仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第46話 The tear of compassion

 

 

 

「悪いね花嫁さん、このまま大人しく喰われてよッ!」

 

 

妖狐はアキラを抱えながらそう諭す。

やはり同じ女として何か感じる事があるのだろう、アキラの涙を流す姿を見て何か複雑な想いがあるのだろうか。

尤もだからと言って響鬼側に味方をすると言う事はありえない、せめて一刻も早く死が彼女の苦しみを無くしてくれるようにするだけだ。

 

 

「チッ! しつこいっての……ッ!!」

 

 

先ほどからしつこく自分の後を追ってくるディスクアニマルに妖狐は苛立っていた。

何度破壊する気で攻撃しただろうか? どうやらこのディスクアニマルと言うものは響鬼を倒さない限り死なないらしい。

何度攻撃しても彼らはアキラを助ける為に自分に攻撃をしかけてくる。

 

 

「鬱陶しいね!」

 

 

そして感じる妖力、確実に寝子達が近づいてきている。

白澤の制止を振り切ったのか、鬼の力をどうやって手に入れたかはしらないが危険な侵入者である事は変わりない。

 

余談だが、あまりイメージこそ無いものの響鬼というのは平成ライダーの中ではほぼ一番速いと言っても間違いではない。

もちろんクロックアップやアクセルフォームを持っているカブト、ファイズに比べれば劣ってしまう事は事実。

彼には龍騎やブレイドの様にスピードを上げる方法も無いので陰に埋もれてしまう訳だ。

だが、もし何の力も発動しなかった場合は響鬼はトップクラスの素早さを身に着けている。瞬発的なものとは少し違う速度と言うべきか。

とにかく一度スピードに乗った響鬼は速い、もちろん妖狐よりもだ。まして同じクラスの猫娘もいる。

河童兵の妨害も考えたが、いかんせん数が少なかった。そうなってくると当然待っている結果は一つ。

 

 

「おいッ! 止まれッ!!」

 

「見つけた! アキラちゃん!!」

 

「………チッ!」

 

 

妖怪城一階はさほど入り組んだ構造ではない、直線的な通路が多いと言うのは今妖狐がいる所も同じだ。

なんとか庭をイメージしたホールまでは辿りついたが、そこで完全に響鬼達に追いつかれる形となった。

 

 

「河童兵! 花嫁を守れ!」

 

 

どこからともなく湧いてくる河童兵達は、妖狐の命令に従いアキラを響鬼達から隠す様にして立ちはだかる。

舌打ちをこぼす響鬼、まだ彼はアキラの姿を完全に確認できていなかった。早く彼女の無事を確かめたいと言うのに――ッ!

 

 

「早くアキラさんをッ!」

 

 

走り出す響鬼、だが忘れてはいけない事が一つ。

 

 

「させる訳ないだろ!」

 

 

妖狐、彼女は七天夜――妖怪達のトップに君臨する集団の一人なのだ。

白澤は迷いと甘えがあったから本調子ではなかったからいいものを。悪いが、自分は手加減するつもりなどさらさらない。

 

 

「!」

 

 

アキラを助ける為走りだした響鬼だったが、その体へ一瞬にして妖狐の髪が絡みつく。

呆気に取られる響鬼だが、次に気がついた時は自分の体が持ち上げられていた所だった。

妖狐の髪は伸縮自在、おまけに頑丈な強度を誇っている様だ。ワイヤーの様に巻きつく彼女の美しい髪は、響鬼を壁や地面に何度も叩きつけていく。

助けなければ。猫娘は爪を立てて髪を切り裂こうとするが、妖狐がそれを黙って見ているわけがない。

彼女は寝子の懐へと近づくと体術で彼女を押していった、見た目に反して蹴りの勢いが尋常じゃない。猫娘も思わず怯んでしまうほどだ。

所詮妖怪横丁や我流で戦闘スタイルを磨いてきただけにしか過ぎない。

 

だが妖狐はこの世界を守護する妖怪として経験を詰んできた。言い方は悪いが猫娘はケンカレベルなのに対して妖狐は武術レベルなのだ。

やはりその差は大きい、当然寝子は歯が立たずに響鬼共々投げ飛ばされてしまった。

 

 

「河童兵!」

 

 

妖狐の命令に従いチェーンを持った河童兵達が前に出る。

とにかく動きを封じてしまえば後はそのまま花嫁を連れて逃げればいい。

 

 

「くそッ!!」

 

「きゃあ!」

 

 

妖狐の狙い通りチェーンでぐるぐる巻きにされた響鬼と猫娘。

つぎつぎと新たなチェーンが投擲され、響鬼達の動きは鈍っていく。

焦っているのか、響鬼は必死にチェーンを打ち破ろうと力を込めていた。

しかし河童兵のとび蹴りが頻繁に飛んでくるので思うように力を込められてない様だ。

 

 

「どけッ!! どけェエエエエエエッッ!!」

 

 

叫ぶ響鬼、ニヤリと笑う妖狐。

残念だが焦りと怒りは力こそ上がれど、戦略と先頭において最も重要な立ち回りの判断を鈍らせる。

猫娘はサポートに回られるのが厄介なだけであって単体ならば何の問題もない。ましてそんな状況にあると言うのにココで響鬼の錯乱化。

もう終わりの様だ、妖狐は再びアキラを連れて行く為に踵を返した。

 

 

「ん?」

 

 

そこで気がつく、目の前に赤い小さな珠が浮いているではないか。

よく見れば鬼の頭部を模したデザインの様だが――何だコレは?

 

 

「爆裂火炎鼓」

 

「!」

 

 

あまりにも淡々と言い放つその言葉、同時に妖狐は忘れてはいけない存在を忘れていた事を思い出す。

もしかしたら忘れていたのではなく考える余裕が無かったとも言えるだろう。それほどまでに響鬼達を恐れていたとでも言うのか。

自分ならば忘れるわけはない。そう、彼女は先ほどまで自分を追いかけていたディスクアニマルを完全に忘れていた。

 

いや、それも少し違うか。現に茜鷹と緑大猿は視界に少しでも入ればすぐに対処できた筈だ。

だが、瑠璃狼が持つ同化能力。これは完全に予測できなかった範囲である。

 

 

「うっああぁあッッ!!??」

 

 

透明になっていた彼が加えていたのは炎の力が凝縮された爆裂火炎鼓だった。

鼓と言う名がついているだけはあるのか、太鼓を力強く叩く音と共に爆裂火炎鼓は破裂する。

瑠璃狼が噛み砕いたのだろう、炎の力が至近距離で妖狐に襲い掛かった。

 

しかもどういう原理かは知らないが、この炎は味方に当たっても何のダメージも与えないらしい。

近くにいたアキラには何の効果も成さず、妖狐だけは熱に身を悶えながら後退していく。

 

 

「焦りは判断力を鈍らせますよ」

 

「ッ!?」

 

 

先ほどの激高が嘘の様に響鬼は冷静だった。

いや、そうか! 妖狐は歯を食いしばる。今までのは全て演技だったと言う訳だ。

響鬼はあえて激情した様に振る舞いコチラを油断させていたのか。

 

それを証明するように響鬼と猫娘は一瞬でチェーンの拘束を解除した。

手順は簡単、まず河童兵達を茜鷹が怯ませ、その隙に緑大猿が二人を縛る鎖を引きちぎる。

それだけ、それだけなのだ。あれだけ響鬼が焦っていた様にみえた攻撃も一瞬で解除されてしまった。

 

 

(なんてヤツ――ッ!)

 

 

音撃と炎の力を凝縮させただけはある、爆裂火炎鼓の威力と衝撃は凄まじいもの。

七天夜の妖狐を怯ませただけでも十分すぎる程、それだけの隙があれば勝敗を決するには十分だ。

 

 

「決める!」

 

「!」

 

 

響鬼はベルトから音撃鼓を取り外し、それを投げた。

予想外の攻撃が続き妖狐も対処が遅れてしまう。音撃鼓はそのままなんの障害もなく妖狐にヒットして展開を始めた。

 

 

「しまッ!!」

 

 

自分の防御力はそれほど高くない。

このまま音撃打を叩き込まれれば負ける! 妖狐は抵抗を試みるが拘束が外れる様子も無い。

鬼の力は妖怪にとって天敵の様なもの、特殊な耐性があるのか? それも加わり妖狐は解除が遅れる事になる。

 

響鬼の位置を考えれば確実に打ち込まれてしまうではないか、妖狐はせめてもの抵抗に防御力を上げる力を発動する。

しかしそれであっても音撃打を打ち込まれれば花嫁を取り戻される可能性が高い。妖狐にとってこの状況は詰み以外の何者でもなかった。

 

 

「我夢! イケるわ!!」

 

「音撃打――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

突如、声が聞こえたかと思えば――

 

 

「―――ッッッ! ぐァアアア……ッッ!!」

 

「我夢ッ!!」

 

 

それはあまりにも突然だった。

猫娘も響鬼も、まして妖狐ですら一瞬何が起こったのか理解できなかったほどに。

妖狐の後ろからいきなり何がが飛んできたと思えば、それは響鬼の肩に突き刺さりそのまま彼をはるか後方にある壁まで突き出していく。

見ればそれは刀。刀は響鬼の肩を貫き、そのまま壁に突き刺さる。

 

 

「ぐぅぅうぁああぁあぁあッッ!!」

 

 

苦痛の声を漏らしながら響鬼は剣を引き抜こうと手を伸ばした。

まさか鬼の鎧を纏っていながら簡単に貫かれるなんて思ってもいなかっただろう、響鬼はかろうじて刀を引き抜きそれを地面に落とす。

 

 

「はぁッ……ハァッ!!」

 

 

響鬼は出血している自らの肩を抑えながら膝を着く。

地面には赤い点がいくつも広がっていき、まるでそれは花の様に広がっていく。

そしてすぐに血は溢れるように零れる。一体誰が? 駆け寄ってきた猫娘に詳細を聞くが彼女も刀を投げた妖怪は確認していないと言う。

 

 

「ッ!?」

 

「………」

 

 

そして感じる威圧感、分かる。

妖狐の奥にある暗闇の向こうからその妖怪がやってくる、おそらくはソイツが剣を投げたのだろう。

しかし問題はそこから感じる力だ。猫娘となり気が強くなった彼女ですら額から嫌な汗が流れてくる程。

響鬼も妖力と言うのに詳しくないにも関わらず明確な力を感じた。サトリと同じだ、妖狐もそう。

おそらくは彼らと同じクラス――いや、それ以上の存在が近づいてくる。

 

 

「気をつけて寝子さん――……ッ」

 

「う、うん」

 

 

もうすぐそこにアキラが倒れているのに――ッ!

響鬼は明確な焦りを感じて拳を握り締める。肩の傷は大分癒えたし、念の為に再び瑠璃狼を透明化させて忍ばせている。

だから準備は万全の筈だ、誰が来てもある程度は対処できる。響鬼の攻撃は初見殺しの物が多い。

相手が誰であろうとも隙くらいは作れる筈だ、その隙を見てアキラを連れ出せればいいのだが――

 

 

「っ!?」

 

 

二人は妖狐の様子がおかしい事に気がついた。

彼女は気配が近づいてくると、何とその場に膝をついて動きを止めたのだ。

すぐ近くに敵である響鬼と寝子がいるにも関わらずの行動、確かに河童兵は変わらず自分達を妨害しようとしているがあまりにもおかしな行動に思える。

それは何故か? 跪くと言う行為、そして近づいてくる妖力はさらに増大の一途。そこから導き出される答えは一つ。

向こうからやってくる敵が、妖狐よりも上位の存在だと言う事だ。

 

 

「貴様が、鬼の力を得た侵入者か」

 

「!」

 

 

声が聞こえる。それは遂にその場に姿を現した、寝子は驚愕に満ちた目で彼を見ていた。

言葉すら出ないのか、しかし震える手を見れば現れた妖怪の実力は明白だ。

サトリの実力に震えていた彼女はそれを短時間で克服する強さを見せた、しかし今再びこうして力の前に屈しそうになる姿を見れば完全に理解できる。

妖狐を、サトリを……超級妖怪集団『七天夜』を上回る実力者とは誰なのか? 響鬼の脳裏に一つだけその該当者がちらついている。

 

 

「くッ!!」

 

 

だからと言ってアキラを諦める程我夢は大人じゃない、圧倒的な力を感じつつも響鬼は音撃棒を握り締める。

立ち上がる、そして気がついた時には走りだしていた。小細工を仕掛ける事に意味など感じられない。

何をしようとも打ち破られる気がしてならないからだ。鬼火もディスクアニマルを使った奇襲も全て、全て見切られる気がして怖かった。

だが止まらない、止まれない。アキラがすぐそこにいると言うのもあったのだろう、響鬼はがむしゃらに走るだけ。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

響鬼は音撃棒を全力で打ち込むつもりで振った。

だがそれは彼の主観であって、もちろん相手がそれを受け止める決まりもない。

響鬼の全力は彼に簡単に避けられてしまう、だがこれはギリギリ想定内だ。不安はあったが響鬼は隠し武器の一つである鬼火を敵に向けて放った。

 

 

「ッ!!」

 

 

だが悪い予感は的中する。

敵は響鬼の鬼火を知らない筈だ、にも関わらず彼は響鬼の鬼火を回避した。

それなりの至近距離に加えて互いの武器を打ち付けあう状況の中にも関わらず避けられた!

 

いや理由は分かる、響鬼は敵の動きを冷静に確認していた。

敵は鬼火を『見てから』避けた、文字にすれば当たり前の様に思えるがあの激しい交戦の中で避けるなど不可能に近い。

しかも鬼火など僅かに口が光るだけで、後はなんのモーションも無く発動できる技である。隙など皆無と言ってもいいのに避けられた!?

まさか、激しい攻防だと思っていたのは自分だけとでも言うのか? 相手にとっては先ほどの戦いは戦いのレベルにすら達していなかったとでも?

 

 

「まだだッ!!」

 

 

そんな馬鹿な、そんな馬鹿な事があっていい訳が無い。

だってそうだろう、響鬼は様子見こそすれど手なんて抜いていなかった。

つまり本気で彼と戦っているのだ、それなのに相手はあんなにも余裕だなんて――

もう一度言っておくと鬼は妖怪にとって天敵の様な存在でもあり、つまりはこの戦いにおける切り札である。

その切り札が全く歯が立たないなんて馬鹿な話があっていい訳がない!

 

響鬼はそんな悪夢を振り切る様にしてベルトから爆裂火炎鼓を取り外す。

先ほど妖狐には見せたが彼にはまだ見せていない。隠し武器はまだ存在する、響鬼は何も迷わずにソレを地面に投げる。

当然地面にぶつかった爆裂火炎鼓は破裂して、音撃と火炎の力を四散させる。これならば多少は怯む筈だ――

 

 

「そんな……ッ!! そんな馬鹿な!?」

 

 

響鬼が次に見た彼の姿は防御だった。

敵は手に持っていた杖を前に掲げ、小規模の結界を張っていた。

おかげで火炎も音撃も簡単に防がれて、さらには反撃まで許してしまう。

 

 

「ぐっ!! ぁああッ!」

 

 

腹部に抉り込む様にして掌底が叩き込まれる。

あまりの衝撃に音撃棒を地面に落とす響鬼、それは戦いの場において最もたるタブーである。

武器の放棄、その隙を敵は見逃すわけが無い。むろんその隙をつくったのは彼である以上響鬼に回避ルートなど存在しない。

振り上げる杖、逃げられない! 響鬼は仕方なくそれを片手で受け止める選択を取る。それしかない、それしかできないのだ。

 

 

「―――」

 

 

杖だ、たかが杖。

本来なら武器ですらないソレだったが響鬼はその一撃を受け止める事ができなかった。

パワー負け!? 何故だ? 響鬼は混乱の中でさらに杖を打ち込まれる。どう見ても敵は――

敵は、老人と言える容姿なのに!?

 

 

「紹介がまだだったな」

 

 

響鬼を吹き飛ばし、敵は身なりを整える仕草を取る。

相変わらず棒立ちの猫娘、なおも跪く妖狐。

 

 

「我が名は――」

 

 

白と黒というだけのシンプルな装束、しかしそこから溢れる覇気は異常な程強大に見える。

そして特徴的な頭部、間違いない。ヤツは――ッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は、ぬらりひょん」

 

「……ッッ!!」

 

 

この世界を治める総大将、ぬらりひょん。

 

 

「総大将が……直々に、ですか――ッ!!」

 

 

遂に向こうも動いてきたという事か、最悪のタイミングだよ。響鬼は自分の運のなさに苦笑を零す。

素早くいくつかの攻撃ルート、および未来の予測を立てて見るが全くいい方法が思いつかない。

むしろ最悪のイメージしか浮かんでこない、どんな攻撃をしようがどこに逃げようが一瞬で殺されてしまうんじゃないかと思ってしまう。

 

 

「それはゴメンですけど……ねッッ!!」

 

「!」

 

 

地面に落ちた音撃棒がひとりでに浮き上がり響鬼の手元に帰ってくる。

どうやらこの手は成功した様だ、総大将も瑠璃狼の擬態能力には気がつかなかった。

呆気に取られているのか、せっかく弾いた音撃棒をみすみす響鬼の元へと返してしまう。

いや果たしてそうなのだろうか? 響鬼には悪いが呆気にとられていたのではなく既に瑠璃狼に気づいていたから特に動じる事も無かったと捉えられる。

 

 

「妖狐、花嫁を連れていけ」

 

「はい、お任せを総大将」

 

 

その言葉は最も聞きたくなかった。

アキラを連れて行かれるのは一番まずい状況だ、早く総大将を突破しなければ!!

 

 

「寝子さんッ!!」

 

「!」

 

 

響鬼の一声でやっと猫娘が我に帰る。

彼女はすぐに妖狐を追おうとするが――

 

 

「きゃああああッッ!!」

 

「!!」

 

 

響鬼達が来た道から何かが飛んできて猫娘にぶつかる。衝撃で倒れる猫娘と――

 

 

「わ、わりぃ我夢、寝子さん……ッ!」

 

「つ、司先輩ッ!?」

 

 

吹き飛んできたのはディケイド、若干帯電しているところを見るとやはり相手は白澤なのだろう。

すぐにそれを証明する様にして現れる白澤、しかし響鬼達が最後に見た白澤とは違い今の彼は全身に白い雷を帯びている状態だった。

白澤は総大将に気がつくと妖狐と同じ様に頭を下げる。

 

 

「やっと本気を出したのね、白澤」

 

「私とて悩んだ結果だ、できる事なら誰も傷つけず終わりたかったものを!」

 

 

妖狐の言葉に白澤は頭を抱える。

彼は医者であるが、その戦闘能力は高く力を応用した形態はディケイドを圧倒する程の強さを見せた。

彼はその巨体からも分かる様にパワータイプである、しかし雷と言う武器は瞬間的な素早さを持った武器であると同時に彼自身にも絶大なスピードを与える。

 

 

「え!?」

 

「大人しくしてもらおうか」

 

 

一瞬で白澤はディケイドと猫娘のところまで移動して首元を締め上げる。

これだ、これが白澤の強み。雷のスピードを自分に与える『電光石火』、カブトのクロックアップ等でしか対処できない攻撃を頻繁に白澤は行ってくる。

しかもクロックアップ程の維持力こそないものの瞬間的に何度も使われれば脅威以外の何者でもない。

ディケイドは最初こそ善戦していたもののすぐにスピード負けしてしまった。

 

 

「ぐぐぅ……!!」

 

「うぅぅッッ!!」

 

 

白澤は二人を気絶させようと力を込める。

しかしディケイドもまた切り札は隠してある、そろそろやられっぱなしと言うのは避けたいからな。

ディケイドはライドブッカーから素早くカードを抜き取るとドライバーにセットして発動させた。

 

 

『アタックライド』『マシンディケイダー!』

 

「!」

 

 

油断していたのか、白澤は自分の背後に砂のオーロラが出現した事に気がつくのが遅れてしまった。

それだけあれば十分な話、オーロラからディケイドのバイク・マシンディケイダーが出現。

誰も乗っていないにも関わらず、一人でに動き白澤の背中に直撃した。

 

アタックライド・マシンディケイダーは自分がどこにいても自分のバイクであるディケイダーを呼び出せる事ができるカード。

しかもある程度は自立駆動してくれる為、こういった奇襲も可能である。

最初は存在しなかったカードだが、先ほどライドブッカーにこのカードが存在していた事を知った。

どうやらカードは何らかの条件か何かで増えていくらしい。その何かと言うのは分からないが――

 

 

「チッ!」

 

「変身!」『カメンライド』『カブト!!』

 

 

衝撃が強かったのか、白澤の握力が緩む。

その隙にディケイドはカブトに変身、同時に白澤に蹴りを入れて拘束から抜け出す事に成功する。

同じ様に猫娘も抜け出して、彼女は一気に妖狐に向って駆け出していく。

 

考える猫娘、自分の実力じゃ悔しいが妖狐には到底及ばないだろう。

だが今最も優先するのは妖狐や総大将への勝利ではない、アキラの奪還である。つまり別に力で勝つと言う訳でもない。

ならば自分にもできる事があるかもしれない、要は隙をつくればいいのであって少しでも妖狐を怯ませればそれでいいのだ。

 

 

「はぁああッッ!!」

 

「!」

 

 

猫娘は思い切り地面を蹴って妖狐のところまで移動する。

構える妖狐、もちろん白澤も総大将も寝子に注意を移すが――

 

 

『アタックライド』『クロックアップ!』

 

 

たとえどんな超反応をしようが、それを上回る超高速には対処できる訳が無い。

白澤との交戦で一度使ったクロックアップだが、まだ見切られる程時間は経っていない。

ディケイドはまず白澤に無数の拳を叩き込む。次に総大将へと移動、必殺技であるライダーキックを発動したのだが――

 

 

「なっ!!」

 

 

総大将は杖をしっかりとライダーキックの軌道に合わせていた。

それだけじゃない、何と彼は目を閉じていたのだ! いや、だからこそなのかもしれない。

視界を絶ち、気配だけを集中して感じる様にした事でクロックアップの速度に対応したのか。

これが妖怪の頂点に立つ者の実力だとでも? 総大将は間髪いれずに反撃の突きを繰り出す。まるで自分が防御に成功する事が分かっていた様に。

しかしディケイドもまた防御されるのではないかと予想を立てていた、確かに防がれるのは以外ではあったが対処はできる。彼は既にカードをセットしていたのだ。

 

 

『アタックライド』『プットオン!』

 

 

総大将の突きがディケイドに直撃する。

絶大な衝撃だがマスクドフォームに変わっていたディケイドにとってそれは耐えられる程の威力だった。

それにまだカードラッシュは終わってはいない。すぐに次のカードの効果が発動される!

 

 

『アタックライド』『キャストオフ!』

 

「!!」

 

 

ディケイドの装甲がパージして無数の破片がディケイドの後方に飛んでいく。

いくつかは総大将の方にも向わせたが、全てガードされてしまった。

だが狙いは別にある! 総大将には防がれた装甲だが、狙いの的は決して総大将ではない。

 

 

「うぐッ!!」

 

 

来た! ディケイドはその声を確認すると総大将から距離を取る様に離れる。

本来彼が狙ったのは妖狐、流石の彼女も視界外からの攻撃には反応が遅れたようだ。

破片に気がついた彼女はすぐに猫娘を押しのけ破片を弾いていくが、その内の一つが運悪く当たってしまった。

 

 

「いまだッ!!」

 

「!」

 

 

猫娘は思い切り両手を広げる。

何かくる!? 妖狐は寝子から視線を離さないようにするが――

それが間違いだった。

 

 

「猫ッだましッッ!!」

 

「何ッ!?」

 

 

バチンと大きな音がして、妖狐は驚きのあまり目を閉じてしまった。

寝子の猫だましは普通のものではない、砂かけ婆に教わったれっきとした技なのだ。

半妖であるが故妖力は他の誰よりも少ないが、そのわずかな妖力を一点に集めて放つハッタリ。それはたとえ超級妖怪の妖狐でさえも怯ませるものとなる。

怯ませると言っても所詮それはほんの一瞬だけ妖狐の視界を奪うだけ、されどそれで十分である事もまた事実。

再び赤い閃光が場を駆け抜ける。クロックアップを発動させたディケイドカブトは一瞬で妖狐の前に移動すると総大将と同じようにライダーキックを発動させた。

短時間の連続必殺技使用によって意識が一瞬飛んでしまうが、すぐにディケイドは三枚目のファイナルアタックライドをすぐに生成する。

全ての力を振り絞っても、ここでアキラは取り戻す!

 

 

「うぐッッ!!」

 

 

女性を蹴ると言うのはやはり抵抗があったが、そこは割り切って思い切り力を込める。

これで反応されようものなら完全に自信を喪失するところだったが、何とかライダーキックは妖狐にヒットして彼女を大きく吹き飛ばす。

しかしそれでも気絶させるどころか、あまりダメージが入っていないところ見てゾッとする。

カードを生成する余裕を残す為にやや威力は落としたが――ッ。

 

 

「アキラぁああああああああッッ!!」

 

 

妖狐の手から離れたアキラをディケイドはしっかりと抱きかかえた。

数秒の中で確信する勝利、いける! このまま逃げ切る事ができれば!!

終わりを告げる超高速、クロックオーバーの音声と共に時間は再び正常に駆動し始めた。

一同はそれぞれ今起こった一瞬の出来事を理解すると、すぐにそれぞれの行動に出る。

 

ディケイド達はアキラを取り戻した事を理解すると、迷わず退避の選択を取る。

正直響鬼も寝子もディケイドも総大将、妖狐に勝てるなんてかけらとて思っていなかった。

それほどまでに敵の力は強大、悔しい話だが今の自分たちでは圧倒的な実力差があるのだから。

 

しかし同時にチラつく現実、そんな彼らが本当に邪神に歯が立たなかったのだろうか?

正直そんな話は嘘に思えて仕方ない、それならば本当に危険な状況となる。

総大将達に勝てないことを悟った彼らが、邪神に勝てる訳がないのだから。

 

 

(いや、マイナス思考はよくないな。きっと何か手はある筈だッ!)

 

 

とにかくまずはアキラの無事が先だ。

ディケイドは続いてマシンディケイダーにアキラを乗せると、寝子と一緒に自分も飛び乗る。

幸い入り口は近い方だ、何とかしてこのまま逃げ切りたいッ!

 

 

「させると思うか! 逃がさんぞッ!!」

 

 

総大将が杖を構えてコチラに向かってくる。

彼の実力は本物だ、現に響鬼は先ほど完全に叩きのめされたのだから。

それでも誰も諦めてはいない、響鬼は時間を稼ぐために真っ向から総大将に戦いを挑んだ。

ほんの少しでもディケイドが逃げられる時間をつくれればと思い、彼は音撃棒を構える。

 

 

「はぁああああッッ!!」

 

 

音撃棒に炎を宿して振り上げる。

当然大振りであるが故に隙も大きく、すぐに総大将は彼の隙を狙う。

だが響鬼も馬鹿ではない、先ほどの奇襲が失敗に終わった後でもちゃんと攻撃のタイミングを狙った奇襲を考えていたのだ。

ただ闇雲に撃つのではない、しっかりと相手のタイミングを狙って放つのだ。響鬼はカウンターを行おうとした総大将を冷静に見ていた。

 

 

「!」

 

 

音撃棒を振り下ろすと同時に響鬼は鬼火を発射する。

これは流石にカウンターできない筈だ。総大将も命中こそはしなかったが、鬼火を見ると一瞬で後ろへ跳んで響鬼との距離を空ける。

今しかない、響鬼はマシンディケイダーに飛び乗る。それを確認するディケイド、逃げるのならば今が絶好のチャンスだ。

すぐにアクセルを全快にして出口を目指す。響鬼は寝子に抱えられているアキラに視線を移そうとした。

彼女がこんなに近いのに敵に気をとられてまともに見れていなかったのだ。早く、響鬼は焦る気持ちを振り切って――

 

 

「ぐぁあアアァアアァアアアアアアアアッ!!」

 

 

しかし、できなかった。

アキラの顔を見る前に絶大な痛みが響鬼に走ったのだ。肩に走った痛み、響鬼はすぐにそこを確認する。

そして目を疑った。いや十分にそれはありえた事、そこから注意を外していた響鬼のミスだ。

痛みの発信源は肩、そこに今総大将の刀が生えている。

 

 

「ッッぅぅぅううう!」

 

 

響鬼はマシンディケイダーから転がり落ちてしまう。

もともと猫娘とアキラだけでもギリギリだったのに、響鬼も加わればマシンディケイダーとて限界を迎えてしまう。

車ではない、バイクなのだ。しがみつく様に乗っていた響鬼が痛みに対抗できる訳も無い。

 

 

「逃がしはしないと言った」

 

 

総大将はそう言って響鬼を見ていた。

距離を空けられ様が彼には関係ない、それが戦い方の差と言うものだ。

つまり簡単に言えば総大将はあそこから刀を投げて響鬼に命中させたと言う事だろう。肩を、そして退路に大きなダメージを与えた。

 

 

「我夢ッ!!」

 

 

ディケイドはすぐに響鬼を助けようとするが、響鬼はその前に逃げろという。

できる訳ないだろ、ディケイドはすぐにバイクを止めて走りだす。いくらアキラを無事に助けようとも我夢の命を失ってしまえば意味はない。

全員で無事に帰る事が目的なのだ、ディケイドはすぐにカードを構えて響鬼の前に立った。

 

 

「こいッ!!」

 

「………」

 

 

二人の前に立ったのは白澤。

この世界における名医を称すだけあってか、先ほどまでの彼はどこかまだ優しさのような物が感じられた。

しかし今の白澤は完全に殺気を放出して二人に詰め寄っていく。

 

 

「我夢、いけるか!?」

 

「はい……ッ! なんとか――」

 

 

立ち上がる響鬼と構えるディケイド、二人は何とか猫娘達だけ逃がそうと試みる。

バイクの使い方は全く分からない猫娘だったが、一人を抱えて逃げるくらいなら何とかいけそうだ。

寝子は少しだけ迷った素振りを見せたが、二人の決意を受け取ると強く頷いて走りだした。

もちろんアキラを抱えてだ、まだ彼女は意識がもうろうとしてりるのかぼんやりとしている。

 

 

『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド!』

 

 

ディケイドはライドブッカーをガンモードに変えて引き金を引く。

ホログラムカードを経由した弾丸は白澤めがけ一直線に向かっていった。

そして着弾、避けられるかと思ったが無事に命中してくれた様だ。白澤は堪えるようにしてその場に立ち尽くす。

そこに加わる響鬼の炎弾、計三つの飛び道具が白澤を捉えた。通常ならばそこらへんの敵を倒してしまうだろう攻撃だが――

 

 

「どうだ、白澤」

 

 

総大将の一声。

 

 

「問題ありません」

 

「「!」」

 

 

白澤は気合を入れるように声を上げると、ディケイドと響鬼の弾丸を全て弾き飛ばす。

 

 

「馬鹿な――ッッ!!」

 

 

連続使用で威力が下がっているとは言え、仮にも並みの怪人ならば爆散させる程の威力をもつディメンションブラストを身一つで弾いたというのか。

何故白澤がアレを避けなかったのか? 答えは簡単だ、二人の戦意を喪失させる為。

 

 

(くそ! すぐに次のカードを――)

 

 

そして白澤は雷の力を操る。その一つである『電光石火』を彼は発動した。

文字通り超スピードに変わった白澤は瞬間的に響鬼とディケイドの背後を取る。

 

 

「しま――ッ!」

 

 

振り向く事は許さない、白澤は二人の頭部を掴むと思い切り地面へと叩きつける。

衝撃に声を上げる二人だが、次に待っていたのは追撃の雷撃だった。

正直そのまま怪力で二人を拘束し続け電気を流し続ければ二人は絶命していたかもしれない。

しかしやはり医者と言う立場からか、命を奪うと言う事に絶大な抵抗がある様だ。白澤は二人が抵抗をできない程度に攻撃を加えるとすぐに近くに投げ飛ばす。

 

 

「あぐぁ……ッ!!」

 

「ぐぅうぅうううッ!」

 

 

油断していた、ディケイドと響鬼は反撃の手を必死に探すがそんな時だった。

よく考えるべきだったのかもしれない、白澤はクロックアップに近い速度を持っている。そんな彼が寝子達を追わない理由がどこにあるか?

しかし彼は寝子を追わなかった。それは彼が寝子達を追う必要性がなかったからだ。追わなくてもいいからだ。

ディケイドと響鬼の耳に聞こえるのは猫娘の悲鳴、そして視界に捉えたのはコチラにむかって吹き飛んでくる寝子の姿だった。

猫娘ではなく寝子、つまり変身が解除される程のダメージを受けたと言う事。

 

 

「う……くッ!!」

 

「寝子さん!」

 

「はははははははは!!」

 

 

寝子達が逃げた通路から聞こえる笑い声、暗闇から姿を見せたのは七天夜・酒呑童子。

そして彼の隣には闇の球体に閉じ込められたアキラが見える。やられた! ディケイドは歯を食いしばる。せっかくアキラを取り戻せたのにまた奪われて――ッ!

しかも酒呑童子から感じる気。恐らくはコイツも――、と。

 

 

「ッッ!! ぐぅううッ!!」

 

 

カードに伸ばした手に痛みと衝撃が走る。

みれば短剣が装甲を傷つけて。なんだこれは? 疑問に思うディケイドへとさらに短剣の雨が降り注ぐ。

それは響鬼も同じ様で、二人はさらなる追撃をまともに受けてしまう。

 

 

「来たか、夜叉、酒呑童子」

 

 

七天夜である"夜叉"と"酒呑童子"が総大将の元にやってくる。

こんな力を持った妖怪連中がそろっているだけでも絶望的なのに、さらに新たなる力がやってくる。

酒呑童子達の後からやって来たのは、河童兵の頂点に立つ"鬼河童"である。もちろん上級河童兵を三人程引き連れて彼はこの場所に姿を現せた。

 

 

「ふん、七天夜がこの様な形で揃うとはな」

 

「鬼河童、貴方が追っていた侵入者は? 体の半分の色が違うってヤツ」

 

 

妖狐の問いかけに鬼河童はため息を一つ。

 

 

「すまない、逃がしてしまった。なかなか強敵だったが勝てぬことは無いと言ったところだ」

 

 

まるでディケイド達が眼中に無いと言った様子で七天夜達は会話を続ける。

しかし当然の事なのかもしれない。ディケイド、響鬼、寝子達を囲むのは七天夜白澤、夜叉、そして夜叉が引き連れているペナンガランとランスブィル。

そして鬼河童、妖狐、酒呑童子に彼が引き連れている河童兵。最後に総大将ぬらりひょんである。

この戦力差、馬鹿でも分かる明確な勝ち負けの構図である。もはや何を持ってして響鬼たちがこの状況を覆せるだろうか?

 

 

「ふざけんなッ!!」『アタックライド・ブラスト!』

 

 

ディケイドは一瞬の隙を見てカードを発動させる事に成功した。

ライドブッカーから無数の銃弾が放たれて、それらは空中を自由に飛びまわる。

七天夜全員を対象にした攻撃だ、これを何とかして当ててそこから反撃を――

 

 

「ペナンガラン」

 

「はい」

 

 

夜叉が右隣にいた彼女に声をかけると、彼女は空中を飛翔して夜叉から少し離れた向かい側に移動する。

同時に胡弓を構える夜叉、剣を使って彼はそこから音の衝撃波を発生させる。

無駄だ、ディケイドはそれを読んで弾丸を広範囲に分散させておいたのだ。

これならばいくつかかき消されてもまだ残っている弾丸で何とかなる。夜叉だって仲間が多いこの空間でそこまで衝撃波を強めるなんてできない筈だ。

そう、ディケイドは思っていたのだが――

 

 

「ッ!?」

 

 

ペナンガランと言う妖怪は少女の首と、そこからぶら下がる胃袋だけで構成された奇妙な形の妖怪だった。

そんな彼女の胃袋部分が光ったかと思うと、総大将達が全員淡い光に包まれる。

その時点で嫌な予感しかしないのだが、ペナンガランの能力はまだ他にも存在していた。

事もあろうに、彼女は口を開けたかと思うと奇声を発生させる。それが衝撃波に共鳴してその威力を倍化させたのだ。

 

結果、ディケイドの考えとは間逆に倍以上はあるだろう衝撃波が辺りを包み込んだ。

案の定淡い光に包まれている総大将達は全く平気そうな顔をしているが、当然マゼンダの弾丸は全て消し飛びディケイド達もまた衝撃波で大きなダメージを受けてしまう。

だがそれでも響鬼は立ち上がった。もう何かを考えている余裕も無いくらいだったが、それでも彼は走りだした。

 

 

「ランスブィル」

 

「ハッ!」

 

 

夜叉の指示により彼の左隣にいた妖怪が動き出す。

ランスブィルは走ってきた響鬼に向かって舌を伸ばすと、その足に絡みつき同時に彼を引き倒す。

舌とは言うが赤かったり湿っていたりする訳でもなく、どちらかと言うと帯に近い印象を受けた。

響鬼はなんとかしてそれを引きちぎろうとするが、何をもってしても帯が千切れる事はない。

その隙に夜叉は飛び上がり、響鬼の真上に移動する。そして胡弓を弾いて無数の短剣を発射した。

 

 

「ぐぅぅぅうッッ!!」

 

 

雨の様に降りかかる剣を受けて、響鬼は立ち上がる力を失う。

結果、不可能である。ディケイド達がいくら努力しようが圧倒的力の前にひれ伏すしかない。

現にアキラは捕らえられ、はっきり言ってしまえばディケイド達は殺されるのを待つだけとなった。

 

 

「う……くッ!」

 

「勝負あったな」

 

 

確かにそうだ、ディケイド達もそれは感じていた。諦めなければなんとかなる状況ではない。

いくら心が死なないとはいえ現実で死んでしまっては意味が無いと言うもの、必死に活路を探す三人だが彼らが待ってくれる訳も無い。

妖狐を始め酒呑童子達は彼らを殺すだけのエネルギー弾を構成してみせる。

後はそれをぶつけるだけ、白澤が与えたダメージはそれなりに大きく三人はまともに動く事はできない。

それにディケイドに関しては疲労が酷い。気を抜けばすぐにでも意識を失ってしまいそうだった。

 

 

(ヒールカードを使った後にクロックアップを――)

 

 

そう考えてカードに手を伸ばすディケイドだったが瞬時激痛が腕を貫く、見れば総大将が刀を投げていたのだ。

なんと言う命中率と威力だろうか、ディケイドは完全にカードを離してしまいそれもかなわなくなる。終わりだと、酒呑童子達は響鬼達に狙いを定めた。

闇のエネルギーを凝縮させる酒呑童子、炎を収束させる妖狐、村正を構える鬼河童、雷を落とそうと手をかざす白澤、胡弓を構えた夜叉。

そして、刀を向ける総大将ぬらりひょん。

 

 

「―――ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

「………ッッ」

 

「ほう」

 

 

しかし彼ら響鬼たちの命を奪う事はなかった、一つの声がそれを止めたのだ。

その声が響鬼たちならば酒呑童子達は攻撃を止める事はなかっただろう、それは命乞いでしかないからだ。

そんな彼らを止める要因があるとすれば、彼女の声を除いては無い。

 

 

「止めて……お願いだから――……止めてください」

 

「それが、花嫁の意思ならば」

 

 

天美アキラの一声、それで酒呑童子と妖狐は攻撃を完全に中止した。

言葉を失うディケイドと響鬼、彼らは今まともに彼女の顔を見ただろう。

特にそれは響鬼にとっては大きな衝撃だった。やっと彼女に会えたのに、やはりその顔は悲しそうで。

 

 

「私は……私はちゃんと死にますから――ッ! だからどうか皆を傷つけるのはやめてださい!」

 

 

まだ意識が朦朧としているのだろう、しかし彼女は愛する仲間を守るため必死に声を上げる。

ただ守りたくて、ただ傷つけたくなくて。それは響鬼とディケイド、寝子だけではない。誰もが彼女にとって等しく守りたいと願ったものだ。

酒呑童子達とて彼女は傷つける事を望まぬだろう。命を失うのは自分だけでいい、それが彼女の切なる願いだと分かっていた筈なのに。

やはりそれをまじまじと感じて響鬼は言葉を失う。

 

 

「酒呑童子、花嫁を解放してさしあげろ」

 

「……ああ」

 

 

鬼河童に促されて酒呑童子はアキラを拘束から開放させる。

自由の身になった彼女だが、辺りは沈黙するだけで誰も何も話さず動く事すらなかった。

そんな中でアキラはフラフラと足を進める。あれだけ願った再会も驚くほどあっさりと簡潔に叶ってしまった。

尤もそれがゴールではく、終わりなのだと誰もが悟る。もちろんそれは願ったエンディングとは違うのかもしれない。

だが、それでも誰かをこれ以上傷つけたくないと願った心に呼応したのだろうか?

 

 

「皆に……伝えてください」

 

 

ここまで来てくれて本当にありがとう。

来ないでと願ったけどやっぱり来てくれて本当にうれしかった。本当に――

 

 

「アキラ――ッ! 待ってろ、必ず助けてやるからな!!」

 

 

ディケイドは立ち上がろうと力を込める。しかし精神力が削られていたか、うまく立ち上がれなかった。

さらにそんな彼に突きつけられる夜叉の刀。動けば容赦なく殺す、そんな目をしている夜叉を静止させたのはやはりアキラだった。

自分から逃げてしまった以上は信用されないかもしれないが、もういやだ。これ以上自分のせいで仲間が傷つくのはもう無理なんだ。

 

だからもう終わりにさせる。

それがどんなわがままだろうとも、きっと許してくれるでしょ?

アキラは一筋の涙を流してもう一度ディケイド達にお別れと感謝の言葉を告げる。そして一歩、また一歩と歩き出した。

それを総大将達は止める事は無い、彼女が最後に願った想いはきっとココで終わるのだからソレを邪魔する理由もない。

アキラは響鬼の前にやってくると、倒れこんでいる彼に合わせる様にしてしゃがみこんだ。

 

 

「アキ――」

 

 

彼が、アキラの名前を呼ぼうとした時に彼女は首を振った。

これは自分のわがまま、だから彼には本当に申し訳ないと思う。もちろん皆にも。

せっかく助けに来てくれたのに、ここで諦める私を許してください。

 

 

「―――」

 

 

アキラは自分の目線を響鬼と同じにする。

そして彼の口があるだろう場所へ自らの唇を押し当てた。

もちろん響鬼は仮面をかぶっているため、その想いを受け止める事はできないが――

それでも彼女が行った行為の意味は理解していた。

 

 

「……私、初めてなんですよ」

 

「………」

 

「最初と最期が貴方でよかった――……我夢くん」

 

「――……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我夢君、ばいばい」

 

 

そして彼女は背を向ける。そして彼女は歩き出す。

追わなければならないと、追わなければいけないと心が必死に叫んでいるのに響鬼は動けなかった。

仮面が彼女のぬくもりを遮断していたと言うのに、それでも彼女の想いを感じてしまう。それが大きすぎて響鬼は動けなかった。

もしかしたら――、動かなかったのかもしれない。響鬼は七天夜とぬらりひょん、そして彼女の背中を見ながら拳を強く握り締める。

 

 

「さあ、花嫁をお連れしろ」

 

「はい、参りましょうアキラさま」

 

「はい……ご迷惑を……おかけしました」

 

 

そう言って総大将達は何事も無かったかの様に歩き出す。

それに引き続いてアキラと七天夜達も歩き出した。もう眼中にすら無いと言われたかの様なディケイド達、それで納得できる訳が無い。

 

 

「くっそぉおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

響鬼は悔しさでおかしくなりそうだった。

あれだけ助けたいと願ったのに、あれだけ好きだったのにまた守る事ができなかった。

いや違う、守る事ができなかった? 彼女は僕達を守ってくれたじゃないか! もっと力があれば――ッッ!!

もっと強くなっていればアキラを助ける事が、邪神を倒す事ができたのに。結局、また彼女を犠牲にしてしまった。

 

 

「認められるかぁあああああああッッ!!」

 

「!」

 

「こんなのおかしいわ! 諦められない!!」

 

 

ディケイドと寝子は持てる力を振り絞り立ち上がる。

自分どうできるかなんて分からない。だけど唯一ついえる事があるのなら、それはココで諦めてはいけないということだ。

たとえアキラがそれを望んでいなくても、たとえアキラがその選択で悲しんでしまってもココで止まる事だけはしちゃいけない。

ココで諦めては絶対に駄目なんだ。それをディケイドと寝子は心に決めていた。そして走りだす、まだ間に合うかもしれない。

 

 

「―――お前達、花嫁の想いを踏みにじるのか?」

 

「ッ!」

 

 

引き返した七天夜達、しかし一人だけコチラに戻ってきたのは白澤だ。

彼はディケイド達がまだ諦めていない事に悔しさに似た感情を覚える。彼とてアキラ達の気持ちが分からない訳が無い。

もちろん白澤もできる事ならば誰一人傷つけたくは無いのだ。しかしどうしようもできないじゃないか、邪神の力にひれ伏した自分だからこそ分かる。

 

ディケイド達の力を以ってしても邪神を倒す事はできない。

ならば世界の皆を守る為に怪しいと分かっていても邪神の使いの言葉に従うしかないのだ。

それがどんなに悔しい事なのか、そして花嫁を思う彼らを見てよりそれを感じてしまう。

だからと言ってどうにかなる訳でもない、それをアキラはもう理解していた。勝てないのだ、だからもう彼女は諦めた。

 

 

「君達は引き返しなさい、彼女の為に……」

 

「ッッ!!」

 

「………」

 

 

諭す様に言う白澤。

納得できないだろうが、そうしてくれないと困る。

 

次にはもう白澤は雷撃を手に纏わせていった。

半ば脅迫じみた感じになってしまったが、言う事を聞いてもらうにはこうするしかない。

分かってくれと白澤は言う。

 

 

「これ以上、花嫁を傷つける事は無意味だ。分かるだろう!?」

 

「それでも……それでも引けないんです!!」

 

 

響鬼は立ち上がる。

 

 

「たとえ僕の選択がアキラさんを傷つけてしまってもココで止まったら終わりなんですよ!」

 

「………」

 

「僕は彼女を傷つけても――ッッ! それでも僕は彼女に生きて欲しいんですッッ!!」

 

「それが、世界を犠牲にするとしてもかい? 申し訳ないが、もやは君達の力ではどうする事もできないぞ」

 

 

力の違いは分かった筈だ。

そう言って白澤はディケイド達を見下す様にして振舞った。

自らの壁すら越えられないと言うのは、もちろん力が足りないという何よりの証明である。

 

 

「ちょっと待て!!」

 

「!」

 

 

しかしそんなとき、反対側の通路から大きな声が聞こえてきた。

目の色を変える寝子を見て響鬼はそれが味方だという事を悟る。しかし自分には聞き覚えの無い声、これは誰だ?

 

 

「力が足りない? だったら新しい力を加えるだけだろうが!」

 

 

美しい長髪、思わず女性かと思ってしまったが声で男だという事を悟る。

その少年は走ってきたのか呼吸を荒くして白澤と対峙した。

 

 

「天邪鬼……ッ!」

 

「白澤さんよぉ、ちょっと粘りが足りないんじゃねぇの?」

 

 

緊迫した雰囲気の中で、まさに間逆ともいえる軽い様子で天邪鬼は語りかける。

確かに力がなければ何も救う事はできないだろう。しかしだからと言って簡単に思考をとめるのは少し違うんじゃないか? そう言って天邪鬼は笑った。

 

 

「ったく、鬼太郎のヤツ。もうちょっと分かりやすく地図書けっての!」

 

 

天邪鬼は寝子を見つけるとこれまた軽い様子で手を振った。

 

 

「ん!? おぉ! 寝子、元気だったか? 鬼太郎には会えたのか?」

 

「い、いやまだだけど」

 

 

そんな様子で話していると、さらに奥から今度は鴉天狗がやって来る。

黒い羽を散らせて彼はディケイド達をかばう様にして前に立った。

 

 

「お前達……まさか――」

 

「ああ、悪いっすけど、オレ達コッチに付きますわ」

 

「申し訳ございません白澤様、やはり邪神を許す訳にはいかないんですッ!」

 

 

残念そうに頭を振る白澤、どうやらそう簡単に諦める程素直ではないか。

尤もそれが分かっていたから自分にココにいるのだが。仕方ない、白澤は力を解放させて天邪鬼たちに対峙する。

悪いがココは通さないと睨む白澤。なんて覇気だ、流石に天邪鬼たちも笑みを消して構える。

 

 

「お前達に私が止められると思っているのか!」

 

「………」

 

 

止められる訳が無い、それは寝子達妖怪ならば誰もが分かっている事だ。

七天夜である白澤を超える事なんて『普通』ならば出来はしない。そう、"普通"ならば――

 

 

「止めます、止めさせていただきます!!」

 

「……ッ!?」

 

 

そう言い放つのは鴉天狗。

実はディケイドと知り合った後彼ら三人はアキラを助ける事よりも優先させていた事があった。

それは鬼太郎が残してくれたメッセージが原因。花嫁がアキラだと知り、鬼太郎が閉じ込められていたのを知った集会の時。

 

 

 

 

 

 

 

「天邪鬼、鴉天狗……ッ!」

 

「「!!」」

 

 

少年の眼が語る。それを読み取ると、鴉天狗と天邪鬼は無言で頷いた。

そして総大将に向かって命令を遂行すると伝えると、黒き翼を広げて飛び去った。天邪鬼もまた姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、鬼太郎は二人に向けて眼で語ると同時に口を動かしていた。

所謂口ぱくと言うものだ。そのメッセージは簡単だったからこそ読み取れた。

 

 

『ボクの家に行ってくれ』

 

 

二人はその言葉に従い、命令に従うフリをして鬼太郎の家に向かった。

そこで彼らはある物の隠し場所が記されている地図を見つける。そして来るべき戦いに備えて準備をしていたのだ。

尤もこんな短い期間だったから準備は完全とは言い難いが、白澤に勝つにはコレしか手は無い。

 

 

「世界を、人を守りたいと思う気持ちに嘘はありません!」

 

「それは私もだよ、だが君達は弱すぎる。悲しい程にッ!」

 

 

白澤は手を掲げて鴉天狗に狙いを定める。

彼は落雷にて決着をつけるつもりだろう、しかしそれと童子に鴉天狗は腕に装備していたソレを弾く。

 

 

「それはッッ!!」

 

 

手を上げる鴉天狗、同時に彼に着弾する雷撃。

白澤の雷ならば一撃で鴉天狗を戦闘不能にできただろう。だが彼は立っていた、それは彼の雷を打ち消したからだ。

理解する白澤。彼は鬼太郎から受け取った地図を見て何かを手にいれた、逆に言えばそれは鬼太郎だけが知っている何かとも取れる。

そして地図、鬼太郎は最上級妖怪であるが故ほとんどの情報を所持している。そんな彼が戦いに備えて用意するものと言えば一つしかない。

今自分の雷を打ち消したことを考えると――答えは一つ。

 

 

「くそッ! 手に入れていたのか、変身鬼弦・音錠を――ッ!!」

 

 

言い方を変えようか?

 

 

「手にしたのか、鬼の力を――ッ!!」

 

 

吹き飛ぶ雷撃、そして現れたのは鴉天狗ではなかった。

彼は戦いが始まるまで必死に修行を積んだ、この世界を守るにはソレ相応の覚悟と決意がある。

今、鴉天狗はそして不完全ながらも形にしたのだ。鬼の力に飲み込まれぬだけの意思を。

 

 

「うぉおおおおッ!!」

 

 

現れたのは、伝説の鬼。その名は――

 

 

「轟鬼――ッッ!!」

 

「………行きますッ!」

 

 

雷を司る伝説の鬼、轟鬼(とどろき)

雷の中から現れた鬼は白澤に向けて拳を構えた。もはやそこに一片の迷いすら無い、轟鬼は迷い無く走りだした。

全てを守る為に!!

 

 

「はぁあああッッ!!」

 

「!」

 

 

全力を込めた拳が白澤に打ち込まれる。

なるほど、流石は伝説と言われるだけはあるか。白澤は確かな焦りを感じた、鴉天狗からは想像もできない程高威力の拳だ。

油断していれば負けるのはコチラのほうだろう。まして雷と言う同属性ときたものだ、コチラの方も油断はできない。

 

 

「ぐうぅううッ!!」

 

「だあああああ!!」

 

 

激しいラッシュが炸裂する。

なんて力だ、白澤はついには押され始める。このままでは危険かもしれない。

しかしそう思った時だった。彼は考えを改める。

 

 

「なるほど」

 

「!」

 

「甘いッッ!!」

 

 

白澤の掌底が決まり、轟鬼はディケイド達の所まで吹き飛んでいく。

たしかに力としては巨大だろう。それは認めざるを得ない。だがしかし時間が足りなさ過ぎたようだ。

鬼の力を制御するには、あまりにも短い時間だったか。

 

 

「巨大すぎる力は、制御もまた並大抵の物ではない」

 

「――ッッ」

 

 

制御に気を取られ動きが鈍る様では意味は無い。

この勝負、コチラがもらう。そう確信して白澤は雷撃の力を手に集中させた。

いくらコチラに有利だと分かっていても長期戦となればやはり負ける確立は大きくなる。その前に決着を!

 

 

「お前達の覚悟は十分だった、せめて全てが終わるまでは眠りなさい」

 

 

優しい口調で白澤は走りだす。

 

 

「貴方も――ッッ! 甘いッ!!」

 

「何ッ!」

 

 

だが最後の最後で白澤は油断していた。

轟鬼はいきなり白澤に向けて背を向ける、何故そんな事を? そう考えていた時には既に彼の範囲だった。

雷が彼の手を駆ける。雷撃はすぐに収束して一つの形を作りはじけた、現れたのは大剣。

刃は白澤に突きつけられる形になっており彼は自分から刃に突き刺さる様、突進してしまう。

 

 

「ぐうううッ!!」

 

 

何も無い場所からまさか剣が現れるとは、流石にこれは予想していなかった。

だがそれが轟鬼の狙い。音撃弦(おんげきげん)烈雷(れつらい)、それは確かに白澤を捕らえる!

 

 

「油断は敗北への絶対要因ですよ! 白澤様!」

 

「くッ!!」

 

 

轟鬼はすぐにベルトの中央にある音撃震と言われる道具を取り外す。

そしてそれを烈雷へとセットした。すると烈雷の刃が展開してその姿をまさしくギターの様に変化させる。

準備は整った、本当はもっと白澤にダメージを与えなければならないがそんな余裕は無い。声を上げて轟鬼は宣言する!

 

 

「世界を守るッ! 音撃斬! 雷電激震(らいでんげきしん)ッ!!」

 

 

轟鬼はめちゃくちゃに烈雷をかき鳴らした!

激しい音撃が白澤を包む、自慢の衣も刃に貫かれてしまったおかげで防御としての意味を成さなくなる。

これは危険だ、しかし耐えられない訳ではない。白澤は両手を思い切り振り上げる。

これはまだ動ける範囲、このまま両手を振り下ろせば形成は逆転す――

 

 

「うぉおおおおおおおッッ!!」

 

「!」

 

 

しかし力が足りないのならば加えるまでだ、白澤の頭上を飛び越えたのは響鬼!

彼はバックルから音撃鼓を取り外してそれを白澤の背中に押し当てた。すると音撃鼓は展開、ともすれば後は一つ。

全力を打ち込むだけだ! 響鬼は音撃棒を取り外すとそれを構える。

 

 

「音撃打、火炎連打の型ッッ!!」

 

 

めちゃくちゃにかき鳴らす轟鬼、めちゃくちゃに打ちこむ響鬼。

想いと力は共鳴して絶大な威力を発揮する。

 

 

「「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

「ぐぅうううううううううううッッ!!」

 

 

音撃は妖怪にとっては天敵の様な物。

そんなものが共鳴し合えば、耐えられる理由なんて無い。演奏と言う決意が白澤を打ち砕く!

響鬼と轟鬼の紋章が収束して弾ける、同時に膝を着く白澤。

 

 

「これが……鬼の力――ッ!」

 

 

一つが二つになれば何倍もの威力を発揮する。

あと一つが揃った時の力は想像を絶するものに変わる筈だ。

ならばもしかすると、もしかするのではないだろうか?

 

 

「君達は……本当に信じているんだね…ッッ、花嫁と世界を守ると――」

 

「ああ、オレ達が鬼太郎を信じて裏切られた事はねぇ」

 

 

だから信じると?

 

 

「白澤様の言う通り、私達は非力だ。しかし今白澤様を打ち破った様に、必ず協力すれば邪神をも超える力は与えられる筈だと私は信じています」

 

 

轟鬼は変身を解除して膝を着く。

やはりまだ制御には時間がかかるようだ、それを見て響鬼は少し複雑な思いを抱いた。

自分はよく分からない恩恵のおかげで鬼の力と戦わなくても制御できる様になっていた。

それで本当にいいのかとも思うが、だからこそこの力を最大限に生かしたい。そして何よりもアキラが好きだから、絶対に諦めたくないんだ。

 

 

「僕は、アキラさんに胸を張って生きて欲しい」

 

 

だから、ココでは止まれない。

 

 

「失う怖さも、残される恐怖も、そして守れない弱さも、全てを壊す」

 

 

ディケイドと寝子は強く頷くと響鬼たちの後に続いた。

それを聞いて白澤は小さく笑うと声を振り絞って言う。

 

 

「確かに、邪神の使いは何かを企んでいる」

 

 

思えば始めは侵入者を殺せと邪神の使いは総大将達に命令していた、しかし急に意見を変えてなるべく侵入者達を殺すなと言ってきたのだ。

確実それは何か裏がある、そう思いながらも何もできなかった。だけどディケイド達ならば何か変えられるんじゃないか?

そう思いながら白澤は地面に倒れた。薄れいく意識の中で彼は自問する。自分にとって胸を張れる生き方は――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、引き続き侵入者の排除に回ります」

 

「ああ」

 

 

そう言って鬼河童や妖狐は総大将の下を離れる。

夜叉達も各々の目的を果たす為別れていった。それと入れ替わるようにして何やらファンシーな足音が聞こえてくる。

 

それは侵入者が現れた時必死に放送を流していた妖怪、朱の盆。

言い伝えでは人を驚かせてショック死させてしまうと言う恐ろしい妖怪だが、当の本人が大のビビリであると言う伝説とは全く違うものだった。

 

 

「花嫁は上層の方に閉じ込めておけ」

 

「鍵はいくつに分けますかぁ?」

 

「四つでいい。一つは妖狐に、一つは鬼河童に、一つは樹裏架、一つは狂骨に渡しておけ」

 

「はーい!」

 

 

そう言ってパタパタと朱の盆はかけていく、それを呼び止める総大将。

表情を浮かべる総大将。しかしすぐにアキラと共に歩き出した。

ソレについていく朱の盆、誰もいなくなった空間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ」

 

 

誰もいないと思われたそこに、ノイズと共に現れるシアンのライダー、ディエンド。

彼は"ずっと"そこに、"ずっと"彼らの後についていた。それはディケイド達が戦っている時もまた同じだ。

彼は自らの姿を文字通り完全に消す事のできるカード『アタックライド・インビジブル』を使いココまで来ていた。

気配さえも消してみせるディエンドの力、それは絶大だろう。現に七天夜と総大将でさえディエンドの存在には全く気がつかなかったのだから。

とはいえココでアキラを助ける為に姿を見せるなどと言う愚行は起こさない。彼はしっかりと自分の実力を理解している、決して危険な顆賭けにはでないのだ。

 

しかしずっと沈黙していたおかげで面白い情報が聞けた。

ディエンドはすぐに鍵を所持するだろう妖怪の名前を拡散する。

もちろん上層の方に閉じ込めておけと言う情報も。上層だけでは検討も付かないが知らないよりはましだろう。

 

 

「アキラ争奪戦、第三ラウンド突入ってところかな? 面白くなってきたじゃないか、せいぜい楽しませてもらうよ」

 

『アタックライド』『コール』

 

 

何かのカードを発動したディエンド。

彼はニヤリと笑い、再びインビジブルのカードを発動させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ! 鬼太郎さんが!?」

 

「ああ、封印石の間にアイツは捕らえられてる。多分親父さんもだと思う」

 

 

そんな……寝子はショックでその場にへたり込んでしまった。

無理も無い、想い人が封印されかけているとしればそれはそうなるだろう。

鬼太郎は妖怪ではないと言うかなり特殊な存在だ、それに今回の件は彼の知識と力が必要となる。

なんとかして助けたいものだ。となるとやはり気になるのはどうやって封印を解くか。

手っ取り早く思いつくのはアギトのトワイライトフォームだろうか。しかし翼と合流するのに加えて、恐らく封印石の間にも強力な門番がいる事は必須だろう。

 

 

「おばばの砂でもいけると思うけど……」

 

「とにかく鬼太郎殿を助ける事も優先させなければ」

 

 

寝子の為にも早く彼を自由にしてあげなければと思う。

その結果、天邪鬼達と寝子は鬼太郎を助けに行く事にした。

途中で砂かけ婆達を拾って、さらに翼を拾えれば言う事はない、一刻も早く鬼太郎を助けなければ。

 

 

「あの……寝子」

 

「どうしたの?」

 

「ゆ、幽子は……今どこに?」

 

 

思わず寝子は吹き出してしまう。

やっぱり心配なのね、そりゃそうだ。彼はずっと幽子と一緒にいたんだから。

 

 

「彼氏さんは大変ね。幽子は今は良太郎くん達といるらしいわ、簡単に言うと近くにはいないって事。残念だったわね」

 

「ハッ! そんなんじゃねぇよ!!」

 

「名前の通り、ツンデレさんなんだから」

 

 

天邪鬼は寝子には勝てないと悟ったのか、もう何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダーから連絡あり。花嫁さん、上層にくるらしいわね」

 

「上層か、するとココからそう遠くないのかもしれないな」

 

 

尤ももうこの部屋に意味なんて無い。

だとしたらココとは全く別の方向とも考えられるが、そう言ってディスは床から立ち上がる。

隣には巳麗だけでなく、妖怪城に迷ってしまった良太郎とハナ、そして彼らをナビする為にやってきた幽子がいた。

 

 

「とりあえず鍵を渡されたっていう妖怪を探そう」

 

「うん」

 

 

良太郎たちから受け取ったヒールカードを使いきったディスは、ため息をついてバックルを取り出した。

 

 

「何? あんたまた変身すんの?」

 

「ああ、良太郎たちから受け取ったカードのおかげでまた力を使える」

 

 

ディスは一枚のメダルを弾いた後、二つのメダルをドライバーにセットする。

その後に落ちてきたメダルをキャッチして中心にセット。そしてスキャナーをかざし、ポーズをとった。

 

 

「変身」『クワガタ!』『カマキリ!』『バッタ!』

 

 

電子音とは思えない程軽快なソングと共にディスはオーズに変身する。

あまり気分が乗らないんだけどな、そう笑ってガタリキバは固有能力である分身を行使した。

まずは十体、驚く良太郎達に軽く合図をしてガタキリバ達は部屋を出て行く。

 

 

「ちょっと、大丈夫なの? それって離れれば離れる程疲れるんでしょぉ?」

 

「ああ、だが花嫁を助けるにはコレくらいの無茶は必要だろう」

 

「ふーん、お疲れぇ」

 

 

ガタキリバはそうして49体の分身を部屋から城へと放つ。

彼らは全てがディス本人であり記憶および見たもの、感じたもの全てを共有できる。

目目連には遥かに及ばずとも49の動く監視カメラを放つのと同じだ。しかしそれだけガタキリバにかかる負担も大きくなる。

彼はやはりココを離れる事はできなさそうだ。

 

 

「あたし達はどうしようか?」

 

「とりあえず鍵を持っている妖怪を探しに行こう。あと離れた方の上層にもいってみようか」

 

 

良太郎、ハナ、幽子は頷くとディス達に別れを告げる。

ディスは動けない程負担がかかっているがどうやら話せない程ではないらしい。

黙っていた巳麗に彼は話しかけた、それはダブル達と同じ様な内容。

 

 

「何故……ココには誰も来ない?」

 

「そうね、それは気になってたわ」

 

 

こんな場所、むこうが知らない訳がないのに。それに本気を出せば二人なんて人数は用意につぶせるだろうに。

にも関わらず百目を倒してからはココには河童兵一人こないと来た。流石におかしいだろ。

 

 

「もしかしたら、向こうはコッチに興味ない?」

 

「いや、そうであったとして僕らを放置すると言う事はそれだけ花嫁を奪われる可能性が増えるって事だ。だったらやはり兵士くらいは寄こすべきだ」

 

 

まして巳麗はともかく、ディスは警備システムを管理していた百目を倒している。

そんな人間を放置しておく程向こうは馬鹿じゃない筈だ。ナメられているのか? それにしたっておかしいだろ。

 

 

「ねえ、ちょっと思いついたんだけどさ」

 

「?」

 

「もしかしたら、向こうは花嫁を取り返して欲しいんじゃない?」

 

「はぁ?」

 

 

それもそれで無いと思う話だ。

少なくとも百目達、所謂異物が存在している以上やすやすとはいかない。

いやちょっと待て、ガタキリバはある仮説を思いつく。それはあくまでも仮説でしかないが。

 

そもそも"邪神の使い"が今現在の最高司令官と考えていい筈だ、邪神の使いが何らかの支持を出して攻撃の手を弱めているんじゃないか?

だとしたら邪神の使いは何を狙っているのかと言う事、それはまさか自分達を試しているのではないだろうか?

邪神の使いはおそらく自分達を見ている。そして判別している?

 

 

「くそッ! ふざけやがって……必ず一泡吹かせてやる」

 

 

ほら、もう見つけたぞ一人。

僕を放置した事、必ず後悔させてやる――ッ!!

 

 

 

 

 

 





バトライドPV来たね。
ほぼ皆本人ってのも凄いと思う。あとウイングフォームの攻撃は吹いちまった。

ただ一人思いっきり生身の人間が暴れてたんですけど大丈夫なんですかね……


まあいいや、次多分来週のどっかにでも。
ではでは

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