仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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ロボとーちゃんがフォーゼの人だったんで休日に見に行ってきました。
面白かったね、思わず泣きそうにもなってしまったw

まあいいや、ではどうぞ。


第43話 魂の咆哮/逆転のW

 

 

 

「綺麗……」

 

 

みぞれは光り輝くデルタを見て思わず呟いてしまった。

気品と壮大さに溢れたデルタの姿、彼女はそれに答える様に翼を広げている。

美しく壮大、そして巨大な輝く翼。思わず口を開けたまま立ち尽くす手長と足長、だがその隙は大きすぎた様で――

 

 

「クロックアップッ!!」『Clock Up』

 

「!」

 

 

異次元の世界へと足を踏み入れるガタック、彼はそのまま足長の方へと加速する。

光の本流が彼を誘い、はるか向こうにあるゴールを見せるのだ。ならばゴールの先にいる彼女に会う為、再びガタックは正義の魂を拳に込める。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

「!!」

 

 

声も上げず、恐らく自らが吹き飛ばされた事すら気がついていないだろう足長。

ガタックは彼が吹き飛ぶ軌道に先回りする。そして二対のカリバーを合体させ魂を流し込む!

 

 

『Rider Cutting』

 

 

足長の意識が鮮明になった時、腰にはガッチリとカリバーがセットされていた。振り解かなければ――……。

そう考えた足長だったが、あいにくそんな時間を待っている程ガタックは暇じゃない。そのままガタックは高速で回転していく。

ジャイアントスイング。ガタックはそのまま竜巻の様に残像を残しながら回転して、やがてカリバーごと足長を投げ飛ばした。

カッティングのエネルギーを纏っているからか、光の軌跡が美しいアーチを描いた。

 

 

「なめるなああああああああッッ!!」

 

「!」

 

 

吹き飛ぶ足長に止めを刺そうとしたガタック。だが、なんと足長はこの状況で反撃を行なってきたのだ。

平衡感覚が失われている中、足長は空を切り裂く程の蹴りをガタックに向けて放つ。何故そんな事ができるのだろうか?

何、単純な話だ。彼もまた負けられないからに他ならない。守りたい者も、信じたい物もあろう。

その中で足長は自らの選択を信じて戦っているのだ。そこにあるのは決断と意思でしかない、足長の決意が全てその蹴りに放たれた。

 

 

「……ッ!」

 

 

新意鏡治にその蹴りを受け止める事はできるのか? 世界は、それをガタックに問うた。

彼が勝つにはカブトの試練同じく、彼の意思で勝つしかない。彼の、アキラへの思いで打ち破るしかないのだ。

できるのか? 新意鏡治? 彼とアキラの思い出なんてたかが知れたものなのに? それで彼女の為に、彼女を想う強さを発揮できるのか?

彼は、新意鏡治は―――

 

 

「アキラちゃん――」

 

 

彼は――

 

 

「待ってろよ!」『ONE』『TWO』『THREE』

 

 

しっかりと笑った。

 

 

「たとえ思い出が僅かな物だったとしても――ッ! 一緒に過ごした時間は真実だ!!」

 

 

そこに必要なのは時間じゃない。

相手を想う事、そのものだ。彼らは人間だ、時には反発もケンカもするだろう。

そして時には傷つけあう事も。だが、確かな絆もある。絶対さえも超える想いがある。

新意鏡治は天美アキラの為に戦える。何故なら彼はアキラの仲間、そして友達だからだ!

 

絆、思い出。それ以前に彼はアキラと共に笑い合える存在なんだ!

だから、助ける。彼女がいる一秒は、彼女のいない24時間に勝るから。

だから守る。彼はいつでも真っ直ぐに走っている!

 

 

「ああそうさ、俺はアンタに勝つぜ! 我夢くんの為に、アキラちゃんの為にッ!!」『RIDER KICK』

 

 

彼を邪魔するモノは彼が否定するッ!

 

 

「ライダァアアアアアアアアアア! キィィィィィイイイッッッック!!」

 

 

巨大な光を纏いながら、ガタックは足長の蹴りに自らの蹴りを直撃させる。

衝撃波と共に押し合いとなる両者のキック。激しい光の奔流が足長を包み込んだ。

力だけじゃない、何かもっと巨大な物が足長を押していく! これは何だ!? 何なんだ!?

 

 

「ウォォオオオオォオオオオオオオォオォオッッッ!!」

 

「―――ッッ!?」

 

 

そして足長は確信した。これはやはり――ッ!

それを感じた時、あり得ない話だがガタックの隣にもう一人の人間が見えた。

もちろんそんな事はない。ガタックの隣には誰もいないし、誰かが見えたと言うのも彼の幻覚でしかないのだ。

だけど、それでも。それでも足長はガタックの隣に"もう一人"。

 

 

いや、違う。もっと、多くの人間が―――……!

 

 

「悪いなッッ! 俺は一人でそれを背負ってるんじゃない―――ッッッ!!」

 

 

ガタックの蹴りが徐々に足長の蹴りを押し出していく。

そう、彼の蹴りは彼一人の力だけが込められているのではない!

彼に祈りを託した者達の想いが込められているのだ!!

 

 

「くぉぉおおお―――おッッ!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」

 

 

足長の蹴りが完全に押し負け、ガタックはライダーキックを足長へと叩き込む!

猛スピードで後方へと吹き飛ぶ足長。そこでまた幻覚が見える、ガタックの隣にいる少女の想いがだ。

 

 

「あ―――ガ―――………ッ!!」

 

「ああそうさ、俺に願いを託してくれた真由ちゃんの為にも……俺は負けられないんだよ!」

 

 

なるほど、彼の背中には、背負っている想いの量が違ったか――

足長はそのまま気絶し、思考を停止したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉおおおおおおおッッ!!」

 

 

一方の手長、彼もまたデルタと一方的と言ってもいい戦いに挑んでいた。それはもはやワンサイドゲーム。

手長は主に遠距離を主体とした戦いをメインとしている。無数の弾丸を用いたスタイルは相手の反撃を許さずに攻撃できる。

筈だった。だが、火力が――

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、レベルが違った様だ。

 

 

「ぐおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

光のシャワー、閃光の洗礼が手長を打ち抜く。

反撃を、かろうじて意識を保った手長がとった行動だ。無数の闇がデルタに向かって飛来していく。

だが、その闇ではすこし足りない様。

 

 

「ミカエル! ラファエル!」

 

 

彼女の言葉に答える様にして移動するのは、デルタムーバーのグリップ部分を取り外し銃身を大きくした様な『エデンズ』と言う武器だった。

エデンズはデルタの周りを常に旋回している連動武器である。その数は全てで11。

 

水属性・"ラファエル"

炎属性・"ウリエル"

風属性・"ミカエル"

雷属性・"ガブリエル"

そして光属性の"アークエンジェル"が七つ、その計11で構成されている。

エデンズはデルタの意思や声に反応連動して自由自在に移動し、そこから光線や実弾などデルタが設定した各々の弾丸を放つのだ。

 

 

「ハアアアアアアッッ!!」

 

「ぅ――ッ! おおおおぉおおおお!!」

 

 

エデンズが放つ弾丸の雨が、手長の弾丸を塗りつぶしていく。

デルタエンゼルは手長と同じく、遠距離に特化したフォームだ。デルタ本人はフォトンブラッドのバリアに守られ、常に空中を浮遊している。

さらにその大きな翼を羽ばたかせる事で、エネルギーの羽まで発射できる。無数の羽と言うミサイルに加えて、自身の手からもレーザー等を発射する事が可能。

そこに加えてのエデンズによる自動援護射撃、まさに天使と言う名の兵器と言っても過言ではない。デルタは次々にエネルギーを放出、手長を押していく。

 

 

「くっ! このぉぉおおッッ!!」

 

 

手長の連射攻撃。だが悲しいかな、威力も弾数もデルタは全て圧倒していた。

手長が十発発射すれば、同じ時間でデルタは六十はいける。もう手長に勝ち目など無い。

 

 

「フ―――ッ」『Music Select』

 

 

デルタは、デルタリングを操作してその選択をとる。

デルタリングはその音楽によってエデンズのスタイルを変えるのだ。

 

 

『READY』

 

 

選択した音楽は、攻撃特化『セラフィムコール』。

デルタリングからイヤフォンを介してデルタの耳にセラフィムコールが流れ始める。

それと同時に、デルタの周りを旋回していたエデンズが動きを止める。その後、瞬時にエデンズ達はデルタを中心にして円形状に位置を固定した。

 

時計の文字の様に均一に並ぶエデンズ達。

そして翼を広げるデルタ、そのあまりの神々しい姿に手長は攻撃を中止してしまう。

勝てないと、彼は完全に悟る。そして戦いを諦めるように、その光を全身で浴びるために両手を広げた。

 

 

「チェック!」『Exceed Charge』

 

 

デルタの翼がより強い光を放ち、各エデンズ達にエネルギーを供給していく。

それぞれのエデンズ達がまばゆい光を放ち、ついに部屋の中全てが光で満たされた。

 

 

「眩しい――……」

 

 

抵抗するわけでもなく、手長は呟く。

もう彼に戦うと言う行動はなかった。完全に失われた戦意、そんな彼に訪れるは結末。

 

 

「フル――ッッ! バァァアアアアストォォォオオオオッッ!!」

 

 

"デュミナス・エンド"、それを文字にするのならまさにフルバースト。

11個のエデンズ達から放たれる幾重もの閃光。虹色の雨が手長に降り注いでいく!!

壮大な音楽が流れる中、赤の、青の、緑の、黄色の、紫の――、数々の閃光、弾丸、エネルギー!

その全ての力が銃弾となりて手長を撃ち貫く!!

 

 

「………!」

 

 

光に包まれて、手長の意識は失われた。

着地してフォームを解除するデルタ。部屋には気絶している足長、手長。そして彼らが落とした綺麗な宝石。

最後に仲間たちだ。デルタは手長達が落とした宝石を拾うと、ピースを決める。湧き上がる仲間たち、それは勝利の証明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、デルタが起こした勝利。

それは新たな活路を生み出し、希望の光を連鎖させる。

 

 

「ッ! 合体したところでこの攻撃はよけれない! 消し炭となれッッ! 鏡爆弾!!」

 

 

四体のカガミトカゲから、再びレーザーが発射される。

巨大な姿であるため、ラグーンワイダーによける術は無い?

 

 

「!!」

 

 

だがラグーンワイダーは美しい鳴き声をあげて、八つの翼を大きく羽ばたかせる。

金色の風と白き羽達が美しいスパイラルを描き、カガミトカゲたちに降り注いだ。

するとレーザーが軌道を変えたではないか。美しい羽達を傷つける事を拒むかのようにレーザーはカガミトカゲたちの方向へと向きを変えて、そのまま着弾していく。

 

 

「ぐああああああッ!!!」

 

 

見た目はそよ風にしか映っていなかった羽ばたき。

それは強大な風力をかねそろえたものだった、レーザーさえもその力で押し返す程の。

カガミトカゲはその危険性を悟ったのか、分身達を盾にして一気に龍騎達めがけ突進を仕掛けてきた。

しかし、いくら盾を作ろうが無駄なこと。金色と白の旋風はカガミトカゲを宙に巻き上げて叩きつける!

 

 

「あぐぉおおッッ!!」

 

「タアアアアアアアッッ!」

 

 

さらにこの風はファムたちにとっては追い風となりスピードを上げるサポートの役割も果たす。

加速したファムの突きがカガミトカゲの胸を打ち抜いた。苦痛の声をあげ転がるカガミトカゲ、だが接近してくれたのは好都合だった。

狂乱反射によって激しい爆発が巻き起こり、ファムはそこへ消えていく。

 

爆発の威力を上げるカガミトカゲ。

一気にファムを絶命させ、彼女を助けにきた龍騎もそのまま粉々にする。それが彼女の立てた作戦だった。

 

 

「ク――ッッ アアアアアアアア!!」

 

 

作戦通り、カガミトカゲはニヤリと笑ってファムを見た。

爆発の威力と衝撃は彼女にとっては強すぎた様だ。苦痛の悲鳴を上げるファム。しめた! このまま爆発を繰り返せば確実に殺せる!

カガミトカゲは更に分身を爆発させた、その数は2。カガミトカゲは全ての分身を大爆発させる。ファムのマントが焼け焦げ、彼女は苦痛に膝をつく。

 

 

「ハハハ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハ?

 

だが、カガミトカゲの計算は一つだけ違っていた。それは――

 

 

「くっそがあぁああああアアアアアアアアッッ!!」『ソードベント』

 

 

それは、彼女が倒れないと言う簡単な事――ッ!!

 

 

「ゴアアアアアアアアアア!!」

 

 

カガミトカゲの体をファムのソードベント、ウイングスラッシャーが捉える!

予想通りなのはファムも同じ、自分があえて突っ込む事でカガミトカゲは止めをさそうと鏡像を爆発させるだろう。

ならば、今目の前にいるのは間違いなく本物! 周りに鏡像など存在しない!!

 

 

「き、キサマッ!! 図ったな!!」

 

「いいかぁ……ッ!」

 

 

カガミトカゲはファムを引き剥がそうとするが、どれだけ力を込めてもファムは離れない!

もちろん彼女が耐え抜いただけで、彼女自身相当なダメージが通っている筈だ! それなのに何故!?

 

 

「アタシは、負けられないんだッッ!!」

 

 

昔の自分が、今の自分を見たら何と思うのだろう

世界に絶望して、大切なヒトを恨んで……それでいいと思って、見えない敵を作って逆らっていた毎日。

でも何かに反抗するたびに虚しくて――

 

その事に付き合ってくれた真志や皆、そして天美アキラと言う人間。

白鳥美歩にとって、その経験を支えてくれた彼女達は何よりも大切な存在。

いつか、自分が強くなって現実と向き合う時に、情けない話だがまた彼女達に隣にいて欲しかった。

 

だけど、彼女は死ぬ。

 

もう、いい。しつこい! そんな事何度も言われているっての!!

どうせ私達は世界も守れないしアキラも救えないってんでしょ?

 

ああ、そう。

昔の私ならここで諦めてたかもと彼女は思う。

昔の彼女なら諦めていた、そんな世界を呪う毎日にシフトチェンジしていたかもしれない。

 

 

だが今の彼女は違う!

 

 

「ハッ、うんざりだわ。そんなモン。あーしがぶっ壊してやんよぉ!」

 

「ッ!?」

 

 

ファムは、美歩は遠くで微笑んでいる彼女に向かって拳を突き出した。

この手は彼女に届く? いや、届かせて見せる。だって今自分は、どんな状況だって諦めない魂を背負っているから。

そうっしょ? 自分。すごいよね、昔の私が見たら気絶してっかも! そりゃそうだ! だって、今の私は―――

 

 

「仮面ライダーなんだからよぉぉおおおおおッッ!!」

 

 

そうでしょ? アキラ

だからさ、諦めんなよ。どんな手を使っても皆が笑って追われるエンディングを見つけようぜぇ!!

 

 

『ストライクベント』

 

「ラアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ファムはそのままカガミトカゲを持ち上げて天へとかざす、そこへドラグクローを装備した龍騎の火炎弾。

コチラも相当な想いが込められているのだろう。通常の何倍もの大きさである火炎弾がカガミトカゲを直撃。はるか遠方の壁へと叩きつけた!

 

 

「アガァァア……アア――ッ!」

 

 

地面に手をつき、苦痛の声を漏らすカガミトカゲ。

まだだ! 龍騎はもう一度火炎弾を放った! 紅蓮の炎を纏いて一直線に弾丸は飛んでいく。

 

 

「ふ……ざ――ッッ!! け…るッッ!! なああああ!!」

 

 

だが一直線と言う事が逆にカガミトカゲには好都合だった。

素早く鏡を展開させて火炎弾を受け止める。なかなかの高威力だが防ぎきれない訳でもない、このまま龍騎の元へと反射してやる!

カガミトカゲは力を込め――

 

 

「うらあああああああッッ!!」

 

「!!」

 

 

火炎弾が大きすぎて前が見えないカガミトカゲ。

それが狙いだった、龍騎はドラグクローを構えたままカガミトカゲの眼前に迫っていた。

一瞬思考が停止するカガミトカゲ。まさか……まさか!!

 

 

「ゴガァアアアアァァアアアアアァァアアアアアッッ!!」

 

 

紅蓮の炎が勢い良く弾ける、龍騎はガード中のカガミトカゲに追撃のストレートをぶち込んだ。

炎ごとカガミトカゲを殴り飛ばした龍騎、その手にあるドラグクローは赤い炎を纏っている。

なんと重い一撃だろうか? そう当然だ、この拳には譲れぬ想いが込められているのだから。

 

 

「ゴハッ! き、きさまぁぁッ! ガハッ!!」

 

「アキラちゃんを見捨てた瞬間、オレ達はもう後戻りできなくなる。ならオレはアキラちゃんを守る! もうこれ以上悲しみは増やさないッ!」

 

「―――ッッ!!」

 

 

聞いていない! こんな連中がいるなんて聞いていなかった。

まさか負ける? この――ッッ! この私が負けるのか!!!

 

 

「そんな馬鹿な事がありえる訳が――ッッ!!」

 

 

立ち上がり、カガミトカゲは分身を生成する。

まだ負けた訳ではない! しっかりと作戦を立てれば――!

そんな彼女の思考を塗りつぶすようにして、その電子音が鳴り響いた。

 

 

『ファイナルベント』

 

「クオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「フ……ッ! ハァァ――……ッッ!!」

 

 

龍騎は両手を前に突き出し、再び引き戻した後舞うように旋回させる。

それに呼応するように龍騎の周りを移動するラグーンワイダー。そのまま龍騎はラグーンワイダーが発生させた風に身を任せ、上空へと浮遊していく。

 

 

「くっっ!!」

 

 

ラグーンワイダーの咆哮と共に風が発生。龍騎はその風に乗って、とび蹴りを行なう!

迫る龍騎、カガミトカゲは分身達を盾にして防ごうと試みるが――

 

 

「!」

 

 

前に出たカガミトカゲの分身たちが、風に巻き込まれて一人でに爆発していくではないか!

あっと言う間に一人、つまり本体だけとなったカガミトカゲ。もう分身を作る時間はない、龍騎の蹴りを受けるだけとなった。

それでも龍騎を打ち落とそうと考えるカガミトカゲ。だが、白い無数の羽が目くらましとなって龍騎の姿を隠す!!

 

 

「ダアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

「ギャアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

龍騎の蹴りを受けて、カガミトカゲはまたも後方に吹き飛ぶ。

なんとか防御でき意識が飛ぶことはなかったが――、ふとカガミトカゲは後ろを見る。着地地点を予測する為にだ。

そこで、カガミトカゲは最も視界に入れたくなかった存在を発見する。ああ、そうか。そう言うことか!

後ろに居たのは――

 

 

「すぅぅぅぅぅぅう―――……ッ!」

 

 

深く息を吸うファム、彼女の先にはこちらに向かって吹き飛んでくるカガミトカゲ。

彼女は勝利の一撃を行使する為にウイングスラッシャーを旋回させる。何かカガミトカゲが叫んでいるが、もう関係はない。彼女を苛む鎖は――

 

 

「ぶった切るッッ!!」

 

「ぐああああああああッッ!!」

 

 

ファムの一閃! カガミトカゲに刻まれる金色の軌跡!!

階段にたたきつけられ、そのまま彼女は一気に階段を転げ落ちていく。

しばしの沈黙。並び立つ龍騎とファムの視線の先で、よろよろとカガミトカゲは立ち上がった。

まだ戦う力が残っているのか? 焦る二人だが、カガミトカゲの様子を見るにその可能性は無いと悟る。

カガミトカゲは消え入りそうな声で呟いた。

 

 

「私が……負ける――ッ! 馬鹿な……どうして――!? 戦闘員がいない事が原因――っ? いや、私の身体能力が――!!」

 

「ゴチャゴチャうるせぇっての、どんな理由があろうともアキラちゃんはゼッテー返してもらう」

 

「馬鹿な――ッ! 馬鹿なぁぁぁああ……ッッ!!」

 

 

その時、カガミトカゲは何かの単語を呟いたが、それがなんなのかはうまく聞き取れなかった。

偉大なる大組織『―――』がどうのこうのと彼女は叫ぶ。

 

 

「神聖な支配を――ッッ! ァァァァアアアアアアアアアア!!」

 

 

カガミトカゲの体が光り輝き、大爆発。

その場に転がり落ちる宝石を見て龍騎達は勝利を確信したのだった。

 

 

「……ッ?」

 

 

ふと、龍騎は焦りの念を覚える。

何故カガミトカゲは死んだ? 妖怪と人間を殺さない様にゼノン達がセーブをかけてくれたのに――

 

 

『彼女は、人間でも妖怪でもないと言う事だ』

 

「え?」

 

 

ふと、頭の中に響いた言葉。だれかに通信をかけられた? でも聞いた事のない声だが――?

その声はもういくら話しかけても返してくることは無かった。気になりはしたが、今は時間もない。

龍騎は割り切る事にして、宝石の方へと駆けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トルネイド』

 

「!」

 

 

トルネイドの効果によって暴風がピタリと止んだ、戸惑う鬼天狗と対照的に真っ直ぐカリス達を見る人狼。

ダミーの鏑牙達はカリスたち目掛け突進を仕掛けてくる。だがウルフの力を得た彼女には届かない、同じく冷静さを取り戻したキバにも彼らの攻撃は当たらない。

二人のスピードはもはや影、獲物を狙う獣は機敏な動きで地面を蹴った。

 

 

「亘! まずは人狼(ほんたい)を倒すか攻撃しなければ結界とルールは解除されない!」

 

「そうっすね! どうします?」

 

 

作戦は共有者としての能力を発動させて伝える事にした。

カリスはねずみ男を抱えて激しく跳躍、移動を繰り返す。せまりくる攻撃を素早くかわし着実に人狼を狙いにいく。

 

 

「愚かな、遅い。遅すぎる」

 

 

だが人狼。鏑牙にとってそれは、ジャックフォームのカリスも微々たる差でしかなかった。

冷静にカリスの動きを見極め、攻撃を回避する鏑牙。互いに平行――いや、未だ鏑牙達が圧倒的に有利に違いない。

そこをどう覆すのか? カリス達は一体どう言う作戦をたてたのだろうか。

 

 

「くそッ! どこまでもふざけた連中だ!! あのクソ馬鹿な花嫁と同じ!! 弱いくせに、何もできないクセに調子に乗りやがって――ッッ!!」

 

 

風が封じられた鬼天狗は基本的に物理攻撃に頼るしかない。

ジャックフォームになったことで風を止められる時間も増加しているのだ。

 

当然鬼天狗は風を操ってこそ。それを封じられた今、特別な能力もない攻撃はいとも簡単にカリス達にかわされていく。

そしてその苛立ちが頂点に達したのだろう。彼はついに言ってはいけない事を口にしてしまう。

彼を睨む鏑牙も呆れ気味であったが、なにより――

 

 

「アキラが……馬鹿だと……?」

 

「ああ! そうだ! コッチがちょっと悲しげに見せただけで簡単に生贄になる事決めやがってよッ!」

 

 

口調が変わる鬼天狗。

よく聴けば声には少しのエコーが。

 

 

「馬鹿なんだよ! あんなクソ女一人死んだ事で何か変わるわけでもねぇのに信じやがって!!」

 

 

完全に鬼天狗でなく『素』が出ている様だ。

そう、彼もガイアメモリで変身した人間にしかすぎない。

今までは普通の生活を送っていただけに、力を得てそれこそ文字通り天狗になっていたのだろう。

だからこそ、自分の思い通りにいかない展開にかなり苛立っていた。そしてそれがいかに愚かな事なのか、彼は知らない。

 

 

「おい――」

 

「あぁ!?」

 

 

カリスの声色が一気に変わった。その言葉は鬼天狗に向けられた物。

 

 

「次、そんな事を言ってみろ――」

 

 

そう言ってカリスは一枚のカードを取り出す。

何が来る? 身構える鬼天狗だったが――

 

 

「ワタシは貴様を、ぶっ殺す――ッッ!」

 

「―――ッッ!!」

 

 

できる訳がない、人狼を殺さぬ限り自分は無敵なのだ。

なのに……! それが分かっていて鬼天狗は固まった。

殺す? 何を馬鹿な事をッ!? そう、理解しているのに――、恐怖に押し負けた!

 

 

「あ……あ――ッ」

 

「ハッタリだ。落ち着け、奴等にお前を傷つける方法はない」

 

 

鏑牙の言葉に頷く鬼天狗。

だがカリスの雰囲気が変わる事はなかった、その様子に少し違和感を感じる鏑牙。

カリス、彼女からは何か自信がある様に感じられる。その手に持ったカードは始めて見るものだ。

 

まさか――ッ!

 

 

(ハッタリでは……ない?)

 

「見せてやろう。切り札は――ッ」

 

 

最後までとっておくと言う事を。

そう言って、カリスは一気に跳躍で鏑牙達の群れに突っ込んでいく。何をするつもりなのか!?

本体である鏑牙は後ろへ下がり、偽りの鏑牙達がカリスを迎え撃とうと構えた。

 

 

「はあああああッッ!!」

 

 

カリスアローが分離して双剣へと姿を変える。

そしてカリスはそのまま偽りの鏑牙に向かって剣を振り下ろした。

何を馬鹿な事を!? 鬼天狗と鏑牙もこれには驚きの目を向ける。そんな事をしても全く無駄のはずだ。

 

だが彼女が何の考えも無しにそんな事をするわけが無い、ならばその行動には何かの意味があると言う事なのだろう。

鏑牙に攻撃したカリスは、反撃の閃光が現れる前にそのカードを発動させる事に成功した。

既にバイザーにセットしかけていたのか、つまり初めから狙っていたと言う事になる。

 

 

『リフレクト』

 

「なっ!」

 

 

攻撃反射、リフレクトモス。

カリスの周りをジャックフォームの効果なのか、金色の鱗粉が舞う。

そこに触れた閃光。もちろんそれは例外なく反射された。

 

しかし反射された閃光もまた鏑牙達には効果の無い攻撃でしかない。

それもカリスの攻撃とみなされてさらに反撃の閃光が放たれる。

 

 

「まさか――ッ!」

 

「気づいたか! だがもう遅い!!」

 

 

そう、閃光はペナルティとして鏑牙の意思関係なく放たれる自動攻撃装置なのだ。

それはつまり、純粋な機能を果たすだけ。カリスが反射した閃光が鏑牙に当たり、さらに閃光が放たれる。

その新しい閃光もまたカリスに跳ね返されて、閃光が閃光を生みそのループが繰り返される。

反撃の閃光が放たれる時、一瞬部屋を光りで満たすのをカリスは見ていた。閃光のループは一瞬だけの光を長時間へと昇華させたのだ。

ジャックフォームに変わればカードは強化される。この場合はリクレクトの強度と時間が増加するのだ。

 

 

「ぐおぉおお!! 小賢しい真似を!!」

 

「―――ッ!」

 

 

鬼天狗も鏑牙たちも部屋を満たす光には耐えられなかった様だ、光の中で彼らの動きが止まる。

だがそれはカリス達も同じの筈。しかしタンっ! と地面を蹴る音が聞こえ、本体である鏑牙は初めて防御の姿勢を取った。まさかこの状況で攻めてくるのか――!?

 

 

『マスター、そのまま直進すれば鏑牙の一体に当たります。六歩先、右です』

 

『亘、七歩先を左じゃ!』

 

 

この光のフィールドの中、自由に辺りを把握できるモノがいた。それはカードに封印された上級アンデッド達である。

彼女達は、マスターであるカリスからの通信を介せば、カリスと同じ景色をモニターの様に観測する事ができる。

アンデッドにとってこんな光はなんのその、余裕でマスターに本当の道を教えることができるのだ。

しかも共有者としての能力があるため、亘へも話しかけることができる。

 

カリスとキバ、それぞれキングとクイーンからの通信だけを頼りに駆け抜けていく。

立ち止まることは無い。立ち止まってしまったらその光りが、彼女が消える様な気がして止まれなかった。

彼女への希望が、望みが自分の魂を目覚め、熱くさせる! 絆が、カリスを、キバを創り上げるのだ。

 

 

「クソッ!! どうにかしろ! 鏑牙ぁッ!」

 

 

鬼天狗が吠えながら無茶苦茶に蹴りを繰り出す。

彼は無敵だからそのまま立っていればいいのだが、恐怖と怒りが彼をその行動に駆り立てた。

その時リフレクトの効果が切れ、フィールドは再び鮮明な空間に戻る!

 

 

「な――ッ!」

 

 

鏑牙の目に最初に映ったもの。

それは、自らの目の前で双剣を振り上げているカリスだった!!

 

 

(あの視界の中で俺にたどり着いたと言うのか……!)

 

 

だが――ッ!

 

 

「甘いなッ!!」

 

 

振り上げた状態ならコチラが先手を取れる。

鏑牙はその鋭い爪をカリスに向けて放った!

 

 

「お前もな」

 

「なにッ!!」

 

 

だがカリスの姿は遠ざかる。つまり彼女はバックステップをしていたのだ。

目の前に現れ、あたかも切りかかろうとしていた姿だった為に近づくものとばかり錯覚に陥った。

しかし彼女は鏑牙から明確な距離を取っていたではないか。

 

どういう事だ? 鏑牙の思考が停止する。

そうしていると、悲鳴の様な声と共にカリスと自分の間に割り入ってくる物が。

 

 

「ひぃいいいいぃいぃいっぃ!!」

 

「しま――ッ!」

 

 

 

あの光りは不意打ちの為の物ではない!

割りは入ってくるは茨の蔦に体を巻きつけられ、放り投げられる鬼天狗。

強化されたバイオは真っ赤な薔薇の花を咲かせ、棘もより鋭利な物に変わっていた。きっと拘束力もまた――。

 

つまり、光で部屋を満たし、カリスは彼を投げ飛ばす為に確実な手を取った。

そしてこの状況を創り上げることを初めから狙っていた。

やられた、鏑牙はすぐに手を引き戻そうとするがもう遅い。

 

 

「!」

 

「!」

 

 

突きを受けたのは鬼天狗、カリスは鬼天狗

鏑牙その意味を理解する。そう、鏑牙が鬼天狗に攻撃を行なった事で反撃の閃光が鏑牙に襲いかかるのだ!

彼は人狼、つまり無敵ではない。

 

 

「ぐぅううううッッ!!」

 

 

閃光をまともに受けてしまい後ずさる人狼(かぶらが)、だがまだ一撃を受けただけだ。

何の事は無い、まだまだ致命傷では――

 

 

「ッ!!」

 

 

ふと上を見る鏑牙、そこには天井からぶら下がっているキバの姿が。

まさにコウモリと言うに相応しい、キバはそのまま飛び降りると同時にガルルセイバーの強烈な一刀を鏑牙に刻み込んだ。

 

 

「クッ!! なかなかやるじゃないか……ッ!」

 

 

他の分身や鬼天狗は何をやっている?

苛立つ鏑牙が見たのは、直立して全く動かない分身達。

どういうことだ? 鏑牙は鬼天狗に視線を移した。

 

 

「……なるほど」

 

「持って、一分が限界だろう」

 

 

鏑牙達や鬼天狗はただ立っているだけじゃない。薔薇の蔓に縛られ、拘束されていたのだ。

バイオのカードはまだ発動中と言う事か。ジャックフォームの恩恵を受けた蔓は、普段のものとは違い薔薇が咲き乱れている。

それがやけに美しく感じた。

 

 

「はなせぇえええええええッッ!!」

 

 

鬼天狗がもがきながら大声を上げる。どうやら蔓は指定した地面から生やす事もできるらしい。

だからこそより多くの分身を拘束する事ができている。

 

しかしカリス視点でまだ油断はできない。

人狼には全く隙が無い様に見える。いくらコチラが素早いと言っても鏑牙には十分に反撃できるチャンスなのだ。

一瞬の油断で状況は覆される。

 

 

「どうした? こないのか?」

 

「では……」『チョップ』『ドリル』

 

 

カリスの手に金色のエネルギーが纏わりつき、ドリルの様に回転し始めた。

これで決める。互いが構え、同時に走り出した!

 

 

「うぉぉおおおおおおッッ!!」【スパイラルランス】

 

「―――ッ!!」

 

 

カリスの力で形勢されたドリルと、鏑牙のストレートがぶつかり合う!

 

 

「……ッッ!!」

 

「残念だったな。力不足、それがお前の敗因だ!」

 

 

意外にも、力の差は歴然だった。

鏑牙は競り合う程カリスに余裕を与えない。ドリルの動きを簡単に止めて、カリスの拳をしっかりと掴んでいた。

そして次にくるであろうキバを見る、ガルルセイバーを構えてフエッスルを手にしているキバ。

 

 

「お前は何か勘違いをしている」

 

「何?」

 

 

だが、キバは意外にも鏑牙に背を向けた。

何をしている? カリスを助けなくていいのか? キバの行動に疑問を感じる鏑牙。

 

 

「ワタシは一人で戦っているんじゃないと」

 

「ッ?」

 

「捕らえられているのは……どっちかな?」

 

 

ふと足に感じる違和感、鏑牙が地面に視線を移すとそこには薔薇の蔓!

まだバイオの効果が継続したいたのだ、カリスの足と鏑牙の足を結ぶ薔薇の蔓。

どうやらそれだけ精神力を削れば時間を多少は長くできると言う事なのか。

 

捕らえられているのはどちらか? 鏑牙は危険を感じてカリスの足を振り払おうと考える。

だが、離れない! 力が強く、引きちぎる事も振り払う事もできなかった。

 

 

「脚力には自信があってな、さあ……終わりにしようか!!」

 

 

だが、鏑牙はまだ冷静である。

引き剥がせない事のなにが悪い? 逆にこれはチャンスだ。

カリスはもう逃げられない、上半身が自由に動くならこのまま彼女を引き裂いてやればいい!

 

 

「残念だったな」

 

「!!」

 

 

カリスは急にしゃがむ。

一体何なんだ? 先ほどから彼女達の動きが全く掴めない。しゃがんだ所で何ができる? 何も変わらないのは明らかなの……に――?

カリスがしゃがんだ事で、彼女の背後にいた者の姿が見えた。なんて間抜けな姿なのだろう、そこにいたのはねずみ男。

だが、あろう事か尻を突き出してこちらに向けている。思わず混乱する鏑牙、一体コイツは何を――

 

 

「あばよ、3 2 1……」

 

 

まさか……こ、こいつは――

それを理解した時、カリスの蹴り上げがモロにヒットしてしまう。

美しい開脚で鏑牙の混乱を加速させる、呼吸を止める事を忘れさせる程に!!

 

 

「発射!!」

 

 

まさに爆音。ねずみ男から発射された屁が鏑牙を包み込んだ!

なんとも汚い様に聞こえるかもしれないが、鏑牙の強化された嗅覚にとってそれは殺人級の威力を発揮する。

すぐに呼吸を止めるがもう遅い! 鏑牙の意識が飛びそうになり、カリスを掴んでいた手を離してしまった。

 

 

「ワタシ達の勝ちだ!」『キング』【スピニングダンス】

 

「ぅ―――クッ!!」

 

 

汚染された空気を風が吹き飛ばす!

ジャックフォームのオーラで黄金に染まった風と共にカリスは狙いを定めた。

鏑牙はそれを理解しているが動けない、それほどまでにダメージを受けていたのだ。

 

 

「おいッッ!! 鏑牙ァア!! 何をやって――」

 

「お前も……」

 

「ッぁ!?」

 

「お前も、終わりだ!」『ガルルバイトォ!』

 

 

セイバーを咥えたキバは、大きく踏み込んで跳躍した。まだ無敵時間は切れていないのに?

いや、もう切れる!

 

 

「ウオォオォオオォオオオオオオッッッ!!」

 

「グ――ッッ! ガアアアアアアアア!!」

 

 

黄金の旋風を身にまとい、カリスは蹴りではなくその手で、その爪で鏑牙を、人狼を引き裂いた!

宙に舞う鏑牙、それと同時に粉々に砕け散る世界。それは、ゲームの終了を告げる合図。

 

 

「うらあああああああああああッッ!!」

 

「ギィアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

キバの一閃が鬼天狗を刻む!

一刀両断。ガルルの紋章が浮かび上がり、瞬間大爆発が起こった。

吹き飛ぶのは鬼天狗だった人間と粉々に砕けたメモリ、そしてキバの手に落ちる宝石。どうやら鬼天狗が欠片を持っていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ――! グゥゥウ……ッッ!!」

 

「!」

 

 

人間体に戻った鏑牙、まだ立てるのか! キバとカリスも再び彼に向かって構える。

だが意外にも鏑牙自身があっさりと負けを認めた。敗北宣言、潔い最後にカリス達は構えをとく。

 

 

「見事だ……俺の、負けだな――ッ!」

 

「お前は、何故そちらについた?」

 

 

彼は異質だ、カリスの言葉に鏑牙は静かに笑った。

 

 

「過去、俺もお前達と似た様な思想を掲げていた……ッ!」

 

 

だが彼は気づく、人は愚かだ。

もちろん皆がと言う訳ではない、それでも大多数の者がそうである以上は人に見込みは無い。

彼は、いや"彼ら"は人に見切りをつけた。その事に彼は後悔しているのだろうか?

 

 

「救う事も、諦める事も……俺達はしなかったのかもな――」

 

 

それがなんの事なのかは分からない。だけど、彼の言葉には言いようの無い重みがあった。

それをカリスもキバも感じている。だから何もいえない、彼の言葉を遮れなかった。

一体鏑牙と言う者はどんな人生を歩んできたのか? 今一度二人は知りたくなったのかもしれない。

この戦いもまた、なぜか彼が負けたとは思えなかったのだ。

 

 

「お前達は……花嫁の為に戦うというか……」

 

「ああ当然だ。その為にココに来たんだからな」

 

 

そうか、鏑牙は少し微笑むと小さく呟く。

 

 

「少し……うらやましいかもな――……」

 

「本当に強いのは、人の想いだ。それを忘れないでくれ」

 

 

もう一度鏑牙笑う。そして、彼の手が闇に変わり溶けていった。

肉体の限界がきたのだろうか? それよりも、気絶じゃなく消滅と言う事は……まさか――

 

 

「この世界の人間じゃないのか!」

 

 

そう、それしかありえない。

彼は明らかに妖怪だ、でも妖怪なら気絶する。しないなら妖怪でも人間でもないか――、この世界の者ではないと言うこと。

とはいえ何故か彼は満足そうな表情だった。負けた事が嬉しいわけは無い。だが、何かを彼は得たのかもしれない。

 

 

「花嫁を守る妖怪はまだ強力な者が多い。気をつけるんだな……ッ!」

 

 

足が、手が、胴体が闇に溶けていく鏑牙。

 

 

「とにかく"ゲームは"お前達の勝利で間違いない。俺に勝った褒美だ……これをやる」

 

 

そう言って鏑牙はキバに何かを渡す。

見れば、資料室の場所がそこには記されていたではないか!

鏑牙は罠じゃない事を告げると、その場所に座り込んだ。

 

 

「お前……」

 

「最後にいいか?」

 

 

亘にはどうしても気になっている事があった。

それはねずみ男も気になっていた事なのだが、何故鏑牙は一番大事な占い師をねずみ男に与えたのだろうか?

占い師は天敵だ、ならばそれこそ鬼天狗にそれを与えればいいのではなかったのか?

 

 

「……俺が仕掛けたゲームにおいて、俺達狼側の勝利条件は人間側の全滅だ」

 

 

そして占い師は人間側。つまり――

 

 

「俺を裏切る気だったのか!?」

 

 

ねずみ男の言葉に彼は肯定の笑みを浮かべる。

 

 

「悪いな、だが簡単に信じる方も悪いのさ」

 

 

しかし結果的にねずみ男が先に裏切って自分は負けた。

だが鏑牙はその結末こそが正しいエンディングの一つだと思っていたのだ。

ねずみ男が裏切り自分が負けるのか、それとも自分が裏切ってねずみ男達が負けるのか。

 

 

「結果はこうだ、"今回は"お前らの完全な勝利だよ……ッ! さよならだな、にんげ――」

 

 

そしてまっすぐな瞳で二人を見たまま、鏑牙は完全に消滅するのだった。

 

 

「アイツ、なんだったんすかね?」

 

「さあな。だが……この宝石を手に入れた事は大きい」

 

 

宝石は美しい輝きを保っている。

そして、友里、美歩、咲夜に断りの欠片を通した通信が入った。

内容は美歩からの情報、宝石を三つ合わせれば資料室の鍵になるという事だ。

 

 

「これでうまくいけばマップが手に入る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、じゃあ鏑牙の奴負けちまったのかぁ」

 

「ええ、カガミトカゲさんも死んだ様ですね」

 

 

だから油断するなって言ったのに。

そんな事を言いながら笑うのはヒトツミだ、彼女は瑠璃姫が持っていた手鏡の中でケラケラと笑っている。

どうやら通信機能を持っているらしく、それを通じての会話だった。

 

 

「でも、まさか鏑牙がゲームを仕掛けて負けるなんてねぇ」

 

「ややこしいルールを理解できずに多くの参加者が死ぬんですけれどね」

 

 

ヒトツミは舌を出してケラケラ笑う。

ちょっと侵入者に興味が湧いたと彼女は言った。

頷く瑠璃姫、彼女も彼女でココまで彼らが食いついてくるとは思っていなかったようだ。

下手をすれば自分も――、と言う可能性も出てくるのだから。

 

 

「一度顔出してみるかね!」

 

「いいんですか? 勝手な事をして」

 

「もちろんいいとも。あと、お前ら子供は作ったのかい?」

 

 

首を振る瑠璃姫、何も知らない人間が見ればこの会話は少しおかしく感じるかもしれない。

だがソレは彼女たちにとっては別の意味を持つ言葉だった。

子供、ソレが何かを比喩しているとしたら――

 

 

「ま、いいや。アンタのはどうする? 瑠璃姫」

 

「そうですねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方――

 

 

「いやぁ…! わりぃわりぃ!」

 

 

と、笑うねずみ男。

 

 

「本当にお前は反省の無い!!」

 

「ま、まあ落ち着いてください! ねずみ男さんのおかげで勝てたんですから! ね!」

 

「まあ、そもそもコイツがあんな事をしなければここまで苦戦する事もなかったかもだが」

 

 

扉が開き、砂かけ婆達が駆け寄ってくる。

まずは鍵こそ手に入れたが、そもそもこれを三つ合わせなければならないのだ。

友里達と自分たちの居場所も相当離れているだろう。疲労も溜まってきた、ここから三人が合流して鍵を作り資料室へと向かうのは相当な時間と体力がいる。

なかなか難しい話だ。なんとかならないのか? 咲夜は通信で他の仲間に助けを求めた。

するとすぐにダブル、ゼノン達から連絡が入る。

 

 

『カリス、宝石の大きさはどの程度だい? いや、質問を変えよう。宝石は理の欠片より小さいかい?』

 

『? まあ、小さいが……』

 

 

ならばいいとゼノンたちは言う、そして断りの欠片のカードに宝石をかざせと言ってきた。

とり合えず言われた通りにする友里、美歩、咲夜。すると、ゼノンは別の人間に通信を行なったようで、その声が聞こえてくる。

 

 

『じゃあ、君のカードをお願いするよ』

 

『やれやれ、感謝したまえよ……』『アタックライド・ゲート!』

 

「!」

 

 

すると、宝石が理の欠片の中に吸い込まれていったではないか。一瞬焦る三人だったが、ゼノンがすぐに補足する。

理の欠片を媒介にしてディエンドの力を発動させたと。

これは軽い転送装置の役割も果たす。三つの宝石はカードを通してある男の下へと届けられる事に。

 

 

『これで、後は資料室の場所が分かれば……』

 

『それなら手に入れた。場所は――』

 

 

カリスは鏑牙が示した場所を告げる。

それに反応する幽子達、確かにその辺りにあった記憶がある。

鏑牙の示した道は真実と言う事なのか。ますますおかしなヤツだった。

 

 

『まあでも、これで資料室の道は分かったわ。後気になるのは、やっぱり鬼の力が封印されている道具の在り処かしら?』

 

 

フルーラの台詞に頷く一同。そもそもアレを手にする目的もあるのだ。

ゼノンはとり合えず全員から情報を集めるが寝子や幽子、砂かけ婆ですらその場所は分からなかった。

当然だ、鬼の力はこの社会に関する重要な場所でもある。ごく一部の重鎮にしか居場所は分からないのだろう。

 

まして鬼の力を使う事を迷っているに違いない。

既に我夢の手に一つ渡り、かつその我夢が自分たちに牙を向けているのだ。

もしそれを使って邪神に対抗したとして、その後、使用者が素直に鬼の力を返却するだろうか?

それを恐れ、結局生贄の選択をとったと言う事なのだろう。

 

 

『でも、とにかく今は資料室に向かったほうがいいんじゃないかな。急がないと鍵を手に入れた事がばれちゃうよ』

 

 

拓真の言葉に皆は頷く。

ゼノンは、鍵を預けた人間に応援のメッセージを送って通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーん、それが鍵ってヤツか。飴みたいだな……!」

 

「朱雀ちゃん、食べられないよ?」

 

『あたり前だぜ、飲み物だよな?』

 

「ぜ、全然違う……!」

 

 

ため息をつくリラ、そしてケラケラ笑う朱雀とカブトゼクター。

三つの宝石が重なった事でそれは美しい鍵へと姿を変えた。

装飾が派手になって、いかにも貴重で高級感あふれる作りになっている。

 

 

「これは、希望さ」

 

 

その男、鍵を受け取った者はニヤリと笑って座っていた階段から立ち上がった。

男達の前には無数の河童兵が彼らを倒そうと奮闘しているが、何より彼らが既に倒した河童兵達がブロックになっていてうまく彼らのところまで辿り付けない。

 

 

「さあ、行こうか」

 

『よっしぁ! 女の子を助ける為に戦うってシチュ! 嫌いじゃないぜーッ!』

 

 

鍵を託されたのは、天王路双護。

彼は相棒であるカブトゼクターを呼び、ベルトに装填させた。

 

 

「変身」『HENSHIN』

 

 

六角形の光と共に彼の体が装甲に包まれていく。

カブトマスクドフォーム。変身を完了させたカブトは、同じ所にいたリラと朱雀を抱えてカブトエクステンダーに乗り込む。

 

 

「しっかり掴まっていろ」

 

「へ?」

 

「キャストオフ!」『『Cast Off』』

 

 

弾ける音と共にカブトの装甲、そしてエクステンダーの外装が吹き飛んだ。

タイヤの位置が移動して巨大な銀色の角が出現する。エクスモード、カブトのバイクが自身と同じくキャストオフによって現れた形態だ。

 

 

「おぉ! かっけぇ! ハハハ!!」

 

「ぅぅ、こ……怖いよぉ!!」

 

 

テンションが上がったのか、上機嫌に笑う朱雀。

対照的に怯えているのかリラはテンションが下がりブルブルと震えている。

 

 

「んー! あいっかわらずお前はビビリだな! 大丈夫だっての!」

 

「フッ、さあ……いくぞ!」『Clock Up』

 

 

それはまさに一瞬、されどリラにとっては永遠にも感じる時間。

彼の悲鳴と共にエクステンダーは河童兵をぶち抜いて超高速の世界を駆け抜けていく。

目指すは資料室、そこに行けばマップを手に入れられるかもしれない。敵が気づいてマップを隠す前に……早く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、双護が向かったみたいだな」

 

 

通信を切った司。自分もアキラを早く見つけないと……

しかし、どこを行っても同じような場所しかない。一応作りはガラリと変わっていくが、アキラがいそうな場所の検討は着かないものである。

 

 

「………」

 

 

司はその場所に座ってライドブッカーからカードを抜き出してみる。

クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、カブト、電王、キバ、そしてディケイド。残すカードはあと響鬼だけ。

いったいこのカードは何をもってして開放されるのだろうか? 今までの経験を見るに変身者が何か決意した時か――?

そして最も気になる所といえば全てのカードが開放された時、何かが起こるのだろうか?

まあ何も起きない可能性だって十分あるが。なにせ最初の世界は全て使えていたようだし……。

 

 

「仮面、ライダーか……」

 

 

今更思い返しても何だが、本当に、どうして自分はなれたんだろう。

とても不思議な気分だ。今、アキラが死に向かっているのを止められるのはこの力しかない。

どうか自分に力を貸してくれと、司はカードに映るヒーローに願いをこめた。

 

 

「―――ルルル!」

 

「っ! やばい!」『カメンライド――』

 

 

河童兵の声が聞こえてきた。司はディケイドライバーを装着してカードを装填する!

電子音と共に司の姿がディケイドに変わり、構えた。ライドブッカーを構えて走り出すディケイド。

だがすぐにその足を止める、河童兵だけかと思っていたら厄介な相手がついて来たものだ。

 

 

「………」

 

「「クロロロロロロ!」」

 

 

河童兵を二体引き連れて歩いていたのは、夜叉。河童兵の他にもなにやら派手な格好の妖怪を二体引き連れている。

一体は巨大な牙が特徴的なランスブィル、とても派手な格好で顔はトーテムポールの様だった。

もう一体は少女の顔と胃袋だけで構成された少し不気味な妖怪・ペナンガラン。

薄暗い廊下でディケイドと夜叉達は対峙する。ここは確か四階――

 

倒せるか? 聞いた話によれば相当強い妖怪だと聞く。

クロックアップかアクセルで一気に決めるのもいいが、向こうもそれに対抗する手段は持ち合わせているだろう。

 

 

「………」

 

「!?」

 

 

だが、意外な事に夜叉はディケイドに構う事無く横道に反れていってしまった。

いったい何故? 自分は侵入者なのに。あまりにも意外すぎて立ち尽くすディケイド。追うべきか? それともアキラを探しにいくべきか。

そのまま完全に消える夜叉の気配。とり合えず体力と精神力を温存する為に変身を解除するか、ディケイドがベルトに手をかけようとした時。

 

 

「……ん?」

 

 

何か変な音がする。地鳴りの様な、少なくともいい音ではない。

何だ? ディケイドは周りを見回してみる。何か夜叉が仕掛けたのか? だが、ここは廊下。特に敵の影も気配も無いと思うのだが。

だんだん大きくなる音、ディケイドの心に焦りがうまれる。とにかくこの場所を離れようか? いや、ちょっと待て! まだ、見てない場所があった。

 

 

「―――ッ!!」

 

 

おいおい、マジかよ!!

 

 

「うッ! うぉぉおおぉおおおおおぉおッッ!?」

 

 

とっさに両手を上へ突き上げるディケイド。

できればカメンライドでタイタンかアックス辺りに変わりたかったが、もう遅い。

 

 

『ゴオォォオオオォオオ!!』

 

 

直後、全身に伝う衝撃! 全身が揺れて気絶しそうになる。

妖怪おとろし、巨大な鬼の頭だけで構成された彼の役割はトラップ。侵入者を上から押しつぶす強力な存在なのだ。

現にディケイドも彼を支えきれずに膝を着く。支えきれない! このままでは押しつぶされてしまう。

 

 

「うぅッ!! やっべぇえぇ……ッッ!」

 

 

ああ、くそッ! 夜叉はそれが分かっていたから離れたのか!!

しかし、なんて大きいんだコイツは! 咆哮を上げておとろしはディケイドを押し潰さんと力を込める。

ディケイドも何とかしたい所だがバックルにカードを入れる時間がない。クロックアップとアクセルがあるから油断していた。

仲間も散り散りになったおかげでディケイドから一番近い仲間でもここに来るまでに時間はかかる。

 

 

(やばいんじゃねーかコレッ!!)

 

 

なんとかできないか!?

ディケイドはありとあらゆる計算を立ててみるが、どれもうまくいかない。

なにせ大分訓練をつんで早くなったと言えど、カード発動にはカードを抜き取って装填する必要があるからだ。

やばい! やばい!! ディケイドの焦りと共に迫るおとろし。詰みである、ディケイドは覚悟を決めて一か八かを――

 

 

「ウラァアアアアッッ!!」

 

「!」

 

 

その時、突如誰かがスライディングでおとろしの下にやってくる。

そしてディケイドに手を貸す形でおとろしを持ち上げた。ディケイドは現れた助っ人を見る、長髪に胴着。この少年はもしかして――

 

 

「君、天邪鬼!?」

 

「まあな! 俺がコイツを抑えるから! アンタはそこの壁をぶち破ってくれ!!」

 

 

壁? そうか、そこから逃げると言う事か。

今は一秒すら惜しい、ディケイドは頷くとおとろしから手を離す!

 

 

「ぐぐぐううッッ! ちくしょうがッ! なんて重さだ――ッッ!!」

 

「ちょっと耐えてくれよな! 変身!」『カメンライド』『デンオウ!』

 

 

変身音と共にディケイドにアーマーが装備される。

現れたのは電王ソードフォーム、ディケイドは壁を壊す為、すぐにもう一枚のカードを装填した!

 

 

『アタックライド』『オレサンジョー!!』

 

「俺、参上!!」

 

 

ポーズ!!

 

 

「………」

 

「………」

 

「「………」」

 

 

早くしろォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

天邪鬼の叫びでディケイドは我に返る。あ、間違えた。コッチじゃない! ってか、このカード何の為にあるんだ……!

 

 

『フォームライド・デンオウ! アックス!』

 

 

電王アックスフォームとなったディケイド。大きく息を吸って壁に力を解き放つ。

ゼイッ!! ディケイドの気合と共に突き出される拳。すると、廊下の壁は粉々に砕け散り空が見えた。

そうか、ここは上層なんだ。ここから飛び降りては危険だ、ブレイドになってジャックフォームにならなくては。

ディケイドに戻り、ブレイドのカードに手を伸ばした時――

 

 

「サンキュー! じゃあホラ!」

 

「は?」

 

 

ドン! 背中に衝撃を感じたディケイド。

蹴られた……と、言うか背中を押されたのはいい。問題は――

 

 

「え、えええええええ!?」

 

 

空中に放り出されるディケイド。

まだブレイドになってない! これじゃあ地面に向かって真っ逆さまじゃないか! そんな事をお構い無しに天邪鬼も穴から外へ飛び降りる。

落ちていく二人。いくら変身しているからといってこのまま落ちればダメージが!

 

 

「ずッ!! おぉぉおお!!??」

 

 

まただ。今度はディケイドの肩に衝撃が走り、同時に体が軽くなる。

いや軽くなったんじゃない! 飛んでる!! 浮いている!?

 

 

「よかった。なんとか間に合ったな……!」

 

「へへっ、結構やばかったんじゃねーの。アンタ」

 

「………ぁ」

 

 

天邪鬼を背中に乗せ、ディケイドを掴んで飛んでいるのはカラス、では無い。

鴉天狗(からすてんぐ)、生贄に反対派の妖怪だ。天邪鬼は総大将に賛成するフリをしていたが、ディケイド達の侵入で彼らにつく事を決めたと言う事。

二人はそれを素早くディケイドに説明するとそのまま空を飛んでいく。

 

 

「君は花嫁の友達か何かか?」

 

「あ、ああ。そうだけど――」

 

 

気がつけば妖怪城の一角に着地していた。

どうやら妖怪城の周りはセキュリティの意味を込めて風が強いらしいのだ。

鴉天狗は自分たちがディケイド達と同じ考えである事を告げると、協力の意思を告げた。

 

 

「君達みたいな者が現れると信じていた……。生贄の判断は間違っている」

 

 

彼もまたディケイドと同じ様な思想を持っている。

 

 

「命の犠牲の上に成り立つ社会自体は、確かに間違ってはいないだろう。だがソレは邪神に従う事ではない!!」

 

 

そう、だから彼らは鬼太郎を中心に邪神を倒す方法を探した。

鬼の力、そして今ディケイド達の力があれば邪神を倒す事は不可能ではないかもしれない!

それは希望だ。アキラを、世界を守る為には全員の力を合わせるしかない。

もちろんディケイドにとっても鴉天狗や天邪鬼、妖怪城の知識が豊富で頼りになる仲間が増える事は喜ばしい事だ。

 

 

「俺も……あなた達は幽子さんや寝子さんから聞いてます。どうか、アキラを助ける為に協力してくれませんか!」

 

「もちろんだとも!」

 

 

握手を交わす両者。

しかし天邪鬼は少し焦り気味の表情でディケイドに詰め寄ってきた。

 

 

「ゆ、幽子は無事なのか!?」

 

「え? あ、ああ。今はこの城に来てもらってるが――」

 

「そうか……! いや、ならいい。俺はは天邪鬼、よろしくな!」

 

 

安心した様に笑って、天邪鬼はディケイドと握手を交わす。

 

 

「幽子と天邪鬼は恋人同士なんだ」

 

「そ、そうだったのか!」

 

「あいつ、無茶するからな……この前も偵察だけにしろって言ったのに音角を盗んで」

 

 

それは心配だ、幽子は連れて来るべきではなかったか?

だが彼女も引けない想いがあるというもの、それは天邪鬼もよく理解している様だ。

 

 

「とにかく、まずは司。花嫁を救う前にどうしても協力してほしい事がある」

 

「?」

 

 

鴉天狗はディケイドにある作戦を説明する。

なるほどとディケイドは頷いた、流石は妖怪城に普段から入れるだけはある。

鴉天狗の情報はとても貴重な物が多い。そしてコチラにとってかなり有利になりそうな事があった。

それをまずは消化しておきたいとの事。

 

 

「分かりました。俺も協力します!」

 

「助かる! 場所はもう分かっているんだ。警備も今は薄いし、楽に手に入る筈――ッ!」

 

 

頷く三人。アキラを、世界を救う鍵を求めて、彼らは動き出す。

そして司は気がついていないが、ライドブッカーに確かな変化が起こっていた。

カードが追加された場合、ライドブッカーはその事を司に伝え、かつカードの効果も脳に直接叩き込んでくれる。

だが今回はソレが全く無いために司は今も"そのカード"が存在していた事に気がつかなかった。

 

まだそのカードは完成してはいない。絵柄が薄くなっており、ある一部分が不自然に空白となっている。

ディケイドのカードには名前が表記されており、それは薄い字ではあったが確かに記載されていた。

そのカードの名は――

 

 

『COMPLETE』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「どうだ?」

 

 

そう声をかけられた男は、小さく笑って声をかけた青年へと顔を向ける。

相変わらず気の抜けた雰囲気だが、その中に感じられる覇気もまた凄まじい物だった。

男は何度か頷いたように首を動かすと、もったいぶる様に声を出す。そして最終的には――

 

 

「……いいんじゃない?」

 

「もったいぶってソレか……」

 

「まあまあ、本当にそう思ったんだから仕方ないじゃないの。ねえ?」

 

 

そう言って笑う男、しかし笑みの中にもしっかりとした眼差しを向けている。

彼もいろいろ思う事があるのだろう、それは青年も同じだ。いろいろ"彼ら"には苦労をかける、聞けば過去にもいろいろあったとか。

それは簡単な事であり、そうでない事だ。本当に胸が痛む――

 

 

「じゃあ、さっさと出たらどうだ」

 

「いやいや、それじゃあつまんないでしょ」

 

 

男は言う。

 

 

「今さ、"子鬼"くんは必死に走ってる。その背中を押すのは俺達じゃなくて先輩や友達だと思うんだよね」

 

「なら、お前はどうする?」

 

「俺? 俺はね――……どうしよう?」

 

 

男は少し考えた後青年に向かって再び笑いかける。

 

 

「誰だってさ、一度はどうしても超えられない壁って奴にぶち当たる時はくるんだよね」

 

「それはそうだな、悲しい事だが限界ってヤツはある」

 

「そん時にさ、その壁をこえるジャンプ台に俺はなりたい……って!」

 

 

ドヤ顔で男は言うが青年は不思議そうな表情を浮かべている。

しかし意味を理解してかしないでか、青年はフッと笑い男に背を向けるのだった。

 

 

「好きにしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資料室。

 

妖怪城の中でも重要な部屋であり、この城の内部地図が保管されている場所でもある。

正直、妖怪サイドとしても侵入者にここまで粘られるのは予想外ではあった。

最強のサトリで終わる、妖怪城にいた誰もがそれを信じていただろう。

 

しかしサトリは侵入者に敗北し、今三つの鍵さえも侵入者に奪われた。

もう言い訳も疑うこともできない。侵入者の実力は本物と言う事だ。

 

 

「侵入者の姿はあるか!」

 

「いや」『無い』

 

 

ならいいと、妖怪・ヤマアラシは頷いた。

ハリネズミの様な外見の彼と、妖怪両面宿儺は資料室からある物を持ち去る為にやって来ていた。

そう、マップ。城内の地図を侵入者が手に入れるのは非常にまずい、それは絶対に防がなければ。

ヤマアラシと両面宿儺は共に侵入者よりも早く資料室に行ける場所にいた。

早速二人はマップを持ち去る為に資料室の扉を開ける。

 

 

「両面宿儺、お前はここに」

 

「ああ」『分かった』

 

 

ヤマアラシは念の為両面宿儺を扉の前に残して、自分は薄暗い資料室に入っていった。

沈黙が包む空間。資料室には誰もいない様だ、ニヤリと笑うヤマアラシ。しめた物だ、これならマップを全て別の場所に移す事も可能だろう。

そうすれば侵入者達が城内の場所を把握する事はない。マップがなければ花嫁の場所に辿りつく事は不可能。

愚かな、我等の勝利だ。ヤマアラシは資料室のマップがある場所に移動した。そしてその手をマップに乗せた時――

 

 

「!!」

 

 

資料室に、明かりが灯ったのはその時だった。

 

 

「………」

 

 

ゆっくりと振り返るヤマアラシ。

彼は資料室に誰もいないと思っていた。鍵もかかっていたし、自分達の方が明らかに早くこの場所にたどり着ける筈だ。

だから確信していたのに――

 

彼も音速を超えるスピードには勝てなかったと言う訳。

鍵がかかっていても関係はない、手に入れた鍵を使ってあければいいだけの話なのだから。

 

 

「助かった、おかげでマップを探す手間が省けた」

 

 

資料室にあるソファ、そこにその男は腰掛けていた。

美しい顔立ちの少年は、ヤマアラシを前に余裕の笑みを浮かべている。

そこには一片の恐怖も焦りもない、代わりに自信と希望に満ちている少年の瞳。

 

ヤマアラシはその少年に危機を覚える。

これが、侵入者か――と。あえて隠れる事で、マップまでの場所を最短で見つけるとは。

自分を都合よく利用したという事か。この男、ただ者ではない。

 

 

「名を聞こう、お前の名は?」

 

「俺か? 俺は――」

 

 

その時、羽音と共に現れるのは赤いカブトムシ。

カブトムシは少年に肩に止まると、ヤマアラシを一瞥し言い放つ。

 

 

『気をつけろよ、コイツ……相当強いぜ?』

 

 

それは、どちら視点で言われた言葉なのか。

 

 

「ッ!」

 

 

そして、そのままカブトムシは少年の腰に装備されていたベルトへと装填していく。

直後、迸る六角形の光――!

 

 

「俺は、天王路双護。花嫁の奪還をここに宣言する!」『HENSHIN』

 

 

ヤマアラシは瞬間的に自らの針を発射していた。

しかしそれが彼に通る事は無い。硬い装甲が針を弾き飛ばし、同時にそれは戦いを告げる合図となる。

カブトはクナイガンを構え発射した。高エネルギーの光弾がヤマアラシの体に直撃し、大きく吹き飛ばす。

周りの本棚を巻き込んで倒れるのを確認すると、カブトはゼクターの角を弾いた!

 

 

「キャストオフ!」『Cast Off』

 

 

パージする装甲、そして彼の新たな変身を電子音は告げる。

 

 

「お前は、大切な人がいるから戦うんだろう?」『Change・Beetle』

 

 

カブトライダーフォーム。

彼の問いかけにヤマアラシは頷く、もう皆知っている。分かっている。どれだけ侵入者(かれら)がアキラのことを大切に思っているかを。

ヤマアラシはそれを知りながらも、彼らの侵入を拒まなければならない。それは妖怪達にとっても、この戦いが辛い物だと言う事だ。

 

 

「いるさ、それくらい……!」

 

 

本の山を書き分けてヤマアラシは立ち上がる。

そして針を発射、カブトに迫る無数の弾丸――!

 

 

「そうか――」

 

 

ならばと、カブトはクナイガンで針を弾きながらヤマアラシに迫る!

 

 

「その大切な人を、殺そうと考えた事はあるか?」

 

「!」

 

 

目の前に迫ったカブト、しかしヤマアラシは動かない。

その複眼の奥にどれだけの強い意志を感じ取ったのだろう。

まるで蛇に睨まれた蛙の様に、ヤマアラシの動きは停止する。

 

 

「何……ッ?」

 

「愛する人を、殺さなければならない決断を」

 

 

その瞳に吸い込まれた様に、ヤマアラシは動かなかった。否、動けなかった。

誰の事を言っているのかは分からない。だがその問いかけには答えなければならないと思った。

だが質問が質問だ。ヤマアラシは言葉が出ずに沈黙してしまう。愛する人を殺す決断――!

 

 

「そして、その決断がどれだけ辛い物なのか……知っているか?」

 

 

衝撃、カブトの回し蹴りがヤマアラシを吹き飛ばす。

カブトは自分に重ねていたのかもしれない。妹を殺そうとした自分、そして想い人を殺そうとした我夢。

そして分かっている、その決断が間違いだったと言う事も。

 

しかし自分は鏡治に、司に教えられなければ、その愚かな選択を正しい事だと自分の中で確立して実行していただろう。

その後に待つのが後悔だけだと知りつつも――!

 

 

「!!」

 

 

本の山から無数の針が飛んでくる。

カブトはそれをかろうじてクナイガンで弾き飛ばす、同時にヤマアラシが跳躍してこちらに向かってきた。

火花が散る。ヤマアラシの針とクナイガンがぶつかり合い、弾き合う。

 

 

「また忘れるところだったよ――……」

 

 

ヤマアラシの目に見えた覚悟、どうやらもう話し合いは完全に無意味の様だ。

彼は言う、花嫁はいかなる理由があろうとも死んでもらわねばならない。

たとえそこから悲劇が始まろうとも、たとえその過程に多くの血が流れようとも、花嫁は死ななければならない。そこから何かが始まるからだ。

 

 

「天美アキラは死ぬ! どうあってもだ!!」

 

 

無数に発射される針、カブトはそれを避ける事はない。

 

 

「………」『Put On』

 

 

それはカブトはプットオンを発動して装甲を強化させたからだ。

弾かれる針。舌打ちを放ち、後ろへ跳ぶヤマアラシ。あの装甲にはそれ相応の威力を持った一撃が必要だ――

どうやら、本気で殺しに掛からなければ駄目らしい。

 

 

「天王路と言ったか、覚悟を決めてもらおうか――ッ!!」

 

「……ほう」

 

 

どうやら今の今まで殺さないように手加減をしてくれていたと言う訳か、カブトは確信する。

今彼の前にいるのは針の大きさが倍となったヤマアラシ。あれならばこの装甲とて受けきれる事は無いだろう。

 

 

「悪いが、貴様にも死んでもらうぞ!!」

 

「いいだろう来い。キャストオフ!」『Cast Off』

 

 

カブトは装甲を一点集中にして前方に放った! 同時にヤマアラシも針を発射する。ぶつかり合う両者の弾丸。

だが勝敗は一瞬だった。ヤマアラシの針が装甲を全て打ち貫き、カブトへと向かっていく。

クナイガンで弾くのも無意味か、カブトはそう判断して近くにあった本棚を倒した。直後本棚を貫く針達。

とらえたか? あそこから回避は難しい筈だ。ヤマアラシは急いで本棚の方に近づいていく。

 

 

「!」

 

 

だがそこで衝撃、いつのまにか背後に回っていたカブトに銃弾を貰う。

本に隠れての奇襲と言う訳か、ヤマアラシは自らの油断を悔いる。針は背中に備わっている為、背後からの攻撃は無いと考えていたのだ。

だがそこを突かれた。飛び道具ならば針の有無など関係無い、完全にカブトの作戦勝ちである。

 

 

「だが、銃弾の威力は低い様だな」

 

「………」

 

 

ライダーフォーム状態ではクナイガンは連射性を重視される形になる為、やはり威力は低い。

ヤマアラシの針で覆われた背中、その防御力が勝っていたので実質ダメージは与えられない事になる。

 

 

「ハッッ!!」

 

 

またヤマアラシの針が発射される。カブトは素早くそれを回避するが――

 

 

「どうした! そんな事では俺には勝てんぞ!!」

 

 

次々に迫る弾丸を交わすのに必死で、カブトは全くヤマアラシに近づけない。

このまま防戦一方ならば、やがて限界が来てしまうだろう。それは同時に彼の死を意味する。

もうヤマアラシは彼を完全に殺す気でかかってきているのだ、でなければ彼は倒せないと知っているから。

 

 

「恨むなら運命を恨め、花嫁を恨め!」

 

「何?」

 

「お前たちが花嫁に出会わなければ、死ぬこともなかっただろうに。お前の不運は花嫁と知り合った事なんだよ!!」

 

 

その言葉に、カブトの動きが止まった。

諦めたのか? ヤマアラシは決着をつける為にカブトの頭めがけ針を発射する。

終わりだ、針はカブトの頭部に突き刺さり息の根を止め――

 

 

「なッッ!!」

 

 

カブトは自分の眼前に迫る針をその手で掴みとり、周りの針は回し蹴りで吹き飛ばした。

あのスピードの針をまさか受け止めるとは――ッ!

 

 

「そうだな……俺も、そう思った時があったよ」

 

 

真由を……いや、真由香を思い出して双護は少し笑みを浮かべた。

自分と彼女は出会った事が間違いだったのではないかと思った時もある。

自分の試練の時だってそう。いっそ出会わなければよかったと思った。一目見た瞬間から、真由に触れ合った瞬間に。

それはアキラもそう、彼女と出会った時からもう悲劇は始まっていたのだろうか?

 

 

「だが、違ったんだ。それは悲劇なんかじゃない――……いや、たとえ悲劇だっとしても喜劇に変える事ができる物なんだ」

 

 

カブトは針を握りつぶす。おかしい、ヤマアラシは冷や汗を浮かべていた。

カブトは仮面で顔を隠しているのに、何故かその仮面の下にある表情が鮮明に浮かんでしまっている。

 

 

「アキラは……アキラの代わりはこの世に存在しない。だから俺は彼女に会った事を後悔するなんて絶対にしない」

 

 

アキラだけじゃない、真由も我夢も司も皆――この世に生きる全ての命に代わりはいないのだ。

たとえどんなに似ているとも、どんなに同じに見えても、いい意味だろうと悪い意味だろうと代わりはいない。

 

 

「俺は彼女との出会いを悲劇で終わらせるつもりはない。悪いが、そこをどいてもらうぞ」

 

「……ッッ!! 知った事かぁアッッ!!」

 

「!」

 

 

ヤマアラシの雄たけびと共に無数の針が資料室を囲む。

彼はただ針を発射していただけではないのだ。彼の特殊能力に、針を遠距離から操ると言う物がある。

今まで針を発射しながらも同時に設置していた。左右も、上も、後ろも前も針がカブトを狙っている。

彼は針を外した事は無い、なぜなら外した針さえも後の弾丸となるからだ。

背後から相手を狙う弾丸に!

 

 

「お前の言いたい事は理解できなくはない。だが、この戦いに正義も正しい事も存在しないのだ。俺が今ここで殺せば、全ての言葉は無に帰る!」

 

「………」

 

 

針はカブトの動きを的確に捉えている様だ。

少しでもカブトが動けばそれにピッタリと針達は向きを修正してくる。

どこに逃げようとも針千本の結末が待っている。しかしカブトは恐れることなく立っていた。針の群れの中、彼はしっかりと立っていた。

 

 

「アキラは特別な存在なんだ。どんな事をしてでも、俺達はアキラを助ける」

 

「不可能だな、仮に俺を倒しても花嫁へ近づける距離は限りなく微々たるものだ。それこそ、闇の中を歩くに等しい」

 

 

それにこの針を回避する事なんて不可能だ。その言葉通りカブトがどこを見ても針先が確認できる。

これが、ヤマアラシの合図一つで放たれるのだ。彼の命は実質彼が握っている様なもの。

尤もヤマアラシはカブトを生かすつもりもない、確実に殺すだけだ。

 

 

「だが俺は――」

 

「?」

 

「それでも勝つ」

 

「……!」

 

 

それなのに、まだカブトに焦る気配は無かった。

凛とした態度で立っている彼を、ヤマアラシはどこかで恐れていたのかもしれない。

迷う事など無い、アキラと言う人間を助ける為に戦うと言う簡単な理由。カブトはそこに揺ぎ無い意思を込めた。

 

それにヤマアラシは怯む。

ただ彼は針を発射すればいいだけなのだ、なのにできないのは心のどこかでカブトに針が通用しないのではないかと思っているから。

この攻撃を破られたら自分に勝ち目はない。現状は有利に見える戦いも、蓋を開けて見れば互角……いや、ヤマアラシが押されていたのだ。

 

勝てる筈だ、確証は?

何故ヤツは怯まない?

何故勝利を確信している?

 

 

「お前はこの針を見てもまだそんな事が言えるのか……ッ!!」

 

「当然だ。尤も、以前の俺ならばこの針を避ける事はできなかったかもしれない」

 

 

天王路双護ならば。

だが今は違う。仮面ライダーカブト、その力が味方してくれるのだ。

ならば何を恐れると言うのか? 何を心配する必要があるのだろうか?

 

 

「俺は俺の強さを、そしてカブトを信じている。だから俺に不可能は無い」

 

 

何ていう滅茶苦茶な理論、ヤマアラシは意味が分からずに思わず一歩後ろに下がった。

どこからこの自信は湧いてくるのか? とても追い込まれている者の発言とは思えない!

 

 

「俺は世界も、アキラも護って見せる。だから安心して――」

 

 

道を開けろ。なんとカブトはヤマアラシに降伏を迫ってきた。

唖然とするヤマアラシ、カブトの身体からあふれ出る自信が全て力となって彼を包んでいるかのようだ。それほどまでにカブトは余裕だった。

馬鹿にしてくれる。ヤマアラシはどこかまだ心に引っかかる物を感じたが遂にその行動に出た。

 

 

「ふざけるな! もういい、これで終わりだッッ!!」

 

 

針は一勢に発射準備を整え、その先端をカブトに向けた。

どんな実力を盛っていようが、この針の嵐を乗り越えることは不可能ッ!

ヤマアラシは指を鳴らし、針をカブトに向けて発射した。

 

 

「回避できるか? 天王路双護ッッ!!」

 

「………」

 

 

針がもの凄いスピードと共にカブトへと飛来していく。

回避がどうと言う話ではない、避けることは不可能な程の量と速さ。

終わった、カブトは抵抗すら許されず刺し貫かれるだろう。

 

 

「………」

 

 

もちろん、それは――普通ならば、の話だが。

 

 

「クロックアップ!」『Clock Up』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんな――ッ」

 

 

ヤマアラシは力なくその場に膝を着く。

それはそうだろう、全てを乗せた一撃といってもいい攻撃だったのだから。

それがヤマアラシ最大の攻撃、だから勝てなければおかしいのだ。なのに……それなのに――ッッ!!

 

 

「何故立っていられる……」

 

 

ヤマアラシの指差した所にはカブト! 無数の針を下にして、カブトは悠然と立っていた。

ありえない! ヤマアラシは傷一つついていないカブトを見て、これは夢なのではないかとすら思ってしまった。

だが違う。これは紛れも無い現実。真実なのだ。

 

 

「おのれ――……ッッ!!」

 

 

ヤマアラシは半ば奇襲じみた手に出る。

再び針を操作して下から上へ針を発射したのだ。これならば――

 

 

「!!」

 

 

しかし、カブトはそこにいた。無数の針を全てかわし、カブトはそこに立っていた。

そんな馬鹿な! ヤマアラシはしっかりとカブトが針をかわしているのを見ていた。そして瞬時理解する。

そういう事か、ヤツの能力は――。いかに針の威力が高くても、いかに針の数が多くても、いかに針のスピードがあっても――

 

その全てを、カブトのクロックアップが凌駕する!!

 

 

「俺は何よりも、そして誰よりも――」『ONE』

 

「!」

 

 

瞬間的にヤマアラシの背後に回るカブト。そしてクナイガンで彼の足元めがけ連射する。

 

 

「昨日の自分よりも速く!」『TWO』

 

 

よろけるヤマアラシを思い切り蹴り飛ばすカブト。

 

 

「限界さえも抜き去って見せる!!」『THREE』

 

 

そしてそのまま、吹き飛ぶヤマアラシよりも早く移動して彼の着地点に先回りを行う。

吹き飛びながらヤマアラシは確かに見た。その男の揺ぎ無い意思の形を!

 

 

「お前は言ったな、この戦いに正義は無いと――」

 

 

なら覚えておけ。カブトはそう言ってゼクターの角を引き戻す。そして――

 

 

「この戦いに正義は存在する」

 

 

それは――カブトはゼクターの角を弾いた。

電子音と共にエネルギーがカブトの角に収束していく。そしてそこから足へと流れ込むエネルギー。

 

 

「俺が、正義」『RIDER KICK』

 

 

ライダーキック。

それはヤマアラシをしっかりと捉えて弾き飛ばした。針を纏ったその装甲すらも打ち砕く!

 

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 

本棚に直撃して無数の本と共に地面へ落ちるヤマアラシ。

カブトはもちろん反動でダメージを受けたが、痛みのリアクションすら見せず、代わりにある物をヤマアラシに見せた。

 

 

「――ッ! ………は、はは」

 

 

それはマップ、城内地図そのもの。カブトはあの攻撃の最中にマップを全て回収していたのだ。

本にまみれたこの部屋からマップを全て奪い取り、かつヤマアラシを倒す。

 

 

「俺の、負けだ………ッッ!」

 

 

ヤマアラシの意識がそこで途切れる。

カブトは変身を解除すると、静かに笑って踵を返した。

あちらはうまくやっているだろうか? 早く確認しなければ、カブトゼクターはそんな中双護に足の事を聞いてみた。

カブトの装甲があったおかげで血こそ出ていないが、ヤマアラシの針ごと蹴り飛ばしたので相当痛かった筈だが……?

 

 

「ああ、死ぬほど痛かった。正直ちょっと泣きそうだ」

 

『とか言いつつ普通に歩くなんて、やっぱお前人間じゃないかもな』

 

 

双護はその言葉にフッと笑うと、また歩き出すのだった。

その手にしっかりとマップを掴んで。

 

 






オリジナルフォーム、要素の説明と補足をココで。


●デルタ・エンゼル

デルタの中間フォーム、携帯音楽プレイヤーを模したデルタリングを使い変身。
このフォームになると足が消えて歩行ができなくなり、代わりに常に空中に留まる。
役割は"超遠距離特化"。援護射撃を行ってくれるエデンズを操作して自らもミサイルやレーザー、ビーム等で相手を攻撃。
ファイズアクセルと違って変身時間に明確な制限は無いが、ファイズアクセルと違い完全な強化フォームとは言えない。

その主な理由は攻撃のほぼ全てが遠距離である為、接近戦面が大幅に弱体化する事である。
足が無くなった事で蹴りはできず、腕力もデルタ時より弱体化している。

しかしそれでも広範囲、高火力から繰り出される弾幕は非常に強力。
相手に近づけさせる事無く勝つ、それこそがデルタ・エンゼルの使い方。


『デルタリング』

変身中に音楽を選択できる。音楽の種類は四つ。
選択した音楽によってエデンズの動きを統一化する事ができる。
これにより様々な恩恵を受けられ、かつ各必殺技に繋げる事が可能。





●カリス・ジャックフォーム

カリスの中間フォーム、カテゴリーJ・ウルフアンデッドとクイーンの力を借りて変身する。
黄金の爪、毛皮のマント、双剣となったラウザー。全体的にワイルド(原作での最終フォーム)をイメージさせる。
ブレイドとは違い飛行能力は追加されないが、スピードが上がり接近戦が得意になる。

ちなみに毛皮は見た目よりもはるかに丈夫で、伸縮性も抜群である。
耐熱等もなされている事からカリスを守る鎧、盾。または伸ばして攻撃とも機能する。




●無双風輝龍ラグーンワイダー

ユナイトベントにより龍騎の契約モンスター・ドラグレッダーとファムの契約モンスター・ブランウイングを合成させた物。
八対、計16の翼を持ち黄金の装甲をまとう純白の龍。ブランウイングの風力とドラグレッダーの攻撃力を合わせた風を発生させる。
この風は敵にとっては攻撃となるが味方には加速力を与える物に。ラグーンワイダーは攻撃と補助をかねそろえたモンスター。

必殺技はラグーンワイダーの風で強化された龍騎のキックを相手にぶつけ、吹き飛び無防備になっている相手にファムが止めを刺す、"ミラージュセイバー"。


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