仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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ニコニコで今やってるぷちますのハニートースト持って来るカラオケ店員がツボッて頭からはなれねぇ。
良かったら見てみて。ではどうぞ


第35話 絆 話53第

 

 

「う――ッ! がっっ!!」

 

 

 

男はうめき声を上げて地面を這う。

粉々に砕けたメモリを確認すると敗北を確信した。

少しでも逃げようとしているのか、だがダブルがそれを見逃す訳もない。気絶しなかったのが幸いだったとダブルは笑う。

 

 

「ボクらの愛を、超えるなんて不可能なのさ」『ヒート・トリガー!』

 

 

ダブルはトリガーマグナムを男に向ける。

思い出すのは先ほど彼らが言った言葉、焼け死ね。まさか――と、男は顔を引きつらせて固まった。

しかしそこでケラケラと笑うフルーラ、ダブルの片目が笑みとシンクロする様に点滅する。

 

 

『キャハハハ! うそぽーん! 殺しませーん!!』

 

「あれは君を苛める為のちょっとしたアクセントさ。申し訳ないね」

 

 

パニックを起こされても困るので、殺しはしないと言う事を先に言っておく。

彼らにとってはメモリさえ破壊すればそれでいいらしい。

 

 

「それよか、君には聞きたい事がある」

 

『殺しはしないけど、怪我はさせちゃうかも』

 

 

銃を構えられている以上男は従うしかない。

薄ら笑いを浮べて、男は手を上げた。

 

 

「まずは……そう、お前は人間だな?」

 

「あ、ああ……そうだぜ」

 

 

心なしかダブルの口調が荒くなる。

まるで焦っているかのようだ、何故か手も震えている。

それ程までにこの情報に何か感じる物があるのだろうか?

 

 

「お前が使っていたメモリ。それをどこで手に入れた?」

 

「お、女から貰った! 本当だ!」

 

 

ダブルの鬼気迫る様子に、男は生命の危険を感じる。

素直に答えなければ躊躇なく引き金が引かれる気がして、男は震え上がる。

男は必死にメモリを貰った経緯を説明する。噛み、呂律が上手く回っていないのは恐怖から。それに苛立たされたが、ダブルは何とか耐える。

 

ある日の夜、街を歩いていたら女に声をかけられたらしい。ラインがよく分かる服に豊満な胸、色気が高い女性だった。

男なら声をかけられれば誰でも振り向いてしまう、そしてそれは男も例外ではない。

人気の無い夜の道で声をかけられた時は、少し怪しさを感じたが、女の容姿が気になってつい立ち止まったという。

そして、女は男に向かってその――ガイアメモリを差し出したと。

 

 

『全てを破壊したくはないかしら?』

 

 

このメモリを使えば絶大な力を手に入れられると言われた。

怪しい話だが女の口車にまんまと乗せられて、男はそのウインドサイスのメモリを使用してみた。

するとどうだ? すばらしい高揚感、空を舞い、風の刃で憎いヤツ、気に入らないヤツ、邪魔な物、全てを切り裂く感覚。

 

最高だった、完璧だ! 男は思ったと言う。

そしてもっと破壊したくなった。もっとこの力で遊びたかった。

都合のいい事に女は、条件さえのめばこのメモリを譲ると言う。

 

男は喜んでメモリを受け取った。

条件は自分を妖怪と偽って妖怪城に潜入する事、多くのサポートに加え、上手くいけばもっと質のいいメモリをくれると言う。

もはや男に否定するという考えはなかっただろう。

 

 

「それで――」

 

『ちょっと待って。女の服か……どこでもいいわ。鷲を模した物が無かった? 刺繍とかバッジとか何でもいいの!』

 

 

男は焦る、それは覚えていない。

それを伝えると案の定銃を突きつけられた。

パニックになる男、とり合えずこの情報を埋められる様に適当に知りうる情報を伝えていく。

 

 

「――――」

 

 

しかし男は急に沈黙しその場に倒れた。

ダブルが撃ったわけではない、まさに何の前触れもなくその場に倒れ気絶していたのだ。

悟る。おそらくは意図的なガイアメモリの副作用。何かNGワードの様な物が設定されていてそれを口にしようとした、または言葉に発した時点で発動するのだろう。

男は白目をむいて泡をふいている。ダブルは変身をといて男をリボルギャリーの中へ放り投げた。

 

おそらくは記憶をいじられた、またはそれに近い関係のものだろう。

もうあの男には用はない。ゼノンとフルーラは街に向かって発進するリボルギャリーを見送ると互いにため息をつく。

 

 

「とりあえず病院にはつれていくけど――」

 

 

おそらくまともな事にはならないだろうね。

ゼノンは苦笑する、力を求めた代償だ。同情する義理もない。

 

 

「それにしても、少し気になる事は聞けたわね」

 

「そうだね、まあアイツにメモリを渡したのは恐らくあの女の部下の方――」

 

「チェーンソーリザード……ッ!」

 

 

ゼノンは頷く、そして笑う。

しかし決して何かが面白いから笑っているのではない。無理にでも笑みを浮べていないと、怒りに狂いそうだったからだ。

それはフルーラも同じなのか、少し汗たらしながらも笑みをうかべていた。おそらくフルーラは怒りの感情ではなく、恐怖だろうか。

 

 

「尤も、クルス隊の編成が変わっていなければだけどね……」

 

「肝心のクルスも、同じ部下のシザースジャガーが話題に出ていないのを考えるとこの世界にはもういないみたいね」

 

 

ゼノンは頷く。そしてもう一つ、気になる事を聞いた。

男はガイアメモリを使用し、怪人ドーパントに変身した。しかしその時から体に変化が起きたと言う。

まず食事をとらなくてもいい体になった。空腹を感じる事はなく、食事こそできるが、とりたいとも思わなくなったらしい。

そして眠くもならなくなったという。もちろん睡眠をしなければ体に支障がでるのは変わらなかったが、目を閉じ眠れと念じただけで眠る事ができたらしい。

しかし睡眠に対して猛烈な嫌悪感があるらしいが。

 

最後にあれだけ魅了されていた女、つまりチェーンソーリザードに対して何も感じなくなった。

それは他の女性も同じ、どんな綺麗な人でも全く魅力が感じられなくなった。

同時に恋愛と言う物に何よりの嫌悪が沸いてきたらしい。

 

 

「つまり、食欲、睡眠欲、性欲が無くなったのかしら」

 

「人間の三大欲求か、成る程。ガイアメモリの大量生産、それに伴うリスク」

 

 

そして、尚求める人間達――

 

 

「ふぅん、結構ヤバイかな」

 

「そうね――」

 

 

だけど、フルーラはゼノンにウインクを決める。

ゼノンはそれを嬉しそうに見つめると彼女を抱きしめた。

分かっている、二人の声が重なる。まずは何よりもアキラを助ける事、それを優先させなければならない。

アキラにはどうしても納得できていない部分がある。このまま死なれてたまるか、二人はハードボイルダーに飛び乗りエンジンをかけた。

 

 

「フルーラ」

 

「え?」

 

 

そして、ふいにゼノンが自分の唇をフルーラの唇に重ねた。

 

 

「さあ! 行こうフルーラ! 囚われの少女を助けるんだ!」

 

「ええそうねゼノン! ワタシ達の力を見せてあげましょう!」

 

 

二人は笑顔で暗闇の中に消えていく。

これから始まる戦いも、彼等には戯曲にうつるのだろうか――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

焦り、慌てふためく様子が目を閉じれば容易に想像できた。古めかしい城の内部に響くその音声。

侵入者、その言葉に瑠璃姫は唇を吊り上げる。鏑牙も目を閉じて何も言わずにその放送を聴いていた。

 

 

「やはり、現れましたね」

 

「容易に想像できた事だ。この世界にはソレを成せるだけの力がある」

 

 

封印石の間、その部屋を任された瑠璃姫と鏑牙。二人はこの事態がおかしいのか怪しげな笑みを浮べる。

瑠璃姫は知っている、人間とは容易に物事を受け入れられない『愚かな』生き物だと。

鏑牙は知っている、人間とは簡単に運命を受け入れられない『哀れな』生き物だと。

だがしかし――

 

 

「人間は恐ろしい。時に限界をも容易に超える」

 

 

そうですよね?

瑠璃姫は視線をゆっくりと――鬼太郎へと向ける。

 

 

「……君達は、何者だ?」

 

 

辛そうに目を開ける鬼太郎。

明らかに普通ではない、気絶したふりをして会話を盗み聞こうとしたがどうやら無駄のようだ。

 

 

「うふふ、貴方は恐ろしい人」

 

「お前もまた、人に感化された『人』か」

 

 

この世界では妖怪も人間も一くくりに『人』と呼称される。

この二人は、一体どちらの人の事を言っているのだろう? 妙に達観した二人を見て鬼太郎は呆れた様に笑う。こいつ等は――

 

 

「人と妖怪の共存などと言う夢物語を――」

 

「私達は壊すだけですよ、この幻をね」

 

 

笑うわけでもなく、見下すように睨むわけでもない。二人は落ち着いた表情で鬼太郎を見ていた。

その瞳の奥には無限の闇が、虚無が感じられる。一体この二人はなんなのか、ただの妖怪? 人間?

 

 

「さあ、お眠りなさい。坊や」

 

「全てが終わる。その時まで」

 

 

瑠璃姫は封印石に力を注ぐ。

青白い光りが石を包むと鬼太郎の意識も徐々に薄れていった。またしばらくは意識を失うのだろうか?

鬼太郎は抵抗を試みるが、それも空しくすぐに彼の意識はブラックアウトしたのだった。

 

 

「「………」」

 

 

気絶した鬼太郎を、瑠璃姫と鏑牙はジッと見ていた。

そして次に周りに視線を移す。岩の壁、三百六十度見回しても同じような景色しかない。

つまらない部屋だ、瑠璃姫は思わずため息をついて椅子に座った。

この椅子も自前だ、鏑牙は適当にそこら辺の突き出た岩に腰掛ける。

 

 

「一緒に座りますか?」

 

「いや、いい」

 

 

そうですか。瑠璃姫はいたずらっぽく笑い、首を回した。

部屋の中心には邪神が出現させた水晶が祭壇の様なものに奉られており、自分達のいる横には大きな封印石。

そしてその中には幽霊族の少年とその父親が封印されている。それだけの空間だ。

 

 

「滅ぶと思いますか? この世界」

 

「あまりお喋りなのは関心しないな。誰に聞かれるか分からないぞ」

 

 

いいじゃないですか、つまらないんだもん。

瑠璃姫は悪びれる様子無く足をブンブンと振った。見るからに退屈そうな彼女に鏑牙も呆れ顔だ。

 

 

「俺達には関係ない話だ。この世界の運命など俺達にとってはどうでもいい事なのだからな」

 

「案外冷めているんですね。過去、私達とて同じような理想を掲げた者ではありませんか」

 

「過去の話だ。そして愚かだと悟った、そうだろう?」

 

 

瑠璃姫も複雑そうな表情を浮かべて曖昧に笑う。

まだ城内には侵入者を警告する放送が鳴り響いている。

アキラを無事に救い出せるのか? それは力が決める事、そして侵入者に勝利は無いと鏑牙は豪語した。それが愉快なのか瑠璃姫も同意して笑う。

 

 

『協力を感謝します』

 

 

突如水晶に影が映り二人に話しかけた。

瑠璃姫達は特に驚く事もなくその言葉に答える。そう、驚く事はない。それが計画だからだ。

 

 

「私達はあくまでも支え、それをお忘れなく。フフフ」

 

「あくまでも俺達は傍観者として振舞う事にする。いいな?」

 

 

水晶の中にいる影は、それで構わないと二人に頭を下げた。

どうやら女性、それもそうとう歳を重ねた声から察するに水晶の中にいる影は老婆と言っても差し支えないのだろう。

 

 

『今回の目的は世界破壊ではなく、メモリによる人間の変化をデータとしてまとめる、言わば実験。お二人には好きなように動いてもらって構わない』

 

 

老婆は水晶から小さな亀を出現させる。

いきなりの行動に目を丸くする二人だが、すぐに説明が入った。この小さな亀は優秀なガードマンになってくれるらしい。

部屋を空けたい時は、その亀が瑠璃姫達の代わりにこの部屋を守ってくれると言う。

 

 

「まあいいでしょう。私達はこの世界の命運を見届けさせていただきます」

 

『お願いします、では……神聖なる支配を』

 

 

水晶の中が鮮明になり、老婆の気配は完全に消滅した。

瑠璃姫と鏑牙はトコトコ歩く小さな岩亀を見ると、苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぎゃあああ! 大変です! 南門から侵入者! 全ての門が何者かによって突破されました!!』

 

「ん? 南門?」

 

 

放送を聞いたディケイドは首をかしげる。

計画では三つの門から攻める筈だ、南門は誰も向かわないのに――

なら、一体誰が南門から侵入したんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっはははははははは!!」

 

 

軽快な笑い声が響く。

ダブルのリボルギャリーに酷似した車にのっている少年は、鬱陶しいくらいに笑い続けた。

 

 

「まさかこんなに簡単に進入できるなんてね」

 

 

僕をなめているのかな?

少年は頭を抱える。門に車ごと突っ込み、強引に進入する『少年達』

 

 

「本当にあるんだろうな、リーダー」

 

 

緑色の髪、メガネの少年はめんどくさそうに車から降りる。

反面、リーダーと呼ばれた少年は颯爽と車から飛び降り着地を決めた。

 

 

「いいかなディス。たとえ、可能性がゼロに近くても――」

 

 

お宝の噂を聞けば駆けつける!

 

 

「それがトレジャーハンターと言うもさ。覚えておきたまえよ!」

 

 

少年、海東大輝はニヤリと笑った。

目の前にあるのは力ある妖怪たちが蠢く巣窟ではない。

邪心が存在する恐怖の巣窟ではない。花嫁が閉じ込められている檻でもない。

それはただ純粋にして心躍らせる宝箱。

 

 

「はっ、いいぜ海東! なんかいかにも眠ってそうじゃねーか!」

 

 

燃える様な赤、朱雀は笑う。

妖怪城を見てどうやらテンションが上がっている様だ。流石にココには何かしらのお宝があるだろう。

 

 

「みんな! 怪我だけはしないようにね!」

 

 

朱雀の隣には美しい銀髪の可憐な少年。リラがいる。

 

 

「ねぇ、私アジトに居ていーい? 何か疲れちゃったの」

 

「ふざけるな、巨大爆弾の時も結局こなかっただろうが、今回は真面目に働け!」

 

 

あーあ、うるさいうるさーい。

そう言ってディスを受け流すのは美しい黒髪に、綺麗すぎると言ってもいいくらいなフェイス。

そして誰もが振り向く完璧なプロポーション。美人の鑑と言っても差し支えない巳麗(みれい)と言う女性だった。

 

 

「それにしても、珍しいですわね。タイガがお宝の情報を持ってくるなんて」

 

 

海のような青い髪。

綺麗な洋服、マリンは室内だと言うのに日傘を広げる。

 

 

「はい、申し訳ありません。確証は無いのですが――」

 

 

日傘を受け取りマリンに付き添うタイガ。

 

 

「お宝の名前はなんだっけ? たくさんいいモノがありそうだけど、まずはそれを頂こうか!」

 

「はい、名前は――」

 

 

『アマミ』と、言います。

タイガはニヤリと笑って少し含みのある言い方を。

 

 

「ふぅん、まるで人の名前のようだね」

 

 

でもまあいいや、海東は笑う。

そして高らかに宣言した、感謝したまえ! この偉大なるトレジャーハンターがこの城を制す!

 

 

「さあ、行こう! アマミはぼく達、お宝パイレーツストロングツイスタースターズが頂く!」

 

「それやめろよ……」

 

 

むしろお前しか覚えてねーよ。

朱雀たちは呆れたように、けれども妖怪城には興味があるのかしっかりと彼の後をついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで少し時間を戻そう。

 

 

「はい、これで妖怪と人間に対するセーブができる様になったよ。これなら相手の命は守れるだろう。異形と戦う程の力なら相手を殺しかねないからね」

 

「へぇ、そんな事もできるのか。凄いんだな……」

 

 

それは、我夢達が決意を固めた後の話に戻る。

ゼノンとフルーラまでもが仲間になった今だったが、油断と焦りは禁物。急いては事を仕損じると言う訳だ。

妖怪城を、邪神を攻略するには今の彼らでは知識と用意、そして何より人員が足りない。

今回の敵は世界だ。こちらもそれ相応の力をもってして挑まなければならない、でなければ世界を破壊する事など不可能。

 

 

「これは?」

 

 

まずゼノン、フルーラからカードをそれぞれ二枚受け取る。

ディケイドのカードに似ているデザインのソレ。なんでも、一枚目のカードは『(ことわり)の欠片』と言うらしい。

理の欠片は軽い通信機能をもったカードで、所持者の様子を学校の食堂にあるテレビからそれぞれ観察できると言う不思議なカードだった。

まるでテレビカメラで撮影されているかの様に、客観的、第三者の視点でカードを持っている人間を学校から見る事ができる。

 

 

「理の欠片は絶対に持っている様に、これにはまだ効果があるからね」

 

 

何故かもうひとつの効果は教えてくれなかったが、とにかく持っている様に言われた。

まあ彼らが言うのだからきっと凄い効果なんだろう。司達は納得する。

そしてもう一つのカードは『ヒールカード』と言う物。

治癒の記憶を封じているらしく、使いたいと念じれば発動して文字通り回復してくれるアイテム。

 

 

「なんかゲームみたいだな」

 

「まあそうだね、回復アイテムと言う訳さ。ただ作るのが面倒なんでね、一枚しか容易できなかった」

 

 

事前にできるだけの事はしておきたい、皆それぞれ自分の役割を確認して万全の準備をする。

 

 

「理の欠片を使えば君達のバイクを目の前に移動させる事ができる。状況に応じて使って欲しい、ただ連続では使えない」

 

「いいかしら? 今回の妖怪は未知の力を持つ者が多いわ、くれぐれも油断しないように――」

 

 

真剣に作戦をたてているゼノン達を見て、彼らが味方になったと言う心強さがより感じられる。だが今回の敵は『仮面ライダー』と言う作品の敵ではない。

それは司の知識が全く無意味だと言う事、もし敵がグロンギやワームだったとすれば『確実に通用する』味方がいる。自分がそのライダーに変わる事だってできる。

だが妖怪、話に聞くサトリや鬼天狗。響鬼にも同名の敵がいた者もいるが能力や力量は違う。自分の力が、ライダーの力が通用するのか? 不安もある。

それでも絶対に勝たなければならない。アキラの為に、この決断を認めてくれた寝子達の為に――

 

 

「皆、一ついいかな」

 

 

みぞれの提案、それは自分達の仲間。他の妖怪達にも協力してもらおうと言うものだった。

皆人間と妖怪の共存を望んでいる、今回の様な悲しい事が起きないように自分達も戦うべきなのだ。

それに鬼太郎のことも気になる。天邪鬼や他の皆も連絡がつかなくなってしまった。

 

 

「あの雹とか言うヤツ、少し気になるしねぇ」

 

 

あられも、寝子も、ぼたん、幽子も頷いた。

司達からしてみても妖怪城や敵妖怪の情報が欲しい、寝子達の提案はとてもありがたいものだった。

 

 

「すいません……本当に」

 

 

嬉しい反面、本当に申し訳なくもある。

我がままじみた事で世界が、命を賭けてくれた彼女達に……

 

 

「気にしないで、貴方が胸を張れる生き方を。私たちが胸を張れる生き方をしただけなのだから」

 

 

寝子が笑い、みぞれやあられは我夢の背中を叩く。

うめき声をだす我夢を笑うぼたんと幽子。司達は、彼女達の仲間がいるという妖怪横丁へ向かうことにしたのだった。

もっともぼたんは戦いが始まればお留守番だ、彼女の為にもとあられも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

互いに顔を見合わせる翼と葵。そんな二人の前には二台の車。

妖怪横丁は少し街から離れた所にある。人目につきにくいように交通の手段も少なく、歩いて行くには遠すぎる。

バイクで行ってもいいのだが寝子達も居るため、車にしようと言う話になったのだが――

 

 

「なはは! 悪いね! 私免許持ってないんだよ」

 

 

そう言って笑うあられ、司達もバイクに乗れるようにはなったが車は無理だ。

おまけにレンタルした車はギアを変えていくミッション、マニュアル車である。簡単に乗れる物ではない。

 

 

「あ、葵さん」

 

「………」

 

 

この中でその資格をもっているのは翼と葵だけ。翼は一応MT車に乗っている為、なんの問題もないのだが――

交差する視線、葵の足が震える。不安そうに見つめる友里達に淡い笑みを返す訳だが……

 

 

「ま、まあこの二台で行く訳だよね」

 

「あ、葵さん……最後に車に乗ったのって――」

 

 

覚えてない、葵は小さく呟く。

そもそも自分が乗っている、いや乗ったのはAT車だ。

何か数字を変えていくなんて機能は無かった! アルファベットにあわせるだけでよかったのに!

 

 

「ま、まあでもほら、チャリンコみたいに一度乗れれば……さ」

 

 

真志の言う通りかもしれない。葵は無言で頷き、車のドアを開ける。

あられから受け取ったキーをさし込みエンジンを鳴らす。

ちょっと発進してみなよ、そんな翼の言葉を聞くと葵はハンドルを握った。

 

 

 

 

 

ドッデュン!

 

 

「………」

 

 

エンスト、流れる沈黙。

 

 

「あ、葵さん。クラッチの操作覚えてる?」

 

「………」

 

 

カコッ、カコッ、そんな足の動きを見て翼はため息をつく。

再度トライしてみるが――

 

 

 

 

 

 

 

パスン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だぁあああああああ! 降ろしてぇえぇえ!!」

 

「葵さんッ! ギア変えて! ギア変えて!」

 

「おねっ、お願いだからッ……話しかきゃないどぇ……!!」

 

 

あれから少し練習して悲鳴が後ろの車から聞こえてくる。

たまにエンストして止まったり大きく車が揺れたりするのを、司は翼の車から眺めていた。

 

 

「よかった、くじ引きに勝って……!」

 

 

隣にはリボルギャリーが優雅に走っている、なんとか横丁まではいけそうだ。

 

 

「ところで幽子さん、妖怪城って一体何なんですか?」

 

 

夏美の疑問に幽子は頷き、答えた。

妖怪城は人間には知られていない妖怪専用の施設である。

この世界を実質治めている総大将と、その部下達が主に使用する政治的施設といってもいいだろう。

もちろん妖怪城で生活している妖怪も多く、その多くは能力や外見的に人間社会で生きて行くのが難しいと思われる者だった。

 

その他にもいろいろな資料、または悪さをした妖怪を裁く、妖怪と人間が住みやすい世界にする為の議論を行う場所等……

つまり妖怪城は人間と妖怪の共存に関する重大な場所なのだ。だがしかし、今その場所が戦場に変わろうとしている。なんとも皮肉な話だ。

 

 

「なるほど……」

 

 

司は目を閉じる。

アキラが生贄として差し出されるのは満月の夜。一体それがいつなのか、明確には分からないが決して時間に余裕があるとはいえないだろう。

せいぜい後三日か四日。もしかしたら二日の可能性も十分にある。早く妖怪城に攻め込みたいところだが……

 

 

「焦りは禁物ですよ」

 

「ああそうだな」

 

 

夏美は淡い笑みを浮べて空を見上げる。

どうか、どうか無事でいて。そしてどうかもう一度一緒に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、いい天気だ」

 

 

空には雲が、太陽が輝いている。

そんな青空を見ながら彼は手に持っていた鯛焼きを口に入れる。

租借する度に広がる甘さ。幸せだ、ずっとこうしていたい。

 

 

「これで彼女でもいたら完璧なんだけどねぇ」

 

「ここにいるぞ」

 

「!?」

 

 

少年は恐る恐る下を見てみる。

今、彼は木に登っているのだ。どうしてそんな事を? それは彼が――

 

 

「うげっ! おばば!」

 

「こりゃ! 早く降りてこんかッ!」

 

 

少年はため息をついて木から飛び降りる、どうやら修行をサボっていたのがばれてしまったようだ。

鯛焼きを無理矢理口の中に詰め込むと、目の前にいる老婆に頭を下げた。

 

 

「陽、サボりたい気持ちも分からんではないが――」

 

「分かっているよ、伝説なんて言われちゃその称号を絶やす訳にもいかんでしょうにねぇ」

 

 

だけど、と時真(ときま)(よう)は複雑そうに老婆、その名を『砂かけ婆』に声をかけた。

 

 

「こんな修行、続けて意味あるのかしら?」

 

「そう言うな、発達していく文明は確実にお前の力を必要とはしていないだろう。しかし、お前が言ったとおり代々守られてきた血を絶やすわけにはいかんじゃろ」

 

 

そんなモンかね、陽はため息をついて自分の服を見てみる。

神社の神主が来ている公家の服。色は黒で多少動きやすい様に改良されているが――

 

 

「夏あっついのよ、これ」

 

 

今はもうマシになったけど、陽は苦笑する。

今の時代ガスがあって火をつけるのなんてレバーを回せばいい、ライターなんて便利な物もある。

電気だってそうだ、コンセントに繋いでスイッチを入れればいろいろ便利な機械が作動する。

涼しくなりたいならクーラーをつければいいだけだし、寒くなったらストーブをつければいい。

 

防犯グッズもいろいろ新しいのが出ている。悪い事をすれば警察がいるし、凶悪犯には拳銃を持って立ち向かう。

そんな当たり前になっていく世の中、それは仕方ない事だ。携帯電話だってそう、最初はお年寄りにはあまり受け入れられなくとも今は大体の人間が持っている。

それらは進化していき、やがてカメラがついて、テレビがついて。なんでもタッチするだけで操作できるタイプも出てきたらしい。

 

 

「今更、もうオレらの力なんていらないよ」

 

「確かに、私達の力は人間が機械として作っていく、これからも……」

 

 

陽は懐から札を取り出した。

黒と白の対極図が書いてある札、それを扇子の様にして彼は風を発生させる。

 

 

「じゃが、陽。お前さんは大陰陽師――」

 

「はいはい、知ってますよぉ。妖怪さん達には超有名人の"一刻堂"の家計だってんだろぅ? でもね、爺さんのそのまた爺さんの……って言われても、実感なんて湧かないって」

 

 

陽の家系は陰陽道を極めてきた大陰陽師『一刻堂』そのブランドが彼には降りかかる。恐らく一生まともに使う事のない技術を日々磨くのは大変なことだ。

高校生ならバイトに精を出したり、友達と放課後遊んだり、人によっては彼女とどこかへ出かけたり、なんて一度しか味わえない青春を謳歌するのだろう。

だが、彼にはそういった時間は与えられない。『一刻堂』と言う称号がある限り、それを代々継いでいかなければならないのだ。

もちろん、それは決して楽と言うものではない。

 

この家計に生まれた事を恨んだ事もあった。友達と遊べない、自由な時間が奪われる。そんな事が続くとどうしても不満が募っていく。

だけど、どうにもならないんじゃ仕方ない。いつしかそう割り切って毎日を楽しむ事にした。

この家計に生まれたおかげで妖怪の存在を知る事もできた。妖怪の友達もできた、割り切ってみると悪くないのかもしれない。

 

 

「ん?」

 

「どうしたんだ、おばば?」

 

「寝子の妖気が近づいてくるな」

 

 

おぉ、思わず声を上げる陽。

寝子と言えば大スターではないか、この妖怪横丁に長く出入りしているせいで寝子とも親しくなった。

彼女に会うのは久しぶりだ、きっとまた綺麗になっているのだろう。それに寝子がいると言う事は多分幽子も一緒の筈だ。もしかしたら鬼太郎達もいるかもしれない。

もしかしたら彼女もいるかも! 陽は久しぶりに会う友人との再会を楽しみにしながら、川辺を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ッ、それは本当なのか!」

 

「ええ、花嫁、それと邪神、そして人間が妖怪を語るという状態です」

 

 

公民館に集められた妖怪達、その人間離れした姿に一瞬怯む司達だったがここにいる全員が味方になってくれるかもしれない。

とにかく事情を説明する、信じてもらえるかは別としてもこの重大な問題を皆でなんとかしなければ――

 

 

「そんな……事が」

 

 

絶句する妖怪達、今まで信じてきた社会が大きく牙をむこうとしている。それは歴史の中でも類を見ない出来事だろう。

そして、鬼太郎が消息を絶ったと言う事もまた気になる事だった。単に邪神の問題だけではないのかもしれない。渦巻く闇が、陰謀がある。

何より――

 

 

「僕はアキラさんを助けたいッ、この世界も犠牲にするつもりはありませんっ! だからどうか――どうか力を貸してください!」

 

「―――ッ」

 

 

目の前で頭を下げる少年、下手をすれば自分より幼いのではないのか? 陽は思わず息を呑んだ。

自分は、この少年のようにこんなにも何かの為に動いた事はあったのだろうか……?

 

 

「皆、これはとても大きな問題です。もし私達に協力するとなれば総大将を含め……社会が敵になるでしょう」

 

 

その覚悟があるのか、集まった妖怪達は考える。

 

 

「私は協力するぞ」

 

「わしもじゃ!」

 

 

そう言って前に出たのは砂かけ婆と子泣き爺の二人、どちらも鬼太郎の良き仲間だと言う。

それに続いてぬり壁と一反木綿も前に出た。行方不明になった鬼太郎の情報が妖怪城にはあるかもしれない。

いやきっと妖怪城に鬼太郎はいるのだろう、彼の仲間達は彼を救う為に立ち上がる。

 

 

「………」

 

 

しかし、中には人間社会で仕事をしているものや戦闘に特化しているとはお世辞にも言えない者も多い。

そんな彼らが特殊な能力を持った妖怪や、未知の敵に勝てるのかと言われれば微妙なところだろう。

まして命を失うという可能性が高い、そんな無謀じみた行動を安易にとるのはやはり得策ではない。そこで砂かけ婆は少し時間をとることにした。

司達に協力する気がある者は明日の朝までにこの公民館に集まって欲しいとの事。

一同はいったん解散する。だが時間はない、既に司達と砂かけ婆はアキラ救出の作戦を立て始める事にした。

 

 

「―――ッ」

 

 

公民館の外で陽は燻っていた。

先ほどまで毎日に退屈を感じて何か面白い事でも起きないかと思っていたが、今はもう泣きそうな気分だ。

こんなんじゃない、オレが望んでいたのはもっとソフトな出来事だ。例えば気になる女の子とデートしたり、宝くじが当たったり、そんなモノ。

だけど、何だ? 花嫁? 邪神? 世界の危機?

 

一気に変動していく彼の心情。ああ、知らないと言う事はなんて愚かで幸せな事なんだろうか?

いっそこのまま無知のままでいられたら良かったのに。陽はグッと歯を食いしばった。気分が悪い、正直自分は戦う力はある。だけど、所詮はしがない高校生なのだ。

戦闘に特化した妖怪と戦って勝てる自信は無い。

 

なら足を引っ張るくらいならこのまま横丁にいたほうがいいんじゃないか? 陽の心にネガティブな思考が巡る。

情けない、自分は伝説の陰陽師の子孫なんだろう? そう子孫、その冠もある。過去何度となく期待されて、その度にその期待を裏切らない様に必死だった。

自分は一刻堂本人じゃない。誰もその事を分かってくれない、こんなものなのかとも言われた事だってある。

また今回もきっとそうなんだろう。自分は結局――

 

 

「や」

 

「うっわッ!」

 

 

後ろから声がして陽は振り返る。

そこには適度な露出の服を着た女の子が立っていた。ボーイッシュな印象で、好物の風船ガムを食べている。

だが、いつもの様な笑みは無かった。

 

 

「み、みぞれ……さん」

 

「さんはいいって言ってるだろ」

 

 

そう言って苦笑しながらみぞれは陽の隣に座る。

 

 

「映画、誘ってくれてありがとう。だけどごめん、知っての通り――」

 

「あ、ああ! いやぁ全然いいって! こんな事になってるんだったら仕方ないさぁ」

 

 

みぞれと陽は所謂クラスメイトと言うヤツだった。

高校で同じクラスになった時は何も関わりが無かったが、この妖怪横丁で再会したときは本当に驚いたものだ。

それから友達になって陽の方はすっかりみぞれに惚れてしまっていたと言う訳だ。

 

尤もみぞれは気づいているのかいないのか、デートの誘いには答えてくれるものの全くもって友達から関係は進展していない。

と言うのが現状なのだが。

 

 

「それにしても、本当に大変な事になってるみたいだな」

 

「そうなんだ。アキラは私の友達、絶対に助けて見せるよ」

 

 

思わずドキリとしてしまう、陽の心に嫌な予感が浮かんだからだ。

迷う自分に比べてみぞれはもう決断しているというのか。いやそれよりも――

 

 

「だから……陽。お願いがあるんだ」

 

「……ッ」

 

 

分かっている。彼女が何を言おうとしているのか、それくらい分かる。

彼女の口がその言葉を形作っていく。簡単な話だ。『力を貸してくれないか』そんな事分かっているのに……

何故か、どうしてか自分でも分からない。だけど、うんとは言えなかった。貸してあげるとは言えなかった――

 

 

「ごめん……ッ」

 

 

陰陽師、自分はそんな肩書きがあるだけのガキだ。

その力を日々鍛錬しようとも実戦となれば何もかも違ってくる。鬼太郎は友達だ、花嫁はかわいそうだと思う。

きっとあの我夢とか言う少年は花嫁の事が好きなのだろう。もしかしたら両思いなのかもしれない。そんな二人を引き裂く邪神達がムカついて仕方ない。

自分はみぞれの事が好きだ。もしみぞれが花嫁に選ばれていたなら彼と同じ行動をとっていただろう。

 

いただろう………そう、それなのに――ッ!

 

 

「ははっ、いいんだ。気にしないで、だってコチラにつくって事は世界を敵にするって事だもん」

 

 

みぞれは悲しそうに、だけど仕方ないと笑う。それが陽の心に突き刺さった。

違うんだ、そうじゃないんだ。できる事なら君の、皆の……花嫁の事を助けたい。だけど、足りない。力も度胸も。

改めて痛感させられた、自分は大陰陽師『一刻堂』の継承者であり、ただの人間だ。

 

戦いの邪魔になってしまう。

それならばいっそ参加しない方がいいんじゃないかと思ってしまった。

皆が何とかしてくれる、自分はサポートに徹しようと思ってしまった――

それは自分の弱さが生んだ結果なのだろうか? 少なくとも今の陽は相当ショックを受けているようだ。

 

 

「ま、君は君だよ」

 

「……ッ」

 

 

みぞれは笑って彼の肩を叩く。

気が向いたらでいいからと彼女は陽に背を向ける。彼女は分かっているんだろうか、大きすぎる敵だと言う事に――

 

 

「ほ、本当にみぞれは行くのかい? やめておいた方が――」

 

「………」

 

 

だって死にに行くような物なんだ。

いくら雪女として力があるからと言って向こうは戦闘能力に長けた存在、そんなの格が違う!

だけど、彼女は意外にも笑って見せた。

 

 

「それは無理。アキラは大切な友達だから」

 

 

そう言って走り去るみぞれ。

悔しそうに歯噛みしながら陽は地面を見た。

自分に何ができる? だけど、彼女が決めたなら――

 

 

「「「陽~」」」

 

「お前らッ」

 

 

草陰から傘化け、かわうそ、アマビエの三人が現れる。

文字通り傘のお化けである傘化け、服を着たかわうそと、人魚の様な見た目のアマビエ。

共に鬼太郎とは友達だが戦闘能力が皆無に等しい。そんな彼らも陽と同じ様な思いを持っていたのだ。

 

力がある、戦える、それは恐怖を感じる事でもあり同時に幸せな事でもあるのだろうか?

アマビエたちは涙を浮べて陽にお願いをする。どうか自分達の代わりにみぞれ達に協力してほしいと。

きっと彼らも皆と一緒に戦いたい、仲間の為に協力したいと願っているのだろう。だがその力が足りない。悲しすぎて泣けてくる、そんな友達の姿を陽はジッと見ていた。

 

 

「……わかったよ」

 

 

分かったから、もうそんな顔しないでくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、新たに集まったのは砂かけ婆、子泣き爺、一反木綿、ぬり壁、そして……

 

 

「へー、すごいじゃん。見直した」

 

「ははは、いや……まぁねぇ」

 

 

一刻堂、時真陽。怯える心を笑顔の仮面で隠し、彼は戦いを挑む。

 

そしてもう一人、司達には分からなかったが意外な人物がやってきた。

その人物が公民館の扉を開いた瞬間他の妖怪達が驚きに満ちた目で彼をみる。それはもちろん陽も同じだ。

つまりこの横丁にいる人間全てが彼はコチラに協力しないと確信していた。が、しかし今こうして彼はコチラへとやってくる。

そして例外なく驚いている砂かけ婆に一言挨拶を告げると、床に座り込んだ。

 

 

「お……お前――ッ」

 

「うん? なんだなんだぁ? おれが協力するのがそんなに珍しいのかよ」

 

 

そう言って彼はニヤリと笑う。

なんて怪しい笑みだ、思わず裏で何かを考えているのではないかと思ってしまう程、他意に満ちた目だった。

 

 

「どういうつもりじゃ、ねずみ男ッ!」

 

 

文字通りねずみに似た顔、そしてローブの様な服を一枚纏ったその男。

名を"ねずみ男"と言った。こう言っては申し訳ないがあまり強そうには見えない。

しかしとにかく彼に注がれる疑惑の視線が司達には気になった。そんなに彼が仲間になると言った事が不思議なのだろうか?

 

 

「きょ、協力してくれるんですね!」

 

「ああ、もちろん! ここは一つよろしく頼むぜぇ?」

 

 

まあしかし協力してくれると言うのだから、自分達にとってはとてもありがたい。

世界を敵にまわすと言う覚悟も持っているのだろう、司は素直に彼の協力を喜んだ。尤も砂かけ婆達は相変わらず絶句しているようだったが――

 

 

「っておわあああああああ!!」

 

「!」

 

 

司が彼の手を掴もうとした時、悲鳴が巻き起こる。みれば寝子が猫娘に豹変して彼に襲い掛かっているではないか!

すぐに止めに入る幽子とあられ。何しやがんだ! 吼えるねずみ男に髪を真紅に染めた猫娘が言い放った。

 

 

「アンタ! また何かよからぬ事を考えてるんでしょ! フニャァァァッ!!」

 

「おおおお落ち着いて寝子! 確かにねずみさんは何度も裏切ってるけど、今回はレベルが違うもん! きっと大丈夫だって!!」

 

「騙されちゃだめよ幽子! きっとコイツはまた鬼太郎を困らせるんだからぁぁッ!」

 

 

どうやら彼らの間には腐れ縁があるらしい。

あの寝子ですら疑ってかかり、かつ手を出す程ねずみ男の信用はないらしいが今もこうやって一緒にいる以上『敵』と言う訳では無い様だ。

ねずみ男は言う、鬼太郎が危険な目にあっているのならおれも黙っていられないと。

鬼太郎とねずみ男は昔からの友人らしく、行方不明になった彼を心配しているのだろう……か?

 

 

「何度も裏切ってるくせによくそんな事が言えたわねぇぇッ!!」

 

「鬼太郎も鬼太郎でいっつも許しちゃうからねぇ……」

 

 

陽は困ったように司達を見る。

まあ、悪いヤツじゃないんだと彼はフォローを入れていた。しかし――

 

 

「で、何さ? やっぱりお金とか狙ってんの?」

 

「お前もかよ! いいか? よく考えてもみろ、世界が滅んだら金どころじゃねぇだろよ!」

 

 

成る程、確かにそれはそうだ。世界が滅ぶかもしれないと言う時に保身に走ったところで意味は無いか?

司達としてもこれ以上時間を浪費したくはない。ねずみ男を仲間として受け入れる事を決め、いよいよ司達は妖怪城を攻める作戦を立てる事になった。

 

 

「?」

 

 

しかしその時、ふとねずみ男の服から何かが落ちる。

彼は気がついていない様だが我夢はそれを拾い上げる。

 

 

(花びら? これ……確か――百合の花?)

 

 

しかし花びらと言う事もあってか我夢は特にその事を気にかける事は無かった。

きっと何かの拍子で服にでもついてしまったのだろうと。我夢は皆のところに行く為に花びらを風に散らせた。

 

 

 

 

 

しかし改めて、砂かけ婆の知識がなければ自分達は負けていたのだと悟る。

おばばが言うには、妖怪城に攻め込むにはある過程を踏まなければならない。それは、監視システムの破壊。

妖怪城には目目連(もくもくれん)と言う無数の『(ようかい)』が存在している。その監視がある以上、どこにいようが正確に場所を割られてしまうのだ。

 

つまり、妖怪城そのものが生命体としている様なモノ。隠密行動がとれるわけも無い。全員の居場所が敵に明確に伝わるのだ。

罠も容易に張れるし、アキラを助けるのも難しい。いや、不可能と言ってもいいだろう。

 

 

「分かった、じゃあまずは目目連を封じる」

 

「できるんですか?」

 

 

我夢の問いに幽子は頷いた。

 

 

「目目連にも指揮官、核が存在します。それを封じ込めれば」

 

 

幽子が言うにはヒトツミ達が連れて来た新参の妖怪で、名を『百目』と名乗ったらしい。

ヒトツミも百目も砂かけ婆が知らない妖怪だと言う、いくら新参だからと言って高い知識を持つ砂かけ婆や子泣き爺が知らない妖怪と言うもの珍しい。

まして交友関係が無駄に広いねずみ男も全く知らないときた。

 

 

「こいつ等、怪しいな」

 

 

ゼノンはニヤリと笑って話を聞いていた。もしかしたらコイツら――

 

 

「ドーパントかな?」

 

 

だとしたら、お仕置きしないとね。

ゼノンは黒い笑みを浮べてまた話へと意識を集中させる。

どこのどいつかなんてどうでもいい、大切なのはメモリ使用者なのかどうかと言う事だ。ガイアメモリは全て破壊する、それが彼の本心。

 

とにかく、まず最初の作戦は百目……つまり目目連の核を倒す事。

そうしなければ妖怪城は生きた監視カメラに覆われ、アキラの所までは絶対にたどり着けないだろう。

かと言って少人数で城に入っていけばすぐに返り討ちだ。結局、三つの班に別れて一つ以外は攻め込もうと言う事になったのだった。

 

 

最後にと司たちは陽達から警告を受ける。

自分もあまり妖怪城には詳しくないが、鬼太郎から少し聞いた話と先祖達の残した資料からある程度は把握していた事を。

なんでもこの世界には総大将を除いて、世界の均衡を保つ七人の妖怪がいるらしい。

 

七天夜(しちてんや)』と言われる連中なのだが、普段はバラバラに散っているが恐らく今回の事で全員が妖怪城にいる可能性が高いとの事だった。

司はそれを聞いてまっさきにサトリを思い浮かべる。おそらく彼はその超級妖怪の一体と見て間違いないだろう。

今回の戦いは過去最大のモノとなる。恐れと不安を抱えながらも彼らはしっかりとアキラを見て前に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の為に少女が死ぬ。

そんな運命を壊す為に戦う者、抗う者、足掻く者、暗躍する者、世界は多種を望み回る。

だが、他世界に存在する『関係ない者』達もまた、物語を構成する元素なのだ。そんな彼らに、今何を望む?

 

 

 

ボリボリボリ。

 

 

「んむっ! んむっ!」

 

 

プハッ! バリバリバリ。

 

 

「ごきゅ! ごきゅ!」

 

 

プハッ!

 

 

「あ……あちゃちゃ、こぼしちゃった。舐めとこ――」

 

「やめろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 

「バビロンッ!」

 

 

お菓子をボリボリ貪り食いながらゲームをしている少女、そんな彼女に飛びついたのは一回り背が小さい少年だった。

 

 

「おまっ! あれッッ――だけッ 菓子を食いながらゲームをするなっつてぇん!!」

 

 

油まみれになったコントローラーを元に戻すため、少年は涙目になりながらウエットティッシュで油を拭き取っていく。

言葉の最後の方は怒りで出てきた変な裏声になってしまうほど。

しかもその菓子は少年のもの。勝手に人の菓子くって、勝手に人のゲームして、勝手に人のコントローラーをベタベタに。

 

 

「もはやサイコ女だぞお前!」

 

「ごめんなちゃい、もうしません……」

 

「おい今ふざけたな。ごめんなちゃいって何だ、ちゃいって何だ? ちゃいって何だって聞いてるんだよッ! ぶっ飛ばすぞ!!」

 

 

怒り狂う少年を受け流すと、少女は手をパンパンと叩く。

どうやらもう満足の様だ、ゲームの電源を消すと少年の顔に資料を突きつける。

 

 

「ッ? 馬鹿助手、それは――」

 

「空間移動指定場所の数値です」

 

 

ドヤ顔の助手、そしてそれをジト目で博士は見つめる。

珍しく横柄な態度だと思っていたら、案の定調子に乗りやがって――

 

博士は鼻を鳴らして助手を睨む。

だが変わらずドヤ顔の助手、なんなんだいったい……!

そんな事を思っていると助手はポケットから、『スイッチ』を取り出す。

 

 

「ぐううぅうッ!」

 

「ふふーん!」

 

 

ノルマのスイッチを全て完成させて、かつ言いつけられていた空間指定の数字までやっているとは――ッ!

博士は歯軋りをわざとらしく行う。やる事を全てやっている以上、馬鹿助手などと言う訳にもいかない。

 

 

「ちっ、まあ褒めてやるよ助手くん――ッ」

 

「なはははは! 分かればいいんだよ、分かればにぇ!」

 

 

調子にのっている助手。

そんな彼女をこれ以上責めても無意味か、博士は少し不服そうだったが諦めてその場所に向かった。

まるでUFOの様な円形状の物体が浮かぶ部屋、そこに博士は立った。

 

怪しく光るライトが神秘的に、怪奇的に雰囲気を演出しておりある種のマッドさが博士を興奮させる。

子供の様に(実際子供なのだが……)目を輝かせる博士に、助手も思わず笑みがこぼれる。

こんな風に子供っぽくしていればかわいいのに、なんて考えてたら睨まれた。

 

うーん、やっぱりかわいくない!

助手はふてくされたように部屋の隅にある機械に、先ほどの数値を打ち込んでいく。

 

 

「えーっと、さん……なな――」

 

 

白衣のポケットに手を突っ込みながら博士は目を閉じる。

この実験がうまくいけば、彼の今までの努力が報われるのかもしれない。

それは彼にとってどんなに嬉しい事なんだろうか、いやもしかしたら、彼は心のどこかでこの実験が失敗する事を望んでいるのかもしれない。

なんて、無限理論。答えの無い自問自答、助手は目の前にある機械だけに集中すればいいのだ。

 

なのだが――

 

 

「へくちょぴ!」

 

 

生理現象には勝てないもんである。

不便なものかもしれないが、それが人間の証明である以上は仕方ない。

 

 

「あ゛―、鼻が……」

 

 

ビィィィッッン。

けたたましい音をたてながら助手は鼻をかむ、鼻をかんだらちり紙はぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てる。

うん、できた。幼稚園で先生にあれほど教えられたんだ。これくらいできなくてはいけない!

助手はスッキリした表情で機械に意識を映す。紙に書いてある数字を機械にうちこむ。ええ、簡単なお仕事で――

 

 

「………あり?」

 

 

紙は? 紙はどこにいった? 数値がかいてある紙はどこにいったの!?

 

 

「―――ッ」

 

 

やべぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!

 

 

「あ……ああ………」

 

 

さっきあの紙で鼻かんじまったァアアアアアア!!!

急いで助手はゴミ箱の中からメモ紙を取り出す。しかしグチョグチョなんて易しいもんじゃない。

もう何が書いてあるか全く分からない『物体X』になってしまっているじゃないか! なんか、嫌な汗が滝のようにながれてくる。

 

 

「おい! どうした助手。もう準備はできたぞ! さあ早く頼む!」

 

「は……はーい………」

 

 

どうしよう、素直に言おうか?

でも怒られる、もしかしたら出て行けなんて言われるかもしれない。

そうなったら今日自分はどこに泊まればいいんだ!? 何を食べればいいんだ!? 捨てられる、間違いなく捨てられるッ!

 

 

「は、はいッ! すぐにやります!」

 

 

こうなったら適当に押しちゃえッ!

 

 

「う、うぃーす! 準備できました!」

 

「上等だ、褒めてやるぞ助手」

 

 

はやくこっちに来い。博士は手招きして助手を呼んだ。

 

 

「ん、どうした? 何か変だぞ」

 

「な、なんでもないです……」

 

 

ならいい。博士はニヤリと笑って、頭上にある円盤に手を伸ばす。

光の中心に重なる手、それを見て彼は複雑そうに苦笑した。世界を、見せろ。世界を教えろ――ッ!

 

世界を――

 

 

「僕の手に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、さらに一旦世界を移動しよう。

突然だが、君たちはドーナッツの真ん中に穴が開いているのは知っていると思う。

 

じゃあその穴はいったいどうやって空けたのかは知っているだろうか?

 

正解した人には素敵なプレゼントがあるかもしれない、是非よく考えてみてくれ。

ちなみ伝説とされているグー●ルやヤ●ーを使おうと思っている男性の君、来世では一生彼女ができないペナルティがついてくるから気をつけてね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、答えあわせの時間だ。

 

答えは"魔法"さ、魔法であの穴を開けているんだよ。

パンで試してみるといい、パンに指か箸で穴を開けようとしてもボロボロで綺麗な円にはならないだろ?

しかし見てみたまえあのドーナッツにある穴の綺麗な事。あの穴をあける事ができる存在なんて魔法以外にはありえないとは思わないか?

 

 

……などと言ってみても、君たちの視線は冷たいんだろうね。

なんでもどこかの世界ではドーナツってヤツは短時間で調理したほうが味や栄養素が逃げないらしい。

だからより速く全体をふっくらさせる為に、熱の伝わりにくい真ん中をくり抜いているとか何とか。

 

まあいいや、別に食べるコッチからしてみればおいしければどうだっていいのかもしれないからね。

あ、ちなみにプレゼントは何も用意していないんだ。世の中そんなに甘くないよ。

 

しかし、考えてもみてほしい。

君たちは白い目をしたかもしれないが何も知らない無垢な子供に魔法で穴を開けたと言ったら、それは本当に信じるかもしれない。

それは魔法が現実になったと考えられないだろうか? 君たちは無意識に魔法を拒絶しているだけで、君の近い場所に魔法という存在があるかもしれない。

君は………いや、人は誰でも魔法使いになれる可能性を秘めているとしたら!

 

と、言うわけで君も是非魔法を勉強してみないか?

 

 

 

 

 

 

 

「僕と一緒に、魔法使いを目指しょう!!」

 

 

そう言ってモノクルをつけた青年は勢いよく椅子から立ち上がる。

ケープといい、全体的な姿はとてもファンタジーな物だ。

 

 

「………」

 

 

そして沈黙。青年は力なくため息を漏らし、再び椅子にゆっくりと腰掛けた。

近くの机にはドーナッツの穴が魔法で作られている、とか何とか書いてある紙が置いてある。

しかし青年は首を振るとその紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱へと投げ入れてしまった。

 

 

「こんなんじゃ駄目か……いや、駄目駄目だな」

 

 

ちょっと噛んじゃったし。

青年はだるそうに頭をかくと、今度は机の上においてあるドーナッツに視線を移す。

今日も相変わらずおいしそうだ。一番好きなのはアップルパイだがドーナッツも嫌いじゃない、青年は何から手をつけようかと迷っている。

 

そんな事をしていると机の隅に置いてある水晶玉が淡いオレンジの光を放つ。

これは入り口から誰かが入ってきたと言う事、青年はそれを確認するとドーナッツに伸ばしていた手を引っ込めて立ち上がった。

椅子を離れて歩き出す青年、部屋を出て廊下に出て階段までいくのか……それとも――

 

 

「まあ、今回だけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

 

入り口から入ってきた女性は誰もいないと言うのに深いお辞儀をとった。

黒髪のきっちりとしたボブカットに白いヘッドドレスが映えている。

そしてケープの下にはメイド服、どうやらこの巨大な"屋敷"に勤めているのだろうか?

見れば大きな袋を二つ抱えている様だが。

 

 

「おかえりシェリー」

 

 

そんな彼女の前に魔方陣が現れたかと思うと、中から先ほどの青年が歩いてきた。

 

 

「クローク様! わざわざお迎えに来てくれたんですか? ありがとうございます!」

 

「かまわないよ。荷物重いでしょ? 僕も少し持つよ」

 

「い、いえそんな! 私はメイドですので――」

 

 

いいから、いいから。そう笑ってクロークと呼ばれた青年は手を伸ばす。

しかしメイドの立場もあるのかシェリーはなかなか渡そうとはしなかった。

仕方ないな、そう笑ってクロークは右手を腰にかざす。見れば彼のベルトの中央に大きな手があった。

もちろん本物ではなく、手を模した物だが――

 

 

『コネクト・プリーズ』

 

「あっ!」

 

 

クロークが着けていた指輪が光ったかと思うと、シェリーが持っていた袋の前に魔方陣が現れる。同時にクロークの前にも魔方陣が。

彼はその魔方陣の中に手を入れた。すると袋の前にあった魔方陣から手が伸びてきて、袋を掴んだではないか。

そのまま手を引くクローク、魔方陣から手をはずした彼の手には一つの袋があった。つまり彼は離れた所にあった袋を奪い取ったのだ。

 

 

「も、申し訳ありませんクローク様」

 

「さっきも言ったよね、構わないって」

 

 

笑顔のクロークにシェリーも笑顔を向ける。

だがいきなりまじめな顔になって――

 

 

「だけど、あの距離くらい歩きましょう!」

 

「う゛! こ、今回だけだよ」

 

 

ビシっと指を突きつけられて思わずクロークは苦笑いを浮かべる。

 

 

「私が記憶が正しければ、昨日もクローク様は"魔法"で移動なさっていました」

 

「ああ……うん、そうだっけ? 覚えてないなぁ」

 

「はい! 私は覚えてます! このままクローク様が面倒だと言う理由で歩く事を放棄すれば、きっとクローク様のお腹はブヨブヨになってしまいます。それはつまり――」

 

「わ、わかったよシェリー。この階段は上るから……」

 

 

それなら結構です、笑みを浮かべるシェリーと階段を見上げるクローク。

情けない話だが腕力はそこら辺の女性より圧倒的に非力だと言う自信がある。

こんな事なら自室を一階にしておくんだった……!

 

 

「シェリー、今日の夕飯は何かな?」

 

「カレーはどうですか?」

 

「いいね、中辛でお願いするよ」

 

 

階段を上りながらクロークはふと窓の外に広がる景色を確認する。

この屋敷は五階建てだが、この村の中では一番大きな屋敷で有名である。

尤も、この村にも隣の村にも、はるか向こうの町にも三階建て以上の建物があるのかどうか微妙なところだが。

そうしていると三階についた。全くまだあるのか、彼は汗を浮かべてげんなりと。

 

 

「今日は買い物帰りにパームさんからワインを頂いたんですよ」

 

「あぁ、お隣のパームさんね。赤かい? 白?」

 

「白です、飲みますか?」

 

「そうだね、君もどう? 僕一人で飲んでもつまらないよ」

 

「でしたら、頂きます」

 

 

しかし田舎だなぁ、まあその方がいいんだけど。クロークは広場にいる山羊を見ながらぼんやりと考えていた。

だがそう達観もしてられない、彼にはある使命があるのだから。

さあ、とにかくやっと部屋についた。

 

 

「今日も資料を見ていらしたんですか?」

 

「先代はいろいろな本を残してくれてからね……まあ、捨てても良かったんだけど」

 

「クローク様……」

 

 

クローク"様"か。確かにメイドの彼女からしてみればそう呼ばざるを得ないんだろう。

しかしこの巨大な屋敷に存在する人はクロークとシェリーの二人だけだ。

誰もが皆この屋敷を去っていった。それは――

 

 

「まあ、いいや。悪いけどお茶を入れてくれないかな?」

 

「はい、何にしますか?」

 

「うーん、ブルーマロウかな」

 

「わかりました、ちょっと待っててくださいね」

 

 

頷くクローク、やはり彼女が淹れてくれるお茶じゃないと駄目だ。

一度自分が淹れてみたら腐りきった人生みたいな味がしたんだ。え? どんな味? 飲んでないから分からないよ。

 

 

「しかし……平和だね」

 

 

さっきの言葉は撤回しよう、五階から見える景色はやはり格別だ。

広場では子供たちが遊び終わって母親達と帰っていくのが見える。

まともな遊具も無いのに毎日彼らは楽しそうだ。彼らは希望に満ちている、これからの人生に夢や期待を持っているのだろう。

 

 

「そう言えば、前のお話は?」

 

「ああ、一応受けてみようかなとは思ってる」

 

 

クロークはシェリーからお茶を受け取ると、ドーナッツを一つ彼女に勧めた。

受け取れないと渋る彼女だが、甘いものには目が無い事をクロークは知っている。

シェリーはいいんですか? と頬を紅潮させてドーナッツを受け取っていった。

 

 

「ああうん……まあ、彼らを信用した訳じゃないけどね。それでもこのまま何もしないよりはいいかなって」

 

 

クロークはティーカップを片手に机の上に置いてあった本に目を通す。

以前この屋敷に訪れた客が言っていた、世界はまるで本の様だと。

あながち間違ってはいないかもしれない、クロークは魔方陣がゴチャゴチャ描かれているページを適当にめくる。

 

 

「人は多くの希望を持っている」

 

「どうしたんですか? いきなり」

 

「いや、その希望が消えるのは……寂しいね」

 

 

そうですね、彼女はドーナッツをほおばっているからか少し恥ずかしそうに笑ってみせた。

そう、希望が消えるのは悲しい事だ。

 

人は絶望してはいけない。

誰も絶望する為に生まれてきた訳ではないのだから。

 

 

「よし、決めた。世界を見てみようか」

 

「………」

 

 

無言で頷くシェリー。

彼女は何も言わずとも付いてきてくれるようだ、クロークは沈んでいく夕日に手を重なり合わせる。

彼の指にある『指輪』がオレンジの光と重なってとても綺麗に見えた。

 

 

「そして――」

 

 

クロークの瞳に決意が宿る。

 

 

「後継者を見つけよう。魔法を、受け継いでくれる後継者をね」

 

 

その言葉にシェリーは強い視線をクロークに返した。

 

 

「あ、あとカレーのニンジンは少なめで……」

 

「す、好き嫌いはいけません!」

 

 

かっこよかったのに……!

シェリーは注意するように人差し指を立てる。クロークはと言うと困ったように笑って俯いたのだった。

 

 

 

 





次は土日のどっちか予定。たぶん土曜。

これ書いたかどうか忘れたんで書きますが、鬼太郎ってのは5期+αありますが、これに出てくる鬼太郎はそのどれにも属してないバージョンです。

あとたぶんキャラ紹介もちょっと更新するかも。
これも書いたかどうか忘れたんでもう一回書きますが、この作品キャラ多いんで、女性陣のみ着せ替えフラッシュで作った、だいたいのイメージ図をキャラ紹介に記載してます。
もしもキャラ多くて想像できねぇよって人は参考にしてみてください。

ただあくまでも僕はイメージしてもらえばなと思ってます。
それにフラッシュゲームでつくった奴なんで、僕自身ちょっとこれじゃねぇな感もありますしね。
あくまでもおまけって事で。

ではでは

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