仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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はい、今回からカブト編です。

これ予約投稿で、章分けは直接操作しないと駄目なんで、多分これが更新されてしばらくは章名ないと思いますが気にしないでください。

もしスマホでいけそうだったら昼くらいに章管理やってみるかも。


カブトの試練
第22話 START SPEED LOVE


 

『ねぇねぇ! おばちゃん!』

 

『おばっ…! お姉ちゃん!!』

 

 

『はーい! じゃ、お姉ちゃん!』

 

『んー? どうしたのかしら?』

 

 

『オレ! 大きくなったら正義の味方になるんだっ!』

 

『へー、すごーい!すごーい!』

 

 

『あーッ! 信じてないなぁ!』

 

『いんやぁ、信じる信じるよお姉ちゃんはぁ。アンタの将来は多分そう言う関係なんだろうって心から思うわよぉ』

 

『本当か!?オレ、頑張る!』

 

『おう、応援してるわよぉ!ヒーローさん!』

 

 

そう言って、二人は笑い合うのだった。

もうずいぶん遠い昔の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーゆーちん!」

 

「どうしたのぉ…美歩ちゃん…?」

 

「お菓子あげるね! ほら、おいで」

 

「わぁい! ありがとぅ!」

 

 

真由は嬉しそうに微笑みながら、美歩が差し出したポッキーにかじりつく。

何も喋らずにもぐもぐとポッキーを食べる真由、全て無くなると物欲しそうに美歩を見上げる。

決してちょうだいとは言わないが、顔がもうおかわりを要求しているものである。

 

 

「……もう一本あげるね」

 

「ほんとぉ!? ありがとう……!」

 

 

笑顔でまた美歩が差し出したポッキーを食べ始める真由。

美歩は何故か呼吸が荒くなってきている気がするが――何かヤバイ。

何がヤバイのかは説明できないが、赤面してハァハァと真由を見る美歩は相当怪しく見える。

 

 

「だああああ! もう我慢できないっ! できるかよチキショー!!」

 

「?」

 

 

美歩は真由を思い切り抱きしめると、頬ずりを始める!

だが真由は特に気にする事もなく、目を点にしながら尚もポッキーを食べ続ける。

 

 

「きゃわいいっす!真由にゃんきゃわいすぎるっす!! アッシはポッキーじゃなくて真由ちゃんを食べた――」

 

 

蹴り、それで真由と美歩は引き剥がされる。

顔面から床に倒れる美歩を尻目に真由の体は強く抱きしめられる。

 

 

「大丈夫だった真由ちゃん? 怖かったね、あのHENTAIは危ないからもう近づかないようにね? おぉよしよし。可哀想に可哀想にね」

 

 

美歩を蹴り飛ばした友里が今度は真由を抱きしめる。

同じく頬ずりをしてる時点で同類と言えなくも無いが……

いや、止めておこう。友里は真由の手をとると一緒にテレビを見ようと提案する。が、しかし??

 

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「ぐおぉッ!」

 

 

友里のツインテールをわしづかみにするのは薫だった。

口を三日月のように吊り上げて、友里を睨みつける。

抵抗は許さない、ツインテールをハンドルの様に操って動きを封じた!!

 

 

「つーかーむーなぁ!」

 

「ふん! アンタは無害な羊を装っているようだけど、見えるのよ! アンタのその内に秘めた狼のオーラが!」

 

「くっ…!!」

 

「ほら図星ってところかしら? あぁそうね、アンタはきっと真由ちゃんとスリスリしたいだけ……つまりそこにいるHENTAIと同じ!!」

 

「チッ!」

 

「ふふふ、そんな欲望にまみれた輩に真由ちゃんは渡せないわね。さあ真由ちゃん、私と一緒にかまぼこでも作りましょ――」

 

 

薫はそこで言葉を止める。

顔には汗が一筋、薫はゆっくりと後ろを振り向いた。

いや、だがうまくいかない。何故? そうそれは――

 

 

「ここにきてかまぼこ好きを前面にだしてくるか? キャラ付け乙としか言いようが無いな薫」

 

「咲夜…ッッ! やはりアンタかっ」

 

 

薫のポニテを掴みながら咲夜はにやりと笑う。

咲夜はこう……なんかうまい具合に…何か、何ていうかせいッ!ってやって薫と真由を引き離した

せいッ!ってやったんだよ。本当だよ

 

 

「さあ、真由。もう悪は消滅したのだ、ワタシと一緒に買い物に行こうか?」

 

「………」

 

 

真由が笑顔でその手をつかもうとした時、甲高い声が聞こえてきた。

瞬間、走る戦慄。咲夜の額に汗がたれる。何だこの声はッ!?

 

 

『まゆちゃん! ボクと遊ぼうよ』

 

『まゆちゃん! ワタシと遊びましょ』

 

「!?」

 

「わぁ!」

 

 

少し離れた所に熊とウサギのぬいぐるみが居た。

その可愛らしい二体は真由に向かって手招きをしている。

 

 

「かわいい!」

 

「!?」

 

 

あとちょっとで咲夜の手に触れられただろうに、真由はフラフラとそのぬいぐるみの方へと歩いていく。

咲夜から離れていく真由。やられた、まさかッッ!!

 

 

『独占しようとしてるからだよねぇ』

 

『いけないねぇー』

 

 

熊とウサギはどす黒いオーラを出して咲夜にその言葉をぶつける。

負けた、完敗! 真由はかわいいぬいぐるみに夢中のようだ。咲夜は膝をつく、まさか――

 

 

「二人がかりとは――ッ!」

 

「三人ですよ」

 

「!?」

 

 

ぶすりと咲夜の首元に夏美の指が食い込む。

直後笑い転げる咲夜、夏美はそれを見てニヤリと笑った。

しばらくケラケラと笑っていた咲夜も、しばらくすると糸の切れた人形の如く動きを止める。

 

 

「やりましたね先輩、ハナちゃん」

 

「うん! これで真由ちゃんと遊ぶのはわたし達で決まりね!」

 

 

ハナと里奈は物陰から現れて、それぞれのぬいぐるみを真由に手渡す。

吹き替え作戦は上手くいったようだ、喜ぶ真由と笑う三人。

だが……その時だった。

 

 

「ごめんなさい。やっぱり真由ちゃんと遊ぶのは私一人になりそうです…」

 

「「!?」」

 

 

トントンッ!

夏美の指がハナと里奈をとらえた。

まさかの裏切りである、笑い落ちるハナと里奈。

 

 

「私ってなんて悪女なんでしょうか! アーッハハハ! ダーッハハハハ!! ウェァハハハ――オエッ!!」

 

「夏美ちゃん!」

 

「ゲホッ! ゲホ……い、イエス! さあ一緒に遊びましょうねぇ!」

 

「ボクにもやって! ボクにもぉ!」

 

「え?」

 

 

夏美は沈黙する。

こんな天使に笑いのツボを押すって――

 

 

「できませんッ! グワァ!」

 

 

何故か吐血して倒れる夏美。

 

 

「………!」

 

 

しょうがないので、真由は最終的に残った一人に飛びつく。

そんな真由の頭をその人は優しく撫でる。子猫の様に笑う真由を見て、その人も優しく微笑んだ。

 

 

「ふふっ、よしよし」

 

 

焦り、それは敗北への片道切符ですよ……先輩方?

 

 

「ふふっ」

 

 

ニヤリと笑ってアキラは真由の手を握るのだった。

 

 

「さあ行きましょうか、真由先輩」

 

「うん!」

 

 

真由先輩、マジ天使。そう確信した時だった

 

 

「あ…」

 

「あ…」

 

 

我夢とバッタリはちあわせしてしまう。

 

 

「「あのっ……」」

 

 

二人同時に声をかけるがどうも気まずい、目を合わせないまま二人は立ち尽くす。

アキラは何を言おうとしたのか聞いてみるが、彼女の元々である美しくも低めの声が何か怒っているのではないかと言う錯覚を起こさせてしまった。

結局我夢は軽く謝ってその場を立ち去ってしまう。どうも前の世界で、あの時以来うまく話せないでいた。

 

 

「………」

 

 

唇を噛むアキラ、しかしすぐに違和感に気づく。

真由の手を掴んでいたのに、ふと気がつけば今自分が握っているのは手じゃなくてぬいぐるみ!

 

 

「あ!」

 

「さぁ真由ちゃん、邪魔しちゃ駄目だからねぇ? 私と一緒に遊ぼうねぇ」

 

 

真由を引き連れているのは葵だ。

 

 

「葵さん! 真由ちゃんは私と遊ぶんですよ!」

 

「いや! この美歩ちゃんだね!」

 

「あたしを忘れんなよ!」

 

「いや、私が!」

 

「私!」

 

 

やんや、やんやと言い合いをしている女性陣を真由は暖かい目で見守る。

この抗争の原因が自分にあるとは夢にも思っていないだろう。今日のおやつは何か……とか、皆が平和に過ごせますようになんて考えている。

 

 

「あ!」

 

 

そんな中、真由は何かに気づくと満面の笑みでそこへ駆けていった。

何事かと女性陣が見てみると、そこには双護がいるではないか。

 

 

「お兄ちゃん! どこ行くのぉ…?」

 

「真由か、俺は今から自分と言う意識体が何故この世に生を受けたのか? 今一度世界に問うと言う暗黙の了解を得るため、そして自我の存在をこの世に受け継ぐため、生命の育みと言う恩恵を得る儀式を行う聖地、つまり自販機に行くところだ」

 

「よくわからないけど…ボクも行くぅ……」

 

「そうか、いいぞ。じゃあ何かジュースを買ってやろう」

 

「うん……!」

 

 

そう言って二人は楽しそうにみんなの前から歩き去ってしまった。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「やっぱり、お兄ちゃんが一番なのかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ! ハァッ! ……クソ!」

 

 

激しくネオンが交差する夜の世界を女性は息も荒く駆けていく。

肺と体が悲鳴を上げるのを感じるが、それでも足を止める訳にはいかない。

足を止めれば恐らく――

 

 

(死ぬ……のよねっ! ああ、三十超えると体力なくなるってホントだわ…ッッ!)

 

 

どこに逃げればいいのか? 女性は思考をめぐらせる。

人込みは駄目。目立ち過ぎる、すぐに見つかって殺されるだろう。

見つかった時点で詰む一歩手前なのだ。だったらもっと物陰とか――?

 

 

「!!」

 

 

そんな事を考えている暇があったら足を速めるべきだった。

女性は激しく後悔する、目の前にいる『兵器』は自分を視界に捉えただろう。

見つかった。危険だと、最悪だと脳が告げる。女性はせめてもの抵抗に持っていた機械のスイッチを入れた。

 

 

「行って! お願い…ッ!」

 

 

虫を模したソレは次々に飛行し、目の前にいる『兵器』を攻撃していく。

"マイザーボム"、だが彼女は知っている。この程度で『兵器』が止まる訳がない、あくまで足止めでしかないのだ。

女性はマイザーボムに怯んでいる『兵器』を確認すると、また走り出した。

 

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

 

最も聞きたくない単語が不条理にも後ろから聞えてくる。

直後、頬を掠める『兵器』の外装。リアルに近づく死が彼女の恐怖を極限まで高めた。

腰を抜かす女性、そしてゆっくりと迫ってくる『兵器』

 

 

「お願い! 神也君っ! 正気に戻って!!」

 

「………」

 

 

女性は迫る『兵器』に向って必死に声をかけるが、『兵器』の足は止まらない。

まるで女性の声が耳に入っていないと言わんばかりに。いや当然だ『兵器』は意思を持たない、持ってはいけない。

それは分かっている、だが女性はそんな理不尽な都合を認めたくはなかった。

たった一つの可能性を信じて……

 

 

「………」

 

 

だが『兵器』が足を止める事はなかった。

その代わりに剣を振り上げる、それが振り下ろされれば女性は死ぬだろう。

当然の事だ、それを『兵器』は実行するまで。

 

 

「クッ!!」

 

 

女性は瞳を閉じる。

悔しい、それだけだった。なんでこんな事になったのだろう?

目の前にいる自分よりずっと幼い、まだまだ子供の彼が自分を殺そうとしている。

人間としてではなく、『兵器』として与えられた使命を実行する為にだ。

 

 

(ごめんなさい。貴方達を救う事はできなかった……)

 

 

女性は目を閉じる、体を切り裂かれるのは怖い。

だが、それ以上に心が痛かった。

 

 

「………ッ!?」

 

 

剣が振り下ろされた音、そして同時に響くそれが何かにぶつかる音。

女性は自分の体が未だに無事なのを不思議に思い、目をあけた。

 

 

「!!」

 

 

青、それが最初に目に飛び込んできた色だった。

よく見れば青い壁の様なモノが自分と彼の間に存在しているではないか。

その壁の様なモノの中心にはトランプのスペードを連想させる柄が描かれていた。

 

不思議に思う女性、そして同時に自分の頭上を飛び越える誰かを見る。

その誰かは雄たけびを上げながら青い壁に突っ込んで行った。そして見る、その人間が壁を通り抜けた瞬間姿が変わるのを!

 

 

「あれはっ!?」

 

 

女性は記憶を呼び起こし、今『兵器』と戦っている戦士の情報を探る。

しかし駄目だ、自分が知る限り目の前の戦士に関する情報は持ち合わせていない。

一体自分を助けてくれたあの戦士は何なのか? 『兵器』と似てなくも無いが………?

 

 

「ライダー……! インセクトなの?」

 

「ウラァァァッ!!」

 

「………」

 

 

現れた戦士は自らの剣で『兵器』の剣を弾く。

兵器(ライダー)と似ているデザイン、自分が知らない間にさらに新しいインセクトが完成していたのだろうか?

装備も大きく違っているようだ、少なくとも女性が知りえる範囲では無い。

 

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

「え?」

 

 

ふと気がつくと少年が自分の肩を揺すっていた。

どうも考え事をすると注意力が落ちてしまう、女性は少年に大丈夫だと言う事を告げるとお礼を述べる。

 

 

「逃げましょう! 安全な所まで案内します!」

 

「ありがとう……で、でも貴方達は?」

 

「僕は犬養拓真と言います。うまくは言えないけど敵じゃありません! 信じてください!」

 

 

どうせこのままなら確実に死んでいるのだ。

女性は拓真の言葉を信じると、手に捕まり立ち上がった。

 

 

「……ドレイク!」

 

 

今まで沈黙を保っていたライダー、サソードが声をあげる。その合図に拓真と女性の前に一人の人間が現れた。

独創的なファッション、だが決しておかしい訳ではない。むしろおしゃれと言われれば頷いてしまう、そんな男だった。

その表情は無機物、まるでロボットのように平坦なもの。目にも光はなく、彼は機械的に手を前へかざす。

 

 

「!!」

 

 

男の手にはグリップの様な物。

そしてそこへ止まるトンボの様な機械、拓真はその光景を見て素早くファイズギアを装着する。

 

 

『5』『5』『5』『Standing by』

 

「変身」

 

「変身!」『Complete』

 

 

現れたのは二体のライダー。

ファイズとドレイク、ファイズは素早くメモリを取替えアクセルフォームへ変身する。

司から聞いていたカブトのライダー勢、その最もたる特徴と言えばやはりクロックアップを除いてはないだろう。

通常では対応できない程に強力な力、ならば――

 

 

『Start Up』

 

 

出鼻をくじく!

 

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

 

ドレイクの装甲が吹き飛び開放される。

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

「!」

 

装甲は確かに剥がれた。

しかしその装甲が吹き飛ぶ前に一つ一つその全てに赤いポインターがセットされ、まるで檻の様にドレイクを閉じ込める。

空中に留まる自らの装甲が邪魔になってドレイクは身動きがとれない、これではクロックアップを発動した所でなんの意味もない物だった。

 

 

「………!」

 

 

だがそれをみすみす許す訳にはいかない。

サソードがいるのだ、彼は当然紅い檻に閉じ込められたドレイクの方へと足を進める。

 

 

「よそ見たぁ余裕ですな! 椿君かっちーんッ!」

 

「クロックアップ」『Clock Up』

 

 

ブレイドの剣を一瞬でかわすサソード。

驚くブレイドに素早く連撃を加えると、ドレイクの元へと移動する。

 

 

「!」

 

 

しかし、ドレイクの所へはたどり着けなかった。

目の前に真紅の騎士、龍騎が現れ行く手を防いだのだ。

 

 

「ヘッ!」

 

「………」

 

 

アクセルベントを発動した龍騎は、サソードと同速とまではいかないものの攻撃に追いつくことができる。

足止めには充分だった、しかもブレイドもまたマッハのカードをライズして龍騎に加勢する。

一人では不利だったとしても二人ならサソードと互角の勝負を繰り広げる事ができた。

 

 

「ヤアアアアアアアアアアッッ!」

 

 

アクセルクリムゾンスマッシュが放たれ、装甲を弾き飛ばしてドレイクの体にヒットさせていく。

自らが開放した装甲に攻撃されるとは、なんとも皮肉なものだ。

 

 

『キング』【ライトニングソニック】

 

『ストライクベント』

 

「「ウォラァアアアアアアッッ!!」」

 

 

龍騎の昇竜突破、ブレイドの電撃を纏ったとび蹴りがサソードに命中する。

ドレイクとサソードは苦痛の声をあげるでもなく後退すると、これ以上の戦闘は不可能と悟ったのか撤退していった。

既に高速移動が解除された三人に追う術も、勝てる見込みもない。三人は変身を解除すると、女性を保護する為に学校へと連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「どうも、ありがとう」

 

 

葵は女性に紅茶を差し出す。

女性はそれに口を付けると緊張から開放されたのか、笑顔を浮かべた。

 

 

「おいしい!」

 

「あははは、ありがとうございます」

 

 

葵は嬉しそうに笑うとキッチンに戻っていく、それに入れ替わるようにして彼女は口を開いた。

 

 

「さてと、色々互いに聞きたい事があるみたいだけど……」

 

 

女性は既に司達が普通の存在ではない事を見抜いていた。

この不思議な学校、見た事もないライダー。一時期は『天才』とまで言われた、科学者である彼女の知識的欲求が刺激される。

だが向こうとてコチラの情報が欲しいのだろう。女性は落ち着きを取り戻すと、ゆっくりと話しはじめるのだった。

 

 

 

 

 

 

「あのぉ、いやしかしその前に亘君……ちょっといいかな」

 

「……な、なんすかね椿さん」

 

 

小声で椿は亘に呟く。

いや、この時点で嫌な予感しかしないんだが

 

 

「ぼくはね亘君、女性は皆二十歳を超えるとBBAになるのだと思っていたんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「だけどね、まずはコレ――葵さんを見てその定理が愚かな間違いだと気づいちゃった訳なのよ」

 

「………」

 

「これ、もうどうしようか亘君。あの女の人見てみんしゃいよ! これっ……ねぇ? もう椿くん分かんなくなっちゃって」

 

「いや――」

 

「見て御覧なさい亘君、あの知的美人の姿を……コレッ、え? 全然椿君ホイホイされるレベルよ?」

 

「あ…いや、だから――」

 

「そもそもね、まず包容力と言うかね、そこがあの糞女とは違って見えるね。だけどその中にある美しさや、かわいらしさのギャップが――」

 

「はい……はい、いやでも――」

 

「あはははっ、どうしようか亘君! 椿くんあの人カッコよく助けちゃったよねコレ、フラグ立っちゃうんじゃない!? あはははっ 参ったなコレぇ! ねぇ!」

 

「椿さん……あの人、結婚してますよ」

 

「………え?」

 

「左手の薬指、指輪してますから」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 

「後で幼女でも探しにいこーっと!」

 

(すげぇなこの人……)

 

 

 

 

 

 

さて、本題に戻ろう。

 

 

「私の名前は新意(あらい)有美子(ゆみこ)。どうぞよろしく」

 

 

有美子は学校に居るメンバーに一通りの挨拶をすませる。

 

 

「しかし、驚いたわ……まさかココとは全く違う世界があるなんてね」

 

 

有美子はそう言ったが特に驚いている様子は無かった。

その事を翼が問うと有美子は苦笑する、長い間色々な研究をしているうちに何があってもあまり驚かなくなってしまったのだと。

有美子にとって他世界が存在していると言う事は驚く事だが、心のどこかでやっぱりと言う納得の念があった。

彼女にとって起こりうる全ての事は等しき現実なのだから、いち早く受け入れてしまった方がいいのだろう。

 

 

「だったら……この世界は驚いたんじゃないかな?」

 

 

有美子の言葉に一同は皆頷いた。

まず司達がこの世界に来たとき、今さらながら世界の壮大さに驚いたモノだ。

それだけこの世界は異質だった、まるで映画の撮影に巻き込まれたような非現実感。

それはこの世界の進化しすぎたと言ってもいい科学力のおかげだろう。

 

まず、なんと言っても歩いている人間がいないのが本当に驚いた事だった。

司達は調査の為、この世界を最初探索したのだ。その時にそれを発見する――

 

人は、皆カプセルのような物に入っていた。

カプセルは車輪がついている訳でもないのに移動しており、少し宙に浮いている。

人々はその中に入り移動していたのだった。

 

人々が普通に歩いている自分達に好奇、哀れみ、見下したような視線を送っていたのを忘れる事はできない。。

業を煮やした司が適当な人間に話しかけ、どう言う事なのかを聞いた。

するとその男は司達を馬鹿にしたように笑うとカプセルについて説明をはじめる。

 

男はどうやら司達のことをカプセルも変えない貧乏人だと思っていたのだろう。

それ程カプセルはこの世界における常識のようなものだった。

このカプセルは様々な機能がついており、自分で移動しなくてもいいし身の回りの事を大抵やってくれる。

いわば生活補助装置だった。

 

 

「………」

 

 

確かに楽そうではある。

だが少しの違和感も感じてしまうのが正直な感想だった。

もうこの世界の人間は歩く事すらしないのだから

 

その後もこの世界の凄まじい科学力を確認できる物がいくつもあった。

例えば食事だ、誰も調理をしていなかったのだ。

聞けば家庭だとカプセルが全てやってくれるし、店も機械が全てをしてくれるらしい。

運ぶのも機械がやってくれるし、会計もまたしかりだ。司達は暫くこの街を巡ったが、皆機械に任せている物ばかりだった。

 

そしてさらに気づく、車が見当たらない事に。

その答えは簡単だった。ゲートと呼ばれる場所が各地にあり、そこにカプセルで通るとクロックアップシステムが発動して目的の場所まで一気にいけるのだ。

もはや車などこの世界においては自転車とあまり変わらないもの、いやカプセルがある以上完全に要らない物と言ってもいい。

 

発達した科学、そしてそれを象徴する人の生活、皆がカプセルに乗り込み疲れを知らぬ生活。

それはとても素晴らしい事なのだろう、だがやはり司達には違和感が強く残ったのだが。

 

 

「全く同意見だわ…」

 

 

しかし、そんな司達の考えを誰よりも理解していたのは有美子だった。

彼女は科学者であり、この街の発達しすぎたと言っても良い科学世界の貢献者でもあるだろう。

が、しかし。彼女はこれが正しい発達なのかどうか疑問に感じていたのだ。

科学は人を堕落させるためにあるのではない、人を補助するためにあると言うのに。

 

 

「ところで、貴方を追っていたライダーは何なんですか?」

 

 

翼の言葉に有美子はうつむき、唇を噛んだ。

そして有美子は語り始める、今この世界がどの様な状況なのかを。

 

 

 

楽をしたい、それは人間が常に考えている事だろう。

疲労や負担はできるだけ少なくしたいと人間は日々考えていた、そして様々な楽をする為の道具が開発されていく。

 

歩くのが疲れた、なら自転車を作ろう。

自転車をこぐのが疲れた、ならば車を作ろう。

車は大きいし維持費もかかるし室内じゃ使えない、だったらいっそ乗り込むだけで全てやってくれる物を作ろう。

 

時間こそかかるが、時を重ねるごとに新しい機械が作られるようになっていた。

新しい燃料や物質がどんどん発見されていき、そのたびに人々の暮らしは豊かになっていく。

しかし、一方で人間は堕落しきっていったのだ。自らの力で動く事もしない、何かをする事すらしなくなった。

なぜなら自分達がやらなくとも全て機械がしてくれるから。料理、洗濯、掃除、勉強まで。

 

有美子の様な否定派も最初こそは大勢いたらしいが、時が経つにつれ否定派もみなくなったらしい。

今もどこかで何か新しい機器が作られているに違いない、それがこの世界の根本たる姿だった。

 

だが、その代償がやって来る。

人が研究や実験で発生させた有害な物質が、虫に触れる事でその虫は異常進化を遂げ、凶暴化する。

それこそがこの世界が生んだ代償、ワーム。

 

ワームは自らをこんな姿にした人間に復讐するかの様に人を襲う。

だがもちろん、それをみすみす許す訳にはいかない。

人間はさらにその有害な物質を研究し、改良。そしてそれをあえて虫に与える事で、『ゼクター』と言われる物を作り上げたのだった。

 

ゼクターは人間に勝るとも言われる知識を所持しており、それぞれ一人の人間を契約者として判断する。

見事契約者に選ばれた人物は、ゼクターの力で『マスクドライダー』となり力を手にするのだ。

これこそがワームを駆除する為に生まれたライダー。通称『インセクト』なのだった。

 

 

「インセクトのおかげでワームはほぼ全て駆除したわ……それは、喜ぶべきだと思う」

 

「だけど貴方はそのライダー……えぇとつまり、インセクトに追われていた?」

 

「ええ、ワームを生み出したのは人。それに気がつくべきだったわ」

 

 

本当に恐ろしいのは、こんな物を生み出した人間自身だと。

ワームが死滅した事で世界には平和が戻ってきた、だがそれは間違いだったのだ。

敵が居なくなったことで、新たな危機が訪れる。

 

インセクト及びカプセルを作った科学組織、通称『ブレイン』の創始者、峰岸(みねぎし)創英(そうえい)は、有美子と同じく科学社会否定派の人間だったのだ。

創英は自らもインセクトとなりワームから世界の危機を救った英雄だが、彼はその戦いの過程で人間に絶望した。

 

自分達の街、世界が危機に陥っているのに完全に他人に頼っていた人間たち。

警察も駆除機械の設計を依頼するだけで何もしなかった。他の街人たちも、ワームを倒す機械を作れと罵倒こそ浴びせたが応援などはしなかった。

他人任せ、創英の心に影が灯る。しかし、彼はまだあきらめなかった。

今回のワーム事件は人間の生み出した有害な物質が原因、さすがに人間達も自重するかと思われた……が、しかし――

 

 

『ワームを生み出さない機械を作ってくれ』

 

『有害な物質を生んだブレインは謝罪をしろ』

 

『新しい機械はまだか?』

 

『ゼクターを販売してくれ』

 

 

これが人間か、これが人間なのか!? 創英は怒り狂った。

自分の命令を無視して開発を続ける人間達。そう、人間達は理解したのだ。ワームはインセクトが退治してくれる。

もし新しいワームが生まれてもそれを上回る機械を作ればいいと。いや、作ってもらえばいいと。

創英は理解する、そして決める。堕落しきったこの人間共はもういらない。せめて存在するなら自分の言う通りになるモノだけでいいと。

 

 

「創英は街の人間全てにブレインコントロールをかけるつもりなのよ。おそらく……あのカプセルから電波を流してね」

 

 

有美子はそれにいち早く気づき、街の人間にカプセルから降りるように言いかける。

しかし誰も相手にはしてくれなかったそうだ、まあ考えてみれば女性一人が騒いだところで何も変えられないのは分かっているのだが。

それでも、若干の不快感は覚えてしまう。

 

 

「創英の言いたいことは分かるわ。だけどアイツは結局何も分かってない! あいつは自分を守る兵士として適当な人間を洗脳してインセクトにした! 私の甥も、その友達もッッ! そんな事が許される筈がない!」

 

「甥……ですか?」

 

「ええ、私達の息子みたいなモノよ」

 

 

有美子は夫の新意(あらい)陸矢(りくや)と共に兄の一人息子、つまりは甥と一緒に暮らしていたのだ。

有美子の兄と、その妻は科学実験の失敗で発生した爆発に巻き込まれて亡くなった。当時まだ幼かった甥を有美子は引き取ったのだ。

 

その時から有美子は行き過ぎた科学世界に否定的になったのだろう。甥はそんな有美子の意識を尊重しつつ、立派に成長していった。

正義感の強い夫から影響されたのか、鬱陶しい程正義については熱かった。

特に将来の夢がヒーローだとか正義の味方だとか、ずっと飽きもせず熱く語っていたのは記憶に新しい。

 

 

「だけど……ある日、友達の子と一緒に誘拐されて感情を封じられたわ、私と旦那は必死に創英に二人を解放してくれるように頼んだ。だけど返事はノー! 旦那は捕らえられて……ッッ! 今も監禁されてる!」

 

 

創英は狂ってしまったのだろう、そして世界中の人間を洗脳して世界を支配する。

そんなふざけた事の為に。

 

 

「だけど…ッ! このままじゃ終わらせない!」

 

「え?」

 

 

有美子は創英がブレインコントロールを行う時間を知ることができたのだ。

どうやらまだ洗脳装置は完成しきっていないらしい、つまり十分野望を阻止できると。

しかし、いろいろと調査をした結果、あの様に追われる身になってしまったが――

そして有美子は協力してくれる研究者と共に、一つの機械をつくりあげることができた。その名は、『リコンファーム』

 

 

「それはどう言う機械なんですか?」

 

「ええ、これは――」

 

 

創英のブレインコントロールはカプセルを経由して行われる。

つまりカプセルに乗っていない者には効果は無いのだ。詳しい事は機械の前で説明すると、有美子は言う。

 

 

「どうか、力を貸していただけないかしら……っ!」

 

 

有美子は頭を深く下げる。

一同は、頷くと有美子についていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん……」

 

「ん? どうした真由」

 

「なれるといいね…カブトに……」

 

「ああ、そうだな。ありがとう真由」

 

 

双護は真由の頭を撫でる。嬉しそうに微笑む真由を見て、双護も笑うのだった。

二人は手を繋いで他愛もない会話を始める。今日食べたご飯がおいしかったと嬉しそうに話す真由を見て、双護は手を握る力を無意識に強めた。

不思議そうに首をかしげる真由に優しく微笑むと、小さく呟く。

 

 

「真由は……俺が守ってやるからな」

 

「うん!」

 

 

二人は手を振りながら歩き出す。

年齢の割に真由の背は低い、二人は親子の様にも見えた。しかし、そんな微笑ましい光景が街で見える中――

 

 

「み、皆うまくいってるかなぁ? どう思うアキラちゃん」

 

「さあ……どうでしょうか……」

 

「りょ、良太郎がついてるんだから大丈夫よ! そう思わない? 我夢くん」

 

「そうですね――ッ」

 

「「………」」((き、きまずいぃぃぃ!!))

 

 

学校でお留守番組み、里奈とハナの汗がまるで滝のように流れ出ている。

さっきから一度も我夢とアキラは目を合わせようとはしない。何とか会話のチャンスをつくってあげようと二人は奮闘するが、結果は散々たるものだった。

むしろ、一言一言が我夢とアキラの距離を開けているかのような気がする。仮面のような笑顔を里奈とハナは浮かべながら、意味も無い会話を二人に振り続けていた。

途中何度、我夢が退出しようとしたことか……しかしそんな中、我夢は夏美と葵に呼ばれて紅茶を受け取る。

 

どういう事なのかを聞くと、これをアキラに差し出せばお礼の一つは言われるだろう。

それをきっかけに会話を振れば、気まずさは払拭されて上手くいくのではないかと言う事だった。

我夢としてもアキラとは仲直りがしたい。喜んで紅茶を受け取るのだった。これを差し出せばきっかけがつくれる。

 

ああ、そうだろう――

 

上手くいけばだが……

 

 

「あ」

 

 

焦り、ああなんて愚かな事だろうか。我夢は焦りすぎるあまりこけてしまい紅茶をアキラの胸にぶちまけてしまった。

飲みやすい温度にしてくれていたとはいえ、驚きと熱さで思わず短く悲鳴を上げて立ち上がるアキラ。

それが我夢の焦りをさらに加速させてしまい、暴☆走を引き起こしてしまう……!

 

 

「あっ! あのごめんなさい!! 今すぐ拭きますからッ!!」

 

「えっ!?」

 

 

もにゅ……り

 

 

「は?」

 

「………ッ!!」

 

 

赤くなっていくアキラと、青くなっていく我夢。

ゆっくりと、自分でもびっくりするくらい冷静に我夢は現実を直視する。

あれだな、いきなり男の人に胸を触られたら……

 

 

「きゃあああああああああ!!」

 

 

走り去るアキラと、その場に崩れ落ちる我夢。

ああ仲直りが遠くなる。今度は涙を滝のように流しながら、里奈達は確信したのだった。

 

 

 

 

さて、話は司達へと戻る。

有美子は追われている身だ。街中には監視カメラが設置されている為、うまく動く事ができない。

結果として到着まで通常の倍以上の時間を使ってしまった。

 

 

「ここよ」

 

 

有美子は特に何の変哲も無いビルにやってくると、その中に入っていく。

そしてエレベーターに乗ると、なぜか今居る一階のボタンと、開閉のボタンをそれぞれ三回ずつ押した。

 

 

「うぉ!」

 

 

すると、エレベーターは上ではなく下へと動き出す。

 

 

「ドラマみたいですね……」

 

「まあね、これくらいしないと」

 

 

そしてついたのは彼女の研究所だった。

そうとう深いのか、見上げるほど天井が高くにある。

驚く司達を尻目に有美子はなにやら装置を操作し、その機械を出現させた。

 

 

「これがリコンファームよ」

 

 

その機械は大きな電波塔の様な姿、そこに人間が乗る所がある不恰好な物。

しかし、これこそが有美子と仲間の作った切り札だった。

 

 

「私に協力してくれた人達はもう避難してもらったわ。今は私だけ」

 

「避難?」

 

「ええ、カプセルに乗ってもらってるわ。あれなら怪しまれないし……」

 

 

だが、カプセルに乗っていると言う事はブレインコントロールの対象と言う事だ。

それを防ぐためにも失敗は許されない。

 

 

「創英はカプセルに乗っていない人間は捕獲して軟禁するのよ、だから…」

 

「なるほど……ところで、私達は何をすればいいんでしょうか?」

 

「そうね、人探しをしてもらいたいの」

 

「人探し?」

 

 

有美子は頷くと、リコンファームにあるカプセルを指差す。

人一人がギリギリ入れそうな狭さだ、その周りにはなにやらゴチャゴチャと機械がついている。

 

 

「あそこにあるカプセルに探して欲しい人間を入れるのよ」

 

「そうした場合どうなるんですか?」

 

 

有美子はリコンファームについて説明をはじめる。

このリコンファームは人が生まれてから今まで過ごしてきた記憶を、全て強制的に思い出させ自我を取り戻させるという装置だった。

これがあればマインドコントロールをされたとしても力ずくで上書きしなおせる、記憶の上書きで洗脳を強引に解除するのだ。

洗脳された記憶も思い出す為、事の重大さも皆に伝わる。

 

 

「えぇ…! それってアタシ達も思いだすんですかぁ?」

 

 

美歩がげんなりしながら手を上げる。

全てを思い出すと言う事は……嫌な思い出も思い出すと言う事、少なからずの抵抗があると言うものだ。

 

 

「いえ、基本的にはカプセルに乗っている人間よ」

 

 

その言葉を聞いて美歩はため息をつく、

いろいろと嫌な思い出がある。なるべくなら思い出したくないと言うもの。

 

 

「ところで、僕達はどんな人を探せばいいんですか?」

 

 

拓真の言葉にそうだったと有美子は笑う。

有美子によればこのリコンファームを起動させるには、一人の人間を電波塔にあるカプセルに入れなければいけないのだ。

逆にその人がいなければ発動はできないと言う事にもなる。

 

 

「その人間がコアとなって電波を発信するのよ」

 

「だれなんですか? それは……?」

 

「実は…まだ分からないのよ……」

 

「え!?」

 

 

有美子の研究、リコンファームもまた未完全だったのだ。

さすがに短期間での製作だった為に起動がうまくいかないと言う問題が残った。

だが人間に流れている微弱な電気と、ある特定の細胞が起動のスイッチになるということが分かったらしい。

その起動の為の電気を持っている人間を探して欲しいということだった。

 

 

「三日前にその電気が流れてる人間がこの街にやってきてね」

 

「本当ですか!?」

 

「ええ、本当助かったわ、私の体を改造してでも作ろうと思ってたから」

 

 

電気はなんとかなっても細胞まで作ってる時間は無い。

創英がブレインコントロールを行うのは今から十日後の正午。

 

 

「まだマインドコントロールの電波をカプセルに送る機械は完成していないの、予定は十日後と言う訳。だけどコッチもそれまでには作れない」

 

 

しかし、運よくリコンファームを起動させる条件に一致した人間がやってきた。という事なのだ

 

 

「その人間を探す機械もつくってあるから」

 

 

そういって有美子はレーダーの様な機械を取り出す。

なんでもその人間の体内電気を感知して知らせてくれるらしい。

 

 

「非協力的な人間だったら無理やり乗せてやるわ! 私は何としてもあの子達を助けたいの!」

 

 

気合も充分なのだろう、有美子は力あまってレーダーのスイッチを入れてしまう。

その時だった。

 

 

ピピピピピピピピピピピピピピピ!!

 

 

「!?」

 

 

突如鳴り響くレーダー、何故? 一同はあまりの急展開に沈黙する。

 

 

「ど、どういう…?」

 

「ッ! 貴方達がこの世界に来たのはいつなの!?」

 

「そ、そう言えば…三日前だったような……」

 

「!!」

 

 

有美子は焦る気持ちを抑えながら、レーダーを司から順に体に当てていく。

そして暫くして、ランプが赤から青に変わる人間が現れた。有美子は興奮と喜びを言い放つ、この人間こそが探していた。

鍵だと――ッ!

 

 

「見つける手間が省けたわ! 本当に良かった、まさかあなた達の中にいたなんて!」

 

 

興奮気味に目を輝かせる有美子。

 

 

「お願いね! あなたも起動の為に全てを思い出してもらう事になっちゃうけど……」

 

 

有美子はその子の手を握って微笑む。

 

 

「うん……!」

 

 

そう、天王路真由こそがリコンファームの『鍵』だった。

 

 

「や、やったじゃないか! これでその創英とか言うヤツの野望を阻止できるんだろ!?」

 

 

一同は喜び合う、どうやらうまくいきそうだと。

 

 

「………」

 

 

だが一人、一人だけは違った。

 

 

「有美子さん……一つ、聞いても良いかな?」

 

「うん?」

 

「真由も思い出すのか? 全てを……」

 

「ええ、まあそう言う事になるわね」

 

「ボクは大丈夫だよ…? お兄ちゃん」

 

「………」

 

 

椿と真志、他数名は双護の体から溢れんばかりの異質な雰囲気に気づいた。

彼のこんな雰囲気は初めてだ。表情こそいつもと変わらない様に思えるが、何か言い様のない怖さの様なものがあった。

無表情すぎるのかもしれない。特別心配そうと言う様にも見えない、何かまるで別の事を考えているようだ。

 

 

「どうした双護、心配なのか?」

 

「……ああ。有美子さん、どうしても真由じゃなきゃ駄目なのか?」

 

「そうね、ごめんなさい。でも大丈夫よ、決して有害なものじゃ――」

 

「他に何か方法はないんですか?どんな事でもいい、他に何か……」

 

 

何故か真由をリコンファームに乗せる事を彼は異様に嫌がった、なんとかして断ろうと彼は食い下がる。

珍しい、確かに心配なのは分かるが今までとは明らかに違う。

 

 

「お兄ちゃん……ッ!」

 

「!」

 

「ボク…皆の役に立てるんだよ…ね…! じゃあ…絶対…やるから…」

 

 

双護は曖昧な表情を浮かべて後ろへ下がった、しかしまだ彼をとりまく異様なオーラは消えてはいない。

それが少し気になった翼達が彼に理由を聞くが、双護は曖昧な言葉で答えはしなかった。

まあしかし、このままと言う訳にもいかず結局真由を起動の為のスイッチにする事は決定する。

 

 

「よし! じゃあ早速――」

 

 

有美子は準備に取り掛かろうと歩き出した。しかし、そこで拓真があるものを見つける。

慌てて大声を出す拓真。有美子の足の裏、つまり靴の裏に何かが見えたらしい。

有美子は不思議に思って靴の裏を見てみる。

 

 

「しま――ッッ!!!」

 

 

有美子の靴にあったのは発信機、それを理解した瞬間走る衝撃。大きくゆれる研究所!

 

 

「こ、攻撃されてる!?」

 

「つまり……泳がされたって事かよッ!?」

 

 

一同はそれぞれベルトを構えて地上へと向かう。

恐らく、というか確実にブレインの連中だろう、発信機にはご丁寧に盗聴機までついているようだ。

と言う事はリコンファームの情報も漏れてしまったと言う事になる。

 

 

「やられたっ…! ごめんなさい! ずっと気づかなかった」

 

「いえ、それよりカブトゼクターの入手方法を知っていますか?」

 

「え?」

 

 

あくまでも冷静に双護は問う。

すこし不気味に感じたが、有美子は答えた

 

 

「カブトゼクター? ああ、アレね、あれは確か…まだ誰も契約していないわ。カブトゼクターは特殊だから……」

 

「特殊?」

 

「ええ、インセクトの中でも異質なの。唯一創英に協力しなかったゼクター、創英も悔しがっていたわ」

 

 

ご丁寧に一番難しいと言う事か、双護は呆れた様に笑う。

この世界では今、大変な事が起こっているようだが自分も変身しないといけない課題がある。

 

 

「どうすればソイツと契約できる? 教えてくれませんか」

 

「愛とか恨みとかどんな感情でもいいから、それを強く念じてカブトゼクターを呼ぶのよ。それで気に入られれば、おしまい」

 

「……分かりました。どうも」

 

 

そう言って双護はもう何も聞かなかった。

まだ何かを考えているかの様な彼だったが、襲撃の事で誰も気にはとめなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全軍、包囲」

 

 

右目に眼帯をし黒いスーツに身を包むその男、峰岸創英とマインドコントロールされた数人の契約者(インセクト)

そして、科学が生んだ無数のサイボーグ兵士、通称ゼクトルーパーは武器を構えビルを取り囲んでいた。

ビルの周りは他の建物もなく、おかげでこれと言った逃げ場もない。数が多いという事はそれだけで大きな戦力差につながる。

 

 

「まさか、そんな機械を作っていたとはな……さすがは天才科学者といったところか」

 

 

もっとも、天才が多すぎたせいでこの街は腐ったのだが。

創英は歯軋りをしてビルを睨みつける。過ぎた科学技術はその存在自体が罪なのだ。

 

 

「総員、突撃用意。中にいる真由と言う少女は生け捕りにせよ、抵抗が激しいならば殺しても構わん」

 

 

感情なき兵士達はそれに答えると突撃の用意をはじめる。

 

 

「抗うとは愚かだな。科学者よ、貴様らの罪は清算できるモノではない」

 

 

突撃の合図を出すために創英は手を上げる。

走り出すゼクトルーパー達、入り口に向かって一斉に駆けていく……が――

 

 

『ファイナルアタックライド』『ファファファファイズ!』

 

「っ!何だ?」

 

 

入り口から赤い光が見えたかと思うと巨大なレーザーが発射され、入り口に向かっていたゼクトルーパー達を一掃した。

驚く創英、あんな兵器を開発していたのか!? もし自分が少し高いところにいなければ――

 

 

「悪いな、速攻でゲームオーバーだ」

 

「何っ?」

 

 

創英が後ろを振り向くと、ファイズアクセルとなったディケイドが手を振り上げているのが見えた。

一撃で気絶させる! ディケイドはその拳を振り下ろ――

 

 

「!!」

 

 

しかしその拳は創英には届かない。受け止められたのだ!

 

 

『Change Punch Hopper』

 

 

茶色の体に白い目。

インセクト、パンチホッパーはディケイドの拳を受け止め、弾く。

さらに自らのクロックアップを発動し、同速のフィールドへと立った。

 

 

「クッ!」

 

 

マズイな、既にコッチは発動してから時間が経っている。

しかし向こうは今クロックアップを発動したのだ。激しい拳の連撃がディケイドに襲い掛かる、何とか受け流すがすぐにその違和感に気づいた。

そう、彼らはマインドコントロールによって操られた人形。戦いに対する恐怖や、感情が全く感じられない。

 

 

「クソッ!」

 

 

ふざけやがって! 人間を何だと思ってるんだ!

ディケイドはパンチホッパーの活動を止めるため気絶させることにする。

そしてそれを実行する為上段蹴りを決め、素早くカードを発動させた。

 

 

『Time Out』

 

『ファイナルアタックライド』『ファファファファイズ!』

 

 

アクセルが解除されると同時に足からポインターが発射され、

パンチホッパーの動きを止める。ディケイドはそれに飛び蹴りを決めるために飛び上がった。

 

 

「ぐッ!!」

 

 

だが、衝撃と火花が走りディケイドは地面に落下する。

何が起こったのか? あたりを見回すと、ドレイクがコチラに銃を向けているのが見えた。

 

 

「ホントに厄介だよ……クロックアップは!」

 

『カメンライド』『ブレイド!』

 

 

 

さらに背中、腹部、胸部と激しい痛みが走る。

パンチホッパーの連撃は止まることを知らない、ディケイドはブレイドに変わるとカードを発動させる

 

 

『アタックライド』『マッハ!』

 

 

気づいたことがある。

真志はアクセルベントを使えるが、カメンライドで変身した自分はアクセルベントを使うことができなかった。それだけじゃなくアギトのトワイライトにもなれなかったのだ。

つまり、今ディケイドはマッハとアクセルしかクロックアップに対処する事ができない。長期戦や乱戦は圧倒的に不利。

 

 

「おらっ!」

 

「………」

 

 

カウンターを決めるがパンチホッパーは何のリアクションも示さない。

それどころか尚も攻撃を仕掛けてくる、ドレイクの銃撃もかなり厄介だ。

 

 

「マズイな……ッ!」

 

 

マッハの時間もいずれは切れる。その前に決着をつけ――

 

 

「いッッ!!」

 

 

殴られた。本当にこいつ等早すぎなんだよ!

 

 

「司! アイツは任せろ!」

 

 

そう言って龍騎が走っていく。

アクセルベントを発動させた龍騎はドレイクと対峙し戦いを挑む。

 

 

「すまん!真志!」

 

「司君!」

 

 

さらに突風が巻き起こりディケイドに追い風を与える。

対照的にパンチホッパーには向かい風となり動きを鈍らせた!

それこそ本当にわずかなものだが、速度の変化は戦いに大きな変化を与える。ディケイドの剣が始めてまともにヒットした。

 

 

「先生! ありがとう!」

 

『アタックライド』『タックル』

 

 

マッハの効果が切れると同時にディケイドはパンチホッパーにタックルを仕掛ける。

襲い掛かるゼクトルーパー達を弾き飛ばしながら突進するディケイド。

しかしマッハが切れた今、所詮それは通常より少し速い速度のものでしかない。

パンチホッパーはいとも簡単にタックルをかわすとディケイドに止めを刺すため、上空高くへと飛翔する!

 

 

『Rider Jump』

 

「ウオォォオオオオッッ!」

 

 

後方で電子音が聞えたにも関わらずディケイドはタックルを止めない!

それと同時各地で爆発が巻き起こる、デルタがゼクトルーパーを殲滅するために放ったミサイルが原因だった。

爆煙がディケイドを隠し、パンチホッパーの狙いを錯乱させる。

 

 

「うらぁぁあぁあああああああああああああッッ!!」

 

 

そんな中、爆煙から一人のライダーが現れた!

猛スピードでパンチホッパーに向かうのはディケイドではなくブレイドジャックフォームだ。

マッハのカードをライズしたおかげでパンチホッパーとほぼ同速になっている。

 

 

『Clock Over』

 

「ライダーパンチ」『Rider Punch』

 

「チッ!」『ビート』『メタル』『サンダー』【ライトニング・スタンビート】

 

 

それぞれの高速移動は解除され、同時に強化された拳がぶつかり合った!

 

 

『Clock Over』

 

「!」

 

 

一方ドレイクと龍騎もまた互いの高速移動が解除されたところだった。

銃で牽制を始めるドレイク、的確な射撃で龍騎を近づけさせようとしない

 

 

『バイオ』

 

「!」

 

 

しかしそんなドレイクの手にバラの蔓が巻きつき、動きを封じる!

 

 

「悪いな、ワタシ達は一人で戦ってるんじゃないんだよ」

 

 

カリスはドレイクを引き寄せると思い切り蹴り飛ばす。

機械的な戦士に勝つためには感情から生まれるもの、つまりコンビネーションを最大限生かすのだ!

 

 

「トンボっつうのはドラゴンフライとか言うんだろ?」

 

 

よろけるドレイクに見せつける様にして、龍騎は一枚のカードを発動させた。

バイザーの瞳が輝き、認識音声が鳴り響く。

 

 

「いい機会だ。本物の龍を教えてやるぜ」『ファイナルベント』

 

 

咆哮と共にドラグレッダーが出現し、龍騎の周りを激しく旋廻する。

龍騎は構えをとると、ドラグレッダーと共に上空へ飛翔した!

 

 

「ッ!」

 

「むッ!」

 

 

カリスの手に衝撃が走り、蔓の力が弱まる。

その隙にドレイクは素早くカリスと距離を取ると、龍騎に狙いを定める。

 

 

「ライダーシューティング」『Rider Shooting』

 

「ウオォォオオオオオッッ!!」『ファイナルフォームライド』『アアアアギト!』

 

 

しかし、龍騎の下からコチラに向かってくるのはディケイドとアギトトルネイダー。

アギトトルネイダーは素早くディケイドの前にやってくると、ディケイドを上空へと跳ね上げる。

タックルを発動したままのディケイドは、そのまま龍騎と重なり合った。

感情のないドレイクは特になんの疑問も抱かず、機械的に引き金を引く

 

 

「ヤァアアアアアアアアアア!!!」

 

 

ドラグレッダーは通常ならば龍騎の後方で火炎を発射し炎の力を与えるが、今回は前方で火炎を発射した。

すると、火炎はディケイドに付与され、炎を纏ったタックル。

いや軽い流星のように変わる。そのままドレイクの必殺技とディケイドはぶつかり合い互いを相殺し合った。

 

 

「ダァアアアアアアアアッッ!!」

 

「!」

 

 

だが、まだ龍騎本人のとび蹴りは終わっていない。

炎を纏ってはいないものの、ドレイクを吹き飛ばすだけの威力はあった。

回転しながらドレイクは何度も地面に叩きつけられる。流石にコレにはまいったのか、ドレイクはそのまま活動を停止した。

 

 

「まだだ! 咲夜!」『ストライクベント』

 

「ああ! 分かっている」『チョップ』

 

 

龍騎はさらにドラグクローを装着しカリスのところへと走っていく。

二人は頷き合うと、それぞれの構えをとった。

 

 

「行って……こいッ!」

 

 

カリスはバレーの様に、チョップで龍騎を打ち上げるのだった。

 

 

「ウォオオオッ!!?」

 

「ッ……!」

 

 

上空ではパンチホッパーとブレイドの拳がぶつかり合い、互いに弾かれたところだ。

二人はバランスを失い落下していく、そこへカリスに飛ばされた龍騎がやって来た!

 

 

『ファイナルフォームライド』『ブブブブレイド!』

 

 

それを確認するとディケイドはフォームライドで、ブレイドをブレイドブレードへと変形させる。

そして龍騎は両足でブレイドブレードを挟むと、そのまま手を反対に突き出してドラグクローから炎を発射した。

 

 

「『いっけぇぇええええッッッ!!』」

 

 

炎がジェットの役割を果たし、まるでミサイルの様に飛んでいくブレイドブレード!

そしてそのままバランスを失い落下していたパンチホッパーに突撃する。弾き飛ばされるパンチホッパーと華麗に着地するブレイド、龍騎。

 

 

「フッ! ハァアアッッ!!」

 

「………」

 

 

一方で、少し離れた所ではキバとキックホッパーが戦いを繰り広げていた。

未だにクロックアップを発動しないキックホッパーに恐怖を感じつつも、双方激しい蹴りで戦っている。

しかしゼクトルーパーの銃弾をかわしながらの為、キバは上手く立ち回る事ができない。

少し早急かとは思ったが、ウェイクアップを発動させる事にする。

 

 

『ウェイクアァァァプッ!』

 

「………」

 

 

巨大な月が現れ、辺りを夜へと変化させる。

同時にキックホッパーはクロックアップを発動させた。

瞬間消えるキックホッパー、そして体に走る衝撃の雨。キバの平衡感覚が失われていく。

 

 

「グッ! ガァァア! キッ……バット!!」

 

『は、はい! バッシャーマグナム!!』

 

 

激しい蹴りの猛連打でキバットは空中に打ち上げられていく。

 

 

「グッゥゥウウ!!」

 

 

水流弾がキックホッパーを追尾し着弾するが、確実に防御され大きなダメージにはならない。

 

 

「超変身!」

 

 

そこにドラゴンフォームに変わったクウガが飛び込んでくる。

もちろんドラゴンが素早さに特化してるとはいえ、クロックアップの前では無力といってもいいだろう。

 

 

「わわっ!」

 

 

クウガの背後には無数のゼクトルーパーが迫っており、容赦なく銃弾を発射する。

しかしその銃弾がキックホッパーの動きを封じる壁となってくれた、銃弾をかわすように移動してくるため軌道がつかめる。

クウガはペガサスフォームに変わると、神経を集中させる。

 

 

「ハァァァアアッ!!」

 

 

その隙に攻撃から開放されたキバは、水流弾でゼクトルーパーを打ち抜いていく!

それほどゼクトルーパーに防御力はないようで、一発で動きを封じられる。

 

 

「………」

 

 

そしてクウガは、軌道を予想してペガサスボウガンを振り絞り――放つッ!

 

 

「!」

 

 

しかしそれはキックホッパーにはかすりもしなかった、高速で移動する2つの影がそれを弾く。

一瞬で分からなかったが、ファイズアクセルとサソードだろう。

二人の戦いが弓矢を消してしまったのだ。

 

 

「うわっ!」

 

 

危険を感じて、素早くドラゴンフォームに変わると後ろへと跳ぶ。

自分がいた場所にはもう既に大きな衝撃からくる砂煙が巻き起こっていた。

もしあのままあそこに立っていたなら……想像するだけで恐ろしい話だ。

 

 

『Rider Jump』

 

『バッシャーバイトォォ!』

 

 

巨大な水流弾がキックホッパー目掛けて発射される。

そのスピードは異常なまでに速く、クロックアップを発動しているキックホッパーに追いつくほどだ。

 

 

「………」『RIDER KICK』

 

 

水流弾とエネルギーを纏ったとび蹴りが直撃する。

勢いを失ったキックホッパーは大きくよろけバランスを失った、そこに大きな隙ができる。

それを逃す訳にはいかない。

 

 

「!」

 

 

迫るファイズアクセル、ファイズはサソードと交戦しながらもコチラの様子を見ていた。

そして止めをさせるコチラに狙いを変えたのだ。ファイズショットにメモリを装填してエンターのボタンを押す!

 

 

「ハァアアアアッッ!!」

 

「ッッ!」

 

 

アクセルグランインパクトがキックホッパーを弾き飛ばした。

Φのマークと共に砂煙をあげてキックホッパーは活動を停止する。

 

 

『Rider Slash』

 

「うっ!」

 

 

しかし後ろからサソードの一撃をまともに受けてしまい、ファイズもまた地面に叩きつけられる。

 

 

「グッ…」『Reformation』

 

『Clock Over』

 

 

さらにサソードは倒れるファイズに連撃を浴びせていく。

キバ達が助けに入るがダメージが大きすぎて、ファイズの変身は解除されてしまった。

 

 

「拓真!」

 

 

止めを刺そうとするサソードにデルタは銃弾を浴びせる。

その隙に拓真はファイズギアを抱えて転がり、デルタの後ろへと回避した。

 

 

「ありがとう友里ちゃん!」

 

「惚れ直してくれていいよ! さあ、早く変身して!」

 

 

デルタは振り下ろされた剣を、左手を盾にして防ぐ。

一瞬がら空きになったサソードの腹部に銃を突きつけると、声を上げた。

 

 

「チェック!」『Exceed Charge』

 

「!!」

 

 

ゼロ距離からの射撃。

青白いポインターがサソードにセットされ、デルタはそれに飛び込んだ。

ルシファーズハンマーがサソードに命中する!

 

 

「!!」

 

 

Δの紋章が浮かび上がると、サソードの変身は解除されその場に倒れ込んだ。

だが勝利の余韻にはひたれない。

 

 

「やばっ……!」

 

 

拓真は焦りながらベルトをセットする。

ゼクトルーパはそんな事をお構いなしに銃を乱射しているのだ

サソードの変身者はもちろん、自分も防御力が上がっていようが生身でアレを受けるのは危険すぎる。

 

 

「拓真ッ!」

 

 

タイタンフォームになったクウガが拓真を庇い銃撃を浴びる。

激しい銃弾の雨も、タイタンの前ではシャワーにすらならないだろう

 

 

「あ、ありがとうユウスケ君!」『5『5』『5』『Standing by』

 

 

拓真は再び変身する為コードを入力する。

早く変身しなければならないと言う焦りが、拓真の思考をグチャグチャにしていく。

 

 

「………ッッ? 拓真?」

 

 

 

クウガはいつまで経っても後ろで変身音がしない事を不思議に思う。

これは焦りとかそういう問題じゃない、クウガは気になって拓真の方へと視線を移した。

そして振り向いたとき、拓真は気絶しているではないか!

 

 

「な、なんでっ!?」

 

『ちょ! ユウスケ!!』

 

「え?」

 

 

ふと、気がつけばデルタも倒れているじゃないか。

何が起こったんだ!? 混乱するクウガ、そこに迫る光

 

 

『RIDER KICK』

 

「ッ!」

 

 

だがその答えはすぐに明らかになる。

と、言ってもクウガがそれに気づいたときは自らも宙に舞っている時だった。

激しい衝撃と飛びそうになる意識、タイタンフォームでなければ確実に気絶していただろう。

だがそれもつかの間、さらに何度も激しい衝撃が襲ってくる。ついにクウガの意識も――

 

 

「!?」

 

 

突如気絶していく仲間達。

キバは目の前で起こった事を理解しようと冷静に考える。

恐らくはまだインセクトがいるのだろう、クロックアップによって不意打ちを食らった訳か――

 

キバは高速で動き回るインセクトに対抗するべく水流弾を発射する。

通常弾のスピードなど子供だましの様なものでしかないが、それでもクロックアップに対処できるのはこの技だけだ。

数があればそれだけ動きも鈍る、その隙になんとかしてチャンスをつりたいのだが。

 

 

『Put On』

 

「ッ!?」

 

 

電子音と共に、キャストオフによって吹き飛んだ鎧の破片が辺りから無数に飛んでくる。

破片は水流弾を打ち消しながら確実にコチラに向かって飛んでくるではないか!

キバは向かってくる破片を何とかかわし体勢を整える。

 

 

「ぐわぁああああああッッ!!」

 

 

だが背中に物凄い衝撃が走りキバの体は空中に吹き飛ばされる。

さらに、もう一回と衝撃が走り体はきりもみ状に回転していった。

そして見た、肩にバルカンを装備したインセクトがいる事を!

 

 

「クッ……!!」

 

 

とてもじゃないが、今の自分では圧倒的に防御不足だ。

このままでは耐えられずにゲームオーバー、何とかしてドッガのホイッスルを手にしようとするが――

 

 

『Cast Off』

 

「ッ!! アアアアアア!!」

 

 

再び電子音が聞こえたかと思うと、装甲が吹き飛び自分にぶつかってくる。

成る程、目の前が真っ白になる。もう数発もらえば自分も気絶してしまうだろう。

しかしスピードだけじゃなくて火力もあるなんて、なんてチート集団だよ! キバは心の中で悪態をつく。

 

 

『亘さん! 任せてくださいっす!』

 

 

キバットがベルトから離れドッガのホイッスルをくわえた。

ドッガの装甲なら攻撃にも耐えられるし、トゥルーアイで動きもとらえられるかもしれない

 

 

『ギャっ!』

 

 

しかしその前にクロックアップを発動した、もう一体のインセクトに弾き飛ばされてしまった。

 

 

『きゅう……』

 

 

気絶するキバット、それが原因でキバの変身がとかれてしまう。

しまったと亘は思うだろう、だがそれを考える前に彼の意識は失われる。

倒れる亘を攻撃していた張本人の青い影はジッと見ていた、彼にとってジッとと言う時間は一瞬程度なのだが。

そのまま青い影は頷くと両肩に供えられている『武器』を構え、投げた!

 

 

「何だ!? 何が起こって――」

 

 

ディケイド達もゼクトルーパーの攻撃をかわしながら

クロックアップに対抗しようとするが、もうカードがない。

 

 

「ぐあぁあああッッ!!」

 

「クッ!!」

 

 

高速で移動する影と交戦する中、急に青いカッターのような物が飛んできてディケイド、カリスの体に命中する。

大きく仰け反る二人、そして気づいた。

 

 

「峰岸がいないっ! アイツ…っ!!」

 

「あいつもそう言えばインセク――グァアアアアアアアッ!」

 

 

次は龍騎の体が宙に舞っていく。

カードを使おうとしたブレイドもまた激しい攻撃によって妨害されてしまう。

助けようとディケイドはゼクトルーパーを振り払いカードを発動した。追尾弾ならと、わずかな期待を込めて引き金を引く!

 

 

『アタックライド』『ブラスト!』

 

『Put On』

 

 

だが、バッシャーの時と同じだ。

装甲がそれを防ぎ、ディケイドに攻撃を加えながら一点に集まっていく。

 

 

「なかなか足掻くな、お前達も」

 

「っ…!!」

 

 

峰岸もまたインセクトへと姿を変えていた。

手を見れば蜂の様なものが見える、いや姿がどう見ても蜂そのものだ

 

 

「ザビーか……ッ!」

 

「っ! じゃあ、もう一体は――」

 

 

会話さえ許されないのだろう。爆発、吹き飛ぶブレイドと龍騎。

カリスとディケイドが後ろを振り向くと、バルカンを装備したインセクトが見えた。

 

 

「やはり……ガタック!」

 

「くっ! 司!」

 

「ああ!」

 

 

 

二人は一瞬アイコンタクトを取ると、左右それぞれに跳んだ。

それを見てガタックはカリス、ザビーはディケイドのほうへと向かう。

なんとか戦力を分散させられればとの作戦だが――

 

 

「くくっ、いいのか? ゼクトルーパー達は下のお仲間の方へと向かっているぞ?」

 

「ッッ!」

 

 

確かにそうだ。早く、こいつらを何とかしなければ。

 

 

「!」

 

 

遠くでアギトの悲鳴が聞える。

見てみれば、サソード、ドレイク、パンチホッパー、キックホッパーがクロックアップで同時攻撃を仕掛けていた。

四人は必殺技でアギトを吹き飛ばす。防御するものの、絶大なダメージでアギトの変身は解除され翼は気絶してしまった。

 

 

「なっ!?」

 

 

ドレイク達は気絶していたはずなのに……!?

 

 

「マインドコントロールとは便利なモノだな。無理やりでも脳をたたき起こす事ができる」

 

 

そう言って笑うザビー、もはや他のインセクトの事を人間としては見ていない様だ。

彼にとっては兵器と同等なものなのだろう、それがディケイドにとっては不快でたまらなかった。

 

 

「お前っ! どうしてこんな事をッ!?」

 

「貴様が何者かは知らんが、見た筈だ。この街の人間……いや、豚共を」

 

「ッ!?」

 

「やつ等は過ぎた科学力によって堕落の限りを尽くす豚だ、あの様な有害な連中がこの世界を壊す。そう、いずれあの様な人間が世界を滅ぼすのだよ」

 

 

いらない、あの様な連中は。

世界をただ汚していくだけの有害な存在、それがこの街の……この世界の人間と言う生き物なのだと彼は言う。

 

 

「その為に彼らには犠牲になってもらった。理想に犠牲はつき物だ」『Cast Off』

 

「しまっ――!」

 

『Clock Up』

 

 

ザビーの姿が消える。

ディケイドは素早くカードに手を伸ばすが、どうやらそんな時間は無いらしい。

瞬間、隣に感じるザビーの気配。

 

 

「残念だったな、お前は――」『Rider Sting』

 

「!!」

 

「遅すぎる」

 

 

渾身の一突きがディケイドに命中する、絶大な衝撃が襲ってくる前にさらに数発の攻撃。

それはカリスの方も同じなようだ、ガタックのクロックアップに対抗できず必殺技をモロにくらってしまった。

 

 

「がはぁぁああッッ」

 

「ぐぅううッッ…!!」

 

 

二人の変身は解除され、地面へとたたきつけられる。

 

 

「ふん、アチラの方も決着がついたようだな」

 

「何……ッ?」

 

 

ザビーが指差すのはビル。

 

 

「ま、まさか……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真由ッッ!!」

 

「お兄…ちゃん!!」

 

 

六人のゼクトルーパーはそれぞれ銃を構えて有美子達を包囲していた。

抵抗すればゼクトルーパー達は迷わず有美子達を射殺するだろう。

彼らは機械、心など無いのだから

 

 

「くっ……!」

 

 

それだけではない、有美子の後ろにあるリコンファームを壊されたら終わりだ。

創英の計画は完全なモノへと変わってしまう、それだけは避けなければならない事。

 

 

『Clock Over』

 

「!?」

 

 

有美子の目の前にインセクト、ガタックが現れた。

目的を実行する為にガタックはダブルカリバーを構えて有美子達に歩み寄る。

緊張感が漂う中、有美子は声を突如荒げた。

 

 

「鏡冶ぃッ!!」

 

「っ!」

 

 

有美子は我を忘れたかの様にガタックへと詰め寄る。

しかしガタックはあくまでも機械的にカリバーを有美子に向けて、これ以上の接近を拒んだ。

そう、彼こそが有美子の甥。新意(あらい)鏡冶(きょうじ)である。

 

 

「俺に……近づくな」

 

「鏡冶――……」

 

「………」

 

 

ガタックは有美子を一瞥すると、他のメンバーに視線を移していく。

そして一人の少女ところで視線を止めた、怯えるその人物を気にする事なくガタックは言いはなつ。

 

 

「お前が……鍵の真由か。命によりお前を拘束する」

 

「え……」

 

「!!」

 

 

ガタックはカリバーをしまうと真由に近づいていく。

真由は震えながら一歩後ろに下がる、そして無意識に双護に助けを求めた。

目が語る、助けて……怖いと

 

 

「オイッ! 真由に近づくなッ!!」

 

 

双護は真由をかばう様に立つが、ガタックは淡々とした様子で双護の首を締め上げると何のためらいも無く投げ飛ばした。

吹き飛ばされる双護、そのすきにゼクトルーパーは双護を囲む様に立つと一斉に銃を向ける!

 

 

「グゥっ…!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 

真由は自分にも銃が向けられていると言うのにも関わらず双護のところへ向かう。

先ほどの恐怖は心配へと変わっていた

 

 

「………」

 

「真由ッッ! 来るなァァ!」

 

「!!」

 

 

真由は涙を浮かべてオロオロと動き回る、自分がどうすればいいのか分からない。

いつも助けてくれる兄が危ない、だったら助けにいくのが普通じゃないのか?

でもその兄は来るなと大声を上げる。

 

 

「ぅぅぅうぅ!」

 

 

ついに耐え切れず、真由はポロポロと涙をこぼしてしまった。だがガタックは何のリアクションも示さない。

マインドコントロールで彼の感情は氷の様に冷たくなっていたのだ。むしろ、邪魔だと言わんばかりに手を振り上げた。

間違いない、ガタックは真由を殴るつもりなのだろう。

 

 

「鏡冶ィィイイイイイッッ!!」

 

「………」

 

 

それが原因なのかは知らないが、ついに有美子が、キレた

知的な彼女からは想像できないほどの怒声に真由も思わず震え上がる。

 

 

「こんのッッ!! 馬鹿野郎がァアアアッッッ!!」

 

「………」

 

「アンタ今自分が何してるか分かってんの!? 何もしてない人投げ飛ばして、女の子泣かせてッ!! 自分が一番嫌ってた事、自分がやってんじゃねーよッッ!」

 

 

しかし、ガタックは何も言わずに真由の手を掴む。

 

 

「オイッ! 真由を放せ!! ぶっ殺すぞッッ!!」

 

 

感情を爆発させながら双護は立ち上がる。

ゼクトルーパーを突き飛ばしながら真由を助けようと走るが、当然双護を撃ち殺そうとゼクトルーパー達は銃を構える。

いくら防御力が上がっていようとも、連射を食らえば命は無いだろう

しかしその時、意外にもゼクトルーパー達をガタックが静止させた。

 

 

「止めろ、俺達は人を殺しにきたのではない。この少女の拘束、そして機械の破壊だ。ゼクトルーパーよ、俺の叔母の後ろにある機械を破壊しろ」

 

「クッ!!」

 

 

やはり…そうなるのか! 有美子達は覚悟を決める。

 

 

「―――ぃ」

 

「っ?」

 

「来いッ! カブトゼクター!」

 

 

双護は手を掲げてカブトゼクターを呼ぶ。

強い思いに反応すると言われるカブトゼクター、ならば今このタイミングならッッ!!

 

 

「………ッ!」

 

 

だが、何も起こらない。

カブトゼクターが双護の手に収まることも、姿を現す事もない。

 

 

「クッ……!」

 

 

ゼクトルーパーはそんな双護を気にする事もなくリコンファームへ銃を向けた!

 

 

 

 

 

 

 

 

「んま、させねーけどね」『アドベント』

 

「!!」

 

 

しかし、突如誰もいないところから声がしたかと思うと、

地面から白鳥が現れゼクトルーパー達を吹き飛ばしていく。

 

 

「まゆちんは渡さねーっての!」

 

 

誰もいないと思っていた所からファムが現れる。

クリアーベント、姿を透明にするその力でファムは創英達から逃げてきたのだ。

ガタックは舌打ちをするとカリバーを一つファムに向けて投げた。ファムはマントでソレを受け止めると、そのままマントを翻す。

すると、ファムの姿が消失する。どうやらただの防御とは違う様だ。

 

 

「………」

 

 

次にガタックは上へとカリバーを投げる。瞬間、それを受け止める音が響いた。

ファムはマントの影から上へと跳んでいたのだ。

バイザーでカリバーを弾くが、ガタックはそのまま弾かれたカリバーのところまでクロックアップで移動すると、カリバーを再び蹴り飛ばし、ファムへぶつける。

 

 

「クッ…!」

 

 

ファムもまた負けじとバイザーを投げ、ガタックへと命中させた。

仰け反る両者、だがファムはバイザーにカードを装填していた。

それが今、発動される。

 

 

『アクセルベント』

 

「ウラァッ!」

 

 

加速からのドロップキック。

ガタックはそれを受け止めようと構えるが――

 

 

「きゃァッ!!」

 

 

そのキックがガタックに届く事は無かった。

 

 

「いっ!?」

 

 

ファムは撃ち落とされたのだ。

起き上がるファムに突きつけられる銃、ドレイクだった。

 

 

「なっ…! く、くそっ!」

 

 

銃を振り切ろうとするが、ファムはそれをすぐに諦めた。

横にはサソードが剣をファムに向けていたからだ。

さらにパンチホッパー、キックホッパーが集合しファムは完全に包囲される。

既にクロックアップの限界を超えているが、マインドコントロールが彼らの限界を無理やり突破させる。

一瞬で逆転する立場、詰めが甘かった……!

 

 

「――はい。分かりました…」

 

 

ガタックは通信で誰かと連絡をとると、真由を抱き抱える。

双護が鬼の様な形相でガタックに向かって走り出すが、パンチホッパーによって気絶させられてしまった。

 

 

「命令があった。全員今すぐ撤退だ」『Clock Up』

 

 

一瞬、アレだけいたインセクト達は皆研究所から姿を消す。

真由は連れ去られてしまった、空しい沈黙だけが研究所を包んでいる。

ファムは悔しそうにバイザーを床へ叩きつけると先ほどまで真由が座っていた場所にへたり込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ、化け物が…ッ! 今は一旦引いてやる。しかし、次は必ず……ッ!」

 

 

そう言ってザビーはクロックアップを発動して姿を消した。

 

 

「うぅ……ッッ!」

 

 

変身を解除したのは良太郎、電王だ。

ザビーは電王の圧倒的な力を見て全滅すらありえると判断した。

マインドコントロールをされたインセクト達は撤退命令を出せばそれに忠実に従い、機械を壊してから撤退すると言う機転を利かせる事はないだろう。

それは惜しい事ではあったが、このままでは大切な兵を全て失いかねない。

何より、自身の敗北すらありえる。大勢の兵がいたとして、ほぼ全てが操作している『兵器』である以上、自分が負ければその時点でゲームオーバーだ。

意外だった、まさかこんな化け物が潜んでいたとは――

このまま戦えば負ける。ザビーは苦肉の策として、最初の命令である真由をさらう事でリコンファームの発動を阻止するだけに止めておいた。

 

 

「皆……ッ」

 

 

良太郎は辺りを見回す。

気絶している司達、全滅と言ってもいいだろう。

 

 

「危なかったわね、貴方が居なければ皆死んでたわ! クスクス!」

 

「……ッ」

 

 

膝をつく良太郎の前にゼノンとフルーラが現れる。

同時に、それが何を意味するのか良太郎は悟っていた。。

 

 

「もう、危ないのかな……?」

 

「フッ、分かっているようだね」

 

 

ゼノンが何を言いたいのか、良太郎は分かっていた。

それがどういう事なのか理解もしている、良太郎はその事から目を背けていたのかもしれない

 

 

「しかし考えたね。成る程、確かにザビーが全滅を危機するのも無理はない」

 

 

絶大な力をちらつかせればそれは抑止力と言う武器になる。

結果としてザビーは恐れをなして逃げたという訳だ。今の電王にはそれをなし得るだけの切り札がある。

 

 

「ハッタリは成功したのかしら、まあ普通に戦っても貴方が勝っていたでしょうけど」

 

 

ゼノンとフルーラは賞賛の拍手を良太郎に浴びせる。

そして同時に砂のオーロラを発動させた。彼らが移動する為のものではない、このオーロラは良太郎に用意されたモノなのだ

 

 

「さあ残る試練はコレを含めてあと2つ。分かるかい? コレが最後のチャンスだ、野上良太郎」

 

「………」

 

 

複雑そうに表情をゆがめる良太郎。

そしてそれはハナにもいえる事である。

 

 

「次の試練、つまり最後の試練で君が変身すれば、世界は君を『―――』の登場人物として記すことになる」

 

「そうなれば分かるかしら? 貴方もまだお姉さんや、電車の中のお仲間さんに『野上良太郎』として会いたいんじゃない?」

 

 

なにも答えない良太郎。何も答えられない。

 

 

「今なら貴方とハナを元の世界に帰してあげられる。でも、次の試練が始まればそれはとても難しい……さて、どうするの?」

 

「………」

 

 

良太郎はうつむくだけでやはり何も答えなかった。

それは迷い、彼の心の中で揺れる葛藤、天秤に掛けられたのは絆と絆。

それは良太郎の心を蝕む毒の様に彼を苦しめる。

 

 

「……ぼくは、皆と友達になれて、本当に嬉しかった」

 

「………」

 

「姉さんも、言ってたよ。友達は大切にしなさいって」

 

「それが貴方の答えなの?」

 

「つまり君は、このままディケイド達につくと?」

 

 

ゼノンは何故か嬉しそうに笑う。

だが、すぐに真面目な表情へと戻った。

 

 

「本当の事を言うと、まだちょっと迷っちゃってる。だけどぼくは皆の為に戦うよ、それは揺るがない」

 

 

ゼノンとフルーラは珍しく本当に真面目な顔に変わっていた。

常に人を小ばかにした様にヘラヘラと笑っていた二人。その二人でさえ良太郎の判断が正しいのか、間違っているのか分からない。そのジレンマのようなモノに囚われていた。

 

 

「君はその選択から逃げられない。君は様々な世界で観測された有名人だ、君の世界は君なしでは成り立たない。主役の存在する舞台なのに主役が存在しないなど矛盾しているからね」

 

 

それがどう言う意味なのか、良太郎もまだ明確には分からない。

しかし、今ココで司達から離れ自分の世界に帰らなければ自分達にとって大変な事になる。

そう言う事なのだろう。

 

 

「もう一度、ハナと話し合って決めればいい。最初の世界で君に渡した鍵さえあれば、いつでも君たちは自分達の世界へ帰れる」

 

 

良太郎はポケットから小さいビー玉のようなモノを取り出す。

それは、一番最初の世界で司達に会う前に彼らに貰った物だった。

それを使えば自分達は帰られるらしい、しかし一度それを使えばもう戻ってくることはできない。

 

 

「いずれにせよ、さようなら。『仮面ライダー電王の主人公』 野上良太郎」

 

「そして、ここには居ない事を残念に思うわ。ヒロイン、ハナ」

 

 

ゼノン達は自分達のオーロラを出現させて消えていく。

 

 

「………」

 

 

良太郎は、暫くそのままうつむいたままだった。

だがしばらくして頷くと、キンタロスを憑依させて司達を抱えるのだった。

 

 




エヴァの使途、まどマギの魔女、デビサバのセプテントリオン、ぼくらののぬいぐるみ、世界鬼の鬼。

とまあ、僕はこういう感じの敵が大好きだったりします。
サイケデリックで、あんましゃべらず、それでデザインは個々でバラバラだけど、同じ種類と言われれば納得する。
こういう敵ってどうやって倒すのか、だとかしゃべらないが故の緊張感みたいなのがあって良いです。
特にそういう意味を含めてエヴァのゼルエル、ぼくらののジャベリン、世界鬼の自戒鬼は感動すら覚えたと言うかw


だからなのか、どちらかと言うとライダーの敵も喋らない系の方が好きだったりします。
さらにワームは鳴き声も独特のヤツが多かったですから、なかなか怖かった印象があります。
まあ喋るのが嫌いなわけではないですし、お話によって喋らせたほうがいいケースもありますがね。

ではこの辺で。
次は、まあ近いうちにでも。

ではでは。

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