仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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今週か来週に映画行けたら行きたい。
ってか結構直前まで投票してるもんなんだね。
一応昭和に入れといたんだけど今はどうなっているのやら。


ではどうぞ。


第30話 贄

 

 

 

「ねぇねぇー拓真! どっ?」

 

 

そう言って友里はクルリと回ってみせる。

長い間一緒にいるが彼女の浴衣姿を見たのは久しぶりだった。

思わず拓真は赤くなってしまう。

 

 

「うん、似合うよ……とっても」

 

「でぃしし、照れますなー!」

 

 

照れくさそうに笑う友里と拓真。だが、いい雰囲気などほうり捨てて二人はすぐにはしゃぎ出す。

確かに気恥ずかしいモノもあったが、昔みたいに童心に帰ってはしゃぐのもいいだろう。

 

 

「思い出すね、昔も友里ちゃんとよく一緒にお祭り行ったね」

 

「うん。一緒にいろんな事したねー」

 

 

二人のお祭りの始まりはいつも決まっていた。

ニヤリと笑って顔を見合わせる拓真と友里。じゃあまずはと二人は同時にその方向を指差した。

それは――

 

 

「んー、やっぱこの感覚なんだよねぇ!」

 

「あはは、頑張ってね友里ちゃん」

 

 

友里は玩具の銃で商品に狙いを定める。

昔から彼らはお祭りの最初に射的をやるのが決まり事のようになっていた。

なんでそうなったのかは覚えていないが、毎回そうだったのだから別にもうなんとも思わない様になっていたのだ。

友里は腕の裾をまくって狙いを定める。こう言うのは全力を出してやったほうが楽しいと言うものだ。

店番のおじさんも暖かい目で二人を見ている。

 

 

「よっ!」

 

「おお!」

 

 

友里が放った弾丸は、見事に小さなケースを弾き飛ばす。

それなりに離れているのにも関わらず、あの小さなケースを撃ちぬいた友里の腕前は中々のものだろう。

おじさんもめったに出ない当たりに興奮しているのか、おまけで色んな食券をくれた。

 

 

「凄いね友里ちゃん!」

 

「ふっふーん! でしょでしょ? もっと褒めてくれてもいいんだよ!」

 

 

伊達にデルタは選んでないよ~、そう言いながらえっへんと胸を張る友里に拓真は惜しみない拍手を浴びせた。

二人は早速、勝ち得たケースを開けてみる。するとそこには綺麗なブレスレットが。

まあ所詮玩具だろうが、それなりに高級感のようなモノがある。

 

 

「最近のおもちゃは凄いね」

 

「うん、結構クオリティ高いね」

 

 

 

海を思わせる様な美しい青。

想像以上の商品に思わずテンションが上がる友里と拓真。

だが、おじさんにお礼を言って立ち去ろうとした時――

 

 

「ッ!!」

 

 

直感的な反射で友里は体を思い切り反らす。

そのおかげで弾丸は友里の手をかするだけだった。

もし体を反らしていなかったら、きっと今の弾丸はブレスレットに当たっていただろう。

 

 

「何ッ!?」

 

 

弾丸は一体どこから飛んできたのか!? 友里と拓真は急いで周りを見てみる。

いきなりの奇襲、人も多いこの祭りの中にスナイパーがいるとでも?

 

 

「………」

 

 

目を凝らす友里。

なんか向こうのほうで知り合いが思い切り銃を構えているのが見えるんですけど。

 

 

「くそっ、外したか! 流石この銃は暴れやがるわね」

 

「いや、玩具なんだけどねお客さん。あと、あの……他人狙うの止めてくんない? これそう言うゲームじゃねぇから!」

 

 

少し離れた所にある別の射的コーナーで、バイトのおばさんは美歩を注意する。

何かこの娘、いきなり向こうにいる女の子の持ってるもの狙撃し始めたんだけど……!

こ、怖いねぇこれが最近のキレる若者ってヤツなのかい? 玩具の銃なのに無駄にリロードに力入れやがって腹立つわぁぁ!

 

 

「す、すいません! 今すぐ止めさせますんで」

 

 

真志は冷や汗を浮かべて美歩を注意する。

この公共の面前で何やってんだよと、真志は美歩をかるく小突いた。

 

 

「ごめん、ちょっと射的はじめてだったから……」

 

「はじめてでもそんなミスしねーよッ!」

 

「わかっ――……」

 

 

ヒュンッ、と弾丸が美歩の頬を掠める。

見ると、友里が遠くでコチラを狙撃しているではないか。

 

 

「真志、射的ってやっぱこういうゲームだったんだな。命を掛けて戦う、この銃と言う武器を手にして!」

 

「いや、全然違ぇんだけど!」

 

 

互いに構える友里と美歩を見て、真志達はため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃん、やってみるか?」

 

「えぇ! いいのぉ?」

 

「ああ、どうぞ」

 

「わぁ……ありがとう!」

 

 

おじさんはニッコリと笑って真由に割り箸を差し出した、そして中心釜の中にザラメを投入する。

すぐに白い綿の様なモノが出てきて、真由は少し興奮しながらその綿に割り箸を絡めて行く。

 

 

「わぁ………!」

 

 

まるでそれは雲、いや羊のようにモコモコと巨大化していく。

真由は目を輝かせながら必死に割り箸を回し、綿を絡めていった。

数秒後には真由の顔くらいある綿菓子が彼女の手に納まる。真由は我慢できずに一口その綿菓子をほお張った。

すぐに溶けて口中に甘みが広がっていくのが彼女の顔を笑顔に変える。

 

 

「ははっ、もう一回やってみるか? タダでいいぜ」

 

「悪いですよ」

 

「いや、いいんだ。こんなに楽しそうに綿菓子を食べる子は始めてかもしれねぇ、頼むご馳走させてくれや」

 

「いいの…!? ありがとうございますぅ!」

 

 

そこまでいうのならと、双護はお礼を言って一歩後ろへ下がる。

代わりに真由が嬉しそうに前へ出て綿菓子を作り出した。

鼻歌交じりに笑顔の彼女。そう言えば綿菓子を食べるのは初めてだったかもしれない。

彼女にとってそれは雲を食べている様な感動を与えたのだろう。

 

 

「ははっ、楽しそうだな真由ちゃん!」

 

「フッ、そうだな。良かった、真由が楽しんでくれて」

 

 

楽しそうに綿菓子を作っていく真由を見て、双護と鏡治は微笑む。

帰って来た真由の両手には大きな綿菓子が握られており、そのシュールな可愛らしさに二人も吹き出してしまう。

そしてそのまましばらく歩いた時だった、真由が双方半分まで食べた綿菓子を二人に差し出したのは。

 

 

「ん? どうした真由、お腹いっぱいか?」

 

「ううん」

 

「飽きちゃったのか真由ちゃん?」

 

「ううん」

 

 

そうじゃないと真由は首を振る。

 

 

「……あげる!」

 

 

微笑む彼女と目を丸くする二人。

彼女は甘くて、おいしいものを大好きな二人にも食べて欲しいのだ。そしておいしさを共有したいと願う。

本当は司達全員にもあげたかったが、皆はいろいろな出し物に行っている。

後で皆で一緒に回ろうと計画しているが、まずは何よりも二人に食べて欲しかった。

 

 

「おう! じゃあ貰うな。ありがとう真由ちゃん!」

 

「……ありがとう、真由」

 

 

目頭が熱くなっているのか、双護は顔を隠しながら綿菓子を受け取る。

真由は笑顔で頷くと、両手で双護と鏡治の手を握る。

二人も片手に綿菓子、片手に真由の手を繋いでまた歩き出す。

 

 

「いやしかしお義兄さん、真由ちゃんはいい子だな」

 

「……お前、今なんて言った?」

 

 

にやける鏡治を睨みつけると、双護はムシャムシャと綿菓子を一気に口の中に入れていく。

その様子がおかしくて真由は笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金魚すくいか、久しぶりだな」

 

「ん、やってみるか?」

 

 

司の提案に、椿と咲夜は頷く。

ビニールプールの中には綺麗な金魚が泳ぎまわっていた。

大きいものや、黄色のものと様々な種類がいる為にどれを狙おうか迷ってしまう。

咲夜もまた動き回る金魚を必死に目で追っていた。どうせなら一番でかいヤツを狙おう、咲夜はポイで黒い出目金を追いかける。

 

 

「……あ」

 

 

だが、持ち上げようとした瞬間にすぐにポイは敗れてしまった。

 

 

「ブフーッ! ど素人ちゃん乙」

 

「!!」

 

 

咲夜の隣でドヤ顔を決める男、椿。

しかし今回は冷静に考える、どうせコイツとて一匹も取れずに涙目だろう。

その時に罵倒してやるか、咲夜はニヤリと笑って椿の様を見る事にした。

 

 

「司くんに咲夜ちゃんよぉ、まあその目でよく見とけよ」

 

 

このっ、金魚すくいの達人の技をなぁ!!

 

 

「!!」

 

「なっ!」

 

 

目を見開く司と咲夜。

この流れで言うと椿もミスして終わりだと思っていたのだが……入る入る! 

椿のおわんの中には金魚たちがホイホイされていくではないか!

 

 

「おい、どう言う事なんだよっ!? あ、何かむかつくぞ!」

 

「……ワタシにも分からん! くっ、あのドヤ顔止めさせろ! 不愉快だ!!」

 

 

店番の人も思わず拍手を椿に浴びせてしまう。

おかしい、司も咲夜も椿とは祭りに行った事がある。その記憶では椿は金魚すくいは得意ではなかった筈だ。

最初に大口叩いて終わったら涙目という黄金パターンが出来上がっている筈なのに……!

 

 

「ん?」

 

 

しかし、咲夜はそれを見つけた。

椿のポケットから何かがはみ出ているのが!

 

 

「アレは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうですね、その調子です。

 金魚は追うのではなく待つ姿勢で行きましょう。水圧をかけないようにね……そう、そう!』

 

『かぁー! 流石だぜジャック! お前のアドバイスどおりにやったらコレだもんなぁ!』

 

『当然です、金魚すくいは紳士の嗜みですので』

 

 

やはりか!

ヤツはアンデッドのアドバイスを受けていたのだな!

咲夜は急いで自分のアンデッドとのコンタクトをとる、長い年月を生きているならコツも知っているだろう。

 

 

『キング、クイーン、ジャック! ワタシに力を貸してくれ!』

 

『ほほう! 金魚すくいかえ? おいしそうじゃのう! わらわはムニエルで頼むぞ!』

 

『あらあらぁ、綺麗な水ですねぇ。頂きたいわぁ!』

 

『俺はウルフぅ! 荒野を走る弾丸~! ルルルルー!』

 

『………』

 

 

プツリ……

咲夜は何も言わずに無言でコンタクトを解除した。

彼女達に頼ったのが間違いだった。この日、咲夜は初めて椿に完全な敗北を教え込まれたのだった。

ちなみに司はと言うと――

 

 

(集中しろ、聖司。焦りは即敗北につながる)

 

「ほらほら!見てください司くん! 向こうで取ってきたんですよ!」

 

(集中しろ司、ノイズは消去するんだ)

 

「聞いてますか司君! 水風船ですよ! 水風船!」

 

(手の震えはポイを破る大きな原因となるだろう、落ち着けよ司)

 

「ボヨヨーン! ぼよよ~ん!」

 

(くっ、頭に衝撃が走るのは何故だ? まるで何かで叩かれているような……)

 

「あ」

 

 

パァンッ! と、大きな音がして夏美の水風船は割れてしまった。

びしょ濡れになる司と、戦う前に敗れたポイ。悲壮感が辺りを包むなか、夏美はおいしそうにイカ焼きを食べはじめるのだった。

 

 

『わぁい! あっちに輪投げがあるよ! 行こう行こう!』

 

『馬鹿野郎! 向こうにプリンがあるじゃねぇか! 良太郎、あっち行こうぜ!』

 

『分かってないなぁ皆、浴衣の女の子がこんなにいるのにぃ』

 

『男なら太鼓を叩くもんや! わっしょーい!』

 

「みみみんな落ち着いてよぉ」

 

 

離れた所ではさっきからせわしなく良太郎の人格が変化していく。

流石に四人もいると、それぞれのやりたい事を叶えていく内に良太郎の疲労が蓄積されてしまうと言うものだ。

 

 

「もうっ! あんた達! ちょっとは良太郎を休ませてあげなさいよ!」

 

『そうだぞ皆! 野上の体は一つなんだから』

 

 

デネブとハナがモモタロス達を押さえつける。

体が小さくなっている分、体力も少し低くなっているのだ。

今まで通りに動いていたら良太郎がダウンしてしまうじゃないか。

 

ちなみに一般人から見れば良太郎にイマジンに憑依しても容姿や声は変わらずだが、特異点であるハナや補正を受けた司達から見れば憑依時には良太郎の姿が各イマジンに適応した物になる。

そうした場合ハナにデネブが憑くとツインテールになる。片方のテール部分は緑色で、それがデネブの特徴だ。

 

 

「休憩を挟みながら少しずつ回ろうか」

 

「食べたいものがあったらわたしが買ってくるわよ、なんでも言ってね」

 

 

良太郎達に付き添っていた翼と葵は、彼らの為にいろいろとやっていた。

申し訳ないとハナは言うが、コレはコレで楽しいからと翼達は笑う。

他人から見れば仲のいい親子に見えるかもしれない。それはハナも同じで、翼達の優しさがとても嬉しかった。

思わず涙ぐんでしまう。

 

 

『あぁん? 泣いてんのかハナクソ女』

 

「う、うるさいッ!」

 

『わわぁ! 駄目だぞハナちゃん!』

 

 

ハナは大きく手を振りかざすが、すばやくデネブが彼女に憑依してそれを止める。

体は良太郎なのだから、叩かれればダメージが残るのは良太郎だ。

 

 

「ごごごめん良太郎!」

 

「あはは、大丈夫だよハナさん」

 

 

良太郎は笑顔でハナの頭を撫でる。

子供扱いしないでと怒るハナだが、その顔は嬉しそうだった。

翼も葵も楽しそうに彼らを見守る、きっといい日になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かわいいよアキラちゃん」

 

「ふふ、里奈も似合ってますよ」

 

 

お互いの浴衣姿を褒めあう様子を見て、亘と我夢は思わず顔を赤らめる。

しばらく四人はいろんなところを見て回った。そしてふと亘と里奈がジュースを買ってくると言うので我夢とアキラは二人きりになってしまう。

 

 

「………」

 

「………」

 

「「………」」

 

 

さっきまで四人ではしゃいでいただけに、急に二人になると何を話していいか分からなくなる。

まわりを見れば人は多いが、それでも我夢達が座った場所は人気の少ない休憩場。我夢とアキラは気まずく沈黙してしまった。

だけどこのままというのも苦しい、我夢は勇気を出してアキラに話しかける事に。

 

 

「け、結構よくできたお祭りですよね」

 

「そう、ですねっ! 私もそう思います」

 

「………」

 

「………」

 

「「あのっ!」」

 

 

同時に言葉を投げかけてしまい、二人はあたふたと焦ってしまう。

結局、数十秒にわたる譲り合いの果てに我夢が口を開くのだった。

 

 

「こ……この前は本当にごめんなさいッ!」

 

「え?」

 

「前に……アキラさんの事を考えないでいろいろ言っちゃって」

 

 

前にブレイドの世界でけんかした時の事を言っているのだろう。

アキラは苦笑すると、我夢に微笑みかける。気にしないでと。

 

 

「私こそ……ごめんなさい。昔からいろいろ我夢くんには助けられているのに――」

 

「む、昔ですか?」

 

 

アキラは昔の事をみぞれに話した事を伝える。

奇遇にも我夢も良太郎に話していたので、二人は少し昔の話を掘り返してみる事にした。

 

 

「あの時は本当にありがとうございました……我夢くんが提案してくれなかったらと思うと――」

 

「ああいや……今はどうなんです?」

 

「あ、はい! お父さんもお母さんも昔みたいに付き合ってるんです。少し前に三人でご飯にいったんですけど――」

 

 

両親の事を話している時のアキラは本当に楽しそうだった。

我夢は微笑んでその話をしばらく聞いていた。だが、ふとした時に二人の視線が見事に重なってしまう。

 

 

「「!」」

 

 

思わず目を反らす二人。

だが、アキラの様子が少しおかしかった。何やら緊張した様子で深呼吸を繰り返している。

どうしたんだろうか? 気分が悪いと言う訳でもなさそうなので我夢は少し話題を変えてみる事にする。

先ほどアキラが何を言おうとしたのかを聞いてみる事にしたのだった。

 

 

「そ、それはですね……」

 

 

しかし、反対にますますアキラは硬くなってしまった。

何度も深呼吸を繰り返して、言葉を詰まらせるかのような行動をとる。

 

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「あの……ッ、別に――」

 

 

しかし、アキラはふと思いついたように口を開く。

 

 

「あ、あのですね! ちょっと友達から昔相談された事なんですけど」

 

「は、はあ」

 

 

焦ってますと顔に書いてあるアキラだったが、相談と言われたら真面目に答えるしかない。

我夢はアキラの友達が言っていたらしい事を聞く。

 

なんでも、特になんとも思っていなかった男の子と夢でキスまでしてしまったらしい。

その日から、現実でもその男の子が気になって仕方ないと言う事だった。

おまけにその男の子が他の女の子と仲良く、というか付き合っているのを想像すると胸が無性にザワザワして気分が悪くなる。

 

 

「って事みたいなんですけど、我夢くんはどう思いますか?」

 

「成る程。まあ、簡単な方じゃないですか?」

 

「え?」

 

「好きなんですよ、アキラさんのお友達はその男の子の事が」

 

「………!」

 

 

何故か顔を覆ってうつむくアキラ。

やはりそうなのかと彼女は胸を押さえて我夢を見る。

いきなりの行動に我夢は思わず赤面してしまった。目を反らす我夢だが、アキラはそれでもジトリと彼を見る。

少しだが、彼女の顔も赤いのは気のせいだろうか?

 

 

「な、なんですか?」

 

「我夢くんの声は……高い」

 

「えぇ?」

 

「顔も綺麗だし、体も華奢。 髪だって無駄に綺麗だし……男としてはどうでしょう」

 

「うぅぅ……っ」

 

 

言葉の槍が我夢の心を貫いていく。

そんなに女性みたいなんだろうか自分は。

これじゃあアキラに振り向いてもらうなんて不可能なんじゃ……

 

 

「だけど――」

 

「ッ?」

 

 

アキラは胸から手を離すと、大きく深呼吸をする。

そして我夢から目を反らして小さくつぶやいた。

 

 

「我夢くん、あなたが気になります」

 

「………っ」

 

 

もにょもにょと呟きながら、アキラは恥ずかしそうに顔を赤く染める。

そのあまりの――つまり簡単に言えば、我夢の思考が停止する。

 

 

「さっきのは嘘です……友達の相談じゃないんです。私の事なんです」

 

「………」

 

「あの……! 何故か今も恥ずかしいんですけど、さっきから我夢くんを見ていると心臓がドキドキするんです。食欲だって無くなってくるしこのままじゃ――」

 

 

その時だった。

アキラの手がギュッと握られたのは!

 

 

「!!」

 

「ッ!」

 

 

我夢は赤面しながらアキラの手を握っている。

そして彼女と同様に深呼吸をすると、彼女の目を見て口を開いた。

 

 

「あのっ……そのっ…! だからっ! えと……」

 

 

震える声で我夢は言葉を必死に探しているようだった。

アキラも我夢の瞳に吸い込まれそうになってしまう。若干の沈黙が流れた後、我夢は決意したようでその言葉を口にする事にした。

ええいッッ! もうなるようになれ!! 当たってくだけ……ちゃだめだけど!!

 

 

「あ、アキラさん……ッ」

 

「は、はい……」

 

「ぼぼぼ……僕はッッ! あ、アキラさんの事が……ッッ」

 

「……ッ!」

 

「アキラさんの事がすすすすす――」

 

「す、す?」

 

「す――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー! いたいたぁ!」

 

「「!!」」

 

 

ばっと二人は距離を離す。現れたのは――

 

 

「探したよ我夢くん、アキラちゃん」

 

「今から皆で回ろうって!」

 

 

二人に笑いかけたのはユウスケと薫だ。

我夢は急いで時計を見てみる、成る程たしかに集合時間は近い。

しかし――

 

 

「何やってんだぁああああああああああああ!」

 

「今からが大切なんでしょぉおおおおおおお!」

 

「「「「!?」」」」

 

 

草むらからジュースを抱えた亘と里奈がニュッと現れる!

驚く四人を見て、亘達は冷静さを取り戻していった。

ヤバイ、ばれる。見てたことばれちゃう。二人は静かに、何も無かったかのように草むらへと戻っていった。

 

そして十秒くらい経った後。

 

 

「よぉ、我夢! ジュース買ってきたんだけど」

 

「ごめんね、遅くなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、無理があるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャーキャーとはしゃぎながら楽しそうにしている女性陣を見ながら、男性陣はベンチに座っていた。

皆で回るのはいい事だが、その分荷物が多くなる。それぞれで回ったのと倍の時間だけはあるんじゃないか?

当然、大体の荷物は男性陣が持つ訳で。それをどうこう言うつもりはないが、お疲れ気味ってなもんだ。

 

何やらもうすぐ花火が始まるらしく、みんな川辺に集まっている。

彼らは寝子が用意してくれた、人気は無いが花火はよく見えると言う場所にいたのだ。

しかし、どうやらこの街の小さい祭りと言うのは自分達の世界ではかなり巨大なモノらしい。相変わらず他世界と自分の世界の違いには驚かされるものだ。

あられ達や女性陣は、今日の感想や一緒に回った時の事を話しながら騒いでいるが、男性陣は少し違っていた。

 

 

「全ての試練が終了した今、俺達が次にする事って何なんだ?」

 

「実はもう俺達の世界は救われてたりして!」

 

 

それならばそれでいいのだが。もし、逆にもう世界が滅んでいたなら?

いや、それは無いか。そうなればゼノンとフルーラが何らかのリアクションをとってくるだろう。

しかし今思う様に何だかんだとゼノンとフルーラをここまで信じてきたが、彼らの言っている事を鵜呑みにしてもいいのだろうか?

確かに彼らにはいろいろ世話になった。だが、まだ彼らが何かを隠しているのは確実。さらに言ってしまえば自分たちは彼らの思惑通りに動いている筈。

かと言って彼らに反抗する手立ても無い。どうすればいいのか――

 

 

「あはは、せめて今は楽しまないかい? いろいろと考えていると疲れちゃうよ」

 

 

答えの無い問題に悩むのは、疑心を引き起こしてしまうかもしれない。

たしかに自分達の世界が危険なのは心配だが、そう言う点では女性陣のほうがしっかりしているのかもしれないな。翼は微笑んでそう確信する。

 

 

「ほら、花火が始まるみたいだよ」

 

 

その言葉と共に、夜空に大輪の華が咲き誇る!

激しい音と共に始まる光のパレードに、皆は心奪われているようだ。

しばらくはそのまま皆、美しい花火を楽しんでいたがふいに我夢は肩を叩かれる。

 

 

「?」

 

 

我夢が振り返ると、そこには拓真が立っていた。

 

 

「拓真先輩、どうしたんですか?」

 

「これ」

 

「?」

 

 

拓真は優しい笑みを浮かべて、我夢に美しいブレスレットを差し出した。

一瞬何か分からなかったが、拓真が説明を加える。

 

 

「これ、アキラちゃんにプレゼントしてみればどうかなって」

 

「!!」

 

 

拓真と我夢に走る刹那の沈黙、そして固い握手!

 

 

 

「ありがとうございます拓真先輩、い……行ってきますッ!」

 

「うん、頑張って!」

 

 

ちらりと遠くを見てみれば同じく友里がピースをしている。

この想いを無駄にはできないと、我夢はアキラの側へと足を進めた。

 

 

「………」

 

 

しかし、この男も基本はヘタレである。

アキラの隣には行けずに、少し離れたところに待機する形……という結果になってしまった。

 

拓真は心の中で必死にエールを送る、頑張れ我夢くん!

そしてそれに気づいたのか、空野姉妹がジリジリと我夢を押す形で移動していく。

さらに不自然さを消すために、いち早く事に気づいた双護、亘、真志がそ女性陣の中へと混じっていった。

これで男女の比率はバラバラとなり、立ち位置に困る事もなくなる。

 

そして達人であるウラタロスさんが憑依した良太郎が我夢の背中を押した。

何か知らないが異常なパワーを貰った我夢は、思い切ってアキラの隣に立った。

 

 

「綺麗……ですね」

 

「そ……そうですね」

 

 

アキラは我夢に気づくと、はにかむ様な笑みを浮かべる。

しかし、やはりどこか恥ずかしそうだ。さっき、彼は何を言おうとしたのか? 

そして何より自分が言ってしまった事。

 

 

「アキラさん、あの……」

 

「?」

 

 

緊張したように震えた手で我夢はブレスレットを差し出す。

美しい海の様なブレスレットを。

 

 

「これ……どうぞ」

 

「え? いいんですか?」

 

 

我夢は首をブンブンと縦に振る。

緊張して「はい」といえなかったのだ。アキラはそんな我夢を見てクスリと笑うと、ブレスレットを腕につけた。

 

 

「綺麗ですね……」

 

 

ありがとう我夢くん。

そう言ってアキラは満面の笑みを我夢に向けた。

同じく笑顔で返す我夢。その時、振り下ろされた手と手が少し触れてしまう

 

 

「あ……」

 

「ッ!」

 

 

すぐに離そうとしたアキラ、だがその時だった。

我夢の全てを振り絞った行動がそれを拒む!

 

 

「え?」

 

 

アキラの手を、我夢が握り締めた。いや、包むように彼女の手をとる。

驚きといきなりの行動に、アキラは頬を染めて我夢を見る。同じく赤くなっている我夢が見えたが彼は恥ずかしそうにしていながらも、その手を離す事はなかった。

 

 

「………」

 

 

アキラの鼓動が急激に加速していく。

手から伝わる我夢の体温が、今の自分の状況をよりリアルに心へと伝えていた。

そして、それがきっかけとなって今まで彼と過ごして来た日々がフラッシュバックしていく。

 

よくドジをしている所を見ていたからか、弟みたいにしか思ってなかった。

女の子みたいな男の子。だけど夢とはいえ初めて男の彼を意識し始めてから、今本当の彼を見たのかもしれない。

 

 

「………」

 

 

いろいろ、彼の事を見てきたけど――

 

 

「あ……」

 

 

結構、よく見ているんだな。

アキラも、我夢の手を握り返した。二人は互いに微笑み合うと花火に視線を戻す。

心臓の鼓動は落ち着きを取り戻して、心地いいリズムを刻んでいる。まるで世界が切り離されて二人だけになったような気分だ。

いや、そうなのかもしれない。今我夢とアキラの世界は完成したのかもしれない。

二人はそのまま花火が終わるまで手を取り合ったままだった。彼らの世界は、確かにその存在を形成していたのだ。

 

 

「あー! 綺麗だったわ!」

 

「うん! とっても……綺麗!」

 

 

花火が終わり、皆は帰路につく事になった。

もう少し余韻に浸っていたかったが、もう夜も遅くなってきた。

ゼノンから連絡がきて、もう少しこの世界に留まるかもしれないと言って来たので寝子達と明日の約束をして別れる事にする。

だが、アキラと我夢の関係が大分進んだと確信した司達は、彼らを二人きりにするべくお使いを頼んだ。

 

 

「綺麗でしたね、花火」

 

「はい、とっても……!」

 

 

だから、今はまた二人きりだ。

十二時までやっているスーパーがあるらしいので、二人はそこへ行く事にする。

しかしそこで見計らったように電話がかかってきて、やはり材料はあったからとお使いを撤回させた。

 

 

「あはは、いろいろと気を使われますね僕達」

 

「ふふっ!」

 

 

二人は苦笑いを浮かべる。

しかし、せっかく与えてくれたチャンスなのだ。我夢は覚悟を決める!

 

 

「そうだ、このブレスレットありがとうございます。大切にしますね」

 

「は、はい!」

 

 

もう一年分の勇気を使ったかもしれない、だけどここで引いたら後悔する気がした。

我夢は決意を固める、そしてアキラの名前を呼んだ。

 

 

「アキラさん――ッ!」

 

「はい?」

 

「あ…あのっ、さっき言おうとした事なんですけど――」

 

 

アキラも思い出したのか、真面目な顔で我夢に向き合う。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

アキラは我夢の言葉を待つ。

我夢も迷っていてもしかたないと悟ったのか、ハッキリと彼女に向かって言った。

体も声も震えているし、顔も真っ赤だが気持ちだけは真っ直ぐに言う。

言わなければならないのだ。じゃないと先になんて進めないから――ッッ!!

 

 

「ぼ、僕はッッ!! あ、あ……」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼ、僕はッッ!! アキラさんが……好きですッッ!!」

 

 

その瞬間、世界の時間は止まった。

動いているのは我夢とアキラだけ、アキラは目を閉じて沈黙していた。

分かっていたのか、それとも――

 

 

「あのっ、アキラさんの気持ちはまた今度でいいんで――ッ」

 

「えっ?」

 

「僕、ジュース買ってきますね!」

 

「あ!」

 

 

そう言って我夢は走り去る、生まれて初めての告白。

我夢はいろんな感情が混ざりあって、つい逃げ出してしまった。

そんな感情が伝わったのか、アキラはやれやれと笑って近くのベンチに座る。

 

 

「………」

 

 

胸を押さえてみる。

心臓の鼓動は早いが、決して苦しくない。ああ、そうか――

 

 

(私――)

 

 

目を閉じれば我夢の事が浮かんでくる。

ああ、そうか。そうなんだなと自分に言い聞かせる。

 

気がついてなかった、今までずっと――

アキラはクスリと笑う。そう言えば今までの彼の行動はそう言った感情がありきだったのかな?

彼女は我夢の事を考えて、彼が帰ってくるのを待った。今日も本当に月が綺麗だ。

 

さて、何て返事をしようかな?

またアキラは笑う、自分でもびっくりするくらいに。

こんな感情は生まれて初めてかもしれないと、彼女は笑う。

 

そして――

 

 

「すみません――」

 

「え?」

 

 

月は、何も知らず、何も語ることなく光を放つ。

今夜も、恐ろしく、悲しく、そして怖いほどに美しい。まるでそれは、涙の様に。

 

 

 

「アキラさん!」

 

 

少し時間が経って、ジュースを二本抱えた我夢がやってくる。

緊張しているのだろう。曖昧な笑顔の彼は、震える手でアキラにジュースを差し出した。

アキラもまた、震える手でそれを受け取ると、小さくお礼を言う。

 

 

「?」

 

 

どうしたのだろうか。

アキラの雰囲気が先ほどとはまるで違う気がする。

顔色が悪い。と言うか、体も震えているし何度か話しかけても耳に入っていないようだ。

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「………ッ」

 

 

心配になった我夢は、思わずアキラの肩に手を置いてしまう。

そこでやっとアキラは我夢が自分にしきりに話しかけている事に気づいた。

いつものアキラなら、気がつかなかった事を謝罪しただろう。だが彼女はグッと歯を噛んでうつむく。

 

何かに葛藤しているかの様なそぶりだった。

だが我夢は彼女が何に迷っているのか全く分からない。だから彼女が自然に口を開いてくれるのを待つ。

やはり、いきなりすぎたのだろうか。友達から一線を超えた存在になってほしいと言う事は簡単な事じゃない。

もし断ればその関係が壊れてしまうのではないかと、ネガティブになる。

じゃあ、それなら彼女は……彼女の答えは――

 

そして、我夢にかけられた言葉。

 

 

「我夢……くん」

 

「は、はい!」

 

「返事を……今してもいいですか?」

 

 

我夢の心臓が止まりそうになる。

覚悟を決めたとは言え、緊張でどうにかなりそうだ。だが、一度言ってしまった以上もう逃げられない。

だから、我夢は一番いい答えを切に望む。

 

 

「我夢くんは私の事……好きなんですか……?」

 

「えっ……!」

 

 

改めて聞かれるとかなり恥ずかしい。

だがまあ嘘ではないので、我夢は赤面しながらも頷いた。

しかし、そんな彼に向けられたのは冷たいナイフの様な視線。

 

 

「アキラ……さん?」

 

「ごめんなさい、我夢くん」

 

「ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、あなたが……好きじゃありませんッッ!」

 

「――ッ!」

 

 

我夢の目の前が真っ白になる。

これは、つまり、そう言う事なのだろうか。いやそう、そう言う事なのだ。

フられたと言う事。

 

 

「あ……ははは、えっと――っ」

 

「さっき手を握られた時も……ッ、本当は嫌で嫌で仕方なかった! 男のくせに女みたいで……気持ち悪いッ!」

 

 

さらに、今度は完全な拒絶の言葉が我夢に襲いかかる。

結構ずっしりくるな……! 我夢は完全に上辺だけの笑みを浮かべて、アキラとの距離をあける。

 

 

「少しの感謝があるからって勘違いしないでください! 我夢くんなんて私の好みでもなんでもないんです!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「……ッ!」

 

 

アキラは我夢を睨みつけると、少しずつ後ろへ下がっていく。

そしてとうとう背を向けて言い放った。

 

 

「さっきの告白みたいなので限界がきました。消えてください、顔も見たくない」

 

「………ッ」

 

 

心が、ナイフでめった刺しにされたと言ってもいいだろう。

我夢は泣きたくなるほど悲しかったが、涙すらショックで出ない。

せめてこれ以上嫌われない様に、言われたとおりに消えようとアキラに背を向ける。

だが、その時だった。拍手が聞こえてきたのは

 

 

「ッ!」

 

「!?」

 

 

アキラの真上、つまり空からソイツは降りてきた。

鬼のような形相に大きな鼻、そして木々がまるで衣の様になっている。

まさにたとえるなら……鬼天狗(おにてんぐ)

 

何だコイツは? この街に人ならざる存在はいないんじゃなかったのか!?

混乱する我夢だが、鬼天狗が言った一言で彼の目の色が変わる。

 

 

「天美様、もうその辺でよろしいのではないでしょうか」

 

「………」

 

 

何故コイツは彼女の名前を知っているんだ?

それにどうしてその事について彼女は何も反応しない!?

我夢の混乱はさらなる加速を告げる。

 

 

「ど、どういう事なんですか!?」

 

 

理由を求める我夢だったが、アキラも鬼天狗もその言葉には答えない。困惑する我夢を見て鬼天狗は小さく笑う。

そして鬼天狗は言った。アキラはある特別なイベントのゲストに選ばれたのだと。

そのイベントの準備をしなければいけないので、どうか我夢には先に帰ってほしいとの事だった。

 

そこに敵意や殺意などはない。あくまでも優しい口調で鬼天狗は言う。

そして、彼の隣で我夢を見る事もなく俯くアキラ。

 

 

「ほ、本当なんですか?」

 

「……そうですよ、帰ってください我夢くんは」

 

 

いや、いくらなんでも怪しすぎる。

我夢はアキラがトラブルに巻き込まれたのだと思い、思い切ってアキラの手を半ば強引に取った。

 

 

「逃げましょう!」

 

「――ッ!」

 

「相原様……勘違いをされては困りますね」

 

 

何を言っているんだ!?

我夢は鬼天狗の言葉の意味を理解しようとする。

しかしそれよりも早く訪れたのは、左頬に走る衝撃だった。

 

 

「……ッッ!?」

 

「――ッ」

 

 

アキラに叩かれた。

それは拒絶。あろう事かアキラは我夢の手を振り払うと、そのまま鬼天狗の元へと走る。

信じられなかった、明らかに鬼天狗は普通じゃない。それなのに何故?

 

 

「コチラの方が言っている事は本当です。何を勘違いしているのかは知りませんけど、あなたの勝手な妄想を振りかざすのはやめてッ!」

 

「ッ!!」

 

「分かったなら、早く帰って!」

 

 

心が抉られるほど辛い、我夢は思わず怯んでしまった。

結局アキラは何もおかしくないのか? 自分が勝手に想像して、彼女を困らせているだけなのか?

我夢はもう何がなんだか分からなくなっていた。

 

 

だが、そこに割り入る者が三人!

 

 

「ちょっと待ちなッッ!」

 

「「!」」

 

 

我夢が振り返ると、そこにあられ、みぞれ、寝子が立っていた。

彼女達は帰った筈では? 我夢はますます分からなくなる。誰でもいいからこの状況を教えてくれと叫びたいほどに。

反対に、あられは我夢とアキラに少しだけ視線を移すと、そのまま鬼天狗を睨みつける。まるで氷の様に冷たい視線だったが、鬼天狗に怯む様子は無い。

 

 

「これは……何なんだい?」

 

「はて? 質問の意味が分かりませんね」

 

「どうして、"そんな姿"になってんのかって事だろ!」

 

 

後ろにいたみぞれも鬼天狗を睨む、我夢はただ立っている事しかできない。

対峙し合うみぞれ達と鬼天狗。普通じゃない、絶対に何かおかしい! どう言う事なんだ!?  この世界は安全じゃないのか!?

 

 

「お迎えの為ですよ、すぐに消えます。では参りましょうか天美様」

 

「……はい」

 

「迎え? 何言って――っておい!!」

 

 

鬼天狗はアキラの手を取ると、黒い風を発生させる。

その異常な光景に思わず我夢は、アキラの名前を呼びそうになった。

だがまた拒絶されるのがオチだろう。怖かった、彼女にこれ以上嫌われる事が。

そして、風がはれた時にはアキラも鬼天狗もそこにはいなかった。

 

 

「………」

 

 

寝子達が何か深刻な面持ちで話し合っているが、我夢の耳には届かない。

もう、逃げ出したくなる。だが、そんな中でもその音声だけは皮肉にも耳に入ってきた。

 

 

『アイスレディ!』

 

「「「「!!」」」」」

 

 

何だ!?

辺りを見る我夢達、そして瞬間。彼らの動きが止まる!

 

 

「ッ!!」

 

 

そして四人は気づく、足が凍っている事に!

 

 

「なっ!」

 

 

足は凍りつき地面へと固定されている。その為、一歩も足が動かなかった。

さらに、我夢達の前に畳み掛けるようにして、その女が現れる。

髪は深い青、そして薄い紫の着物に身を包んだ女性。そしてその周りにはオーラの様にして冷気が滞っている。

人間に見えるがすぐに分かる。これは普通の人間じゃない事がだ。

 

 

「アンタ……ッ!」

 

 

その姿を見て、あられとみぞれの目の色が変わった。

信じられないと言う目だ、そして同時に怒りも見える。

それを証明するかのように、あられは声を荒げて女に話しかけた。

 

 

「アンタ、名前はっ!」

 

「……私は、(ひょう)と申します」

 

 

雹と名乗った女性は、黒い笑みを浮かべて我夢達を一瞥した。

尚も、あられは雹へ叫ぶ様に話しかけている。

 

 

「この力……アンタも里の仲間だろう! だったら、今自分が何してるかわかってんのかいッ!?」

 

「さあ? 私にはよく分かりませんが」

 

「そんな訳あるか!! あれだけ言われただろうに! この力は人を傷つける為には絶対に使うなって!!」

 

 

相当怒っている様子のあられ。

我夢には何の事か全く分からないが、それは雹も同じなのだろうか?

返事の変わりに彼女はニヤリと笑って、手を我夢達に向けてかざす。

 

 

「ぐっ!!」

 

「ッぁ!!」

 

 

我夢達の足を拘束していた氷が、勢いを増して腰の高さまで広がってくる。

冷たいと言うより痛いといえばいいか? 恐怖も若干あったが、何よりいろいろな感情が混ざり合ってとにかく気持ち悪い。

そして四人の腰までの氷は我夢達を完全にロックする。冷気と痛みが精神を削り、体力を奪う。

 

 

「オホホホホッ! 生きながらにして凍らされていく感想はありますか?」

 

「何を考えているの!? 今すぐに離して!」

 

 

寝子の言葉でますます雹の笑い声は大きくなる。

いまだに信じられないといった様子で雹を見る寝子達、そして訳が分からないと我夢。

一体なにが起こっているんだ!?

 

 

「里の掟を破るのかい!」

 

「里? そんなもの知った事ではありません。私は生きながらにして凍らされる人間を見るのが大好きなのです!」

 

「ッ! アンタぁぁッ!!」

 

「姉さん!」

 

 

その言葉でついに、あられとみぞれがキレる。

怒りの声を上げて二人は力を込めた、すると彼女達の髪が青く染まっていくではないか。

水色や紫がかった青、ますます混乱する我夢を差し置いて二人は『力』を発動させた。

 

 

だが――

 

 

「「!!」」

 

「うふふ、どうしたのですか? あられさんとみぞれさんでしたか? いえ、こうお呼びしたほうがいいのかしら――」

 

 

尚も拘束されたままの二人を見て雹は笑う。

そう、ますます黒い笑みを浮かべた雹から放たれる単語。

それで我夢の思考は完全に停止した。

 

 

「ねえ、そうですよね? 雪女さん?」

 

 

雪女……? それって――

 

 

「雹! アンタどう言う事なんだいコレは!!」

 

「氷が……溶けないッ!?」

 

 

焦る二人を滑稽と馬鹿にして、雹はさらに力を発動させた。

腰から胸まで広がる氷、我夢達の脳裏に焦りと恐怖がよぎる。

 

動けない!

だが死がだんだんと近寄ってきているのだから、逃げる?

無理だ、拘束されていて一歩も動けない!

 

 

「くそっ! 普通の氷じゃないのか!」

 

「オホホホッ! さあ、生きたまま、絶望したまま凍るがいいわ!」

 

 

我夢の胸にまであった氷がまた侵食していく。

冷たく、痛いその絶望という氷結の檻は、我夢達の心まで凍らせようとしていた。

思考が停止していく。動けないと言う事もあるが、どうしようもできない四人は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその時、コロコロと何か赤い球体が転がっているのが見えた。

 

 

「?」

 

 

その赤い球体。

りんごはそのまま転がっていき、それを許さぬ男の手にスッポリと収まる。

誰の? 金髪が目立つ燕尾付きスーツ姿の少年だった。手袋やスーツの形状を見るにまさに執事と言う風貌の少年だ。

 

 

「おや、なにやら面倒事の様ですね」

 

「君! 逃げろ!」

 

 

みぞれは気力を振り絞って声をあげる。

ここにいたら君まで凍らされてしまう、と少年に向かって叫んだ。

しかし少年はあくまでも冷静にりんごを拾い上げるだけ。これまたおかしいと我夢は思う。

普通一般人ならこの異常な光景に叫び声の一つでもあげるだろうに。

 

なら、答えは一つ。

彼は一般人ではないと言う事。

 

 

「氷の力ですか……うらやましい」

 

「「!?」」

 

 

少年はりんごを袋の中に戻すと、袋を地面へと置いた。

何をしているんだ!? 早く逃げないと大変なことになる!

そうやってみぞれはまた叫ぶが、少年はその言葉を聞こうとはしなかった。

大丈夫ですとジェスチャーをやって見せる少年は、まじまじと雹を見つめる。

雹も少年が普通ではないと悟ったのか、すぐには手を出さない。いや、出せないようだ。

 

 

「……何か?」

 

「もし私に氷を操る力があれば……お嬢様にいつでも涼しい思いをさせてあげられるというのに」

 

 

私にはその力がないと、少年はため息をつく。

 

 

「うらやましいですね、嫉妬しますよ、本当に……」

 

 

ですが、と少年は雹を睨みつけた。

その鋭い眼光はまさに百獣の王を称するライオンが、今まさに獲物を捕らえたかのようだ。

思わず雹も身構える、この男は普通ではないと! そうだ、この光景を見ても焦らない時点で普通ではない。

 

 

「この行動は『嫉妬(しっと)』できませんね」

 

 

そして少年は、何かを取り出して腰の前まで移動させた。

気づく、ベルトだ! 少年の腰にはベルトが巻かれていたのだ!!

 

まさか、と我夢は思う。しかしそのまさかは当たる事となった。

雹は少年の異常な落ち着きに恐れたのか、自らの冷気で氷像の戦士を作ってみせる。

そんな事ができるのかと驚くあられ達を尻目に、その戦士を少年へと襲いかからせていくが――

 

 

「殺せぇえッ!!」

 

「………」

 

 

その男、タイガに向かっていく三体の戦士達。

その氷でできた剣を振りかざしてタイガの頭を狙う。

寝子は小さな悲鳴を上げた。一般人ならば、そのまま振り下ろされた剣に頭から切り裂かれて鮮血を撒き散らすと言ったところだろう。

だが以外にも少年は軽い身のこなしで戦士達の攻撃をかわしていく。跳躍し、素早く駆けて翻弄する。

 

 

「遅い」

 

「ッ!」

 

 

さらに隙あらばカウンターのキックや裏拳を決めていくではないか。

それだけじゃない、最も印象に残る様子と言えば彼の攻撃が決まった時、なにやらジャキンッと耳に残る音がしたと言う事。

そしてその音が三回なった時ある事に気づく。少年のベルトに何かが装填されていた。いつのまに? それよりアレはなんだろうか?

見たところメダルに見える。ベルトには三枚のメダルがセットされており、少年はそのバックル部分を斜めに押し倒した。

直後鳴り響く待機音、間違いないと我夢は確信する。やはりこの人も――!

 

 

「変身――」

 

 

タイガは、斜めに倒したバックルにスライドさせるようにして何か丸いものをかざす。

すると、キンッとまた小気味のいい音が三回鳴り響いた。

 

 

『ライオン!』

 

 

それは――

 

 

『トラ!』

 

 

間違いなく――ッ!

 

 

『チーター!』

 

 

変身ッッ!!

 

 

「「「!」」」

 

 

タイガを中心として、メダルを模したエネルギーオーラが発生する。

それらは二週ほどタイガの周りを回転した後に、上中下と三枚のメダルオーラが留まった。

電子音が知らせた通り上からライオン、トラ、チーターを連想させるデザインの物。

 

そしてそれら三つは一気に合体して、『一枚』に変化する。

そのままタイガの胸に収まると、タイガの姿は獅子の咆哮と共に変わった。

文字通り、変身するのだ。

 

 

【ラタラタァ―ッ! ラトラーター!!!】

 

 

現れたのは――

 

 

Ride() On() Right(ラー) Time(ター)。さあ、次は私に『嫉妬』してください」

 

 

紛れも無い、仮面ライダーだった。

仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ。

 

 

「くっ! なんだ? は、早く殺せッ!!」

 

 

氷の戦士達は雹の命を受け、ラトラーターを囲むようにして立つ。

しかしラトラーターから放たれる咆哮が、文字通り全てを消し飛ばした。

 

 

「何ッ!? ぐあああああああああ!」

 

 

ラトラーターの頭部から熱を帯びた光が放たれる。

ライオディアス。その激しい光と熱に雹は苦痛の悲鳴をあげるが、我夢達にとっては暖かな優しい光に見えた。

光は我夢達を閉じ込めていた檻、氷を一瞬で溶かすと我夢達を解放させる。

同時に氷の戦士達も完全に溶かしきっている。雹は怒りを露にしてラトラーターを睨みつけた。

 

 

「貴様ッ!」

 

 

怒りの形相を浮かべまま、雹はラトラーターに向けて氷の弾丸を発射した。

だがラトラーターには当たらない、チーターの如く辺りを素早く駆け回りながら雹の狙いを外していき、その手・トラクローを展開させ雹を切り裂いた!

 

 

「あぐぉっ!」

 

「降参してください、貴女では私には勝てない」

 

「黙れ! 邪魔をするな!」

 

 

雹は蹴りや氷柱を剣に変えてラトラーターを狙うが、彼は的確な爪さばきでそれらをねじ伏せていく。

そして一瞬でトラクローを雹の喉へ突きつけて降伏を要求する。

雹は悔しそうにしていたが、しばらくするとうつむいて動かなくなった。

諦めたのだろうか?

 

 

「残念! 後ろが大変ですよ?」

 

「……?」

 

 

いきなり顔を上げる雹、その表情は笑み。

滑稽だと、哀れだとラトラーターを見下す下卑た笑顔だった。

後ろ、つまり我夢達の事だ。急いでラトラーターは振り向く、すると先ほど溶かした筈の氷の戦士が我夢達に剣を突きつけているではないか。

 

 

「消えたのなら、新しく作ればいいだけの話。さあ逆転ですね」

 

「………」

 

「少しでもおかしな動きをすれば彼らを殺しますよ」

 

 

雹は勝利の笑みを浮かべた。

人質というやり方であろうとも、勝利は確定する。

命のやりとりにおいて卑怯も何もない、彼女は無抵抗のラトラーターに氷のナイフを振りかざした。

これを振り下ろせば――!

 

 

「ッッアアァアァアア!!!!!」

 

 

だがその時、雹の腕に衝撃と痛みが走る。視界に現れたのは美しい足。

足? 視線を移す雹に、再び焼け付く様な痛みが襲い掛かる。五本の赤い線が雹の腕に刻まれたのだ!

たまらず後ろへ下がる雹、そこに居たのは鮮やかな赤い髪の少女。雹は危険を感じ、人質を使う為に戦士に指令を出す。

だがしかし戦士は反応しない。何故!? 混乱する雹の視界に飛び込んできたのは、バラバラにされた戦士達の姿だった。

 

 

「なんだとッ!?」

 

「よくもやってくれたわねッ!」

 

「なっ!」

 

 

雹は赤い髪の少女の正体が寝子だと言う事を理解した。

服が同じなのだ、容姿と若干声が変わっているが間違いない。

しかし今の寝子は先ほどまでの彼女とは全く別人に見える。長く美しい黒髪も、今は鮮やかな赤のショートヘアーになっているではないか。

それに目の形も変わっている気がするし、何より口調が荒々しくなっている。

寝子はその手に備えられている鋭い爪で雹を押し出し、そこでラトラーターもチャンスと理解したのか思い切り上空へと跳躍した。

 

 

「――ッッッ!!」

 

「アヒャヒャヒャッッ!!」

 

「「!!」」

 

 

しかし、そこへ鞭の様にしなる羽衣が参入してくる!

羽衣は、寝子とラトラーターの間に押し入り瞬時に硬質化した。

盾となった羽衣に、二人の攻撃は弾かれる事となる。

 

 

「すまない、笑い般若」

 

「くふふふ、戻るぞ雪女ァ!」

 

 

暗闇から『笑い般若』と言われた者がやってくる。

文字通り笑っている般若の仮面をつけており、平安時代の貴族が着用しているような束帯と言う風貌。

ラトラーターは舌打ちをして走り出す、どうやらこいつ等は逃げるつもりらしい。

させまいと高速で駆けるがそれよりも早く雹たちは姿を消してしまった。

 

 

「……やれやれ」

 

 

ラトラーターは周りを確認するが、どうやら完全に気配が消えた。

敵の気配が無くなった事を完全に理解すると、変身を解除するラトラーター。

そして、タイガへと戻った彼は我夢の元へと駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 

みぞれやあられも、タイガにお礼を言う。

タイガは軽く返事をすると、スーパーの袋を抱えて我夢達に背を向けた。

 

 

「それでは、皆様お気をつけて」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

あまりにも普通に立ち去ろうとするタイガ。

しかし寝子達からして見れば命の恩人なのだから、このまま帰すのもどうかとあられ達は顔を見合わせる。

だが何より我夢の一言はタイガの耳に鋭く刺さった。

 

 

「あの……すいません。か、仮面ライダーですよね?」

 

「!」

 

 

タイガは驚いた様に振り返る。

しばらくそのまま我夢を見つめていたが、なにかを思い出したようで、我夢の近くまで足を進めた。

 

 

「まさか、貴方がディケイド組みの?」

 

「は、はい! 相原我夢と言います」

 

「そうですか、私はタイガと言います。少し立場は違いますが貴方達と同じ世界移動を繰り返す身です。どうかよろしく」

 

「え!? あ、はい」(僕ら以外にもいたんだ……)

 

 

二人は握手を交わす。

冷静さを取り戻した我夢は、まず寝子達の方を見た。

彼女達は人間じゃない。同時に、寝子達も我夢とタイガが普通の人間ではないと理解したようだ。

 

 

「どう言う事なのか教えてくれない? 世界とか、仮面なんとかとか」

 

「それはコチラもですよ、あなた方は人間ではなさそうだ」

 

 

我夢もそれは気になっていた。

寝子、みぞれ、あられは今まで我夢が見てきた容姿と違っている。

みぞれとあられは髪の色が変わった程度。だが寝子に至っては髪の色だけでなく長さ、そして若干慎重も縮んでいるし、声も少し違う気がした。

もう完全に別人といってもいいくらいだ。なんか性格まで変わっているような気も。

 

 

「そうね、もう見られちゃった訳だし……全て話す必要があるのかもしれない」

 

「それに、アキラの事も気になるしね」

 

 

我夢はその言葉を聞いてうつむいてしまう、心を押しつぶされるような感覚だ。

自分は彼女に嫌われてしまっただろうか? それにしても、彼女は何故……?

我夢は空を見上げる。月は相変わらず美しく、悲しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「変身!」」『Complete』

 

 

光と共にアギトとファイズが姿を見せる。

赤いラインが夜に目立つファイズ。その後ろでは女の子が気絶していた。

怪我をしているらしく、早く学校の保健室に運びたい所。だがしかしそれを簡単には許してくれない存在が目の前に現れる。

 

 

『ほぅ、貴様ら……』

 

 

黒い装束。暗黒と称してもいい程黒と紫の長髪、そして表情を見せない不気味な仮面。

その異質な、それはもう目に見える程に闇のオーラを放つ者がファイズとアギトの前に立ちふさがる。

 

 

(何者なんだ……コイツ)

 

『それはコチラが聞きたい程だ、貴様ら何者だ』

 

「!?」

 

 

今、自分は声に出してしまっていたのか?

ファイズは少し焦りを覚える。この異質なオーラに気おされてしまったのか!?

 

 

「この女の子をどうするつもりだったんだい?」

 

 

アギトはその問いを無視して逆に質問を。

我夢とアキラの帰りが少し遅かった為、心配して翼と拓真が代表して迎えに行く事になった。

しかしその途中、後ろで倒れている女の子がコイツに追われていたのだ。

いや、追われているなんて生易しいモノではない。あきらかに殺そうとしていた。

そしてその方法は人間ではできないモノ。闇のエネルギーを放出した方法は、あきらかに人外のモノだ。

 

 

『貴様らに話す必要は無い。今すぐその女をコチラに渡せ、でなければ――』

 

 

黒き者が手をかざすと、アギトとファイズはそれが開戦の合図だと理解した。

話し合いは不可能。二人は何かが来ると言うのを予測して左右に跳ぶ。

案の定というべきか、先ほどまで彼らが立っていた場所には剣が生えていた。

もしあのまま立っていたらその体を貫かれていただろう。

 

地面からの奇襲をかわした二人は、女の子を連れて逃げようと考える。

アギトは小声で、ファイズにアクセルフォームで女の子を連れて逃げるように言う。

女の子を残して戦闘はできない。戦力は分散されるがその方がずっといい。

ファイズもそれを了解すると、メモリに手を伸ばした。

 

 

『悪いが、それは許さない』

 

「「!」」

 

 

黒き者は、素早くファイズの元まで移動すると回し蹴りを決める。

激しい衝撃でファイズの手から弾かれるメモリ。あれだけ小さな声で喋っても聞かれていたのか?

ファイズは急いでメモリを拾おうと走り出した。アギトも妨害を防ぐ為に黒き者に攻撃を仕掛ける。

 

だがアギトの拳は黒き者には届かない。

まるで赤子の手をひねるかの様にアギトの攻撃を受け流すと、またファイズのメモリを蹴り飛ばす。

 

 

「しまっ!」

 

 

驚くファイズの視界が黒く染まる、顔に蹴りを入れられたのだ。

よろけるファイズを強引に投げ飛ばすと、着地地点に闇の剣を放り投げて追撃を加えていく。

驚くべきなのは、その間ずっとアギトは黒き者を止める為に攻撃をしかけている事だ。

つまり黒き者はアギトの猛攻を全て回避したうえで、ファイズに攻撃している。

そして打ち上げられたファイズが倒れるのを確認すると、かわしつづけていたアギトにカウンターを。

 

 

「グッッ!!」

 

 

黒き者の体は小さい。アギトのストレートを回避して彼の懐にもぐりこむ。

そして胴体に手を当てるとそこから闇を発射、吹き飛ぶアギトにエネルギーで追撃を加える黒き者。

只者ではない、かなりの実力者だろう。アギトは何とか倒れないように踏みとどまりながら彼を睨む。

 

 

(まいったね、この世界は平和の筈じゃないのかな――ッッ!!)

 

 

このままでは負ける可能性も。

アギトはベルトの中心に手をかざした、ストームの暴風でヤツを拘束するしかない。

とにかく第一はこの女の子の保護だ。嵐の中に閉じ込め、その隙に空を飛んで逃げれば――

 

 

『ふむ、やっかいだな』

 

「何ッ!」

 

 

アギトがストームハルバードを出現させた瞬間だ。

そのわずかな時間なのにも関わらず黒き者はその髪を伸ばし、アギトの手に絡ませる。

そしてストームハルバードを奪い取ると、遠くへと投げ捨てた。

 

 

「!」

 

 

しかしまだ風を操る能力を封じた訳ではない。アギトはバックステップで距離をとる事に。

だがアギトが着地した場所に敵は剣を出現させた。対応が遅れたアギトは地面から生える剣に弾かれ宙を舞う。

回転しながら地面に叩きつけられるアギトを、黒き者はつまらなさそうに見ているだけ。

 

 

「ガァッ!」

 

「先……生ッ」『READY』

 

 

ファイズはぼやける意識を奮い立たせて立ち上がる。

素早くポインターにメモリをセットして足に装着すると、間髪いれずエンターのボタンを押した。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

ポインターに赤い光が充満し、ファイズは飛び上がる。

この必殺技を避ける事は難しいだろう。そう、はじめて見る者にとっては。

あとはポインターでロックすればそのまま女の子を抱えて逃げればいいと彼は判断した。

 

 

「!!」

 

 

ポインターから赤い光が放たれるのだが、それが分かっていたかのように黒き者は横へ跳ぶ。

見事に外れ展開される事なく消滅するポインター。ありえない! 今の動作だけでポインターが放たれる事が分かるなんてありえない! ありえない筈なのにッッ!!

 

 

『消えろ』

 

「ッ!」

 

 

闇のエネルギーを爆発させ、空中で身動きの取れないファイズに命中させる。

あまりの衝撃に吹き飛びながらファイズの変身は解除され、地面に叩きつけられて気絶する拓真。

彼に止めをさそうと黒き者は歩き出しながら後ろに剣を出現させる。

すると何かにヒットする音。アギトだ、黒き者はアギトに視線を移す事なく彼に攻撃を当てる。

 

 

「ガハッ!」

 

倒れたアギトに降ってくるのは巨大な黒。闇の爆発が込められたエネルギーを受け同じく変身が解除されるアギト。

結局ファイズとアギトは黒き者に一撃とて攻撃を当てる事なく敗北してしまう。

 

 

『ピピピピピピ』

 

『!』

 

 

しかし、今まで常に余裕だった黒き者に初めて攻撃がヒットした。

ファイズ達の危機を察知したオートバジン。バジンは三人を助けるために黒き者に無数の銃弾を浴びせていく。

 

 

『チッ!』

 

 

黒き者が怯んだ一瞬の隙にオートバジンは拓真、翼、少女の三人を抱えて姿を消す。

今から追っても無駄か? 仮面をしている為に表情は分からないが、彼は悔しそうに拳を握り締めると深い夜に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それを見つめる影が二つ。

 

 

「どう言う事なのかしら……」

 

「さあ、どうだろうね」

 

 

フルーラはオレンジ色のゴーグルをゼノンに渡す。

今の二人には全く想定にしていなかった事が連続でおきている。

この世界には人ならざる存在はいないと聞かされていたが……?

 

 

「まあ、ボクらが騙されたんだろうね、ご 主 人 様 に」

 

 

やってくれたなとゼノンは笑う。

しかし同時に疑問にも思う事が一つ、何故ご主人様は自分達に嘘の情報を与えたのか?

 

 

「ねえ、ゼノン……」

 

「うーん、やっぱりそうなのかなぁ」

 

 

実は、今までにもこう言う事があった。

その時には決まってある事が起こる、今回も例外なくそうなのだろうか?

 

 

「まあ嘘つかれた時は……」

 

 

誰かが『死』ぬ。

 

 

「………」

 

「残念かい?」

 

「どうなのかしら」

 

 

少し暗い表情になるフルーラを見て、ゼノンはため息をつく。

どうやら案外彼らに感情移入してしまったのかもしれない。

心の中でくすぶる何かを感じながら、二人はその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

一方学校に戻ってきた翼達を見て寝子達の眼の色が変わる。

どうやら女の子は彼女達の知り合いらしく、特に寝子にとっては相棒。

つまりチャイルドキャッツの片割れと言う事だった。そんな彼女が何故追われていたのか? 謎は深まるばかりだ、それにアキラの事もある。

 

何故彼女はいきなり姿を消すこととなったのか?

さらわれたと騒いでいた女性陣達だったが、我夢から彼女自身が鬼天狗に着いて行った事を知らされると複雑な表情を浮かべる。

落ち込む我夢の様子を見て、告白も上手くいかなかったのだろうと皆、落ち込んでしまう。

 

 

「あれ、そう言えばタイガさんは?」

 

「ああ、何かお嬢様をお待たせしてはいけないとか何とか……とにかく、用事があるって言って帰っちゃったよ」

 

 

亘の話では、以前別の世界でタイガとは会ったらしい。

ならば、やはり彼もまた世界を移動できる存在なのか、敵ではなさそうだが?

ますます混乱してくる。だが、そうこうしている内に拓真と翼が意識を取り戻し、女の子『幽子』も目を覚ました。

 

 

「幽子ッ!!」

 

「……ぁ」

 

 

幽子は着物に黒髪と、まるで和人形のような美しい少女だった。

成る程、寝子と幽子が人気者なのも頷ける話である。すっかりおしとやかな性格に戻った寝子と、あられ達は意識が戻った幽子に駆け寄る。

幽子は今自分がいる状況を素早く理解すると、声を荒げて寝子達に状況を伝えた。

しかしパニックになっているのか、呂律がうまく回っておらず、落ち着けるのにまた時間がかかってしまった。

 

そしてしばらく時間が経ったところで、何とか幽子は落ち着きを取りもどす。

葵が入れた紅茶をゆっくりと飲むと彼女はため息をつく。

 

 

「大変……なの……」

 

 

震える彼女の手。ただ事ではないと彼女は顔を青ざめる。

 

 

「何があったのか、話してくれませんか? もちろん、俺達も全て話しますから」

 

 

司の言葉に寝子達は頷く、事態は想像以上に深刻なのだと彼女達は悟ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

思わず、その間抜けな言葉が出てしまった。

とは言え、世界移動をしていろいろな世界を旅していると寝子達に告げた時、彼女達もこの言葉がでてきた訳だが。

驚かせた後は驚かされる事となった司達。思わずもう一度聞いてしまう、だが聞きなおしても返ってくる言葉は同じだった。

 

 

「私達は全員人間じゃないわ、妖怪なのよ」

 

 

息が止まりそうになる。まあ、今までいろんな種族を見てきたが……

それはファンガイアだったり、アンデッドだったりと姿が明らかに人間じゃない者達。

だが妖怪と言ういやに生々しい存在に変なリアルを感じてしまうのだ。なまじ容姿が固定化されていないだけにだろうか?

とにかくとして、そんな司達をよそに寝子は説明を続ける。

 

 

「驚いたかしら? 無理も無いわ、でも本当なの。みぞれ達姉妹は『雪女』、私は『猫娘』、幽子は『座敷童』なのよ」

 

「な、成る程」

 

 

妖怪は司達の世界でもよく知られている存在だ。

それこそ仮面ライダーと同等の、いや特に雪女なんて知らない人間のほうが少ないだろう。

昔からいろいろと言われてきた妖怪と言う存在、子供のときなんかは信じていた事もあった。そんな存在が今目の前にいるのだ。

 

仮面ライダーと言うカテゴリーのみが今まで彼らの目の前に現れてきた。

それを現実だと受け入れたから、驚きの感情にも慣れてきた訳だが、妖怪は今回が初めてだ。

思わず皆口を開けたまま固まってしまう。響鬼の試練って事から少しは分からなくもないが……

改めて世界と言う無限の可能性を感じる。自分達にとっての当たり前は、もう信用できないのだから。

 

 

「この世界は私達、妖怪と人間が共存している世界なんです」

 

「と、言っても今は多くの人間には隠してるんだけどね、私らの存在は」

 

 

古来より、人間と妖怪は互いに共存を結んできた。

だが、文明が発達していけばそれだけ形態や文化、関わりも変わっていく。

互いが互いを思いやり過ごしやすい環境にするため、妖怪は人間社会に溶け込む事をいつしか行っていたのだ。

それぞれの妖怪は人間社会の一員として毎日を過ごしている。寝子と幽子はアイドルとして、みぞれやぼたんは普通に学校に通い、あられは普通に働いている。そうやってこの社会のサイクルは順調に回っていた。

 

妖怪はその個性を消して人間社会に適応していく。

だが中にはそう言った社会形態に不満を持った者もいる訳。

しかし『総大将』と言う影ながらこの社会を治める妖怪のリーダーがいたから、妖怪と人間の対立も無く今まで平和にやってこれた。

 

 

「ほら」

 

 

そう言ってあられは力を解放する。すると、彼女の髪が美しい青に変わった。

そして彼女の周りに冷気が発生するのを見て、彼女が本物の雪女だと確信するのだった。

 

 

「だけど、最近になってその均衡が壊れたんです」

 

「え!」

 

 

ここからは寝子達も知らない話しの様だ、司達同様に驚きの表情を浮かべている。

幽子の話によれば、なんでも妖怪の中でも限られた者のみが入る事を許されている『妖怪城』と言う場所があるらしい、そこに幽子は行ったのだ。

そこで信じられない話を聞いたという。

 

 

「妖怪城に行ったのかい!?」

 

「入るにはいろいろ手続きをしないといけないんでしょう?」

 

 

許可を得ていない者は、なにやら面倒な手続きをしないといけないようだ。

幽子は首をふる、手続きはしていないと。ではどうやって入ったのか?

 

答えは進入だった。

驚きの声を上げる一同、正直この世界でその行為は重大な罪にとわれかねない行動らしい。

幽子は掟破りの行動をとるような性格じゃない、そんな彼女が何故そんな大それた事を!?

 

 

「実は……彼から最近嫌な予感がするって電話が頻繁にあったんです」

 

「彼?」

 

「ああ、えっとね――」

 

 

幽子には妖怪城に入れる幼馴染がいるらしい、

その彼から最近嫌な予感がすると電話やメールが多くあったのだ。

その嫌な予感と言うのは、ココ最近妖怪を名乗る連中が総大将に取り入ってきた事だった。

リーダーを名乗る女、ヒトツミが言うには住処を追われてきたらしいが……

 

確かにその力は人間のものではなく、妖怪の力と同じ者が多かった為疑う事は無かったのだがどうにも、どこか胡散臭い感じがしていたと言う。

だが、しばらくしても何も起こらない為に段々とそんな感情も薄れてきた頃――

 

 

「最悪の事態が起こりました……」

 

「最悪って……?」

 

「邪神と言う存在が、現れたんです」

 

 

『邪神』と言う禍々しい響きに、思わず皆怖気づいてしまう。いやしかし、それほどまでに強大で邪悪な存在だったのだ。

邪神は突如現れ、暴君の様にその力を奮った。神と名乗るに相応しい巨大な姿、絶大な力。

数多くの妖怪が一瞬にして命を奪われ、その圧倒的な恐怖と力を思い知らされたのだ。

 

 

「私達妖怪の中でも高い戦闘能力を誇る天狗隊ですら全く歯が立たなかったって……」

 

「そんなっ!!」

 

 

聞けば天狗隊は特殊警察の様な集団らしい。

頼れる存在の彼らがほぼ一瞬で殺された事を思えば、相当な恐怖だったろう。

しかし、そんな邪神が現れた事など寝子達は全く知らなかった。それはもちろんこの街に住んでいる人間もだ。

巨大な邪神が現れたのであれば、気づく筈だが……?

 

 

「邪神はまるで総大将達……この社会の重鎮だけに力を見せつける様、暴れたって彼は言ってました。そしてある程度暴れまわった後、急に動きを止めて地中に消えていったらしいんです」

 

 

地中に消えた邪神と交代するようにして『邪神の使い』と名乗る者が地中から現れたらしい。

その使いの話によれば、邪神はこのままこの世界を破壊しつくす事も可能だ。しかし妖怪や人間共にチャンスをやる事にしたと言う。

邪神が指定する少女を生贄として差し出せば、大人しくしてやるという脅迫じみた言葉。

 

どうやらその少女は純潔で穢れない乙女でしか駄目らしく、代わりもきかないらしい。

その少女の血が邪神の力を上げる何よりの栄養剤なのだ。

 

 

「まさかっ! じゃあ総大将達は!!」

 

「はい、だから私はどうしても真実、妖怪と人間のこれからが知りたくて妖怪城に潜入したんです」

 

 

幼馴染の力も借りて何とか話し合いの場にも紛れ込む事ができた幽子。

 

 

「だけどそこで……聞いちゃったの。少女を見つけ出して『神隠し』として拉致し、邪神に差し出すと」

 

「そ……そんな!」

 

 

寝子達は信じられないと、思わずその場にへたりこんでしまった。

女の子をさらって生贄にするなんて、そんなの共存を掲げてきた社会に大きな矛盾を生み出すことになるのではないか?

 

 

「既に少女の指定は終わったらしくて、皆さんはこの街にいるその娘を探す為に動き出したみたいなんです!」

 

「なんてことなのッ!」

 

 

もし、それを人間が知ればどうする?

神隠しにあった女の子の関係者はどう思う!?

寝子達は人間に対する裏切りの心を持ったままこれからを生きなければいけないのか!?

様々な思いが彼女達を駆け巡る。

 

 

「もちろん、総大将達だって悩んだと思います。邪神と対立すれば多くの命が危険に晒される事になるから………」

 

 

だけど、それが人を裏切る形になるのだ。

幽子も悔しそうに歯を食いしばる。

 

 

「あのっ、幽子さんはどうして追われていたんですか?」

 

「そ、それはッ……!」

 

 

拓真の言葉に幽子の体がブルブルと震え始める。

顔色も悪く、何かにおびえているようだ。この学校は完全に安全だと教えると、彼女はおずおずと口を開く。

だがその時、彼女の声を掻き消すように教室の扉が開いた。

 

 

「「「「!」」」」

 

 

全員がそろっているのに何故!?

まさか敵かと一同は構える。しかしそこにいたのは……

 

 

「変身音叉、音角を妖怪城から盗んだのは君だね、座敷童」

 

「ゼノン!」

 

 

スーツにシルクハット、そして青い髪。

隣にはフリルがたくさんあしらわれた人形の様なゴスロリファッションとベレー帽、そして赤い髪。

いつも同じ様な格好の二人、ゼノンとフルーラが立っていた。ゼノンは幽子達妖怪を一瞥すると、小さく鼻を鳴らす。

そしておびえる幽子を何やらオレンジ色のゴーグルを通して確認すると、彼女に近づいていった。

 

 

「え? ななっ!?」

 

 

ゼノンは幽子の前までやって来ると、いきなりしゃがみこんで彼女の和服の足元を掴む。

驚き赤面する幽子と、いきなりの行動に目を丸くする司達。コイツは何をやってるんだ?

そんな彼らの疑問に答える事無く、ゼノンは一人でクスクスと笑っていた。そして、立ち上がり踵を返すとおもむろに声をあげる。

 

 

「隠れているのは分かっているよ、出てくるなら今じゃないかな?」

 

「?」

 

 

誰が、どんなリアクションをしていいか分からず場には沈黙が流れる。

そのまましばらく場には静かな時間が流れたが、もういいやとゼノンは笑ってフルーラにウインクを決めた。

 

 

「お、おいお前ら一体――」

 

「うふふ、恥ずかしがりやさんなんだから!」『バット』

 

「は!?」

 

 

フルーラはいきなりカメラを取り出してそれを投げる。

しかしカメラは地面には落ちず、コウモリの様な形に変形してまたフルーラの手に収まった。

フルーラはニヤリと笑って、コウモリからUSBメモリの様なモノを抜き取る。そして代わりに、黄色い同じタイプのメモリをセットした。

 

 

『ルナァ!』『マキシマムドライブ!』

 

 

電子音と共にコウモリから眩い光が放たれ思わず目を覆う一同、そして悲鳴が聞こえて一同は目を開く。

 

 

「きゃあッ!!」

 

 

幽子の着物から文字通り『目』が飛び出してきたのだ。

サッカーボール程はある眼球は、自らの存在がバレた事を知るとそのまま浮遊して教室を飛び出そうとする。

しかしそこへ向けられるはトリガーマグナム! ゼノンは冷たく笑うと、トリガーのメモリをマグナムへと装填した。

 

 

『トリガァ!』『マキシマムドライブ!』

 

「ゼノ・ブラスト!」

 

 

ゼノンはシルクハットを押さえ引き金を引いた。

するとトリガーマグナムから青い光弾が放たれ、そのまま目に直撃する。

消滅する眼球、場には変わらず静寂といえる雰囲気が漂っていた。教室にはクスクスと笑い合う二人の声だけが聞こえている。

 

 

「あ、あの眼は……?」

 

 

怯える幽子、あんなものが仕掛けられていたなんて気がつかなかった――

 

 

「どうやら監視されていたみたいだねぇ、まあこの学校に入った時点でシャットアウトされちゃうんだけど……」

 

「座敷童、教えてくれない? ワタシ達も大分情報を集めたのだけれど、まだよく分からないのよ」

 

「どんな……情報をつかんだんだよ」

 

 

司の言葉に二人は笑みを消す。

いつもと違う二人の雰囲気に、思わず皆黙りこんでしまった。

常にうるさいくらいの椿も、今は呼吸すら忘れているのではないかと思うくらいだ。

 

 

「既に生贄の少女は妖怪達に発見され、捕らわれたみたいだよ。明確な時間は分からないけどその少女が邪神に差し出されるのも遠くはないだろうね」

 

「妖怪達はせめてもの哀れみに生贄の事を『花嫁』と呼称しているらしいわ。まあでも、実際は一気にガブリと食い殺されちゃうんだけど」

 

 

それを想像してしまい司達は青ざめる。

まだ年端もいかない少女が生贄として人生を終えるのだ。

怖いだろう、悲しいだろう。その家族は帰らぬ少女をいつまでも待ち続けるのかもしれない。

彼氏がいるかもしれない、好きな人がいるかもしれない。だけどその恋は叶わない。やりたい事だってあるだろうに――

 

 

「た、助けようッッ!」

 

 

みぞれは立ちあがり皆に持ちかける。

妖怪と人間のこれからの為に、このまま少女を見殺しにはできないといきり立つ。

しかしそんな彼女をゼノン達は嘲笑する。すこしムッとするみぞれにゼノン達は馬鹿にしたような笑みを投げつけた。

 

 

「簡単に言うじゃないか、まあ少し落ち着きなよ」

 

「生贄の少女を助けると言う事は邪神を怒らせると言う事になるわ。あなたはその意味が分かっているのかしら?」

 

 

その言葉を聞いてみぞれの表情が変わる。

邪神の力は絶大らしい。もし邪神を倒せなかったら世界は終わりを迎えるのだ。

そうすれば彼女だけでなく、その家族、恋人。いや自分達も危険と言う事になる。

 

 

「それでも……こんな事を許す訳にはいかないわ!」

 

 

寝子はゼノン達を真っ直ぐに見つめて言い放った。

生贄と言う犠牲の上に成り立つ世界など、所詮はまやかしの平和でしかないのだから。

生贄の少女の為に、そして何より未来の為にそれを許してはいけない。

 

 

「あ、あの――……ッッ」

 

 

その時だ。

異様な雰囲気が教室を包む中、それを殺すように手が上がった。

皆は一斉にその方向を見る。そこに居たのは、顔を真っ青にして震えている我夢だった。

表情は暗く、呼吸すら苦しそうに見える。

 

 

「ど、どう……したんですか?」

 

 

状況が状況だけに夏美の声も震えている。

我夢の表情はそれだけ不安に満ちていた、何があったのか……?

 

 

「あのッ……ゆ、幽子さんに……ッッ! き、聞きたい事が……あるんです――ッッ!」

 

「え?」

 

「も、もう……生贄の少女は決まっているって……い、言いましたよね。その娘がどんな顔かも…知ってるんですか?」

 

「あ、はい。お、覚えてますけど……」

 

 

我夢はそれを聞くと、震える手で携帯のボタンを押し始める。

それが何を意味するのか瞬時に理解する者もいた。まさかそんな筈が!?

 

 

「も、もしかして……この娘じゃないですよね」

 

「ッッッ!!!!」

 

 

驚きに目を見開き、口を覆う幽子。

そのリアクションはつまりイエス、写っていたのだ。携帯の画面に生贄の少女が……!

 

 

「そ…そんな……ッッ」

 

 

我夢はあまりにもショックだったのか、携帯を落とす。

そこに写っていたのは……里奈と亘、そして自分と一緒に微笑んでいる――

 

 

「「「!」」」

 

 

絶句する一同、それはゼノンとフルーラも同じだった。初めて見せる完全に驚いている彼らの表情。

しかしそんな事どうでもいい、どうでもいいのだ。あまりにも衝撃的な光景に誰も動かなくなる。

だが、ゼノン達がその沈黙を打ち破った。額に汗を浮かべながら混乱するあまり浮かべた謎の笑みと共に、状況を現実に適応させる為の言葉を具現化させた。

 

 

「成る程、そう言う事かい……ッ!」

 

 

やっと分かった。

加速する理解、どうしてこの試練だけ自分達は嘘を言われたのか?

そしてこの世界の異質さ! それを彼は理解したのだ!!

 

 

「天美アキラが邪神の生贄……! いや、餌に選ばれたって事なんだねッ!!」

 

「は、はいッ! この女の子が、邪神・"ヤマタノオロチ"の花嫁(エサ)です!!」

 

 

幽子の言葉に、葵は気絶してしまう。

他の女性陣もショックで気を失う者や腰を抜かしてしまう者がほとんどだった。

みぞれや寝子も青ざめて涙を浮かべる。極論としてアキラを殺せば平和は保たれる、そう言う事なのだから。

 

 

「ッ!」

 

 

そう言う事だったのか。

ゼノンとフルーラでさえ打ちのめされた様にその場に座り込んだ。

しかし彼らは確信する。今までだってそうだった、だから今回も間違いは無い。完全だ、完璧だ。絶対だ!!

世界がそれを決断したのだ! 間違いない死ぬ、天美アキラは死ぬッ! 世界がそれを望んだ! 世界は彼女を――ッッ!

 

アキラを殺すッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天美アキラはこの世界で100%死ぬ、これは世界が決めた絶対だ」

 

 

どことも言えぬ書斎。ナルタキは複雑な表情でそれを聞いていた。

対して、口を吊り上げる魔女。

 

死ヌ、絶対ニ死ヌ。

 

彼女ハ死ヌ。

 

死ヌノダ彼女ハ、死ヌ、死ヌ。

 

 

死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ

死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ

彼女ハ、死ヌ、死ヌ。死ヌ死ヌ

死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌッッ!!

彼女ノ未来ハ死デ塗リツブサレル!!

 

 

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――………

 

 

100パーセントッッッ!!!!!!

 

 

「くふふふッ、ははははっ! ハハハハハハハッ!!」

 

 

滑稽だ、魔女は笑う。

彼女(アキラ)は大きな壁に囚われた囚人。迷い、涙するだろう。

だがそれは幻ではない、絶対の結末。世界はそのショーを望んでいる。

彼女は世界に殺されるのだ。

 

 

「残念だな、天美アキラ。そなたが【Episode DECADE】最初の脱落者だ」

 

 

魔女は残念そうに、しかしどこか楽しげに笑うのだった。

 

 

「以前お前は言っていたな。この試練で一人の人間が死ぬと」

 

「その通り、今完全に理解した。それこそが天美アキラだ」

 

 

さて、運命において決定されたモノなのにも関わらず何やら彼らは嘆いているぞ?

無理無理、無駄無駄、変えられないよ。変えられないんだよ君達では 人間ではね。

 

 

「いけない、ついはしゃいでしまいました。本当にいけないなネタバレを視てしまうのは、つい言ってしまいたくなる。つい、先を見た見方をしてしまう」

 

「世界がそれを望み、エピソードディケイドはそれを容認する」

 

 

どことも分からぬ書斎で、魔女とナルタキは彼らを視ていた。

魔女が予言したのはアキラがこの試練で絶対に死ぬという事、その事実。

そしてそれは試練の終了を告げる合図なのだ。

 

 

「もはや、天美アキラは彼らの仲間ではない。死人だ」

 

「その死を乗り越える事で、彼らの試練は終了する」

 

 

ナルタキは残念だと首をふる。

しかし悲しいかな、結果としては最高と言ってもいいかもしれない。

単に彼女が死ねばいいだけの話なのだ。正直、今から世界を転送させるだけでもいい。

アキラが死ねば彼らはきっと深い悲しみに陥るだろう。だがそれを乗り越えたとき、ヒロインの死を乗り越える主人公と言う『物語』が生まれる。

それは試練の終わり、つまり彼らの目的であるEpisode DECADEの完成なのだから。

 

 

「何故天美アキラの過去だけが執拗に記されていたのか? 簡単な話しだ。なぜならばもう天美アキラは以後の物語、登場しなくなるからに他ならぬ」

 

「この世界が、彼女にとって最後の出番、見せ場と言う訳か」

 

 

残念ではある、助けてあげたいとも思う。しかし、それはそれ。これはこれだ。

彼女の死は尊い犠牲として胸にしまおうではないか。

 

 

「フフッ、忘れるなナルタキ。お前が彼らを巻き込まなければ天美アキラは生きながらえたのだから!」

 

「ああそうだな、申し訳ない。だが今はただ好都合なだけだ」

 

 

ナルタキは心の中でアキラに謝罪する。だが、もう彼女の事は完全に諦めていた。

助ける事は止めておく。むしろ彼女には死んでもらうと。

 

ナルタキはアキラにもう一度謝罪を行なう。

隣にいる魔女はアキラが気の毒だと、笑うのだった。

 

 

「その名に生まれてきた事を後悔するのだな、天美アキラ。異なる世界(ストーリー)でもそなたは食い殺された様だぞ? ハハハ」

 

 

さてアキラが絶対に死ぬのなら、それまでに助けようと思われては困る。

どんなに彼らが足掻いても助けられないのなら、わざわざ傷つくリスクは負わない方が余程マシだ。

ナルタキは早速、我夢達を沈静化させる為の手段を考える。

 

しかし、あまり干渉もできないのも厳しい所だ。

ナルタキは考えた結果、少しだけこちらの存在をリークする事を決める。

そして、『アキラを助けようなどと考えるな』その意思を、尤も関わりの深い者へ伝える事を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキラを助けにいかなくては、そう言って女性陣は軽いパニックに陥る。

男性陣もどうしていいか分からないといわんばかりの様子で、唯一冷静といってもいい双護でさえ正しい行動が分からずにいた。

そもそもの話、さっきゼノンとフルーラが言った事なのだ。アキラを助けるという事は邪神と戦わなくてはいけない。

 

いつもの彼らならそれでいいと思っていただろう。だが、邪神の力は強大なのだ。

そもそも今まで戦ってきたのはどんな実力者だろうとも自分達と同じサイズ程度の者ばかりだった。

だが、今回倒さなくてはいけないのは巨大な化け物。それだけではなくそれを防ぐ妖怪達、何より総大将とも激突しなければならない。

この人数で可能なのか? 迷う一同。寝子達もショックのあまり何も喋らずにただ座り込むだけ。

 

何が正しい? 何をすればいい? 分からない。完全に迷ってしまう。

そして、そんな彼らに追い討ちがかけられる事となった。

 

 

「め、メールだ! アキラから!!」

 

「「「!!」」」

 

 

司達全員の携帯がなる。

急いで確認する一同、そこに書かれていたのは……

 

 

【時間を頂いたのでメールを送る事にしました】

 

 

それなりに長文なので先に謝っておきます。

皆さん、いきなり姿を消すような事をしてしまって本当にごめんなさい。

だけど、もう一つ謝らないといけない事があります。

 

私はもう皆の所には戻れません。

 

何故かは、もしかしたらもう分かっているんじゃないでしょうか?

多分そうだと思うのでそのつもりで話します。意味が分からないなら、このメールを消してもらっても構いません。

 

今日の夜、私はこの世界の現状を聞かされました。

そして、私が花嫁に選ばれた事もです。

 

 

 

 

それは、我夢がジュースを買ってくると行ってアキラの側を離れた時だった。

 

 

「天美……アキラさんですか?」

 

「は、はい……」

 

「大切な、大切なお話があるんですが、よろしいでしょうか?」

 

「え……」

 

 

アキラの目の前に現れたのは誠実そうな男性だった。

どうして自分の名前を知っているのか疑問に思ったが、いきなり男性がアキラに向かって土下座をしてきた事でその思いは吹き飛んだ。

 

 

「!?」

 

 

訳が分からないと言ったアキラに男は痛烈な表情を浮かべ、そして申し訳なさそうに口を開いた。そしてアキラはそれを教えられる。

今この世界は実質邪神の支配下にあると言ってもいい。その邪神が指定した生贄、それこそが天美アキラなのだと。

信じられないと言う表情のアキラに、男性はさらに畳み掛ける。

 

もし、アキラがこの話を断れば、邪神は怒り狂い街を破壊しつくすだろう。

その時、多くの人間と妖怪の血が流れる。子供も女も、赤ん坊もだ。

 

 

「ッッ!」

 

「申し訳ないのですが……私たちの為に……」

 

 

死んでいただけないでしょうか?

 

 

「!!」

 

 

アキラはショックで立てなくなる。

しかし男性はアキラを気にする事なく、さらに言葉を浴びせていった。

 

 

「私にも子供がいます。今年小学校に入学するんですよ! だけど、もし邪神が暴れだしたら……」

 

 

涙を浮かべる男性をアキラは空ろな目で見ていた。

自分が生贄に選ばれた? そんな夢みたいな事があるのだろうか?

 

しかし、現実。

男の言葉にアキラはそれを理解する。いや、男だけではなかった。

途中から女や男と、三人の人間にアキラは死んでくれと頼まれる。

 

 

「ど、どうしようも……できないんですか………?」

 

「気持ちは分かりますッッ!! ですが、アキラさん。一度邪神と対立すると言う事は大きな戦いが起こると言う事になります。もちろん勝てば全てが救われるでしょうが、勝てない場合……どうなるとお考えですか?」

 

「ッ…ごめんなさい」

 

 

いえ、いいのですと女はアキラの肩に手を置く。

 

 

「私は雹といいます。アキラさん、私にも大切な家族がいるのです。この様な言い方は申し訳ないとは思いますが、生贄になってはくれないでしょうか?」

 

「――……ッ」

 

 

雹の隣では小さな子供がアキラの事をジッと見ていた。もし、自分が犠牲になればこの子は助かる。

いやこの子だけじゃない。この街の皆、寝子やぼたん達だってそうだ。守れる、自分が犠牲になれば――全て丸く収まるのだろう。

 

 

「今はきっと混乱なされていると思います。だから一度妖怪城に来ていただけないでしょうか。そこでじっくりと決断なさって頂ければ……」

 

「わ……かり――ッ、ました……」

 

 

気がつけば、アキラの口からはその言葉が出ていた。アキラの良心がこの答えをだしたのだろう。

一瞬、仲間に相談してなんとかしてもらおうとも考えてしまったが、そんな時間はないと言われた。

一刻を争うらしい、早くしないとこの街が世界が滅びてしまうのだと……

そんなアキラの脳裏に彼の、我夢の姿が浮かぶ。その事を口にしようとした時、男性は言った。

 

 

「辛いでしょうが、もし大切な人がいるのなら……あえて冷たくして突き放す事をお奨めします」

 

「え………?」

 

 

突き放す? 彼を?

 

 

「天美様は率直な話、死んでしまうのです。もし、そこに愛があったなら……貴方を愛した人はとても辛い思いをするでしょう」

 

 

それでいいのですか? そう言われた。

アキラは彼の事を思う。そうだ、できる事なら彼にはずっと笑っていてほしい。

泣いてほしくない。

 

 

「ならば突き放すのです、そして嫌われなさい。そうすれば誰も悲しまない」

 

「ぅッ……」

 

「できる限り貴女が死んでも悲しまないようにするのです。辛い話ですが、それが一番だとは思いませんか?」

 

 

貴女には、辛い選択をさせることなりました。

申し訳ない、そう言って一同はアキラに頭を下げる。

ショックで混乱するアキラだったが、自分が死ねば世界が助かるという……それだけの状況なのだ。

震えながらもしっかりと頷いてしまった。

 

 

「――ッ」

 

 

何故か涙が止まらない。

これでいいのに、これで彼らは救われるのに、どうしてか涙が止まらなかった。

 

 

「わかりましたね? ではもうすぐ彼がやってくるでしょう。私達は隠れています」

 

「いいですか? 嫌われるのですよ。そうすれば誰も悲しまないですむ」

 

「さあ、鏡をどうぞ。今のお顔ではとても彼に合わす顔がありませぬ」

 

 

そう言って雹達はアキラに手鏡を渡して姿を消す。アキラは、涙を拭いて座った。

そうか、それでいいのか。嫌われればいいんだ。そうすれば誰も止めないし皆が救われる。

あの小さな子だって楽しく毎日を過ごせるんだから………

 

アキラは空ろな瞳で受け取った手鏡を見る、映るのは自分の顔。

あれ? 笑ってる――

 

 

『何もできない私が、やっと役に立てる……これって、とても素晴らしい事じゃないですか!!』

 

「………」

 

 

幻覚、幻聴なのだろうか? 鏡の中の自分が笑って言った。

だけどそうなんだろう、やっと自分にもできる事があった。ならば生贄になるのも――

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、アキラはその真実をメールには記さない。

あくまでもその文は、平然とした態度だった。

 

 

花嫁に選ばれた事を私は後悔していません。

どうか私の事は気にせずに次の世界へ向かってください。

 

もう試練は終わった筈です、それなら私がいなくても大丈夫ですよね。

元々あまり役に立てなかった身です。どうか私の事は放っておいてください。

 

寝子さん達の世界の役に立てるなら、本望ですから。

 

 

では、さようなら。

今まで本当にありがとうございました。

 

皆といた時間は楽しかったです

 

 

 

 

 

 

「なんだよコレッッ!!!」

 

 

亘はイラつきを隠せない。

なんで死ぬことが決定しているみたいな書き方してるんだよっ!

だがメールはまだ続いていた、それは最期に皆へ一言だけメッセージを贈りたいと言うもの。

そう、普通に書いてはいるが彼女にとっては永遠の別れとなるのだから――

 

 

 





今ニコニコでRX終わって一号の無料配信やってるね。
何回も言うけど二号は絶対黒マスクの方がカッコいい。
今回の映画は違うんだよね。メガマックスとかは黒マスクだったのに。


あとちょっと裏話をすると、タイガの名前を決めてしばらくするまで龍騎の英雄くんをすっかり忘れてました。
龍騎が一番好きとか言ってるのにコレですよ皆さん。


まあでも被っても問題ないようになるべくしているので許して(震え声


次は未定です。
一応遅くて来週辺りにでもと。

ではでは

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