仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第71話 番外編 コブラ

 

 

 

 

「結果はどうだ?」

 

「あー……まあ、ハハハ」

 

 

メタ世界、ナルタキは椅子に座りながら目を閉じている。

報告をするのはゼノンとフルーラ、二人は曖昧な笑みを浮かべて珍しくしどろもどろになっていた。

理由は大ショッカーの判断、彼らもまさかキバーラがあの展開で負けるとは思わなかったらしい。

 

 

「相当ヤバイいんじゃないかしら、初変身補正をぶった切るなんて」

 

 

初めて変身した時の戦いは負ける確立が低い、それが世界の理だった。

にも関わらず夏美は負けた、もちろんそれは実力、つまりそれほど大ショッカーの力も上だと言う事だ。

彼女のプライドの為に言っておくがキバーラは決して弱い訳ではない、それを上回る力と戦力を大ショッカーが持っているという事である。

 

 

「それにノア、あれってもうボク達が対処できる範囲じゃないよね」

 

「世界を破壊する船、恐ろしい話だわ」

 

 

ある程度巨大な敵ならばゼノン達もリボルギャリーで対処できる。

しかしあそこまで巨大ならばコチラには対処できる戦力の問題が出てくるのだ。

ハッキリ言ってゼノンには現状ノアを止められる術は無いと判断している。ナルタキに何か考えがあってくれるのならばソレでいいが。

 

 

「今のところは問題ない。アレは一度起動すればしばらくは使えない」

 

「だといいけど……」

 

 

問題は別にあるとナルタキは言う。別? ゼノン達が興味を示すとナルタキは頷いた。

ゼノン達が問題視しているのはノアの力、武力だ。しかしナルタキが注目したのは大ショッカーはノアの力をどこで身につけたのか。

言い方を変えれば、ノアの発想をどこから持ってきたのかと言う事だ。

 

 

「ただの他世界移動ならまだしても、"壁を一つ越えての世界移動"ならば非常にまずい状態だ」

 

「交じり合ってはいけない世界があるものね」

 

 

フルーラの言葉でゼノンは意味を理解した様だ。

世界はただ無数にあるだけではない、決して交じり合う事の無かった部分も存在しているのだ。

それらを隔てる壁が確実に壊れてきている。それだけ敵や自分たちは新しい技術や発見を手にし、同時に神なる世界を守る壁も壊れていると言う事だ。

 

 

「コッチが触れれば、アッチも触れるって事かい? フフフ」

 

「いや、正確には向こうの方が早く進行しているだろう」

 

 

ノアの映像を映し出すナルタキ、巨大な戦艦は大ショッカーが独自に開発した物とは少し違う筈だ。

アレは――そう、ナルタキにも記憶がある。恐らくノアは機械人形の星から授かった知恵をアレンジした筈だと。

 

 

「まあでも、響鬼の時に次元を超えたっぽいけど……別に普通だったしね」

 

「鬼太郎の事だな。逆にそれだけ世界は互いを拒絶しなくなっていると言う事だ」

 

 

ありとあらゆる可能性を吸収していく世界、それはもう一つの生命体と言ってもいい。

ミステリーやファンタジーが融合し合う事や、日常系を謳った作品とバトル物の作品が融合しあう。

このまま世界を放置し続ければ世界はどんどん互いを吸収し、そして最終的には――?

 

 

「龍騎シリーズもその影響をモロに受けているわね」

 

「そうだねフルーラ。まあ、彼らのゲームは彼らが決着を付けてくれる事を祈ろう」

 

 

世界を結びつけ、そして新たな世界が生まれていく。

また今日もどこかの世界に歴史が刻まれていくのだろう。破壊と可能性が交差し、世界は次々に創生の時代を迎えていく。

 

 

「ああ、だが一番大切なのは神なる世界への到達だという事を忘れないでもらいたい」

 

 

ナルタキはありとあらゆる可能性もまた、全てそこへ収束していると告げた。

世界構造については複雑な話であり、ナルタキも未だその全てを把握している訳ではない。

むしろ彼だって知らない情報など山ほどあるだろう。しかし何が一番危険なのかはハッキリしている。

それは大ショッカーが神なる世界にたどり着く事以外には存在していない事。

 

 

「さあゼノン、話はココまでだ。次の世界移動の準備を頼む」

 

「まあいいけど、彼らに次があるのかな?」

 

 

リタイアの事についてはナルタキも重々承知の事だ。

しかしそれであっても彼はゼノンに次の世界に先行する様に命じた。それはナルタキなりの考えなのか、それともただ単にいつもと変わらない行動なのか。

 

 

「それは彼ら決める事だ」

 

「ああ……そうかもね」

 

 

ゼノンは帽子を整えるとフルーラの手を取り踵を返す。たとえ始まりのきっかけが強制された物だとして――

終わらせるのも、続けるのも、全ては彼らの意思次第と言う事なのか。

だとしたら自分たちの役割はソレを見届ける事かもしれない。ゼノンたちはナルタキに言われた通り学校を次の世界へと転送させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大ショッカー本部では世界を破壊した猛者達が続々と帰還している所だった。

そこから各々は報告や休憩を済ませて、それぞれの組織に散って行く。中には小隊に残る者もおり、そこは自由に定められていた。

 

 

「フフフ……ッ!」

 

 

そしてその中に一人、笑みを漏らし歩いている男が。

彼から感じるのは確かな喜び、明確な狂喜。

 

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

バットオルフェノク、彼は他のメンバーがいるにも関わらずしきりに笑い声をあげて本部を歩いて行く。

その内に小隊の他のメンバーと合流するが、彼らもバットの異変に気がついたようだ。

目を見合わせるトカゲロンとハサミムシ怪人、一体彼は何をそんなに嬉しそうに?

 

 

「くははは! いや、面白い奴に会ってな。そう、面白い奴だった」

 

「?」

 

 

思い出すだけで身が震えてしまう程に。バットは回想の中に奴を見る。

それは彼がアギトと戦いを繰り広げている時だ。既に勝敗が決まっていた戦い、アギトは逃走を試みたがバットはそれを許すつもりはない。

 

 

「逃げようなんて寂しい事するなよ、もっと遊ぼうぜ!」

 

 

バットは銃をアギトに向ける。

背中を向けて一直線にバイクを走らせるなんて、当ててくださいと言わんばかりじゃないか。

じゃあ望み通りぶち当ててやるぜ、バットは笑みを浮かべて引き金に手を――

 

 

「ッ!!」

 

 

しかしその時だった。アギトとバットオルフェノクの間に砂のオーロラが出現したのは。

バットはすぐに銃弾を発射するが弾はオーロラを貫通する事は無く、アギトはそのまま猛スピードで走り去ってしまう。

何だコレは? 舌打ちを放つバット、せっかくの獲物を逃がしてしまったじゃないか。このオーロラを考えるに仲間か? バットが近づいて行こうとした時――

 

 

「………ァァアアアァアアァ」

 

「!?」

 

 

足を止めるバット、何か――獣が獲物を求めるようなうめき声が聞こえた気がする。

同時に晴れて行くオーロラ、バットはてっきり大ショッカーの何者かが現れるとばかり思っていたのだが実際はそうでなく。

 

 

「あーん? 誰だお前」

 

「ハッ! お前がショッカーとか言う奴か」

 

 

オーロラから現れたのは怪人ではなく蛇柄のシャツを着た青年だった。尤も、この青年――既に怪人並みの殺意を全開にしている。

それはまさに蛇そのもの、バットオルフェノクは全身に感じるビリビリとした威圧感に思わず笑みを浮かべてしまった。

初めはアギトを助けに来た仲間かと思ったが、どうやらそんな優しいモンでもないらしい。これは純粋な殺意、戦いを目的にやってきた野獣だ。

 

 

「ただの人間にしちゃ上等だぜ。お前、名前は?」

 

「ごちゃごちゃとうるさい奴だ。イラつくぜェ」

 

 

それに今から死ぬ奴に教えても意味なんてない。青年はそう笑いながら懐から紫色の四角い箱を取り出した。

それはコブラの紋章が刻まれたカードデッキ、同時に現れるVバックル。青年はゆっくりと構えをとっていく、それは蛇が獲物を捕らえる様な動きで。

 

 

「来い、カメンライダー………変身!」

 

 

デッキをセットするのはゼノン達がゲストとして招いたライダーが一人、浅倉威だった。

彼がデッキをセットすると紫色の光の輪が二本出現、二つの輪が対照的に回転して球体を作り出す。

球体に包まれる浅倉、そしてその球体が弾けた時――

 

 

「成程ねぇ、お前もアイツと同じって訳だ」

 

「ァァアア……成程、変わってないな」

 

 

そこには紫の騎士が立っていた。彼は失った筈の力が戻ってきた事に感動したのか、自分の姿をかみ締めるように見直す。

しかしすぐにその視線はバットオルフェノクと言う獲物に向けられる。浅倉は訳の分からない話に巻き込まれて相当イライラしていた、だから彼に言葉を投げた。

 

 

「暇つぶしに死んでくれ」

 

「ハハハハッ! 面白い事を言うじゃねぇか!!」

 

 

退屈な奴ばかりかと思ったらとんだサプライズがあったものだ、バットオルフェノクはある種の喜びという感情を確かに感じていた。

ここまで言われたんだ、望み通り暇つぶしに付き合ってやろうじゃないか。バットは二丁拳銃を構えて鼻を鳴らす。

とはいえ、コチラだってみすみす殺される訳もなし。

 

 

「殺してやるぜ、蛇野郎が!!」

 

「ハハハハハ! そうでないとつまらないな」

 

 

笑いながらデッキに手をかけカードを抜き取る浅倉。

彼が変身するのは仮面ライダー王蛇だが、今現在王蛇の力は他世界の構造に飲み込まれて消滅してしまった。

故に彼は王蛇ではない、しかし世界は彼が王蛇である事を望むだろう。相反する二つの言葉、"王蛇でないのに王蛇でなければならない"。

その矛盾は彼に新たな姿を、この姿を授ける事になった。彼はそのままカードをバイザーにセット、すると――

 

 

『SWORD VENT』

 

 

龍騎シリーズとは違った音声がバイザーからは流れる。

そう、それは彼が王蛇ではないと言う事の証明だった。だが彼が手にするのはベノサーベル、いつも彼が使用していた武器だ。

それを構えて走り出す、王蛇ではなく彼の名は――

 

 

「ハハハハッ! せいぜい楽しませてくれよッ!!」

 

「アアアア……つべこべ言わずに戦え。俺が殺してやるよ」

 

 

"仮面ライダーストライク"、王蛇であり王蛇に非ず。彼は剣を構えてバットを狙う!

だがバットもまた激しい銃弾の雨でストライクを近づけまいと動く。彼のダブルアクションをストライクは剣で防いでいくが限界も近い。

 

 

「ハハァッ!」

 

「!!」

 

 

ストライクは銃弾をその身に浴びながらも構わず前進、さらに射程に入ったと見るや彼はベノサーベルを思い切り投げつけたではないか。

旋回しながらバットを狙うサーベル、すぐにバットは銃でそれを撃ち落すが一瞬の隙をつくる事に。

その間にストライクは次なるカードをバイザーへセットした。

 

 

『ADVENT』

 

「んなっ!」

 

 

地面が揺れると思えばバットオルフェノクの真下から巨大なコブラが出現する。

彼の契約モンスターであるベノスネーカー。とはいえ、なにやら少し様子がおかしい様だ。

ベノスネーカーはバットを弾き飛ばすのを確認すると、なんと表情をニヤリと歪める。

 

 

『さあ! 祭りの時間だ!!』

 

「何ィッ?」

 

 

楽しそうに"喋る"ベノスネーカー、バットが素早く体勢を立て直すと瞬時に感じる違和感。

それは先ほどまで視界に捕らえていたストライクが消えていると言う事だ、どこへ? 彼が周りを見ようとした時――

 

 

「ハハッ!」

 

「ぐっ!」

 

 

胴体に感じる衝撃、ベノスネーカーに気をとられていたバットはサイドから迫るストライクに気がつく事ができなかった。

結果彼はストライクの拳をその身に受ける事に。しかもコレで終わりではない、怯むバットへ何度も何度もストライクは拳を打ち込んで行く。

 

 

「くはははは! やるねぇ! やるじゃねぇかオイッ!!」

 

「!」

 

 

だが拳をしっかりと受け止めるバット、どうやらパターンを読んだ様だ。

彼はストライクの拳を受け止めはじくと、カウンターの銃弾を思い切り連射していく。

すぐに火花に包まれ後退していくストライク、さらにフィニッシュとしてバットは肩についているブーメランを投擲してストライクに命中させる!

 

 

「ッッ!」

 

「ハハハハハ! オラオラどうしたどうしたぁ!!」

 

 

バットは激しい銃技でベノスネーカーとストライクを同時に射撃、そうやって確実に自分に近づけさせまいと立ち振る舞った。

瞬間の早撃ちにダメージを乗せられて行くストライク、彼は舌打ち混じりにデッキに手をかける。

中々退屈させてくれない相手だ、少し期待の想いをこめて彼はカードを引いた。

 

 

「フッ!」

 

 

跳ぶストライク、銃弾を交わしながら彼はカードを確認する。

それは赤い宝石が中心についた十字架の様なアクセサリーが書かれた物。

以前の彼には無かったカードだが、彼にはそれが何なのかを理解する事はできた。

結果、迷わず彼はその殺意に満ちたカードを装填する事に。

 

 

『ADVEN』

 

「!」

 

 

異変はすぐだった、空が赤く染まると赤い槍の雨がバットオルフェノクに降り注いで行く。

超反応で槍を次々に打ち落として行くバットオルフェノクだが、背後から感じる気配にはギリギリ対処できなかった様だ。

 

 

「ぐっ!」

 

 

切りつけられて火花が散る。

誰に? バットが背後に視線を移すと、そこにはニヤリと笑っているポニーテールの少女が見えた。

赤い髪、赤い服、赤い槍、少女はポッキーをかじりながら戦いを楽しむ様に切りかかって行く。

 

 

『浅倉ァ! さっさとぶっ殺して終わりにしろよ!!』

 

「?」

 

 

後で聞いた話だが、この少女はデータで構成されたストライクの使い魔らしい。

要するにベノスネーカー同様に使役する存在だと言う事だ。少女は悪態をつくだけついてすぐに消滅、だがバットに与えたダメージは確かなもの。

動きが鈍る彼に向かってストライクはまたも拳や蹴りを命中させていく。

 

 

「なかなかやるじゃねぇか! さっきの奴よりは楽しめそうだ!!」

 

 

だがバットオルフェノクもやられてばかりではない、彼の体術はストライクと完全に互角である。

すぐに蹴りや拳を受け流して反撃の手に出てくるバット、しばらく彼らは防御も忘れて互いを殴りつける!

 

 

「ハハハハッ! 確かに退屈はしないかもなァッ!」

 

「おっとッ!!」

 

 

一瞬の隙をついてストライクの蹴りがバットを弾く。

怯みながらも銃で牽制を行うバット、しかしストライクはそれを読んでいたのか体を回転させて地面を転がる。

結果銃弾はストライクの体を掠めるだけ、対して彼はデッキからカードを抜いている。自身の紋章が輝く終わりのカードを。

 

 

「これくらいで死ぬなよ」『FINAL VENT』

 

 

再び現れるベノスネーカー、彼はまたも饒舌に喋りながら王蛇と共に走り出す。

 

 

『蝙蝠野郎の華麗なフィニッシュでーすッ!!』

 

「ハハハハハハハハハッ!!」

 

 

両手を広げて走るストライクの姿はまさに獲物に襲い掛かるコブラそのものだった。

その殺意と気迫に笑みを漏らすバット、やはり戦いとはこうでなくてはならない。一歩間違えれば自分も死ぬ、その緊張感が快楽を高めてくれるのだ。

奴を倒し、自分はストライクよりも優れた存在であると、強者であると言う事を証明したい。

バットオルフェノクは二つのリボルバーにそれぞれ銃弾を装填して回転させた。激しく回るリボルバーは青い炎を宿してオルフェノクの力を覚醒させる。

 

 

「フ――ッ!」

 

 

飛び上がるストライク、銃を向けるバット。

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ハハァッッ!!」

 

 

強力な酸を纏った連続蹴り、ベノクラッシュ。オルフェノクの力を集中させて放つ魔弾、二つの力がぶつかり合い世界を揺らす!

打ち負ければ死に繋がる状況、しかしストライクもバットも楽しそうに笑っていた。これは純粋な殺し合いであり、彼らにとっては何よりの娯楽なのだから。

ストライクの蹴りが連続で命中する事で銃弾の勢いを殺していく。そして――

 

 

「「ッッ!!」」

 

 

結果は相殺だった。互いの必殺技はそれぞれの力を殺して無効化される。

地面に落ちるストライク、彼は少しそのまま停止した後ゆっくりと起き上がり周りを確認。

すぐに攻撃を受けると思っていたがどこにもバットの姿はない、唸り声を上げるストライク。

 

 

「どういうつもりだ……ァ?」

 

 

そういいながら上を見るストライク。上と言うのはつまり空、そこには翼を出現させて空中に止まっているバットの姿が見えた。

アギト戦では見せなかったが彼も名が示すとおり蝙蝠の特性を所持している。故に彼は空中を移動できる手段を持っていたのだ。

しかしそんな事など今はどうでもいい、問題は何故彼が攻撃の手を止めたかと言う事だ。

 

 

「悪いねぇ、俺も組織に生きるモンなのさ」

 

「?」

 

「つまり、お呼びが掛かっちまった」

 

 

もっと遊んでいたかったがとバットは唸る。

もちろん彼とてつまらない用件ならば無視していただろうが、そうもいかない情報が入ってきてしまった。

楽しませてくれたお礼にとバットはストライクにその内容を伝える。それは今からノアの稼働テストを開始すると言う事だ。

要するにこの世界に長居すれば一緒に滅ぼされてしまうかもしれないと言う事。

 

 

「アァァァァ……ふざけるなァ、あまりイラつかせ――」

 

 

バットを追おうとしたストライクだが、ここで体が消えかかっている事に気がつく。

舌打ちを行うストライク、どうやらコチラも終わりの時間らしい。自分たちはよく分からないが異物としてこの世界に認識されている。

ましてそれはEpisode DECADEにとってもだ。

 

それにより架せられたルールは、ストライクの様なゲストと呼ばれる存在は一定時間を過ぎると共生的に世界から排除される。

さらに助っ人として介入できるのはただ一人のみである。

 

 

「あばよ、せいぜい滅ぼされない様にな。クハハハハ!!」

 

 

そういって飛んでいくバット、それを見てもう一度ストライクは舌打ちを。

 

 

「だがまあいい、少しは退屈しないで済みそうだ」

 

 

そう言い残して消滅して行くストライク、こうして彼らの戦いは望まぬ終わりを迎えたのだった。

しかし結果としてコレでアギトは救われ、司たちはかろうじて犠牲者を出す事は無かった。果たして感謝すべきなのか、どうなのか――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハ!!」

 

 

あの時のことを思い出してバットは笑っていたのだ。

しかしトカゲロンは首を振る、あの世界は滅びた。自分に歯向かって来た少年も、彼をかばった少女も、バットが戦ったというその男も全て死んだ筈だ。

 

 

「さあどうかねぇ?」

 

「何?」

 

 

バットは指を左右に動かしてチッチッチと音を鳴らす。

人間は確かに脆い、だが中には虫けら並みの生存能力を持った奴がいる。たとえ世界が滅んだとしても、果たして終わりはやってくるのか?

 

 

「お前が思ってる以上に人間ってのはしぶといぜ、これは元人間の経験な」

 

「フン! たとえ生き残っていようが、ショッカーの敵になるのならば再び殺すまでだ」

 

 

上等、それでいいとバットオルフェノクは再び声をあげて笑い始めた。

 

 

 

 

これで彼の話は終わり。

では次はもっと昔の話をしようか、あれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれたときから体が弱かった。

母も父も気を使ってからか病気の事を彼に話す事は少なかった。

いつか良くなる、いつか皆みたいに自由に走り回る事ができると誰もが口を揃えて言う。

 

 

「本当?」

 

 

本当だとも! 誰もがそう言っていた。

自分はそんな言葉を信じて、幼い時から入退院を繰り返していた。しかしある日、看護婦たちが話していたのを聞いてしまった。

彼は心臓が弱い、それは治る事はなく悪化の一方を辿るだけ。せめて病院の中だけでも幸せに――だとか、果たして成人まで生きられるのかどうかだとかそんな事ばかり。

 

 

「秋人……実はな――お前は、難しい病気なんだ」

 

 

永時(えいじ)秋人(あきと)、彼は両親から自分が不治の病だと言う事を聞かされる。

心臓の病気で、年々悪化するのが特徴であり医者の話では秋人は成人になるまでには命を失うと言う物だった。

そこで秋人は初めて自分が重い病気だと言う事を知った。親心ゆえに隠していた両親だったが、幼い秋人には実感が湧かない部分はあれど大きなショックを受けたのだ。

 

それだけじゃない。小学生だった秋人は入院をすれば物珍しさ故か必ずクラスメイトがお見舞いに来てくれたが、入院を繰り返す彼はその内にクラスメイト達から飽きられてしまい病室に訪れる友達はいなくなってしまった。

両親もまたお互い仕事が忙しく、秋人の顔を見にくる日が減っていたのを覚えている。孤独、寂しさ、秋人は両親にもっと自分を尋ねてくれるように言ったが――

 

 

「ふざけるな! 誰の治療費を稼いでやってると思ってるんだ!!」

 

 

誰も頼んだわけじゃない、秋人は顔ではヘラヘラと笑っていたが心では次第に闇へと堕ちていった。

何をしてもやる気が出ない、それにどうせ自分は20歳になるまでには死ぬんだ。

子供ながらに秋人は世界に絶望、孤独で入院生活を送っていた彼には相当精神に負担が掛かっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、秋人は病院の屋上にいた。

柵を越えて彼は真下に広がる景色を見る。ここから飛び降りれば自分は確実に死ぬだろう。

尤も別に本気で死ぬつもりはなかった、だがココにいる事を誰かが見つけてくれれば皆が自分を心配してくれると。まあ、別に今ココで死んだって――

 

 

「そんな所にいると、危ないよ?」

 

「!!」

 

 

誰かに話しかけられ秋人は思わず肩を震わせる。

普段は誰もこない事で有名な屋上だ、場所が病院という事もあり秋人は一瞬幽霊にでも出くわしたのかと焦ってしまう。

しかしすぐにそれが人、しかも自分と同じくらいの女の子だと知った。その女の子は屋上にある花壇の前に座っている。

 

 

「え……?」

 

「ふふっ、だからそんな所にいると落ちちゃうよ。コッチにきてお話しない?」

 

 

いきなりズカズカと話を進められて怯む秋人、対して少女は勝手に納得したのか大きく頷くと何の躊躇いも無く柵を乗り越えて秋人の隣にやってくる。

思わず落ちそうになる秋人だが、彼女は彼の手をぐっとつかむとそのまま屋上に引きずり込むがごとく移動させる。

 

 

「お名前は? 私は涼弧(りょうこ)美夜(みや)

 

 

美夜はまだ話をすると秋人が言っていないにも関わらず話を開始する。

初めはペラペラと一人で話す美夜を鬱陶しいと思っていた秋人だが、あまりにも美夜が会話を振ってくるので次第に彼も自分の考えを彼女に伝えていった。

 

 

「へぇ、じゃあ秋人も私と同じ病気なんだ」

 

「え……」

 

「一緒だね」

 

 

彼女は普通に、あまりにも普通にそう言ってみせる。思わず秋人は彼女が何を言っているのか分からなかったほどにだ。

しかし突き詰めて話してみれば何のことはない、彼女が自分と同じ病気だと言う――ただそれだけの偶然だった。

 

 

「………」

 

 

不謹慎な言い方かもしれないが、その時の秋人の嬉しさと言ったらそれはもう大きな物だった。

自分以外にも、自分と同じ人がいる。秋人はこの短時間で完全に美夜を信頼し心を開こうとしていた。

彼女なら、彼女なら自分の苦しみを分かってくれる筈だと。

 

 

「よろしくね、秋人」

 

「う、うん!」

 

 

これが全ての始まりだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれだけの時間が流れただろう。

入院と退院を繰り返す二人は、いつしかすっかり顔なじみとなっており一緒に病院で過ごしていた。

おまけに二人とも成長するごとに入院の期間が延びていき、小学生中学年になる頃には家族と同等の時間を過ごしていたと言っても違いなかった。

 

 

「また見てたの? 好きだね秋人も」

 

「いいだろ? 男の子の夢なんだから」

 

 

そう言って秋人はテレビの向こうにある景色に目を輝かせていた。

それをあきれた目で見つめる美夜、画面の中にはマフラーをした仮面の戦士がなにやら怪人達と戦いを繰り広げている。

 

 

「くるよ美夜! ライダーキックだ!!」

 

「はいはい、爆発するんでしょ敵が」

 

 

仮面ライダー、秋人は物心がついた時から特撮ヒーローが大好きだった。体の弱い自分は思い切り動き回る事のできない生活を強いられてきた。

しかし画面の向こうのヒーローは思う存分に駆け回り、跳び上がり、敵と激しい肉弾戦を繰り広げている。

秋人にとってそれは憧れの景色であり、同時に羨ましいと思えるものだった。だから彼は次第に仮面ライダーに憧れを抱いていたのかもしれない。

 

 

「僕もなれるかな? 仮面ライダーに」

 

「うーん、どうだろうね?」

 

 

首をかしげる美夜に秋人は不満の表情を浮かべる。

しかしすぐに画面に向き合うと拳を突き出して画面の中にいるヒーローへ語りかける。

 

 

「俺も仮面ライダーみたいに誰かを守れる様になりたいな」

 

「………」

 

 

それを聞いて少し沈黙する美夜、しかし彼女はすぐにニッコリと笑う。

 

 

「じゃあ、私が見守っててあげる」

 

「あ……う、うん」

 

 

照れた様に笑う秋人、美夜はそれを見るとますます笑みを深くする。

思えば彼女ともあれから多くの時間を経てそれだけの交流を深めていったものだ。

相変わらずますます両親とは会う時間も少なくなっていったが、美夜がいてくれればそれでいい。

中学生二年の頃だったか、そんな事を秋人が思い始めた時だった。やはり世界はそううまくは回転してくれない様だ。秋人はそれを痛感させられる事になる。

 

 

「美夜?」

 

 

事の始まりは突然だった。

その日も二人は病室で他愛ない会話を続けていたのだが、段々と美夜の顔色が悪くなっていくのに秋人は気がついた。

そして直後、美夜は意図が切れた人形の様に倒れたのだ。

 

 

「!」

 

 

すぐに人を呼ぶ秋人、病院内と言う事もあってかすぐに人が駆けつけ美夜は大事には至らなかった。

美夜もすぐに元通りになり、あの時は疲れていただの貧血がどうのこうのと曖昧に笑っている。

秋人ともしても少し嫌な予感はしたが、それ以上彼女に追求する事は無かった。

 

しかしそれからというもの美夜の体調が優れない日が続いた気がする。

彼女は心配ないと笑っていたが、秋人の心にはずっと引っかかる物があったのは事実だ。

 

 

「見てみて秋人、また種をもらったの」

 

「ガーベラ? 好きだね、美夜は」

 

 

彼女は花が好きだった。中でもガーベラが一番のお気に入りらしく、毎年綺麗な花を咲かせてほしいと言っていたものだ。

毎年花を咲かせるガーベラと、いつ命がかれるのか分からない自分達、楽しげに花を語る彼女だったが常にどこか悲しげな雰囲気を見せていたのを秋人は嫌でも覚えている。

 

そして美夜の体調が優れない日が続いていく。もちろんそれは自分もだ、成長するごとに自分達は確実に死へと近づいていく。

秋人も美夜も退院してもすぐ入院と言う事が続き、体力もどんどんと減っていた。日々死へと近づいていく恐怖、しかし何もできない歯がゆさを感じながら二人は毎日を過ごしていくのだ。

 

 

「画面の中の平和は守れても、僕達のことは守ってくれないんだね」

 

 

秋人はそう笑うと画面の中にいるヒーローを見つめる。

向こうも向こうで終わらない戦いにうんざりしているんだろうか?

そして更に時間は流れ中学三年生。二人の病気は良くなる事は無く、特に美夜の進行度は秋人よりも深刻だった。

しかし足掻いたところで何も変わらない、二人は達観したように毎日を過ごしていた。その日の夜も二人は病室を抜け出して誰もいない静かな待合室で他愛もない会話を繰り返す。

 

 

「秋人は……死ぬのが怖い?」

 

 

美夜が悪戯に笑ってみせる。同じく秋人も笑みを浮かべて彼女を見た。

 

 

「怖くないよ、君がいるんだから」

 

「……うん、私も」

 

 

嬉しそうに微笑み頬を染める美夜、いつからだったろうか? 恐怖が二人を結びつけ、そして時間がそれを愛へと変えていく。

美夜は言っていた、秋人と初めて出会った時の事を。あの日秋人は美夜に自殺まがいの事を止められたのだが、実は美夜もまた同じ事をしようとしていたのだと。

それだけじゃない、彼女は秋人とは違って本当に自殺をするつもりだった。

 

 

「だってどうせ死んじゃうんだもん。苦しい思いをする前に楽になりたいじゃない」

 

 

美夜はそう言って笑う。しかし彼女は自殺を止めた、屋上に秋人が来た事で重いが萎えてしまったのだと。

所詮はその程度の覚悟だったのかもね、美夜は思い出をかみ締めるようにして笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ秋人――」

 

「うん?」

 

 

日々は残酷なまでに過ぎていく。秋人と美夜は入退院を繰り返しながら高校一年生になっていた。

時間は同時に異変を齎す。美夜の病気はますます加速していき、一日の大半をベッドで過ごす程に衰弱してしまった。

秋人は毎日飽きずに彼女の病室を訪れずれる。もう美夜も秋人もなんとなくだが分かっていた、もう少しでお別れだと言う事がだ。

だが秋人も美夜も特にその事について話したことはないし、ましてどうしても彼女を助けたいという気持ちは秋人に無かった。

お互い自分の病気の事は昔から知っているもの、もはや何をしてもどうにもならない事だってあると。

 

 

「辛いかい?」

 

「ちょっとね……ううん、やっぱり結構」

 

 

美夜はため息をついて秋人に微笑みかける。

 

 

「ここまで持ってくれただけでも、良かったのよ」

 

 

それは諦め、それは途方もない疲労感、美夜は確実に近づいてくる死にうんざりしている。

長年死の事について考えていた為にいつしか恐怖心は薄れていた事は幸いだったが。

 

 

「死ぬのかな? もうそろそろ」

 

「………」

 

 

秋人としては何とも言えない質問である。

ハッきり言ってしまえばそうなのだろう。いつかは知らいないが、おそらくそう遠くない内に美夜は死ぬ。

そして次は自分だ、彼女が死んで何年かすれば人生は終わりだろう。

 

 

「でも悔いは無いよ、もうやりたい事はやったしね。秋人はどう?」

 

「僕もだよ。キミには色々と感謝してる」

 

 

彼女がいてくれたから希望を知る事ができたのだから。

完全に別れの挨拶とも言える言葉だが、美夜は笑みを浮かべて聞いてくれていた。

 

 

「私も秋人には色々教えてもらったわよ。ファーストキスの味とか」

 

「………」

 

「本当にレモン味だったんだね」

 

「あれは、僕が直前までレモン味の飴を舐めてたからだよ」

 

 

二人はそこで唐突に会話を止める。

これ以上、希望に満ちた言葉は未練を深めるだけだと知っていたからだ。

人は日々、この先に幸せがあると思えるから頑張れる。果てが死と分かりきっている二人にとっては残された時間をどう過ごすのかと言う事と共に、なるべくならばこの世に未練を残さない生き方をしなければならないのだから。

しかし、そんな生き方など――

 

 

「疲れちゃったな……」

 

「………」

 

 

疲れた。

 

 

「だったら――」

 

 

秋人は美夜の手を引いて彼女を無理やりベッドから引き起こす。

目を丸くする美夜、思えば最初に出会ったときとは逆のシチュエーションだったか。

秋人は彼女に向かって悲しげに微笑みかける。

 

 

「終わりにしようか」

 

 

別に、どうだっていいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達は何のために生まれてきたのか。逆に、何のために死んで行くのか。

結局たかだが高校までの人生しかない二人にはその答えを導く事はできなかった。生きる事も死ぬことも、彼らにとってはそう大差ない事なのかもしれない。

生きていれば終わりが来る。死んでもまた終わりが来る。ならばいつ終らせようが、それは自由ではないか?

 

 

「いいの? 秋人」

 

「いいよ、美夜」

 

 

二人は手を繋いで病院の屋上に立っていた。

背後には柵、前方には無限に広がる夜の景色が見える。ここまできたならば後は簡単だ、二人は一歩足を踏み出して全てを終らせればいい。

美夜としては秋人を巻き込む形になってしまい申し訳無いと言っていたが、秋人にとってはどうでもいい事だった。

思うところがあったのだろう、秋人にとって彼女がいない毎日は死んでいる事と同じなのだから。

それに放っておいてもそれ程長くは生きられない、ここで終らせるもの別にそう変わらないと彼は判断した。

 

 

「怖くないの? 飛び降りたら痛いよ、きっと」

 

「大丈夫だよ別に。だって、君がいるんだから」

 

 

季節が季節の為、肌を刺すような風が二人を包み込む。

しかし二人は一つのマフラーを巻いて繋がっている。

手を握り、マフラーが二人を密着させていた為に彼らの心は温かかった。

 

 

「行こうか、美夜」

 

「うん――」

 

 

その時、ふと秋人の脳裏に浮かぶ仮面ライダーの姿。

結局自分は何も守れなかったな、彼の様に強くもあれなかった。

憧れていたヒーローに自分は何一つ近づけなかったのかもしれない。

 

 

(いや、あんなの――……ただの偶像か)

 

 

所詮は偽者なんだから。

二人は頷きあうと一歩足を踏み出し――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ! 愛する二人が自ら命を断つなんて何て悲劇的なのかしら!!」

 

「アハハハハ!! でもねフルーラ、彼らの命は終らないんだよ!!」

 

「「!!」」

 

 

足を踏み出した二人だが、何故か屋上から落下する事は無かった。

何故!? 二人が怯んでいると、前方には二つのシルエットが見えた。目を凝らす秋人と美夜、シルエットは三日月の様な笑みを浮かべて自分達を見ている。

どうやら二人が自分達に気づいた事を理解した様だ。二つの影は秋人たちに近づくと、大げさな動きでお辞儀を決める。

 

 

「ボクはゼノン」

 

「ワタシはフルーラ!」

 

 

頭を下げる二人だが、ゼノンはすぐに顔をあげて秋人達を見つめる。

 

 

「死のうとしてたんだろう?」

 

「え?」

 

「だったらさ、その命――」

 

 

ゼノンは指を鳴らしてオーロラを出現させる。呆気に取られている二人と、黒い笑みを浮かべるゼノン。

確実に何かを企んでいる、その気配を感じて秋人は思わず美夜をつれて逃げようと試みる。

 

 

「ボクらに預けてみない?」

 

 

だが、どうやら遅かったようだ。ゼノンが出現させたオーロラは秋人と美夜を通過すると二人の姿を完全に消し去った。

それを見てアイコンタクトを送るゼノンとフルーラ、二人は笑みを浮かべたまま同じくオーロラを出現させ自らも中へ消えいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな理由があれ、君たちは自らの手で自分の人生を終らせようとした」

 

「自ら死を選ぶ人間は、皆が決して死にたかった訳ではないわ」

 

 

何から逃げるため、何かを終らせるため、自らの意思でなくとも命を断たなければならない状況に陥ってしまう。

自殺と言えど果たしてその人は本当に死にたかったのだろうか? いや、恐らくはそうでない筈。

しかし過程はどうであれ彼らは皆命を失う選択を取った事は事実だ。

 

 

「君達は運命を変える事ができなかった。だから死と言う選択を選ぶしか無かったんだ」

 

「未来を得る為の戦い、選択を増やす力を授けましょう!」

 

 

ゼノンとフルーラは手を繋ぎ、ココに集まった一同に笑みを向ける。

 

 

「「君達は、ヒーローになれる!!」」

 

「………!」

 

 

辺りを見回す秋人と美夜。

いつのまにか自分たちは病院の一角に集まっており、そこには何人もの男女が集まっていた。

年齢はバラバラ、集まっていた病院の一角も不自然な作りをしているとしか思えない。まるで、切り離されたような――

 

 

「ここは今日から君たちの拠点として機能してくれる病院だよ」

 

「え?」

 

 

心を読んだかの様にゼノンが説明を始める。

ココにいる連中はみんな自殺を計画した者達であり、それをゼノン達がサルベージ――つまり回収したと言う事だ。

フルーラは人が自ら死を選ぶ理由として絶望と選択ができないと言う点を挙げた。力があったなら自らが死ななければならない理由を覆せただろうにと。

 

 

「不満があったから。でもどうしようもないから君達は死を選ぶしかなかった」

 

「不本意に、それは望まぬ選択よ」

 

 

ゼノン達の言葉に思わず息を呑む秋人達、気のせいだろうか? 何だかこの空間に来てから体が異常に軽くなった気がする。

同時に目を細めるゼノン、彼は指を鳴らすと秋人達の方向を指差す。ゼノンは言った、今から始まるのは選択を得る為の戦いなのだと!

 

 

「不治の病も、力があったならば可能性と言う光が指し示したのに」

 

「!」

 

 

ゼノンは自分たちの事を知っていた!?

顔を見合わせる美夜と秋人、そんな彼らにゼノン達は協力に伴う補正の説明を開始する。

今から始まる戦いは辛く厳しい物かもしれない、だからこそ秋人達には他の要因では苦しまずに済んでほしいと。

 

 

「君達の病気は無くなった。これからは自由に世界を走り回るといい」

 

「「なッッ!?」」

 

 

その言葉を聴いた時、二人はゼノンが何を言っているのかしばらく理解できなかった。

しかし次第に彼らは自らの体に取り付いていた嫌な重さが消えている事を実感していく。

これはつまり、彼の言ったとおり自分達を取り巻く不治の病が完全に消滅していると言う事――

 

いやいや、しかし二人は疑いの念を忘れない。自分たちの病はもう二度と治る事は無いと多くの人たちから言われていた。

事実医者だって明確な治療を諦めた状態、にも関わらずゼノン達は何をした訳でもないのに自分たちが治ったと――!?

秋人も美夜もゼノン達の言葉を信用する事は無かった。むしろでたらめを言うなと詰め寄った程だ、しかしゼノンは涼しい顔で二人から離れる。

 

 

「信じられないかい? だろうねぇ、ちゃちな君達の歴史と概念じゃこれは理解できないよ」

 

「世界は広いわ! ちゃんとゼノンの言ったことを信じましょう!!」

 

「うッ!」

 

 

デコピンを受ける秋人、だがその事が本当ならばと秋人達は顔を見合わせる。

未だに信じられないという気持ちがあったが、それはすぐに消える事になる。誰だったか、ゼノン達に何故自分達をこの場に連れてきたのかを問うた者がいた。

理由? その言葉を聞いて笑うゼノンとフルーラ、二人は同時にドライバーを取り出してそれを腰へ装備する。取り出すメモリ、鳴り響く音声、光に変わる二人――

 

 

「「!!??」」

 

 

そして二人の姿が別のものに変わる。仮面ライダーとは告げなかったが、ダブルの姿を見て一同に衝撃が走る。

目の前で起こった光景は、自分たちの常識をあざ笑うかの様な物。一方のダブルは驚きなんてお構いなしに声を上げる、演劇じみたその声を。

 

 

「君達は今から多くの世界を巡るだろう。そしてその中で多くの力を手に入れる!」

 

「既にチケットは心の中に。後は貴方達次第と言う事よ!」

 

 

せいぜいその力が貴方の希望となりますように、頑張ってね! フルーラの言葉と共にダブルは姿を消す。

言いたい事だけ言って帰った、そんな印象のダブルだが入れ替わるようにして秋人達の手の甲に走る光と熱。

 

 

「こ、これって――ッ」

 

 

秋人と美夜は手の甲に刻まれた紋章を見て、絶望よりも希望を感じていた。

ありえない事だらけの中で逆を考えてみればそれだけゼノン達が言った言葉も信頼できる。

つまり本当に自分たちの病気は治ったと? それは二人にとって死を越える要素ではないか。

 

 

「な、なんだコレッ!?」

 

「?」

 

 

その時、メンバーの中の一人が声を上げる。見れば彼の影が別の物に変わっていたのだ。

そして窓の外が光で包まれ、世界が移動を開始する。まだ何をしていいのか、どうなっているかも分からない一同だったが――

ここから彼らの試練は始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美夜! み、見た!? あれって――」

 

 

そして最初の試練で秋人はその姿をしっかりと確認する。

仮面ライダークウガ、一番最初に造られし代用品。ともあれ、それは秋人にとっては飛び上がりたくなる程の喜びでもある。

試練とは集まった9人をそれぞれ仮面ライダーへと変身させる為の物。何故仮面ライダーなのかと言う事や、試練を仕組んだ目的などいろいろ気になる部分はあった。

だが秋人にとってはそんな事などどうでもいいと思える程に興奮する要因だ。

 

 

「夢じゃない! 僕は……僕は仮面ライダーになれる!!」

 

 

確かな喜びがソコにあった、確かな希望がそこにはあった。

それにゼノン達が言ったとおり秋人と美夜を苦しめた病は完全に消滅しており、二人は自由に世界を駆け回れる程の身体を手に入れた。

 

 

「美夜――ッ! 僕達はやっと幸せになれるんだよ!」

 

「うん! 嬉しいね秋人……ッ!」

 

 

彼らがどれだけそれを喜んだのか。

生まれたときから死ぬと分かっていた人生、愛した者がいても時間が経つにつれて別れの時が確実に近づいてくる恐怖。

秋人と美夜を苦しめていた孤独や恐怖は試練の中で徐々に破壊されていった。それに秋人にとっては大好きだった仮面ライダーになれるのだと言う思いが渦巻いていたのだ。

 

 

「ゼノン、ありがとう! 僕達を助けてくれて……!!」

 

 

いつだったか、試練の合間に彼とそんな話をした事がある。

 

 

「もしもあの時、君が僕達を助けてくれなかったら――」

 

「気にする事はないよ。それに君の戦いはまだだろ?」

 

 

ゼノンはヘラヘラと笑いながらも、しっかりと秋人の目を見ていった。大切な物を守れる様に、しっかりやれと。

それに同じく笑みを返した秋人。あれから試練も順調に進んでいき、巻き込まれた9人は時間と共にそれぞれの思いを抱く様になっていた。

秋人と美夜も同じだ、初めは仮面ライダーになれると簡単に考えていた秋人だが、徐々にその責任や使命を重んじる様に成長していった。

 

それぞれのメンバーも各世界で築いた絆、愛、それらを受け止めて進化していく。

初めは自ら命を絶とうと思っていたメンバーが、いつからか人の為に戦う様に思いを変えていったのだ。

もちろん9人のメンバー達も年齢や職業の違いがあったり、試練の合間に衝突したりもしたが段々と絆を深めていく。

 

秋人は中でもクウガに選ばれた少年・久我(くが)良空(りく)と友情を築いていった。

良空は家族が妹しかおらず、家族二人で必死に生きてきた。しかしある時、妹が事故にあい亡くなってしまう。

たった一人の家族、それも何よりも幸せを願っていた妹の死は良空を絶望させるには十分だった。彼は妹の後を追うために自らを死を選び、結果ゼノン達に止められてココにいる。

 

 

「今になって思うよ。あの時の俺は馬鹿だった、妹の分まで生きないといけなかったのにさ」

 

 

良空は悲しげに笑う。しかしその目には確かな光を宿していた。

彼は最初にクウガに覚醒した後はクウガの力で仲間を救い、多くの人々を助けてきた。

彼の変身するクウガは秋人が知っているソレと大きくデザインが違っているアナザーと呼ばれる物だったが能力的には変わらない。

さらに良空の戦闘センスもあってか、メンバーでは最強を誇るリーダーとして慕われていた。

 

 

「一度は死のうとした俺たちが、人を助けられるまでになったんだ」

 

 

俺はそれを誇りに思いたい、良空はそう言って笑っていた。

そして頷く秋人、自分はまだ覚醒していないがきっと彼がいれば大丈夫だ。そう思える程の自信を彼はくれた。

 

 

「それに……さ」

 

「?」

 

 

良空は照れた様に笑いながら視線を移動させる。

見えたのは自分たちと同じ様な状況の二人、美夜と彼女の親友である空井(うつい)未央(みお)だ。

細く、超がつく程の長めのツインテールな彼女、自身の耳より少し小さめの鈴型の髪飾りでそれを纏めている。

前髪には眉より少し高い位置まで細いアホ毛が一本目だって見える。

 

スタイルも良く美少女といえるだろう。

しかしそれ故の嫉妬からか、学校で酷いいじめにあっていたらしく人生に絶望して自殺を――と言う事だった。

 

 

「生きてれば……その、いい出会いって奴があるんだなって……さ」

 

「アハハハ、そうだね」

 

 

どうやら良空は未央の事が気になるらしい。尤も、視線を変えたのは彼だけではなかったようだ。

未央も同じように視線を良空へと向けており、二人の視線はぶつかりあい見詰め合う事に。

 

 

「「!」」

 

 

すぐに頬を染めて目をそらす二人、幸いな事に未央も良空の事が気になっている様だった。

9人の中で比較的年齢が近い四人はすぐに仲良くなった、ライダーとして覚醒しているのは良空だけだったが他の三人が覚醒する時も近い筈だ。

秋人の心に宿る願い、人を守り、仲間を助ける力。それが仮面ライダーなのだと。

あの日、幼いときに願った夢は秋人に確かな夢と希望をくれる。画面の向こうにいたヒーローに自分も近づけるのだと!

 

 

「と、とにかく! 俺たちは仮面ライダーになって皆を守るんだ!」

 

「そうだね、僕も早く力を得て。皆を守りたいよ」

 

 

危ない時もあった、命の危険を感じたときもあった。だがこのメンバーならば負ける事は無い。

正義の心が、仮面ライダーの力があれば挫ける事は無い。秋人達はその確かな思いを信じて試練を進めて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所詮は、駒として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぁぁあッッ!!」

 

 

その日は、雨が降っていて――青空は見えなかった。

 

 

「良空ッッ!!」

 

 

覚醒していない未央が叫ぶ。隣では今にも走り出さんとする彼女を美夜が必死に抑えていた。

いつもだったら戦えない彼女たちや、秋人は病院に篭っている。しかしその日はとにかく人を非難させるために人手がいた。

正義感に駆られた自分たちは結局病院から試練の舞台へと出向いていたのだ。

それに、その時の試練は――秋人だったから。

 

 

「あ……あ――ッッ」

 

 

へたり込み、ただその景色をぼんやりと見ているだけの秋人。

雨が全身を濡らしているが身体の中は異常に熱い、心が恐怖に焼かれそうだ。

今だったら鮮明に思い出せるあの時の景色、だが当時は何を見ているのかすら分からなかったかもしれない。

あの日の景色、全ての歯車が狂ってしまった――あの日の。

 

 

「――――」

 

 

秋人の目に映るのは倒れ、動かなくなった仲間だ。

ブレイド、彼はもう心音を刻んではいない。彼は強かった、なのに死んだ。隣ではカブト、龍騎が倒れている。かろうじて息があるが既に二人とも瀕死の状態だった。

思い出すのは――そう。確かあの日はどんな世界かを見て回ろうという日で――

 

それで、街から悲鳴が聞こえて――

そこに向かえば多くの人が倒れていた。自分たちはすぐに救助へ向かったが――

ゼノンは後にこの日の出来事を最悪のタイミングと言った。彼もまさかこの最低の偶然を予測はできなかったのだろう。

市民を攻撃していたのは全くのイレギュラーだったのだから。しかし結果として、このイレギュラーが全ての終わりを告げる。

 

 

「ウオオオオオオオオオオッッ!!」『Exceed Charge』

 

 

ファイズがグランインパクトを発動させて走って行く。

我武者羅に、ひたむきにただ一直線を走って行く。拳に乗せるは渾身の一撃、今までもこの技で多くの仲間を助けてきた一撃だ。

 

 

「ムンッ!!」

 

「!」

 

 

だがその拳は硬い光の壁に遮断される。一枚目を破壊したグランインパクトだが、重なる二枚目で威力が落ちる。

かろうじて破壊した二枚目、しかし次に待つ三枚目のバリアを打ち破る事はできなかった。そして彼に待っていたのは、当然反撃である。

 

 

「グアアアアアアッッ!!」

 

 

敵の尾がファイズの胴体をしっかりと捉えた。

そのまま空中に放り投げられるファイズ、バランスを崩しているに加えて空中にいる為に身動きが取れない。

その隙だらけのファイズに敵は必殺の一撃を浴びせる!

 

 

「必殺シュートッッ!!」

 

「があああああああああああああッ!」

 

 

"トカゲロン"。ショッカーの一員であった彼は世界破壊の対象にこの世界を選んだ。

そして運悪くこの場所が秋人の試練に選ばれた世界だったのだ。後から聞いた話では、秋人が倒すべき相手だった者は既にトカゲロンが殺していたらしい。

 

 

「く、クソッ! くそぉおおッッ!!」

 

 

響鬼だった者が滅茶苦茶に火炎弾をトカゲロンに浴びせて行く。

しかしトカゲロンは再びバリアを形成、全ての火炎弾を防いでみせる。

さらに紫色の光がトカゲロンの脚に宿り、そのまま彼が火炎弾を蹴ると攻撃が反射されて放った火炎弾達が響鬼の身体に命中していく。

呻く響鬼、動きが鈍る彼をトカゲロンは見逃さなかった。彼は再びボールを構えるとそれを――

 

 

「必殺シュートッ!」

 

「―――ゴッッ!!」

 

 

風を切り裂きながら放たれる弾丸が響鬼の胴体に抉り込む。

声を失いながら吹き飛ぶ響鬼、しかし彼の背後にバリアが形成されて強制的に響鬼は動きを止められる。

磔になった彼へ再び放つ必殺シュート、ファイズもベルトをクリーンヒットしたらしく二人は変身を強制的に解除される事に。

 

 

「うそ……」

 

 

震えてうずくまる美夜と未央、秋人。

彼らに突きつけられた事実は一つ、後残っているライダーはただ一人だと言う事。

 

 

「ハァ……ハァッッ!!」

 

 

クウガは構えるとゆっくりと歩いてくるトカゲロンを睨みつける。

無茶よ! 未央が叫ぶがクウガは首を振った。大丈夫、心配するな、上辺だけの言葉を彼は必死に紡いでいく。

 

 

「仮面ライダーは……正義のヒーローなんだろ? お前らを守る力なんだよ……ッ」

 

 

確認するようにクウガは呟く。既に一度必殺シュートを受けている彼だが、ココで倒れる訳にはいかない。

対して余裕を全身からかもし出しているトカゲロン、同時にオーロラが出現して二体の怪人が新たに現れる。

トカゲロン隊であるBAT、ハサミムシ怪人。トカゲロンは二体の怪人に手を出すなと告げるとバリア破壊ボールを構えた。

 

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

良空は最も得意とするタイタンフォームに変身、剣を構えて走り出す。その防御力があれば必殺シュートを受けきれると踏んだのだろう。

しかし彼は知らなかった、トカゲロンの必殺シュートは相手の防御力が高ければそれだけ威力が跳ね上がると言う事を。

直線で走るクウガ、シュートを放つトカゲロン、結果は明白なもの。

 

 

「良空ッッ!!」

 

 

未央の叫びと共にタイタンの装甲が粉々に破壊される。

さらにクウガに命中して跳ね返るボールをトカゲロンはバリアを形成させ、もう一度クウガに当たる様にバウンドさせた。

二度目の直撃、しかし終わりではない。トカゲロンはまたもバリアを形成、バウンドでクウガの身体に何度もシュートを叩き込む。

タイタンでの直撃が続く、そんな威力を耐えられる筈も無い。良空にも限界が訪れ、彼は血まみれの状態で地面に倒れる事に。

 

 

「良空ッ! いやッ! 嫌ァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

半狂乱になりながら未央が良空の元へと駆け寄る。美夜と秋人は素早くアイコンタクトを送り彼女を連れ戻す選択を選ぶ。

なめているのか、それとも無関心なのかトカゲロン隊は走ってくる未央に対してはノーリアクションだった。

未央はそのまま良空の所へ駆け寄ると彼の名前を必死に叫ぶ。秋人達もやや遅れて到着し、彼は美夜達をかばう様に立つ。

 

 

(こ、これは僕の試練なんだ――ッ! 僕が今からでも変身できればッッ)

 

 

必死に力をこめる秋人、彼はこの状況を覆せる奇跡を願った。しかしこういう時に限って何も変化は起きない。

秋人は歯を食いしばり血管が切れる程の力を込める。だがどんな事をしようとも彼が変身する事は無かった。

 

 

「ゴフ……ッ!」

 

「!」

 

 

だが変化は起きる。尤もそれがいい物とは限らないが、状況は変わるのだ。

変身が解除された良空が立ち上がった。タイタンソードを杖代わりにして彼はよろよろと力を込める。

呼吸を荒げ、吐血を繰り返し、彼は尚秋人達の前に立った。何故? 決まっている、彼らを守る為。

 

 

「ほう、まだ立つのですか」

 

「………」

 

 

BATの言葉に沈黙で返す良空、どうやら喋ることすら厳しい様だ。

彼は掠れる声で途切れ途切れに言葉をつむぐ。非常に遅い言葉だったがトカゲロンたちがそれを邪魔する事は無かった。

 

 

「俺――の……仲間…に――……手を――だ…すな――ッッ!!」

 

「ならば来い! 私を殺して仲間を救って見せろッッ!!」

 

「――ァ! ァァァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ソードを構えて走り出す良空。未央が泣き叫びながら彼を止めるが無駄だった。

良空は仲間を守るためにトカゲロン達を倒さなければならない。たとえその可能性がゼロだとしても、最後の最期まで食らいつくしかないのだから。

 

 

「………」

 

 

そして、腰を抜かしてただそれを見るしかない秋人。

この瞬間に初めて彼の心に明確で強大な恐怖が生まれた。良空が負ける訳無い、仮面ライダーが悪に負ける訳がない。

無意識に決め付けていたその方程式が音を立てて崩れて行く。信じていた正義が、圧倒的な力の前に屈する瞬間を秋人は受け入れる事ができなかったのだ。

違う、こんなのは何かの間違いだ。必死に秋人は今の状況を否定するが、結果は彼に残酷な真実を教えてくれる。

 

 

「アアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

それは答え。負ける訳が無いと信じていた彼の正義は圧倒的な力によってねじ伏せられた。

つまり力こそが正義、そして同時に今まで自分たちがやってきた事の意味を秋人は自問していた。

ああ、そうか――秋人は今までの試練を振り返る。そして一つの答えを導き出した。

どんなに正義に燃えていたとして、どんなに覚悟を固めていたつもりだったとして、それはただの綺麗ごとでしかなかったのかもしれない。

 

 

「―――ァ」

 

 

良空の振り下ろした剣をトカゲロンはそのまま受け止める。

クリーンヒットで少しはダメージを与えられた様だが、それでも彼を倒すまではいかなかった。

トカゲロンが彼の攻撃を避けなかった理由は、彼の想いを受けとめると言う信念からなのだろう。

 

 

「見事だ。だが――」

 

「………ッッ」

 

 

トカゲロンはその場で回転し、尻尾の強力な一撃を生身の良空に命中させる。

地面を転がりながら再び未央の前に良空は叩きつけられた。トカゲロンは指をさして言う、最期に言い残す言葉はあるか?

 

 

「未――央……」

 

「やだッ! やだよ良空ッッ!! 死なないで! お願いだから!!」

 

 

少しだけ、ただ少しだけ時間が流れる。

良空は必死に言葉を繋いで自分の思いを未央に伝える。そして自分がどうなるかを理解し、秋人達に謝罪の言葉を向けた。

本当に弱弱しい彼の声、それをただ呆然と秋人は聞き入れるしかない。

 

 

「すま……な―――い」

 

 

元々死ぬ筈だった自分が見るには、良すぎた夢だったのかもしれないと彼は――

 

 

「生きて……く―――」

 

 

良空の瞳から光が消える。

彼がどうなったか、分からない三人ではない。とはいえ認めたくない気持ちもあったが、それをBATがぶち壊す。

 

 

「どうやら、止めを刺す前に終ったようですね」

 

「ああ。良空といったか、見事な生き様だった」

 

 

良空は死んだ。その事実を告げられたも同じだ。

未央は泣き叫び、美夜は呆然とへたり込み、青ざめるのは秋人。

 

 

「うそだ……ろ」

 

 

あの良空が死んだ? 一番強くて、リーダーだった彼が死んだ? 正義を信じて、仮面ライダーとして戦おうといっていた彼が怪人に殺された。

その事実は秋人の心に深い傷と闇をつくる。自分は、死を覚悟していたのか? 自分が犠牲になっても味方を守るという意思はあったのか?

 

 

「さて――」

 

 

トカゲロンはバリア破壊ボールを秋人達に向ける。

ゾッとする秋人、良空が死んだ今、残っているのは自分たちだけ。他の仲間は瀕死状態、戦えない自分たちしかメンバーはいない。

だがトカゲロンは秋人達を逃がすつもりだった。バリア破壊ボールには軽い転送機能が備わっている。

これで秋人達を安全な世界に飛ばそうと考えたのだろう、全ては良空の想いを受けてだ。

 

 

「待ってください。彼らは危険です」

 

「!」

 

 

しかしBATがそれをとめる。彼はこの短い戦闘にて秋人達の異常性を見出していた。

何かが引っかかる、何かがおかしい。明確な理由はないにせよBATはこのまま秋人達を逃がすのを良しとしなかった。

 

 

「良空さんの思いを聞き入れるのは自由ですが、何もそれは約束した訳ではない」

 

「むッ! しかし――」

 

「彼らは危険だ。ココで排除しなければならない」

 

 

BATの提案に渋るトカゲロン。ならばせめて男だけでも、そうBATは言って秋人を見る。

 

 

「ヒ……ッ!」

 

 

狙われている。秋人の心に土石流が如く勢いで恐怖が流れ込んできた。

その時に改めて感じる答え、試練だの補正だの仮面ライダーだのと言っていたが結局自分はただの弱い人間じゃないか!

良空はヒーローだと思っていた。だけど彼もただの人間だったから負けて死んだ。そして自分は良空よりも弱い人間だ。

そんな事を思ったとき、BATが放つ機械蝙蝠が自分の肩に着弾する。

 

 

「う、うわあああああああああッッ!!」

 

 

痛い、痛い痛い痛いッッ! パニックになる思考と明確に感じる痛み。

それは補正を通り越して感じる様だ。なぜならばこの痛みは死へと直通するものだから、それだけリアルに感じてしまうのだろう。

痛みは秋人のフィルターを残酷に剥がしていった。

 

どれだけ厳しい試練をクリアしようとも、考えてみれば今の今まで喧嘩すらまともにしていなかった自分たちが殺し合いの場に引きずり込まれたのだ。

文字通りの命の奪い合い、それは大きな錯覚を生ませていた。

 

 

(僕は弱い人間だったんだ……!)

 

 

それを忘れていた。テレビで見ていたかっこいいヒーローにはなれない。

錯覚していただけだ、言い方を変えるならば今までの自分は――

 

 

(ただ、仮面ライダーごっこで遊んでいただけ――ッッ)

 

 

正義に対する思いはあっても、死への覚悟が何も足りていなかった。

死を軽視した自分の仮面ライダーに対する思いはお遊び、学芸会レベルの物だったのかもしれない。

少し前まで何があっても守ると決めていた仲間たち、しかし秋人には何の力も与えられず、誰も守れずに今を迎えている。

守れない弱さ、救えない虚しさ、死と言うリアルが秋人の心を殺す。誰も死なないと思っていた。自分が守れればそれで済むと。なのに……

 

 

「待って!!」

 

「「「!!」」」

 

 

その時だった、美夜が秋人の前に立ちBATの攻撃を受けたのは。

機械蝙蝠が彼女の肩に歯を突き立てる。そこで攻撃を中断するBAT、かろうじて男だけでも殺すと言う事でトカゲロンから了承を得たのだ。

彼女は傷つけられなかった。

 

 

「邪魔をするのなら、貴女を殺します」

 

「………ッ」

 

 

唇をかむ美夜、実は――

 

 

「どうしても、駄目なの?」

 

「ショッカーの邪魔をする人間は、皆殺しという決まりなんですよ」

 

 

彼女もまた、フィルターの外れた人間だったのだ。

 

 

「だったら――お願いがあります」

 

「?」

 

 

美夜もまた正義の心を持ち、人を守るために仮面ライダーになりたいと思っていた。

だがそれはフィルターだった。彼女が本当に守りたかった者は人じゃない、それを失ってまで彼女には戦う理由は無いのだ。

彼女が守りたい者はただ一人――

 

 

「私達を、ショッカーに入れてください」

 

「なッ!!」

 

「………!!」

 

「「!」」

 

 

頭を下げる美夜、絶句する秋人と未央。ましてトカゲロン達も彼女の言葉に動きを止めた。

美夜が守りたいのはただ一人、秋人だけだ。もちろん彼女は他のメンバーや一般人全てを守りたいと願っているし、その為にライダーになりたいという気持ちに嘘は無い。

しかし秋人を失ってまでその想いを貫く事はできなかった。秋人がいたから彼女は正義をの心を持つ事ができたのだ。

彼を助けるにはこうするしかない、自分は助かるらしいが彼を一人でこの道に行かせる事もしないと。

 

 

「本気で言っているのか?」

 

「……はい」

 

 

トカゲロンとBATは顔を見合わせ、すぐに秋人へ視線を移した。

美夜が彼を守る為にとった選択だと言う事をトカゲロン達も理解しているからだ。

そして当然秋人もだ、彼は拳を握り締めて良空の死体を見つめる。

 

 

「―――……ッッ!」

 

 

正義を、仮面ライダー、ヒーローに。人を、皆を守る力を。秋人の中に様々な思いが駆け巡っていく。

そして最後に一筋の雫が彼の目から頬を伝う。

雨じゃない、彼自身の涙。

 

 

「僕に――……ッッ」

 

 

秋人は確信した。この瞬間に――

 

 

「僕に……ショッカーの力を――ッ! どうか……!!」

 

 

この瞬間、秋人の"仮面ライダーごっこ"は終わりを迎えた。

全ては夢だった、自分が見るには出来すぎた幻想だったのかもしれない。彼もまた美夜だけは失いたく無かった。

それに、死ぬのは――怖い。ああ、そうか。だから変身できなかったのかもしれないな。

 

 

(僕に……ライダーになる資格なんて最初から無かったのか)

 

 

跪く秋人と美夜、彼等の靴を舐めてでも生き延びたかった。

土下座をして命乞いをすれば助かるなら迷わずそうするのだろう。

そんな二人を見てBATは拍手を行う。

 

 

「素晴らしく賢明な選択です。貴方たちはコレから改造手術を受け、ショッカーの一員として生まれ変わる」

 

 

貴女はどうします? BATは良空の死体を抱きしめている未央を見る。

彼女はBATの言葉を聞いて乾いた笑みを漏らす。どうします? 何を言っているんだと、彼女は鋭い眼光でBAT達を――

秋人達を睨みつける。

 

 

「ふざけるなッ! 私は絶対にお前らを許さないッッ!!」

 

「未央……」

 

 

未央が言うお前らの中には、当然秋人達も含まれている。

 

 

「良空を殺した奴の仲間になるなんて……この裏切り者ッッ!!」

 

「「………」」

 

 

目を反らす秋人と美夜、決断をした後だが二人には良空の死体を見つづける事ができなかった。

もちろん未央の顔を見る事もできない。決めた筈なのに、未だに自分たちは迷うのか?

対して未央は心に大きな決意を持った様で――

 

 

「私は絶対にお前らを許さない! 必ず……必ず復讐してやるッッ!!」

 

 

良空を抱きしめている彼女は、良空の血で染まっていた。

弾かれたタイタンソードを拾い上げると、未央はそれをトカゲロンたちに向ける。

ココで戦おうと言うのか? BATはヤレヤレと首を振――

 

 

「ちょっと待てぇえええええええッッ!!」

 

「「!」」

 

 

猛スピードで乱入してくるバイク、そこに乗っていたのはゼノンとフルーラだった。

彼らもイレギュラーの事態に自己判断で介入してきたと言う事だろう。本来はゼノン達『眼』と呼ばれる立場は試練に介入する事を基本的に禁じられている。

しかし二人はそれでも駆けつけた。ショッカー介入は彼らにとって全く予想していなかった事態、すぐに駆けつけたのだが間に合わなかった様だ。

ゼノン達はバイクから飛び降りると辺りを見回し状況を把握。別の用事で世界を離れていただけに、まさかこんな事になっているとは思いもよらなかったようだ。

 

 

「せめて君たちだけでも――ッ!」

 

 

ゼノンはオーロラを出現させて未央や瀕死の仲間達を病院に転送させる。

強制転送、ゼノンはさらに秋人達にも同じようにオーロラを飛ばすが――

 

 

「我々と同一の物でしょうか?」

 

 

BATが指を鳴らすと砂オーロラが出現、ゼノンが飛ばした物を遮断して粉砕する。

厄介な、敵も同じの威力で強制移動を打ち消してきた。だったらと帽子を取るゼノンとフルーラ、まさかこんな事になるとは――

 

 

「今ならまだ間に合う! 早くコッチに戻るんだ!!」

 

「ソッチにだけは行っては駄目ッッ!!」

 

 

叫ぶゼノンとフルーラ、そこにいつもの余裕は無かった。

二人は手を伸ばして秋人達を連れ戻そうと意思を示す。今ならまだ間に合うか、秋人達は先ほどの未央を思い出す。

鬼のような形相で自分達を睨む彼女、自分達を守ろうと戦った良空、そして信じていた仮面ライダーの淡い力。

崩れていった、自分の信じる正義。

 

 

「いや――」

 

 

そして、この道を選んだ自分達。

 

 

「もう、遅いよ」

 

「ッ!!」

 

 

先ほどまで沈黙を貫いていたハサミムシ怪人が咆哮をあげて走り出す。

彼は腕をクロスさせると衝撃波を発射、ゼノン達は素早く変身を済ませて衝撃波を回避するが、既にBATはその巨大なマントで秋人達を包み込んでいた。

翻すマント、すると完全にBAT達の姿が消える。

 

 

「クソッ!!」『トリガー! マキシマムドライブ!!』

 

 

せめて何か一発でも!

ダブルは必殺技であるトリガーエクスプロージョンを発動、しかしそれはトカゲロンのバリアに阻まれて何の意味も成さない攻撃となる。

そのまま着地するダブル、そこへハサミムシ怪人の衝撃波が重なり地面が爆発を起こす。

奇襲に怯むダブル、だが煙が晴れた時にはトカゲロンもハサミムシ怪人も姿を消しているのだった。

 

 

「――クソッッ!」

 

 

地面を殴るダブル。

まさかこんなに早くショッカーと接触するとは思わなかった。それに秋人達も――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして彼らの試練は終わりを迎えた。

介入の判断をとったゼノン達だが、フェザリーヌは彼らを叱る事は無く、むしろ試練参加者が裏切る可能性があるのだと言う初めての事例に感心していた程だ。

ナルタキはと言うと、残念だと言うくらいで後は『選択』を持ちかけるくらいだ。彼の言う選択とは――

 

 

「じゃあ……リタイアで、本当にいいんだね?」

 

 

あれから学校に転送された生き残り組み、しかしその後も瀕死の数名が命を落としてしまう。

生き残った彼らが選ぶ道は、ナルタキが提示したリタイアだった。自分達はもう戦えない、力も、気力も、正義も圧倒的な(あく)の前に壊された。

 

 

「ふざけないでよ! リタイアなんて嫌ッ! 絶対に嫌ぁあッッ!!」

 

 

その中で最後まで未央はリタイアを拒んでいた。

リタイアを選んでしまえば変身する事は二度とないし、まして記憶が消える為に復讐など絶対にできなくなる。

良空が死んだ時の記憶が都合のいいものに摩り替えられて、秋人達の記憶も無くなってしまうから。

しかし彼女以外のメンバーは皆リタイアを選んだ。それにこれは彼女の為でもある、どう考えても一人でショッカーを倒すなんて不可能だ。

結果としてメンバーは嫌がる彼女を気絶させてその間にリタイアの手続きを行うのだった。後悔は無かった、皆。

 

 

 

そして彼らの旅は終った。変身機能を剥奪し、記憶を変えて彼らは安全な世界へ飛ばされる。

ゼノン達としては多少残念だと思うところもあったが、どんな選択を選ぶのかは彼らの自由だ。それに心残りなのは――

 

 

「秋人……」

 

「美夜――」

 

 

凄まじい虚無感が二人を包む。

普通に彼等が死ぬのならば何も感じなかったかもしれない。

けれども、裏切られると言う行為は少なくとも小さな引っ掛かりをゼノンとフルーラの心に生み出すことになる。

 

 

「アハハハハハハ!」

 

 

しかしまあ……。

 

 

「所詮は死のうとしていた連中、せっかく私達がその命を有効活用してやろうと思っていたのに――!」

 

 

魔女にとっては、何のことは無い。

 

 

「それもヒーローに憧れていた者が敵に付くとは思わなかった。やはり人間は時に大きく予想を外れた行動をしてくれるから面白い」

 

 

それもまた話を盛り上げるためのスパイス程度に映っただろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れ、それだけ試練は続いていく。

例外なくサポーターに選ばれたゼノン達。彼らはその日も焦りの表情を浮かべてハードボイルダーを走らせていた。

それはまたもイレギュラー、試練の途中にショッカーが介入してきたのだ。ゼノン達の脳裏に秋人達の姿が浮かぶ。

もう二度とあんな人間を生ませてはいけない、ゼノン達はそんな思いを胸に現場へ到着した。

 

 

「!」

 

「あれは――?」

 

 

そこにはあの時と同じく、参加者全員が瀕死の状態で転がっており中心には怪人の姿があった。

舌打ちを放つゼノン、彼は再び強制移動を発動させて参加者全員を経典へと転送させる。

そして、佇む三体の怪人をにらみつけた。

 

 

「あら? 新しい獲物が来たわね」

 

「なんだっていいさ。敵だったら殺す、それだけだろ」

 

 

そう笑うのはショッカーの改造人間SNAKE、そして隣では同じく改造人間COBRAがドッシリと構えている。

彼の隣ではデザインが少し違う、白黒の怪人スクイッドオルフェノクが武器を構える。

 

 

「―――ッ」

 

 

三体、さすがのゼノン達も全員を倒すのは不可能と踏んで撤退の意思を固める。

しかし何か違和感と言うか、引っかかる物を感じる様な――

 

 

「ッッ!!」

 

 

それはフルーラも同じなのか、彼女はデンデンセンサーを構えてSNAKEを確認する。

何を? ゼノンが口を開くと、彼女は少し唇を震わせて小さく呟く。それはSNAKE達には聞こえない程の音量で。

 

 

「美夜……っ」

 

「!!」

 

 

ゼノンはその時違和感の正体を理解し、かつ何があったのかも察する。

思えばCOBRA、彼は仮面で素顔を隠して声もエコーが入っているが――間違いない、秋人だ。

 

 

「「………」」

 

 

ゼノンとフルーラは先ほどまで浮かべていた撤退の二文字を頭から消去する。

自分を見ても何の反応も示さない彼らを見るに、おそらく脳も何かしらの改造を受けたのだろう。

そして先ほどの言葉を聞くに、もう彼らの意思は完全にショッカーの怪人として機能している。自分たちの知っている秋人と美夜はもういない、それは誰のせいか?

 

 

「ワタシ達の責任ね……」

 

「ああ、だから――」

 

 

二人はドライバーを取り出して装備する。

そして取り出すメモリ、勝てるかどうかは怪しいラインだが、ここで逃げる訳には行かない。

間に合わなかった自分達、あの時の責任を今ココで清算しようじゃないか。

 

 

「美夜――」『ヒート!』

 

「秋人――」『トリガァ!』

 

 

自分勝手で最低なけじめのつけ方だ、思わずゼノン達はニヤリと笑ってしまう。

だから恨んでくれ、憎んでくれ、しかしこうする事でしかもう二人を守る事はできないとゼノン達は思う。秋人の為に、美夜の為に――

 

 

「貴女を」

 

「君を」

 

 

そして、自分達の為に。

 

 

「「殺す」」『ヒート・トリガー!』

 

 

ダブルに変身する二人、彼はすぐにトリガーマグナムの引き金を引く。

反応するのはCOBRA、彼はSNAKEをかばう様に立つと向かってきた弾丸を拳で弾いてみせた。

反動で少し後ずさるが、それでも高威力のヒートトリガーを弾いたのは予想外である。

 

 

「だったら出力を100に!」

 

『了解よゼノン!』

 

 

ソウルサイドが光り、弾丸の威力が跳ね上がる。再び弾丸を放つダブル、先ほどとは違い巨大な一発が放たれてダブルも反動で後ろへ下がっていく。

これは危険と判断したのか、地面を転がり炎弾を回避するCOBRA。甘い、そこを狙ってダブルは既に照準を合わせて――

 

 

『待ってゼノン! SNAKEがいないわ!!』

 

「となると――ッ!」

 

 

上空に視線を移すダブル、すると見えたのはSNAKEの脚。

彼女は槍のごとく勢いでドリルの様な回転蹴りを仕掛けていたのだ。

なんとかバックステップを行っていたおかげで直撃は避けたが、そこから迫る激しい蹴りの乱舞には対抗できない。

ヒートトリガーは出力を上げると同時に連射性能が下がっていく。素早い動きをしてくるSNAKEには不利だった。

 

 

「だったら――ッ」『サイクロン・トリガー!』

 

 

文字通り後ろへ飛ぶダブル、風を纏った彼は空中に止まり猛連射でSNAKEを狙う。

だがCOBRAから受け取った鞭を持っていた彼女は、それを振るい風の銃弾を打ち消していく。

そうしている内にCOBRAがSNAKEの元へ、彼が発生させる黒い風が全ての銃弾を無効化させる。

 

 

「フッ!」

 

「!」

 

 

さらにCOBRAの肩を蹴り、反動で飛び上がるSNAKE。そのあまりのスピードにダブルの反応が送れ、結果彼はSNAKEの蹴りで打ち落とされる事に。

瞬時立ち上がるダブルだが、SNAKEは尚も鞭で激しい乱舞を仕掛けてくる。これはトリガーでは対処できない!

ダブルはジョーカーのメモリをタッチ、サイクロンジョーカーへ変身して鞭を素早い蹴りで弾いていく。

 

 

「ウオォオオオオオオオオオッッ!!」

 

「くっ!」

 

 

入れ替わるようにして飛び込んできたCOBRA、彼の拳をダブルはガードで受け止める。

 

 

「!!」

 

 

ガードをしているにも関わらず全身に響く衝撃と痛み。

身体の中を殴られた感覚に、ただのパンチでは無い事にダブルは気づいた。

それを確かめる為に彼はヒートージョーカーに変身、高威力の拳でCOBRAを迎え撃つ。

 

 

「うらァッッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

 

ダブルの拳とCOBRAの拳がぶつかりあう。するとまたも全身に走る衝撃、その威力に思わずダブルの姿勢が崩れる。

そこへ蹴りを打ち込むCOBRA、ダブルは苦痛の声をあげて後ろへ下がっていく。

 

 

(間違いない、固定ダメージとか……そんなトコかな!)

 

 

厄介な力だ。ダブルはヒートメタルにフォームチェンジ、メタルシャフトでCOBRAと接近戦を繰り広げる。

そうやってしばらくは均衡の戦いが続けられていたが、敵は一人じゃない。SNAKEは鞭でダブルの脚を取り、一気に引き倒す!

 

 

「ハアアアアアアッッ!!」

 

「クソッ!!」

 

 

そこへ打ち込まれるCOBRAの拳、メタルの防御力も彼の固定ダメージの前では何の意味も成さない。

しかも脚が鞭にとられている為に回避もままならない状況だ、ダブルは舌打ちを行いダメージの中でメモリをチェンジする。

 

 

『ルナ・メタル!』

 

 

ルナは変身時に自分に掛かっている状態異常を全て無効化する。

それはもちろん拘束もだ、さらに伸縮自在のメタルシャフトを使いCOBRAの手を絡めとる。

動きが止まる彼の拳、その隙にダブルは蹴りでCOBRAを突き飛ばすとゆっくりと立ち上がった。

余裕だな、そういいながら迫るCOBRAとSNAKE。しかし突如恐竜の咆哮と共に白い閃光が襲来、それはCOBRA達に命中してダウンを奪う。

 

 

『腕を上げたじゃない、秋人……美夜――』

 

 

静かに呟くダブル。そのまま駆けつけたファングメモリを展開させてドライバーへセットする。

その力を彼らは望んだのか? きっとそうじゃない筈だ、だがそれを選ばざるを得なかった。

自分が彼らに伝えた言葉、力が無いから選択肢も狭まってしまう。

 

 

「もう、終わりにしよう」『ファング・ジョーカー!』

 

 

現れる白と黒のダブル、彼は立ち上がる二人へショルダーファングを投擲。

黒の斬撃がSNAKEに襲い掛かる。動きを止めるSNAKE、ダブルは猛スピードで走り抜けてCOBRAに襲い掛かる!

 

 

「グガァアアアアアアアアッッ!!」

 

「ウッ! ぐあっ!!」

 

 

狂ったように拳や蹴りをCOBRAに命中させていくダブル。

もちろんCOBRAも反撃の拳を当てている為、固定ダメージがダブルに入っている筈だが彼らに怯む気配はない。

痛みを越え、野獣の様にダブルは拳を振るった。

 

 

「グハッ!!」

 

 

倒れ転げるCOBRA、その隙にダブルはファングメモリの角へ手を掛ける。

同時に放つ咆哮、全てを振り切る悲しみの咆哮を。

悔いを断ち切る咆哮を!

 

 

「『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」』

 

 

ダブルは角を三回弾く。

 

 

『さあ!』

 

「罪の清算を!」『ファング! マキシマムドライブ!!』

 

 

飛び上がり回転を始めるダブル。

青い恐竜のエフェクトが彼に纏わりつき、彼はCOBRAへ狙いを定める!

 

 

「『ファング――!!』」

 

 

ファングが口を開きCOBRAに襲い掛かる。

何とか立ち上がるCOBRAだが既に範囲内、回避は不可能。彼は諦めてガードを行う事に。

それをあざ笑うダブル、ガード? 甘い、牙は防御を食い破るぞ。

 

 

「『スト――ッッ』」

 

 

許せ、秋人、美夜。もう一度ダブルは心の中で謝罪を行う。勝手に巻き込んでおいて、勝手に殺す。

だがそれがショッカーの道を選んでしまった二人に対する救済の方法だ。

選択がそれしか無かったとして、その道は地獄の道だと。

 

 

「『ライザァアアアアアアアアアアアッッ!!』」

 

 

巨大な牙がCOBRAを噛み砕こうと力を振るう。

必死に踏ん張るCOBRAだが、ファングの顎は容赦なく彼に襲い掛かる。その内、バキン! と音を立てて壊れ始めるCOBRAの仮面。

 

 

「………」

 

 

COBRAは遂に膝を着いた。同時に沈黙を守っていたスクイッドオルフェノクが動く。

彼は杖を出現させると青い炎をそこに纏わせて投擲、ダブルへと命中させる。

 

 

「無駄さぁッ! 死ね、秋人ッッ!!」

 

 

少しぶれるファングストライザー、しかしダブルは尚も力を込めた!

そして完全にCOBRAの仮面が壊れ、牙が彼の頭部に掛かる。素顔はもちろん秋人、ダブルはしっかりと彼の眼を見て力を込め続けた。

 

 

「グぅううぅうううぅう……ッッ!」

 

「『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』」

 

 

終わりだった、ファングがCOBRAを噛み砕く!

粉々になるCOBRAの装甲、完全な秋人に戻った彼は良空と同じく血まみれで地面に倒れた。

着地するダブルとすぐに秋人へ駆け寄るスクイッド、SNAKE。ダブルはすぐにSNAKEへ必殺技を放とうとしたが、その前にスクイッドが煙幕を発射。

ダブルの視界がブラックアウトする。

 

 

「クソッ! うざったいね!!」

 

 

そして煙幕が晴れたとき、そこにはもう秋人達の姿は無かった。

拳を握り締めながら変身を解除するダブル。悲しげな風がフルーラの髪を揺らす、彼女はため息をついてゼノンを見た。

 

 

「……殺せなかったわね」

 

「ああ、そうだね」

 

 

二人は、寸での所で力を弱めてしまった。それはスクイッドの妨害ではなく、彼らの意思でだ。

どんなに割り切っていたとしても、実はそうでなかったと? 秋人の姿を見た時に二人の中に躊躇が生まれてしまった。

結果、彼らはファングストライザーの威力を弱めてしまう。

 

 

「「………」」

 

 

その甘えが彼らを逃がしてしまったか。

二人は首を振るとオーロラを出現させたのだった。

 

 

「いつからか、情を持ってしまったのかもしれないわ」

 

「だろうね。ボクらも所詮は人間か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、ダブルたちの一撃はCOBRAに――秋人に大きな変化を齎していた。

ファングの牙が秋人の頭に掛かった時、彼の脳に大きなショックを与えた。そして彼は夢を見る。

自殺をしようとした時に、先ほど戦った二人がやってきて――それで試練を行うと……

 

 

良空、未央、メンバー、そして――

 

 

「僕は……今まで、何を――」

 

 

ダブルの攻撃は、彼の記憶を呼び覚ました。

秋人はショッカー基地で今までの出来事を全て思い出す。

試練の事や、自分がショッカーに入った事。そしてそこで改造手術を受けて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたのCOBRA、難しい顔をして」

 

「……いや、ちょっと昔の事を思い出していただけだよ」

 

 

そして今に至る。COBRAは全てを知って尚もショッカーの駒を続けていた。

 

 

「そう、私は忘れたわ」

 

「………」

 

 

そしてSNAKEは、美夜はまだ思い出しては無い。

その気になれば美夜の記憶を戻せるのかもしれない、その気になれば司達の方に――

いや、あの時に自分はこの道を選んだ。歪んだ道と知りながらも美夜を失いたくないと、死にたくないと願ったから。

そして力という全てを知った、仮面ライダーに憧れていた自分に真実を教えてくれた筈だ。

 

結局、強いものだけが正しい。そしてその強いものとは大ショッカーの事だ。

COBRAは司の事を思い出して自虐的な笑みを浮かべる。聖司、昔は彼の様に純粋な正義を自分は信じていた。

 

 

「………」

 

 

彼は生きているだろうか? そして生きていたのなら、どんな選択を取るのだろう?

COBRAはそれを知りたいと思う気持ちを確かに感じ、歩き出すのだった。

 

 

 

 





仮面ライダーストライクってのは何ぞやって人がいれば一度ググって見てください。
すっごく簡単に言えば海外版の王蛇でございます。
あとSNAKEもBATも見た目はファーストのものです。

はい、とまあそんな感じですね。
次からはディケイドの試練編が始まります。
一応明日か明後日には更新予定。


ではでは

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