仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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ディケイドの試練
第72話 劣等感の破壊者


 

 

 

XXXX年。世界各国でテロが多発。

 

日本政府は対テロ組織として『シェード』を創設。各分野から精鋭達が集められ、相当な成果をあげた。

 

しかし人間を洗脳し肉体を主に昆虫と融合させ、"ワーム"と呼ばれる兵器に改造する実験が発覚し組織は解散。

 

創始者である"徳川清山"も逮捕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓の外が光に包まれる。何度と無くこの時を経験してきたが、相変わらず眼を刺す強烈な光と酷い耳鳴りには慣れない。

確か自分達の情報を他世界に異物ではないと知らせる為の適応反応らしい。

特異点である良太郎達は時空に影響されない為に体感する事は無いが、酷い不快感に司は眉を潜めた。

 

あの出来事から二日目、世界は移動を完了する。丸一日の時間を各々は考える為に使ってほしいとゼノン達。

翼の提案もあり、司達は前日を個人で考える時間とした。このまま旅を続けていいものか、それとも"リタイア"という形を取るのか。

 

 

「行くか……」

 

 

身体が重いのは気乗りしないからだろうか?

司は椅子から立ち上がると選択を決めるだろう場所へと向かう事に。

それは食堂、昨日と言う時間を使って考えた各々の意見を皆に伝えるのだ。そして最終的には答えを出さなければならない。

戦い続けるのか、それとも諦めるのかを。

 

 

「……っ」

 

 

司はディケイドライバーを取り出してみる、そして次にライドブッカーを。

中には当然ディケイドが使用できるカードが入っているのだが、そのどれもが無地を刻み司の力になると言う事を拒否している。

何がいけなかったのか、司は自問を繰り返すがやはり答えは一つしかなかった。

 

 

(俺は……ッッ)

 

 

首を振る司、もうそろそろ時間だ。

ココでウジウジと悩んでいる訳にもいかないだろう。彼は意を決すると自室を抜けて食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして食堂にてクラスメンバーが揃う。

これは司を含めて言える事だが、皆に共通するのは答えなんてでていないと言う事だ。戦う事、命を賭ける事、大切な物を失う覚悟が――あると?

 

 

「俺の意見は……前に言ったとおりだ」

 

 

つまりリタイアを選ぶと言う事、司の言葉に数名のメンバーは頭を下げる。

しばらく誰も何も言わない嫌な沈黙が続いたが、その内頭を下げていた葵がゆっくりと小さく呟いた。

 

 

「わたしも……それが、いいと――思う」

 

 

皆の視線が葵に移る。

それに少し怯んだ彼女だが、意見はしっかりと言わなければならないと思ったのだろう。少し早口で言葉を並べていく。

 

 

「今回の事で夏美ちゃんや薫が……あんな事になって――わたしはもう耐えられないの!」

 

 

今現在夏美と薫は保健室で安静にしている。そしてそれは翼も同意できる事だ。

自分が皆を守りきれる訳ではない、それを痛感させられた。彼らを助ける事はどうやらリタイアを選ぶしか無い様だ、翼が行き着いた答えはそこにある。

 

 

「ちょっと待ってよ皆!!」

 

 

勢いよく立ち上がるのは友里、彼女の雰囲気は司も一目で分かった。

彼女はリタイアを望んではいないのだと。そして彼女の言葉に乗る様にして声を発する咲夜、彼女もまた友里と同じ考えだ。

 

 

「リタイアって事は、あたし達の世界が滅んじゃうって事なんだよ!!」

 

「そうだ! 家族や友人を見捨てる事になる!!」

 

 

それを言われると司達も心が痛む。もちろん司にだって祖父や他の友人の事がある。

だからこそリタイアに踏み切れない所だった。自分達が諦めればイコールそれは自分達の世界に住んでいる全ての人間を見殺しにすると言う事になる。

その事実が枷となり一同の思考を停止させていたのだ。

 

 

「でもよ――」

 

「!」

 

 

その言葉は友里や咲夜の言葉を貫いて一同の耳に。

発言をしたのは真志だ、たしかにリタイアをとると言う事は多くの人を見捨てる結果になるかもしれない。

だがしかし皆は忘れてないだろうか? ゼノン達は自分達の変身を剥奪すると共に記憶も改ざんすると言った筈だ。

 

 

「なら、オレ達が皆を見捨てたって記憶も消える」

 

 

罪悪感を感じる必要は無くなると彼は言った。

しかしそれで納得できる筈もなし、咲夜はすぐに反論の言葉を彼にぶつける。

 

 

「だからといってリタイアを選んでいい理由にはならないだろう!」

 

「まあ、それはそうだけど……オレはあくまでもリタイアを選んでも罪悪感に包まれた生活を送ることは無いって言っただけだ」

 

 

若干の沈黙。誰もが咲夜たちの言っている事、司達の言っている事、双方が分かってしまう為に何ともいえない。

しかしどんなに迷った所で必ず答えは出さなければならない。時間は無限じゃない、有限なのだから。

 

 

「でもよ、リタイアしない言っても、俺らが死ねば結局俺らの世界は滅びるんだろ?」

 

「結果論だろ、ソレ」

 

「ま、まあ……」

 

 

こんな風に誰かが何かを言えば誰かがそれを否定する。そしてまた誰かが何かを言うの繰り返しだった。

誰もが納得のいく答えを出せずにイライラとしてしまう中、このままじゃ埒が明かないと一同は暫定のアンケートを取る事に。

要するにリタイア派か、戦いを続ける派か。

 

 

「じゃあリタイア派の皆は手を上げてくれないか?」

 

「僕は……やっぱりコッチだね」

 

「わたしも――っ」

 

 

司の言葉に翼と葵が手を上げた。やはり今回の出来事は年長組みとしては耐えられなかったのだろう。

まして葵は薫の事もある。今回は運が良かっただけで次は殺されてしまうかもしれない。

 

 

「オレも……コッチだな。死にたくねぇんだ、悪く思うなよ」

 

 

つづいて真志が手を上げる。含みのある自虐的な笑みに美歩は苦しそうな表情で彼を見ていた。

そしてもう一人、そんな彼を見ている者が――

 

 

「僕も――ごめん」

 

 

拓真が続いて手を上げた。人型の敵に限界を感じた彼、どうやら戦意は削がれてしまったらしい。

自分は永遠に勝てないとまで思ってしまう。ネガティブな考えは捨て様と思ったが、やはりいつも付いて回るのは現実という実力差か。

 

 

「わりぃ咲夜さん。俺もやっぱ……こっちだわ」

 

「お前……ッ」

 

 

椿は申し訳ないという表情を浮かべつつも、しっかりと手を上げた。

睨みつける咲夜の視線をかわしつつ彼は少し小さく声を出す。咲夜達の気持ちは分かる、自分にだって親や友人を守りたいと思う気持ちはある。

 

 

「でも、守れない現実をより深く知っちまうかもしれないだろ?」

 

「………ぐッ」

 

 

反論しようと咲夜は力むが、彼女だって彼の言っている事がよく分かってしまった。

これから先、もっと強大な力を持った敵が現れた時に自分はまだ戦い続ける意思を持てるだろうか?

はっきり言ってしまえば自信は無かった。

 

 

「これで全員か?」

 

 

となると残りのメンバーがリタイアを拒否する者達なのかと言われれば微妙だ。

たとえば良太郎とハナは話し合いを複雑そうな表情で聞いている。二人は顔を見合わせると互いに頷いて沈黙を通した。

これは自分達が決めていい問題ではない、彼らが彼らの意思で決めなければならない事。

 

 

「あ、あれ?」

 

「?」

 

 

そこでハッと声をあげる良太郎。

話し合いの内容が内容の為に今までうつむいてたから分からなかったが――……

汗を浮かべる良太郎、これは皆気がついているのだろうか? 議論は更にシリアスな方向に向かうため言うに言い出せない空気が。

 

 

「どうしたの良太郎?」

 

「う、うん……実はねハナさん――」

 

 

良太郎は集まって話し合っているメンバーの中でいつの間にか二人が消えている事を指摘した。

要するに、二名だけこの場にいないのだ

 

 

「あ!」

 

 

ハナも気づいたのか小さく驚きの声をあげる。

確かにいつの間にか二人の姿が消えているじゃないか、どこに行ったのか? 二人は顔を見合わせて首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、里奈ちゃん」

 

「うん、ありがとう。でもいいのかな? 勝手に抜け出してきちゃって」

 

 

亘からソフトクリームを受け取る里奈、二人はいつの間にか会議を抜け出して街の方へと出向いていた。

何やら大きなイベントがあるのか、街は大いに盛り上がっているし出店も多い。考えてみれば前回の世界では皆がやっていたデートができなかったじゃないか。

そんな訳で二人は今その分を取り戻す事に。

 

――とは言え里奈としては罪悪感が募るものである。

皆がリタイアを選ぶかどうかで苦しんでいるのに自分達は遊んでいていいのだろうか?

そんな疑問はつゆ知らず、亘は里奈に出店で買ってきソフトクリームを渡すと早速自分の分に口をつける。

 

 

「平気だよ。あんな我の強い人達が今更話し合いなんかで物事を決めようだなんて無理無理」

 

 

今頃リアルファイトでもしてるんじゃないかな。

それともくじ引きで決めてるんじゃない? 亘は適当な予想を二、三と挙げて見せた。

成程、里奈もまともに進まない話し合いを想像して納得してしまった。

流石にくじ引きでは決めていないと思うが、確かにあのメンバーでまとも話し合いが進んだ例がない。

なんとも不安なものである。しかし今回は内容が内容だ、簡単に決まったらばそれはそれで問題なのだが。

 

 

「そう、だからボクらがいなくても平気だって」

 

「う、うーん……」

 

 

とはいえ、やはり勝手に抜け出してはまずいのでは? 里奈は複雑そうな表情をしながら亘を見る。

彼は涼しそうな表情でソフトクリームに口をつけている。どうやら本当に気にしている素振りは無さそうだ。

 

 

「うわ、このアイスうまッ! 里奈ちゃんも食べなよ」

 

「え! ほ、本当?」

 

 

甘いものに目が無い里奈、皆は悪いと思いつつも目の前のソフトクリームをおいしそうに頬張った。

 

 

「本当だ! おいしいー……ハッ!」

 

 

いかんいかん! 里奈は真面目な話をするつもりなのだ。亘だって、もちろん自分だって特別クラスの一員だ。

今回の問題はクラスだけじゃなく自分達の世界の命運を決める選択、今からでも遅くは無いから戻ろうと彼に――

 

 

「里奈ちゃん溶けちゃうよ!」

 

「わわわ!!」

 

 

とりあえずもったいないので急いでコーンごと口に放り込む里奈、もごもごと口を動かす彼女はうまく喋れない。

その隙に亘は彼女を連れて少し街を歩く事に。やはりお祭りでもやっているのか様々な出店が二人の視界に飛び込んできた。

 

 

「んぐっ! ぷは! わ、亘くん――」

 

「あ、良太郎さんからメールだ」

 

 

亘は良太郎からのメールを確認するとすぐに返事を打ち込んだ。

どうやら自分達は抜け出しているとの事を彼に伝えた様だ。亘はそうやってすぐに携帯をしまうと、再び里奈に微笑みかける。

 

 

「里奈ちゃん、何か食べたいものある?」

 

「え!? だ、だから学校に戻らな――」

 

「さっきのアイスが美味しかったんだから、他のもきっとおいしいぜ?」

 

「………え?」

 

 

周りを見る里奈、そういえば確かに美味しそうな屋台があちらこちらに並んでいる様な。

しかもそれに合わせていい匂いも、今日は朝から話し合いがあるって事で朝食をとっていない。だから里奈は今現在腹ペコである。

そんな状態でこんな場所につれてこられたのだ、里奈の心は大きく揺らぎ――

 

 

「ちょ、ちょっとだけなら――」

 

 

こうして里奈はまんまと亘の策略にはまっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

「り、里奈ちゃんって結構食うんだね――……うっぷ!」

 

「え!? そ、そうかな! あ、あははは」

 

 

カキ氷、りんご飴、クレープ、お好み焼き、焼きそば、とうもろこし、わたあめ。

カステラ、フランクフルト、焼き鳥、フライドポテト、たい焼き、ジャガバター、チョコバナナ、から揚げ――

吐きそうになっている亘の隣ではイカ焼きを持った里奈が真っ赤になって笑っていた。

ちょっと食べ物をつまむ程度だったのに気がつけばコンプリートを狙っている里奈の胃袋に亘も完敗である。

里奈は手に持ったイカ焼きを気まずそうに見つめると、それを一口で処理してうつむく亘の隣につく。

 

 

「「………」」

 

 

二人はしばらく人もまばらな休憩場で時間を過ごす。

里奈も里奈で帰ろうとはいえなかった。先ほどから強く感じる亘の違和感、きっと彼だって会議が気になるに決まっている。

にも関わらず自分を連れての今、それは彼が答えを出せない故の行動だろうと。

 

 

「亘君は……どうしたい?」

 

 

里奈がそっと呟く。そこで彼はゆっくりと顔を上げるのだが、やはりその表情は欠片とて笑ってなどいなかった。

はじめはただ純粋に退屈だから抜け出してきたと言っていた亘だが、何か感じる物があって抜け出したのだと里奈も理解した。

亘はしばらく押し黙ると、答えではなく疑問を彼女にぶつける。

 

 

「里奈ちゃんは……?」

 

「私は――はっきり言って、自分の意見を言う資格があるのかなって」

 

 

今まで自分は戦わずに学校にいただけ。

ある程度サポートできる様になった今でさえ大ショッカー戦では学校で震えていた始末。

そんな自分がずっと戦ってきた司達に対抗する意見を言えるのか? 答えはノーだ、里奈はそんな事申し訳なくてできないと思ってしまう。

ただ、それでも抱く思いはあって。

 

 

「亘くんにだけ言うね。私は正直、諦めたくはないよ」

 

 

里奈は親が大切だ。だから見捨てる様な選択はとりたくない、それが彼女の本音ではあった。

しかし司や夏美が抱いた恐怖を想像すると、どうしても自分の意見を言えなくなってしまう。

それを考えると結果的には亘についてきて正解だったのかもしれない。彼と一緒にいた方が悲しいほどに楽なのだ、それを聞いた亘は少し頷くと無表情のまま口を開く。

 

 

「あんなに悩んでる兄さん、初めてみたよ」

 

「司さん? そう……だね」

 

 

初めにディケイドとして覚醒してからは司は自分達のリーダーとして引っ張ってきてくれた。

なのに今の彼はとても弱弱しく、迷いの檻に捉われている。もちろんその理由は里奈にもよく分かる。

だからこそ余計に苦しかった、彼の苦しみが痛いほどに分かってしまうからだ。

 

 

「里奈ちゃんだけに言うよ。正直、ボクは兄さんが昔から羨ましかった」

 

「え?」

 

 

心の中に秘めていた劣等感、亘は司への想いを里奈に打ち明けた。

物心ついた時から一緒にいた訳だが、何だかんだと言って亘は司に何かで勝った事があっただろうか?

それを考えるとどうにも亘は兄よりも優れていると証明した事が無い様な気がするのだ。それは例えば成績の問題などではない、全体的な物として考えての話。

 

 

「なんだかんだで兄さんは勉強だってスポーツだってボクよりできてた気がするよ」

 

 

自分はと言うと面倒だと言う理由で手を抜いていただけ。

司は自分の成績を亘に自慢したことなど一度も無いが、亘としてはどうしても比べてしまうものである。

思えばそんな事を考え出した時から亘は無意識か意図してか、とにかく兄に勝ちたいと思うようになってきたのかもしれない。

 

 

「へえ、亘君ってそんな事考えてたんだ。ちょっと意外かも」

 

 

ぱっと見れば亘の方がしっかりしていると印象を誰もが受けるだろう。

しかし突き詰めてみればそれは違うと彼は笑う。

 

 

「結構、昔から兄さんには対抗意識燃やしてたよ」

 

 

いつからか兄には常に負けていると心のどこかで思うようになってしまった亘。

それは誰にでもあるささいな劣等感だったのかもしれないが彼にとっては引っかかるもの。

 

 

「兄さんはヒーロー物が好きだったからね。だからかな? 喧嘩やら勝負事で負けるとさ、まるで自分が悪みたいに思っちゃうんだよ」

 

 

みじめな劣等感、それは亘にはそれなりに頭にくるものだった。

まして夏美だって司に好意を抱いている状況だ。羨ましいとは思わないが、やはりどこかで釈然としない物もあっただろう。

 

 

「ハハハ、だからボクは兄さんより真面目になってやろうって思ったのかもな」

 

 

という訳でいろいろと亘は形から入る事に。

まずはてっとり早い物を――

 

 

「とりあえず一人称は"ボク"に変更だよ」

 

「へえ! 亘君って昔からボクじゃないんだ」

 

「うん。昔は兄さんと同じで"俺"だったよ」

 

 

でも我夢みてたらそっちの方が上品っぽくてね。そう言って笑う亘、今でもふとした時に戻りそうになると言う。

それに兄の弱点を見つけてはそれを超えようと努力したものだ。おかげで今は早起きに関しては負けないレベルになってくれたが、まだまだ募る思いはある。

 

 

「いろいろやったけど、ディケイドに兄さんが変身した時――やっぱり勝てないって思ったよ」

 

 

なんだかんだと兄は常に自分の前を行く、それを痛感させられた時でもあった。

それに自分だって成長できたと思う。キバの試練は兄への固定概念に縛られていた自分へ大きな影響を与えてくれた。

差別の問題に当たった時どうやら自分は無意識に兄への想いを克服できたと。なぜなら人が人を思う事こそが差別をなくす第一の手段。

下らない劣等感や嫉妬は捨て去らなければ共存は不可能だと感じたからだ。

 

 

「まあ兄さんは凄いと思うぜ。なんだかんだでさ、うまくやってる」

 

「うん。アキラちゃんを助けようって言ってた司さん、かっこよかったよ」

 

 

頷く亘。やはり兄はディケイドに変身するべくして変身したのかもしれない、そんな考えを抱くようになってきた。

そして今に至る訳だ、亘としては何故かそれが複雑に思えてしまう。

 

 

「あんな深刻に迷う兄さんは始めてだよ」

 

 

兄よりも上に立ちたいと思っていた。兄の困る姿を見てみたいと思った時だってあった。

しかしいざ本当に目にしてみればどうしようもなく釈然とした気持ちに。もしかしたら自分は兄に憧れていたのか?

兄が羨ましかったのだろうか? 亘の中に様々な思いが駆け巡る。

 

 

「兄さんや姉さんが弱る姿を見たくなかったのか、それは分からないけど」

 

「亘君……」

 

 

別に辛い訳ではない。

しかし楽な訳では決して無い。亘はそれを告げるとやっと笑顔を里奈に見せる。

 

 

「まあ、なるようになるって」

 

「あはは、そう……だといいね」

 

 

他の場所も見てみようか? 二人は頷くと休憩所を離れる事に決める。

里奈の車椅子に手をかける亘、そして少し進んだ時だ。背後から呼び止められて動きを止めたのは。

二人が視線を移すと、そこにはシャープな顔立ちの美しい女性が立っていた。何だろう? 呼び止められる理由は無いが?

 

 

「コレ、落としましたよ」

 

「あ! ごめんなさい!」

 

 

どうやら里奈は休憩所にハンカチを忘れていたらしく、この女性がわざわざもって来てくれたとの事だった。

二人はお礼を言うと、ついでにとこの世界の事を軽く問い掛けた。何やらお祭りのような雰囲気だが――?

 

 

「ああ、これね。これは――」

 

 

この世界で有名なテレビ局の中に『朝目テレビ』と名前のついたものがある。

そのテレビ局が"開局50周年"らしいのだ。テレビ局はココから近く、今日から数日は記念祭が行われているらしい。

二人が回った出店も全てはテレビ局が用意したものなのだ。さらに普段は入れない場所の見学や社員食堂を一般の人が使えたりと、様々なサービスが行われている様だった。

 

 

「へぇ、そうだったんですか」

 

「この街は始めてですか?」

 

「はい、まあ……」

 

 

流石に別世界から来ました等とは言えないな。

里奈と亘は顔を見合わせて苦笑い、対して女性は二人にその朝目テレビを指し示してくれた。

成程、何かやたらと大きな建物があると思ったらアレがそうなのか。巨大なテレビ局に二人は納得の表情を浮かべる。

 

 

「実は私、もうすぐあそこの番組に出演するんですよ」

 

「えっ! マジっすか!!」

 

「うん。マジマジ」

 

 

そう言って女性は名刺を取り出すと二人に差し出した。

確認する亘達、どうやら女性の名前は日向(ひなた)惠理(えり)と言うらしい。さらに横に書いてある文字を見て二人は思わず声をあげてしまった。

 

 

「えっ! 三ツ星シェフなんですか!!」

 

「まあ、一応ね」

 

「す、すごいなぁ!」

 

 

輝く視線を受けて照れた様に笑う惠理、言われてみれば彼女からは上品な空気が見える。

何でも生放送のニュースにこの後出演するらしいのだが、緊張してしまい気を紛らわせる為にココにきたとの事だった。

 

 

「生放送ではどんな事をするんすか?」

 

「うん、今日はお料理に合うお酒を紹介するコーナーなの」

 

 

彼女はそういうとカバンからワインのパンフレットを取り出して二人に見せる。

って言っても二人にはまだ早いか、そう言って笑う惠理だが亘達は食い入る様にパンフレットを見つめていた。

舐めたくらいはあれど、確かにまだワインを飲んだ事は無い。思い出すのは葵がパカパカ飲んでいたくらいか?

 

 

「でも色々な種類があるんですね」

 

「うん、結構奥が深い世界なのよ」

 

「ソムリエって職業があるくらいですもんね」

 

 

その時、惠理の表情が少し悲しげな物に変わる。

ヤバイ! 何かしてしまったか、焦る亘だが惠理はすぐに笑顔に戻ると気にしないでと理由を話す。

それは惠理にはソムリエだった友人がいたのだが、ある日を境に姿を消してしまったと言うのだ。警察にも相談したが、結局彼は見つからず――……

 

 

「そうだったんですか……すいません、ボク――」

 

「ううん。いいのよ、ごめんね暗い話で」

 

 

無事だといいんだけど。

そう言って再び悲しげな表情を浮かべる惠理、仲のいい有人が突然いなくなるのは非常に辛い事だ。

惠理の友人はどこに行ったのだろうか? 彼女の気持ちを思うと二人は何と言っていいか分からなくなってしまう。

惠理も表面上は大丈夫だと笑って見せるが、やはり心の中では不安で仕方ないはずだ。

 

 

「実は、ココにきたのも彼を探す為だったり……」

 

 

惠理はもう一度そう言って悲しげに笑ってみせる。

しかしどうやら時間が迫ってきた様だ、彼女はテレビ局に戻ると二人に告げた。

 

 

「もしよかったらテレビ局に行ってみたら?」

 

「そう……だね、そうしようか里奈ちゃん」

 

「うん、テレビ局なんて始めてだよ」

 

 

じゃあと惠理は自分の放送が行われているスタジオを告げる。よかったら見学に来て、そう言って彼女は先にテレビ局へ。

テレビ局ともあればそれなりのバリアフリー環境も整っている筈、里奈と亘も惠理の放送を見学する事に。

 

 

「じゃあ押すよ里奈ちゃん」

 

「うん、ありがと」

 

 

二人は行き先を朝目テレビへと決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、流石は有名テレビ局って感じだね」

 

「うん、とっても大きいね……!」

 

 

あれから色々な出店を通り抜けて二人は朝目テレビの中へ。

まずは様々な来客者を迎えるエントランスホールなのだろうが流石の大きさと言うべきものだった。

今日は記念期間と言う事もあってか、一般人を交えた人たちがホールを行き来している。きっと中には有名な人もいるのだろうか?

亘達はそんな事を思いながら人気の無い場所を探す。

 

 

「とりあえず惠理さんの番組が始まるまでは色々見て回ろうか」

 

「うん、いろいろなスタジオがあるのかな?」

 

 

しばらく二人はパンフレットを確認しながら見学可能なスタジオや、全体的な内部情報を把握する。

中々に広い場所だ、迷わないように気をつけ――

 

 

「「!」」

 

 

バタバタバタと騒がしい音が響く。二人は無意識に音がした方向に視線を移していた。

子供がはしゃぐにしては大きい音、そしてそれらは重なるようにして聞こえたのだ。亘はその音の正体を見て首を傾げる。

何故ならば、それはあまりにもテレビ局には不釣合いで――

 

 

(なんだあいつ等……?)

 

 

和気藹々とした一階ホールに現れたのは銃を手に持った武装集団、さらに三階の窓を破って現れる者達も。

彼らはロープを使い吹き抜けになっている二階部分に到達するとそこから同じようにして銃を構える。

同じくして一階にやってきた集団も一勢に銃を構えて停止した。

 

 

「?」

 

 

一瞬沈黙するホール。しかしすぐに静寂は悲鳴にてかき消される事に。

 

 

「「うわあああああああああああああああああああっっ!!」」

 

 

どこからともなく落下してくるスタッフ達。

テレビ局で働いている人達だろうが、彼らは二階から落下すると大きな音を立てて地面をのた打ち回りその内に動かなくなる。

同時に二階に姿を見せたのは巨大な旗を抱えた兵士、それに中心にはリーダーであろう顔に傷を負った男だ。

彼はサングラスをゆっくりと外して、下に群がる人達を見下していた。そして旗の一つには赤い髑髏が描かれている物、もう一つには黄金の大鷲が刻まれている。

 

 

「「!!」」

 

 

その旗を見て表情を変える亘と里奈、あれは間違いなく――

 

 

「ねえねえ、何の撮影かな?」

 

「すげぇ気合入ってるなぁ」

 

 

カップルの言葉と共に再び元の活気を取り戻す人々、どうやらコレがゲリラ撮影の一環だと思ったらしい。

物珍しそうに銃を見る者、落ちてきた人がスタントマンだと認識して話しかけている者。

 

 

「―――ぅ」

 

 

亘は声を出すが、それは掠れてしまって音にすらならない。そうしている内に二人の警備員が兵士の一人に話しかける。

どうやら彼らも自体を認識はしていなかったらしい、どこの撮影だの許可は取っているのかだのと質問を投げかけるが――

 

 

「……プレイボール」

 

 

問い掛けの答えではないが、そうリーダーが呟く。

すると銃を構えた兵士達が一勢にその武器を警備員に向かって連射したではないか!

 

 

「ッッ!!?? ッ! ッツ!? ッッ!! ッッ……ッ?」

 

 

連射の衝撃で警備員の身体が踊るように跳ねる。そのまま鮮血を撒き散らして二人の警備員は地面に倒れた。

二人の死体をあっという間につくりあげた状況だが、幸か不幸かそれはこの場にいた誰しもにリアルを教えてくれた。

全ての人が理解する、これは撮影などではない――

 

 

現実なのだと!!

 

 

「キャァアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

先ほどまで撮影がどうのこうのとはしゃいでいた女性が悲鳴を上げる。

パニックは細菌の様に伝染していき全ての人が我が身を守ろうと逃げ出す準備を行った。

だがそれを止める様に響く銃声、見ればリーダーの男がハンドガンで威嚇射撃を。どうやら"騒ぐな"、そのシンプルな内容を伝えたかったようだ。

現に銃声に人々は恐れをなしてその場にうずくまってしまったではないか。亘と里奈も声をあげる事は叶わず、周りの人たちと同じように停止した。

男はそれを確認すると、アクションを大きくしながら声をあげる。

 

 

「この建物は、我々シェードが占拠したァ!」

 

 

シェード、やはり間違いない。大ショッカーのリストにあった名前と一致している。

ワーム陣営、やはり運命は自分達を引き合わせるのか。亘は歯を食いしばって相手の出方を伺う事に。

ここで下手に動いてしまうとより犠牲者を増やしかねない。

 

 

「おとなしく指示に従えば危害は加えない。だがしかし、逆らえば――」

 

 

そういってリーダーであるナンバー3は銃弾を死体となった警備員に命中させる。

衝撃でビクンと跳ね上がる死体、同時に響く悲鳴。ナンバー3は笑いながら唯一の言葉を一同に投げかける。

 

 

「"死"だ。ハハハハ!!」

 

 

そう言ってナンバー3達は亘達の前から姿を消した。

どうやらどこか向かう所がある様だ。リーダーがいなくなったのは好都合、しかし問題はこれからどう動くか。

 

 

「里奈ちゃん、シールドいける?」

 

「うん、大丈夫」

 

 

魔皇力が詰め込まれたブローチがあるため里奈は強力なシールドを展開することができる。

しかしキバットがいない、彼を呼ぶために声をあげれば確実に戦闘は開始されるだろう。

銃はシールドがあれば何とかなるかもしれないが、問題は彼らが人間態を放棄する時である。

 

 

(どんなワームにせよクロックアップはまずい)

 

 

しかもまだナンバー3が近くにいる筈だ。彼は自分達が抵抗しなければ危害は加えないと言っていた筈。

ならばもう少し様子を見るのも有りか、亘は里奈に視線を送ると周りの観察を続行する事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、テレビ局内の一スタジオ。そこでは先ほど別れた惠理が本番を迎えていた。

番組はニュース、その特集に惠理が選ばれたと言う事だ。三ツ星シェフの惠理を特集した後に彼女が料理に合うワインを紹介するコーナーがやってくる。

 

 

「それでは、今回日向さんがセレクトしたワインを見せて頂いてよろしいでしょうか?」

 

「はい、これは友人のソムリエが最も愛したワインなんです」

 

 

名は『Scene Music And Peace』、文字が示す通り飲めば心の中に音楽が奏でられて誰もが平和を望む様になると言う大層なワインである。

だが故に彼女の友人であるソムリエが好む理由も理解できる物だ。そのワインに込められた想いこそ友人のソムリエが気に入っていた物なのだろう。

 

 

「平和が示すとおり、このワインはどんなお料理にも合うんですよ」

 

「成程、ワインと料理が喧嘩しないのですね」

 

 

頷く惠理、そうやって収録は和やかな雰囲気で進んでいったのだが――

 

 

「!?」

 

 

鳴り響く銃声、突如惠理の背後にあったガラスが割れる。

思わず身を屈める惠理とスタジオに侵入していく武装集団。先ほどと同じく、スタジオ内にいた誰もがパニックとなり事実を認めようとはしない。

ドッキリ、悪戯、ゲリラ撮影。そんな事がある訳ないと思いつつも反射的に言葉は出てしまう。

 

 

「なっ、何なんだ君達は!」

 

「生放送なのよ!?」

 

 

既にこの映像も配信中である。はっきり言ってこの時点で放送事故だ、すぐにカメラマンは映像を切り状況を把握しようと試みる。

だがそこでナンバー3は威嚇射撃を、めまぐるしく変わる状況に誰もが把握しきれずにただ叫ぶのみ。

 

 

「きゃぁあああああああああ!!」

 

 

これはフィクションではない、リアルだ。ガラスが割れた原因が実弾による銃だと知り大パニックに陥るスタジオ。

シェードの兵士達はすぐに司会者やゲスト、スタッフ達にに銃を向けて動きを封じていく。

 

 

「おい!」

 

 

テレビカメラを構えるカメラマンに、ナンバー3・フィロキセラが銃を突きつける。

引きつるカメラマンに対して笑みを浮かべているフィロキセラ、相変わらず恐怖に引きつる人の顔は滑稽な物だ。

力が無いからこそ人はおびえなければならない。退屈で惨めな生き物だ。

 

 

「放送を続けろォ、犯行声明を読み上げる!」

 

「は……はい」

 

 

こうなってはもうカメラマンは従うしかない。もしも否定的な行動を取れば、その時点で死だ。

フィロキセラはそこでフリーになっている仲間の名を呼んだ。どうやら彼に犯行声明を読ませるらしい。

 

 

「ナンバーファァアイブッッ!!」

 

「………」

 

 

兵士達の中から一人の青年が現れる。

彼もまたシェードの一人、ナンバー5と呼ばれる存在。彼はゆっくりとサングラスを外すと、恐怖に怯え震える一同を見た。

 

 

「……え?」

 

 

惠理はそこで自分の目を疑う。何故ならば、現れたナンバー5を自分は知っているからだ。

その顔を見間違える訳も無い、だからこそ彼女は確信を持った。しかし同時に彼がこんな所にいる訳が無いとも思ってしまうのだが。

 

 

「嘘――っ」

 

 

行方不明になった彼女の友人。

彼が今、ナンバー5として目の前に立っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

どれだけ時間が経ったろう? 亘は未だに突破のチャンスをうかがっていた。

里奈が展開できるシールドの範囲と人質の位置が若干釣り合っていない。無理やりに自分が動けば一人は犠牲者が出てしまうといった所だ。

誰も犠牲にしたくはない。それが亘の考えだ、故に彼は今も動けずに燻っていた。そうしている内に時間は経ちホールにあるテレビモニタに映像が映し出される。

モニタの中にいたのは上品で美しい顔立ちの青年。そう、ナンバー5である。

 

 

『日本政府に告ぐ――』

 

 

この映像は生放送となり街中に配信される。電気屋のテレビ、街の中にある電子モニタ、病院やショッピングモール内のテレビ。

ありとあらゆる場所に亘が見ている映像が同時に映っているのだ。

 

 

『貴様らが不当に逮捕したシェード創始者・徳川清山と、ココにいる人質200人を交換する』

 

「!」

 

 

一勢にざわつく場、200人という数を見るに運悪く拘束されてしまった人がそれだけいると言う事だ。

この場意外にも人質がいると言うのはまずい、何とかして助けなければ――

 

 

(それに創始者?)

 

 

亘はシェードの内部事情をまるで知らないが、どうやら組織にとって一番偉い人物が拘束されていると言う事か。

そして敵の狙いはその人物の解放、ワームであれば自力で脱出できそうな気もするがそうもいかない事情があるのだろう。

しかし問題は先ほどナンバー5が言った言葉だ、亘は汗を浮かべて言葉の続きを待つ。

 

 

『貴様らに与えられる時間は2時間。それ以降は1分につき一人ずつ処刑し、それを生中継する』

 

 

ふざけやがって、何が大人しくしていれば危害は加えないだ。

絶望に打ちひしがれ、泣きはじめる人質達の中で思わず亘は冷や汗交じりの笑みを浮かべてしまう。

だがこうなると話は変わってくる。亘と里奈は頷き合うと、アクションを起こす事を決めた。

 

 

「ぐああああああッッ!!」

 

「ぐぉッッ!!」

 

「「!」」

 

 

まさにその時だ、一つの影がホールに飛び込んできたのは!

影は猛スピードで空中を飛び回り次々に兵士達へ体当たりを仕掛けていく。そして介入してきた影は一つだけでは無かった。

 

 

「ウラぁッッ!!」

 

 

銃を構えた兵士を次々になぎ倒していくのはスーツを着崩した青年だ。

ワイルドに、そして荒々しく彼は銃を構えた兵士に生身で立ち向かっていく。

もちろん兵士達も発砲しようと構えるがそれよりも先に、それよりも早く青年は兵士達を蹴り飛ばしていく。

 

 

「よっと! えい!」

 

 

さらに少し離れた所ではクラシックな黒いゴスロリに身を包んだボーイッシュな少女が兵士と戦闘を繰り広げている。

少女は華麗な身のこなしで兵士の銃を弾くと足払いや急所を狙った掌底で立ち回っていた。

 

 

「ムゥウウウンッッ!!」

 

 

そして二階では燕尾服にカッチリと身を包んだ大男が暴れていた。

驚くべきは彼は兵士達の銃弾を身に浴びているのにも関わらず怯む様子を見せず次々に兵士を投げ飛ばしているのだ。

人間業ではない、というよりも人間じゃない?

 

 

『わったるさーん! 里奈さーん!!』

 

「「!」」

 

 

そして小さな影は亘の下へ一直線に。見ればそこにはイカ焼きを咥えたキバットが。

どうやら彼も出店を回っていたのだが、騒ぎを聞きつけて自ら亘を探し出したと言う事だった。

 

 

「ナイスだキバット! 最高のタイミングだぜ!!」

 

『でしょ? おまけに今回は味方つきっすよ!』

 

 

スーツの青年、ゴスロリの少女、燕尾服の男はそれぞれ亘に手を振って見せる。

しかし――

 

 

((だ、誰……!?))

 

 

亘と里奈にはあの三人が誰なのか全く分からない。

少なくともはじめましての方々だとは思うが? 亘がキバットに問い掛けると、彼は少ししたり顔で三人の正体を明かしてみせる。

要するに里奈が覚醒したおかげで亘の魔皇力が上がり、それが彼らに人間態の姿を与えたのだと。

 

 

「って事は――」

 

 

意味を理解して驚きの表情を浮かべる亘。

そうなるとちょっとした疑問が浮かぶと言うものだ、今はそんな事を気にしている場合では無いのかも知れないが気になる物は気になる。

亘が瞬時キバットに問い掛けると彼はしみじみとした様に頷いた。

 

 

「世界は広いっすねぇ。そうっす、男の娘ってヤツらしいっす」

 

「マジか……!」

 

 

その言葉に反応してクルリと回ってみるゴスロリの少女。

ボーイッシュだとは思ったが、どうやら本当に女装していただけだったらしい。

だが遠目とてもじゃないが男には見えないものだ。確かに世の中は広い。

 

 

「「「「「―――」」」」」

 

「ッ!!」

 

 

兵士達の様子が変わる。それは本格的な開戦の合図、彼らは銃を捨てるとその姿をサナギ態に変身させる。

グロテスクな化け物の姿によりいっそうの悲鳴を上げる人々、中には気絶してしまう人も。

 

 

「落ち着いてください! 私の後ろに隠れて!!」

 

 

手を広げ金色の結界を発動させる里奈。するとキバットは少し真面目なトーンで亘に問い掛けた。

彼も学校にいる者の一人として、今一度亘に自分の思いを打ち明ける。言ってしまえば彼も、いや彼らも特別クラスの一人なのだから。

 

 

『直接戦わないオイラ達には、亘さんや司さんの苦しみは分からないっす』

 

 

だから、だからこそ――

 

 

『オイラは、亘さんの答えに従うだけっすよ』

 

「………」

 

 

それは彼に投げっぱなしの無責任? いや違う、彼を信頼するが故の行動だ。

キバット達にとって亘は大切な友人であり同時に仕えるべき存在なのだから。そしてキバットの考えに同意を示す青年達。

彼らもまた亘に自らの意思、答えをぶつけていく。

 

 

(マスター)! お前の答えは、お前だけが決める物だ! 俺はその答えにどこまでもついて行くぜ!!」

 

(キング)さん! ボクの命は貴方の物ですよ!!」

 

「亘。お前、オレの友達。そして、オレのご主人」

 

 

青年、少年、男の言葉を受けて亘は沈黙する。

周りに見るは絶望に涙を流す人々、そしてその人たちを守ろうとする里奈やキバット達だ。

皆それぞれ守りたい想いがある。死にたくないと願う心がある。目の前にはその気持ちを踏みにじろうとするショッカーが。

 

 

「……分かったよ、キバット」

 

 

そう言って亘は立ち上がり前に出る。

次に見るのはスーツの青年だ、亘は彼の名を呼んでアイコンタクトを取る。

 

 

「ガルル!」

 

 

そして次はゴスロリの少年を。

 

 

「バッシャー!」

 

 

次に燕尾の大男を。

 

 

「ドッガ!」

 

 

そして最後に彼女へ。

 

 

「………里奈ちゃん」

 

「うん」

 

 

亘は彼女にまだ言っていない事がある。それは自分が戦いを続けたいのか、それともリタイアを選びたいのかと言う事だ。

あの時はうやむやにしたが今なら自分の答えがハッキリと分かる。

だから、聖亘は自身の想いを口にする。

 

 

「ボクの答えは、"兄さんの逆"だ!」

 

 

つまり――

亘は手を前にかざす。その意味を理解して噛み付くキバット、魔皇力が流れ込み亘の顔にビキビキと刻印が刻まれていった。

腰に出現するベルトを感じ、彼は走ってくるサナギ達を睨みつける。

 

 

「ボクは戦う! お前らみたいなヤツがいる限り!!」

 

 

亘はそう言ってキバットをベルトへ!

 

 

「変身ッッ!!」

 

 

音が溢れ形成される鎧。

それが弾けた時、立っていたのは仮面ライダーキバ!

 

 

「うおぉおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

彼は後ろにいる人たちを守る為、両手を広げ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の大広間、そこにある巨大なテーブルを中心に置かれた椅子達。

そこに座って特に何をする訳でもなく時間を過ごす者、各々の暇をつぶす者といる中で一人の男がふいに口を開く。

とはいえ、誰も彼の方向を見る事は無かったが。

 

 

「司達は一体どんな選択をとるんだろうね」

 

「「「………」」」

 

 

当たり前の様に無視される言葉。

ココはお宝~(以下略)の拠点であるマリンの屋敷だ、広間には珍しく全員が揃っているのだが団結があるかどうかと言われれば微妙である。

周りを見ればカチャカチャと音を立てて巨大なチャーハンを攻略している朱雀、目を閉じて紅茶を飲んでいるマリン、そんな彼女の隣に仕えるタイガ。

海東には目もくれずアイドル雑誌を呼んでいるディス、携帯音楽プレイヤーでギリギリ書けない音声を聞いている巳麗。一同は例外なく海東が言った言葉をスルーす――

 

 

「し、心配なの?」

 

 

いや、反応を示す者が一人。少し汗を浮かべながらリラが海東に問い掛ける。

流石は良心とまで言われただけはあるか。だが海東は彼の言葉に反応して鼻を鳴らした。心配なのかとは、つまり司たちの事を指しているはず。

だが海東は勘違いしないでくれと笑ってみせた。

 

 

「この程度で挫折するくらいならば僕のライバルとして見る価値も無い」

 

「そ……うだね」

 

 

そう言ってニヒルに笑う海東と引きつった笑みを浮かべるリラ。

困った表情の彼に気がついたのか、タイガが助け舟を出す事に。マリンの隣で彼は静かに、かつ少し口を少しだけ吊り上げて。

 

 

「海東、その質問はもう25回目ですよ」

 

「う゛ッ……!」

 

 

そうなのだ、先ほど海東は何をする訳でもなく椅子に座り時折この質問を投げ掛けてはリラと同じやりとりを繰り返すのみ。

本人は無意識なのか、指摘されて始めて気がついたようだ。

 

 

「心配でしたら様子を見に行けばよろしいのに。面倒な人ですわね」

 

 

マリンは相変わらず紅茶を飲みながら海東に視線を向ける。

それを受け流す海東、彼は興味が無いともう一度呟いて部屋を出て行った。

しかしとリラは言う、確かに彼らがどんな答えを出すのかは気になる所だ。端的にしか知らないが、大ショッカーに恐怖を植えつけられたとか何とか。

確かにあの世界の凄惨な状況を見れば理解できると言うもの、リラもまだ死体の悲惨さが忘れられない。

 

 

「数学ではありませんもの。答えなんてありませんわ」

 

 

それは逆を言えばいくら考えていても無駄と言う事にもとれる。

事実マリンはもう答えを探すのが面倒になったと言う。

 

 

「ですのに、彼らは答えを出さなければならない。矛盾してますわね」

 

 

マリンの言葉に反応するのはタイガ、彼は司たちが戦いを続けるかどうかは理由という物に関係しているといった。

理由? リラが問うと彼は微笑んだまま頷く。

 

 

「なんの為に戦うのか、それだけですよ」

 

 

司たちは一体何を思って変身するのか、それだけだと。

 

 

「私はお嬢様をお守りする為に戦っています」

 

 

それは立派な理由の一つだ。

 

 

(わたくし)は、楽をする為に」

 

 

マリンは目を閉じて紅茶の香りを楽しむ。

 

 

「オレはうまい物食べる為だな! ぶはははは!」

 

 

チャーハンの欠片を飛ばしながら笑う朱雀。

思い切りリラの顔にご飯粒が当たって――……

 

 

「きったねぇな! 僕は……そうだな、世界中のアイドルに会うためだな!!」

 

 

目を輝かせてディスは言う。

隣では頬を蒸気させて恍惚の表情を浮かべている巳麗が見えた。コイツの理由は知りたくも無い!!

 

 

「ぼくは……どうなんだろう?」

 

 

リラは考えるが特にコレといった理由が見つからなかった。

それを告げるとタイガはそれが理由だと笑って見せる。

 

 

「戦う理由を見つけるために戦う。十分じゃないですか」

 

「そっか……じゃあさ、戦う理由がなくなったらどうするの?」

 

 

例えばタイガならば、マリンを守る必要が無くなったらと。

それを聞くとタイガは首を振る。なかなか世の中と言うのは面白くできている物、理由がなくなれば新しい理由が飛んでくるものだと言った。

そうじゃなかったとしても、リラの様に理由が無い事が理由になってくる。

 

 

「そんな物なのかなぁ?」

 

「そんな物なんですよ、フフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダアアアアアアアアッッ!!」

 

 

空を切り裂かんとばかりの勢いで放たれる上段蹴り、キバが放つそれはワームの顔面に直撃して大きく怯ませる!

ドッガが二階にいるワームを一階フロアに落としてくれたおかげで、全てのワームが一階にいる状況に。

キバは人質を里奈とアームズモンスターに任せて無数のサナギ態と交戦を行っていた。

 

 

「フッ! ハアアアッッ!!」

 

 

舞うように蹴りつけていくキバ。

ワームの数は全部で10体、そのいずれも変態する前に決着をつけたい所である。

幸いワーム達の動きは単調、人間相手ならば脅威かもしれないがキバの力の前ではサナギ態は脅威とはならないレベルだった。

 

 

『ウェイクアーップ!』

 

 

しかしそれはサナギ態ならばの話、とにかく早期決着をつけなければ厄介だ。

キバはウェイクアップを発動、フィールドとワームを夜に引きずり込んで別空間への移動を行う。

ここならばいくら暴れても制限はない、キバは早速新たなる力のフエッスルをキバットに認識させた。

 

 

『助けて! エルドラーン!!』

 

 

竜の咆哮と共に空から飛翔してきたのはドラン族であるエルドランだ。

彼はその口から無数に火球を発射して次々にワームへと命中させていく。爆発が起こり、ワームもまた緑色の爆発を起こして連鎖する。

あっという間にエルドランはワーム達を全滅させると空に帰って行った。

 

 

『おお! 流石っすね!』

 

「うん。発動するのに周りを気にしないといけないのが難点だけどね」

 

 

変身を解除する亘、同時にフィールドも元の世界に回帰する。

とりあえずこの場は何とかなったが、厄介なのはこれからだ。取り合えず亘達はフロアにいる人質を外に逃がすが当然この場に200人もいる訳が無い。

フロアに集められたのはせいぜい100人、つまり半分程度だろう。テレビ局はまだ広い、中には残り100人質がいるはず。

一箇所に集めてくれればよかったのだが、敵もこういった事態を考えての行動か。

 

 

『どうします亘さん?』

 

「残りの人質がどこにいるのかが気になるよな。当然向こうもボク等の動きに気づくだろうし」

 

 

考える亘、そんな彼の元にガルル達が。

 

 

「驚いたよ。人間の姿になれたんだね」

 

「ああ、魔皇力は万能だからな」

 

 

服装はそれぞれ正装だと思う物を選んだらしい。

 

 

(正装……?)

 

 

汗を浮かべてバッシャーを見る亘。

本人曰く可愛いから気に入ったと言うが……まあ、満足そうだから別にいいか。

 

 

「決めたんだな、亘」

 

 

対して真面目な表情に変わるガルル達、どうやら亘の答えを受け入れたらしい。

一瞬跪くアームズモンスター達、それは紛れも無い亘への忠誠の証。亘は頷くと他の人質を探しに行くと告げた。

 

 

「戦い続けると言う事ですね」

 

 

バッシャーの言葉に頷く亘。

 

 

「イラつくんだよアイツ等、人間を下にしか見てない」

 

 

必ず後悔させてやる。亘はそういうとアームズモンスターに里奈を護衛させてココから離れる様に告げる。

しばらく沈黙する里奈、彼女は歯を食いしばると大きく首を振った。

 

 

「ごめん亘くん。お願いがあるの!」

 

「え?」

 

 

里奈の言い分は彼と一緒にいたいと言う事だった。

それは彼の戦いを見ると言う事、いつも学校にいた自分では絶対に分からない世界を里奈は知りたかったのだ。

足手まといになるだろう、人質の救出の邪魔になるかもしれない。しかしその時は自分を置いてでもいいからと彼女は言った。

彼女の目をジッと見ながら沈黙する亘、あまりにも危険すぎる話だが――

 

 

「悪いけど、クロックアップを発動されたらキミを守れる自信が無い」

 

 

それでもいいの? 亘の言葉に強く頷く里奈、すると彼はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「じゃあ、行こうか!」

 

「……!! あ、ありがとう!」

 

 

亘は里奈の背後に回り車椅子を押し始める。

取り合えず上に上がってナンバー3の動きを見たいところだ。

しかし気になるのはやはり惠理だ、亘は現状を良太郎と我夢に伝えるためメールを送り惠理のスタジオを目指す事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、大変だ!!」

 

 

一方の学校。司達もまた学校にてテレビ局の状況を把握していた。

たまたまテレビをつけっぱなしにしておいた為にナンバー5の映像を捉える事ができた。

学校が転送された場所からテレビ局まではそれほど離れてはない。バイクを使えばすぐにでも到着できるだろう。だがリタイア組みにはそれがどう見えたのか?

 

 

「相手はショッカーなんだろ? だったら、もう今すぐ決めてしまわないと」

 

「「「………」」」

 

 

ここで答えを出し、すぐに記憶を消して転送してもらえば後腐れなく終わらせる事ができる。

迷いながら助けに行って、それでもし誰かが犠牲になってしまえばリタイアの意味すら無くなる。

今ココで終わらせる事が一番なのではないか? 翼はそう言って一同に説いた。

 

 

「もう一度言うよ。僕はリタイアを奨める」

 

「………ッッ」

 

 

沈黙が続く。誰もが答えの無い答えを探そうともがいて時間を無意味に浪費させるしかなかった。

だが沈黙が続いたのはそれから一分とて無かっただろう。なぜなら、声をあげて食堂に入ってくる人物が一人。

 

 

「助けにいきましょう!!」

 

「なっ!?」

 

 

その人物は、なんと光夏美である。

彼女は少し苦しげな表情を見せつつも、しっかりと一同を見回して言ったのだ。誰しもが彼女の言葉に混乱する。

彼女はあれだけの想いをしながらも強く言い放ったからだ。

 

 

「な、夏美ちゃん……!」

 

「ごめんなさい、ちょっと寝てました。でももう大丈夫です!」

 

 

他の生徒が信じられないと言う表情で夏美を見つめる。

その中を彼女は歩いていき、翼の前にて停止した。彼女の瞳に宿る光は確かな物、その輝きに思わず翼は目を反らしてしまった。

 

 

「先生、私……戦いたいです」

 

「な、なに言ってんだよお前ッッ!!」

 

 

司が信じられないと言う表情を浮かべて叫んだ。

彼女はあれだけの恐怖と痛みを味わっておきながら、尚戦い続けると言うのか?

司の心に焦りを含んだ怒りが芽生える。どうして彼女はそこまでして戦うんだ、どうしてそんなに平気な顔ができるんだ――?

 

 

「お前……勝てなかったじゃないか! 敵わなかったろ!!」

 

「………」

 

 

司の言葉に夏美は数回頷くが、すぐにニヤリと笑って首を振る。

 

 

「あれはきっと相手が悪かっただけですよ」

 

「なっ!」

 

「だって、勝った人だっているんですよね」

 

 

そう言って夏美はチラリと一同を見回す。そこでフッと笑う双護、そうだ彼は大ショッカーにしっかりと勝利しているじゃないかと夏美は告げる。

しかしそんな事を言われても司には何の気休めにもならない。思い浮かぶのは今度こそ彼女が死んでしまう最悪の未来だけだ。

 

 

「お前はもう戦わなくて良い! じゃないと俺は――」

 

 

しかしそこで夏美は司の肩に手を置いてゆっくりと首を振る。

彼が自分の為に力を失ってまで助けてくれた事は本当に嬉しいし、同時に申し訳なく思ってしまう。

でもだからこそ戦える自分が後を任されなければならないのではないか?

 

 

「司君。私は、このままで終わりたくないんです」

 

「……ッ」

 

「私は、助けたいんです。戦えない人たちを!」

 

 

戸惑う司、それは自分だってできる事ならそうしたいが――

 

 

「司君……覚えてますか?」

 

「な、何がだよ?」

 

 

夏美は少し悲しげな表情になって彼に言葉をぶつける。それは過去、彼が自分に言ってくれた言葉――

そして自分を救ってくれた彼の行動。司には彼女が何を言っているのか理解できなかったが、まるで彼女は自分に言い聞かせる様に言葉を並べていく。

ただ、最後の言葉だけは司にも突き刺さるものだった。

 

 

「司は言ってたじゃないですか」

 

「?」

 

「ヒーローは、絶対に諦めない。絶対に負けないって」

 

「……!」

 

 

夏美の奥のガラスに司の姿が映っていた。そこに彼自身が見たのは過去の自分。

颯爽と現れて、颯爽と悲しみを倒すその姿を信じていた自分。そして今の自分を哀れみの目で見ている気がして心が張り裂けそうだった。

そんな目で俺を見るな、司は心の中に潜む過去の自分と言う後悔を無理やりに押し込める。

 

 

「……ッッ」

 

 

踵を返す夏美に司は何も声をかけられなかった。

そのまま歩いていく夏美、しかし彼女は他のメンバーに止められる結果に。

 

 

「待ってくれ、まだ君を行かせる訳にはいかない」

 

「そ、そうだよ! まだ傷だって……治ってるだろうけど、心持とかさ!」

 

 

咲夜と友里が夏美を無理やりに止める。彼女は大丈夫と言うが、やはり見ているコチラ側からしてみれば心配で仕方ない。

無理やり突破しようと試みる夏美を抑えて咲夜たちは彼女をベッドに運ぼうとする。

 

 

「ハナ、美歩、アキラ、悪いけど夏美と話をしてくれないか。どっちにしろ、今回アイツを関わらせたくない」

 

「う、うん……」

 

「お、おっけ!」

 

「分かりました」

 

 

二人も咲夜たちに加わり一旦夏美を保健室に戻す事に。

しかしその途中で彼女は衝撃の事実を一同に告げた。

 

 

「ユウスケと薫ちゃんは、もう行きましたよ!」

 

「「「!!」」」

 

 

はあ!? 司だけでなく葵や翼も驚きに声をあげる。

夏美と同じく保健室で休んでいたユウスケと薫が、既にテレビを見て学校を出発したとの事だった。

何故? どうして? 葵は半ば理由が分かっていながらも、そう叫ばずにはいられなかった。

 

 

「二人は言ってましたよ――」

 

 

夏美は最後に言う。

それは二人のメッセージ、同時に小野寺ユウスケと空野薫の答えだった。

 

 

「怖いから、苦しいから、戦うんだって」

 

 

それだけを言い残して運ばれる夏美、それを聞いた司達は力が抜けたようにへたり込む。

怖いから、苦しいから、それは自分も同じだ。なのに彼らは戦いを選んだと? いや、自分だって変身さえできれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「「!?」」

 

 

その時だった、司の迷いを吹き飛ばすかの様な叫び声が食堂を包む。

同時に頭を強くテーブルに打ち付ける音、全員の視線がその音を出した男へと一勢に集中する。

驚きから目を向ける者、何故頭を打ち付けたのか理由が気になる者。誰しもがその男、新意鏡治の事を見る。

 

 

「怖いから――か。ああ……そうだな」

 

 

鏡治は納得したように立ち上がると、痛みを放つ額を抑えながら食堂を出ようと動き出した。

何を? 司は問い掛ける。すると鏡治は頭をかいて彼に笑いかけた。

 

 

「俺もさ、戦いたくないとか死にたくないとか……あるぜ」

 

 

だが逆に諦めたくないと思う気持ち。戦いを止めたくないと思う気持ちもある。

鏡治はリタイアした場合司達の記憶を無くして元の世界に帰れる。だから一番ダメージが少ないのは彼かもしれないが、逆にそれはそれで悩む物だった。

 

 

「思いきりぶつかっていけば、どんな壁でも克服できるって思い込んで――」

 

 

だけど、どうやってぶつかっていけばいいか今は全く分からなかった。自分一人の問題じゃない、だから自分にはどうする事もできないのか?

彼もまた特別クラスの一員として受け入れられているが、やはり良太郎と同じく他世界のジレンマがある。だから自分には彼らの答えを待つしかない?

 

 

「でもさ……そう、俺馬鹿だからジッと待ってるって無理なんだよな!」

 

 

今もショッカーに苦しめられている人がいる。それを思うだけで心がザワザワして気持ち悪い。

苦しい、辛い、どうしていいかますます分からなくなる。だからこそ新意鏡治に止まる事は許されなかった。

それはユウスケと同じ、怖いから止まる事は許されない。

 

 

「ああそうさ、やっぱ許せねぇんだ。ショッカーの事」

 

 

鏡治は拳を強く握り締める。ギリギリと音が出る程に強く、そしてそれは彼の心もまた同じ。

この事実を知りながらも全てを忘れ、暮らしていく自分を想像して彼は苛立つ様に頭をかく。

心は強く、ありのままに。納得していないから自分は吼えていると彼は自覚している。

 

 

「だから俺は止まれない。ああそうだ、突っ走るしかないんだ……!」

 

 

最悪の言い方するぜ、そう言って鏡治は司を見た。

 

 

「俺は答えを出せない。だからお前らの答えも、俺にとってはどうでもいいんだ」

 

「ッ?」

 

 

リタイアを選ぼうが選らばまいが、彼の答えはどうやら一つだけらしい。

 

 

「俺は戦い続けるぜ。ああそうだ、最後の一人になっても」

 

 

新意鏡治は宣言する。たとえ司たちがリタイアを選ぼうが自分は戦い続けると。

自分は完全なイレギュラーの筈だ、ならば次の試練候補者に自身を入れる様にしてもらうと彼は言った。

 

 

「鏡治……」

 

 

元の世界に帰れれば彼は安定した生活を手に入れられる。

なのに彼はあえて戦いの道に足を踏み入れると言うのだ。彼が死ねば家族や友人は悲しむだろう、助かった命なのにと。

 

 

「馬鹿なヤツだな。もっと利口な生き方があるのに」

 

 

双護はしずかに笑う。彼の言葉に鏡治もまた笑みを。

 

 

「馬鹿かな、俺――」

 

 

もしかしたらただの偽善かもしれない。世界の為に戦う事で自分に酔っている?

有美子や神也に迷惑や心配をかけてまで戦う必要があるのか? 自己満足の偽善者? 命知らずの馬鹿?

かもな――

 

 

「だけど、俺は俺にしかなれない……!」

 

 

でも――

 

 

「ああそうさ、これが新意鏡治(おれ)なんだ!」

 

 

ショッカーの悪事を知ってしまったからには、それを絶対に阻止しなくてはと思ってしまう。それが俺なんだ。

 

 

「仮面ライダーガタックとして、俺はショッカーを倒す!」

 

 

そう言って退出する鏡治、司を初めとした何名かはある種の喪失感を抱いてそれを見ていた。

自分達とは同じ位置にいるが、けれど違う立場にある鏡治だからこそ出せた答えなのか。それとも――

 

 

「僕も行きます」

 

「!!」

 

 

立ち上がるのは我夢、どうやら彼もまた戦い続ける選択を選ぶ様だ。

しかしそれも損な選択かもしれない。リタイアすれば彼はアキラと平和な時間を過ごせるかもしれないのに。

 

 

「でもそれは絶対じゃありません」

 

 

彼は鬼太郎にもらったコインを弾く。彼だってできる事ならば終わらせたい、誰しもが戦う事に対しての恐怖はあるだろう。

しかし自分が折れたらこの世界の人々が傷つくことになる。確かに自分達の力はまだショッカーに通用するか分からない、しかし確実に抵抗できる術はある筈だ。

 

 

「僕の(コイン)に、今は同じ選択しか無いんですよ」

 

「我夢……」

 

「すいません。僕は確かめたいのかもしれません、自分の気持ちを」

 

 

我夢もそう言って鏡治の所へ走る。

戦いと願うのは何の為か、それを彼自身は戦いの中で見つけようとしているのか。

司は何も言えずにただうつむくだけだった、もしも自分がドライバーを使えたならきっと彼と同じ事をしていたかもしれない。故に、それが彼にとっては悔しかった。

 

 

「現場に行かれちゃどうしようもないだろ……」

 

 

それを呟いたとき、教室にオーロラが出現する。

中から現れるのはゼノン、答えを聞きにきたのか? 焦る一同だが彼は首をふって笑った。どうやら先ほどの話し合いを聞いていた様だ。

 

 

「今回は人数が多いからね、提案をしにきたんだ」

 

「提案……?」

 

 

頷くゼノン、それは彼らも始めての試みらしい。

 

 

「今回は団体じゃなく個別で答えを決めて欲しい」

 

「!」

 

 

つまりそれは個人単位でリタイアと続投を選択できると言う事だ。

もちろんリタイアを選んだ人間に関する記憶は消させてもらうがと彼は念を押す。

ちなみにコレは全員に告げる情報、今いない者にはフルーラやシャルルが情報を告げると言う事だった。

 

 

「次の世界移動は全員が答えを出した時点で行うよ」

 

 

そこで続けるものは次の世界へ、リタイアを選ぶ者は記憶を消して世界移動を。

ちなみに続投が少人数だった場合は次の試練者に混ぜるかで対策をとるとの事だった。

既に次を考えていると言う事に寒気を覚える司、ゼノンは少し冷めた様に笑っていた。

 

 

「君たちにとって、最もいい選択ができる様に願っているよ」

 

 

そういって消えていくゼノン。

 

 

「………チッ」

 

 

やれやれと立ち上がる真志や椿、とりあえず自分達の答えは変わらないと告げて彼らは退出していく。

うやむやになる話し合い、翼はため息をついてうな垂れるのだった。やはり皆個人の想いがある、統一は不可能だ。

つまり確実に二分化はしてしまうと言う事なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡治はガタックエクステンダーに、我夢は凱火に乗り込み一直線にテレビ局を目指していた。

既に警察や機動隊は動いているらしく、そうなるとどこか進入するかが気になるが――

 

 

「鏡治さん!」

 

「ああ!」

 

 

テレビ局が近づいていた頃、二人の目に見えたのは無数に倒れる警官達と無数のワームである。

倒れている警官達が未だに気絶で済んでいるのはワーム達と戦っている紫の戦士のおかげだろう。

 

 

「くっ! ぐああああああああああっ!!」

 

 

しかしその戦士、クウガもワームのクロックアップの前には対抗する術が無かった。

かろうじてペガサスやタイタンで対処はしているが、上級ワームの前にはそれも厳しい物となる。

 

 

『ユウスケ、大丈夫ッ!?』

 

「あ、ああ……ッ」

 

 

二人の前にいるのは蜘蛛の特性を持ち合わせたワーム。"ブラキペルマワーム・ビリディス"だ。

身体に生えた脚を伸縮させてクウガに激しい攻撃をしかけていく。彼のクロックアップにはどのフォームも通用しない。

さらに彼の配下であるワーム達もアラクネワームへと進化を遂げてしまい劣勢の一方だった。

 

 

「我夢君! 先行ってくれ!!」

 

「はいっ!」

 

 

加速する鏡治。さらに空間が割れてガタックゼクターが登場、猛スピードでワームの群れに突っ込んでいく。

奇襲に怯むワーム達と反応するクウガ、彼が振り向くとそこには全速力で走ってくる鏡治が見えた。

 

 

「変身ッッ!」『HENSHIN』

 

「ん? シェードの邪魔になるゴミが増えたな」

 

 

ビリディスを始め全てのワームがクロックアップを発動する。

だが甘いッ! ガタックはキャストオフを発動して自らもクロックアップの世界に足を踏み入れた。

両肩についているカリバーを持つと彼は向かってくるワームをなぎ払いながらクウガの前に出た。

 

 

「ユウスケ、薫! 大丈夫か!?」

 

「鏡治ッ! ごめん!!」

 

 

頷くガタック、敵もガタックがクロックアップを使えると見て若干動きを止める。

しかしその隙にガタックは加速、カリバーの乱舞で次々にワームの身体から火花を散らせていった。

 

 

「超変身! うぉおおおおおおおおお!!」

 

 

緑に染まり電撃が身体を駆け巡るクウガ、ライジングペガサスに変わった彼はボウガンを怯んだワームたちへ連射する。

超感覚にて確実にワームをヘッドショットで爆散させる事に成功したが、やはりビリディスのみ捉える事ができなかった。

 

 

「お前、何故シェードが開発したクロックアップを!?」

 

「遠いどこかに同じ技術があってなッ!!」

 

 

カリバーを思い切り振るうガタック。しかしビリディスは脚を伸縮させて確実にそれを防いでいく。

刃のリーチを超える敵の脚にガタックの攻撃は全て無効化させてしまう。しかもそれだけじゃない、彼は口から粘着性の糸を発射してガタックの動きを鈍らせた。

 

 

「うわっ! うごけ――ッ! くそッッ!!」

 

「終わりだ。死ね……!」

 

 

全ての脚をガタックに向けるビリディス。

これで貫けばガタックは絶命すると彼は最後の一撃を繰り出し――

 

 

「――なんてなッ!」『Put On』

 

 

クロックアップは同じでも、違う技術を持っていると。

 

 

「何ッ!?」

 

 

一瞬でガタックの身体が装甲に包まれる。

ビリディスの突き出した脚は全てガタックの装甲を打ち破ることはなく、逆に弾かれる形となった。

衝撃で動きが止まるビリディスと、既にバルカンの引き金を引いていたガタック。

 

 

「ぐあああああああああああッッ!!」

 

 

結果は明白だ。バルカンの一撃はビリディスに命中して彼を空中に弾く事に。

さらに追撃にとガタックはキャストオフを再び発動して装甲を全てビリディスへと命中させる。

ダメージを受けて苦痛の声をあげるビリディス、ガタックはクロックアップを発動して彼の着地地点に先回りする。

 

 

「ハァアアアアアアッッ!!」『Rider Cutting』

 

「グァァアアッッ!! な、何故こんな――」

 

 

ガッチリとガリバーがビリディスを固定する。

何故こんな簡単に負けるのか? 決まっている、それは――

 

 

「俺は、お前らよりも強いからだ!!」『ONE』『TWO』『THREE』

 

 

強くなければならない。自分達がショッカーに通用するのだと皆に教える為にも!!

 

 

「ライダーキック!! でぁラアアアアアアアアアア!!」『RIDER KICK』

 

「グュエエエエエエアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

爆発するビリディス、ガタックとクウガは敵が全滅したことを確認すると変身を解除した。

疲労している様にユウスケと薫はため息をつく、しかしすぐに笑みを浮かべると鏡治の所へ駆け寄って行った。

 

 

「サンキュー鏡治、助かったよ」

 

「本当に。グッドなタイミングね」

 

「ああ、そうだな。無事でよかったぜ」

 

 

笑い合う三人だが、すぐに真面目な表情に戻る。

それぞれがこの場にいると言う事が何を意味するのか。それは答え以外には無い、自分で出した戦い続けると言う選択なのだ。

既に我夢と鏡治もシャルルからの通信で個別選択の概要を聞いた、もちろんそれはユウスケ達も同じである。

 

 

「あんな想いをしてまで、戦い続けるのか?」

 

 

ユウスケと薫は迷う事無く頷く。

 

 

「そりゃあ、怖いけどさ……」

 

 

ユウスケは司たちに告げた事をもう一度口にする。トカゲロンに受けた痛み、恐怖、苦痛は今も尚忘れる事はない。

しかしそれは彼自身が戦いの中で受けた感情だ、前回の世界では一方的な暴力の果てに命を落とした人々が何人いただろうか?

抵抗もできずに愛するものを殺され、何度悲願してもその声を無視されて殺される。

 

 

「その人たちは、おれ達の何倍も怖かった筈だ」

 

 

小野寺ユウスケの目指す正義とは涙を流した人がいても、最後はその人が笑える様に終わりを目指す事だ。

だから彼は戦いを止める訳にはいかない、戦い続けなければ笑顔で終わる事はできないのだから。

故に小野寺ユウスケは戦いを選んだ、自分の苦痛は人を守るために受ける苦痛だから。

何より――

 

 

「だって、おれ……クウガだもん」

 

 

それが責任だとユウスケは言った。もちろんそれは薫もである。彼に付き合う、それが彼女の答えなのだろう。

結果は二人は戦い続けると言う事だった、たとえその中で命を落とすとしてもソレが宿命なのかもしれない。

 

 

「うおっしゃ! ああそうだな、じゃあコレからも頑張っていくか!」

 

 

鏡治は笑いながらユウスケの肩に手を回す。

なんだかんだで確実に戦い続ける仲間はいるんだ、それはそれで頼もしい限りじゃないか。ユウスケ達はそれを実感して笑い合う。

 

 

「同じクワガタ同士、仲良くやっていこうぜ!!」

 

「ははっ、調子いいな!」

 

 

しかしこうしている間にも時間は過ぎていく。三人は頷くと早速テレビ局を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

学校の校庭では司がぼんやりと外の様子を確認していた。

戦い続けると言う意思を固めていく彼らの気持ちが分からない訳ではない。

いや、むしろ自分だってその気持ちが無い訳が無かった。たとえ傷つけられたとしても、たとえ痛みを叩き込まれても自分はまだ――

 

 

『見ろ、お前の戦う理由が無くなる時を』

 

「ちっくしょう……ッ」

 

 

しかしそれは自分が、と言う話だ。今でも夏美の事を思い出すと胸が締め付けられて苦しくなってしまう。

彼女を失う事、その可能性が膨れ上がると言うのが戦う事だ。今までは自分が助ければいいと思えた事も、全く自信が無くなってくる。

 

 

「司君――」

 

「!」

 

 

その時だ、司を呼ぶ声が聞こえて彼はその方向を見る。

姿を見せたのは拓真、彼は司と同じく険しい表情をうかべつつ隣に座った。彼もまたリタイアを選んだ者、司は視線を落として沈黙を続ける。

 

 

「「………」」

 

 

そのまま少しの間、二人は何も喋らずに街を見続けていた。

その中で無意識に拳を握り締める司、そしてそれを見つける拓真。彼は視線を司には移さずに言葉を放つ。

 

 

「司君は……戦いたい?」

 

「今の俺にそんな力は――」

 

「力がどうとかじゃくて、もしもの話で」

 

 

司は一瞬視線を下に落とすが、すぐに前を見て言い放つ。

 

 

「そうだな。できるなら、もう一度」

 

「………」

 

「でも、怖いんだ。今更だと思われるかもしれないけど、失う事とかさ」

 

 

司の言葉を拓真は無表情で聞いていた。

だが、ふいに彼は言葉を挟む。司が怖いのは戦う事よりもその中で犠牲者が出る事だ。

仲間を失う怖さゆえ、彼は戦いを止め様と考えた。だが拓真は違う。

 

 

「僕は、怖いよ」

 

「え?」

 

「戦う事、そのものが」

 

 

拓真はそこで自分が前回の世界で負けた理由を告げた。

確実に勝っていた勝負、なのに自分は止めを刺せずに敗北した。人間の姿をした敵を攻撃するのが怖くて仕方なかったのだ。

だって必殺技を打ち込むと言う事は相手を殺す事、響鬼の試練とは違って確実に相手の全てを壊すことにあるのだから。

相手にどんな悪者だったとしても、形は人と変わらなかった。

 

 

「そんな相手と……僕はどうやって戦えばいいのかって思ったら怖くなったんだよ」

 

 

なのに心には悔しさが残る。どうして負けたんだ、あの時ちゃんと拳を撃ち込んでおけば良かったのに。

終わってから自分の行動を疑問視して、結局嫌悪感に包まれるだけ。

 

 

「前にも言ったかもしれないけど、優しさなんかじゃない弱さだった」

 

「拓真……」

 

「響鬼の試練で少しは変われたと思ったけど、僕は結局――ッッ!」

 

 

でも、司君はそうじゃない。ちゃんと止めをさせるでしょ? 拓真は司の方を見て問い掛ける。

少し悩む司だったが、自分ならばと正直に彼に話す事に。現に道化師やらは人間の姿と変わらなかったわけだ。

 

 

「俺は、できるかな?」

 

「どうして? どうして司君は人間の姿をした怪人を"殺せる"の?」

 

 

あえて拓真はそう問い掛ける。

司は自虐的な笑みを浮かべて理由を説明していった。何もそれは一つではないのだから。

 

 

「いろいろあるぜ。例えば殺さなきゃ殺されるとか」

 

 

仲間が傷つく。世界が終わる。その理由達はきっといい訳なのだと彼は言った。

自分だって言い気分ではないが、それを認めてしまえば戦いにくくなる。だから自分は様々な理由をいい訳にして相手を殺すのだ。

拓真は同時にゼノンから言われた言葉を思い出す。人を殺して笑える強さを、それがあるのが司だと。

 

 

「そうだね……やっぱり司くんは凄いよ」

 

「そんな事ないさ。俺だって、もう今は何をしていいのか分からないんだ」

 

 

きっと彼は乗り越えられる。乗り越える強さを持っている。自分とは違って、拓真はそう言って司に笑いかけた。

しかし司が笑みを返すことは無い、彼は首を振ると拓真の肩を軽く叩く。

 

 

「お前だって、強いじゃないか」

 

「いいよ、慰めなんて」

 

「いやいや、俺はそうは思ってない。だってお前は今悩んでいるじゃないか」

 

「?」

 

 

本当にリタイアを選ぶつもりなら思考を停止させる筈だ。

自分にはもう関係ないと割り切って、なのに拓真はそれをしない。自分と同じ様に悩んでいるのは前に進みたいからじゃないのか?

 

 

「本当はお前も……そう、俺もお前も戦いたいんだ」

 

「ッッ!!」

 

 

拓真は歯を食いしばって頭を下げる。

そう、そうだろう。自分だってまだ諦めたくない、皆を助けるために旅を続けたい。

だけどこの身にかかる枷は確かな物。自分を縛る呪いは、今だって頭にチラついている。

 

 

「だけど、俺のディケイドライバーは使い物にならない」

 

「………ずるいよ、司君は」

 

「え?」

 

 

戦うってことは、仮面ライダーになれなかったら無理なの? 戦う事って、そもそも何なんだろうか。

拓真は司にではなく心の中で自分へと問い掛けていった。司は仮面ライダーになれないから戦えないと言う。

なのに自分は変身できるのに戦えないと言う。彼の認識と自分の認識、そこにある絶対的な壁とは何か? 拓真は強くなる鼓動を抑えながら苦しそうに表情を歪める。

本当はもう分かってるんだろ? 拓真は目を見開いて拳を握り締めた。

 

 

「司くん、お願いがあるんだ」

 

「お願い?」

 

「本当に……ごめん――ッッ」

 

「え―――」

 

 

一瞬だった。拓真は立ち上がると思い切り司を殴りつける。

 

 

「ッ!?」

 

「―――ッッ」

 

 

司は頬に衝撃を感じて大きく仰け反った。

しかし痛みは少ない、それは拓真が手加減をしたから? いや、その力しか出せなかったから。

 

 

「た、拓真?」

 

「ぅううッッ!!」

 

 

立っている拓真だが、司を殴った手は異常な程に震えている。

そして脚もだ、彼は全力で司を殴ったつもりだが無意識に威力を大幅に落としていた様。彼は苦しそうに自分の手に残っている感触を確かめる。

はじめて人を殴った、それも何も悪い事をしていない友達をだ。

 

 

「司君ッ! 僕と……喧嘩してほしい!!」

 

「拓真――……」

 

 

拓真は考える。戦いの中には理由や背景といった様々な要因があれど、突き詰めて考えるとそれは『暴力』だ。

だからこそ彼は暴力を知る必要があった。苦しんでいる司に振るうのは身勝手な暴力、拓真が始めて触れる部分でもある。

 

 

「僕は……暴力を振るっていたって自覚が無かったのかもしれない」

 

 

仲間を守るために拳を振るう。仲間を傷つけるために拳を振るう。

気持ちや背景こそ間逆だが何もしらない人が見たら、まして行動そのものは二つとも同じでは無いか。

拓真はその事実から逃げていたのかもしれない。ファイズの鎧をまとう事で、自分は正義の檻によって守られていただけだと。

 

 

「僕は勝たなきゃならないんだ! 自分に……力に!!」

 

 

暴力か、それとも人を守るための正義なのか。力とは何か? 拓真はその疑問を司を巻き込んで証明したかった。

いつも怪人に振るっていたファイズの拳、それを今は仲間へ振るう身勝手な拓真の拳として。

 

 

「うぉおおおおおおおお!!」

 

 

拓真は大きくブルブルと震える拳を掴む。

こんなに人を殴る事が怖いなんて思わなかった、こんなに苦しいなんて考えたことが無かった。

 

 

「恨むなよ拓真ッッ!!」

 

「!!」

 

 

そして殴られる痛みを。

拓真の頬に司の拳が刺さりこむ! 司の真剣な表情に拓真の震えはますます大きくなっていくばかり。

しかしこの恐怖こそが、戦い続ける者が抱く宿命。拓真は悩みを吹き飛ばすばかりに叫んで自らも拳を突き出した。

 

 

「ウッ!!」

 

 

先ほどよりは強く司の身体を殴った。司も苦痛に表情を歪ませる。

拓真に襲い掛かる恐怖と後悔、動きが鈍る彼へ司は渾身のストレートを打ち当てた。またも痛みや恐怖が拓真を包む。

 

 

「手加減はしない!」

 

 

司はよろける拓真にもう一発拳を当てる。

 

 

「だからお前も本気でこい!」

 

「ッッ!! うわああああああああああああ!!」

 

 

拓真のストレートと司のストレートが交差して、互いの頬に直撃する。

二人は大きく怯みながらも次の攻撃を繰り出そうと、目の前にいる友人を倒そうと拳を握り締めるのだった。

 

 

「アイツ等、何やってんだよ」

 

 

いきなり殴り合いを始めた拓真と司、それを屋上から真志が確認していた。

理由はそれとなく聞こえてきたが彼にとってはどうでもいい話に聞こえてしまう。頑張れば頑張るほど虚しく、それが今の真志だった。

 

 

「くだらねぇ」

 

 

そう言って彼は司たちから目を反らす。もういい、リタイアして楽になれば全て終わる話じゃないか。

なのにどうして彼らはそんなに足掻くのか、全てを知ればきっと自分の様になると――

 

 

「くだらないのはお前のほうだ」

 

「!」

 

 

声が聞こえてハッと頭を上げる真志、そこに飛び込んできたのは笑みを浮かべている双護の姿だった。

他に誰もいないと思っていたために驚いたが、真志は先ほどの言葉を思い出して彼を睨みつける。

 

 

「どういう事だよ」

 

「言ったとおりの意味だ。お前、何を悩んでいる?」

 

 

涼しげな表情で真志の隣にやってくる双護、彼もまた下で殴り合いを繰り広げている司達を確認する。

苦しそうな表情で殴りあう二人、何かに取り付かれた様な姿に双護もまた笑みを浮かべた。

 

 

「馬鹿な奴らだ」

 

「本当だぜ、今更何やってんだか……」

 

「だが、真っ直ぐだ」

 

 

俺"達"よりな。双護はそう言って真志を見た。

不愉快そうに表情を歪める真志、それは彼も分かる言葉であった。彼らは悩みの中で前に進もうとしている。

そういった点では馬鹿だが自分よりはマシと言うもの。

 

 

「……お前だって、フェザリーヌから聞いただろ」

 

「やはりその事か」

 

 

双護だってそれは考えていた話だ。

真志がそれで悩んでいると、燻っている事はすぐに理解できた。

 

 

「もう、戦う意味なんてない。全て決まってんだからよ」

 

「だから無意味だと?」

 

「そうさ、戦う必要なんて無い」

 

「なるほど、まあ気持ちは分かる」

 

 

大ショッカーを前にすれば殺意が暴発しそうだった。

あの時と同じだ、しかし今自分は落ち付いている。何故か? それは自分で意思を固めたからだ。自分の意思で怒りを抑制したからだ。

だからその言葉に双護が賛同する事はなかった。彼は首を振って真志に指を突きつける。

 

 

「お前は何か勘違いをしているな」

 

「な、なんだよ」

 

「俺達はもう、自分で歩いてるんだ」

 

 

その責任からは逃げられない。双護の言葉を今度は真志が否定する。

彼は責任と言うが、それもまた決められたルートでしかない。全ての感情、全ての行動、全ての選択は既に決まっているのだと!!

 

 

「それが下らないと言っている」

 

「な、なんだと!!」

 

 

双護は真志の前に立って言葉をぶつける。

相変わらず彼は余裕の笑みを見せている。それが真志とっては不愉快だった、彼は自分が間違っていると欠片とて思っていないのだろう。

 

 

「お前が今まで抱いた苦しみも、今抱いている想いも全てシナリオどおりだと?」

 

「ああ、そうだ! それが真実なんだ!」

 

「だが、全てじゃないだろ!」

 

「!!」

 

 

双護の言葉に怯む真志、屋上に吹き抜ける風が二人の髪を揺らす。

 

 

「お前はシナリオ通りの人生を受け入れるのか?」

 

「そ、そうなる様にできてるんだろうが!!」

 

「俺は嫌だな。嫌だから認めない」

 

 

そんなのできるかどうかなんて分からないだろ。

認めないとか言う問題じゃなくて、そうなっているんだから仕方ないだろ! 真志は余裕を崩さない双護が気に入らなかった。

彼は自分と同じ立場にあるはずなのに、ぜんぜん気にしていないじゃないか。

 

 

「俺が認めないと思えば、それは俺の気持ちになる」

 

「はぁ?」

 

「俺は下らない神のシナリオどおりに動くつもりは無い」

 

 

じゃあそうシナリオに書かれていたら? 真志の言葉に双護は首を振る。

 

 

「だったら、それはもう俺の意思だ」

 

「!!」

 

 

俺のシナリオは、俺が決める。自分が納得できるならそれは自分の意見だろう。

双護の言葉に真志は沈黙するしかなかった。何とか言葉を探すが、何も思いつかない。受け入れるのではない、受け入れさせる事が双護の選択だと?

 

 

「俺には、お前が苦しんでいる様にしか見えない。踊らされている様にしか見えないぞ」

 

「くっ! オレは……オレはぁっ!」

 

 

言葉を詰まらせる真志、彼を見て双護はやれやれと笑った。

彼の表情はシナリオを受け入れる態勢を取った者のそれとは思えない。要するに、彼もまた司と拓真同じく燻ったラインにいるだけ。

 

 

「フッ、悩みは晴れないか」

 

 

だったら、双護は指を鳴らす。

すると空を切りさいて赤い閃光が飛来してきた。同時に目を見開く真志、彼が呼んだのは間違いなく今呼ぶ必要性が無い物だったからだ。

双護は、これこそが自分の意思だと告げる。

 

 

「デッキを構えろ、条戸真志ッ!!」

 

「ッッ!」

 

 

カブトゼクターを構えた双護、彼は何を考えているんだ!? 真志は訳が分からないと彼に叫ぶ。

どうして今それを構えるのか、真志は叫ばずにはいられなかった。対して涼しげに笑う双護、彼はもう一度司たちに目を向ける。

先ほどは真志と共に馬鹿にした彼らを。

 

 

「俺達も馬鹿になろうじゃないか」『HENSHIN』

 

 

双護を包む六角形の光、カブトマスクドフォームがあっという間に完成した。

 

 

「ハッ……! やってろよ。オレはゴメンだぜ」

 

 

そう笑い屋上を出て行こうとする真志、しかし――

 

 

「ウッ! ぐぁあああああああああッッ!!」

 

 

右肩を貫く激しい熱と痛み、見ればクナイガンを向けているカブトの姿が。

まさか本当に撃つとは、真志は声を荒げて彼を睨みつける。

 

 

「何考えてんだよお前ッッ!!」

 

「お前はシナリオどおりに動いてくれるんだろ。だったら、俺のシナリオどおりに死んでくれるか」

 

 

次は左肩にプラズマ弾が着弾する。

手加減はしているのだろうが、それでも尋常じゃない痛みが襲い掛かって真志は苦痛の声を叫ぶ。

しかしすぐに笑いにかわる悲鳴、真志は汗を浮かべながらニヤリと笑った。

 

 

「本気じゃねぇだろうが、オレには分かるぜ」

 

「フッ、なら俺のストレス発散の為にサンドバッグになってくれ」

 

 

右足、胴体、左手、右腕に着弾していく弾丸。

真志は叫びながら屋上をのたうちまわる。痛み、苦しい、そして怒り。彼は柵を殴りつけるとポケットからデッキを取り出して前に突き出す。

 

 

「後悔すんなよ……ッ! 本気で行くぜ!!」

 

 

手を斜めに突き上げる真志、それは彼の答えだった。

 

 

「フッ、いいだろう。一度仲間と本気で戦ってみたかった」

 

「変身ッ!!」

 

 

変わる真志、気合を入れて彼は拳を構える。

カブトと龍騎、屋上にて激しい戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 






昨日のめちゃイケで橘さんが変身してて笑った。

里奈ちゃんは大食いだったりします。
あとキバの原作で作者はマジでラモン(バッシャー)が女装してると思ってました。
マリンスタイルとか何かそう言うのなんだろうけど、パッと見でセーラー服のインパクトは凄いって言うかなんていうかw


まあそんな感じです。
次は多分木曜か金曜予定ではありますが、また少し遅くなってしまうかも?
一応未定で。

ではでは

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