仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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一応この小説に年齢制限はありませんが、今回のお話は少しキツめの暴力描写が多めとなっていますので苦手な方は注意ください。

区切りに多めのスクロールを取ってある部分があるので、苦手な方はそこの部分まで飛ばしてもらう様にお願いします。
『一方、悲鳴が響く外の光景~』がスクロールあけの文章となります。



第66話 それは地獄それは悪魔それは恐怖

 

 

 

 

「助けてくれぇえええええ!!」

 

「いやあああああああああッッ!!」

 

 

人々が生を望み逃げ惑う、人々が生を掴む為に叫ぶ、それは必死に。少し言い方を変えればまさにゴミの様に、虫けらの様に。

そしてその後ろを追いかけるのは地獄の軍団、悪魔の軍団、恐怖の軍団、死の具現化だ。

命も希望も人が望むもの全てを破壊しつくす黒い影。まさに言うなれば邪悪の化身。

逃げて、逃げなければ貴方達は――

 

 

死ぬ。

 

 

「我々から逃げられると思っているのか! 愚かな人間共めッ!」

 

 

そう言いながら歩いてくるのは文字通りミミズを模したショッカー怪人"ミミズ男"。

彼は腰を抜かして動けなくなっている人達を見て愚かの一言だと称した。

必死に命乞いをしている様だが彼には関係の無い話、ショッカーの障害となる害悪には全て等しく死を与えるのが使命なのだから!

 

 

「殺人リングを受けろぉおおッ!」

 

「う゛ぅッ!!」

 

「あがぁッ!!」

 

 

文字通りリング状のミミズが人々の首に装着される。そしてギリギリと音を立てて締め付け始めたではないか。

その力は相当の物で、多くの人達は必死に引き剥がそうとするが無駄のようだった。

どんどん紫になっていく人達の表情、それを見てミミズ男は愉快だとあざ笑う。

 

 

「ふははは! 苦しいか? だが安心しろ、もうすぐ終わるのだ!」

 

 

尚も締め付ける力を強めるリング、そしてミミズ男が言ったとおり終わりがやってくる。

バキバキと首の骨が折れる音がして倒れる人達、皮膚こそ千切れてはいないが締め付ける力が強すぎて切断状態にまで追いやられたのだ。

首があらぬ方向を向き、眼球は異常なほど飛び出しており皆思わず目を背けたくなる状態になっている。

 

 

「いやあああああああああああああああッッ!!」

 

「ひぃぃぃぃいいいいっ!!」

 

 

パニックなる人々、もうこれが夢なのだと状況から逃げる事はできない。

なぜならばこれは全て現実のものなのだから。痛みも、恐怖も、そして苦しみも。

そして自分がああなるのでは無いかと言う恐怖に食い殺されそうになる。

逃げ惑う人達を執拗に追い詰めていくショッカー。戦闘員が行く手をふさぎ、怪人が命を奪う。よりリアルに、より残酷に、より凄惨に。

 

 

「ゲゲーンッ! 貴様らは偉大なるショッカー怪人の実力テストに使われるモルモットに選ばれたのだッ!」

 

 

そう言って走る人々を捕まえるのはショッカー怪人が一人・"ハエトリバチ"、食虫植物とハチの合成怪人だった。

恐怖から涙を浮べる人々、その中には当然女性や幼い子供、老人もいた。それだけじゃなくカップルや親子の姿も見える。

これがもしフィクションならば子供辺りは助かるのがセオリーなのかもしれない。そう、それがフィクションならばだ。

 

 

「お願いしますッ! この子だけは助けてくださいッ!!」

 

 

親は子供の無事を懇願する。恋人同士ならば双方の安全を祈る。

それは当然の事だろう? しかし運命と言うのは時として残酷な表情を見せる。

ハエトリバチは答えの代わりに親子を蹴り飛ばすと否定の意を宣告した。たとえばキミは交尾中の虫を殺した事はないだろうか?

彼等にとって人の死は流れる水と同じだ。それが当たり前であり、消費される事にたいする疑問など無い。

 

 

「黙れ黙れ愚かな人間め、俺の溶解液を受けて死ねぇええッ!!」

 

 

ハエトリバチから放たれる青色の液体。

それは命乞いを行った人はもちろん、彼らが助けたいと願った人達にも命中する。

直後悲鳴が。煙を上げて人々はのた打ち回り始めた。ある者は顔を抑えて、ある者は肩を抑えて。

皆青色の液体が掛かった部分を悲鳴を上げながら押さえている。

 

 

「うぞだぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛……ッッ!!」

 

 

自らの状況を受け入れられずに人は現実から逃げ回る。

手が、足が、体が溶けてなくなる感覚を彼らは始めて受け入れなければならない。

それだけでなく大切な人が目の前で溶けていく光景、それは彼らの心を大きく抉り殺すだけに充分な機能であろう。

 

 

「やだぁあぁああ! やだよぉお゛お゛お゛おッッ!!」

 

 

激しい痛みと熱が彼らの心を砕く。

髪を失い、皮膚を失い、人としての形さえ失う。もう大半が溶けてしまい原型を留めていない人間が叫んでいた。

それはつい先ほどまで楽しく買い物を楽しんでいた親子だったのかもしれない。

 

しかし今叫ぶ親の前ではドロドロに溶けて無くなった我が子の残骸、その事実に親は錯乱して必死に子供の残骸をかき集めていた。

もう彼? 彼女? それすら分からない親でさえあと数十秒もすれば同じ状態になると言うのに。

同じ様に隣では彼女を抱きしめた男が泣き叫んでいる、既に彼女の姿は完全に崩壊しているのだが――可哀想に、大事な人を守れなかったんだね。

彼女が溶けないように必死に顔を抑えてあげる彼、しかしそれとは裏腹に彼女は徐々に白骨の様に外見をむき出しにしていく。

 

 

「たすけでぇええぇえ! だずげでよ゛おぉぉ!!」

 

「うあぁああぁああああああああああああ!!」

 

 

彼女の歯がボロボロと落ちていく。それを見て狂ったように叫ぶ彼氏。

可愛らしい彼女の顔が醜く変わっていく事に耐えられなかったのだろう。

しかし彼とて溶解液を腹部に受けていた。思わず立ち上がった彼は自分の腹部からボトボトと何かがこぼれていくのを確認する。

 

 

「えあぁあああええあぁああ! ひぃぃいいぃいいぃッッ!」

 

 

皮膚や肉を失った事で身体に詰まっていた内臓や腸が血と共に零れていく。

泣き叫びながら悲鳴を上げる彼氏、パニックからか落ちた臓器を必死に身体の中に戻そうとする光景が酷く滑稽だ。

 

 

「ゲゲーンッ!」

 

 

それを見て上機嫌に笑うハエトリバチ、彼に人間を思いやると言う感情など欠片とて存在してなかった。

ぐちゃぐちゃになった死体を踏み潰しながら尚も進行を続けていく。

先ほどのカップルはもう原型をとどめてはいなかった。お互いがお互いを守れなかった、そして死ぬ。

 

 

「ケケケケケケ! ケケケケケケケ……ッ!」

 

 

さらに後続するはショッカー怪人"ヤモゲラス"。

彼はその手に持った通称デンジャーライトと言う光線中を躊躇なく逃げ惑う人々に発射していく。

そこから放たれるレーザーに触れたものは一瞬で白骨化、共に生きようと願った命が一瞬で骨に変わる。

 

泣き叫びながら逃げ回る人達と笑いながら光線を発射するヤモゲラス。その相対された恐怖に人々は発狂し、そして骨にされるのだ。

それを見てますます辺りはパニックに、多くの人が発狂しながら助かろうと走っている。自らが助かる為に人を押しのけ、他者を吹き飛ばす。

だがそうやって逃げている人達も全員が助かるとは限らなかった。そもそも彼らはどこに逃げるつもりだったのだろう? 悪の連鎖は世界を包んでいるというのに。

 

 

「アぐぉぉぉ……ッッ!!」

 

「ゴポォ…ッ!」

 

 

突如地中から生えてきた緑色の何か、それらが逃げていた人を串刺しにする。

それだけではない、その何かから突如無数の針が発射されて人々の至る所に突き刺さっていったではないか。

ハリセンボンの様に変わる人達。彼らは痛みから逃れようと必死にもがく、懸命に叫ぶ。しかしそれら全て空しく潰える希望。

彼らの助けを求める声を無視するかの様に針は数を増やしていく。それだけでなくまた現れる緑色の『サボテン』達。

地中からの奇襲は多くの命を奪いその体を緑から血の赤に染めていく。歩いてくるのも、またサボテンだ。

 

 

「ショッカーに狙われた者は、誰一人とて生きては帰さん――ッ」

 

 

それがルールなのだとショッカー怪人・"サボテグロン"は言う。

サボテンの改造怪人である彼は死体達を蹴り飛ばしながら足を進めていく。目の前には巨大なクモの巣に捕らえられた人達が見えた。

現れるのは同じくショッカー怪人・"クモ男"。彼は捕まった人達の下へ移動すると次々にその顎で喉元を噛み千切っていた。

 

 

「抗う者には――」

 

 

さらにサボテンの奥から現れる怪人、血の様に赤い毛並みが恐ろしさを演出している様だった。

顔はジャガー、しかしその両手には血で染まった鋭利な刃物が備えられている。彼は倒れている人達をなぎ払いながら最後の生き残りに近づいていった。

それは押すべきだろう両親を殺されて空しく地面を転がるベビーカー、中には泣き声を上げる小さな尊い命があった。

そこへ近づいてく"ハサミジャガー"、それがフィクションの作品であったならば必ず死ぬことは無いだろう存在。

 

 

「死、あるのみ」

 

 

ハサミジャガーはベビーカーの中にいた赤ん坊を串刺しにするとそう宣言する。

ああ、彼にはコレからどんな人生が待っていたんだろうか? きっと優しい両親にいろいろな事を教わって――

きっと素敵な友人に囲まれて、それは綺麗な人と恋に落ちる。いろいろと苦労はするかもしれないが必ず生きていて良かったと思える人生があったのだろう。

しかしそのページは悪魔の軍団に破り捨てられる。美しい文字達は地獄の軍団に塗りつぶされる。

ハサミジャガーは鋏に残っていた赤ん坊を振り払う様に捨てた、アレはもう命ではなく肉の塊なのだという証明。

 

 

「さあ、行くぞ我らの力を示すのだ」

 

「「「イーッ!!」」」

 

 

ハサミジャガーはショッカー戦闘員に指示を出す。

この世界を――

 

 

「滅ぼせ!!」

 

 

大量虐殺、それがこの世界に与えられた運命なのかもしれない。

突如現れたオーロラ、そして突如現れる怪人達。

彼らは一瞬にして多くの命を奪っていく、それは当たり前の様に。

ビルが爆発する。人が虫の様に逃げ回る、そしてまた人が死ぬ、それの繰り返しだった。

 

 

「うああああああああああああ!!」

 

「あああああああああああああ!!」

 

 

断末魔が爆発に消える。

爆炎が人を一瞬で絶命させ、爆風で人の形状が破壊される。

建物が破壊された事で降り注ぐ瓦礫、それもまた多くの命を潰す凶器と変わった。

どこに逃げようが関係は無い。高いビルは駄目、もっと高い空――、飛行機ですら駄目だった。

もうどこにだろうとも逃げられない、逃がさないのだ。その証拠に轟音と共にジェット機が空から落ちてくる。

既にジェット機は炎に包まれており中に乗っていた乗客全員の死亡が簡単に分かった。

ジェット機は多くの人が逃げていた所へ直撃、そして爆発。さらに多くの命を一瞬にして奪い去る。その原因を作ったのは――

 

やはりショッカー。

 

 

「カメエエエエエエッッ!!」

 

 

ショッカー怪人・"カメバズーカー"。

文字通り彼の武器であるバズーカー砲から放たれる弾丸が建物を、ビルを、命を、全てを爆炎の中に葬り去る。

そして連続で放たれる弾丸はソレだけではなかった。それは多くの命を刈り取る鉄槌のごとく降り注ぐ死の雨か。

 

 

「ぎゃあああああぁぁああぁあああぁぁッッ!!」

 

 

目の前で逃げていた人が鉄球に潰される光景を見たらどうなるのだろう?

決して失いたくないからと繋いでいた手の先が真っ赤に染まったら人は何を思うのだろう?

バズーカー砲から必死に逃げていた人達を待っていたのは安息ではなく終わりだった。

カメバズーカーの隣では彼の部下になった神使が。またの名をグロンギである"ゴ・ガメゴ・レ"が鉄球を発射していた。

 

新生ショッカーは多くの組織が統合された所謂大ショッカーである。その中で彼らは行動する時にチームを組む事に決めた。

多くの場合は三人一組のチームでリーダーを中心に二体の怪人、複数の戦闘員から一隊が形成される。

例をあげるならチェンソーリザード、シザースジャガー、そしてリーダーのクルスで構成されたクルス隊。

蜘蛛男、サボテグロン、リーダのハサミジャガーで構成されたハサミジャガー隊。

蝙蝠男、カニバブラー、リーダーのガニコウモルで構成されたガニコウモル隊の様に。

そして今攻撃を行っているのも小隊の一つであるカメバズーカー隊と言う訳だ。

 

人の視点、降り注ぐのが弾丸から鉄球に変わっただけ。無数の鉄の塊が次々に襲い掛かる。

人はそれを確認しても防御すると言う手段を持たない、猛スピードで突撃する鉄球を受ければ一瞬でペーストだ。

もろい彼らにそれを防ぐ術もなし。

 

 

「あ――ははぁはああはあはぁはあああはは……ぁ!」

 

 

過ぎた恐怖はいとも簡単に人の心を崩壊させる。

教会の前では純白のウエディングドレスを真っ赤に染めた花嫁がへたり込んで笑っていた。

しかしてその表情は涙でぐちゃぐちゃになっている、彼女の隣にはつい先ほど永遠の愛を誓い合った男が鉄球に潰されていた。

中身も全てさらけ出している彼を見て、彼女は何故か笑みを浮べて泣いている。周りにいた家族や友人達は既にカメバズーカーの攻撃にして四散している所だった。

今まで自分を育ててくれた両親が、今まで自分を愛してくれた親戚や友人が砲弾でバラバラにされてしまった。

永遠の愛を育もうと誓った男性が無機質な鉄の塊に押しつぶされて原型を失った。彼女の人生は一体何だったんだろうか?

幼き日にこんな結末を考えた事があっただろうか? あるはずが無い。そして来る筈が無かったのだ、こんな結末は。

全ては壁が破壊されてしまったから。訪れない筈の――などと言う言葉すらも壊されてしまったからに他ならない。

 

 

「えぁあぁははぁへえあぁはははは!!!」

 

 

狂い、泣き、笑う花嫁。

きっとこれから彼女達はそれはそれは素敵な思い出を刻んでいったのだろう。

しかし愛を誓った彼は目の前で鉄球の下敷きに、もう愛した表情は残っていない。

唯一愛の証である指輪だけは確認できた、尤もそれをつけた左手は体から分離しているのだが――

 

 

「ずぅトぉ一緒にィてぇクれルって約束したぁのニィ……えはへああははえははへ!」

 

 

彼の手だけを持って笑う花嫁。

しかし安心して欲しい、彼女は何も寂しがる事はないのだ。

何故ならば――

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

彼女もまた同じ姿になれるから。

咆哮と共に振ってきたのはデルザー軍団が改造兵士。カメバズーカー隊、奇械人"ゴロンガメ"である。

刺々しい甲羅を下にして花嫁をプレスした彼は、血に塗れながらも足と手を出現させて立ち上がる。

彼の下には既に原型を留めていない『物体』と血や臓物で汚らしく穢れたしわくちゃのドレスが。

 

 

「焼けて無くなるがいい! フハハハ!!」

 

 

さらに口から緑色の高熱液を発射、多くの死体もろとも教会を焼き尽くしていく。

花嫁も花婿も、牧師も参加者も全員炎に包まれて消える。神々しいステンドグラスが悲しく炎の中に消えていくのだった。

幸福も全て、絶望に呑まれて死ぬ。

 

 

たとえばソレは幼稚園のお遊戯会、わが子の晴れ姿を見ようと多くの人達がホールに集まっていた。

子供達はこの日の為にたくさん練習をしてきたのだろう、ママやパパに見てもらうために。

いい事だ、幕の向こうでは多くの子供達が緊張に身構えているのだろう。客席脇で待機している次のクラスも初々しい緊張感を見せてくれる。

拍手が起こり幕が上がる。さあ今日こそ練習した日々の成果を見せる時だ!

 

 

「―――」

 

 

そんな雰囲気が一瞬で凍りつく。

何故ならば幕があがったステージには子供達が独りもいなかったからだ。

そこにあったのはもはや人ではない、ただの『食べかす』だ。ゲドンの生み出した獣人の一人"ワニ獣人"の食べ残ししかいない。

おや? よく見てみればそれは――

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 

誰かが叫ぶ。

それと同時にしてホールを包む悲鳴、これから見ようとしていたのはわが子が必死にがんばる姿のはずだ。

決して身体を食いちぎられて転がっている姿なんかじゃない! 泣き叫び我が子へと向かう親達、自分の親を捜して叫ぶ子供達。

一刻も早くココから出ようと走る親子達。パニックになったホールは叫び声と鳴き声で溢れていた。

だが本当に逃げられるとでも思っているのだろうか?

 

 

「ヴェヴェヴェ!」

 

「ヴェヴェ! ヴェヴェヴェ」

 

 

大ショッカーに加入済みの組織カーシュから放たれたのは"シアゴースト"と呼ばれる化け物。

彼らは逃げようとする人々を強靭な糸で絡めとり自らの元へと引き寄せる。

そしてその顎で、その牙で次々に食事を始めていった。助けてくれ、もう止めてくれ、そんな悲鳴が幼稚園に響いている。

絶対に聞くことの無いだろうその言葉を噛み締めながらホールで指揮棒を振るう青年がいた。

名は"ベルゼバブ"、彼は地獄のオーケストラを指揮しながらニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「すばらしい絶望だ、それはやがて私の力を昇華させる音へと変わる」

 

 

目の前で子供や職員達が食い散らかされていく光景、それを見ていたのはベルゼバブだけではない。

美しい着物に身を包んだ"ヒトツミ"もまたこのホールに足を運んでいたのだ。彼女はこの光景を見てやれやれと笑っている。

非常に悪趣味な事だ、大ショッカーの連中は子供だろうが女だろうが容赦なく殺していくではないか。

 

 

「まあアタシも人のことは言えないけどねぇ」

 

 

そういってヒトツミは足元に転がっている残骸を見た。

幼稚園の先生は若い女性が多くて助かる、何故ならば――

 

 

「やっぱ食うなら若い女だよねぇ」

 

 

ヒトツミは着物の裾で血に汚れた口を拭くと深い笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

こうして彼らが歩く道、彼らが住む世界、そして彼らが積み上げてきた歴史が壊される。

街中では現在トラックが爆走中であった。獣の様に走るトラックは逃げ惑う人々を次々に跳ね飛ばしていく。

フロントガラスが血で染まり服が引っかかった人は叫びながらも引きずられていく。

何とかその狂気から逃げようとする人もいたのだがトラックは執拗に追いかけてしっかりとひき殺していく。

縦横無尽に駆け回る鉄の塊は何度も死体を踏み潰して赤いタイヤ痕を残す。

 

 

「あがぁッ!」

 

 

一人の女性がトラックに巻き込まれる。

何とか直撃は避けたものの足をタイヤに巻き込まれ立てなくなってしまった。

トラックは一度女性から離れるとそのまま突き進んでいくだけ。助かったか? 女性は安堵の表情を浮かべるが――

 

 

「………ッ?」

 

 

トラックが停止する。すると音声が耳に入ってきた。

 

 

『バックします』

 

「……え」

 

『バックします』

 

 

トラックは音声案内の文字通り後退を始める。

最初はゆっくりだったがすぐに猛スピードに変わり、女性の方へと一直線に向かってきた。

あれ? 何コレ、助かったんじゃなかったの? 女性は唇を震わせて何度も否定の言葉を空に投げかける。

 

 

『バックします』

 

「まだ……死ねないのに――」

 

『バックします』

 

「夫のために――」

 

『バックします』

 

「子供のために――」

 

『バックします』

 

「嫌……」

 

『バックします』

 

「いやああああああああああああああああああああッッ」

 

『バックします』

 

『バックします』

 

『バックします』

 

『バックします』

 

『バックします』

 

『バックします』

『バックします』

『バックします』

『バックします』

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『バックします』

『バックします』

『バックします』

『バックします』

『バックします』

 

 

ひき殺された女性の上でトラックは停止する。

そしてそのまま後退と前進を数回繰り返してしっかりと止めを刺した。

トラックに乗っているのは人? いやそれは人を超えた存在にあり。神の使いたる神使代表"メ・ギャリド・ギ"。

彼は人間が発達させた文明が神の怒りを買っていると称した。愚かな人間は自らが生み出したこの鉄の塊で潰されるにふさわしいと駆け回る。

 

 

「?」

 

 

しかしギャリドはまだ女性に息があった事を確認する。

何かを口にしている女性、しかし肝心の声が出ていない。彼は仕方ないとトラックから降りて彼女の元へ。

 

 

「お願いします……子供が、いるんです」

 

 

それが女性の言葉だった。ギャリドはそれを聞くと無言でトラックに戻っていき――

 

 

「あ」

 

 

女性の頭部をトラックのタイアで押し潰した。

だが彼に関しては逃げる事は絶対不可避ではない、トラックと言う構造上細い路地に入れば逃げられる。

多くの人がそうやってギャリドのトラックから逃げ延びるが――

 

 

「ギギギ!」

 

「シィイィイイ!!」

 

「うわぁぁあぁぁあぁああああぁあ!!」

 

 

逃げた先もまた地獄であることには変わりない。

突如地中から現れるのは同じく神使である"フォルミカ・ペデス"。

ペデスはアリの様な姿をしており、逃げ延びた人の目の前に次々と出現した。

彼らはその豪腕で獲物の両肩を掴むと口から蟻酸を発射、全ての人間がそれを受けてしまった。

すると直後もがき苦しみ始める人々、口から泡を吹き出している姿はまるで彼らが水中にでもいるような光景だった。

いや現に彼らは水中にいる状態と同じなのだ、逃げ場の無い水中。

 

 

「―――――」

 

 

次々に窒息死していく人達、ペデス達はその死体を踏み越えて新たな獲物を求めていく。

ああ、だったら彼らはどこに逃げればいいんだろう? 病院? いやそれは難しい話だ。

 

 

「わあぁああぁあああああぁああッッ!!」

 

 

白衣を着た人物がメスを振り回している。

医者が人を切るのは商売上仕方ない事なのかもしれないが今日のそれは少し違っていた。

なぜならばその医者が切りつけているのは麻酔の効いた患者ではない、手術を行う患者ではない。

 

 

「な……んで――ッッ!?」

 

 

無数の切り傷に塗れているのは入院患者だった。

隣のベッドにいた気さくな入院患者仲間は先ほど現れたこの医者に切り刻まれて死んだ。

向かいのベッドでは患者とその家族が看護婦達に囲まれている。見れば注射針を何度も全身を刺されているではないか。

看護婦達は言葉ですらない何かを叫びながら患者の家族を殺していく。今もその家族の子供を包帯で絞め殺していた所だ。

 

 

「アァアアァアァアァアァアァァァッッ!!」

 

 

地獄だ、これはまさに地獄絵図。そう思ったときには瞳に狂った形相の医者が見えていた。

直後振り下ろされるメス、その患者の眉間に深く刺さり込むと彼はその命を散らしていく。

医者はまだ狂った様に叫びながら何度も患者を刺していく。

既に絶命しているのだがそんな事は関係ない、白衣が真っ赤に染まりきるまで彼はメスを突き刺す事を止めなかった。

 

 

「死ねしねシネシね死ネ死ね死ねしねシネ死ねシネ死ねぇぇええぇぇえ!!」

 

 

そして医者はそのまま狂った様に叫びながら看護婦の触れに突っ込んでいく。

同じく患者を殺していた看護婦達の首にメスをつき立て、思い切り引き裂いていった。

患者を救うべき医者が人を殺して回る異常光景、それはこの部屋だけではない。この病院全てが同じような状況にあったのだ。

運ばれてきた患者には止めを、そして助けを求める手には死を。そんな狂った病院になってしまったのは――

 

 

「ショ――ッ! カアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

病院の屋上で黒い翼を広げる改造人間、"ギルガラス"。

彼の放つ『デッドマンガス』を吸った者はどんな優しい人間だったとしても怒りに狂い、殺意に溺れる。

だからこそギルガラスはデッドマンガスを病院に充満させて医者達を狂わせた、人間同士で殺し合いをさせる為に。

救助の象徴である病院、そこにいる者たちを狂わせる。そうなればソコはもう病院としての機能を果たせない。

では警察はどうか? 自衛隊はどうか? あそこならば頼れる人達が――

 

 

だがその希望もまた無駄なのだ。

警察署に駆け込んだ人達が見たのは驚くべき光景だった、それは警官達の死体の山。

死体は大きく分けて二種類の死に方だった。眉間に銃弾を打ち込まれている者と、全身に大きな傷を負っている者。

警察署のどこを見てもその死体だらけである。しかし不思議な事に婦人警官や女性職員だけは生存している様だ。

彼女達はブルブルと震えながら起こった出来事を話す。何でもカブト虫の化け物と、カウボーイの様な白黒の化け物が警官達を殺してまわったらしいと――。

 

 

ショッカーにとって人間など害虫以下の存在でしかない。

殺すのが当たり前、死んで当然の存在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、悲鳴が響く外の光景。

残った警官達は犯人の一人を見つけていた。無数のパトカーが放つサイレンが遊園地に続く道を塞いでいる。

楽しい遊園地とは不釣合いな光景が広がる中、警官達はバリケードを作り銃を構える。逃げ惑う人々と構え先を睨みつける警官隊。

そしてパトカーの少し遠くから、歩いてくる三つの影が。

 

 

「う、撃てえッ!!」

 

 

警官隊はもう彼らに話し合いなど無意味と知っていた。

だから撃つ、撃ちまくる。けたたましい程の発砲音が辺りを包む中で狙われた影達は歩みを止める事無く新劇を続けている。

ドンドロドンドン、ギンギラギンギラ、ゾクゾクゾンゾクと迫る。悪の軍団、それは異形の黒影達。

ある者は鋏のごとく鋭利なカギ爪を、ある者は鋭い毒牙を、ある者は棘棘の足を持っていた。

 

 

「なんでだ! なんで怯まないッッ!!」

 

 

そう叫びながら引き金を引く警官達、対して尚も進行を続けてくる三つの影。

奴等はゴルゴム、暗闇の兵士。奴等はオルフェノク、それは魔界の悪霊。奴等はショッカー、地獄のコマンドーだ。

平和を破壊し、世界を支配にやってくるのだ!

 

 

「愚かな、無駄と知りながら抵抗を続けるか――ッ!」

 

「ハッハー! こいつは虚しい攻撃だぜ」

 

「………」

 

 

警官達の銃弾を無視する様に歩いてくるのは右からトカゲロン隊隊長・"トカゲロン"。見た目は怪獣と呼べる程にトカゲの姿を強く残している。

中心には同じくトカゲロン隊に入った"バットオルフェノク"、彼は警察署で警官達を殺した張本人だった。

そして同じくトカゲロン隊、"ハサミムシ怪人"だ。トカゲロンと同じくモデルの昆虫を色濃く残している。

彼らは先ほどから警察が放つ銃弾に怯む事無く前進してくる。それが信じられないと警官達は足掻くが無駄だった。

なぜならばそれがトカゲロンの力の一つ、バリア形成が理由である。強力なバリアは銃弾を一切受け付けない。

それを理解できずに警官は足掻こうと必死、何ともまあ滑稽な物だ。

 

 

「ぐわあッ!!」

 

「うグッ!!」

 

 

そしてそこへ襲い掛かる銃弾。

ガンスリンガーであるバットオルフェノクが放つ攻撃は人間程度が反応できる速度ではない、バットは警官が持っていた銃の銃口に自らの弾丸を撃ち込む。

大きく怯む警官たち、そこへさらに銃弾が。それは次々に警官たちの眉間を貫いて絶命させていく。鳴り響くサイレン、人々の悲鳴が不協和音となりあたりを包んだ。

さらにハサミムシ怪人は手をクロスさせて拡散光線を発射、自分たちに向かって突進してきたパトカーを爆散させる。

吹き飛び命を散らしていく警官、そこへ応援の機動隊や自衛隊の姿が。空を見れば多くの戦闘機が飛び交っている。

もちろん、それらの成果も期待できないのだが――

 

 

「無駄だ、己の無力さをあの世で悔いるがいいッ!!」

 

 

トカゲロンが取り出すのはなにやら装飾がついたボール、それは先ほどのバリアを形成していた装置でもある。

同時に、己の進行を妨げる障害を全て破壊する彼の武器だ。

 

 

「死ぬがいい! 必殺シュートッ!!」

 

 

トカゲロンはその"バリア破壊ボール"を思い切り蹴り飛ばす。

するとボールはまず上空を飛んでいた戦闘機に直撃、それを軽々と破壊するとそのまま地面に落下して衝撃波を発生させる。

圧倒的力に巻き込まれて絶命していく機動隊群、彼らが死に際に放った攻撃もトカゲロンが発生させたバリアによって阻まれるのだ。

 

 

「先ほどの奴らより悲しくなる程無力だな」

 

「そりゃあさっきは戦車やら戦闘機やらがお出ましだったからな」

 

 

しかしどれもトカゲロンにとっては玩具でしかなかった。

それから数分、同じような攻防が繰り広げられて死体の山が形成されていく。

しかしその中である法則ができていた。それは――

 

 

「あ……ああ――ッ」

 

 

トカゲロンたちの目の前には震えている女子高生が。

その少し後ろには同じく絶望しきった様子の母親と息子だろう少年が抱き合っている。

それぞれはこの大量虐殺の現場を目撃しきっている為、もう抗う事を止めた様だった。

 

 

「………」

 

 

トカゲロンはバリア破壊ボールをかざす。

それぞれは自らの死を覚悟したのだが、トカゲロンは攻撃をするつもりは無かった。

破壊ボールから放たれた小さなオーロラが女子高生や、親子をどこかへと転送させていったのだ。

 

 

「おいおい、またかよ。アンタも律儀だな」

 

「無力な子供や女など邪魔なだけだ。殺す意味もない」

 

 

トカゲロンは先ほどから多くの人間を殺しているのだが女と子供だけは殺していなかった。

それだけでなく先ほどから今と同じように他の世界へ彼女達を送っていく、送られた世界は安全な世界。

 

 

「まあ俺は強いヤツと戦えればいいんだけどよ」

 

「………」

 

 

そのトカゲロンの意思に完全同意とはいかないもののバットもハサミムシ怪人も行動思念は共にしていた。

バットとしても弱い子供や女と戦う趣味はない、ハサミムシ怪人も言葉は話さないものの了解はしていた様だ。

しかしだからと言って彼らの行動を許していい筈が無い。このまま大ショッカーの侵略を許せばもっと多くの命が失われていくのだから。

 

 

「待てッ!!」

 

「「「!」」」

 

 

バイクの音が聞こえて三体は其方に視線を向ける。

現れるのは二つのバイクにのった男達だった。それはこの世界に現れた救世主か?

それとも――

 

 

「よくも……よくも――ッッ!!」

 

「許さない……ショッカー!」

 

 

遊園地にいたユウスケ、薫の連絡を受けて駆けつけた翼。

二人はトカゲロン達の存在を確認するとすぐにバイクから飛び降りて変身、言葉を交わす事無く殴りかかっていく。

それとも彼らはただの餌?

 

 

「ほう……!」

 

「ハハッ! 安心したぜこの世界も」

 

 

どうやらやっとまともな相手と戦える、そう言ってバットは笑っていた。

同じく反応を示すほかの二体、彼らは素早く言葉を交わして作戦を伝え合う。

それは誰が誰と戦うか、彼らは戦いにフェアを求める性格らしい。複数戦は好まず一対一を主義としている様だった。

 

 

「じゃあ俺は……何だかどっちも似たような姿だな」

 

「ならば私は赤い方を。ハサミムシ怪人は女と子供の救助にあたれ」

 

 

頷くバットとハサミムシ怪人。

バットは銃でアギトを威嚇するとトカゲロンから離れていく。

同時にクウガに向かって走っていくトカゲロン、彼は殴りかかってきたクウガの拳を全てガードしてカウンターの蹴りを打ち込んでいく。

打撃を打ち込まれて怯むクウガ、しかし彼は怒りの感情を身体に纏わせて強引に押し切っていった!

 

 

「お前らぁッ!! よくもこんな事を――ッッ!!」

 

「いい拳だ、だが怒りに任せるのは愚の骨頂と知れ!」

 

 

クウガの攻撃をかわし思い切り体を回すトカゲロン、彼の巨大な尾がクウガに打ち込まれた!

苦痛の声を漏らし吹き飛ぶクウガ、そこへ取り出すのはバリア破壊ボール。

 

 

「受けてみろ、必殺シュート!!」

 

「ッ! 超変身!!」

 

 

避けられないと判断したクウガはタイタンフォームへ。

そして同時にボールを蹴り飛ばすトカゲロン、ボールは猛スピードでクウガへと直撃する。

クウガとしてはタイタンの防御ならばと踏んでいたのだが――

 

 

「ぐあああああああッッ!!」

 

『ユウスケッ!!』

 

 

タイタンフォームの装甲が粉々となり地面に倒れるクウガ。

信じられないと彼は目を見開く、全フォームの中で最も防御に特化したタイタンが簡単に破られた!?

訳が分からないとのクウガにトカゲロンが説明を付与する。

 

 

「このバリア破壊ボールは相手の防御力が強ければ強いほどに力を増すのだ」

 

 

つまりクウガは自らバリア破壊ボールの攻撃力を上げてしまったと?

そんな無茶苦茶な能力があっていい訳が無いと思いたかったが結果がコレだ、クウガはよろよろと立ち上がりドラゴンフォームへと姿を変える。

防御が封じられたのならばボールを防ぐには回避しかない。ドラゴンは薫をドラゴンロッドに変えて構えた。

 

 

「面白い、回避に徹するつもりか」

 

 

だが無駄な事だとトカゲロンはボールを自らの元へと呼び寄せる。そして再び大きく足を振るいボールを蹴り飛ばした!

幸いボールと言う事で軌道は簡単に読める。クウガは直線状で跳んできたボールを交わすとトカゲロンに向かって――

 

 

「甘いッ!」

 

「!」

 

 

クウガが回避したと思っていたボール。

しかしトカゲロンの、正確にはバリア破壊ボールの力でバリアを発生させる。

そのバリアにボールが当たる事でバウンド、軌道を修正してクウガへと背後から襲い掛かった。

バリア破壊ボールはバリアを破壊すると言う文字通りの意味と、自らはバリアを発生させる役割を持っているのだ。

 

 

『ユウスケ後ろ!』

 

「クッ!!」

 

 

何とかクウガは姿勢を低くしてそれを回避する。

しかし再びバリアが発生、ボールはまた軌道を変更する。

これにはクウガも反応できずに命中を許してしまう、防御の低いドラゴンだが元々ボールの攻撃力が強すぎる!

 

 

「グッ!! ―――ガはッ!」

 

 

クウガのクラッシャーから血が勢いよく吹き出た。

悲鳴に近い声をあげる薫、クウガは大丈夫だと弱弱しいサムズアップを返すが薫にはそれが強がりだと言う事くらい嫌でもわかってしまう。

 

 

「コッチからいけばいい――ッ!」

 

 

クウガは立ち上がると再び跳躍、トカゲロンに近づけばボールを蹴る事を封殺できるのではないかと思った様だ。

ロッドを構えてクウガはトカゲロンの目の前に着地、すぐにスプラッシュドラゴンを仕掛けるのだが――

 

 

「ッッッ!!」

 

「申し訳ないが、これも力の一つなのでな」

 

 

トカゲロンはボールからバリアを発生、クウガの攻撃を眼前で受け止める。

一撃じゃなく数撃ならばとクウガは連続でロッドを振るう。

しかしバリアの強度は凄まじくドラゴンフォームの攻撃力では打ち破る事は不可能であった。

 

 

「くらうがいいッ!」

 

「ぐああああぁあぁあああッ!」

 

 

隙だらけのクウガに振るわれる尾、回転するクウガにトカゲロンは追撃のシュートを放った。

背中のど真ん中にボールを受けて動きを止めるクウガ、しかし彼はすぐに体勢を立て直す。

コッチは様々な試練を潜り抜けてきたんだと! 思い出すのは妖狐戦、あの時の感覚を取り戻して――

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

「!」

 

 

雷の力がベルトを駆け巡る。

ライジングペガサスへと変わったクウガは強化されたボウガンをトカゲロンに向けた。

形状からかすぐにバリアを展開するトカゲロン、上等だ! そのシールドをぶち破ってやる!!

 

 

「『ブラスト――ッ! ペガサスッッ!!』」

 

 

ライジングブラストペガサス、合計9本の矢が次々にバリアへと打ち込まれていく。

その貫通力にヒビを入れるバリア、そこで初めてトカゲロンが驚きの目を向けた。

どうやら彼とてこのバリアを破られるとは夢にも思っていなかった様だ。

 

 

「見事だ、だが――」

 

 

遂に矢がシールドをブチ破る。同時にトカゲロンの脚に紫色の光が灯った。

彼はなんとクウガが放った矢にそのまま蹴りを仕掛けたではないか、するとまるで反射される様に矢は軌道をクウガへと変えて飛んでいく。

 

 

「ぐあああああああああッッ!!」

 

 

矢が次々に主人である筈のクウガに命中していった。

膝をつくクウガ、まさか自らの攻撃を利用されるなんて――!

さらにペガサスフォーム特有の超感覚によってダメージがより強く体に響く、これには耐えられる許容範囲を超えている。

変身が解除されてユウスケは地面に伏せた、それを確認するトカゲロン。

 

 

「ぐぁぁ――……ッッ!!」

 

「戦いとは常に相手の能力を危険視していなければならない」

 

 

それを怠ったお前の負けだと言い放つトカゲロン。

そして敗北者が辿る末路はただの一つを除いてない。

 

 

「死だ」

 

 

トカゲロンはボールを蹴り上げて力を込める。

だがそこで聞こえるエンジン音、トカゲロンはすぐにバリアを展開させて防御の構えを見せた。

間髪いれず直撃する鉄の塊、見ればトライチェイサーを運転した薫がそのまま突っ込んで来ていたのだ。

彼女は隙を見てユウスケから離れるとバイクでトカゲロンに突進しようと思ったのだろう。

 

 

「だが甘い、そんな見え透いた突進など効くものか」

 

「効きなさいよッ! ちくしょうッッ!!」

 

 

薫はすぐに引き返すとユウスケを連れて逃げようと試みる。

しかし無理だ、バリアは文字通り壁。トカゲロンは薫の行き先を読んでバリアを張ってくる。こうなれば彼女の動きは封鎖されたも同然。

 

 

「女、私は無意味な殺し程嫌いな物は無い。男だけを置いてさっさと消えろ」

 

「あッッそう! 立派な事ね、反吐が出そうだわッ!」

 

「威勢だけはいいか、それも愚かな事だ。弱者が相手を挑発する事は無意味、己の命を縮めるだけの愚行よ」

 

 

トカゲロンは一歩、また一歩と薫とユウスケに近づいていく。

薫はなんとか逃げるルートが無いものかと探るがバリアの範囲が広すぎてどこも抜けられない状況。

これはまずい、しかし攻略法も無し、早くから詰んでいると言う事だ。

 

 

「お前らでは私に勝つことは不可能、消えるか残るか今ココで選べッ!」

 

「―――ッッ!!」

 

 

薫はユウスケをかばう様に立つがトカゲロンは尾で薫を弾き飛ばすと難なくユウスケの前に立った。

超感覚でのダメージにユウスケは耐えられず気絶している様だ、トカゲロンはユウスケを掴み上げると鼻を鳴らして彼を睨む。

何者かは知らないが女に守られる存在など呆れ帰って物も言えない、そんな情けない姿をさらし続けるくらいならば今ココで死ぬのが幸せと言うものだろうて。

 

 

「さらばだ、人間ッ! 己が無力を悔やむがいい!!」

 

「やめてええええええッッ!! お願いだから!!」

 

 

薫はふらつきながら足を進めようとするがバリアに阻まれて前に進む事ができなかった。

そんな彼女の目の前で行われる処刑、トカゲロンはユウスケを上に投げ飛ばすと落下してきた彼の胴体に蹴りをくらわせた。

叫ぶ薫、何度も何度もバリアに拳を打ち付けるがバリアはびくともしない。ユウスケはと言うとまさにボールの様に吹き飛び地面に打ち付けられる。

普通の人間ならば一撃で即死している様なもの、幸いなのは補正で防御力があがっている事だろう。そこにトカゲロンが気づけば終わりだが――

 

 

「ユウスケッ! ユウスケぇッッ!!」

 

「安心しろ女、即死だ」

 

 

苦しむことは無かったろうとトカゲロンは言う、そして彼は薫に選択を促す。

トカゲロンも馬鹿ではない、彼女がユウスケと親しい仲にあった事は分かる。ならば選ばせるのも情け。

薫を安全な世界へ転送させるか今ココで放置するかを彼女に決めさせると言った。

 

 

「くそおおぉおッッ!!」

 

 

薫は泣きそうな表情でトカゲロンに答えを告げる。

それはこの世界に残せと言うもの、ユウスケの傍に行きたいと彼女は告げた。

それを了解するトカゲロン、彼はへたり込む薫と血を吐いて倒れるユウスケを無視するかの様に歩き去った。

 

 

「ッ!!」

 

 

薫はすぐにユウスケを抱き寄せる。

呼吸を確認してみるとやはり彼はまだ弱弱しい物のしっかりと呼吸を繰り返していた。

トカゲロンの攻撃は確かに普通の人間ならば即死していただろう。

だがユウスケはEpisode DECADEの恩恵により身体能力が他の人間のソレとは明らかに違っている。

 

 

「大丈夫ッ? ユウスケしっかりして!!」

 

「―――ッ」

 

 

しかし呼びかけても反応は薄い。

意識を失っているのだろう、薫はユウスケを抱えるとトライチェイサーにまたがりすぐにエンジンを入れる。

早く彼を学校に連れて行かなければ危険だ、まして自分にはショッカーの怪人とまともに渡り合える力など無いのだから。

 

 

「なんなのよ……なんなのよコレ――ッッ!!」

 

 

薫はユウスケを背中に預けて街の中を走る、しかし辺りを見回してみればソコにはめちゃくちゃにされた日常しか見えなかった。

家は壊れ道は崩れ人は地面に付している、ココは休憩の世界では無かったのか? 薫はおかしくなりそうになりながらも必死に学校を目指していた。

だが、そんなにうまく行く訳も無いのだ。

 

 

「助けてッッ!!」

 

「!!」

 

 

誰かが助けを求めている、薫は思わずそこでバイクを停止させた。

一瞬彼女の脳内に浮かぶ答え、それはその声を無視して学校に帰るというもの。

今ココで誰かを見捨てる様な事があれば自分はきっと後悔するだろう、しかし同時にスルーしなければ危険な状況にあるのも事実。

しかも助けを求めた声はどう考えても子供じゃないか、子供を見捨てるのか? その思いが薫を包む。

 

 

「………ッッ」

 

 

自分達の試練、知り合った桜を思い出す薫。

助けを求める声が彼女に重なってしまい、気がついた時には薫はトライチェイサーを降りていた。

一応影のある場所に停めている為すぐには敵にバレないだろうと。

 

 

「ユウスケ、ちょっと行ってくるわね……ッ」

 

 

薫は気絶しているユウスケに笑みを投げかけると全速力で声のする方向へと走りだした。

まるで人形の様に死んでいる人達の中を駆け抜けて彼女は一直線に声の主へと向かう、幸いにもその子供はすぐに見つかったのだが――

 

 

「!!」

 

「……あ、人間だ――」

 

 

薫は思わず来た道を引き返しそうになってしまった、それは怖かったからに他ならない。

だが無理もない、彼女の目に飛び込んできたのは助けを求め泣いている小さな女の子と血まみれになって事切れている彼女の両親。

彼女の両親は無数の針を頭に突き刺さされて死んでおりまるでハリセンボンの様な姿だった。

正確に言えば針は突き刺したと言うよりは飛び出したと言った方が正しいかもしれない。

頭を突き破って飛び出している針達、ドラマやマンガで見たことこそあれど初めて直面する『死』に薫はとてつもない嘔吐感を覚える。

逃げないとと全身が警告する中で薫は少女の前にいる怪人を見た、白い髪が針の様に逆立っているではないか。

 

名はジャラジ、神使"ゴ・ジャラジ・ダ"。神の子である彼は人を使った遊戯に夢中の様だ。

沢山の人の頭に針を打ち込んで徐々に針を大きくしていく、そうすると痛みで人は泣き叫ぶ。

苦しくて開放して欲しいと懇願し痛みと迫る死に恐怖する、そして激痛を耐え抜いた者に死と言う安息を与えるのだ。

目の前にいる少女の両親も彼にとっては素敵な玩具だった、二人とも最初は自らの死を覚悟して少女を助けてと叫ぶ。

口から放たれる言葉は同じ物、自分はどうなってもいいから娘だけは助けてだのと。しかし針が大きくなるにつれて発狂し自らの意見を百八十度変える。

 

助けて、苦しい、死にたくない、怖い、いやだ、神様――などと自らの無事を優先させて生き残ろうとする。

ジャラジはそれが許せなかった、困ったときはいつも神に頼るのが人間の愚かな部分である。だからそんな馬鹿な事を考える人間はいらない。

しかしそれでも慈悲を与えると言う意味でジャラジは針の巨大化を加速させる。頭に打ち込まれた針は皮膚を貫いて対象を絶命させるのだ。

そうやって彼女の父親を殺した、母親はと言うとあまりの恐怖に耐え切れなかったのか針が巨大化する前に舌を噛み切って自らの命を絶った。

まだ娘が生きているのに酷いねとジャラジは笑う。

 

 

「どうしてそんな事をするの?」

 

 

少女が泣きながらジャラジに問う。

今日は家族で遊園地に行こうって約束してたのに――……母親と一緒につくったお弁当は母親の血に塗れて食べられる物ではなくなっている。

父親と一緒に乗ろうと約束した観覧車は既にショッカーによって破壊されていた。

少女は涙を流す。意味が分からなくて、理解ができなくて、哀しくて。しかしジャラジはハッキリと笑った。

 

 

「だって……君達が苦しむほど……楽しいから」

 

 

あまりにも簡単に、あまりにも簡潔なその理由、これが全てと言っても問題は無いだろう。

大ショッカーには様々な組織が統合され各々の理由を翳して世界を支配しようと動いている。

だがその全ての行く先は神なる世界への到達、その途中で訪れるほかの世界を滅ぼすとき――彼らは娯楽をそこに求める。

ジャラジが言った言葉は他の大ショッカーのメンバーにも言える事だろう。人を殺す快楽、それを求めて彼らは命を奪うのだ。

 

 

「君も……いい悲鳴を聞かせてね」

 

 

針を構えるジャラジ、直接命を奪うスタイルを選んだようだ。

彼は震えて動けない少女を苦しめて殺す事に決めた。彼女の体に少しずつ針を打ち込んでいけばそれはきっと楽しい筈だと思ったのだろう。

しかし――

 

 

「あぐゥッ!!」

 

「!」

 

「へえ……」

 

 

針は皮膚を貫く、しかしそれは少女の物ではなく薫の背中だった。

彼女は少女を助ける為に自らの体を盾にしたのだ。飛び散る鮮血と激しい痛みが薫の表情を曇らせる、少女は恐怖に震え――

 

 

「あ……」

 

 

ジャラジは笑う。

 

 

「思いついた……君達は、どれだけ耐えられるのかな?」

 

「―――ッ!」

 

 

ジャラジは再び針を構えてニヤリと笑う。

その不気味な表情にゾッとする薫、彼女は震える手で怯える少女を撫でると歯を強く食いしばった。

ジャラジを倒す方法は自分には無い、まして彼女を逃がせるだけの力もだ。

状況を打破できる案も無いのに少女を助けにきた自分は大馬鹿だろうな、薫は自虐的な笑みを浮べてユウスケを想う。

 

 

(ごめんユウスケ……私、ここまでかも)

 

 

薫は自らの背後で針を振り上げたジャラジの気配を感じ、もう一度歯を食いしばる。

せめて目の前にいる娘だけは守りたいと願い、彼女は迫る激痛に叫びを上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タアァァァッ!!」

 

「おっと!」

 

 

一方バットオルフェノクと対峙していたアギト、彼らは既に人の気配が無くなった遊園地の駐車場にて戦いを繰り広げていた。

大破し炎上する車、中に人の死体が確認できる車、それらを見てアギトの怒りは膨れ上がっていた。

先程からアギトは激しい攻撃をバットにしかけていくのだが――

 

 

「なかなかやるじゃねぇの! だが――ッッ」

 

「クッ!!」

 

「甘いんだよなぁ! ハッハー!!」

 

 

バットはアギトの拳を弾くと自らの拳を彼に命中させていく。

がら空きになったアギトの胴体に蹴りを命中させバランスを崩す、ふらつくアギトにさらに襲い掛かる拳の雨。

 

 

「アグッ! ガハッッ!!」

 

「オラオラどうした? そんなんじゃ死んじまうぜぇ! ハハハハハ!」

 

 

何て重い拳なのか、アギトは初めて体感するダメージに焦りを感じる。

募る怒りが彼の心を鈍らせていた、早く倒したいのに倒せない! アギトはその中で何とかバットの拳を弾くとカウンターの裏拳を打ち込む事に成功した。

おかげでバットとの距離が空きアギトはその隙を見てフォームチェンジを行う。残念だが肉弾戦では向こうに勝てる気がしないからだ。

このまま拳の戦いを続けていれば負けるのは必至、戦い方を変えなければ未来はない。

 

 

「ハァァアア……ッッ!!」

 

「へえ、色が変わるのか! こりゃ面白い」

 

 

暴風、ストームフォームへの変身を完了させたアギト。

ハルバードのリーチと嵐の力があればなんとかヤツに対抗できるのではないかと踏んだ。

早速アギトはハルバードを振り回し風を発生させる。その力に踏ん張る様にして立ち止まるバット、今ならば隙だらけだとアギトは走りだしたが――

 

 

「悪いな、じゃあ俺も獲物を使わせてもらうぜッ!」

 

「何ッ!? ぐあああああああああ!!」

 

 

アギトの体が激しい火花を散らす!

バットはどこからともなく二丁の拳銃を取り出したかと思うとソレを猛連射してきたのだ。

バットオルフェノクはガンスリンガーでありそのダブルアクションは圧巻の物だった。

ガンマンをイメージさせる通り早撃ちを得意とする彼、おまけに威力もあってアギトの動きはすぐに停止する。

 

 

「あぐぁあああああああ……ッッ!!」

 

「ハッ! 銃弾を防ぐにはちょっと風力が足りねぇみてぇだな」

 

 

バットは銃を連射しながらアギトの方へと足を進めていく。

段数に制限はないのか? まるでマシンガンがごとく怒涛の猛連打である。

アギトも彼の言うとおり銃弾を防ぐほどの風力を出す暇も無く銃弾を身に浴びていくだけ。

 

 

「オラァッッ!!」

 

「グハッッ!!」

 

 

バットはアギトの眼前まで迫ると思い切り回し蹴りをくらわせる。

吹き飛び車に叩きつけられるアギト、フロントガラスが割れハルバードも地面に落ちる。バットはそこへさらに追撃の銃弾を放っていた。

アギトの体が銃弾によって包まれていく。雨のように、嵐の様に。

 

「ッッ!!」

 

 

アギトはストームを解除すると跳躍、ダメージを無視しながらフレイムフォームへと姿を変える。

フレイムセイバーと逆手に持った鞘で次々に銃弾を弾き返していった。どうやらコチラの方が銃弾を防ぐには向いている様だ。

その激しい刀の乱舞に思わずバットも口笛を吹いて賞賛の声をあげる。

 

 

「すごいねぇ、じゃあコレはどうか―――なッッ!!」

 

「!?」

 

 

バットは銃を上に投げると両肩についている鎌を取り外し、ソレをアギトに向かって投擲した!

鎌はブーメランの様に旋回してアギトを狙う。当然超反応でブーメランを二対とも弾き返すアギトだったがバットの狙いは時間を稼ぐ事にあったのだ。

バットはアギトがブーメランに気を取られている隙に銃へ銃弾を装填する。回すリボルバー、バットオルフェノクの銃は弾が無限に生成される。

だが銃弾を込める事で強化弾を放つ事が可能である。そしてその威力は凄まじく、通常の比ではない!

 

 

「グッッ!!??」

 

 

放つ強化弾、それを弾くアギトだが威力が強すぎて刀も弾かれてしまった。

一発目は防ぐ事ができたアギトだがすぐに放たれる二発目に追いつかない! 銃弾はアギトの装甲を抉る様に命中してより大きい火花を散らす。

 

 

「ぐうぅぅうぅうぅッッ!!」

 

「ハハハハハッ! オラどうしたよお兄さん! 弱ぇ、弱ぇ、弱えええええッッ!」

 

 

二丁拳銃から放たれる強化弾にアギトはついに膝を着いた。強い、強すぎる! これが大ショッカーの実力だとでも!?

アギトは焦りと悔しさ、溢れそうな怒りを感じてより強い無力感に襲われる。

最悪だった、敗北の映像しか頭に流れない。

 

 

「クッソォオオオオオオオオッッ!!」

 

 

だが諦める訳にはいかない!

人の命を軽視する奴等を絶対に許してはいけないのだ、アギトは力を解放してトリニティフォームへと変身を遂げる。

その気迫に拍手を送るバット、彼は近くにあった車を飛び越えると一旦その身をアギトから隠す。

 

 

「逃がさないッ!」

 

 

アギトはすぐに後を追い、車を飛び越えた。

 

 

「ッ?」

 

 

しかしバットの姿はソコには無かった、アギトはすぐに周りを確認する。

他の車の陰にかくれているのだろう、トラックやキャンピングカーなど大型の車も確認できる。

隠れるにはうってつけではないか。それを彼は狙ったのだろう、厄介な――ッ!

 

 

「どこだッ! 出てこいッッ!!」

 

 

より明確に浮かび上がる焦り、耳をすませば多くの悲鳴や爆発音が聞こえてくる。

さらに確認できるオーロラ、あそこから続々と大ショッカーの兵士達がやってきているのだ。早くしないとこの世界にいる人達が危ない!

 

 

「余所見はいけないな!」

 

「しま――ッッ!」

 

 

瞬間足にまきつくロープ、バットはトラックの荷台の上に立っていた。

彼の容姿同じく西部劇をイメージさせる投げ縄でアギトを拘束すると一気にロープを引きアギトを地面へ伏せさせる。

そこへ連射する銃、アギトはのけぞり動くことができない!

 

 

「うあぁあぐッッ!!」

 

「おいおい、格好よく登場した割にはその程度か? なんつーか期待はずれだな」

 

 

ダメージを受けながらアギトは炎の暴風を発動、まわりにある車を次々にバットへと差し向ける。

フレイムの効果で燃える車達、巨大な炎の鉄がバットを狙う!

 

 

「―――ッ!!」

 

 

トラックに命中していく車達、炎がすぐに燃料へとたどり着き駐車場に大爆発が巻き起こった。

アギトはトワイライトで投げ縄を引きちぎるとバックステップで距離をとる、流石にコレは効いただろう。

大炎上する駐車場、おそらくバットも死んだ筈だ。ギリギリの勝利だった。

 

 

「ハァ……ハァ――ッ! うぐ……ッッ」

 

 

ダメージが大きい、アギトは一旦学校へ戻ろうと踵を返す。

何とか勝てたがこんな連中がまだ何人も控えていると? いや……ちょっと待て!!

 

 

「!!」

 

 

アギトは気配を感じて素早く振り向いた、しかし全てが遅かったのだ。

鳴り響く発砲音、燃え上がる赤い炎をかき消す様にして一発の銃弾が姿を見せる。青い炎に包まれた銃弾、これは紛れも無く――

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

遅かった、無理だった、避けられなかった。

アギトはその胸に青く燃える銃弾を受けて大きく吹き飛ぶ。

地面を転がり視界を揺らし痛みを感じた後、彼は炎の中からゆっくりと歩いてくるバットオルフェノクを確認する。

 

 

「いやいややるねぇ、おたくも。結構焦ったぜあれは! ハハハハッ!!」

 

 

バットはその言葉と共に持っていた拳銃を投げ捨てる。そしてアギトを挑発する様に手招きを行った。

つまり銃を封印してやるから掛かって来いと言う意味、アギトはその屈辱的なハンデをあえて受ける事にした。

痛みを堪え立ち上がると拳を構えて走り出す、そのハンデを必ず後悔させてやると言う意思と共に。

 

 

「ウォォォオオオォオッッ!!」

 

「フッ!」

 

 

殴りかかるアギトを受け流して蹴りを決めるバット、回し蹴りを行うアギトより先に拳を打ち込むバット。

カウンターを決めようとしたアギトにカウンターを決めるバット、もう彼ははアギトの行動より全て先に手を打ってくる。

アギトもまた理解していた、全てが彼を下回っていると言う事に。だがそれを認めてしまえば心が負ける、それは死を意味するも同じなのだ。

 

 

「ハハハハハハ!」

 

「ぐあああああああああ!!」

 

 

だがそうも言っていられない状況はやってくる。

バットに投げ飛ばされたアギトはついに完全に動きを停止させた、ダメージが大きすぎて体が言う事を聞かない。

意識が朦朧として立ち上がる気力さえも無くなってしまう。

 

 

「終わりだな、まあまあ楽しめたぜ――」

 

「ハァ……ハァ――……ッ!」

 

 

呼吸が荒い、しかし徐々に弱くなってもいる。

次に何か一発でもくらえば――

 

 

「………」

 

 

くらえ――

 

 

「―――」

 

 

く――

 

 

「――……ァ」

 

 

アギトが目の前に立っていた。

アギトは自分なのに、アギトに今は変身しているのに。それでも目の前にいるのはアギトなんだろう。

自分を見ているアギトは赤い炎を体から放っていた。何だコレは、何を意味する? フレイムフォームになれとでも言うの――

 

 

 

 

 

いや、違う。

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

アギトは我に返った様に飛び起きると自らのベルトを確認する。

ああ、やはり形状が変わっているじゃないか。オルタリングはヤツに勝てとその姿を与えるのだろうか?

 

 

「うグッ!! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

体が燃える様に熱くなってきた。まさか――ッッ!

 

 

(力は呪縛となるのか――ッッ!!)

 

 

変身してしまえばいい、変身したい、変身させてくれ――!

バーニングフォームに!!

 

 

「アァアアァアアアアアアァァアアァアアアァアアアアアアアアッッ!!」

 

「?」

 

 

これ以上戦う事は危険だ。

アギトは獣の様な声をあげ、跳躍でマシントルネイダーに飛び乗るとバットから逃げるようにして発進する。

おいおいそれはないだろうとバット、こんな盛り上がった所で逃げようなんて拍子抜けにも程がある。

命を賭けた戦いこそ最大の娯楽なんじゃないか、一歩間違えれば即死亡のゲームだからスリルや快感も段違いに得られるのに。

 

 

「逃げようなんて寂しい事するなよ、もっと遊ぼうぜ……!」

 

 

バットは銃を発砲してアギトを止めようと引き金を引いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「汚く醜い人間でも唯一美しくなる瞬間があります」

 

 

何か分かりますか? そう言ってクルスは屈託の無い笑顔を浮べた。

黒のフリルがついたかわいいワンピース、髪には同じく可愛らしいさを強調させるリボン。

しかしその容姿は可愛さよりも美しさを表したという美少女だ、彼女は今この世界にある女子高にやってきていた。校庭には多くの女性徒達がいるのだが――

 

 

「お……お願いします――っ! たすけてぇ……!」

 

「ふふふ――ッ!」

 

 

顔色は青くボロボロと涙を零しながら唇を震わせる女子生徒と興奮したような表情を浮べるクルス。

彼女の両隣には同じくニヤついているチェンソーリザードとシザースジャガーが見えた。

リザードはボディラインがしっかりと見えるスーツを着た妖艶な女性、ジャガーはどこにでもいそうなメガネのサラリーマンと言った格好。

クルスは同じように命乞いをしている多くの女性徒たち前を歩き、その頬を撫でる。

黒い手袋から伸ばされたクルスの細い指が女生徒の頬に触れられ、唇へとなぞられていく。

彼女は思うのだ、人が最も美しい表情を浮べる時とは――

 

 

「死ね」

 

「やめ――ッッ!!」

 

 

バタンッ! と何かが閉まる大きな音、そして聞こえる無数の悲鳴。

クルスが頬を撫でた少女達はパニックを起こして命乞いの頻度を上げる。

もやはそれは言葉でなく叫びだ、助かるために少女達は死に物狂いでクルスに許しを請う。

どんなに美しい容姿を持った少女も鼻水と涙に顔をぐしゃぐしゃにして。

 

そんな少女達の目の前には既に閉まりきった鉄の処女・アイアンメイデンが並んでいた。

巨大な人形の中にあるのは無数の針、そこに入れられた人間がどうなるかは記述しなくとも明白だろう。

現に並んだ鉄の処女達からは多くの血が今も流れ出ているではないか。クルスは流れ出た血を手につけると再び震える少女の唇にソレをつけなぞる。

 

 

「あるメイドの少女が主君の髪を櫛でとかしていた所、櫛に絡まった髪をふいに引っ張ってしまったんです――」

 

 

激怒した主君は、髪留めでメイドを何度も突き刺し心臓を抉り出して殺害した。

返り血で塗れた手を拭うと肌が金色に輝いた様に見えた為に、主君は処女の血を浴びると美しくなれると思い込んだそうな。

それから主君は配下の者に命じて村中の処女を集めさせた。そしてその処女達の血液を絞り取るため特別に作らせた器具が――

 

 

「この鉄の処女だといわれています。どうです? ロマンチックでしょ?」

 

 

クルスは指を鳴らすと鉄の処女を消失させる。

これは彼女の力で精製されたものが故に一瞬で崩れるアイアンメイデン達、当然そうなると中身が見えてますます狂う少女達。

しかし少女達は何故逃げないのだろう? 答えは簡単、逃げられないからだ。

 

 

「お願い! 何でもしますから助けてください!!」

 

「ふふふ、助けたところで貴女に逃げる場所なんてないですよ」

 

 

まして今から行う事は救済なのだ、神聖な支配を彼女達はその身をもって受けられる。

これほど幸せな事があろうか? そうでしょうとクルスは巨大な二対の柱に捉えられている少女達へ説うた。

永遠の幸福、永遠の支配。全ての人間はこの世の頂点に立つ大ショッカーの支配を受けられるのだ。

それに伴う苦痛は仕方の無い事、当然の義務なのだと。きっと彼女達もそれを死後の世界で感じるに違いない。

 

 

「嫌ぁ……いやぁぁああぁぁああぁああッッ!!」

 

「ああ、やっと見せてくれた」

 

 

あまりにも有名な処刑危惧であるギロチン、そこに拘束された少女達は顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫ぶ。

それを見て恍惚の表情を浮べるクルス、人間が最も美しくなれる瞬間とはやはりこの時以外に無い。

 

 

「恐怖に塗れた時――ッ! アハハハハハ!」

 

 

少し頬を蒸気させながら指を鳴らすクルス、同時に柱から落ちる巨大な刃。

もうそれからは何も言わずとも理解できるだろう。転がり落ちたソレらをクルスは満足そうに見つめた後で邪魔だといわんばかりに蹴り飛ばす。

快楽の先にある虚無感、あれほど美しい表情を見せた人間も今となってはただの汚い肉の塊でしかない。クルス視点でそれは吐き気を催す程醜悪なものとなって映りこむ。

この光景に人間の尊厳などは皆無、だがそれこそがショッカーの求める理想でもあった。選ばれた者のみこそが生を与えられる。

なんて素晴らしいんだろうとクルスは胸の高鳴りを感じていた。今自分がココにいることこそが選ばれし者であると言う事の証明なのだ。

あんな無様な姿で汚らしく死んでいく人間とそんな彼らを殺す存在側である自分達。考えただけでその優劣の差、力の違い、立場の大きさに身をよじらせる。

自らの位置が食物連鎖の頂点であると感じさせてくれるから殺しは止められない、クルスはその快楽にもっと浸りたいと指をあまく噛む。

 

 

「おや?」

 

 

だがそこでクルスは何かが近づいてくるのを感じた。

振り返るとソコに見えたのは二人の男女、この校庭の光景を見て二人は鬼気迫る表情を浮べている。

いや正確には男のほうは何だか複雑な表情だがそこは問題ではないだろう。

ほう、と息を漏らすクルス。どうやらまた新しい餌がやってきた様だ、クルスは優しい笑みを浮かべて足を進める。

 

 

「酷い……酷すぎるぜてめぇらッッ!!」

 

「糞ッ! ふざけやがって……!!」

 

 

二人同時に突き出すデッキ、そして二人同時に構え言葉を放つ。

何だ? 普通の人間とは何か違うその雰囲気に思わずクルスは立ち止まってしまった。

この光景を見て怯えず怒りを浮かべるなんておかしい話だろう?

 

 

「「変身ッ!!」」

 

 

鏡像が重なり合い変身を完了させる龍騎とファム、二人は既に死体となっている全校生徒達を確認すると叫びに似た声を上げて突っ走る。

助けられなかった悔しさ、人間をゴミの様に扱う大ショッカー、この世界は彼らの玩具ではない。

人が必死に生きて築き上げた毎日を簡単に奪うのか!!

 

 

「ぶっ殺すッッ!!」

 

「やれやれ、熱いことね。どうしましょうかクルス?」

 

「そう………ですね、まずそもそもアレは何なんでしょう?」

 

 

人間? それにしては変身といい装甲を身に纏っている。

そういう存在がいると言う世界なのだろうか? クルスは少し沈黙しつつも迫るファム達が自分達に敵対の意を示している事を理解した。

尤も殺すと言われた身だ、そこに殺意があることくらいは明白ではあった。

できればデータを集めたい所ではあるがあまり時間を費やすのは好きじゃない。結果、クルスが下した命令は――

 

 

「リザード! ジャガー! あの二人を八つ裂きにしてください」

 

「フフ、了解」

 

「了解、神聖なる支配をッッ!!」

 

 

前に出るリザードとジャガー、すると一瞬で彼らの服装が変わる。

バトルスーツの様な、それは明らかに普通の服とはいえない物だった。そしてさらに二人は自らの顔を隠すマスクを取り出す。

トカゲ、ジャガー、二つの動物が色濃く象徴されたマスクをそれぞれは顔へと装着。ジャガーはメガネをしたうえで。

 

 

「ッ!」

 

 

そこに立っていたのはもう既に人であり人に非ず。

チェンソーリザードとシザースジャガーの両名は己の武器を示す名前を持ち合わせていた。

リザードは両腕にチェンソーを、ジャガーは両腕に鋭利な刃物を装備して走り出した!

当然迎え撃とうと構えるファムだが――

 

 

「……ッ」

 

 

龍騎はふと校庭に転がっている首の無い少女達を、体が穴だらけになっている少女達を見る。

彼女達は今までどんな人生を歩んできたのだろうか? 彼女達の名前は――

 

 

 

 

あるのだろうか?

 

 

 

 

 

「………」

 

 

思い出すのは、頭に刻まれているのはメタ世界での言葉。それをどんなに忘れようとしても無理だった、できなかったのだ。

だから考えてしまう。彼女達が死んだ理由は簡単な物ではないか? それは彼女達が『モブキャラ』だからだ。

モブはお話を盛り上げる為の捨て駒でしかない、言ってしまえばそれが彼女達に与えられた使命ではないかと。

ショッカーの恐ろしさを強調させる為に彼女達は今までの人生を生きてきたのではないか?

きっとコレを見ている神々は彼女達のことなんて欠片とて把握していない筈だ。

どんな髪型をしているのか、どんな体系をしているのかなんて知らないし知る必要も無い。まして知りたいとも思わないのではないでは?

だって彼女達が死ぬ事で『自分達』のお話が進むのだから。

 

 

 

そうだろ? Episode DECADE

 

 

「………ッッ」

 

 

歯を食いしばり立ち止まる龍騎、多くの命を奪ったのは誰か? それは目の前にいる大ショッカーの連中に決まっている事。

いや本当にそうか? 本当に奴等が彼女達を殺したのだろうか? 龍騎の……ではなく条戸真志は意味も無い確信を持ち始める。

これは全て神が記述した世界、確定された結果なのではないかと。

つまり、この世界における多くの命を奪ったのは神なる世界にいる本当の作者ではないのか?

この物語には実際の作者がいてソイツがただキーボードか何かで女性徒が死ぬ過程を描いただけなんじゃないのか!?

魔女の言葉、あの言葉――!

 

 

『二次創作、仮面ライダーEpisode DECADEの駒達よ』

 

 

駒、その言葉に龍騎は歯を食いしばる。娯楽の為に利用されるだけ利用されて捨てられる存在。

ゼノン達が言う仮の作者はホシボシと言ったか、やはりソイツは本当にいるはずだ。

龍騎はただの予想を事実と捉えて考察を加速させていく。仮にその作者がいたとしてソイツは何を望む?

もしコレが――自分達が今まで必死に辿ってきた道がただの趣味で作られた創作だったとしたら、エンターテイメントだとしたら作者は何を書く?

ああ決まっている、龍騎はまたも確信(よそう)を持つ。この世界に攻めてきた無数の大ショッカー、多くの軍勢は自分達が勝てる相手ではない。

コレはきっと作者が大ショッカーの強さを知らしめる為に作った章の筈だと。では今から始まる勝負がどういう結果になるのか、それもまた容易に想像ができた。

 

思えばデートの時点で兆候はあったのかもしれない。それぞれが分かれる事の意味、それは自分達を分散させてより多くのショッカーと戦わせる事。

結果は恐らく……いや確実に自分達が負けるのだ。順番的に考えるならばきっとクウガもアギトも大ショッカーの怪人に敗北したはず。

そしてそれは自分も同じ、今からどんなに頑張ろうがあの三人に敗北する事はもう決定している筈だ。それが補正と言うものだろう?

 

 

「真志ッ! 何ボッとしてんだ! 死にてぇのかよ!?」

 

「美歩……逃げようぜ」

 

「はぁッ!?」

 

 

どうせ勝てない。どうせ救えない。

それがこの世界における自分達の実力なのだ、もちろんそれは作者に設定された物。

結局先程殺された女性徒達は殺される為に登場したモブ、敵の恐怖を読者に教える為だけに創られた存在なんだと龍騎は思う。

ならば自分達にとれる行動は関わらずに場を乗り過ごす事だ。それを選ぶ事も決まっていたのだろうが、それが最善だと龍騎は言いはなつ。

 

それに少し余裕もあったのだ、だって自分主要キャラクターなんだろ? だったらこんな所で死ぬなんておかしい話。

作者だってまだ自分を失わせる事なんてしない筈、これから先龍騎がいない状況でお話を作らないといけないんだからな。

そうだ、それでいい! 否定してやるよ、お偉いお偉い作者(かみ)様め――ッ!

 

 

「真志……何言ってんだよ! まだ学校に生きてる娘がいるかも――」

 

「いねぇよそんなもんッッ!!」

 

「!?」

 

 

いるわけが無い。ましていたとしてどうなる? 作者はソイツをどうしたい!? きっと殺すに決まってる。

この世界の形態を見れば何となくだが予想はつく。作者はどうせとことん殺したいんだろう、ココに来るまでにも多くの死体を見た。

今まではそんな事無かったのに急にだ! 明らかに他の世界とは違っている、でもそれは作者が決め事。

だとしたらどうせ作者は全校生徒を既に死亡させているに決まっていると。そうだろ? いるんだろッ? 見てるんだろッ!

 

 

「何だよ……なんでそんな事言うんだよ!!」

 

「作り物なんだよ全部……ッ!」

 

 

どうせデモンストレーションか何かなんだ。

作者は大ショッカーの力を知らしめる為にこの世界を創った。この世界に住む人達は皆作者に命を弄ばれて死ぬ、それが運命。

だったら自分達にできる事なんて何も無い、自分達は作者の操り人形なんだから努力する意味も戦う意味も無い。

なら大人しくしている方が正しいんじゃないか? それが龍騎の結論。そう否定してやるよ全部、お前の筋書き通りに進んでたまるかよ。

どうせオレ達が負ける文章用意してヘラヘラ笑ってんだろッッ!? いいご身分な事だな、羨ましいよ本当に。

 

 

「あいつ等ほっといたらもっと人が襲われちゃうかもしれないじゃん!」

 

「だろうな、それが決定された運命(きゃくほん)だ」

 

「―――ッッ、意味わかんねぇ……ッ!」

 

 

もういいとファムは龍騎を無視して走りだした。

それを見て舌打ちを行う龍騎、どうして分からない? どうして理解できないんだ。

オレが間違っている? いや違う、きっと自分は真実にたどり着いたはずだ。全て……全てがお話だった。今も、昔も、そしてコレからも!!

 

 

「無駄なんだよ、美歩……」

 

 

チェンソーリザードの攻撃をかわしファムはガードベントを発動させる。

無数に舞い散る羽の中で戦うファムをジッと龍騎は見ているだけだった。

相手は二人、何もしなければファムはそのうち大きなダメージを受けてしまう筈だ。

しかしそれでも龍騎は動かない、動いたところでどうなる? 全ては決定されている舞台上の出来事。

全ては神々と言う人間共を楽しませる偶像の産物、全て決まっている未来と結果。

 

 

「美歩……オレはお前が――」

 

 

本当に大切な存在なんだろうか?

龍騎はジッとファムを見る。シザースジャガーの素早い斬撃が彼女を刻み、火花を散らせていた。

ダメージを受けて膝を突くファム、そんな彼女の襲い掛かるのは二対のチェンソー。

きっとこのままならば彼女はあの回転するノコギリを受けてしまうだろう。下手をすればあの純白の体が真っ赤に染まるかもしれない。

なのに龍騎は動かなかった、もやは彼はこの世界のルールを理解したと自負している。彼視点たとえファムが危険に晒されようが動く事はしない。

何故ならば自分達は主役級なんだと魔女が言っていたから、そしてこれはデモンストレーション。

こんな場面でファムが――

 

 

「死ぬわけがない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『がっかりだわ、龍騎』

 

「演技を放棄した役者はゴミだ、舞台に存在する価値は微塵も無い」

 

「!」

 

「『失せろ』」

 

 

衝撃が龍騎を包む。

そして同時に聞ける悲鳴、見ればファムもまた自分と同じ状況になっているところだった。

何が起こったのか、それは突如現れたオーロラとそこから放たれた赤い銃弾が原因だった。

炎の固まりは龍騎とファムを吹き飛ばすと別のオーロラの中に彼らを押し込んでいく。

オーロラの向こう側に消える龍騎とファム、そのままオーロラは消失して彼らの姿をも消し去ってしまった。

 

 

「ッ? このオーロラは――!!」

 

「なんなのかしらね……?」

 

「全く、面倒な事だ!」

 

 

戸惑うクルス隊、そこへ姿を見せたのは――

 

 

「やあ! 初めましてクルス!!」

 

「ああ! 貴女がクルスなのね!!」

 

 

相変わらずのテンションでやってきたのはゼノンとフルーラ、彼らはクルスを見つけると表情を輝かせて上機嫌にステップを踏む。

その光景に疑問の表情を浮べるクルス、彼女にはゼノン達が何なのか全く理解できなかった。

いやいやソレは向こうも同じでは? 彼らは先程はじめましてと言っていたのだから。

 

 

「失礼ですが貴方達は? このオーロラを使えると言う事は仲間でしょうか?」

 

「ボクの名はゼノン! 君の事はよく知っているよ!!」

 

「ワタシはフルーラ、ああ会いたかったわ本当に!!」

 

 

申し訳無い話だがクルスとて大ショッカー全ての面々を知っている訳ではない、ゼノンとフルーラと言う名前のメンバーをクルスは全く知らなかった。

目でシザースとリザードに合図を送るが二人も首を振る、つまり彼らもゼノン達は知らないと言うことだった。

 

 

「本当に申し訳無いんですが、私は貴方達の事を――」

 

「知らないだろう? でもボク達は君の事をよく知っているんだ」

 

「ええ、毎日毎日貴女に会いたくて狂いそうだったわ」

 

 

フルーラの言葉に頷くゼノン、毎日毎日自分達は(クルス)の事を想っていたと言う。

会える日を夢見て、そして会えた後の事を何度も何度も妄想した。それはまさに愛や恋と同質かもしれないといわせる程に。

いやある意味それを上回る物、凌駕する想い。

 

 

「君に会いたかった、ボクはその為に生きてきたのかもしれないね!」

 

「本当に嬉しいわ、何て良い日なのかしら今日は!!」

 

 

満点の笑顔を浮べるゼノンとフルーラ。

クルスとしては嬉しい様な複雑な様な気分である、何せ肝心の自分がゼノンとフルーラを知らないのだから。

どうやら向こうの言葉を聞くに自分は知らなくて当然らしいが?

 

 

「ああ、だってボク達は今日始めて顔を合わせたんだから」

 

「ッ? よく分かりませんね。申し訳ありませんが元の所属組織を教えてくれませんか?」

 

 

ゼノンは頷くと彼女の方向へゆっくりと歩いていく。

クルスも部下達もオーロラと言う共通の技を使える彼らを味方と信じて疑わなかった。

ゼノン達はそのまま笑顔で彼女の前にやってくるとお辞儀をする様にして跪く。

 

 

「光栄だよクルス、ボクの陣営はね――」

 

「光栄だわクルス、ワタシの陣営は――」

 

 

ゼノン達は手を繋いで一度下を向く。

そして再び上を向いたとき、クルスに見せた表情は――

 

 

「「地獄だよ」」『トリガァ!』『メタル!』『マキシマムドライブ!』

 

 

歪に、それは歪に、歪みきっていた。

 

 

「――――」

 

 

一瞬だった。

ゼノンはクルスの頭を掴むと顔面に思い切りトリガーマグナムを叩きつけ、銃口を右目部分に押し当てた後引き金を引いた。

悲鳴をあげてのけぞるクルスへとフルーラは追撃の一撃を叩き込む。胸のど真ん中を突かれクルスは痛みに叫びを上げながら後退していった。

 

 

「アぐアアあぁアアァああアあアァアぁアッッッ!!」

 

「「!?」」

 

 

先程までクルスを敬愛していた様な素振りだった二人、しかしいきなりの攻撃にクルスはおろか部下二人も呆気に取られていた。

し攻撃を行うと言う事はつまりそれは敵対を意味する事にある。チェンソーリザードとシザースジャガーはすぐに攻撃を二人に仕掛けようと動く!

だがそこに飛び込んでくる閃光、何かが猛スピードで跳んで来たかと思えばソレはクルスと部下二人に突進をしかけて混乱を増加させる。

 

 

「あの日――」

 

「あの夜――」

 

 

高速で辺りを飛び交っていたソレは叫び声を上げながらフルーラの手に収まる。

クリアボディの恐竜(ぎゃおた)、フルーラはそれを変形させるとFの文字が刻まれたメモリへ変えた。

このメモリは他のガイアメモリとは違い強大なギミックの上に成り立つメモリ・『ファング』。

同時にジョーカーのメモリを取り出すゼノン、二人の腰には既にダブルドライバーが。

二人は手を繋ぎながら空を見上げた。過去も未来もも今日もまたきっと変わらない夜がくるんだろう。

同じだ全て。あの日、あの夜――

 

 

「「ビキンズナイト」」『ファング!』『ジョーカァー!』

 

 

フルーラはダブルドライバーにファングメモリを装填すると、ギミックを変形させて恐竜の頭部をベルトへと装備する。

同時に弾ける二人の体、白と黒の光はすぐに一つになり弾け飛んだ。そこから現れたのは当然ダブルなのだが普段の彼らとは少し容姿が変わっている。

鋭利に、より鋭く、そして荒々しく!

 

 

「『さあ! 罪の清算を!!』」

 

「舞台は整ったよクルス!」

 

『今夜は貴女がゲスト!!』

 

 

ダブル、"ファングジョーカー"はその言葉と共に走りだす。

 

 

「『死ねよ、クルスッッ!!』」

 

「がアアアアアアア! おのれッッよくもォォッッ!!」

 

 

目と胸を押さえながら表情を鬼のソレへと変えるクルス、同時に彼女を守る様に構えている二人の部下。

ああ問題ないとダブルは叫ぶ、殺すのは何もクルスだけじゃないんだから。

 

 

『チェンソーリザード、シザースジャガー、もはやあなた達の罪は死と言う形でしか清算できないわ!』

 

「でも安心してくれ、お前らもちゃんとしっかり殺してあげるからね!」『アームファング!』

 

 

ダブルがドライバーにあるファングメモリの角を弾くと腕に牙を模したブレードが装備される。

そのまま尚スピードをあげるダブル、まず動いたのはチェンソーリザードだ。彼女は両手に装備した巨大なチェンソーを振るいダブルの進行を止めようとする。

しかし何分動きの方が遅かった、ダブルはいとも簡単に彼女の攻撃をかわすと反撃の蹴りをヒットさせる。

 

 

「クッ!」

 

『ガアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

普段のフルーラからは考えられない様な叫び声をあげてダブルはリザードに切りかかっていく。

パワーは向こうの方が上らしいがコッチにはスピードがあるといわんばかりの猛攻、リザードは焦る様子こそ無いが体からは火花を散らしていた。

 

 

「痛いかい? 苦しいかい? 怖いかい――ッッ!!」

 

『もっと可愛い悲鳴を聞かせて頂戴ッ!!』

 

 

その言葉から確かに感じられる憎悪。

同時にダブルからも火花が散った、見ればアクロバティックな動きでシザースジャガーが飛び回っているではないか。

どうやら彼はスピードを武器としているらしい、ちょこまかとダブルの周りを動き回りながら切りつけていく。

 

 

「ああああああ! うっざいねぇ! 八つ裂きにしてやるから待ってろよッ!!」

 

『すべてぶちまけて死ねッ!』『ショルダーファング!』

 

 

次は肩に牙が生えた、ダブルはそれを取り外すとナイフの様に牙を持ちそれを振るう。

ダブルその物が巨大な顎となりシザースジャガーを狙うのだ。どこに逃げようがソレは関係ない、現にシザースジャガーはダブルの動きを読み後ろへ跳んだ。

にも関わらず倒れる彼、それはダブルが牙をブーメランの様に投げたからだ。どこまでも獲物を追いかける牙、対象を噛みつくす力だと。

 

 

「あらあら、ただの人間とは違うのね。困ったわ」

 

「我々を異常に憎悪している様だが……?」

 

 

リザードとジャガーは一度後ろへ下がり体勢を立て直す。

後ろにはうめき声を上げているクルス、まだ視力が回復していないのだろう。

それにしてもとクルスはダブルを見た、彼女視点ダブルは自分達を異常に憎んでいる。そう言えばと戻ってくる記憶、確かアレは――

 

 

「うがァアアァァアアァアアァアァアアッッ!! 思い出したァァッ!」

 

「「!」」

 

 

立ち上がるクルス、彼女は撃たれた右目を抑えながらダブルを見た。

それは可憐な少女が見せる物ではない、文字通り化け物が浮べる醜く歪んだ形相だ。

クルスはその容姿に構わずダブルを強く指差し言った。

 

 

「あの時ッ! 私の計画を台無しにしてくれた屑だなぁあァアァアッッ!!」

 

 

あの時――それが指す意味は、つまりクルスはダブルを知っていると言う事。

だがしかしソレはイコールで繋ぐべき点を阻む。クルスがゼノンとフルーラを知らないのは忘れていたからじゃなく――

 

 

「お前ぇッ! アイツ等はどうしたッ!? 頼まれたかッッ!!」

 

 

クルスはダブルの事を知っていた。

ソレはつまりクルスがゼノン、フルーラと知り合いなのか? いやそれは違ったのだ、クルス隊は全員がゼノンとフルーラの事を知らなかった。

とは言えクルスの言葉を見るに襲われる理由は少しばかり心当たりがある様だがどうなのだろうか?

 

 

「頼まれた? それは違うよクルス」

 

『ええ、そうよ。何故なら彼らは――』

 

 

ダブルはそこで動きを止める。

そしてゆっくりと、力強く言い放つ。その仮面の奥に溢れんばかりの憎悪を隠して。

 

 

「『死んだのだから』」

 

「―――………!」

 

 

表情を変えたクルス、それはダブルとは正反対の感情を浮べて。

恨みとは逆の喚起をたたえてクルスは笑い始める、どうやらダブルの言った情報の意味をよく理解したらしい。

 

 

「あははは! 死んだ? そうですか、そうですか!!」

 

 

それは結構だとクルスは笑う。

あの害悪が死んでくれたのは最高の気分だと彼女は笑った、それは紛れも無い少女が浮べる様な笑みで。

 

 

「成る程ォ……だからソレを持っていると言う事――ッ!」

 

「ボク等は彼らからこの力を受け継いだ、だから君を殺す」

 

『そう、ダブルのために貴女を殺さないと駄目なの。ソレに――』

 

 

ダブルはため息をついて全身の力を抜いた様なジェスチャーをとる。

同時にガッカリだとクルスに言い放った。せっかくわざわざ正解とも言えるヒントを目の前で提示してあげたのにこの様かと、この体たらくなのかと!

 

 

「クルス……ボクらは何を使って君を攻撃したんだぃ?」

 

『すぐに分かる事なのに……ねぇ?』

 

「何を……ッ! そうか、それはガイア――」

 

「気がつくのが――」

 

 

ダブルの手に力が入る。

そうだ、せっかく目の前で"ガイアメモリ"を使ったのに。

せっかく"ダブルドライバー"を使ったのに。せっかく"ファングジョーカー"を使ってあげたのに、気がつくのが――

 

 

「おせぇんだよォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「!」

 

 

ダブルはショルダーセイバーを投げるとアームセイバーを構えて走りだす。

風を切り裂いてクルスに向かうショルダーセイバー、しかし既にクルスをはじめリザードもジャガーも攻撃には慣れていた。

ジャガーとクルスは跳躍でかわし、リザードがチェンソーで弾き返す事になる。

 

 

「死ね――ッ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええッ!!」

 

 

ダブルは呪詛の言葉を連呼しながらクルスめがけてとび蹴りを仕掛ける。

同時に弾かれたブーメランが軌道を修正して再びリザードに向かった。とりあえず彼女はコレで抑えようというのだろう、その隙に自分がクルスへと。

 

 

「ごめんなさい、同じ物を配りすぎて忘れていました!」

 

「あはは! 残念だよ! だったらまだ同じような事をしているのかな?」

 

「おや、そこまで知っていましたか。コレは驚きだ」

 

 

クルスは巨大な鎌を使ってダブルと空中で交戦を始める。

重量がソコまで無いのか、それとも彼女が怪力なのか、クルスは鎌を軽々と振り回してダブルの素早い動きにピッタリと重なってくる。

クルスは必死に攻撃を繰り返すダブルを見てその口を三日月の様に歪ませた。ダブルの力に何の恐れも持っていない、そんな印象。

むしろ挑発的に笑ってみせる。

 

 

「ええ、してますよ。同じ事」

 

「………」

 

「この世界でやる事をやったら、また"材料"を調達しにいきますよ! フフフ……ッ!」

 

 

重力に従い地面へ着地する両者、ダブルはすぐに腕についた牙でクルスの喉をかっ切ろうと動く。

目の前にいるコイツだけは殺す、それはゼノンとフルーラ共通の想いだった。

ずっと会いたかった彼女、ずっと思い続けた彼女、それはまるで愛の様に。恋の様に。

 

 

「クルス! いますぐ君を殺したい!」

 

『クルス! いますぐ貴女を殺したい!』

 

「ぐちゃぐちゃにして! 全部引きずり出して!」

 

『めちゃくちゃにして、全部抉り出して!』

 

「君の目も――」

 

『貴女の心臓も――』

 

 

髪も

爪も耳も

鼻も顎も歯も皮膚も

首も手も足も臓器も血も

血管も肉も全部全部全部全部全部滅茶苦茶にしてグチャグチャにして引き裂いて歪ませて狂わせて壊させて。

何もなかった事にしたい、ああしてあげたいんだよ。だってそうじゃないとコッチが狂うから、愛に押しつぶされるから!

だからお願いだクルス――

 

 

「君を壊したい」

 

『ええ、今すぐにね……!』

 

 

ダブルの狂気にクルスは表情を恍惚に歪ませる。

あの日の事を思うと腸が煮えくり返っていたが……それも今日で終わる。

悪夢が死んだ、そして受け継がれる呪い。それはクルスに生きがいを与える事となる。

 

 

「素敵ですわ。最高に素敵、ええそれはもう!」

 

 

想像するだけで心が躍る。

もっとコレから頑張らないと! クルスはそんな理想を心の中に掲げる。

歳相応の少女が持つ頑張ろうとはレベルが違うソレ、クルスはそんな事など気に留めず笑顔を浮べるばかりだった。

ダブルは彼女の幸せそうな表情を見て何も言わず角を三回弾いた。エネルギーが全身に満ちていく、ああクルス! 幸せそうな表情を浮べる君を――

 

 

「今すぐ絶望で沈めたいよ!」『ファング!』

 

『その薄汚ねぇツラ、今すぐ引き裂いてあげるわ』『マキシマムドライブ!!』

 

 

ダブルの足に最後の牙が生える。

気がついた時には既に地面を蹴って空中で旋回していた。ああ、まさか彼女に会えただけでこんなに自分達が変われるなんて!

ゼノンもフルーラも初めて自らの体を巡る感情に疑問を持ちつつ有りのままに身を委ねていた。

一方のクルス、助けに入ろうと動いた部下達を制止させて自らは懐からいくつものメモリを取り出す。そしてそれを起動させて宙に投げた。

 

 

『マスカレイド!』

 

 

クルスが投げたメモリが人の形を形成して地面に回帰する。

スーツ姿の戦闘員達はクルスがただ一言盾となれと命ずると陣を組んで彼女の姿を隠す壁となった。

ダブルはソレを確認しながらもマキシマムドライブを続行、クルスを殺すための一撃を壁へと放つ!

 

 

「『ファングストライザー!』」

 

 

ダブルを纏うエネルギーが巨大な恐竜の顔となり口を開ける。そのまま牙をむいた恐竜は壁を噛み砕く!

同時にFの文字が壁に刻まれマスカレイド達は爆発、粉々に砕けたメモリの残骸が降りしきる中でダブルは着地を決めた。

分かる、分かっている。ダブルが感じた手ごたえは壁を破壊した感触のみ、となると――

 

 

「『………」』

 

「フフフ……!」

 

 

ダブルが振り返ると自分がいる場所から少し離れた所、国旗を掲げるポールの上にクルス隊が立っていた。

三本の柱にクルスを中心として異形がダブルを見下している、先ほどとはかけ離れた程の笑みを浮べて。

 

 

「今日はその"我がダブル"に免じて見逃してあげましょう」

 

「………」

 

 

クルスの背後に現れるオーロラ、ダブルは逃がすまいと動くが――

 

 

「!」

 

 

いつのまにか手につけられている鎖、それは地面を突き破って自分の四肢をガッチリと捕らえていた。

相変わらず悪趣味な力だ、ダブルは舌打ちをクルスにプレゼントする。送られたクルスはその意図を掴む事無く尚笑みを浮べていた。

 

 

「ですが勘違いはしない事ですね……」

 

 

クルスは左にいるチェンソーリザードを見る、次に右にいるシザースジャガーを。

最後に背後にあったオーロラに浮かび上がる金色の大鷲、それは彼女の強さの象徴でもあった。

ダブルなど大ショッカーの前ではハエ以下の存在、飛び回るだけ無駄なのだからと。

 

 

「ああ……クルス、お別れなんだね――ッ」

 

『悲しいわ! ちゃんと殺してあげたかった!!』

 

「アハハハ! 大丈夫、私達はまた必ず会えますよ!」

 

 

オーロラが近づいてく。

クルスは化け物の様な笑みを浮かべて自らの手をジッと見つめた、この手はこれからも多くの命を摘み取り支配していく。

それは眼下にいるダブルも例外にあらず。彼女は裂けた口をゆがませて静かに強く言い放つ。

 

 

「お前達は確実に殺す。絶望に怯えながら最期の時を待つがいい……!」

 

 

その言葉に笑みを返すダブル。

 

 

「同じ言葉を返すよクルス、お前だけはこの手でぶっ殺してやる」

 

『ええ、確実に殺すわ』

 

 

クルスは笑みを浮かべたままダブルを見下していた。

そうしている内にオーロラが彼女たちを通過してその姿を完全に移動させる。

ダブルは敵の気配が無くなった事を確認すると改めて周りの景色を見た。

校庭は血に塗れ校舎は完全に破壊されている、辺りでは煙が巻き上がり、人々の悲鳴は尚も絶え間なく聞こえていた。

 

 

『まさに絶望ね、ゼノン』

 

「ああ、この世界は終わるだろう。……たぶんね」

 

 

大ショッカーは世界を超えて多くの戦力をぶつけてきた。

何の抵抗も持たぬ人たちに抗う手はない、自衛隊や警察など大ショッカーの前では赤子同然なのだから。

雑魚くらいは武力で制圧できるかもしれないが上級者達を止める術がこの世界にはない。

現に自衛隊の戦闘機はすでに大ショッカーに乗っ取られているではないか、空を見れば住宅街にミサイルを放っている戦闘機たちが見える。

パイロットは死んでいるか操られているか、もしくは狂っているかのどれかだろう。大ショッカーには特殊な能力を持った連中が山ほどいる。

常識など通用しない化け物だからけだ、それは自分たちにも言える事だが。

 

 

「さて、問題は彼らだ」

 

『ええ、クリアできるかしら?』

 

 

これもまた一つの試練、ゼノンとフルーラはつくづくそう思う。

彼らの記憶にある痛みが思考を回転させる。さあ、耐えられるのか――? それとも狂うのか。

 

 

「見ものだね」

 

『ええ……』

 

 

ダブルはため息をつくとオーロラを出現させて自らも姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇっ!」

 

「ッッ!!」

 

 

一方ダブル達に押し出された真志達は学校の校庭に強制送還させられていた。

変身が解除された彼らはしばらく衝撃に混乱していたが、徐々に冷静さを取り戻していく。

そしてその状態で真志がはじめに見せた表情はまぎれもく笑みだった。

 

 

「は……はは――ッ! ハハハハハハハハ!!」

 

 

自分は今どこにいる? 自分は今どうなっている!? 真志はそれをゆっくりと噛み締める様に確認する。

答えは簡単だ、自分は今生きている。何で? どうして? 何故? そんなのきまっている。それは先ほど自分が思ったとおりだ。

どうして戦わない自分が生き残ったのか――それはゼノン達が自分たちを助けてくれたからじゃない。

作者がその展開を望んでいないからだ!

 

 

(どうだ? 見ろよッ! 結局こうじゃねぇか!!)

 

 

いるんだろう? 作者様みたいな存在は確かに。

見ているんだろう? 読者みたいな連中はよぉ。自分たちが戦う姿を今もどこかで確認しているんだろう?

 

だってこれは――

そう、この世界は自分達を含めて全て偽者だから。

今まで生きてきた人生も全部嘘偽りのフィクションだ、どこのどいつかも分からない読者様を楽しませる為だけに生み出された人形。

それが白鳥美歩の、条戸真志の正体であり全てだ。

 

 

「ハハハハハ――ッ!!」

 

 

ざけんな……! そう思い通りに行くかよ。

オレは龍騎だ、そう簡単には死なない。だってオレを殺す事は龍騎を失う事になる。

そんなのお話としてどうなんだ? ええおい!?

 

そうだ、オレは死なない。

そしてオレは両親(あいつら)とは違う! 自分の人生を自分で決めてやるんだ――ッ!

どこのどいつかも知らないヤツに思い通りにされてたまるかよッッ! 否定してやる、とことんッ! どこまでもッッ!!

龍騎を使い物にできなくして、それでオレが思いつく展開全てを叫んでやる。そうだネタバレだよ。

読者の奴らに全部展開バラして! 萎えさせて! こんなクソみたいな世界ぶっ壊してやる!

Episode DECADEなんて終わらせてやるよ。そうだ、作者の思いなんて全部オレがぶっ殺してやる!

 

オレはお前らの人形なんかじゃ――

 

 

「クソ真志ィイイッ! 聞いてんのかよッッ!! ゴラァアアアアアアア!!」

 

「!」

 

 

そこで美歩が真志に掴みかかる。

彼は明らかにおかしい、まだ助けられる人がいたかもしれないのに勝手に諦めて戦う事すらしないなんて。

美歩はその理由が知りたくて真志に詰め寄る、しかし彼は尚も笑いながら彼女の手を振り払うだけだった。

 

 

「無駄なんだよ美歩ッ! オレ達が何をしようが世界の運命は同じなんだ!!」

 

 

理解した、全てを。もう頑張る必要も戦う必要も無い、まして世界の為に動く事すら無意味だと真志は笑う。

要するに全てきまっている結末なのだから自分たちがどう動こうが無意味だ。今だって何もしないで良かったじゃないか!!

 

 

「ふざけんな!! 戦わなきゃ誰かが傷つくだろ!!」

 

「だから死なねぇんだよオレはッ! オレ達は!! どうせ死ぬのは名前もねぇモブキャラだけだ! "死ぬために生まれてきた"様な連中ばっかなんだよッッ!!」

 

 

人は皆、仮面ライダーの様に大きな仮面をかぶっている。

 

 

「ッ!! 真志……本気でいってんのかよ――」

 

 

真志もまた今日まで善意と言う仮面をかぶり続けていたのかもしれない。

両親の話題から自身を、そして周りの人間を守るために常に善でなければならないと言う重圧。

それが仮面の裏にあった彼の心をどす黒く染めていったのだろう。そして今彼はその仮面を外した、解き放たれる憎悪もまた巨大に。

 

 

「ああ、こんな奴らがどうなったってオレには関係――」

 

「――――ッ!!」

 

 

頬に走る衝撃、それを感じて真志の思考は停止する。

視界が急に変わったかと思えば痛み、真志はすぐに視線を元の位置へと戻した。

そこにいたのは涙ぐんでいた美歩、彼女に叩かれたと言うのはすぐに理解できた事だ。だから彼は口を開く。

 

 

「何……すんだよッ!」

 

「最っ低だよお前ッ、見損なったぜ真志……ッッ」

 

 

美歩は悔しそうに自分を見ている、おいおいコレも作者様の望んだ脚本か?

面倒なのは勘弁してほしいぜ、真志は嘲笑の笑みを浮かべて美歩を見る。

対して睨みをキツくする美歩、彼女にとっては何故彼が笑っているのかまったく理解できなかっただろう。

今の彼は意味不明な事を言って逃げているだけにしか映らなかったのかもしれない、美歩にとってはの話だが。

 

 

「お前は分かってねぇだけだ、だからそうやって無駄な事をする」

 

「無駄ぁッ!? あいつ等を放置しておく事が無駄だっていうのかよ!!」

 

「シナリオはもう決まってるんだよ!! オレ達が何をしようが――」

 

 

また衝撃がした。今度は手のひらではなくて拳で殴られた様だ、真志の口に血の味が広がっていく。

なのに苦しそうに泣いているのは美歩、真志は相変わらず笑みを浮かべている不思議な情景。

 

 

「意味分かんねぇよ! なんで……なんでそんな事が言えるんだよ……ッ」

 

「オレは知ったんだよ! そして理解した、全てをだッ!!」

 

「今の真志は……アタシの知ってる真志じゃない――ッ」

 

 

美歩は唇を噛んだ、あまりにも強くて血が出る程に。

 

 

「お前の知ってる真志は、お前の知らないヤツから作られた文の塊かもな!」

 

「うるさい!! 屑だよお前なんて……! お前なんてもう仮面ライダーじゃない!!」

 

 

美歩はとうとう泣き出してしまい子供のように地団太を踏む。

そして消え入りそうな声で馬鹿と呟くと走りだしてしまった。馬鹿? 屑? 真志は歯を食いしばって美歩の背中を見る。

何も分かってないのはソッチの方だろ! 全ては作られた小説の話なんだから!!

真志は鬼気迫る表情で自らの――龍騎の紋章が刻まれたデッキを見る。フラッシュバックする城戸真司の表情、そして自らの誓い。

 

 

「クソ……ッ!」

 

 

真志はソレを振り払う様に首をふって美歩とは逆の方向へ歩き出す。どうせ……

どうせこの世界は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クク」

 

 

メタ世界、そこで魔女は真志の姿をしっかりと観測していた。

あんな鬼のような表情を浮かべる真志は中々珍しい、きっと相当怒っているのだろう。

相当悔しいのだろう、相当苛立っているのだろう!

 

 

「クククク! フハハハハハ!! アーッハハハハハハ!!」

 

 

一度は神を否定する行為を行った人物であった筈だが、今度は姿の見えない神に踊らされている。

実に滑稽、実に愚か、実に間抜けな姿だとは思わないのだろうか? 龍騎は鏡が重要なキーワードだった筈だ。

彼も一度落ち着いて鏡を見たほうがいい。酷い姿だ、フェザリーヌはそう笑い紅茶を楽しむ。

もはや今の真志は魔女にとっていい見世物でしかない。尤も彼をこの状態にしたのは他でもない彼女の言葉が原因なのだが……

 

 

「観測者を謳う割には、貴女は随分と物語に手を出す」

 

 

魔女の背後に現れるのはシャルルだ。

彼は同じく真志の表情を見てため息を漏らしていた。

魔女のノイズに心を揺らされたばかりにこんな状態になってしまったのだろうか? それともコレは彼の意思だったのだろうか?

まして、彼が思うとおり定められた道筋だったのだろうか?

 

 

「私は舞台に野次を飛ばしているだけ、気にするも気にしないも役者の腕だ」

 

「やれやれ、無責任な……」

 

 

面白半分でこんな状態をつくられてはナルタキも困ったものだろう。

観劇の魔女は舞台を滅茶苦茶にする力も備えているのだから。

 

 

「頑張って積み上げた積み木を崩す時も、また言いようの無い背徳的な快楽がある」

 

「それを人でやるのは悪趣味ですよ」

 

「くく――ッ! いやいや、だが良い感じに条戸真志は壊れ始めている」

 

「やれやれ、困った魔女だ」

 

 

シャルルはため息をつくと書斎から退出、そのまま別の部屋へと向かう事に。

そして中にいる青年に向かって軽くお辞儀を。

 

 

「申し訳ありませんが、力を貸していだたきたい」

 

「ああ、もちろん。僕でよければ――」

 

 

けどいいのかと青年はシャルルに問いかけた。

自分も彼らのルールをよくは知らないがあまり司達の味方をする事はタブーとされている筈だ。

なんでもあまり肩入れが過ぎるとEpisode DECADEに取り込まれるとか何とか。しかしそんな心配は無用だとシャルルは言ってみせる。

確かに彼はゼノンたちより司に干渉してはいけない立場にあった、しかし同時にゼノンよりも近くにいける立場でもある。

 

 

「私に新たに与えられた権限があります」

 

「?」

 

「"猫の手権限"、それは私が三度までならば彼らの味方をする行為が許される事なのです」

 

 

シャルルは魔女にその権限を与えられ、ナルタキにその権限を使う様に先ほど言われた。

はっきり言って今のままでは危険だと言う事、この世界は今までの物よりイレギュラーな存在だ。

魔女の玩具にされた世界は司達に多大な害を与える可能性が高い、だからこそ状況を打破しなければ最悪死人がでる。

こちらもおそらく、とあるデモンストレーションを含んだ意味だったのだろうがなにぶん少し刺激が強すぎる。

シャルルは魔女の刺激的な考えには賛成できないところであった、だからこそココで動く。

 

 

「貴方はパンドラの箱の話を知っていますか?」

 

「ああ、うん……まあ。箱を開けたら絶望が世界中に飛び回ったってヤツだろ?」

 

 

うなずくシャルル、それはこの状況によく似ていると彼は言った。

このままでは全員絶望の海に溺れ死んでしまう、できる事ならばそれは避けたい運命だ。だがもう解き放たれた絶望を消すことは難しい。

しかしパンドラの箱には最後にひとかけらの希望が残されていたと言うではないか。それもまた同じであろうとシャルルは少し笑みを浮かべる。

 

 

「貴方が希望にならなければならない――」

 

「………」

 

「お願いします。クロノハーツ」

 

 

クロノハーツと呼ばれた青年はうなずくと立ち上がる。

どんな状況かは知らないが必ず一筋の光をそこに差し込んで見せると言う表情だ。

 

 

「――ッ、そっちで呼ばれるのは複雑だね」『ドライバーオン! プリーズ』

 

 

クロークは再び頷くと指輪を取り出し指にそれをつける。

同時にハンドオーサーを展開、あの電子音がメタ世界に響き渡る。

 

 

「変身!」

 

 

そして前を見て、その魔力を開放するのだった。

 

 





と言う訳での今回の話。
まあ二部が全部こんな重い訳ではないので、そこは誤解なき様にお願いします。

最近はショッカーと言えばどっちかと言えばお笑い集団みたいな感じになってますが、過去に僕が再放送やらビデオで見た彼等の恐怖や嫌悪感を今回再現できればなとこういう感じにしました。
まあ今こうして成長してから見ると過去もたいがいちゃそうなんですが。

あとトカゲロンの『バリア破壊ボール』はわざとです。
原作は確か『バーリア破壊ボール』なんですけどね。この作品ではバリア発生装置としての役割も持っています。

はい、じゃあ次は多分土曜か日曜くらいにでも。
ではでは

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