仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第51話 絆のマスクドライダー

一方――

 

 

「そんなッ! そんな!!」

 

 

雹は目の前で起きている事が理解できなかった。

音速で駆ける紫の閃光が次々に兵士達を粉砕していくではないか。

彼女はなんとか光に攻撃を行おうとするが、そんな事は何の意味も無いと彼女自身が理解している。

 

 

「僕の友人を傷つけた罪は重いぞッ!」『Rider Slash』

 

 

最後の一体、そこに刻まれる幾重もの光。

もはや氷の戦士や黒河童兵など無意味と言って良いもの。

それだけではない、アナザーアギトと呼ばれる者の戦闘力が異常なのだ。

元々直接的な戦闘が苦手な雹からしてみれば彼らは脅威でしかない。それにどれだけ自分を守る戦士を生み出そうが速攻で潰される。

 

 

「フ――ッ! ハッ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 

アナザーアギトの重い一撃が雹を打ち上げる。

揺れる紅いマフラー。これはまずい、雹はせめてもの抵抗に照準をアギト達に向ける。

ここまできたのならせめて一人だけでも殺しておきたい、雹は全ての力を込めて無数の氷柱を彼らに発射した!

 

 

「いけるかい? 鏡治君ッ! 友里ちゃんッ!」

 

「ああ! そうだなセンセー! 神也だけにいい格好はさせられねぇや!」

 

「うん! それに力も湧いてきた!」

 

 

フレイムフォームに変わるアギトと並び立つガタック、デルタ。

ガタックカリバーの乱舞とデルタの的確な射撃、そしてアギトの居合い切りによって氷柱は全て打ち砕かれる

同時に、それは雹のプライドも叩き壊した。状況がどうなっているのか、自分にどう牙をむいているのかが嫌でも感じてしまう。

 

 

「カ――……ッ!」

 

 

回し蹴りで転がっていく雹と、同時に並び立つアギトとアナザーアギト。

再会の言葉も少なく、何故彼がココにいるのかと言う疑問が強く残る。

しかし二人は同時に頷くと同時に構えて狙いを定めた。

 

 

「フッ! ハァァァ――………ッ!!」

 

「シュゥゥゥゥゥゥ――………ッ!!」

 

 

二人の足元のそれぞれの紋章が浮かび上がる。

そしてそれを介してエネルギーが二人の体を駆け巡っていく。

澄んだ音が聞こえてアギトのクロスホーンが展開、同時に重厚な金属音共にアナザーアギトのクラッシャーが展開した。

さあ――

 

 

目覚めろ、その魂!

 

 

「う――ッ! グググゥゥゥゥ……――ッッ!」

 

 

よろよろと立ち上がる雹が見たのは、同時に飛び上がる二人のアギト。

これは! 雹はすぐに防御の為の氷壁を作り上げるが――!!

 

 

「タアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ダブルライダーキックが氷壁を打ち破り雹に命中する!

叫び声と共に回転しながら吹き飛ぶ雹、そのまま何回転もしながら最終的には壁に叩きつけられるまで吹き飛んでいく。

あまりの衝撃に壁に大きな亀裂が走り、雹はしばらくして落下。地面に叩きつけられた彼女は地面に這い蹲りながら二人を見上げた。

 

 

「アガァァァア――ッ! クソ……ッ!! なんでこんなぁぁああ!?」

 

 

彼女の頭上に浮かび上がる光の輪、それは決着の合図。

輪が光り輝くと同時に爆発が起こり、砕けたメモリと雪女(アイスレディ)ドーパントの元だった人間がさらけ出された。

そして彼女の力が切れた事で冷凍庫を覆っていた氷と雪が消え去る。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

少しあわてた様に『友人』が駆け寄ってくる。

問題ないと笑う葵を見て彼はホッとした様に息をはいた。

 

 

「そ、それにしても神也! お前どうしてココに!?」

 

 

そうだ、それが気になっていた。

アギトもまたアナザーアギトに同じ事を聞いてみる。

それに答えるのはサソードである神也だ、彼はもったいぶる様に溜めた後ニヤケ交じりに答えてみせた。

 

 

「僕だけじゃないよ」

 

「?」

 

「実はね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方中庭、同じように現れたダイアナ達と呆気に取られている椿達。

しかしいつまでもそうしてはいられない。クロハの手をとった椿、ダイアナの手をとった咲夜は強い眼差しで黒河童兵達をにらみつける。

 

 

「おいおい河童ちゃんよ! さっきはよくもやってくれたわな!」

 

 

それにココまで露骨な勝利フラグってヤツを立ててもらったんだ。

ココで踏ん張らなければクロハ達に申し訳が立たない。

と、椿はバックルを構えて一言。

 

 

「ああ、反撃開始だ!」

 

 

と、クロハはバックルを構えて一言。

 

 

「喧嘩の時は何もできなかったけど、今はもう違う!」

 

 

と、ダイアナはバックルを構えて一言。

 

 

「そうだな、助かる。一気に片付けよう!!」

 

 

と、咲夜はバックルを構えて一言。

 

 

「よぅし! やってあげなさい!」

 

 

と、ねずみ男は木の陰に隠れて一言。

 

 

『グロロロロロ!』『ロロロロロロ!』『グロロロロロロロ!』

 

 

闇のエネルギーを纏って黒河童兵達は同時に走り出す。

狙うは四人の命だ、だがさせるかと四人は同時にエースのカードをバックルに装填させて腰に装着。

後は簡単。決意と共に、変わればいい!

 

 

「アキラが死ぬなんてクソ脚本認められっか」

 

 

椿の声と共に他の三人は頷き、同時に並び立つ。

絶望を希望に、悲しみは喜びに。その勇気が悲しき運命を――

 

 

「「「「変身!」」」」

 

 

裏返す――ッ! 『ターン・アップ』

 

 

『グゴォッ!!』

 

 

同時に出現する四枚のエレメントに吹き飛ばされて黒河童兵達ははるか後方に吹き飛ばされた。

走りだす椿達、そして同時に変わる四人。ブレイド、レンゲル、ギャレン、カリスはそれぞれのラウザーを構えて黒河童兵に突撃していく。

 

 

「ウォオオオオオオオ!!」『スラッシュ』

 

「スタッブビー!」『スタッブ』

 

 

斬撃を強化したブレイド、レンゲルは無数の黒河童兵達に強烈な一撃を与えていく。

それぞれ範囲の広い武器である為多くの黒河童兵を巻き込んでいく事ができた。

しかしブレイドもレンゲルも荒々しい攻撃ゆえに大きな隙ができてしまう。当然黒河童兵達はそこを狙っていくのだが。

 

 

「させないッ!」『バレット』

 

 

そこを補うのがギャレンである。

彼女は持ち前の射撃力でブレイドとレンゲルが自由に暴れまわる事を許す環境を作り上げる。

カリスも蹴りで応戦して、四人は確実に黒河童兵を追い詰めていく。

 

 

『グロロロロッッ!!』

 

「ウグッッ!!」

 

 

黒河童兵の反撃、鋭い踵落としがブレイドに襲い掛かる。

瞬間的にラウザーを縦にして防いだが、衝撃で彼は膝を付いてしまった。

 

 

「俺は――ッ」

 

『グロロロロロ!!』

 

 

力を強める黒河童兵、しかしブレイドもまた全力を込めて抵抗する。

 

 

「俺はァァ――ッ!」

 

『ロロロロロロロ!!』

 

「俺はァアアアアアアアアアッッ!!」

 

『!』

 

 

ブレイドはかつて夜叉にやられた時と同じように瞬間的に全力を込めて黒河童兵を弾き返す。

 

 

「アキラを助けるんだよォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

そしてがら空きになった胴体へ思い切り蹴りを叩き込むッ!

 

 

「助けるッ! 助けるんだァアアアアア!!」

 

 

何度も何度もブレイドはその言葉を呟き、そして叫ぶ。

その言葉が現実になる事を祈ってだ。そしてその為ならなんだってしてみせる、目の前に現れる敵と何度だって戦ってやる。

それだけ彼女を助ける力が手に入るのなら、何度だって立ち上がってみせる。

 

 

「皆ッ! 河童兵を一箇所に固めるようにしよう!」

 

 

レンゲルの言葉に全員が頷く。

無数の黒河童兵、それはまるで嵐の様に四人に牙を剥く。

しかし四人は全く怯まない。むしろ飛び込んでいくだけだ、その嵐の中に。

 

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

何も迷わず、そして迷う必要も無い。

戦う事を躊躇い彼女を諦めてしまった瞬間、自分は闇に飲まれる様な気がして。

だったら誰より今、信じてみるべきだろう。自分の力、そして可能性とやらを。世界を、彼女を諦めないために。

 

 

「咲夜ッ!!」

 

「ああ! 分かっているさ!!」『アロー』

 

 

密集した黒河童兵達に撃ち込まれるカリスの意志(ちから)

その絶大な力に、黒河童兵達は皆動きを鈍らせる。チャンスは今だ!

四人は頷き合うとラウザーから三枚のカードを抜き出し、ラウズさせる。

 

 

『サンダー』『マッハ』『キック』

 

『ファイア』『ドロップ』『ジェミニ』

 

『ブリザード』『ラッシュ』『ポイズン』

 

『トルネイド』『フロート』『ドリル』

 

 

黒河童兵の咆哮と言う嵐の中、カリス達はありったけに叫ぶ。その想いがかき消されない様に。

カードを模したエレメント達が12枚、縦横無尽に飛び回った。カードのエレメントは黒河童兵を弾き飛ばしながらそれぞれの発動者へと収束していく。

一勢にポーズを取り構える四人、ブレイドもカリスも限界は近いが動きを止めたら自分と言う物を無くしてしまいそうで止まれなかった。

 

それにココまできたらもう信じるしかないだろう、最高の結末とやらを。

この流れで負けるなんてそりゃ情けないってもんよ。そうブレイドはカリスにジェスチャーで送ってみせる。

そして頷くカリス。誰よりもその未来を信じてみようじゃないか。

 

 

「フッ! ハァァァァアアアア……ッッ!!」

 

 

サンダーディア、マッハジャガー、キックローカスト達は互いにアクションを取ると、主人であるブレイドの力になる為に一つに収束する。

ブレイラウザーを地面に突き立てるブレイド、群れる闇を引き裂かんと睨みつけた!

 

 

「さあ、決めるぜッ!」【ライトニングソニック】

 

「そうだね、これで終わりだ」【ブリザードベノム】

 

「ええ!」【バーニングディバイド】

 

「ああ!」【スピニングダンス】

 

 

まず飛び出したのはレンゲルだ。

彼は冷気で一気に黒河童兵を氷の塊に変化させる。カード発動時のカードが黒河童兵達を纏めてくれていた為、一塊になる氷。

そしてそこにラウザーを突き出して一気に毒のエネルギーを流し込んだ。

 

 

「こんのぉおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

そしてラウザーを掲げて力を解き放つ。

巨大な氷の塊が宙に舞い、次にギャレンが飛び上がった。

高く跳躍しながら宙返り、その時両足に炎が纏われる。そしてギャレンの隣にもう一人ギャレンが出現、その状態で二段蹴りを。

 

 

「止めッ!!」

 

 

衝撃と熱で砕かれる氷と、ダメージを受けながら落下してくる黒河童兵達。

そこに待っていたのはカリスとブレイドのとび蹴りだった。

 

 

「ウェアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ハァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

電撃を纏った高速とび蹴り、そして風を纏った回転蹴りが黒河童兵達をまとめて粉砕する!

吹き飛び消滅する黒河童兵達、四人はそれを確認すると力を抜いて互いに顔を見合わせた。

 

 

「とりあえず勝ったな……! ああ、マジ焦ったぜ――ッ」

 

「それにしても、どうして君達はココに来れたんだ!?」

 

「うん、実はね――」

 

 

神也やクロハ達はそれぞれ自分の世界でそれぞれの毎日を送ってきた。そんな時だ、目の前にいきなりカードが現れたのは。

何も描かれていないカード、しかしデザインがディケイドの使っているものと似ている事から皆少し注意を向けてみた。

すると――

 

 

『聞こえるかい? 各世界のみんな』

 

 

ゼノンの声で聞こえる言葉、そこまでなら怪しむ者も多かったろうが――

 

 

『新意鏡治が危険なんだ、悪いけど力を貸してくれないかな?』

 

 

これは神也が受け取ったメッセージである。

それぞれがその世界でライダーになった者が危険だと言う事を伝えられた。

これで全員が話を聞く気になってくれた様だ、ゼノンのメッセージは簡単な物だったがだいたいの状況は把握できた事。

アキラが危険でそれを助ける為にまた彼らも戦っているのだと。

 

 

「それで僕達はこの世界に助っ人として来ないかって言われた」

 

 

神也が言うには今の自分達はディエンドが召喚したライダーと同じ扱い、つまりデータで構成されている。

本体の自分達は元の世界にいるらしく、もしこの世界で命を失う程の攻撃を受けても死なないと言う保険つき。

尤も、そうでなかったとしても彼らは話を受けただろうが。

 

 

「とにかく、僕達は君達をサポートする為にこの世界にやってきたって事さ」

 

「そうそう、初めての世界移動はなかなか刺激的だったわ」

 

 

レンゲルとギャレンはそう言って笑ってみせる。

分かった事はただ一つ、彼らは自分達の味方。頼れる仲間だと言う事だ。

亘達も同じ――

 

 

「さあ、行こう亘」

 

「花嫁を助ける道を切り開くんだ」

 

「はい!」

 

 

それに、ココに来たのはもちろん彼らだけではない。

 

 

『お兄ちゃん! お姉ちゃん!』

 

「「桜ちゃん!?」」

 

 

理の欠片がモニターとなり、クウガの試練で出会った桜の姿を映し出す。

ユウスケと薫は久しぶりの再会に驚くが、他の皆も同じような状況になっている事を聞いた。

もちろんメッセージは桜にも届いた、だがゼノンだって彼女に戦えと言う程馬鹿な真似はしない。

 

 

『桜には戦う力はないけれど、お兄ちゃんに応援の声を届ければそれはきっと力になってくれるって!』

 

「ああ……ああ! しっかりと届いたよ桜ちゃん!」

 

「うん! 力が湧いてきた!」

 

 

涙ぐむ二人、ゼノンは絆が確かな力になる事を知っている。

過去自分達が紡いできた絆達は彼らが進むべき道を照らしてくれる。

そしてココにもまた、そんな絆が――!

 

 

『無事か! 拓真!』

 

「村野博士!」

 

 

ホールで泥田坊達に囲まれているファイズ。

オートバジンと共に戦っているが限界が近づいてきた時、ファイズの試練で知り合った村野博士から通信が入った。

久しぶりの再会だが状況が状況だ、驚きながらも喜ぶ暇などない。

 

 

『安心したまえ、わしからのプレゼンを持ってきてやったぞ』

 

「ッ? プレゼントですか?」

 

 

理の欠片が光輝くと、ファイズの紋章が現れて中から新たなツールが出現する。

見た目はどう見てもラジカセ、他のツールに比べるとベルトに装備できないほど巨大だが?

 

 

『それはオートバジンのツールなんじゃよ!』

 

「!!」

 

 

そういう事か! ファイズはすぐにオートバジンを呼び出した。

そして村野博士が新たに作った新ツール・"ファイズサウンダー"をオートバジンに持たせた。

どうやらミッションメモリを装備しなくても技を発動できるらしく、オートバジンの判断でそれは展開される。

 

 

『READY』

 

 

スピーカー部分が展開、そこが二対の砲口に変わった。

ラジカセから一瞬でバズーカーの様に変わるサウンダー、二つの砲口を迫る無数の泥田坊へ。

同時にファイズはオートバジンからファイズエッジを抜き取り構える。客席で余裕の雰囲気を出している泥田坊の本体。

 

 

「いまさら何をするつもりですかな?」

 

「それは……オートバジン!」『Exceed Charge』

 

 

ファイズの声へ応える様にしてオートバジンはサウンダーへエネルギーを供給。

砲口が紅く輝いていき――!

 

 

「なっ!?」

 

 

発射! 紅い光の奔流が広範囲にわたって泥田坊達に直撃していく。

"クリムゾンレイ"、オートバジンに追加された彼の必殺技である。音波の衝撃波を放つ攻撃だ。

エネルギー源のフォトンブラッドはサウンダー自体に内臓されており、オートバジンのエネルギーを消費して放つ。

 

 

「ばかなッ!!」

 

 

余裕の笑みを崩した老紳士、あれだけいた泥田坊達が一瞬で無に返っていくではないか!

いや、正確には自分を守る様に配置していた泥田坊達が消滅したのだ。

それはつまり――

 

 

「ハァァァァア――ッッ!!」『Exceed Charge』

 

 

既にメモリをセットしていたファイズは、エンターのボタンを押して思い切りファイズエッジを振るう。

発生するは紅き衝撃波、それは泥田坊達がいなくなった事を証明するΦのマークの中を抜けて一直線に老紳士(ほんたい)に直撃した。

驚きの声をあげながら衝撃波に拘束される老紳士、空中に留まりながら彼は自らの終わりを確信する。

向かってくるのは紅き救世主、光輝くエッジを構えながら真っ直ぐに走っていく。その姿はまさに――

 

 

疾走する本能――!

 

 

「タァアアアアアアアアアアア!!」

 

「―――――ッッッ!!!」

 

 

ファイズは拘束された老紳士にΦの軌跡を刻み付ける。

倒れる老紳士と消滅していく泥田坊達、この手のタイプは本体を潰せば他は消えるというものだ。

老紳士はゆっくりとファイズの方向を振り向いて、たった一言を小さく口にする。

 

 

「少年、何故……! 戦うッ?」

 

「………」

 

 

だから、ファイズもたった一言だけ口にする。

 

 

「彼女の、みんなの夢を守る為に」

 

「――ッ、見事……!」

 

 

その言葉を聞いて頷く老紳士。

そして次の瞬間、糸の切れた人形の様に眠りに落ちるだけだった。

 

 

「………」

 

 

光を払う様にファイズエッジを振るう。

飛び散った赤の光が、何よりも美しく、眩しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真志くんッ!』

 

「!!」

 

 

土ぐもに劣勢だった龍騎、そんな彼に聞き覚えのある声が応援の言葉を投げかける。

急いで理の欠片を取り出す龍騎だが、目の前には既に土ぐもの攻撃が迫っていた。

 

 

「くっ! 時間を稼いでくれドラグレッダー!」『アドベント』

 

 

ドラグレッダーを召喚して土ぐもに向わせる龍騎、そして彼は再び『彼ら』との再会を果たす。

 

 

「し、真司さんッ!?」

 

『おお、久しぶり!』

 

 

桜と同じように映し出されたのは城戸真司だ。

それだけでなく奥の方にはピースをしている佐野や、それを注意している蓮も見える。

彼らもまたデッキは存在していない為戦いには参加できないが、今こうしてココに姿を見せてくれたという事だろう。

 

 

『何かヤバイみたいだけど、大丈夫か?』

 

「ハハ……実はちょっとヤバイっていうか――!」

 

『待っててくれ、すぐに助ける!』

 

「へ?」

 

 

どういう事なんだろう?

龍騎がそう思った時、彼のデッキが光り輝いた。

 

 

「こ、これって!?」

 

『まあまあ、受け取ってくれよ。きっと真志くんの力になってくれるからさ』

 

 

龍騎は光り輝くデッキから一枚のカードを抜き取る。

ゼノンから受け取ったデッキには多種のカードが存在していたが、中には無地のカードがあったのを覚えている。

文字通り無地、つまり発動しても何の効果もなさないカード。真志も美歩もそれが何のカードなのか気にはなっていたが、結局分からないまま現在まで過ごしていた。

 

 

『人間を守る為にライダーになったんだ。だから、真志くんにも俺の力を!』

 

 

人を、守る力を。

 

 

「ッ!!」

 

 

無地だったカードに絵が刻まれていく。

ゼノンはこれを見越してこのカードを渡していたのか、それともこの絵が刻まれたのは真司の力なのか。

それは分からないが確かにその力は今ココにもたらされた。

 

 

「いつまでそうしているつもりだ!」

 

「ッ!」

 

 

ドラグレッダーの全身に蜘蛛の糸が絡みつき動きを停止した。

相当強靭な糸らしくドラグレッダーが力を込めても糸が引きちぎれる事は無い、そして飛翔してくるのは下半身を完全に大蜘蛛に変えた土ぐもだった。

鋭利な爪が光る足で彼は龍騎を引き裂こうと襲いかかる。ガードベントを発動して土ぐもを受け止める龍騎だが――

 

 

「くっ!!」

 

「フッ、その程度で受け止められる訳が無いだろう!」

 

 

重い、そして土ぐもの足が盾を避けて攻撃してくる。

襲い掛かる痛みに龍騎は苦痛の声を上げた。

 

 

『真志くん!』

 

「ウゥゥウウウウッッ!!」

 

 

何とかカードを発動しようと龍騎は手を伸ばすが――

 

 

「悪いが、このまま一気に決着をつけさせてもらう!」

 

 

土ぐもは糸を発射して龍騎を縛り上げる、そして首を狙って足を突き出した。

この攻撃を受ければ致命傷となってしまうだろう。

 

 

「こんのッ!」

 

「!」

 

 

龍騎は瞬間的に首をずらす事で硬い鉄仮面部分でそれを受け止める。

しかし頭部に走る衝撃、次にもう一度食らえば意識は吹き飛ぶ。その瞬間敗北は確定する。

どうすればいい!? 龍騎は焦りの念を覚える。もう土ぐもは次の一撃を準備しているが自分は対策を練られていない。

このままでは――ッ!

 

 

『ドラグレッダァアアアアアアアアアア!!』

 

「「!!」」

 

 

瞬間響き渡る真司の声、彼の言葉は部屋中に聞こえていただろう。

つまりそれは、当然『彼』にも!

 

 

「ば、馬鹿なッ!」

 

 

真司の声に答える様にしてドラグレッダーの眼が光る。

するとドラグレッダーは全力を込めるように吼えた。

同時に引きちぎれる糸、驚きに眼を見開く土ぐもにドラグレッダーは火球を発射。

 

 

「ぐあぁああああ!!」

 

 

火球は土ぐもにヒットして彼の体を吹き飛ばす。

その衝撃で集中が切れた土ぐも、どうやら蜘蛛の糸には彼の力が掛かっているらしく龍騎を縛り上げていた糸が緩んだ。

 

 

『っしゃあ!』

 

「あ、ありがとうございます真司さん! ドラグレッダーも!」

 

 

やっぱり真司とドラグレッダーの間には何かがあるんだろう。

彼の言葉に応えるようにしてドラグレッダーは限界を超えたのだから。

 

 

「じゃあ……! 先輩の前で情けない姿を晒すのはココまでにすっかな!」

 

 

龍騎は深呼吸を行って意識を集中させる。

しかしその瞬間鮮明にアキラの顔が浮かんできた、思い出すのはメールのメッセージ。

 

 

『困っている時、よく助けてくれましたね。本当にありがとうございます』

 

 

助けた、か……。

 

 

「いや、それは違うぜアキラ――」

 

 

龍騎は小声で呟く。それは自分に言い聞かせる為にだ。

 

 

「助けられたのは、オレの方だ」

 

 

今まで誰の為に生きていたのか、そして周りを気にしてばかりの生活。

そんな毎日に嫌気が差していたし、馬鹿らしいとも思っていた。

今だから言える事だが、最初に自分の世界が滅びるかもしれないと知った時は何とも思わなかった。

皆が家族や友達の心配をする中で自分は何も考えていない、だって滅びるならそれでもいいと思えた世界だったから。

だけど皆は違うから、皆には滅びてはいけない世界だから協力できた。もしその中で死ねるのならそれでもいいと考えていたのは事実。

 

ファイズの試練の時だってそう、死ぬかもしれないと言う危機感が自分は足りなかったのかもしれない。

美歩に出会って、自分は少し変われたと思う。それでもやはりどこかまだ冷め切っている自分がいたと。

人との関わりは最小限、そして善で塗り固めた仮面をかぶって終わらせる。そんな生活がいけなかったのか?

だけど龍騎の試練の時に初めての意味で自分は死にたくないと願った。変わりたいと、そして世界を守りたいと思った。

些細な原因だったのかもしれないが、それは自分にとっては大きな革命だ。

 

その意味を気づかせてくれたのは、間違いなく真司や美歩、そして司達だろう。

ずっとこのままの世界だと思っていた自分の人生が、音を立てて崩れる。

 

 

「隙だらけだぞ少年よ!」

 

 

立ち尽くす龍騎に襲い掛かる土ぐもの糸。

だが――!

 

 

「なっ!!」

 

 

糸は龍騎に触れる前に消滅する。

何故!? 焦る土ぐも、彼が見たのは糸が焼き切れる光景だった。

 

 

「ッ!!」

 

「土ぐも、アキラは……死にたいと願った!」

 

「何?」

 

 

自分が死ねば、世界は救われる。それを信じて彼女は死を選んだ。

里奈や我夢の事も未来の事も、全てを犠牲にしてもたった数日間過ごした世界を取ったのだ。

寝子やみぞれ達の為に。そしてこの世界で暮らす人と妖怪の為に。

 

 

「オレには、その選択は重すぎて取れなかったと思う」

 

「………」

 

 

土ぐもも理不尽な要望だとは思っている。

アキラが死んで自分達が生き残る事に違和感と罪悪感を感じているのも確かだ。

しかし何度も言うように彼らもまた悩み答えを出したのだ。大切な者を守る為にアキラを殺す選択を取るしかなかった。

もちろん侵入者達の気持ちを理解できる。だから土ぐもはその言葉を邪魔する事ができなかった。

 

 

「オレが今まで生きてきた中で絶対に取らなかった……! いや、取れなかった選択をアキラは選んだ!」

 

 

それが何よりも大きく感じた。

結論を言ってしまえば真志はアキラに尊敬の念を、そして『希望』を抱いた。

誰かの為に命を賭ける選択。それを選ぶ決意、重さ。

 

 

「なのに――ッ!」

 

「ッ」

 

「この世界に、アキラの死を利用しようとしているヤツ等がいるッ!!」

 

 

それは邪神であり、メモリを使った者達であり。

 

 

「アキラが涙を流して取った選択をあざ笑うヤツ等がいるッッ!!」

 

 

アキラが死んで本当の世界は救われるのか? 答えはノーだ。

 

 

「オレはそいつ等を絶対に許さないッ!!」

 

「だがそれはお前達の勘違いだと言う可能性もある! 私達にその言葉を信じられる強さはないんだ!」

 

 

かもしれない。かもしれないから、怒りが募る。

そしてそれが自分にとっての変化だ。誰かの為にココまで必死になれるなんて昔の自分じゃありえなかっただろう。

それが答えだ。アキラは死なせない、そう思えたのは命があるから。今まで生きて、彼女らに会えたから。

 

 

「命は奇跡でも起きない限りたった一度しか与えられない」

 

 

葵を思い出す。

彼女は今生きてて良かったと思ってくれているだろうか?

 

 

「たった一度与えられた、命はチャンスなんだよ!!」

 

 

だからそのチャンスを、アキラに放棄してもらいたくない。

 

 

「彼女は言った、死にたいと! だがオレはそれを否定するッ!」

 

 

綺麗事? 偽善? 何でもいい、彼女が生きる道を作りたいと何度だって自分は叫ぼう。

生きていれば辛い事は山ほどやってくるだろう、だけどその中でまた生きてて良かったと思える日が来るはずだから――ッ!

 

 

(少なくとも、オレはそう思えたぜ……アキラ!)

 

 

今まで生きる意味が分からなかった、それに無かったんだろう。

何かをすればそれは両親の事が付きまとってきたし、金は親戚が毎月余る程送ってくれた。

欲しいものも思いつかない生活、そのうちに欲望は麻痺して思考は停止する。

 

毎日評価の事だけを考えて、夜は何をするでもなく闇をむさぼるようにして眠るだけ。

自分は何だ? 誰なんだ? 何で生きてる? 意味あんのか? そんな事を考えるだけ。

友達だってまともに作れなかった、八方美人で生きていたのは評価の為。誰かと深く関われば傷つくと思っていたから。

だから近づかない、曖昧さをスタイルにしていた。でもそんな冷め切った毎日を美歩が変えてくれた。

そこから今まで偽りの関係だと思っていた司達とも本当の意味で友達になれた気がした。

それは生きていたから、諦めなかったから得られた結果。

 

だからお前も死ぬなんて言わないでくれ。

オレの腐っていた未来はお前らに関われた事で変わった。

(きみ)に触れて未来が変わったんだから。

 

 

「私だって出来る事ならば花嫁には生きてもらいたいさ……だが、それでも邪神の恐怖には勝てないんだッ!」

 

「オレだって怖いさ! でもアキラを失う事も怖いッ! だから戦わなきゃいけねぇんだ!」

 

 

恐怖と、自分自身と、そして狂った結末を望む世界と。

それはとても怖くて嫌な事だろう。それでも人間はいつだって戦わなきゃいけない。

社会や生活を守る為に人間は誰だって戦っている。それはとても辛い事だが、そうしなければならない。

生きる為に――!

 

 

「オレは戦うッ! 生きる為に、そして彼女(アキラ)(チャンス)を守る為に!!」

 

「………ッ」

 

「邪神の力が強大でも、オレは戦うッ! オレはこの命を活かして見せるッ!!」

 

 

龍騎はそのカードをゆっくりと自分の前に持ってくる。

龍騎の力は人の守る為にあるんだ。ならば戦ってみせる、守ってみせる。

それに誰だってそうだろう――ッ?

 

 

「戦わなければ、生き残れないッ!!」

 

 

龍騎はそのカードを裏返して土ぐもに見せた、燃え滾る炎の中で輝く翼が描かれたカードを。

 

 

「!」

 

 

ハッと、土ぐもは周りを見回してみる。

するとどうだろうか、いつの間にか景色が全く違うものへと変わっているではないか!

それは見渡す限りの炎。熱い、そして生命の輝きを知った炎だ。

 

 

「な、何をしたッ!」

 

「………」

 

 

陽炎に揺らめく中で、龍騎はその手を前に突き出す。

するとドラグレッダーの頭部を模したドラグバイザーが、炎に包まれてその姿を変えた。

その名も、"ドラグバイザーツバイ"へと!

 

 

「ッ!」

 

 

ドラグレッダーが咆哮を上げて龍騎の周りを飛び回り、彼を守る様に立ち振る舞った。

同時に鏡が割れる音が響き渡り、ドラグレッダーの手が、足が、そして胴体が次々に変化していく。

最後に頭部が砕けて、新たな姿を創りだした。それは革命、それは進化。

無双龍ドラグレッダーはこの瞬間、"烈火龍ドラグランザー"へと姿を変えた!

 

 

「オレは、人を守る為にライダーになったんだ――!」

 

 

龍騎はドラグランザーの頭部を模したツバイの口部分を開く。

そこにはカードが装填できる様になっており、龍騎はその部分に持っていたカード――

"サバイブ・烈火"を装填する。

 

 

「龍騎の力は、守る力なんだよ――ッ!」【サバイブ】

 

 

通常よりもエコーが掛かった音声と共に、龍騎の体が激しい炎に包まれていく。

その迫力に抵抗を忘れる土ぐも。激しく炎は燃える。まるでそれは命の様に――ッ!

 

 

「!」

 

 

炎が激しい音を立てて割れる。そして現れたのは――

 

 

「そして、生きる力だッ!」

 

 

仮面ライダー龍騎・サバイブ!

 

 

「く……ッ! グ――ッッ!!」

 

 

目の前から歩いてくる龍騎を見て土ぐもは大きく後ずさる。

なんて強い輝きを放つんだ、彼は抵抗の為の糸を発射するが――

糸は龍騎に簡単に引きちぎられる、それが当たり前であるかのように。

 

 

「ならば、仕方ないッ!」

 

 

土ぐもはついにその全ての力を解放して元の姿に戻る。

鬼の顔に虎のような胴体、そして強大な蜘蛛の足。土ぐもは咆哮を上げながら龍騎に突進していく。

 

 

「たった一人だ!」

 

「ッ?」

 

「たった一人守れないで、生きていく甲斐なんてねぇよなァアアッ!!」

 

 

龍騎は全身で土ぐもを真っ向から受け止めた。

巨大な土ぐもだったが龍騎に止められてその動きを完全に停止する。

 

 

「ッ!!」

 

「殴りかかる悲しみも、降りかかる恐怖もオレが全身で受け止めるッ!」

 

 

そして勝つ!

 

 

「ドラグランザァアアアアアアアア!!」【ガードベント】

 

 

龍騎の咆哮とドラグランザーの咆哮が重なる。

炎を尾に纏いしドラグランザーはその全身を使って龍騎を守る為に旋回した。

炎の旋風と衝撃が土ぐもを龍騎から引き離す事に成功、龍騎はそのまま飛び上がりドラグランザーの背中に乗こむ。

その姿はまさに龍騎士(ライダー)。龍騎はツバイのトリガーを引いて閃光の銃弾を土ぐもにと発射した。

 

 

「くッ!!」

 

 

だが安心する土ぐも、自分の防御力は完全に銃弾を無効化している様だった。

打ち込まれた感触も威力も何も感じない。そのまま土ぐもは龍騎を狙うが、彼もまたドラグランザーを指揮してその攻撃をかわしていく。

相変わらず龍騎は次々に銃弾を土ぐもに撃ち込んでいった、効いていない事に気がついていないのだろうか?

これならば勝てる。そう彼が思った時、龍騎は土ぐもと距離を取りドラグランザーの背中から飛び降りた。

 

 

「終わりだぜ、土ぐもッ!」【シュート・ベント】

 

「何ッ!?」

 

 

そう、土ぐもの誤算。

それは龍騎が撃ち込んでいった銃弾を攻撃の為だと思っていた事だ。

あれは攻撃じゃない、"マーカー"だったのだ。

 

 

「!!」

 

 

龍騎がカードを発動した瞬間、自分の体に浮かぶ紋章。

それは龍騎のライダーズ・クレスト、デッキに描かれている彼の紋章だった。

紋章が出現した部分は銃弾を打ち込まれた部分である。そして撃ち込まれた数だけ紋章が現れた、その数はざっと十数個はあるだろう。

ドラグランザーの咆哮と同時に、龍騎とドラグランザーの周りにその数だけの火球が出現。まさか、まさか――ッ!!

 

 

「いッッけええええええええええええ!!」

 

「う――ッ!! ウォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

飛来していく火球群。

土ぐもは人間態に変わると、糸を使って上空へ飛翔する。

襲い掛かる火球群はスピードこそあれど軌道は直進、なんとか全て回避する事に成功する。

 

 

「甘いッ!」

 

「!?」

 

 

そして土ぐもは見る。

その光景、火球が軌道を変えて自分に向ってくる様を!!

 

 

「しま――ッッ!!」

 

 

反応が遅れてしまい、そして――

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

次々に着弾していく火球、一発が当たり動きが鈍った彼に回避の術はない。

結局全ての火球が土ぐもに命中して、彼は地に落ちた。

 

 

「―――………」

 

 

土ぐもはゆっくりと龍騎を見上げる。

ドラグランザーと共に立つ彼の姿は、土ぐもにどう映ったのだろうか?

 

 

「私の……負けだ。どうか世界を――」

 

 

頼んだぞ、そう言って土ぐもは気絶。

 

 

「ああ、必ずな」

 

 

龍騎は変身を解除して土ぐもに頭を下げるのだった。

勝利は重く、だが決意もまた重く。条戸真志の周りを旋回するドラグレッダーの方向がやけに響いた気がする。

 

 

「やりました、真司さん!」

 

『ああ、見てたよ!』

 

 

カードを抱えて嬉しそうにはしゃぐ真志、そこへオートバジンに抱えられた拓真がやってくる。

再会して無事を確かめ合う、そして今起こっている事を大まかに二人は把握した。

ちなみに――

 

 

『よっ! 美歩ちゃん元気にしてた?』

 

「美穂さん!!」

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃん! 久しぶり!』

 

「ウノくん!!」

 

 

美歩も友里もそれぞれの世界で出会った人たちとコンタクトを取り事情を知った様だ。

各世界から多くの仲間が駆けつけて戦況は大きな変動を告げる、その中で今最も重要となるのはやはり鍵の行方だろう。

鍵持ちはほぼ全て倒し、それぞれはそれを再び双護へと鍵を収束させていく。

 

鍵の数は全部で四つ、瑠璃姫はブレイドが倒し、樹裏架はキバが、そして今自分達が追っていた鍵はファムが持っている。

つまり残る鍵はあと一つ、鬼河童が所持している物だ。彼と戦っているのはダブル、ゼノンとフルーラである。

ここでふと浮かぶ小さな疑問。クウガ達には桜が、アギト達にはアナザーアギトが、龍騎達には真司達が。

ファイズ達には村野とウノが、ブレイド達にはダイアナとクロハが、カブト達には神也達が、そしてキバにはイクサとサガが。

ならばダブルには誰が助けに来てくれるのだろうか? ディケイドや電王は仕方ないとしても、今のダブルは少しピンチの筈だ。

しかも鬼河童は七天夜、彼の状況を覆せる助っ人は来るのだろうか? 司達には思い当たる該当者はいない。

だがその人は、司達が出会ったことの無い人物だとすれば――

 

 

「おや、君が来るとは意外だったよ。てっきりボク達だけで何とかしないといけないかと思っていたからね」

 

 

そう言って笑うダブル、何と彼らは鬼河童達の目の前で変身を解除したではないか!

何という自殺行為なのか、いくら彼らが強くても変身を解除して七天夜である鬼河童に勝てる訳が無い。

だが、それはつまり逆に言えばもう戦う必要が無くなったと言う事でもある。

 

 

「くっ! なんだコレは!!」

 

 

無数の黒河童兵と鬼河童、彼らは目の前にあるオーロラに攻撃を阻まれて何もできない状況だった。

突如オーロラが鬼河童とゼノン達の間に現れて壁となったのだ。

ゼノンとフルーラは余裕の笑みを浮かべて跳躍、さらに河童兵達から距離を取る。

そして何よりの特徴はこの場に響き渡る美しいバイオリンの音色である。

 

 

「いつ聴いても素晴らしいものだね」

 

「ええ! 何て美しい音色なのかしら!」

 

 

確かに美しい音色だ、それは思わず鬼河童でさえ耳を傾けてしまう程に。

感情の無い黒河童兵達は構わず攻撃を続けているが、オーロラの前では全てが無力といっても良かった。

 

 

「クッ! 馬鹿な!! 村正の力でも壊せないのか――ッ!」

 

「それは少し違うよ、君の攻撃は当たってすらいないのさ」

 

「ッ?」

 

 

どういう事なのか?

しかしそれよりも先にオーロラが動き出して、この美しい音を響かせていた演奏者が姿を現す。

城から少し離れた外のこの場所に降り立つのは一つの伝説、その男は鬼河童側に現れた。

木の枝に立ち、尚もバイオリンを弾いている。

 

 

「新たな侵入者か――ッ!」

 

 

刀を構える鬼河童、だが男は涼しい顔で演奏を続けていた。

その内に演奏の終わりが来たのか最後に弾くような音を立ててフィニッシュを迎える。

男はずっと閉じていた目をゆっくりと開けていく。同時に襲い掛かる黒河童兵達の飛び道具、ボウガンや弓矢、チェーンが生身の男に襲い掛かるが――

刹那、黒い閃光がその攻撃を全て弾き飛ばした。

 

 

「客人である貴方が何故ここに?」

 

 

驚く鬼河童達を無視するフルーラの言葉、それに男軽い笑みを浮かべて答える。

 

 

「話はだいたい聴かせてもらった。野郎が捕まってるならほっとくが、花嫁って話なら事情は変わってくる」

 

 

女を悲しませる奴は誰であろうと俺の敵だ。

そう笑みを浮かべて男はその手を前に突き出した、そこへ先ほど男を守った黒い閃光が飛翔してくる。

つまり簡単な話し、手伝ってやると男は笑った。その行動を賞してなのかゼノンとフルーラは男に向かって大げさに頭を下げてみせる。

 

 

「ならばココはお任せするよ!!」

 

「ええ! ワタシ達にどうか活路を!!」

 

 

ゼノンとフルーラは腕を組み、もう片方の手で男を指し示した。

紹介しよう! 二人は声を揃えて鬼河童に男の名を告げる。尤も鬼河童にその名前を告げた所で知る筈はないのだが。

 

 

「「彼の名は――」」

 

 

(くれない)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「音也!!」」

 

 

大げさに声を張り上げるゼノンとフルーラ、彼らの先にはニヤリと軽い調子で笑っている男。

名は(くれない)音也(おとや)。そして彼を守っていたのは黒いキバット、キバットバット二世である。

突き出した手、そして音也の腰にはベルトが、それが意味するのはただ一つ。

彼もまた、仮面ライダーであると言うこと。

 

 

『絶望に囚われし苦悩の民か。いいだろう、絶滅タイムだ』

 

 

ガブリとキバットは音也の手に噛み付く。

同時に刻印が刻まれ、音也はその言葉を具現させる。

 

 

「来い、全員まとめて愛してやるよ。変身――ッ!」

 

 

その瞬間、鬼河童の回りにいた無数の黒河童兵が全て消し飛んだ。

文字通り全てが消し飛んだのだ、変身の際に発生する衝撃だけで。

驚く鬼河童、彼の前に存在するのは――

 

 

「悪いが男の相手をする時間は俺には無い。速攻で終わらせてやる」

 

 

闇のマントを翻して現れたのは仮面ライダーダークキバ。

いつの間にか手にあったバイオリンは消えており、それを演奏する為に使う剣は本当の剣に変わっていた。

ダークキバは木から飛び降りると真っ直ぐに鬼河童に向かって足を進める。

当然鬼河童も村正を構えて迎え撃つ準備を整えるが――

 

 

「おっと!」

 

「!!」

 

 

ダークキバは村正をかわすと、すぐに手をかざしてダークキバの紋章を出現させる。

それに鬼河童が触れた瞬間、彼は紋章に磔にされて拘束される。

鬼河童は衝撃で村正を放し、拘束を解除しようともがくが何の意味も成さない抵抗だった。

 

 

「クッ!! なんと言うパワー!」

 

「悪いな、終わりだ」

 

 

ダークキバは紋章を空に上げると、剣をまるで指揮棒の様に振るう。

すると一瞬で貼り付けにされている鬼河童の周りに無数の剣が出現する。

十なんてものじゃない、ひょっとすれば百はあるかもしれないと言う程の数だ。その剣先がそれぞれ皆鬼河童へと向けられている。

 

 

「ま、まさか――ッ!!」

 

 

コンダクターが紡ぐのは勝利の音のみ。

無数の剣はその終わりを待ち続けているだけにしか過ぎない。

それにそれはもう決まった確定事項、どれだけ鬼河童がもがこうとも拘束は破れず剣から逃げる事もまた――

 

 

不可能。

 

 

「あばよ、カッパちゃん」

 

「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ダークキバは鬼河童に背を向けると指を鳴らす。

それは終わりを告げるフィニッシュの合図、音とともに全ての剣達が鬼河童の元へと収束していく。

どうやら闇のエネルギーを固めた剣らしく、本当に物理的な剣が刺さっている訳では無い様だ。

しかし百もあるだろう剣達は鬼河童に突き刺さっていき、文字通り串刺しの画を完成させた。

 

 

「グ――……ッ! ガフ……ッッ!!」

 

 

薄れいく意識、鬼河童は自らの敗北を確信する。

自分はこの男に一瞬で敗北した、それは抵抗すら許さぬ絶対的な力の差。

なんという化け物か。まさか敵側にこんな桁違いの戦士がいたなどと。

 

 

「まさか――……七天夜である俺が……負ける――ッとはな……!」

 

 

串刺しの鬼河童は懐から鍵を取り出して、それをゼノンの方へと投げる。

どうやら完全に負けを認めた様だ。足掻くことはしない、それもまた彼のスタイルなのだろう。

ゼノンはそれを理解すると礼を言って鍵を受け取った、まるでその結末が本筋だと言わんばかりに。

 

 

「安心しろ、お前は強かった」

 

 

ダークキバは変身を解除してニヤリと笑う。

強かったとは言ったものの、自分が負けると言う事は一パーセントも考えていなかった様な素振り。

 

 

「だが俺は夜の支配者だからな、お前とはレベルが違う」

 

「成る程……俺の夜も支配された――……か」

 

 

ダークキバが変身を解除した事で闇の剣も同時に消滅。地に落ちる鬼河童、どうやらもう既に意識は失っている様だ。

ゼノンは彼を縛って適当な場所に寝かせておく。そして自らが招いた客人に改めて礼を告げた。

 

 

「気にするな、女がピンチなら俺は世界さえも超えていく男だからな」

 

 

そう言って笑ってみせる音也。

彼自身他の世界と言うものは珍しいらしく、先ほどからキョロキョロと辺りを見回している。

 

 

「ところで、どうだい? 君に送ったプレゼントは」

 

「まあまあだな、確かに変身にかかる負担は感じなかった」

 

「これからも君には働いてもらう事になるからね、これくらいは当然さ」

 

 

ゼノン達が音也に送った力は変身にかかる負担をなくす事。

これにより彼はダークキバへの変身を容易に行う事ができる。そして彼の隣にはキバットが、彼も他世界は珍しいようだ。

 

 

『まさか本当に他の世界と言うものが存在していたとはな』

 

「ええ。これで信じていただけたかしら?」

 

 

正直半信半疑だっただろう音也達、しかしこんな城や妖怪を見てしまえば疑う事もできないと言う物。

鬼河童をファンガイアだと言ういい訳も聞くわけ無い、他の種族から見ても該当しない物が多すぎる。

 

 

「ところで、他の奴等は?」

 

「まだだよ。君が一番乗り、他のメンバーもまだ誰も来ていない」

 

 

成る程ね、そう言って納得する音也。

しかしコチラの世界に来たのなら話は早い、目の前にある城に花嫁が閉じ込められている。

ならばさっさと進入して助けてやると彼は――

 

 

「!」

 

『これは……?』

 

 

だが音也が歩き出したとき、彼とキバットの体が透けていくではないか。

どういうことなのか? 音也もキバットも何かおかしな事をした記憶は無いが――?

答えはゼノンが口にする、ゼノンとしても少し予想外だったようだ。

 

 

「時間切れ……だね」

 

「は?」

 

「意外と速かったわねゼノン! まさかもうバイバイ、さよならー! なんて!!」

 

 

どうやら音也がこの世界に留まっていい時間がそろそろ過ぎる様だ。

これはナルタキが管理している時間でもある、それは野上良太郎やハナの様なケースを増やす訳には行かないと。

 

 

「音也、貴方はこの世界にとってはワタシ達よりも強力な異物として見られるのよ」

 

「成る程な、俺の輝きはこの世界には眩しすぎると?」

 

「全然違うけどね……」

 

 

愚痴る音也、彼は司達とは圧倒的に違う点がある。そう、彼は野上良太郎とタイプは同じだが司とは違うのだ。

このまま世界に残れば世界がおかしくなる可能性が出てくる、それは彼の世界でありこの世界であり――。

とにかく彼をこの世界に留めておくのは危険。ゼノン達側からすればこのまま音也に手伝ってもらいたいのは山々。

しかしだからと言って世界を無視する訳にもいかないだろう。ただでさえ良太郎のケースは賭けでもあったのだから。

と言う事で――

 

 

「ありがとう音也、先に戻ってくれ」

 

「やれやれ、時代が俺に追いつかない……いや追いつけないとは悲しい世の中だな」

 

「そうだね、困っちゃうね」(コイツ結構めんどくせーな)

 

 

まあいい、だったら後はお前らが何とかするんだな。

そう言って音也は未練など全く感じさせない様子で指を鳴らす。

現れるのは砂のオーロラ、彼とキバットはその中に迷う事無く足を進める。

最後に少し真面目な表情で音也はゼノンを見た。

 

 

「で? "あいつ等"はココにいるのか?」

 

「そうだねぇ、多分邪神もそうじゃないかとは思っているよ」

 

「貴方たちにはコレからもお世話になると思うわ。よろしくね!」

 

 

ウインクを決めるフルーラに音也もウインクで返すと、彼はそのままオーロラの中へと消えていった。

手を振って見送るフルーラと、少し不機嫌そうに顔を歪ませるゼノン。どうしたのだろうか?

首をかしげるフルーラ、しかし彼女はピンと閃いた様で――

 

 

「ゼノン! まさか嫉妬してくれているのかしら!!」

 

「と、当然だよフルーラ! 君の瞳にはボクだけを映していてほしいんだ」

 

「心配しないでゼノン! ワタシはどんなに時代が変わっても、世界が変わろうとも、たとえこの命がまた消えようとも貴方を想い続けるわ!」

 

「ふ、フルーラ!!」

 

「ゼノン!!」

 

「「愛しッッ『悪いが、早く鍵をくれ』………」」

 

 

ジト目で二人は理の欠片をのぞき込む。

今いい所だったのに、そんな二人の視線を受けるのは天王路双護。

彼の手にはほかのメンバーから受け取った鍵達がすでに一つの形を作っていた。

 

後はゼノン達の鍵を合わせれば全て完成されると言う訳。

二人はあれだけ盛り上がっていた雰囲気を打ち切ると、鍵を欠片を双護の手元へと送る。

資料室同じくカブトに任せておけばすぐに鍵を開ける事ができる筈だ。

以前はデンデンセンサーやトゥルーアイを使ったとしても七天夜の妖狐が妖術でアキラの場所を完全に隠していたので見つからなかった。

だが今はもう彼女は気絶して力は使えない。つまりそれはアキラの居場所がデンデンセンサーやトゥルーアイで発見可能と言う事、そして鍵はコチラにある。

 

そして兵力もまた逆転とまでは行かないが、土石流の様な勢いを見せて河童兵達に牙を向く。

ボスである鬼河童がやられ、また七天夜である妖狐も敗北した。もはやパニックになり一気に数で攻め込む河童兵や他の妖怪たちだったが――

 

 

「どけッ!!」『Rider Shooting』

 

 

神也と同じく収集されたメンバーである風島和希・ドレイクは、無数に迫る河童兵や妖怪の群れに必殺技を打ち込む。

吹き飛んでいく妖怪達にクロックアップを発動させたガタックとサソードが追撃の斬撃を刻み付けていった。

 

 

「腕は落ちていない様だな、安心したぜ鏡治!」

 

「むしろ強くなったんじゃない? 流石だね鏡治、僕も見習わないと」

 

「風島さんも神也も上々だぜ! ああそうさ!!」

 

 

鍵を双護に渡した後の目的は妖怪達の殲滅、アキラを守護する妖怪達をすこしでも倒しておく事だった。

コチラに増援が着たからなのか敵側も多くの妖怪たちを送りつけてきた。

はじめからこの数でくれば一気に勝負を決められたのかもしれないが……?

 

 

「君とは長い間いろいろな事をしてきたけど、一緒に戦うのは始めてかもね!」『Rider Slash』

 

「ああ、そうだな! 勉強もスポーツもお前には中々勝てないけど、今回は俺の舞台だぜ!!」『Rider Cutting』

 

 

青と紫の閃光が次々に妖怪たちを吹き飛ばしていく。

妖怪達のいずれもクロックアップには対抗できず、何もできないまま気絶させられていくのが摂理。

駆け抜ける閃光たちを止めようと次々に妖怪たちが湧いて出る、よくもまあココまで隠していたものだ。

怒涛の勢いで攻めてくるガタック達を止めようと妖怪たちは走り出した。

 

ダンスホールの様な部屋で彼らは舞う様に乱舞を刻む。

新たに現れるのは超巨大な妖怪・見上げ入道。その巨大な拳で殴られれば一撃で沈みそうなものだが――

 

 

「シュ――ッ! シュッ!!」

 

「グゴッ! ガガッ!!」

 

「ワン、ツーッ!」

 

 

はじけるような音と共に見上げ入道は後ろに後退。

彼の体に撃ち込まれていくのは重い拳、それを放つのは新たな侵入者。

見上げ入道は次々に打ち込まれる拳に耐え切れず滅茶苦茶に拳を振るった。もちろんそんな攻撃があたる訳もなく――

 

 

「雑魚がッ! 沈めッッ!!」『Rider Punch』

 

 

えぐり込むように光る拳が見上げ入道の胴体に刺さる。

山内俊英、パンチホッパーは地面をスライドして壁に激突する見上げ入道を見て少し笑みを浮かべた。

そんな彼の後ろでは的確に一人ずつ倒していく緑のインセクトが。

 

 

「どうした? お前ももっと派手にいけばいい」

 

「やれやれ、君と一緒にしないでもらえるかな。俺の旋律が乱れる」

 

 

落ち着きながらも静かに、そして激しく燃えるようなパンチホッパー。

彼と同じ雰囲気であるキックホッパーだ、変身者の名は想矢(そうや)(ぐるま)

司や鏡治達と直接的なつながりは無いと言ってもいい彼だが、洗脳を解いてくれた事には感謝しているらしい。

結果、彼もまたこの戦いに参加したと言う事だった。キックホッパーは確実に一人ずつ倒していくタイプの様。

だがただ倒すのではなく気絶させた河童兵や妖怪を壁として機能するように計算しており、戦況を自在に操っていく。

 

 

「終わりだ」『Rider Jump』『RIDER KICK』

 

 

しかしフィニッシュは壮大に。

まさにそれが彼の奏でる戦いの旋律、完全に調和された協奏曲なのだろう。

 

 

 

 

 

 

そして他の場所でも次々に妖怪たちが押されていく。

危機的状況の中に訪れた希望は彼らの心と力を大きく増大させていく!

 

 

『がんばれ! 友里姉ちゃん!』

 

「まっかせてよウノくん!」

 

 

別の場所ではエンゼルフォームに変わったデルタ達が妖怪を迎撃していた。

いくつものエデンズ達が織り成す光のシャワー、その中をアギトとアナザーアギトが駆け抜ける!

 

 

「炎よ集えッ!」

 

 

フレイムフォーム、抜刀と見切り、そして居合い切りで次々に妖怪を倒していくアギト。

アナザーアギトもまた体術で妖怪をなぎ倒していく、揺れるマフラー、もはや彼らを止められる者はいないのではないかと思わせる程の攻撃である。

 

 

『やったれよ美歩ちゃん!』

 

『ちょ、ちょっと落ち着けよ……』

 

 

そこへ到着したファム。

通信で美穂と北岡の声援を受けて彼女は蝶の様に舞い、そして蜂の様に妖怪たちを――

 

 

「おりゃああああああッッ!!」

 

 

刺す! この短時間で妖怪城に存在する兵力がゴリゴリと削られていくのを総大将たちは感じていた。

特に厄介なのはクロックアップを使うカブト組みと――

 

 

「た、大変ですぬらりひょん様ぁ!」

 

「どうした朱の盆、落ち着い――」

 

「新たに三十を超える兵を確認しました!!」

 

「なにッ!?」

 

 

いつの間にそんな兵を呼び寄せていたのか!?

考えられるのは横丁にいる妖怪達だが、偵察にいった妖怪が現れた侵入者群に妖怪達がなすすべなく敗北していったとの情報を受け取る。

つまり少なくとも戦闘経験が豊富、かつそれなりの実力者であると言う事だ。そんな兵力をいったいどこに隠していたというのか?

その集団はもの凄い勢いで妖怪達をねじ伏せて進んでいるらしい。思わず目を閉じる総大将、もしかするともしかするかもしれない。

流石にこのままでは少し危険と感じたか、総大将は少し早足で自室を後にするのだった。

 

 

ではその突如現れた戦闘集団とは一体何なのか?

答えは――

 

 

「続けッ!! 敵は我等に怯んでいるぞッッ!!」

 

 

ウォオオオオオオオオオオと吼える声が響く。

その先頭に立ち、剣を振り上げるのはキング、コーカサスビートルアンデッド!

彼の後ろにはカテゴリー2からQまでのアンデッドが実体化して進撃している。もちろんそれはスートスペードだけではない。

コーカサスビートルの隣ではダイアのカテゴリーK・ギラファアンデッドが双剣を振り回している所だ。

クラブとハートのキングであるタランチュラ、パラドキサもまた並列して場内を突き進んでいく。

背後には実体化した各スート、カテゴリーのアンデッド。この大群に流石の妖怪達も続々と敗退していく状況だった。

 

 

「すげーな……」

 

「そうだね、やっぱり彼らの実力は凄まじいよ」

 

 

アンデッド軍団の背後についていたブレイドが声をもらす。

この状況をつくったのはレンゲルのカードの一つ、リモートのカードだった。

その効果は一度カードに封印されたアンデッドを再び実体化させると言う物。

この力により四人のライダーに仕えるアンデッド達がほぼ全て実体化したのだ。

 

 

「このまま一気に深部まで突き進むッ! 何も恐れる事は無い、ワタシたちには最強の力がついているのだからな」

 

「その通りじゃ咲夜、皆の者、わらわに続けぇッ!!」

 

 

アンデッドとライダーはその言葉に同意を示すと、再び雄叫びを上げて走りだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況が大きく変わり、いよいよ戦いも終盤に差し掛かろうとした所。

ここで場面は四つの鍵を受け取った双護へと切り替わる。彼は今現在リラと朱雀と共に城の離れ、つまり亘達がいる場所にいた。

彼が亘のところへ駆けつけたときにはすでには決着はついており、真由達にも怪我は無いようなので安心だ。

 

 

「里奈ちゃんが……守って…くれたんだよ…!」

 

「そうか――」

 

 

双護は里奈に頭を下げる。いつも守ってもらうばかりの自分が、大きな力を持った彼に感謝される。

里奈としてはなんと自信のつく事だったろうか。

 

 

「ありがとう、里奈」

 

「はい! どういたしまして!!」

 

 

そして合流した彼らは送られてきた鍵を一つにまとめて資料室の様に一つの鍵として完成させる。

 

 

「前の時より綺麗なもんだな」

 

「数も一つ増えて、かつアキラが捕らえられている部屋だからな」

 

 

外にでる一同、里奈はイクサ達と久しぶりの再会を喜び合っている所だった。

双護は鍵をしまうとカブトへと変身、ガタキリバの分身やデンデンセンサーでアキラがいる部屋の道のりはだいたい把握している。

クロックアップもあればなんなく進む事ができるだろう、カブトは早速超高速の世界へと足を踏み入れ――

 

 

「見つけたぞ! カブトッ!!」

 

「!」

 

 

上空から声が聞こえたかと思うと、槍を持ったトカゲの様な妖怪がコチラに向かってきたではないか。

一瞬自分がクロックアップを発動しているのを忘れてしまった、つまり向こうも自分と同じスピードという事だ。

 

 

「お前は……確か――」

 

「韋駄天、参るッ!」

 

 

同じく高速で移動できる韋駄天、少し前に戦ってのはカブトの記憶にもあった。

彼はカブトに向かって舞う様に切りかかった。クナイガンを出現させて防御と回避を行うものの、コレは少し厄介な状況かもしれない。

韋駄天のスピードは本物、つまりコチラもクロックアップ状態でなければ倒せない事になる。もちろんコチラはいつまでもこの状態でいられる訳は無い。

まして鍵を早く開けなければならないのだ。韋駄天の相手をしている時間すら惜しいのだ。

 

 

「高速で移動するお前は我にとって何よりも目障りな障害、よって排除させてもらう!」

 

「やれやれ、俺も厄介な相手にモテるもんだな」

 

 

カブトはクナイガンで韋駄天の攻撃を受け止めると、そのまま流れる様に切りかかり射撃して距離をあける。

もうクロックアップの時間は消費されている。当初の計算は大きく狂い、このままではアキラを助ける事が無駄に長引いてしまう可能性がでてきた。

 

 

「貴様の持っている鍵は、我が頂く!」

 

「………」

 

 

しかも鍵狙いと来たか。

おそらくクロックアップが切れた状況ならば対処できずにかぎを奪われる可能性が非常に高い。

そうすれば、アキラへの道が途絶える事になる。それだけは絶対にさけなければならない。

ならば自分のとる選択は一つか、カブトは頷くと鍵を亘へと投げた。

 

 

「!」

 

「コイツは俺が何とかする。だから鍵は頼んだぞ」

 

「は、はい!」

 

「あと、真由達も連れて行ってくれ。コイツは中々厄介な相手かもしれない」

 

 

状況を理解する亘、ふと気がつけば新たな敵がいるではないか!

それがカブトと同じような能力を持っている事を悟ると、亘は鍵を受け継ぐ事を決意する。

イクサやサガも協力してくれる、夏美や里奈が危険になる事も無いはずだ。

 

 

「オレ達はどうする?」

 

「亘についてくれ。コイツは俺一人でいい」

 

 

了解する朱雀とリラ、そうと決まればすぐに出発だ。

亘達は鍵を持ってすぐに城の方向へ走りだす。だがそれは韋駄天視点からすれば当然遅く這う虫の様。

すぐに槍を構えて亘へと視線を移した。瞬間飛翔する韋駄天、もちろん亘達は対処する事ができない!

 

 

「我が逃がすと思うかッ!」

 

「ああ、俺が逃がす」『Put On』

 

 

亘へと振り下ろした槍がカブトの装甲によって防がれる。

何も無い空間から突如現れた装甲に怯む韋駄天、それだけでなく装甲はカブトの方向へと飛翔するではないか。

当然装甲の破片達は韋駄天に命中していき、彼は地面に倒れる事になる。

隙をつくれば即敗北につながるこの状況、韋駄天はすぐに立ち上がるが――

 

 

「クッ!」

 

「悪いな、俺達みたいなタイプは捕まれれば無力化される」

 

 

立ち上がった韋駄天の肩をガッチリとマスクドフォームのカブトはつかんでいた。

手にはクナイガン、カブトはそれを押し付けて引き金を引いた!

 

 

「グォオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

巨大なプラズマ弾が韋駄天を押し出していき、近くの木に叩きつける。

衝撃が韋駄天の行動を停止させ、その隙に亘達は一気に城の方向へと走り出した。

まずいと悟ったか、すぐに体勢を立て直す韋駄天。そんな彼に再び襲い掛かるのは強化されたクナイガンの銃弾だ。

 

 

「遅いッ!」

 

 

しかしやはり瞬間的にスピードを出せる韋駄天にとって、マスクドフォームでのクナイガンは取るに足らない武器。

威力こそあるが当たらなければ意味などは無い、カブトは再びキャストオフを発動させようと構える。

 

 

「ッ?」

 

 

そこで何かの気配が近づいてくるのをカブトは感じた。

地鳴りとは少し違うが、少し衝撃を感じながらその気配はだんだんとコチラに向かってくる。

何だ? カブトがその気配がする方向へと視線を移す、すると城壁に大きな亀裂が走ったではないか。

一本の亀裂はすぐに数本に変わり、そして――

 

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ッ!」

 

「ムッ!」

 

 

城壁が破壊されて姿を見せたのは巨大な骸骨の頭部、妖怪がしゃどくろ。

侵入者を排除する事に特化した妖怪が何故この場に? 疑問を持つカブトだが、すぐにがしゃどくろが誰かと戦闘中だと言う事に気がついた。

誰だ? カブトが目をこらすと見えたのは――

 

 

「きゃあ!」

 

「ッ! 大丈夫、ハナさん!」

 

 

がしゃどくろと一緒に落ちてきたのは良太郎とハナ。

二人はアキラの居場所を探している途中でがしゃどくろに見つかってしまった様だ。変身する前にがしゃどくろは二人に突進をしかけた。

なんとか回避には成功した二人だが、衝撃で外に放り出されてしまったとの事。やはり鍵を亘に渡したのは成功だったか。

カブトはつくづくそう考える。

 

 

「チッ、貴様は直々に排除してやりたかったが仕方ない」

 

「何ッ!」

 

 

韋駄天は腕輪から無数の鎖を発射すると、それをがしゃどくろに結びつける。

何をするつもりなのか? そう思ったがすぐに理解した、韋駄天はがしゃどくろを操り武器としたのだ。

 

 

「変身!」『SWORD・FORM』

 

「変身」『ALTAIR・FORM』

 

 

その隙に変身をすませる良太郎達、カブトも再びキャストオフを発動させようと構える。

だがそんな時にまたも邪魔するかの様ながしゃどくろの咆哮。口の中が青白く光り輝く、それはまさにそこから何かが放たれると言う事。

照準は電王達、当然電王達も防御の体制をとるが――

 

 

「させるものか――ッ!!」

 

 

加速する韋駄天、電王とゼロノスの防御をすばやく崩して無防備させる。

電王は確かに強力なスキルを多く習得したものの、クロックアップや素早い動きをする韋駄天の様な相手を対処できる明確なスキルはない。

もちろん他のメンバーでも十分戦えるのだが、良太郎は韋駄天の速さを知らなかった。

当然攻撃は直撃し、同時にがしゃどくろの口から放たれる青白い炎。

 

 

「キャストオフ!」『Cast Off』

 

 

カブトの装甲が一点に集中して放たれる。

装甲達は炎にぶつかると相殺してなんとか電王達を守るが――

 

 

「ムンッ!!」

 

「何ッ!」

 

 

韋駄天が鎖を振り回すと、クロックアップと同等のスピードでがしゃどくろが移動する。

どうやら鎖で繋ぐ事によってスピードを共有できる様だ、強大な力を持つがしゃどくろがスピードを手にしたのは厄介なもの。

時間が無いと言うこの状況で面倒なものだ、カブトはため息をついて状況を確認する。

 

そこでふと気がつく。

今現在、理の欠片を通して他世界からきた仲間達が協力してくれている。

各試練を行った世界だけでなく、詳しくは聞いていないがゼノン達もまた救援が駆けつけたとか。

自分は試練を行った世界からサソード達がやってきた。ならばふと浮かぶ疑問、それは電王は誰が来るのか――……だ。

 

 

「良太郎、理の欠片は光り輝いたのか?」

 

『うん、一応は……だけど誰もこないよ。ぼく達は試練をやってないし……』

 

「応援なんざ必要ねーよ。俺がまとめてクライマックスに――」

 

 

増援は望めないか、自分たちで何とかするしかない。

覚悟と決意をカブトが決めた時だ。それは、突然現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待たせたな、我が友よ』

 

「っ!?」

 

「あん? ってあらああああああああ!?」

 

 

大きく仰け反る電王、同時にモモタロスが弾き飛ばされて消えていく。

吹き上がる砂と共に、電王はその場にうつむいて動かなくなった。

だがふいに動き出す電王、彼はゆっくりとゼロノスに視線を移して手を差し伸べる。

 

 

「お怪我は? 姫」

 

「え!? あ、う……ううん! 大丈夫――って!!」

 

 

衝撃に目を見開くハナと良太郎。

首をかしげるカブトだったが、どうやら彼らにもまた確かなる絆は存在していたようだ。

それはまさに高貴なる存在、とでも言わんばかりに鳴り響く美しい音のオルゴール。同時に美しい白い羽が当たりに舞い落ちていく。

 

 

「おい、そこの下郎」

 

「ッ!」

 

 

ソードフォームが解除され、プラットフォームに変わる電王は威圧的なオーラを放出しながら韋駄天を指差す。

明らかに違っているのは声とベルト、いつものベルトではなく金色の装飾が目立つものに変わっていた。

そして鳴り響いているオルゴールが電子音だと言う事にカブトは気づく。そういえば良太郎から彼の話を聞いた事があった。

 

 

「姫を危険にさらした罪、償ってもらおうか。変身」『WING・FORM』

 

 

その名は――

 

 

『ど、どうしてここにいるの!?』

 

 

ジーク!

良太郎のその声と共に装着されていく装甲。

そして白鳥の鳴き声と共に巨大な翼が展開、羽を散らしながら翼は消滅して変わりに神々しく変身した新たなる電王の登場を告げる。

 

 

「降臨――! 満を持して」

 

「じ、ジーク!?」

 

 

白鳥のイマジン、ジーク。

常に良太郎の周りにいるモモタロス達とは違うが、彼もまた良太郎に味方するイマジンの一体である。

しかし本来ならば彼はココにいる筈の無い登場人物だ。良太郎はデンライナーに乗って一連の出来事に巻き込まれた。

その時のデンライナーにジークは乗っていないのだから。

 

 

『ジーク! ど、どうしてここに……?』

 

「良太郎、そなたの危険を知らされて私はココに来た」

 

「成る程、電王陣営の助っ人と言う事か」

 

 

カブトの言葉に電王は頷く。

ゼノン達はジークの居場所もしっかりと把握していた様だ。

彼はジークに良太郎とその仲間達が危険だから助けてくれないかと持ちかけた。

ちなみに彼は他の助っ人とは違いデータではなく実態として駆けつけた訳だが、それは電王組みにとっては何よりも重要なポイントだった。

 

 

『ジーク! 君は意味が分かってるの?』

 

「そうよジーク! わたし達の仲間になるって事は――」

 

 

電王組みにしか掛からない制圧。

それは薄々双護も気づいている事、ココでもしジークが仲間になればおそらく彼はもう二度と元の電王の世界には戻れない。

戻れなくなるのだという事、それはジークにとってどの程度の重さなのだろうか? それはカブト、双護には分からない事だ。

 

 

「構わない」

 

『え?』

 

「我が友が、愛する姫が、お供たちが、そしてその友人が苦しんでいると言うのならば……私はそなたの助けになろう」

 

「ジーク……」

 

 

電王はコチラの様子を伺っている韋駄天に向かって手招きを行う。

もう彼に迷いは無い、彼もまたこの物語に足を踏み入れたのだ。自らの世界、そして存在を賭けて。

どうやらその絆を失う事はジークにとって世界を捨てるだけの重さがあったらしい。

 

 

「いつかきっとまた、逢えると信じていた。たとえ約束が無くても――」

 

 

美しい記憶がある、それは良太郎の中に。

だからその記憶を傷つけようとする運命と戦う事を彼は決意した。

その物語を、書き換える為に!

 

 

『ジーク……うん! 行こう! ぼくたちのダブルアクションで皆を助けよう!』 

 

「ああ、そなたの誇りと、我が美を重ねて――」

 

 

二人の(いま)(みらい)が重なり合う。その時、この時空が白く染まった気がした。

電王は一枚の白い羽を、空に投げて静かに言い放つ。

 

 

「来い」

 

「いいだろう――ッ!!」

 

 

瞬間的に加速する韋駄天。

まずい! ジークは彼のスピードを知らない、良太郎はすぐに防御する様に言うが――

 

 

「ぐあッ!!」

 

『!』

 

「………」

 

 

その時だ。

なんと電王はクロックアップと同等のスピードである筈の韋駄天の攻撃をいなすと、カウンターの裏拳を叩き込んだではないか!

それだけでない、電王は両手を後ろに組みながら韋駄天の背後に回り、掌底を繰り出した。

 

 

『ジーク、まさか――!』

 

「その通り、新たに覚醒した我が白き力。とくと刻みこむがいい!」

 

 

サトリ戦で見せた電王チームの覚醒した力、それは何とジークにも与えられている物だった。

時空さえも染め上げる程の白、その一つはカブトやファイズアクセルと同じ超高速移動。

電王が最初に投げた一枚の羽、それが地面に落ちる間電王は韋駄天と同速になる。

最小限の動きでジークは韋駄天を押していき、すぐに形成を逆転させる。

 

 

「ッ! やっかいな!」

 

 

韋駄天は一度後ろに跳び、変わりに鎖に繋がれていたがしゃどくろを電王に向かわせる。

電王はしなやかな動きを見せていたが、流石にこの巨大ながしゃどくろに大してはカウンターもできない筈だ。

それが韋駄天の考えだったが、その瞬間電王はもう一つの能力を発動させた。

 

 

「私を見下すなッ! ええい! 頭が高い――ッッ!!」

 

 

ビシッ! と音がするごとく電王はがしゃどくろを指差した。

すると、あれだけ巨大だったがしゃどくろの大きさがみるみる小さくなっていくではないか。

それが白き力の一つ、収縮効果である。高貴な電王を見下す下賎な輩は許しておけない、ならば自らの手でひれ伏させるまで。

巨大ながしゃどくろは一瞬でバスケットボールサイズまで縮むと電王に弾き飛ばされる。

 

 

「ば、馬鹿なッ!!」

 

 

流石にコレには韋駄天も驚きを隠せない様だった。

怯んだ彼だが、その隙はあまりにも大きい様で――

 

 

「来い! エクステンダー!」

 

「しま――ッ! ぐああああッッ!!」

 

 

カブトはカブトエクステンダーを呼び韋駄天を跳ね飛ばす。

吹き飛ぶ韋駄天とキャストオフを発動するカブト、エクステンダーの外装が吹き飛び巨大な角が展開された。

それだけでは終わらない、カブトエクステンダーはカブトの脳派によって自動操縦が可能となる。彼は座席から跳び、巨大な角の部分に着地した。

そして跳ね上げる様に動くエクステンダー。カブトは角と言うジャンプ台から跳び上がると、クナイガンを連射しながら韋駄天の動きを止める。

 

 

「プットオン!」『Put On』

 

 

そこでプットオン、装甲がカブトに付与されて彼はマスクドフォームへと形態を戻した。

しめたと考える韋駄天、マスクドフォームならばどんな攻撃がこようとも回避できると確信したからだ。

 

 

『世界は――!』

 

「勝利は――!」

 

「『我(ぼく)らの為にッ!』」

 

 

だがもちろんそれを許す訳は無い。

電王はすでにデンガッシャーをブーメラン&ハンドアックスに変えており、パスをベルトへとかざした。

 

 

「我が力の前にひれ伏すが良い!」『FULL CHARGE』

 

 

白きエネルギーがデンガッシャーに満たされる。

電王は二対の武器を韋駄天とがしゃどくろに向かって投擲した!

ブーメランとハンドアックスは自ら意思を持つように複雑な軌道を描きながら何度も韋駄天達に命中していく。

 

 

「グァオオオオオッッ!!」

 

 

完全に動きが止まる二体。

対して空中にいるカブトはマスクドフォームのままベルト、つまりカブトゼクターに備えられているボタンを押した。

そして同時にクナイガンの引き金を引く!

 

 

『ONE』『KABUTO POWER』

 

 

普通ならば銃弾が発射されるのだが、一番目のボタンを押した後だと別の音声が流れたではないか。

 

 

「アバランチスラッシュ!」『AVALANCHE・SLASH』

 

 

エネルギーがカブトを経由してクナイガンへと供給される。

確実に大技がくると韋駄天は焦りを感じていた、だが電王の攻撃は未だに継続している。

せめてもの抵抗に韋駄天は槍をカブトに投擲しようと考えるが――

 

 

「ク――ッ! ウォォォオ……ッッ!!」

 

 

しかしカブトは太陽を背にしていた、韋駄天はカブトを狙うが太陽の光で彼の姿を直視する事ができない。

狙うことができないのならば、もう韋駄天に攻撃を回避する術は無く――

 

 

「「終わりだ!!」」

 

「グガァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

エネルギーを与えられたアックス、そしてブーメランとハンドアックスがWの文字を刻む。

マスクドフォームに与えられた必殺技アバランチスラッシュと、電王のロイアルスマッシュが同時に決まった。

それを受けて平気なわけは無い。がしゃどくろは吹き飛び動きを止め、韋駄天は爆発した後、破壊されたメモリと韋駄天だった人間に分離された。

 

 

「す、すごい! わたし何もせずに終わっちゃった……!」

 

「フッ、上出来だったな」

 

 

変身を解除するカブト達、そして良太郎の前にはジークが砂の形状となって立っていた。

 

 

『手羽野郎……お前』

 

 

モモタロスも現れてジークを見る。

双護には分からない重さ、ラインが彼らにはあるのだろう。

しかしジークは普段とまったく変わらない様子、モモタロスを確認すると久しぶりだなお供その一、などと言って振舞う。

しかし、最後に立った一言。

 

 

『たとえ世界が……いや、この世の全てが私の存在を拒絶したとしても……私は私の友を守る剣になろう』

 

「……うん! これからもよろしくねジーク!」

 

『けっ! うるさいのが増えてうんざりするぜ』

 

「その割には嬉しそうだね、モモタロス」

 

『はっ、うるせー!』

 

 

笑顔の良太郎を見て少しジークも笑って見せると、ギャーギャー騒ぐモモタロスと共に消えていくのだった。

そして妖怪城を見上げる双護、すでにコチラ側の増援によって妖怪達との実力差は埋まりつつある。

それにコチラはすでに鍵を手にしていると言うリード、これはもうすぐ詰める筈だ。

いよいよ最終章の幕開けとなる。双護達は頷くと再び城の中へ足を進めていった。

 

 

「さあ決着をつけるぞ。詰めだ、今度こそ必ずアキラを取り戻す!」

 

 

双護の言葉に良太郎とハナはうなずくと共に足を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 




一部レンストのフレーバーテキストを参考、と言うか引用させていただきました。


変更点の軽いまとめ。
オリジナル多いんで、たぶん一部終了時にキャラ紹介と別にライダー紹介も作る予定でございます。


・ファイズサウンダー

HBVに登場。
原作と違ってオートバジンが使うツールに。
あたりに拡散する衝撃波、クリムゾンレイを発射する。


・龍騎サバイブ

初代クラヒにあったポインター能力をアレンジ。
ダメージの無い光線《マーク》を相手に打ち込み、その数に比例して攻撃が強化される。
シュートベントの場合、打ち込んだ紋章の数だけ相手を追尾する火球が出現。
原作では最終フォームだったが……


・カブトマスクドフォーム

アバンランチスラッシュ、アバランチシュート、アバランチクラッシュの必殺技が発動可能。
ONE、TWO、THREEのそれぞれのボタンで発動する。


・電王ウイングフォーム

固有能力、白き力が追加。

・飛行能力
・一定時間超加速
・収縮能力の強化


このくらいですかね、ではでは

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