仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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一部ラスト、上位世界編。
三話構成となってます。


上位世界・星の図書館
第60話 ???(前編)


 

 

 

「!?」

 

 

世界移動を完了させた司達。

しかし飛び込んできた景色は全く予想していない物だった。

今までは全て学校から世界を移動してきた訳だが今回は違う、だからこの様な事態になってしまったのか?

 

 

「ど、どこだよココ」

 

 

辺りを見回す司、一応は皆いるみたいで安心する。

だがモモタロスやキバット達はおらず完全に全員が揃っている訳でもない。司は改めて自分がどこにいるのかを確認してみた。

 

見えたのは本、本、本。三百六十度どこを見ても本。

一瞬学校の図書室かと思ったくらいにココは本に覆われている場所だった。

息を吸えば本の独特な匂いが鼻をつく、不快ではない、むしろノスタルジックな気分になりそうだ。

しかし本の背表紙を見れば不思議な文字で書いてある為に、学校では無い事が理解できた。

 

 

「書斎……? いや図書館? ココ」

 

「そうみたいだね、凄い本の量だ……」

 

 

翼は適当に一冊を取って中を見てみる。

しかし複雑な言葉故に理解できずに翼は本を閉じた、それは英語でも無ければ日本語でもない。

文字は途中で途切れていると言う具合だ。本棚の中には知っている本や漫画などもあるのだが、なんとも不思議な空間である。

とは言え中には日本語の物もちゃんとある。なんなんだろう? 少し不気味なものだ。

 

 

「ちょっと狭いな、扉あるし向こうに行こうぜ」

 

 

椿の言う事はもっともだ、そんなに広くも無い部屋にこれだけの人数が集まるのはキツイものがある。

と言う事で一同はこの部屋から出る事を決めた。司が先に扉を開く――と。

 

 

「聖司」

 

「ッ!」

 

「光夏美」

 

「は、はい!」

 

 

そこにいたのは、椅子に座っているゼノンとフルーラだった。

金の装飾に赤のクッション、高級感と時代を漂わせるソファタイプの椅子が書斎にとても合っている。

司達がやってきたのはまたも本が溢れる部屋。彼らの混乱を気に留めずゼノンは男性の名を、フルーラは女性の名をそれぞれ呼んでいく。

 

 

「小野寺ユウスケ」

 

「あ、ああ」

 

「空野薫」

 

「うん」

 

 

そこは書斎だがテーブルが置かれており、紅茶とクッキーが見えた。

おそらくゼノン達はここで時間を潰していたのだろう。彼らの前には読みかけの本が置かれている。

 

 

「小野寺翼」

 

「ゼノンくん……これは――?」

 

「空野葵」

 

「うん」

 

 

翼の言葉にゼノン達は答える事は無かった。

どうやら名前を呼び終わるまでは何を聞いても無駄らしい。

しかし今の二人は無表情、と言っても口だけは笑っているがいつもとは雰囲気が違っていた。

 

 

「条戸真志」

 

「……ん」

 

「白鳥美歩」

 

「ういーっす」

 

 

書斎には窓があり、真志はそこから外を見る。

しかし紫色の闇が広がるだけで明確な景色は何も見えなかった。

つまりココがどこなのかは全く分からないと言う事、すくなくとも普通ではないと言う事くらいしか。

 

 

「犬養拓真」

 

「はい……!」

 

「園田友里」

 

「ほーい」

 

 

無機質なロボットの様にゼノン達は名を呼んでいく。司達も思わずその雰囲気に身構えてしまう。

何せ自分達は全ての試練を終えた筈、つまりこの世界はゴールなのではないかと思ってしまうのも仕方ないだろう。

おめでとうのパーティを開いてくれるとは思えないが、何かしらの進展報告くらいは期待してもいいんじゃないだろうか?

 

 

「守輪椿」

 

「お、おう」

 

「広瀬咲夜」

 

「ああ」

 

 

部屋には本の匂いではなく二人が飲んでいた紅茶の香りが。

恐らくその紅茶も司達の世界には無いものなのだろう、なんとも言いがたい良い香りだ。

もしかすると……と、誰もがその考えを持つ。

 

 

「相原我夢」

 

「はい」

 

「天美アキラ」

 

「はい」

 

 

誰もが持った考え、それはこの世界がゼノン達のいた世界なのでは無いかと言う事。

もともと謎が多い彼らだが少なくとも拠点としている場所は存在し、シャルルの話から主君としている人物もいる筈。

 

 

「天王路双護」

 

「……ああ」

 

「天王路真由」

 

「うん…!」

 

「新意鏡治」

 

「ああ」

 

 

この世界がゼノン達の拠点となる場所ならば、確実に自分達は真実へ近づいている。

半ば強引に巻き込まれたこの試練、以前フルーラは世界を巡っていけば自分達が行うべき事が分かると言っていた。

今がまさにその時なのでは? いや、もう世界は救われているかもしれない。

そんな願望すら抱く。

 

 

「野上良太郎」

 

「うん……」

 

「ハナ」

 

「ええ」

 

 

電王組みだけは少し含みのある言い方に声色を変えるゼノン達。

やはり電王組みだけは何か特別な物があるらしい。尤も、その特別も特別では無くなった様だが。

やはり以前から思われていた彼らの拠点となる世界の移動、それが行われた様だ。

 

 

「聖亘」

 

「うっす」

 

「野村里奈」

 

「は、はい!」

 

 

これでラスト。

ゼノンとフルーラは対になっていた椅子から立ち上がると拍手を行う、そして高らかに宣言した!

 

 

「「おめでとうチームディケイド!!」」

 

「君達は全ての試練を完成させ力を手に入れた!」

 

「貴方達は全ての試練を終えてこの書斎に、上位(メタ)世界、星都図書館に来たのよ!!」

 

 

二人は礼儀よくお辞儀を行うと跪いて背後にある扉を手で示す。

初めて見せる態度に怯む司達だが、ゼノンとフルーラの背後に巨大な扉が見えたのを確認。

二人はどうやらこの先に司達を進める事を目的としていた様だ。

フルーラが言ったこの場所の名前、『上位世界』と言うのが気になったが詳細を聞いてもうやむやにされるだけで何も情報は得られない。

 

 

「この先に、ボク達のご主人様と――」

 

「この先に、貴方達の運命を操作した男がいるわ!」

 

 

やはりそうか! 司達は目を見合わせて頷く。

この先にゴール? いや、全てが待っていると。

司達はゼノン言われるがまま扉の前に立つ。それを確認して頷きあうゼノンとフルーラ、彼らは同時に指を鳴らした。

 

 

「さあ、扉を開きたまえ!」

 

「閲覧の時よ!」

 

 

扉が音を立てて勢い良く開く。

すると――

 

 

「うっ! うおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

まるでブラックホールの様に吸い込まれる司達。

それを確認してゼノン達は扉を閉めた、そこで初めて彼らは普段の様な表情を浮かべる。

この先に何が待っているのか、そして彼らはそれをどう受け止めるのだろうか?

それを想像すると、笑みを浮かべずにはいられない。

 

 

「ぶっ壊れなきゃいいけどねぇ!」

 

「うふふ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これ――ッ!」

 

「すごいです……!」

 

 

扉を潜り抜けた司達、すると景色が一人でに動いて直ぐに加速していく。

恐らく自分達が移動しているのだろう、わずかに見えたのは無数の本棚と青い光、さらに無数の紫の閃光。

驚くべきは本棚の大きさだ、手前にあったものは上を見上げても一番上段が見えなかった。

それはつまりそれだけ本棚が巨大だと言う事、ビルの様な大きさの本棚にはぎっしりと本があった。

 

 

「まるで世界全体が図書館みたいな……とんでもない本の量だ」

 

 

世界が本で構成されている。

今まで訪れた世界の中でも特に異質な物に感じる。

 

 

「光になったみたいだ……!」

 

 

一同はそのまましばらく加速、するとその先にまた扉が。

間違い無い。その先にいるのだろう、この試練を仕掛けた人物が。この試練を見ていた人物が。

そしてそのまま扉は開き――

 

 

「ッ!」

 

「………」

 

 

そこもまた本に溢れた書斎、いったいココにはどれくらいの本があるのだろう?

見えたのは大きな机と紅茶、その先に座っている人物、そしてシャルルがそこにいた。

彼は司達を確認すると帽子を整えケープマントを翻し、ゼノン達と同じ様に頭を下げた。

 

 

「全ての試練を終えましたね。おめでとうございます」

 

 

そしてシャルルは手で椅子に座っていた男を指し示した。

走る緊張、彼は一体……?

 

 

「ご紹介しましょう。コチラが、一連の出来事を仕組んだ――」

 

 

司達は一勢に男へと視線を向ける。

メガネにフェルト帽、司にはなんとなく見覚えがある様な無い様な……。

男は椅子から立ち上がり一礼、そして自らの名を宣言した。

 

 

「私は"ナルタキ"、君達を世界から隔離した者だ」

 

「ッッ!!」

 

 

衝撃で誰もが沈黙する。

いろいろ聞きたい事が山ほどあった筈なのに誰もが口を閉じて立ち尽くすだけとなった。

ナルタキと言う男、一見すれば自分達と同じ人間に見るが今までの事を考えるならば相当の力を持っている筈。

しかし、ナルタキが次に放った言葉は意外にも謝罪だった。

 

 

「申し訳ない、いろいろと君達には話したい事や謝りたい事もあるが――」

 

 

どうやら今の彼には少し時間が無い様だ。

なにやら用事がある様で今すぐにこの場を離れなければならないそうだ。

では説明は誰が? そんな心配を持つ司、だがそこは考えているのかナルタキは直ぐに別に座っていた女性を指し示す。

 

 

「詳しい説明はシャルルと彼女に」

 

 

それだけ言うとナルタキは逃げる様にしてオーロラへ消えていく。

ただ見ているだけの司達、彼は敵なのか? それとも味方なのか? まだ分からない。

いや何も分からない、そんな混乱を覚える時にシャルルが口を開いた。

 

 

「では、これより説明を行います。皆様には縁の無い話ゆえに混乱するかもしれませんが、どうぞ肩の力を抜いてお聞きください」

 

「あ、ああ……」

 

 

その前にとシャルルは女性を紹介すると言う。

同時に視線を向ける司達、その先にいる女性は不思議な格好をしていた。

肩と上半身が少し露出する綺麗な着物、そして頭を囲う様に浮遊している馬の(ひづめ)状の物体、金色の羽が装飾として輝く杖。

退屈そうな顔で少し唇を吊り上げている女性、なんとも美しく見える。

 

 

「彼女こそが、今までの世界移動や他世界の概念を貴方達に与えた方にございます」

 

「ッ!」

 

「ナルタキ様は彼女と契約を結び、その力を借りた上、試練と言う形で貴方達を様々な世界に転送してきました」

 

 

つまり今までの世界移動を行わせていた超本人って事ではないか、思わず司達も息を呑む。

神に等しき行為を行っていた人物、それが彼女だと?

すると女性はシャルルに合図を行う。どうやら自分で自己紹介を行うらしい。

 

 

「久しぶりだな。場所が変わっても、その間抜けそうな面は相変わらずだ」

 

「………ッ」

 

「冗談だよ。はじめましてだな、"人の子"らよ」

 

 

その言葉が意味するもの。

 

 

「その通り、私は人ではない」

 

 

心を読まれた? 司達に緊張が走る。

やはりそんな事をやってのける者だ、人と言うカテゴリではないだろう。

では何か? 本物の神だとでも?

 

 

「神ではないさ、魔女だとも私は」

 

「勘弁してくれ――ッ」

 

 

許せ許せ、彼女はそう言って笑う。

そして杖で一度地面を叩いて、皆の意識を自分に向けさせる。

 

 

「我が名は観劇の魔女――」

 

 

眠そうな目でニヤリと唇を吊り上げ笑う魔女。

成る程と誰もが一瞬で分かるその笑い方、彼女がゼノン達のご主人と言う訳か。じっとりとした笑い方がよく似ている。

そして魔女は両手を広げて言った、自らが観劇の魔女なのだと。そう『観劇』の魔女――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラ」

 

「……ッ」

 

「彼女は観測者、そして魔女は司様達と関わりが深い仮面ライダーとは無関係な世界の住人です」

 

「そう、尤も私がどこの世界の住人だったのか、もう私自身忘れてしまったがな」

 

 

"フェザリーヌ"はそう言って司達を見る。

人を超えた上位なる彼女に司達はどう映るのだろうか? きっとそれはとてもちっぽけな存在、何の価値も無いと思われているのだろう。

彼女はニヤリと笑ったまま両手をより広げる。司達を迎え入れるポーズなのだろうが、問題は同時に放った言葉。

 

 

「改めてようこそ。代用の再構築者(レプリカ)達よ」

 

「!!」

 

 

いや、こうお呼びしたほうがいいかな? そう笑って彼女は言葉を変える。

何を言っているのかは明確に理解できない司でもその言葉の異質さには気がついた。

フェザリーヌは『全て』を知っている、それを踏まえた上で彼女は自分達をこう呼んだのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二次創作、仮面ライダーEpisode DECADEの登場人物(こま)達よ」

 

「―――ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今……なんて言った?」

 

「文字通りの意味に捉えていただいて結構です」

 

 

魔女も面倒くさがりだ、シャルルがサポートにつくらしい。

彼は早速司達にこの旅の真なる目的を告げる。司達は今までの試練が自分達をライダーに覚醒させる物程度に捕らえていた。

事実試練の終了間際、もしくはその途中で空白だったライダーのカードに絵柄が加わり試練の参加者も変身できる様になったのだから。

 

 

「だがそれはあくまでも、そなた達の主観だ」

 

 

本当の狙いは別にある、もちろん司達が思っていた事が本来の目的とも言える。

だが彼らの知らない本当の理由も存在していたのだとフェザリーヌは言う。

そして彼女は自分の机にあった本を手に取った。彼女はその本の表紙を司達に見せ付ける。表情が変わる司、そこに書いてあった文字……つまり本のタイトルは――

 

 

「え……Episode DECADEだと?」

 

「その通り、そなた達の旅はこの本を完成させる事にあった」

 

 

沈黙する司達。

当然だ、本を完成させる為に今まで戦ってきたと言うのはおかしな話ではないか?

 

 

「あくまでも我々にとっては言う話ですがね」

 

「そう、ココにはそなた等の活躍や生活が記載されている」

 

「ッ?」

 

 

フェザリーヌが指を鳴らす。

するとEpisode DECADEが独りでに開き、適当なページで停止。

さらにそこから書いてあるだろう文字が分離、文字たちは互いに集まると一つの映像を書斎に映し出した。

 

 

「これッ!」

 

 

反応するのはユウスケ、その映像は彼が始めて変身した時の物だった。

はじめて見る自分の客観的な戦闘シーン、思わず薫も小さく声をあげる。まさかあの時の戦闘が撮影されていたとは――

 

 

「これは第3話、タイトル『破壊』で初めてそなたがマイティフォーム変身した場面だ」

 

 

まだある、そう言ってフェザリーヌは連続で指を鳴らした。

それに対応する様にページを独りでにめくって行くEpisode DECADE。

先ほどと同じ様に文字が分離してそれぞれの映像を作り上げていく。

 

 

「ま、まじか……!」

 

 

それは残りの翼から司が初変身を行った場面だった。

物によってはありえないカメラアングルで全てが撮影されている。

同時にその意味も理解する一同、全てがフェザリーヌ達に監視されていたのだ。

彼女はニヤリと笑うと、こんなのもあると言って指を鳴らした。

 

 

「ッ!」

 

 

何が来る?

身構える一同だが――

 

 

「っておわああああああああああああああ!!」

 

「っ!?」

 

 

叫ぶ椿、それもその筈だ。

映された映像は響鬼の試練で訪れた妖怪温泉での出来事、つまり彼が女湯を覗こうとしていた場面なのだから。

急いで画面を隠そうとする椿、普通ならば女性陣から冷たい視線でも浴びせられるのだろうが今は少し違う。

この場面が映ると言う事はつまり、その場面を見られていたと言う事。

 

 

「ちょ、ちょっと! もしかしてお風呂とかトイレとかも見られてる訳!?」

 

 

思わず赤面して体を隠す様に友里は振舞う。

それを見て笑うフェザリーヌ、確かに妖怪温泉での入浴は今映っているのだが普段は安心して良いと言った。

どうやらEpisode DECADEには全ての出来事が記載されている訳ではないらしい。

 

 

「例えば、聖亘が誤って野村里奈の着替えを見てしまった話や――」

 

「ブッ!!」

 

 

思わず噴出す亘、まさかそんな事まで知っていたなんて……!

里奈と亘は恥ずかしそうに沈黙してしまう。それでもまだフェザリーヌは続けた。例えばそう、彼女はそう言って我夢とアキラを見る。

 

 

「あの布団で――」

 

「わ、わあああああああああああああああああ!!」

 

 

何かまずい事だったのだろうか?

我夢は叫ぶ様にしてフェザリーヌの言葉をかき消した。

とにかくコレであの本に全てが映っている訳では無いと言う事が分かった、つまり全てが監視されている訳では無いようだ。

 

 

「で、でも俺たちは監視されてるって……! そ、それは常に監視されてるってか?」

 

「いや、そうでない。これはあくまでも記載されている情報でしかないからだ」

 

「?」

 

「安心するがいい人の子よ。今は私の力で映像化しているだけであって普段は文字だけの記載だ、プライバシーの問題は心配しなくていい」

 

「皆様のプライバシーについては私達も気をつけていますので、安心してください」

 

 

確かに今はフェザリーヌが文を映像化しているだけ、ならばまあ仕方ないかと一同は納得した様だ。

よく分からないが止めてくれと言っても止めてくれないだろうし、何せあの二人組みの主人ともあれば性格が似ていて当然だろうからな。

常に人を馬鹿にした様な笑みを浮べているところがソックリだ。

 

 

「Episode DECADEは自動更新される日記の様な者です。ある程度世界に影響を齎す事しか刻みませんよ」

 

「それに、この件に関しての記憶は後で消させてもらう。意識されても困るからな」

 

 

今さらっととんでも無い事を言った気がする。

フェザリーヌはニヤニヤとしているだけ、やっぱコイツはゼノン達の主人だわ。誰もがそんな事を考えた。

ふとそこで浮かび上がる疑問。そもそもこの『Episode DECADE』とは何なのか、この本を完成させる事になんの意味が?

まずこれは誰が書いている? 最初はゼノンとフルーラかと思ったが温泉の時には彼らは既にいなかった筈だ。隠れていたにしてはカメラアングルが近かった。

 

それを聞くと少し複雑そうに顔を歪ませるフェザリーヌ。

何から話せばいいのか、そう彼女は悩んでいる様だ。とりあえず彼女はシャルルに意見を求めてみる。

 

 

「とりあえず質疑応答の形でいいかと。皆さん、何か聞きたい事があるのならどうぞ」

 

「ふむ、ではそれでいこう」

 

 

どうぞとジェスチャーをしてみせるフェザリーヌ。

皆いざそう言われると何を聞いていい物なのかと沈黙してしまう。

だが逆に聞かなければ進む事も無い、混乱しつつも司は口を開いた。

 

 

「前にフルーラに聞いてうやむやにされた事がある」

 

「ほう、私の家具が失礼した。では言ってみるがいい」

 

「大きく分けて質問は四つだ」

 

 

1、仮面ライダーが関係している理由。

2、司達はどうすればいいのか?

3、コレを仕組んだ、もしくは空間転移を行なっている者の正体……はナルタキとフェザリーヌか。

4、そしてなぜ司達が選ばれたのか?

 

 

「うん、答えよう人の子よ」

 

 

フェザリーヌが指を鳴らすと一つ目の質問が文字となって空中に浮かび上がる。

始めの質問は――

 

 

『この一連の出来事に仮面ライダーが関係している理由』

 

 

と、言う物だ。

ディケイド変身から始まり響鬼の試練まで全てが仮面ライダーと言う特撮作品のカテゴリに分けられた出来事だった。

響鬼の試練は微妙な所だがしっかりと音角や鬼と言う存在が提示されていたではないか。

 

 

「仮面ライダーはあくまでも子供向けの特撮作品の筈だ。そりゃ、俺はファンだけどそれが作り物のフィクションだって事は分かってる」

 

 

しかし事実、人が傷つき、自分達は変身し――

 

 

「仮面ライダーと言う作品が関係している理由は、そなた等の世界が滅ぶ理由と関係している」

 

「それは聞いた。でも、どうして関係してるのかは聞いてないんだ」

 

「ふむ――」

 

 

フェザリーヌは頷き口を開く。

相変わらずニヤついた表情で彼女は簡単に言ってみせる。

 

 

「そなた等の世界はある組織によって滅ぼされる」

 

「!!」

 

 

一同に戦慄が走る。

滅びるとは聞いていたが、それが明確な理由として突き付けられてくるのは初めてだ。

瞬間、滅びると言う言葉から連想されたのは災害や隕石等の大規模な物。

しかし今、フェザリーヌはある組織によって滅ぼされると言った。

組織と言う事はつまり――

 

 

「人の手で、俺たちの世界は滅ぼされるのか!?」

 

「人の手か……"人"の定義が微妙だな、これは後で詳しく説明してやろう」

 

 

話の続きだ、そう言ってフェザリーヌは再び言葉を続けた。

"ある組織"によって司達の世界は滅びるらしい、その組織こそが今回の出来事に仮面ライダーが関わる理由とフェザリーヌは告げる。

 

 

「この組織を倒すのに、仮面ライダーと言う存在の力が必要なのだ」

 

 

"神々"はそれを望んでいる、彼女はそう言って笑った。

対してまだ意味が分かっていない司達。シャルルはそれを感じたのか、補足の言葉を付け足していく。

 

 

「要するに司様達の世界はある組織によって滅ぼされる。その組織を倒すためには仮面ライダーの力を手に入れる事が重要とされているのです」

 

 

ほぼ同じ事を言っただけのシャルル。

組織を倒すのに仮面ライダーの力が必要でした。それだけなんてピンポイントな理由すぎやしないか?

 

 

「な、なんでそんなピンポイントに仮面ライダーなんだよ……」

 

「それを、神々は望んでいるのです。仮面ライダーがいなければ潰せない組織がある」

 

 

また出てきた神々と言う単語、それは何かの比喩なのか?

それとも明確に神と言う存在が関係しているのか? 司はさらに質問を続ける。

正直怒りの気持ちもある。自らの世界が滅び、この試練を続ける理由が神の意思ならばふざけていると。

 

 

「そうですね、神の正体――……」

 

 

そこでシャルルはフェザリーヌを見た、彼もまた何を話せばいいのか迷う所がある様だ。

どこから話せばいいのか、何から話せばいいのか、どこを隠し、どこを告げるのか。制約があるのだろうか?

しばらく沈黙した後、魔女は口を開いた。

 

 

「そなた等は、世界がどうやって生まれるのか……知っているか?」

 

「せ、世界?」

 

 

いきなりの話題変え。

そんな事考えた事も無い、まして自分達は他世界の存在すら知らなかったのだから。

とはいえ現にディケイドに変身した最初の世界から鬼太郎達がいた世界、休息として用意された世界、その種類は少なくとも十を超えている。

世界の中にはゼノン達やシャルルの様な普通じゃありえない容姿の者がいる世界まで。それは多くの種類があるのだろう、それらを生み出す物は何か?

 

 

「わ……分からない」

 

「思考を止める事は豚と同じだ。考える事を止めるな、人の子よ」

 

「う゛ッ!!」

 

 

さすが魔女、言いやがる。

司は迷いながらも適当に何か言ってみる事に。

 

 

「び、ビックバン的な奴で……ポンって――」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

ププ

 

 

 

 

 

「それは無いな」

 

「おい、今笑ったよな、言ってみろって言って笑ったよな」

 

 

まあまあと夏美は司をなだめる。

対して意地悪な笑みを浮かべているフェザリーヌ。

あ、分かるわ、コイツ性格悪いわ。司は歯軋りを行いフェザリーヌに答えを求めた。

頷く彼女、指を鳴らしてたった一文字、そして絶対の文字を司達の前に提示してみせる。

椿は反射的にその文字を口に。

 

 

「ネ……申?」

 

「神だ」

 

「はぁッ!?」

 

「あっ(恥ずかし!)」

 

 

驚きの声を上げる司と赤くなって俯く椿、魔女はそれをニヤニヤと見ていた。

そう、一同の前に現われた文字とは神。

 

 

「神が世界を創造する」

 

 

そんな物でいいのかよ、司が言うとフェザリーヌは笑う。

驚く司が滑稽に見えるらしい、そこですかさずフォローに入るシャルル。

どうやら司達が思っている神とフェザリーヌ側が言っている神には若干の語弊があるらしい。

問題は『神』と言う一文字に込められた定義、そこにこの問題は重点を置く。

 

 

「皆様が今、どんな神の姿を想像しているかは置いておきましょう」

 

「はぁ」

 

「大切なのは、ココで言う神の定義です」

 

 

シャルルはどう言う訳か指を鳴らす事に成功。

するとフェザリーヌの時と同じく書斎に無数の映像が出現する。

それは様々な世界の映像、司達が訪れてきた物や宇宙から見た惑星とも思える場面が多く見えた。

 

 

「皆様が訪れてきた世界――」

 

 

それは多種多様な物であろう。

一体どれだけの世界があるのか、それは見当もつかない程だ。

フェザリーヌはその言葉に頷き同意を示す、世界は人間が回りきれる程のレベルではないと言う。

そんな世界を創る神とは――?

 

 

「簡単です。皆様が訪れた世界同様、"世界を生み出す世界"と言う物があるのです」

 

「ッ! 世界を生み出す世界!?」

 

 

その通りとシャルル、フェザリーヌは頷いた。

今まで訪れてきた世界は全てその『世界を創造する世界』によって生み出されたものだと二人は告げた。

 

いや、司達が訪れた世界だけでなくほぼ全ての世界がそこから生まれると言う事だったのだ。

まさにそれは神の仕業たる存在か、世界を創ると言う行為こそが神の所業なのだから。

そして神々と言う限り、その数は一人ではないのだろう。

 

 

「神神神神神、ゲシュタルト崩壊しそうだぜ」

 

「フッ、そうだな。近いものがある」

 

 

つまりそれだけ神は存在しているのだから。

 

 

「先ほど魔女は神が世界を創ると言いました。世界を作る世界があるとも」

 

「あ、ああ………」

 

「神々の正体とは、世界を創造する世界に住んでいる者達なのです」

 

 

それは……と翼が冷や汗を浮かべつつ口を開く。

創造の世界に住む神々、その姿が彼は気になった。

姿とはすなわち存在そのもの、神の存在が明確に形を作っていくのだ。

そこで浮かぶ疑問は翼だけが持ったものではない、司はもちろん今まで世界を移動してきた彼らならば抱くのが普通だろう。

 

 

「その創造の世界に住む神々の姿は……僕らと同じなのかい?」

 

 

それはつまり、人間の姿をしているのかと言う事。

 

 

「まあ、そうだな。そう捉えてもらっても構わない」

 

「―――!!」

 

 

静かな衝撃が司達を包む、途方も無い話と思われていた神の存在。

しかしそれが自分達と同じ姿をして、自分達と同じ様な生活を送っているかもしれないのだ。

それは神と言う存在よりは自分達と同じ人間と言ってもいい。

 

 

「勘違いをするな。そなた達が信仰や崇拝している神とは違う」

 

「ええ。ここで出す神々と言うのは皆様が想像している全知全能の神とは違い、その創造の世界――すなわち"神なる世界"に住むヒトの事を言うのです」

 

 

創造を行なう世界、それをフェザリーヌ達は『神なる世界』と呼称した。

フェザリーヌ曰くこの神なる世界がネックになると言う。詳しくは後で、とりあえず彼女は世界の創生過程を説明すると言った。

それは皆気になっていた事、一体神なる世界に住む神々はどうやって世界を生み出したのか?

 

 

「そこの人の子、名は?」

 

「お、俺? 守輪椿……」

 

「では椿、そなたは小説を良く読むな」

 

「ま、まあ……つってもラノベがほとんどだけど」

 

 

構わないとフェザリーヌは指を鳴らす。

すると椿の鞄が書斎に出現、驚く彼を無視してフェザリーヌは中にある小説を取り出す様に告げる。

とりあえず言われた通り中から本を取り出す椿、するとフェザリーヌは世界の創造過程を言って見せた。

 

 

「うえッ! 何、そんなんでいいの!?」

 

「ああ、やってみろ」

 

「い、いいの?」

 

「ああ」

 

 

フェザリーヌに言われて、椿は彼女の説明どおりに行動を行なう。

驚きで声を失っている者も、何故ならば世界の創り方は驚くほど簡単だったからだ。

長いときを経て命を造り、生命を育み、歴史を作る。それが世界の創り方だと思っていた一同にとってそれはあまりにも簡単に感じられる事なのだから。

 

 

「――ッッ」

 

 

そうこうしている内に椿は言われた事を全て完了させる。

それがどういう事なのか、椿は興奮した様に声を上げた。

 

 

「こ、これで世界は創られたのか!?」

 

「………」

 

 

だが意外にもフェザリーヌは首を振る。

 

 

「いや、これでは世界は創れない」

 

「な、なんだよソレ!」

 

 

椿はフェザリーヌに言われた事を全てやってのけた筈だ、それは司達も確認している。

フェザリーヌもシャルルも椿の行動自体には問題は無いと言う。では何が駄目だったのか?

ソレは神なる世界の存在だとシャルルは告げた。

 

 

「今のやり方では世界は創れません。神なる世界を介していないからです」

 

「ッ!?」

 

「……フッ」

 

 

フェザリーヌはニヤリと笑って指を鳴らす。

するとまた文字が、今度は司達に先ほど説明した世界の創り方だ。

それらが文字となり書斎に掲示される形となって具現した。そこにはこう書かれている――

 

 

『本の内容を言え』

 

 

フェザリーヌはもう一度と、椿に本を見せる様に言った。

まずはタイトル、今彼が読んでいるのは表紙の女の子がかわいいからと買った『たこ焼き職人アルティメット』と言う名のライトノベルだ。

再び椿はフェザリーヌの教え通り内容を軽く説明してみせる。

 

たこ焼き職人を目指す少年が、ヒロインと共にライバル達と戦っていくと言うラブコメ交じりの料理バトル物。

さらにフェザリーヌはその中の一ページを軽く朗読してみせろと言った。

 

 

『くそッ! なんなんだよアイツは!!』

 

『あれはたい焼き職人アルティメットよ! 気をつけて、熱々の鉄板で焼かれちゃう!』

 

 

その二文でいいとフェザリーヌは椿の言葉を切る。

以上が世界の創り方だと、先ほどフェザリーヌは説明を行なったのだ。

 

もちろん言われた通りにやった椿。

しかし魔女はそれでは無理だと言った。

だが今、もう一度同じ事をやった時――

 

 

「現れろ、世界よ」

 

「!!」

 

 

フェザリーヌの言葉に反応して本棚のひとつから本が飛び出してくる。

そしてフェザリーヌはその本のタイトルを椿達に見せた。

そこで表情を変える椿達、そこに書いてあったタイトルは――

 

 

『たこ焼き職人アルティメット』

 

「これは一体……ど、どういう――?」

 

 

フェザリーヌが持っている本は椿の持っているラノベと同様のタイトルではあるが、本の質が違う。

少なくとも椿はこのラノベが重厚なカバーに包まれたバージョンで出ていない事くらい知っている。

では今フェザリーヌが持っている本は? 見ればエピソードディケイドと同じ様な本の種類ではありそうだが?

 

 

「それが世界です」

 

「え?」

 

 

シャルルの言葉、同時にフェザリーヌはまた指を鳴らした。

すると持っていた本が展開して一つの映像を映し出す、少し前にフェザリーヌがEpisode DECADEに行なった事と同じだ。

本の中の文字が収束して映像を作り出すと言う事を。

 

 

「ま、まじか!?」

 

 

その映像はたこ焼き職人アルティメットの映像だった。

だが椿はありえないと言ってみせる、何故ならばこの作品はまだアニメ化していない。

なのに映像がしっかりと映されて、しかも登場人物たちは声を放っているじゃないか!?

 

 

「これでまた一つ、新たな世界が生まれました」

 

「これで!? こ、こんな簡単にかよ!!」

 

「はい、司様達が巡った世界もまた……同じ様な方法で生まれたのです」

 

 

ちょっと待て! 椿はそう言ってシャルルとフェザリーヌを見る。

どんどん湧き上がる新たな疑問、まず先ほどと全く同じ方法なのに何故最初は世界が創れなかったのかと言う事だ。

自分は何も特別な事などしていない。二回同じ事をやっただけ。しかし結果最初は失敗して次は成功した。

 

 

「それは、先ほども言いましたが神なる世界を介していないからです」

 

「???」

 

 

椿は普通に二回同じ事を繰り返したつもりなのだろうが、それは大きな間違いだった。

一度目と二度目には大きな違いがあるとシャルルは言う、それこそが神なる世界の存在。

 

 

「今世界を生み出した二度目には、神なる世界への干渉を果たした……と言う事があります」

 

「待ってくれ、椿にそんな力は無い筈だ」

 

「それは当然。神なる世界の干渉は私が果たした」

 

 

再びフェザリーヌに視線が集中する。

彼女が? つまり彼女が何かをしたおかげで世界は生まれたと言う事なのか。

その言葉に頷くシャルル、答えはイエス。

 

 

「それが、観劇の魔女の力なのです」

 

「我が力により今の話を神々に認知させた」

 

 

世界が創られる条件は、神々にその存在を認知させる事にある。

 

 

「―――ッッ」

 

 

もしかしたら目の前にいる魔女はとんでもない化け物なのかもしれない。

司達は完全な畏怖、恐れを抱きながらフェザリーヌを見る。

ゼノン達は世界移動や世界選択は彼女が行なっていたと言っていた、そんな事をやってのける彼女はまさに――

 

 

(本当の神……ッ)

 

 

そんな思いを司が抱いた時、フェザリーヌはしかしと言葉を繋いだ。

同時に消滅する映像、フェザリーヌは生み出された本を手で弄ぶ様に動かす。

今こうして新たな世界が生み出されたわけだが、そんな簡単に生み出せるのならば世界の数は凄まじい事になる筈だ。

その疑問をフェザリーヌは潰す。

 

 

「この世界は素晴らしい程に不安定だ」

 

「?」

 

 

何故ならば、そう言ってフェザリーヌは本を数ページめくり司達に見せる。

 

 

「あ!」

 

「文字が切れてる……!」

 

 

そう、生み出された『たこ焼き職人アルティメット』はラノベ版とは違い文字が途中で切れていたのだ。

残りのページはまだまだ多いと言うのにも関わらず文字は前半数枚しか書かれていない。

それは本としては成り立たないと言う事。つまり、世界としても成り立たないと言う事。

物語として意味の成さない本に存在する価値もまた皆無。

 

 

「この世界はもうすぐ消える」

 

 

フェザリーヌはそう言って本を後ろに投げた。

同時に消滅する(せかい)、再び沈黙が辺りを包む。誰も何を言っていいか分からないと言った様子だった。

書斎にはただクスクスとフェザリーヌが笑う声だけが聞こえている。

 

 

「何故、世界が消えたか分かるか?」

 

「………」

 

 

分からない、分かるわけがない。こればかりは沈黙をせざるを得なかった。

フェザリーヌもそれは分かっていたのか、先ほどとは違いいきなり結論から入る。

それは情報量。フェザリーヌは神なる世界の神々に椿の持っていた本の情報を伝え、そして世界へと昇華させたのだと言う。

だが今の話、つまりたこ焼き職人アルティメット。神々が認知できる情報量が圧倒的に少ないから消滅したのだとフェザリーヌは言った。

加え、自分たちが神なる世界に住む神々ではないからと――……。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! もう何がなんだか……!!」

 

「つまり、神々に情報を与えなければ世界は世界として成り立たないと言う事です」

 

「世界こそが力の象徴だ」

 

「ッ?」

 

 

フェザリーヌは再びEpisode DECADEを取り出す。

そこで走る衝撃、フェザリーヌが先ほど見せた生まれたての世界はあのEpisode DECADEと同じ様な本。

 

だがたこ焼き職人アルティメットの世界はページが書かれていない為に消滅した。

そしてEpisode DECADEには今現在全てのページが文字で埋まっている。

本が世界へ、そしてページの文が世界の安定性へ、次々に情報が一同の脳を駆け巡る。

フェザリーヌは、ナルタキは、シャルルは言った筈だ。Episode DECADEは完成したと――!

 

 

「それも――……世界なのか?」

 

「「「!!」」」

 

 

口を開いたのは双護だった。

その言葉に肯定の笑みを向けるフェザリーヌ、同時に彼女は別の質問に答えてやると言った。

それは司達は何をすればいいのかと言う質問、世界を巡っていれば分かるとゼノン達は言っていた。

彼の言葉通りいろいろな事があって司達は変身する為や大切な物を守る為に戦ってきた。

しかしその行動は同時にある事を着実に進めて行ったのだ、それこそが今フェザリーヌが持っている本――いや、世界!!

 

 

「司様達が様々な世界を巡ることで、私達は一つの世界を一から創っていたのです」

 

「それが、この本だ」

 

 

今までの自分達の旅、その真の目的はEpisode DECADEと呼ばれる本を完成させる事だった。

――などと告げられてもいまいちピンと来ないもの事実、その行為に何の意味が? どれだけの重要性が?

完成した事でどんな結果が待っているのだろう? 何故ナルタキ達はEpisode DECADEを完成させたかったのだろうか?

疑問は尽きない。

 

 

「そうですね……それは――」

 

「その前に、一つ」

 

「?」

 

 

フェザリーヌはシャルルの言葉をさえぎって視線を司に向ける。

魔女に見られて怯む司、何だ? そう思っているとふいにフェザリーヌから意外な質問を投げかけられる。

 

 

「そなたは、仮面ライダーが好きだと聞いた」

 

「あ……ああ」

 

「では、その種類を述べてみよ」

 

「え?」

 

 

いきなり何でそんな質問を? これにはシャルルも呆気にとられている様だ。

何か意図があると言うのだろうか? そんな事を考えているとフェザリーヌは先にその可能性を潰してくる。

 

 

「別に他意はない。ただ知っている……見ていた仮面ライダーの種類を言ってくれればいい」

 

 

ファンなら簡単だろう?

挑発的な笑みに司は少しムッとして口を開く。

 

 

「か、簡単だ。クウガ、アギト、龍騎――」

 

 

言われた通りに仮面ライダーの名を告げていく司、そのまま順々に名を告げていき――

 

 

「キバ……あと今回の事でディケイド、ダブル、オーズ、フォーゼ。ウィザードはどうか知らないけど」

 

「ふむ、ならばクウガの前は?」

 

「え?」

 

 

言葉を止める司。クウガの前?

 

 

「クウガの前は――」

 

「………」

 

 

そこでフェザリーヌは笑みを深くする。

ニヤリと、三日月の様に口を歪ませて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クウガの前は……スカルホッパーシリーズだよ」

 

「クククッ!」

 

「な、なんだよ……」

 

「そうだな、アマゾンと言う名に覚えはあるか? 無いならばゼクロスはどうだ?」

 

 

いきなり笑われた事に怯む司。

そして提示された名前、ゼクロス? アマゾン?

 

 

「伝説と呼ばれている1号と言う名前に覚えは?」

 

「ぜ、全部知らない……けど」

 

 

それが世界の限界だ。

そう呟いてフェザリーヌは一冊の本を出現させ、司へと投げ渡す。

それもまたEpisode DECADEと同質の本、つまり世界なのか。司はその本の題名に目を移す。

 

 

『Masked Rider KUUGA』

 

「マスクドライダー……クウガ!?」

 

「観測してみろ、世界を」

 

「………ッ」

 

 

司は言われるがままに本をめくる。そこに書いてあったものは――、まさに世界だった。

彼の前に衝撃と共に広がっていく世界、そこには彼が知っている全てが載っていた。

全て、知る限りの情報が、世界がだ。

 

 

復活、変身、東京、疾走、距離。

青龍、傷心、射手、兄妹、熾烈。

約束、恩師、不審、前兆、装甲。

信条、臨戦、喪失、霊石、笑顔。

暗躍、遊戯、不安、強化、彷徨。

自分、波紋、解明、岐路、運命。

応戦、障害、連携、戦慄、愛憎。

錯綜、接近、変転、強魔、衝動。

抑制、戦場、現実、危機、強敵。

不屈、初夢、決意、空我、そして――

 

 

「雄――」

 

「仮面ライダークウガ、2000年1月30日から2001年1月21日にかけて放送――」

 

「ッ!」

 

 

突如フェザリーヌが口を開いたかと思えば、なにやらクウガについての情報を告げていく。

だが何かがおかしい! 知っている筈なのに知らない。矛盾した言葉かもしれないがその表現がしっくりくる。

そしてそれを感じたのは司だけではなかった、夏美や他数名も違和感に気がついた。

フェザリーヌはクウガの情報を口にしている筈、しかしクウガの情報とは思えない違和感、今魔女は何を言っているんだ?

 

 

「放送はテレビ朝日、主に毎週日曜朝8時から8時30分までが放送時間――」

 

 

モチーフはクワガタ虫。

当時はクウガと言う名前以外にガーディアン、オウジャ、オーティス等が候補としてあげられていた。

 

医療技術や臓器移植の発展、それにともない差別を意識させるイメージから今まで取り上げられてきた改造人間と言う設定を排除。

特撮シリーズにありがちな矛盾点の多くを解消させるリアルな設定は子供向けと言うイメージを壊し多くのファンを生む事に成功する。

しかし逆にリアルな殺人描写は多くのクレームを寄せるなどの物議を醸した。

 

平成シリーズでは唯一映画が作られなかった作品だが製作の話は存在。

"究極を超える究極"と呼ばれるフォームも登場予定だったが――

 

 

「――結局、映画は作られる事は無く担当者は謝罪……と言った所か」

 

「お……お前は何を言っているんだ――ッ?」

 

 

司は怯んだままだったが、今ので理解できたのは翼と双護。

彼らはフェザリーヌの話を聞いている内にこの世界形態の在り方を理解してきた様だ。

少なくとも自分達は『テレビ朝日』と言う名や朝8時に仮面ライダーが放送されていた記憶は無い。

 

しかしフェザリーヌがこの場で意味不明な嘘や作り話をするとも思えなかった。

そして最初の質問、フェザリーヌが上げた名を仮面ライダーファンの司は知らなかったと。

当然それらの名を自分達も聞いたことは無いが、あの魔女の馬鹿にした様な笑み。これらから考えられる事はただ一つ――

 

 

「それは、僕達の世界のクウガじゃなく――」

 

「神なる世界に伝わっているクウガの情報と言う訳か」

 

 

そういう事か!

その言葉で他の何名かも、なんとなくだが分かってきた様だ。

司が手に取ったクウガの本は世界そのもの、そしてフェザリーヌが言った情報は自分達ではなく神なる世界でのクウガ。つまり――

 

 

「神なる世界にも、仮面ライダーは存在している!」

 

「しかも僕達の世界の様にフィクションとして語られているって訳だね」

 

 

流石ですとシャルルは頷く。

神なる世界は司達の世界と良く似ていると言った。

それがまさか仮面ライダーと言う特撮作品まで同じ様に伝わっている物だったとは――

 

ならばと司は考える。

自らの世界が滅ぼされる理由は仮面ライダーと関係している組織だと言った。

そして今までの世界を考えるに、敵は仮面ライダーに登場した種族、そして組織。

 

 

「おいおい、まさか俺達の世界も……怪人に滅ぼされるって事かよ――ッ!」

 

「その通り、お前達がもし試練に参加していなかったら――」

 

 

フィクションだと馬鹿にしていた怪人に殺される。

そして世界も滅ぼされると言う事なのだ。家族も、友達も、知り合いも、皆、皆殺される。

過ごしていた家も、通っていた学校も、全部壊れる。全部無くなる。

 

 

「マジかよ……ッ!」

 

 

ありえないだろ、常識的に考えて!!

などと口にしようとして椿は言葉をのみこむ、今まででどれだけ常識外の事に出会ってきたのだろう?

椿は目の前にいる喋る猫、シャルルを見て苦笑した。常識的に考えて猫は喋らない、二本足で立たないもんだ。

 

 

「そうですね、私を見ていただければ常識の儚さを分かっていただけるかと」

 

「百聞は一見に、と言うものだな」

 

 

うなだれる椿、対してフェザリーヌは上機嫌に笑ってみせた。

シャルル曰く人が失敗するのや落ち込むのを見るのが好きらしい、全く困ったものである。

 

喋らないと思っていた猫が目の前で喋っている。

同時にそれは滅びないと思っていた自分の世界が滅びるかもしれないと言う事でもあった。

もうありえないなんて事はありえない、ならば信じたほうがまだマシと言うもの。

 

 

「もう一度言おう――」

 

 

さらにフェザリーヌは追撃の言葉を放った。

尤も、その言葉はかなり特殊なものだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そなた等が今回の試練に参加しなければ、そなた等の世界は他世界からの侵入者によって滅ぼされていた」

 

「!?!?!?!?!?」

 

「おお、喉の調子が戻ったぞ」

 

 

書斎に現れ、空間に浮かび上がる『文字』。

だがその特徴は色だ。赤い――、なんて赤い文字なんだろう。

呆然とする司達。脳に直接文字が……、"事実"が叩き込まれたみたいだった。

すぐにシャルルが口を開く、これは魔女の囁き。

 

 

「赤き真実でございます」

 

「赤……?」

 

「はい。観劇の魔女は、確定された事――つまり"真実を赤き文字で示す"事が可能なのです」

 

「我が力、"赤き真実"。そなた等は赤を妄信すればいいのだよ。フム」

 

 

何を根拠に信じろと? なんて言えなかった。

先ほどからそんな事ばかりだ。何度否定しようとしても話は進んでいく。決定された事として認識されていく。

だってそれは当たり前のこと。これは真実なのだから。

 

赤で語られる言葉は絶対的な真実。

それがこのメタ世界を象徴する存在だ。

ずっと観測してきた、観測できる魔女が言う真実は何を疑えと?

もちろん赤以外が真実でなかったと言う事もない。赤は確定付け。それを目立たせる装飾にしか過ぎない。

 

魔女は笑う。

馬鹿な人間ほど認めたがらないと。

だから利口は理解しろ、有能は知れ、選ばれた者は悟るのだ。

フェザリーヌはまた笑う。

 

 

「いい加減認めては? 自分たちの世界が滅ぶ真実を」

 

「どのシリーズの敵に滅ぼされる! グロンギか! オルフェノクか!? それとも魔化魍かッ!?」

 

 

つい声を荒げてしまう司、静かな雰囲気ただよう書斎故かその声はより響いて感じた。

無理も無い、自分の世界が滅ぼされる事はもう疑いようの無い事実だろう。

嘘と言う可能性もゼロでは無いがもう疑う事は馬鹿らしい。しかしフェザリーヌは落ち着いた様子で語る。

 

 

「そこはまだ分からない、ナルタキが必死に調査している所だ」

 

「一つ分かる事があれば、その組織を倒す為にはクウガからキバまでの力が確実に必要だったと言う事です」

 

 

どういう事なのか、シャルルは知らないのだろうがフェザリーヌはニヤついている所を見ると確実に何かは知っている。

掴みかかってでも聞きたい所ではあるが司も馬鹿ではない、フェザリーヌとの実力差くらいは一瞬で判断できた。

 

 

「そんな事は無い、私はそなたはおろか真由にさえ勝てぬだろう」

 

「………」

 

 

心を読んでおいてよく言える。

シャルルも今の言葉を聞いてなんとなくだが理解した様だ。早速その事についての補則を始めた。

 

 

「観劇の魔女の強さは複雑な物です。この場にいる誰にも勝てないとも言えるし、逆にこの場にいる全てに勝つ事ができます」

 

「私は観測者だ、観測者が戦う事は無い。ただ『み』るだけ」

 

 

なんだっていい、とにかく今の司では……いや、この場にいる誰でもフェザリーヌには勝てない。

彼女の言葉をただ待つしかないのだ、だが話を聞いている内になんとなく分かってきた。

司達の世界は仮面ライダーシリーズに登場する何らかの敵組織によって滅ぼされる。

だから、それを倒すために仮面ライダーの力を用意する必要があったと言う事か。

それを言うとシャルルは頷いてイエスの意を示す。

 

 

「司様は属性優劣のあるゲームか何かをやった事はありますか?」

 

「水が火に勝つとか、雷が水に勝つとか……そんなんか?」

 

「はい、それと同じくその組織に有利な属性が仮面ライダーと言う訳です」

 

 

ゲームの様な話ではあるが、事実なのだから仕方ない。

効率的にその組織を倒すためには仮面ライダーの力は絶対必須と言う訳だった。

しかもその組織は中々規模が大きく仮面ライダーの力を持ってしても勝てるかどうかは怪しいラインだと言う。

 

 

「おまけに敵組織(むこう)は世界を移動する術を持っています」

 

「!!」

 

 

敵も同じく世界を移動できると? 確かにそれは厄介だ。

いや、だからこそ自分達の世界は滅びるのか、いきなり現れた化け物に世界が滅ぼされる。

今までのことを考えると何もおかしい話ではない。同時にそんな光景がいずれやってくるのかと思うだけでゾッとする。

 

 

「私達は効率的に、かつ容易に世界を移動できるクウガからキバが、そしてそれを可能にする都合(ストーリー)が欲しかった」

 

「世界移動はいろいろ複雑な制約等があってな、"オリジナル"を引っ張る訳にも中々いかないのだ」

 

「それに選ばれたのが僕達ですか……」

 

 

その通り、フェザリーヌは頷く。

だがそう簡単に仮面ライダーは作れない。それは司達もよく分かっている事だ、一体何度死に掛けたのやら。

今まで生き残れたのが奇跡みたいなものだと特に真志は思う。

 

 

「そなた達は逸材だった。仮面ライダーが存在している世界に加えてディケイドまで現れるとは」

 

「ッ! ディケイドはイレギュラーなのか?」

 

「そうだな、まあソコは後で話そう」

 

 

とにかくナルタキ達は早急に仮面ライダーを調達したかった。

しかもそれは一般人をゼロから仮面ライダーにしなければならないと言う物、だからこそナルタキはショック療法のごとく試練を仕掛けたのだ。

絶体絶命の状況、わずかな力、そこから生み出される力を無理やりに覚醒させて仮面ライダーへと変える。

それはまさに被験者にとっては試練そのものだったろう。

 

 

「ちょっ! じゃ、じゃあ今までの試練って仕組まれたものだったのか!?」

 

「そう言う訳では無いさ。コチラはあくまでも何かが起こりそうな世界へそなた等を転送させただけだ」

 

 

もちろんイレギュラーや予期せぬ出来事も多かったと言う。

だが、なんだかんだと司達は順調に試練をクリアしていき仮面ライダーの力を手に入れた。

だから逸材なのだとフェザリーヌは言う。刺激を与えて無理矢理覚醒させるショック療法、彼等はよくやってくれた。

 

 

「そなた達は運が良い。多くのイレギュラーに加え、試練の形態がほぼ完成されていた事もある」

 

「っ」

 

「実験は、何度も行い成功へと導く過程を修正していくものだろう?」

 

 

その言葉にいち早く反応したのは翼だった。

険しい表情でフェザリーヌを睨む様に呼び止める。

ずっと翼が感じてきた違和感、それは先ほどフェザリーヌが言った言葉で解消された。

今彼女が言った言葉、試練の形態が完成されていたと。やはりそうなのか、翼は震える声で絞る様に言い放つ。

 

 

「この試練は……僕達が最初じゃないんですね――ッ!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

複雑そうな表情を浮かべるシャルルと笑みを深めるフェザリーヌ。

やはりそうなのか、翼は少し青ざめた表情で息をはいた。この命を賭けた試練は自分達以外にも巻き込まれている人がいる。

 

 

「アナザーアギトさん……」

 

「そう、奴はそなた等の四つ前の試練者となるグループだった」

 

 

だが彼は一人だった。

聞きたくないが聞いてしまう、そのグループがどうなったのかを。

フェザリーヌは頷くと何度目か分からない不気味な笑みを浮かべた、一瞬それで油断してしまったが彼女は魔女だ。

そんな甘いわけが無い――!

 

 

「アナザーアギトを除く奴らは、そなた等がアギトの試練時に訪れた世界で全滅したのだ」

 

「―――ッッ!!」

 

「ああそうとも。アナザーアギトを除く全員はあの幻想に敗北して死亡した

 

 

死亡した。そのイントネーションを強めて魔女は笑う。

ましてや赤。それは一切の疑いを捨てていい事実であり、唯一の真実。

 

 

「嘘だろ――……? た、助けなかったのかよ!」

 

機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)を登場させるのは極力避けたくてな」

 

 

機械仕掛けの神? その意味を聞くとシャルルがフォローに入る。

"機械仕掛けの神"とは舞台において超人的な力を使い物語を終わらせる。

つまり超展開のご都合主義と言う意味にとらえていい。そしてココでの意味は試練の対象者が変身していない状態で助けにはいる事は良いことでは無いらしい。

だからその時は助ける事ができなかったと言う。

 

 

「でも……い、命がかかってるんだぜ――ッ?」

 

「もちろんナルタキは助けようとした様だ。だがしかし参加者は皆幻想の世界に入る事を望み、助けの手を振り払った」

 

 

アナザーアギトを除いて。

結果彼は一人あの世界に残る事を決めた、もう自分達の様な犠牲者を出さない為に。

そしてフェザリーヌは今四つ前と言った、つまりアナザーアギトが試練を受けてから自分達に至るまでまだ試練は行なわれていたと言う事だ。

ゾッとする、それはつまり。

 

 

「し、試練の重複は……?」

 

「無い」

 

「じゃあ他の人はどうなったんだよッ!?」

 

 

雰囲気に怯んだのか椿もまた表情を歪ませて言い寄る。

他の人はどうなったのか、言い方を変えれば自分達はどうなる可能性があったのか?

 

 

「大きく分けて二つ、リタイアした者と――」

 

「り……リタイア――?」

 

「自分の世界を捨て、別の世界に永住する事を決めた者だ」

 

 

いずれば滅びる宿命と知りながら、その時までを生きると決めた選択。

平和に暮らせるメリットはあるが世界が滅びる時には運命に逆らえず滅び、かつ元の世界には二度と戻れない。

 

 

「あと一つ、死んだ者だ」

 

「!!」

 

 

コチラも強制的に試練に巻き込む以上、助けられるのであれば助けていた。

しかし無理な場合もある、その場合は命を絶やしてもらうしかなかったと。

それを聞いて我夢の表情が曇った、頼る訳ではなかったが気になる点があったからだ。

 

 

「すいません……」

 

「なんだ?」

 

「もし……僕の試練でアキラさんを助けられなかったら――」

 

 

決まっているだろう? フェザリーヌは笑みを浮かべて瞳を閉じる。

そして再び口と目を開けた時、彼女が魔女と呼ばれているもう一つの理由に気がついた。

 

 

「全員、死んでいた"だけ"だとも」

 

 

分かる。この魔女は人を人としてみていないと。

それはそうなのかもしれない、彼女は魔女であり人よりも上位の存在。

自分達からしてみれば虫を見る様な物か、どれだけの数が死のうとも何も感じる事は無いのだろう。

だがフェザリーヌの外見は人その物だ、だからこそ重く圧し掛かる物がある。

 

 

「勘違いされては困る。私も試練には胸を痛めているところだ」

 

 

わざとらしくフェザリーヌはため息一つ。

 

 

「だが試練が無ければ、そなた等は何も抵抗できず組織に殺されていた」

 

 

だから感謝こそされど恨まれる覚えは無いと言う。

その言葉に全員何も言い返せずに沈黙する、確かに彼女の言う事は正しい。

辛く厳しい戦いは多いがおかげで自分達が人を超えた力を手に入れた事は事実、さらにフェザリーヌは言葉を続ける。

 

 

「例えばそう、相原我夢」

 

「は、はい……」

 

「もしそなたが試練に参加していなかった場合、天美アキラと結ばれる可能性はゼロだった」

 

「「!!」」

 

 

さらにそこで奇妙な事が起こる。

世界の色がモノクロに変わり、司達の身体から色彩が失われる。

それだけではない、司達の動きが完全に停止している。

時間が止まった!? それを確認するのは我夢、彼とフェザリーヌとシャルルだけは身体に色がついており動く事も可能である。

どうやら魔女は自分達以外の時間を停止させたらしい。我夢にだけ伝えたい言葉がある様だ。

 

 

「つり橋効果とは違うが、天美アキラは戦いの場で徐々にそなたに心を奪われていった」

 

「……!」

 

「私は自分の気持ちに気づけぬ無垢な乙女の背中も押してあげたぞ?」

 

「そ、それはどういう?」

 

 

天美アキラはお前と恋に落ちる夢を見たことで、徐々にその意識を高めていった。

結果、それがきっかけとなりそなた等は無事に恋仲になれた訳だ。

 

 

「その夢は、こちらが用意したと言ったら?」

 

「……!」

 

「まあ夢を見ずとも遅かれ早かれそなたの試練が終っていれば恋人同士にはなれたろうがな。それはあくまでもこの環境にいたからだ」

 

 

彼等が巻き込まれなければアキラは我夢の気持ちに気がつかず、またアキラも我夢への想いに向き合う事も無く日常は過ぎていく。

その結果、アキラは全く違う男へ惹かれていき我夢もまた他の女性へと。

まあまあ、その前に二人とも滅ぼされて死ぬ事になるのだが。

 

 

「………っ」

 

なんと言って良いか分からずにジッと魔女を見るだけの我夢。

フェザリーヌはそう硬くなるなと笑い、クスクス笑う。

 

 

「申し訳ありません我夢様。魔女は人をからかうのが好きなのです」

 

「お礼がしたくなったらいつでも聞こう」

 

 

そう言って指を鳴らす魔女、すると時間は元に戻る。

 

 

「小野寺翼、空野葵。そなた達が再びめぐり逢えたのも試練があったからこそだろう?」

 

 

そなたもそう思わないか?

そう言って彼女は真志を見る。

 

 

「………」

 

 

誰もが何かしら試練で得るものがあった。

逆にそれは試練でしか得られなかった物なのかもしれない。

失う物と、代償として得た物、それは決して軽いものでは無い。それをどう捉えるか? どう受け止めるか?

 

 

「も、もう一つのヤツは……! ど、どうなんだよ」

 

 

美歩が話を切る様にして別の話題にすりかえる。

もう一つ運がいい要素として多くのイレギュラーが関係していると言った、その意味は?

美歩の問いかけに同じく話題を変えたいと思っていたのか、シャルルがいち早く反応して答える。

 

 

「はい。仮面ライダー電王、及び、ディケイドの介入です」

 

 

電王とディケイド、その言葉に司と良太郎は反応する。

 

 

「それはどういう意味が?」

 

「本来、司様はディケイドでなく電王の紋章に選ばれる筈でした」

 

「そうなのか!?」

 

 

本来特別クラスメンバーに与えられた試練はクウガからキバを生み出す為の物なのだ、そこにディケイドの存在は無い。

だが司は試練の参加者だ、当然彼にも与えられた役割は存在している。それこそが仮面ライダー電王。

司は紋章を与えられないと嘆いていたが、彼にもちゃんと電王の紋章は与えられる筈だったのだ。

 

 

「しかし、その前に良太郎様。つまりオリジナル達が現れると言うイレギュラーが起こりました」

 

 

それは嬉しい誤算。

結果的に良太郎は司達の仲間となり電王の枠が埋まると言う出来事が起きた。

もう気がついていると思うが神なる世界には当然電王も存在している、神々は良太郎を電王として認識しているのだ。

そこに司が並んでもハッキリ言って意味が無い、司と良太郎が並んだ時に電王としての司に価値は無いのだ。

 

 

「だが、その前に一番大きな要因が――」

 

 

それがディケイドライバーと司が出会った事だった。

それは完全に運の成せる出来事だと二人は言う。そもそもの話、ここがネックとなる部分であろう。

もしも司がディケイドにならなければ邪神に勝つ事はできなかった、それは試練を完遂させる事ができなかったと言う意味にも繋がる。

これは果たして純粋な運だったのか、それとも巡りあわせだったのだろうか?

 

 

「どこぞのコソ泥に感謝するんだな」

 

「海東か……」

 

 

始まりは彼とぶつかって荷物がバラバラになった事だ、そしてディケイドライバーも元々は彼が盗んだものだと言う。

どういう経緯で手に入れたのかは知らないが最終的には自分の物になった事は事実。

それが結果として試練の成功を導いたのだと二人は言った。司としてはいろいろ複雑ではある、自分ではなくディケイドの存在が重要だったのだと改めて突きつけられた気分だ。

 

 

「私も驚いた。ディケイドの力は絶大だったよ、いろいろな意味で」

 

 

さて、そう笑いフェザリーヌは手を一度叩く。

 

 

「とにかく、これで分かってもらえただろうか? 質問にもあったがそなた等が選ばれた理由は特別な物はない」

 

 

全てはたまたまだ。彼等が途中で死んでいれば別の人間が集められ、試練を開始するだけ。

ディケイドライバーが今回手に入ったのだから、次からはもっと試練者の生存率もあがるだろうと。

だがまあそうだなと魔女。全く理由が無い訳でもないと言う、特にそれは女性陣。

 

 

「強いて言うのならば、今回は学生を集めようと言うコンセプトだったからか」

 

 

そしてそこから交友関係が穏やかになりそうな者と言う条件を指定する。

 

 

「以前他人同士で集めた時があってな、その時はギスギスしたものだった。結果仲違いが発生して内部分裂だ」

 

 

彼女は何の躊躇いも無くそんな事を言ってみせる。

そのチームが最終的にどうなったのかは、誰もが怖くて聞けなかった。

ただ司達が今ココにいると言う時点でお察しである。

 

 

「あと、数名特殊な者がいたと言う事」

 

 

それを踏まえて男性を選出したナルタキ。

問題はそこからだ、そう言えばと女性陣はその事実に気がついた。

よく考えてみればこの試練の目的はクウガからキバを創る事にあった筈。

だが試練に参加した者は倍の数、つまり女性陣は関係が無かった筈だ。もちろん今はいろいろ支える事ができる立場にはあるが変身可能となった美歩や友里、咲夜は所謂サブライダー止まり。

 

 

「何を基準に女性陣を選んだのか? それは確実に狙った物がある」

 

「な、なんだよ」

 

「簡単だ、最初に適当に選んだ男と関わりが深そうな者である」

 

 

その言葉を聞いて始めて亘の表情が変わった。

今までは冷静に振舞う事ができた彼も、今回は激情せずにはいられない。

彼は叫ぶ。じゃあ、じゃあ何か――ッ!?

 

 

「ボ、ボクのせいで……里奈ちゃんは巻き込まれたのかッ!?」

 

「そうだな、そう言える。女友達がいると言うのは良い事だな」

 

「―――そんな……ッッ!!」

 

 

その言葉に他の男性陣も目の色を変えた。

見るのはペアとされた女性陣。彼女達はただ関わりが深そうと言う理由だけで選ばれたのだ、命を賭ける戦いに。

アキラなんて我夢に対してまだ恋愛感情を抱いていないにも関わらずだ。

 

 

「私は大丈夫、むしろ選ばれて良かったって思ってるから……ね? 亘くん」

 

「里奈ちゃん………」

 

「うむ、微笑ましいものだ」

 

 

女性陣は誰もが巻き込まれたなんて思っていないと男性陣に告げる。

それが分かっていたと言わんばかりに笑みを浮かべ拍手を行なうフェザリーヌ、これこそが狙いの一つだったと言ったものだ。

 

 

「それに意味は大いにある。世界の最小構成人数は2、ましてそれが主人公とヒロインとあれば世界はより大きく力をつけ膨れ上がる。存在をより強く昇華するのだ」

 

「申し訳ありませんが、女性陣は司様達男性陣を覚醒させる為の起爆剤の役割でした。あと一つ、それは後で――」

 

 

しかしまたそれだ、世界を創るだの昇華だのと彼女は言うが具体的な事を司達は理解していない。

Episode DECADEの明確な詳細だ。

 

 

「ディケイドはイレギュラーの筈だ、なのに俺達が作り上げたのはEpisode DECADE、タイトルに思いっきりディケイドがいるぞ」

 

「そう、それこそがディケイドの強大な力がもたらした結果だ」

 

 

このクウガからキバを生み出すという試練には様々な障害が存在していた。

その一つ、存在同士の拒絶である。シャルルはまず司が持っているクウガの世界(ほん)を示した。

また意味深な笑みを浮べて。

 

 

「たとえばアンノウンはオルフェノクがさらなる進化を遂げた形態だとしたら、どうだろう?」

 

「そ! そうなのか!?」

 

「いや適当だ」

 

「お、おい!!」

 

「そう怒るな。だったらネイティブはマスクドライダーシステムを作り出したと同時に、そのプロトタイプとしてファイズギアを作成していたとしたら?」

 

 

アクセルフォームとはクロックアップシステムの始祖とも言える物で、ファイズのフォトンブラッドである赤を尊重してカブトのカラーリングは赤になった。

そしてアクセルフォームを10秒以上維持しない為の安全装置が、実は自分は意図しないながらも変身を解除すると言う命令を脳に送り込むチップで、要は赤い靴のシステムもこのチップを使って作られたとしたら?

そのチップの一つが、時と空間を越えるハイパーゼクターの影響でタイムスリップ。そこにいた神崎士郎がチップとハイパーゼクターを拾い、チップを研究して契約のカードを生成。

ハイパーゼクターを研究して次元を超えるミラーワールドへの進入に成功。さらにハイパーゼクターは再びタイムスリップを開始、近くにあった契約のカードと共にバトルファイト時の時代へ移動、そこあったモノリスが契約のカードを取り込み、解析とアレンジした物がラウズカードとなった。

 

 

「――なんて、事もあったりするかもしれぬ」

 

「あ、あんたの想像なんだろう?」

 

「その通り、全て適当に言った事だ」

 

 

なんてカオスなストーリー。

しかし、もしもそんなストーリーがあったとして、クウガからキバがいたらどうなる?

誰を主役にすればいい? 誰をどこで活躍させればいい? それに交じり合った設定は矛盾無く進むのか?

一つでも歯車が歪にかみ合えば、やがては崩壊の道を辿る。

 

 

「そんな時、ディケイドが!」

 

 

ああ、少しややこしい事言い方をしてしまった。

魔女は今のは忘れてくれと司に微笑む。相変わらず魔女の笑みは不気味さが残っていた。

 

 

 





・フェザリーヌ アウグストゥス アウローラ

原作『うみねこのなく頃に』に登場する魔女。
観劇の魔女の称号を持ち、世界を物語として観測する能力を持つ。

今作ではレギュラーキャラとして関わってきます。
ただ彼女もまた原作とはパラレルを含んだ部分があるので、原作の方を知らなくても問題は無いかなと。

彼女は原作やってた時にあまりにも役割や力が魅力的だったので、登場となりました。
思い切り個人的な好みですが、そこは割り切ってくださると幸いです。

はい、と言うわけでね、ココからは結構作者の好みを押し出した面も出てきます。
その最初がメタ要素ですね。ちょっと毛色が変わる二部ですが、それを含めて楽しんでもらえればなと。

次は月曜か火曜辺りにでもとは思いますが、ちょっと未定。
ではでは。

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