仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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はい、ちょっと予定を早めての更新です。
ちょっと休日に予定が入ってしまい、明日も都合が悪そうなので。

メッセージ等がくればスマホで返すつもりではありますが、もしかすると数日放置してしまうかもしれません。ご了承ください。


第38話 友

 

対峙する電王とサトリ。それを書斎でナルタキと魔女が観測していた。

魔女は相変わらずクスクスと笑っており、ナルタキも興奮を抑えられないようだった。

彼らの視線は電王に集中している。

 

 

「ついに世界が電王をコチラ側に認識したか……!」

 

「そして、電王の世界は彼の存在を無かった事にした」

 

 

魔女は"今読んでいる本"の隣にある本を見て笑った。

その本には、無数に『野上良太郎』と『ハナ』の文字があったが――。

魔女はもう一度笑うと、その本を閉じてしまった。何故かは分からないがどうやら目の前にある本のみに集中する為らしい。

 

 

「いくら世界に否定されたとは言え、彼が主軸の人間であった事に代わりは無い。他の"再構築者"とは訳が違う……と言う事かな?」

 

 

魔女がナルタキに問いかけると、彼は大きく頷いた。

相変わらず視線は電王に向いていて、まるで子供が楽しみにしているテレビを見ているかの様だ。

そう言う歳でもないだろうに、魔女は呆れた様に笑う。しかし、いつもは不機嫌そうに反応するナルタキが尚も集中しているのを見るとあながち間違いでもないらしい。

 

 

「あの力が、さらにエピソードディケイドの恩恵を受ける事となるのだ。これはコチラにとって大きな力となる!」

 

 

どう言う事なのか、それを問う魔女。

いつもは淡々と答えるナルタキだったが、今回は珍しく――

 

 

「見ていれば分かる」

 

 

なんて事を言ってみせる。まあしかし、魔女とてそれでいいと笑った。

二人はもう一度電王を見る。ナルタキは希望を、魔女は淡い期待を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GUN・FORM』

 

 

電王が紫のボタンを押すと、周りから装甲が現れ彼に装着される。

龍の頭部を燃した仮面、ガンフォームへと変わる電王!

 

 

「河童兵は抑えられる。悪いが頼めるか? 良太郎、リュウタロス!」

 

 

サトリを守護する為に、河童兵達は群れをなして電王の前に対峙する。

それをディケイド達が抑えると言うのだ。

 

 

『わかったよ。お願い』

 

 

頷き合う二人、龍騎達はすぐに電王をフォローするために河童兵達に飛び込んでいった。

広いホールだ、直ぐにサトリと電王は一対一の状況に変わる。

 

 

『ハッ! 一人だと? お前一人で私を倒せるとは随分と馬鹿にされたものだな、覚悟は決めてもらおうか』

 

 

サトリを中心として闇の結界が広がっていく、電王はサトリと一対一の状況を強いられたのだ。

結界はディケイド達の介入を許さないが、河童兵の介入は容易に許してしまう。つまり河童兵を結界に近づけてはいけない。

ディケイド達は河童兵をなるべく電王達から遠ざける事を決める。

 

そして間髪入れず、サトリは剣を電王に向け投げた。同時に能力を発動、瞬間に電王の心の声が鮮明に聞こえてきた。

まず彼は銃でナイフを撃ち落す気だ。サトリは闇のエネルギーを足元で爆発させて一気に電王の所まで近づいた!

当然電王は銃でナイフを撃ち落す。分かっていた、そこから生まれる隙をサトリはつくのだから。

 

だが、さらに電王の声が聞こえる。

自分が隙を狙ってくる事をあらかじめ予想していたのか。だが――それも実に甘い。

 

 

「!」

 

 

隙をつくはずの一撃をすん止めして、代わりに別の方向から闇の剣を発射する。

そこまでは予測できるはずも無い。電王の体から火花が散り、彼は大きくよろけた。

 

 

「わぁ! や、やったな!」

 

『無駄だ、どんな攻撃だろうと――』

 

 

パチンッ!

その時、指を弾く音が聞こえて――

 

 

『グゥッッ! ――ッ!? っぁ?』

 

 

衝撃を体に覚え、サトリは大きく後ずさる。

何が起こった? よく分からない、電王を攻撃しようとしたら逆に自分がダメージを受けた!?

 

パチンッ!

また電王が指を弾く。すると――

 

 

『グウウウウゥウゥゥウウッッ!!』

 

 

今度は数箇所から衝撃と痛みを感じて、サトリは地面に膝をついた。

何だ、何が起こった!? 彼はまだ理解できていない。少なくとも攻撃を受けたと言う事は分かる。

だが、少なくとも電王が何かを考えていたとは思えない。ならば奇襲? 電王以外にもどこかに敵が潜んでいると?

 

 

『いや――ッ!』

 

 

違う! これもヤツの力なのか!!!

 

 

「アハハハッ!」

 

『!』

 

 

ステップを踏みながら電王は銃をクルクルと回す。

そして、銃口をサトリへと向けた。

 

 

「ねぇどうしたの? もっと踊ろうよ、そんなんじゃ退屈しちゃうなボク」

 

『……ッ!!』

 

 

少し狂気さをも感じられる彼の雰囲気、そして感じる紫のオーラ。

まるで部屋全体が紫に染まったかの様な錯覚すら覚える。

 

サトリは初めて明確な力を感じただろう。

今、目の前にいる電王。彼は今までサトリが出会ったなによりも異質、そして強力だとサトリの本能が告げる。

 

 

『ふざけるな、踊るのは道化だけでいい』

 

 

サトリは飛翔して上空から闇のエネルギーをぶつけようと行動を起こした。

しかし電王は尚もステップを踏んでいるだけだ。唯一起こしたアクションは、ただ指を鳴らすだけ。

 

パチンッ!!

 

 

『グォオ!!』

 

 

衝撃と共に落下するサトリ。

間違いない、あの指を鳴らす行動に何かあるのか。

そこで、サトリはふと冷静に周りを見てみる。おかしい、河童兵とディケイド達の位置がより遠ざかっている。

つまり時間が自分の把握しているより進んでいる? 再び指を鳴らそうとする電王、サトリは意識を高めて構える。

 

パチンッ!

 

 

『!』

 

 

何かが頭の中に忍び込むような――ッ!

そして、サトリは見た。今、自分が無意識のうちに何をしているのかを。

 

 

『そう言う事かッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、成る程……」

 

「これが、覚醒した電王の力だ」

 

 

ナルタキと魔女の視線はサトリに移る。

今、なんとサトリはリュウタロスの様に激しいダンスを踊っていたのだ。

もちろん彼が戦闘中に踊るなどと言う性格な訳が無い。つまり、これは電王・ガンフォームの力。

 

 

「元々リュウタロスに備わっていた、精神に暗示をかけて操ると言う能力」

 

 

つまりマインドコントロール、リュウタロスはその力を使って"ダンサーズ"と言う存在まで作り上げた程だ。

 

 

「その力が、エピソードディケイドの『可能性の開放』によって強化されたと言う訳か」

 

「その通り。能力の詳細については私も分からないが、強力なものには間違いない」

 

 

魔女も少し興味を示したのか、身を乗り出して電王とサトリ。二人を交互に観察していた。

紫の力、リュウタロス。電王が指を鳴らすとそれを聞いた、または見た者は電王の操り人形となるのだ。

もちろん操れる時間は短いし、仕組みに気づく事で洗脳力を弱めることができる。しかし操られている間はまさに無防備。

先程司達が自分に蹴りでダメージを与えられたのは、彼に操られていたからだろう。

 

 

『ぐおおぉぉおお!!』

 

 

ガンフォームの連射と、ダンスから来る蹴りの連打がサトリに大きなダメージを与える!

とは言え、サトリとて既にマインドコントロールの仕組みを察知した訳だ。耐性がつき簡単には操れなくなる。

ならば状況は再びサトリが有利となるだろう。サトリは冷静だった、リュウタロスの攻撃は強力だが耐えられない程ではない。

それにコチラもまだ攻めてはいないのだから。

 

 

『消えろッッ!!』

 

「へぇ、お空を飛べるんだ――」

 

 

サトリは上空へと飛翔し、両手に闇のエネルギーを出現させる。そしてそれを一気に連射させた!

まるでマシンガンの様にエネルギー弾は電王がいる場所へと降り注ぎ、姿が見えなくなる程その数を倍増させていく。

ハナは思わず彼らの名前を呼ぶ。間髪入れぬ暗黒のガトリング、さすがの電王もいきなりこんな攻撃をされるとは思っていなかっただろう。

いや実際思っていなかった、心を読んだのだから。避けられる事はない、防御するしかないのだ。

 

 

『―――な』

 

 

おかしい、おかしい。おかしい!

ヤツの意思が全く死んでいない!?

 

 

『これは……ッッ!』

 

 

サトリは攻撃を止める。

自分の弾丸は電王に着弾したものとばかり考えていた、だから撃ち続けた。だがそうではなかった!

また音楽が聞こえる。そして見た、無数の弾丸が踊っている――ッ!?

 

 

『!』

 

「あははは――ッ!」

 

 

楽しそうに笑う電王、彼はブレイクダンスを踊っていた。戦闘中だと言うのに? いや違う、戦闘中だから。

無数の弾丸は電王に着弾する事はない。彼の発生させた紫のオーラに触れた瞬間、軌道を変えて彼の周りを旋回しはじめたのだ。

まるで、彼のダンスに合わせるかのように!

 

 

「飛び道具無効。それも紫の力の一つか」

 

「それだけではないようだ。見ろ」

 

 

魔女が顎で示したのを、ナルタキも確認する。

電王の周りを飛び回る弾丸は彼の盾として大きな役割を果たす。サトリは電王に近づこうにも、自らが発射した弾丸が邪魔で全く近寄れない。

皮肉にも弾丸の量が多ければ多いほど盾として強力に進化していくのだ。

 

そして、魔女が言った通りそれだけではない。

ダンスにも終わりはある。電王はダンスを終わらせる為、決めポーズを取った。

すると弾丸達はそれを了解したように、もう自分達の出番は終わったと言うように弾けた。

 

 

『ぐぅぅぅううああああああ!!』

 

 

弾かれた弾丸の群れは、紫のエネルギーを纏ってサトリにぶつかっていく。

飛び道具反射、それも電王ガンフォームの新たなる力。サトリは何とか電王の心を読むことに成功し、ギリギリで防御行動をとる事に成功した。

しかし数発を受けてしまった事には変わりない。もっと深く心を読めていれば――ッ!

 

 

『この力――ッ! 危険だな!』

 

 

サトリは文字通り悟る。

電王相手なら、油断が即敗北に繋がると。

 

 

「ねえ、君達がアキラちゃんを閉じ込めてるんだよね――」

 

 

いつものトーンとは少し違うリュウタロスの声、それは間違いなく怒りをはらんでいた。

その迫力に、サトリは思わず一歩後ろへと下がる。

 

 

「アキラちゃん、ボクの絵を褒めてくれたんだ……上手だねって――」

 

 

少し声のトーンが下がり、声が震え始める。

思い出すのはアキラとの思い出。決してそれは多いものではないだろう、だがその中で彼らの絆は大きくなっていく。

 

 

「お姉ちゃんの話だっていっぱい聞いてくれた。お菓子だってくれた!」

 

『―――ッ!?』

 

 

思い出すのはアキラの笑顔。

一人で絵を描いている時、いつの間にか横に彼女がいた事を思い出す。

 

 

『上手ですね』

 

 

優しく微笑む彼女。

彼が慕っている良太郎の姉とは少し雰囲気は違うものの、同じ儚い美しさ、その中にある暖かさがあった。

 

 

『でも、モモタロスはへたっぴだって……』

 

『あはは、悪気はないですよ。リュウタ君の絵には心がこもってますから』

 

 

心? 不思議そうに首を傾げるリュウタロス。

アキラは彼の絵をとって優しく微笑んだ。絵の中では皆が笑っている。楽しそうに、幸せそうに手を取り合って。

 

 

『リュウタくんの絵を見てると、私まで楽しくなってきます!』

 

 

そう言ってニッコリとアキラは笑う。

それが嬉しくて、リュウタロスはアキラの絵を描きたいと言った。

描いてくれるんですか? そう言って嬉しそうに微笑むアキラ。その後、しばらく二人は画を一緒に描いて遊んだ。

その内、モモタロスが謝罪の念を込めて持ってきたプリンを三人で食べた。

 

だから、リュウタロスは知っている。天美アキラがいかに素敵な人間なのかを。

 

思い出がある。絆がある。共に笑い、一緒に過ごした時間が大切なんだ。

その思い出がなによりも彼を強くさせる。まだ知り合ってそれほど時間は経ってはいないのかもしれない。

だが絆は確実に彼らを結んでいく。

 

 

『ひと時の思い出? 下らんッッ!!』

 

 

それをサトリは一蹴する。

事実、彼にはそんな感情は全く理解できない。他人の為に自らを犠牲にする、世界を犠牲にする熱さなど反吐が出そうになる。

 

 

『花嫁に選ばれた時点でソイツは死ぬ覚悟を結ばなければならない! それが何故分からないッ! 多くの命を救う為に、一人を犠牲にする。それだけでいい!』

 

『でも、今この世界には何か企んでいる者がいるんだ!』

 

『そうだとしたら、滅びればいいのだ。こんな世界はッ!!』

 

 

心を読むと言う力、それがサトリの心に闇を生んだのかもしれない。

人間も妖怪も心の中ではどす黒い感情を浮べている。他者を騙し、あざ笑い、否定する。

そんな上辺だけの種族なのか。サトリは嘆き苦しんだ。人間も、妖怪も、彼にとっては下らない生き物でしかない。

 

 

(ならば、私は与えられた使命を全うするだけだ)

 

 

ただ機械の様に与えられた命令を果たせば良い。そして結果がどうなろうが知った事ではない。

アキラを殺す事が一番だと総大将が言うのなら、そうするだけ。現にサトリだってそれが一番だと理解できる。

なのに、なのに、何故コイツらは――ッ!!

 

 

『天美アキラは死ぬッッ!! それだけの事だッ! いい加減に認めろォォォオオオ!!!』

 

 

ついに、サトリは激情を表す。

たった一人、アキラのために命を賭ける電王たちがたまらなく苛立ったのだ。

彼らは良い意味でも悪い意味でも青い。言い方を変えれば眩しいのだ。

 

 

「それだけの事なんかじゃない! ボク、またアキラちゃんとお絵かきがしたいんだ!!」

 

『絵を? 馬鹿がッ!! そんな事の為に世界を危険に晒すのか!』

 

 

サトリの動きはより激しく変わり、電王ですら押され始める。

だが、すぐに押し返す! 彼の蹴りに合わせるように蹴りを重ねる電王。

カポエイラの様に激しく、ダンスの様に激しく、彼の蹴りと弾丸はサトリの勢いを凌駕する!

 

 

「死んじゃったらもう会えない! もうおしゃべりする事もできないんだッッ!!」

 

『たった一人の人間、さっさと諦めろッッ!!』

 

『違う! たった一人なんかじゃない』

 

 

良太郎が、サトリの言葉を受け止める。互いにぶつかり合う黒と紫。

 

 

『君は、たった一人の人間が、どれだけの人に影響を与えるか知らない!』

 

 

アキラ本人だってそうだ。

死んでしまえば大好きな人にも、大切な家族にももう会えない。

それが、互いにとってどれだけ辛い事なのか良太郎にはよく理解できる。

姉が、婚約者を失った悲しみに沈んだ背中を彼は見ていたからだ。

 

 

『ならば、より多くの人間が危険に晒される事の方が悪いだろうに!』

 

「ッ!」

 

『お前らのやろうとしている事は、その悲しみを増やすことに繋がるかもしれないのだ!』

 

 

そう、矛盾なのかもしれない。

だけど――

 

 

『人の絆は、数学みたいに数で現せないんだッ!!』

 

 

サトリの体に衝撃が走る。

見れば、河童兵が自分に攻撃をしかけているではないか。直ぐに理解する。紫の力、マインドコントロールによって河童兵の方を操っているのか。

操られている者は、リュウタロスが発した命令によって行動する。だからいくら心を読もうとも何も聴こえないのだ。

リュウタロスは河童兵にサトリを攻撃しろと言う命令を発しているだけなのだから。

そして端から聞こえてくる数々の声――、アキラを、世界を助けると!!

 

 

「アキラちゃんを助ける!! 絶対に!!」

 

『ッ! 目障りなッ!』

 

「お前らがアキラちゃんを返さないって言うなら……!」

 

 

電王は、ビシ――ッッ! と、サトリに向かって指をさした。

 

 

「倒すけどいいよね?」

 

『ふざけ――』

 

「答えは聞いてないッ!」

 

 

サトリと電王は再び力を全開にしてぶつかり合う。

激しい銃撃を交わし、サトリは電王に一撃を加えようと動く。だが電王も紫の力で操った河童兵を利用してサトリを妨害していく。

さらに、電王の射撃は乱射と言う方が相応しいのかもしれない。激しく踊りながら電王は銃を撃っていく。それは狙っていないものも多いと言う事。

サトリにとってはそれが厄介で仕方ない、下手に動けば銃弾に当たってしまうのだ。読めないルート、やりたい放題の射撃、それが大問題である。

ターゲットを逃がす気すらない電王。サトリの思考を遥かに超え、危険(ヤバイ)くらいにガンガンと撃ちまくっていく紫の意思に思わずサトリは押されそうになる。

 

 

(こ、これが、人を想う力とでも言うのか!)

 

 

仮面に弾丸が掠める。

一瞬だけ彼の脳裏に浮かぶ危険と敗北。馬鹿な、ありえない、七天夜である自分がこんな訳の分からない奴らに負けるなんて。

 

 

『いこうリュウタロス!』

 

「うん! 任せてよ良太郎!」

 

 

撃つ、撃ちまくる!

彼の気の済むまで、彼の好きなように――ッ!!

 

 

『オォオオオオオオオォオッッ!!』

 

「『ハァアアアアアアアアッッ!!』」

 

 

紫の力を彼らは解き放つ!

空間を、時空までもが彼の(いろ)に染まりあげるかの様だ。

いや、事実ホールが紫のオーラに包まれて色を本当に変えた。それを『み』ていたナルタキ達も、その力の強大さに思わず目を奪われた。サトリとてその強大さに完全に怯んだのだから。

人が人を想う強さは、これほどまでなのかとッ!

 

 

『「ヤァァァアッ!!」』

 

『チィイッッ!!』

 

 

良太郎、リュウタロス。二人の(こころ)(ちから)が重なり合う。

紫のエネルギーを纏った銃弾の威力は先ほどの比ではなく、サトリも防御を諦め回避を中心に変えた。

まさに、その強さは最上級と言っても過言ではない。サトリとて初めて感じる敗北の危機に、思わず乾いた笑いをこぼす。

 

そして、何故かとても悔しかった。

二人の心は眩い輝きを放っている。他人の為に心が輝く、そんな奇跡みたいな事がある訳はないと思っていたのにッッ!!

 

 

『ありえんッッ! 私は絶対に否定する!』

 

「悪いけど、ボクらはもう誰にも止められないよッッ!」

 

『まさか――ッ!! 本気で世界もアキラも助ける気でいるのかッ!』

 

「それを邪魔するやつは――」

 

 

パチン、指を鳴らす音が聞こえる。

サトリは思わず気を抜いていた為に、その音を聞いても意識を集中させなかった。そして瞬時に気を取り戻す!

 

 

『しま――ッ!』

 

「『倒すだけさ!』」

 

 

ふと、目の前にはデンガッシャーの銃口が見えた。

 

 

「『答えなんか――ッッ!!』」

 

『クッッ!!』

 

 

防御行動をとるサトリ、引き金に手をかける電王!

どちらが早いか、それが勝敗を分ける!

 

 

「『聞かない間にねッッ!!』」

 

『ぐぅうううッッ!!』

 

「『………ッ!』」

 

 

サトリは何とか銃弾を受け止め、弾く。

さすがは超級妖怪、七天夜。並みの妖怪ならばここでゲームセットだったろう。

そして逆に地面についたのは電王だ。どうやら紫の力は予想以上にリュウタロスの精神を削っていたらしい。

覚醒したばかりの力を多用したからだろう。どうやらこの戦いは予想以上に均衡の様だ。

 

しかしサトリもまた呼吸を荒げていた。初めてだ、人の心に恐怖を感じたのは。

だが、それも蝋燭の炎みたいに消え去る。現に電王は膝をついた、そして今自分は立っている。

後は止めをさせばいいだけ。

 

 

(アキラちゃんを――ッ、助けるッッ!!)

 

『!?』

 

 

折れない意思、新たな待機音が鳴り響く。

そして認証される電子音。

 

 

『AX・FORM』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかん、キンタロスはその時死を覚悟した。

事の始まりはとあるテレビだ、何の番組だったかは覚えていないがその特集だけはしっかりと覚えていた。

 

 

『男を磨いて漢になる方法百選』

 

 

すばらしい番組だった。

番組を見終えたキンタロスは早速その中の一つ、百日絶食を試すことにした。

 

そして、何日かした後に彼は校庭の隅で力尽きた。

そもそも、イマジンって空腹で動けなくなるのか? なんて思いもあったが、現にキンタロスはお腹が減って動けない。

何か意識ももうろうとしてきた。コレはマズイ、しかもこんな校庭の隅の隅なんて中々人が通らない。声も出ないし……

 

あかん、死ぬ。

すまん良太郎、皆、オレはどうやらここまでの様や。

キンタロスは覚悟を決めた。そして、まさにその時だった――

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

キンタロスはゆっくりと顔をあげる。そこに居たのは……

手に『好きな人を振り向かせる方法百選』と言う本を持った、我夢だった。

 

 

その後、我夢が持っていたオニギリをキンタロスは受け取り何とか回復する事ができた。

どうやら我夢も買った本が外れらしく、互いに馬鹿な話にのってしまったと笑い合った。

我夢は思い切ってキンタロスに男らしくなる為にはどうすればいいのかを相談する。

そしてできれば弟子入りして男の磨き方を教授したいらしい。我夢は命の恩人だ、キンタロスも快くそれを引き受けた。

 

そこからいろいろと奇妙な、"誰も知らない"師弟関係がしばらく続いたものだ。我夢は必死に自分の言った事を実践していた。

アキラの方にも注意を向けてみたが、成る程。丁寧で儚げながらも美しい花の様な少女、我夢が惚れるのも無理は無い。

聞けば、自分が我夢からもらったオニギリはアキラが握ったものだと言う。

我夢のひたむきなアキラへの想い、キンタロスも切に彼の恋を応援した。

 

だからキンタロスは知っている、我夢がどれだけ彼女を想っているのかを。

 

 

『……お前も、そんなちっぽけな絆で世界を敵にするのか』

 

 

金色の光、そして舞う懐紙の紙吹雪。

その中で電王・アックスフォームとサトリは睨み合った。薄暗いホールを照らすように、金色の意思が立ちふさがる。

呼吸を整え彼を睨むサトリ。ああ、分かっているさ、どうせアイツも馬鹿野郎。

 

 

「お前にとっては、ちっぽけなんかもしれん――」

 

 

電王はデンガッシャーを一度分解し、自らの得意武器であるアックスモードへと組み立て直す。

デンガッシャーの待機音はまるで心臓の鼓動の様。生きている証明、生命の力を感じさせる脈動。

 

 

『私にとっては? 違うな、世界にとってもだッ!!』

 

 

サトリは闇のエネルギーを発射して電王に命中させる。

爆発が電王を包みこみ、衝撃が電王にふりかかる。直撃だ、サトリは仮面の下でニヤリと笑っ――

 

 

『!』

 

 

だが、電王は歩いていた。

一歩、一歩、一歩とサトリの方向へと歩み寄る。世界に歯向かう(いし)を構えて。

 

 

「そうかもしれんな。せやけど――」

 

 

キンタロスは思い出す。

 

 

『御託はいい! 大人しく黙っていろ!!』

 

 

サトリは電王の心を読み取り、今の彼が防御に特化している事を知る。

ならば狙うは足。装甲に覆われている部分が少ないだけでなく、ダメージが蓄積されればコチラにとって大きなアドバンテージに繋がる事は間違いないだろう。

 

 

『闇の洗礼を』

 

「!」

 

 

サトリの放つ闇の弾丸。

先ほどは無効化されたが、今の電王に反射能力はない。

無数の闇が電王の足元で爆発する。

 

 

「ッ!!」

 

 

しかし、電王の歩みは止まらない。

サトリの眼前まで足を進めると、電王はアックスを振り下ろす。

 

 

『フッ!』

 

 

まさに単調。

威力は大きそうだが、なにぶん攻撃モーションが大降りすぎる。

避けるのに苦労はしないし、このまま足を重点に狙っていけば余裕だろう。

 

 

「ムンッ!!」

 

『―――ッ』

 

 

は?

 

ゼロになる視界、停止する思考。

サトリの慢心が心を読むと言う行動への甘えを呼んだ。

いや、事実彼は次に電王がとる行動が分かっていた、両手を叩くと言う行動をだ。それは攻撃だとばかり思っていたが……違う。

ねこだまし。それは彼が過去に契約した"本条"と言う人間のおかげで習得した技だった。怯むサトリ、衝撃が彼に大きな隙を与える!

 

 

「――ォ」

 

『ッ!!』

 

「オオォオォォオォォオオオオッッッ!!」

 

 

張り手、それもまた同じだ。だがその威力はすさまじい。

サトリは風を切り裂きながら岩壁に叩きつけられる。衝撃が強すぎてくもの巣状に亀裂が広がっていた、まさに圧巻。

 

 

『グ――ッ!! ゴッッ!!』

 

 

なんて威力だ、サトリは何とか直撃の瞬間に両腕を盾にしたがそれでも絶大な衝撃が伝わってくる。

手の痺れ、揺れる視界を考えるに、想像以上の威力だった。なれば接近戦は不可能、これ以上まともにダメージを受けるのはかなり危険だ。

もしあの攻撃を連続で受ければ敗北はすぐに訪れるだろう。危険、サトリは電王から大きく距離をとる。

 

 

「この力は――」

 

『ッ?』

 

「この力は、技はオレ一人ではあみだせんかった!」

 

 

本条に出会わなければ、今のオレはもっと弱かったやろう。そう言って電王、キンタロスはサトリを直視する。

仮面で隠していようが分かる。恐ろしいくらい真っ直ぐな眼だ。サトリの心にまた苛立ちの念がよぎる。

 

 

「本条だけやない――」

 

 

歩き出す電王、サトリは電王の動きを止める作戦に出る。

纏っている黒衣を鞭の様に伸ばし、電王の足へと絡ませた。

元々動きがそんなに早くないだろう、ならば止めてしまえば一気に勝負を決めれる。サトリはそう考えていたのだが……

 

 

「良太郎、ハナ、モモの字、カメの字、リュウタ――」

 

『何ッ!?』

 

 

決して弱い拘束力ではない。

なのに、電王の足に絡みついた黒衣はいとも簡単に引きちぎられた。代わりに、電王の速度は上がる。

再度、今度はディケイド達に行った『全身拘束』を電王に行使する!

 

 

『!!』

 

 

だが、これも同じ!

電王は簡単に黒衣を引き剥がすと、また着実にサトリへと近づいていく。

今まで出会った、大切な人たちの名を呼びながら。

 

 

「拘束無効、それが金色の力の一端か」

 

 

ナルタキが言う、新たに覚醒したアックスフォームの能力。

彼にはどんな拘束も意味を成さない、たとえどんな巨大なモンスターを封印してしまう程の力であっても彼の前では無効化されてしまう。

どんな力であっても、純粋な力でなければ彼の歩みを止める事はできないのだ。

 

 

「それに、彼の力が増していくような気がする」

 

 

クスクスと笑いながら魔女は電王を見ていた。

多少興味が湧いてきたようだ、魔女は楽しそうに電王を観測する。

 

 

「失い、そして得るか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クッ!!』

 

「司、夏美、ユウスケ――」

 

 

どんなに攻撃しても、彼は止まらない。

そして呼ぶ名前は彼が新たに得た絆となる。司達と出会った事で、彼らは自分達の『存在』を失った。

だが絆を、大切なモノを得た。それを彼らは後悔していない。むしろ、胸を張れる。今の彼らは胸を張って生きているのだ!

 

 

「最後に――」

 

『ぐぅぅッ!!』

 

 

もうサトリの電王の距離は近い。

逃げるか、それとも真っ向から対峙するか。サトリに選択の時が迫る。

 

 

「最後にアキラや」

 

『ッッ!』

 

「今のオレがあるんは、皆がいたから……いや、いてくれたからなんや」

 

『なんだと……?』

 

 

電王は言う、人は人と関わり合い成長するのだと。

そしてこれからも成長していくのだと。

 

 

「亡くなっていい命なんて、この世にあるかいな。誰しもが人を成長させられる可能性を秘めとるんや!」

 

『チッ!!』

 

 

一期一会、そしてめぐり合い。それが心を、人情を成長させると!

多くの人間が、多くの人間と関わる。それが世界。人の命は一人だけの物じゃない、生まれた瞬間から人は誰かの為に生きているのだと。

それはアキラも例外じゃない、だから彼女は死んではいけない。彼女の死は、彼女だけの死ではないからだ!

 

 

「今のオレは、アキラがいてくれたから存在しとるもんでもある」

 

 

出会い、それが電王の力。

良太郎だってそうだ、プラットフォームだけで見れば彼は最弱とも言えるだろう。

しかし、絆が、出会いが彼を最強へと変えていく。

 

 

「オレの強さはオレ一人で成し得たモンじゃない!」

 

 

だから――

 

 

『!!』

 

 

回避ルートをさぐり、サトリはそこへ正確に動いた筈だった。だが計算外なのは彼の力!

電王の大きな一歩は地面にヒビを入れ、衝撃を発生させる。揺れる思考、思わず脚が止まる。

先ほどと同じだ、サトリは電王が目の前にいるというのに棒立ちになってしまう。

 

 

「だから、オレの強さは――」

 

『ぐぅぅうううッッ!?』

 

「泣けるでぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

先ほどとは比べ物にならない衝撃とダメージ。

得意の反射神経でなんとかガードこそ行えたが、何の意味もないのではないかと思うくらいサトリはダメージを受けてしまった!

そんな彼に懐紙が投げられる。

 

 

「涙はこれで拭いとき! さあいくで良太郎!」

 

『うんッ!』

 

「『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』」

 

 

キンタロスと良太郎、二人の(こころ)(ちから)が重なる。

 

 

『ふざけ……るなぁああああッ!!』

 

 

ダメージからなんとか回復したサトリは、両手に剣を構え飛翔する。

電王の周りを猛スピードで飛び回り、かく乱、そして一撃を撃ち込むッ!

火花が電王の体から散る。しかし電王はまったく怯む素振りをみせず、サトリの動きを見ていた。

 

 

『キンタロス!』

 

「おうッ!」

 

 

電王はサトリの動きを読んでアックスを振る!

風を切り裂く音と共に金色の軌跡を描いた。だがサトリはその攻撃がくる事が分かっている、だから避ける。当然の事――

 

 

『!!』

 

 

避けた筈なのに……

 

 

『ッッ!?』

 

 

サトリの体に走る衝撃。

避けれなかった!? 馬鹿な、斧は自分には当たっていなかった筈なのにッッ!?

 

 

「オレの――」

 

『クッ!!』

 

 

また振り下ろされるアックス。

サトリは今度こそルートを確実に計算して回避行動をとる。

 

 

「オレの――ッ!」

 

『ぐわぁああああああッッ』

 

 

だがしかし、また走る衝撃!

アックスは確かにかわした、回避したのだ! なのに何故ダメージを受けている!? 混乱するサトリ。

馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァッ!! そんな馬鹿な事が。

 

 

「オレのッッ!!」

 

『!!』

 

 

サトリは見る、アックスをかわしたと思っていたがそうじゃない。

アックスが描く金色の軌跡に自分は触れていたのだ。確かに斧自体はよけれらた。

しかしそこから発生する衝撃波に自分は触れていたのだと。

 

 

「オレの強さにお前が泣いたァァアアアアアアっ!!」

 

『アアアアアアアアアア!!!』

 

 

電王の張り手、これも先ほどはなかった衝撃波が追加されていた。

通常のリーチよりも衝撃波分、攻撃の射程が伸びている。攻撃のルートを読んだとしても衝撃波のルートまでは読めなかったと言う事である。

 

 

「『ぜいッ!!』」

 

 

バウンドしながら転がっていくサトリを見ながらどっしりとアックスフォームは構えなおす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これもまた、金色の力の恩恵か」

 

「どうやら、電王にダメージが加わるたび衝撃波のリーチと威力が増していくようだな」

 

 

魔女が感じたのは、電王が攻撃を受ける度に彼の力が増していく気がしたのだ。

そしてそれは当たっていた。アックスフォームが新たに得た能力、それは自らがダメージを受ける度にパワーと攻撃にリーチが付与されていくと言うもの。

自分が受けたダメージが大きければ大きいほど自らもパワーアップしていく。

電王のアイテムが多くは変身者のオーラを使用する。この数々の能力はそれの応用とでも言う物なのだろう。

 

 

『皆がいるから、ぼく達は戦うんだ!』

 

「我夢が、アキラが、皆がくれた恩、情けッ! 泣けたでぇ!!」

 

 

首を鳴らす電王。

だから、今度はコッチが恩を返す番。

 

 

『そんな……ッ』

 

 

サトリはまた感じる、二人の想いが一つになるのを。

奇跡だと思っていた事をコイツらは簡単にやってのける!

絆のために、仲間のために戦う彼らは、誰よりも強くなれるのか!?

 

 

『笑わせるな……笑わせるなッ! 感じるぞ、貴様は人間でもなければ妖怪でもないな?』

 

「ッ!」

 

『そんな部外者がッ! 偉そうに吼えるかぁああああああッ!!』

 

 

サトリは巨大なエネルギーを構築して電王へと発射する。

並みの妖怪ならば一発で消し炭になるだろう。さすがの電王も、これを受けて無事では済まない。

できる事ならエネルギーを温存しておきたかったが仕方ない、確実に電王を殺す為にサトリはその一撃を放った!

 

 

「確かにオレは人間でもなければ、妖怪でもない――」

 

 

しかし、電王は迫る巨大な力に向かい合った。

 

 

『馬鹿が! 貴様の防御力で防げるものではないぞ!!』

 

「せやけど、イマジンだとしてもなぁぁッ!!」

 

 

電王はアックスを構えて踏み込むッッ!!

 

 

「見とけやぁああああああッッ!! オレらの心意気ィイィイイイイイッ!!」

 

『ッッ!!』

 

 

良太郎とキンタロス、二人の心が――命が眩い金色の輝きを放つッ!

 

 

「オレの力ッッ!!」『ぼくの心ッ!』

 

「『命、燃やせぇええええええええええええええッッ!!!』」

 

 

金色の力を解放する電王、ホールが金色に染まる!

 

 

『なんだとぉぉッ!!』

 

 

サトリの眼に飛び込んできたもの……それは――!

 

 

『キンタロス!』

 

「任せときッ!」

 

 

キンタロスが振り上げたアックス、驚くべきはその大きさだ!

先ほどまでのデンガッシャーがまるで玩具に見えるくらい、今電王が振り上げているアックスは巨大だった。

元々のデンガッシャー・アックスモードに金色のオーラがまとわりついているのだ。オーラは刃の部分に付与され、自らも刃の形に変わる。

金色のアックスは、電王の身長よりも大きいと言う大きさだった。それを、電王は振りかざすッ!!

 

その動きはまさに――

 

 

『「ダイナァッ!! ミッックッッ!!」』

 

『う、嘘だ!!』

 

「『チョッップゥウウウウウウッッ!!」』

 

 

サトリの放つ巨大なエネルギー弾、それを電王は一刀両断にする。

まさにそれは全てを打ち砕く一撃ッッ!

 

 

「あれも金色の力の一環か?」

 

「そうだな、受けたダメージ分をそのままアックスにエネルギーとして付与しているのだろう。おそらく電王自身が今まで強化されたリーチ、威力は失うだろうがな」

 

 

フムと魔女は笑う。

 

 

「それだけではないか。受けたダメージと自分の力か……もしくは倍化しているのか。あの威力、まさに一撃必殺と言ったところ」

 

 

すばらしい、ナルタキはもう何度もその言葉を口にしていた。

しかしまだ覚醒したばかり、うまくコントロールが出来ていないのかキンタロスに限界がくる。

 

 

「くッ! すまんなぁ! 良太郎!!」

 

『うん、大丈夫! ありがとうキンタロス。リュウタロスと一緒に休んでて』

 

 

プラットフォームに変わる電王、だがしかしすぐに鳴り響く待機音。

 

 

『クソ……クソッ! お前は花嫁の何なんだッ!?』

 

 

まだ立ち向う良太郎に、サトリは完全に恐怖していた。

これ以上の戦闘は本格的に危険だ。早く決着をつけたいと言うのにッ!!

 

 

「友達だよ、アキラちゃんは」

 

 

その言葉を、良太郎とハナは心に刻む。だから、助ける。

 

 

「たった一日でも 一瞬でも忘れたくない時間があるんだ」『ROD・FORM』

 

 

装甲が旋回しながらプラットフォームへと装備されていく。

最後に仮面が展開され、新たな電王、青きオーラを纏った戦士が現れた。

 

 

『貴様もか、貴様も花嫁を取り戻そうと言う愚か者かッ!!』

 

 

今までの奴らとはレベルが違う。違いすぎる!

なんなんだよこいつ等は、これじゃあ本当に花嫁を助けられると希望を持たせてしまうじゃないか。

ありえないんだよ、絶望して諦めて貰わないと困るのに――ッッ!

 

 

「他人の魚を奪うのは、釣りのマナー違反だよ」

 

 

軽い口ぶりで電王は笑う。

そしてゆっくりとデンガッシャーを分解しながら、サトリへと近づいていく。

目を閉じれば思い出す。誰も知らないかもしれないが、クウガの試練終わりの時だったか、食堂でコーヒーを飲んでいたら我夢に声をかけられたっけ。

 

 

『あ、あの……』

 

『うん? どうしたの、僕に何か用?』

 

『あ! あの! え、えと……ッ!』

 

『?』

 

『ごごごめんなさいッ!! なんでもないです!!』

 

 

あの時は何か分からなかったが、アギトの試練で彼がアキラに気があると言う事が理解できた。

要は自分からアドバイスを聞きたかったのだろう。他人に釣りのやり方を教えてあげるのも悪くない。

と、言うか一時期は恋愛相談室を開いたこともある。磯の香り子さん、彼女は上手くいっただろうか?

それにしても、ウラタロスは常々思っていた。よく観察していればすぐに分かる事だが。

 

 

『おい! 咲夜! 今からそっちに我夢が一人でいくから! お前も適当にはけろ!』

 

 

椿はわざわざ咲夜に電話してまでその事を伝える。

普段あれほど言い合いをしている椿と咲夜。しかしその時は咲夜も素直に椿の言う事を聞き、アキラと我夢が二人きりになれる状況を作っていた。

まだある。美歩や友里は、恋愛のおまじないを必死に我夢やアキラに試していた。もちろん決して無理強いしない程度にだ。

 

他のメンバーだって、必死に、切に我夢の恋を応援していた。まあたまには失敗したり、よからぬ事、余計な事をしてしまう時もあるが。それでも彼らは必死だった。

我夢もその気持ちが嬉しいらしく、最初こそアキラが好きなのを隠していたが途中からしきりにお礼を言っていた。

皆我夢の幸せを、恋の成就を本人並みに願っている。もちろんアキラの幸せだってそうだ。

アキラだって少し我夢を意識しているのではないかと知ったときは、何よりも嬉しかった。自分達だってまともに恋愛経験もないだろうに。

 

だからウラタロスは知っている。我夢とアキラ以外の皆が、つまり司達がどれだけ彼らの事を思っているかを。

 

 

「そして、その彼女が危険なら彼らは本気になるだろうね」

 

 

電王はゆっくりとデンガッシャーを組み立てていく。

一見隙だらけの行動、だが逆に怪しすぎる。サトリは電王が今、何を考えているのかを探る。

 

 

(―――)

 

 

成る程、滑稽な。サトリは声を殺して笑った。

電王はどうやら自分が今何を考えているか悟られないように、必死に隠しているようだ。

何も考えない様に、無心であろうと必死に心を隠している。

 

だがサトリには無意味なこと。

たとえどれだけ無心であろうが、行動に移す瞬間は誰であろうと行動を頭に思い浮かべる。

そこから反応できる実力がサトリにはある。先の二体は、油断しただけだ。完全に無心の兵士、無意識に伸びていくリーチ。

冷静に考えれば対処できた筈なのだ。サトリは自分の甘さを悔やむ、そして決意する。もう電王など自分の敵ではないと!!

 

 

「魚は生簀じゃなくて、広い海を泳いでいたほうがいいんだよ」

 

 

デンガッシャーのパーツを持って、それをぶらぶらと手で遊ばせる電王。

今の彼は完全に隙だらけだ。そして、サトリはその声を聞き取る。

 

 

(あと二十秒、僕は攻撃できないッ! 絶対に攻撃してくるなよッッ!! せめて、僕の弱点の首だけは守らないと……)

 

『クハハッ!!』

 

 

そう言う事だったのか、サトリは思わず吹き出してしまう。

余裕そうにしていた割りに、内心は無様に怯えていたという訳か。

何か制約があるのか、電王はあと二十秒攻撃ができない状況らしい。また無心を装っているが、つい焦る気持ちが出てしまったと言う事だろう。

ならば話は早い、少し離れたところにいる隙だらけの電王。サトリは一気に電王の所まで飛翔して、一撃で絶命させる為に首を狙う事にする。

 

 

『終わりにしようかッッ!!』

 

 

飛翔するサトリ!

そのままサトリの剣が、電王の首に食い込むッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――筈だったのだが。

 

 

『おいおい……』

 

 

またかよ。

 

 

『ズゥウウウウゥゥウウアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

 

電王はサトリの剣を簡単にかわすとデンガッシャーを完成させ、渾身の突きを繰り出した。

まるでサトリが飛翔してくるのが分かっていたかの様に。

 

電王の繰り出した突き、防御行動をとっていないサトリにとっては大きなダメージとなる。

地面を転がっていくサトリ、彼は見た。仮面越しでも分かる笑み。電王のその余裕を!

 

 

『ッッ!! 今度はどう言うカラクリだぁぁッ!!』

 

 

おかしな話なのだ。心を読んだのにッッ!!

 

 

「カラクリ? ああ、上等の疑似餌って所かな」

 

『訳の分からんことぉぉッ!!』

 

 

もうプライドはズタズタだ。何がなんでも電王を殺さなければ。

サトリは接近戦を諦めて、電王に向かって闇の弾丸を発射していく。

黒い球体が電王を狙い、無数に飛来してくる。

 

 

「わお! 流石に多いねぇ!」

 

 

しかし電王に焦る様子はない、電王は余裕の笑みを浮べるとロッドを地面へ突き刺した。

すると地面から水柱が現れて闇の銃弾をかき消す!!

 

次はロッドを引き抜いて、そのまま何度も振り回す。

通常なら意味の無い行動かもしれない。しかしそれは通常ならばの話だ。

今、ロッドの先端には水の球体が張りついている。電王がそのままロッドを振ると水球から、同じ大きさであろう水の弾丸が発射されるのだ。

 

闇の弾丸と水の弾丸。

連射性は劣るのか、黒の弾丸の方が数こそ多いが電王は自分の回避ルートを確実に確保している。

回避行動をとる為に移動する訳だが、その移動の邪魔になるだろう弾丸のみ、電王は相殺していった。

後はかわすなり蹴りとばすなり、電王はサトリの弾丸を見下すかのように笑う。

 

 

「青の力、新たに追加されたのは、まず水を出現、操る能力ですか」

 

「まだレベルは低いようだがな。水流弾、水柱程度が主な攻撃だろう」

 

 

電王・ロッドフォームに水流弾、水柱。二つの飛び道具が新たに追加される。

水流弾はロッドを振るたびに任意で発射されるのだが。速度も威力もそこそこあり、バランスのいい攻撃手段と言えるだろう。

 

そして水柱、これはロッドを地面につき立てる事で発動させる事ができる。

間欠泉の様に、対象の場所から水の柱を出現させる技だ。威力が高く、相手を打ち上げられる為、空中で無防備となった相手を追撃できるのが強みである。

欠点としては発動前に地面から青い光を放つ為、地面を見られていると場所が分かってしまう事。

そして技を発動するタイミングと、水柱が出現するときに若干のタイムラグがある事。

 

しかし逆にタイムラグをあえて遅らせる事もできる為、時間差攻撃が可能になる。

水柱の大きさは、電王の精神力によって左右する。強弱設定もできると言う事だ。

 

 

『ぐぉっ!』

 

「そらっ!」

 

 

再びナルタキと魔女は考察を中断して視線を彼等に移した。

電王とサトリの距離は大きく空いていた筈なのだが、今サトリは電王の目の前にひれ伏していた。

一瞬で詰められた距離、それは電王のロッドから出現した鞭の様な存在が理由だった。

 

"オーラライン"。

文字通りオーラで構成された糸をデンガッシャーから出現させ、それを鞭の様にサトリに絡ませる。そして、釣り上げた。

"デンリール"。彼の得意分野、十八番と言ってもいい。どんなに相手との距離が離れていようとも彼には無意味なのだ。

どこに、どんな場所にいても釣り上げるのだから。

 

 

「僕は嘘が大好きさ――」

 

『グッ!! ガッ!!』

 

 

サトリに次々と電王のロッドが命中していく。

しなやかな動きでロッドはサトリを逃がさない。サトリが攻撃を仕掛けても、電王はそれを受け流しカウンターを決める!

 

 

「人生を面白くするのは嘘、そうは思わないッ?」

 

 

サトリが後ろへ飛翔しようとも、デンリールによって引き戻される。

そしてまた打ち込まれていくロッド。

 

 

「千の真実より、たった一つの嘘が世界を面白く変える!」

 

 

上へ打ち上げ、デンリールで引き戻し地面へ叩きつける。バウンドしたサトリを蹴り上げると、ロッドの渾身の突き!

吹き飛ぶサトリ、だがこれは本来ありえない事。何度だって言おう、嘘の様な出来事なのだ。

 

 

「だけど嘘は、真実があるからこそ輝くッ!」

 

 

真実が無ければ、嘘はつけない。

電王の水流弾をサトリは回避できず、数発まともにくらってしまう。

よろけるサトリだったが、次に飛来してくるだろう水流弾を反射する為の防御を張る。

 

 

「僕はその真実を見た。大切な真実をッ!」

 

 

アキラを、我夢を思う司達全員の優しさ、その心を彼は見た。

もちろん自分達だってそうだ。数々の試練は、彼らの間に強い絆を生んだ。それは紛れも無い真実なのだ。かけがえの無い存在だ。

だが邪神はそれを否定する。無かった事にしようと考える。

 

そんな事はさせない。

アキラの未来を、我夢の未来を、司達の未来を、寝子達の未来を。

自分達の未来を奪おうとする邪神達を許すわけには行かない。

 

 

『ぐうぅうぅッッ!! 貴様ッ!! まさかッッ!!』

 

 

ふらふらと立ち上がるサトリ。

彼は電王の動きを見て右へ跳んだ。そこへ再び水流弾が命中する。

 

 

「だから、僕は今を嘘に変える。アキラちゃんが死ぬ未来は嘘になるのさ」

 

『ありえんッッ!! お前は――ッッ』

 

 

サトリは電王の心をずっと読んでいた、それも完璧に。

もう電王は無心を保つ事すらしていない、むき出しの心をサトリに晒しているのだ。

なのに、なのにッ! サトリは電王の攻撃を回避できない、かわせなかった!

アックスフォームの様に、回避できていたのに命中したのではない。回避すらできていないのだ。

最初の一撃だってそう、そして今の一撃だってそうだ! 電王は今、確かに心で思ったのに。

 

 

(水柱をサトリの真下に発生させる)

 

 

――と!

だからサトリは右へ跳んだ、回避したのだ。しかし実際は水柱なんて発生させなかった、水流弾が発射されたのだ。

そしてそれに命中するサトリ。ロッドを振るときだってそう、右に振ると彼は心で言った。だが彼が振ったのは真上にだった。

もう間違いはない! サトリは震える手で電王を指差す。

 

 

『お前はッッ!! 心さえも偽れるのか!!』

 

 

そんな馬鹿な事が、ありえる訳がないッ!!

どんなに、偽っていても攻撃の瞬間は正直なルートを思う筈だ。なのに――ッッ!!

 

 

「フフッ………」

 

『!』

 

 

電王は笑う、そして小さく拍手をサトリに送った。

それはまさに肯定の証拠、偽り無き答えの証明。

 

 

「言葉の裏には針千本――」

 

 

そして、電王は言う。

 

 

「心の裏にも針千本。僕は自分にだって嘘をつける」

 

『馬鹿なッ!! ありえんッ!!! ありえる訳がない!!』

 

「いける? 良太郎」

 

『うん!』

 

 

電王は、あくまでもやる気のなさそうな動きでサトリに向かい合う。

全く変わらない余裕、それすらも嘘なのか? 果たして、彼の本意とは?

混乱するサトリ、心を読めるのに真実が見えない!

 

 

「千の偽り、万の嘘。それでもいいなら――」

 

 

電王は、ロッドをサトリに向ける。

少し雰囲気が変わった。嘘の仮面、その裏側には何がある?

 

 

「お前、僕に釣られてみる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ハァァァッ!!』」

 

『ゴガァアアアアア!!』

 

 

二人の(こころ)(ちから)が重なり合う。

より精錬されたロッドの一撃はサトリの確実に捉えて逃がさない。まるでそれは海を駆け、走る、稲妻の様。

サトリとて最強と謳われた妖怪の一人。そのプライドと、電王達への想いを胸に負けるわけにはいかない。

 

 

『いい加減鬱陶しいんだよぉおおぉおぉおおおおッッ!!』

 

『「ッ!」』

 

 

激昂のサトリが生み出したのは、闇で形勢された巨大な龍だった。

その禍々しさに、思わずディケイド達も電王の加勢を試みる。

 

 

「『大丈夫!』」

 

 

しかし、突き出す手。それは"問題ない"と言う電王の合図。

一瞬判断に迷うディケイド達だったが、強く頷くと再び河童兵達の相手へと戻った。

 

 

『これで終わりだ……! 愚者は、闇を抱いて眠る』

 

「それだけの強さがあるのに、どうして君は邪神に抗わないのか、本当に不思議だねぇ?」

 

『知らぬは罪だ。邪神は文字通り神クラスの化け物、この私ですら抵抗すらできず殺されるだろう』

 

 

一度邪神と戦ったが、ヤツには心が無かった。全て殺意で構成された化け物だ。

そして恐怖と言う抑止力を植え付けられた。サトリは目の前で食われる同胞をしっかりと見てしまったのだ。

逆らえば自分もああなる。その恐怖がサトリを含む、戦闘特化妖怪の戦意を殺した。

だから鬱陶しい、だから目障りなのだ。電王達、希望に満ちている存在が何よりもッ!

 

 

『絶大な恐怖、それを知らず吼えるのは愚者なのだッ!!』

 

 

闇の龍が禍々しい咆哮をあげる。

恐怖、まさにそれを具現させた存在と言ってもいい。巨大な闇は恐怖の結晶。

恐れ、おののき、悔いる深淵。人間であれば泣いて許しを請うほどの闇。

 

 

「それなら――」

 

『!!』

 

 

ウラタロスも、良太郎も全く心は揺らいでいない。彼らは恐怖など感じていない。

何故なんだ、サトリは本気で知りたくなった。まさにそれは懇願してでも、土下座してでもと言っても差し支えはない。

どうして彼らは諦めない? 何故抗い続ける? 何故そこまでアキラ一人の為に?

いや違う。アキラ一人の為に彼らは戦っているのではないのだった。世界の為に? 馬鹿な、あり得ない!

理解ができない、分かる事ができない、心が全く分からない。

 

 

「『その恐怖すら嘘に変えて見せる』」

 

『太陽が青いって言えば――』「僕達は太陽さえも青く染めてやる」

 

 

余裕、恐怖ではない。電王は余裕を持っている。

絶対の自信、完全なる信頼。それが彼らの力、強さ。

 

 

「邪神の恐怖さえ、僕達にとっては儚い嘘なのさ」

 

『うるさいな、うるさいよお前ッッ!!』

 

 

闇の龍を放つサトリ。

彼等にはコレを打ち破る力があるのか!?

 

 

『ウラタロス、本当の強さって……何なのかな?』

 

 

迫る龍、しかし良太郎は冷静に彼に問いかけた。

いつもの彼なら怯えて動けなくなっていたかもしれない。しかし、イマジンや司達の出会いが彼を変えた。

そして、仮面ライダーの名を背負う重さ。それを教えられた。

 

良太郎はアキラの姿を思い浮かべる。

どこか、姉の様な雰囲気があったかもしれない。彼女を助けたいと彼は思う。

その力が自分にはあるのか? 今一度良太郎は問いかけた。自分に、大切な仲間に。

 

 

「僕は優しさとか熱さより、したたかに戦う方が好みだけどね」

 

 

でも、それは人それぞれ。

自分にあった戦い方を見つければ強さは自然に追いついてくると電王は笑う。

釣竿は身の丈にあった物を選ばないと、実に彼らしい答えだ。その言葉を言い終えたとき、電王はもう一度笑って指を鳴らす。

 

 

『!!』

 

 

青の力、解放。

彼は余裕の笑みを浮べているが、ソレは仮面。その裏にある心は燃えていた。

だがそれを表に出すことはない。まるで、それは冷静に燃え上がる青き炎!

司達が、自分達が、我夢が、アキラが望む未来を変える事は許さない。その未来が変わる前に――ッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音と共に、龍は電王がいた場所へと着弾する。

爆発と共に粉塵が巻き起こり、電王の姿は爆煙の中に消えていった。

さて、どう返す? サトリは冷静さを忘れない様に電王を見ていた。着弾はした、防御したのか? いや、あの威力を防御しようと考えるだろうか?

恐らくは回避、大きく後ろに跳躍すれば直撃は免れる。一番有力な答えか……?

 

 

『………』

 

 

煙が晴れていく、念の為構えるサトリ。

電王であろう人影が見える、奇襲をかけてくるか……?

それとも一旦回避するのか――

 

 

『!?』

 

 

だが、サトリは見た。電王は回避する事も防御する事もできなかったのだ。

煙が晴れた時、サトリが見たのはボロボロになってうつむいている電王の姿。

デンガッシャーは壊れて地に落ち、装甲も黒焦げになって剥がれている。

ロッドフォームの特徴である、頭部に備えられた二対のストレイダーも折れており、地面へ膝をつく電王は、既に虫の息。

 

 

『………はは』

 

 

なんだ?

こんなものだったのか?

 

 

『クハハハハハ!! ハハハハハハハハ!!』

 

 

サトリは高鳴る高揚を露にした。

こんなにもアッサリ終わるとは思っていなかった。

あれだけ大口を叩いていたのにこの程度なのか!? 信じられないが、同時に滑稽だ。サトリはもう待ちきれないとばかりに、短剣を出現させる。

最期だ、電王の息の根を止める為に、それを――

 

 

思い切り突く!!

 

 

『ハハハ! やはり私が正しかった!! お前達が馬鹿なだけだったと言う訳だッ!!』

 

 

無抵抗、電王ののど元を短剣が貫いた。

断末魔さえあげる事なく電王はそのまま水の塊へと姿を変える。

 

 

『………』

 

 

水、形を失ったそれは、地面を濡らす。

 

 

 

え?

 

 

『なんだ、これ――』

 

 

まるで水の人形じゃないか。

ふとサトリは顔を上げる。そこには、ロッドを構えた無傷の電王がいた。

彼は、ロッドを振り上げる。水影(すいえい)、新たに覚醒した電王の力。水で構成された自らの分身を作り上げる技。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、騙された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトリは思う、逃げなければ。

でもどこへ? どこへ逃げればいい? ヤツはどこを狙ってくる?

心なんて読んでも意味は無い。ヤツは心までも偽れるのだから。いつでも、どこにいても仕掛けてくる罠。ヤツは次は何を偽るんだ?

 

 

「正しい? ハッ、とらわれた正しさより、僕は僕だけの自由を選ぶよ」

 

『言葉にする前に、行動するッ!!』

 

「さあ、君は――」

 

 

電王のロッドが迫る。

しかし、サトリはどこへ逃げればいいのか全く分からずにその場に立ち尽くすだけだった。

右? 左からくるかもしれない。左? 右からくるかもしれない。今、電王は心の中で何を思っている? サトリは、読んだ。

 

 

((僕達の何を信じるのかな?))

 

『はは……』

 

 

化け物め――

 

 

『ガアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

打ち上げられ、きりもみ状に叩きつけられるサトリ。

同時に電王にも限界がやってくる。攻めているのは電王だが、実際は勝負は均衡していた。

サトリの防御力、体力、それを削りきるには良太郎も持てる力を全てぶつけなければならない。

失いそうになる意識を、良太郎は奮い立たせた。それも、全ては彼女と世界の為に。良太郎は、寝子を見る。寝子達の為にも巻けるわけには行かないのだ。

 

 

『良太郎、大丈夫か?』

 

「うん……ちょっと疲れたけど、大丈夫」

 

 

再び笑い合えるその未来を掴み取るため、良太郎・電王プラットフォームは赤いボタンを押した。

 

 

『SWORD・FORM』

 

 

赤い装甲がプラットフォームに装填されていく。

これが、互いにとって最後の戦いだと言う事は、空気で分かった。

 

 

『クッ! ……ククク、ハハハ! わ、私が勝つ! そして、お前が負ける』

 

 

サトリはよろよろと立ち上がり、構えた。

その視線の先に赤い戦士が見える。戦士は鼻を鳴らすと、両手を広げてポーズを取った。

サトリにとっては何の意味もなさない行動。されど、彼にとっては自らの象徴!

 

仮面ライダー電王・ソードフォーム!

 

 

「俺、参上ッッ!」

 

『終焉、終わりある永遠を……!』

 

 

サトリは飛翔して電王に突進をしかける。

電王はデンガッシャーを組み替え、ソードモードに変えるとそのままサトリを受け止めた。

しかしサトリはそれを読んでいる。受け止められた瞬間に、足元へ弾丸を放った。

 

電王は火花を散らして後退、追撃を考えたが何かあると厄介だ。

サトリは一旦電王と距離をあける事にした。

 

 

『次も当ててやろう。ククク……ッ!』

 

「へっ、悪いな。今日の俺は徹底的にクライマックスだ、お前には超えられねぇよ」

 

 

いくぜ良太郎、モモタロスはニヤリと笑う。

そしてそれに答える良太郎、彼もまた笑っていた。

確信する勝利、今まで仲間が繋いだバトンは無駄にはしない。

彼らにはそのバトンを握り締めたままゴールを迎えるだけの力がある。覚悟がある。

 

 

「見せてやろうぜ、良太郎!」

 

『うん、わかったよモモタロス』

 

「俺達の、ダブルアクションをよぉッッ!!」

 

 

電王はソードを構え、踏み込んだ!!

 

 

『「うおぉおおぉおぉぉぉぉおおおッッ!!」』

 

 

二人の(こころ)(ちから)が一つになる瞬間、彼らは走り出した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の人生なんて、こぼれ落ちる砂の様だ。

砂時計の様に、からっぽから始まっていろいろなものを積み上げて……そして尽きていく。

 

人はそれを単調と言うだろうか? つまらないと言うだろうか? 空しいと言うだろうか?

だけど、その中で人は生きている。人生と言う時間を精一杯生きているのだ。

その中で、人は絆を持つ。喜びを知る。

 

些細な事だ。

例えば真由になつかれたり、葵にプリンを作ってもらったり、拓真と一緒に犬に吠えられて友里に追っ払ってもらったり。

夏美にツボをつかれたり、ユウスケから着ぐるみを借りたり、真志と一緒に服を買いに行った事もある。

亘や椿達と一緒にプリン屋をつくる計画も立てた。いろいろな事をして皆と過ごしていた。その中で、我夢とアキラとの思い出だってある。

 

だから、モモタロスは知っている。彼らと過ごした時間の重さを。

 

サトリ達の言い分も分かる、あまり自分は頭は良いとは言えないが……きっと正しいんだろうな。

だが、アキラを差し出す事が正しいとも思えない。

 

いや、思わない。

誰も人の時を止められない、止めてはいけない。

砂時計が砂を落とす作業を自然に終わらせる時まで、誰も未来を狂わせてはならない。その定めを誰かが侵すなら――

 

 

「俺が消して見せる。必ずな」

 

『馬鹿が、理想と共に消えろ』

 

 

サトリと電王の剣がぶつかり合い、弾き合う。

実力は均衡? いや何かおかしい、またもサトリはそう感じていた。

 

なにか、感じるのだ。

まるでこのホール。つまり空間が、世界が、電王の時を待っているようなアウェイ感。そんな感覚をサトリは感じていた。

サトリは電王の心を読む、しかし感じる違和感。また攻撃の明確なルートがつかめない。電王の思考が明確に掴めないのだ。

 

 

『………』

 

 

良太郎は、剣に全ての迷いを込めていた。

もう目は背けない、心に誓った思いを振りかざす。目を背ければ大切な者が消えていく。

アキラの歴史が崩れていく。彼女を助ける為に良太郎は目を背けてはいけない。

 

電王にとっても不思議な感覚だった、一撃を撃ち込む度に赤い色彩が空間を染めていく様な。

まるで土も、風さえも彼らに熱く目覚めろと叫んでいるようだ。

良太郎は思い出す。このホールにくる前、ゼノンとフルーラから送られてきた一通のメール。

 

 

『君にしかサトリは倒せない。悪いけど頼めるかい? 彼らには、君の力が必要なんだ』

 

 

心のどこかで良太郎は迷ってしまった。

彼らは制約を持っている。もう後戻りは出来ない、覚悟を決めたと思っていても。

どこかで迷っていたのかもしれない。変身する事が彼等にとってはある絆を断ち切る事になる。大切な絆をだ。

だが、アキラの笑顔を思い浮かべた時、わかった。

 

姉も、侑斗も、ナオミも、オーナーも、大切な仲間だ。

そして司達も、等しく大切な絆。仲間なんだ。その仲間が危険に晒される、ピンチなんだ。

 

だれも知らない時空だ、その中で得た絆。駆け抜けていく光の様に、輝いているんだ!

全てを守る事はできないのか? 罪なのか? 夢物語だと言うのか? いや違うッッ!!

野上良太郎の心は燃え上がる。教えてくれ、仮面ライダー。自分がそうだというのならどうか力を。全てを救う力を――ッ!!

 

 

「良太郎、お前が決めろ!」

 

 

この世界の、この絆の――

 

 

「行方をなッ!!」

 

 

走り出す電王。

サトリはこれ以上の接近を防ぐため闇の障壁を発動させる。

彼はやっと電王の心を読んだときに感じていた違和感の正体を突き止める。

 

コイツ、モモタロスと言ったか。

サトリは彼の心を的確に読んでいたつもりだった。しかしイマイチ彼の動きを明確に把握できなかったのだ。

攻撃のルート。回避ルート。それが上手く把握できない。それが不思議だった、だが理由が分かった。

 

 

(攻撃だぜっ!!)

 

 

攻撃時は常にこれ。

 

 

(避けるぜ!)

 

 

回避時は常にこれ。

そうか、サトリは確信した。コイツ……馬鹿なのか!!

単純な思考、しかしサトリにとっては厄介な障害となる。

 

心が読めるのに、行動が全く読めない。

攻撃するとしか思ってないモモタロス。しかし右からくるのか、左から来るのかは彼が決めれる事である。

それが攻撃と言う感情に統合されているのだから、これはやっかいな話だ。

 

 

『否定、勝つのは我ッ!』

 

「あまぇ! 俺たちは、誰よりも強くなれんだよッ!!」

 

『ッ!!』

 

 

良太郎(いま)モモタロス(みらい)の思いが一つになり重なる一撃、電王は目の前に広がる闇に剣を振り下ろした。

広がる闇には何の意味も成さない一閃、しかし彼はそれでも剣を闇に向かって振り下ろす。その先にある光を求めて――

サトリの闇は、深く、冷たい。彼はどうあってもこの闇だけは打ち破られない自信があったのだ。

 

彼の力、闇の強大さは日に日増していく。

人間と妖怪の心を読み、日々増大していく不信感。それが彼の(ちから)の本質、全てなのだ。

なのに、その自信が揺らいでいく。電王が次々に打ち破っていくのだ。絶対の力、彼はそれを振るう筈だった。なのに、なのに――

 

 

「邪魔なんだよォォォォオオッッ!!」

 

『!』

 

 

闇が切り裂かれる。

深淵を裂いて電王はコチラに向かってくる。何をしても、何を仕掛けても電王はそれを打ち破る。

そこまで、そこまでして彼らはアキラ一人を助けたいというのか?

 

その力を振るうと言うのか?

 

その運命を否定し、凌駕しようと考えるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤の力。どうやら、通常は切れないものであっても彼にとっては皆等しく切り裂けるものに変わるらしい」

 

 

炎、水、雷、風、闇、光など。

数多ある形の無い存在、物理的とは言えぬ存在。それらは刃物で切る事はできない。

だがその理は崩される、赤の力に覚醒したソードフォーム。世界は彼の唯我独尊たる姿を見て、その理をも切り裂く力を与えた。

電王が切ると思ったものは、形無きものですら切り裂かれる。尤も、なんでもかんでも楽に切れると言う訳ではない。あくまでも彼が切れる範囲のものだけだが。

だが、彼は確かにサトリの闇を切り裂いた。それが、サトリにはどうしても認められなかったのだ。

本当に、彼らは――

 

 

目障りな程、眩しすぎる。

 

 

『―――!!』

 

 

また、電王の剣がサトリを捉える。

剣を通して彼らの心がサトリに伝わっていく、ああ迷いがない。迷い無き剣なのだ。

サトリは無性に腹が立つ、何故コイツらはこんなにも『心』が強いのだ!?

 

もちろん良太郎も最初から完璧だった訳じゃない、弱い人間だった。だが数々の迷いを持っていたからこそ、気づく。

今も、過去も、そしてコレからも自分に迷う暇は無い。戦いはいつも目の前だった。もう、時間はない。迷う程の時は与えられないのだ。

しかし、それでもいい。守るべき人間がいるなら心は頷ける。勇気を出し切る為には、守るべき人が必要なのだ。

 

それを、彼らは知った。

いくら迷っても、いくら悩んでも答えは出ない。アキラと世界の狭間で迷うしかない。

いやその狭間で静かに始まっていた。誰も待ってはくれない。なら守るだけだ。手を掴むだけだ。彼女の、彼らの未来を守るだけだ。

その力が自分にあるのなら、その力を与えられたのなら。それが答えなんだから。

 

 

『ぼく達が守るよ、皆の記憶(これから)を』

 

『ぐぅぅうッッ!!』

 

 

サトリと電王の剣がぶつかり合う。

そこから伝わる彼らの思い、願い、希望、その全てがサトリにとっては目障りな感情なのだ。

しかし、同時にそれは力の差を感じる事となる。サトリの剣は少しずつ電王に押されていき――

 

 

『グガアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

モモタロス、良太郎。二人の一撃は何よりも大きく、強い。

その強さを止められる事ができるのか!? サトリの心が大きく揺れる、人間と言う存在に畏怖を覚えている。

 

 

「誰だってな、過去がある。未来があんだよ」

 

『ッ!』

 

『それを奪う事は、誰にも許されないんだッッ!!』

 

 

ついに、サトリの剣が押し負け吹き飛ばされる。

一人の人間の人生が、尚彼らを強くしていくと言うのか。サトリは何故か冷静にそんな事を考えていた。

視線の先には、電王。どうやら、人間をすこしナメていたようだ。

 

 

「さあ行くぜ! 行くぜッ! 行くぜェェッ!!」

 

 

そう言って電王はもう一度ポーズを決めた。

その力が解き放たれ、時空が赤く染まる。動き出した電王はまさに――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライマックス

 

 

『!!』

 

 

一瞬で距離を詰められるサトリ。

明らかに電王の動きが変わっている、素早く防御をとるが次々に襲い掛かる電王の連撃は、まさに閃光。

威力、素早さが桁違いに上がっている。サトリは直ぐに防御を崩され、宙へ打ち上げられた。

 

赤の力、それは電王の身体能力を一定時間増加させる。シンプルながらも強力な力だった。

良太郎がモモタロスの姿をイメージしたのは、桃太郎が元だ。

幼い頃、彼が見たヒーロー。鬼を豪快に倒していく(尤も、モモタロスの姿は鬼そのものだが)その姿に相応しい力。

 

 

『ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「!」

 

 

サトリ自身から見ても自分が押されている事は明白だった。

自分が否定し続け、見下し続けた心に負ける。そんな馬鹿な事があっていい訳が無いと彼は吼えた。

そして自分が持っている残りの妖力を全て注いで自己強化を発動した。

闇が全身を駆け巡り、サトリは最後で本気の勝負を持ちかける。

 

 

『人間ンンンンンッッ! この私を本気にさせた事は褒めてやろう、だが確実に殺すッ! お前の力では絶対に勝てはしないッッ!!』

 

『モモタロス達がいてくれるから、ぼくは最高に強くなれる!』

 

『だったら超えてみろッ! その赤いのも限界に近い筈だがなッッ!!』

 

「チッ! 分かってんじゃねーか……!」

 

 

確かに赤の力にまだ慣れていないモモタロスはそろそろ限界を迎えるだろう。

だから――、良太郎はサトリを見る。いや、サトリのはるか向こうにいるアキラを見る!!

 

 

『みんな、いこう!』

 

『ッ!?』

 

 

その言葉にイマジン全員が頷いた。

モモタロスはそれを取り出す、それは過去彼らの繋がりが消えてしまい絆さえも消え去ろうとした時、良太郎が願った希望。

その願いの力は失われようとした絆を再び強く繋ぎとめてくれた。

 

だから、次はその力をアキラへ向けて使う。

彼女との絆を、守るために。

 

 

『MOMO』『URA』『KIN』『RYU』

 

 

手にしたのは、希望・"ケータロス"。

赤い携帯電話の様に見えるそれを、モモタロスはベルトへと装填した。

サトリは直感する、あの力は危険だと! それを発動させてはいけないと!!

 

 

『クッ!!』

 

 

電王に向かって飛翔するサトリ、しかしもう遅い。

電王は、その力を解き放つッ!!

 

 

「さあ、行くぜ! 俺たちのクライマックスだぁぁ!!」【CLIMAX・FORM】

 

 

ロッドフォームの仮面が、アックスフォームの仮面が、ガンフォームの仮面がそれぞれ電王の体に装着されていく。

そして最後にソードフォームの仮面が展開した。まるで、皮を剥いたように!

 

あふれ出す力、それは空間を四つの色に染めていく!

その圧倒的な色彩のオーラは、向かってきたサトリを吹き飛ばし、地面へと叩きつけた。

 

 

「俺達、参上!」

 

 

肩にはロッドとアックスの仮面が、胸にはガンの仮面がついている。

クライマックスフォーム、完成!

 

 

「俺達のクライマックスな強さに釣られて泣いてみるか?」

 

『ふざける――』

 

「答えは聞いてねぇッ!!」

 

 

電王の剣がサトリに迫る。

瞬間、心を読んだサトリに飛び込んできたのは……!

 

 

(右から切る! 左から攻める! 攻撃はフェイク! ブッ飛ばす!!)

 

『!?!???』

 

 

土石流の様に感情がサトリを襲う。

心を読んだところでノイズが多すぎるのだ! それは当然だろう、今良太郎と言う人間の体には彼自身を含め五人の心が混ざり合っているのだから。

もはや、サトリの能力など何の意味もなさない。心を読んでも、どの声が正しいのか分からないのだ。

 

 

『ぐぉおお!!』

 

 

サトリは大きく吹き飛び、地面へ倒れる。

何故か、立ち上がれない。立ち上がったとしても、彼らは自分を凌駕していくのだろう。

強すぎる。実力も、心も、電王には勝てないッッ!!

 

 

『教えろぉぉお! お前らにとって花嫁とは何だ? 何なんだ!? 教えてくれ、教えてくれよッッ!』

 

 

分からないんだ。分からなかったんだ。

いや、分かりたかったんだ。でも他人がそれを否定する。人を好きになりたかったのは、いつかの夢。

なのに、なのに、いつだって否定してきたのはその人だった。他者だった。

諦めたのは自分なのか、自分が悪いのか? 人は輝かしい存在なのか? だから自分は――

 

 

「大切な……」

 

 

だから自分は負けるのか?

 

 

『『『『「大切な――ッ!」』』』』

 

 

全ての心の声が重なり合う。

 

 

友達だ!!

 

 

壮大な電子音が鳴り響き、電王はパスをベルトの中央にかざす。

 

 

『Charge And Up』

 

『くそがぁああああああああああああああ!!』

 

 

突進を仕掛けるサトリ。

真っ直ぐ、何もしかけず、彼は全てを乗せた突進を行う。

そして電王もまた全てを乗せた一撃にてそれを迎え撃つ!!

 

 

「必殺、俺の必殺技クライマックスバージョン!!」

 

 

赤、青、金、紫、そして重なり合う光の本流。電王は、七色に輝くソードをかざし、走り出した!

ああ、分かっていた。サトリはあくまでも冷静に剣の方を見ていた。何故、自分は勝てなかったのだろうか?

純粋に実力? いや、もっと何かこう――

 

 

『―――ッ』

 

 

電王の一撃が自らを吹き飛ばしていくのをサトリは感じる。また流れ込んでくる花嫁に対しての想い。

成る程、サトリは思う。これほどまでに誰かと絆を持った事は自分にはなかった。もしかしたら、絆や愛と言う感情は正論を超えた答えを示すのかもしれない。

そう、だから自分は勝てなかった。愛が、仲間を思う心が無い自分。愛と絆を掲げて戦う彼ら。

 

成る程、実力を超えるにはやはりこの差なのか。

サトリは吹き飛ぶ中で、自分が彼らを絶望させる為に具現させたモニターを見る。

きっと相原我夢は自分が仕掛けた幻想に騙され、永遠をあの空間で過ごすと思っていた。

なのにモニターに映る彼は幻想を否定し。濡れ女に音撃打、火炎連打の型を仕掛けている所だった。

 

確信した勝利、それが簡単に崩れていく。

計算、予測、それらを凌駕する心。ああ、そうか。自らも心に惑わされ人間を愚かと見下していたのだった。サトリ自身、心に影響された者の一人。

ならば、簡単な話だ。自分は心によって絶望し世界を卑下した。だが彼等は心によって希望を抱き、世界を変えようと……救おうとしている。

改めて、サトリは自分の敗北理由を確信した。

 

心を知り尽くしていたつもりだったが……

まさか、心が原因で敗北するとは。

 

 

『私の……負けだ、愚者よ。いや――』

 

 

そして自らもまた――

いや、もしかしたら自らこそが――

 

 

『愚者か……ッッ!』

 

 

サトリは地面へと落ち、そのまま気を失った。

その際に彼がずっと纏っていた仮面が粉々に砕ける。意外にも、その素顔は普通人間の子供と変わりない様に見える。

彼もまた、自己の能力によっていろいろな思いをしてきたのだろう。何を思い、自らの素顔を隠す仮面をつけたのか。それは分からない。

しかし今は結果を何よりも優先するべき時なのだ、立っているのは電王。彼らの勝利だと言う事だ。

 

 

「言っただろ、お前には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超えられない』『超えられないねぇ』『超えられへんッ!』『超えられないよ!』

 

「――ってな」

 

 

たとえそこがどんな世界でも、どんな物語でも、どんな時だって彼は彼らだろう。

大切な者の為に、大切な物の為に戦う。それが、仮面ライダー電王。

 

時を超えて 俺、参上!

 

 




※説明をココで。

電王に本作オリジナル能力が増えました。
元々ある能力のアレンジや原作の描写からも参考にしてます。


ソードフォーム(赤の力)

・火など明確に剣で切れないものが切れるようになる。
・一定時間、全ての身体能力を上げる事ができる。


ロッドフォーム(青の力)

・水の弾丸を飛ばす、水の柱を出現させる事ができる。
・水の人形を作ることができる。
・霧を発生させる事ができる。


アックスフォーム(金の力)

・行動を縛る相手の技を無効化する。拘束力があまりにも強いと打ち消される場合も。
・自分が受けたダメージに応じて、攻撃力と射程が強化されていく。
・強化された分の威力とリーチをアックスに移す事ができる。そうした場合強化はリセットされる。


ガンフォーム(紫の力)

・洗脳が全体的に強化、それでも複雑な行動を相手に強要する事はできない。
・相手の飛び道具を無効化、反射できる。巨大なレーザー等は不可能。



はい、こんな所ですね。
次は来週予定。ではでは

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