仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第40話 眼アムナンバーワン

 

ここは、まったく違う世界のお話。

 

いや、それは本当に違う世界? 物語?

 

繋がるのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「ああ、どうも」

 

 

男の前に美しい色の紅茶が置かれる。

自分の書斎で飲んでいる紅茶が一番だと思っていたが、この世界の物もまた負けず劣らずといった所だった。

 

 

「当然ですよ、彼女は紅茶を淹れるのがうまいんだ」

 

「こ、光栄です……クローク様」

 

 

少し頬を赤らめて後ろへ下がるメイド。

ナルタキは頷くと、ソファに深く腰掛けて目の前にいる青年を見る。

モノクルが似合う落ち着きのある青年だった、しかしその奥にある眼は警戒と不振を若干感じさせる。

流石は家主といった所か、ナルタキは少し微笑むと彼に向かって言葉を放つ。

 

 

「答えを聞きたい」

 

「………」

 

 

クロークは少し俯いて沈黙していたが、ふと顔を上げてナルタキを見る。

その目に宿る光はとても強く輝いて見えた。

 

 

「そうですね、受けます」

 

「!」

 

 

ナルタキは笑みを浮かべると感謝の言葉を述べる。

 

 

「どうせ受けなくとも時間がたてば僕達が危険に晒されるのは事実でしょう。それに少し世界の様子を拝見させてもらいましたが、やはりヤツ等を野放しにしてはおけない」

 

「その通り、ヤツ等は着々と勢力を広げている。最近ではかの"デルザー軍団"と接触を試みた様だ」

 

「確認しました。全てが貴方の言う通りだ、もう疑う余地もない」

 

 

クロークとナルタキは何やら深刻な表情で会話を続けている、シェリーはここにいてもいい物かと思うくらいに。

久しぶりに見るクロークの真剣な目、それだけこの事態はただ事では無いと言う意味でもあった。

 

 

「まあ、古くから他世界の存在については様々な資料が残されてきました、僕もまさかと思ったが――」

 

 

どうやら、それは本当だったらしい。

クロークの言葉にナルタキは頷く、世界と言うのは個々で存在する。

今現在たった一人の少女を求めて絶望と戦っている者たちがいるように。そして今、そんな事など知る由もない者がいるようにだ。

 

 

「コチラはコチラで抱えている大きな問題があるのですが――」

 

 

あの時は彼の言う事など信じていなかったが、日を増す毎に、先代達が残した本を見る時間が増えれば増える程確信に近づいていく。

ならば自分も協力しない訳にはいかないだろう。幸か不幸か、自分は干渉力が低い。危険に晒される可能性も低いのだ。

あくまでゲスト。そして他世界を覗けると言う事は決して悪い事では無い筈だ。

 

 

「それに僕が役に立てると言われれば……協力しない訳にはいかない」

 

「感謝する。クローク」

 

「いいえ、僕の方こそお願いします。ナルタキさん」

 

 

それと――

 

 

「彼女も」

 

「ああ、よろしく頼むシェリー」

 

「え!? あ、はい!」

 

 

最後に、ナルタキは立ち上がりクロークに手を差し出す。

彼もまた頷くとその手を掴んで硬い握手を交わしたのだった。

ナルタキは次にシェリーに頭を下げる。彼女もまた深くお辞儀をしてその答えを示した。

 

 

「期待しているぞ。世界の史実は、君を第15番目の新世代と称した」

 

「やめてください、プレッシャーには弱いんだ。でも、絶望で染める訳にはいかない」

 

 

そして必ず見つけなければならない。あの石を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賢者の石をね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぱんつー」

 

「ぱんつー」

 

「「お・ぱ・ん・つ!」」

 

「うるせぇぇぇぇッッ!! だからその名前使ってるのはリーダーだけなんだっての!!」

 

 

キャーキャーと笑いながらゼノンとフルーラは朱雀から逃げ回る。

あれから皆一度合流して話し合う事になったが、目目連の力によって場所は筒抜けになっている。

現に今も耐えることのない河童兵と、新たな統率妖怪・"枕返し"が部屋の外で攻撃を仕掛けてきていた。

だがディエンドが発動したアタックライド・バリアの効果により部屋に軽い結界が施されているので、一同はこのまましばらく作戦を立てることにしたのだった。

 

 

「なるべく早くしてくれたまえ、ぼくのバリアも長くは持たないよ」

 

 

その言葉に、はしゃぎ回っていたゼノン達がいち早く反応する。

現在は囲まれている状況。逆を言えば袋のねずみだ。何か対処を考えなければ、バリア破壊と共に一気に敵が押し寄せてゲームオーバー。

 

 

「あ、そう。さて皆、どうしてボク達が遅くなったと思う?」

 

 

そう言われてみれば、鎌鼬を倒すだけにしては合流までの時間が明らかに長かった。

途中幾度とない河童兵の妨害こそあったものの、それにしたって遅すぎる。

ゼノンとフルーラはニヤリと笑って少し沈黙、これは彼らのクセだろう、少しもったいぶる。

だがそれが逆に司達にとっては期待できた。この様子、そして今の状況で勿体ぶる事といえば。

 

 

「百目の場所がわかったよ」

 

「おお!!」

 

 

目目連の監視システムは完璧だった。

城自体が彼らと言ってもいいのだから、どこにいても居場所が分かってしまう。それは『この世界最大の監視力』

だが、別の世界の技術がそれに対抗できる唯一の物。ゼノンとフルーラ、彼らのメモリガジェットが目目連の穴をつく。

メモリガジェット・デンデンセンサー。彼らの頼れる仲間であり、その機能の中に透視機能がある事が百目発見に結びついた。

 

 

「デンちゃんにしばらく城のいたる所を観察してもらってたんだけど、その内ずっと椅子に座っているやつを見つけたの」

 

「そこは唯一目目連がいない場所だった。と言う事は、そこは観察する意味がない部屋。ボク達を観察する部屋だからに違いないね」

 

 

成る程、確証はないが可能性は一番高いと言う訳か。

どちらにせよこのまま闇雲に動くくらいならばそこへ行った方がずっとマシだろう。

 

 

「ちょっと待ってください、そのデンデンセンサーでアキラさんの場所は分からないんですか?」

 

 

確かにそうだ。

一同はゼノンを見る、しかし彼の表情は暗かった。

 

 

「そうだね、明確に人の顔が分かるわけじゃないし。おそらく特殊な結界の中にいるのか……」

 

「まだなんとも言えないけど。とにかく、今は百目を倒しましょう」

 

 

賛成しあう一同。

しかし、その中でふと朱雀が声を上げる。

 

 

「つうかよぉ、何でお前らここにいるんだ? 何やってんだよ?」

 

「あ……まだ話してませんでしたね。実は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉおおおおおぉおおんッッ!! おぉおおおおおぉんッ!」

 

 

号泣する朱雀、結界も徐々にヒビが入ってきている。

だからあまり長くは話せない、なので簡単に花嫁の事と、世界の事を話したのだが……

 

 

「おいおいっ、それを先に言ってくれよ! くそっ、なんてこった……! せっかく想いが繋がったってのにッッ!!」

 

「朱雀さん……」

 

「ま、それは置いといて――」

 

「え?」

 

「つまりもう花嫁(ソイツ)は飯も食えなくなっちまうかもしれねーんだろ!? 辛ぇ! 辛すぎるぜソレはッ!!」

 

(そ、そっち?)

 

朱雀はタイガから受け取ったティッシュでぐちゃぐちゃになった顔を拭くと、我夢に向かって手を差し出す。

目を丸くする我夢とため息をつく海東。朱雀が示したのは協力の証、我夢は意味をすぐに理解すると笑顔で自らの手を差し出した。

 

 

「オレも最近やっと意味が分かったんだ。だから協力するぜぇ、一緒にその娘を助け出そうなぁ!」

 

「は、はい! ありがとうございます!!」

 

「ちょ、ちょっと待ちたまえッ!」

 

 

何かナチュラルに協力宣言をしたが、それは海東にとってはあまり好ましくない状況だ。

自分達はお宝を探しにここまでやってきた、ディケイド達に協力するという事は行動範囲と時間を失う大きな原因となる。

ディケイド達は花嫁を助け、邪神を倒せば終わりかもしれないが、コチラはそこからお宝を探さないといけない可能性が高い。

 

 

「そうねぇ。でも百目ってヤツ倒さないと監視システムが起動したままなんでしょ? それってコッチとしてもヤバイんじゃないの?」

 

 

この状況ながらも、余裕の笑みを浮べてポッキーを食べている巳麗。

何故か食べ方が無性にエロい気がする……。思わず釘付けになっている真志の頭を美歩がはたいていた。

ともあれ、巳麗の言葉に海東は沈黙する。そうだ、確かにこのまま単独で行動したとしても目目連に観測されてしまう。

それはお宝を探す上で最も厄介な事だろう、お宝を隠されてしまうかもしれないし、何より近づけない事もでてくる。

 

 

「座敷童だっけ君? 目目連ってヤツは声を拾うこともできるのかな?」

 

「あ、はい! 設定と言うか命令次第でおそらくは」

 

 

と、なればやはり目目連は邪魔な存在だ。

今はバリアの効果で音声が遮断されているの様なので、自由に話す事ができるが。

目障りな事この上ないな。海東は舌打ちをして頭を抑えた。

 

 

(やはり、目目連は邪魔すぎるか――)

 

 

そのまま少し考えた後、海東は頷いた。

 

 

「仕方ない、僕達も目目連を封じよう。百目を倒すまでは協力してあげるよ」

 

「本当ですか! ありがと――」

 

「ちょっと待てよ海東ッ!!」

 

 

また声を上げる朱雀、どうやらまだそれでは納得していないようだ。

いや、彼女だけではない。一度は関わった者として、純粋な思いとしてマリンやリラもアキラを助けてあげたいと言う意思を示した。

冗談キツイものだ、花嫁とかコッチとしてはどうだっていいのに。

 

 

「こんな話聞いちまったらよ、このままオレ達だけ別行動なんて胸糞わりーっての! なあそうだろ皆!!」

 

「ええ、そうですわ! それに私のお友達である里奈さんの親友となれば、私の友人でもあります」

 

「ぼ、ぼくも困ってる人がいたら……助けたいよ!」

 

「……チッ」

 

 

はいはいご立派ご立派、反吐が出そうだ。

海東は苦笑いをしてその場に座り込む。マリンが向こうに協力すると言うことはつまり必然的に――

 

 

「私はお嬢様の意思を尊重します。申し訳ありませんリーダー」

 

 

そう言うと思ったよ。

海東はタイガの笑みを無視すると視線を巳麗とディスに移す。

お前達はどうするんだ? 海東の無言の問いかけに二人は頷く。

 

 

「僕は……そうだな。敵の実態が分からない以上、協力関係を結んでおくのはいいと思う。もし何かあった時に――」

 

「ああっもう、ホントかたーい! そんな事だからアンタは生まれてから十六年も彼女がいないのよ」

 

「なっ! なななな!!」

 

 

赤面して睨みつけてくるディスを軽く巳麗はあしらうと、そのまま我夢の近くへとやってくる。

座っている我夢は立ちあがろうとしたが、それを彼女は拒み肩を押さえつけた。

 

 

「――ッ!」

 

 

そのまま巳麗は自分の顔を我夢に近づける。

司や真志は一瞬変な事を想像してしまったが、どうやらそう言う事ではなく真面目な話らしい。

我夢は既にそれに気づいていたのか、顔色一つ変えずに巳麗の言葉を待った。

 

 

「ねえ、あなた……花嫁の事が好きなんだって?」

 

「はい。だから、助けます……必ずッ!」

 

「ふぅん。で、その娘はあなたの事が好きなのかしら?」

 

 

我夢は一瞬言葉に詰まる。

一応メールではそうだといってくれた。だけど――

 

 

「どうでしょうね、だから確かめたいって気持ちがあるのかもしれません」

 

 

最後に巳麗は我夢の他にアキラの事を異性として好きな奴がいるのかを聞いた。

我夢は少し考えてみるがそんな話を聞いた事はない。もしかして心のどこかで思っている人間がいたかもしれなが、そんな事は誰にも分からない。

その事を告げると、巳麗は満足げに頷いた。

 

 

「成る程。愛する人を助けたいと、世界に喧嘩売った貴方の欲望。実にいい『色欲』だわ!」

 

「………ッ」

 

「ならアタシも協力してあげる。修羅場だったら面白く観察させてもらいたいのだけど、どうやら純粋な愛を邪魔しようとする無粋な連中がいるようだから」

 

 

巳麗は落ち着いた様に笑うと、また元の場所に戻り座った。

よく分からないがどうやら協力してもらえるのだろう。我夢はディスと巳麗にお礼を言いうと、もう一度メールを見る。

携帯を握り締める力が強くなる。はやく、会いたいと。

 

 

「やれやれ、こうなったら僕だけでも――」

 

 

海東は言葉を止める、目の前に司が出てきたからだ。

司はそのまま膝を着いて彼に頭を下げた。いきなりの行動に驚く真志達、海東もまた何も言わずにそれを見ていた。

司は頭を下げたまま、ゆっくりと言う。

 

 

「海東……頼むッ、俺たちに力を…貸してくれないか――ッ!」

 

「………」

 

「正直、この城にいる敵勢力は絶大だ。戦ってみて分かった……今の俺たちだけじゃ……花嫁、大切な友達を助ける事は厳しいかもしれないッッ!!」

 

 

なめていた訳ではない、簡単にアキラを救えるとは思っていなかった。

だがしかし初めて実感する大きな戦力、あのサトリでさえ七天夜とカテゴリ分けされている段階なのだ。

もし電王がいなかったらどうなっていた? それはサトリだけじゃない、まだ七天夜はいるだろう。

 

 

「俺たちは絶対にアキラを死なせたくはないッ! だからお願いだ! 協力してほしいッッ!!」

 

 

その言葉に、我夢達も同じように頭を下げる。

もしディエンドが力になってくれるのなら大きな戦力となってくれるだろう。

よく分からないが、同じディケイド系のライダーである事は間違いない。

 

 

「ふふふ、どうするんだいディエンド?」

 

「………」

 

 

ゼノンはニヤニヤと笑って海東を見る。

まるで彼が何を言おうとしているのか分かっているかの様にだ。

それが少し癪ではあるが、海東とて深読みせずにいくしかない。彼は舌打ちを一度行うと、大げさに首を振った。

 

 

「悪いけど、君たちに協力するメリットが少なすぎる――」

 

 

駄目か、司は歯を食いしばる。

いや仕方ない、確かに海東の言うとおりだ。

彼等の目的と自分達の目的を両立させろなどと言う無茶な事。協力してくれる朱雀たちだけでも十分かもしれない。

高望みはわがままの領域にまで達してしまう、これは海東が断ってもしかたない話だ。

 

 

「だけど……」

 

「え?」

 

 

海東はニヤリと笑って一瞬ゼノンを見た後、再び司に向き合った。

ゼノンは笑い返してきた海東の根性に負けたのか。音のない拍手を彼に送り、後ろを向くのだった。

 

 

「メリットをつくればいい話だね。さっきも言ったけど、君がディケイドライバーをぼくにくれるって言うのなら協力しても――」

 

「本当かッ!!」

 

「………ッ」

 

 

目を丸くする海東。先ほどは少し迷っているようにも見えたが……?

 

 

「本当にディケイドライバーを渡せば協力してくれるんだな!!」

 

「……ああ」

 

 

真志達は何も言わないが、不安な表情で司を見る。

そんな彼らの心を代弁する様に海東は司に問いかけた。自分で言っておいてなんだが、なによりそれが気になった。

我夢はなんとも言えない表情で歯を食いしばっている。悔しいのか、悲しいのか、期待しているのか。混ざり合った感情は海東にも理解できた。

だから、なおさら聞いてみたい。

 

 

「ふーん。君はそれでいいのかい?」

 

「ああ、アキラを救う事が……俺の願いだからな」

 

 

成る程、そう言って海東は目を閉じる。

とは言え、あまり考えている時間もない。バリアにはもう既にヒビがいきわたっており、まもなく崩壊を迎える事が容易に想像できた。

海東はその中でゆっくりと目をあける。まるで彼の周りだけ時間の流れが変わってしまったかのように――

 

 

「成る程、君に……いや、君達にとってアキラは何よりのお宝の様だ」

 

「ああ、そうだ」

 

 

司はディケイドライバーを出現させて、それを見た。

これは平和と愛を守る為の道具だ。ならば、アキラの為に差し出すのもまたコレの使い方なのではないか。司はそう思い、少し微笑んだ。

 

 

「仕方ない、お宝に対する思い入れは僕もよく分かる――」

 

 

海東は司からディケイドライバーを奪い取ると、それをまじまじとみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それをすぐに司へと投げ返した。

 

 

「!」

 

「それは今回はいい。君にとって花嫁がどれくらいの存在なのかを確認する為に少しハッタリを仕掛けさせてもらったよ」

 

「どういう意味だ……?」

 

 

大切なドライバーを失っても取り戻したい絆がある。

そう言う事だ。海東はそれを告げずに司へ向き合う。

 

 

「えッ?」

 

「いいだろう、僕達も協力しよう。君達のお宝を奪い返すのも面白そうだ」

 

「!!」

 

「それに、ディケイドライバーは僕が『奪う』と言うのが面白い」

 

 

司達はお礼を言うために海東へ駆け寄る。

しかし海東は、そういう『ノリ』は好きじゃないと言い、さらりと受け流す。

 

 

「見直したぜ海東ッ!!」

 

「ふん、よしてくれたまえ。さてと……じゃあ早速作戦を立てようか」

 

 

切り替えは大事だ。海東はそう言って笑みを浮べているゼノンとフルーラを見る。

海東もまた笑みを浮べて軽く鼻を鳴らした。

やはりそう言う事か――

 

 

「ぼくのカードが必要と言う訳かな?」

 

「その通りだよディエンド。君が仲間になってくれて本当に助かるねぇ」

 

「意外だったわディエンド。でもまあワタシ達は今はもう仲間。よろしくお願いするわ」

 

 

コイツら……! 海東はゼノン達の口調、そしてその表情から理解する。

ゼノンとフルーラは自分が仲間になる事を予測、いやもう確証していたんだろう。

まんまと彼らの思い通りのシナリオになった訳だ。それがたまらなく苛立たしいが、仲間になると言った以上協力は惜しまない。

それがプライドと言うもの。海東は挑発的な笑みでゼノン達に返すと、再び作戦の内容を問い詰めた。

 

 

「もう結界が壊れる。バリアのカードは再構築が強度によって変わるんだ、だからそう何度もは使えない。早めに頼むよ」

 

「了解したよディエンド。じゃあいいかい皆――」

 

 

そう言ってゼノンは満足げに作戦を告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に崩れ落ちていく結界の中で、にらみ合う少年少女がいた。朱雀、巳麗、ディスは沈黙と言う名の戦いを続ける。

海東からの命令は簡単、二人組みを三つ作れだ。もう言わなくともお分かりだろうが、マリンとタイガは最初から決まっているようなもの。

この二人が、というよりタイガがマリンを他の人間と組ませる事はしないだろう。案の定速攻でマリンとタイガのペアが出来る。

さて、問題はあとの四人がどの様なペアを組むか……なのだ。

 

ディスは思う。今残っているのはクソ馬鹿、クソビッ○、リラの三人。

朱雀は思う。今残っているのはナルシストメガネ、痴女、リラの三人。

巳麗は思う。今残っているのは堅物DT、大食い女、リラの三人。

 

リラは思う。組んだ人の役にたちたいな……と。

 

 

(((リラ一択――ッ!!)))

 

 

ふざけてるぜ、朱雀は何気なくリラに近づいていく。

こんな連中にリラは任せられない。特に巳麗なんて食っちまう(!?)可能性が高い。

ディスだってそうだ、もし一緒にいてリラがあんな性格になったらどうするんだ!

いけない、朱雀は確信する。野獣共にリラを任せてはいられない。

 

ふざけている、ディスは切に思う。

意味不明な大食い女とクソビッ○と一緒に行動とか何かの冗談だろ?

それに一刻も早くリラ救出しなけば毒されてしまう。あと割りとマジで後者のヤツとだけは組みたくない。

 

巳麗は何も言わずにリラを見ていた、そして舌なめずりである。

正直、この女には任せてはいけないかもしれない……

 

 

「はやくしたまえ! もう結界が崩れる!!」

 

「あああ! クソッ じゃんけんだな!! ほらいくぜ! ジャンケン――」

 

 

リラと同じペア!

それぞれの思考が爆発す――

 

 

「うぉっっしゃあああああ!! よろしくなリラ!」

 

「うん、よろしくね朱雀ちゃん!」

 

「「………」」((よりによってコイツかよ))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リラ達がじゃんけんをしている間、ゼノンは海東の所へやってきてなにやら耳うちをしていた。

全ての話を聞き終わると、海東は少し不機嫌な表情を浮かべた。同時に笑うゼノン。

 

 

「やっぱり、仕組まれたと言うわけか」

 

「いやいや、ボクだって君が味方になるなんて思わなかったよ。君は昔からわがままだったからね」

 

「自由、と言ってほしいものだがね」

 

 

海東は鼻を鳴らしてディエンドライバーを構える。

そしてゼノンは再び海東に何かを告げていた。数字だろうか? 海東はそれを聞きながら何やらカードを取り出してもぞもぞと動いている。

 

 

「メッセージは?」

 

「自動で送信される様になっているよ、少し簡略しすぎて怪しい感じになっちゃったけど。まあでもたぶん彼らの事だから食いついてはくると思う」

 

「なら、それでいい」『アタックライド』『コール』

 

 

なにやら電子音。と、ココでリラ達が戻ってきた。

ペアが決まった事を報告すると、海東は頷いてカードを手にする。

 

 

「よし、じゃあ作戦は皆分かっているね」

 

 

翼の問いに全員が頷く。

そして、彼らは一斉に自らのバイクを起動させていった。

 

 

「じゃあ――ッ! いくよッッ!!」

 

 

結界が音を立てて崩れると共に、一同は全員部屋の扉をぶち破って飛び出していく。

群れる河童兵を弾き飛ばし、彼らはゼノン達がみつけた部屋へと向かうのだ。

 

もちろんすぐに追尾命令を出す枕返し。

だがディケイドとディエンドが同時に発動したアタックライド・ブラストが、追っていこうとする河童兵を弾き吹き飛ばした。

 

 

「くそぉぉッ! ふざけやが――ッッ」

 

 

枕返しは後ろを振り向く。

何故? それは部屋から一人だけ巳麗が出てきたからだ。

少女は枕返しを前にしても平然としており、かるく伸びをしながらあくびをしていた。

思考が止まる枕返し。あまりにも自然で焦りのない彼女は一瞬味方なのかと思わせるほどだったが、見た事のない顔だ。それにこの部屋から出てきたという時点で敵!

 

 

「やれぇッ! 河童兵ぃ!!」

 

 

クロロロロと鳴き声を上げながら河童兵はアクロバティックに飛び回る。

手には武器を構え、そのまま巳麗へと近づいていく。

 

 

「ん~、イケメンはいないみたいね……」

 

 

河童はもちろん、枕返しも子鬼の様な姿だ。

とても人間の容姿とは言えない、巳麗は残念と呟いて襲い掛かる河童兵の攻撃をかわした。

攻撃をかわす度に舞う彼女の髪。少しだけ紫がかった黒はとても美しく、攻撃を見下す様な彼女の視線はとても妖艶に見える

姿がかけ離れている為、河童兵達にはその美しさはあまり理解できないだろうが。

 

 

「色欲、そこから生まれる愛の欲望はとても美しいとは思わない?」

 

 

巳麗はそんな事を言ってみせる、そしておもむろに胸の辺りからメダルを取り出した。

既に攻撃をかわした時にベルトは装備させておいてある。巳麗はメダルをしばらく手でカチャカチャと弄りながら、怪しげな笑みを見せた。

 

 

「愛憎がそれを磨き、障害がそれを磨き、修羅場がその欲望をぐちゃぐちゃに輝かせる」

 

「言っている意味がわからんなぁ? 何がいいたいぃッ?」

 

「アタシはそう言うのが大好き。人間の色欲はそこらへんの宝石より余程魅力的だわ」

 

 

だ・け・ど。

巳麗はメダルをそろえると、ベルトに向かってスライドさせる様にいれていく。

三枚に並んだメダルは、自然な流れで一枚。また一枚とドライバー部分の穴に落ち、装填されていった。

 

 

「でも、そう。アタシはピュアな恋愛も大好き。また違った、純粋な輝きはなによりの財産だと思うわ」

 

 

河童兵の攻撃を順調にかわす巳麗だったが、隙をつかれたのか河童兵に押し倒されてしまう。

 

 

「ンッ! ……うふふっ! でもね、その純粋な愛をつまらない形で邪魔をするのなら――」

 

「ッ!」

 

 

巳麗は河童兵の股間に向かって思い切り蹴りを放つ。

オスなら誰もしもが避けたい一撃。河童兵は思わず怯んで、巳麗を抑える力を弱めてしまった。

それによって彼女の手が自由になる。それだけで十分だッ!

 

 

「アタシがぶっ壊してあ・げぇ・る」

 

 

巳麗はバックルを斜めに倒し、手に出現させたオースキャナーをバックルへスライドさせた。

装填された、爬虫類を模した絵柄のメダルが光輝く。

 

 

「変・身」『コブラ!』『カメ!』『ワニ!』

 

 

メダル状のエネルギーが旋回し、河童兵を吹き飛ばす。

茶色のメダル達は数回巳麗の周りを舞った後、一枚のメダルに合体。

オーラングサークル、そのメダルは巳麗の胸部に装備されて彼女の姿を変身させた!

 

 

【ブラカァァァァァッ! ワニッ!!】

 

 

ゆっくりと立ち上がる巳麗。いや、仮面ライダーオーズ!

 

 

Break(ブラカ) War() Need()! 貴方の色欲はアタシを満足させてくれるのかしら?」

 

 

紫の複眼、茶色の体。オーズ・ブラカワニコンボ。

 

 

「クロロロロッ!!」

 

「ロロロロ!!」

 

 

姿が変わった巳麗、ブラカワニに怯んでいるのか河童兵は彼女へ攻撃せずに周りを跳び回っている。

蛇に睨まれた河童、ブラカワニはいつもの様に髪をかき上げる仕草をした後、間合いを計っている河童兵達を嘲笑した。

 

 

「待っているだけの男は何も変わらないわよ」

 

 

そう言ったブラカワニ。だが河童兵、枕返しの耳には全く入っていなかった。それもそうだろう、笑うブラカワニの頭部から大蛇が現れたのだ!

コブラヘッド、その名の通りブラカワニの頭部からコブラが出現し、猛スピードで河童兵に噛み付いた。

そのままコブラは河童兵を咥えたまま大きく体を旋回させる。鞭の様にその体で他の河童兵を吹き飛ばして活動を停止させていく。

あっという間に河童兵は気絶し、部屋の外・おおきな廊下には枕返しとブラカワニのみとなる。

 

 

「ちぃぃッ!」

 

 

応援を呼ぶか、枕返しは考える。

そうこうしている間にもブラカワニはゆっくりとコチラへ近づいてくるではないか。

枕返しはしばらく蛇に睨まれた蛙の様に立ち止まっていたが、危険と判断したのか彼女と大きく距離を空けた。

 

 

「お前にはしばらく大人しくしていてもらおうかぁ!」

 

 

そう言って枕返しが取り出したのは文字通りの枕。そしてそれを彼は名の通りひっくり返す。

 

 

「!」

 

 

立ち止まるブラカワニ、その異変に気づいたのだ。

自分は枕返しに向かっていた筈なのに、今枕返しは自分の背後にいる。いや、違う。いつのまにか自分が背後に向いていた。

 

 

「悪いが、仲間がくるまで時間を稼がせてもらうぞ」

 

「………そう」

 

 

ブラカワニは不適な笑みを浮べて構えなおす。

あくまで彼女は余裕の様だ、それが枕返しとしては気になったが今は時間を稼ぐしかない。

ブラカワニの複眼に映る自分に怯えながらも、枕返しは力を発動させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅色に染まった廊下、そこへエンジン音を轟かせ現れるハードボイルダー。

青と黄色の光弾が変則的な軌跡を描いて、河童兵達の群れへ着弾していく。

 

 

『ヒィト!』『メタル!』『ヒート・メタル!』

 

 

電子音と共にダブルは爆発の中へと舞い降りる。

後ろからはバイクでコチラへ向かってくるディケイド達、ダブルは河童兵の群れを蹴散らして彼らのルートを確保しなければならない。

ダブルはメタルシャフトを構え、立ち上がろうとする河童兵達を打ちのめしていく。

 

 

『ゼノン、やはり河童兵だけなのね。どうしてもっと上級の連中を向わせて来ないのかしら?』

 

「うん、でもこの数は向こうも相当焦っているようだけどね。おそらく目視の間はこの先で間違いない」『メタル! マキシマムドライブ!』

 

 

おそらく考えられるのは、目目連を失ったとしても問題ないから?

不気味な話だ、監視システムが意味を成さないなんてありえない。にも関わらずこの警備の軽薄さ、アキラを助けるためには何らかの条件がいるのか……?

 

 

『「メタルブランディング!』」

 

 

メタルシャフトが赤く燃え上がり、炎を噴きあがらせる。

そのままダブルはシャフトから出る炎をジェットの様に加速機能として使い突撃して行った。河童兵の群れは弾き飛び、左右に別れ綺麗な道を作る。

 

 

『ファイナルフォームライド・カカカカブト!』

 

『ONE』『ALL・Clock Up』

 

 

一瞬、道ができればそれで十分だった。

デュアルゼクターの効果によってクロックアップ状態となるディケイド達、そのままダブル含めて障害物がない道を駆け抜けて行く。

ダブルの情報と、幽子達が作った簡易的妖怪城の地図、その情報が正しければこの先は一本道。そしてその先、行き止まりになっている部分に『目視の間』、つまり百目がいる。

坂になっている道を駆け上がり、そのまま一同は力の限りバイクを走らせた。

 

 

「―――ッ! あったぞ!!」

 

 

クロックアップの効果もあってか、ディケイド達の視線に扉が映る。間違いない、あそこに百目がいる!

見たところ一本道にも関わらず罠らしい物や敵の姿はない。いきなり見つけられたから対処できなかったのか?

いや深く考えている時間はない! ディケイド達はそのまま一気に――

 

 

「……え?」

 

 

ディケイドだけでなく、全員がその間抜けな声をあげてしまったかもしれない。

一言で言うのなら景色が変わった、それが一番妥当だろう。ディケイドの記憶が正しければさっき、それこそ一秒もないくらい前の床は赤色だった筈だ。

赤い廊下の先に扉があった筈だ。だが、今の視界に赤色はない。床は黒に変わっていた……

 

変わっていた? それは少し違う。

無い、なくなっているのだッ! 床が消えた!!

 

 

「しま――ッッ」

 

 

古典的、だがそれに引っかかってしまったというわけだ。

落とし穴、ディケイド達がいた床は一瞬で消失し、運悪くその時クロックアップの時間切れがやってくる。

 

 

「くそっっ!!」

 

 

手の伸ばすディケイド。だが次は視界がブラックアウトする。そして手にぶつかる何か、これは天井?

そう、床は一瞬で閉じられてしまう。ディケイド達は一瞬にして目視の間から離れていく。

落下していくディケイド達、その先には何があるのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

しかし暗い、何も見えないではないか。

落とし穴の先にもライトをつけておくべきだろうに、でなければ何の為の目目連だと?

いや普段なら、普通に過ごしていたのならこんな装置を起動させる事は無い。

だからその穴の先にライトをつけるなんて発想は無かったのだろう。

仕方ない話だ、そう思いながら"その男"は扉を開けた。

 

 

「………」

 

男は通路を確認する。

当然、視界には誰もいない。皆が発動された落とし穴にかかり下へと落下していったのだろう。

落とし穴の先には何も無い場所が広がっていて、そこは柵に囲まれている。つまり牢獄になっているのだ。

"目視の間"に近づく悪を落とし幽閉する、それが落とし穴の機能だ。この落とし穴は『中から開ける事は絶対にできない』。

だからどうあってもディケイド達は下へ落ちるしかないのだ。

 

 

「馬鹿な連中だ」

 

 

男は溢れる笑みを抑えきれず、声に出しながら再び部屋へと戻った。

『目視の間』、彼はその支配者となった男。見るからに人間である彼は、文字通り人間。

妖怪・目目連全ての指揮をとり、ありとあらゆる場所を観測する……それはもはや彼自身がこの妖怪城となった。そう言っても過言ではないだろう。

残念な事に、花嫁の部屋には目目連を出現させる事ができず、今彼女がどんな表情を浮べているのかを見る事はできない。

男は下卑た笑みを浮べる。きっと泣きじゃくっているに違いない、どんなに強がろうが所詮はガキ。死ぬ事に怯え、迷い、苦悩する。

 

 

「クククッ! 本当に馬鹿な連中だな……!」

 

 

男は言う。

そして、それはディケイド達に向けた言葉でない。もちろんディケイドもその馬鹿に入ってはいる。

だが、彼は総大将を含む妖怪全てを馬鹿だと嘲笑したのだ!

 

男は見る、世界を守ろうと戦う馬鹿を。

男は見る、花嫁を助けようと戦う馬鹿を。

男は見る、見る! 見るッッ!

 

観測は快楽とも言える優越感を男に与えた。

見る毎に、視る度に、観る事に、男は何よりの興奮を覚えた。

ああ、成る程。男はやっと理解する。全て彼女達が言った通りだ。

 

 

「食欲、性欲、睡眠欲ッ! 成る程成る程、実に下らないモノだった」

 

 

今は、『み』る事が何よりの楽しみだ。男は椅子に深く腰掛けて全てを見ていた。

今は目目連は彼の手ごまだ、自由に操り、そして自由に背ける事ができる。

それによって自分は他の妖怪に情報を与える事ができる。そして、情報を隠す事もできる。

支配、支配者としての権力をしら占められる様に。

 

 

「すばらしい……すばらしい力だ……ッ!!」

 

 

男は尚も自身を包む喜びを感じながら、遂に大声で笑い出した。

 

 

「愚かな妖怪! 愚かな人間! 愚かな総大将、花嫁よ!! 貴様らは見えるか!? この私がッッ!!」

 

 

溢れ出る高揚感は以前では考えられないもの。

 

 

「ああ、ああ、ああ! そうだ見えない、見えないだろうなッ? だが見える、クククッ! 私は見えていぞ! 全て、全てが見える! 全ては私の観測を得ているのだ!!」

 

 

男は誰もいない部屋で笑い転げた。

部屋はそれなりに広く男が部屋から一歩も出ないで済むように食料や、トイレ、椅子やらの生活用品が置かれていた。

妖怪城の和風さからは想像できないような洋風の造り、一般的な家庭の部屋と言ってもいいだろう。

だが異質なのは部屋のいたる所に目目連から通した映像が映っている。莫大な量だが、男にはそれが全て理解できた。

そこから侵入者の情報を伝え……そしてある時は瑠璃姫達『仲間』の暗躍がばれない様に情報を凍結させる。

 

 

「まさに今の私は神じゃないか!」

 

 

そう、彼はこの妖怪城の神……脳と言ってもいい。彼が支配していると言ってもいいのだ。

男はそれが満足なのか、一人でべらべらと冗長に話し、そして笑う。

 

 

「神か……ああ素晴らしい! なんと素晴らしいのだ! 究極の支配! それは観測じゃないか! くははははッ! ははははははッッ!!」

 

 

少し前まで人間だった自分に突きつけられる今の称号は神、その言葉は男の興奮をより高めていく。

食欲も、性欲も、睡眠欲も失った。最初は戸惑いこそあったものの、すぐにその三つは下らないモノだったのだと理解できた。

そして今、自分は神の力を手に入れているのだから。

 

 

「ハハハ! 私は神だったのか! ふはははは! 神! そうか神か!!」

 

 

全てを見る。それはまさに神に与えられた能力。

大きすぎる高揚は狂気へと昇華していく、それはもう誰にも止められない。

 

 

「はははッッ!! 私は遂に神となった!! 誰も私の邪魔はできない! 文句があるなら言ってみろ! どうした妖怪? どうした人間? 文句は無いのか!?」

 

 

部屋には男の他に誰もいないのだから、否定などできる訳もない。

しかし男は自らが神である事を否定する人間がいないと確信し、大いに喜んだ。

 

 

「いないのだな! なら私は神に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさいよ、お前」

 

「!」

 

「一人でペラペラと。それにそうだな、じゃあ僕が否定しよう」

 

 

あれだけ、あれだけ五月蝿く笑っていた男の声がピタリと止まる。

硬直する男の背後では、ソファに座って脚を組んでいる少年が一人。

少年は手を顎にあて、やる気の無い目で男を見ている。

 

 

「……どこから入った」

 

 

あくまでも冷静に男は少年に問うた。

侵入者は全て落とし穴によって排除した筈だ、それを回避した者などいなかった。

なぜならずっとこの"百目"は見ていたからだ。結界が崩れ、バイクで走り出す全員を見ていた。そしてその最後を確認した。

確かに落とし穴の中は暗い為に、今ディケイド達がどんな状況なのかはわからない。だが、すくなくとも落とし穴から這い上がってきた人間なんていない。

ましてこの部屋には鍵がかかっている。入る事なんて不可能な筈なのに――

 

 

「どこから? 扉からに決まっているだろう、お前が開けたな」

 

 

緑色の髪、ディスは百目を馬鹿にした様に笑う。

 

 

「何……?」

 

 

百目は思考を巡らせる。この部屋を出た時……だと? 自分はずっとこの部屋にいたのだ。見る為に!

この部屋をでたのはディケイド達全員が落ちた事を確かめる為の一回だけ。その時は誰もいなかった筈だ。三百六十度、どこにも人影はなかった!!

でたらめを言っているのか? そう百目が言おうとして、ふと彼は口を閉じる。

 

 

「まさか……」

 

「フッ! 分かったかな? そうさ、僕の姿はさっきまで透明だった」

 

「!!」

 

 

そう言えば、あのディエンドとか言う奴が我夢と同時に消えていた事を思い出す。

やられた……! おそらくは結界が崩れた瞬間にこの少年を透明化させ、バイクでこここまでやってくる。

そしてあえて罠にかかった、万が一にも怪しまれない為に。その時はコイツは遠くにいたのか、どうやってかトラップをしのいだ。

最後に自分が開けた扉の隙間からこの部屋に入った!

 

 

「お前が自分から出てきてくれたときは本当に笑いそうで焦ったよ。侵入方法は数個しか思いつかなかったからな」

 

 

百目は爆発しそうな憎悪をこらえた。

自分は神だ、その神がこんな子供に出し抜かれた? 見る事ができなかった!?

 

 

「人間、この百目を怒らせた罪。ただでは済まぬぞ」

 

「罪? ああ成る程、大した『傲慢』だ。さすが自らを神と称するだけはあるな」

 

 

互いに椅子に座ってにらみ合う百目とディス。

静かな、落ち着いた空間に見えるが彼らの戦いは既に始まっているのかもしれない。

激高する訳でもない、暴れる訳でもない。だがディスのナメきった態度が百目にとっては何よりもの苛立ちを募らせていく。

 

 

「あの女を一人残したのも、この為か」

 

 

百目が示す先には、多くの妖怪達と戦っているブラカワニが映っている。

ブラカワニを確実に潰す為に、妖怪達は彼女の方へと向っていく。

今から応援を呼んでもこの目視の間にたどりつくのは一体か二体が限度。

 

 

「ああ、そうだな……」

 

 

そう言ってディスは深くソファにもたれかかった。そして、見下す様に百目を睨む。

 

 

「さっきの続きだ。もう一度言おうか、お前は神なんかじゃない」

 

「……ほう、何故?」

 

「僕は神を信じないからだ」

 

 

表情にこそ出さないが、明らかに百目の雰囲気が変わる。

ディスはそれに気づいているのか……?

 

 

「クククッ!!」

 

「?」

 

 

だが、以外にも百目の口から出たのは笑いだった。

 

 

「―――ッ」

 

 

ディスはそれに気づき、素早く体を捻るが間に合わなかった。激しい光が彼の視線を捕らえて皮膚を焦がす。

転がるディスを百目は冷めた目で見ていた。彼に攻撃を仕掛けたのは、『目』である。目目連なのか、百目のすぐそばに浮遊する眼球が見えた。

そこから発射されたレーザーをディスは少し受けてしまった。

 

 

「ククク、神ではないか……! ならば見たまえ少年。この屑共を」

 

「ッ!?」

 

 

脚をかすっただけだが、それでも少し感覚に違和感が残ってしまいディスはその場に伏せる。

隙だらけな状況だが、百目は特に追撃する素振りを見せず笑うだけだった。そして百目は目目連から映し出されている幾重もの情報を彼に見せた。

屑共、百目は映る生命全てをそう言って割り切った。

 

 

「彼らは目で見たモノを何でも真実と受け入れ、容認する。それは実に愚かしい事だと思わないか? だから彼らは神になる資格を持っていないのだよ」

 

 

眼前に広がる数多の生命。その多くは視覚から情報を、世界を見ている。

だが見るという行動には限りがある。そして何より見たもの全てが正しいとは限らないし、見たからと言って全てが分かるとは限らない。

 

 

「人は皆、見ると言う行動を安易に考えていると私は常に考えてきた。この屑共はのうのうと毎日の景色を見ているだけの生き物。全く、何も分かっていない下種共だ」

 

「いきなり何かを言い出したかと思えば……言いたいことが全く理解できないな」

 

 

ディスはため息をついてもう一度ソファへ腰掛ける。

だが、ソファをそのまま壁際へと押しやり、百目の近くに浮遊している眼球からは目を反らさない。

 

 

「何がいいたい? わからないか少年。悲劇も、世界の結末も、絶大な力も、見るという事によって始めて世界に認められるのだ」

 

「………」

 

「百聞は一見にしかずと言うことわざをしっているかな? いかな人間だろうと、妖怪だろうと、視界から得られる情報は世界を構築する大切な道具なのだよ!!」

 

 

ハイテンションになっている男。

ディスやため息をつく、どうやらまともに話しを聞いてくれる相手ではなさそうだ。

そう言えばヒトツミが連れて来た自称・新参妖怪とやらだったな。ディスは思う、明らかに人間である彼。面倒臭い事になりそうだ。

 

 

「つまり、お前はこの部屋で全てを観察している内に……どうやら神になった気分を味わったと言う事か」

 

「心外だな。神になった気分ではなく、神となったのだよ!!」

 

 

なんだそりゃ、ディスはため息をついてうつむいた。

相当ご機嫌らしい、目視の間で観測者として生きた彼は既に狂人の領域に達している。

とは言え、眼球の焦点は常に自分を捉えている。下手に動けばレーザーによって攻撃されてしまうだろう。

 

 

「神の力を、君に見せてあげようじゃないか」

 

(……ほう)

 

 

ディスの目が見開かれる、彼の目に飛び込んできたのはメモリを構えた百目の姿だった。

ゼノンから端的だが話しは聞いている。ガイアメモリ、人間の証明である三大欲求と引き換えに絶大な力を与える悪魔の玩具。

 

 

「………」

 

 

おかしい、ディスは少し苦笑いを浮べて沈黙した。

少し煽るのも考えたのだが、メモリから溢れんばかりの力を感じて彼は押し黙ってしまう。

まるでそれはメモリ自身が命を持っているかのような、恐怖を具現させたかのような、そんな力をメモリは放出している。

普通のを見たことは無いが、メモリの中にもランクがあるとは聞いている。おそらくアレはその一つではないのかと。

 

 

「クククッッ!! 分かるかね、君にもこの力が!!」

 

 

百目は恍惚の表情を浮べて、そのメモリのスイッチを押す。

 

 

【アイズ】

 

「ッ!!」

 

 

ディスは思わず息を呑んだ。

目視の間、その壁と言う壁に目目連が出現する。部屋中が目に埋まり、狂気に満ちた世界。

この部屋が、この空間全てが目となりディスを見る。

 

 

「いかがかな? 神の世界は?」

 

「いい趣味だ。……本当に」

 

 

目薬をさし、百目はニヤリと笑う。

発動されたガイアメモリをそのまま人体へと埋め込むと、彼の姿は異形の存在へと変身する。

アイズドーパント。その名とは裏腹に、姿を見た限り彼に目は一つもついていない。目を呼称する割りに、視界を失うのは皮肉なのだろうか?

いや違う。今の彼は目など必要ないッ!!

 

 

『うぉぉぉおおおおぉおおおッッ!!』

 

 

声質が変わり、アイズドーパントは咆哮を上げる。

すると部屋中の目目連がなんと壁から剥がれ、そのままアイズドーパントへと収束してくる。

それを冷ややかな目で見つめるディス、眼球と言う眼球がアイズドーパントへ装備されていき……

 

 

『フハハハハッッ!! 見える! 見えるぞおぉぉぉオォォぉぉおぉォ!!』

 

 

百目。その名の通り、百はある目を持つ姿へと変わる。

全てを見る、全てを理解する。それはまさに神の名を持つ者の所業。

アイズドーパントへと変身を完了させた百目は、もう一度映し出されるモニターを見た。

そこにはもう何も映っていない、当然だ。全ての目目連は百目の下に集ったのだから。

 

 

「眼を操る力か……珍しいな」

 

『そう、私自身が眼なのだ。全てを見る……真実さえも私には見える』

 

「お前はその力で何を手に入れる? 妖怪を欺き、人間を騙し……何を得る?」

 

 

ディスはそんな事を聞きながら、ポケットからメダルを取り出すタイミングを見計らう。

あの監視を抜ける事は可能なのか? ディスの心に若干の焦りが生まれる。今は饒舌に神がどうのこうのと語る百目。

しかしいつ戦闘に入るかわからない、その時……そこが問題となる。

 

 

「ああ、そうだな。少年よ……神の力を手にいれた私が望むもの……」

 

 

それは――、百目は指を鳴らす。すると目視の間にすすり泣く声が響いてきた。

少女の声で、悲痛に満ちた声色だ。すすり泣くその様子から相当痛々しい印象をうける。

正直、不快だった。すすり泣き、何かを必死に訴える少女、泣いている為か何を言っているのか上手く聞き取れない。

 

そして、その少女を必死に慰めているだろう女性の声も聞こえてくる。いきなりこんなモノを聞かせて――

ちょっと待て、ふとディスの脳裏にその答えが浮かんできた。その様子を見て百目はご名答とディスを指差す。

 

 

『少年、私は別にこのままこの部屋でお前らを見ているだけでもよかったのだ。そうやって"力を溜める"だけでも良かった』

 

「………ッ」

 

『だが、この少女……! 花嫁の絶望に満ちた姿が私を突き動かしたのだ!!』

 

 

やはりそうか、ディスは軽く舌打ちをしては百目を睨む。

耳を澄ませ、少女の声を良く聞いてみれば分かる事だったのかもしれない。この泣き声の正体は花嫁と言う訳か。

どうやら花嫁はパニックを起こしているようだ。当然、いつ死ぬか分からない状態が続き、まともに睡眠もできない日が続いたのだ。

そして自分が邪神に食い殺される明確なイメージが徐々に脳を侵食していく。

 

そんな想像をしただけで吐きたくなる様な……それを花嫁は今体感している。

死にたくない、誰だってそう思うだ。だが彼女はその気持ちを殺す、そうでなければ世界は救えないと知っているから。

しかし、それを理解していても心の中では時間が経つにつれて恐怖が膨れ上がってくる。

 

時間があればあるほど花嫁の苦しみは増していくのだ。

その苦しみと恐怖は、子供である彼女には大きすぎるモノ。蓋をしたとしても徐々に溢れてきてしまう。

今、花嫁がどんな顔をしているのかは分からない。しかしディスにはとても痛々しい事実として心に突き刺さったのだ。

 

 

『クククッ!! ハハハハ!!』

 

「……ッ」

 

『聞いただろう少年! この少女の死に怯える声が! 恐怖に呑まれていく事実が!!』

 

 

百目は目目連を通してこの城を観測していた。

だが、花嫁のいる部屋は目目連を出現させる事ができない。

それでも音声だけは拾う事ができるのだ、百目はこの絶望の声を聞いている内に、『見たくなった』

 

 

『私は観測したくなったのだよ、この少女が……いや! 多くの人間達が絶望の表情を浮べる様を!!』

 

「………」

 

『恐怖に怯え、そして惨めに死んでいく姿は何と滑稽なモノか! そして同時に自分がより上位に立っているのだと再確認させてくれる!』

 

 

惨めに死んでいく、それは恐らくアキラが自己を犠牲にしたとしてもこの世界が救われないと言う意味なのだろう。

三大欲求を失った百目が新しく見つけた欲求、それは恐怖に身を震わせる命をあざ笑う、見下すと言う事だった。

 

 

『神となった私の力は最強だ! 人間はその神の玩具になるのがお似合いなのだよ』

 

 

そう言って百目は高らかに笑う。

メモリの力が彼を人間から神に変えたのだ、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶大な傲慢を与える。

 

 

「最強? 神? ハッ! ハハハッ!!」

 

『その通りだ、見えるか!? 私は見えているぞ!』

 

 

ディスは百目としきりに笑い合い、そして一気に冷めた態度に変わる。

氷の様な視線で百目を睨むと、彼は舌打ちを決めて言い放った。

 

 

「虫唾が走るな……! どれだけ奢り高ぶる気だ」

 

『……何?』

 

「僕は、お前の様に勘違いに満ちた傲慢が大嫌いなんだよッ!!」

 

 

その虫けらを見る様な眼が気に入らない。ディスは百目を睨みながら続ける。

 

 

「傲慢は誰しもが心に秘めている罪だ。それは間違いじゃない。が、それを振りかざす事は大いなる大罪だとは思わないか?」

 

 

力と言う武器を振りかざし他者より優位に立とうとする。

誰もが優劣をつけ、序列を作り、二極化に分けたがる。ディスは奢り、傲慢が何よりも嫌いだった。

人が人の上に立とうとするその事実こそ、ディスは忌むべきモノだと考えていたのだ。別に上下関係をなくせとは言わない。だが――

 

 

「傲慢に溺れる人間は酷く滑稽だ。僕はその醜い姿が嫌いで仕方ない! 花嫁が…人間が玩具だ? むかつくな、ああムカつくよッッ!!」

 

 

純粋に一人の人間として花嫁が気の毒と思い、その苦しみを与えなければならない苦悩を味わっている妖怪達に同情の念もある。

だが、やはり何より……! コイツの態度が気に食わない! 純粋にムカつく。

そこらへんにいるバッタを踏みつける時の眼だ。そこらへんにいる蟷螂を虫けらだと笑う時の目だ。そこらへんにいるクワガタを私欲のために捕まえようとする眼だ。

 

 

「人間のクセに、自分の事を最強だの神だの言うヤツに――」

 

『!』

 

「人の人生を支配する資格は無いッッ!!」

 

 

ディスは、既に腰に巻かれていたドライバーを斜めへと押し倒す。

室内に待機音が鳴り響き、装填された三枚のメダルは緑の輝きを放っていた。

 

 

「ウザイよ、お前」

 

『愚かな、最強を見せてやろう』

 

「なら面白い、見せてくれよお前の力を。変身!!」

 

 

それは開戦の合図。

百目は体中に付着している目からレーザーを放つ! 無数の光がディスへと向うが……

 

 

『クワガタ!』『カマキリ!』『バッタ!』

 

 

出現したメダル状のエネルギーが盾となりレーザーを弾き飛ばす。

そのままメダルは数回ディスの周囲を回転した後に収束。緑の光が彼を包み、その中から現れたのは――

 

 

【ガ~タガタガタキリッバ! ガタキリバ!】

 

Got() To() Keep() It Real(リバ) ! お前の傲慢、叩き潰すッ!」

 

 

オーズ、ガタキリバコンボ。完成――ッ!

 

 

『愚かな、我がアイズの力を見せてやろう』

 

「勝つのは僕だ。ゆっくりと化けの皮を剥がしてやる」

 

 

にらみ合う両者。

戦いの火蓋は今、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死ぬがいいッッ!!』

 

 

百目が手をかざすと体中の眼からレーザーが発射される。

狭い室内だ、ガタキリバは回避のルートを探すが――

 

 

「くッ!!」

 

 

百目の笑い声が響く中、ガタキリバの手に衝撃が走る。

何とか自らの武器であるカマキリソードとクワガタヘッドから放出される雷でレーザーを防御したが――

 

 

『クククッ!』

 

「!」

 

 

狭い、目視の間が狭すぎる。

一般の部屋として見ればそれなりに広くても、戦闘を行なう場所としてはあまりにも狭い。

家具や椅子は既にバラバラになっているが、その残骸が脚を取る。そんな中ノーモーションで発射される新たなレーザー群。

どうやら念じただけで眼から発射される様だ。これではタイミングなど掴める訳が無い、無数の瞳が発光したかと思えば既にレーザーが着弾するのだ。

 

 

「――ッ!!」

 

『どうした少年。こんなものだったのか? こんな実力で私の前に立ったのかッッ!!』

 

 

激昂する百目、その体からまたレーザーが放たれる。

しかも今度はレーザー同士の焦点を合わせているため、先ほどまでの倍以上もある大きさになっていた。

これはガードできない、受ければ絶大なダメージを受けることになるだろう。ガタキリバは瞬間的にそう理解して素早くサイドステップでレーザーをかわす。

バッタレッグによって跳躍力は高い。なんとか回避する事はできたのだが――

 

 

「!」

 

 

レーザーが着弾した瞬間、激しい光が巻き起こりガタキリバの視界を封じる。

それに続くようにして体中に走る衝撃。まるで鉄球をぶつけられているかの様な感覚が、幾度とない量を持ってガタキリバに降りかかる。

 

何とか眼を開けるガタキリバ、すると部屋中を飛び交う眼球たちが見えた。

眼球はスーパーボールの様に部屋中を跳ね回り、次々にガタキリバの体に着弾していく。

その固さはまるで岩。ガタキリバの全身に鈍くも激しい痛みが嵐の様に襲いかかる!!

 

 

『痛いか?』

 

「ぐっ!!」

 

 

百目の体から分離した眼球たちはその軌道をバウンドから飛翔に変える。

変則的にガタキリバの回りを飛び回ると、隙を見つけてはレーザーを射撃していく!

 

 

『苦しいか?』

 

「ッッ!!」

 

 

苦痛の声がガタキリバから漏れる。

カマキリソードを振り回しても、眼球たちは変則的な動きでそれをかわし、いたる所にレーザーを放っていく。

 

 

『フハハハッ! もはや私は生命の苦痛さえ自由に観測する事ができるのか! そう、もう私は見たい景色を自らの手で構築する事ができる!!』

 

「ちぃぃいいいッッ! 厄介な!」

 

『これが神なる力だよ。虫けらには何もできないだろうなッッ!』

 

 

光の本流、閃光の嵐がガタキリバを包み込む。

逃げ場はない、どこに逃げようが彼の『目』からは逃れられないのだ。

部屋中が光に満たされる、しかし百目にダメージはない。しっかりと逃げ場を見つけて……いや見ているからだ。

ガタキリバの反撃も許さない。どんな動きが何に繋がるか、大体観測した。だからガタキリバがどう動こうともルートを予測して撃ち抜けるのだ。

 

 

『とまあ、こんな所かな? ご清聴を感謝する! クハハハ!!』

 

「ああ、そうかよ……」

 

 

ダメージがでかい。ガタキリバは思わず膝を着いて百目を見上げた。

べらべらと饒舌に話す彼と、彼のふざけた講演を邪魔させまいとレーザーを放つ無数の眼球。

ガタキリバは既に眼球に囲まれており、三百六十度どこに逃げてもピッタリと目がついてくる。

そこから放たれる光の雨、絶え間ない百目の攻撃はガタキリバを絶対に逃がさないだろう。

 

 

『この力があれば、私はこの世界の頂点に立つ事も可能だろう! そして私は自分の望む世界を観測し続ける。そこに希望はない、絶望と絶対の力が私には存在しているのだ! ハハハハハハッッ!!』

 

「力を手に入れ、それに溺れるヤツの典型的なパターンだな……ッ。ますますイラつくよ」

 

 

そう言ったガタキリバの体から火花が散る。レーザーはやはり彼を逃がさない!!

 

 

「………ッ」

 

『無駄だ。私は最強となった、今の私に適う者などいないッッ!!』

 

 

レーザーと眼球の突進がガタキリバに抉りこまれていく。吹き飛び、たたきつけられ、ガタキリバは地面へ伏した。

まだ終わらない、倒れたガタキリバへレーザーのシャワーが浴びせられる。無数の光がガタキリバに刻み付けられ、彼の体は激しい熱で焼かれていく。

苦痛の声を上げる事すら忘れ、レーザー攻撃を正面から浴びるだけ。ガタキリバの体がボロボロになっていく、それを百目は優々と観察していた。

 

 

『おや、もう動かなくなってしまったか。丁度いい、これを聞きたまえ』

 

 

百目が指を鳴らすと、目視の間に一つだけ映像が展開される。それは自分と同じく、数体の妖怪達に囲まれ激しい攻撃を受けているブラカワニの姿だった。

枕返しの応援要請を受け、新たに駆けつけた妖怪達。美しい女性の姿、サザエの殻を鎧として纏った妖怪・さざえ鬼。

黒い雲に乗りこみ、素早い攻撃を仕掛ける妖怪・黒坊主。そして枕返しの三体はブラカワニに激しいラッシュをしかけている所だった。

映像は音声が無いため無音だったが、それでもブラカワニの悲鳴が聞こえてきそうな程、彼女は抵抗なしに攻撃を受けていた。

 

 

『妖怪の目を引く作戦は悪くない。しかし結果がアレでは空しいものだな』

 

「巳……麗――ッ」

 

 

ガタキリバは彼女の名を呼ぶが、すぐにレーザーを受け沈黙する。

 

 

『音声を聞かせてやろうか? 泣き叫ぶ女の声が容易に想像できるわ。さざえ鬼の固い弾丸を受け、枕返しによって平衡感覚をバラバラにされる。そして黒坊主の攻撃は早い……』

 

 

映像にはその光景が映し出されていた。

さざえ鬼が手をかざすと小さなサザエが銃弾の様に発射され、ブラカワニに着弾している所だ。

枕返しはしきりに手に持った枕を反転させている。一見意味の無い行動にも見えるが、実はこれこそが枕返しの能力だった。

枕を回転させる光景を相手に見せると、対象の平衡感覚を操作できる。これによってブラカワニの回避を無視させるのだ。

 

そして枕返しが視界に入るように、黒坊主が突進と攻撃でブラカワニの位置を整える。

三すくみの攻撃がブラカワニの体から火花を散らせた。

 

 

『知っているか? コイツらはお前達侵入者を殺す命令を受けた時、泣いたのだ!』

 

「な……い………た…?」

 

 

ガタキリバの拳に力が入る。それはつまり彼ら妖怪が侵入者……つまり人間を傷つける事を迷ったからだ。

 

 

『心を鬼にしてコイツらは攻撃をしている。きっと花嫁を生贄にすれば世界が救われると信じてだ』

 

「………」

 

 

ググっとガタキリバは拳を握り締めて百目を睨む。やはり、そうか。そうなんだな、この口ぶりからすると――

 

 

『花嫁を生贄として捧げても、世界は救われないのに! 馬鹿な連中だ!!』

 

「―――ッ」

 

 

そんな気はしていた。だがそれをはっきりと言った者はいなかった。

しかし今、コイツははっきりとそういった。彼ら全ての苦しみをあざ笑ったのだ。

アキラの迷い、妖怪達の迷い。複雑に絡み合う思念があった。だがそれは否定される。

 

 

『花嫁も愚かなモノだな。自分が死んで世界が救われると思っているのだから!』

 

「貴様ァァァアアアア!!」

 

 

ガタキリバは全ての力を振り絞り立ち上がる。

それは画面の向こうにいるブラカワニとて同じだった。

フラフラと脚を進める、進めなければならないからだ。

 

 

『誰も信じないさ、お前達の言葉なんて。だから私が何を言っても構わない』

 

 

レーザーがガタキリバの脚を貫く。倒れる彼に再び浴びせられる光の渦。

 

 

『実に滑稽だった。そして私はこれからもその愚かなショーを観測しつづける。さらばだ、少年』

 

 

百目は、画面の向こうにいる妖怪達は、止めの一撃を発射した。それらはブラカワニを、ガタキリバをしっかりと捉え着弾する。

画面の向こうでボロボロになって動かなくなるブラカワニ、同じく無残な姿になって転がるガタキリバ。

 

百目の高笑いが部屋にこだまする。

これでまた一つかれは結果を見る事ができた、やはり自分は最強なのだと再確認する。

生意気なガキは二人とも死んだ。誰か私の勝利に拍手でもしてほしいモノだ。百目はそう思いながら変身を解除しようとし――て、動きを止めた。

 

 

『………』

 

 

ガタキリバは本当に死んでいるのだろうか?

あの少年の性格を見るに、ここでアッサリ終わるのは少し不気味なものがある。

成る程、恐らくは死んだふりをしているに違いない。百目は眼球を一つ出現させ、動かなくなった彼にもう一度レーザーを放つ!

 

 

『………』

 

 

なんなくレーザーはガタキリバに命中した。

しかしまだ少し気になる。念の為、威力を強めそれを収束させた巨大なレーザーで肉体ごと焼き尽くす事にした。

光に包まれて一分くらいたったろうか? ガタキリバの肉体は完全に消滅する。

これでいい。百目はもう一度静かに笑った、不安要素は視界から消すに限る。これで奴らの仲間は減った。

このまま順調に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傲慢にしては用心深いようだな、フフフッ!」

 

『………』

 

 

百目はゆっくりと声がした方向を振り向く。

そこにいたのは、扉を開けて目視の間に入ってくるガタキリバだった。

ガタキリバはそのまま一番最初の時を連想させるかの様に、ボロボロになったソファに座る。

既に座ると言うより乗っただけに見えるが、ガタキリバは同じように脚を組んで百目を見た。

 

 

『……何故だ?』

 

「うん?」

 

『お前は今、私の視界から消えた筈だ! 何故生きている!!』

 

 

ドッっと感情が爆発して、すぐに冷静な空気が部屋を包む。

百目は記憶を探るのに必死だった。ガタキリバが動かなくなるまで、消え去るまでにおかしいと思った事はない。

しいていうなら、レーザーが着弾したときの光でガタキリバを視覚できなかった時はあった。だがそれでも特におかしな事をした素振りは無かった。

 

どんな手品を使ったのか、それが分からない。見えない。その事が無性に苛立つ。

百目は自分を見下しているかのようなガタキリバへ向って、もう一発レーザーを放った。

そこから五分後、同じような過程を辿り百目はもう一度ガタキリバを"殺した"。その命が無くなる、消滅する瞬間を確かに視覚した。

無数のレーザーに焼かれ、ガタキリバは断末魔を上げて死んだ。それを確かに確認したのに――ッッ!

 

 

「おやおや、先ほどより時間が短かったな。もしかして――……怖いのかな? この、僕が」

 

『馬鹿な……』

 

 

ガチャリと音がして、百目は振り返る。

そこには扉を開けて目視の間に入ってくるガタキリバが見えた。

何だコレは!? 百目は思わず間抜けな声をあげてガタキリバに問うた。今、今ここでガタキリバは死んだ。

自分が殺した!! なのに何故、何故ガタキリバが視界に入っているッッ!!!???

 

ガタキリバはそんな百目の気など知らず、普通に歩いてソファまで移動する。そして座った。分かる、次は脚を組むんだ。

百目の読みどおり、ガタキリバは脚を――

 

 

『何なんだッッ!!』

 

 

おかしい、そんな、ばかな!!

百目はありったけのレーザーをガタキリバに照射する。ソファもろとも、ガタキリバは一瞬で塵となった。

消し炭になる瞬間をしっかりと目に焼き付ける。そう、これで間違いない。間違いなく――

 

 

「そんな大技を使う必要はあったのか? 僕には理解できないな」

 

『―――』

 

 

扉を開けて中に入ってきたのはガタキリバ。

彼は扉を閉めるとため息をつく。座るべきソファがなくなっているじゃないか。

仕方ない、そう言ってガタキリバは近くの地面に座り込んだ。

 

 

「それより……どうだったかな、僕を倒す気分は。傲慢な君にはいいサービスだったろう?」

 

『!』

 

「プライドの高いヤツを一方的に倒していくのは実に気分がいい、それは僕も理解できるものさ。だから君にもその気分を最期に味合わせてやろうと――」

 

 

瞬間、消し飛ぶガタキリバ。

半ば発狂しながら百目は彼の存在を視界から消し去る。目の前で塵となり、消滅した彼を見てもまだ百目は叫び続ける。

煙を上げているガタキリバがいた場所へ向う百目。そしてそこを食い入るように観察してみた。

 

 

「何もおかしい所は無いぞ、どうした? 神なんだろ? クククッ!」

 

『あ……あぁ!』

 

 

部屋に入ってきたのは……ガタキリバ。

百目は狂乱状態となり叫ぶ、何故死なない。何故生きている!!

 

 

『何故だぁあああああああああああああッッ!!』

 

 

こうなったら、直接息の根を止めるしかない。

百目は拳を握りしめてガタキリバへと――

 

 

「やめておけ、お前は遠距離型じゃないのか?」

 

 

ガチャリ。

そう聴こえて、百目は目の前にいるガタキリバを見る。

いる、確かに目の前にいる。だが、彼の目が捉えたもう一つの……影。

 

それは、部屋に入ってくるガタキリバだった。

 

 

『な……ッ!! な……』

 

「邪魔するぞ、百目」

 

 

見間違いなどしない、百目はしっかりと二人のガタキリバを観測していた。

今目の前にいるガタキリバ。そして扉から入ってきたガタキリバ。

 

 

『こ、これは――』

 

「邪魔するぞ、百目」

 

 

二回言った訳ではない、しかし同じ言葉をもう一度投げかけられた。同じ声でだ。

唖然とする百目の瞳に映るのは、ガタキリバ。

 

 

「邪魔するぞ、百目」

 

「邪魔するぞ、百目」

 

「邪魔するぞ、百目」

 

 

同じ言葉、しかしガタキリバはそれを連続して言ってはいない。

しっかりと部屋に上がる事を示したガタキリバ。扉から入ってくるのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりガタキリバ!!

 

 

『あ……ああぁぁ………ぁ』

 

 

そ、そんな事が――

 

 

 

 

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

邪魔するぞ、百目。

 

 

 

『うあぁあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああッッ!!!』

 

 

右を見る、そこにいたのはガタキリバ。

左を見る、そこにいたのはガタキリバ。

前を見る、そこにいたのはガタキリバ。

後ろを見る、そこにいたのはガタキリバ!!

 

扉から一言断って、ガタキリバが続々と入室してくる。

そして、数分もしないうちに目視の間にはおかしくなりそうな程のガタキリバが入室を完了させていた。

もちろんこの部屋にそれほどの人間が入れるはずも無い。すでに部屋はすし詰め状態となり、おしくらまんじゅうと言わんばかりに、ガタキリバたちは百目へと群がり、その動きを封じていた。

 

 

「傲慢は、傲慢によって潰える――」

 

 

ディスは仮面の奥で自虐的な笑みを浮べた。

もう一度言おう、彼は知っている。傲慢がいかに愚かな存在なのかを。

だが、彼は理解している。自らもその大罪を背負っているのだと。

 

"超分身能力"。ガタキリバは最初のフラッシュ時に分身を発動させていたのだ。

全てのガタキリバはディス自身であり、本人である。分身させておいた一人が生きていれば後は何人消えてしまおうが構わない。

まさに、それは――

 

 

「悪いな百目。"最強"は……この僕だ」

 

『うぉぉぉおおおおおおおおおおッッ!』

 

 

百目の体が発光する。

なんとかレーザーで消し飛ばす事ができれば状況は変わるはずだろう。

などと、弱い生き物がほざいている。ガタキリバの群れは既に角を発光させておいた。それはつまり――

 

 

『ぎゃアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 

全てのガタキリバはクワガタヘッドから同時に緑色の雷を発生させる。

目視の間が緑色一色に染まり、百目へ通常の五十倍もの威力を持った雷が襲い掛かった。

百目は、見た。その――力を。

 

 

「百目、お前に問おう。先ほど同じ台詞が今も言えるか?」

 

『――――………ァァ』

 

 

そう、まさにそれは――

 

 

「覚悟しろ百目。お前の傲慢を、僕の傲慢が穿つ。神の力は僕にあり」

 

 

最強。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿なッッ!!」

 

『………!!』

 

 

その時ブラカワニたちの音声が目視の間に鳴り響く。

百目は先ほどの光景、様子からブラカワニが劣勢だと信じて疑わなかった。

事実、誰がどうみても三人の妖怪に囲まれ攻撃されているところを見ればブラカワニが危険な状態だと思うだろう。

しかし、その事実は少し違っていた。

 

 

「何故ッッ! 何故お前は倒れない!」

 

 

叫びが混じったさざえ鬼の声。

そしてそれは枕返し、黒坊主とて同じだった。

彼らは三人とも呼吸を荒げて彼女を見ていた。ブラカワニ、彼女は――

 

 

「ふふッ!! こんなモノなのかしらぁ?」

 

「なんなんだコイツはッ!!」

 

 

彼等は知らない。ブラカワニコンボの特殊能力を――

"超再生能力" それがブラカワニの固有能力だった。どんなに傷を受けても、どんなに攻撃されても彼女は一瞬で回復する。傷も、痛みも一瞬で消え去るのだ。

言い方を変えよう。彼女は『不死身』である。

 

 

「こんのッッ!!」

 

 

さざえ鬼は止まらないブラカワニに恐れをなして、サザエの弾丸を乱射する。

しかし彼女はそれを通さない。今まではその体で受けていたのだが、もうその必要は無くなったからだ。

 

 

(どうやら、ディスが上手くやってくれたみたいね)

 

 

彼女の懐にしまっていた理の欠片。

その力によってディスから軽い通信が入った。

内容は、もう時間を稼がなくていい。全てが片付く。と言うもの。

彼女とディスはペアで作戦を実行していた。再生能力を持ったブラカワニが、なるべく百目から妖怪を遠ざける為に囮となる。

その隙にディスが百目を倒す。そういった作戦だったのだ。

 

そのディスが勝利を確信した、ならもう"やられたふり"をしなくてもいいだろう。

ブラカワニは両腕に供えられている自らの武器、"ゴウラガードナー"を構え前進していく。

カメの甲羅を模したその盾は単体でも絶大な防御力を発揮するが、本質はその二つを合わせる事にある。

二対のゴウラガードナーは合体する事で巨大な甲羅を模す、さらに合体された事でゴウラガードナーの周りにエネルギーで構成された盾がさらに付与されるのだ。

"ゴウラシールデュオ"、それはサザエ弾を簡単に防ぎ。さらに弾き返す!!

 

 

「ぐおぉぉおッッ!!」

 

「だあぁぁあッッ!!」

 

 

弾かれた弾丸を枕返しと黒坊主は受けてしまい、大きく吹き飛ぶ。

いやそれだけではない。ブラカワニは素早くコブラを具現させ枕返しに噛み付かせた。

そのまま大きく振り回し、壁へと叩きつける!!

 

 

「―――ッ!!」

 

「あら、もう果てちゃったのかしら?」

 

 

気絶する枕返し、我に返った黒坊主とさざえ鬼はすぐに攻撃をブラカワニにしかけていく。

しかしその全ての攻撃をブラカワニはゴウラガードナーによって防御。さらに、彼女は防御だけで終わる女ではない。

弾かれ、隙をつくった黒坊主に待っていたのは、鋭い蹴りの嵐だった。

 

 

「ぐあぁぁッ!! おぉぉぉッッ!!」

 

 

しかもこの蹴り、ただの蹴りではない。

ワニレッグから繰り出される蹴りには、文字通りワニを模したオーラが付与されており、蹴りを決める瞬間にそのオーラが黒坊主に噛み付いていく。

レッグが繰り出す絶大な顎の一撃。自由に動くコブラのサポート、射程。ゴウラガードナーと自身の甲羅による鉄壁の防御力。そして超回復。

ブラカワニに穴は無い、彼女を止める事は難しい事である。

 

 

「思ったより妖怪が集まらなかったけど……もう終わりにしましょうか」

 

 

ブラカワニはバックルからメダルを全て抜き取り、それをゴウラガードナーに装填する。

そしてスキャナーをかざした、電子音が鳴り響く。

 

 

『トリプル! スキャニングチャージ!!』

 

 

ゴウラガードナーから眩い光が放たれ、ブラカワニの両腕が光り輝く。

そのままブラカワニは黒坊主に狙いを定め、両腕を合わせた。

 

 

「いぃッッけぇぇえええええッ!!」

 

「!!」

 

 

ブラカワニは巨大なゴウラシールデュオを展開させる。

甲羅を模したエネルギーのバリアは防御に使うわけではない。もちろん防御としても絶大な力を持つが、今は違う。

ブラカワニはそのゴウラシールデュオを黒坊主めがけ発射する!

 

巨大な壁が黒坊主を押し出し、そのまま壁へと運んでいく。

そう、シールドで押しつぶすのだ。意味が分かった黒坊主はシールドを破壊しようと攻撃をしかけるが全くの無駄。

すぐにシールデュオと壁にはさまれてしまい、そのまま黒坊主も気絶してしまう。

 

 

「お、おのれッッ!!」

 

「悪いわね――」

 

 

ブラカワニは再びメダルをドライバーに装填すると、再度スキャンを行なう。

 

 

「飽きちゃった。終わりにしましょ?」『スキャニングチャージ!!』

 

 

ブラカワニが手をかざすと、美しいブラウンのリングが三枚展開される。

逃げようと踵を返すさざえ鬼だが、無駄な事だ。獲物を見つけたワニの様に、鋭い眼光を放ちブラカワニはスライディングを行なう。

これもただのスライディングではない。水面をしなやかに泳ぐワニの様に、美しく地面を滑りながらリングをくぐって行く。

 

 

「ゼイヤァアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ひぃぃいいいいッ!!」

 

 

巨大なワニが見えた。そのオーラはさざえ鬼の固い鎧を簡単に噛み砕くッッ!!

ワーニングライド! ブラカワニの必殺技は、さざえ鬼を吹き飛ばして気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれを、目視の間で百目が観測していた。

先ほどまでと違うのは、彼の瞳が空ろだと言う事。全身がボロボロだと言う事。そこに傲慢は微塵も無い。

何故なら彼は理解したからだ、最強ではない。神でもない。弱い、弱い人間だったと。

 

 

「ハハハハ! まるで虫ケラだな」

 

 

対して楽しそうに笑うガタキリバ。

 

 

「さあ、終わりにしよう。傲慢を捻り潰す」『トリプル! スキャニングチャージ!!』

 

 

逃げようとする百目だが、もうまともに歩く事すらできない。

そしてそれとは逆にガタキリバは勝利を確信し、その道を歩いていた。

電撃がカマキリソード、クワガタヘッド、バッタレッグに付与されて形を作る。

 

雷撃のエネルギーがオーラと言う形となり、鎌と、角、脚が巨大化したガタキリバは、そのまま百目を掴み上げた。

パワーアップされたクワガタの角とカマキリソードでガッチリと百目を拘束する。

逃げられない、いや逃がさない! だから浴びせる電撃、百目の抵抗が終わりを告げた。

 

そのまま変化したバッタレッグで跳躍する。

天井にぶつけた後、体を捻り百目を下に向ける。そして回転、電撃を纏いながらきりもみ状に落下するガタキリバと百目。

待っているのは、当然地面である。

 

 

「最強の君に僕がある言葉をプレゼントしよう――」

 

『―――』

 

 

激しい音と共にガタキリバは百目を地面に叩きつけた。

フィニッシュに最大出力の雷撃をおみまいしておいた。

ガタキリバは確信する、コイツは絶対に立ち上がらないと。

 

 

「さよならだ、"雑魚"が」

 

 

気絶する三人の妖怪、立っているのはブラカワニ。

砕け散るメモリと気絶している人間、立っているのはガタキリバ。

 

ガタキリバは気絶している人間の隣で、同じく気絶しているだろう目目連の母体を発見する。

これで目目連の機能は停止してくれた筈だ、ディスは部屋の中にあるレバーを見つけてそれを上にあげた。

ガチャリと音がして廊下の落とし穴が再び開く、中から出てくるのはアギトトルネイダーや龍騎レッダーに乗っていたディケイド達だった。

落とし穴がある事は分かっていた、だから一同はディスを部屋に送る為あえて引っかかっておいたのだ。

 

もちろんディスが負けていれば出ることはできなかったが、結果は彼の勝利だ。

ディケイド達はディスに礼を言うと、アキラを探すためそれぞれ再び散っていった。

 

ガタキリバはと言うと変身を解除して目視の間を探索してみる事にした。

正直、観測室たる名を持つからには、いろいろと見た事の無い装置なんかがあるかと思ったが……。

どうやらそういうわけではないらしい、目目連から得た情報を少し綺麗な岩壁に映すだけのようだ。

 

 

(ここからアキラを探すのは無理か。城内マップも作れそうに無いな……)

 

 

ディスは気絶している男を縛り上げると、適当な場所を見つけて座る。

部屋はもう百目が放ったレーザーでめちゃくちゃだ。椅子でもあればよかったのだが、ディスはため息をつきながら携帯を取り出す。

理の欠片は彼らももらったが、ゼノンたちが彼らにも通信機能をいじったか、携帯も通信機能としては十分に使用できる物であった。

 

 

「もしもし? そっちは終わったのか?」

 

『あらあら、まずは心配してくれると思ったのに。ガッカリね』

 

 

知らねぇよ。ディスは頭を抱えて唸った。

電話の向こうで小馬鹿にした様に笑う巳麗を想像して彼は何度目か分からないため息をついた。

やはり、女は面倒な生き物に違いない。

 

だが、まあ……! 大人気アイドルのGKB48の皆は、その点あいつ等とは違うな!

ディスは以前別の世界で見かけたアイドルの少女を思い浮かべる。

 

朱雀、マリン、巳麗、いずれも彼女達の足元にも及ばない下種ばかりだ。

そう言えば今度ニューシングルが発売されるとか言う噂を聞いた気がする。

クソッ、仕方ない。海東に頼んでもう一度あの世界に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、この男なかなかのドルオタである。

 

 

『ちょっと! 聞いてるの?』

 

「あ……! わ、悪い。えと……なんだっけ?」

 

 

どうやら、いつの間にか真面目な話をしている人間がチェンジしてしまった様だ。

ディスは邪念を捨てて巳麗の話を再確認する。まず、第一段階である目目連は封じた。

つまりもう自分達の居場所が敵側に明確に知られることは無くなった。これで少しは動きやすくなった筈だ。

 

それはまあいいだろう。とはいえ、目視の間こそ制圧したが正直期待していた程の見返りは無かった。

目目連を支配できる部屋だと聞いていたが、どうやらそれは百目のメモリの力の事を言っていたようだ。

つまり、目目連が気絶して活動を止めた今、目視の間は全く意味の無い部屋になってしまった。

 

 

「僕はやはりここにいた方が……いいか?」

 

『そうねぇ。それにアンタ、分身使ったんでしょ?』

 

 

そう、分身は強力だがその分疲労も並のものではない。

しばらくは変身しない方がいいだろう。ディスは大きくため息をついてジットリと周りを見る。

 

 

「ここは一方通行だ。もし攻められれば僕は詰むんだよ」

 

『じゃあ、アタシが守ってあ・げ・る』

 

「………」

 

 

帰りてぇ。ディスはそう願いながらも、巳麗に頭を下げるしかないのだ。

彼は既に引き上げたレバーを見つめながら電話を切る。再び開放されたディケイド達は、それぞれに散って言った様だ。

もう自分は十分役目を果たしたろう、休んでも文句は言われない筈だ。

 

 

「これで、目目連は封じたが――……」

 

 

まだ監視システムを封じたにしか過ぎない。そして、それに対してこの警備の薄さ。

確実にまだ何かある。ディスはこれから訪れるさらなる激闘を想像して、思わずため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた……?」

 

 

心配そうに背中をさすりながら、麓子はアキラを肩を持つ。

アキラはぶるぶると震えながら麓子にすがりついて離れなかった。

最初は冷静さを保ち、普通に会話できていたのだが――

 

自信があったのだ、アキラには。覚悟もできた。なのに、時間が経つにつれて恐怖が膨れ上がってくる。

死ぬ。それをどうやら自分は軽視していた様だ。最初は痛みは一瞬で済むと自分に言い聞かせ心を偽ってきた。

だが食事が喉を通らず、眠れない時間が続き、おかしな幻影まで見るようになってきた。

 

もう、偽れない。偽れないのだ。

 

 

「ろ、麓子さん……ッ」

 

「な、なに……かな?」

 

「どうしても……どうしても、私じゃないと駄目なんですよ…ね」

 

「!!」

 

 

麓子の表情を見て、アキラはすぐに彼女に謝罪した。

大丈夫、アキラは強く言い放つ。大丈夫だから、ごめんなさい。

彼女は強く謝る。そして震えた声で誰に言う訳でもない。その言葉を呟いた。

 

 

「ちゃんと……死ぬから……ッ」

 

『そうです、それでいいんです』

 

 

答えはないと思っていたその言葉。

しかし、答えた者はちゃんといる。アキラは思わずその声がした方を見た。

そこにいたのは禍々しい笑みを浮べた自分。

 

鏡の中にいる自分。彼女は、アキラはアキラに向って優しく言う。

貴女は生きている事が罪なんだから、大人しく邪神にくわれてしまえばいい。

それで、皆幸せになるんだから。

 

 

「………」

 

 

アキラは頭を抱えて座り込む。

落ち着いて、必死に冷静さを保ちながらもう一度鏡を見た。

そこには当然自分の姿が映っている。それだけだ、他におかしいところはない。もちろん鏡の中の自分は今、自分と同じ動き、表情をしている。

さっきのアレは……やはり、疲れているからなんだろう。そう、だけど鏡の中の自分は言っていた。これでいいと。

ならば、それでいいんだ。自分がこれでいいって言ってるんだから、それでいいんですよね?

アキラは必死にそう自分に言い聞かせて、麓子に曖昧な笑みを浮べたのだった。

 

 

「………」

 

 

それで、いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、ご自慢のメモリがやられてしまった様ですね」

 

「これは申し訳ない。とんでもない醜態を晒してしまった」

 

 

水晶の間では瑠璃姫と鏑牙、そして水晶の中にいる老婆が話し合っていた。

どうやら百目のメモリ・アイズは特別だったらしく、それを失ったのは老婆、名を鏡婆(かがみばばあ)としても喜ばしい事ではない様だ。

彼女の服に輝く黄金の鷲が揺らめいている。

 

 

「ですが花嫁への精神汚染は順調の様ですね。まあ、自分に話しかけられたんじゃそれが本心と思ってしまうのが人間の性ですけど」

 

「私の能力でばら撒いた『万華鏡(まんげきょう)』によって人間は自らの鏡像に怯える事となる」

 

「ええ」

 

「そして、完全に呑まれた時に鏡像と本体は同化するのです。私はこの力を使い様々な世界に万華鏡を仕掛けてきました」

 

「ならば、お前は死ねないな」

 

 

一度戻ってきた鏑牙の言葉に心配ないと鏡婆は笑う。

鏡の中に入ってこれる人間など存在するものか、ずっとここにいれば私が死ぬ事は無いと彼女は豪語した。

 

 

「それならばいいのですが」

 

「………」

 

 

鏑牙は何も言わずに立ち上がると、そのまま部屋を後にしようとする。

どうしたのか? 瑠璃姫が問いかけると、彼は少し外に出てくるとしか言わなかった。

 

 

「彼はどこへ?」

 

「さあ、彼はああ見えて用心深い性格ですからね。恐らくは侵入者を潰しにいったのでしょう。ゲームの準備も順調の様ですし……構いませんよね?」

 

「ええ、コチラとしても助かります。では神聖な支配を――」

 

 

そう言って鏡婆もまた姿を消失させる。

瑠璃姫は一人取り残された部屋で静かに微笑む。果たして、鏡の中は絶対安全なんでしょうかねぇ?

この世界だけの因子が全てではないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この試練、中々面白いものだ」

 

「?」

 

魔女はニヤリと笑って過去の記憶(ページ)をめくって見せる。

まず始めに彼らが行なったのはクウガの試練。

襲い掛かったのは絶大な恐怖、未知なる恐怖。そして今、魔女が見るのは邪神、恐怖の塊だ。

 

次に魔女はキバの試練を思い出す。

襲い掛かったのは種族の壁、相容れぬ二つの存在。互いの共存は可能か不可能か?

そして今、魔女が見るのは人間と妖怪の壁。彼等は互いの意思を、世界を守れるのか? 共存の未来を賭けた戦い。

 

魔女は思い出す、アギトの試練を。

襲いかかるは強大な幻想の愛。惑い、迷い、そして見つけなければならない。真実の愛を。

そして今、魔女は我夢に視線を移す。愛を、彼は見つけられるのか? そして、何よりも愛する者を救えるのか?

 

次に、ファイズの試練をその目に映す。

襲い掛かるのは迫るタイムリミット、絶大な戦力の差。

絶望とも言える中で、彼等は抗い勝たなければならない。

敗北は許されない、立ち止まることも許されない。時間は止まらないのだから。

そして今、この世界に満月の夜が近づいてくる。迫るタイムリミット、間に合うか? それとも死か? そして戦力の差を、彼等はどうやって乗り越えるのだろうか?

 

魔女は、龍騎の試練を思い出した。

襲いかかるは力と言う壁、オーディンとの力の差が彼らの心を壊そうとする。勝利の希望を絶とうとする。

だが、それでも勝たなければならない。世界を守る、世界を救う為に。そして今、魔女は再びその光景を想像する。

サトリや他の上級妖怪、そして総大将。その力の差を彼らは感じている。だが、勝たなければならない。世界を守る、世界を救う、そして何より彼女を助ける為に。

 

魔女はブレイドの試練を思い浮かべた。

襲い掛かるのは自分の弱さ。弱い弱い人間であるが故、悩み、迷う、そして苦悩する。

だが、その自分を自らの手で殺さなければならない。震える足を自らの手で止めなければ世界を、大切な者を失う気がして、だから戦わなければいけない。自分と、自分の弱さと。

そして今、魔女は見る。我夢、彼ら全員の苦悩、弱さ、迷いを殺さなければならない。

それは、自らの手で……たとえ他者の力を借りたとしても、自らの迷いに止めを刺すのは自分なのだ。

でなければ、世界を救う事はできない。アキラを救う為に、まずは全てを敵に回す(エゴ)を持たなければならない。

 

魔女はカブトの試練に記憶を移す。

襲い掛かるのは数々の答え。答えを出すのは自分と知っているのに。

それでも尚、揺らいでしまう決意。だが、どんなに時間を経ても揺るがぬ答えをださなければならない。甘えた心を超えなければ、世界は救えないのだから。

そして今、魔女は我夢の決意を確かめたい。果たして、彼の想い、決意、決断、出した答えは揺るがぬ答えなのかどうかを。

 

 

「今回の試練。それは過去、彼らが乗り越えてきた全ての試練を含んだ……まさに最後の試練に相応しき内容となったようだ」

 

 

果たして、それを我夢は乗り越える事ができるのか? 魔女はクスクスと我夢のみに視線を移していた。

どんなに司達の力が、ゼノン達や海東達の力があろうとも、全ての結末は我夢が示す事になる。

 

ナルタキもまた魔女の意見に頷いた。

そう、これを乗り越えた時『Episode DECADE』は本当の意味で完成を迎えるのかもしれない。

自分はアキラを見捨てる事を簡単に決めた。それが間違いでは無いと思っていたし、そうする事がベストでありベターであるとも考えていた。

だが、その考えは間違っていたのだと理解させられた。どうやら焦るあまり人間と言う生き物を見誤っていたようだ。

多少、面倒だが……この甘さとエゴが人間。そして、それを希望に変えられるのも人間だ。

 

 

「今は、彼らが出す結末を見守るだけだ」

 

 

ナルタキと魔女は再び本へ視線を移す。

魔女はどうか知らないが、ナルタキは彼らの勝利を強く願うのだった。

 

 




結構バトライドウォーの情報出てきたけど、今回キャストが中々豪華だね。まさかの武蔵本人は少し笑ってしまった。

龍騎本人確定してた筈なんで、これであとはディケイドが前作に続いて本人なら文句無いんですけどね。前のディケイドは演技だったのか、声が低めの首領モードでしたからね、今回もアレでいってもらいたい。

あとはまあゲームシステムをちょっと見直してくれたらいいんですけどね。

はい、じゃあ次はちょっと未定です。
なるべく早くしますが、ちょっと遅れるかも。
来週には更新します。

ではでは

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