仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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あとがきにちょっとした映画のネタバレ感想書いてます。
結構なバレなのかなと思うので見ていない人や苦手な人は注意してください。

あと感想を書いてくれると言う方は本当にありがいのですが、そこで映画のネタバレを書くと言うのもご遠慮ください。
ではどうぞ。


第68話 ボーダーライン

 

 

ここで少し時間は巻き戻る。

 

 

「ああ、ついたぜ! 大丈夫か二人ともッ!?」

 

「は、はい……ッ! 私は大丈夫です。真由ちゃんは?」

 

「ボクも…平気……だよ」

 

 

ディケイドと別れたガタックは無事に夏美と真由を学校に送り届ける事に成功した。

駆けてくるのは学校に残っていた翼、双護、葵。彼らは既にアームドウエポンズから異物がいると言う情報は得ていたものの事態は全く分からない状況にあった。

すぐに事情を説明する鏡治、突如オーロラが各地に出現してそこから謎の怪人が現れたのだと。

 

 

「この世界は休憩の為に用意されたものじゃないの!?」

 

「そう……だと、僕達は錯覚していたのかもしれない」

 

 

メガネを整えながら汗を流す翼。

確かにゼノンはこの世界で待機しておいてくれと言っていたが何もこの世界が休憩の世界だとは一言も言っていない。

今まではしっかりと告げていたのにも関わらず。つまりそれは自分達が勝手に勘違いしていただけだと言う事、ならばこの世界もまた何かの試練だとでも言うのか?

 

 

「とにかく街に怪人が現れたなら放っておけない、僕は行くよ」

 

 

翼は葵に夏美達を任せると言い、バイク置き場に向かって走り出す。

尤も、この後に彼はバットオルフェノクに完敗する事になるのだが。

一方それを見て頷き合う双護と鏡治、二人もまた真由たちに別れを告げると学校の外へと飛び出した。

すぐに駆けつける自動操縦のエクステンダー達、二人はそれに乗り込むと一気にアクセルを入れて加速していく。

 

 

「酷いな……」

 

「ああ、そうだな。もう街がめちゃくちゃだ――ッ!」

 

 

既に道や景色は崩壊の一途を辿っていた。あちこちに鉄球が見えるのは何故なのだろうか?

それに異様に赤く染まっている景色、これはまさか――

 

 

「ッ!」

 

 

双護の脳裏にフラッシュバックする光景、崩れ行く瓦礫と埋もれるのは自分。そして大切な大切な彼女だった。

あの時の自分達が発した言葉がどこからともなく聞こえてくる気がして。否、それは本当に双護の心を突き刺す言葉なのだ。

今も誰かがそれを叫んでいる。

 

 

「きゃああああああああああああ」

 

「わあああああああああああああ」

 

 

またどこかで爆発が聞こえる。

崩れ行くビルと瓦礫に潰される人達、ショッカーの猛攻は時間と共にさらに激しさを増していった。

双護と鏡治はバイクから降りると声がした方向へと足を進め、そこで再び双護の目が見開かれた。

何故ならばそこにいたのは巨大な鉄球に押しつぶされていた死体だったからだ。

同じく目を見開く鏡治、転がっているのはドロドロに溶けている死体やミミズのリングが首についている死体。

そのあまりにも無残な姿を見て鏡治は言葉を失った、これは全て大ショッカーが行った大量虐殺。

理由など無き無慈悲なる殺人、救済と名のついた地獄ではないか。

 

 

「………」

 

 

双護は鉄球に潰されていた死体を見る。

真っ赤に染まったウエディングドレス、腕だけの花婿。

さらに二人の身体が浮き上がるのではないかと思うくらいの衝撃が起こる。

見えたのは近くのビルに何かが着弾して崩壊していく景色だ。瓦礫が崩れ落ちて下にいた人が潰されていくのが容易に想像できる。

それは自分が過去に見た景色と同じものをつくると言う事だ、あの地獄を大ショッカーが巻き起こすのか。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

二人は無言を保つ。

ジッと、ただひたすらにジッと死体を見ていた。

助けを求めるようにして伸ばした手がある。必死に生きたいと願った想いがある。助けたいと望んだ想いがある。

それを平気で踏みにじるショッカー、それを平気で壊す大ショッカー。無言で立ち尽くす二人だがそこで異変が起こる。

彼らを狙うようにして上空から鉄球が飛来してきたのだ! このままでは二人とも押しつぶされ――

 

 

「鏡治……」

 

「ああ――」

 

 

鉄球が二人にぶつかる音が聞こえる。

しかし二人は何食わぬ顔で立っていた、一歩も動かずにその場に立っていた。

唯一違う点があるとすれば二人の身体が硬い装甲に覆われている事、双護も鏡治も別人ではないかと思うほど冷たい声を放っていた。

二人が見るのは鉄球が飛んできた場所、そして血の足跡が続く場所だ。

双護ではなくカブトの、鏡治ではなくガタックの中で遂にその理性が音を立てて崩れ去った。

溢れるその感情は彼らが嫌う物の筈だが今はその想いに身を任せてしまいそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、もしかしたら既に溺れていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺す――ッッ」『Cast Off』

 

「ああ、ブチ切れたぜ大ショッカァァァ……ッッ!!」『Cast Off』

 

 

その"殺意"、二人は激情の想いを胸に超加速の扉を開いた。

全ての悲しみを追い抜く為に。そして奴らにこの想いをぶつける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Clock Over』『Put On』

 

「ムッ!?」

 

 

進撃を続けていたハエトリバチ隊の前に突如謎の人影が現れた。

明らかに普通の人間ではない為に進行を止めるハエトリバチ、しかしどこを見ても黄金の大鷲の刺繍はない。

一応問いかけてみるが人影は無言でコチラに向かってきた、警告無視はつまり敵と同じだ。すぐにヤモゲラスが光線中を構え引き金を引く!

 

 

「ケケケケケケケ!!」

 

「………」

 

「ケケ――……ケ?」

 

 

当たれば白骨化させるデンジャーライト、しかしそれは確かに命中したものの男を止める事はできなかった。

何故白骨化しない!? ヤモゲラスは焦りからか何度も引き金を引いて光線を当てていく。

だがどれだけ当てても男が骨になる気配はない、まして男はどんどんヤモゲラスに近づいていき――

 

 

「ケ……」

 

 

目の前にやってくる男、ヤモゲラスは一歩後ろに下がろうと――

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

「ゲェエエアアアアアアアアエエオェゲガアアアアアアアッッッ!!」

 

 

男・ガタックは思い切り踏み込んでヤモゲラスを殴りつける!! えぐりこむ拳に顔面の形状が大きく変わるヤモゲラス。

それだけではなく拳が命中した瞬間にガタックはキャストオフを発動、全ての装甲をヤモゲラスの身体にぶつけて大きく吹き飛ばした。

 

 

『Change・StagBeetle』

 

「「!!」」

 

「ゲェッ! エゲェエゲェ……ッッ」

 

 

吹き飛び瓦礫の山に直撃するヤモゲラス、そこへ次々に襲い掛かる装甲の雨。

全身を打ちのめされたヤモゲラスは歪んだ顔を抑えて苦しそうにもがいている。

衝撃が強すぎたのか腕や脚は既におかしな方向を向いて力なく垂れ下がっていた。

さらにベルトに刻まれた黄金の大鷲にヒビが入っていき――

 

 

「ゲゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 

そして爆発、木っ端微塵になるヤモゲラスと事態の危機を察知した怪人たち。

この男は危険だ、すぐにミミズ男が殺人リングを取り出してガタックを狙う!

 

 

「死ねェッッ!!」

 

 

その言葉と共に放たれるリング。

それは瞬時に彼の首に装着されて命を奪う攻撃の筈、しかしミミズ男は彼の力を知らない。

その超加速の世界を彼は理解する事ができないのだ。

 

 

「………クロックアップ」『Clock Up』

 

「!?」

 

 

瞬間ガタックの姿が消えてリングはそのまま地面に落ちるだけ。

何が起こった!? 確実に命中したと踏んでいたためミミズ男は思わず間抜けな声をあげてしまった。

いったいガタックはどこに消えたというのか? 彼はすぐにガタックの姿を目で追いかけるが、それをガタックが待つわけも無かった。

 

 

「あがぁあぁああがあぁあぁあああがああがががあッッッ!!!」

 

 

次にミミズ男があげた声は断末魔に近い物、気がつけば全身に何発も拳を打ち込まれている所だったのだ。

幾重もの衝撃が身体を包み彼は思わず叫び声をあげてしまうミミズ男。

だが彼はミミズの改造人間、その身体の柔らかさは打撃の衝撃をいくらか弱めてくれた。

すぐに体勢を立て直し反撃を狙うミミズ男、だがやはり周りのどこを見てもガタックの姿は無く――

 

 

「あぎぃぃいいいああぁぁああああぁあぁあぁッッ!!!!」

 

「!?」

 

 

ミミズ男の身体に無数の斬撃が刻まれていく。

今度は打撃ではなく斬撃、次々にミミズ男の身体が刻まれていくその光景を見てハエトリバチは事態の危機を察する。

ガタックが何者かは知らないが相当の実力者とみてまず間違いはない、だとすればココは撤退の選択以外には無い。

すぐにハエトリバチはうなずくと羽を広げて空に飛翔する。

 

 

「ハエトリバチッ! た、たすけてくれぇ!」

 

 

そんな彼を見て手を伸ばすミミズ男、だがハエトリバチは彼の言葉を無視して消えていく。

対して尚も激しさを増す斬撃の数、何度も何度もミミズ男の身体から黄色の血液が飛び散った。

 

 

「助けてか……ああそうだ、お前らはその言葉を何度も無視したんだろ?」『Put On』

 

「ひっ! ひぃぃいいッッ!?」

 

 

這い蹲るミミズ男の前にマスクドフォームとなったガタックが現れる。

無機質な仮面の奥から漂う殺意に身を震わせるミミズ男、何だ……なんだこれは!? 何故自分が人間相手に恐怖しなければならない!

認めないという意思を殺人リングに込めるミミズ男、そして彼はもう一度死ねと叫びながらそのリングをガタックに投げた。

マスクドフォームの首にしっかりと装着されるリング、勝った! ミミズ男は確信と笑みを浮かべ――

 

 

「―――……うるせぇよ」

 

「う、嘘だァッ!」

 

 

ガタックは何の障害も無いと言わんばかりにリングを引きちぎる。

そして思い切りミミズ男の身体を蹴り伏せた。悲鳴に近い声を上げてミミズ男はより地面に伏せる形に。

何とか顔を上げたミミズ男に見えたのはコチラをしっかりと狙うバルカン砲、ミミズ男は無意識にその言葉を口にしていた。

 

 

「た、たすけ――」

 

 

爆発。爆発。爆発。

ガタックの両肩に備えてあるバルカン砲から無数の砲撃が発射された。

それらはミミズ男の身体を包み込みしばらく弾薬の雨を彼に浴びせ続ける。

これが死の恐怖、死への痛みなのか? ミミズ男は自らを包む爆発の中でそんな事を思う。

しかしそれは走馬灯だったのかもしれない、爆発が終わる頃に彼の大鷲は粉々に砕け散った。

 

 

「イぎゃァあああああぁあああぁああああああッッ」

 

 

そして自らも爆発して消え去る。

だがそれを見てガタックの心が晴れる事は欠片とて無かった。

彼は無言で煙を上げる場所を見ているだけ、ふと周りを見ればそこには変わらず転がっている多くの死体がある。

何が変わったのか、何を変えられたのか? ガタックはそれが全く分からずにただ拳を握り締めるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カメェエエエエエエエエエエエ!!」

 

 

ビルの屋上にて標的を狙うのはカメバズーカ、そしてその両隣にはゴ・ガメゴ・レとゴロンガメが控えている。

尚もそれぞれの弾丸で命を狙う三体は、新たなる弾丸を装填している所だった。だがそこに、赤い閃光が現れる!

 

 

「ガッッ!!」

 

「ガメェェッ!」

 

 

その閃光は一瞬の間にて三体に何度も斬撃を刻み込む。さらに衝撃が走り三体は同時にビルから突き落とされる。

叫びをあげて地面に激突する三体、そこにプットオンの音声と共に出現するカブト。

彼は一番近くにいたガメゴの顔を鷲づかみにするとギリギリと音を立てながら持ち上げていく。

 

 

「ぐおおぉおおッ! アグァアアアァアアアッッ!!」

 

 

苦痛に声をあげるガメゴ、カブトは無言で力を強めるともう一方の手で思い切り彼の腹部を殴りつける。

 

 

「アガォ……ッッ!!」

 

「………」

 

 

さらにもう一発、そしてもう一発、次々にカブトは彼の腹部に拳をめり込ませていく。

ガメゴはその威力に声すらあげる事を忘れ何度も何度も吐血していた。

鷲づかみにしているカブトの手が血で染まったとき、彼はやっとガメゴを放り投げて解放させる。

 

 

「カメェエエエエエエエッ!!」

 

 

同時に身体を大きくひねるカブト、そこを通り過ぎるのはカメバズーカーの弾丸だ。

あのままガメゴに執着していたら背中にもらっていただろう攻撃、しかしカブトはあくまでも冷静だった。

クナイガンを出現させてカウンターのプラズマ弾をカメバズーカーに叩き込む!

 

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

 

まだ終わらない。カブトは装甲を自らの真上に発射、そこにいたのはゴロンガメだ。

カブトをプレスしようと跳んだ彼だったが逆に無数の装甲を浴びる事に。装甲の威力はゴロンガメの落下を殺して大きな隙を生み出す事になる。

カブトはその隙を見てクロックアップを発動、さらに三体へ無数の連撃を繰り出していく。

 

 

「カ……メェエエエエエエエエエエ!!」

 

「………」『Put On』

 

 

カメバズーカーは攻撃を受けながらも何とか煙幕弾を発射する。

煙が辺りを包みこみその隙にカメバズーカーとガメゴはオーロラを出現させて何とか撤退していく。

唯一反撃を選んだのはゴロンガメ、彼は装甲が付与されていくカブトへ向かって炎を発射し――

 

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

「あぶぇッッ!!」

 

 

装甲が壁となり、炎を防ぎながらゴロンガメの顔面や胴体にぶつかっていく。

なんだ、なんだ、なんなんだコレは! ゴロンガメは反射的にカブトへ甲羅を向けて防御の態勢をとる。

 

 

「プットオン」『Put On』

 

「あが! ガガガガァ!!」

 

 

今度は目の前に破片が出現して胴体や顔面に再び破片がぶつかっていく。

衝撃と痛みにもまれ地面に倒れるゴロンガメ、彼が見るのは再び装甲を纏うカブトの姿だった。

 

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

「あばぁ!!」

 

 

訳も分からぬまま再度衝撃と痛み、ゴロンガメは装甲の雨と共に地面を転がっていく。

 

 

「ま、待て!」

 

「………」『Put On』

 

 

懇願するゴロンガメ、しかしカブトは何も答えない。

ただ襲い掛かるのは背後からの衝撃、そして回転しながら倒れる自分にぶつかっていく装甲の破片だった。

 

 

「アガガガァッッ! ま、待ってくれ!!」

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

「ひ、ひぃいい!! ま、待って――」

 

「プットオン」『Put On』

 

「た、だのむ゛ッッ!!」

 

『Cast Off』

 

 

カブトはキャストオフとプットオンを連続で使用する事により破片を何度も何度も前後からぶつけていく。

もちろんカブトにかかる負担も大きいが、そんな事は今のカブトには感じなかった。

キャストオフによってパージした鎧は容赦なくゴロンガメの全身を打ち、それが地面に落ちて消える前に彼はプットオンで破片を自分に向かって収束させる。

 

 

「ご、ごうざんだ! たのむ!! もう俺は何もしない゛ッッ!!」

 

「………」

 

 

それを聞いたカブトはゴロンガメから踵を返すと何も言わずに足を進める。

どうやら見逃すつもりなのか。ゴロンガメは背を向けて立ち止まっているカブトを見つけると好機と悟り、思い切り身体を回転させてカブトを狙った!

 

 

(馬鹿が、粉々になるがいいッッ!!)

 

 

そう思いながら加速するゴロンガメ、このまま突進を仕掛ければカブトはぐちゃぐちゃに粉砕されるだろうと。

 

 

「………」

 

 

対してカブトは尚も無言である。

気がついていないのだろうか? だとすればかなり危険な状態なのだが。

 

 

「………」『ONE』『TWO』『THREE』

 

 

いや、カブトは気がついていた。彼は三つのボタンを押すとゆっくりと顔を上げる。

そしてゴロンガメに対して初めて声を放つ、カブトがゴロンガメに投げかける言葉とは一体?

 

 

「―――消えろ」『RIDER KICK』

 

 

ホーンを弾くカブト、エネルギーが角を経由して脚に流れ込んでいく。

それに気がつかず愚かにも直進の突進を仕掛けるゴロンガメ、彼がカブトに命中する直前でカブトは振り返りながらの回し蹴りを放つ!

 

 

「ゴオェアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ライダーキックによって吹き飛ばされるゴロンガメ、きりもみ状に吹き飛びながら彼は近くにあった建物の壁に激突する。

体内のエネルギーが暴発していくのを感じながらゴロンガメは何とか立ち上がろうと力を込めた。

しかしそんな彼の頭に走る衝撃、視界に入るのはマスクドフォームに戻ったカブトだ。

彼はクナイガンをゴロンガメの口の中に突っ込んでいた。

 

 

「ア……ガ――ッ!」

 

「お前らが人の命を奪うのならば……」『TWO』『KABUTO POWER』

 

 

手を伸ばすゴロンガメ、それをカブトは払いのけて引き金を引く。

 

 

「俺がお前らの命を奪ってやる」『AVALANCHE・SHOOT』

 

「ウボォエアアアアアアアアァアァアアアアアッッ!!」

 

 

ゴロンガメの体内に絶大なエネルギーが送り込まれて彼は風船のようにふくらみ破裂した。

爆発の中を佇むカブト、彼は一度ゆっくりと深呼吸を行い変身を解除する。風に当たらなければ熱気でおかしくなりそうだったからだ。

 

 

『おい、双護』

 

「何だ……?」

 

 

カブトゼクターは双護の前に止まり少し声のトーンを下げる。

 

 

『お前、今凄い顔してるぜ』

 

「………」

 

『あの時と同じだ、一番最初に俺を呼んだときと――』

 

「―――昔を……思い出しただけだ」

 

 

双護はふと後ろを見てみる。

そこには自分の元へ向かってくるショッカー戦闘員達が。

わらわらと向かってくる戦闘員達を見てため息をつく双護、彼は踵を返すと迫る戦闘員達と向き合う。

その目に、ありったけの殺意を見せて。

 

 

『気をつけろよ。妹への想いは吹っ切れても、別の想いは容赦なくお前を闇へ落とすぜ?』

 

「―――――」

 

『お前が手にしてるのは、正義のヒーローの力っつうか……』

 

 

それは一秒も無かった。

あれだけいた戦闘員達が全て泡と消え、彼らが先ほどまでいた場所にはたった一人立ち尽くすカブトが。

 

 

『ぶっちゃけ、それはただの力なんだからさぁ』

 

「わかっているさ、俺は大丈夫だ」

 

 

だが他のメンバーはどうだろうか?

特に――

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良太郎さん! ハナさん!」

 

「亘くん!」

 

「大丈夫だった!?」

 

 

学校へ戻る道で三人は合流、すぐに良太郎達は事態を把握するとショッカーを止める事を決意する。

崩壊の頻度は高まるばかり、このままでは本当に世界が崩壊してしまう。三人は頷きあうとバイクを呼び出して街へと進行方向を向ける。

 

 

「ハナさんもバイクに乗れる様になったんだ」

 

「うん、これが補正ってやつなのかな」

 

 

しばらくは順調に進む三人だったが、やがて無数の影が三人の周りに現れる!

 

 

「ッ!」

 

 

飛び回る影、忍者の様な格好をしており狐の仮面をつけている。

影は無数におりそれぞれ刀や鎖鎌を持って三人を取り囲んだ。その正体は魔化魍が戦闘員、魔化魍忍群・白狐(びゃっこ)

その独特の身のこなしを持って三人を排除する事を目的としている様だ、もちろん三人とてやられる訳にはいかない。

 

 

「キバット!」

 

「……キンタロス!」『おう! まかせとき!!』

 

 

キバットを呼ぶ亘、少し考えてキンタロスを選ぶ良太郎、ハナもカードを取り出すとそれぞれ変身の声と共にライダーの姿へ。

その変化に少し怯む白狐達だが狙うべき標的には変わりない、彼らは武器を構えて三人へ襲い掛かる!

 

 

「らぁああああああッ!」

 

 

空中から切りかかってきた白狐をまずはキバが蹴り落とす。

さらにゼロノスが放つボウガンの弾丸で怯む白狐達、援護を阻止した所で電王がバッタバッタとなぎ倒す!

吹き飛びながら手裏剣を投擲する白狐達だがアックスフォームの装甲の前には玩具同然となっている。

 

 

「よし、いけますよ良太郎さん!」

 

「油断しちゃだめ! 何が起こるか分からないもん!」

 

 

流れるように蹴り、足払い、回し蹴りと繋げていくキバ。

大ショッカーと言う事で不安もあったが電王組が味方という事もあってか心持は軽い。キバの攻撃で怯んだ相手は電王とゼロノスがしっかりと止めを刺す。

もちろん白狐とて素早い動きで跳躍し攻撃を繰り出す実力者だ、今も素早いフォーメーションで電王を取り囲み鎖鎌で動きを拘束する。

電王の四肢と首に巻きつく鎖、それらは彼の動きを完全に封じたと思わせたが――

 

 

「ムンッ!!」

 

「「「!?」」」

 

 

金色の力を発動させずとも電王は簡単に鎖を吹き飛ばしアックスを振るう。

その圧倒的破壊力の前に次々と粉砕されていく白狐達。そして遂に最後の一体、ゼロノスが大剣の一撃にて粉砕する。

 

 

「やった! やりましたねハナさん! 良太郎さん、キンタロスさん!」

 

「うん……」

 

『でも――』

 

 

電王とゼロノスはキバの肩に手を置くと彼を通り抜ける様にして後ろへ。一体何が? キバも釣られるようにして視線を背後に移した。

そしてすぐに息を呑むキバ、何故二人が緊張した面持ちだったのかを彼は知る。

白狐は全て倒した、しかし三人の視線の先には新たなる敵が着座していたのだ。

ソイツは大きな木の枝に腰掛けてコチラを見下す様にしている。

 

 

「―――フフフ」

 

「お前……ッ」

 

 

それは美しい茶色の髪、それは美しい着物、それは美しい髪飾り、それは美しい肌。

一見すれば和服の女性と言う印象だが三人には彼女が人間とは到底思えなかった。

それに彼女の特徴が我夢から聞いていた"とある敵"の容姿と合致しているという事もあってよりいっそう身構える三人、彼らを見て女性もニヤリと深く笑う。

 

 

「あらあら、派手にやってくれちゃって」

 

「お前まさか――ッ」

 

 

女性は木から飛び降りて三人の前に着地した。

お辞儀を行う女性は顔を下げた所で一旦動きを止める。同時に、いつのまにか彼女の手には和のイメージを強める傘が握られていた。

 

 

「アタシの名はヒトツミ――」

 

 

そこで彼女は顔を上げる。

ゾッとする三人、彼女が浮かべている笑みは既に勝利を確信しているかの様な自信が見えたからだ。

彼女はまっすぐにキバを見ている、同時にハッと身体を動かすキバ。

ヒトツミと言う事は響鬼の試練でイレギュラーだった存在だ、そして自分はそのイレギュラーの一体と戦っている!

 

 

「お前だね、鏑牙に勝った奴は」

 

「ッッ!」

 

 

気がつけばヒトツミは地面を蹴っているところだ。

キバの前に一気に移動すると彼に膝うちをヒットさせていた。

その素早さに遅れて反応する三名、吹き飛ぶキバとそれぞれ動く電王たち。ゼロノスはキバの元へ駆け、電王はヒトツミに斧を振るう。

 

 

「ヒャハハ! 遅いし力入ってないよ!」

 

 

ヒトツミは斧を軽々と避けて見せると傘の先から弾丸を発射して電王の足元を狙う。

唸る電王、どうにも相手が女性だとやりにくい物だ。キンタロスは渋々赤いボタンを押してモモタロスへとバトンを渡す。

 

 

「いい判断だぜクマ公! そんな訳で俺、参上!」『SWORD・FORM』

 

 

決めポーズを決める電王とケラケラ笑うヒトツミ、キバの反応を見てまず自身の考えに間違いはないと核心を持った様だ。

それはずっと気になっていた世界構造の関係が生み出す疑問、キバ達からしてみればヒトツミ達は邪神を持ち込んだイレギュラーの存在。

だがそれは同時に言ってみればヒトツミ達にとってキバ達がイレギュラーであったと言う事でもある。

ただの人間から装甲を纏った状態に変身する子供達、そんな存在があの世界にいたとは聞いていなかった。

そしてそいつ等が部下である鏑牙を倒し、邪神を消滅に導いた。そんな厄介な者達の正体とは一体なんなのか?

これは魔化魍の中でもその情報は重大な鍵となる訳。そして今、ヒトツミは確信を持った。

 

 

「お前らも何らかの方法で世界を移動できる……だろ?」

 

「へっ! 世界だか伊勢エビだか知らねぇがよ、俺は今猛烈にイライラしてんだ」

 

 

モモタロス達とてこの凄惨な光景を見て何も感じていない訳がない。

良太郎と過ごす中でこの惨劇は久しぶりに怒りを爆発させる起爆剤となった。

電王は素早くデンガッシャーをソードモードに切り替えると有無を言わず走りだす!

 

 

「いくぜいくぜいくぜぇッッ!!」

 

「ちょいとストップ! 戦う前に取引しないかい?」

 

「あ?」

 

「お前らが何者なのか、何が目的なのか教えてくれたらいい情報をやるよ」

 

 

その言葉に鼻を鳴らす電王、何だか知らないがそんな曖昧な賭けに乗るつもりはない。

どのみちヒトツミと聞けばぶっ飛ばさずにはいられない相手だ、あの世界で散々やってくれたお返しをしなければ。

つまり電王の答えは拒否、問答無用でぶっ飛ばすという意思表示である。

 

 

「あっそう。じゃあ死ぬか!?」

 

 

相変わらず余裕に満ちた笑みを浮かべて地面を蹴るヒトツミ、美しい着物をなびかせて彼女は宙を舞う。

軽く飛び越す電王の頭上、彼女はそれに合わせる様にして傘の先を電王の肩へ向けた。

彼女の傘には仕込み銃がある、そこから放たれる弾丸は散弾となり電王へ襲い掛かった。

 

 

「イデデデデッッ!!」

 

「ほらほら! 逃げないと!!」

 

 

着地しながら振り返るヒトツミだが彼女はその間に傘の柄を引き抜いた。傘には銃が仕込まれている他に刀も仕込まれている。

仕込み刀を構え傘を広げるヒトツミ、傘は彼女の姿を完全に隠すと回転を始め――マシンガンの様に銃弾を発射した。

 

 

「「「!!」」」

 

 

すぐに防御を始める三人だが傘から放たれる無数の銃弾はそこそこ威力も高い。

すぐに防御が崩れ銃弾をその身に浴びるキバ、ゼロノスはすぐに彼をかばう様にして立つが彼女とて例外ではない。

ゼロガッシャーだけでは散弾を防ぐことなどできず――

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「「!!」」

 

 

キバをかばうゼロノス、そして彼女をかばう様に電王が立った。

彼は散弾を防ぐ事はしない、ただ剣を構えて走りぬくのみ! 銃弾が装甲をえぐり電王の身体が火花に包まれる。

しかし足を止めない電王、そのまま一直線に走りぬきながら剣を振るった!!

 

 

「どりゃああああああああああ!!」

 

 

一閃、ソードフォームの剣がヒトツミの傘を横に引き裂いた。

だがしかしそこで声を上げる電王、そこにヒトツミの姿が無かったのだ。

回転しながら散弾を発射していた傘はオートで動いていた兵器と言う事。ならばその持ち主はどこへ?

 

 

「こっこでーす!」

 

「え……?」

 

「お前――ッ! ぐああああああああッッ!」

 

 

ヒトツミはキバとゼロノスの間に降ってきた。

彼女はニヤリと笑みを浮かべると鮮烈な回し蹴りをキバへ叩き込む。

さらに振り返るゼロノスの身体にピッタリと刃を押し当てて一気に引き抜いた!

 

 

「―――あああああッッ!」

 

 

衝撃と共に苦痛の声をあげるゼロノス。

しかしヒトツミの攻撃は終わらなかった、彼女は何とその口でゼロノスの肩に噛み付いたのだ。

そしてゼロノスの強固な鎧ごと彼女の皮膚を噛み千切る。

 

 

「アァッ! ッう……ッッ!!」

 

 

肩を抑えながら後退するゼロノス、彼女は目の前で自らの肉を喰っているヒトツミを睨みつける。

この装甲を食い破る程の顎、やはりどんなに人間の見た目に近くとも内面は化け物なのか――。

肩からは綺麗な赤が流れ出る、それを見て笑みを深くするヒトツミ。

 

 

「クヒヒヒ! やっぱりお前くらいの女が一番うまいよ」

 

「――ッッ」

 

 

鎧の破片は吐き出すヒトツミ、だがそこに見える白い羽。

 

 

「あ――?」

 

 

ヒトツミはそれを確認して、宙を舞った。それは跳躍ではなく攻撃によって!

 

 

「ぐアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「よくも姫をォオオオッッ!!」『WING・FORM』

 

 

白き力を発動していたのは電王ウイングフォーム。

彼はハナの危険を察知して変身、一気にヒトツミへ無数の連撃を叩き込んでいく。

音速からの奇襲にヒトツミも反応できず全ての攻撃をその身で受ける事となった。

ハンドアックスとブーメランから繰り出される斬撃が彼女を包み、多くの血を流させる。

そのうちに時間が来て電王の音速効果が解除、ヒトツミはすぐにバックステップで距離をとりにきた。

 

 

「チィイイイイッッ!」

 

 

鋭い瞳で電王を睨むヒトツミ、だが再び彼女の表情が険しく変わった。

周りを見ればいつのまにかそこは夜、空には巨大な月が緑色の光を放っている所だ。いつの間にか足元は水に浸かっているじゃないか。

 

 

「お返しだヒトツミィィイッ!!」

 

 

バッシャーフォームに変わっていたキバがその引き金を引く!

放たれるのは巨大な水流弾、ヒトツミは素早く横に飛んでその水流を避けようとするがバッシャーの弾は追尾機能を備えている。

どこに逃げても無駄。その言葉通り水流弾は猛スピードでヒトツミに直撃、激しい水しぶきを辺りに撒き散らせる。

 

 

「ヘハハハァ……! クソガキがぁ、やってくれる」

 

「……ッ!」

 

 

全ての攻撃が終わるがヒトツミは未だに立っていた、おまけに未だに挑発的な笑みを浮かべる程余裕差が見える。

それはまるでキバの必殺技が彼女をずぶ濡れにさせただけなのではないかと思うくらいに。

しかしコチラとてまだ余力を残している状態だ、電王達は再び武器を構えてヒトツミと対峙しあう。

それを見て首を回す彼女、どうやら何か見えた様だ。ソレを発見しただろう彼女は納得したように頷くと――

 

 

「きゃああああああああああああああ!!」

 

「「「!?」」」

 

 

いきなり甲高い悲鳴を上げるヒトツミ、一体何をしようと言うのか?

攻撃かと想い身構える三人を尻目に膝をつき怯えたように震えだす。まるでそれは先ほどまでの彼女とは別人なのではないかと思わせる程に。

何がしたいのか、三人は彼女の意図が掴めずに沈黙して立ち尽くす。そして呆けている三人を我に返させたのは新たに現れた登場人物の声だった。

 

 

「な、何をしているんだお前達は!!」

 

「え?」

 

 

見ればそこには鬼気迫る表情でコチラに走ってくる少年の姿が見えた。

彼は素早く状況を確認すると迷わずヒトツミの所へ走り抜き、彼女をかばう様にして立ったではないか。

少年はヒトツミの姿を見て表情をさらに険しく変えた。美しい女性が刻まれており目の前には鎧を纏った三人の異形。

もはや少年視点で電王達は生身の人間に刃を向ける悪そのものだったろう。

 

 

「助けて! あの三人が私を襲って――」

 

「ッッ! お前――ッ!」

 

 

おまけにヒトツミは声を震わせ涙を浮かべて少年にすがり付いているではないか。

やられた、彼女はコレを狙っていたのか。三人はすぐに少年の誤解を解こうと口を開く。

下手をすればあの少年が襲われるかもしれないのだ、しかしヒトツミは畳み掛けるように言葉を上乗せしていく。

 

 

「騙されないで! あいつ等はこの世界を滅茶苦茶にするつもりなんだから!」

 

 

それはお前の方だろうとキバは叫びたかった。しかし少年視点で信じるならばそれはもうヒトツミ以外にあり得ない。

人の姿をしていない自分達は大ショッカーの怪人達と何が違うというのか? それは当然少年からしてみても同じだった。

彼はヒトツミを守る様に立つと自分たちを睨みつける。

 

 

「お前らが……お前らが皆をォォオオオッッ!!」

 

「ち、違う! 誤解だ!!」

 

「そうよ! それにソイツから今すぐ離れて!」

 

 

もう全てが無駄だった。今更彼の耳に何が届くというのだろうか?

少年の中では信じるべきヒトツミと憎むべき電王たちと言う構図が完成してしまった様だ。

電王は一度憑依を解除して良太郎として少年に声を掛けるがやはりそれも結果は無駄、少年はもう全ての答えを出していた。

自分の後ろには守るべき人がいて、目の前には世界を滅ぼそうと企む悪の軍団がいる。

だったら自分がとるべき選択はその一つを除いてない。

 

 

「貴方は逃げてください!」

 

「で、でも――ッ!」

 

 

ヒトツミが心配そうに少年の肩に触れる。

それを彼は優しく握り返すと凛とした笑みを彼女に向けた、それは紛れも無く決意に満ちた眼差し。

この世界を守るために戦う事を決意した覚悟が見えたのだ。ヒトツミは少し顔を後ろに下げると申し訳なさそうに眉を下げ彼を見る。

何をふざけた演技をとキバは怒鳴り声を上げそうになったが何とかそれを堪える。ここでまたさらに彼の誤解を深めることは避けたいからだ。

とはいえ、もう既に遅いのだが。

 

 

「気をつけて……!」

 

 

ヒトツミはそう言って後ろへ下がっていった。

対してよりきつく三人を睨む少年、彼はどこからともなく何か不思議な形状をした物を取り出してゆっくりと構えてみせる。

何をしようと? 三人は説得を忘れて沈黙してしまった、その間にも少年は三人を排除すべき敵だと認識を加速させていく。

 

 

「お前達は醜い悪だッッ!!」

 

「!」

 

「この世界を苦しめる災悪でしかない! だから僕がお前らを排除してやる!!」

 

 

少年はそれを、『ロストドライバー』を腰へと装着させる。

取り出すのは悪を倒す希望の力、決意の証明だ。全てを超える――

 

 

「この正義の力を持ってッ!!」『エターナル!』

 

 

正義、"トア"はエターナルのメモリをタッチしてそれをドライバーへ装填する。

Eのマークがエネルギーとなり表示され、彼の姿は一瞬で他の存在へと昇華を遂げる。彼が誓った永遠の正義となりて。

 

 

「変身――ッ!」

 

 

トアの姿が装甲に包まれそしてその手が真っ赤に染まる、それはまるで炎の様に。

そして最後にマントが付与されて彼の姿は変身を完了させた。永遠の正義がそこに刻まれた、悪を滅する絶対の正義が今この地に舞い降りたのだ。

 

 

「き、君はッ!?」

 

「………」

 

 

驚く電王たちと小さく口笛を鳴らすヒトツミ。

あれが噂に聞いていた"正義の味方"か、彼女はそんな事を思いながら笑みを浮かべる。

炎の様な模様が見える赤い腕、そして真っ黒のマントと真っ白の身体。現れた仮面の戦士はマントをなびかせ、ゆっくりと歩き出す。

しかしその手にはコンバットナイフ型の武器、エターナルエッジが。

 

 

「僕は正義だ……!」

 

「え?」

 

「だから、悪は滅びろォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 

"エターナル"は走り出す、ニヤつくヒトツミを後にして。

動揺する三人めがけて彼は正義を説きながらエッジを振りかざした。

どうする? キバの心に迷いが生まれたが時間は待ってくれない物だ。彼は襲い掛かるエターナルを止める為、誤解を解く為にやむなく蹴りを繰り出した。

 

 

「ま、待ってくれ! 貴方はアイツに騙されているんだ!!」

 

「!!」

 

 

エッジを持つ手を払う様にして蹴りが当たってしまう。

痛みと衝撃に怯むエターナル、彼は後退しながら蹴りを受けた腕を押さえる。

いきなり動きを止めるエターナルに誤解が解けたのではないかと期待を持つ三人だったが――

 

 

「――――たな」

 

「え?」

 

 

小声でエターナルは何か言葉を呟く。

キバはその言葉が何かを確認しようと彼に近づいてしまった。

キバは誤解している、エターナルは誤解を解いてなどいないのだという事に。

 

 

「僕を……正義(ぼく)を傷つけたなぁぁあッ!!」

 

「うグッ!?」

 

 

キバの腹部に深々と突き刺さるエッジ、さらにエターナルはエッジをえぐりまわしてより深く強くキバを傷つけていく。

痛みに叫びを上げるキバ、それを見てもまだエターナルは不満げに激情していた。

 

 

「正義を傷つけるのは悪しかない! 少し信じてみようと思っていたのにお前らは僕を裏切った!!」

 

「お前……ッ! 何を言って――」

 

「うるさい!! お前らは外道の中の外道だ! 信じた僕を裏切ったんだから!!」

 

 

キバも、ゼロノスも、電王もこの瞬間把握した。エターナルは危険だと!

 

 

「亘君!」『GUN FORM』

 

 

電王はガンフォームに変身、素早く銃でエターナルの足元を射撃する。

打ち込まれる弾丸達に驚き後ろへ跳ぶエターナル、何とかキバから距離を離す事ができた。

キバもまたエターナルから逃げるように距離を空けて電王たちの所へ舞い戻る。

 

 

「お、お前ぇええええッ! 正義である僕を撃つなんて――ッ」

 

「うるさいよお前、亘に意地悪しておいて何言ってるの?」

 

 

エターナルは信じられないと言う様子で電王を威嚇する。

しかし対照的に冷めた様子の電王、エターナルの言う正義は滅茶苦茶だ。

自分が絶対だと言う自己中心的な正義など本物とはいえない筈、それは三人の共通意見でもあった。

彼が何者なのかはしらないが彼の語る正義は明らかにおかしなものがある。それを口にするとエターナルはますます怒りのレベルを上げていく。

 

 

「許さないぞ悪党共……ッ! 僕の正義を馬鹿にしやがって――」

 

 

絶対に殺してやる、エターナルはその言葉と共に再び走り出す。

対して武器を構える電王たち、最初は誤解を解こうと思っていたがどうやらもう無駄の様だ。

ならば多少力ずくとなっても彼を止める必要がある。

 

 

「教えてやるよ、正義は必ず勝つんだ!」

 

 

エターナルは走りながらメモリを抜き取りそれをエッジへと装填する。

必殺技の発動か、それぞれは迎え撃とうと武器を構えるが――

 

 

『エターナル』『マキシマムドライブ!!』

 

「「「!!」」」

 

 

それはあまりにも一瞬で三人は理解する事ができなかった。事実誰しもがその事実に気づくことすらなかったのだから。

一番初めに気がついたのは亘だ。彼は走ってくるエターナルを真っ向から止めようと脚に力を込めていた。

そこで下に転がっているキバットを発見したのだ。何故彼が転がっている? キバットは目を丸くして気絶している様、そして亘はふと電王の方向を見る。

 

 

「え?」

 

「あ………」

 

 

そこにいたのは紛れも無い良太郎自身である。

それは隣にいたハナも同じ、そこで三人は自身の今の状態を把握する。つまり三人は今現在で変身していない!

電王もゼロノスもキバもその姿を失い、元の彼らに戻ってしまっているのだ。その状態でエターナルの攻撃をくらえばただではすまない。

息を呑む三人、再び変身しようとそれぞれはアクションを起こすが全員再び変身する事は叶わなかった。

キバットは気絶しているし、パスやカードは読み込めない。そしてそれは当然エターナルの攻撃によるものである。

"強制変身解除"、それこそが彼の特殊能力の一つである。さらに変身をしばらく封じる効果も持ち合わせている。

キバットや変身を行ったモモタロス達にもエターナルの力は伝達しているのだ。

 

 

「正義の旋律、エターナルレクイエムの前に悪はただひれ伏すだけさ」

 

 

エターナルは走る。

全ての悪を殺す為に、構えるのは正義の刃エターナルエッジ。

彼はそれを構えて地面を蹴った、跳ぶエターナルは狙いを良太郎に定める。

彼らもそれに気がつくがもう遅い、逃げてと叫ぶハナの言葉は無意味となる。

何故ならば正義が負ける事はないからだ、悪はただ正義の必殺技をその身に受けるだけ。

 

 

「一緒に行こう……永久(とわ)の向こうへ――」

 

「ッ!!」

 

 

エターナルはそのままエッジを良太郎の脳天へ突き刺そうと――

 

 

「!」

 

 

だがそこで良太郎の身体に光の球体が命中、彼の目が鮮やかブルーに変わる。

すると良太郎はかろやかな身のこなしでエッジを交わしたではないか!

そのままエターナルの攻撃を紙一重でかわしていくと腕を絡めとり関節技を決めてみせる。

エターナルの装甲を纏えど関節技と言う攻撃に一瞬の痛みを刻まれてしまい、結果エッジを彼は落としてしまった。

 

 

「貴様ッ!!」

 

「フフッ、悪いね……!」

 

 

良太郎に今現在ついているのはウラタロス、彼は先ほどの戦いで登場していなかった為に憑依を許されたのだ。

相手の攻撃を受け流すのが彼のスタイル、おかげでなんとか隙をつくる事ができた。その隙に良太郎はバックステップでエターナルから逃げる。

同時に彼に命中していく弾丸、見れば向こうからデネブが走ってきているところだった。指から放つ弾丸達はエターナルを怯ませるには十分な威力を持っている。

 

 

「ハナちゃん! ごめん、遅くなった!!」

 

「デネブ……! ありがとう!!」

 

 

デネブが作ってくれた隙、三人はそれを確認して一気に走り出す。何とか誤解だけでも解いておきたかったがもうそれは望めないらしい。

それに変身が封じられた今の自分達が彼を止められる可能性なんてほぼゼロではないか。

さらに言えばもしこのまま大ショッカーに狙われればその時は死の可能性すら待っている。

ならば悔しいが自分達がとれる一番の決断は退避だ。三人は悔しそうにしながらも学校に向けてバイクを走らせるのだった。

 

 

「ふぅん……ま、こんなもんか」

 

 

小さく呟くヒトツミ、彼女もそれを確認して撤退していく。

唯一残されたのはエターナル、彼は状況を確認しながら呼吸を整える。

彼はヒトツミが逃げたのを確認すると変身を解除して拳を握り締めた。悔しい、それが彼の本音。

だってそうだろう? 自分は正義の味方なんだ、なのに悪を滅する事ができなかった。無様に銃弾を受けて無様に逃げられる。

やろうと思えばマントで防げた筈なのに――ッ!!

 

 

「まだ僕にはエターナルを使いこなせないのか……?」

 

 

いや、そんな事は無い。この正義を愛する想いが必ず白き永遠を自分の力に変えてくれる。

トアはそう思いながら踵を返した、とりあえずは正義の為に動こうと。

しかしやはりイライラは募る、悪に負けた事がどうしても納得できていない部分があったのだ。

 

 

「クソ……ッ! 今度は必ず殺してやるッッ!」

 

 

爪をかみながら歩くトア、瓦礫や死体を押しのけて彼は正義を実行しようとチャンスを探る。

一度ゲームセンターに戻ってもいいが、拓真や友里が心配だ。とりあえず彼らと合流してあいつらを追うのも悪くない。

 

そんな事を考えている時だった、どこからともなく助けを求める声が聞こえてきたのは。

トアはその声を探して走り出す、助けを求めるものを救う事は正義を示すなによりの行動だから。

 

 

「たすけてッ!! お父さんとお母さんが!」

 

 

そこにいたのは中学生くらいの少女、話を聞いてみれば全身タイツの戦闘員達から逃げていると瓦礫が落下してきたのだという。

少女は無事だったが彼女の両親が潰されてしまっているとの事だ、助けたいとは思うのだが少女の非力な力では瓦礫をどかす事ができないのだという。

だからトアの力を借りたいというのだ。

 

 

「もちろん! 僕にできる事があるのなら!!」

 

 

トアは強く頷くと少女の後を追い瓦礫のところへ。

途中やはりと言うかショッカー戦闘員が彼らを見つけておそいかかるがトアの敵ではなかった。

トアは体術だけでショッカー戦闘員を倒しきる。すごいと希望の笑みをうかべる少女、彼ならば両親を助けてくれるかもしれないのだ!

 

 

「この瓦礫だね」

 

「はい! お父さん! お母さん! 聞こえる!!」

 

 

瓦礫の山、この下に彼女の両親がいるのだ。

トアはすぐに瓦礫に近寄るが――

 

 

「………」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「残念だけど、もう無理だ」

 

「え?」

 

 

トアは普通の人間とは少し違う点が多々ある。

そんな彼の感覚は彼女の両親が既に息絶えている事を察知した。

心音、血のにおい、呼吸の有無からして瓦礫の下には凄惨な死体が二つ転がっているのだろう。

それを少女に見せれば彼女は大きなショックを受けるに決まっている。だからトアは何も言わず彼女を諭す事に決めた。

この瓦礫をどかす事が彼女の為になるのかと聞かれればそれはノーだから。

 

 

「ど、どうして分かるんですか! まだ分からないでしょう!?」

 

 

むろん、それは少女からしてみればよく分からない話。まだ瓦礫を退かしていないのにトアは両親を諦めろという。

そんなトアに少女は疑問と怒りを混ぜた口調で詰め寄っていく。それでもうやむやにごまかそうとするトア。

流石にもう両親がぐちゃぐちゃになっていますなんて言えないだろう? 正しい、これは確実に正義の行動だ。

 

 

「なんでッ! どうして助けてくれないのッ!!」

 

 

少女はますます激高していき涙を浮かべ始める。

それを苦しそうに見つめるトア、自分にはもうどうする事もできない。

せめて彼女の怒りを受け止めて――

 

 

「お願いだから助けてよッッ!!」

 

「………」

 

「ねえ聞いてんのッッ!?」

 

 

少女は動かないトアに苛立ち裾を掴む。

両親が苦しんでいるかもしれないのに、彼の力を借りれば何とかできるかもしれないのに!

そんな焦りと悲しみ、パニックと恐怖が彼女の行動を焦らせる。そして遂にその感情が抑えられなくなり――

 

 

「どうして助けてくれないのッッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

少女はつい手を出してしまった。

彼女こそ不本意だが怒りと焦りが手をつき動かしていたのだ。それが結果としてトアの頬を叩く事に繋がった。

そのまま沈黙が流れる。少女も混乱しているのだ、仕方ない事なのかもしれない。

一方でトアはと言うと――

 

 

「――――」

 

 

彼は信じられないと言う表情を浮かべて爪を噛んでいる。

何だ、何が起こった、何で僕は叩かれた? 何で僕は傷つかなければならなかった?

ううん、分からない。分からないぞ、どうして正義である僕がこんな事をされる? おかしい、おかしいじゃないかこんなの。

ありえない、ありえないよ、ありえていい筈が無いよ。叩くと言う事は相手を傷つけると言うことだ、それも直接的に。

間接的な言葉じゃない、明確な危害という形で僕を傷つけるんだ。

 

それはおかしい、それはありえちゃいけない、だって僕は正義なんだよ?

正義が傷つけられるなんて事があっていい訳が無い。正義にこの仕打ちを行うなんて彼女は何を考えているんだ――

叩くなんて、正気じゃないだろ!?

 

 

「ねえ答えてよぉ……ッ!!」

 

 

少女はすがりつく様にトアに手を伸ばす。

しかし肝心のトアは虚ろな瞳でブツブツと正義がどうこうといい続けるだけだ。

彼女の頬を叩かれてから彼の思考は急速に回転していく。それがどの道でなのかは別として。

 

 

「違う……これは……正義じゃない――」

 

 

考えろ、考えれば分かる筈だ。

何故何もしていない――むしろ協力的だった僕が少女に叩かれなければならないのか。

本来ならばそれは絶対にあり得ない事、だって自分は正義の味方なんだ。困っている人から感謝こそされど叩かれるなんて有り得ない話なのだから。

しかも自分は彼女の為に両親が死んでいることを隠してあげている。そんな自分の気遣いを彼女は理解せずに手をあげたと?

いやいやそれはおかしい、おかしすぎる。何かの間違いだ! 彼女は僕の気持ちを考えていないのか? 自分がよければそれでいいのか?

そんな、そんな……そんな――そんなの変だ! おかしい!! 何で……嫌だ、それは僕が望む正義じゃない。彼女は正義じゃないのか?

そうだ、僕は正義なんだ。なのに彼女は僕を傷つけた、正義を傷つけるのは悪以外には無い。ならば彼女は悪?

そうか、それなら納得がいく。彼女は悪だから――正義じゃないから僕を叩いたんだ!

きっとそうに決まっている。だったら僕は正義を貫かなければならない!

 

 

「ねえ聞いて――」

 

「黙れぇえエエッッ! この薄汚い悪党めッ!!」

 

 

トアは少女の手を振り払うと彼女の身体に向かって回し蹴りを行う。

小さくうめき声をあげて吹き飛ぶ彼女、トアはそんな少女に容赦なく追撃を行う。

倒れる彼女に向かって何度も足を振るうトア、これは彼の正義、悪を殺す光の脚なのだ!!

 

 

「うグッ! あぁああぁッッ!!」

 

「悪め! 悪党め!! この外道ッッ!!」

 

 

しばらくその暴力(せいぎ)が行使された後、トアはエターナルエッジを出現させる。

それを見て表情を引きつらせる少女、彼女は涙を流しながらトアに助けを求める。

叩いたことは謝るからどうか許してくれと――

 

 

「お願いしま――」

 

「黙れェエエエエエエエエエッッ!!」

 

「アぐァッ! ヒィッ! えグィッ!!」

 

 

トアは正義の刃で何度も何度も突き刺し、引き裂き、えぐり刺す。

数分後には少女は動かなくなるのだがその後もトアは正義の制裁を繰り返していった。

傍から見れば残酷な光景かもしれない。しかし誤解しないでほしい、これは正義の制裁なのだから多少荒々しくていいのだ。

 

 

「ど、どうだッ! これが正義の刃だ!! くはははははッ!」

 

 

トアはそう思いながら少女を滅多刺しに。

彼の全身が少女の返り血で真っ赤になっていく、そして最後の一撃を眉間に食らわせて彼の正義は完成した。

トアは転がっている死体を蹴り飛ばすと荒げた呼吸を整える。そしてゆっくりと余韻を楽しむ。やはり正義は勝つ、悪は滅びるべきなのだと。

そうだ、あの少年のお金をとった連中もこの手で滅多刺しにしてやった。この正義の刃は悪を穿つためにあり!

 

 

「ん、んひゅう! も、もっと僕の正義を……た、高めなければ――!」

 

 

世界にはもっと正義を必要としている人達がいる。

そんな人達を助ける為に、このトアは戦い続けるのだ。

世界に蔓延る悪を全て滅するその日まで、自分は正義を示そうではないか!

 

 

「行こうエターナル、僕に永遠の正義を見せてくれ」

 

 

トアはニヤリと次の正義を行うべく歩き出した。

そんな彼を見送るようにして一陣の風が彼を揺らす。その時、風が彼のジャケットを揺らめかせるのだが――

その裏に一瞬だけだが金色の大鷲が見えた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大ショッカーの襲来を受けて戦いを挑んだライダー達だが、その結果はお世辞にも良いものではなかった。

学校で待機していた葵達の下へ次々に傷ついた仲間達が次々に戻ってきていた。

まずは翼、バイクで校門から現れたかれは倒れるようにして地面へ伏せる。

転倒するバイク、翼はボロボロになった身体で這うようにして身体を進めていく。

 

 

「翼君!」

 

 

何があったのかと降りてくる葵達、そこで彼女は翼の始めてみせる姿に息を呑む。

服には血の広がりを示す赤黒い円がいくつも見え、呼吸を荒げている姿はいつも余裕を見せていた彼とは程遠い物だった。

葵が大丈夫? と問いかけても翼は無反応。苦しそうにうめき声をあげて葵に視線を送るだけだ。

彼女はすぐに翼を抱き上げると治療器具がある保健室へ向かおうと力を込める。

手伝おうと駆け寄る夏美達だが、その時里奈が上空から何かが降ってくるのを確認した。

 

 

「なッ!」

 

 

それは彼女達から少し離れたところに墜落、見れば同じ様にボロボロになったブレイドとカリスだった。

ジャックフォームの金色に輝く美しい装甲はそのほとんどが砕かれており、腕や脚の一部分は生身が見えるほどだ。

さらにそこからは酷い出血が見られ、二人の状態が危険な事を示していた。

 

 

「だ、大丈夫ですかッ! 先輩!!」

 

 

里奈が駆け寄ると二人の変身が解除される。

椿の方は翼同じく里奈の言葉に答える気力すら残っていない様だった。

咲夜が小さな声で絞る様に説明してくれたが、二人がカナリコブラ隊から逃げた後もいろいろな怪人達に襲われたらしい。

何とか逃げてきた二人だがもう体力は限界を超えていた。

 

さらにカナリコブラの攻撃を受けた椿、実はカナリコブラの攻撃には若干の毒があり椿にも大きな影響を与えていると言う事だ。

早く治療器具で傷を癒さなければますます状態はひどくなっていくだろう。

 

 

「でも治療器具は一つだけ――」

 

 

ゼノン達が用意してくれた治療器具はカプセルベッドの形状をした物、そのベッドに二人は入れない。

つまり治療を行うのならば一人ずつではないといけないのだ。治療自体はどんな酷い傷だったとしても10分もあれば完治する。

とはいえ今回のようなパターンは初めてだ。一番傷が浅そうな咲夜でさえ脚が動かせない状態にあるらしい。

 

それからすぐにオーロラが出現、その時は何が起こったのか分からなかったが泣きながら美歩が駆け寄ってきて全ての事情を聞かされる。

続いてジェットスライガーに乗せられた拓真が。誰を先に治療すればいいのか、どうすればいいのか葵も分からなくなりパニックになっていく。

問題はそれだけでは終わらなかった。傷つき集まってくる仲間達だが、ユウスケと薫には連絡が取れなかったのだ。

司、友里、我夢とアキラ、双護と鏡治は人を避難させているとの連絡があったのだがユウスケ、薫には連絡がとれなかったのだ。

戦っている最中なのか、それとも何かあったのか? 強い不安が葵達を包む。

 

最後に戻ってきたのは良太郎たち、特別クラスで最も強いとされている電王ですら大ショッカーを倒しきる事ができない。

この世界はかなり危険かもしれない、彼の忠告が一同の緊張をより強めていく。

 

 

「嫌な予感がします……ッ」

 

 

夏美はざわざわと嫌な痛みを出す胸を強く掴み、一同の無事を祈るのだった。

自分にできる最大の行動が神頼みと言う歯がゆさを感じながら。

 

 

「!」

 

 

すると異変が起こる。一瞬神頼みが何かを起こしたのかと錯覚させるほどタイミングはぴったりだった。

学校の屋上部分にオーロラが出現、そこからあらわれるのはもちろんと言うべきなのかゼノンとフルーラだ。

いち早く反応して声をあげたのは亘、彼はこの世界が休憩の為に用意された無害なものだとばかり考えていたが――結果はこれだ。

それをゼノン達は分かっていたのか、それともこれはイレギュラーなものなのかが知りたかった。

 

 

「ああ、悪いね。確かに誤解を生む言い方だったことは謝るよ」

 

「でも全てはEpisode DECADEが示す運命。亘、貴方の言うとおりワタシ達はこの世界がこうなる事をある程度予測立てていたわ」

 

 

表情を変える一同、今回の世界は今までの物と明らかに違う。

いや違うというのはおかしな言い方かもしれないがあまりにも凄惨な光景が続く為に精神が皆まいっていたのかもしれない。

 

 

「怖いかい? でも、これが大ショッカーなんだよ」

 

「確かに今回は中でもイレギュラーだったわ、残酷さが。だけど貴方達の世界もこうなる可能性が高いの」

 

 

だとすれば友人や知り合いが無残に殺されるかもしれないと言う事じゃないか。

一同はそれを想像してしまい沈黙した。守れなかった人達が、守りたい人に重なってしまって――

 

 

「ボク達は大ショッカーが大規模なデモンストレーションを行う事を事前に知った」

 

「だから、貴方達をこの世界に転送させたの」

 

 

言わばソレは実験だ。

今の特別クラスメンバーの実力が果たして大ショッカーに通用するものなのかどうかを。

結果はまあまあだとゼノンは言う。期待していたよりは通用するものだったらしい、中にはボロボロにされた者もいるがカブトや響鬼辺りは善戦してくれていると。

 

 

「実験? 人の命がかかってるんだぞ!!」

 

 

ゼノンたちの言い方が気に入らなかったのか亘はつい口調を荒げてしまう。

やはり思い出すのは今までの凄惨な光景、なんの罪も無い人達が殺されていく今の現状が実験だと言うのが気に入らなかった。

所詮ゼノン達も魔女の使い、大ショッカーと同じく人の命を何だと思っているんだ!?

 

 

「人の命か……何なんだろうね?」

 

「ッ!」

 

「ボクも分からない――」

 

 

目を細めて何かを見据えるゼノン、人の命とは何なのか? どの程度の重さなのか。

知らない、分からない、そしてそれは誰が決めると言うのか。神か、それとも他者なのか。

 

 

「君はどう思う? 真志」

 

「………」

 

 

ゼノンは向こうから歩いてきた真志を見てニヤリと笑う。

対して舌打ちを行う真志、ゼノンの表情を見るに自分がどういう心持かを知っているのだろう。

それはフルーラも同じだ、こうなる事が分かっていたのかはしらないが。

 

 

「知るかよ、どこぞの神様じゃねぇのか?」

 

「………」

 

「くはっ! 神様? ああ、そうかもねぇ」

 

 

彼から目を反らし唇を噛む美歩、そんな二人の違和感に今は誰もが気がつかない。

もう誰も余裕なんて無かった。人を守る事、自分の命を守る事、すべてが今までの試練とは違っている。

あの邪神戦で感じた恐ろしさと同じだ、あの時は希望があったが今は全てが絶望に感じる。

景色を見れば未だに出現しているオーロラ、あれが全てショッカーの物?

 

 

「大ショッカーは……何が――目的なんだ…い」

 

 

倒れている翼が弱弱しく口を開く。

大ショッカーの目的さえ知れればそれを潰す事ができる。

そうすれば今までどおりに終わるんじゃないかと言う期待もあったのだろう、しかしゼノンは首を振る。

 

 

「彼ら目的はたった一つ――」

 

「この世界を滅ぼす事よ」

 

「「「!!」」」

 

 

もはや明確な理由など無かった。

ただ単純に世界を終わらせると言う事、全ての生きとし生ける命を無に返し絶望に包み込む。

どんな人間であっても、どんなに助けを請うても無駄なのだ。大ショッカーからしてみれば人間など皆同じ、等しく殺害対象。

トカゲロン隊の様なほうが珍しい、子供であっても女であっても殺す。それが大ショッカー、地獄の軍団である。

 

 

「それに、多分今回なら会えると思ったんだ――彼に」

 

「え?」

 

 

ゼノンは少し悲しげに微笑んで空を見上げる。

目を閉じて耳を済ませればどこかで悲鳴が聞こえてくる。

それをゆっくりと噛み締める様に感じながら、ゼノン達は過去を思い出す。

この世界は、試練はラインだ。彼らがここで何を思い、何を感じ、そしてどう進む道を決めるのか。

それを見誤ったとき、彼らは信じていた力を失うのだろう。

 

 

心と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は再び司へと戻る。

喫茶店にいた人達を近くの避難所に運んだ司、しかし避難所といっても今回は人災といっていい物。

避難所など形だけの様な物だ、もしもここに大ショッカーが攻めてくれば中に居る人は皆殺しだろう。

ならばどうすればいい? パッと思いつくのは大ショッカーを統一させているコア、つまりボスを見つけ出して倒す事だろうか?

しかし今回は大規模で攻めてきている為に誰がボスなのか全く分からない、しかもボスを見つけて倒せたとして進撃が止まるのかと言われれば――

 

 

(クソッ! どうすればいい!?)

 

 

人々を救い出せるビジョンが全く見えない。

少し無謀かもしれないがこの世界に攻めてきている大ショッカーを全員倒すしかないだろう。

とはいえ先ほどの電話で皆が負傷しているのが知らされた、だとしたら相当の実力者がいる事になる。

そんな連中に自分達が勝てるのだろうか?

 

 

「………ッ!」

 

 

避難所の入り口で佇む司、何とかして活路を見出さなければならない。

この世界を救うにはどうすればいい!? 彼は何も浮かばない自分や、命を軽視するショッカーに対して激しい怒りを覚える。

そうやってどれだけの時間が流れただろうか? 大きく事が動いたのは司が避難所にいる人に話しかけられたときだった。

避難所は二階構造、そこから景色が見渡せる訳だがそこで大ショッカーの怪人と思われる者達がコチラに向かってくるのが見えたという。

 

 

「わかりました、俺が行ってきますからくれぐれも気をつけてください」

 

 

とりあえず今は目先の事から何とかしなければならない。司は頷くとマシンディケイダーを発進させる。

なるべくこの避難所に近づけてはならない、敵がどんなヤツかはしらないが倒すべき敵だと言う事は分かる。

 

 

「変身!」『カメンライド』『ディケイド!』

 

 

10個の紋章が収束して弾けると司はディケイドへと変身する。

言われたとおりの道を進んでいくと、やがて見えてきた――まちがいない、あの黄金の大鷲はまぎれもない大ショッカーの紋章。

小高い丘の上にやってきたディケイド、幸い敵はまだ気がついていない!

 

 

「くらえッッ!!」『アタックライド』『ブラスト!』

 

 

ライドブッカーから放たれるマゼンタの弾丸達、それらは進撃を繰り返すショッカー怪人や周りに居た戦闘員達に命中していく。

 

 

「グウウウゥッ!!」

 

「何者だ!」

 

 

攻撃を受けたのはハサミジャガー、蜘蛛男、サボテグロンからなる通称ハサミジャガー隊だ。

彼らに着弾していく弾丸はディケイドの怒りを受けて普段のものより強化がなされている。

その威力に耐えられるわけも無く消滅していく戦闘員達。あっという間にフィールドにはハサミジャガー隊以外が消え去っていった。

それに乗じてバイクのスピードをあげるディケイド、彼はそのまま飛び降りてバイクだけをハサミジャガー達に突撃させる。

 

 

「無駄だ、シャアアアアアアアアッッ!!」

 

 

前に出るのは蜘蛛男、彼は強靭な糸を組み合わせて蜘蛛の巣状のシールドを形成。

バイクをいとも簡単に受け止めるとディケイドの存在を確認する。

怒りに手を震わせるディケイド、ハサミジャガーの武器から滴る血を見て彼らの行いを悟ったらしい。

 

 

「絶対に許さなねぇ……ッ!」『アタックライド――』『スラッシュ!』

 

 

ライドブッカーを構えてゆっくりと歩くディケイド、ハサミジャガー隊も彼を敵と理解したのか鼻で笑い彼を取り囲んだ。

威勢はいいようだが自分たちに攻撃を仕掛けたのが運の尽きなのだと。

 

 

「殺せ!」

 

 

ハサミジャガーの言葉で一勢に三体が動き出す!

対して咆哮をあげながら走るディケイド、彼はまず隊長であるハサミジャガーに向かって攻撃を仕掛けた。

強化されたソードで激しい斬撃を繰り出すディケイド、だがハサミジャガーも二対の刃物でそれを受けきってみせる。

剣と刃が何度もぶつかり合い激しい火花が散っていく。しかし敵は三体、油断は即死につながると言ってもいい状況だ。

ディケイドは背後から襲い掛かってきたサボテグロンに蹴りをくらわせると剣を振り回して蜘蛛男を牽制する。

斬撃のエフェクトは残像を残し三体にダメージを与えていく、ディケイドはその隙に跳躍して囲まれていた状況を脱出する事に。

 

 

「変身!」『カメンライド』『リュウキ!』

 

 

着地と同時にディケイドは龍騎に姿を変えていた。

さらに素早くアタックライドを発動、ストライクベントが呼び寄せたドラグクローが上空から降ってくる。

 

 

「ハァァァァァ………ッッ!!」

 

 

ディケイドはそれを受け取ると構えを取る。

赤く光輝く龍の口に気がついたのか前に出るのは蜘蛛男、彼は蜘蛛の巣シールドを再び展開。

同時に放たれるドラグクローファイアー、紅蓮の火炎放射がシールドを包み込む。

 

 

「なっ!」

 

 

しかし予想外の事が起こる。

ディケイドが放つ炎をなんと蜘蛛男は耐え切ったのだ。蜘蛛の巣はストライクベントの攻撃を無効化し、さらに攻撃へと転じる。

蜘蛛男はその蜘蛛の巣をディケイドに向かって発射、反応が遅れたディケイドはそれを受けてしまう。

巣はディケイドをがんじがらめにして動きを封じ、さらに前に出たハサミジャガーが振るう刃から放たれる斬撃がディケイドの身体に命中していった。

 

 

「うグあッ!」

 

 

転がるディケイド、だが冷静に次のカードを掴んでいた。

それに気がつかず追撃の斬撃を飛ばすハサミジャガー、あのツラに一発拳をぶち込んでやらないと気がすまない!

 

 

「変身!」『カメンライド』『カブト!』

 

 

六角形の光と共に龍騎からカブトへ変身、ディケイドはクロックアップを発動して超加速の世界へと足を踏み入れる。

ハサミジャガーの斬撃を簡単にかわすと一気に距離を詰め拳の連打を与えるディケイド、さらにブッカーの弾丸を蜘蛛男に向かわせておく。

 

 

「終わりだ!」『ファイナルアタックライド』『カカカカブト!』

 

 

エネルギーが足に供給される。

狙うはサボテグロン、無防備の彼へとディケイドはライダーキックをぶち込んだ! そこで加速の終わりが訪れる。

全身に打撃を受けたハサミジャガーと全身に弾丸を受けた蜘蛛男はその場に倒れ、ライダーキックを受けたサボテグロンはきりもみ状に吹き飛んでいった。

しかし倒しきれない様だ、さらに攻撃を行った側であるディケイドが苦痛の声を漏らしてうずくまる事に。

 

 

「うぐぅうッ!」

 

 

やられた! ディケイドは足を抱えてその正体を把握する。

彼の脚にはいくつもの鋭利な針が刺さっているじゃないか、それはサボテグロンが原因だった。

彼はサボテンの改造怪人、だからこそ彼の身体には強力な針が仕掛けられていたのだ。

普段は針は身体の中に引っ込んでいる為ディケイドは気がつかずに蹴ってしまったと言う事、カブトの鎧を貫くほどの威力がある針――そしてその怯んだ隙も大きい。

倒れたハサミジャガー達は一瞬何が起こったのか分からずにディケイドの姿を見失うが、よりによって必殺技を受けたサボテグロンが最初にディケイドを見つける。

先に体勢を立て直せたのも彼、サボテグロンは身体から花を生やすとそれをディケイドに向けて投げつける。

 

 

「クッ!」

 

 

ディケイドは避けようと動いたが足の痛みで動きが鈍り、結局花を受けてしまうことに。

花達はディケイドの身体に張り付き、いくら引き剥がそうとしても無駄だった。

そしてそのまま花が光り輝き――

 

 

「うっ! ぐあああああああああああああああッッ!!」

 

 

花達は連鎖的に次々と爆発を起こしていく。

爆炎に包まれ消えていくディケイド、小さい花ながらそれなりの火力を誇るらしい。

カブトの変身が解除されてしまいディケイドはその場に膝をつく。

 

 

「我が爆弾、『メキシコの花』の威力はいがかな?」

 

 

次々に立ち上がるハサミジャガー隊を見てディケイドはため息をつく。

そう簡単に消えてくれる連中でもないらしい、彼は拳を握り締めて立ち上がる。

幸い爆発の威力で脚に刺さっていた針は全て消し飛んだ。これからが勝負と言うところだろう。

 

 

「ッ!?」

 

 

だがその時、ハサミジャガー達の奥から歩いてきた影をディケイドは確認する。

それは彼だけでなく怪人達も同じだ、足音に反応して彼らは振り返る。

 

 

「………ッ」

 

 

歩いてきたのは儚げな雰囲気を持った少年だった。年齢は司と同じくらいか。

一瞬逃げ遅れた一般人かと思ってヒヤリとしたが怪人達を見ても全く恐れる様子を見せない少年を見てディケイドはより深くため息をついた。

どうやら、彼は敵のようだ。

 

 

「お前は……」

 

「君達には悪いけど、アイツの相手は僕に任せてくれないか?」

 

 

ハサミジャガー隊の前にでる少年、彼のリストバンドに映る大ショッカーの紋章を見てやはりとディケイドは肩を竦めた。

少年の様子に沈黙するハサミジャガー、できる事ならば先ほどの拳の礼をしたいところだが拘る理由も無い。

 

 

「知り合いか?」

 

「ああ、よく知っている」

 

「ッ?」

 

 

仕方ないとハサミジャガー達は少年を残して消えていく。

敵が減って助かったといえばそうだが、ディケイドには引っかかる物があった。

先ほど少年は自分の事を知っていると言っていたが当の自分は彼の事を全く知らない。

記憶に無いといえばそうなのか? しかしここは他世界、この世界で知り合った人物はいない筈だ。

 

 

「お前……」

 

「………」

 

 

少年は悲しげな瞳でディケイドを見ていた。

ショッカーの紋章がある時点で彼は敵の筈だ、しかし結果的には助けてくれたのだろうか?

ディケイドは少年の真意を知りたくて詳細を問うた。彼は誰なのか、大ショッカーに所属している時点で普通の人間とは思えないが。

 

 

「―――そのベルト」

 

「え?」

 

 

少年は質問には答えなかった。

代わりにディケイドライバーを指し示す。次は複眼、次はプレートと次々にディケイドの身体を指し示す。

どうしていいか分からず少年の言葉が終わるのを待つディケイド、それが分かってか少年はピタリと言葉を止める。

ベルトが特徴的な仮面の戦士、そうなれば答えは一つ。

 

 

「君は、"仮面ライダー"……なんだろ?」

 

「えっ!?」

 

 

ふと、その名前を出された時――ディケイドの心臓がドクンと音を立てた。

少なくともディケイドはココでその名を聞くなんて夢にも思っていなかった。

 

 

「好きなの? 仮面ライダー」

 

「!!」

 

 

ディケイドの驚く反応を見て少し笑みを浮かべる少年、やっぱりそうかと言う表情だった。

彼はディケイドと距離を詰める事無く言葉を紡ぐ、まるで二人の間には見えない壁があるかの様に両者はソレを隔てて動けなかったのだ。

 

 

「君は……何のライダーが好きだった?」

 

「えッ!? あ……えっと――ッ」

 

「この世界に仮面ライダーはいない筈、なのに君はココにいる。だったら答えは一つだ」

 

 

それはどういう?

ディケイドが口を開いたらソレにかぶせる様にして少年は言葉を加える。

 

 

「僕は、1号が好きだったな――カッコよくて……強かった」

 

 

どうやら司の知っているライダーと少年が知っているライダーには世界の壁があるらしい。

残念だが司は1号と言う仮面ライダーを知らない、それが伝わったのか少年はまた悲しそうにしながらも笑う。

 

 

「それ、なんていう名前の仮面ライダー?」

 

「あ――えっとディケイド……だけど」

 

「そう、ディケイドか。残念だけど、僕は知らないな」

 

 

彼は何度頷くと声のトーンを落とす。

その重々しい雰囲気に思わずディケイドは怯んでしまった。

彼は何者なんだ? 何故仮面ライダーを知っている? それにこの少年が言う仮面ライダーは恐らく――

 

 

「僕も、なりたかったよ。仮面ライダーに」

 

「………ッッ?」

 

 

今なんて――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しいか? 好き勝手やる……正義ごっこは」

 

「!!」

 

 

冷たい声だった。そこには一片の情も暖かさも無い、静かなものだ。

少年はディケイドをゆっくりと睨みつけている。先ほどの悲しげな表情ではなく何か憎悪を纏ったような、そんな表情で。

 

 

「正義"ごっこ"って――それに、お前……ッ」

 

 

 

今までの少年の態度がディケイドの脳裏にある仮説を立てる。

あれはメタ世界でフェザリーヌが言っていた言葉、そして今少年が言っていた言葉――

仮面ライダーを作る試練、それにランダムで巻き込まれる人達。仮面ライダーが好きな少年。

 

 

「まさか……」

 

 

ディケイドの言葉に少年はもう一度笑みを見せる。

しかしやはりその表情はどこか憎悪を含む、暗いものに見えた。

 

 

「そういえば、元気にしているのかな?」

 

 

何が彼の表情を決めるのだろうか?

 

 

「案内役のあの二人」

 

「え?」

 

 

そしてディケイドの予想は確信へと変わる。

少年は案内役といった――何の?

 

 

「ゼノンとフルーラ」

 

「ッッ!!」

 

「彼らには、いろいろな感謝も恨みもあった」

 

 

やはり間違いない、ディケイドは確信を持ってその少年に声を掛けた。

自分は彼を知らないだけど知っている。その知っているは何も面識があると言う意味ではなかったのだ。

顔や名前は知らないが確かにディケイドは彼を知っている。

 

 

同じ、境遇だという意味で!

 

 

「まさか……お前は――同じなのか!?」

 

「ああ、そうさ」

 

 

その時、何故か少年の服装が一瞬で違うものに変わった。

一般的な洋服からバトルスーツのようなレザー生地の服に変わる。

しかしそんな事は今は気にならない、なぜならばもっと大きな衝撃がディケイドを包んでいたからだ。

同じ、それはつまり――

 

 

「試練者――ッ!」

 

「………」

 

 

ある日ナルタキによって自分の世界から連れ去られ仮面ライダーとして覚醒する試練に巻き込まれる人達、それを"試練者"と呼んでいた。

そして今、ディケイドの前には自分と同じ試練に巻き込まれたであろう少年が立っている。

では何か、彼もまたナルタキによって仮面ライダーとなり大ショッカーと戦う仲間だとでも?

いや、それはおかしい。ここで同じ境遇を分かち合う仲間との遭遇とはならない。

何故ならば彼にはその倒すべき敵である大ショッカーの紋章が刻まれているじゃないか!

 

 

「お前は……試練者なのか? だけど――ッ」

 

「そうだ、僕は君と同じ。あの試練に巻き込まれ――」

 

 

仮面ライダーディケイド、イレギュラーながらも司はその力を手にして結果的にEpisode DECADEを完成させる事に成功した。

その時の会話で過去にも多くの試練者がいた事を聞いたのを覚えている。 ならば彼もまたその一人だったと?

ディケイドは何か大きな威圧感を少年から感じた。それを信じるならば自分と少年は敵同士ではないと思うのだが何故か安心できない。

そしてそれは少年の口から告げられる真実。司は試練に巻き込まれてライダーとなり、少年は試練に巻き込まれ――

 

 

「失敗したよ、僕達の試練は。虚しい最期だった……」

 

「ッ!!」

 

 

やはりそうか、アナザーアギトの様に多くの血が流れるだけの結果に終わったという事。

少年は笑みを自虐的なものに変えてディケイドをより強く睨みつける。

ディケイドとしては今すぐにでも協力関係を結びたかったが、そんな事を言う勇気がない。

彼は何故こんなにも殺気を自分に向けているのか。それは先ほどの言葉の続きが示す、彼らの試練は終わったが同時に始まったものもあったのだ。

目の前にいる彼は仮面ライダーの力を手に入れる事はなかった。だが同時に手にした物があると言う、それこそが――

 

 

「ショッカーの力だ……!」

 

「なッ!!」

 

 

少年の手には大きな蛇の頭部を模したマスクがあった。

彼はそれを躊躇無くかぶるとその目を光らせる。

圧倒的な迫力を持つその姿、先ほどまで人間の姿をしていた少年は仮面でその姿を変身させた。

仮面ライダーとして? 否、それは大ショッカーの怪人の一人として!

 

 

「俺の名はCOBRA(コブラ)

 

 

一人称が変わり、声もより冷たいものとなる。

ディケイドの目の前にいたのは大ショッカーCOBRA隊が隊長であった。

彼は拳を握り締めた後、ディケイドをゆっくりと指差す。彼の人差し指がしっかりとディケイドの心臓部分を示している。

その意味、それは間違いなく友愛ではないと言うことくらい司もわかる。

 

 

「ディケイド、我が大ショッカーの邪魔をする敵として――」

 

 

COBRAは地面を蹴って走り出す。

もうディケイドとて彼のとるだろう行動を理解していた。それが嘘だと思えど、拳を構えて走ってくる彼をどう説明する?

つまり彼は本気なのだ。どういう経緯があってこうなっているのかは知らないが、彼は間違いなく自分を――

 

 

「お前を、処刑する」

 

 

自分を殺す気なんだと。

 

 

 

 





COBRAの容姿はファーストに出てきた同名の怪人です。
次回は未定ですが、おそらく金曜か土曜辺りかなと。
下に鎧武の映画の軽いネタバレ感想書いてますので注意してくださいね。










はい、それで映画見てきました。
久しぶりに一期でありがちな死ネタが多くて緊張感のあるつくりになってましたね。
ああいう雰囲気は映画ならではだったんで好きなんですよ。まあただそれにしたってもうちょっと個々の見せ場はあってもいいんじゃないかとは思いますがw

お話もパラレルならではで面白かったです。
まあ内容は劇場に行って確かめていただければなと。

あとカチドキがやっぱりカッコいいよね。
あの旗がなんて言ってもツボに来ると言うか。活躍もそこそこしてくれたんで良かったです。
それと何と言っても鎧武はBGMが良いんでラストバトルとか鳥肌でしたね。やっぱ並んで変身は熱いですわ。極のマントの質感もいい感じですね、風になびく感じはかっこよかった。

ただあそこは全員揃えてくれてもいいんじゃねーかとは思ったけどねw
11人縛りもいいけどせっかくパラレルなんだから残り二人もさ。


それとトッキュウは最後がただの鉄拳で笑った。一時期クマ使おうと思ってたんだよな、思っただけで終わったけど。


まあ、そんな感じでした。
コレ見てるって事は映画見た人って事なんでしょうが、もしまだ見てない人が見ていたら是非映画館に行ってみてください。もしくはDVDだの円盤が出ればレンタルしてみては。

ではでは

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