仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第56話 邪悪の破壊

 

「「ハァァア!!」」

 

 

放つ炎弾、切り裂くぬらりひょん。

ならばと烈火剣、ぶつかり合う双方。響鬼が二刀流の分有利かと思われたが、ぬらりひょんの腕には及ばない。

おまけにぬらりひょんは見た目に反して力が強く、掌底をくらえば衝撃で少し動きが止まる程。

 

 

「ク……ッ!」

 

「ふん、まだ鬼を操りきれてはいないか」

 

 

それで勝てるものか! そう叫びながらぬらりひょんは刀を振るう。

火花と血液が飛び散り、しかし響鬼は尚もぬらりひょんを見る。今の自分では確かにぬらりひょんには勝てないか?

だがまだ逆転の可能性は確かに存在する。音撃、それをうまく当てる事ができれば――

 

 

(勝てるッ!)

 

 

チャンスは一度、それはぬらりひょんが接近する事。

つまり止めを刺そうとする時だ! だからあえて響鬼は隙を作る。

掛かって来い、響鬼は音撃鼓に手を掛けてその時を待った。あくまでも冷静に。

 

 

「終わりだッ!」

 

 

予想通り刀を振り上げるぬらりひょん、このタイミングが好機!

響鬼は音撃鼓を素早く取り外すとそのままぬらりひょんに――、しかしそこでぬらりひょんは超反応で響鬼の腕を掴み上げる。

 

 

「!」

 

「狙いはいい、だが遅い――ッ!」

 

 

ギリギリと力を込められ、響鬼は音撃鼓を持ったまま立ち尽くしてしまった。

どれだけ力を込めようとも腕はこれ以上進まない。だがそれも予想の範囲内だ、響鬼はその状態で鬼火を発射する。

これはぬらりひょんも注意を怠っていたか、炎を受けて後退してくれた。今だ! 響鬼は再び音撃鼓を――

 

 

「グアァァァァァアアアアアッ!!」

 

 

だが、ぬらりひょんは後退しながら刀を投げていた。

一直線に刀は響鬼の腕を貫き、音撃鼓を地面に落下させる。

すぐに拾おうと手を伸ばす響鬼、そこへ跳躍したぬらりひょんが。彼は響鬼が伸ばした腕を蹴り上げると胴体に掌底を叩き込んだ。

よろける響鬼にぬらりひょんは追撃の刀を振るう。どんどん距離を離されていく響鬼、最後の切り札が――?

 

 

「………ッ」

 

「ほう……!」

 

 

響鬼の闘志が消える事はない、ぬらりひょんはソレを見てまだ響鬼は何か策があるのだと確信する。

いくら自分が押していると言えど音撃を食らえば一気に逆転される事は想像に難しくない。

鬼の力を把握しきれていないぬらりひょんにとっては十分危険な存在。ならば早々の決着を、響鬼を殺すつもりで彼は刀を振り下ろす!

 

 

「ウガァァアア……ッ! ク――ッッ!」

 

 

響鬼の身体に刻まれる大きな一閃、何とか踏みとどまる響鬼だがダメージは大きい。

さらに刀を振り上げるぬらりひょん。またも強大な斬撃が響鬼の身体をえぐる、赤い血と肉が吹き出て響鬼は一歩後ろに下がった。

そこへさらに刀の投擲、無限に湧き出てくる武器は響鬼の体力と精神をどんどん抉りこんでくる。

響鬼も負けじと鬼火を発動、だが少しダメージを負わせたくらいでぬらりひょんに焦りは無い。

やはり勝つには音撃しかない、それは明白だった。

 

 

「―――ッッ!!」

 

 

響鬼たちが戦う光景を見てアキラは表情を変える。

今まで何度迷って、何度他人に迷惑をかけたのだろうか? そしてどれだけ助けられてきたのか……

今目の前で傷つく彼を助ける為にココに来た。この世界を守りたいとココに来た。なのに自分がやっている事は余計な血を生むだけなのではないか?

このまま迷い続けた先にあるのは何か? ふとそんな事を考えてみる。結果は何も無い、そうでしょう?

皆を守る為に選んだ道を、踏み外してはいけない。それは迷い続ける事なんかじゃない筈。

きっと自分は求めた、逃げたりしないプライドを。

 

 

「うぐぉ――ッッ!!」

 

「………ッ」

 

 

ぬらりひょんが出す苦痛の声、アキラはその方向を反射的に見る。

そこには刀を持つ手から血を流しているぬらりひょんと、手から血を滴らせている響鬼が見えた。

最後の隠し武器、"鬼爪"。手から伸びる爪がぬらりひょんに不意打ちを成功させた。ダメージは小さいが怯んだぬらりひょんに響鬼は蹴りを命中させていく。

彼は全く諦めていない、迷ってはいない。世界を救いたいと願った自分、そして同じ事を思っている彼。

 

 

「アキラさん――……ッッ」

 

「は、はい――っ!」

 

 

響鬼は視線をアキラに向けず、ただ言葉だけを投げかける。

それは誰に言われた言葉なのかは覚えていない。だけど我夢の心の中に確かにあった言葉だった、受け売りだが響鬼はそれをアキラに告げる。

 

 

「生きていく事は、無くす事だけじゃない――ッ!」

 

「!」

 

「らしいですよ……ッ!」

 

 

再び響鬼は音撃棒を構えて走りだす。

その背中をジッと見つめるアキラ、そして彼女は自分の手にある物を見た。

それはディケイドやアギト、鬼太郎が別行動時に取っていたもの。彼らは我夢がそれをアキラに渡せる様にしていたと言う事。

決めるのば自分自身、アキラはそれを言い聞かせる。響鬼は――我夢はもう決断を固めている、進むべき道を持っている。

じゃあ自分はどう? 自分はしっかり決めているの? また迷っているのではないのか?

 

 

(自分の生きる道も決められないのに……人を助ける事ができるの?)

 

 

生きていく事は無くす事だけじゃない。

だけど何もしなかったら無くすだけだ、大切なモノを無くさない為に戦う事もまた一つの道だろう。

 

 

「……!」

 

 

そんな時、一迅の風がアキラの髪を揺らす。

迷いたくないと願った自分、でもそれを吹き飛ばす風が自分には――

 

 

「アキラさん、引かないでくださいね」

 

「え……」

 

 

ぬらりひょんの一撃を受け大きな傷を作る響鬼、彼はディスクアニマルをぬらりひょんに向かわせて少しの時間を作る。

その間にアキラの方へと視線を向けた、アキラは彼が今どんな表情をしているのかは分からない。

だけど、何故か笑っている様な気がして。

 

 

「僕は、やっぱり君に死んでほしくない……!」

 

「――ッ」

 

「君がその選択を選んだとしても、僕は最後までそれを認めたくない――ッ!」

 

 

だってそうだろ?

未練がましくても、ガキ臭いと言われても、綺麗ごとだと言われても――!

 

 

「僕は、君が好きなんだ――……ッ」

 

 

そこでぬらりひょんはディスクアニマルを突破、刀を構えて響鬼に向かってくる。

迎え撃たなくては、響鬼もアキラから視線を反らして最後の言葉を告げる。

 

 

「君と肩を並べて……これからも歩きたいんだ――」

 

「我夢君……」

 

 

小さくつぶやく言葉。

 

 

「私も貴方が――」

 

 

そして世界と皆を守りたい。

なれるだろうか? できるだろうか? それをアキラは小さく口にした。

 

 

「あ……」

 

 

それは別に響鬼に話しかけた訳ではない。

だが響鬼はふいに人指し指と中指を伸ばして敬礼を模したポーズをとる、もちろんアキラに向けて。

司から聞いていた響鬼の決めポーズ、ただなんとなく我夢のイメージとは違ってみてアキラは笑みを浮かべた。

だが彼女の目に宿る輝、それは鬼の光か――

 

 

「我夢君ッ!!」

 

「「!」」

 

 

アキラは今までに無い程声を張り上げる。

そして、その手に持っていた"変身鬼笛・音笛"を展開させた。

 

 

「それは――ッ! まさか!!」

 

 

表情を変えるぬらりひょん。まさか、手に入れていたのか!?

最後の鬼の力を!!

 

 

「私は、もっと皆といたい! もっと貴方といたいッッ!!」

 

「花嫁ッ! 考え直せ!! 世界を殺す気かッ!?」

 

 

焦りの声をあげるぬらりひょん、だがアキラは世界を犠牲にする気はさらさら無いと断言する。

彼女は世界を見殺しにするつもりでこの力を手にした訳じゃない、守る為に選んだのだ。

 

 

「私は戦う――ッ! 皆を守る為に!!」

 

 

アキラは音笛を吹く、使い方は頭の中に入ってきた。

それはゼノン達がしっかり彼女に細工していた証拠である。これは偶然だったのか、それとも必然だったのか。

それは分からないが彼女は確かにこの道を、戦う道を選んだ。

 

 

「変身!」

 

 

――挫けぬ疾風として!

 

 

「!」

 

 

アキラは音笛を持ち、それを振るう。

直後彼女を包む蒼き疾風、小規模の竜巻がアキラを包み姿を隠す。

表情を曇らせるぬらりひょん、鬼の力を簡単に受け入れるコイツらは何者なのだと。そしてこれは間違いなく――

 

 

「ハッ!」

 

 

アキラは手刀で竜巻を切り裂いた。そこにいたのは天美アキラではなく。

 

 

「我夢君、私もこの世界を……皆を守る為に戦います。生きて、鬼として!!」

 

 

三体目、最後の鬼。その名は天鬼(あまき)!!

 

 

「………ッ!」

 

 

ぬらりひょんが怯む。

そして彼の耳に聞こえる新たな音、それは響鬼が音撃棒をクロスさせた時にぶつかり合った物だった。

何をしようと言うのか、ぬらりひょんの全身が震え警告を告げる。この流れは非常にマズイ、完全に鬼の流れではないか!

やはり先ほどの読みどおりまだ何かを隠していたのか――ッ! 感情に反応して力を増加させる鬼の力。

そこに明確な愛、決意、希望が加わったのだ。生まれる力がどれほどのものなのか、想像するだけで脅威だ。

 

 

「何故そこまで――……ッッ」

 

 

響鬼の闘志が燃え上がるのを感じる。

事実彼の身体が赤い煙を噴射した後、深紅の炎に包まれていくではないか。

絶対に不可能だと思っていた花嫁の奪還、なのに彼らはコチラの予想をどれだけ凌駕する、していくのか?

思ってしまうではないか、彼らなら――、邪神に勝てるのではないかと。

 

 

「僕らは約束したんですッ!」【響鬼】

 

 

深紅の炎、その中で響鬼が言い放つ。そして――

 

 

「必ず救うとッッ!!」【紅】

 

「ッ!!」

 

 

炎が弾けとび、姿を現したのは文字通り紅に染まった響鬼。

燃え上がる闘志と、確かな希望は彼に新たな姿を与える。

その名は響鬼・(くれない)。アキラが生の道を選んだ事で我夢の心に生まれた炎、これが響鬼最後の切り札である。

 

 

「く……ッ!」

 

 

なんと紅に変わった途端、響鬼の傷がみるみる回復していくではないか。

響鬼紅の力の一つ、回復能力だ。今までぬらりひょんが与えたダメージは全て無に帰っていく。

彼は音撃棒を構えなおしてゆっくりとぬらりひょんに向かっていく。

 

 

「決着をつけましょう。ぬらりひょんさん」

 

「もちろんだとも――ッ!」

 

 

同じく刀を構えて走りだすぬらりひょん、まずは一本刀を練成して投擲。

怯みこそしたが狙いはまったくぶれず一閃は響鬼を狙う。冷静に考えるぬらりひょん、響鬼は強化されたが今だに音撃鼓は彼の元にはない。

音撃棒だけでは決定力を生み出せない筈だと。

 

 

「ッ!!」

 

 

目を見開くぬらりひょん、何と響鬼は投げた刀を真正面から掴み取ったのだ! 明らかに反応速度が上昇している。

響鬼に捕まれた刀はすぐに炎に包まれて消滅、まぐれかとぬらりひょんは刀を数本投げるが同じく全て掴まれて消滅した。

 

 

「まぐれではないか、ならば!」

 

 

刀で直接切りかかるぬらりひょん、しかし響鬼はしっかりと音撃棒で刀を受け止めていく。

尤もぬらりひょんは妖怪達の頂点に立つ存在、響鬼の攻撃も彼はしっかりと防御していた。

だが鬼は一人だけではない、刀と音撃棒がぶつかり合う中に射撃音が押し入る。

 

 

「チッ!」

 

「我夢君!」

 

「ナイスですアキラさん!」

 

 

トランペットの形を模した音撃管、烈風。

圧縮された空気を三点バーストとして打ち出していく。

天鬼は的確な射撃スキルでぬらりひょんの刀を弾いていった、それでも対等の勝負に持ち込むのはさすが総大将といった所か。

 

だがそれでもやはり隙は生まれる、ぬらりひょんが体勢を崩した所に響鬼の蹴りが炸裂。

すると小規模の爆発が起きてぬらりひょんは大きく怯んだ。紅は攻撃着弾時に小規模の爆発を巻き起こす。

 

 

「今ですアキラさん!」

 

「はい!」

 

 

天鬼は烈風のバルブを操作して射撃モードを切り替える。

圧縮空気弾から赤い鬼石と呼ばれる物を打ち出す状態に、そしてすぐに射撃を行い鬼石をぬらりひょんの身体に数発打ち込んでいった。

 

 

「これは――ッ」

 

「勝利への布石ですよ!」

 

 

響鬼は鬼火を発射、当然ガードを行うぬらりひょんだが威力が先ほどの比ではない。

深紅の炎がぬらりひょんを包み、彼は思わず体制を崩してしまう。

それは油断もあったのかもしれない、音撃鼓が無い以上音撃を打ち込まれる事は無いと思っていた点もあった。

だがそれが甘い事だと彼はすぐに知る。

 

 

「馬鹿なッッ!!」

 

 

怯んだ所に打ち込まれた音撃棒。

それだけならばまだしも、何とその時に生まれた爆発が音撃鼓の形に展開したではないか!

それが紅の最大の特徴だった、それは音撃棒を相手にヒットさせれば音撃を打ち込めると言う反則級の物。

相手を拘束する時間は短いが、非常に強力な能力である。もちろん響鬼もそのチャンスを逃す訳が無く――

 

 

「終わりにしましょう!!」

 

「ぬぅううううう……ッッ!!」

 

 

拘束を外そうとするが時間が無い!

しかも音撃を打ち込もうとしているのは響鬼だけだはなかった。

天鬼はベルトについている音撃鳴、鳴風(なるかぜ)を取り外して空中に投げる。

旋回しながら落ちてくる鳴風を掴むと、彼女はそのまま烈風に装填して展開させた。

鳴風はトランペットのベル部分となり、彼女は同時に息を思い切り吸い込んでいき――

これは、まさか――ッッ! ぬらりひょんの前には同時に構える鬼達。

 

 

「音撃射!」

 

「音撃打!」

 

 

響鬼は音撃棒を思い切り叩きつけ、天鬼は思い切り烈風を吹く!

 

 

「灼熱深紅の型ッッ!!」

 

「疾風一閃!」

 

「ウグゥァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

烈風から放たれる音撃、疾風一閃。

天鬼が先ほど打ち込んだ鬼石が音撃と共鳴して内部から音撃の威力を増加させていく。

さらに打ち込まれていく音撃打灼熱深紅の型、激しい紅蓮の炎と音撃がぬらりひょんの身体に打ち込まれていった。絶大な音撃の共鳴、そして響鬼と天鬼は同時にフィニッシュの一撃を放った。巨大な響鬼の紋章がぬらりひょんに刻まれる!

 

 

「カ――……ッッ」

 

 

両膝を着くぬらりひょん、どうやら勝負は決まった様だ。

彼は刀を落とすと、響鬼達をまっすぐに見る。

 

 

「この勝負は……お前たちの勝ちだ――ッ!」

 

 

だがこれは終わりではない。

それが意味する事はただ一つ、邪神と真っ向からぶつかる事。

 

 

「必ず、倒します」

 

「………」

 

 

頼む、そう一言だけ言い残してぬらりひょんは気絶した。

同時に変身を解除する二人、安心した様にため息をつく我夢。

どうやら身体はしっかりと戻ってきた様だ、しかしアスムとは一体なんだったのかという疑問は残るが。

 

 

「でも、本当に無事でよかった……アキラさん」

 

「我夢君……」

 

 

安心した様に微笑みあう二人、だが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーん、お前らが鬼か」

 

「「!!」」

 

 

声が聞こえて二人はその方向を見る。

すると巨大な穴の向こうに一人の女性が立っていた、派手で現代風のアレンジを加えた着物、美しい茶色の髪と髪飾り。

間違いない、アレは話に聞いていた――

 

 

「ヒトツミか!」

 

「んー正解だよ坊や。始めまして、私はヒトツミ」

 

 

ペコリとお辞儀をしてみせるヒトツミ。

しかしもう既に彼女が普通の妖怪でない事は分かっている、現に今この場にいる事が証明ではないか?

そして彼女が連れてきた妖怪は全てガイアメモリの使用者ではないか。彼女の部下だった瑠璃姫や鏑牙も気絶せずに消滅した点も気になる。

 

 

「お前が邪神を――ッ!」

 

「ううーん、合ってるとも言えないが間違っているとも言えないさね」

 

 

ケラケラ笑うヒトツミ、しかし彼女はふいに下を指差して怪しげな笑みにシフトチェンジする。

下には巨大な穴、そこには邪神がいる筈だ。既に隠す事も無くヒトツミは自らが邪神側と繋がっている事を暴露する。

この世界を滅茶苦茶にしたかったが、もう面倒な事は止めにすると。

 

 

「直接この世界をぶっ潰す。邪神はまだ完全体とは言えないが……ま、いいだろ」

 

「「ッ!」」

 

 

ヒトツミは飛び上がると凹凸の激しい壁にもたれ掛かった。

我夢とアキラ、そして倒れているぬらりひょんを見下しながら彼女は確かにそう言った。

邪神は現在休眠状態だとヒトツミは言う。はるか地下に潜んでおり、今からちょうど24時間後に復活、そして世界を無に変える為に暴れだすと。

 

 

「フフフ! それまでビクビク怯えながら過ごすんだね」

 

 

ニヤつきながら言い放つヒトツミ。

彼女は我夢たちの不安、恐怖、絶望の表情を拝みたかったのだが――

どうやら、我夢達は期待に応えてくれそうに無い様だ。

 

 

「いや――」

 

「あ゛ぁ?」

 

「必ず倒すッ!」

 

「クヒャハハハ! そりゃ威勢がいい! だが邪神はお前たちを絶望に落とし、世界を喰らう!」

 

 

怯え、苦しみ、悲しみ、絶望に塗れて死ね。ヒトツミは挑発の言葉を我夢に向けた。

せっかく二人が安心して再会を喜びあえるタイミングでの死刑宣告、涙浮かべてガタガタ震えてくれると思っていたが――

しかしやはりと言うべきか我夢もアキラもその表情を崩す事は無かった。むしろより強くその輝きを放ち、ヒトツミを睨みつける。

 

 

「僕達にはヒーローがいる! 最後に勝つのは絶望なんかじゃない、希望だ!!」

 

「私達は絶対に負けませんッ!」

 

「クハハハ! 面白い、面白いけどイラつくぜぇ! まとめて絶望に喰われろ――ッ!」

 

 

不愉快そうに顔をゆがませるヒトツミ。

しかしすぐにまた笑みを浮かべて二度程度我夢達に拍手を送る。

せいぜい頑張れと敵ながら軽いエールを送るヒトツミ。そのまま彼女は何ともたれ掛かっていた壁から飛び降り、深い穴の中にダイブした。

 

 

「「!?」」

 

 

何をしようと言うのか、我夢とアキラは穴の中を覗き込む。

当然もうヒトツミの姿は見えない。何の考えもなしに彼女がこの穴に飛び込むとは思えない、きっとワープ系の力を使ったかそんな所だろう。

しかし本当に深い穴だ、できれば休眠状態の邪神を攻撃したかったが難しいか。しばらく二人は穴を見続けていたがもう何も起こらなかった。

ヒトツミが言うには今から24時間後に邪神は目覚めると言う話。ならばすぐに戦いの準備を整えなければ、そんな事を思った時だった。

 

 

「「!!」」

 

 

いきなりの衝撃、大きな揺れが邪神の間を包む。

邪神が反応したのだろうか? 完全に油断していた我夢とアキラ、平衡感覚がぐちゃぐちゃになり――

 

 

「え?」

 

 

アキラの身体がバランスを崩して倒れこむようになる。

しかし問題は倒れる先に地面が無い事、見えるのは深い、深い穴。

我夢とアキラの目が合った。意味をすぐに理解して手を伸ばす我夢、そしてその手を掴もうとするアキラ。

しかしアキラの手は我夢には届かず――

 

 

「アキラさんッッッ!!!」

 

「――――ッッ」

 

 

油断していた! まさかこんな事になるなんて!!

嘘だろ!? 我夢は全身から嫌な汗が吹き出るのを感じていた。

スローモーションになる世界、せっかく彼女を助けられたのにこんなオチってありかよ!!

我夢はもう一度アキラの名前を叫ぶ。しかし手は届かない、アキラはそのまま深い穴の中へと――

 

 

「………ぁ」

 

「………ッ」

 

 

アキラは落ちなかった。

何故? それは簡単な理由だ、彼女を掴んだ者がいたから。それはもちろん我夢ではない、では誰が?

アキラもまた全身から汗を浮かべながらその人を見る。アキラの両手をしっかりと彼女は掴んでいた。

そして彼女もまた、ニッコリと笑みを浮かべてアキラを見ているのだ。

 

 

「大丈夫? アキラちゃん」

 

「里奈……」

 

 

野村里奈は確かにそこにいて、たしかにアキラを掴んでいた。

もちろん彼女は足が悪いため寝転ぶ形でアキラを掴んでいる。それだと普通彼女もアキラの重さで落ちるのだが、さらに里奈を掴む者が。

 

 

「肝心な所で決めるけど、肝心な所でヘタれるよな、お前。ハハハ」

 

「亘……っ」

 

 

ドッガフォームのキバがそこにはいた。

キバットのフォローもあってかアキラはそのまま引き上げられて地面にへたり込んだ。

同時に力なく我夢も座り込む。本気で焦った、でもどうして彼らがココに?

 

 

「壁、破ってきたんだよ」

 

「え? あ、あの分厚い壁を?」

 

 

しかも二枚、だがキバは確かに頷き変身を解除する。

亘はニヤリと笑うと後ろの方を指し示した。視線を移す我夢とアキラ、そこに見えたのは他でもない司や他のクラスメンバー。

助っ人に来てくれた人たち、協力してくれた妖怪達、全ての仲間達だった。全員の力を合わせれば、たとえどんなに厚い壁も超える事ができる。

 

 

「そうだろ? 我夢」

 

「……はは、そうですね」

 

 

亘の手を借りて立ち上がる我夢、アキラもまた亘にお礼を言って里奈に向き合う。

ゴツゴツした地面に倒れこむ様にしたからか、里奈の手からは出血が見えた。

申し訳ないと誤るアキラ、しかし里奈は相変わらず笑みを浮かべて首を振った。

 

 

「ううん、いいの。だって――」

 

 

里奈は笑みを浮かべながらもボロボロと涙をこぼした。

やっとこの手で彼女の手を取る事ができた、やっと彼女に会えた。

里奈は震える声で、でもやっぱり笑顔で言う。

 

 

「友達だから……」

 

「里奈……」

 

 

その言葉を聞いてアキラも優しい笑みを浮かべる。

彼女は頷き、里奈と同じく涙を浮かべてお礼を言った。

 

 

「助けてくれて……ありがとう――」

 

「うん……! おかえりアキラちゃん!」

 

 

笑いあい抱きしめあう二人、それを見て他の女性陣も涙を浮かべてアキラに駆け寄っていく。

その光景を笑みを浮かべて見る我夢と亘、すぐに彼らにも他の男性陣がタックルといってもいいくらいの勢いで駆け寄って来た。

だが先ほどの通りまだ終わりではない、ゼノンとフルーラは穴を覗き込みながらその事を告げた。頷く我夢、彼は先ほどヒトツミに知らされた情報を皆に告げる。

そうと決まれば時間は惜しい、なるべく体力を回復させなければならないからだ。一同は頷くとぬらりひょんを連れて邪神の間を後にする。

全ては次に来るべき戦いに備える為、一同はそのまま妖怪城から一旦離れる事を決めたのだった。

そしてその途中、サトリと鉢合わせである。彼は抱えられているぬらりひょんを見てその表情を複雑に曇らせた。

 

 

「総大将が……負けた――」

 

「すいません、でも邪神は必ず倒します」

 

 

そう告げる我夢、サトリは何も言わずに頷くとそのままぬらりひょんを預かる。

もう邪神との激突は避けられない、彼は一体どんな心情なのだろうか?

だがとにかく邪神を倒す為に今は集中すべきだ、我夢達は学校に戻り治療危惧を使う事を決めるのだった。

 

 

「これがお前の見ていた結末か」

 

「ああ」

 

 

サトリはすれ違い様に鬼太郎と会話を行う。

夜叉、サトリ、白澤、酒呑童子、妖狐、鬼河童、そして鬼太郎。彼こそが最後の七天夜だった。

七天夜は各々の信念でココに来て、戦った。そして最後にその意思を貫き示したのは皮肉にも七天夜の中で唯一反旗を翻した彼であったとは。

 

 

「でも、これからが一番の戦いになる」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーしーんを♪ たおーす♪ ばかなー♪ 奴らかー♪」

 

 

適当にメロディで替え歌を口ずさみながらヒトツミは綺麗な廊下を歩いていた。

邪神が潜む穴に飛び込んだ彼女、しかし我夢の読みどおり彼女はその途中で世界を移動した。結果彼女は今もう別の世界にいる。

鬼に興味が湧いて戻ってみたが、成る程気に入った。同時に全く持って気に入らない。

いつか必ず殺す、ヒトツミはそんな事を思いながら笑みを浮かべスキップを行う。

 

 

「みっともないですよ、フフフ」

 

「フッ、気に入らないが気に入ったとはお前らしい」

 

 

そんな彼女の隣を一組の男女が並んで歩く、ヒトツミは二人に気がつくとケラケラと無邪気に笑って見せた。

さらに三人の前に別の男女が新たに現れたのはすぐの事、ヒトツミは彼らを確認すると手を振って合図を行う。

どうやら彼らは知り合い、仲間の様だ。

 

 

「アチラをご覧ください、ヒトツミと"水無月"の男女にございますぅ!!」

 

 

バスガイドの格好に身を包んだ金髪の少女、彼女はヒトツミ達を手で指し示してソレを隣にいる少年に告げる。

見た目は二人とも高校生か少し上と言った所だろうか? 少年は少女の言葉を無視すると、メガネをかけなおして言葉を放った。

彼の手にはタッチパネル式の少し大きい携帯端末が見える。

 

 

「今回は派手に失敗しましたね。なかなか珍しいものだ――」

 

 

少年はヒトツミの隣にいる男女を見る。

 

 

「そうでしょう? 瑠璃姫、鏑牙」

 

「ええ、そうですね」

 

「フッ、失態を晒してしまったか」

 

 

ヒトツミの隣にいたのは、なんと瑠璃姫と鏑牙だった。

互いに負けて消滅した筈の彼らが何故? 死んだ筈の彼らが何故!? ニヤニヤとヒトツミは二人を見て拍手を行う。

 

 

「しかしイイー演技だったよぉ! 楽しませてもらった」

 

「負けたのは本当だがな」

 

「ええ、あの力は脅威――ッ」

 

 

様子見のつもりが逆に食われる形となった、それは鏑牙も瑠璃姫も想定外の結果。

やはり挑発の効果は大きい、それは結果として侵入者達の実力を見るいい機会となる。

ヒトツミは二人からの報告を聞いて結論を出した。

 

 

「あいつ等、多分アタシらと同じだな」

 

「ええ、おそらく他世界の人間とみて間違いないかと」

 

「どうします? 報告しますか?」

 

 

メガネの少年の言葉にヒトツミは首を振る。

 

 

「いや、まだいい。アレは魔化魍(こっち)だけの秘密な」

 

 

ケラケラ笑うヒトツミ、そう言えばと彼女は瑠璃姫に視線を移す。

鏑牙が死んだと偽って行動していた彼女だが、その途中の会話はヒトツミも全て聞いていた。

椿との会話ももちろん、命令には忠実な彼女だが――

 

 

「んー、瑠璃姫ちゃんの意外な本音が聞けてあたしは満足だよぉ」

 

「?」

 

「鏑牙への仲間意識でござぁます!!」

 

 

金髪のバスガイドは声のトーンを上げてからかう様に瑠璃姫を見る。

どうやら椿を狙った理由は彼女の本音らしい、別にあの時点で瑠璃姫は鏑牙が死んでいない事を知っていたにも関わらず。

 

 

「ええ、そうですね。今回の戦いで私にとって鏑牙が大切な仲間だと言う事を再確認できました」

 

「………」

 

 

嬉しいですか? そう笑って瑠璃姫は鏑牙を見る。

面倒だと視線を反らす鏑牙、どうにも彼女のテンションは掴みづらいものがある。

しかし分かっててか女性陣のテンションはだだ上がりの様。

 

 

「んん! あの瑠璃姫ちゃんが鏑牙ちゃんの為に敵討ちだなんて! あたしに一言言ってくれれば今日のお布団は一緒にしてあげるわよん!」

 

「ご覧ください! アッチのウルフも目覚めるのでございまぁすでぇす!!」

 

「あらあら、まあまあ! フフフどうしましょう!!」

 

「ぐひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 

下品に笑うヒトツミ、低俗な会話だと鏑牙もメガネの少年も首を振る。

ひとしきりヒトツミは下卑た笑いを続けて落ち着いた様だ。まだ笑みは浮かべつつも声のトーンは落として真面目な雰囲気へと変わる。

 

 

「まあ、面白い物は見れた。それにいろいろ分かったし十分やってくれたよ」

 

 

ヒトツミは瑠璃姫と鏑牙の肩をポンポンと叩き、またケラケラ笑う。

どうやら彼女は機嫌がいい様だ、邪神戦の様子を見ないのは気まぐれなのか、それとも勝負の結果が見えているからなのか?

 

 

「ほい、じゃあ瑠璃姫と鏑牙は少しお休み。暦を回そうか」

 

 

そう言うとヒトツミは自分の前にいる二人を指差す。

 

 

「次はお前らに決めたよ。"葉月"の男女! 羅羽屡(らばる)姫狐拿(きこな)!」

 

 

羅羽屡と呼ばれた少年、姫狐拿と呼ばれた少女。

どうやら二人もまたヒトツミ達と同じ仲間、つまり――魔化魍と呼ばれる存在。

 

 

「まっかもーはー♪」

 

 

また歌いだすヒトツミ、鏑牙達と羅羽屡達はヒトツミの後ろに続いていく。

 

 

「しななーいよー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校。

 

 

「あぎらぢゃああああああああああああん゛! おがえりでずぅぅぅう!!」

 

「お゛がえりぃいいいいいいいいいいいいいいいいい゛ ほんどうによがっだよ゛ぉ」

 

「夏美先輩、真由先輩、葵さん……ただいま」

 

「うん、おかえりアキラちゃん。本当に良かったわ……無事で」

 

 

学校に戻ったアキラに夏美と真由が飛び掛っていく、葵も涙を浮かべて彼女の帰りを迎えた。

あれからクロハやイクサ達は一度元の世界に戻り、鬼太郎達は翌日の邪神討伐に向けて体を休めに行った。

博士や助手は自分達の事をあまり話さなかったが、邪神討伐には力を貸してくれるらしい。今は鬼太郎達が用意した旅館に現在彼らは宿泊している。

アキラ達は葵達が用意してくれた食事を取りながら再会を喜び合う。しかしやはりまだ完全に終わってはいないと言う事もあってか、パーティは邪神を倒してからと約束を交わした。

 

 

「それにしても音笛ってどこにあったんだ? お前取りに行ってたんだろ?」

 

 

真志は司達が一時離脱していた時の事を聞いた。

アキラが天鬼に変身する為に必要な音笛、それはやはり妖怪城の中にあった様で。

どうやら鏡治が一度見つけた札が貼ってあった部屋、そこが答えだったらしい。特殊な封印が施されている部屋は一見何もない平坦な部屋に見える。

しかし札をはがしてから入室すると、そこには音笛が封印されている間に繋がるというわけだ。

 

もちろんその札は鍵の役割を果たし、鏡治のように何も得ず終わる。しかしアギトにはトワイライトの力が。

その力で札を剥がし、彼らは封印されている音笛を手に入れたのだった。ともかくアキラが無事の確かめて一同は笑いあう。

しかし明日には邪神との戦いが迫っているのだ。ぬらりひょん達がどう出るのか、そして対邪神の作戦を立てなければ。

 

 

「今日は早めに休んだほうがいいね」

 

 

翼の言葉に一同は頷く。

明日は今まで戦ってきた相手とは違うタイプ、つまり巨大な相手である。

一体どう立ち回るか、それ以前に長期戦になるかもしれない。体調は万全でなければ。

 

 

「そう言えばさ、我夢、アキラ」

 

「「?」」

 

 

しかしそんな時だった、亘が我夢とアキラに提案する。

何でも寝子達が現在宿泊している旅館に二人を泊めてはどうかと言う事。

そこの温泉は心を落ち着けるだけでなく体調を整える効果があると言う。

鬼の力は心身の影響に左右されるものだ、つまりそこの温泉は二人にとって持って来いの物。

 

 

「寝子さん達も誘ってくれてたし、お前らはソッチに泊まれよ」

 

「そ……うですね――。そうしましょうかアキラさん」

 

「はい、わかりました」

 

 

確かに邪神戦に備えて鬼の力はしっかりと管理しておきたい。

強化体の紅にはテンションの状態が関係しているし、一番大切な音撃もある。

我夢もアキラも了解して、そちらの旅館に向かう事にした。幸いゼノン達がリボルギャリーで送ってくれるらしい。

 

 

「じゃあ皆さん、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

「ああ、また明日な」

 

 

明日には世界を左右する戦いが始まると言うのに、別れの挨拶はまるで友達の家から帰る様な軽さである。

しかしそれでいい、変に気を使う様なマネは似合っていないからだ。だから一同はあくまでも普通に別れる、普通にこれからを生きる為に。

 

 

「成る程ね、君達らしいと言う事なのかな?」

 

「まあいいわ、行きましょう! 温泉って素晴らしい物よ!!」

 

 

二人は頷いてゼノンとフルーラ達の後に続く。

そのままリボルギャリーと共に彼らは学校を離れていくのだった。

それを見送る司達。なのだが――

 

 

「「「………」」」

 

 

一部の男性陣の顔がニヤリと歪む。

 

 

「覚えてんだろうなお前ら、コッチは2000円賭けてんだ」

 

「ああ、賭けは俺が勝たせてもらうぜ」

 

 

あ、こいつ等……

 

 

 

 

 

 

「おい、海東ちょっといいか?」

 

 

などと言う間に、司はアジトに帰ろうとしていた海東に声をかける。

と言うのも少し気になる事があったからだ、同じ系統の力を使う彼ならば何か分かるのではとの事で。

 

 

「なにかな?」

 

「実は、こんなカードがライドブッカーの中に入ってた」

 

 

司が海東に見せたのは明らかに他のカードとデザインが違っているもの。

そこにはクウガからキバの紋章達が円形に並び、中心に自らの紋章も見えた。

表面には四角形に並んだ紋章と、FやCの文字も見える。カード名が記載されている部分にはただ『コンプリート』の文字があるだけ。特別な物には違いないのだが、まるで意味が分からない。

 

カードと言う事で一応使ってみたが、なんの効果も無いままに終わってしまった。

しかも先ほどブッカーの中を見たときにたまたま見つけたものなのでいつ追加されたのかも分からない。

恐らくデザイン的に響鬼のカードが使える様になった時、つまり全てのカードが再び使える様になった時なのだろうが。

今までの通りでいけば普通その場合、カードの詳細が頭の中に入ってくる筈だ。それなのにこのカードだけは違っていたと。

 

 

「ふぅん、悪いが僕には全く分からないな。そんなカード見たこともない」

 

「そうか……」

 

「まあ使えるときがくれば分かるだろ。お宝と言う訳でもなさそうだし、興味はないね」

 

 

そう行って海東は踵を返した。

司としても気になるところではあるが、何もできない以上仕方ない。

海東が言う様に使える時になれば分かるだろうと、司もまた学校に戻っていくのだった。

 

 

「しかしまあ驚いたよな、世の中には似てる人間が三人はいるって話だけど」

 

「フッ、確かにね」

 

 

朱雀の言葉にニヤリと笑う海東。

その言葉がどんな意味を含んでいるのかは、彼等のみが知る事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、来たか」

 

「あ、我夢さん。コチラですよ」

 

「どうも、幽子さん、地獄童子さん」

 

 

妖怪横丁から少し離れた所にある旅館、通称妖怪温泉と呼ばれる場所に我夢達はやってきた。

それなりに評判のいい旅館らしく一般の客も事情を知らずに訪れる事が多い様だ。

我夢とアキラはロビーで幽子達と合流、童子が部屋に荷物を持っていくからお風呂に入ってくればいいと言う。

特に重い荷物も無いので二人は地獄童子達に甘える事にする。

 

なんでも気を使ってくれたのか、今は風呂を貸切状態にしてあるらしい。

我夢達はお礼を言うと早速名物の露天風呂に向かうのだった。

 

 

「………」

 

 

旅館のロビーでは同じく泊まっている博士がアイスコーヒーを飲んでいる所だった。

彼は我夢に声を掛け様かとも思ったが、それを喉で飲み込む。まさか他世界と言う物が本当に存在していたとは思わなかった。

なんとなくあるんじゃないかと言う漠然とした想いがこうもハッキリと固まるとは。そしてコレはその数多ある世界のうちの可能性が一つに過ぎない。

そして今この世界は滅びの未来と背中合わせにある。今こうして自分がコーヒーを飲んでいる中で、一体どれだけの世界が滅びそうになっているか、滅びたのか。

 

 

「………」

 

 

随分と興味をそそられる。だから、呑まれたのか。

彼は我夢から視線を外すと、アイスコーヒーをまた一口含む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ」

 

 

アキラと別れて脱衣所についた我夢、周りを見るが本当に誰もいない。

こういう場所には何度か行った事があるが新鮮で思わずテンションが上がると言うものだ。

まあ一応と言う事でタオルを巻いて我夢は早速露天風呂に向かった。

 

 

「すごいな……」

 

 

確かに人気の温泉と言うだけはあるか。

露天風呂なのだが何より広い、ますますテンションが上がると言うもの。

お湯はにごっており、温度は丁度良い感じである。目を閉じる我夢、誰もいないと言う事もあってか本当に静かだ。

成る程、これなら精神を落ち着けるのにはピッタリ――

 

 

「やあ、先に入ってるよ」

 

「ぶっ! ――っておわぁ!!」

 

 

ダバーン! 巨大な飛沫が巻き上がる。

鼻にお湯が入ったのか咳き込みながら顔を上げる我夢と足を伸ばしてプカプカ浮いているゼノン。

タオルを腰に巻いているのはマナー的によろしくないのだろうが、彼はそんな状態でお湯にいた。

 

 

「いけないよ響鬼、温泉ではしゃぎまわるのはね」

 

「ブハッ! そ、そうですね……ッ! ゲホッ! て、ていうかいたんですか……!」

 

 

もちろん。彼はそう言って我夢の周りをプカプカと移動していく。

せっかくココまで来たんだから入るのが礼儀と言うものだろう? そう言いながら笑みを浮かべるゼノン。

同時にタオルは腰に巻いておいた方がいいと告げた。目を丸くする我夢、タオル?

 

 

「? ……まあ、はあ」

 

 

言われた通りにして我夢は近くに腰掛ける。

落ち着けるのかは別として本当に気持ちがいい、学校の風呂もまあまあ広いがこんなに広いお風呂に入ったのは初めてだ。

体中の疲れやダルさ、重さが消えていく様な気がする。

 

 

「どうだい響鬼、勝てそうかい?」

 

「邪神にですか? もちろん、必ず勝ちますよ」

 

 

それは良いお返事だ。

ゼノンは満足そうに笑うと身体を起こして同じく近くの岩にもたれ掛かる。

こうしてみると本当に普通の子供に見えるのだが、やはり気になるのはその髪や目の色。

髪はセルリアンブルー、瞳は深い青、我夢の世界では近い物をカツラ等を使って再現する事はできるが自前でこの髪を持っている人はいないだろう。

 

 

「ゼノンくん達は、どんな世界から来たんですか?」

 

「ボクかい? ボクの世界はね――」

 

 

そう言うとゼノンはおもむろに立ち上がる。

勢いが強かったか、水しぶきと水面を大きく揺らす衝撃。

 

 

「襲い掛かる数々の試練!」

 

 

そしてゼノンは声高らかに走りだして、近くの岩に飛び乗った。

跳ね上がるテンションに我夢も唖然である、しかしゼノンは気にする事無く演劇の様なしゃべり方を続ける。

 

 

「迫る多くの敵ッ!」

 

 

最後にゼノンはクルクル回りながら温泉に飛び込む。

頭までつかりきった彼はそのまますぐに立ち上がポーズを決める!

お湯で髪が垂れ下がりきっているが、彼は気にする事無く台詞を紡いでいく。

 

 

「しかしその先には大きな宝物が!!」

 

「は、はあ……」

 

「そんな冒険とスリル、愛に満ちた世界なのさ」

 

 

正直全く意味が分からなかったがとにかく凄い世界なのだろう。

我夢は思わず拍手をしてゼノンを見る。あと気になるのはフルーラとはどうやって知り合ったのかだろう、我夢はそれを聞こうと口を――

 

 

「わぁ! 凄いわ!! なんて大きなお風呂なの!?」

 

「へ?」

 

 

それを聞こうとしたとき、湯気の向こうに一つのシルエットが見えた。

聞き覚えのある声、というか今彼女の事を思っていたところだ。

ちょ、ちょっと待て、我夢の全身から汗が吹き出る。湯気の向こうからもう一つの影が見えたじゃないか。

思い出す、ゼノンは腰にタオルを巻いておいた方がいいと。間違いない、間違いないのなら――

間違いないんでしょうね、我夢は目の前におこる飛沫を感じて表情を引きつらせた。まず見えたのは赤い髪、美しい赤い。

 

 

「フルーラちゃん、あんまりはしゃぐと転んでし………ま――」

 

「――――………」

 

 

沈黙、ちんもく、ど沈黙である。

温かい温泉で我夢は南極、いや北極にいる気分である。

もうお湯が熱いんだか冷たいんだか分からない程に身体と精神がおかしくなっていた。

あれ? ってか何しにココにきたんだっけ?

 

 

「我夢、君は運がいいね。今回の頑張りを称えて特別にフルーラとの混浴を許すよ、ハハハ!」

 

「―――」

 

「まあ他のヤツだったら蜂の巣に加えて目ぇ抉り出してブチ殺しておく所なんだけど、君にはもうお相手がいる……って聞いているのかい?」

 

「こ、こここ………んく」

 

「こんにゃく?」

 

 

いや、違う。っていうかでもそういう事ですよね。

だって今ゼノン君そう言いましたモンね、我夢は引きつった笑みを浮かべてゆっくり後ろに下がっていく。

目の前には真っ赤になっている――

 

 

「ああ混浴ね。そうだよ、ココは今の時間混浴なんだ」

 

「きゃああああああああああああああ!!」

 

「!!」

 

 

アキラはパニックになりながら後ろを向いてしゃがみ込む。

なんとかタオルは前に持っていた為に我夢視点は何も見えなかったのだが。

急に後ろを向いたために我夢はアキラの何もまとっていない後ろ姿をマジマジと見てしまう事に。

 

 

「ぶっ!!」

 

 

我夢も我夢とて後ろを向けばいいだけなのに、ココでヘタレスキル発動である。

彼も一応は男、しかも中学生、アキラの姿を一度見てしまうとそのままフリーズ。

なんて綺麗な背中なんだ……! なんて思ったり。アキラはそのまま顔を真っ赤にさせて我夢に謝ると温泉を出て行こうとするが。しかし――

 

 

「あら、アキラは我夢と一緒は嫌なの?」

 

「これは意外だね、てっきり受け入れていると思ったんだけど」

 

「べ、別に嫌って訳じゃ……!」

 

 

むしろ嬉しい事ではあるが、手放しで喜べない状況である。

一方でじゃあいいじゃないと、フルーラはそう言ってアキラの手を引く。

そう、嫌じゃない、しかしそれとコレとは別ではないか!? アキラも必死に告げるが、もう遅かった。

フルーラはアキラを連れてゼノンと我夢の隣までやってくる。

 

 

「あ、ああああき! アキラさん……ッ!」

 

「が、我夢くん……!」

 

 

お湯が白く濁っている為に入ってしまえば何も見えないが、それとこれとは根本的問題が違うと言うもの。そもそもそれでも肩部分は大きく露出しているし、お湯に濡れた髪や肩をどうしても意識してしまう。

互いに背中合わせとなり動くに動けなくなった二人、しかしそんな気もしらずゼノンとフルーラは互いにラッコが如くプカプカとお湯の上を漂っている。

何してるんだこの人達は、我夢は引きつった笑みを浮かべながらも背中に感じる彼女を意識していた。どうしても緊張して何を話していいのか――

 

 

「今、どんな気分かしら我夢、アキラ」

 

「どんなって――」

 

 

後ろを同時に見る我夢とアキラ、しかし目があった瞬間再び顔を反らしてしまう。

そんな二人を見てケラケラ笑うゼノン達、しかし彼は言う。その気恥ずかしさは生きているからこそ味わえる感情なのだと。いやひょっとしたら少年の内だけかもしれない。大人になってしまえば胸の高鳴りも達観した感情に呑まれて消えてしまう。

つまりは今ココにいるからこそ感じられる想いなのだと。それは死んでしまえば味わえない、当然ながら。

 

 

「………ぁ」

 

「君は生き残ったんだ、天鬼。そして君達の恋は成就した筈だ」

 

「それは、喜ぶべき事だわ」

 

 

子供の恋愛と言えば終わる。だが二人にとってはそれが全てだ。

恋が愛に変わり、永遠の物になる。その幸福をかみ締めるんだね、そう言ってゼノンとフルーラは静かな笑みを浮かべた。何かいつもと違う雰囲気の二人に我夢達も唖然としてしまう。

しかしそう言われてみると思い出すのはぬらりひょん戦で言った――

 

 

『僕は、貴女が好きです』

 

「………」

 

 

我ながらなんて大胆なもの。

恋をすれば人は変わるというが、その燃える情熱が少し下がると一気に恥ずかしさと青さが突きつけられる。

しかし現に今アキラはココにいる、彼女の気持ちが……答えが知りたいと思うのは当然だろう。

自分はきっと友達より上の関係を望んでいた筈だ、でも怖かった、だから逃げていた。

しかし今はもうハッきりと分かる、自分はアキラを愛していると。

 

 

「「………」」

 

 

そのまましばらく沈黙する我夢とアキラ、しかしそれは気まずさから来るものではない。

しっかりと自分の後ろにアキラが、我夢がいると言うことを感じていたのだ。

だが彼らは今入浴中な訳で――

 

 

「ぜ、ぜぇのぉん~」

 

「あはは、のぼせちゃったかな? 天鬼、悪いけれどフルーラを頼めるかい?」

 

 

顔を真っ赤にして目を回しているフルーラ、やっぱり子供っぽい所もあるのか。

アキラはそれを了解すると、フルーラを連れて先に出る事を我夢に告げる。

明日の事もある、今日はもう休んだほうがいいと我夢達は決めた。

 

 

「じゃあ、おやすみなさい我夢君」

 

「は、はい……ッ!」

 

 

背中越しにアキラの声を聞いて、我夢は安心した様にため息をついた。

ホッとした様な残念な様な。やっと開放された事は確かだが複雑ではある。

とにかく自分ものぼせそうだ、我夢は温泉の端に腰掛けるように座った。ゼノンはと言うと彼もまた大きな岩の上に座って月を見上げている。

フルーラと常に一緒にいる彼が一人になると言うのも珍しい、青い髪を風に揺らして彼はニヤリと笑っていた。

気がつけばいつも彼らは笑みを浮かべている。それはまるで――、仮面の様に。

 

 

「響鬼……いや、我夢」

 

「?」

 

「愛を成就させた気分はどうだい?」

 

 

困ったように笑みを浮かべる我夢。

確かにアキラは助け出せたがそこがいまひとつな問題である。

まだ彼女からは答えをもらっていない、まあ今も一緒にいる事が答えなのかと言われればそうだろうか?

彼女と自分は、愛を成就させたのだろうか? メールの事があるしネガティブとまではいかないが、それでもまだ不安ではある。

 

 

「じゃあ言い方を変えよう。もし叶ったとして、君は嬉しいかい?」

 

「それは……当然ですよ。好きな人に好きって言ってもらえるんですからね」

 

 

きっと大丈夫さ、ゼノンはそう笑う。

むしろココまで来て断られるなんて狂った脚本だと彼は言った。

 

 

「君は今、どんな気持ちなんだろうね?」

 

「あはは……どうでしょうね」

 

 

さて、もうそろそろ自分も出なければ。

我夢は最後にもう一度ゼノンにお礼を言う、今まで協力してくれたからこそアキラを助ける事ができた。

そして同時に明日も協力してくれないかと頭を下げる。

 

 

「いいとも、ダブルの力。今は君達の為に――」

 

「ありがとうございます。ゼノンくん」

 

 

そう言って我夢は風呂を後にする。

最後に残されたゼノン、彼はしばらく月を見上げながら笑みを浮かべていた。

 

 

「――――」

 

 

そしてフッと笑みを消して岩から落ちる様にしてお湯の中に。

再び全身の力をぬいてゼノンは浮かんでくる、視界に入るのは美しい月に満天の星空。

夜か、そう言えば……あの日も――

 

 

(星……月、それは夜――)

 

 

相原我夢と天美アキラはきっと結ばれる?

そうすれば彼らの思いは成就されて報われる。

愛する事の苦悩、苦しみ、地獄の檻を破壊して開放されるのだ。

 

きっとそれはとても素晴らしくて、暖かくて、気持ちのいいものなんだろうね。

愛は罪、愛は苦しみ、愛は悲しみ、愛は地獄。そして愛は希望に変わり、喜びに変わり、快楽、幸福、天国の様な甘い存在となりえる。

許されるのは成就させた者達、運命の祝福を受けた者達だけだ。

 

 

「………」

 

 

ゼノンは起き上がると、思い切り顔を振ってお湯に頭を入れる。

呼吸が止まり、脳まで温度が伝わるのではないかとの錯覚が彼を包んだ。

そしてゆっくりと頭を上げて息を吸う、水面に揺らめく自身の顔――

 

 

「相原我夢……ボクは――」

 

 

ゼノンはもう一度そこで笑みを浮かべた。

だが直ぐに思い切り水面を叩く、飛び散るお湯と歪な笑みに変わる彼の表情。

激しく揺らめく水面を見てゼノンはソッと口にする。

 

 

「君が羨ましい」

 

 

だってそうだろ?

彼らは愛と言う苦しみを乗り越えて本当の愛を手に入れる事ができたんだから。

それは決して偽りなんかじゃない、正真正銘の愛だ。離れあっていても、そこにいなくても繋がる心。

満たされているんだろうね、だってそこには愛があるんだもの。一人じゃないんだものね。

 

 

「いつか――きっと……ボクも――」

 

 

それを。

 

 

「ああ……愛しているよ――」

 

 

ゼノンはまたミュージカルの様に声色を変えて空に手を伸ばす。

誰も見ていない演劇に意味はあるのか? そして月に伸ばす手、だって彼女はもう手の届かない存在になってしまった。

行ってしまったんだから、それは仕方ない事。いつかまた会えるだろうか? いつかまたその笑顔をこの瞳に映す事ができるだろうか?

狂いそうだ、今すぐ君に会いたい。それはきっと君も? でもボク達は信じているから大丈夫、また会えると――

 

 

 

 

違う、お前じゃない。

 

 

「君を、ずっと……誰よりも、何よりも愛している――ッ!」

 

 

違うんだけど、愛を誓おう。

世界が滅んだとしても、全てを失ったとしても。

 

 

「あぁ……!」

 

 

でも、そこでゼノンはフッと笑う。

 

 

「君の名前……何だっけ?」

 

 

何でお前が出て来るんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、長い一日だった……」

 

 

地獄童子が教えてくれた部屋に入る我夢、既に布団は敷いてある様で部屋は真っ暗だ。

しかし月明かりが差し込んでいる為、そこそこ明るいと言えばそうなる。いろいろあったがとにかく今は眠るのが先か。

我夢はそう思い眠る事を決めた、月の明かりがあるので電気はつけずに布団へと向かう我夢。

そしてそのまま布団に入って――

 

 

「……え?」

 

「え?」

 

 

目が合って――

 

 

「「………」」

 

 

はぁ、そういう事か。

 

 

「どわあああ――ッッ!!」

 

「が、我夢く――」

 

 

もうここまで来ると瞬間的に察する二人。

はい、そういう事ですよね。部屋も一緒って事ですか。そうですか。

我夢とアキラ、流石に慣れたのか軽く赤面しつつも冷静に対処しようと試みる。

ご丁寧に部屋には一つしか布団がなく、かつ旅館の人に電話しようにも時間が微妙な所だったし、人気の旅館、同じ部屋が気まずいから変えて欲しいというのもどうなのか。そして少し悩んだ結果――

 

 

「あ、アキラさんは布団つかってください」

 

「え……でもそれじゃあ我夢くんは――」

 

「僕はそこら辺で寝ますから。ね?」

 

 

そもそも普段だって同じ学校で生活しているのだから今さらだ。

とはいえこの世界、少し夜は冷えるもの。アキラは我夢の性格をよく知っている、きっと自分が代わると言っても聞かないだろう。

沈黙するアキラ、気のせいだろうか? 何だか顔が凄く赤くなって――

 

 

「――ませんか?」

 

「え?」

 

「い、一緒に……」

 

 

もにょもにょと。

 

 

「一緒に……寝ませんか?」

 

「―――――」

 

 

引きつった笑みを浮かべて同じく真っ赤になる我夢。

これは全く予想だにしていなかった、まさか彼女がこんな事を言ってくるなんて。

どうする我夢、断るのは失礼か? 据え膳なんとかなのかこれは?

いやいや落ち着け落ち着け、そんな馬鹿な事があるか。そもそもハイ喜んでと言うものがっつくイメージができてしまう。

 

だいたいアキラにはそんな気は無い筈だ。

きっと自分の事を思って言ってくれたに違いない。

そんな彼女の行為をこんな下心丸出しで受け止めていいものなのか? 落ち着け、冷静になれと我夢は自分を律し様と――

 

 

「が、我夢君……」

 

「………」

 

 

目をギュッと瞑って布団を持ち上げるアキラ、そこで彼女の声が少し小さくなる。

狭い布団でスペースを空けようと彼女は少し右に寄った。

そして空いた部分を手で指し示す。

 

 

「ど、どうぞ――」

 

「………」

 

 

まずい、これはマズイ。

非常に、鮮明に、革新的にマズイ。

やばい、いろいろな意味で危険と言ってもいい。

 

ふと気がついた時には我夢はアキラの隣にいた。

それしか選択肢が無かったといえばそうなんだが……。

もう一度言うがヤバイ、それはヤバイ、とにかくヤバイ。どれくらいかっていうと一度言うって言ってるのに三回言ったくらい。

 

 

「―――ッ」

 

「っ!」

 

 

ちらりと隣を見る我夢、そこには同じく自分を見ているアキラが。

二人はまた反射的に身体をひねって背中合わせとなる。しかし温泉の時とは違って完全に背中と背中が密着しているではないか。

背中を通してぬくもりや振るえが直接伝わってくる。あと何故かめちゃくちゃいい匂いがする、めちゃくちゃです。

ハッきり言いましょうか、これで眠れる訳が無い――ッ! そもそもココに来たのは心を落ち着ける為ではなかったのか。

これじゃあ間逆の効果だ、我夢はやはり布団から出ようとアキラに説明する。自分だけならまだしも彼女の睡眠時間を奪う訳にはいかない。

明日は世界の命運をかける戦いなんだぞ、何をしているんだと言う気持ちにもなってしまう。

 

 

「あ……あの――ッ」

 

「え?」

 

「わ、私なら大丈夫ですから……! そ、そうだ……! お話しましょうよ――!」

 

 

何故かアキラは残念そうに表情を曇らせた。我夢もやはり断る事はできず、再び布団の中に。

その際にアキラの身体に思い切り触れてしまう。自分でも訳の分からない声をあげて謝る我夢、しかしアキラは大丈夫と笑うだけだった。

何だコレ、何なんだよこの不安定な時間は――……!

 

 

「そうですね、眠れるまでお話しましょうか」

 

「は、はい……」

 

 

今は背中合わせでなく、二人とも揃って天井を見ている。夜は冷えるはずだったのに今現在は死ぬほど熱い。

もちろん嫌な熱さではないのだが、熱さで浮かべる汗ではない汗を感じる。

 

 

「それにしても無事でよかったです」

 

「は、はい……! 皆に心配させて、本当にごめんなさい」

 

「いや、いいんですよ。もう」

 

 

そんな会話から始まる。

しばらくは緊張からかそうやって他愛も無い感じで会話を続けていたのだが、ある程度時間がたつと次第に二人に笑みや冗談が混ざるようになってくる。

もちろん最初の緊張もなんのその、とは行かないが。

 

 

「だけど……あはは、あの時は本気で傷ついたんですよ」

 

「も、申し訳ないです」

 

 

そんな会話に。あの時とは我夢が始めてアキラに告白した時の事だ。

鬼天狗の言葉に惑ったアキラは結果的に我夢を拒絶すると言う方法を選んだ。

あの時は酷い事を言ってしまった事に加え手まで出してしまう始末。アキラは本当に申し訳ないと涙を浮かべる。

 

 

「あ! でももういいんですよ! 僕も全然大丈夫ですから――ッ!」

 

 

とは言ったものの、人間傷ついた時の事は鮮明に覚えているものである。

言葉をぶつけられた我夢は当然とし、言葉をぶつけたアキラもあの時の言葉は覚えていた様で。

 

 

『少しの感謝があるからって勘違いしないでください! 我夢くんなんて私の好みでもなんでもないんです!』

 

 

だとか何とかいろいろ言ってしまったものだ。

アキラは申し訳なくなってしきりに謝罪の言葉を繰り返す。

しかもいくら状況が状況とはいえ、我夢に一方的に言放った後頬を叩いた事も。

 

 

「大丈夫ですか……? 本当にごめんなさい――」

 

「ッッッ!!」

 

 

アキラは申し訳なさか、我夢の方へ身体を向けると手で我夢の頬に触れる。

上目遣いに潤んだ瞳、月明かりが照らす彼女は本当に綺麗だった。

なんて思ってる場合じゃない。事は重大だ、我夢はもう何がなんだか分からなくなってきた。

 

 

「い……いいんですよ。アキラさん、気にしないで――ください」

 

「ごめんなさい……だけど――あの時の事は全部嘘ですから……ッ!」

 

「?」

 

 

いろいろ言ってしまったから、その否定がしたいと彼女は告げた。

どういう事だ? 我夢はその意味がいまいち理解できずに沈黙してしまう。

そうこうしている間にアキラは我夢に少し近づいた、ますます近くなる距離に我夢は混乱するばかり。

 

 

「我夢君は……その――とっても……魅力的ですっ!」

 

「……ッ」

 

「でも、女の子みたいなのは本当ですけどね。フフフ!」

 

 

意地悪に笑ってみるアキラ。

しかし残念、相原我夢少年はここで暴走である。

 

 

「―――ぁ」

 

「………ッ」

 

 

呆気に取られるアキラ、先ほどまで人形の様に動かなかった我夢さんがココで発進。

気がつけばアキラは我夢の腕の中にスッポリと納まっている。つまり、相原我夢は天美アキラを抱きしめているのだ。

何だ当然!? 顔を赤くするアキラ、我夢を見てみると彼もまた同じ様で。

 

 

「あ、あの……アキラさん……?」

 

「は、はい……」

 

「一応、僕も男なんですよ――」

 

「は、はい」

 

 

だからこの状況がどれだけ危険なのか、我夢はアキラにそう説いた。

二人の心臓の音が聞こえてくるんじゃないかと思うくらい距離が近い。

というか密着している。パジャマとパジャマが触れ合い、つたわる感触。

想像以上に柔らかいアキラにますます我夢の思考が熱暴走していく。

 

 

「しかも……その――ッ、何度も言いますけど、僕は君が好きなんです」

 

「あ……はい」

 

「だから、あんまりアキラさんが無防備だと困るっていうか」

 

 

そこで我に返る我夢。

まずい、やりすぎた。赤面から真っ青に変わる我夢の表情。

感情にまかせて暴走してしまった、我夢はすぐにアキラに謝って布団を出ようと考えたが――

 

 

「私も……です」

 

「え?」

 

 

腕の中にいるアキラ、小さな声だが確かにそう言った。

アキラは顔をあげてもう一度言葉を放つ。月明かりが照らす彼女は、小さく微笑んで。

 

 

「私も、貴方が好きです」

 

「………ッ!」

 

「今まで一緒にいるのが当たり前で気がつかなかったけど……我夢君の事を男の子として意識したら――」

 

 

だから、とアキラは自らも手を我夢にまわして抱きしめる。

それは同時に彼の気持ちに応える事だった。長い時間だった、自分の気持ちを理解してそれを伝えるだけだと思っていたのに。

 

 

「ずっと……貴方と一緒にいたいです……」

 

「僕も、僕も貴女とずっと一緒にいたいッ!」

 

 

今、想いは成就される。

抱きしめあう二人だが愛しさが爆発しそうだ。

もう少しで目の前にいる想い人を失う所だったのだから。

 

 

「「………っ」」

 

 

ふと我夢とアキラの目が合う。

恥ずかしくて反らしてしまいそうだったが、月に照らされた瞳は宝石の様で吸い込まれそうになる。

だから二人は目を反らさなかった、顔を背けなかった。相変わらず心臓の鼓動は凄いものだったが何故か二人は落ち着いている。

 

 

「アキラ……さん。その――逃げるなら……い、今の内に――」

 

「え?」

 

 

我夢はそう言って抱きしめる力を弱めた。

相変わらず視線は反らさずに、彼は言う。アキラもアキラで少し考えたが、意味を理解するとより抱きしめる力を強める。

それは答え、アキラはゆっくりと頷いた。

 

 

「いい……ですよ」

 

「意味、分かってます?」

 

「――もちろん」

 

 

そこでアキラは強い眼差しで我夢を見る。

そしてしっかりと自分の想いを彼に告げた、我夢を、響鬼を、バースを、そして――

 

 

「アスム君、貴方を全部愛しています」

 

「っ! 知ってたん……ですか?」

 

「ゼノン君から聞きました。でも皆には内緒って」

 

「………」

 

 

若干の沈黙、そして我夢が意を決した様に動いた。

自分から言っておいて躊躇しているのか、ゆっくりと彼はアキラへ顔を寄せる。

アキラの瞳に月が見える、そこへ吸い寄せられるように。

 

 

「――ッ」

 

 

もう少しで触れそうになると言う所でアキラが目を閉じる。

我夢も反射的に目を閉じて、そのまま彼女に触れ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、カチリと音が聞こえた。

 

 

「「!!」」

 

 

その勢いで我夢とアキラの顔が少し離れる。

初めてだからやり方なんて見よう見まねだった、それに自分でも慣れない事を……と実感が。

だからなのか二人の歯がぶつかってしまった様だ。きょとんとする我夢とアキラ、呆気にとられたまま二人はしばらく固まって――

 

 

「「プッ!」」

 

 

同時に吹き出してしまう。

なんと間抜けな姿だったんだろう。

雰囲気は完全に崩れてしまったが二人はそのまましばらく静かに笑いあう。

だがふとした瞬間にアキラの目から涙がこぼれた。どうしたのかを問いかける我夢、アキラの肩は震えているじゃないか。

 

 

「いえ……ただ、嬉しくて――」

 

「え?」

 

 

その感情は、生きているからこそ知れるもの。死と隣合わせになった彼女だからこそ恐怖が増大する。

生きている事の実感、もう少しで死んでいたことへの恐怖。抑えようとしても体が震えてしまう。

我夢はその様子を見て、もう一度彼女を抱きしめる。

 

 

「あ……」

 

「ふ、震え……止まりましたか?」

 

 

慣れてない様だ、当然だろう。抱きしめて慰めるなんて初めてやったぞ。

ただ必死に自分を落ち着かせようと笑みを浮かべる我夢を見て、アキラは優しさを理解したようだ。

彼女もまた、つられて笑みを浮かべる。

 

 

「た、ただ」

 

 

だからか?

彼女も少し調子に乗ってしまう。

 

 

「?」

 

「あの。も、もっと強く…だ、抱きしめてくれたら……とま…る…かも――っ、しれない……です―――……はい」

 

 

珍しく真っ赤になっておどおどと呟くアキラ。

彼女もまたすぐに自分の言った事を理解したのか、すぐに焦りの表情を浮かべる。

 

 

「と……言うのは――じょ、冗談…なので――き、気になさらないで……ください………な」

 

(これは――)

 

「あ……!」

 

 

反則だろ! 我夢はそう思いながらアキラを強く抱きしめた。

この先もう一生ヘタレでもいいから今この瞬間に全ての男気をつぎ込めと本能が言う。

我夢は深呼吸をしてからアキラに向き合う。そして震える声ながらも確かに言って見せた。

 

 

「あ、アキラさん……ッ」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「も……もう一回――ッ」

 

「え?」

 

「も、もう一回……その、キっ、キキキ――」

 

 

ごめんなさい、やっぱりなんでもない。

我夢は少し表情を青くして首を振る。いかんいかん、調子に乗るのはいけないとあらゆる場面で学んでいたのに。

しかし一方でアキラは少しムスっとして我夢の目を見る。

 

 

「なんですか? 気になるじゃないですか、言ってください」

 

「いやっ! 本当に……何でも――」

 

「男らしく無いですよ……!」

 

「――っ」

 

 

仕方ないな、我夢は一度咳払いをすると。

 

 

「もう一回、キスしても……いいですか?」

 

「ッッ!!」

 

 

戸惑うアキラ、唇を押さえて彼女は視線を交差させる。

我夢もその様子を見て少し焦りすぎたかと表情を曇らせた。

いろいろ感情の反動で彼女に近づいてしまったが、それで彼女を困らせては何の意味もない。

 

 

「ごめんなさいアキラさん、やっぱり今は――」

 

「い、いえ……! 別に嫌じゃないんです! ただ、ちょっと驚いただけで……!」

 

 

だから、とアキラはチラチラ我夢を見ながら顔を赤くしていく。

何度かキ、キ……っと言っていた事からキスと言う言葉を口にするのが恥ずかしい様だった。

だから最終的に彼女が選んだ言葉は――

 

 

「お、お願いです……! もう一回…私と――ちゅ、ちゅう……して、くれませんか……?」

 

(く……くぁぁぁああ……ッッ!!!)

 

 

口付けとかでよかったんじゃないか、ソッチの方が恥ずかしいだろうに。

我夢はちょっと笑いそうになってしまうが、すぐに緊張したように頷いた。

若干後悔。先ほどは失敗してしまったので、今度はしっかりしなければと余計なプレッシャーを感じてしまう。だから先ほどよりも少しゆっくりとアキラに顔を寄せていった。また目を瞑るアキラ――

 

 

「んっ……!」

 

 

ふにゃりと本当に軽く触れるだけ。

互いに緊張でくっつけては離して、くっつけて離してを繰り返す。

くすぐったさと恥ずかしさで顔を蒸気させるアキラ、我夢もまた同じ様で少し勇気を出してみる。

 

 

「「―――………っ」」

 

 

少し長めに二人は触れ合う。

互いの感情が流れ込んでくる様だ、そのままどれだけ時間がたったろう?

数秒だったか、数十秒だったかは分からないが、二人はゆっくりと唇を離した。

 

 

「………ぅ」

 

 

終わってみると滅茶苦茶恥ずかしさがこみ上げてくる。

アキラは顔を我夢の胸にうずめて代わりに強く抱きしめた。我夢もまたソレに応え、彼女の方を向いて言う。もうココで言わなきゃ男じゃない、我夢は震える声ながらもハッキリと彼女に伝えた。

 

 

「アキラさん僕と――! そ、その……!! つ、付き合ってください!」

 

「……は、はい――! えと…わ、私でよければ!」

 

 

コクコクと頷くアキラ。

 

 

「わ、私を……! 我夢君の彼女にしてください」

 

「アキラさん――っ! 本当ですか……!」

 

「ほ、本当ですよ――……!」

 

 

二人は笑顔で恥ずかしそうに笑う。

この想いを守る為にも明日は絶対に勝たなければ――二人は改めて決意を固める。

落ち着いたか、二人はようやく距離を離して呼吸を整える。だが手だけはずっと繋いだまま。

 

 

「今日は……このままで――」

 

「はい!」

 

 

二人は頷くと、再び勝利を誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、よく眠れたか?」

 

 

翌日、我夢とアキラが学校に戻ると校庭で始めに司が出迎えてくれた。

手を繋いでいる二人を見てニヤリと笑う司、そんな彼に気づいたのか我夢とアキラは焦ったように手を離す。

もう遅いと司は笑う、少し離れたところでは――

 

 

「うおぉッ! マジで手繋いでる!!」

 

「あれはキスまでは言ったな。つー訳で賭けは俺の勝ちだな」

 

「なんでやっ! なんで我夢くんヘタレんかったんや!!」

 

「フッ、いつの間にか大人になっていくものだな」

 

 

真志と双護に不満げに金を渡している椿と亘。

こいつら……。

 

 

 

「ま、まあなんだ」

 

 

恥ずかしそうに笑う二人と頭をかいて苦笑する司。

すると背後から数々のエンジン音が聞こえてきた。司は携帯で時間を確認、どうやらもうすぐ邪悪なる神がその姿を見せてくれるらしい。

わざわざご苦労な事だが――

 

 

破壊させてもらおう。

 

 

「我夢、アキラ――」

 

 

司はライドブッカーからディケイドのカードを取り出して二人をまっすぐに見る。

彼の意思を受け取り頷く我夢とアキラ。二人は音角と音笛を取り出して表情を一気に真剣な物へと変えた。

切り替えは大事だな、司も笑ってディケイドライバーを取り出す。

 

 

「勝つか」

 

「はい、もちろんです!」

 

「当然です」

 

 

頷く三人。

さあ、最後の戦いを始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪城・邪神の間。

それは、来るべき必然の突然。深い闇の奥で何かが揺らめい――

 

 

 

グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 

 

それは妖怪城を揺らす程の咆哮。

悲鳴にも似た叫びが妖怪達の耳に貫き、多くの者達は恐怖に震え始めた。

そして、ついにその歪な神は姿を見せる。巨大な穴が銃口とするならばそこから絶望の弾丸が放たれた。

翼が無いのにも関わらずこの上昇力、邪悪なる神は尚も咆哮を上げ続ける。

 

そのまま急上昇していく邪神、邪神の間の天井を破壊するとそのまま上層部へと突き進んでいく。

数々の天井や、器物を破壊しながら上昇し――

 

 

「「「「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」

 

「「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」」

 

 

妖怪城の地下最下層から屋根までをぶち破り空に姿を見せた邪神。

巨大な八対の龍とも言える大蛇。しかしてその身体はただ一つ、名は邪神・ヤマタノオロチ。

ぬらりひょんの命令で妖怪城には誰もいないが、もし何も知らずに妖怪達がいたのなら今の一撃で何名が死んだのだろうか?

邪神(オロチ)はそのまま近くの平地に着地する。巨大な身体故か衝撃が辺りを包んだ。それは恐怖の震撼か、そのまま人里を見据えるオロチ。

八本の龍が同時に視線を向ける。黒く禍々しい龍がその口を発光させていく、これは全てを飲み込む黒き咆哮。

暗黒の炎をそこに放てば多くの命が闇に消え行くのだろう。邪神の目が語る、おろかな命よ――全て消え去るがいい!!

 

 

「―――………!」

 

 

だがそこで邪神は動きを止める。

何か複数の音がコチラに近づいてきたのを感じたのだ。

八つの龍はそれぞれ別の方向をキョロキョロと確認していく、そして邪神はその姿を確認した。

コチラに近づいてくる、エンジン音達の正体を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぜお前らッ! しっかりやれよ!!」

 

 

活を入れるのは仮面ライダーディケイド。

彼を中心として計10人の仮面ライダーが並列して邪神を目指す。

距離はまだ少し遠い、だがこの乗り込むプライドに全てを賭けて。爆音を上げて邪神へと向かうッ!

 

 

「お前もな、司ッ!」

 

『気合入れましょ!!』

 

「皆、一気に攻め込もうッ!」

 

 

トライチェイサーに乗り込むクウガ、マシントルネイダーに乗り込むアギト。

既に薫は銃となりクウガに装備されている。

 

 

「野郎――ッ! 早速人里を狙ってやがったな!」

 

「大きいね……皆気をつけて!」

 

 

ライドシューターに乗る龍騎、オートバジンに乗るファイズ。

 

 

「アンデッド達、マジで頼むわ……! 勝たせてくれよッ!!」

 

「ヤマタノオロチッ! 必ず倒すッ!!」

 

 

ブルースペイダーに乗るブレイド、凱火(がいか)に乗る響鬼。

 

 

「安心しろ皆、俺がいる限りこの世界に滅びは無い」

 

「いくぜ! いくぜ!! いくぜーッッ!!!」

 

 

カブトエクステンダーに乗るカブト、マシンデンバードに乗る電王。

 

 

「皆! 攻撃が来るッ!」

 

「こい、破壊してやるッッ!!」

 

 

マシンキバーに乗るのはキバ、マシンディケイダーに乗るのはディケイド。

10人の仮面ライダーはアクセルを全開にして邪神に近づいていく。爆音、線になる景色。もちろんそれに気がつく邪神、様子を見る事もせずに攻撃の準備に入った。

あるのは純粋な殺意、全てを殺す、全てを壊す。要らないんだよ何も、だったら全てが存在する理由もなし。

他の生命など、この世界に存在する必要も無し。

 

 

「来るッ!」

 

 

空間が震え、邪神の八つある口から黒い炎が次々に放たれた。

ライダー達はそれを紙一重で交わしていき確実に邪神との距離を詰めていく。

ともあれ避けられないと言う炎も出てくる。ディケイドはアタックライドブラストを発動、少し炎を削りそこへ他のライダーも銃弾を当てていく。

威力を弱めた炎にバイクごと突進、炎を突き破って彼らは進む。もちろんそうやって進めばライダー達もダメージを追う事に。

しかし怯まない、進む事を止めてはいけないと!

 

 

「へぇ、あれが邪神か……!」『カメンライド――』

 

 

対照的に海東達はゆっくりと歩いて平地にやってきた。

成る程、確かに禍々しい気配や圧倒的な力の波動を感じる。流石は神と言うべきか。

しかし海東は笑う、恐怖ではなく期待を持って。アレはどんなお宝を持っているのだろうか?

もし何も持っていないのならば、要らないな。

 

 

「邪神か何だか知らねーけどよ、暴食のオレは腹が減ってんだ。さっさと終わらせるぞ!」

 

 

朱雀は三枚のメダルを指で弾いてドライバーに装填していく。

暴食の念が彼女の闘志を燃え上げがらせる、早く食事がしたい。

それを邪魔するのは邪神、食事を邪魔するのは邪神、その欲望の障害は邪神。

 

 

「嫉妬できる点がまるでないですね、お嬢様の視覚に入る価値も無い――」

 

 

消します。そう言ったタイガのドライバーには既にメダルが装填されていた。

嫉妬の念が彼の闘志を膨張させる、あんな無駄な物を大切な彼女の眼に入れたくない。

なのに彼女は邪神を見る、それに関しては嫉妬してしまう。だから消すまで、その欲望は邪神が作るノイズ。

 

 

「自らを邪悪の神と呼称するその傲慢、叩き潰したくなる」

 

 

ディスは一枚のメダルを弾き、その間に両手で残りの二枚をドライバーに装填。最後に落下してきたメダルを中央にセットした。

傲慢の念が彼の闘志を爆発させた。きっとヤツは自分が負けるなんて一パーセントも考えていないんだろう。

神となのる邪神、ああイライラする。自分はヤツを神とは認めない。欲望を満たすためにはヤツを消さないと。

 

 

 

「怠惰な私の優雅な生活を邪魔しようとする邪神は退場していただきたいですわ」

 

 

マリンはバックルにメダルをセットした後で腰に持っていく。

怠惰の念が彼女の闘志を確立させた。あんな目障りな物を野放しにしてはお茶もできない。

咆哮は耳障り、全ての存在が邪魔でしかない。欲望がヤツを倒せとマリンに言いかける。

 

 

「色欲の欠片もなさそうな姿ね。生きてて楽しいのかしら?」

 

 

巳麗はコロコロとスライドさせる様にしてドライバーにメダルをセット。

色欲の念が彼女の闘志を照らす、愛を邪魔する障害としてもアレは不出来だ。

面白く彩る機能も無し、見ていても何とも思えない。欲望が萎える前に消してしまおう。

 

 

「憤怒はしない……ッ! 希望をもってアイツを倒すッ!!」

 

 

静かにメダルをセットするリラ。あくまでも冷静に、だが確実に。

憤怒の念が彼の闘志を跳ね上げる。怒りがこみ上げる、世界を滅ぼす事は絶対に許せない。

爆発しそうになる感情、握り締める拳、許さないと。欲望が暴れるその前に決着を。

そして並び立つ朱雀達の前に立つ海東はニヤリと笑って引き金を引く。

 

 

「さて、楽しませてもらおうか。変身!」『ディエンド!!』

 

「「「「「「変身ッ!」」」」」」

 

『タカ!』『クジャク!』『コンドル!』 【タ~~ジャ~~ド~~ルーーッ!】

 

『ライオン!』『トラ!』『チーター!』 【ラタラタァ~! ラトラーター!】

 

『クワガタ!』『カマキリ!』『バッタ!』【ガ~タガタガタキリッバ! ガタキリバ!】

 

『シャチ!』『ウナギ!』『タコ!』   【シャシャシャウタァ~! シャシャシャウターッ!】

 

『コブラ!』『カメ!』『ワニ!』    【ブラカァァァァァァァワニッ!!】

 

『サイ!』『ゴリラ!』『ゾウ!』    【サゴォゾ……サゴーゾッッ!!】

 

 

 

並び立つオーズ、そして現れるディエンド。

さらに彼らの登場に呼応するがごとくオーロラが出現、中から現れたのは――

 

 

「それでは、私が関われるのはここまでです」

 

「ええ、ありがとうシャルル! 素晴らしい勝利を収めて帰るわ!! ねぇ? ゼノン!」

 

「もちろんだよフルーラ! 愛しい君がいればボクはどこまでも強くなれる!!」

 

 

現れるのは赤と青、ゼノンとフルーラだ。

そして少し離れた所では白衣を風になびかせて歩いてくる博士と助手。

 

 

「どひょー! おおきいですんねー! 蒲焼にしたらおいしそー!」

 

「ふぅん、珍しい生き物だな。ま、ビビッてねーけどな。本当にビビッてねーけどな」

 

 

それぞれは邪神を見て恐怖ではなく笑みを浮かべた。

恐ろしさを知らぬは罪か、それとも――

 

 

「ゼノン!」『ヒィート!』

 

「フルーラ!」『トリガァ!』

 

 

二人は笑みを浮かべてメモリをタッチ、双方対になる方向へ手を曲げ伸ばし構える。

浮かび上がるのはWの文字、絆の象徴。

 

 

「助手! しっかりサポートしろよ!!」『3(スリー)』『2(ツー)』『1(ワン)

 

「おっけーっす! バッチリ任せてくださいよ博士ぇ!」

 

 

スイッチを順に押していく博士、メダルを弾きベルトへ装填する助手。

最後だ、共にハンドルレバーに手をかける二人。

 

 

「「「「変身!」」」」『ヒート・トリガー』

 

 

仮面ライダーダブル、仮面ライダーフォーゼ、仮面ライダーバース。

三人のライダーが構えて走りだすと同時にリボルギャリーが出現、彼らを乗せて加速していく。

 

 

「『さあ、罪の清算を!」』

 

「証明開始だ!」

 

 

続々と集まるライダー達、再び迫るエンジン音。

今度はまた別のライダー達が邪神に向かっていく。同じく爆音を轟かせて!

 

 

「美歩ちゃん、今日はマジで本気だすわ!」

 

「あたしもね! はりきっちゃいますよーッ!」

 

「ふざけた神は叩きのめすだけよ!」

 

「ああそうだな、一気に行こう!」

 

 

ライドシューターに乗るのはファム、ジェットスライガーに乗るのはデルタ。

マシンゼロホーンにはゼロノス、ガタックエクステンダーにはガタック。

そして――

 

 

「行こうアキラ、邪神を倒そう!」

 

「はい!」

 

 

シャドーチェイサーに乗るカリスと竜巻に乗る天鬼、女性陣もまた男性陣に続くようにして邪神に向かっていく。

デルタはジェットスライガーから大量のミサイルを発射、次々に弾幕が邪神を襲っていく。それは戦いの合図、ディケイドは邪神の咆哮をかき消すように叫んだ!

 

 

「いくぞ皆ッ! あの絶望を壊すッ!!」

 

 

同時に了解の声を出すライダー達。

邪悪なる神との戦いの幕が、今切って落とされた!!

 

 

 





・響鬼紅

響鬼の中間形態。
音撃鼓を相手に押し付けずとも、音撃棒を相手に当てるだけで炎の音撃鼓が展開、そのまま音撃打へと繋げる事ができる。
さらに自動回復機能も持ち合わせており、変身できる時間は限られているが、非常に強力なフォーム。



はい、ってな訳で次回は月曜予定。
邪神戦は文字数の都合で前後編分けますが、間隔あけても仕方ないんで一気に更新するかなと。

ではでは。

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