仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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今回は一話も一緒にセットで。

この話はとにかくキャラが多いんで、まあ近いうちにキャラ紹介をつくろうかなと。


第1話 ディケイド

声が……聞こえる。

 

 

「お前の――」

 

 

それは男。

 

 

「お前の――」

 

 

それは女。

 

 

「お前のせいで――」

 

 

それは子供、老人、大人。

男とも女とも分からない不思議な声が聞こえてくる。世界は真っ暗で、俺はどこからソレが聞こえてくるのかが全く分からない。

 

何も見えない。

 

何も感じない。

 

だけどハッキリと俺の耳に聞こえてくる「声」

大きくもなければ小さくも無い音量。まさにハッキリと、それは鮮明に自分の耳に届く確かな音。

 

 

「お前のせいだ!」

 

 

世界に色が溢れた。世界は形を創り、暗闇からの解放を果たす。

 

 

(!)

 

 

そこはあたり一面の荒野だった。何も無い、何の面白みもない、ただの荒野。

だがよく見るとそこに一人の男が立っている、帽子を被っていて顔を見る事は難しいが。

男はゆっくりと俺の方へ視線を移した。もしかしたら俺の後ろかもしれない、それとも前だろうか?

 

 

(!?)

 

 

振り返ろうとして俺は息を呑んだ。

首が無い! いや正確に言えば俺自身が存在してない!? 声も出せないし、あると思ってた耳も目も存在していなかった。

まずそもそも口が無い時点で息すらしてない事になる。何だよコレ? 思わずパニックに――

 

 

「お前のせいで!」

 

 

ビクッとしてしまった。

いきなり男が大声で叫んだからだ、ソレは俺に言ってるんだろうか?

フェルト帽子の男からは凄い気迫が感じ取れる。殺意、怒り、悲しみ、何かは分からないが負の感情である事は確かだろう。

 

 

「お前のせいで壊れてしまった! この――」

 

 

なんなんだよ、何でそんなにキレてるんだよ。

俺がなにしたって―――

 

 

「世界が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――……ぁ」

 

 

目を覚ますと見慣れた天井。

自分は今ベッドにいる。手も、足も、体はちゃんと存在していた。もちろん呼吸だって。

 

 

「――ッッ! 夢かよ、くそっ!」

 

 

大きく息を吐く。変な夢だ、早く目が覚めてくれて助かった。

変なおっさんに怒られる夢なんて誰が見たいものか。今日は学校だしちょうどいい、もう起きよう。

しかし今何時だ? 部屋の時計に目を向ける。時計の針が示すのは午前8時50分、学校が始まるのは9時。

 

 

「……マジか」

 

 

いや、夢だ。これは夢。

そう思いもう一度深呼吸して時計を見てみる。しかしどれだけ見ても時計の針は同じ。

それに腰や喉に少し痛みがある時点でコレはもう紛れも無い現実だろう。

 

 

「マジで?」

 

 

夢ならいっそ覚めないで。

 

 

「マジだ……ッッ!!」

 

 

これはヤバイッッ!!

 

 

 

 

 

 

「くそ! 誰だよ二時までDVD見ようって言ったのは! まあ俺なんだけど!!」

 

「待ってくださいよぉ。司くーん……」

 

 

後ろから気の抜けた声が聞こえてくる。仕方ない、(ひじり)(つかさ)は焦る気持ちを抑えて立ち止まった。

どうだろう、貴方達が思う一番普通そうな人物をあげてほしい。おそらく彼の容姿はそれにピッタリと当てはまる筈だ。

顔は悪くないがずば抜けて良いと言う程でもない。それは勉学や運動についてもだ、中の下、中程度がお似合いだろう。

そんな彼の背後では呼吸を荒げながら従姉妹がフラフラと走ってくる。いや、もはや歩いていると言った方が正しいかもしれない。

 

 

「遅いぞ夏ミカン! 早くしないと遅刻だぞち・こ・く!」

 

「だっ! 誰のせいですか誰のッ! あと私は夏ミカンじゃなくて夏美です!」

 

 

(ひかり)夏美(なつみ)、彼女は長い髪を振り回して叫んでいる。

普段は結んだりのばしきったりとアレンジ豊富だが、最近は帽子にハマッているらしい。

特に好きなのがオレンジ色の帽子だった為、名前と合わさってミカンネタにされてしまった訳だ。

本人は嫌らしいが、司はよくこれでからかっている様子である。

 

ここで彼女の言葉に思わず目を反らす司、今日二人が遅刻したのは間違いなく司のせい。

彼が昨日の夜に、夏見を半ば強引に引き込んでDVDを見直していたのが悪かったか。

おかげで寝坊はするし意味不明な夢までみるし、司としては散々な話だった。

 

気が重い、弟の亘《わたる》からまたお叱りを受ける事になりそうだ。

司は怒りに頬を膨らませている従姉妹を落ち着けると、ヘラヘラと笑みを浮かべる。

ここで時間を潰す訳にはいかない、早く学校に行かなければ――……

 

 

「わ、悪かったよ。とにかく走るぞ夏ミカン! あと五分しかない!」

 

 

そのとき司は、手に持っている体操着袋にふと目がいった。

赤い体操着入れ、コレは夏美が自分にと買ってくれた物だ。なんだかんだ言うが、司は夏見を置いて先に学校にはいかないだろう。

いろいろ彼女には世話になった。行くなら二人一緒に行く事にする。

 

 

「ごごご五分!? あ、あと私は夏美です!」

 

「分かった、分かった! ほら、走ろう!!」

 

 

最後の訂正は無視して走り出す。

遅刻をすれば叱られるだけならまだしも、反省文を書かされるかもしれない。

そんなのごめんだ。今日は見たいテレビの再放送があるのに、残しとかありえない。もう絶対嫌ってものである。

 

 

「あ!! つ、司君っ!」

 

「え?」

 

「おっと!」

 

 

などと、放課後の事考えてたらどうやら前が見えてなかった様だ。

司は向こうから走ってきた男の人とぶつかってしまった。そこそこの衝撃で、司と男の人は持っていた持ち物を地面にぶちまけてしまう。

 

 

「あっ、すいません!」

 

「ははっ、気をつけてくれたまえよ」

 

 

なんか偉そうなヤツだな、まあ絡まれるよか百倍マシか。あ、この人俺の体操着入れと同じ袋持ってんだな……

なんて考えをぼんやりと立ててみる。焦っている時ほど他の事に集中がいくものだ。

 

 

「って、そんな事考えてる場合じゃないか……」

 

 

悪いのは俺なんだしと、司は一応もう一度謝っておく事にした。

当の男はさらりと司の謝罪を受け流すと、袋を持って走り去って行ってしまう。

まあ、だがそれだけである。特に気にする点も無く事がすんだので、良しと――

 

 

「司君」

 

「ん?」

 

「あと……二分です」

 

「………」

 

「………」

 

「「ほああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

二人が通う十星学園。

 

 

「はぁはぁ……オエッ」

 

「な……なんどが――っっ! ばにあっだ……うぉえっ!!」

 

「お、お前等……どうしたんだよ?」

 

 

朝に食べたパンがおはようございますしそうになるのを堪えて席についた司と夏美。

クラスメイトで友人の小野寺(おのでら)ユウスケが話し掛けてきたが、とてもじゃないが喋れる状態じゃない。

二人は死ん魚の様な目で呼吸を整えようと必死だった、爽やかな朝と対極な光景に冷や汗を浮かべるユウスケ。

なんか呪われてるみたいだぞ、なんて言ってみる。あながち間違いでも無い訳だが――

 

 

「はーん、二人共昨日遅くまでライダーでも見てて寝坊。そんで遅刻、違う?」

 

「おぉ、薫」

 

 

ユウスケの後ろから空野(そらの)(かおる)が顔を出す。今日も彼女は短めのポニーテールだ。

しかしなんともまあ薫のヨミが的確すぎて司は言葉を失った。や、実際喋れんのだが。

こういう事は過去に数回あるものの、見事に当てられてしまった。薫本人も当てた事に満足しているのか腕を組んで笑っている。

 

 

「はい、じゃあユウスケ。当てたから今日のジュース代カモン!」

 

「おお、はい」

 

「サンキュー!」

 

 

 

 

 

 

「………あれ? ちょっと待っておかしくないか!? 

 何でおれ普通に納得したんだ? いやいやおかしいだろ、やっぱ返して! いや返してくださいお願いします!!」

 

 

涙目になっているユウスケと舌打ちをする薫。どうやら二人は今日も変わりない様だ。

しかし本当に遅刻寸前だった。いや、正確には若干遅刻してる訳だが何とか間に合った事には変わりない。

司は大きなため息をついて安心を――

 

 

「ぶふーっ! おいおい、お前またライダーで遅刻かよww!」

 

「ぐぐ……っ!」

 

 

後ろの席で笑い声がする。同じく、クラスメイトの守輪(すわ)椿(つばき)だ。

学校で堂々と携帯ゲームをしていて、アニメやゲームの知識に長けている彼、ネットスラングをよく使用する辺り相当一日を電脳世界に費やしているのだろう。

面倒だからと伸びっぱなしの髪とメガネをかけた少年だった。たまに今の様な変な笑い方をする時がある。いや、何が変なのかはいまいち司にもわからないが。

 

 

「しょうがないだろ、男の子のロマンなんだからな」

 

「分からんではない、見てるやつの少数派だとは思うが俺も一応龍騎と電王は見たし。まあでも俺はどっちかってと起動戦士ガンパム派なんで」

 

「ぐっ……! ユウスケはどうだ? 分かるだろ?」

 

「え~、おれは仮面ライダー見たことないしなぁ」

 

「くそが……ならしょうがないな」

 

「え? 何か言ったか司?」

 

「んんww! 扱いの悪さに定評があるユウスケ乙」

 

 

 

などと、ひとしきりの会話を終える一同。

そして暫くした後、担任がやってきて朝のあいせつを済ませる。

ここからいつもと似た様な学校が始まるのかと思ったが―――

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

それはまさにいきなりだった、担任が司達五人に今すぐ校長室に行けと言ってきたのだ。

校長室に呼ばれるなんて普通じゃない。まさか何かやらかしてしまったのか? 一同にドッと緊張感と不安が走る。

一同はすぐに担任に詳細を求めるが、とにもかくにも校長室に向かえとしか言われなかった。どうやら担任も詳しくは知らないようだ。

確かに待たせるとさらに危険な事になるかもしれない。一同は言われるがままに校長室に向かう。

 

しかし校長となんてまともに会話も交わしたことが無い。向こうが自分たちの名前を覚えていたことにすら驚きだ。

途中、不安でいっぱいになる司達。何を言われるのか、想像するだけで緊張してくると言うものである。

 

 

「お、俺ら何かしたっけ?」

 

 

司は二、三個ほど自分の注意されるべき行動ををピックアップする。

確かに掃除をサボったり当番の仕事を適当にしたりと心当たりが無い事は無いが、それだけで校長室に呼び出され直々に叱られると言われれば微妙ではないか?

 

 

「さあね、でもとにかく校長にお呼び出しくらうって普通じゃないわ。さてはユウスケ、アンタまさか……何かやったんじゃ」

 

「えぇ? 何でおれなんだよ!」

 

「あーアレか、前に全裸で×××とか×××に×××した事ばれたんじゃね?」

 

「ゆ、ユウスケが例え変態でも私はとッ…友達ですよ!」

 

「してない してない してないよー! 椿くん適当な事言うのやめてーッ!」

 

 

しかし逆に考えてみてはどうか、怒られるのではなく褒められると言う事だ。

そういえば最近進路相談のアンケートを書いたっけ、もう呼ばれる心当たりはそれくらいしかないぞ。

 

 

「椿、お前何て書いたんだ?」

 

「自宅警備員。司は?」

 

「正義のヒーロー」

 

「それのどこに褒められる要素があるんですか! あーもう絶対怒られちゃいます!!」

 

 

なんて、下らない事言ってる間に司達は校長室の前にやってくる。

やはり普段立ち寄らない場所なだけあって緊張も増す。おまけに他の生徒は普通に授業中なので、びっくりするくらい辺りは静かだ。

 

 

「お、お腹痛いお! 吐きそうだお……!」

 

「やめろ! でも本当に緊張するな。だ、誰が開ける?」

 

「ユウスケお願い!」

 

「た、たまには薫がやれよ!」

 

 

そう言ってユウスケは薫のポニーテールを掴む。

狙ったのかどうかは知らないが、結構がっしり掴んでしまった。

 

 

「どわわ! つ、掴まないでよ!」

 

 

若干赤くなった薫がユウスケを軽く小突いた。いや、本人は多分軽くだったんだろう。

だがユウスケは回転しながら大きくよろけて、そのまま校長室のドアをドミノ倒しの様にぶち破る。

 

 

「「「え?」」」

 

 

こ……こいつら、何してんの?

 

 

「っていうかドア脆くない?」

 

 

椿の冷静なツッコミも、司たちの耳はもう届いていなかった。

今から怒られるかもしれない状況で、校長室のドア破壊の罪が上乗せされるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「すいませんすいませんっすいませんッッ!」

 

 

夏美が土下座。いや土下寝で必死に謝ったのが良かったのか、特に怒られることもなく事を終えた一同。

中にいたのは当然校長。司達は一列に並んで暫く沈黙する。待っていたよと笑う校長を見るに、悪い話と言う訳でもない様に感じるが――

 

 

「あー、今日君達に来てもらったのは…」

 

 

校長は若干言いにくそうな感じで司達を見る。

そしてそのまましばらく沈黙してしまった。これは逆に気まずい、スラスラと言えない様な事だと言う事なのだろうか。

その内、そんな沈黙に耐え切れなかったか夏美は校長の言葉を待たずに詳細を求めた。

簡単な話、何故自分たちは呼び出されたのか? それだけ。その内に校長も長引かせるのは無意味と悟ったのか、もう一度司達を真っ直ぐ見て言葉を放つ。。

 

 

「君達にはクラスを変わってもらいたい、今いる二年一組から、特別クラスにだ」

 

「はぁ!?」

 

 

正直この場にいる誰もが校長の言った事を冗談だと思っていただろう。

自分たち五人だけのクラス替え。そんな話聞いた事も無い、と言うか許されるのか?

とにかく嘘か冗談だと五人は皆一様に思っていたのだが――

 

 

「まじ?」

 

 

あまりにもそれは円滑な流れだった。

校長の提案から数分も経たない内に司達はクラスから荷物を全部持っていかれ、さっきまでいたクラスの名簿から名前を消されたのは。

 

 

「い、今起こった事をありのままに話すぜ!『さよならクラスメイトの皆。今までありがとう! 俺は新しいクラスになっても頑張るよ!』

 何を言ってるのかわかんねーとは思うが……ってかマジで意味わかんねーよ! 三次でやんな二次でやれ!!」

 

 

などと吼える椿。しかし、彼言っている通り意味が分からないのは皆同じだ。

取りあえずその特別クラスにやって来てみたが、まさか本当に今日からクラスがここになるのか!?

驚いたのはソレだけじゃない。その特別クラスで司達が最初に出会ったのは――

 

 

「お前っ、なんでここに!?」

 

「げっ! 兄さんっ!?」

 

「み、皆さん……こんにちは」

 

 

そこには司の弟である(わたる)と亘の友達、相原(あいはら)我夢(がむ)もいる。

この学校は一貫教育制の為、中高が一緒になっている。尤もだからといって自由に校舎を移動できるわけでは無いが。

 

 

「お前何でこんな所にいるんだ? 今は授業中だろ?」

 

「それは兄さんもだろ、ボクは校長の指示でココにいるんだ」

 

 

兄よりも少しだけ目つきが鋭い亘、二人の仲は良い方だろう。

我夢は中性的な容姿の少年だ。真面目そうな雰囲気をかもしだしている、常に敬語なのも合わさって。

しかしやはり気になるのは現状である。

 

 

「は?」

 

「いきなり呼び出されてクラス変われって言われたんだよ。意味分かんねぇ正直、特別クラスって言われても実感わかないし」

 

「俺らも……なんだけど」

 

「え?」

 

 

椿の言葉に亘と我夢は目を丸くする。

それはそうだ、もしその言葉が本当ならば自分たちは同じクラスと言う事になる。

そんな馬鹿な話があってたまるか、第一そんな状況でどんな勉強をするんだ。だからもちろん皆そんな事あるわけ無いと思っていた。いたのだが――……

 

 

「く、クラス表は?」

 

 

薫は教卓の上にあるクラス表に目を通す。そして、固まった。

クラス表、もちろんそこには特別クラスのメンバー全員が書いてある訳だ。

そこにその文字を見つける。どんなに見直してもその文字が変わる事は無い、まごう事無き真実と言うことか。

 

 

「私達……同じクラスなんだけど」

 

「はぁッ!? 亘くん達ってまだ中学生だろ?」

 

「おいおい、いくらなんでも超展開ってレベルじゃねーぞ! 今時ワンクールのアニメでも見ねぇよこんなスピード展開」

 

 

この時代に、しかも人が多いのに中学生と高校生が同じクラス。どう言う事なのかまったく理解できない。

一時的な物ならまだ納得できるが、今日からずっとこのクラスともなれば話は変わってくる。イベントの準備をする訳ではない、クラス替えなのだから。

ちなみに亘達の成績は良いと言う訳でも悪いと言う訳でも無い、つまり普通である。ならばおかしいのは司達?

 

 

「わ、私達の知能レベルが中学生程度だったって事?」

 

「えぇ? いくらなんでもそれはないんじゃないですか? 私達ってそんなにアホだったんですかぁ!」

 

 

夏美が涙目になってクラス表を見る。中学生と同レベル?

いやいや、いやいや、いやいやいや! ただ完全に否定できないのが悔しい!

 

 

「ありえないだろ普通に考えて。言い方悪いけど、俺達より成績が悪いヤツなんて山ほどいる……筈!」

 

「すまん司、俺この前の数学6点だった」

 

「「………」」

 

 

いやいや、大丈夫大丈夫。いくら悪くてもクラス替えってのはおかしい。

 

 

「我夢、中等部でここに来たのはお前等二人だけなのか?」

 

「いえ、僕達の他に二人です。里奈ちゃんと、アキラさんもです」

 

 

その言葉を聞いて薫はクラス表を再び見る。そんなに多くはない人数の為にすぐ見つける事ができた。

どうやら中等部からは四人の男女がこちらに来たらしい。ならやはりおかしいのは亘達なのか?

 

 

「うん、あったわ。野村(のむら)里奈(りな)ちゃんと天美(あまみ)アキラちゃん」

 

「ああ、たしか里奈ちゃんって」

 

「うん、足が……だからその、車椅子なんだ。今はアキラが手伝ってくれてるからもうすぐ来るよ」

 

 

亘は司達よりも決まって早く家を出て行く。それは、毎日友人である里奈を迎えにいくと言う理由でだ。

この学校は一応バリアフリーの面でも特化していると聴くが、それでもある程度手伝ってもらわないとキツイと聞く。

それを含めても何が理由で自分達が呼ばれたのは分からないが。

 

 

「とにかく中等部からは四人だけなんだな薫」

 

「そうみたいね、あとは高等部。男子八人、女子八人、全員で16人のクラスみたい」

 

「少なくね? 他に誰いんの、みしてみして。DQNがいたらもう明日から椿君学校こないからね。ホントだよ」

 

 

椿はクラス名簿を薫から受け取ると、それに目を通した。

そこには出席番号順に名前がずらりと並んでいる。知り合いがいればいいのだが――?

 

 

「新聞部結構いるじゃんktkr!」

 

 

椿は楽そう、早く帰れそうと言う理由で新聞部と言う部活に入っている。と言ってももうあまり顔は見せていない幽霊部員だがメンバーとは友人だ。

司達は違うが椿のおかげでメンバーとある程度交流がある。知り合いが多いのはいい事だ、知らない人間よかはずっと接しやすい。

まして少人数のクラスともあればなおさら、ほとんどが知り合いの状況は好ましいと言えるだろう。

一時はどうなる事かと思ったが、知り合いが多ければまだ緊張も不安も少なくなってくるもの。

 

 

「――ッッ!!??」

 

 

だがはしゃいでいた椿の顔が一瞬で真っ青になった。

どうしたのかと聞いてみても椿は全く答えない、いつもの様子ではなく何かに怯えているようだ。

いきなり震えだし、おまけに白目まで向いているじゃないか。

 

 

「嘘……嘘だろコレ。ママママジありえんから……いやいや嘘だって――……」

 

 

なにやらブツブツと椿は言っているがイマイチ分からない。

顔はますます青くなり、まるで陸に打ち上げられた魚の様に口をパクパクさせている。

本当に大丈夫なんだろうか? 正直死ぬんじゃない? なんて思う程怯えている様だ。

 

 

「嘘じゃない――」

 

「え!?」

 

 

ふと後ろから聞きなれない声がして司たちは釣られる様に振り向いた。

するとそこには司達と同じ高等部二年。けっこう、いやかなり美人の生徒がいた。鋭く凛々しい目つきと、綺麗で長い黒い髪。それが凛々しさを引き出している。

スタイルもかなり良く、長い脚は多くの女生徒の憧れであったろう。少女は髪をかき上げながらツカツカと椿の前に迫っていき思い切り顔を近づけた。

しかし笑みを浮かべていると思いきや目は笑っておらず、椿の方も今にも失神しそうである。

 

 

「やあ、椿」

 

「ひっ…ひひひ広瀬(ひろせ)ぇ……咲夜(さくや)ァァ――っっ! なんでおまっ……ここにぃ!?」

 

 

こんなに体調の悪い椿は初めてかもしれない。

今の彼の怯え方は異常と言ってもいい、そんなにこの咲夜と言う少女が怖いのだろうか?

咲夜はますます目が笑っていない黒い笑みを浮かべ、椿に詰め寄った。

 

 

「ワ・タ・シもこのクラスなんだよぉ椿ぃィィ! 嬉しいよ同じクラスになれて、ワタシはお前と同じクラスになりたかったんだからな!」 

 

 

美少女からのアプローチ(?)普通の椿なら泣いて喜びそうな場面だが、とうの本人は白目をむいている。

泡まで吹いているかもしれない程だ。

 

 

「ふっ、二人はどんな関係なのかなぁ? なんて、ハハハ……」

 

 

この空気に耐えられなくなったのか、ユウスケが遠慮がちに聞いた。

咲夜本人も周りの様子に気づいたのか、今度はちゃんとした笑みをうかべ口を開く。

 

 

「ああ、すまない。ワタシとコイツは幼馴染みなんだ」

 

 

彼女の実家は書道や空手、日本文化の道場をやっている。

幼馴染故に、椿も面白がって通っていたらしいが?

 

 

「え? そうなの? 聞いた事ないけど」

 

「さぼっているからなぁぁあああああッッ!!」

 

「ひぃいいいい!」

 

 

咲夜はその手を教卓に打ち付ける。

同時に椿は思い切り仰け反り床に倒れこむ。咲夜はそのまま睨みを利かして椿の方へと足を進めた。

まあなんとも迫力にあふれているものだ、椿も腰が抜けたのか這うようにして彼女から逃げようと奮闘しているじゃないか。

 

 

「貴様からやりたいと言い出したのに三日も続かんとは情けない!」

 

「いや、だって――ッ!」

 

 

椿が後ずさりしていると背中に何かが当たった。

 

 

「ッ!?」

 

 

それは足だった、ゆっくりと椿が顔を上げる。

そこにいたのはまたも二年の女子と男子だ。見覚えがあるが、いまいち思い出せない。

 

 

「ぎゃあああああああ!」

 

 

いきなり現れた二人に驚いたのか、椿は叫び声を上げて逃げるように後ずさる。

だが逆に咲夜に近づく事になった訳だが――

 

 

「お帰りィィィ!!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

「はぁ……」

 

 

もういい、ほっとこう。司はいつのまにか現れた二人に話し掛ける。おそらく二人も同じクラスメイトだろうから。

二人からはやけに気品のあるオーラを感じる。着ている制服もやけに綺麗で、男の方は何かキラキラした雰囲気を感じた。相当イケメンと言うのがまた合わさってだろうか。

 

一方で少女の方は背が低く、丸い目、全体的にいろいろ小さい為か可愛らしさが強調されている。

二人とも少しクセのある髪質をしている様。なんとも相当スペックの高い二人組みだろうか。

王子様とお姫様の様だ、簡単に言えば。

 

 

「フッ。俺は天王路、天王路(てんのうじ)双護(そうご)だ」

 

「ボク、天王路……真由(まゆ)。よろしく……ね」

 

 

いつもの椿なら間違いなくボクっ娘に反応するだろうが――

 

 

「椿貴様ァァァ! 今あの子のスカートの中を覗いただろうぅぅぅッ!!」

 

「もうやだーッ! この女どうにかしてくれーッ!!」

 

「………」

 

 

まだやっているのかと呆れつつ、司はもう一度二人に視線を移す。

 

 

「……ぐぅ」

 

 

だがしかし!

さっきまで話してたのに真由は座ったまま寝ていた。

 

 

「え!? あ、ね……寝ちゃったみたいだな」

 

 

兄だろう双護の方を見てみる。

 

 

(こいつ等………すげぇわ)

 

 

兄の双護は目を開けて寝ていた。何でだよ! 今会話の途中だろうが! なんてアクの強い奴等なんだ――!!

とにかくいつの間にか現れた二人に驚愕する司。呆然と立ち尽くす司だったが、扉が開く音が聞こえてそちらに視線を移す。

 

 

「ここ……みたいだね友里ちゃん」

 

「うん、あ! もう誰かいるみたいよ拓真」

 

 

そんな声と共にまた男女二人が入ってきた。

良く言えばしっかりしてそうな。悪く言えば気の弱そうな男子と、薫と同じくらい気の強そうなツインテールの女子。

新聞部でよく話したことがあるから分かる。

 

 

「真志おせーよ!」

 

「待て待て! お前の荷物も持ってるからだろ!」

 

 

続くように更に二人、また男女のペアが入ってきた。

新聞部だ、茶髪で髪をセットしている少年と、同じく茶髪でギャルのイメージが強い少女。

二人はクラスに入ると適当にメンバーを確認する。どうやら彼も知り合いがいる事に安心したのか、笑顔で司達に手を振った。

 

 

「おぉ、椿じゃんかよ! あと司やユウスケもいるんだな!」

 

「うぃーす! 知り合いばっかでマジ最高じゃん」

 

 

条戸(じょうど)真志(しんじ)。髪は茶色に染めて校則的には危ないかもしれないがソレに反してかなりの常識人だ。

そうそう思い出した、司はうなずく。もう一人の男子は犬養(いぬかい)拓真(たくま)

下校中に迷子の子供の面倒を見ていたのを考えると優しい性格なんだろう。その時も横には園田(そのだ)友里(ゆり)がいた気がする。

 

真志の隣りでピースしているのは白鳥(しらとり)美歩(みほ)

彼女については司は詳しくは知らなかった。とり合えず真志の横にいる、と言うイメージだ。

美歩もまた茶髪で、服装もだらしない為に教師間の評判はあまりよろしくない。けど生徒目線で見れば悪い奴じゃないからまあいいかと司は笑う。

 

 

「にぎやかねぇ」

 

「はは、おれ置いてかれそう」

 

「ハイパワーです!」

 

 

ユウスケと薫、夏美の意見は尤もだ。

椿と咲夜はまだなにやら言い争いをしているし、だがまずそもそも自分達は事態すら呑み込めてない。

そしてまた扉が開く。皆は一斉にその方向に視線を移した。人数的にそろそろ終わりだろう。

ラストは誰なのかと、皆少し沈黙して視線を移していた。

 

 

「あ、あの………ご、ごめんなさい」

 

 

そこには車椅子の少女と、ソレを押す少女。

亘と我夢の友達。野村(のむら)里奈(りな)天美(あまみ)アキラだ。

アキラはショートカットでボーイッシュな印象の少女だった、良くも悪くもクールな印象を受ける。

里奈は内巻きのセミロングで穏やかな印象の少女だった。彼女は自分のせいで場が静まり返ったのだと思い謝罪する。

 

 

「いや、気にすることは無い」

 

 

そんな里奈の頭に手が置かれる。

咲夜だ、一瞬別人かと思うくらいその目は優しい。

 

 

「誰が来たのかと皆、注目しただけさ」

 

「咲夜先輩!」

 

「知ってるの?」

 

「うん、スロープの無い階段で困ってる時に助けてくれたの」

 

 

意外に優しいのだろうか?

まあ椿との争いも椿が悪いような気がするし、司もまた納得して二人を見る。

咲夜はアキラとも仲がいいらしく、笑顔で話していた。

 

 

「いらしていたんですね。先輩も」

 

「ああ、君達もこのクラスなんだな。うれしいよ」

 

 

なにやら我夢と亘まで咲夜に駆け寄っていく。どうやら彼女は以外に人望が厚い様だ。

よく考えてみれば、中等部の頃にとても美人の生徒がいると話題になっていた時期があった。

今になって考えてみれば、その時話題になっていたのは彼女だった気が。

となれば、椿とももちろん知り合いになってくる訳で……

 

 

「椿先輩も同じクラスですね。うれしいです」

 

「うぅ、まあな。よろしく頼む、つかこの女から守ってくれ」

 

 

椿は軽くため息をついて苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばダンス部の奴らが大会行ってたけどどうなったのよ」

 

「ああ、優勝したらしいぜ。けど、あれは小さな大会だったから今度はもっと大きな所行くとか言ってたな」

 

「チーム名なんだったっけな? たしかイー……エックス?」

 

 

その後しばらく顔合わせ程度に会話を交わしていたが、なぜか二時間経っても先生一人現れない。

トイレは近くにあるし、向いには良質な自販機もある。つまり特別クラスがある範囲内から出なくてもなに不自由なくすごせるのだ。

最初は先生を呼びに行こうと言った者もいるが、どの先生に言っても軽くスルーされるだけだったので美歩が持っていたトランプで時間を潰す事に。

 

 

「おっ、遅れました!」

 

 

そしてガラッとせわしなく扉が開いて、スーツを着た青年が入ってきた。

やっと先生の登場か。などと思ったはいいが不思議な事が一つ、それはその先生が誰か分からない事。

いや正確には知っている者もいるのだが――皆なぜここに、と言った表情だった。

 

 

「あれ? 兄貴?」

 

「ゆ、ユウスケか!」

 

 

そう、知っている。むしろ司は何度も会っている、小野寺(おのでら)(つばさ)

ユウスケの兄でいずれこの学校へと教育実習にやってくる予定、そう聞いたのだが……?

 

 

「兄貴、教育実習はまだなんじゃ?」

 

「そっ、それがいきなり電話で今すぐこのクラスに来てくれ、じゃないと実習は無しの方向で。なんて電話がかかってきたんだよ。まいったよハハ……ハァ」

 

 

翼は先輩教師がいないのを確認すると、たまらず椅子に腰掛けた。

汗がすごく急いで来たことが嫌でも分かる。翼は呼吸をなんとかして落ち着けると、混乱しているユウスケたちに取りあえずの状況を説明していく。

 

 

「さっき校長室にいってきてね、ここの臨時担任になってくれって言われたよ。

 なんでもまだ担任の人が決まっていないらしいんだ。それで私が選ばれたっていう事かな……?」

 

 

とにかく皆、短い間だろうけどよろしくお願いするよ。翼はそう言って疲れた様に笑みを浮かべる。

しかしいくらなんでも無茶苦茶じゃないか? 誰しもがそう思う、もちろん翼自身もだ。

まだ実習すらまともにしていない人間を教師に? どういう事なのか全く分からない。

 

だけど、何かしらの考えがあっての事だろう。自分達がどうこう言って変わる訳でもなさそうだ。

とりあえず皆気になる所はあるが、それを割り切ってそれぞれ翼に挨拶をしていく。

 

 

「じゃあ、つまりコレが……」

 

 

挨拶を終えた後、席に着く一同。

そこで司はもう一度辺りを見回した。男子8人女子8人。そして臨時の教師が1人。

この十七人が――

 

 

「特別……クラスなのか」

 

 

そう思った時。まさに、その時だった――

 

それは、刹那。

 

 

「――――っあああ!」

 

 

誰かが叫ぶ、でも誰も気にする事はなかった。感じたのは激しい光、それが教室を包み込んだのだ。

眩しくて目を開けていられない。教室に存在していた誰しもが目を覆い、そして――

 

 

「熱っ!」

 

 

同時に何人かが手に、正確には手の甲に激しい熱を感じる。それぞれが苦痛に顔を歪め床に伏していた。

あまりにも唐突で、誰もがまともに頭を働かせる事ができなかった。分かるのは危険かもしれないと言う事。

窓を、教室を全て埋め尽くした光。手の甲に感じた熱は普通じゃない。光の本流はそれほどまでに凄まじかったのだ。

 

 

「く――ッ! 大丈夫かい皆!」

 

 

翼はすぐに立ち上がり皆の様子をうかがう。さすがは教育者を目指すだけあって対応が早く頼もしいものだ。

しかし翼を含め、全員がクラクラする頭を抱えて苦悶の表情を浮かべる。

それほどに衝撃的な光のフラッシュ、耳鳴りもひどい。

 

 

「真由……ッ、平気か?」

 

「……? 何が?」

 

「何がって、今のだよ」

 

 

だけど、中にはまるで平気な者もいるようだ。

クラス全員がうつむいている中で、唯一真由だけは平気な顔をしていた。

首をかしげ、どうして兄達が苦しんでいるか理解できない様子だ。

 

 

「何も……おきなかったよ?」

 

「え?」

 

 

司は天王路兄妹の会話に引っかかるものを感じたが、ソレが何かは分からなかった。

とにかく今起こったことが非現実すぎて頭が混乱している。ただそれでも少しは回復してきた様で、徐々に立ち上がり動き始めるクラスメイト。

 

 

「げっ! 何だコレ!」

 

 

その時、ユウスケの声が響く。

何事かと思って行ってみると、ユウスケは慌てながら司に右手を突き出してきた。

一瞬殴られるのかと思って、司は目を丸くして固まってしまう。

 

 

「何だよ……っ?」

 

「て、手の甲! 手の甲!」

 

「手の甲?」

 

 

その言葉で数名の生徒が次々に騒ぎ出す。手の甲に何かを見つけた?

 

 

「げっ! オレもある!」

 

「な、なんですかこれ?」

 

 

ユウスケ、翼、真志、拓真、椿、我夢、双護、亘。早い話司以外の男だ。

その手の甲に紋章らしき物がくっきりと現れていた。意味不明な物やスペード、龍の頭部を模した物など分かりやすい物も多い。

 

 

「キモッ!」

 

「な、なんなんだよ……!」

 

 

真志は強く紋章を擦ってみるが取れる様子は無い。

どうやら火傷の痕と言う訳でもなく、明確な傷と言う訳でもないが何故か取れない。

もちろんペンで書いたと言うものでもない。

 

 

「ちょ、どんだけ厨二なんだよww! 紋章ってオイオイ」

 

「む、お前のはスペードか? 大丈夫なのか椿、痛みは?」

 

「最初熱かったくらいで今はなんともない。彫られたって訳でもないし……そうだ! 咲夜、すこし舐めてみてくれ」

 

 

裏拳が椿を抉るようにしてめり込む。こいつ等は一体何をしているんだ?

 

 

「あれぇ? コレどこかでみたような気がします」

 

 

そこにくる夏美のその言葉。それで司は全てを理解した。

手の甲に現れた紋章、それは――

 

 

「ああああああああああッッ!!」

 

「つ、司?」

 

「どどどどうしたんですか司君!」

 

 

どうして俺はこんな簡単な事を忘れていたんだろうかぁああ! 司は頭を抱えて何度も自分を責めた。

これだけは誰よりも先に言っておかなければならなかったのに!!

 

 

「仮面ライダーじゃないかッッ!」

 

「は、はい!?」

 

「ライダーだよ! 仮面ライダー!」

 

 

司は興奮しながらに紋章を次々に確認していく。

そして間違いないと答えを見出した、この現れた紋章の正体とは――

 

 

「今ユウスケ達についた紋章は、それぞれの平成ライダーのマークなんだよ! くぉおおおなぜ分からなかったんだ俺はぁぁ!」

 

「はぁ?」

 

 

仮面ライダー、簡単に言えば子供向けの特撮番組である。

とはいえ大人でも楽しめる作りの為に司の様なファンも多いが、所詮はフィクションである。

それが、なぜ?

 

 

「仮面ライダーって……まじ?」

 

「まじまじ大マジだ! ちなみにユウスケがクウガ、先生がアギト――」

 

 

真志が龍騎、拓真がファイズ、椿がブレイド、我夢が響鬼、双護がカブト。

8作目である電王は何故かココにはいないが、それ以外の紋章は全て確認できる。

 

 

「亘は最新作のキバだな! というか何で俺にはないんだ!? くそがッッ!!」

 

 

暴れる司をほっといて椿は真志の紋章を見る。

 

 

「た、たしかに。龍騎のデッキにこんな紋章あったような……なかったような」

 

 

椿は龍騎を見た時の記憶をたどってみる。

しかし見たと言ってももうずいぶん昔の話だ、今更覚えてなんかいない。

 

 

「あったんだよ! 俺が何回龍騎見てると思ってるんだ! スペシャル版の結末投票で工作に走ったほどだぞ! ま、結果負けたがな!」

 

「つ、司は本当に仮面ライダーが好きなんだな」

 

 

実際、仮面ライダーなんてシリーズ物を全て見ているのは司くらいだ。

皆見た事はあっても数話程度か、一シリーズがいいとこだろう。だが司はフルコンプってなものである。

全50話近い特撮ドラマを全て見ている人は中々いないと言うものだ。

 

 

「兄さんはヒーローが好きなんだ。見すぎで寝坊するなんて小学生でもやらないだろそんな事」

 

「ふふっ、すごいですね司先輩」

 

 

興奮しきっている司を見て、それぞれはいつもの調子を徐々に取り戻していく。

異常事態だが、平常運転の司を見て落ち着きを取り戻したのだろう。

それを見計らって翼が教壇に立つ。

 

 

「え、えっと……どうかな? ここは皆、私の為に自己紹介なんてしてくれないかい?」

 

 

本当は今すぐにでも病院にいく事を勧めるべきだったが、そこはそれ翼も相当内心で焦っていたのか一旦心を平常に戻す事を優先させた。

痛みが全く無いと言うのも行動を優先させる原因になっていたのだろう。一同はそんな彼の言葉に何の違和感も無くオーケーを出した。

 

自己紹介、新しいクラスと言ったらまずはココから始まるものである。そんな翼の意見を誰も否定しなかった。

もちろん翼の為もあるが、一番は皆自分の為なのかもしれない。彼らは皆一刻も早く日常生活に戻りたかったのだ。

いきなり現れた紋章が現実味を帯びていない事もあるかもしれないが、普通の生活に基盤を戻す為にこの自己紹介を選んだのかも知れない。

とにかく、皆先ほどの事がなんともないと思いたくて話を反らそうとしていた訳だ。

 

 

「お、いいんじゃん。せっかくだからさホラ、ライダーの作品順にそれぞれのペアから自己紹介していきましょうぜ?」

 

 

美歩が手を上げて提案する。

 

 

「女子はどうする?」

 

「適当に一人ずつ男子の後で」

 

 

だったらまずは一作目であるクウガの紋章が刻まれたユウスケだ。彼は立ち上がると、言葉を探しながら口を開く。

こういう場は知り合いだらけでも緊張するものだ、同じく薫もやや表情が硬かった。

 

 

「えと……小野寺(おのでら)ユウスケです。紋章はクウガ……はい!」

 

「終わるな、空野(そらの)(かおる)です。ユウスケとは小学校からの友達で、家も割りと近いから付き合いは長いわ」

 

 

薫のポニーテールが揺れる。

そのまま彼女は翼に視線を送った。

 

 

「ん? ああ、そうか私か。えっと小野寺(おのでら)翼《つばさ》、見ての通り教師を目指してるんだ。

 ユウスケの兄で……うーん、趣味は家庭菜園って所かな? 紋章はアギト――で、いいんだよね?」

 

 

翼はメガネを掛けているが椿と違って伊達らしい。

何故かは翼は話さなかったが、何か少し悲しげな表情をしていた。

それが何なのか分からないまま翼が終わったと言う事で、次は真志達の番となる。

 

 

条戸(じょうど)真志(しんじ)、形だけだけど新聞部の部長をやってる。

 親の都合上一人暮らしなんで、もしよかったらいつでも遊びにきて欲しい。紋章は龍騎、よろしくな」

 

「ウィーす、新聞部の白鳥(しらとり)美歩(みほ)

 とりあえずアタシにできる事が会ったら言ってみてよ、力になるからさぁ。今は訳あって真志の家で暮らしてるー」

 

 

茶髪にワックスで髪をセットしてる真志と、同じく茶髪で服装が乱れてる美歩。

どう考えても校則的に問題児だが、中身はいい奴だと言うのが知られている。

教師の評判は微妙で生徒の評判がいいと言うのは中々複雑な立ち居地ではあるが。

 

 

 

ん? あれ? ちょっと待って――

今、美歩は何ていった?

 

 

「なん……だと………?」

 

 

ここで椿の表情が変わる。いや、分かる。理由は分かる。

司も感じたその違和感、それは――

 

 

「におう、臭うぜ! コイツァ、リア充のかほりだ! 真ちゃんよぉ、お前さっき一人暮らしとかなんとかほざいてたよなぁ!」

 

「う……ッ! あ、ああ」

 

「だが今! 白鳥は確かに言ったぜ! お前の家で暮ら――」

 

 

椿はその瞬間口を閉じた。おもっくそ咲夜に睨まれている、というか目が語っている。

 

 

『人には』

 

『事情がある』

 

『詮索良くない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶち殺すぞ』

 

「え、えーと…暮らし…」

 

『ぶち殺すぞ』

 

「暮ら……」

 

『ぶち殺すぞ』

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶち殺すぞ』

 

「いや…あの、本当になんか…すいませんでした。はい、あのどうぞ続けてください」

 

 

若干最後の言葉は考えすぎだろうなと思いながらも、確かに事情を詮索するのはあまり褒められたものではない。

ここは素直に咲夜の意見に従い席についた。

 

 

「え……えっと」

 

「がんばって! 拓真!」

 

「い、いぬきゃいっ、たきゅまです!」

 

 

咳払いを一つ。

 

 

「フ、ファイズの犬養(いぬかい)拓真(たくま)です。よ、よろしくおねがいします!」

 

「うん、拓真ナイス! あ。あたしは園田(そのだ)友里(ゆり)、新聞部の副部長です! よろしくね!」

 

 

優しそうだが気の弱い拓真と、ツインテールの友里。

凸凹の性格ではあるが、幼馴染と言う事で二人の仲はとてもいい様だ。さて、拓真が終わったと言う事は……だ。

その男は手の甲に刻まれた紋章を恐れることなく、むしろ前面に突き出してくる。もうみなぎってくるね!!

 

 

「漆黒の夜には煌きの紋章を。ブレイド、守輪(すわ)ッッ椿(つばき)! はいかっこいいー」

 

「こいつ……まあいい。私は広瀬(ひろせ)咲夜(さくや)。実家は日本文学、武術の道場をやっている。

 ワタシは一応それらを一通りやっているんだ。あと、椿とは幼馴染みで、私は友達だと思っている」

 

「そ……そりゃあどうも」

 

 

椿はすこし複雑な表情を浮かべて苦笑した。

あまり嬉しくはなさそうだ、いやもしかしたら――……

だがそこで次の我夢が立ち上がったので、司は特に深く考える事を止めて我夢に視線を移す。

 

 

「響鬼の紋章が出ました、相原(あいはら)我夢(がむ)です。広瀬先輩の道場で書道を勉強してます」

 

天美(あまみ)アキラです。我夢君と同じく先輩の道場で勉強しています、よろしくお願いします」

 

 

司にとって礼儀正しい二人は眩しくみえた。ボーイッシュなアキラと、中性的な顔立ちに加えて真面目そうな我夢。

困ったら二人に頼ろう、絶対そうしよう!!

 

 

天王路(てんのうじ)双護(そうご)、カブトだ」

 

天王路(てんのうじ)真由(まゆ)……」

 

 

顔はそれほど似ていないがクセのある髪が兄妹の証と言った所だろうか。

相変わらずのイケメン、そして小動物の様な真由、正直オーラが違って見えるが――

 

 

「ん? 天王路?」

 

 

その時、翼は眼の色を変える。

 

 

「君は天王路グループの息子さんかい?」

 

「ああ! 天王路ってどこかで聞いた事あると思ってたけど!」

 

 

そこで司もピンと来た。天王路グループ、大企業というのは言いすぎだがそれでもそれなりの勢力があるメーカーだ。

双護はその社長の息子ということになる。なるほど、だから少し違って見えたと言う事か。

 

 

「フッ、だが所詮俺は学生、肩書きだけのお子様さ」

 

 

双護はため息をつく。きっと自分達には理解できない苦労があるのだろう。

本で読んだ事がある。案外そういうものなのだ。そうしていると、亘が立ち上がる。

 

 

「ボクは(ひじり)(わたる)。キバの紋章に選ばれたみたいだ」

 

 

野村(のむら)里奈(りな)です!

 あ、あの……皆さんに迷惑を掛けてしまうかもしれないけど……よろしくお願いします」

 

 

里奈は不安そうにクラスメイト達を見る。だが、咲夜はまた彼女に向かって優しく微笑んだ。

本当に椿に向ける表情とは大違いな、とても慈愛に満ちているものだった。

 

 

「里奈、君は何も心配しなくていい。私たちは君の足の事は何も気にしていないさ」

 

「そうですよ里奈、あなたは少し考えすぎです」

 

 

アキラの言葉に表情をやわらかくする里奈。

 

 

「そ、そうかな?」

 

「そうだよ里奈ちゃん、おれたちは全然気にしないからさ」

 

「あ、ありがとう!」

 

 

皆の言葉に里奈は笑顔で答えた。さて、最後は司達の番となる。

 

 

「亘の兄、(ひじり)(つかさ)だ。好きなものはヒーロー、趣味はヒーロー。今は夏ミカンの家に居候している」

 

「ミカンじゃなくて夏美です! あ、あははは。私は(ひかり)夏美(なつみ)です。司君、亘君とは従兄妹なんですよ」

 

 

司達には両親がいない。

よって彼女たちの家に住まわせてもらっていると言う訳だ。

 

 

「そういえばさ、司、ライダー好きなのに紋章ないんだなプププww」

 

「吹き飛ばすぞ、きっと主人公補正かかるんだよ! その内かかるんだよ!」

 

 

司はそっぽ向いて教室の隅にうずくまった。

その様子に皆緊張感がうすれ、笑い合う。

 

 

「アハハハ……でもそれにしても遅いな、もう大分時間が経ってるのに誰もこやしない。一回校長先生の所に行って来るよ。皆はココにいてね」

 

 

確かに、それなりに時間がかかった自己紹介。

なのに誰一人先生が来る事はなかった。何かあったのかもしれない、そう言って翼は教室を出て行った。

一同は翼が戻ってくるまで時間を潰す事にしたのだった。

 

 

「げっ! 何だコレ!」

 

「? どうしたんですか司君」

 

「夏ミカン! コレ……」

 

 

司がそういって差し出したのは体操袋。だが、その中に入っていたのは体操着ではなかった。

 

 

「夏美です……って! え!? なんで? どうして?」

 

 

中身が入れ替わっている? いや、違う! これは――

 

 

「朝ぶつかった人の荷物と入れ替わったって事だろうな」

 

 

司は申し訳なさそうに夏美を見る。あの体操袋は夏美がくれた物だから――

だが夏美は特に気にしている様子もなさそうだ。袋に入っていた物をジロジロと凝視していた。

 

 

「でもコレなんなんでしょうねぇ?」

 

「え?」

 

 

夏美の問いかけに答えるために、司は再び袋の中にある物を取り出した。

中から出てきたのは四角い箱のような機械に、なにやらカードかなにかを入れるホルダーだった。

白い箱。何か、感じる物がある。

 

 

「なんだ? 玩具か?」

 

 

形的にカメラなのか? 司は適当に機械を触ってみるが何も起こらないし動きもしない。

しばらく適当にいじってみたが全く何も起こらなかった。玩具ならスイッチくらいはある筈だが、とにかく何も起こらない。

夏美は次にホルダーに視線を移した。

 

 

「ホルダーの中には何が入ってるんでしょうか?」

 

「ああ、えっと―――………ん!?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きたあああああああああああああああ!」

 

「きゃあっ!」

 

 

いっきに上がった司のテンションに夏美は圧倒される。

 

 

「どうしたんですか? またライダーとか?」

 

「正解だ!」

 

「え?」

 

 

適当に言ってみただけなのに。

 

 

「見てみろ夏ミカン!」

 

「???」

 

 

まさかマジだったのか、驚く夏美に司は見せ付ける様にしてホルダーからカードを抜き出す。

 

 

「だから夏―――うおぉ! すごいですね!」

 

「だろ!」

 

 

司の手にあるのは十枚のカードだった。

それはクウガからキバまでの仮面ライダーと、見たことの無いライダーが写っている。

そのライダーからは異様な力を感じた。テンションをあげるなと言う方が無理だろう。

 

 

「すっげーよ夏ミカン! これ次のライダーなのかな? まずこのカードはなんなんだろうな? どうやって遊べばいいんだ?」

 

 

そうやってもう一度四角い機械を見て、気づいた。機械の中心を囲む様に時計の数字が如く並んでいる紋章に。

それはユウスケ達の手の甲に現れた各ライダー達の紋章じゃないか!

先ほどはあったかどうかすら気づかなかったのに――!

 

 

「司君、でもちゃんと返さないとダメですよ!」

 

「わ、わかってるよハハハ……」

 

 

司は渋々カードを元に戻す。

見たことも無いと言う事は業界の人が新作の玩具を運んでいる途中にああなったのかもしれない。

だとすれば返すのが通りと言うものか、自分もあの袋は返してもらいたいし。

 

 

「皆!! 大変だッッ!!」

 

「?」

 

 

――と、同時に血相を変えた翼が飛び込んできたのだった。翼は口をぱくぱくさせて確かに言った。

そのあまりにも現実離れしている言葉を。

 

 

「学校が……き、消えてる」

 

「は?」

 

 

あまりに唐突すぎて、司は体操着の中の機械が光った事に気がつかなかった。

そう、機械の中心に輝いたのは……

 

 

 

 

 

十番目の紋章。

 

 

 

 

 

 

学校が消えた。

教師を目指すものとしてはあまりにも酷い文章だったが、一同はすぐにソレが間違いではない事を知る。

つまり消えていたのだ、文字通り校舎が、校庭が、校門が。特別クラスを中心とした校舎周りは残っているものの、それ以外が消えている――

 

いや、消えていると言う表現は少し違う。移動しているといったほうがいいか?

校舎の周りは司達が全く知らない場所にあった。窓を見れば田んぼではなくコンビニが見え、まるで校舎がどこかにワープしたかの様だ。

とうぜん職員室も校長室もなく、特別クラスにいる生徒以外は消えていたと言う訳だった。

 

 

「なんだよ……コレ!」

 

 

真志が窓を開けて辺りを見回す。見知らぬ街、見知らぬ場所。

そしてさらに、ビルやらなにやらが不自然に壊れていた。壊れていた? それがイレギュラーの最もたるものだ。

崩壊した景色は異常さを引き立たせている。まるで戦争のさなかに紛れ込んだ様な感覚、普通じゃない。

 

 

「い、意味わかんねーっ! 俺らってどうなった!?」

 

「こ、怖いです……」

 

 

混乱、恐怖、一同のなかでそれらが膨れ上がっていく。現実と言うこの世に突如現れた異変。

翼はぐっと唇をかんだ、この状況はまずいと。

 

 

「と、とにかく皆はここにいてほしい。私が外に行って様子を見てくるから」

 

 

だが、いくら年長者の翼と言っても危険な場所に一人で行くのは危険だ。

それを言うと、しぶしぶ翼は近くにいた生徒を呼ぶ。

 

 

「……っ、わかったよ。じゃあ何かあるといけないから一応――

 双護くん、司くん、夏美ちゃんも来てくれないか? ユウスケは皆を頼むよ」

 

「あ、ああ」

 

 

女の子である夏美を連れて行くのは気が引けたが、どんな状況があるか分からない。

もしかしたら女性の手が必要になる可能性もあるからだ。それを夏美もそれを了解した。

それぞれ頷くと翼に続いて行くのだった。何も無い、それだけを彼は連呼して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ど、どこまでいったんだろうな?」

 

「分からん、ただこの状況はただ事ではない」

 

 

翼たちが出て行って数分は経ったか。椿と咲夜は窓を背に話し合っていた。

この状況のこと、世界の事、答えなど出ない事はわかっているのだが――

そして、いきなり咲夜の表情が変わる。

 

 

「ど、どうした?」

 

「悲鳴が聞こえた……」

 

「ま、マジ?」

 

 

咲夜は窓から身を突き出し、辺りを見回わしてみる。

すると、すこし離れた所で女の子がうずくまって泣いているではないか!

 

 

「お、おい君! 危ないぞ!」

 

 

咲夜は叫ぶが全く届いていないようだ。女の子は崩壊した街の中でしきりに泣きじゃくっている。

顔を覆って――

 

 

「くそっ!」

 

 

かるく舌打ちをして咲夜は窓から飛び降りる。

もうこれしかなかった、すぐに向かえば何とかイケるかもしれない。

 

 

「って! おいおい! なにしてんだよ!」

 

「あの子を助ける! さっきから爆撃の様な音が続いている。あんなところに置いとけるか!」

 

「先輩!」

 

「ま、待て待て! 俺が行く!」

 

 

咲夜の行動にアキラ達が続こうとする。が、ソレを椿は静止させた。

一応彼にも先輩としてのプライドがある。後輩が向かう中で一人震えているなんてダサいにも程があるだろう!

 

 

「まじ勘弁してくれよッ! ひきオタにはハードル高すぎなんだよッ!!」

 

 

そう言って泣きそうになりながらも、椿は咲夜の後を追うのだった。

まさにゲームの様な状況だ、これは本当に現実なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、大丈夫か?」

 

 

瓦礫で覆われた道を進む咲夜。そのまま女の子の所に駆け寄ると、屈んで声をかけた。

しかし女の子は咲夜にかまわず泣き続けるばかりで、会話すら成立しない。

困ったな、咲夜は唇をかむ。女の子は確実に自分に気づいているのに。少しして後を追って来た椿と合流する。

 

 

「お、おい! 咲夜!」

 

「椿か、すまない。すこし手伝ってくれないか? この子を学校まで運ぶ」

 

「え? あ……ああ。分かった」

 

 

椿が女の子に触れようとした瞬間、女の子はいきなりその顔をあげる。

女の子はもう泣いていない。

 

 

「え?」

 

 

女の子は笑っていた。

しかしその顔はこの世のものとは思えない程歪んでいた。

目は抉れ、口は裂け、ノコギリの刃とも言える歯をむき出しで笑みを浮かべていた。

当然だ、もう泣く事なんてない。悲しい事なんてない。

 

 

「オねェちャんっテ、ぉイしソうだネ」

 

 

なぜなら、彼女は餌にありつけるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達! まだこんな所にいたんですか!」

 

 

翼たちが街を探索していると、いきなり警官に話し掛けられた。物凄い形相でおもわず翼たちも怯んでしまう。

やはり今この場で起こっている何かと関係があるのか? 湧き上がる疑問に翼は混乱しそうになる。

しかし人がいた事には若干の安心を覚える。とりあえず事情を聞きだせそうだと。

 

 

「今コレはどう言う状況なんでしょうか?」

 

「どうしたもこうしたも――……」

 

「?」

 

 

ふと警官の言葉が止まる。どうしたのだろう?

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

 

翼は不思議に思い警官の肩を軽く叩く。

すると、警官は糸の切れた人形のようにばたりと倒れた。

 

 

「え?」

 

 

 

翼たちは一瞬の事に固まってしまう。何がどうなって――

 

 

「きゃあああああああああッッ!!!」

 

「ッ!?」

 

 

翼が疑問に思うと同時に夏美の悲鳴が耳に響く。

つづいて司も同じように叫び声を上げる。彼のは悲鳴とかじゃない、声にもなら無い叫び。

双護は声こそ出さなかったが一点を見詰め青ざめていた。どうなっている!? 不思議に思い、翼もその方向を見てみる事に。

 

 

「―――ッッッ!!!!」

 

 

絶句した。見なければ良かった、いやそんな事できるわけなかったが……。

まずは目を疑う。上空に触手の様なものが浮かんでいて、その先端には真っ赤な血を滴らせている心臓があったからだ。

 

 

「な、なんだコレは……ッッ」

 

 

脈動を続ける心臓はやけにリアルで、作り物などではないと言う事が素直に理解できた。

だがありえない、普通心臓はこんな事にはならない。しかし突きつけられるのはリアル、一瞬心臓と言う事が分からなかった程に。

 

 

「ッ!?」

 

 

訳が分からぬまま背を上にして倒れている警官に視線を戻す。

背中には穴があいているじゃないか。ああ間違いない、あの心臓はこの警官のものだ。

心臓が無い人間はどうなる? どうなっている? いやしかしそれよりも気になるのは――

 

彼らは急いで触手が"何に繋がっているのか"を確かめる。

すると少し先に人の形をした、だが人ではない何かと繋がっていた。

白黒の化け物―――

 

 

「に―――……」

 

 

かろうじて翼は声をだす。張り裂けそうなほど心臓は鼓動を早めている。

そんな馬鹿な事があるわけが無いと知っていても、恐怖せずにはいられなかった。

触手は心臓を飽きた玩具を捨てるかのように放り投げると、暫く旋回を続けている。

 

人を殺す触手。そんな馬鹿なものが存在していいのは映画や小説の中だけだ、なのに今自分達はそれを見ている。

ドッキリに違いない、ドラマ撮影の一環にしか過ぎない、これはフィクションでしかない。

翼は軽く笑うと冷静さを取り戻すために、もう一度心臓を見た。

 

 

「―――」

 

 

しかしやけにリアル、いやこれがリアルだから? 何が、どうなっている。

そんな馬鹿な事が? でも、あの化け物は――

 

 

「に―――ッッ!! 逃げろォォォォォおおおおおおッッッ!!」

 

「「「ッッ!!」」」

 

 

翼の声を聞いて、司達三人は一勢に踵を返して走り出す。

その顔は誰もが恐怖と絶望で染まっていた。彼らはいまだかつて無い恐怖の中足を動かすしかない!

あれは真実なのか? 人が殺された、異形の化け物に!!

 

 

「う、嘘だ! 嘘だろ!?」

 

 

すこし走ったら触手が翼達を追ってきた、それでも彼らは走る事を止めない。

立ち止まったらあの警官の様に死ぬ? だがこんな時でも幼き頃から養ってきた知識が、自分を冷静にさせる。

司は走っている間にも一つだけ確信を持っていた。あの触手に繋がっている怪人には見覚えがあった。

 

"オルフェノク"、仮面ライダーファイズに登場するいわゆる敵怪人。

だから司は必死に祈り続ける、きっとファイズが颯爽と現れてアイツを倒してくれると。

もはや、なぜテレビの中の偶像が出てくるのかなどどうでもいい、警官は確かに死んだのだ。

それはテレビでも何でもないリアルの話。 これがドッキリなら仕掛けたテレビ局の人間全員ぶん殴ってやるッッ!

 

 

「ハァハァ……ッッ! くそッ!!」

 

 

そう思っても、いつまで経ってもファイズは現れてくれない。

所詮俺達は引き立ての為に殺されるモブキャラなのだろうか? 司は思う。

いや待て、それはおかしい話だ。本当の仮面ライダーなんてこの世にいるわけが無い、それは司だって分かっていた。

あんなの所詮子供向けに作ったエンターテイメント、いくら憧れようが偽りは偽り。ライダーはいないし、なれない。

 

 

「こんなの、嘘に決まってる――ッ!」

 

「諦めろ……ッ! あれは現実だろう――!」

 

 

しかし天王路双護、彼は違った。彼はこれが全て現実の光景だと受け入れて変化に適応する。

何故かとても人間とは思えないスピードで走り、ある程度距離をとると石を投げ触手の軌道を邪魔する。

その繰り返しだ、実際双護がいなければ皆既に死んでいただろう。

 

 

「皆! 今の内に――ッッ!!」

 

 

双護が叫ぶ。だが弱い人間の悪あがきがいつまでも続く訳が無い。

抗い続けた双護だったが、ついにその時がやって来る。

 

 

「ブぅゥゥうウゥうン!」

 

「ぐあっ!」

 

 

双護に何か影が突進してきた。早すぎて見えない――

が、少しその『何か』が止まった時一瞬だけ見えた姿は恐らくワームなのではないかと司は思う。

またフィクションの化け物。現れて欲しいと思ったファイズは現れず、代わりに最悪な敵がやって来てしまった。

助からない? 殺される? そんな馬鹿なッッ! どうしてテレビの中にあった嘘に殺されなければならない!?

 

 

「ぐっ!!」

 

「双護!!」

 

 

最悪だった、双護は体勢を崩し倒れる。すぐに起き上がろうとしたが体が思うように動かない。

それが何を意味するのか、皆すぐに理解しただろう。ワームの力は本物、双護へ確実にダメージを与えたと言う事実。

ならばこれは紛れも無い現実。本当にオルフェノクとワームは存在し、自分達を狙っていると言う事。

これは偽りじゃなく、フィクションでもなく、正真正銘の現実における光景だったと言う事。

 

 

「きゃ!」

 

「夏美ッッ!」

 

 

ついに夏美の体力が切れたのだろう。夏美はつまずき、転んでしまう。

そこへ触手が襲い掛かる。もう終わり、夏美に逃げる手立ては無い。彼女も警官と同じく――

 

 

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 

 

ライダーの世界に行きたいと思った事ならば何度もある。

そして今その夢が叶ったのか? その結果がコレなんだぞッッ!!

 

 

「た、助けてぇ……! 助けて司君っっ!!」

 

 

もっと活躍できると思ってた。

もっとカッコよくできると思っていた。なのにきっとこのままいけば皆死ぬだろう。

夏美も、双護も、翼も、そして自分も! 訳も分からないまま無残に、残酷に!!

 

 

「っざけんなあああああああッッ!!」

 

 

夏美との思い出が蘇る。

いつもなんだかんだ言って付いてきてくれた従兄妹。

 

優しかった、でも死ぬ。

 

いつも笑ってた、でも死ぬ。殺される。

 

一緒によくライダーを見た、でも死ぬ、殺される。

 

もう会えなくなる。

 

 

――嫌だ。嫌だ。認めない。信じない。許さない。そんな結末は絶対に認めないっ!

 

 

 

ありえないッッ!

 

………やる。

 

―――してやる。

 

 

 

 

 

 

壊してやる

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

気がつけば手に感覚があった。何故か持っていた、あの機械を、あのホルダーを。

司は――確信する。そうだ、そうだった。電王がそうだ、イクサがそうだった! 望みさえすれば手元にくる!!

 

彼はその機械を迷うことなく腰の前に持っていく。そして手を離した。機械は落ちない、分かってる。だってもう付いてるんだから!

ホルダーから迷うことなく一枚のカードを引き抜いた。これが来る事は分かってたのかも知れないし、単なる偶然だったのかも知れない。

それでもカードの入れ方は直接頭の中に入ってきたし、もう分かってる――ッ!

 

 

『カメンライド――』

 

 

電子音が耳に入ってくる。

どこかで聞いた事があるような、ないような、そんな声だった。

いやそんな事どうでもいい。

 

司はその――カードを機械に放り投げた。あとはバックル閉めるだけ、後悔は無い。

夏美が死ぬ事実なんて――

 

 

 

 

 

 

壊れてしまえ

 

 

「変ッッ身んんんッッ!」

 

 

言う必要は無かったかもしれない、しかしただ夢中で我武者羅に叫ぶ。

初めて現実で、その意味が本当に含まれる言葉は呂律が回っておらず随分と格好悪い物。

しかし変化は確実にあった。クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。

自分の周りに出現するのは九つのエンブレム。それらが司に集まり、そして弾けた。

訪れる―――……結果を孕んで。

 

 

『ディケイド!』

 

 

そこにいたのは司だが、彼もまた化け物と何ら変わりない容姿となって地面を蹴っていた。

言葉にすれば随分と簡単なモノ――

 

聖司は、この瞬間化け物になったのだ。

 

 

『ディケイド!』

 

 

出来上がった異形は色の無い体、複眼、しかし目の前に現れたプレート達が顔に突き刺さっていくと更なる変化が。

体にマゼンダの色が駆け巡り、複眼にも緑色の色彩が宿る。

変わる、駆ける、分かる。司の頭の中に文字通り全ての情報が頭に入ってきた。

彼はカードホルダーから一枚のカードを抜き取ってバックルを操作していく。

 

 

『カメンライド――』

 

 

鳴り響く電子音。そうだ、来てくれないなら――

 

 

「なればいい!」『ファイズ!』

 

 

姿が変わる。何に? 決まっているファイズにだ。

そして瞬時、素早くカードを滑らせた。

 

 

『アタックライド』『オートバジン!』

 

「ッ! グォオオオ!」

 

 

どこからともなく猛スピードでバイクが現れ、オルフェノクを弾き飛ばした。

まだ終わらない、バジンは素早く変形し人型に変わるとすかさずガトリングで辺りを撃ちまくった。

散る火花、当然これも現実だ。

 

 

「ッブゥウウバババ!!」

 

 

何発かがワームに当たりそのまま動きを止めていく。

その隙にバジンはワームの所まで飛翔し、首元を掴み地面へと叩きつけた。

いくら高速で動こうとも怪力にて掴まれれば能力は意味を成さなくなるだろう。

 

 

「うおおおおおおおおおおッッ!」

 

「グガァ!」

 

 

起き上がるオルフェノクを力任せに殴り倒す。

うつ伏せになったオルフェノクを足で押さえつけ、最後のカードを司は――ファイズは差し込んだ。

 

 

『ファイナル・アタックライド』『ファファファファイズ!』

 

 

足から紅い閃光が発射され、オルフェノクは地面に貼り付けになる。

終わりだ、もう一度ファイズは閃光の中に足を入れるようにして踏みつけた。

その瞬間ドリルの様に閃光が回転、光の本流をオルフェノクの体内にぶち込んでいく。

 

 

「ギャアアアアアアアア!」

 

 

断末魔と共にオルフェノクは爆発し、そこにはΦのマークのみが残された。

勝利という事なのだろうが、まだ標的は残っている。

 

 

「変身」『カメンライド――カブト!』

 

 

 

六角形の光が体を包み、ファイズからカブトに変身を完了させていく。

だがファイズの変身が解けた事でバジンも消滅、するとワームは再び高速移動で辺りを駆け始めたのだが――

 

 

『アタックライド』『クロックアップ!』

 

 

時が変わり、ワームと同速になる。だがカブトはあえてヤツに背を向けた。

それは大きな隙を作る愚行とも言えるが、彼は一体何を考えているのだろうか?

 

 

「ブゥゥゥゥウウウウルルル!」

 

 

ワームはココがチャンスと悟ったか真っ直ぐに突進を仕掛けてくる。

おいおい、俺が何度このシーンを見たのか、どうやらその身をもって分かってもらうしかないみたいだな。

カブトは仮面の下でニヤリと笑い、最後を意味する金色のカードを発動する。

 

 

『ファイナルアタックライド』『カカカカブト!』

 

「ハァッ!」

 

「バヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

回し蹴り、あっけなくワームは爆発して死んだ。

緑色の爆発の中でカブトは冷静に思考を働かせていた。そうか、これカブトの力なのか。

拳を握り締めて確かな力を実感する。どうしてか彼は非常に冷静である。

 

 

「「「「ジィィイイイイイイ!!」」」」

 

「………」

 

 

再び言葉にならない夏美の悲鳴が聞こえる。

虫は一体いれば周りに十匹はいるとは言ったものだが、まさにその通りだった。

カブトの周りには無数のサナギが。サナギと言っても姿は非常にグロテスクでしっかりと二本足にて歩行している。

 

 

「変身!」『カメンライド』『ヒビキ!』

 

 

カブトに襲い掛かろうとした無数のワーム達、しかし攻撃を当てようとした時に次々と断末魔が聞こえる。

理由は簡単だ、カブトの体が紫色の炎に包まれたから。おかげでワーム達にカウンターを仕掛ける事ができた。

 

 

「はあッ!!」

 

 

リンと鈴の音が響き渡り、炎の中からカブトではなく仮面ライダー響鬼が姿を見せる。

まさにその姿は文字通り響鬼そのもの。唯一違うとすればベルトのデザインだけだろうか?

ほら、そうしていると彼はカードをドライバーに装填していく。

 

 

「フッ! ハァアアアッッ!」『アタックライド』『オンゲキボウ・レッカ』

 

 

炎と共に彼の手には二対のバチが握られる。

その武器を振るうと炎が発射され、周りにいたワーム達を次々に焼き尽くして言った。

翼たちが目を見開く中、あっという間に周りの化け物は全て消滅する。もういいだろう、と司は変身を解いた。

だが勝利の余韻に浸る暇は、自分の体に起きた異変を確かめる暇は無い――

 

 

「夏美ッッ!」

 

 

司はいそいで夏美の所に急ぐ。

 

 

「づがざぐぅぅん! ごわがっだでずうううううう!!」

 

 

夏美が涙で顔をぐしゃぐしゃにして抱きついてきた。

幸いにも怪我はしてないみたいだ。双護と翼も特に大きな怪我もないようで、なんとか無事に事が終わる。

しばらくすると、翼が双護を抱えて司の元へ走ってきた。

 

 

「つ、司君……っ! いろいろ聞きたい事はあるけど、とにかく今は学校に戻ろう! 皆が気になる」

 

「はい……!」

 

 

そこで、冷静に考える司。あれ? 俺は――……仮面ライダーになれたのか?

 

 

「………ッ」

 

 

あれだけ憧れていたヒーローになれたのに、自分は驚くほど冷静だった。

嫌でもなければ嬉しくも無い。今になって考えてみればそんな虚無感が溢れていたのかもしれなかった。

確かに高揚していたと言えばそうだ、だが同時に大きな不安と恐怖もそこにはあった。

それを早く忘れるため、司はあまりにも普通に翼へと言葉を返したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

さて、時間は少し戻る。それは司が変身するすこし前の事だ。

椿と咲夜もまた、走っていた。二人の後ろには無数のワームのサナギ体が二人を追っている。

グロテスクな容姿のサナギ体、それに追いかけられる恐怖はすさまじいものがあるだろう。

二人共恐怖に顔を歪めて足を動かしていた。

 

 

「何なんだよ、マジ何なんだよちくしょうッッ! 俺達女の子を助けに行っただけじゃないのかよ!?

 なんでその女の子が化けモンになるんだ!? 訳わかんねぇよッッ!」

 

「いいから走れッ! 死にたいのか!」

 

「何でお前はそんなに冷静なんだよ! 意味わかんねぇよくそくそくそッッ!」

 

「ワタシだって怖いに決まってるだろ!

 どうしてこんな目にあわなきゃいけないんだ……! ワタシ達が何をしたっていうんだッ!!」

 

「お、おい――ッ」

 

 

咲夜はぼろぼろと涙をこぼす。

椿は罪悪感に包まれたが、咲夜を励ましてやれるほどの余裕はなかった。

そして同時に無性に悔しくなる、悲しくなる。咲夜に釣られて思わず涙ぐむ椿。

だがもうそんな余裕すら無いほど彼らは追い詰められていた。

 

 

「ヒッ!」

 

 

ふと前を見ると、そこには追ってくるのと同じサナギ体ワームが。

しかも群れである。無数の緑が死を届けに二人へと足を進めるのだ。

スピードは速くは無い。だが確実に迫るワーム達、ついに精神が先に限界を迎える。

 

 

「う、うわああああああ!」

 

 

腰が抜けてしまう。人生で初めて感じる死への恐怖。

それは咲夜も同じようで、腰は抜かさなかったが足はぶるぶる震えていた。

 

 

「つ、椿――」

 

「はあ!? ななななんだよッ!」

 

「か、空手って……アイツ等に効くと思うか?」

 

「はあ!? ばっ、馬鹿じゃねーのお前! ししし死ぬぞッ!」

 

 

彼女を止める椿、だが咲夜はその答えを聞く気はなかった。

ここで何もしないより、足掻いて散った方が自分でも納得がいくだろう。

椿は守りたかったが、今の自分にそんな力はない事を知っていた。咲夜はゆっくり目を閉じて集中する。

せめて一瞬の隙でも作る事ができたのなら、椿を逃がせるかもしれない。

 

 

「おい、おい!―――が、――るって!」

 

 

椿が何かを言っているが分からない。

なにか巨大な音がするからだ、咲夜はたまらず目を開けた。するとそこには――

 

 

「な! で、電車ッ!?」

 

 

文字通り電車が走って来る。

しかもその電車は空中を走っており、線路は空間法則を無視して空中に留まっているじゃないか。

もうおかしな事が起こりすぎていて訳が分からない。どうにでもなれと言う感じだった。

 

 

「って、こっち来るぞ!!」

 

 

電車は空中を旋回しコッチに向かってきた。

一瞬焦る二人だが電車は二人を囲むワームを蹴散らし、また空に帰って行く。

何なんだ? 固まる二人。そしてふと電車が通った所に人がいるのが見えた。

亘と同じくらいの年齢に見えるが目つきがかなり悪い、赤いメッシュがさらに凶悪さを目立たせているときた。

 

 

「おいおい、主役がいねぇのに盛り上がってくれちまってるじゃねーか」

 

「「ッ?」」

 

 

少年はどこから取り出したのか、いつの間にかベルトを持っていた。

それを腰に素早く巻きつけると、ニヤリと笑って赤いボタンを押す!

 

 

「変身!」『SWORD・FORM』

 

 

少年が一瞬で別の姿に変わった。

黒と銀のスーツ、髑髏(どくろ)の様な仮面。さらに周りには赤い鎧の様な物が現れて少年に装填されていく。

全ての鎧が一勢に少年に装備されると、一瞬だけ赤い光が充満して衝撃波を発生させた。

 

 

「俺、参上!」

 

 

少年はそう言ってポーズをとるが、椿と咲夜は口を開けたまま黙り込むだけ。いきなり現れてこんな事言われたら誰だってこうなるだろ。

鎧を纏った戦士。その少年はベルトに備わっていた『何か』を次々に繋げていき、ワーム達に向ける。

するとその『何か』から赤い刃が出現して立派な剣となった。

 

 

「今日の俺は最初から徹底的にクライマックスなんでな、悪く思うなよ」

 

 

そう言って少年はパスのような物をベルトの中央に掲げる。

すると、ベルトから電子音が流れ――

 

 

『FULL CHARGE』

 

 

ジジジと赤いエネルギーが、持っていた剣に宿った。

少年は軽く鼻を鳴らしてワームの群れに突っ込んでいく! 数ならば圧倒的に少年が不利なのだが――

 

 

「おぅりゃあああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

 

力任せに、かつ豪快に! バッタバッタとワームを切り裂いていく。

ワーム達は逃げ様とするが、互いにぶつかり合いうまく逃げられない。そうこうしている間に少年はワームを全て切り裂いた。

赤い軌跡がワームに刻まれ、そこからエネルギーが暴走していく。

 

 

「俺の必殺技。パート・ワン!」

 

 

その声を合図にワーム達は次々に爆発。少年と言うよりは赤い戦士は、爆発の中でもちゃっかり決めているじゃないか。

心臓が張り裂けそうな重苦しい恐怖の中に訪れたエンターテイメント感を持った戦闘。

少年のその様子に椿たちはただ口を開けて呆然としているだけ。

 

 

「「「「ジィイイイイイイイイイイ!!」」」」

 

 

しかしまさにワームと言うべきか、倒せば倒した数を上回る虫が湧いてくる。

サナギ態のワームはさらに数を増して戦士を狙いに向かう。

 

 

「おもしれぇ! こうでなくっちゃつまんねーからな!!」

 

 

普通ならばその大群に怯え竦むものだが、むしろ戦士のテンションは上がっていく。

自分が負ける事など欠片とて思っていない、そんな力強い自信が彼からは感じられた。

だがそこで少しおかしな事が起こった。彼が見えない何かと会話をしている様に見えたのだ。

 

 

「お、おい! まだ俺の――」『ROD・FORM』

 

 

ベルトが電子音を告げると戦士の鎧が吹き飛んで反転する。

そして再び装備されていけば、そこにいたのはデザインが完全に変更された青い戦士だった。

鎧が装備された時に衝撃波が発生しており、ワームは地面に倒れていく。

 

 

「お前ら僕に釣られてみる? って言っても、会話が通じる相手じゃなさそうだね」

 

 

戦士は握っていた剣を分解させて、別のものに組み立てていく。

それが完成すると一気に長さが変わり、槍にも見えるロッドが完成した。

 

 

「見た目が酷い魚ほど美味しいって言うけれど……」

 

 

青い戦士は先ほどの赤いバージョンとは違い相手の攻撃を華麗にかわし、的確なカウンターを仕掛けていく戦法だった。

さらに蹴りと長いロッドの攻撃で常に自分のペースを維持していた。

 

 

「さてと――」『FULL CHARGE』

 

 

戦士はエネルギーが満たされたロッドをワームの群れに向かって投げつけた。

すると六角形の、まるで亀の甲羅の様なオーラがワームの動きを封じていく。

その隙に地面を蹴った戦士、彼はそのままオーラに向かってとび蹴りを。ワームの群れはその攻撃に耐えられず緑色の爆炎をあげて絶命していく。

 

 

『AX・FORM』

 

 

爆炎の中から駅の案内メロディが聞こえてきたかと思うと、さらに電子音が。

そして爆炎の中から出てきたのは青い戦士ではなく金色の戦士だった。

 

 

「「「ジィイイイイイイイイ!!」」」

 

 

ワーム達は意地でも戦士を殺したいようだ。

しかしここでおかしな事が、金色の戦士は何故かワームが向かってきても全く動じず動く気配を見せないじゃないか。

だからかあっとう言う間にワームの群れの中に消えていく戦士、椿たちは一瞬やられたと思いゾッとするが――

 

 

「俺の強さは泣けるでぇッ!!」

 

 

その言葉とともに両手を振り上げる戦士、その勢いは群がっていたワームを全員ぶっ飛ばしていく!

さらに戦士はなにやらパスの様なものをベルトへかざし、エネルギーをいつの間にか持っていた斧に満たしていった。

そしてそのまま武器を思い切り振り回す! その威力はすさまじく、ワームが耐えられる訳も無い。

 

 

「ダイナミック……チョップ!」

 

 

最後の戦士は首を鳴らす。

しかしまだワームは残っている。戦士はそのままベルトにあった紫のボタンをタッチした。

すると再び電子音、装備される鎧、現れるのは銃を持った紫の戦士だった。

 

 

「わーい! ぼくの番! お前ら倒すけどいいよねー!」

 

 

ハイテンションで銃を乱射していく戦士、どこか子供っぽいのは気のせいだろうか?

 

 

「答えは聞いてなーい! あはははは!!」『FULL CHARGE』

 

 

特大の弾丸を群れに命中させる戦士、同じく特大の爆発があがっていた。

そして再びなにやら騒がしい会話が繰り広げられ、再び赤い戦士の姿に彼は戻る。

 

 

「ったく、俺の楽しみを邪魔すんなっての!」

 

「すげぇ……!」

 

「あ、ああ」

 

 

あっという間にあれだけいた化け物を倒した戦士。

だが、咲夜はギョッとする。

 

 

「お、おい! まだいるぞ!」

 

「あん?」

 

 

戦士は咲夜が指差した方向を見る。

そこには一体だけだがまだワームのサナギ態が残っていた。おそらく運良く先程の攻撃をかわしたのだろう。

 

 

「けっ、まだ残っていやがったか……」

 

 

戦士は足を止める。少しワームの様子がおかしい、立ち止まったままブルブルと震えている。

――と、つぎの瞬間ワームの背中から新しいワームが出てきた。緑一色だったサナギから現れたのは、毒々しい程カラフルな容姿。

 

 

「うぉ! な、なんだ!」

 

『成虫になったんじゃないかな?』

 

 

戦士からおっとりとした別の声がした。

だがその読みは的確、声どおりワームは成長したのだ。

 

 

「ブゥゥゥウウウウン!」

 

「のわっ!!」

 

 

ワームは猛スピードで戦士を弾き飛ばす。

その瞬間的な攻撃に彼も対処できなかった様だ、まともに突進を受け地面に伏してしまう。

 

 

「はぇええ!?」

 

 

戦士は素早く身を立て直すが、ワームは既に走り去りいなくなっていた。

あのスピードを考えると追いかけるのは不可能だろう。今から追っても無駄、つまり完全に逃がしてしまったと言う事になる。

 

 

「ああああああ! 逃げられたぁぁああッ!」

 

 

彼は悔しそうに地団駄を踏んでベルトを乱暴に剥ぎ取った。すると少年から何か赤い物が一緒に飛んでいった気がする……

なんなのか、椿と咲夜は視線を交互に移すだけ。すると少年の方から二人に近づいてきて声をかけた。

 

 

「あのぉ」

 

「え?」

 

 

少年の雰囲気がどっと変わって、おとなしそうな感じになる。さっきまでの少年とは似ても似つかない。

まるで、別人みたいだ。いや、なんな髪型も変わっている様な気がするしメッシュも無くなっている。

そもそも声が違う様な――

 

 

「ここは危険ですから離れましょう。いい所はありますか?」

 

「あ……あ、ああ! だ、だったら学校がいい」

 

「分かりました。じゃあ……あっ!」

 

 

少年は何も無い場所でこける。

ますます先ほどの威圧感に溢れていた様子とは別人だ。

 

 

「うぅぅう、ごめんなさい。ちょっと運が悪くて――っ!」

 

 

涙目で理由を説明した彼、その時再び空間から電車が現れて三人の前に停車する。

慣れと言うのは怖い物で、咲夜たちは冷静にその電車を見ていた。

空を走っているが間違いなく電車。その時椿が声を上げる。

 

 

「あれ!? この電車って確か――! ってそう言えばさっきのもッッ!!」

 

 

冷静になってみれば過去の記憶が既視感をもたらした。

自分はこの電車を知っている!? それにさっきの戦士もだ! そんなことを考えているとドアが開き――

 

 

「さあ、乗って!」

 

 

中から気の強そうな女の子と。

 

 

「危なかったな、お前ら!」

 

「わお! 中々綺麗な娘がいたねぇ」

 

「zzzzzzz……」

 

「さぁさぁ、早く早くー!」

 

 

よく分からない生物が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校。

 

 

「つまり、あなた達は何も知らずにココにきたのね?」

 

 

教室の椅子に座っているのは、これまた亘くらいの女の子だ。

白い服に黒いフリルのスカートと言う可憐な服装だが、腕を組んでいる辺りは何か男らしさの様な物がにじみ出ている。

と言うかかなり目つきが鋭い、彼女は普通にしている様だが睨まれている様に感じてしまう。

 

 

「ああ、辺りが光に包まれて……気がついたらこの世界にいた。あと、サインもらっていいっすか?」

 

「ぼく達もよく分からない状況なんだ。ごめん、この世界の事については何も分からないよ」

 

「成る程……あと、サイン貰っていいっすか? 大ファンなんですよ俺」

 

「うぜぇよww! 多分その人は純粋に野上良太郎だと思う。信じられないけど」

 

 

椿の言った事は確信に近いかも知れない。もはや今日を境に自分達の常識は常識ではなくなった。

目の前にいる野上(のがみ)良太郎(りょうたろう)とハナ。二人はキャラクターやフィクションでできた偶像ではなく、独立した生命なのだろう。

良太郎達、電王組みはいつもと変わらず時空間を移動していた時に異常な雰囲気を放つ線路を見つけたらしい。そしてそこに吸い寄せられてココに来たと言っていた。

 

 

「オーナーはココもれっきとした世界だって言ってた、ただこの世界がどれだけの完成度なのかは分からない。

 数時間前にできた世界だとか、何億年も前にあったのかもしれない。多世界解釈、無限時空理論、なんとも言えないわ」

 

「パラレルワールドか……」

 

 

自分達の世界とは全く異なる別世界、それがパラレルワールド。

漫画やアニメで見かけた事はあるがそんなものが本当にあったとは。ふと、目の前で死んだ警官の顔が脳裏によぎる。

 

 

「………っ」

 

 

胸が痛い。軽く吐きそうにもなる。彼は……彼の世界は確かにココだった。

そしてこの世界で死んだ――

 

 

「……考えていても仕方ないか」

 

 

残酷な考え方だが今はとにかく自分たちが助かった事に喜びを。ふと時計を見る。もう夜の十一時を回っていた。

既に女性陣の何人かは下の保健室で眠っていると聞く。

まあ仕方ない、いろいろとショックが強かったから。

 

 

「ああ、そういえば」

 

 

そこで真志がふと口を開く。

 

 

「椿達が行った後、ここにもワームってヤツが来た。でも、この学校には入れないみたいで……」

 

「入れない?」

 

「ああアタシも見た。なんか入れないってか、見えてもないし入ってもこない……みたいな?」

 

 

まるで見えないバリアが張ってあるかの様にこの学校は守られていたのだ。

外部からは確認できない場所、それが学校と言う事なのか?

 

 

「もしかしたらこの学校が絶対的安全地帯なのかもしれない……」

 

 

だとすれば心強いのだが――。

そう言って司は教室を出て行こうとする。

 

 

「司、どこ行くんだ?」

 

「すこし空気を吸ってくる、屋上なら襲われる事もないだろ」

 

 

そう言って司は屋上へと向かう事にした。

司がいなくなったのを確認すると、翼は一番の疑問を口にしてみる。

 

 

「どうして司君は変身できたんだろうか……」

 

 

まさに、あれは人間の成せる技じゃない。同時にアレが人間の姿ではないと言う事も十分に理解できる。

仮面ライダーと言うのだろうか? そんなモノが本当にいるとは思え――

 

 

「ああ、いや……」

 

 

翼はすぐに考えを改める。そもそも司が変身しただけではなく、仮面ライダーに登場する敵が。

そして何よりも電王本人である野上良太郎達が存在すると言うだけで疑う方がおかしいか。

とにかく一特撮作品であるライダーが大きく関係している事は確かなのだから。

 

 

「自分でもよく分かってないみたいだからな。

 ただ、変身した瞬間にカードの使い方とかある程度の戦い方は頭に入ってきたらしい」

 

 

双護が聞くには、変身した時に誰かが頭の中に戦い方を乱暴にぶち込んできたらしい。

誰か? それが気になったが、司自身それが何かはよく分からないと言っていた。

ファイズになった時も、カブトになった時もそれを感じたと言うが――

 

 

「あの箱――……じゃなくてベルトの力か」

 

 

機械音声を信じるならば、司が変わったのは『ディケイド』と言う名前のライダー。

もちろんその情報を持っているのは司を含めて誰もおらず。とにかく、しばらくいろいろ考えてみる。

しかし何も分からない、そんなやりとりに翼はため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディケイドか……」

 

 

司は屋上で、自販機で買ったコーヒーを飲みながら空を見上げていた。

違う世界? まだ若干の疑いはある。いつもと変わらない様な星空に見えるが、自分達の世界ではないのか。

それにしても、このコーヒー。

 

 

「じいさんの方が美味いな……やっぱり」

 

「そうでしょう?」

 

 

声がして振り返る、そこには夏美が立っていた。夏美は司の隣りに来ると同じように空を見上げた。

 

 

「寝てたんじゃないのか?」

 

「あー、ちょっと目がさえちゃって」

 

 

少しの間沈黙する二人、しばらくして夏美が口を開く。

 

 

「司君は命の恩人ですね、感謝です」

 

「ああ、いや……別にお前が感謝することないぜ」

 

「そうですか? でも感謝します。ありがとうです」

 

「ああ。ど、どういたしまし……て」

 

 

あの時はただがむしゃらに動いていただけだ。

そこでやっと自分がライダーになったのだと言う実感が湧いてきた。変な気分ではある、正直な話。

やはりガッツリ嬉しくも、まして嫌でもない。なんなんだろうかこの感情は?

 

 

「おじいちゃん……今ごろなにしてるんでしょうねぇ?」

 

「さあな、新しいコーヒーでも作ってるんじゃないか?」

 

 

夏美は両親がいない、それは司と亘もだから特に驚かなかった。尤も司達の場合はまだ二人共存命しているのだが……多分。

とにかく蒸発した両親をの事を考えていても仕方ない。司達は現在夏美の祖父が面倒を見てくれている。

これまた独創的な性格で何故か写真館を経営しているのに、実態は喫茶店になっている現状だ。

 

 

「会えますかね? もう一度……」

 

「当たり前だ、絶対にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムリじゃないかな?』

 

「!」

 

 

突然聞こえる第三者の声、どこから? 司は辺りを見回してみる。

どうやら夏美には聞こえていないみたいで、辺りにそれらしき人物は見当たらなかった。

 

 

『ここだよ、司』 『ここだわ、司』

 

 

もう一人違う声がする。

どこかと探してみれば、なにやら学校の入り口付近に小さな人影が二つ見えた。

あんな所から喋ったのにハッキリ聞こえた。すこし危険かもしれないと思ったが奴等は確実に何かを知っている。

これをみすみす逃す訳にはいかないだろう。

 

 

「夏ミカン! 隠れてろよ! いいな!」

 

「え?あ、はっ、はい! あ、あと私は夏美!!」

 

 

司はベルトを取り出し腰に巻く。そして屋上から飛び降りた。

小さく声を出す夏美、そんなところから飛び降りたら――

 

 

『カメンライド――』「変身!」『ディケイド!』

 

 

確かに生身で降りれば危険、だが地面に着地した時には既に変身を完了していた。

走り出すディケイド。もし戦闘になったらクウガに変わろう、クウガならどんな敵にもある程度対応できるはずだ。

 

 

「おい! どこだ?」

 

 

入り口まで行ってみたが誰もいない。さっきは人影が見えたんだが――?

 

 

「ここさ」「ここよ」

 

「ッ!?」

 

 

右と左から同時に声が。そこを見てみれば自分よりずっと幼い男女がいた。

子供? 男の方はご丁寧にスーツとハットで身を包み、女の方はフリルのついたまるで人形の様な服でこちらにお辞儀をしてくる。

男の方は目と髪が青く、女の方は同じく赤い。どこのアニメキャラだよ、ディケイドは少しその格好に怯むが――

 

 

「はじめまして破壊者ディケイド」

 

「お会いできて光栄だわ!」

 

「だ、だれだお前等!」

 

 

二人はクルクル回りながらディケイドの前に移動してくる。

ま、まじ何なんだよこいつ等は……ディケイドは異様な二人に完全に押されていた。

少年の青い瞳がディケイドを映す。吊り上げる口元、演劇の様な口調と声質は素なのだろうか?

ミュージカルも所詮は偽り、結局はその笑みも話し方も偽りなのか? 仮面をかぶっているのか?

 

 

「まずは自己紹介を、ボクはゼノン。そしてこちらがボクの愛しいエンジェル、フルーラさ」

 

「あら嬉しい! でも、嫌だわゼノン。ディケイドがいるのに!」

 

「ハハッ、フルーラの美しさがいけないのさ」

 

「ゼノン……」

 

「かわいいよ、フルーラ」

 

「………」

 

 

うぜええええええええええええええ! 何だコイツら! う ざ す ぎ る!

攻撃しちまおうか! しかもチョイチョイで俺を見てくるのが…っとに!

 

 

「さ、さっきお前等、俺達がじいさんに会うのはムリとか言ってたな! あれどういう意味なんだよ?」

 

 

いつのまにか抱き合っている二人に軽い殺意を抱きながら、あくまで冷静に問う。

俺は大人だ。うん、子供相手にそんな取り乱しちゃいけない。ディケイドは拳を握り締めて二人に問いかけた。

 

 

「そのままの意味だよディケイド? 君達が元の世界に帰るには君達自身の頑張りが結果を左右するという事さ」

 

「頑張り?」

 

「見ていただいた方が早いわ。ディケイド、コレを」

 

 

フルーラが指を鳴らすと砂で出来たような壁が現れる。

灰色のオーロラと言った方がいいのか、それはディケイドの前に現れるとそのまま停止する。

 

 

「っ!?」

 

「あとあの女性も来てもらおうかな。観測者は二人以上いないと意味がないからね」

 

 

そういって、ニヤリとゼノンは笑うのだった。

 

 

 

 

すこし経って夏美がコッチにやってきた。

彼女を巻き込みたくは無い、一度は止めようとディケイドは考えたがフルーラに止められる。

あいかわらず不適な笑みを浮かべて、彼女はディケイドに告げる。

 

 

「安心していただけないかしら破壊者ディケイド? ワタシ達はあなた達を傷つけようとは思っていないから……ね?」

 

 

正直、その言葉を信じたんじゃない。フルーラとゼノンは見た目とは裏腹に殺気が尋常ではなかった。

もしディケイドが無理やりにでも夏美を呼ぶのを止めていたなら――

とにかく戦いは避けたいところだ、ディケイドは仕方なく変身を解除した訳だった。

 

 

「つ、司君……この子達は」

 

「ははっ、ボクはゼノン! そしてこちらは「いいから早く!」………」

 

 

ゼノンはすこし不満げに砂の壁を移動させた。

こいつらの芝居がかった口調にはうんざりだ、さっさと終わらせたい所ではある。

だが気になるのも事実。いったい何がどうなっているのか、確実にそのヒントを彼らは握っている。それは確実なのだから。

 

 

「さあ、ご覧になって。あなた方の世界を」

 

「「………」」

 

 

砂の壁が司達を通り抜ける。そこは――

 

 

「なっ!」

 

「え!?」

 

 

何もなかった。文字通り、街も、人も、草も。生命の反応はなく、ただただ荒れ地が広がるだけ。

夢に見た荒野の様に――

 

 

「こ、ここがまさか俺達のいた世界なのか!?」

 

「お、お祖父ちゃんとか……学校の皆とかはどうなったんですかッ!?」

 

 

夏美は顔を真っ青にして震えている。

もしこの映像を信じるならば、早い話世界が滅びたと言う事になる。

それは世界中の人間が死んだと言う事でもあるのだ。友人も、家族も、知り合いも、全員死んだ!? そんな――……

 

 

「違うよ、でも正確に言えば、いずれこうなる」

 

「!?」

 

 

ゼノンはコッチの気など知らずにヘラヘラ笑って答えた、むしろ夏美の反応が面白いと言わんばかりに嘲笑を向けている。

普段ならば不快になっていただろうが、今は詳細が知りたい。司は声を荒げて二人に詰め寄った。

とにかく知っている事を全て話してもらわねば。

 

 

「ウフフ、驚いているわねディケイド。そう、あなた達が何もしなかったら……」

 

 

フルーラはゼノンの肩に手を添えた。

その笑みは子供が浮かべる様な純粋な物ではなく、多くの意味を含んだような物だった。

本当にコイツらは子供なのだろうか? そんな考えがよぎってしまう。

 

 

「あなた達の世界は滅びるのよ」

 

 

なっ! 何を言っているんだこいつ等は!?

 

 

「なっ、なんで!?」

 

「教える事はできないなディケイド。コレはボク達が答えていい問題ではない」

 

「まあでも、そんなに気になるなら自分の目で確かめてみてはいかがかしら?」

 

「?」

 

 

ゼノンとフルーラは笑い合う。

 

 

「君達はこれから様々な世界を巡るだろう。その中で君達は答えにたどり着く、多分ね?」

 

「せ、世界を……巡る?」

 

「ああそうさディケイド。君だけじゃない、これからもっと多くの戦士が生まれるだろう。

 いや、もう既に兆候は出ているはずさ。分かっているんじゃないか?」

 

 

ふと、今日の双護が脳裏に浮かぶ。

アイツはカブトに選ばれていた……そう言えばアイツの走るスピードは凄まじいものがあった様な――

 

 

「まさか……」

 

「フフ、そう。あれは前祝いだよ」

 

「あ、貴方達はどこまで知っているんですか?」

 

 

ゼノン達は同時に首を振る。それは、知らないという事なのか?

 

 

「君達より少し知っているくらいさ。とにかく、君達は間もなく別の世界へ転送されるだろう。

 放送室にある電子黒板をみてごらん、きっと世界のヒントがある筈だ」

 

「そうそう、言い忘れていたわ。貴方達は全員クウガのグローイングフォーム程度のステータスを与えられているから。

 分かるかしら? 夏美、あの時の触手が刺さっていても多分だけど死にはしなかったわよ?」

 

「ぐ、グローイングフォームだと?」

 

 

また仮面ライダー?

表情が変わる司を見てゼノンは首を振る。

 

 

「君に分かりやすい例えを選んだだけさ、尤も各々の簡易的な特殊能力も開花してるだろうけどね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 私にはもう訳が……!」

 

「理解しようとしなくてもやがて君達は自然に理解できるようになるだろうね。

 もう歯車は回りだした! 誰にも止められない! いや、君達が止めるのさ!」

 

 

ゼノンとフルーラは腕を組んでクルクル回りだした。

う、うぜぇ……!! うぜぇけど目が話せないのも確かだった。

だがここで会話を終わらせるわけにはいかない。司は二人に向かって声を上げる。

気になる事がありすぎて、整理できないがとにかく聞いておきたい事は聞いておくべきだろう。

 

 

「とにかくだ! まず、何で仮面ライダーが関係しているのか? 次に俺達はどうすばいいのか!

 最後にコレを仕組んだ、もしくは空間転移を行なっている奴はだれだ? なぜ俺達が選ばれた?」

 

 

ゼノンとフルーラは動きを止めて耳打ちを始めた。何か言えない事でもあるのだろうか?

暫くしてゼノンは仕方ないなぁと言って笑う。

 

 

「まずは最初の質問、仮面ライダーが関係している理由。

 これと君達の世界が危険にさらされている理由は限りなく近い、その詳細はボクらもまだ分からないけどね」

 

 

「そして二つめのあなた達は何をすればいいのか?

 これは明日にでもなればきっとわかるわ。でもねディケイド、貴方が何をすればいいのかは教えてあげる」

 

 

そう言ってフルーラは司の前に寄ってくる。

身長が腰くらいしかないから見上げられる形になるが、なぜか司が見下されているかのような気分だ。

 

 

「貴方は破壊すればいい」

 

「は?」

 

「それがディケイドライバーを持ったモノの使命……かしら」

 

 

ディケイドライバー、二人は確かにそう言った。破壊者ディケイド、その意味とは?

そう言ってもフルーラはくすくすと笑うだけ。教えてくれると言ったはいいが意味が分からない。

もう彼女はゼノンの方へと戻り、その腕に自らの腕を絡み合わせる。

 

 

「「最後に」」

 

 

再び、二人の声が重なる。

 

 

「なぜ君たちが選ばれたのか? だね。はっきりいって意味はないよ」

 

「はぁ!?」

 

「君たちが選ばれたんじゃない。これから選ばれるんだ」

 

 

戦士となれるか、それともただの生贄に終わるか。

そう言ってゼノン達は笑う。しかしすぐにため息をついて頭を抱えた。

いきなりどうしたのだろう?

 

 

「やれやれ、こんな素敵な夜なのに……」

 

「風情が分かっていないわ。残念」

 

「――っ、ワーム!」

 

 

いつの間に!? ゼノン達の後ろにワームのサナギ体が今にも襲い掛からんとしているではないか!

さすがにやばいと司はベルトを構えて叫ぶ。

 

 

「お前等逃げ――!」

 

 

スッと、二人は何かを取り出した。

ゼノンは青い棒の様な物。フルーラは赤い棒の様な物。二人は互いに微笑むと――

 

 

「あ! 司君見てください、ゼノン君達の腰!」

 

 

そこで初めて気付いた。

ゼノン達の腰にはいつの間にかベルトがある。だがあんなベルト見たことないぞ!?

一方、サナギ体を前にしても表情を変えない二人。

 

 

「お、お前等、何者なんだ?」

 

「ワタシ達かしら?」『ヒィト!』

 

「ボク達かい?」『トリガァ!』

 

 

二人は棒……ではなく、USBメモリのボタンを押す。

 

 

「「ただの『眼』さ(よ)。」」

 

 

二人はメモリをベルトに刺し込みシンクロするように横に倒す。

その軌跡がV状に輝き、軌跡が重なる事でWの文字を描いた。

 

 

「「変身!」」『ヒート・トリガー!』

 

 

電子音が流れ、二人の体が光に変わる。

二つの光は互いに交じり合って、人の形を形成した後に弾けた。

そこに立っていたのは――

 

 

「仮面……ライダー?」

 

 

ゼノン達の姿が変わる。それは好きだからとか無しにしてもライダーにしか見えないデザインだったろう。

ただはっきり言って異端過ぎる! 体の半分が赤色で、半分が青色なんて――

 

 

「ださ……い?」

 

「黙っていたほうがいいよピンキーライダー。

 形や呼称なんて大した意味は無いんだ。ちなみにボク等はこの姿を"ダブル"と呼んでいるんだ」

 

 

そう言いながらダブルはいつの間にか取り出した銃で、ワームたちを撃ちまくる。

赤い弾丸は次々にワームを燃やしていき、どんどんその数を減らしていった。

数十秒でワームの群れは全て消し炭となり、ディケイドの出る幕は完全に無くなる。

 

 

「じゃあもうボク達は行くよ、あまり干渉しすぎると怒られちゃうんでね」

 

『それじゃあごきげんよう破壊者ディケイド。

 夏美、また会えるのを楽しみにしているわ! せいぜいそれまで死なないでね?』

 

 

ドンっ、と言う大きな音がして振り向くと巨大な車がダブルの前に現れていた。

デザインから見て彼らの所有物なのだろう、どうやら彼らは話し合いを終わりにする気の様だ。

ダブルは車に飛び乗ると二人に別れの挨拶を告げる。

 

 

「ああ、そうだ。最後にコレを」

 

「?」

 

 

ダブルが何かを投げたので司はそれを慌てて受け取る。見てみれば普通の指輪だった。

一応何か龍らしき絵が描かれた大き目の宝石はついているが、特におかしな点は無い普通の物と言ったところだろう。

これが何か?

 

 

「な、なんですかコレ?」

 

「イメージ・リング」

 

「は?」

 

「それをつけて"物"を思い浮かべればそれになれる。ただしなれるのは三個まで。

 それに変身できたものは消せないし上書きできない。つまり三種類の物にしかなれないって事。後にも先にもね」

 

「どこで手に入れたんだよこんなの!」

 

『トレジャーハンターとか言うのから頂いたのよ』

 

 

これまた意味不明な代物である。そんな物が本当に……などと、疑っていたのは先ほどまで。

もう今になっては素直に信じられると言ったものだ。このリングの力は本物と見てまず間違いはないだろう。

姿を変えられる不思議な指輪、それは分かった。だが気になるのは何故これを渡したのかと言う点。

 

 

「それを空野薫に渡して欲しい」

 

 

薫に? 何でと聞こうとしたが、もうダブルはいなかった。

いつのまにか車を発信させたのか姿形全く見えない。

 

 

「どこまでも勝手な子供だな」

 

「あはは……。そう言えば結構司君のこと破壊者とか言ってましたけど……?」

 

 

それは司も気にはなっていた。

正直あまりいい気のしない呼び方ではある。壊す者? どういう事なんだろう?

 

 

「ちっ、本当に何も語らずに消えて行ったな。破壊者? 壊せ? 意味が分からない」

 

 

とにかく考えていても仕方ない。とり合えず今はなるように成れって事だろ。

司は達観したように笑うと、夏美を連れて学校に帰るのだった。

 

 




まだちょっと改行とか、間隔とか模索していくんで読みにくかったら申し訳ありません。
最初はストックも大量なんでちょくちょく更新はしていきたいと思ってます。

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