に向かって話しかけている、随分と不思議な物ではないか。

子供達からは憧れの存在だ、英雄として自分達の世界では語り継がれていると言ってもいい。

 

 

「ぼくはそんなに立派な人間じゃないよ。司くんと何も変わらない」

 

 

運だって悪いし、どちらかと言えば人に見られればそれは格好悪い生き方をしていたんじゃないかと彼は苦笑する。

それは今だってそうだ、正直良太郎は答えに辿りつけていないと言えばそうだろう。

だが、彼は戦いを続けるという。

 

 

「これは答えじゃないよ、多分……過程だと思う」

 

「答えじゃない?」

 

 

意外な言葉だった。

ずっと今回の決断を答えを出すだのと言っていた司達にとって良太郎の言葉はまったく予想していない物。

良太郎は言う、自分は今までいおろんな人に助けられてきた。今の自分がいるのはその人たちのおかげだと言ってもいい、だからこそ――

 

 

「だからぼくは、その人達を忘れちゃいけないんだって」

 

「……ああ」

 

 

良太郎が分かったのはそこまでだ。

だが逆にそこまで分かったのならば彼は答えを出せずともどの道を行けばいいのかを理解できた。

だから彼は戦い続けると言う決断を下すのだ。

 

 

「俺には……もう力が無い。もしかしたら戻るのかもしれないけど、分からないんだ」

 

 

それを聞いた良太郎は司の目を見ていった。

 

 

「弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても――」

 

 

良太郎は立ち上がるとマシンデンバードを自分の前に呼んだ。

 

 

「それは何もやらない事の言い訳にはならない」

 

「……!」

 

「まあ、受け売りだけどね」

 

 

そう言って笑う彼はベルトを巻きながら言葉を続ける。少し司と話してみて分かった気がすると。

良太郎は答えを出さずに過程の中にいると告げた、しかしもしも答えが出る出ないで考えたとすると――

 

 

「司君は、もう答えを知っているんじゃない?」『SWORD・FORM』

 

「それは――……どういう」

 

「ぼくには、そう見えるよ」

 

 

ソードフォームへ変わる良太郎、彼は司しかいない校庭で全力の決めポーズを行った。

 

 

「俺、参上ッ!」

 

 

彼の声が時空さえも赤く染めんとばかりにフィールドを震わせる。

ビシッと音がでる程の勢いでキレのある動きを行う電王、やはり彼はこうでなくては。そして電王はバイクに乗ると司を見る。

 

 

「俺は今までクライマックスに生きてきたつもりだぜ」

 

「っ!」

 

「お前は、どうなんだ?」

 

「俺は……」

 

「どうせなら、クライマックスに生きたほうが100倍面白いと思うけどな」

 

 

そう言って司の言葉を待つ事無く走り去る電王。

良太郎の言葉と比べるといまいち意味が分からない言葉と言えばそうだが、モモタロスの言葉には良太郎には無いエネルギーがある。

彼等の言葉を胸に刻む司、自分はもう答えを出しているか。やはり彼等の存在は大きい、司は改めてそれを感じていた。

良太郎達は確かに自分達と何も変わらない、だからこそ彼等は仮面ライダーになれたのかもしれないと。

そう、そうだな。そうなのかもしれない。だがそこにある闇があるからこそ自分は――

 

 

「司……ッ!」

 

「!」

 

 

良太郎と入れ替わるようにして現れる男、椿だった。

彼は今まで見た事の無い様な深刻な表情で自分の元へ近づいてくる。

彼のそんな表情を見たのは邪神戦以来だろうか? 彼は強い決意を瞳に宿して司の隣に座り込む。

 

 

「ど、どうした?」

 

 

凄まじい迫力だった、いつものふざけている彼とのギャップに思わず司は気圧されてしまう。

今日の椿は声も違っていた、彼はありったけの低音で彼に呟く様に言い放つ。

 

 

「悪い司、やっぱり俺……自分にだけは嘘はつけねぇ」

 

「!」

 

 

椿は拳を握り締めて歯を食いしばる。

 

 

「いろいろ考えたんだ、だけど……俺はココでは終われないッ!」

 

「椿……お前――ッ」

 

 

お前だって、本当はそうなんだろ? 椿の言葉に司は沈黙する。

それが答えをと悟ったのか話を続ける椿、諦めようと思っても――諦められない道ってモンがある。彼は強く、迷い無く言い放つ。

 

 

「椿、お前そこまで……」

 

「ああ、俺は決めたぜ。俺は……戦い続ける」

 

 

うなずく司、今の彼からは一片の迷いも感じられなかった。

司はそんな彼へ素直に尊敬の念を抱いた。一体彼にどんな変化があったのだろう?

司は純粋に知りたかった、だから彼に問い掛ける。彼の、守輪椿の戦う理由を。

 

 

「"アイツ"に教えられたんだ……俺一人じゃ気づけなかった」

 

「"アイツ"?」

 

 

咲夜か? 司が聞くと椿は違うと首を横に振る。

そして彼は悲しげに笑うとうな垂れて見せた。その姿は大きな悲しみを背負っている様に思える。

椿は少し震えた声で言う。俺には夢があるんだ――

 

 

「それがお前の戦う理由か」

 

「ああ、俺は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、お嬢様系の義妹からお兄様って……呼ばれたいんだ」

 

「ああ、そうな――」

 

 

………。

 

 

「それだけじゃない俺は――」

 

「違う違う違う違う! え、ちょ! ちょまちょまちょまッ!!」

 

「え、ええ? え? え、あ? あ、あれ? 何? 何々?」

 

「ん? ちょっと待って! ちょっと待ってよ、ごめん椿! 何? 続けないで、ちょっと待って!!」

 

「え? 何が何が?」

 

「え、あいや何がって何が? ん? ちょっと待って待って」

 

「ん? え? 待ってって何が? え、ちょ! どゆこと?」

 

「え…? いやだから――っ! あああ怖い怖い怖い!! お前今なんて言った?」

 

 

わちゃわちゃと手振りやらで牽制し合う二人。

何だ? 何だコレ、どういう事? 司と椿は一旦落ち着いて会話を続ける。

 

 

「いや、だから……さ! ほら、俺は、それだけじゃないよって」

 

「いやいや前前! その前!!」

 

「前って……ああ、いや――っ。あのー……お嬢様系の義妹にお兄様って呼ばれたいって?」

 

「うんうん、そうそうソレソレ。え? 何? それがお前の戦う理由なの?」

 

「いや――っ! それだけじゃないよ! 失礼だな君はッッ!!」

 

 

あ、ごめん。司は素直に頭を下げて椿に言葉を続ける様に促がした。

ちょっと早とちりをしてしまったようだ。そうだ、そうだな。いくら何でも今はそういう雰囲気じゃなかったもんな。

いやいや、失礼な事をしてしまったか。司はうな垂れて椿の言葉を素直に聞き入れる姿勢をとる。

 

 

「それだじゃない。俺はさ、ツンデレの生徒会長がいる学校で副会長になるんだ。それで二人だけの委員会が始まるのさ。最初はツンツンだった会長も次第にデレてきてな! デュフフフwww」

 

「………」

 

「とかさぁ、ウサ耳メイドのご主人様になるってのもいいって思い始めてきた。いや俺は獣耳のフェチは欠片とて無かったんだが最近は段々といける様になってきたんだ。というのも、要は何だかんだ言って性格が良かったら属性なんて対した障害じゃないのかもって思い始めてきてな」

 

「………」

 

「あのね、でも最近アイドルのプロデューサーになるってのも有りかなって思い始めてきたのよ。いややっぱ可愛いよな、純粋に俺は1ブヒユーザーとしてのあるべき姿ってのを思い知らされたのかもしれん。いやしかしそこにやましさは無いよ、俺はある意味で聖人としての主観で愛でていくっていう考えなのかもしれない」

 

「………」

 

「でもやっぱり、時代はヤンデレの幼馴染なのかなって行き着いてな。なんつーのかな、ほら俺たちってどこかやっぱ病みの部分を求めているのかもしれない部分があるじゃん。それは俺達が体感するんじゃなくて、ある意味それをヒロインに重ねる事で自己を保護しつつヒロインを愛するといういい訳じみた萌えをつきつけられている気分なんだわ」

 

「………」

 

「んで最初の話に戻るんだけど。やっぱ妹は義妹に行き着くよな! っていうか実妹だったらどうあっても無理じゃん! いや無理じゃん!! 二回言ったけどさ、やっぱ可能性に賭けたいじゃん!!! あとね、俺若干ツンデレに飽きてきたんだわ、だからここいらで新しい風を――」

 

「いやいやいやいやいや! 怖い怖い怖い! ちょっと待って待って、本当に待って!!」

 

「え? えっ? え? 何、っどどどどどうしたどうした?」

 

 

再びわちゃわちゃともみ合いじみた言い合いを始める二人。司は椿に今まで起こった事を説明する。

拓真や良太郎と凄く、それはもう凄く重くて責任のある会話を繰り広げてきた訳だが今現在は完全に放課後の会話である。

しかも最初は椿の戦う理由だったはずだ、なのに今は脱線どころか空飛んでるレベルである。それを聞くと椿は急に真面目な顔に戻りそっと呟く。

 

 

「そう思えば、夢は広がるぜ」

 

「?」

 

 

椿は携帯を取り出し、画面を見つめる。

 

 

「俺、妹がいたんだ」

 

「は?」

 

 

そんな話聞いたこと――

 

 

「病気だったんだ。頑張ったけど、助からなかった」

 

 

司は椿の目が潤んだを見逃さなかった。

そうか、彼はわざと意味不明な言葉を羅列していたのか。全ては俺に気づかせる為に――ッッ!

椿は言葉を続ける。誰も助けてあげられなかった、しかし彼女は生きたいと願っただろう。けれども運命は残酷だ、椿は必死に抵抗したが結局彼女は助からずに――。

 

 

「俺は、もうそんな想いはごめんだぜ」

 

「椿……その妹さんが"アイツ"なんだな?」

 

 

強く頷く椿、彼は先ほど良太郎が司に向けたまなざしと同じ物を向けた。

そして彼は携帯に写る人物を司に見せる。これが、彼の妹――

 

 

「マナたんだ」

 

「………」

 

 

司は清清しい気分で空を見上げた。

 

 

「やっぱ二次元やないかぁああああああああああああああああッッ!! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! アアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! ちっくしょぉおおおがぁああああああああッッッ!! ンフゥウウウウウウ! ヌゥアアアアアアアアアアアアアアアア!! ふぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

「騒がしいなぁキミは」

 

 

司は胸の内にある想いを全て吐き出す様に叫び続ける。

そんな彼を気にする事なくどこからか取り出したポテチを食べながら解説を始める椿。

なんでもマナちゃんはどんなルートでも病気で死んでしまうヒロインらしい。椿も必死にルートを探したがトゥルーですら駄目だったと。

 

 

「いやぁ、マジ泣いたわ。つか脚本もあんだけルートあるんだから一個くらい救済つくれってのよねぇ? あ、食べる?」

 

「いらん! っていうか、お前な! 皆が真面目に考えてるんだから――」

 

 

そこで司の言葉をさえぎる様に椿はキッパリといった。

 

 

「俺は真面目だぜ」

 

「はぁ?」

 

「この旅を続けるって事はさ、もしかしたらマナたんがいる世界にいけるかもしれないって事だろ?」

 

「なっ!」

 

 

確かにありとあらゆる世界が神なる世界から派生した物ならば十分あり得る話だ。

現に自分は偶像だと思っていたライダーになれた訳で、つまり椿の言っている可能性はある意味で絶対に可能と言う事でもある。

ただ世界に行けるかどうかは別の話だが、それでもあり得ない訳ではない。

 

 

「だろ? おいおい、それで夢が広がるなってのが無理な話だぜ」

 

 

椿はダラーっと力を抜いてバリバリとポテチを食べていた。

完全に休日のワンシーンとしか思えない、つまり彼に焦りは無いのか?

 

 

「なんつーかさぁ、皆真面目に考えすぎじゃね?」

 

「え?」

 

「お前もさ、敵に何て言われたか知らねーけど……もうぶっちゃけいいんじゃねぇかな、それで。いっそドヤ顔してやれば? 俺ライダーですよーとか言ってさ」

 

 

俺たちは聖人君子じゃなくて、欲にまみれた高校生だぜ? 世界の平和を守るってのは二の次でもいいじゃないか。

まずは自分がやりたい様にすればいい。それを他人が何と言おうが、気にする事は無い。

 

 

「俺はさ、他人からキモイとか言われてもオタク趣味止める気なんて無いし」

 

 

そりゃ言われるのは傷つくけどさ、やっぱ好きなモンは好きだからな。

椿はそういってまたもどこからか取り出したコーラを飲み始める。

 

 

「お前だって特撮オタクなんだからライダーになれて嬉しいだろ?」

 

「………ッ」

 

 

COBRAから言われた言葉が司の胸を抉る。

しかし椿は気にする事無く饒舌に言葉を続けるのだった。

 

 

「いやっていうかコレで嬉しくなかったらお前変態だぞ! ド変態だわ!!」

 

「そ、それは嬉しかったけど。それじゃ不純だろ!」

 

 

何を言っているんですかこのバカチンがぁ!

椿は誰かの物真似をしているのか髪をかき上げて声を作る。むしろ逆にそれが綺麗事だろうと椿は笑っていた。

 

 

「それともウルトラマンの方が良かったか?

 まあ俺USAとグレートしかまともに見てねェんだけどな。ゴーデスだっけ? アレ今見たらキモすぎて笑うよ、マジで」

 

「……ティガかダイナかガイアになりたい」

 

「ブハッ、結局はお前欲望ありまくりじゃねぇのよ」

 

 

 

欲望は生きる糧だぜ、椿はコーラを空にすると同じく空になったポテチの袋へペットボトルを入れた。

彼は立ち上がるとブレイバックルを構える。それは彼の意思を示す行動だった、理由はどうであれ彼もまた我夢たちと何も変わらぬと。

 

 

「俺はぶっちゃけさっき言った理由で戦うわ、なんかそっちの方がやる気でるし」

 

 

もしかしたら救えなかったキャラを救える時が来るかもしれない、会いたいキャラに会えるかもしれない。

その時に必要なのはブレイドの力だ、好きなキャラがショッカーに苛められている姿を想像しただけでショッカーへの殺意がうなぎ上りだと。

だから、彼はここでは終わらない。

 

 

「それにさ、平和な世界に飛ばされるとか言ってるけど平和(笑)かもしれないし」

 

 

今の力が結構気に入ってるからと椿はエースのカードをバックルにセットする。

椿は司が抱えている迷いを全て振り切っていた。あまりの潔さに吹き出してしまう司、やはり彼は少し他の人間とは違う様だ。

 

 

「ぶははははは! まあ、あれだよ。こんだけ人がいるんだから俺みたいな考え方のヤツがいてもいいでしょ」

 

「不純すぎるだろ。ハハハハ!」

 

 

あまりにも馬鹿馬鹿しくて二人はしばらく馬鹿みたいに笑い続ける。

そしてしばらくすると椿はブレイドに変身、呼び寄せたブルースペイダーにまたがった。

そこで背中を向けたまま司に最後の言葉をぶつける。先ほど言った病気系妹キャラの話、椿は選択肢を必死に探したが妹を助ける事はできなかった。

それはそのゲームにキャラを救える選択肢のプログラムがなかったから。ルートにたどり着く選択肢が存在しなかったからだ、だから守れなかった。

 

 

「でも、力があれば選択肢を増やせる」

 

「!」

 

「Episode DECADEってのは、きっと多分そういうモンなんだろうよ」

 

「椿……」

 

「じゃあな、来るべき椿君ハーレム化計画の為に頑張ってくるわ」

 

 

そう言ってバイクを発進させるブレイド、司は彼が残していったお菓子の袋を抱えて苦笑している。

 

 

「!」

 

 

すると手に持っていたその袋が一瞬にして消滅する。

な、なんだ!? 司が目を丸くして辺りを確認するとソコにカブトが立っていた。彼はクロックアップで袋をゴミ箱に捨ててきたと。

 

 

「双護……」

 

「お前は拓真を殴った時に何を思った?」

 

「え?」

 

 

拓真の思いに応えるために、お前も想いを込めたはずだ。

その言葉を受けて立ち尽くす司、すると横から真志がやってくる。

彼は司にまず謝罪を行う、尤もそれが何の謝罪なのかは真志は告げないが。

 

 

「司、やっぱりこの特別クラスはお前がいないと駄目だって思うぜ」

 

「真志……」

 

 

真志は司の心臓に拳を軽くぶつける。そして迷いの表情でフッと微笑んだ。

それは変身を解除した双護も同じ、二人はまるで未来を見透かした様に笑っていた。司はそれを感じながらも二人の言葉を受け入れる。

 

 

「待ってるぜ」

 

「………!」

 

 

二人はそれだけ告げるとサッサと司の前から姿を消した。

一歩足を出して立ち止まる司、やれやれさっきからどいつもこいつも――。

司はまた新しく近づいてきた気配を感じて苦笑する。自虐的な笑みではあったが、そこには全てを悟ったような余裕が見えた。

だから司は話しかけてきた人物に驚く事無く視線を向けられた。

 

 

「どうしても、決めたのか?」

 

 

司は笑みを浮かべていた。それは諦めが混じった様な、つまり彼はこの質問が愚問だという事を知っている。

なのでコレは質問でなく確認、彼は自分の前に現れた"夏美"に向かって確認の笑みを向ける。

 

 

「はい! 私は戦います!!」

 

 

何故か自信満々に答える彼女、司は咲夜たちに夏美を止めてくれる様に頼んだ。

しかし彼女はココにいる。という事はつまり咲夜達を説得してでもココにいると言う事だ。

そうでなかったとしても彼女は咲夜達を振り切ってココに来たと言う事になる。そんな事をしてまで戦うという彼女を、今更自分が止められる訳が無い。

彼女と何年一緒に暮らしていたと思っているんだ? 彼女の性格は分かりきっている事じゃないか。

だから司は焦らない、というよりも心の中で彼は既にこの景色を見ていたから。

 

 

「いいのか?」

 

 

それは色々な意味を含めた言葉。

 

 

「はい」

 

 

だから夏美も、様々な意味を乗せて頷く。

二人の間に交わす言葉はそれだけで良かった。司は悲しいほどに夏美の気持ちが分かってしまう。

ただし、それは彼が彼女と同じような事を考えているからなのだが。

 

 

「でも、お前はどうして――」

 

 

しかし唯一司には分からない事がある。

彼女のやりたい事は分かった、しかしその理由が司にはイマイチ掴めない。

彼女はあれだけの想いをしてまだ尚頑張るのか? 自分はあれだけ怖かったのに。

それを聞くと夏美は悪戯な笑みを浮かべてみせる。そして彼女は恥ずかしいから言えない等と適当ないい訳を述べるだけだった。

 

 

「じゃあ司君が戦うなら、教えてあげますよ」

 

 

そう言って彼女は自分に背中を見せる。司が手を伸ばした時には彼女はもう走り出していた。

待ってくれ、行かないでくれ、そう言えば良かったのだろうか? 司は何もいえなかった自分に対して笑みを向ける。

自虐的な? いいや、違う。

 

 

「司!」

 

「!!」

 

 

またも声、司が振り向くと他の女性陣が走ってきた。

既に事情は知っていると告げる司、咲夜はすぐに理由を告げようとしたが司は笑みを浮かべままそれを止める。

それは自虐的ではない、確かな余裕を含んだ物だった。やはり、夏美は自分にとって最高のライバルかもしれない。

司はそんな事を思いながら一つの提案を女性陣に持ちかける。

 

 

「なあ、頼みがあるんだ――」

 

 

それは簡単な事だ。

 

 

「皆には、ココにいてもらいたい」

 

「!」

 

 

この世界の決着をつけるのは、おそらく自分達純粋な試練者だとしか思えなかった。

女性陣が元々強いというのもあるが、何か無性にそんな気がしてならなかったのだ。

もちろん手伝って貰った方がいろいろとスムーズに事が運ぶことくらい分かっている。

しかしどうしても譲れないエゴの様な物が取り巻いている気がしてならなかった。

 

 

「俺の迷いは、俺自身が破壊しなきゃいけないんだ」

 

「おいおい、あいつ等と同じ事言ってるよ」

 

 

そう言って頭をかくのは美歩、彼女は真志と双護に同じ事を言われていたのだ。

この世界は自分達が決着をつけたいと。必死に訴えかけられる中で、美歩はそれを了解するしかなかった。

 

 

「ま、そこらへんは好きにすればいいけどさぁ。ゼッテー他の人は悲しませんなよって事!」

 

 

美歩はそう言うと司の背中を思い切り叩く。全く、この学校の男共は一々小さい事で悩むんだから。

そんな彼女の隣では友里が呆れた様に笑い首を振っていた。そうそう、よく言えば慎重だが悪く言えばネガティブすぎると。

 

 

「司達は今までうまくやってこれたんだから、これからもきっと大丈夫だよ!」

 

「そうだな、もっと意思を強く持つべきだ」

 

 

咲夜の鋭い目が司を捉えて彼は引きつった笑みを浮かべる。

いやいや、逆にお前等が強いんだよと司は後ずさっていく。

一方で優しく笑いかけるのはアキラと真由、ハナも腕を組んで笑みを浮かべている。

 

 

「司先輩達ならきっと一番いい答えを出せませすよ」

 

「うん……ボク…司君なら…できると思う」

 

「ええ、ずっと見てきたけどわたしもそう思うわ」

 

 

強く頷く司、彼は皆にお礼を言うと一直線にバイクが置いてある駐輪所へ走っていく。

分からない事は多いが、とりあえず夏美のヤツにこれ以上負けてられるか! 

それに彼女が戦うというのなら、自分にできる抵抗は彼女が少しでも傷つかない様にする事だろう。

変身できるとかできないとかじゃなくて、自分にやれる事を確かめに行きたい。司は思考を止めて暴れだしそうな心に従う事にした。

 

 

「司君……貴方も行っちゃうのね」

 

「うぉっと! あ、葵さん……」

 

 

駐輪所の前にいたのは葵、彼女は寂しげな表情で司に笑いかける。

司は少し戸惑いながらも彼女に謝ると、今まで感じてきたことを告げた。

はじめはリタイアを選ぶつもりの司だったが、徐々に戦う意思を固めていく他の奴等を見ているとジッとしていられなくなる。

自分だけ置いていかれそうな不安と、彼等が居ないのにリタイアしても仕方ないと言う気持ち。

 

 

「でも変身できないんでしょ? 司君」

 

「今は……確かに。だけど、それは何もしないって事にはならないんです」

 

 

自分は本来ならば電王に選ばれていた存在。

クウガに選ばれたユウスケはアマダムの制約を無視、キバに選ばれた亘は魔皇力の抵抗補正を掛けられていた。

だとすれば自分には憑依の負担軽減のスキルが与えられている筈だ。もしも自分がディケイドになれなかったとしてもソレはソレで戦う道はある筈。

 

 

「人から見れば綺麗事だとか偽善だとか思われるかもしれないけど、やっぱり俺は今の現状を見て黙ってる事はできないんです」

 

「そう……」

 

 

だからごめんなさい、俺はやっぱり行きますわ。司はそう言って葵の隣を駆けていく。

だがすぐに呼び止める葵、司は走り続けながらも反射的に後ろを振り向いた。

そこにあったのは彼女の笑顔、やはりそれは悲しげなものだったが彼女はしっかりと笑みを浮かべて司に手を振る。

 

 

「頑張ってね司君、おいしい物つくって待ってるから」

 

「……! は、はい! 行ってきます!!」

 

 

絶対帰ってきてねー! 葵の声を背中に感じながら司はマシンディケイダーがあった場所まで駆け抜ける。

既にいくつものバイクが無くなっている中にある筈の自分のバイク、しかしやはりと言うべきか無くなったのはベルトの力だけではなかった様だ。

 

 

(成程ね……ッッ!!)

 

 

舌打ちを放つ司、あるべき場所にマシンディケイダーの姿は無かった。

それは誰かが乗っていった訳ではなく、自分の力が消えたときにバイクもまた消滅したと言う事なのだろう。

おいおい、どこまでもハードな難易度にしてくれるじゃないか。司は苦笑交じりに他のバイクを見る。

しかし補正自体が切られているのか、バイクの乗り方が完全に頭から離れている。これでは他のメンバーから借りる事もできない。

さてどうする? テレビ局まではバイクを使えば早くつけるものの徒歩だとすれば結構な時間がかかってしまうだろう。

 

 

「司君!」

 

「ッ!」

 

 

その時、自分を呼ぶ声とエンジン音が司の耳を貫く。姿を見せたのは翼だった。

彼はマシントルネイダーを司の前に停止させて手を差し伸べる。乗れ、つまりそういう事なのだろう。

 

 

「これ以上、他の皆に先を行かせるのはキツイだろ?」

 

 

君も、僕も。翼は困ったように笑うと自身の決断を告げる。

最初は皆を守れない、傷つけられないとリタイアを選んだつもりだったが結局皆その意思に反して戦う選択をとっていくじゃないか。

 

 

「皆ちっとも私の言う事を聞いてくれないよ、困ったね」

 

「す、すいません……」

 

 

しかし意外にも翼は首を振る。

もしかしたら、それが正しいのかもしれないね。彼はそう言って司に自分がこれからも戦い続ける事を告げる。

彼は生徒達の為にリタイアを選んだ、なのにその生徒達が戦うと言うのなら自分も付き合うしかないだろうと。

 

 

「それに、僕自身の想いもある」

 

「え?」

 

「………」

 

 

翼は少し困ったように笑うとため息をついた。

 

 

「正直言うとね、僕は最初紋章が出たときは誰よりも不安だったかしれない」

 

 

変な事に巻き込まれた。みんなを守らないといけない責任。

何より自分が仮面ライダーに"なってしまった"と言うパニック。

 

 

「だってそうだよね、正義のヒーローって言うといっぱい戦いないといけないし、敵からは常に命を狙われるものだし」

 

 

だが皆を見ている内に気づいた。自分も仮面ライダーになりたいと。

大切なものを、大切な人を守りたい。何よりもこの特別クラスの絆を。

 

 

「僕が始めて変身できた後も、仮面ライダーに"なろうとする"意思が心には常にあった」

 

「………」

 

「でも、分からなかった。本当の仮面ライダーって何だろう。本当のヒーローって何なんだろうってね」

 

 

自分はこの名を持つに相応しいレベルにいつたどり着けるのか。

何をすればいいのか、どうすればもっとヒーローとしての高みを目指せるのか。

アギトとして相応しい振る舞いは、行動はなんなんだろうかと。

 

 

「答えは、出たんですか?」

 

「難しいからね、まだ全ては分からないよ」

 

 

バーニングの暴走を知って怖くなった。大いに迷った。でも自分なりの答えは見つけたと翼は言う。

 

 

「それは僕が初めてアギトになったあの瞬間から、僕は"既に仮面ライダーである"のだと言う事さ」

 

「……!」

 

「僕がどんな人間でも、どんな行動をしようとも、どんなに弱くても、僕は仮面ライダーになった」

 

 

もちろんそれは君も。翼は優しげに笑う。

司がCOBRAに言われた言葉とほぼ真逆の事を翼は彼に言った。

 

 

「司君、君は紛れも無く仮面ライダーだよ」

 

「翼さん……!」

 

 

翼も記憶にはある。子供のとき、ビデオで見た姿。

それは仮面ライダーであると同時に、変身者の姿でもあった。

何を想い、何を感じ、何をする為に変身するのか。

 

 

「さあ、行こうか。決めたなら後はその道を走るだけだからね」

 

 

光に包まれる翼、瞬時にアギトに変わった彼はもう一度後ろに乗れとジェスチャーを送る。

 

 

「は、はい!」

 

 

司は礼を言ってマシントルネイダーに飛び乗った。

それを確認するとバイクを発進させるアギト、今から夏美に追いつくには結構なスピードを出さなければならない。

となれば、アギトが合図をするとマシントルネイダーはスライダーモードに変形。

 

 

「さあ、少し飛ばすよ!」

 

「え? ええ?? えええええええええええええええええ!!」

 

 

一気に加速するマシントルネイダー、司は必死にアギトの腰にしがみついて線になっていく景色に視線を移す。

 

 

「きっと――」

 

「ッッ?」

 

 

アギトが何かを呟く。

司は振り落とされないように必死になりながらも、彼の言葉に耳を向ける。

 

 

「きっと君の決断は、皆に良い影響を与えるんだと思うよ」

 

 

そうさ、今まで君が一番戦い続けてきたんだ。みんなソレはしっかりと分かってくれている。

だからこそ、彼等は戦う選択をしたのかもしれないね。アギトはそう言いながら司が振り落とされないように手で彼を押さえた。

 

 

「―――……ッッ」

 

 

だといいですけど。その言葉はアギトに届いただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏美姉さん!」

 

「亘君! 里奈ちゃんも!」

 

 

一方先に向かった夏美は、学校に向かってきた亘達と合流を果たす。亘も夏美が戦いに来るとは思っていなかったので驚きの表情を浮かべていた。

だが、彼女が新たに追加されていたマシンキバーラを自慢しているのを見ていると次第にどうでも良くなってきた様だ。

 

 

「亘君はどうして戻ってきたんですか?」

 

「え? ああ、ちょっと兄さんと――」

 

 

ココで聞こえてくる司の叫び声、それは次第に近づいてきて――

 

 

「やっぱ早すぎィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

「おっと!」

 

 

後を追ってきたアギトも彼等を見つけたのかそこで急停止、反動で空を舞う司をアギトはストームの嵐で受け止めて地面に下ろす。

生まれたての子馬の様にフラフラと立ち上がる司、そんな彼の肩にアギトは軽く手を置いて何を言う訳でもなく走り去っていくのだった。

要は後は亘達に任せると言うことだろう、司はフラフラと彼等に近づき曖昧な笑みを向けて見る。

 

 

「よ、よお」

 

「司君……」

 

 

夏美は少し困ったように視線を反らす。

少し二人の間には無言が続き、これ以上の進展は無いと悟ったか亘が先に口を開いた。

 

 

「変身できる様にはなったの?」

 

「い、いや……まだ」

 

「何しに来たんだよ……」

 

 

うるせー! 司は亘を軽くあしらうと適当にウロウロと歩き回る。

ジッとしていられないのだろう。すると司は何やらにぎやかな声が聞こえているのに気づいた。

今現在自分達がいる道から少し離れた所でテレビ局の周年を祝う祭りの最中だ、いろいろな場所でイベントが行われているのだろう。

本当はそれどころではないが、テレビが回りに無いここはまだ情報がいき渡っていないのかもしれない。

 

 

「あれは……」

 

 

司が目を細めるとそこにはある垂れ幕が見えた。

どうやらそのテレビ局で放送しているヒーローのショーが行われているらしい。

成程、だから何やら特撮ソングっぽい音楽も聞こえていたのか。

 

 

「―――」

 

 

ふと司の心に宿る物。

 

 

「なあ、ちょっと見に行ってみないか?」

 

「はぁ?」

 

 

これから戦いに行こうとしてた夏美は司の提案に思わず声をあげて突っかかる。

何言ってるんですか! みんなが頑張っているのに自分達だけショーを見に行くなんておかしいです!! 夏美はブンブンと手を動かして司に訴える。

 

 

「いいじゃないか、ちょっとだけだからさ」

 

「ええええええ??」

 

 

司の言葉に戸惑う夏美、しかし――

 

 

「ふうん。ま、いいんじゃない」

 

「ええっ!!」

 

 

その言葉に了解したのは意外にも亘だった。てっきり否定すると思っていただけに夏美も里奈も目を丸くして彼を見る。

亘はバイクから降りると司の隣に移動して同じくショーを遠目に見た。

 

 

「なんか、少し興味あるよなアレ」

 

「確かに……」

 

 

何故か一般のショーに興味を示した司と亘。

夏美と里奈には全く何も感じないものだったが、あの兄弟には思うところがあるのだろうか?

亘はエルドランに里奈の車椅子を持ってきてもらう。そうやってバイクから車椅子へ里奈の移動を促がす亘、彼女もこれには混乱気味だった。

 

 

「い、いいのかな? 我夢君とかユウスケさん達が頑張ってるのに」

 

「ま、ココは甘えようよ里奈ちゃん」

 

 

それにと亘は笑う。

 

 

「あの二人は強いから、大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

剣を振った和織と、銃を放った墨姫は確かな異変に気がついた。

まず先ほどからずっと和織の刀に対して防戦一方だった響鬼が急にその動きを変えたのだ。

かろうじて防御していたと印象を受けたが、彼は急に音撃棒をクロスさせて刀の一撃をしっかりと受け止めて見せた。

それだけなら偶然かと思われたが、何よりの異変は彼の体から赤い蒸気が吹き出した事だ。

 

 

「……っ」

 

 

さらに墨姫。

彼女は防御力を殺したクウガに向けて銃弾を放ったのだが、その銃弾がクウガに着弾する前に消し飛んだではないか。

それは彼を取り巻く金色の雷が鎧となって銃弾を消滅させたのだ。

何だコレは? 和織と墨姫は起きる異変に対処する為に構える。すると赤く燃え上がる響鬼の体、そして雷に包まれるクウガの体。

 

 

「悪いけど、こんな所で負ける訳にはいかないんだ!」

 

「ええ、でなければ……皆に――ッ」

 

 

はじけ跳ぶ炎と雷、そのあまりの衝撃に思わず和織達は吹き飛ばされて地面に倒れてしまう。

 

 

「「司(先輩)に顔向けできないッッ!!」」

 

 

現れるのは響鬼紅、そして金色の力を得て進化したクウガタイタンフォーム。

その名を、クウガ・ライジングタイタンだった。

 

 

 






仲間の為に戦うデュデュオンシュさん
仲間の事を気にかけるデュデュオンシュさん
最期は結局裏切られるデュデュオンシュさん。

痺れたぜ。


はい、次もちょっと未定で。土日かどっかに一回できれば。
あともしかしたら来週はパソコン使えないかもなんで更新お休みするかも。
ではでは。

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