「断る」
「ッ!」
世界を超えた百瀬達、彼らはすぐにある人物の元へ向かった。
大ショッカーに所属しているメンバーの多くがある場所に収集された中で彼だけはそれを無視してオルフェノクに用意された専用世界『失楽園』に残っていた。
失楽園にいるオルフェノク達はほぼ全員が元の世界を失っている者達だ。
それが望まぬ結果であったならば、人を殺める意見に否定はならばきっと自分達の意見に乗ってくれる筈だと彼らは踏む。
だが結果は却下、百瀬達は少し怯んだ表情で目の前で腕を組んでいる長髪の少年を見ていた。まさか断られるとは、そういった表情である。
「理由を聞かせてもらっていいか?
弥夷刃、それが彼の名である。
歳は百瀬達と同じだろう事が制服を見て分かった、飛針とはまた違う刺すような眼光が特徴的である。
だが百瀬調べ彼もまだ一人も人を殺していないオルフェノクである、だからきっと賛同してくれると思ったがそう甘くはいかないらしい。
「お前らのやっている事は大ショッカーにとって裏切りでしかない」
「そんな、まさか!」
道化師がおどけて言って見せるが弥夷刃は首を振る。
戦力とならないオルフェノクなど組織にとっては不要でしかない。
まして人を殺さぬと言えばなおさらだ、きっと奴らはすぐに役立たずとして処分の意を固めてくるに違いない。
オルフェノクがいくら自由だとは言え、組織の一員として認識されているのだから使えない物は容赦なく排除される。
「俺は死ぬ訳にはいかないんだ。それに俺には目的がある」
「目的?」
「ああ、それを達成するまでは死ねない。必然的にオルフェノクの力も必要になるだろうな」
別に百瀬達のやる事をどうこう言うつもりはないが、自分が其方につくのは無理だと弥夷刃は言う。
それを聞いて苦笑する百瀬、どうやら彼の口から自分達の事が漏れる事はないか?
「オーケー分かったぜ。ちなみに目的ってなんだ? 同じオルフェノク、オレ達にできる事があるなら協力するぜ」
その言葉を聞いて少し沈黙する弥夷刃。
彼は迷う様な素振りを見せたが自分の信頼度を上げる為か、遂に口を開いた。
「お前たちは、死んだ人間を蘇生させる方法をしっているか?」
「ヒャハハハ! それはまた随分な事ですねぇ」
百瀬は死んだオルフェノクを蘇生させる事ができる。
しかし人間は無理だ、ましてそれは神に許された行為ではないか?
多くの世界を巡った百瀬もその方法がパッと思いつかずに沈黙した。
「まあいい、とにかく俺はソレを探しているんだ」
「ふぅん、誰か蘇生させたいんだ」
「ああ、大切な人だ。この他世界の可能性ならば俺は可能だと思ってる」
飛針の言葉にうなずく弥夷刃、その夢を実現させる為にはオルフェノクの力を振るわなければならない。
だから百瀬の意見に賛成する事はできなかったのだ。百瀬は少し考えた後に彼を諦める事にした、彼が意見を変えそうも無い事は目を見れば分かる。
彼がもし自分達の行動方針を大ショッカーに告げる素振りを見せたのならば最悪消す考えだったが弥夷刃ならば大丈夫だろう。
百瀬は両隣で黒い笑みを浮かべていた飛針と道化師を制止させる様に口を開いた。
「分かった、じゃあ蘇生方法が分かったら連絡するぜ」
「すまない、助かる。俺もお前らの事は黙っておくさ」
それにと、弥夷刃はある情報を付け足した。
協力できない詫びにと自分が知っている情報を提供してくれるらしい。
百瀬達にとってとにかく集めるべきは情報だ、彼らは喜んでその話を聞く事に。
「実は聞いた話だが、小隊の一つがかなり特殊な世界に辿りついたらしくてな」
「かなり特殊な世界?」
「ああ、俺も聞いた話だから詳しくは知らないが――」
異質の世界と言った所か?
弥夷刃はその世界が他の世界よりも明らかな異様さを放っていると言っていた。
それがどこの世界なのかは分からない、そしてソレは大ショッカーのトップレベルでさえも。
「どういう事?」
「極秘裏に何かをしようとしている連中がいるらしいって事だろう」
いずれは正式に発表されるかもしれないがと念を押す。
「ショッカーの一隊、ジンドグマから一隊辺りが作戦担当だと聞く」
「ふぅん」
それだけなのだ、それだけの情報しかない。
だから何か考察しようにも情報が足りないし、それほど大きな事ではないかもしれないと弥夷刃は言う。
しかし彼がふと大ショッカー本部内で聞いた言葉が引っかかっていた。盗み聞きだった為、端的にしか覚えていない言葉だが――
「機械の歌姫、魔人、古代怪獣、イレギュラーの世界と言う単語が出てきた」
「へぇ、面白そうな単語だ」
反応する道化師と飛針。
機械の歌姫、魔人、古代怪獣、イレギュラーの世界とはいったい……?
「成る程な、少し調べてみる価値はあるかもしれない」
「クヒヒヒ! 私に任せてください、実に興味をそそる……!」
百瀬は頷くと弥夷刃に礼を言って失楽園を後にする。
情報を集めるついでに最後の仲間候補にコンタクトを取りに行くらしい。
大ショッカーにいながらもその行動を否定する彼ら、それもまたオルフェノクの意思なのだろうか?
チルドレンの狙いは一体――?
「つーかーさーくーん!!」
「!」
後ろを振り返る司、すると夏美が笑顔で手を振って走ってきた。
何でもジュースを買ってきてくれると言うので彼女に任せる事に。少し時間が経つと彼女が戻って来たと言う事だ。
彼女は満面の笑みを浮かべてコチラに向かってくる、まるで犬みたいだと司は心の中で思ってしまった。
「どうぞ!」
「ああ、ありがとう」
ベンチに座った二人、夏美は嬉しそうに笑いながら司を見た。
これからどうします? 何します? どこ行きます? なんて質問をニコニコしながら連続で仕掛けてくる。
司はその勢いに口に含んだジュースを吹き出しそうになったが何とか堪えて笑みを浮べた。
「ハハハ、焦るなよ。時間はあるんだ、ゆっくり行こうぜ」
「そうですか? じゃあそうします」
ニッコリと笑って頷く夏美、何故かこの光景が酷く懐かしく感じる。思えば夏美は戦う力が無くてずっと学校にいた物だ。
その間は当然彼女との時間は無いし、休憩の世界では男友達と過ごすあまりに彼女との会話も少なくなってしまった。
いろいろと忙しい状況にあった為に特に気に留めていなかったが、彼女としては何か思う所があったのだろうか?
「司くんは凄いですね……」
「え?」
そんな司の思いを確定付ける様な事を夏美は言ってみせる。
一緒に住んでいる従兄弟がいつの間にか世界を巡る仮面ライダーに、おまけに破壊者と呼ばれるだけの力を手に入れたじゃないか。
だけど自分は何もできない、何もしていない。フェザリーヌが言っていた事を考えるのならば自分の役割はもう終わった。
起爆剤としての役割は既に果たし、司を変身させるきっかけを作ったのだから。
それは決して彼女にとっては誇れる成果ではない。ガクガクと震えていただけが仕事? それはあんまりってものだ。
どうせなら自分だって誰かを救うために戦うだけの力が欲しい。美歩みたいに、友里みたいに、咲夜みたいに、アキラみたいに、ハナみたいに変身したい。
「私は……皆の役に立っているんでしょうか?」
葵みたいに料理がうまい訳でも無いし、真由の様に皆を癒せる自信も無い。
考えれば考えるほど自分には価値が無い様にしか思えないのだ。それに対して司はどんどん強くなってきている。
彼が好きだったクウガからキバまでに変身して、クウガからキバを武器に変えて、クウガからキバの力を合体させられる様にまで進化していったんだ。
それが夏美には少し寂しかった。どんどん司が遠くなっていく気がして、少し怖かったのだ。
「だから……私は――むぎゅ!」
「何言ってんだよ、夏ミカン!」
夏美の両頬をつねる司。
久しぶりに口にした彼女のあだ名、まあ適当に自分がつけただけなのだが――
「わ、わらひは夏美でふ!」
成る程、確かにこの雰囲気は久しぶりだな。
それは皆がいたからかもしれないが久しぶりに味わう空気に司は思わず苦笑する。
そうだな、少し仮面ライダーになった事でいろいろな事が少し変わってしまったのかもしれない。
「よし! じゃあ行くか!」
「は、はい! でもどこに?」
「うーん……他のヤツはどこに行くって?」
夏美は女性陣から聞いていた行き先を司に告げる。
確か薫達は遊園地、美歩達は喫茶店で決める。友里達はゲームセンター、咲夜達は決めていない。
アキラ達は公園、真由達はショッピングセンター、ハナ達は映画、里奈達はまだ学校だった筈だと。
それを聞いて頷く司、少し考えた後に――
「うし、じゃあ全部行くか」
「おお! マジですか!!」
「マジマジ、大マジだぜ」
そこでニヤリと夏美も笑う。
「いいですね。流石は司君、よくばりです」
「ハハッ! でも悪くないだろ?」
「そうですね、せっかく久しぶりに遊ぶんですからパーっといきましょう!!」
二人は頷くと立ち上がる。
目の前には遊園地に向かうバスが、司達は時間が許す限り遊び尽くす事を決めたのだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「あははははははは!!」
視界が反転したと思えばまた反転。
司は無意識に叫びながら、夏美はケラケラと笑いながら風を切る。
襲い掛かる重力と時折内臓が浮く感覚に司はますます叫び声を上げる頻度を増やしていく。
まずは遊園地に向かった二人、そこにあったジェットコースターに乗ってみたはいいがコレがまた久しぶりだった為に絶賛後悔中である。
夏美さんはどうやら楽しんでいる様だが自分としては――
「お、降ろしてくれぇぇええええええええ!」
「何言ってるんですか、先生に乗るのも同じ様な感じじゃないんですか? あはは!」
それとこれとは違う! アギトトルネイダーとは何かこう心持的なヤツも違うし――
などと様々ないい訳を並べて言った司だが、また視界が大きく揺れ動いて沈黙する。
隣に聞こえる従姉妹の楽しそうな笑い声が彼にとっては羨ましいものだった。
「はあぁぁああぁ……ッッ」
「あー! 面白かったです!!」
ジェットコースターから降りた司達、ため息をもらす司の手をとって夏美は楽しそうに走り出した。
早くしないと時間が過ぎてしまう、彼女にとっては一分一秒が重要なのだから。
「次はアレに乗りましょう!」
「んー?」
夏美が指した先にはメリーゴーランドが。
やれやれと笑う司、何だかんだ言ってまだまだ夏美もお子様な物だ。
仕方ない、少し恥ずかしいがココは大人の余裕を見せてやるかと司は頷く。
「じゃあ行きましょう!!」
「仕方ないな、特別だ……ぜ」
しかし夏美は華麗にメリーゴーランドをスルーである。
戸惑う司、夏美に事情を聞くと彼は重大なミスを犯していた事に気がつく。
要は夏美が指していたのがメリーゴーランドではなく、その後ろにあったアトラクションだと言う事だ。
それが何ともまあ巨大なためにメリーゴーランドにかぶってしまったと。
とっても大きな――
「………まじ?」
「はい!」
満面の笑みを浮べている夏美、そのまま進んでいき――
「ぎょエアアアアアアアアあああぁぁぁぁぁ………――ッ!!」
「あはははははははは!!」
フリーフォールアトラクション。ああ、こんな事なら変身しておけばよかったと司は強く思う。
一般人の中に一人だけディケイドがいるというのもおかしい話かもしれないが……そこらへんの違和感は是非破壊したいところである。
しかし司は落下しながらも隣にいる夏美を見る。楽しそうに笑う彼女、まあいいかと思うのも仕方ない。
「お、終わったか……」
「はい!」
「よ、良かった」(うっしゃぁあああ! おらぁあえあああ!!)
じゃあ次は――!
と、夏美は巨大バイキングを指差した。
「ま、待てッ! スットプ!!」
「スットプ?」
「か、噛んだだけだ! ストップな! 確かにアレもいいが時間がもうない、次に行こう!」
悪いがバイキングなんて今の状態で乗ったら確実に破壊されてしまう(心が)。
夏美には申し訳ないがもっと平和な所にいきたいものだ、司は近くのゲームセンターに行かないかと持ちかける。
夏美としてはもっと遊園地にいたい所ではあったが、確かに彼の言うとおり時間がない。と言う事なので司の話に同意するのだった。
「よし! じゃ、じゃあ行こう!」
「はい♪」
そんな訳で早速ゲームセンターに向かう二人。
その途中でふいに司は夏美に質問を、それはどうして自分を誘ったのかという物だった。
あまりこういう事を聞くのは褒められた事ではないのだろうが、やはり少し気になると言う物。
「それは……やっぱり、久しぶりに遊びたかったから――……ですよ」
本当は少し違う、へんな夢を見て不安になったからだ。
それは思い出せないが囲まれていたのが司だったのではないかと思ってしまう。
何か彼が恨まれている様な――そんな場面を思い出して夏美は首を振る。司はそんな人じゃない、大切な人なのだから。
「そ、そうか。ところで――」
司は椿の言葉を思い出して、つい聞いてしまう。
「夏美はさ……好きな人とかいるのか?」
「え? す、好きな人……ですか?」
それは異性としてと言う意味、それくらい夏美にだって分かる。
司としてもあまりそう言う話を聞いたことは無いし、特別クラスにはいなさそうと言う予想も立てた。
しかし現実世界ではどうか分からない。自分達の世界にそう言う感情を持っている人がいてもおかしくはないだろうと。
「い……いませんよ」
「そう……か」
何だか少し気まずい雰囲気になってしまったな、司は頭をかいて苦笑する。
そんな事を考えているとゲームセンターに到着、何かやりたい物はと司は夏美に。
「そうですね……じゃあ――」
「お、うまいな」
「えへへ、そうですか?」
二人が見つけたのはクレーンゲーム、夏美は意外にも一発で狙った物を捕らえる事ができた様だ。
彼女は出てきた箱を開けてキーホルダーを司に差し出した、それはこの世界で放送されているヒーロー物のグッズ。
「くれるのか!?」
思わず頬が緩む司、夏美は笑顔で頷いてイエスの意を示した。
司は礼を言ってそれを受け取る、どんな世界であれヒーロー物のアイテムを手に入れるのは気分のいいものだった。
「でも司くんってどうしてそんなにヒーローが好きなんですか?」
長年一緒に住んできて、でもその理由は分からなかったのだ。
だって好きな物は好きなんだから仕方ないだろう? そこに明確な理由は無い筈。
だから今までは特に気には留めなかった、どこが好きかは聞いた事こそあるがどうして好きなのかは。
「そうだな、カッコいいじゃないか」
「ですね。でもカッコいいだけなら他にも作品は……」
そこで唸る司。確かにそうだ、カッコいいだけならば他にもいろいろアニメやら何やらと用意されている。
それに仮面ライダーだけでなくヒーロー物と言うジャンルが好きなのかもしれないと――
「何で……だろうな?」
「分からないんですか!?」
少し気まずそうに笑う司と驚き固まる夏美。
まあいいか、夏美はそう思って次に進む。丁度時間はお昼時だ、二人は一番近くにあった牛丼屋へと入った。
一応表面上だけだが今回はデート、だから司としては牛丼屋に言っていいものかどうか迷ったが夏美がいいと言うので。
「別に気にしませんよ。それともお洒落なお店でも連れてってくれるんですか? フフフ」
「ハハッ、冗談キツイぜ」
二人は注文を待っている時間昔の話を持ち出した。
そう言えば小さいときはよく牛丼屋だとか連れてきてもらってたっけ?
なつかしいものだ、夏美の祖父はいろいろな場所に連れて行ってくれた。
それこそいろいろな経験ができたのは夏美の祖父のおかげだろう。
「本当に感謝してるぜ祖父さんには」
それは両親がいないと感じさせないくらいに。
司のそんな言葉に夏美は少し複雑な表情を浮べる。
自分も詳しくは……と言うより全く知らないが、司と亘の両親は彼らが小さいときに蒸発――
つまり二人を祖父に預けて行方不明になったらしい。警察沙汰にはならなかった所を考えるとどういう経緯で行方不明になったのかが分かると言うものだった。
夏美も祖父も亘と司、誰も言葉にした事は無いと思うが行方不明と言うよりは家出したのだろうと。
どうして司達の両親が幼い二人を残して家を出たのかは分からない。
しかしそれを自分が聞く訳にもいかなかった、幼い時は聞いたものの祖父は明確に答えたことが無い。
どうやらあまりいい思い出と言う訳でも無いらしいから……
「だけど、そのおかげで祖父さん、お前と一緒に暮らせるんだ」
むしろ親には感謝しないとな、司はそう言いながら笑った。
少し頬を赤く染める夏美、それはどういう意味なのやら?
「司くんは……私といて楽しいですか?」
「退屈はしないぜ、まあ笑いのツボを押されるのは勘弁してほしいけどさ」
ムムムと眉をひそめる夏美。
アレを押すときはだいたいが司らの方が悪い時じゃないか――と、思ったが自分の私欲が原因で押した事もあったかな?
だが司は次にはっきりと言う。
「楽しいよ」
「………っ」
そうですか、そう言いつつ夏美はニヤケ顔を反らす。
嬉しい事を言ってくれるじゃないかこの破壊者さんは。
こうして夏美は最高の気分で牛丼にありつけたのだった。
食事が終わり散歩がてら二人は近くの公園に。
遊具では子供たちが、広場では親子が走り回っている。
二人は並木道を歩きながら他愛も無い会話を繰り返していた。
久しぶりに彼女と二人だけで話してみたが意外に会話が終わらないものだ。
「やっぱり、お前といると楽しいよ」
「!!」
真っ赤になって立ち止まる夏美、どうしたのだろう? 司も彼女に合わせるため立ち止まる。
そこでふと考えてみれば先ほど自分が言った言葉は女性に向けるには中々恥ずかしいものなのではないだろうか。
やらかした、司も引きつった笑みを浮べて顔を赤くする。
「ん、んんん……ッ! まあ、そういう事だよ」
「は……はい――っ!」
クソッ! 椿のせいで夏美を変に意識してしまったじゃないか。野郎、後でおしおきだぜ!!
二人は次に映画へ行く事に。今やってるのは――
「ヒーロー物とかないかな?」
「あはは、ありません……よ」
そこで夏美の目にとまる映画の宣伝広告。
ソレは禁断の恋だのと書かれた映画、夏美はついつい説明文を凝視してしまう。
なんでも兄妹同士の恋愛だのと書いてあるが――
(あれ? そう言えば従兄妹同士って……)
夏美はコソコソと携帯を操作し始める。
ネットを使ってある事を調べている様だ、しかし――
「夏美!」
「は、はひぃ!」
ビクッ! と肩を震わせる夏美、どうやら司に呼ばれていたようだが聞こえていなかったと。
どうやら今の時間ではあまりいい物がやっていないらしく、どうするかを聞きたかった様だ。
夏美としても今の時間で上映している映画は興味がいまいち湧かない物が多かった。
と言う訳で二人は最後のショッピングセンターに向かう事に。
並んで歩く二人だが――
「♪」
「どうした? 何かあったのか?」
「いえいえ、フフフ」
「?」
妙に上機嫌の夏美に疑問を抱きながら、司はショッピングセンターに向かうのだった。
「わあ! 夏美ちゃんだぁ……!」
「わお! 真由ちゃんじゃないですか!!」
抱き合う二人、どうやら同じくショッピングセンターに来ていた鏡治達と鉢合わせした様だ。
案外世界は狭い物、四人は狙っていないタイミングで友人に会えた事でテンションが跳ね上がる。
「悪いな鏡治、せっかく二人きりだったのに」
「いいぜ。ああそうさ、二人きりは充分楽しんだからな」
司は小声で鏡治に謝罪する、珍しく双護が折れて二人きりだったのにと。しかし鏡治は笑みを浮べて首を振った。
確かに二人きりは鏡治にとってかけがえ無い時間であったが今の真由を見れば夏美に会えた事で嬉しそうに笑っているじゃないか。
自分は真由の笑顔が好きなんだと鏡治は笑う、だからこれでいいんだと。
「ああそうだ、これから一緒に回らないか?」
「いいですよ! ね? 司君」
「ああ、真由もそれでいいか?」
「うん……!」
四人はそうやってしばらく適当な店を回っていく事に。
まずは洋服――
「真由ちゃんはやっぱり可愛いお洋服が似合いますね~!」
「えへへ……、ありが…とう」
ファッション雑誌を買っている美歩や真志に選んでもらう事が多い自分達だが、やはり自分で選ぶのも面白いものだ。
夏美と真由はアレやコレやと洋服売り場を移動していく、それを後ろから半ば呆れ顔で見ている司と鏡治。
こういう時男と言うヤツはどうにもテンションが上がらぬ物。
「うーん、やっぱり女の人ってのは服を選ぶのに真剣なんだな!」
「よっぽどアレじゃない限り、着られれば何でもいいじゃねぇかと思うのは野暮なんだろうか……」
楽しそうに服を選んでいる夏美と真由、ふいに夏美が振り返って鏡治を見る。
彼女の手には二種類の洋服が――
「鏡治君は、どっちが真由ちゃんに似合うと思いますか?」
「え!? あ、ああそうだな。えっと――」
鏡治は夏美が持っている二種類の服をしばらく見て顔を一度反らす。
何故か赤面している鏡治、彼は恥ずかしそうにトーンを上下させながら言った。
「ああそうだな、えっと……ま、真由ちゃんならどっちも似合うぜ……なんて――」
視線を真由に向ける鏡治。しかし――
「………」
そこにはもう誰もいませんでしたっと!!
よく見れば夏美と真由は楽しそうに玩具売り場へ移動しているではないか。
固まる鏡治とそんな彼の肩に手を置く司、彼はゆっくりと首を振って笑みを浮べた。
「女性は、自由だぜ」
「あ……ああ、そうだな」
司と鏡治は頷くと足を玩具売り場に進めるのだった。
玩具売り場では夏美と真由がなにやら一つの人形を凝視している。
へんてこなゆるキャラのぬいぐるみであり、お腹を押すと――
『オンパッチ! ハイオマチ!!』
「「わあああああああああああ!!」」
意味不明な電子音だが二人はソレが気に入った様だ、そう言えば前も同じような人形を買ってきた様な気がする。
まさかとは思うが……などと考えた時だった、二人がそのぬぐるみを鷲づかみにしてレジへ視線を――
「おい待て! まさか買うのか!?」
「当然ですよ! ねえ真由ちゃん!」
「ねえ……夏美ちゃん…!」
申し訳ないけどいらねぇえええええええ!
だいたい欲しいとか言っている割には鷲づかみかよ! 顔面思いっきり変形してるよ!?
司はそう思えどソレを口にする事は無かった、二人の小遣いなんだから自分が口を出す必要も無いか。
彼はレジに消えていく二人を見て苦笑する、そして鏡治に小声でささやいた。
「でも、やっぱりアレは要らないよな?」
だろ? 鏡――
「え?」
鏡治は同じぬいぐるみを持ってレジに向かおうと。
「お前もかよ」
司の淡々とした言葉が玩具売り場に響いたのだった。
「あー、楽しかった!」
「うん……!!」
ショッピングセンター内の喫茶店、そこで四人は休憩をする事に。
外を見れば夕日が見えてきた、休憩の後に学校に戻ればいい時間だろう。
真由と夏美は今日の感想を言い合ってはしゃいでいる。司と鏡治もまた感想を言っている様だ。
「今日の事を胸に刻んでおいた方がいいぞ。双護のガードは厳しいからな」
「ハハハハ! ああそうだな、そうするよ」
鏡治もまた今日の日は特別だった。
今こうやって楽しく会話している人達は本来出会う事の無かった人達なのだから。
不思議な物だ、それは魔女の気まぐれで出会った縁なのだろうが同時に思う所もある。
司達の世界が救われれば当然彼らは元の世界に帰るだろう、それは当然自分もだ。
つまりどんなに望んだとしても自分は真由達と何れは別れなければならない、それは少し複雑である。
そんな事を鏡治は司だけに聞こえる声で呟いた。
「だけど俺達はもう仲間だ、きっと全てが終わった後も会えるさ」
「ああそうさ、だといいけどな」
安心しろよ、そう司は笑う。
ゼノンでもフルーラでもフェザリーヌ、ナルタキ、シャルル、彼らに食いついて鏡治との繋がりを続けられる様にしてもらう、絶対にと。
「俺は破壊者だ、壁は破壊してやるぜ」
「ハハハッ! 頼もしいな司ッ!」
同じく笑いあう二人、そんな時だった――
四人の携帯が同時に音を立てたのは。
「「「「!」」」」
なんだろう? 珍しい事もあるものだと四人は同時に携帯を取り出す。
そこに書いてあったのはメールを差し出したのが聖亘だと言う事。
どうやら一勢送信を行ったらしい。全員に伝えたいことがあったとでも?
「何だ? 珍しいなアイツ……」
と、同時に――
「!」
再び音を立てるのは司の携帯。
画面を見ればまた聖亘の文字が、どうやら今度は電話らしい。
気になるので鏡治達はメールを確認、司は電話に出てみる事にした。今の時間は彼も里奈とデートの筈だが?
「もしもし?」
『兄さんッ!? 今大丈夫だよなッ!? いや大丈夫じゃなくても聞け!』
「な、なんだよ……」
妙に焦っている様子の亘、いつもは冷静を装う彼にしては珍しい。只ならぬ弟の雰囲気に思わず司は怯んでしまった。
亘はとにかく焦っている様で、彼自身何から喋っていいのか、何を話せばいいのか、どすればいいのかが分からないと言う物らしい。
半ばパニックである、そんな冷静さを失うほどの出来事が起きたとでも?
『メール見た!?』
「い、いや。まだだけど……」
『ええと……だからッ! その…! とにかくまずは変身できない人を学校に!』
それから……あの! あれだよ!! とにかく皆を安全な場所に避難させて――!
そう、学校とかでもいいからとにかく人を避難させるんだ!! それからボク達は集まらないといけないッ!
亘は司の言葉を待たず、次々に言葉を羅列させていく。
「お、落ち着けよ!」
『落ち着いていられないんだよッ! 大変なんだ! 大変なんだよッッ!!』
何だというのだろう? 避難? どうやら相当切羽詰っている様子だ。
司は鏡治にメールの内容を見せてもらおうとジェスチャーを行った。
そしてその瞬間である。喫茶店にあったテレビがいきなりチャンネルを変えたのは、店内の放送がいっせいに切り替わったのは。
「「「「!」」」」
『………!』
それは電話の向こうにいる亘も同じだったのだろう、あれだけ叫ぶ様に話していた彼がいきなり沈黙する。
司達もまた同じように沈黙してテレビを凝視していた。それはあまりにもいきなりで脳が追いついていなかったのかもしれない。
最初はこの世界のヒーロー物を見ていると錯覚していたからだ。
「ね、ねえアレって――」
「う、うん……!!」
などとざわつき始める店内、周りを見回せばショッピングセンター内全てのテレビが同じ映像を映し出しているではないか。
正確に言えばショッピングセンターだけでなく遊園地も、牛丼屋も、映画館も、普通のラジオも。
映像と音声が流れる場所ならば全てが同じ光景を映し出していたのだ。
「なんだよ……アレ」
司は亘にではなく自分に向かってその言葉を投げつける。
テレビに映っていたのは空に浮かぶ巨大な
『た、助けてくれぇえッッ!!』
男は必死に叫び、必死にもがいている。
しかし蝙蝠はガッチリと男を固定しており離す様子は無い。
それにしてもこの蝙蝠、普通の蝙蝠ではなくどこか人間らしさを感じさせる容姿だった。
歪な頭の形、豚の様な鼻、全身タイツの様な胴体、たとえるのならばまさに"蝙蝠男"だ。そしてそのベルトには――
黄金の大鷲が。
「あれ、総理じゃないか!?」
「本当だ! ドラマ? 何コレ、凄くない!?」
よりざわつきを増す店内。
どうやら蝙蝠男に捕まっているのはこの世界における総理大臣であると言う事が会話から理解できた。
周りの人達はコレがドラマだと思っている様だ。内容はファンタジー? モンスターパニック?
しかしゾッとした様に表情を歪ませる司達、違う……違う!! これは作られたフィクションなんかじゃ――
『見ているか、人間共よ』
カメラが移動する。
そこには軍服を着た男と、隣には蝙蝠男と同じく異形が構えていた。
一言で言うならばカニ、彼もまたそのベルトに黄金の大鷲を刻んでいるじゃないか。
軍服の男・"ガル"は顎で総理を指し示す。空中にとどまる蝙蝠男、総理は青ざめて尚も離せだの助けてくれだのと叫んでいた。
そんな総理を呆れたと言わんばかりの表情で見ているガル。
『コレはお前達の世界で最も力のある人間らしいな』
そして、ガルは蝙蝠男に合図を送る。
『キシャシャシャ!!』
『う――ッ! うわあああああああああああああああああ!!』
蝙蝠男は手を離して総理を解放した。
しかしココは空中、総理は当然下へとまっさかさまである。
高さからして地面ならば死んでいただろうが、幸いなのか下は湖だった様で飛沫を上げて総理は着水していった。
数秒後、水面に顔を見せる総理。水に体を打ちつけたのか苦しそうにうめき声をあげている。
『キシャシャ!』
『エケエケエケ…!』
蝙蝠男、同時にしてカニの化け物である"カニバブラー"の笑い声がショッピングセンターを包んだ。
そして水に浮かぶ総理を見てガルはニヤリと笑う。反面引きつった表情を浮べる総理、アレは人間が浮べるような笑みじゃない。
あれは人間がする目つきではないと! ガルはそこでもう一度カメラに目を向ける。
『よく見ておくがいい人間共』
そう言ってガルは――
化け物に変わった。
「な、なんだよアレ……」
「演技にしては何か変だよねぇ…」
店中の人もおかしいと思っているのだろう。
マスターは何度もリモコンのボタンを押すがチャンネルが変わることは無い。
それに家電量販店では店中のテレビが同じ映像を映しているのだ、異様な光景であったろう。
とにかく多くの人は化け物に変わったガルを確認する事に、それはまるで蝙蝠とカニを合成させた様な異形だった。
彼は真っ赤な翼を広げて空に飛び上がる、そして一直線に向かうのは水面。
「!」
大きな飛沫が上がる。
ガルは水に向かって飛び込んだのだ、そして時間経たずして水面でもがいていた総理の姿が消える。
いや、消えたというのは少し違う。まるで何かに引きずり込まれる様にして水中に消えていったのだ。
ゾッとする、水中に引きずり込まれると言う事がどういうことなのか知らない者などいないだろう。
『ガボォ! ガバァ! た、だずげ――ッ! だずけでぐれぇッッ!!』
何とかして頭を水上に出そうともがく総理、しかし抵抗空しく何度も水に沈んでいく。
水中から生える手だけが空しく動き回っていた、まさに藁をも掴む想いなのではないだろうか?
『人間と言うのは不便な生き物だな。水中で呼吸すらできぬとは』
ガルの声だけが聞こえた。
間違いなく総理を水中に引き込んでいるのは彼なのだろう、必死にもがく総理を見て彼は哀れだといい捨てた。
だが無理も無い筈、彼の言う通り人間には水中で呼吸する方法など無いのだからパニックになるのは当然だろう。
そして遂に完全に総理の姿が水中に消えていく。必死にもがいているのか、泡だけは数を増していった。
冷たい水の中に引きずり込まれる恐怖、それを想像しただけで胸が締め付けられる。
「なんだよコレ……怖いよ――っ」
そんな声が聞こえてくる。
悪趣味な映像だ、周りを見てみると親は子の目を被い隠しているではないか。
それは夏美も同じだった、よく分かっていない真由を抱きしめて映像を見せない様にしている。
そして、そのまま少しの時間が流れた時に異変は起きた。
「「「!!」」」
水が、赤く染まっていったのだ。
それは何故なのかくらい分かるだろう?
「………!」
そして総理が姿を見せた。
浮いてきたのだ。尤も、それは総理の"一部"だけだったのだが。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」
誰かが叫ぶ、姿を見せたのは右脚だった。
次は左腕。それだけだ、それだけの"パーツだけ"が浮かんできたのだ!
そうやって次々に浮かんでくる総理の体、そしてゆっくりと姿を見せるガル。
緑の甲羅が赤く染まり、その手には最後のパーツである頭部が握られていた。
それが意味する物、それはただ一つを除いては無い。
『聞け、人間共よ』
ガルは総理の頭部を投げ捨てる。
そこに人の尊厳などは欠片とて無かった、まるでゴミの様にガルは命を踏みにじったのだ。
彼は総理を呼吸を許さぬ水中に引きずり込むとその中で四肢をバラバラにしていったと言う訳だ。
『貴様らの長は、このガニコウモルが殺害した』
ガル、その真の姿はカニと蝙蝠の合成怪人・ガニコウモルである。
彼は笑みを浮かべてカメラに顔を向ける、引きつった表情の視聴者とは裏腹にだ。
彼は一度カメラを水面に向けて残骸を映しだす。
『さて、コレを見ている諸君……!』
そしてまた再びガルにカメラが。
彼は冷たく、冷酷に、そして残酷に言い放つ。
『次はお前らだ』
そこで画面はブラックアウト。
あまりにも衝撃的な映像の為に、誰もが沈黙して動かなくなっていた。
それからどれだけの時間が経っただろう? 司の耳に刺さる亘の叫び声、そう言えば電話をしていた事をすっかり忘れていた。
『兄さん――……ッ!!』
「!!」
そこで改めて司は、鏡治は、夏美はメールに書いてあった文字を確認する。
そこには焦ったからなのか短文で単刀直入に書かれていたメッセージが見えた。
今すぐ人を避難させなければならない理由とはソレだったのか、司は立ち上がり外を見る。
窓の外、その空に見えた。見えてしまった――
『ショッカーが攻めてくる』
上空から何かが降ってきた。ふわり、ふわりと――
ソレは、"ドラス"はそうやってこの世界に降り立った。
司の視線には多くの人達がいきなり現れたドラスに戸惑っている所だった。
何アレ、着ぐるみ? 怖くない? そんな会話が聞こえてくる。
司は事態を理解し、窓を開けようとするがこのタイプはあける事を想定されていない窓だった。
だから彼は叫ぶしかなかった。声を張り上げて窓ガラスを叩く、いっそ割ってしまえばいいと。
「逃げろッ!! 早く逃げるんだ!!」
その声で同時に店内にいた人が我に帰る。
そして外にいた人達も司の鬼気迫る形相に気がついた様だった。
だが残念、少し時間が足りなかった。ドラスは呼吸音の様な音を上げたかと思うと右肩を光らせ――広範囲攻撃、マリキュレーザーを発射した。
「ッッ!!」
ただの人がレーザーに耐えられる道理などあろうか? あるわけが無い、それは今回も例外ではなかった。
広範囲に放たれたレーザーは触れた人を一瞬で絶命させる程の威力を持ち合わせていたのだ。
それだけでなくレーザーは喫茶店部分にも命中した為、衝撃が走り窓ガラスが割れる。
叫び声をあげて倒れる人達、何とか司達もまたレーザーに直撃する事は無かった。
周りを確認する司達、そこにはもう疑いようの無い事実があった。
ショッカーが、ココにいるのだと!!
「きゃああああああああああああああああ!!」
「わああああああああああああああああ!!」
パニックになる人々、いっせいに彼らは走り出してココから去ろうと必死にもがく。
何とかしければ! 司は鏡治を見て同じように叫んだ。彼自身、パニックになりそうだったのだが。
「鏡治ッ!! 夏美と真由を学校に!!」
「だ、だけど――」
「頼む! 速くッッ!!」
「わ、分かった! ガタックゼクターッ!!」
瞬時現れるゼクターと会話をする暇も無く変身。
キャストオフを使用して鏡治は一瞬でライダーフォームへと変身を完了させる。
そしてクロックアップ、夏美と真由を抱えて彼は学校へと消えていった。
懸命な判断? いや、罪悪感が無いといえば嘘になる。一般の人達を見捨てる様な気がして――……
「皆ッ! とにかくココから離れて!!」
だからこそ自分は動かなければならない。
司は夏美達を鏡治に任せ、自分は今この場にいる人達を助けることを誓う。
倒れている人を抱えてなんとか安全な場所を見つけたいと――そこで後ろを振り返った司は見た、再びドラスが右肩を光らせている所を。
「クソおおおおおおッ!!」
ライドブッカーを出現させて引き金を引く!
銃弾はなんとかドラスの右肩に命中してチャージを止める事ができた。
だが同時にドラスがコチラに気がつく結果となる、司は抱えていた人に謝罪すると近くに寝かせて走り出した。
ぐちゃぐちゃになった喫茶店の窓から飛び出すと、司はドラスと真っ向から対峙する。
「―――ッ!!」
そこで気がつく光景、ドラスが放ったレーザーは道をめちゃくちゃにしていたのだ。
文字通りそこにあった看板や建物は大きく破損して人々は苦しそうに倒れている。
中にはもう既に息絶えている者も――……。
「……ッッ!」
その倒れている人の中に、黒焦げになった小さな影が見えた。
影は親と思われる死体に寄り添う形で煙を上げている。それを見た瞬間、司の中で何かが弾けた。
「ショッカァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」『カメンライド』『ディケイド!』
走る、叫ぶッ、走るッッ、叫ぶッッッ!
ディケイドはライドブッカーをソードモードに変えて思い切りドラスに切りかかった。
だがソレを真っ向から受け止めるドラス、どうやら只者ではないらしい。
『あはは! ねえ誰君? 凄いね!!』
「黙れぇぇええええぇぇええぇえええええッッ!!」『アタックライド・スラッシュ!』
ディケイドは強化させた剣で強引にドラスを切り抜く!
火花を散らすドラスだが、ディケイドは彼に掴みかかるとそのまま力の限り投げ飛ばす。
レーザーを受けて燃えていた看板にドラスは命中、看板と共に地面へと倒れる形に。
すぐにドラスは立ち上がるがそこへブラストを発動させたディケイドの攻撃が命中、銃弾の雨がドラスの体を包む。
『痛いなぁッ!』
不愉快だとドラスは反撃を行う。
手をかざすと、それがなんと分離してロケットパンチの様にディケイドへと襲い掛かった。
反応はしたが避ける事ができずディケイドは大きく怯む、そこへ尾を振り当てるドラス。
「ぐあぁぁあああぁああッッ!」
ディケイドは吹き飛ばされ、近くにあった不動産屋のドアをぶち破り中へ放り込まれる。
中にはまだ人が残っており、いきなり現れたディケイドに驚きの叫びを上げていた。
だが驚くのはまだだ、ドラスはゆっくりと後を追ってきており不動産屋の中に入ってくる。
「ひぃいいぃいいいいッ!」
腰を抜かした職員達、ドラスは彼らを見ると右肩を光らせて――
『アタックライド――』
マリキュレーザーを放った!
『イリュージョン!』
「「「ぐああああああああッッ!!」」」
だがそこで三体に分身したディケイドが割り入る。
後ろを向いて手を広げるディケイド達、おかげで拡散したレーザーを全て背中で受け止めることに成功。
天井や壁、器物などは守りきれないが職員達の命だけは何とか守る事ができた。ディケイドは叫ぶ、早く逃げろと!
『あはは! 駄目だよ、鬼ごっこはぼくが勝つんだから』
「黙ってろッッ!!」
錯乱しながら逃げる人達を狙うドラスだったが、ディケイドが殴りかかってきたので見逃す事に。
そしてディケイドは思い切りその拳でドラスの顔を殴りつけていく!
コイツがどういうヤツなのかは全く知らないが、何の罪も無い人を殺したのは絶対に許せない。
しかも中にはあんな小さな子供まで――ッッ!!
「許さねぇ! 絶対に許さねぇッッ!!」
怯むドラスに連続して打ち込まれていく拳。
しかし感情に任せて殴り続けた故か攻撃ルートは単調な物になってしまう。
結果、ドラスはすぐにディケイドの拳を掴み取った。
『捕まえたよ、お兄ちゃん』
「ッ!!」
ドラスのパワーはそれなりで、ディケイドは拳をつかまれたまま彼に投げ飛ばされる。
再び商店街に放り出されるディケイド、そこで衝撃が。すぐに立ち上がり周りを確認するとちらほらと煙や炎が見えるではないか。
それだけでなく叫び声も、つまりそれが意味するもの――
(他の場所でも同じ事が!?)
だとしたら早くこの化け物を倒して人々を避難させなければ!
ディケイドは立ち上がり様に銃弾をドラスに浴びせる。動きを止めたドラスにディケイドが差し向けるのは金色のカードだった。
『ファイナルアタックライド――ディディディディケイド!!』
ディケイドの前に現れる五枚のホログラムカード、彼はブッカーをソードモードに変えて走り出した。
カードを通過する毎にエネルギーがソードに付与、巨大な剣でディケイドはドラスに切りかかる!
「ウラアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
『!!』
獣の様な咆哮を上げてドラスは後退。
彼は剣にレーザーを当てる事で軌道を反らしたが、代償として右腕を切り離される結果となる。
舞い飛びディケイドの背後に落下するドラスの右腕。ドラスは腕からこぼれる緑色の血液を見ながら呼吸音を漏らす。
一方でさらにカードを構えるディケイド、早く止めを――
「うぐッッ!!」
だがそこでディケイドの体が重くなり彼は動きを停止させた。
彼はそこで自分の体に巻きつかれている無数の糸を確認、それは自分の背後から伸ばされた物だと言う事を素早く理解した。
何だ!? ディケイドは鈍る頭を動かして背後を見る。
「!!」
「キシャアアアアアアアアアアアアッッ!!」
心臓が止まりそうになる、それは今まで見てきた怪人よりもずっと不気味な異形だったからだ。
白い体、人の顔と膨らんだ大きな胸からそれが女性だと推測するのは難しくは無い。
しかしその口は大きく裂けており、下半身にはグロテスクな異形を象徴させる八本の足。
『クモ女、彼を抑えておいてね!』
「シャアアアアアアアアアアア!!」
ドラス怪人・クモ女。
ドラスは自らの肉体を怪人に変える事ができる、彼女もまた切り離された右腕から生まれた産物なのだろう。
クモ女は糸を引き寄せてディケイドに掴みかかった、八本の細長い足をディケイドの四肢に絡ませて動きを封じる。
「クッ!!」
もがくディケイドだがなかなか引き剥がせない!
さらにコチラに向かって歩いてくるドラス、彼は右腕を変形させて巨大な剣を作り上げた。
あれで切り裂かれればかなりのダメージを受けてしまう、ディケイドは抵抗の力を強めて何とか隙を作れないかと探った。
「クソッ!!」
『あはは! これで刺せば死ぬのかなぁ?』
「離せ! ぶっ殺すぞ!!」
『知ってる? 人間ってさ、切ったり刺すと中から気持ち悪いデロデロの臓物って奴を零すんだ』
ゆっくりと歩いてくるドラス。
ディケイドはそれを確認すると動きを完全に停止させた。
諦めたのか? ドラスがそう問うが――
「ざけん―――なッッ!!」
『!』
ディケイドはそこで全ての力を振り絞る。
突発的なディケイドの行動にクモ女の拘束が一瞬だけ緩んだ。
それが好機とディケイドは一枚のカードを発動させる事に成功する!
『アタックライド』『マシンディケイダー!』
「!」
ドラスの背後にオーロラが出現、そこから飛び出してくるのはマシンディケイダー。
バイクはドラスの寸でを駆け抜けて彼を弾き、地面に倒す事に。
そしてさらにディケイダーは加速、ディケイドを回り込む様に移動してクモ女に直撃する!
「ギシャアアアアアアアアアアア!!」
苦痛の悲鳴をあげて吹き飛ぶクモ女。
ディケイドはその隙に糸を引き剥がすと一枚のカードを発動させた。
「変身!」『カメンライド――』『アギト!』
光と共にディケイドの姿がアギトに変身する。さらに続けて――
『フォームライド――』『アギト・フレイム!』
赤に染まる腕と握られるフレイムセイバー、ディケイドは剣を構えてクモ女の方向へと走り出した。
加速するディケイド、立ち上がろうとするクモ女の足に赤き閃光を刻んでいく。
クモ女の悲鳴、そして舞い散る彼女の脚達。ディケイドはクモ女の動きを封じると同じく立ちあがろうとしているドラスに視線を移す。
ドラスはよろけながらも肩を光らせエネルギーをチャージ、レーザーを放とうとしているのだろう。
『フォームライド――アギト・グランド!』
マリキュレーザーの発射と同時に飛び上がるディケイド。
おかげでレーザーはクモ女に直撃、腹や胸に風穴を開けクモ女は血を撒き散らしながら断末魔に近い悲鳴をあげる。
それと共にドラスの背後に着地するディケイド、二発の蹴りでドラスをクモ女の所へと押し出していった。
『アタックライド・マシントルネイダー!』
アギトの紋章が出現してディケイダーを通過、するとディケイドのバイクがアギトの物へと変わる。
それだけでなくマシントルネイダーはスライダーモードへと変形、ディケイドがそこに飛び乗る事で最後の準備は完了した。
『ファイナルアタックライド――』『アアアアギト!』
ディケイドがトルネイダーを操作して二度程度ドラス達に体当たりを命中させる。
そして隙を見て距離をとると一気に加速、そしてその勢いを味方にして飛び蹴りを仕掛けた!
「タアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
『クモ女!』
「ギィイィイイイィィィイイイイ!!」
ドラスは一瞬でクモ女を自分の目の前に引き寄せる。
役割は盾、ディケイドの攻撃をクモ女は全身で受け止めて爆散した。
だがそこに隠れるドラス、着地したディケイドが辺りを見回すがドラスの姿はどこにもなかった。
「逃げたか――……ッ! クソッッ!!」
殺すだけ殺して退散かよッ!
ディケイドは苛立つ心を抑えながら逃げ遅れた人がいないかを探しに行くのだった
しかし彼は知らなかった、事は想像を絶する程に深刻なのだと言う事を。
それを証明するように各地で現れるオーロラ、それに彼は気がついているのだろうか?
ああ、また悲鳴が聞こえた。
また、誰かが壊される。
クモ女昔は純粋に怖くて嫌いでした。
アイツの女じゃない感が凄くてね、動きもキモいし。
はい、じゃあ次は木曜あたりに。
ではでは。