仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第67話 剣聖ビルゲニア

 

 

 

真志達の出来事より時間は少し巻き戻る。

 

 

 

「拓真ッ! そっちは!?」

 

「うん、大丈夫!!」

 

 

ゲームセンターにいた拓真達、彼らもまた大ショッカー襲来の事態を把握していた。

突如各地の空にオーロラが現れたかと思うとそこから次々に怪人やら戦闘員達が現れたではないか。

誰もがそれを夢や幻の物だと錯覚し、そして殺される。それを見た人物たちはパニックとなりイレギュラーの真実を受け入れ無ければならないのだ。

拓真達がいたゲームセンターも逃げようとする人々でパニックとなっている。

 

幸いそれほど客がいなかった事もあってか拓真や友里、そしてトアが率先して避難行動を勧める事に。

しかし避難といってもどこに逃げればいいのやら? とりあえずは外に連れ出すだけで拓真達は精一杯だった。

建物の影に客達を隠し、拓真と友里は近くにいるショッカーを倒す事を決める。

 

 

「トア、悪いけど皆をよろしく!」

 

「え……でも君たちは?」

 

「僕たちは安全な場所が無いか確認してくるよ、あとできれば怪人達を倒したい」

 

 

できるの!? 驚くトアの表情を見て友里は笑みを浮かべ敬礼を行う。

とりあえず周りを見ても敵はいないが、少し離れればおそらく何らかの敵とは接触できるだろうというのが二人の考えだった。

 

 

「ぼくも行くよ! こんな事をする奴らは許せないッ!」

 

 

そう言ってトアも前にでるが友里は首を振る。

一応建物が崩れるかもしれないと言う事で皆を外に連れ出したがこうなると見つかる可能性が高い。

そうなってくると皆を率先してくれるトアの存在は大きいものとなる。場合によっては再び建物の中に一同を避難してもらわなければ困るのだから。

それを聞くとトアはしぶしぶながらも納得してくれた様だ、彼に気づかれないようにしてオートバジンを上空に控えさせて拓真達は走りだすのだった。

 

 

「ひどい……こんなの――ッ!」

 

「あんまりだ、ひど過ぎる!」

 

 

走る拓真達の目に映るのは多くの事切れた人達。

子供も老人も女の人も男の人も皆死んでいる光景、あまりにも非現実すぎて分かっている筈なのにどこか信じられない様な気に包まれていた。

拓真も友里も無惨な死体をまじまじと見るのは初めてかもしれない、嫌でも目に入る血や中身に思わず顔を反らす二人。

 

 

「拓真! 見てッ!」

 

「!!」

 

 

友里が指差した場所に見える旗、そこには何かの紋章と――

 

 

「黄金の大鷲……ッ!」

 

「間違いない、あれが大ショッカーだよ!」

 

 

旗を持っている男たちは軍服に特殊武装をした機動隊の様な風貌だった。

全員サングラスをかけており、ライフルやマシンガンを抱えている。部隊はどこかに向かって移動中であるが――

 

 

「止めッ! あああああああっ!!」

 

「うがぁ!」

 

「ひぃぃぃいいッ――……!」

 

 

前方にいた人達に男たちは躊躇無く銃弾を浴びせていく。

一見すれば人が人を銃殺して回っているだけの光景に拓真と友里はゾッとした。

しかしすぐに大ショッカーなのだと割り切ってそれぞれの変身アイテムを取り出す事に。奴らを倒さなければこの世界に平和はない。

 

 

「やめろショッカー! 変身ッ!」『Standing by』『Complete』

 

「変身!」『5』『5』『5』『Standing by』『Complete』

 

 

二人は全速力で走りながら変身を完了させる。

撃たれた人は大丈夫だろうか? などと考える間もなく男達はとどめの銃弾を頭に打ち込んでいた。

瞬間ファイズを包む後悔、もしすぐにアクセルフォームになっていたのならば助けられたのではないだろうかと。

尤もすぎた後悔でしかない、二人はこれ以上の進行を防ぐために男たちを倒す事を決意する。

 

 

「あ゛ぁ? 誰だ貴様ら?」

 

 

少数軍隊のトップにいた男がファイズ達の姿をいち早く確認する。

向かってくる二人が何なのか、牽制の為に男は部下達を前に出させて銃を構える。

反応したのはデルタ、彼女はバーストモードを発動させて射撃を行ってきたではないか。

 

 

「!!」

 

「!」

 

 

光弾が部下に命中して火花を散らす。

同時に理解するリーダー格の男、どうやらアレは敵なのだと把握した様だ。

男は名をナンバー3と言う、彼はサングラスを投げ捨てると楽しげに笑った。やっと退屈から開放されるのかと!

 

 

「面白い、プレイボール!」

 

 

男が指を鳴らす。

すると男や部下の体が黒い炎に包まれて別の姿へと変身した、それは髑髏のイメージが入った虫を模す異形・ワーム。

ナンバー3"フィロキセラワーム"と部下の"サナギ態"はファイズとデルタの姿を確認すると構え走りだした。

大ショッカー加入組織である『シェード』、彼らもまた世界を破壊する物なり。デルタはサナギ態、ファイズがフィロキセラへと狙いを定めた。

 

 

「お前たちは……どうして罪の無い人達をこんな簡単に――ッ!」

 

 

ファイズは全ての怒りを拳に乗せてフィロキセラを殴りつける。

しかし悲しいかな、その拳は簡単に受け止められてはじかれる事になる。

隙ができたファイズへとフィロキセラは腕を振り下ろしダメージを与え、それだけでなく伸びた触覚がファイズの足を絡めとり宙へとほうり投げたではないか。

 

 

「グッ!」

 

 

地面へ叩きつけられるファイズと彼の胴体を思い切り踏みつけるフィロキセラ。

うめき声をあげるファイズと楽しげに笑うフィロキセラ。

 

 

「おいおい、クソみたいなホームベースだな」

 

「―――ッ!」

 

 

なめるな、その思いとともにファイズはすばやくフォンを取り外して銃の形状へ変える。

そしてフィロキセラの足を射撃、怯んだ隙にファイズは体勢を立て直す事に成功する。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

一方のデルタ、向かってくる5体サナギ態を攻撃していくのだが中々決定打にはならない。

ツインモードを発動して倍の銃弾で押しているにも関わらずだ、おそらくマスクドフォーム同じく防御力が高いらしい。

しかしデルタもまた高火力を誇るライダー、一度は利かぬと思った攻撃も連続で当てる事により事態を変えていく。

 

 

「チェックッ!」『Exceed Charge』

 

 

すでにミッションメモリは差し込んである。

デルタはポインターをサナギの一体に打ち込むと飛び上がりそこへ飛び込んでいった!

ルシファーズハンマー、Δの紋章が刻まれた時にサナギの一体が爆発を起こす。だが同時に時間切れを知らせる時でもあった。

デルタの攻撃を受けきった者達はさらなる進化を遂げるのだ。震え始めるサナギ、そして変化はすぐに訪れる。

 

 

「!」

 

 

サナギが割れて、中から姿を見せる"アラクネワーム"達。

彼らはデルタを取り囲むでもなく同時に構えを取った。何がくる? デルタはすぐに銃を構えるが――

 

 

「きゃあああああああああ!!」

 

「友里ちゃん!!」

 

 

あれだけいたアラクネワーム達が一瞬で消えると同時にデルタの身体から幾重もの火花が舞う。

されに上空へ打ち上げられていくデルタ。やられた、クロックアップか!

彼女はすぐに周りを撃ちまくるが弾丸はアラクネワームをかする事も無く地面に命中していくだけ。

ファイズは何とかデルタを助けようとするが、彼が相手にしているフィロキセラも当然ワームである。

彼もまた構えを取るとクロックアップを発動、ファイズに目にも止まらぬ連撃を仕掛けていった。

 

 

「ぐぁッ!」

 

 

抵抗を許さぬ超連撃、ファイズの視界が反転して気がついた時には地面に押さえつけられていた。

フィロキセラはニヤニヤと笑みを浮かべながらファイズを見下している。

許せない相手に見下されている、それがファイズの中で怒りと言う感情を芽生えさせた。

 

 

「おいおいもうゲームセットか?」

 

 

そこで再びクロックアップを発動するフィロキセラ、原因はデルタが呼んだジェットスライガーである。

無数のミサイルを見て回避を行なうフィロキセラ、カウンターにデルタを攻撃していく。

だがそれはファイズに時間を与える事になる。それが何を意味するのか? さあ、後悔してもらおうじゃないか!

 

 

『Complete』『Start Up』

 

「!」

 

 

デルタへと向けた腕を掴み取るファイズ、フィロキセラもアラクネ達もいきなり現れたファイズに困惑して動きを止めてしまった。

そしてその顔面に叩き込まれる拳、ファイズは容赦なく連撃をフィロキセラに浴びせていく。

見えたのは黒、ファイズアクセルフォームだった。

 

 

「グッ! ガハッ!!」

 

「………」

 

 

すぐに体勢を整えて反撃を行なうフィロキセラ、しかしファイズアクセルは常にエクシードチャージ状態にある。

既にはその手にはファイズショットが装備されておりグランインパクトが通常の攻撃と言う事だ。

その攻め合いにフィロキセラが勝てる訳もない、彼はファイズのストレートを受けきれずに近くの瓦礫に消えていく。

 

 

「グガ……ッ!」

 

 

立ち上がるフィロキセラに命中するポインター、彼がそれに反応した時にはアクセルクリムゾンスマッシュが彼を貫いていた時だった。

Φの紋章が彼を包みフィロキセラから人間態に変化を遂げさせた。コレで死なないとは流石に大ショッカーのメンバーと言う事か?

ファイズは倒れ後退していくナンバー3にゆっくりと近づいていくのだった。

 

 

『Complete』

 

「「「!?」」」

 

『Music Select』

 

 

同時に広がる光の翼、デルタもアラクネワーム達の攻撃から逃れた事でエンゼルを発動する事に成功した。

デルタは瞬時にエデンズを自らの周りに収束させる。何も知らないアラクネ達はクロックアップを発動してデルタを狙うが――

 

 

「チェック」『Exceed Charge』

 

 

"エクスシアケージ"。

デルタの周りに並んだエデンズから直線のレーザーが発射、下向きに放たれたそれは文字通り檻を形成してデルタを守った。

一瞬で放たれるレーザー、クロックアップを発動したアラクネ達でさえ反応できずに触れてしまった。

すると光に包まれてデルタの紋章が出現、次々にアラクネ達を爆散させていく。

 

 

「こっちは終わったよ拓真ッ!」

 

「くそがッッ!!」

 

「終わりだ、お前も……ッッ!」『Time Out』『Exceed Charge』

 

 

元に戻るファイズと同時に発動する必殺技、グランインパクトを当てる事ができれば確実に倒せる。

フィロキセラももう抵抗する程の力は残っていない筈だ、彼は確実に狙いを定めて――

 

 

「ハァアアアアアアアアアアッ!!」

 

「!!」

 

 

グランインパクトを――

 

 

「…………ッ」

 

「――――……ッ?」

 

 

これを当てれば確実に倒せる。

その状態で彼は必殺技を――

 

 

「………ッッッ」

 

 

放つ事が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

できなかった。

 

 

「おいおい」

 

「―――ッッ!」

 

 

何故だ! 何故手が動かない!! ファイズはグランインパクトをナンバー3の眼前で停止させていた。

あともう数センチでナンバー3を倒す一撃を命中させられるのにも関わらず、彼の手はピクリとも動かなかった。

動かない、いや動けない! ファイズはありったけの力を込めるが、拳がそこから先に進む事はない。

 

 

(なんで……ッ! なんでだよ!!)

 

 

分からない、本当に? 知っているくせに。

そんな声が聞こえてきた気がする、ファイズの脳裏にフラッシュバックする光景。

それはいつの日かゼノンと交わした言葉。

 

 

『人を殺した後に、大笑いできる強さを』

 

「……ッッッ!!!」

 

 

人、目の前にいるナンバー3は人と変わらない姿ではないか。

もちろん彼が純粋な人ではない事くらい知っている、目の前にいる人間の姿をしたワーム。

それを倒せばいいだけだ、それを倒せばもっと多くの人を助ける事ができる。

なのにできなかった。目の前にいる人を殴る事が――、殺す事がファイズにはできなかったのだ。

 

ファイズは、犬養拓真は今まで人をまともに殴った事が無い。

人の形をしていない物ならば殴り続けたし、その命をこの手で刈り取った事もある。

 

しかし純粋な人を拓真は攻撃したことが無かったのだ。

だからできなかった、傷つける事がどうしても無理だったのだ。

頭はもう何度も理解している、コイツはココで殺すべきだと。なのにどんなに思っても行動には移せなかった。

ただ純粋にひたすらに、怖かった。

 

 

「フォアボール、時間切れだな」

 

「!」

 

 

目の前にいる男が再び異形の姿に変わった時、それはもう既に自分が攻撃の嵐の中にいたことを意味していた。

一撃一撃にて戦意を削がれていく、ファイズはフィロキセラの攻撃に抵抗できず変身が解除されてしまった。

 

 

「ハハハッ!」

 

「あがぁ……ッ! ぐッッ!!」

 

 

フィロキセラは拓真を掴み上げると思い切り腹部に蹴りを入れる。

普通の人間ならば内臓が破裂していただろう、しかし拓真も無事ではすまない。そんな状態にも関わらず次は思い切り顔を殴られた。

すぐにデルタが助けに来てくれるがフィロキセラはそれを確認するとさっさと撤退、既にデルタ達の前から完全に姿を消していたのだった。

 

 

「拓真ッ! 大丈夫!?」

 

「ガハッ!」

 

 

いつもの拓真なら心配いらないと笑みの一つでも返すのだろうが今はそんな余裕など無かった。

変身が解除されてからも数十発は殴られただろう、補正とオルフェノクの力があったからよかった物の普通ならば確実に死んでいた筈。

それであったとしても吐血しているくらいなのだから。呼吸でさえも苦痛に感じるほど全身が痛い、デルタが肩を持ってくれるがそれすらも苦痛に感じてしまう。

それにと拓真は呼吸を荒げ崩れるように下を向く。それはあふれ出る涙を友里に見られたくなかったからだ。

こんな筈じゃない、こんな馬鹿な事があっていいわけが無い! なんで? なんでだよ! なんでなんだッ!!

 

 

「くそぉ……ッッ!」

 

 

アイツだけは今ココで殺しておかなければならなかった!

なのに自分は見逃した、なのに自分は反撃で負けた! 絶対に勝っていた、なのに負けた。

知ってたのに、分かってたのに! あともう少しで何の問題も無く勝ってたじゃないか!!

何故負けたのか。これから先アイツが人を殺すのであればソレは自分が殺したも同じではないか? 拓真はそんな想いで押しつぶされそうになる。

あの時殺せなかったのか、決まっている。それはフィロキセラが人間態に戻ってしまったからだ、人の形をした者を拓真は殺せなかった。

 

 

(じゃあこれから僕はずっと人間の姿をしたヤツに負け続けるのか――?)

 

 

思い切り地面を叩く拓真、友里が何か言葉を投げかけてくれるが彼の耳には入らない。

負けた事の悔しさよりも重くのしかかる何かが彼の心にはあった、人の姿をした化け物だろうともソレは何が人と違う?

その疑問の答えが拓真には出せなかったのだ。

 

 

「負けた……ッ! 僕は――ッッ!!」

 

 

負け続ける?

これからも、あんな惨めに。そして無様に。

大切なものを守れない悔しさに溺れながら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

拓真をジェットスライガーに乗せて学校へと帰した友里、彼女は一人で先ほどのゲームセンターに戻っていた。

しかしそこでトアの姿が消えていた事を確認する。すぐに周りの人に事情を聞くと彼はどうやら拓真達の身を心配して一人で戦場の中に向かって行ってしまったらしい。

その言葉を聞いて唇をかむ友里、こんな事ならしっかりと事情を説明しておくんだったと。

 

そしてもう一つ気になる事があった、それはトイレに向かった男の子の発言である。

お金を柄の悪い連中に取られてしまった彼、そしてその金を取った連中がトイレで死体となっているのを発見したと言うのだ。

男達は全身をナイフの様な刃物で滅多刺しにされており、その表情は助けを求めるかのごとく絶望しきっていた。

思わずゾッとする友里、大ショッカーの魔の手がこんな所にも及んでいたのか――?

 

いやでもと友里は思考をめぐらせる。

彼らが大ショッカーの何者かに殺されたのならばゲームセンター内に大ショッカーがいたと言う事になる。

なのに今の今まで男の子達は無事だった。それは何を意味するのだろうか、既に大ショッカーが退散していたのか?

それとも――……などと思考をめぐらせるが何も答えは出ない。友里自身この現状に混乱しているのだ。

 

 

「とにかく皆は速く安全な場所へ」

 

 

しかし友里の心の中に落ちる影、この世界に安全な場所なんてあるんだろうか?

やはり学校以外は無いかもしれない。いけるか? 友里は不安のまま足を進める決断を取った。

彼女は始めて救う事に不安を覚える。いけるいけると心では思いつつも、その表情は泣きそうに歪んでいたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の椿と咲夜、二人もまた大ショッカー襲来の真っ只中にいた。

街中に出現した戦闘員達を倒していく内に公園へとやって来た二人、そこで明らかに他とは様子の違う男女の姿を見つけた。

それは偶然なのか、それとも狙ったものだったのか、ジャングルジムに座っていた男女は椿達の姿を確認すると目の色を変える。

 

 

「人間ですか……」

 

 

携帯電話よりも一回り大きなパッド式の携帯端末を持った男は気だるそうに椿たちを見る。

同時にジャングルジムから飛び降りる金髪の女、ツインテールでメイド服を身にまとっていた。

メイドは着地と同時にすばやく衣服を整えると、お辞儀をして手を椿達に向ける。

 

 

「はじめまして。私、スーパー美少女メイドの姫狐拿(きこな)と……申します」

 

「は?」

 

 

不快感に表情を歪ませる咲夜、彼女もココにくるまでに多くの死体を発見していた。

そんな状況で悪ふざけに付き合っている暇などない、隣にいる椿も少し青ざめた表情で姫狐拿たちを睨んでいる。

血を見るのはやはり慣れない、ましてこの状況で余裕を出している姫狐拿達は間違いなくショッカー側の人間だろう。

だとしたらそれは自分達の敵だということ、咲夜は既にバックルを構えており後は変身のみの状態だった。

しかしそんな咲夜の雰囲気を無視する様に姫狐拿は話を続ける。

 

 

「そしてコチラが、豚野郎(ごしゅじんさま)でございます!!」

 

「………」

 

 

姫狐拿が示すのは携帯端末を持ったメガネの少年である。

彼は姫狐拿の態度に不愉快だと表情を歪ませる、彼女はどうやらコスプレで自分のキャラをコロコロと変えるらしい。

今日はメイドさんみたいだが変な属性まで追加している様だ、その少年・羅羽屡(らばる)はメガネを整えると再び不愉快そうな表情を浮かべる。

 

そこで気がつく椿と咲夜。

羅羽屡達に気を取られて気がつかなかったが周りを見てみれば大勢の子供達がフラフラとコチラにやって来ているではないか。

何だ? 目を凝らしてみると子供達は全員生気の抜けた虚ろな瞳をしているじゃないか。

彼らは何やら独りでにブツブツと呟きながら一歩一歩とジャングルジムに向かっていく。

 

 

「な、なんだよ……」

 

「夢を見ているんですよ」

 

「え?」

 

 

羅羽屡は言う。

今コチラに向かってきている子供達は全員既に親を大ショッカーに殺された者達らしい。

愛する両親を目の前で失った子供達も大勢いるだろう、彼らはきっと深い悲しみに包まれたに違いない。

そんな彼らがひたむきに目指す場所はただひとつ、その両親達の元なのだ。

 

 

「彼らは死んだ両親の幻影を見ている」

 

「幻影……?」

 

 

それはつまり幻、幻想の産物。

 

 

「どうしてそんな事が分かるんだよ……ッ!」

 

 

椿の言葉に反応したのかやっと羅羽屡が立ち上がる。

椿達を見下すようにしながらメガネを整える羅羽屡、その周りには子供達と異様な光景である。

そしてその疑問に答えるのは姫狐拿、彼女はニヤケ顔で子供たちを見た。その時咲夜の中でとてつもない嫌な予感が走る。

 

 

「何をするつもりだ!」

 

「迷える子羊を助けてあげるだけですよ」

 

「は――」

 

 

そのときだった、羅羽屡と姫狐拿は同時に指を鳴らす。

すると子供達から光の球体が出現し身体から抜け出す様に空に舞う。

それと同時にして次々に地面へ倒れる子供達。ゾッとする咲夜、彼女達は子供達が親の幻想を見てここまでやって来たといっていた。

一体何故そんな事をする意味があるのか? 咲夜はそれと限りなく近い物を自分達の世界で見た事があった。

偽者の幻想を餌にして獲物をおびき寄せる釣りだ、要するに羅羽屡たちも同じではないのか?

要するに、『子供たちを餌で吊り上げた』。

 

 

「おいッッ! お前まさかこんな小さな子達を――!!」

 

「さっきも言ったでしょう? コレは救済ですよ」

 

 

光の球体が羅羽屡の携帯端末に収束され、姫狐拿の身体に収束されていく。

ここで淡々と答え合わせを行なう羅羽屡、今彼らが行なったのはごく簡単な事だった。

親を失った子供達に親の幻想を見せて指定範囲におびき寄せる。そして魂を抜いて自らたちの餌としたのだ。

 

 

「………」

 

「―――ッ!」

 

 

沈黙する椿と咲夜だが、それは意味が分からずに停止していただけにしかすぎない。

やがて二人はほぼ同時にその意味に気がついた。簡単な事だ、彼らが言ったじゃないか。

椿はフラフラと倒れている子供の一人を抱きかかえる、大丈夫かを子供に聞こうと思ったが椿がその言葉を発する事は無かった。

 

 

「………」

 

 

見ただけで答えは、子供達の状態は分かった。

椿は無言で子供を地面にゆっくりと寝かせるとバックルを装備。それが何を意味するのかを咲夜もまた理解する。

彼が触ったその子はもう既に息をしていなかったのだ、もちろんそれは子供達全員に共通して言える事である。

 

 

「降りてこいよ、殺すぜ……お前ら――ッッ!」『ターンアップ』

 

「よくも……変身ッ!」『ターンアップ』

 

 

ブレイドとカリスは一勢に羅羽屡と姫狐拿に向かっていく。

ブレイドは羅羽屡に、カリスは姫狐拿にそれぞれラウザーを振り下ろす。

もちろん彼らとて真正面から攻撃を受ける程弱くは無いのだが。

 

 

「フッ、やはりヒトツミが言っていた事は本当ですね」

 

「あぁ? 何て言ったッ!?」

 

 

ブレイドの剣を真正面から受け止める羅羽屡、それは彼の背中から飛び出た翼を盾にして。

黒き翼はブレイラウザーをしっかりと受け止めておりブレイドが力を加えてもビクともしない強度である事が分かった。

羅羽屡はメガネを整えなおすと冷めた表情でブレイドを見る。

 

 

「君はなぜ怒る?」

 

「はぁ?」

 

 

子供を目の前で殺されたから? それとも守りきれなかった自分に対して?

遅かれ早かれあの子供達は死んでいた、その時間が早まっただけなのに何故彼は牙をむき出しにして殺意をぶつけてくるのだろう?

 

 

「命を失う事で救われる者がいる。違いますか?」

 

「じゃあ何か? お前らは子供たちを救ったとでも?」

 

「フッ、そういう事になりますね」

 

「ざけんなァァアッ!!」

 

 

ブレイドは素早くラウザーを展開、ビートのカードを発動させる。

強化された拳で再び翼を叩くブレイド、すると翼はガラスの様に粉々となりその中に羅羽屡は隠れていく。

盾は破壊されたが肝心の標的が見えないんじゃ意味は無い、ブレイドはすぐに羽を掻き分けるがそこに羅羽屡の姿は無かった。

 

 

「ナンセンス」

 

「ッ!?」

 

「ふざけている? その固定された考えこそがナンセンスなんですよ、人間の」

 

 

背後から声が聞こえてブレイドは振り向きざまにラウザーを振るう。

一秒でも速くこの男を倒したいと思う焦りからか、ブレイドは致命的なミスを犯す。

それは羅羽屡が構えていた携帯端末パッドの文字を見ていなかったと言うこと。

羅羽屡はパッドを盾にするように立っており、そこに書いてあった文字は――

 

 

『ゲームに参加しますか?』『YES』『NO』

 

「しま――ッッ!!」

 

 

遅かった、ブレイラウザーはパッドに直撃。

パッドは彼の力がかかっているのか破壊されず、そしてその場所はイエスの文字が刻まれていた部分である。

つまりブレイドは羅羽屡の問いかけにイエスを示したという事、固まるブレイドとニヤリと笑う羅羽屡。

 

 

「さあ、ゲームを始めましょうか」

 

「!!」

 

 

その時、二人のはるか頭上に何かが出現した。

見ればそれは和風の装飾がなされた椅子である。椅子? 何故椅子が宙を浮いているのか、ブレイドはどうしていいか分からず防御の構えを取るだけ。

対して羅羽屡は再び翼を広げると飛翔して椅子へと座った。

 

 

「ぐあああああああああああッッ!!」

 

 

すると闇の奔流が巻き起こりブレイドを飲み込んでいく。

激しい闇の閃光はブレイドの装甲をガリガリと削り火花を散らしていった。

ガードの構えを無視する様に刻まれたダメージ、これが羅羽屡の攻撃だとでも?

すると再び椅子が出現、若干ブレイドの方が近いと言った所。

 

 

「コレは――ッ」

 

「さあ、何でしょうね」

 

 

羅羽屡は大きく羽ばたき、風を発生させてブレイドの動きを封じる。

その隙に彼は再び飛翔して椅子へと一直線に向かう、ブレイドに攻撃もせず彼はただ椅子に座るだけ。

 

 

「ぐうううううッッ!!」

 

 

だが再び闇の閃光がブレイドを切り刻む。

彼はただ椅子に座っただけなのに何故こんな攻撃を? ブレイドは訳も分からずに混乱するだけ。

だがそこでかき消す様にカリスの声が。どうやら彼女はその正体を見極めた様だ。

 

 

「椿ッ! 出てきた椅子に先に座れッ!!」

 

「!」

 

 

その言葉と同時に現れる椅子、羅羽屡は少し表情を歪めて再び椅子へと一直線に向かった。

だがカリスの言葉を受けたブレイドはマッハのカードを発動、俊足で羅羽屡を追い越すと言われたとおり椅子へと先に座る。

 

 

「!」

 

 

すると闇の閃光がブレイドではなく羅羽屡に刻まれたではないか!

羽を散らして不愉快そうにメガネを整える彼、それを見てブレイドは先ほどからの流れの意味を理解した。

パッドに書かれていたのはゲームの参加意思、そして現れる椅子を取り合う形式のゲーム。

成る程、それが羅羽屡の力と言う訳か。

 

 

「この"椅子取りゲーム"……ッ!」

 

「気がつきましたか」

 

 

対峙しあうブレイドと羅羽屡。

そして同時に現れる椅子、ブレイドはそれを確認するとすぐに地面を蹴って走り出した。

アレにいち早く座った方が攻撃を回避できると言う事なのだろう。

椅子に座っていない物はあの闇を受けると言う事に違いない、ブレイドは羅羽屡を牽制しつつそのまま椅子に座った。

だがココでおかしな事が。

 

 

「!」

 

 

なんと椅子が割れて壊れたのだ。

地面に着くブレイドと、そこで初めて動き出す羅羽屡。

ブレイドは彼の行き先を目で追って衝撃を受けた、それは何と椅子がもう一つあったと言うこと。

 

 

「ぐぅうあああッッ!!」

 

 

椅子に座ったのは羅羽屡、当然椅子に座れなかったブレイドにはお仕置きの攻撃が自動的に仕掛けられる。

しかし疑問なのは何故先に座った自分がペナルティをくらったのかだ。

だがその疑問はすぐに解決される、その答えもまたカリスが叫んでいたから。

 

 

「この金髪の女のせいだ! コイツは偽者の椅子を作れる!」

 

 

カリスの攻撃を素早い身のこなしで次々にかわしていく姫狐拿、彼女は回避しながらもしっかりと手を叩いている。

するとカリスが言ったとおり椅子が現れたではないか、この姫狐拿が生み出した椅子に先ほど座ってしまったと言う事なのだろう。

カリスは彼女を止めようと必死に蹴りや矢を放っていくがことごとく全てが交わされていく。

メイド服と言う動きずらそうな格好にも関わらず姫狐拿は回避能力がすさまじいものだった。

もちろんカリスとて全ての攻撃をはずしている訳ではない、彼女の攻撃は当たっている事もあるのだが――

 

 

「残念、それは外れでぇす!! コンコン☆」

 

「クソッ! またか!」

 

 

姫狐拿の身体に矢が刺さりこんだと思えば、その姫狐拿が消滅。

どこからともなく新たな彼女が現れてダミーの椅子を作っていった。

どうやら彼女は幻術を得意としているらしい、ダミーの椅子や偽者の自分を使って場をかく乱させていく。

 

 

「ぐあああああッッ!!」

 

 

そうしている内に羅羽屡が本物の椅子に着座する。

走る衝撃がブレイドを包み、彼の動きを大きく鈍らせた。

それを椅子に座りながら見下す羅羽屡、鏑牙や瑠璃姫に勝った連中と言う事で期待したがビギナーズラック、どうやら運の様だったか。

実際はナンセンスな弱者と言う感想、ただの雑魚と言ってもいい。

 

 

「さて、帰りましょうか姫狐拿」

 

「ん? もうよろしいんで? 豚野郎」

 

「……チッ! 確かめたいことも確かめました。それにこんな雑魚に構っている時間は無い」

 

 

羅羽屡は椅子から立ち上がると戦いの終わりを宣言する。

しかし馬鹿にしているのだろうか? カリスもブレイドもまだ負けてはいないし、動けない訳でもない。

要するにブレイド達はまだ敵意をむき出しにしているのだ。その中で帰る? 許す訳がないだろうに。

 

 

「フッ、悲しいものですね。自らの実力が分かっていない様だ」

 

「なんだと……?」

 

 

羅羽屡と姫狐拿は並び立つと気だるそうに二人を見る。

熱くなるのは勝手だが周りが見えていないのは考え物だな、羅羽屡はそう言って顎でブレイドの背後を指し示す。

何があるのか、ブレイドは羅羽屡達に注意しつつ背後を見た。

するとコチラにやってくる集団が見えるではないか、恐らく大ショッカーの別部隊と言った所か。

 

 

「あとは私たちの『子』が相手をします。ではこれにて」

 

「子……?」

 

 

深く頭を下げる姫狐拿、そして彼女を横抱きにして飛翔する羅羽屡。

もちろん後を追おうとするブレイド達だったが、彼らとすれ違う様にして飛来してくる炎の塊を確認。

すぐに後ろへ跳んで回避を取った、それは赤い歯車?

 

 

「コォオオオオオオオオオ!」

 

「ッ!」

 

 

炎の車輪はブレイドとカリスの眼前を通過して地面に着地する。そして炎の車輪はその姿を人型へと変貌させた。

現れたのは梵字が前進に刻まれた白い狐、首の周りには赤い装飾が目立つ輪が付けられておいる。

名は"カシャ"、文字通り羅羽屡と姫狐拿の子であると?

 

 

「コオオオオオオオオ!!」

 

「来るぞ椿!」

 

「わ、分かってる!」

 

 

カシャは両手を広げながら二人の元へ走ってくる。ただ走るのではなく輪から炎を発射しながら。

おかげで炎が周りの木々を破壊して焼き尽くす、炎の海があっという間に形成されてブレイド達は炎の檻に閉じ込められる形となった。

激しい熱の中でカリスはバイオのカードを発動。地中から現れるバラの蔓は一瞬で炎に包まれるがコレはカリスの計算、相手の炎を逆に利用してやると!

 

 

「炎の鞭を受けろッ!」

 

 

カシャの四方から襲い掛かる炎の鞭、それはカシャの四肢を絡めとり動きを封じる事に成功した。

ブレイドはそれを見てラウザーを構えて走り出す、やられっぱなしは彼としても悔しいものがあったのだろう。

彼は思い切り力を込めてラウザーを突き出した、一撃で決める勢いだったが――

 

 

「コオオオオオオオオオ!」

 

「!!」

 

 

虚しく空を突くラウザー。

一瞬だった、カシャが炎に包まれたかと思うと炎の車輪に姿を変えてラウザーをかわしたのだ。

カリスの拘束を引き剥がし激しく回転するカシャ、彼はそのまま空中を走るとブレイドに突進をしかけていく。

熱く燃える火炎輪がブレイドの肩にえぐり込む。

 

 

「ぐあぁあああああああああああああああッ!」

 

「椿――ッ! クッ!!」

 

 

カシャはブレイドを跳ね飛ばすとカリスに突撃。

何とかバックステップで回避するカリスだったが、炎に包まれた木々が邪魔でうまく動けない。

そのまま空中をターンして戻ってくるカシャにぶつかってしまった。

 

 

「ちくしょう! なめんなよッッ!!」『メタル』

 

 

再び自分に向かってくるカシャを今度は鋼の防御で受け止めるブレイド、何とかダメージを最小で受け止め弾く事ができたが……

やはり甘かった。カシャは上空に跳ね飛ばされるとその場で静止して急旋回を始める。

すると太陽を通して巨大なレーザーが発射、ブレイドを包み込むようにして命中した。

メタル継続中は耐える事ができた攻撃であったが、その時間は有限だ。メタルの効果がきれると同時にブレイドは熱の光に消えてしまうだろう。

カリスはそれを察知するとブレイドのメタルが消える前に妨害を仕掛ける事を決める。アブソーブクイーンを発動、ジャックフォームとなり一気に地面を蹴った。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「ゴォン!!」

 

 

カリスは回し蹴りでカシャを地面にたたき落とすと、その爪で彼に襲い掛かる。

車輪状態から怪人態へと戻されたカシャに鋭利な爪をつき立てていく。

ジャクジャクとカシャの肉が削がれていき、カリスはフィニッシュをとラウザーに手を伸ばした。

 

 

「―――ッ! ぐああぁあぁあぁああッッ!!」

 

 

だがことごとく彼女達の攻撃は阻まれる。

炎の中から漆黒の弾丸が出現、カリスを巻き込んで近くの燃える木に激突させた。

黒い弾丸はカリスを燃えいく木々の中に沈めると近くの電灯に着地する。

 

 

『愚かな、人間など所詮その程度の生き物よ』

 

 

自らが置かれた立場を理解しようとせずに調子に乗る。

それは由々しき事態であり、許されざる行為だ。もはやソレは罪、大罪だ!

ならば裁きを、ならば断罪を。愚かしく醜い人間に救いの手を差し伸べなければならないのか。

人が憎い、だからこそ救わなければならない。自らが生きていると言う恥ずべき真実を闇に葬るには神の使いたる我等が行使しなければならないのだ。

天使は両腕で愚かな人の命を奪うと言うサインを取った。

 

 

『人よ、自らの命を投げ捨てよ』

 

 

強靭な兜を身にまとう漆黒の翼。神使クロウロード、"コルウス・クロッキオ"であった。

カラスの姿をした神の使いは炎の中でぐったりと倒れているカリスを見下した。

カリスの鎧が熱を弱めてくれるが炎の中のフィールドは彼女の体力を確実に奪っていく。

だがそんな彼女をすぐに助けに向かうのはブレイド、カリスを炎の中から抱え出すと彼はラウザーから一枚のカードを抜き取る。

しかしいくらブレイドの鎧があるとは言えやはり炎の中では熱のダメージがどんどんとブレイドの体力を蝕んでいくものだ。

感じる痛みとダメージも決して軽い物ではない、一刻も早く決着をつけなければ自分達は死ぬ。

 

 

「あぐぅあああッッ!!」『サンダー』

 

 

ラウザーを振るうと電撃が発生して二体の動きを怯ませる。

この隙に何とか攻撃を仕掛けられないかと狙うブレイドだが、炎の中から新たな怪人が姿を見せた。

巨大な青い身体、右手には大蛇が見える。ショッカー怪人"コブラ男"は咆哮をあげてコチラに向かってきたのだ。

コブラの腹部分が顔となっており、鋭い形相でブレイド達を睨む。蛇に睨まれた蛙? いやそんな訳にはいかない、ブレイドは狙いをコブラ男一点に絞り剣を振るった。

 

 

「!」

 

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

しかしコブラ男の皮膚は想像以上に硬く、ブレイラウザーを完全に受け止める。

そのままコブラ男は豪腕からのストレートをブレイドの胴体に叩きこんだ。

呼吸が止まり動きを鈍らせるブレイド、そこへ新たなる蛇の牙が!

 

 

「あぐッッ!!」

 

「フハハハ! 面白い生き物がいると見ればコレか!」

 

 

コブラ男、クロッキオを纏め上げるリーダーはショッカー怪人"カナリコブラ"。

カナリアの頭部をしているが身体はコブラを中心とした改造怪人。カナリコブラ隊はカシャと合流してブレイド達を狙う。

カナリコブラの腕は文字通りコブラとなっており、伸縮自在の射程でブレイラウザーを持つ手を狙ったのだ。

 

 

「ッッ!」

 

 

コブラがブレイドの腕に喰らいつく!

痛みでブレイラウザーを地面に落としてしまうブレイド、そんな彼に打ち込まれるコブラ男の拳。

よろけるブレイドに体勢を立て直したクロッキオが突撃する。骨が軋む音が聞こえ、牙を受けた所からは血が噴水の様に吹き出した。

 

 

「ゴハッ!」

 

 

カリスがすぐに加勢に入ろうとするがカシャが盾となりカリスの加勢をさせまいと邪魔をする。

ジャックフォームの力で何とか優勢を保つカリスだが、彼女とて大ショッカーの敵となる存在だ。

クロッキオはブレイドに直撃後、軌道を変更してカリスに向かう。

 

 

「チッ!」『リフレクト』

 

 

リフレクトモスの鱗粉がカリスの身体を纏う。

そこに直撃するクロッキオ、すると効果が発動してクロッキオは軌道をカシャに変更する。

そのいきなりの軌道変更にクロッキオもカシャも反応が追いつかずに直撃。双方は混乱のまま吹き飛んでいった。

 

 

「椿ッ!」

 

 

カリスはその隙に矢を発射、カナリコブラとコブラ男を怯ませてブレイドの行動をアシストする。

こんな抜群な補助をもらったんだ、状況を変えない手は無い。ブレイドはラウザーを展開させてカードをラウズさせた。

 

 

「うらァアアアアアアアアアアッッ!!」『ビート』

 

 

先ほどのお返しと言わんばかりにブレイドの強化された拳がコブラ男に叩き込まれる。

これは効いたのか動きを止めるコブラ男、ブレイドはカードを発動させつつコブラ男の肩を蹴って上空へ飛び上がる!

 

 

「オオオオオオオオオオオッッッ!!」『キック』『サンダー』【ライトニングブラスト】

 

 

雷撃を纏ったとび蹴りをカナリコブラに仕掛けるブレイド、だが向こうもブレイドの動きには気がついていた。

彼は蹴りを見ると思い切り鳴き声を放つ。それはブレイドの脳にまで届く超音波、その衝撃にブレイドは頭を抱え狙いをずらしてしまう。

苦しい! 脳が揺れる、脳が壊れる! 狂いそうな程の衝撃、結果空中でバランスを崩して地面に倒れる形に。

カナリコブラはすぐにブレイドの首を狙うが――

 

 

「させるかぁああああああああああッッ!!」『アブソーブクイーン』

 

 

土壇場でクイーンを発動、同時にジャックを発動させる事に成功する。

カナリコブラの攻撃が金色の翼に阻まれた、怯む彼と新たに姿を見せたのはブレイドジャックフォーム。

ブレイドは光に怯むカナリコブラを見てキングのカードを発動させる事に成功した。

 

 

「ウェアッッ!!」『キング』【ライトニングスラッシュ】

 

「グォオオオオオオオッッ!!」

 

 

無茶苦茶に剣を振り回すブレイド、土壇場で放たれた一閃はカナリコブラを直撃する事は無かったがコブラハンドを切断する事に成功した。

ジャックフォームで強化された攻撃に苦痛の声を上げて後退していくカナリコブラ。

怒りでわなわなと震えているがブレイドは既にマッハを発動して彼から大きく離れていた。

 

 

「どけェッ!!」『タックル』

 

「ゴオオオオオッッ!!」

 

 

タックルでカシャを吹き飛ばしてブレイドはカリスを抱きかかえる。

そして迷わず上空へ飛翔している所だった。だがカシャがブレイドを打ち落とそうと無数の火炎輪を発射、次々にそれらはブレイドの背中に命中していく。

 

 

「つ、椿! 大丈夫か……!?」

 

「アグッッ! ……ちっくしょぉおおおおおおおッッ!!」

 

 

痛みと衝撃をかき消す様に叫ぶブレイド、彼は何とかカシャの攻撃に耐えるとスピードを上げて距離を離していく。

本当は今すぐにあいつ等を倒したかった。怒りのままに殴り飛ばしたい、それはカリスも似たような気持ちだろう。

しかし二人には確信している事がある。それは今のままでは絶対に大ショッカーの連中には勝てないと言う事。

炎のフィールドは体力を削り、カナリコブラ隊とカシャとの戦闘はギリギリのライン勝負、そもそも大ショッカーはまだいるのだ。

彼らを倒して動けなくなったところを狙われれば確実に死ぬ。

 

 

「椿……」

 

「―――ッ」

 

 

お互い何も言えず空を突き進む。

クロッキオが追いかけようと動いたがカナリコブラはそれを制した。

腕の傷もある、彼はカシャに破壊行動を続ける様に言うとオーロラを出現させて消えていくのだった。

それを遠くから確認するカリス、彼女は無言で拳を握り締める。守りたいと願った物が何一つ守れない悔しさに表情を歪めて。

そしてそれはブレイドも同じだ、敵に背を向けて飛んでいる屈辱。下の地面にはまだ苦しんでいる人がいるだろうに。

そんな彼らを無視するがごとく退避に励む自らの姿。

 

 

「負けた……! あんな奴らに――ッッ!」

 

「………」

 

 

悔しくない訳が無い。

ブレイドもカリスも口にこそしないが勝負の結果は敗北を予測した撤退に終わったのだ。

いや、はっきり言って完敗だった。誰一人として倒せるビジョンが浮かばないのが事実、複数が相手だからなんていい訳は通用しない。

自分達は完璧に負けた。だがこれが現実、ブレイドとカリスはその大きな物を感じながら無言で学校へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方公園、我夢とアキラは広場にいた人の避難を中心に動き回っていた。

突如いたる所にオーロラが出現したかと思えば爆発だの悲鳴だのが聞こえていたではないか。

二人はすぐに何かが起こったのだと理解して人々の避難を始める。

 

とはいえどこに逃げればいいのか?

とりあえず二人は近くに避難所があると聞いたのでそこを目指す事に。そしていざ歩きだそうとした時――

 

 

「ッ!」

 

「!!」

 

 

表情を変える我夢とアキラ、何故ならば公園の広場――つまり自分達がいる場所にオーロラが出現したのだ。

一瞬ゼノンとフルーラ、またはシャルルかと思ったがオーロラの中に映るシルエットを見てその考えを切り捨てる。

何にいたのは骨のデザインが刻まれた全身タイツの戦闘員達。

 

 

「「「「イーッ!!」」」」

 

「きゃああああああああ!!」

 

 

オーロラが通過した瞬間無数の戦闘員達が姿を現した。

アクロバティックに跳び回り、その姿を確認した人は叫び声を上げる。

ある者はナイフを持っており、ある者は拳や蹴りで人々に襲い掛かっていく。

 

 

「ディスクアニマル!!」

 

 

我夢とアキラは自分のアニマル達を展開、襲い掛かる戦闘員達をなぎ払っていく。

戦闘員達のベルトには黄金の大鷲、つまりこの世界に大ショッカーが現れたと言う何よりの証拠だった。

唇を噛む我夢とアキラ、何故先ほどから爆発や悲鳴が聞こえてきたのかを悟った様だ。

そしてオーロラから戦闘員達が現れたと言う事の恐怖、先ほどから各地にオーロラが現れていた事に加えて今もなおどこかではオーロラの姿が見える。

つまりこれは大規模な侵略の可能性が非常に高いという事、アキラはある考えを持ってしまいゾッとした。

全身に嫌な汗を浮かべながらもアキラはそれを確かめる為に浅葱鷲を上空へと向かわせた。

数十秒後アキラの元へ戻る浅葱鷲、彼女はすぐに浅葱鷲が見た景色を確認する事に。

 

 

「!!」

 

 

嫌な予感ほど当たると言う物、浅葱鷲が見たのは今から彼女達が目指す避難所の姿だ。

それはもう原型を留めていない程に崩壊していた、つまり目指すべき場所はもう既に破壊されていたと言う事。

さらに各地に戦闘員や異形の姿を確認する、どこへ逃げても意味など――

 

 

「ブブブブブブッ!!」

 

「きゃッ!」

 

 

その時アキラの前に飛び込んでくるのは巨大な蜂の化け物、その怪人は腕をふるい人々をなぎ払いながらアキラに掴みかかる。

彼女はいきなりの出来事で少し怯んだものの咲夜に教えてもらった投げで蜂の化け物、ハチ怪人を投げ飛ばす。

 

 

「アキ――ッ!」

 

 

動く我夢だが彼にも襲い掛かる鉢の化け物が。

それはアキラに襲い掛かった物とは違うタイプの怪人だった。

右腕に己の針を模したレイピアを所持したツルギバチ怪人である、彼は我夢に向けて容赦なく突きを繰り出した。

 

 

「クッ!」

 

 

なんとか突き出しをかわす我夢だが、その隙を取られて彼はツルギバチ怪人に腕をとられ拘束されてしまう。

そのまま彼の首に噛み付こうとツルギバチ怪人は口を開いて牙を向けた。

 

 

「甘いッ!」

 

「ブブブッッ!?」

 

 

しかし我夢の声と同時にツルギバチ怪人へ鋭い痛みが襲い掛かる。

それは彼が忍ばせておいた瑠璃狼の噛み付き、姿の見えない奇襲にツルギバチ怪人の力も緩む。

その隙に我夢は怪人に蹴りを入れつつ距離を離す。混乱してパニックになっている人々の周りにディスクアニマルを並ばせると自らもアキラと共に並び立った。

取り出すのはそれぞれの変身アイテム。

 

 

「変身!」

 

「変身……ッ」

 

 

音角と音笛を鳴らす二人、紫炎が我夢を包み竜巻がアキラを包む。

そして炎と風を吹き飛ばし変身を完了させた二人、すぐに武器を構えて走り出した。

対するツルギバチ怪人、彼はレイピアを振り上げて勢いよく振り下ろす。響鬼は音撃棒をクロスさせソレを防御、がら空きの胴体に鬼火を放つ。

 

 

「ブブブブッ!」

 

 

苦しみながら後退するツルギバチ怪人、彼はお返しにといわんばかりに粘液を飛ばして響鬼の視界を防いだ。

泡の様な粘液は顔にまとわりつくとなかなか取れない物となっている。それが好機とツルギバチ怪人は連続突きを響鬼に刻む!

 

 

「ぐッ!!」

 

「我夢君!」

 

 

天鬼はすぐに風の弾丸でツルギバチ怪人を妨害、同時に自らに向かってくるハチ怪人にも銃弾を打ち込んだ。

三点バーストのソレは怪人を大きく怯ませて隙を作り出す、響鬼は視界こそふさがれているが動きが止まったツルギバチ怪人の気配を感じて音撃棒を振るった。

すぐにヒットする感触と鈴の音、響鬼はそのまま押し切るようにして突進を繰り出す。

 

 

「ブブブブブブ!!」

 

 

ハチ怪人は羽を広げると飛翔、追撃を企む響鬼たちに自らの針を発射した。

針は響鬼達の足元に突き刺さると爆発、二人を大きく怯ませる。

すぐに天鬼が狙いを其方に変えるがトリッキーな動きをするハチ怪人をなかなか銃で捕らえられない。

そうしている内にツルギバチ怪人がレイピアを構えて天鬼を狙う。どうやらハチ同士それなりにコンビネーションはいいようだ。

 

 

「アキラさん、来ます」

 

「はい……!」

 

 

天鬼は精神を集中させて構えを取る。

そこを狙い針を発射していくハチ怪人、響鬼は天鬼を守るためにその身を盾にして全ての針を身体に受けていく。

苦痛に声を漏らす響鬼、天鬼は心配の声を掛けるが構うなと彼は叫ぶ。

 

 

「―――ッ」

 

 

それを了解した天鬼、全ての精神を集中させて奥義を発動した。

その名も"鬼闘術・旋風刃"、辺りの風が全て天鬼を中心に収束していく。

彼女はゆっくりと顔をあげると腕を払う様にして振るう。すると小規模の嵐が発生、それは響鬼を通過して彼にまとわりついていた粘液を全て吹き飛ばす事に成功した。

どうやら天鬼は一定時間風を自由に操れるようだ。

 

 

「ごめんなさい、大丈夫ですか我夢君?」

 

「はい、ありがとうございますアキラさん!」

 

 

クリアになった視界、お返しだと響鬼はベルトから爆裂火炎鼓を取り出してソレを蹴り飛ばす!

ハチ怪人を狙ったそれは速度こそ中々だが一直線と単調なもの、当然すぐに避けられるのだが――そこで火炎鼓が爆発。

広範囲の炎がハチ怪人を包み地面へ落下させた。倒れるハチ怪人と、彼をかばう様にして立つツルギバチ怪人。

彼は再び粘液を発射して二人の視界を奪おうと狙った。だが天鬼の旋風刃が起こす風にソレ等は無効化。

苛立つ様に身体を震わせてツルギバチ怪人は接近戦に切り替えていく。レイピアを構えて走る怪人、迎え撃つのは響鬼だ。

繰り出される突きを紙一重でかわしながら音撃棒を叩き込む。しかしツルギバチ怪人もまた音撃棒を腕の鎧で防ぎ、的確なガードを行っていった。

 

対して彼らをサポートする為に動く天鬼とハチ怪人。双方それぞれを牽制しつつ相方の行動を補助していくのだ。

しばらくはツルギバチ怪人と響鬼の激しい戦闘が繰り広げられる。ここで動いたのは天鬼だ、彼女はハチ怪人の針を打ち落としながら駆ける。

そしてそのまま響鬼の所まで近づくと――

 

 

「我夢君! ごめんなさい!!」

 

「え?―――って、うわッ!!」

 

 

天鬼は響鬼の肩を踏み台にして大ジャンプ、一気にハチ怪人の目の前まで跳躍する!

その手には風を纏っており、天鬼はクロスチョップを放った。それは鎌鼬となりリーチを増大化、ハチ怪人の羽を切り落とす事に成功する。

 

 

「ブブブァッ!!」

 

「そこですッ!!」

 

 

さらに落下しながら烈風を放つ天鬼、三点バーストがツルギバチ怪人のレイピアを弾いた。

響鬼を眼前にして生まれた隙、そこを狙わない理由など無かった。もらった! 響鬼はそう叫びながらベルトの音撃鼓を掴み取る。

後はこれをツルギバチ怪人につける事ができれば勝つ!

 

 

「ブブブブッ!!」

 

「!!」

 

 

だが倒れたハチ怪人が手をかざすとツルギバチ怪人の周りに蜂の巣を模したバリアが出現。

響鬼の音撃鼓をあとわずかと言う所で阻む、すぐに天鬼の銃弾がバリアを破壊するが既にツルギバチ怪人はハチ怪人の所へ跳んでいる所だった。

再び並び立って退治する両者、しかしそこで拍手の音が聞こえてくる。

 

 

「「ッ?」」

 

 

そこで二人は拍手の主を確認する。木の陰から姿を見せたのは赤い髪のメイド。

この空間に不釣合いな容姿である彼女に強い違和感を覚える二人、そして何よりの原因は彼女に対して膝をつく二体の怪人である。

メイドに向かって跪くハチ怪人、ツルギバチ怪人。それは紛れも無い主従関係の図、響鬼と天鬼はメイドから距離をとる様に後退していく。

明らかに普通の人間ではない。拍手こそしていれど、彼女の目は冷たく二人を睨んでいた。それは敬意ではなく敵意を感じるほどに。

 

 

「やはり、噂は本当でしたか」

 

「ッ?」

 

「チョロチョロと目障りな虫けらめ――ッ!」

 

 

メイドはより深い憎しみを瞳に灯す。

彼女は両手を広げて力を込めた、すると彼女の周りに紅の鎧が出現し次々に装着されていくではないか!

腕に、脚に、胴体に、そして最後は兜が彼女に装備される。全身が鎧で覆われた彼女、さらに右手には剣が、左手には盾が装備された。

 

 

「貴様らの存在が、栞様を苦しめるッ!」

 

「ッ?」

 

 

何を言っているんだ? 響鬼も天鬼もメイド……"倉持カタナ"の言っている事が理解できなかった。

何か人の名を呼んだ気がするがその意味を理解する事ができない、苦しめる? 誰を? 誰が? 何故!?

そう言ってい内にカタナに最後の装備であるマントが出現して変身が完了した。今の彼女はメイドの倉持カタナではない、今の彼女は――

 

 

「聞けッ! 愚かな人間よ!!」

 

「ッ!」

 

 

カタナは剣を響鬼たちに向け、盾を構えて言い放つ。

 

 

「我が名は剣聖! "剣聖ビルゲニア"!!」

 

 

ビルゲニアは剣を構えて走り出す。

構える響鬼と天鬼、直感的に分かるのは彼女が今の二体とは違うと言う事だ。感じる気迫で押しつぶされそうになる!

 

 

「栞様の障害共め、私が排除してくれる!!」

 

「クッ!」

 

 

バックステップを行いながら射撃を繰り出す天鬼、同じく鬼火を放つ響鬼。

しかしビルゲニアは"ビルテクター"と言う盾で全ての攻撃を防ぎきる。尚も突進してくるビルゲニア、響鬼は仕方ないと音撃棒を構えて走り出した。

 

 

「どういう事なんですか! この事態も貴女が引き起こしていると?」

 

「答える義理は無い。貴様らの命は私が貰い受ける!」

 

 

流石は剣聖というべきか、彼女の剣技は響鬼を圧倒していく。

援護を行う天鬼だがビルゲニアは彼女の銃弾も確実に盾や強化したマントを翻して防御していった。

その中で繰り出す突きが響鬼の腕を捉える。

 

 

「グッ!!」

 

「我夢君ッ!!」

 

 

すぐに響鬼を助けようと走る天鬼だが、ビルゲニアは次に彼女に狙いを定めた。

盾を構えて"ビルセイバー"と言う剣で無限のマークを描くビルゲニア、何か来るのか?

響鬼はそれを阻止しようと動くが、それよりも前にビルゲニアの蹴りを受けてしまい再び地面へ倒れることに。

そうしている内にビルゲニアは準備を完了させる、天鬼も防御の体制をとるのだが――

 

 

「ビルセイバー! ダークストームッッ!!」

 

「ッ!! きゃああああああああああッッ!!」

 

「アキラさん!」

 

 

無限のマークから放たれる突風が天鬼の身体を吹き飛ばして木に激突させる。

さらに衝撃波もある様で天鬼は大きなダメージを受けてしまった様だ。立ち上がる響鬼だがビルゲニアは彼に無数の斬撃を刻み付けていく。

 

 

「ぐぅぅうッッ!!」

 

「フン、半端な力では何も守れない。何も救えない!」

 

 

ビルゲニアは盾で響鬼を殴り飛ばすと彼にもダークストームを浴びせる。

吹き飛ぶ響鬼と彼を見下すビルゲニア、大人しく滅べばいいものを足掻くからこうなる。

どうせ何も守れはしないのに。その悪戯な正義感が無意味に人を傷つけるのだとビルゲニアは嘲笑の笑みを浮かべた。

 

 

「傷つけているのは……貴女達じゃないですか!」

 

「大人しくしていれば苦しまずに死ねる。足掻くことが罪なのですよ!」

 

「そんな馬鹿な事があっていい訳がないッ!」

 

 

響鬼は再び立ち上がると音撃棒を構えて走りだす。

それを見て首を振るビルゲニア、中途半端に力を持った子供は無意味な正義感を振りかざしたがる。

愚かでしかたないと彼女は舌打ちを行った、その甘さが栞を――彼女の大切な人を傷つけるのならばやはり響鬼たちは障害でしかない。

 

 

「消えうせろ! エビルブレイド!」

 

 

ビルゲニアが剣を空へ掲げると彼女の身体が光となってビルセイバーと合体する。

光の剣はそのまま独りでに飛び回り響鬼の胴体を貫こうと飛翔していった!

 

 

「くそッ!」

 

 

なんとか一発目をかわす響鬼、しかしすぐにビルセイバーは旋回して再び響鬼を狙った。

反応して回避しようと転がる響鬼だがセイバーが脚をかすめた、さらにそのまま旋回するセイバー!

 

 

「しま――ッ」

 

 

響鬼は動こうとするが足を傷つけられて思う様に動けない。

もう避けるのは不可能、それを悟った響鬼は鬼火を発射してビルセイバーを止めようと試みた。

しかしセイバーの勢いは死なず、そのまま紫炎を貫いてついに響鬼の胴体を貫いた!

 

 

「アグァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「我夢……く――」

 

 

鮮血が飛び散り地面へ崩れ落ちる響鬼。

天鬼が手を伸ばすがそれよりも先にビルゲニアが響鬼の前に着地、再び人間態となり剣を彼に向ける。

エネルギーとなり貫いたため完全な貫通とは言えないが、それでももう響鬼には立つ力すら込められぬ筈だ。

呼吸をするだけで激痛に身をよじらせる事となろう。

 

 

「終わりだ、少年!」

 

 

ビルゲニアが剣を振り下ろす!

 

 

「―――僕はッッ!!」

 

「!!」

 

 

だが響鬼は再び音撃棒をクロスさせてビルセイバーを受け止める。

まだこんな力を残していたか、思わず彼女も目を見開いた。力を込めるビルゲニアだが何故かビクともしない。

気のせいだろうか? 響鬼の身体から赤い蒸気が吹き出ている様な……

 

 

「申し訳ないですが、僕は……諦める訳にはいきませんッッ!!」

 

「何ッ?」

 

「誰かを守ることを諦めたら、僕の力は無意味に変わってしまう――ッ!」

 

「――ッ!!」

 

 

間違いない、響鬼の力が上がっている!

 

 

「この力は、人を守るための物だ!」

 

「チィッ!!」

 

 

響鬼の身体が真っ赤に燃えて炎がビルゲニアにも燃え移った。

苦痛の声をあげてマントを翻すビルゲニア、何とか火をかき消す彼女だが前には轟々と燃える真紅の炎が。

これは危険、ビルゲニアは再びエビルブレイドを発動して響鬼を狙うのだが――

 

 

「そこだッ!!」

 

 

ビルセイバーが響鬼に触れる直前で炎が弾け飛ぶ。

姿を見せるのは響鬼紅。その能力で傷が全快、さらに彼は音撃棒でビルセイバーを叩き込み弾き返した!

空中を旋回して地面に落ちるビルセイバー、攻撃が中断されてビルゲニアも人間態へと強制解除される。

 

 

「ぐぅぅううッ!」

 

 

さらに響鬼紅の特殊効果が発動、攻撃を当てた相手に炎の音撃鼓のマークを展開させる。

動きが封じられたビルゲニアと危険を察知して彼女を助けようと動く二体のハチ怪人。

だが響鬼は怯まない、音撃棒の先に真紅の炎を灯しソレを発射した。

 

 

「邪魔だッ!!」

 

「「ブブゥッ!!」」

 

 

吹き飛ぶ怪人たち、だが時間は稼げたか音撃鼓が解除されて再び動き出すビルゲニア。

彼女はビルセイバーを構えて真っ向から響鬼にぶつかり合う。剣聖の名は伊達ではない、強化された響鬼だが未だ接近戦はビルゲニアに分がある所だった。

さらにビルテクターの防御力、ビルゲニアは激しい剣技で響鬼に音撃を打ち込ませる隙を封じていく。

 

 

「クッ! コレは――ッッ!」

 

 

だがそこでビルゲニアの手に、脚に走る衝撃。見れば何やら赤い石が打ち込まれているではないか!

見えたのは烈風を構えている天鬼、どうやら彼女の意識が回復した様だ。

 

 

「あまり、なめないでください……ッ」

 

「チッ!!」

 

 

幸い鎧が鬼石を止めていてくれた、ビルゲニアは身体を回転させて鬼石を振り落とす。

だが天鬼の狙いは鬼石を振り落とされる事にあった、音撃射は何も鬼石を爆発させる疾風一閃だけじゃない!

 

 

「音撃射――」

 

 

天鬼はベルトに装備されている鳴風を烈風に装着して展開させる。

そして思い切り息を吸い込み音撃を放つ!

 

 

暴風一気(ぼうふういっき)!!」

 

 

初めて放つ音撃、疾風一閃とは違う音色が場を包む。

その音色は地に落ちた鬼石を破裂させ、そこから暴風を巻き起こす技となった。

地面に落ちた鬼石は合計で三つ、暴風の勢いもそれだけ跳ね上がるのだ。ビルゲニアを包む暴風、彼女もその中ではまともに動く事ができない!

その嵐は響鬼にとっては強化を果たす力となる。響鬼は空へ舞い上がるとビルゲニアの背後に着地、思い切り音撃棒を叩き込む!

 

 

「ぐぅううううううううッッ!!」

 

 

展開される響鬼の紋章、音撃を発動させる準備は整った。

 

 

「音撃打――ッッ!」

 

 

横に音撃棒を構えて一発、紋章が巨大化して音撃がビルゲニアの体内に流れ込む。

苦痛に顔をゆがめる彼女、しかし響鬼は容赦ない一撃を刻み込む!

 

 

「灼熱真紅の型ァッッ!!」

 

 

終わりは縦に一撃、ビルゲニアを包む真紅の炎。

彼女は倒れている怪人たちの所まで吹き飛ぶと響鬼達をより深く睨みつける。

何が彼女をそこまでさせるのか、響鬼達は分からないと言う恐怖に駆られた。

 

 

「なるほど、ヒトツミ様が仰っていた通り……ただの弱者と言う訳ではないですね」

 

「ヒトツミ……!? 貴女はヒトツミと繋がっているんですか!?」

 

 

天鬼の言葉にビルゲニアは何も答えずただ曖昧な笑みを浮かべるだけ。

しかし天鬼の必殺技と響鬼紅の必殺技を受けても立っていられる彼女はやはり只者ではない。

念の為にいっておくが二人とも手を抜いてた訳ではない。女性であろうとも大ショッカーには情けをかけてはいけないとゼノンたちから言われていたからだ。

にも関わらずビルゲニアは立っている、これが実力の差だとでも?

 

 

「今回はコレで失礼します」

 

「ッ! 待て!!」

 

 

逃がすまいと走る響鬼達だがダークストームを発動されてしまい動きを封じられる。

そこで見えたのは涼しい顔を浮かべてコチラを見ているビルゲニアだ、それを見て二人は彼女がはじめから本気で戦うつもりが無かったことを悟る。

その隙にマントを翻して姿を消すビルゲニア、二体の怪人も羽を広げて飛翔。天鬼が逃がすまいと動くがダークストームの影響でうまく照準が定まらない。

そうしている間にオーロラが出現、怪人たちも公園から完全に姿を消すのだった。

 

 

「く……ッ」

 

「大丈夫ですか我夢君!」

 

 

変身を解除して膝をつく我夢、そして彼を支えるアキラ。

周りには先ほどの光景が信じられずに立ち尽くす人達で溢れていた。

歯を食いしばる我夢、ハッキリ言って全力を打ち込んだ――つまり殺すつもりで音撃を放ったがビルゲニアは立っていた。

無意識に手加減を行っていたのか? それとも単に自分の力が足りなかったのか? 我夢は不満を押しつぶすようにして首を振り立ち上がる。

とにかく今はこの人達を安全な場所へ移動させなければ、我夢とアキラは頷くとふらつく足を叱咤して進むのだった。

 

 




映画行けたら今週には行きたいんですがね。
まあ、皆さんもネタバレはしない様にお願いします。

次はちょっと未定で。
なるべく早くします。ではでは

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