仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第3話 「破壊」

 

 

 

 

 

 

「おどうざん! おがあざん!」

 

 

顔をぐしゃぐしゃにして桜は泣きつづける。

数時間前まではあんなに笑顔だったのに、今は絶望と悲しみが生み出す涙があふれている。

やはりあの時にしっかりと注意していれば良かったのか? いや、注意していたとして今の状況をどうやって変える事ができるのか。

 

 

「ユウスケ……」

 

「え?」

 

 

薫の声が震えている。

ユウスケからは背中しか見えないが、きっと――

それを想像すればユウスケは再びどうしようもない無力感に襲われる。

 

 

「これが……世界が私たちに架した運命なのか…な?」

 

「………ッ」

 

 

やめてくれ、なにも答えられない。

なにか言おうとしてもそれが正しいのか分からなくて口を閉じる。

何を言っても間違っている気がして、ただ……ただ怖かった。

 

 

「だとしたら――」

 

 

薫はゆっくりと振り向く。

見たくないと顔を背けようとするが、視線が外れない。彼女の瞳がユウスケをしっかりと映す。

彼女のぬれた瞳が、ユウスケの心を深く抉った。

 

 

「……悲しいね」

 

 

薫もまた涙をながす。

最初は静かに泣いていたが、ついに桜と一緒に大きな声で泣き始めてしまう。

凄惨な光景は自分達に縁の無い物とばかり考えていたが、今はこうして何よりも近い位置に存在している。

そしてその光景はいずれ自分達の世界にくるものだと思えば、どうしても涙が溢れてしまった。

 

 

(なんで……)

 

 

もう二度と薫には泣いて欲しくなかった。笑っていてほしかった。

もちろんそれは桜にだって言える事だ。こんな純粋で未来に希望を見ている娘が悲しむ世界など――ッッ!

 

 

「……ッッ」

 

 

薫を泣かせない。薫の姉が死んだ時、泣き続ける薫になんにもしてやれなかった。

だからもう今度こそ泣かせない。そう誓ったのに――……今自分の目の前で二人が泣いている。

 

 

「うくぅ……―――ッ!」

 

「!?」

 

 

その時、急に桜が静かになった。薫が不思議に思って桜を見ると―――

 

 

「え……?」

 

 

桜の首には糸が巻きついている。

いや、腕、足、胴体。それら全てに糸があった。

食い込んではいない為、そこまできつくはないだろうが――もちろん、最初はそんな糸など存在していなかった。

 

 

「何……これ」

 

「お…ねえ――きゃああああああああああ!」

 

「「桜ちゃんッ!!」」

 

 

糸は桜を持ち上げ引き離す。

ユウスケは急いで糸の出所を探った。すると、この間のクモ男がいるではないか!

 

 

「ククククク、悪いな。人間は全て殺す事になっている。この少女も例外ではない!」

 

 

いつの間にかグロンギは人の言葉を話すようになっていた、クモ男は桜を抱えるとその首に爪を突きたてる。

そのまま少しでも力を込めれば子供の首など簡単に引き裂いてしまうだろう。

一瞬その最悪の映像が浮かんでしまい、ユウスケは絶叫に近い声を上げる。

 

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

こんな時五代雄介ならどうしてた!? 『五代』ならどう返していた?

決まってる、変身して戦う! でもダメだ、おれは――ッッ!!

 

 

「くくっ、いいだろう」

 

「え?」

 

「今から十分後にこの娘を殺す。場所はこの近くの教会、助けに来たければ来るがいい。ククク」

 

 

そう言ってクモ男は桜を抱えたまま消えて行った。

ユウスケは反射的に手を伸ばすが、すぐにその手を力なく下げる。

既にそのカウントダウンは始まっている。薫は頭を抱えておろおろと動くしかできなかった。

パニックになっているのだろう、涙を浮かべて辺りを動き回る。

 

 

「そんな――っっ! は、早く助けにッ! 司とか――ッッ!!」

 

「じゅ、十分じゃ合わない――……ッッ! あいつ等はソレが分かってるんだ」

 

「そ、そんなぁ……!」

 

 

薫はボロボロと涙をこぼす。

またなのか! ユウスケは拳を握り締める。また薫が泣いているのに――ッッ! 桜が苦しんでいるのにッッ!!

 

 

「五代さんッ、おれどうすれば――!」

 

 

教えてくれよ! 仮面ライダークウガならどうしていたんだよ!!

 

 

(駄目だ! 縋るな! おれの考えを持たないと!)

 

 

『誰かの涙は見たくない』

 

「ッ!」

 

 

ふと、五代の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 

「………」

 

 

昔、薫に向けて言った言葉。

いや正確には言葉にしてはいないが心の中でずっと思っていた言葉――

 

 

「薫が……桜ちゃんが泣いてるのは見たくない」

 

「え? ユウスケ?」

 

 

今日、桜にもらった飴の味を思い出す。

 

 

「………おれは――ッ」

 

 

ずっと五代雄介にならなければいけないと思っていた。

それがクウガとしてあるべき物だと、あるべき姿だと決め付けて。

だがそれじゃ意味はない、だっておれは五代さんじゃないんだから。

ユウスケは必死にその言葉を頭の中でリピートする。もう分かってるだろ? 完全に理解しただろ? 逃げられないって事くらい。

 

なら、いっそ前に向かえば何かが掴めるかもしれない。それ以外に道は無い。

そうだろ? 小野寺ユウスケ――

 

 

『誰かの』

 

 

もっと根本的な事を思い出す。

今のおれじゃ五代さんのハードルは越えられない。だったらもっとハードルを下げるんだ。

大切な事を思い出せ! おれは確かにクウガに変身こそできる。だけど本当におれはクウガ……いや、仮面ライダーになれたんだろうか?

 

 

「薫――」

 

「え?」

 

 

違う! スタートにすら立てていなかったのかもしれない。

ずっと五代さんの真似をすればいいと思っていただけだ。五代さんの『誰か』と、おれの『誰か』は全然違う。

おれの『誰か』は誰も思い浮べてなかった、ただの言い訳だ。同じ理由ですらない。

なら考えろ! おれはそもそも『誰の』笑顔を守りたいんだよッッ!

 

 

「薫……! おれが行ったらすぐに助けを呼んでくれ」

 

「行くって……まさかっ教会!?」

 

 

ユウスケは倒れているトライチェイサーを起こし、またがる。

 

 

「し、死んじゃうわ!」

 

「それでも――……」

 

 

ユウスケは薫に笑いかける。

 

 

「泣いて欲しくない人がいるから」

 

「待っ――」

 

 

トライチェイサーで走り去るユウスケ。

 

 

「そんな…ユウスケ……ッ! 無茶よ!!」

 

 

彼を死なせる訳にはいかない。

薫は助けを呼ぶ為に携帯を取り出す。しかしその時だった、二つの声が薫の耳を貫く。

 

 

「『その必要はないよ」』

 

「!?」

 

 

刹那、桜の両親の動きを封じていた瓦礫の山が消し飛んだ。だが両親に怪我は無い。

瓦礫だけが文字通り消し飛んだのだ。目を丸くする薫と耳にしつこく残る二重の高笑い。

 

 

「さあ、こちらのお二人を運んで差し上げるんだ」『スタッグ』

 

 

突如電子音と共に現れたのはクワガタの形をした小さなマシン。

しかしその小さなマシンは桜の両親を担ぎ上げ、空へと飛んでいく。

 

 

「君達の学校に連れて行ったよ、知っているかな? 

 あそこの保健室には治療マシンがあるんだ。君達のちっぽけな常識じゃ考えられないようなマシンがね」

 

 

薫が振り向くと、そこには体はシンメトリーだが色がアシンメトリーの人物が立っていた。

 

 

「だ、ダブル!」

 

 

司から聞いていたダブル、ゼノンとフルーラの二人組み。

謎だらけの二人だが、桜の両親を助けてくれた所を見ると敵ではない様だ――

 

 

「あ……ありがとう」

 

『お礼は後でいいわ。それより今は教会に行くほうがいいのではないかしら?』

 

「そ、そうだ! ユウスケ!」

 

 

ダブルは小さく笑うと指を鳴らす。

するとどこからともなく巨大な車、ビークルマシン・リボルギャリーが現れ薫の目の前に止まる。

ダブルは薫に乗るよう促すと、また小さく笑った。

 

 

「決意無き者に覚醒は訪れない」

 

「え?」

 

『言葉ではどうとでも言えるわ、思いの強さが力になるの。彼は……悟ったのかしらね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン、と言う音と共に教会の扉が開く。

光を背にして、小野寺ユウスケは一歩足を教会へと踏み入れた。

それはもう逃げないと言う証、チリつく殺意の中でユウスケは表情を変えずにまっすぐ敵の姿を見た。

 

 

「きたか、リント」

 

「ほぅ……成る程、先日のリントか」

 

 

教会の中には四人のグロンギがいた。

先日逃げたクモ、イカ、ハチ。それに加えバッタもいる。

そしてその奥には桜が気を失っていた、幸いまだ怪我はしていない様で呼吸も落ち着いている。

 

 

「おれさぁ」

 

 

その言葉は誰に向けた物なのだろうか?

 

グロンギ?

 

薫?

 

桜?

 

それとも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分?

ユウスケは白のクウガ、グローイングフォームへと変身する。

 

 

「ずっと…迷ってたんだ――」

 

 

それぞれのグロンギは戦闘態勢に入る。それでも尚、クウガは言葉を続けた。

 

 

「世界を守るとか、人を救うとか…分からないんだよね――っ!」

 

 

肩に鋭い痛みが走る。

見ると針が刺さっていた、だが恐怖は無い。彼は尚足を進めていく。

 

 

「だからさ……今はまず『誰』とかじゃなくて大切な友達とか――」

 

 

イカが炎を纏った墨を発射してくる。

それはクウガの腹部に着弾し、猛烈な痛みと衝撃を走らせた。

 

 

「ぐ――ッッ!! と、友達とかさぁッッ……大切な……人の為に――ッッ!」

 

 

クウガは走り出す。

もはやこれは戦いですらない、殺し合いなのだろう。

 

 

「うらぁあああああああああああッッ!」

 

 

決して綺麗とはいえない戦い方。

無茶苦茶に殴ったり、相手の足を掴んだり、とにかく無茶苦茶だった。

当然すぐに形成は逆転される。蹴られ、殴られ、弾丸を受け、射抜かれる。

 

 

「ぐわああああああああああッッ!」

 

 

グロンギに弾かれ変身が解かれてしまう。

恐怖が、痛みが襲ってくるがユウスケはそれを言葉で塗り消した。

手に力を込めて、ただ立ち上がる為に動く。

 

戦え、守るために。

戦え、生きるために。

戦え、傷つけるために。

 

 

「あぐ……ッァ!! は、ははは! 何度だって…変身して……やるよッ!」

 

「もういい、死ね」

 

 

飽きた、そう言わんばかりにハチ男がユウスケに照準を合わせる。

ベルトを出現させる前に射抜けば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウスケ!」

 

と、その時、また扉の開く音がした。

 

 

「薫!?」

 

「……ッ!」

 

 

ハチ男は標的を薫に変え針を発射する。

しかし薫はそれを紙一重でよけ、もう一度ユウスケの名前を呼んだ。

その言葉がユウスケの目に再び光を灯らせる!

 

 

「待て! まずはコイツから血祭りにしてやる!」

 

 

クモ男はユウスケの首を掴むと、締め上げる。

ユウスケは苦痛に顔を歪めたが、すぐにしっかりと――

 

 

笑った。

 

 

「薫! おれは……ずっと五代さんみたいにヒーローにならなくちゃいけないって思ってた!

 人を助ける仮面ライダークウガ! でも違うんだよ、違ったんだよッッ!!」

 

「そのシチュエーションは揃ったよ!」

 

「今こそ覚醒の時はきたのよ!」

 

 

突然、教会の上層部から声が聞こえる。

グロンギ達、ユウスケがそこを見るとゼノンとフルーラがこちらを見ているではないか。

相変わらずニヤついている彼らは、ユウスケに視線を合わせて声を張り上げる!

 

 

「さあ、小野寺ユウスケ! 場面は"本物"のクウガ、五代と同じだ!」

 

「教会での覚醒! なんて素晴らしいの!」

 

 

二人はユウスケに微笑みかける。しかしユウスケはゆっくりと首をふった。

 

 

「違うんだよッ! 五代さんと一緒じゃ意味無いんだ! 本物じゃ……五代さんになろうとしちゃ駄目なんだ!!」

 

「ほう! それは何故!?」

 

 

ニヤつくゼノン、ユウスケは力強く声を上げる。

 

 

「おれは! こんな奴等の為に、これ以上誰かの涙は見たくない――とかッ!」

 

 

ユウスケの心音がこちらにまで聞こえてきそうだった。

クモ男はユウスケを殺そうとするが、なぜか出来ない。殺気とは違う何かにさえぎられている様で。

 

 

「皆に笑顔でいて欲しい――とかぁッ!

 そんなカッコいい事は言えない! おれは何もかも弱いから! だけど――……っ! だけどぉおおおッッ!!」

 

「くっ――っ!」

 

 

この瞬間、クモ男、"ズ・グムン・バ"は確かな恐怖を感じた。

殺そうとするが殺せない、そのジレンマがより恐怖をリアルなものにする。

このままでは危険だと! そして、ユウスケの瞳の奥――ッ、そこにクウガの紋章が輝く!!

 

 

「せめておれが! せめておれの知っている人達にはこんな事で泣いてほしくない!」

 

 

ユウスケはクモ男の腕を掴む。

引き剥がそうとするが――やはり、できなかった。

 

 

「おれは弱いかも知れない! 五代さんみたいにはなれないかもしれないぃッ!

 だけどなァああッ! おれの好きな人たちを泣かせるっていうなら―――ッッ!!」

 

 

ユウスケはベルトを、アークルを出現させる。

ズ・グムン・バは彼の眼を直視できない。そうだ、彼は確かにユウスケに怯えているのだ!

 

 

「ゆるさねええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

「!?」

 

 

ユウスケはユウスケの理由でクウガにならなくてはならない。

どの様な理由であろうと、彼自身が決めた理由で。その言葉にゼノンは無邪気に笑う。

 

 

「ほぅ! 五代とは同一であり異端であると?」

 

「おれは五代雄介じゃない! 小野寺ユウスケなんだ! 変身ッッ!」

 

 

ベルトの中央が激しい赤の旋風を巻き起こしクウガに変身する。

しかし今までの白ではない、赤いクウガがそこにはいた。誰かの為に戦う英雄でなく、まずはそこに居る人の為に。

五代ではなく自分としての決意。その自分なりの解釈が精神にアクセルをかけ、グローイングからの脱却を果たす!

 

 

「祝福を! 邪悪なる者あらば、希望の霊石を身に付け、炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり!」

 

「なれた……ッ! マイティフォーム!」

 

「ぐっ!」

 

 

クウガはズ・グムン・バの手を掴むとそのまま引き離す。さらに司の言っていた通り戦い方がある程度頭に直接流れ込んでくる。

あの時はできなかったが今は楽にできた。それだけじゃない、体が軽くなり反撃してきたズ・グムン・バの軌道が手にとるように分かった。

となればカウンターの一撃を叩き込むッ!!

 

 

「おらッ!」

 

「グおおおッッ!!」

 

 

一発殴る。

あの時は効いていなかったのに、ズ・グムン・バは物凄い勢いで吹っ飛ぶじゃないか。

ユウスケは、クウガは己の拳をグッと握り締める。強化されても殴ると言う行為には痛みを感じた。

しかしこの行為が大切な者を守る為の痛みならば、今は喜んで引き受けようじゃないか!

 

 

「うおおおおおおおおッッ!」

 

 

驚くグロンギ達を尻目にズ・グムン・バ一点に狙いを絞るクウガ。

 

 

「これで――ッッ」

 

 

ズ・グムン・バの肩を掴む。

そしてそのまま至近距離でのとび蹴りを喰らわせた。

マイティキック、これが彼のライダーキックだ。

 

 

「終わりだあああああああああああああッッ!!!」

 

「ぐっ! ワアアアアアアアアアア!」

 

 

炎を纏ってさらにズ・グムン・バは後ずさる。

蹴った所にクウガの紋章が浮かび上がる。それをズ・グムン・バは信じられないといった表情で見ていた。

何故ッ? 先程までその男はサンドバッグだった筈、それなのに負ける!?

クウガの紋章を中心にしてエネルギーが広がっていく。炎のヒビがグロンギの体に敗北の刻印を刻み付け、終焉の時を与えた。

 

 

「ば――ッ 馬鹿な……!! こんな、こんな事がァァァァァアアアアア!」

 

 

爆発。その衝撃で他のグロンギ達は我に返った。

目の前にいるのは弱い人間ではない、油断すれば死ぬ。

 

 

「お、おのれっ!」

 

「殺せ! 奴は危険だッッ!」

 

 

バッタ、イカ、ハチがクウガを取り囲む。

バッタは動きが素早く、クウガに攻撃しては離れ、また攻撃をする連続。

クウガも応戦しようとするがスピードが速い上にイカの墨が動きを封じる。

しかもこの墨は中々に威力があり、当たれば仰け反らずにはいられない程の衝撃だった。

そして一定時間おきに飛んでくる針、攻撃しているハチは飛翔して攻撃があたらない。

クウガは未だ圧倒的不利な状況だった。

 

 

「くそっ!」

 

 

薫はそれをただ見ている事しかできない、そんな状況に理不尽さを感じる。

 

 

「どうしてユウスケだけが苦しまなくっちゃいけないのよ!」

 

「本当にそう思うのかい?」

 

「え!」

 

 

後ろを振り向くといつのまにかゼノン達がいた。

彼らが言った、本当にそう思うのか?

 

 

「空野薫、あなたは既に舞台にあがるチケットをお持ちのはずだわ。覚えていないかしら?」

 

「え……ッ?」

 

「くくく、ボク等は君を傍観者とは思っていない。

 君はいつでも舞台に上がれるのさ、なんのためにチケットを渡したと思っているんだい?」

 

 

薫の体に衝撃が走る。

それに合わせてゼノンは言った、前回のクウガは『一人』だから敗北したのだと。

ならば、次は『二人』ならどうだろう?

 

 

「邪悪なる者あらば、その技を無に帰し、流水の如く邪悪を薙ぎ払う戦士あり……クスクス」

 

「そう……か! そうだ! なんで気がつかなかったんだろう!」

 

 

薫は自らの指に輝く指輪を撫でた。イメージリング、それは彼らが薫に渡したモノ。

ゼノン達も薫が気づいた事を悟ったか、クスクスと楽しそうに笑っていた。

 

 

「ゼノン君! コレの使い方って分かる?」

 

「念じればいいだけさ。そうすれば念じたものに姿を変えられる」

 

「でもね気をつけて、命ある者には姿は変えられないわ。

 それにビルとかそう言う巨大な物も無理、あくまで貴女の精神力が保つ範囲のものでないとダメ」

 

「上等! ありがとうね!」

 

 

そして彼女は走り出した。真っ直ぐにクウガの所へ!

 

 

「ユウスケ!」

 

「かっ、薫!? あ、危ない! きちゃダメ――」

 

 

その言葉は無視。

薫はグロンギの攻撃を掻き分けてクウガに抱きついた。

何の力も持たない彼女が戦闘の中に突っ込むなんて自殺行為もいいところだ。

当然グロンギ達の狙いは彼女に変わる。彼女を狙う事で彼女をかばおうとするクウガにもダメージを与えられるからだ。

 

 

「クッ!」

 

 

クウガはその思惑通り薫をかばう様にして立った。

だが薫は逃げるどころか逆にクウガに詰め寄る。その行動に混乱するクウガ。

できれば一刻も早くここから離れてもらいたいのだが――

 

 

「薫! お前何やって!」

 

「ユウスケ! 私をッ、使いなさい!」

 

「は?」

 

「へっ、変身!」『イメージ』『プリーズ』

 

 

おかしな音声がしたと思えば薫の体が、薫のつけていた指輪が光り輝く。

そしてみるみる彼女はその姿を変えていき、綺麗な装飾のロッドに変わった。

 

 

「へ? へ? ええええええええええええ!?」

 

『いいから! 早く! アンタ、司から話聞いたんでしょ! クウガの!』

 

「………あ!」

 

 

針が飛んでくる。

が、クウガはロッドで素早くソレを弾いた。そう言う事か!

 

 

「い、痛い?」

 

『全然! 早く!』

 

「ああ! 超変身!」

 

 

ベルトが青く光ったと思うと、クウガの色もまた青に変わる。

スピード、特にジャンプ力に特化した"ドラゴンフォーム"。クウガは周りの物で武器を精製しなければならなかった。

だが薫の力があればそれはとても楽になると言う訳だ。さっそくと言うべきか、薫の姿はクウガの力でドラゴンロッドへと変わる。

 

 

「くっ!」

 

 

バッタの所まで一気にジャンプ、先程は早いと思っていたバッタもドラゴンに変わると遅く感じる。

墨も針も避けるのが楽に感じた。ロッドを振ればシャンシャンと澄んだ音を立てて次々にグロンギの体を打ち貫く。

長いリーチのロッドから繰り出される連続攻撃は、まさに水流のごとく。

 

 

「止めだ!」

 

「ぬアアアアアッッ!」

 

 

ロッドで渾身の一突きを決める。

スプラッシュドラゴン、キックと同じく打ち込んだ所にクウガの紋章が現れバッタは爆散した。

 

 

「くそっ! 貴様は何なんだ!」

 

 

今のクウガは確実に危険だ、イカ男がとにかくダメージを与えようと無茶苦茶に墨を連射してくる。

その様子を滑稽だとゼノン達は笑った。そして声高らかに叫びをあげる。

 

 

「邪悪なる者あらば、鋼の鎧を身に付け、地割れの如く邪悪を斬り裂く戦士あり!!」

 

「薫!」

 

『分かってるって!』

 

『「超変身!」』

 

 

ベルトが重量感のある音を放ち、紫のクウガ・タイタンフォームに変わる。

重厚な鎧が追加された事で防御力が格段にあがり、墨を喰らってもなにも感じない。

クウガは剣に姿を変えた薫を構えゆっくりとイカ男の方に歩いていく。

その姿はまさに――処刑人と呼ぶにふさわしい。

 

 

「来るな!来るなァァァ!」

 

 

イカは墨を撃ちまくるがクウガの足取りが止まる事はない。

薫をタイタンソードへ変換させて確実にグロンギへと近づいていく。

一歩彼が歩くごとに鎧や剣が立てる重々しい音が響いた。

 

 

「グッ! ヌウウアアアアアア!」

 

 

特大の墨を発射、そして着弾。爆煙が巻き起こりクウガの姿を隠す。

グロンギ、メ・ギイガ・ギはクウガを倒したと油断する。

しかし――

 

 

「ゴォオオオッ!?」

 

 

イカの腹部から剣が文字通り生える。

いや、クウガの持っていた剣がメ・ギイガ・ギを貫いたのだ。

カラミティタイタン、タイタンフォームの必殺技だった。

 

 

「コッチはな……遊びじゃないんだよ!」

 

『あんたらがゲームの道具としてしか見てない私達にもねぇ、人生ってモンがあんのよ!』

 

「グアァァアア――ッッ! ば、ばかなぁぁぁあ」

 

「人間を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ナメるな」』

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

クウガが剣を引き抜くとグロンギは爆発する。

ハチは自分に勝ち目は無いと悟ったのか上空に飛翔し逃走をはかった。

対照的にテンションをあげていくゼノンとフルーラ、最後のシーンがもうすぐやってくる!

 

 

「さあ、クライマックスを!

 邪悪なる者あらば、その姿を彼方より知りて、疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり!!」

 

「薫、ペガサスだ!」

 

「はい!」

 

『「超変身!」』

 

 

薫は自らを銃に変身させる。緑のクウガ、ペガサスフォーム。

視覚、聴力が上がり、集中していてもユウスケの実力では三十秒を超えると能力がコントロールできなくなってしまう。

 

 

「見える――ッ!」

 

 

ハチは既に豆粒程のサイズまで小さくなっていたが、クウガには関係無い。

その複眼にしっかりとハチの姿を捉えていた。ならば、ペガサスボウガンへ精錬させた薫を引き絞る。

 

 

『「ブラスト……ペガサスッ!」』

 

 

二人同時に放つ声、瞬間風の弓矢がハチを捉える。

断末魔さえ上げることなくハチは木っ端微塵に砕けた。

 

 

「やった……!」

 

『勝ったのね!』

 

「ああ! やったんだよおれ達!!」

 

 

変身を解く二人。そこに拍手が聞こえてくる。

 

 

「おめでとう、素晴らしかったよ」

 

「おめでとう! 素晴らしかったわ!」

 

 

ゼノンとフルーラが賞賛の拍手を送っていた。

ゼノンは桜を抱えていて二人はすぐに駆け寄る。桜は無事のようだ、薫は安心してその場にへたり込む。

 

 

「見事クウガに覚醒したようだね、見てごらん。影が戻っている」

 

 

その言葉通りユウスケの影はユウスケ本人の物へと戻っていた。

どうやらきちんと変身できれば影は元に戻るらしい。

 

 

「ははは……まだまだ醜い戦い方だけどね。これから頑張るよ」

 

 

ユウスケは自重ぎみに笑う。

 

 

「あら! 何を言っているのかしら!

 あなたの信念は立派だったわ、それを笑う者の方がよほど滑稽よ。先程の貴方はとてもカッコよかったわ!」

 

「その通りさユウスケ、君は強い。もちろん薫、君もね」

 

「蛍や蝶、カブト虫の幼虫をご存知かしら?

 最初は不細工でも成長すれば誰もが認め求めるようになるわ。あなた達も同じよ、これから成長すればいいの」

 

「あ、ありがとう!」

 

 

なんだ。司はウザイとか言ってたけどむしろ全然いい奴じゃないか!

そう二人は思う。どうやら大きな誤解があった様だ、二人は少し目を潤ませてゼノン達に笑みを返す。

 

 

「さあ、ユウスケ、薫! 君達にはまだやらなければならない事がある。そうだろう!」

 

 

二人は頷き合う。

 

 

「桜ちゃんはワタシ達が責任をもって学校へお送りするわ。

 さあ貴方達は舞台の幕に本当のフィナーレをお送りしなければ!」

 

「ゼノン君、フルーラちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! ゼノン!」

 

 

いきなりフルーラが何かを思い出したかのような顔をする。

ユウスケ達は大事な話かと身を強張らせた。

 

 

「さっきユウスケにカッコいいとか言ったけど、アレはゼノンの一億分の一程度だからね?」

 

「「……は?」」

 

「そうだったのかい! あははは! いやー、実は少しへこんでいたんだよ」

 

「私はゼノン以外の男になんか興味はないわ! ユウスケはゼノンに比べればカスの様なものなの! ゼノンはどう?」

 

「わかっているよフルーラ。ボクも君以外の女性なんかアウトオブ眼中さ。薫? 正直、耳クソと見分けがつかないね」

 

「まあゼノン――!!」

 

「フルーラ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇユウスケ――」

 

「ん……?」

 

 

走るトライチェイサー。二人の表情はどこか曇ってる。

 

 

「やっぱりさ、少し……ううん、けっこうウザかったね――っ」

 

「ああ、いや、かなり……うん、まあ」

 

「ユウスケは……私と耳クソの見分け――つく?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、黙るな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわぁ!」

 

『ククク! そんなものなのか貴様の力は』

 

「く……っ!」『アタックライド――ブラスト!』

 

 

大いなる闇は小さく笑い指を鳴らす。

すると黒い風が巻き起こり、ディケイドの銃弾を吹き飛ばした。

銃弾は四散し、その内の数発はディケイドへと着弾する。倒れ転がるディケイドを大いなる闇は無言でジッと見ているだけだった。

 

 

「くっ、グロンギ達の儀式で現れただけの事はあるか……ッッ! クウガは三回見たけどお前みたいな奴見た事ないぜ」

 

『ディケイド……と言ったか?』

 

「っ!」

 

 

大いなる闇が一瞬でディケイドの眼前に移動する。そして一、二発拳を叩き込むとさらに言葉を続けた。

全く攻撃が見えなかった、ディケイドは完全に押されている。彼は火花を散らしながらヨロヨロと後退していくしかできない。

 

 

『貴様も私も、世界にとって有害な物なのかもしれんな……ククク――』

 

「はぁ? 訳わかんねぇ!」『アタックライド』『スラッシュ!』

 

 

ブッカーを剣に変えて切りかかった。

しかしそれも軽くいなされて逆にカウンターを決められてしまう。

どうやら力の差は大きい様で、既に足がふらついているディケイド。

そして呼吸一つ乱していない大いなる闇。恐ろしいのが、大いなる闇はまだ生まれたばかりだと言う事だ。

人間で言うならば言葉も話せず、立つことすらできない赤ん坊と戦っている様なもの。

 

なのに、自分は負けている。

大いなる闇、ン・ガミオ・ゼダ。その本当の実力は想像するだけで恐ろしい――

同時に倒すならば今しかない、二人が戦っているのは崩れかけたビルのヘリポート。

そしてその下では電王が無数のグロンギ達と戦っていた。

 

 

「むんッッ! はッ!!」

 

 

アックスフォームは自慢の斧でグロンギ達を次々に葬っていく。

どうやら耐久力は無いのか、一撃で消滅するグロンギ。

とはいえ空中にいるグロンギ達には対抗できず、キンタロスは渋々紫のボタンを押した。

 

 

「やったー! ぼくの出番だぁ!」『GUN・FORM』

 

 

ガンフォームに変わる電王。

ステップを踏みながら銃で次々にグロンギを撃ち落していく。

しかし地上にもまだまだグロンギ達は残っている。銃と言う性質上あまり乱戦は向かない様で――

 

 

「あーあ、もっと遊びたかったのに! んもー!」『ROD・FORM』

 

 

リュウタロスは渋々ウラタロスに交代する。

直後、ロッドフォームはクスリと笑いロッドを振り回した。リーチの長い攻撃は回りにいたグロンギ達を弾き、地面へと倒させる。

 

 

「さぁて……そろそろ決めるかな」『FULL CHARGE』

 

 

ライダーパスをベルトにかざし、エネルギーを集中させる。そして電王は地面にロッドを突き刺した。

するとロッドは地面に吸い込まれるように消え、代わりに巨大な六角形のエネルギーを展開させていく。

エネルギーの中にいるグロンギ達は皆動きが止まり、苦しそうにもがく。

どうやら陣に拘束されているようだ。電王はまた軽く笑うと、その場で踵落としを繰り出した。

その結果、エネルギー陣はガラスの様に割れグロンギ達は衝撃で一気に爆発して消滅する。

 

 

「やっぱり僕ってつよ――ってうわぁああ!」

 

 

いきなり空から黒い巨大な弾丸が降ってきて、地面に着弾し爆発。

その爆風で電王は吹き飛び、同時に変身も解けてしまった。転がる良太郎、何が起こった!? すぐに体制を立て直し辺りを見回す。

 

 

『だっ、大丈夫良太郎?』

 

「う、うん。……あ!」

 

 

弾丸だと思っていたのは闇の炎に覆われたディケイドだった。

さすがにあの高さから落ちたのだから苦しそうにうめいている。

ダメージは大きく、ディケイドは仰向けに寝転んだままため息をつく。

 

 

「はぁ……くそ――……ッ!」

 

『ククク! 破壊者よ、その程度ではこの大いなる闇は崩せぬぞ』

 

 

大いなる闇は上空でディケイドを見下すように浮遊していた。

彼は両手にエネルギーを集中させる、どうやら大きい一撃が来そうだ。

回避したいところだが、まだ体が思うように動かない――!

 

 

「逃げて司く―――ッッ!?」

 

 

良太郎がディケイドを助ける為に足を踏み出す、だがその時鋭い痛みを感じ立ち止ってしまう。

どうやら先程の爆発で足を怪我してしまったようだ。

無理に歩こうとして良太郎はその場に倒れてしまう。

 

 

『終わりだ、死ねッッ!』

 

 

立ち上がろうとするディケイドに闇のエネルギーが襲い掛かる。

ヘリポートから地面まではすこし距離がある為、避けようとすれば避けれたがまだ体が麻痺して動けなかった。

あと二十秒程で着弾するだろう、ディケイドは避けるのを止めて防御の姿勢をとった。

だがその時、そこにバイクの音が響き渡る。それは以前とは逆のシチュエーション!

 

 

「ちょっと待ったぁあああああああああああああああッッ!!」

 

「「ユウスケ(さん)薫(さん)!」」

 

「『超変身ッ!』」

 

 

ドラゴンフォームになり猛スピードでディケイドの前に走っていく。

そして着弾、物凄い爆発がおこり良太郎は思わず目を瞑る。無事なのか? 相当大きな爆発だったが――

 

 

『ほう……耐えるのか!』

 

 

爆煙が晴れ、そこにいたのはクウガ・タイタンフォーム。

彼はディケイドを庇うようにして立っていた。

 

 

「ゆ、ユウスケ! お前変身できたんだな!」

 

「ああ! おれには決意が足りなかったんだ。

 五代さんの真似をすればいいと思ってた。でも今は違う、おれはおれの決意で大切な人の為に戦う!!」

 

 

立ち上がるディケイド。

それを防ぐために大いなる闇は黒い弾丸を無数に発射した。

しかしそれら全て、タイタンフォームの前に無効化されていく!

もちろん、いくら防御力が高いとは言え全く痛みを感じない訳が無い。

それなのに一行に怯まないクウガ。大いなる闇に疑問が浮かぶ、なぜ彼はそんなにまで戦おうとするのだろう?

 

 

『ヌゥゥゥ! 貴様等……何故戦うのだ? リント共を守る為か? だとしたら実に愚かな選択だな!』

 

 

理解しがたい、それは実に愚かな行為だと大いなる闇は唸りを上げた。

 

 

『リント、人間など守る価値など皆無! 自らの利欲の為、他の者を貶め、争いを絶やさない低俗な生き物よ!

 いらんのだ、この世界を支配するのは我々グロンギでいい!!』

 

「それでも……それでも笑っていて欲しい人がいる!」

 

『何ッ?』

 

 

クウガの言葉に大いなる闇は攻撃のチャージを一時中断する。

彼にとって、この話しはとても興味深い物だったのかもしれない。

低俗な人間を生かしてほしいと行動するクウガ、それは大いなる闇には全く理解できない物でもあり、同時に興味をそそらせる対象でもあった。

 

 

「泣いて欲しくない人がいる! 確かに人間はお前等から見たら馬鹿な生き物かもしれないさ!」

 

 

人間から見る虫の様なものなのかもしれない。

彼らにとっては誰が死に誰が生きようが同じに見える事なのかもしれない。

 

 

「でもおれ達は生きてるんだ!

 その人生のなかで出会った大切な人が笑っていられる為に、おれは戦う! その人たちの笑顔を守る為にッッ!!」

 

 

その言葉に薫も強く頷き、言葉を、意見を彼に合わせた。

 

 

「人間が皆腐ってると思ったら大間違いよ! たしかにアンタの言ってる事は正しいかも知れないわ」

 

 

しかし十人中九人が腐ってても一人が輝いていたらその時点でアンタの考えを否定しなきゃならない!

薫は力強くそう叫んだ。目の色を変える大いなる闇、人は人を評価し尊重しあう事もできる。

だがやはり世界にとっては不要な存在、ガミオは薫たちの意見を鼻で笑う。しかしそれでも薫はひるまない。

 

 

「その一人が幸せに死ねるまで、世界は……人間は滅びちゃいけない!

 私たちはこの世界でその一人に出会った、だからアンタのやる事を全力で邪魔させてもらうわ!」

 

『愚かなッ! ならば闇に消えるがいい!』

 

 

迷う無く言い放つ言葉。

ただ恐怖するだけが人間ではないか、大いなる闇はその意外性がおもしろくなかった。

同時に、それに恐怖していたのかもしれない。

 

 

「お前ら……」

 

 

そしてその言葉に影響を受けたのは大いなる闇だけではない。

ディケイドもまた彼らの考えを聞いて自分の思いを確立させていく。

 

 

「じゃあそうだな。こいつ等が俺達の笑顔を守ってくれるって言うんなら、俺はこいつ等の笑顔を守ってみせる!」

 

『何!?』

 

 

守る者がいるのなら、その守る者を守る存在も必要だ。自分達は弱い、それは実力も精神も。

大いなる闇を止められることはディケイドにもクウガにも、最悪電王にも無理かもしれない。

だがそれは一人ならではの話。電王が、クウガが、そしてディケイドが力を合わせればこの最悪の状況を壊す事ができる筈だ。

そう、破壊することができる!

 

 

「知ってるか? 人間の笑顔は、悪くないぜ――ッ!」

 

「ははっ、何だよそれ、ははは」

 

 

その意思を固めた時、ライドブッカーが光り輝き中からカードが飛び出してくる。

それは無地になっていたクウガのカード。だが今は確かにクウガが描かれているではないか!

 

 

『き、貴様等! 一体何者だ!?』

 

 

大いなる闇も、そこで彼らの違和感に気がついた。

力でも精神でもない、彼らから感じる明確な違和感。思わず大いなる闇も問いかけようと言うもの。

 

 

「仮面ライダークウガ!」

 

「……の武器!」

 

 

ユウスケ、クウガと薫は答え。

そしてディケイドは開放されたカードをディケイドライバーに装填させた!

 

 

「俺は破壊者なんだろ? だったら俺は――」『ファイナルフォームライド――』

 

『!』

 

「この世界の涙を破壊するッ!」『ククククウガ!』

 

 

クウガの体が光り輝くと、同時に姿が変化していく。

それは巨大なクワガタの様な姿で――

 

 

『おわっ! 何だこれ!』

 

「クウガゴウラム、俺もお前も能力は頭の中に入ってきただろ? 後は好きな様に動け!」

 

 

"クウガゴウラム"・その情報がユウスケの脳に叩き込まれる。

これは希望の力! 勝利の可能性――ッ!!

 

 

『分かった! 薫!』

 

「うっしゃ!」

 

 

薫は銃に変身し、ゴウラムの背中に乗る(?)

それは乗ると言うよりセットと言ったほうが近いが……

飛翔するゴウラム。それを良太郎は希望に満ちた表情で見ていた。

 

 

『良太郎、僕等はどうする?』

 

「まかせよう……多分コレは彼等の戦いだから」

 

 

そう言って良太郎達はゆっくりと下がっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フン、茶番はもういい! 消えろッッ!』

 

大いなる闇はヘリポートを引き剥がし、クウガたちの方へと投げる。

巨大なヘリポートは圧倒的だが、ゴウラムは恐れることなく突っ込んでいく!

クウガゴウラムもそれなりの大きさではあるがヘリポートはもっと巨大だ、さすがに無謀な突撃に見えるが――

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!』

 

 

ゴウラムの角がヘリポートを真っ二つに引き裂いて進んでいく。

大いなる闇はそれを見ても表情を変えることなく闇のエネルギーを発射していた。

予想通りではあったのだろう。ゴウラムから感じる力を見るにヘリポートで止められるなど彼も思っていなかった。

目くらましからの連射、しかしそれもゴウラム回避か防御し大いなる闇の所へと着実に突き進む。

 

 

『変身!』

 

 

屋上へ着くとゴウラムからクウガに変身する。

薫は銃のままベルトにセットされて、とりあえずは安心だ。

 

 

『ふん……』

 

「………」

 

 

ヘリポートが剥がされた為に屋上はボロボロだが、なんとかその形を保っていた。

人が立つ分には問題無いだろう。そこにクウガと大いなる闇は互いに対峙し合う。

時が止まったかと錯覚するほどの沈黙がながれ、やがてクウガが走り出した!

 

 

「はああああッ!」

 

『ゼア――ッッ!』

 

 

クウガの拳を大いなる闇は楽々と受け止める。直感的に悟る実力の差、しかしクウガは攻撃を止めない。

止めるわけにはいかない! クウガの力がある限り、自分は人の笑顔を諦める訳にはいかないのだから!

 

 

「超変身!」

 

 

ドラゴンフォームに変わり素早いロッド攻撃を仕掛ける。

ロッドを振るう度にシャンっと美しい音が流れる中で隙を作らぬ程の連撃、しかしコレも先程と同様すぐに見切られ反撃を受けてしまった。

 

 

「ぐあ……ッ!」

 

『無駄だ、あきらめろ!』

 

「あきらめるのは……死んでからでいいッ! 超変身!!」

 

 

タイタンフォームに変わるクウガ。

すぐにタイタンソードを振るう。

 

 

『馬鹿な奴だ! ――ムッ!?』

 

 

大いなる闇はそれを回避しつつクウガとは全く関係ない方向に障壁を展開させる。

するとそこに無数の銃弾が浴びせられた。

 

 

「ちっ!」

 

 

屋上の入り口からディケイドが現れる。

どうやら敵はいち早く彼の気配に気づいていた様だ。奇襲の銃弾は失敗に終わってしまった。

 

 

「おっと、卑怯なんて言うなよ。お前等だってグロンギの大群で襲ってきただろうが!」

 

『ふん、貴様等程度、何人増えようが同じ事よ!』

 

「言ってくれるな!!」

 

 

ライドブッカーをソードにかえて切りかかり、クウガもまたタイタンソードで応戦する。

二人で攻撃を繰り出して行けばなんとかダメージを与えられる筈だ。

現に初めて大いなる闇の体に傷をつける事ができた、攻撃力の高い双方に大いなる闇は少し押され始める。

 

 

『無駄だァッ!!』

 

 

大いなる闇は、エネルギーを爆発させ二人に発射する。

これはまずい! クウガは剣を投げ、ディケイドを守る為に両手を広げ前に立った。

そして攻撃を真っ向から受ける!!

 

 

「ユウスケ!」

 

「タイタンの硬さをなめてもらっちゃ困るなぁ! ……くぅッ!」

 

『ハハハハ! 終わりだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

 

と、その時、大いなる闇の視界が真っ暗になる。

何が起こったのか? 余りにも唐突で大いなる闇は攻撃を止めてしまう。

だがすぐに理解する。誰かに――……目をふさがれたという事にッ!!

 

 

「だーれだっ!」

 

 

暗黒の視界で確かに聞こえる声と足に走る衝撃。

そして、理解した。

 

 

『あの時! 剣を投げたのはこの為かぁあああああ!』

 

 

薫は全身の力を込めた蹴りで大いなる闇のバランスを崩す。

一瞬でしかなかったが、それと同時にディケイドの剣が深く腹部に突き刺さった。

 

 

『ぐッッ!! ガァアアアアアアアアア!!』

 

 

薫はジャンプで二人を飛び越えると同時に剣に変身し、そしてクウガの手に納まる。

タイタンソードに変わる薫。同時に叫び、走り出すクウガ!!

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 

『おのれえぇぇぇぇぇええええッ!』

 

 

カラミティタイタン! タイタンソードが大いなる闇を刺し貫くッ!!

 

 

『あ――……グッッ!! ガフ――ッ!』

 

 

黒い血を流しながら、大いなる闇は二人の剣を掴んだ。

 

 

『まだ――ッ終わらん……ゾォォォォ!』

 

 

突如黒い嵐が巻き起こり、クウガやディケイドをビルごと吹き飛ばす。

巨大なビルだったが、黒い嵐によってその形はバラバラに変わってしまった。

 

 

「うっおおおお!?」

 

 

崩れ落ちる瓦礫の山、大いなる闇はその中でクウガの姿を発見する。

空中ではうまく身動きがとれないだろう。再びゴウラムに変わる前に決着を――!!

 

 

『死ぬがいいッッ!』

 

 

大いなる闇はクウガの所まで一気に飛翔し、その首を掴んだ。

あとはこのまま闇を最大でぶつければ――

 

 

『死――……』

 

 

ふと、腰の方に目をやる。

クウガの……ベルトが―――

 

 

『しまったッッ!! 貴様、破壊者かッッ!!』

 

「正解!」

 

 

光と共にクウガはディケイドに戻る。

カメンライド、ベルトでしか本物と偽者を判断できない。

大いなる闇もまたクウガとディケイドの違いに気付くのが遅れたのだ。ならば本物はどこに――!?

 

 

「どこだと思う!?」

 

『何っ!? ――ぐわアアアアアッ!!』

 

 

突如背後からの衝撃、振り返ればクウガゴウラムが大いなる闇をしっかりと掴んでいた。

ディケイドはそれを確認すると、カードをベルトに放り込む。

 

 

『ファイナル・アタックライド――ククククウガ!』

 

 

ゴウラムの角が光る。大いなる闇は危険を感じ、必死の抵抗に入った。

しかしどんなにもがいてもゴウラムは大いなる闇を離さない!

 

 

『くっ、何故離れん!!』

 

『離さない様にしてるからだ! お前はココで終わりなんだよ!』

 

「ああ、そのとおりだ!」『ファイナル・アタックライド――』

 

 

先に地面へ着地したディケイド。自らもまた必殺技を発動させた。

 

 

『ディディディディケイド!』

 

 

ディケイドとゴウラムの間にホログラムカードが出現していく。

重力を無視するがホログラムカードに吸い寄せられて行く為、斜め上に飛び蹴りができる様になっている。

 

 

「うォオオオオオオッッッ!!!」

 

『はぁああああああああッッ!』

 

『ぐっぉぉおぉおお……ッッ!!』

 

「『やぁああああああああああああああああああッッ!!』」

 

 

ゴウラムとディケイドのダブルアタック、ディケイドアサルトが直撃する。

二つの力は爆発的な破壊力をもたらし、闇を破壊する希望となるのだ!

 

 

「リントォォォ……み、見事だ――ッ! 闇が…破壊……ッされるッッ!

 ガァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」

 

 

大いなる闇は両手を空に伸ばし、そして爆発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから二日後、町はボロボロだったが今は少しずつ前の姿を取り戻していた。

グロンギ達も全て消え去り、平和な時が再びやってこようとしている。

これから少し時間はかかるかもしれないが、きっとまた元の様な世界に戻ってくれるだろう。

 

 

「兄貴! ただいまー」

 

「翼さん!」

 

「あ、ユウスケ、薫ちゃん!」

 

 

翼は校庭でジュースを飲んでいた所、二人の姿を確認する。

二人共元気に手をふっており、翼も思わず吹き出してしまった。

 

 

「あはは、お別れはしてきたかい?」

 

「ああ、できればもう少しいたかったけどね」

 

 

ユウスケと薫はこの二日間桜とずっと一緒に過ごしていた。

桜の両親はすこし入院すればいいだけで、命に別状は無いようだ。

しかしその間に桜が寂しがるといけないから、二人には家に行ってもらったと言う事だ。

二人も乗り気だったし、桜とはいい時間を過ごしてきたみたいで安心する。

 

 

「絵が……変わったんだって?」

 

 

翼は頷く。

じつは今日の朝、放送室の電子黒板の絵柄が変わったのだ。

おそらくそんなにしない内に別の世界へ移動する……と言う考察から、二人には午前中の内に帰ってきてもらった。

 

 

「そう言えばさ、薫ちゃんはクウガを見ていたのかい?

 聞けばその指輪の使い方がクウガの為にと言えるらしかったから」

 

 

その言葉に、薫は顔を赤くして下を向いてしまった。

そんなおかしい事を言っただろうか? 翼には分からなかったが――

 

薫はゴニョゴニョとなにか呟く。

 

 

「いやぁ……私も、その…ユウスケの力になりたかったから……司にクウガの話何回も…聞いて」

 

 

成る程。

でも結果的には薫はユウスケにとって大切なパートナーになったんだから、それは凄い事だと翼は思う。

 

 

「ははっ、薫……」

 

 

ユウスケが右手を薫に差し出した。

目を丸くする薫、微笑む翼。

 

 

「これからも一緒に戦ってくれないか?」

 

「え! あ! あははは、もちろんオーケーオーケー、ハハハ!」

 

 

薫は恥ずかしそうにその手を握った。

翼は思う、昔に比べて薫は大分笑うようになった。その原因にユウスケがいるなら兄として鼻が高いってもんだろう。

 

 

「おにいちゃーん! おねえちゃーん!」

 

「「え?」」

 

 

ふと声がして翼たちは振り向く。校庭の向こうには桜が立っているじゃないか!

 

 

「え? おれたちが見えてる?」

 

「いや、多分それは無いと思うけど……」

 

「また会おうねぇー!」

 

 

桜はニッコリと笑って手を振った。子供ながらの勘だったのだろうか?

しかしユウスケと薫は、しっかりと親指を立てるサムズアップを決めて桜に笑いかけた。

五代と同じ、でもどこか違う。そんな感じで。

 

 

「あ……!」

 

 

学校の周りが光りで満たされる。空間移動が始まったのだ。

お別れは辛いが生きていればきっとまたいつか――

 

 

「そう言えばさ、次はだれが選ばれたんだ?」

 

「ああ、それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お前無理はするなよ……」

 

「大丈夫、分かってるっつうの兄さん」

 

 

亘が自分の影を見ながら苦笑する。

先程までの聖亘と言う影ではなく、今は仮面ライダーキバとしての姿がそこにあった。

電子黒板には闇夜に浮かぶ月と、交差する二つの旗が写っている。亘は深呼吸して椅子に座る。

嫌な汗が出てくるものだ、そんな彼を気遣ってか里奈が優しく声をかけた。

 

 

「亘君……」

 

「大丈夫さ里奈ちゃん。ボクは――……大丈夫」

 

 

光が晴れていく。

亘は震える手を隠して、静かに笑ったのだった。

 

 




はい、と言うわけでちょっと短めでしたが一番最初のクウガの試練はこれで終わりです。
序盤はちょっと原作意識でいきますが、途中からはほぼオリジナル展開になりますのでご了承ください。

まあ次は明日にでも予約投稿を試す感じでいこうかなと思ってます。
なるべく更新はしたいけど、ちょっと明確な更新の日とかはなしで不定期に更新していこうと思います。

ではでは

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