仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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ブレイド編ラストでございます。


第20話 運命のジョーカー

 

 

「ねえ椿ちゃん」

 

「なんだよ」

 

 

いつだったか、もうそれも忘れたが何となく記憶の隅にある会話があった。

おばけが怖い、彼女は夏にテレビでよくある心霊映像の特集を見終えて震えていた。

どうせあんなモン作り物だよ、捻くれていた自分はそう思っていたが、彼女に言うのはそれはそれでつまらないと思ったっけ。

 

 

「じゃあ、守ってやるよ」

 

「え?」

 

 

かっこをつける為に言った言葉。彼女は首を傾げた。

 

 

「ワタシよりも強いの?」

 

「強かねーよ、お前には勝てない」

 

 

なんだかんだと幼い時から護身術を習っていた彼女。

自分だってそれくらい知っていた。しかしやはり男としてのプライドがあるってものだ。

 

 

「だから一回だ。お前がどうしようもない時は、俺に任せとけ」

 

 

今になって思う。なんであんな事を言ってしまったのか。

しかしあの時にみた笑顔は、中々悪くないモノだった。

 

 

「ウォオオォォォォォォオオオッッ!!」

 

『………』

 

 

振り下ろされるブレイドの剣を、キングは避ける事無く受け止める。

キングは公平を期すためにブレイドのブレイラウザーと、自らの剣であるオールオーバーの威力とリーチを同等にしてある。

そして互いの防御力も同じ、つまり二人のステータスは完全に互角なのだ。どちらかのセンスが勝敗を決っすると言う事。暫くは互いの連撃がぶつかり合う、呼吸すら忘れるほどの猛連打。

 

 

「ウェェアッ!」

 

『ハァァッッ!!』

 

 

ブレイドが振り下ろした剣をキングは弾き、同時に腹部に蹴りを入れる。

後ずさるブレイドにさらに拳を打ち込んでいき、袈裟切りを決めた。

激しく火花を散らすブレイドの鎧、そして同時に襲い掛かる痛みがブレイドの心までを折ろうとしていた。

痛みが恐怖を呼び、ブレイドの足を鈍らせる。キングはその震える足を払うとブレイドを地面へと叩き伏せていく。

そこに剣で強烈な突きを浴びせると、さらに蹴りでブレイドを苦しめていくのだ。

 

 

(ああ、イテェなクソ……ッッ!!)

 

 

怖い! 怖いッ! ブレイドの心によりハッキリと死のビジョンが焼き付く。

だが同時に思い出してしまうんどあ。彼女の、咲夜の涙を。

 

 

「ウワァァアアアアアッッ!」

 

『クッ!』

 

 

ブレイドはラウザーを思い切りキングの足に突き刺した。

焼きつくような激痛でキングはブレイドから少し距離を離す。

 

 

「ウォラァアアッ!」

 

『グッゥウ!』

 

 

飛び上がるように切りかかるブレイド。

キングは何とか剣でそれを防ぐと、さらに突きでブレイドの僅かな隙を狙う。

また火花を散らすブレイド。だが彼はすぐにその剣を掴み、自らも反撃の突きを繰り出した。

お返しにと言わんばかりの突きだったが、キングは素早く頭を反らしその突きをかわす。

かわりに自らの腕に力を込めてさらに突き上げる!

 

 

「ァアアアアアアァアアァァアアアアア―――ッッ!!」

 

 

人生の中で味わったことのない激痛。

肉が引き裂かれ、引きちぎられる音が聞こえた。

ブレイドの口から自分ですら聞いたことのない叫びがあがるのも確認できた。

だが彼はあくまでも冷静さを忘れないようにしていた。焦りが即、死に繋がるのだと何かで読んだ事があったからだ。

 

 

「ぅぁああぁあぁぁぁ――……!」

 

 

折れそうになる心を叱咤激励しつつ、ブレイドはキングの手を狙う。

剣を持つ手を攻撃すれば剣を離すと考えたのだ。

 

 

『甘いな…ッ!』

 

「――ぁぁあ?」

 

 

キングはソレを読んでいた。

突き出された剣を瞬時に弾き返すと、さらに剣を深く深くブレイドに突き刺していく。

 

 

「――――」

 

 

声にならない叫びを上げて、ブレイドの体から力が抜ける。

すぐに体に力を込めようとするが、キングの頭部が眼前に迫ってきた事を理解するまでには間に合わなかった。

激しい音と共に飛びそうになる意識、キングの頭突きでブレイドの脳が揺れる。痛みすら忘れてしまいそうな程の衝撃!

 

しかしさらにまた直ぐ襲ってくる痛み、肩を剣で切られたのだ。火花がまたブレイドの体から散る。

キングはふらつくブレイドの首を掴むと、そのまま締め上げた。

 

 

『所詮はその程度か……!』

 

 

ギリギリと力が込められていく、ブレイドを睨みつけるキング。

ブレイドはその王たる瞳に恐怖を感じながらも、挑発の言葉を投げつけた。

キングは少しため息をつくと、ブレイドの体を何度も切りつけていく。

 

 

「ウァァアアッ! アアアアア! ァァァァアアアアッゥ!!」

 

 

崩れ落ちるブレイド、立ち上がろうと力を込めるが駄目だった。

ブレイドは諦めたように息を吐くと、仰向けになる。

 

 

「あー……綺麗な空だねぇ。椿君かんどー……!」

 

 

雲、太陽、そしてそれに重なるキング。

ブレイドを見下す様に立つと、剣を喉元へと突きつけた。

 

 

『どうやら、ここまでのようだな』

 

「ハァ…ハァ…ッ! 何? 残念賞とか…ないんですか?」

 

『努力は認める。楽に天国へと送ってやろう、それでどうだ?』

 

「そりゃ……! ありがたい――ッ!」

 

 

ブレイドはもう一度全身に力を込める。

しかし駄目のようだ、だらしなく四肢を広げてため息をつく。

 

 

『愛する女の為に戦い、死ぬ。酔狂な生き様だったな』

 

「待てや。おいおい愛する女とか冗談だろ? CG手に入らなくてもいいからアイツの個別ルートだけはやりたくねぇわ」

 

『何を言っているのか、理解できんなお前は』

 

「愛する? 死ぬ? おいおい、冗談キツイぜ。俺はただ――」

 

 

約束を守るだけさ。

ブレイドは赤い複眼でキングを捉えた。

 

 

「男なら……約束くらい死んでもまもらねぇとなぁ?」

 

 

男として終わってるなら、せめて一つでもらしい事しておきたいじゃないか。

じゃないとただのキオモタとしてアイツに認識されたまま双方墓の中に入る事になる。

いや、墓もなく野垂れ死にか。

 

 

『ますます理解できん男だ。できればもう少し観察していたかったが……』

 

 

もういいだろう。キングは剣をブレイドに当て、一度離す。

狙いを定めたのだ、キングは一撃で絶命させる為に剣を高く引き上げる。

 

 

「あーあー……もう、止めた。どんな事してでも勝つわ!」

 

『もう遅い。死ね――』

 

 

キングは剣を思い切り突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかし!

 

 

『何ッ!?』

 

「ハッ!」

 

 

ブレイドは素早く転がり、その突きをかわす。

 

 

『貴様ッ! 動けないというのは演技だったのか!』

 

「ウェァァアアアアア!!」

 

 

キングは渾身の力を込めたため、剣が深く地面に突き刺さってしまった。

引き抜こうと手を伸ばすが、ソレをブレイラウザーが遮断する!

 

 

『グッ!』

 

 

手にほとばしる痛み。さらにそのままラウザーで切りつけられていく。

 

 

『グォオオ!!』

 

「ヴェェェエエエエエエエイッッ!!」

 

 

振り下ろすブレイラウザー。

だが、キングはソレを両手でしっかりと受け止めた!

 

 

「うぉッ!?」

 

『フンッ!』

 

 

真剣白刃取り。

キングはブレイラウザーをブレイドから奪い取ると、そのまま斬りつける!

 

 

「シュ――ッッ!!!」

 

『グッ!?』

 

 

だが、キングの目に衝撃と痛みが走る。ブレイドの手にはいつの間にか石が握られていた。

それを目に投げつけられたという事か、普通の投石でも目という場所をピンポイントに狙えば大きな効果になる。

やられた! キングの狙いは反れ、逆にブレイドに蹴りを入れられてしまった。

 

 

「卑怯とか言わないでね、これって殺し合いでしょ!?」

 

『チッ!』

 

 

剣を振るうがそこにブレイドの姿はない。

鮮明になる視界と共に飛び込んできたのは、自らの剣を引き抜くブレイドの姿だった。

キングはブレイラウザー、ブレイドはオールオーバー。両者は互いに相手の剣を構えて対峙する。

 

 

「『ウォオオオオオオッッ!!』」

 

 

走り出し、同時に斬りかかる!

火花を散らす互いの剣、キングは体をひねる様に斬りこんでいく。

だが、ブレイドもまた上空へとジャンプしてその斬撃をかわす。そしてそのままキングの肩に強烈な一撃を加えた。

 

苦痛の声をあげながらも、キングはそのまま突進でブレイドを弾く。同時に剣でなぎ払う様に斬った。

倒れないように踏み込むブレイド、そこへさらに追い討ちをかけようとキングはブレイドに詰め寄る。

しかしそれがブレイドの狙いだった、彼はそのタイミングであえて倒れキングの剣をよける。

同時に自らは剣を突き出し、自動的にカウンターを決めた!

 

 

『グッ! ガァ……ッ!』

 

「へっ!」

 

 

両者はそのまま滅茶苦茶に斬りつけあう。

防御という単語を忘れたかのように互いの力をぶつけ合った。

 

 

「!」    『!』

 

 

ふいに両者の剣が弾かれ、上空へ舞う。

どちらが先に剣を掴むか? 二人は地面を蹴り上空へと舞い上がる。

伸ばす手の先にはそれぞれの剣、信念がある!

 

 

「ウォオオオオッ!」   『ハァァアアアッ!』

 

 

ブレイドはブレイラウザーを、キングはオールオーバーを手にすると同時に地面に着地した。

そして同時に斬りつける。ぶつかる剣と剣。にらみ合う二人ッ!!

 

 

「おうおう、もういい加減……! 降参してもいいのよッキングちゃん!!」

 

『馬鹿を言え、貴様が私のバックルを展開させるか。それともお前の命が先に消えるのか。この2つ以外に決着はないッ!』

 

 

そしてその結末は貴様の死で終わる!

キングの渾身の一撃をブレイドは防御しきれずに大きく吹き飛んでしまう。

口中に広がる血の味、バウンドし叩きつけられた瞬間飛ぶ意識。

 

 

「うぅぅう……ッッ!」

 

 

何とかその体を起こし、剣を構える。

ぼやける視界の先、陽炎の中に佇むキングもまた剣を構えていた。

まだ終わらない、両者が感じる戦いという証明!

 

 

『普通の人間ならばもう十は死んでいただろう、にも関わらずまだ貴様が立っていられるのはブレイドの鎧を纏っているだけではないな』

 

「………」

 

 

ボロボロになりながらもまだブレイドの闘志は死んではいない、それがキングにとっては疑問だった。

愛する者の為に戦う人間が稀に見せるこの現象。

キングの心にその事についてもっと知りたいという感情が少し湧き上がったのだ。

 

 

『もう一度聞く、その女の事を愛してはいないのか?』

 

「……さあね」

 

『?』

 

「何か俺でも分からんわ」

 

 

でもあの女はあんな馬鹿な事で死ぬべきじゃねぇ。

今まで散々俺を馬鹿にしといて勝ち逃げなんてさせるかよ。

殺すなら俺がぶっ殺してやるってんだ。

 

 

「それに、約束があるんでね……アイツとは」

 

『ますます分からんな。そんな女の為に命を賭けると? 小さな約束の為に苦痛を受けると?』

 

「そうだな。自分でも馬鹿だと思うよ本当に。現に今死ぬ程体がイテェで……ござる」

 

『お前は死ぬかもしれんのだ。ソレを理解していたのか?』

 

「ああ、というかお前に勝つ確立なんて無いに等しかったろうよ。それこそ死亡フラグとかじゃなくて確定事項の中に突っ込もうとしてるくらいよ」

 

 

あーあ、とブレイドはヤケになったように大声で叫ぶ。

この戦いが終わったら――とか、冗談じゃない俺は死にたくないんだぁぁぁ――とか、急に過去振り返っちゃったりさぁ、死亡フラグばっかじゃんかよ俺。

確実に死ぬね普通――

 

 

『………』

 

 

キングは黙っている、それはブレイドが何を言っているのか分からないからではない。

彼の中から溢れんばかりの闘気を感じていたからだ。

どんどんそれは膨れ上がり、キングですら黙らせる程に。

 

 

「だけどな…どれだけ死への伏線とか恐怖とか膨れ上げても――」

 

『………』

 

 

二人は剣を構えなおした。それは再び訪れる開戦の意味。

 

 

「たった一つの思い出がソレを凌駕する。たった一つの涙が、その死への恐怖を――」

 

『!!』

 

「破壊するんだよぉおおぉぉッッ!!」

 

 

二人が同時に出した突きがぶつかりあう、二人の剣の先は見事に重なっていた。

しかし二人はその奇跡の様な光景になんのリアクションも起こさず、すぐにまた斬りかかる!

両者の全力を込めた一撃と一撃、あまりの威力に二人の体は大きく後ずさる。

それでもまた二人は走り出す。もうただ我武者羅に、ひたすらに勝利だけを考えて見栄えなど気にはしない。

二人の戦いは他人から見ればとても美しいとはいえないモノだろう。

 

 

「椿様の前にひれ伏しなカブト虫くん!」

 

『させてみろッ!!』

 

 

だが二人にそんな事を気にする意味も理由もない、ただ相手を殺すだけ。決闘という名の殺し合いなのだ。

相手が憎い訳ではない、思いを成就する為剣をふるう。

救うため、試すため。ブレイドもキングもただそれだけを考えて剣を打ち付けた!

 

 

『っ!?』

 

 

何かがおかしい!

キングは焦りを覚える、何故かブレイドの動きが読めない。

剣の動きに統一性が全く無い!まるで数撃ごとに人が変わっているようだ。

 

 

「ウラァアアアアアアッ!」

 

『ウッ! グォオオオ!!』

 

 

キングの装甲が激しく削られる。最初とはまるで動きが違う!? 剣が見切れない!

そう、椿は彼にしかできない戦い方にシフトチェンジしたのだ。

それはまさに彼がこの日まで見続けていた様々なアニメやゲーム。それらに出てくる剣を使った技。それを今、椿は真似している!

 

昔は真似をしようとしてもできないモノばかりだった。

だが今、ブレイドのステータスを得た彼はあの日できなかった事をやってのける。

キングが剣を見切れないのは当然だ。なぜなら今、彼の戦い方は何人ものキャラクターのモノなのだから

 

 

「俺は――ッ! 今まで見下されて、劣等感を感じて生きてきた!!」

 

『!?』

 

 

ブレイドの剣の動きが加速する。キングは完全に劣勢だった!

 

 

「意味ねぇ人生、くだらねぇ人生! ふざけた人生だって!!」

 

 

でもアイツはそんな俺に希望を見ていた。

こんな俺でも、まだアイツを救う事ができるのならそうしたい。

じゃないと、本当に俺は腐っちまう。

 

 

「俺は――ッ! 勝たなきゃいけねぇえええんだよォオオオオ!!」

 

『!』

 

 

ブレイドはキングの剣を完全に弾き、そこに大きな隙を生ませた!

 

 

「オラァァァアアアァアアアアッッッ!!」

 

『グワァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

ついにブレイドはキングの膝を地面へとつかせる事に成功する。

それを合図とし、ブレイドは一旦後ろへ多きく跳ぶ。

 

 

「『オォォォオオオオオオオオオッッッ!!』」

 

 

両者は覚悟を決めた。そう、決着をつける!

どこから攻めるか?

どこを守るか?

唐突に訪れる終わり。二人は剣を構えて確実に決めるタイミングを探る……!

 

 

「ッ!!」

 

 

先に仕掛けたのはブレイドだった。

まさに賭け、ブレイドはブレイラウザーを蹴った! 武器を捨てかねない危険な賭け。

だが想像もしていない攻撃にキングもまた対処が遅れる。

 

 

『グッ!』

 

 

瞬間的に剣を盾にしてブレイラウザーを弾いた。

が、しかし目の前にいたのは――

 

 

「終わりだぁぁぁああああッ!!」

 

 

ブレイドはキングに蹴りを入れると同時に飛び上がる、彼は手を突き上げて弾かれたブレイラウザーを掴んだ。

そして振り下ろす、キングを一刀両断する為に。

 

 

『クッッ!! オオォオオオ!』

 

 

怯むキング、勝利を確信するブレイド。

だが彼とて何度も戦いを重ねてきた経験者なのだ。思考が追いつかなくても体が反応していた。

振り下ろされた腕に重なるように剣を構えたキング。ただ構えたその剣だが、ブレイドの勢いが重なりギロチンとなる。

 

 

「―――ッッッ!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

何かが空に舞った。

それは腕、ブレイドの左腕。

 

 

『………』

 

 

吹き上がる鮮血、絶叫し地面に膝を着くブレイド。腕を失った彼にもう勝利はない。

キングもまた勝利を確信した。随分不思議な人間だった、せめてもう苦しまないように息の根を止めてやろう。

そうキングが思ったとき、ふと違和感を感じた。確か最初ブレイドが振り上げた手は右の筈だ。

――だが、振り下ろした手は左腕。

 

 

『!!』

 

 

そして気づいた。

切断され地面に落ちたブレイドの左腕。

だがどこを見ても周りにブレイラウザーはない――と言う事は!

 

 

『フェイクかッッ!!』

 

「アアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

キングの目の前でブレイドは踏み込んでいた。

膝を着いていたのではない、全てを決める一撃の力を込めていたのだ!

そして苦痛の絶叫だと思っていたモノも違う。苦痛の中に勝利の雄たけびを込めていた!

 

 

『腕を犠牲にしたと言うのかッッ!!??』

 

 

元々まともに挑んで勝てるなんて思ってねぇさ。

腕の一本くらいやるよ。

 

 

でも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代わりにお前らの力を貰うぜ

 

 

「ウァァアアァアアアァァアアッッ!!」

 

 

右手に持ったブレイラウザーがキングの顔面に突き刺さる。

それだけでは終わらない――ッ!

 

 

「俺の勝ちだァアアアアアア! キングゥゥウウウゥゥウウウゥウッッッ!!!」

 

 

ブレイドは飛び蹴りで、突き刺さったラウザーをさらに深く突き立てた!

 

 

「――――ッッ」

 

 

俺の――ッ! 勝ちだ―――……

ブレイドの意識はそこで途絶えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 

キングは目の前で気を失っている椿を見ていた。

変身が解かれた彼の体はもう傷だらけ、腕も片方なくなっていて顔色も悪い。

血も流れすぎている。このままだと確実に死ぬだろうが――

 

 

『……クイーン』

 

『はい』

 

 

カテゴリークイーン。カプリコーンアンデッドは気を失っている椿に近づいていく。

その手には彼の切断された腕が握られており、彼女はそれを切断面に合わせた。

すると淡い光と共に切断された筈の腕が元通りにくっついたのだ、それだけではなく傷だらけだった体も全快とまではいかないものの見事に癒えていた。

 

 

『皆の者。異論は無いな?』

 

 

キングの言葉に周りで戦いを見ていたアンデッド達が一斉に椿の周りにやってくる。

そしてその膝をつき忠誠の証を見せる。今倒れている椿こそ、彼らの新たなる主人なのだから。

 

 

『まさか、この様な子供に私が負けるとは』

 

 

キングはクイーンの治癒能力によって話せるまでにしっかりと回復しているものの、バックルは確かに展開していた。

それは守輪椿という人間が勝利したという証拠、キングは剣を掲げると新たなマスターに忠誠を誓う。

 

 

『我らアンデッド、ここに新たなる契約者の誕生を示そう! 守輪椿に祝福を!』

 

 

祝福を! アンデッドの歓声と共に彼らはその姿をカードに変える、その数は十四枚。

エースからキングを含めた十三の力と、椿が求めていた一枚のカード。

それらは椿の周りを囲むように回転しブレイラウザーへと収められたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆、聞えるかい? 落ち着いて聞いて欲しい。

咲夜ちゃんがいなくなったんだ、保健室からね。窓が開いていたところを見るにそこから外に出て行ったんだと思う。

おそらく、彼女はジョーカーになったんだろう。ローチ達も活発になったし、なにより数が増えてきた。

くれぐれも気をつけて探して欲しい。

 

あと椿くんもいないんだ。きっと――……いや、私達は私達にできる事をやろう。

とにかくまずは咲夜ちゃんを見つけて確保する。ローチを減らしつつ人命救助を中心にね。

じゃあ皆、気をつけて!

 

翼からの電話を切ると、それぞれは行動にでる。

 

 

「くっ、想像以上にローチの数が多いな!」

 

「しかも、クラウンまで……!」

 

 

咲夜を探したい、しかしローチが多いため街の人達が危険に晒されるのもまた現状である。

街の騎士団や学校からの総戦力を持ってしても勢いを抑えられるかどうか難しい。

そう、それにローチが尽きる事はない。ローチはジョーカーを殺すまで無限に湧いてくるのだ。

咲夜を殺さない限り。

 

 

「「変身!」」

 

 

クウガと龍騎は互いにバイクを走らせ、ローチの群に突っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう…? アキラさん」

 

「ちょっと待って……ください」

 

 

アキラは神経を集中して聴力を研ぎ澄ませる。

あの日一番最初の世界から得た特殊能力、『聴力の上昇』をフル活用して咲夜を探す事にしたのだ。

同じくディケイドクウガのペガサスで異質な音、つまりジョーカーの発する笑い声を聞き取りその場所へ向う。

 

しかしもちろんながらジョーカーも移動している、ペガサスでいつまでもソレを探すのは精神が持たないのだ。

だがアキラの聴力ならペガサスには及ばずとも肉体への負担はずっと少ない。我夢、アキラ、司の3人は街中を足で移動しながら咲夜を探していた。

本当はもっと人数が欲しかったし、バイクで移動したいところではあったが、余計な音をたててしまう為バイクは諦めた。

 

 

(お願いします…ッ! どうか!)

 

 

アキラは咲夜と椿の無事を祈って、神経を研ぎ澄ませる。

そしてそれは暫く進んだところだった、アキラが何かの笑い声を聞き取ったのは。

笑い続けるそれは間違いなくジョーカーだろう、三人はその場所に向って走っていく。

 

 

「………?」

 

 

だがアキラが聞き取った所に来てみるものの、誰もいない。

勘違いか? それとも移動したのか? 肩を落とす三人。

 

 

「どうしたのガッガリしちゃってさ? ヒャハハハハハ!」

 

「「「!?」」」

 

 

エネルギーで構成された弓矢が、我夢に向けて発射された。

その音を瞬時に捉えたアキラが我夢を庇い突き飛ばす、おかげで我夢に怪我はないのだが――

 

 

「くぅッ…!」

 

「アキラさんッ!!」

 

 

アキラの真っ白い靴下に赤い斑点が広がっていく。

苦痛の表情を浮かべるアキラ、我夢は能力を発動させアキラの治療に取り掛かる。

 

 

「命中! 命中! ヒャハハハ!」

 

「大丈夫か!? クソっ、変身!」『カメンライド』『ディケイド!』

 

 

ディケイドは声が聞こえた方向に銃弾を放つ。

何かに弾かれる音、それと同時にカリスが現れる!

 

 

「ヒャハハハ! 順調に世界の壊滅は近づいてますよ!

 このままならあと一週間でこの世界中にローチが繁殖するでしょうね! クヒヒヒヒ!」

 

 

カリスは全てが順調と楽しそうに笑う。

自分の思い通りにいく世界がいかに滑稽で愚かで愉快で最高なものか。

もう、この世界はカリス・道化師の玩具箱でしかない。ここに存在する生命全ては彼の玩具なのだ。

 

 

「お前ッ! 何者だ!?」

 

「んー? それはコッチの台詞なんですけどねぇ? アンデッドの力無しで戦えるヤツがいたのは知らなかったなぁ」

 

(………)

 

 

ディケイドは考える、ここで檻に囲まれた世界の事を持ち出すかどうかだ。

向こうはコチラの存在をまるで知らない。そんな相手にわざわざ情報を与えるのはどうだろうか?

安易な問いかけはコチラの身を危険に晒すことになる。ディケイドは考えた結果、あえてあの世界の事は黙っていた。完全に拘束した時にでも問い詰めてやる!

 

一方のカリスは、どうせこの世界は滅びるんだしね、そう言ってまた笑う。

幸いにもそこまで興味を持たなかったようだ。彼は自分の実験以外はさほど興味がない、そう言う性格だった。

 

 

「正直どこのどいつかがジョーカーになる瞬間を見れなかったのは残念だけど、もういいですよ。ブラックカードスリーブももっと改良したいから――」

 

 

もう、この世界はいいや。滅びましょう!

カリスはそう決めたと手を叩く。

 

 

「ふざけんなっ! させるかよ!」

 

 

ライドブッカーを構えてカリスに斬りかかろうとするディケイド。

しかしカリスはあくまでも楽しそうに、それを呼んだ。

 

 

「……なっ!?」

 

 

カリスの合図と共に現れたのは二体のクラウンオルフェノク。

そしてそのクラウン達が引きずっていたのは――

 

 

「ッ……!!」

 

 

檻だった。その中には子供達が入れられており、泣き叫んでいる。ざっと五人くらいだろうか?

子供達はディケイドや何に決め付けるでもなく助けを求めていた。その泣き声を聞いてカリスはまた笑う。

笑い続ける、不快な笑い声。

 

 

「意味、分かりますかね? ヒャハハ! 変な動きしたら――」

 

 

カリスは弓をディケイドに向ける。しかしディケイドは動けない!

動いたら――

 

 

「そうそう、動いたら子供達を殺しますよ? ヒャハハハハ! アーッハハハハハハ!!」

 

 

ディケイドの装甲から火花が散る。体に衝撃が走り思わず苦痛の声を漏らす!

 

 

「グッ!!」

 

 

また、さらにもう一回。またさらに!

どんどん打ち込まれる弓矢。抵抗はできない、カリスはそれを知っている。

だからこそディケイドを苦しめるような場所に打ち込んでいく。

 

直ぐに殺してベルトを調べたいという気持ちもあったが、

なによりそのショーを楽しみたいたいという彼の性格が優先されたのだ。

 

 

「避けないんですかね? まあ避けたら子供達が死ぬだけですが アハハハハハハハハハハハハハハッ!」

 

 

今度はカリスアローで直接ディケイドを切り裂いていく。

このままでは負ける、ファイズアクセルで子供達を……駄目だ、カメンライドまでの時間が長すぎる!

どうすることもできない無力感と悔しさがディケイドを包んでいった。

尚も楽しそうに斬りつけてくるカリス、どうする事もできないディケイド。

カリスはキノコを放り投げてさらに兵力を増加させていく。かなり危険な状況だ。

だが、そんな時だった。クラウンの体に無数の銃弾が打ち込まれたのは。

 

 

「!」

 

「ッ!」

 

 

振り返る二人、爆発するクラウンと粉々に粉砕される檻。

そこにいたのはギャレンとレンゲル!

 

 

「ダイアナ! クロハ!」

 

「司! 大丈夫!?」

 

「今助けるよ!」『リモート』

 

 

レンゲルは、ギャレンのキングであるギラファアンデッドを解放すると我夢とアキラの護衛として設置する。

襲い掛かるクラウン達を次々に爆散させていくキング、ギラファ。

彼とて王を名乗る存在、クラウンが勝てる道理などない。

圧倒的な王の力の前に次々とクラウン達は無へと帰って行く

 

 

「……おい!」

 

「あぁッッ!?」

 

「おかえしだ」『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド!』

 

「ヒッ!?」

 

 

カリスの腹部に衝撃が走る。

見れば、ディケイドが銃を突きつけていた。

そのままゼロ距離でディケイドはディメンションブラストを発射する。

 

 

「ゴワァアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

吹き飛ぶカリス!

ホログラムカードを経由していない為威力は弱いが、それでもカリスに十分なダメージを与えられた

ギャレンとレンゲルも加わり、三人でカリスと対峙する。

 

 

「今度は逃がさない!」

 

「覚悟する事ねッ!」

 

「ま、またテメェらかあああああ!!」

 

 

カリスは怒りに任せて叫びをあげる。すると、その体が禍々しいものへと変化した。

例えるならキノコだろう、不気味なキノコが装飾となってカリスの体に付着する。

毒々しいその姿は一瞬三人の思考を停止させるだけの威力を発揮した。

 

 

「ギャハハハ! ぶっ殺してやるよライダァアアアアアアアッッ!」

 

 

異形の姿となったカリスアローを構え、カリスは走り出す。

三人もまたそれぞれの武器を構えて走り出した。

 

 

「我夢! アキラ! 早く子供達を連れて学校に戻るんだ! キングがついてるとはいえ、今のままじゃ咲夜を止められない!」

 

「は、はい!」

 

 

3人と、カリスは激しい火花を散らして我夢達から離れていく。

残された我夢とアキラは一旦学校に戻る事を決意するのだった。

 

 

「くっ……」

 

「ご、ごめんなさい! アキラさんっ! 僕のせいで…」

 

「我夢君のせいじゃありませんよ。気にしないで」

 

 

手を貸してくれませんか? そう言ってアキラは微笑む。

我夢は少し戸惑いながらもその手を握るのだった。

 

 

(本当なら……好きな人の手を握るって…とても嬉しいことなのかな)

 

 

今の我夢には罪悪感しかない、切にアキラへの謝罪の気持ちしかなかった。

二人はまだ泣きじゃくっている子供達をなだめるとギラファに合図をだす。

 

 

『よし、ならば学校まで行こうか。まだローチもそこまでの数ではない、このまま直ぐに――』

 

 

だが、ギラファはその言葉を止める。

 

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「………!」

 

 

そしてアキラの耳にも入ったその声

 

 

キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!

 

 

『ハァ…どうやら今日は運が悪いらしい』

 

「せ……先輩――っ!」

 

「!」

 

 

草むらから探し人が現れる。

しかしもうその外見は完全に人ではなくなっていた。

アキラは思わず目を覆いたくなる、もう面影すらない。どうして……!

 

 

『キヒヒヒヒヒ!』

 

 

そこにいたのは、化け物。ジョーカーだった。

 

 

『道化師にひかれ、やって来たか…』

 

『ヒヒヒヒヒッ!』

 

 

ギラファの心に焦りが生まれる。

いくら自分がキングの称号を得ていようともジョーカーの前では無力に等しい。

こちらの攻撃は通用せず、対して向こうの攻撃で自分は一撃で敗北する。護衛を任された以上、子供達は守りたいものだが――

特攻するにしても時間かせぎにすらならないだろう。ギラファは詰んでいたのだ、ここでジョーカーに出会うのは完全に計算外だった。

 

 

「先輩ッ! 僕です! 我夢ですッ!」

 

「咲夜先輩ッッ!!」

 

 

二人の必死の説得ももはや無意味だった。

もうそこにいるのは咲夜ではない、ジョーカーなのだ。

 

だが腕の部分に肌色が見える。ジョーカーになりきれてない部分があるところをみると、完全にジョーカーにはまだなっていないのかもしれない。

しかしその部分も僅かなもの、あと少しで尊敬していた先輩は化け物に変わる。

いや、もはや理性が無い時点で変わらないのかもしれないが…

 

 

「………」

 

 

尚も必死に説得しているアキラをぼんやりと我夢は見詰める。

アキラはなんとかして咲夜の自我を呼び起こせないかと足掻くが、無駄のようだ。

ジョーカーは彼女の声がおかしいのか? ケラケラと笑い。ブーメランを構えた

 

 

「……ッ! アキラさん、ギラファさん。僕に考えがあります」

 

『………』

 

「何ですか、我夢君!?」

 

 

何か作戦があるのか? アキラは目を輝かせる。

しかし、我夢の口からでてきたのはそんな希望に満ちた言葉ではなかった。

 

 

「僕を置いて、学校へ行ってください」

 

「………え?」

 

『………』

 

 

それはつまり――

 

 

「何を……言ってるんですか?」

 

 

アキラの言葉に我夢はハッキリと返す。それはあまりにも真っ直ぐな目だった。

 

 

「先輩は僕がひきつけます、その間にアキラさん達は逃げてください。あと、できれば応援を頼みます…ッ」

 

「そ、そんな!? 我夢君、駄目ですそんなのっ! 危険ですよ!」

 

「分かってます。でも、こうしないと……ッ!」

 

 

状況が状況だ。甘い事を言っていたら何も変えられないし、誰も救えない。

 

 

「さあ行ってください、もう時間がありません! お願いします! このままじゃ全滅もあるんです! だからどうかッ!」

 

 

我夢の言葉どおりジョーカーは、我夢達を狙うターゲットだと認識する。

そして近づく足を速めた。もう迷っている時間は無い!

もちろんだからと言ってそう簡単に容認できる訳もないのだが。アキラは我夢を引き止める為に食い下がる。

 

当たり前だ、ここで我夢を残すと言う事は結果として我夢を死の危険にさらす事になる

いくら咲夜だろうとも今はジョーカーの支配下にいるのだ。

まだ完璧にジョーカーじゃ無いためにウイルスを生成する事はできないだろうが、鋭い爪や殺傷能力の高いブーメランは存在しているのだ。

 

 

「で、でも…!」

 

「お願いします! もう時間がないんです!」

 

「そんなの勝手です! じゃあ、私も残りま―――」

 

 

 

 

 

 

 

「天美ッッ!!!」

 

「っ!!」

 

 

普段の我夢からは想像できない声、女性の様に高い声だがナイフの様な鋭さがあった。

そして『天美』と言う呼び方。アキラは思わず驚き、ほんの少しの恐怖を覚える。こんな彼を始めて見るかもしれない……

 

 

「いい加減にしろよ! 今の天美じゃ的になるだけだろ! 僕を庇ってくれた事は本当に感謝してるし申し訳ないと思う!」

 

 

見た目では冷静さを持っていた我夢だが、実際内心は焦りと恐怖に満ちていた。

それなのに彼女は残りたいと? 誰だ、それだと誰も守れるビジョンが浮かばない。

 

 

「理解してくれ! それとこれとは話が違うんだ! 下手をすれば全員死ぬ!」

 

「で、でも…ッ! それじゃあ我夢くんはどうなるんですかッ!!」

 

「……ッ! ギラファさん!」

 

『いいのか?』

 

 

ギラファの問いに我夢は迷う事無く頷く。ギラファもまた頷くと、アキラと子供達を抱えて走り出した。

 

 

「そんなっ!?」

 

 

アキラはまだ納得していない様だったが、ギラファの力にはかなわない。

そのままギラファ達は走り去ってしまった。ジョーカーもまたそれを見てこそはいたが、追う事はしない。

当然だ、目の前に玩具が置いてあるのにそれで遊ばないのはおかしな話。

ジョーカーはブーメランを構えると、我夢の周りを跳び回り始めた!

 

 

「……アキラさんに嫌われちゃったかなぁ」

 

 

素直に君を傷つけたくないって言えばよかったのだろうか?

駄目だ、キャラじゃない。やっぱり自虐的になってしまう

 

 

「僕ら、似てると思いませんか? つくづく損な性格ですよね」

 

 

ジョーカーはまだ完全にジョーカーにはなっていない、

つまりジョーカーウイルスを注入される事もない。我夢はソレを確信する。

そして、自分に与えられた特殊能力である『回復』を発動させてみる

ああ、大丈夫……ちゃんと使えるな。

 

 

「さて、咲夜先輩。頑張ってください、今から僕も――」

 

 

死ぬ気で頑張りますからね?

我夢はため息をついて走り出す。

 

 

「咲夜先輩! お願いですからやめてください!」

 

 

などと言って止めるのであれば誰も苦労はしない。

ジョーカーは笑いながら我夢に攻撃を仕掛けていく、紙一重で避ける我夢。

襲い掛かる恐怖を抑えながら冷静に回避ルートを予測していく

 

 

「……ッ!」

 

 

攻撃の瞬間若干ジョーカーの動きが鈍るのを確かに感じた。

ソレは咲夜の精神がまだ死んではいないと言う事だろう。やはり凄いと我夢は咲夜に改めて尊敬の念を覚える。

 

 

「――グッ!! アァアアアアア!」

 

 

だが攻撃が鈍るだけで攻撃をしない訳ではない、我夢の足に激しい痛みが走る。

見ると、地面からローチが現れその爪で我夢の足を切り裂いていた。

毒を注入される前に離れ、体勢を立て直す我夢。

 

 

「咲夜先輩! これは鬼ごっこです! 貴女と僕、二人だけのッッ!!」

 

『キヒッ?』

 

 

その言葉に立ち止まるジョーカー。

少し考えたような動きをとると我夢の周りに出現させたローチを消し去る。

 

 

「………ッ」

 

 

はやり、あくまでもアッチは遊んでいるだけなのか。

我夢は歯を食いしばる。ふざけた事を――!

 

 

『ヒヒヒヒヒッ!』

 

「くぅうッッ!」

 

 

ジョーカーの蹴りをかわす我夢、しかし足に赤い円がどんどん広がっていく。

すぐに能力で足の怪我を癒すが回復が追いつかない。

このままでは攻撃を避ける事が難しくなる、それと同時に迫るブーメラン!

 

 

「ッッ!!」

 

 

気づいた時にはもうブーメランが自分の足にめり込んでいた、激しい痛みと反転する景色。

地面に倒れたと理解する前に再び背中に衝撃が走る。さらにぐちゃぐちゃになる景色、蹴飛ばされた?

全てを理解した時、自分は地面に這いつくばっているではないか。はやく立ち上がらないとまた攻撃が――

 

 

『キヒヒヒッ!』

 

「!?」

 

 

また一瞬ジョーカーの動きが止まる、その隙に全ての力を振り絞って後ろへ跳んだ。

回復と言う言葉が馬鹿らしく感じる程、体からは血が流れている。

しかし、こんなに寒い物だったとは――

 

 

「クッ…つぅ…!」

 

 

まだ、倒れないでくれよ僕。

我夢は必死に咲夜の自我を呼び覚まそうと声をあげる。

だが咲夜、ジョーカーは笑い続けるだけ。もう言葉すら通じないのか?

 

 

(いや違う)

 

 

例えそうだったとしても声をかけるのを止めてはならない。

我夢は自分の体が徐々に回復していくのを感じると、もう一度大声で咲夜の名前を呼んだ。

 

 

「咲夜先輩ッッ! 起きてください!! 咲――……ッ」

 

 

我夢は自分の愚かさを嘆く。

まだ回復しきれていなかったのに無茶をするから、目まいがして意識が飛びそうになってしまった。

一瞬、だけど相手には充分だろう。ジョーカーはスキップで我夢のところまで移動すると我夢の顔を掴んで地面に叩きつける!

 

 

「―――ァ」

 

 

真っ黒になる視界、また再び体中に衝撃が走る。

ジョーカーは我夢の体を軽々と持ち上げあたりに叩きつけた。

 

何度も

 

何度も

 

何度も

 

 

「―――」

 

 

ジョーカーは我夢の足を持って乱暴に振り回す。

岩があれば激しく打ちつけ、木があれば我夢をバットの様にして叩きつける。

何も無ければ引きずりまわし、投げ飛ばす。舞い散る血液はまるで華のように辺りを舞う。

地面には花びらがたくさん落ちているではないか、それは赤黒い絨毯のようだ。

 

 

「ッ……ァ……!」

 

 

もう痛みを通り越して何も感じられなくなっていた。

こんなに寒いのに汗まみれなのは何でだろう?

この汗が赤黒いのは何で? 回復を発動させる?

 

意味なんてあるのだろうか?

既にもう我夢の思考までもが麻痺していた。

音が遠い、視界が悪い、体中が鈍い。だがそれなのに不快な笑い声だけは鮮明に聞えてきた。

 

 

『キヒヒヒヒヒ!』

 

 

もう、咲夜の声ではなくなっている。

徐々にジョーカー化が進んでいるのだろう、早くなんとかしなければ――

我夢は立ち上がろうと足に力を込める。

 

 

「………」

 

 

だが、気づいた。

倒れていたと思っていた自分は今ジョーカーに持ち上げられているのだと。

足が宙に浮いている。そうか、自分は今寝転んですらいなかったのだ――

失われる平衡感覚、頭に響く耳鳴りが邪魔だ。それより雪が降っているのか? なんなんだこの寒さは?

なんだか気分が悪い、眠くなってきた。

 

 

『キヒヒヒッ、ガ…ヒヒヒヒヒ!ム…』

 

「……ッ………?」

 

 

何か、今…聞こえ……頭……痛………い――

 

 

『キヒヒヒ! ガ…ム…! ヒヒヒヒヒ!!』

 

 

何を――……

 

 

『ガ……ムッッ!! キヒヒヒ!』

 

「っ!?」

 

 

今、何て……ッ

 

 

『ヒヒヒッ! ハヤク…ヒヒヒヒ! ニゲ…ル……ンダヒヒヒヒ!』

 

「せん……ぱい………」

 

 

回復によって視界と聴力が元に戻っていく。

そして確認した、確かにジョーカーの口からその言葉が発せられているのを!

 

 

『ニゲテ…クレッ……デ…ナイト…ワタ…シ…ハ………』

 

「!!」

 

 

ジョーカーは確かにその言葉を言った。

声こそは本人から程遠いものの、笑い声を発する事なく確かに言ったのだ。

 

 

「先輩……」

 

 

振り下ろされる拳は鈍く弱々しい、我夢は足を引きずりながらも何とかかわす事ができた。

次の一撃も、その次の一撃もジョーカーの動きは鈍い。鮮明になっていく意識と軽くなっていく体。

 

 

「咲夜先輩!!」

 

『ガ…ム……! ハヤク…ニゲ…ル…ンダ!』

 

 

ジョーカーはフラフラと頭を抱えてうめき声を上げる。

それはまさに我夢にとっては希望の光。

 

 

「悪いけど、聞けませんよ!」

 

 

我夢はジョーカに駆け寄るとその肩を強く揺さぶる。

そして何度も何度も咲夜の名前を呼んだ。

 

 

「咲夜先輩! 咲夜先輩ッ!! お願いです、ジョーカーなんかに負けないでください!!」

 

『ダメダ…ガムッ……モウ…ワタシは……ワタシデ…ナ…クナル…ッ!』

 

「そんなっ!?」

 

 

濁りつつある声。取り込まれるのは時間の問題か。

余裕はない。気力だけだ。

 

 

『ダ…カラ……オネ…ガイダ…ソノマエニ…ワタシ…ヲ』

 

「咲夜…先輩……」

 

『コロシテ…クレ………!』

 

「………」

 

『―――ヒヒッ…! キヒヒヒヒヒヒ!!』

 

 

理性を失ったジョーカーが口を開けて我夢に迫った。

とっさに右腕を盾にして防ぐが、そんな事はお構い無しに思い切り噛み付かれる。

噴き出る鮮血と常人ならば狂いたくなる程の激痛。だが、我夢の心は冷静なものだった。

 

 

「どうして……ッ」

 

『キヒヒヒヒヒ!!』

 

「どうしてなんだよ!!」

 

 

我夢はジョーカーの足を払いそのまま投げ飛ばす。

うまく口を離してくれたからよかったが、下手をすれば噛み千切られていただろう。

溢れてくる血、既に我夢の服は本来の色を忘れるくらい汚れていた。

だが我夢にとってはもうどうでもいい、何を失おうとも目の前にいる先輩をただ切に救いたかった。

 

咲夜と特別な出会い方をした訳でも

椿の様に長い付き合いがある訳でも

アキラの様に同姓だからこその絆がある訳でもない。

だが、今まで四人で過ごした日々は確かにこの胸に刻まれている。

 

 

『おいコラ! 椿!! また貴様は――』

 

『よぉ、我夢! 遊びに来たぜ! え? 練習はどうしたのかって? あ、ああああ! 疼く! 疼きやがる! 静まれ――』

 

『我夢君、先輩達とアイス食べに行きませんか?』

 

「………ッ!!!」

 

 

何気ない日々だった、だけど楽しかった。

書道や空手、柔道に琴や弓道。お茶の点て方までやっていた道場だ、それなりに人は多い。

だけどずっと通っている我夢とアキラは、特別椿と咲夜との交流が深かった。

 

そう、それだけの思い出があるのだ

咲夜には悩みを聞いてもらった事もある。大切で真剣な悩みだった。

アキラと仲良く慣れたのも咲夜がいたからこそかもしれない

 

 

「咲夜先輩! お願いです! お願いですから!!」

 

 

足に再び衝撃が走り、地面に叩きつけられる。

それでもまだ我夢は叫び続けた。何度でも立ち上がってやる。だからどうか――

 

 

「諦めないでくださいよ!! 咲夜先輩!!」

 

 

いつも凛としてたじゃないですか。

だから、どうかこんなつまらない事で死ぬなんて言わないでくださいよ――

 

 

『ウッ……ァ…ァ……ア……』

 

 

ジョーカーの瞳から涙が溢れる。

だが、いずれその涙も止まるのだろう、いつの間にかジョーカーの腕から肌色が消えていた。

もう侵食は最終段階まで来ているのか? もうすぐ完全に自我を失い、理性を失い、狂った道化に変わるのか!?

 

 

『ガム……ドウシテ…ニゲテ…クレナインダ…?』

 

「僕が居なくなったら…ッ! 咲夜先輩はすぐにジョーカーに飲み込まれてしまうと感じました。違っていたらすいません、無事に全部終わった後好きなだけ叱ってください」

 

『イヤダ……オマエ…ヲ……コロシタク…ナイ………』

 

「僕も先輩を置いて逃げるのは嫌ですね。先輩には申し訳ないですけど……僕を殺したくないって気持ちが理性を保つ理由になっているなら、利用させてもらいます」

 

『ガム……オネガ…イダ……オネガ…イダカ…ラ』

 

「………ッ」

 

 

ごめんなさい、本当に。

我夢はもう一度ジョーカー、いや咲夜に謝るとその目を直視する。

振り下ろされる爪。我夢は歯を食いしばって覚悟を決めるが、彼女から視線を外す事はなかった。

 

 

「なかなかの外道さだな。相原、ああ…嫌いではない」

 

「!」

 

『ウゥ…ァ…ァ……ア…――ッァ?』

 

 

いきなり声がして二人が振り返ると、気だるそうにクセっ毛をいじっている男が立っていた。

こんな殺伐とした状況の中でも光を放っているかの様なオーラは、彼の本質そのものだろうか?

 

 

「ほぉ広瀬ぇ、イメチェンか? だが止めておいた方がいい。似合わないぞ、言いにくいが虫みたいだ」

 

『ゥ……ム…シ……? ッッ! ヒヒイヒ…!!』

 

「ああ、そうだ。人の好みにけちをつける気はないが昆虫系女子と言うのはどうだろう…? それでは椿も引いてしまう」

 

『ウゥッ!! アアアアアヒヒヒ! キヒッヒヒヒイヒ!!』

 

 

ジョーカーはブーメランを構えて、双護に狙いを――

 

 

「フ――ッ」

 

 

だが、天王路双護は走り出す。

特殊能力の移動速度上昇で、辺りを駆け回りジョーカーを翻弄する。

単純なジョーカーは双護から狙いを外さず、キョロキョロと双護を目で追っていた。

その隙に我夢の体が支えられる。

 

 

「ッ?」

 

「大丈夫ですか? 我夢君!」

 

 

我夢に向けられた優しい微笑み、思わず心が温かくなる。

夏美は我夢をゆっくりと起こすと、肩に手を回し移動した。

 

 

「我夢君は少し休んでいてくださいね! 次は私達が頑張っちゃいますからッ!」

 

「ッッ…すいませ……ん」

 

「いいんですよ、それと…ありがとうございました。我夢君が咲夜ちゃんを止めておいてくれたからすぐに見つける事ができましたから!」

 

 

我夢はその言葉に微笑みで返すと、回復を発動させた。

同時にまた肩に触れる手。

 

 

「後はアイツが来るまで繋いで置くからよ。ゆっくり休んでくれよ、我夢!」

 

 

そこにいたのは龍騎、我夢は少し微笑んで

 

 

「ありが……―――ぅ」

 

 

緊張の糸が切れたのか、我夢の意識はそこで途切れてしまった。

回復の力があったから何とかなったものの、下手をすれば我夢は死んでいたのだ。

その事を理解して彼らは覚悟を決める。

 

 

「よし……ッ!」『ガードベント』

 

 

覚悟を決めた龍騎は、盾を構えてジョーカーと対峙する。

 

 

「さあ、夏美! 双護! 気をつけろよ!」

 

「もっちろんですぁ!」

 

「ああ……!」

 

 

3人はジョーカーを囲むように立つと、声をそろえて言い放つ

 

 

「「「鬼さんコチラ! 手のなるほうへ!」」」

 

 

ジョーカーはそれを聞くと楽しそうに笑う。

遊び相手が増える、ジョーカーはまさに心躍る気分だったろう。

その後も傷つけない攻防は続いた。双護が辺りを駆け回り、夏美が咲夜の名前を呼び続ける。攻撃は龍騎が盾で防ぐと言う流れ。

 

 

「くっ、なかなか手ごわいな」

 

 

ジョーカーのブーメランが双護の頬を掠める。

全ての攻撃を龍騎で防ぐのは不可能だ、彼らにも命を落とすと言う緊張感が溢れてくる。

 

 

「ぜぇッたいに大丈夫です! 諦めないで!!」

 

 

夏美の声が辺りに轟く。

彼女の気合いが回りを奮い立たせて、戦いの恐怖に呑まれない勇気を与える!!

 

 

『ギヒイイヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒヒヒヒッッ!!』

 

「咲夜!!」

 

「咲夜ちゃん!!」

 

 

そして、クウガや、アギト達も加わりジョーカーは完全に包囲される。

しかし誰一人攻撃しない戦い、それが続くことに変わりは無い。だがそこに変化が訪れる。

 

 

「ヒャハハハ! 追いついてみてくださいよライダー!」

 

「クッ!」

 

「ギャハハ…ハ…は?」

 

 

カリスの強烈な弓が地上にいるディケイド達を拘束していく、激しいラッシュのせいでディケイド達は防御する事しかできない!

上空をフロートの力で浮遊していたカリス。クラウンの群れとカリスアローでディケイド達と互角に戦っていたのだ。

だが、ついにそれを見つける。

 

 

「おいおいおい! ありゃジョーカーじゃないですか!!」

 

「なっ!!  待て!」

 

 

カリスは猛スピードでジョーカーの所へ向う。

やっと見つけた! ジョーカーウイルスを活性化させるキノコでも与えて早くウイルスを広めなければ!!

 

 

「くそっ!ダイアナ!」

 

「ええ! わかっって……」

 

 

その時だった。

フージョンジャックを発動しようとしたギャレンの腕を誰かが掴む。

驚く三人にかける言葉。

 

 

「俺がいく」

 

「「「!!」」」

 

 

三人の驚く顔をみて、ソイツは鼻を鳴らしてドヤ顔を決めたのだった。

仮面に隠れていても確かに伝わるその表情――

 

 

「お前ッ!」

 

「あれ? 誰か分かる? やっぱイケメンのオーラでちゃってるのかしら!?」

 

 

そいつはニヤリと笑う。

いや、だからディケイドからは分からないが絶対そんな気がした。

 

 

『アブソーブ・クイーン』『フュージョン・ジャック!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジョォオオオカァァァアーちゃーん!」

 

『キヒッ!?』

 

「なっ!? 道化師!!」

 

 

上空からコチラへ向ってくるカリスにメンバー達は焦りを覚える。

この状況でカリスに加わられたら……

 

 

「!」

 

 

だがその焦りは切り裂かれる。

突如、何かがカリスに向かって行き攻撃を与えたのだ! 悲鳴を上げながら地面に墜落するカリス。

その何かはさらに空中に舞い上がり太陽と重なり合う。それぞれはその何かを確認しようと目で追うが、それより先に耳がその音声を捉えた。

 

 

『サンダー』『スラッシュ』【ライトニング・スラッシュ!】

 

「ウッッ! アァ?」

 

 

何が起こったのか理解できないカリスに、さらにその剣が振り下ろされた。

まさに一閃と言うに相応しいその一撃は、カリスを一刀両断にする。

 

 

「ゴワッァアアアアアアアアア!!」

 

 

カリスの体に光を放つ一本の線が刻まれる。

防御をしていないカリスにとって、さすがにダメージが大きすぎたのか?

ベルトが外れ道化師は大きく吹き飛んでいった。

 

 

「イッ!! てぇぇええええええええ!! アアアアッ!」

 

『『ヒャハハハハハハーハハハハッ!』』

 

 

道化師は苦し紛れにクラウンを出現させ、自分は慌てて走りだす。

逃げる道化師の先にはディケイド達が居るというのに……今の道化師にはそこまで頭が回らないようだった。

 

 

「お前ッ!!」

 

「よぉ、待たせたな。でもよ、ヒーローって遅れてくるもんじゃない? なんつってぇ!」

 

 

そう、そこに立っていたのは紛れもない。

仮面ライダーブレイドジャックフォーム、守輪椿の姿だった!

 

 

『キヒヒヒヒヒ!』

 

 

ブレイドの目の前にはジョーカーが笑っている。

彼はそんな彼女を見ると、小さくため息をついた。

 

 

「あれですかね、まあ私も……そろそろ咲夜ちゃんを攻略しようかなと思いまして」

 

 

そう言ってブレイドは一枚のカードを取り出す。

それはキングが契約者に一枚だけ与えるラウズカード、『ブランク』のカードだった。

 

 

「一応、これジョーカーに使えるはずだぜ。道化師産とはいえ人工アンデッドだからな」

 

 

アンデッドとて魂と心を持つもの、契約したとはいえ仮に反旗を翻す事もあるだろう。

それを良しとしないキング達はどんなアンデッドでも強制封印させるラウズカード、"ブランク"を契約者に一枚持たせるのだった。

だがブランクは互いの信頼関係を崩すなによりの因子、クロハもダイアナもすぐに破り捨てたのだが――

 

 

「咲夜……」

 

 

これで咲夜を封印する? 駄目だ、結局は同じ事。

そう、アンデッドを封印するブランク。今咲夜の体には咲夜とジョーカーの二種類の魂が混合している。

このまま封印をすれば咲夜までブランクに飲み込まれてしまう。

 

 

「頼む、真志」

 

「ああ!」

 

 

だが、そう。それはこのカードだけならばの話。

龍騎はデッキから一枚のカードを取り出した、それは契約のカード。『モンスター』を強制契約させるカードなのだ。

龍騎はブレイドからブランクを受け取るとその手に契約のカードとブランクを重ねて持った。

そして一枚のカードを発動させる。

 

 

『ユナイトベント』

 

 

合成のカード、ユナイト。

その力で龍騎の手にある二枚のカードは眩い光を放ち、一枚のカードへと姿を変えた

司の作戦は、この二枚のカードを合体させた時に生まれるカードを使う事だったのだ。

アンデッドを本体ごと強制封印させるカード、ブランク。これでアンデッドであるジョーカーウイルスを封印する。

だがそれでは融合している体まで封印させてしまい咲夜を巻き込んでしまう。しかしここで龍騎の契約のカードが効果を発揮する。

 

龍騎のカードでジョーカーと『契約』を強制的に結ぶ。

こののカードは契約したモンスターをカードの中に入れるわけではない。体を封印するのではなく心を支配するのだ。

 

『モンスター』ではなく『アンデッド』との契約。

それを可能にしたのはユナイトから生まれたカードの出来る技だろう。

二枚のカードの効果は融合し、ジョーカー……いやジョーカーウイルスを支配下に置く事ができる物へと変わったのだ。

 

 

「契約にはカードを体に当てなきゃならない」

 

「おk! 余裕余裕!」『マッハ』

 

 

ブレイドはあっという間にジョーカーの前まで移動する。

そして、そのカードを――

 

「!」

 

「俺の選択肢が間違ってないって事、教えてくれよ咲夜さんッ!」

 

 

見せてもらおうじゃないの、バッドエンドなんて勘弁してくれよ?

俺はゲームでグッドエンドしかやらない主義なんでね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中で、二人の子供が走っていた。

男の子と女の子は暗闇の先にある一点の小さな光を目指して必死に走っている。

 

 

「待ってよぉ!」

 

 

女の子は自分より前に走っている男の子に追いつきたくて必死に走る。しかし、男の子は待ってくれない。

どんどん先に走っていく、このままでは置いていかれるのだろうか?

先に走っていってしまうのだろうか? 女の子は無性に悲しくなった。

 

 

「きゃ!」

 

 

こけてしまう、涙が出てきた。

痛いからじゃなくて置いていかれる寂しさの方が強いからだ。女の子はつい声をあげて泣いてしまった。

 

 

「……ったく、しょうがねーな」

 

 

男の子は女の子に気づくと、ため息をつきながらも側へとに駆け寄る。

女の子はそれが嬉しくてまた泣いてしまう。それに気づいたのか、男の子はニッコリと微笑んだ

 

 

「大丈夫だよ、俺はお前を置いていかないから。でも、お前も俺をおいていくなんてのは止めてくれよな」

 

 

男の子は優しく微笑む。

本当に優しい目だった、女の子も嬉しくなって頷く。

二人は、いつも一緒に歩こうと誓いを立てた。

 

 

「でも、結局ワタシが裏切ったの?」

 

 

気がつけば、男の子は後ろにいた。そして、自分は前に。

逆。自分が前に来て、後ろを振り返りもせず置いていったの?

 

 

「違う、悪いのは俺なんだ……」

 

 

二人ともいつの間にか成長していた。

 

 

「お前の前にいる事から俺は逃げたんだ」

 

 

椿はうつむいて呟く。咲夜もまた下を向いていた。

 

 

「ワタシは……お前の気持ちをしろうともせず――」

 

「いや、俺が悪い。なにもかも逃げ出してた……お前からも、自分からも」

 

「………」

 

「だから、もう逃げない」

 

 

椿は足を速める。しかし咲夜には追いつかない

 

 

「ああ……」

 

 

だから咲夜は椿が追いつくのを待った。

二人の肩が並ぶと、それぞれは微笑みまた歩き出した

 

 

「二人で――」「一緒に」

 

 

光が大きくなる。それを咲夜は感じて、また微笑むのだった。

そうだ、二人で一緒に歩けばいい。どちらが前だとかは関係ないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ぁ」

 

 

目を開けると刺さるような光が飛び込んできた。

思わず顔をしかめる。ええと、自分はどうなったんだったか? それを思い出す前に走る衝撃。

 

 

「おぉ!」

 

 

誰かに抱きつかれた。

よく見ればアキラだ、アキラが泣きながら咲夜に抱きついている。何故だ?

 

 

「!」

 

 

いや、違う! そうかと咲夜は自分の体を見てみる。

それは紛れもなく自分の体、人間の体だった。

 

 

「そうか……」

 

 

だとすればアキラが泣いているのも、皆が周りにいるのも納得だ。

そうか、そうなんだな。かすかに思い出す、いそいで我夢を見てみるが元気そうだ。

本当に良かった――

 

 

「アキラ――」

 

「ハイ……! 何ですか?」

 

「ワタシは、戻れたんだな?」

 

「ハイ……っ! はい!」

 

 

アキラを抱きしめる。そうか、皆には本当に迷惑をかけたな。咲夜は申し訳なさそうに笑う。

体はまだ少しだるいが動けない程ではない、だんだん回復していくのも感じる。

 

 

「ほんどうによがっだでずぅうぅぅう!」

 

 

いろんな液体でぐちゃぐちゃになっている夏美が飛びついてきた。

今日は良しとしようか。彼女にも世話になったからな、咲夜は笑うと夏美を抱きしめる。

 

 

「ありがとう夏美」

 

「い゛え゛い゛え゛!」

 

「………」

 

 

そういえばと咲夜は彼を捜すが、どこにもいない。

その事を聞くと司と一緒にケリをつけにいったらしい様だ。

全く、歩くのが速いんだよお前は――

 

 

そう、咲夜はジョーカーと完全に分離していた。

合成した契約のカードでジョーカーを支配して、ウイルス細胞ごと自らの意思で消滅させたのだ。

司と椿、ダイアナとクロハは道化師との決着をつけに行ったらしい。咲夜はそれを聞くとゆっくり体を起こす。

皆は心配して咲夜に駆け寄るが、咲夜本人がそれを制した。

 

 

「大丈夫なんですか!? 先輩ッ!」

 

「ああ、それよりみんな――」

 

 

ありがとう。

咲夜が微笑むと皆も照れくさそうに笑う。

美しい彼女の瞳の中に皆が笑っている、凛とした彼女の瞳。

 

 

「さて……」

 

「?」

 

 

咲夜は大きく伸びをすると、地面に落ちている『ソレ』を拾い上げた。

 

 

「せ、先輩!?」

 

 

咲夜はソレを暫く見詰めると、まるで何かと会話をしているように振舞う。

そしてしばらくして大きく頷き、走り出したのだった。

 

 

「先輩ッ!!」

 

 

つい止めようとしたアキラの肩に、アギトの手が置かれる。

アキラは少し心配そうに咲夜の背中を見ていたが、仕方ないと笑って無事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ! ハァ! クソッ!」

 

 

道化師は大変不愉快だった。世界は自分の玩具、思い通りにいくオモチャの筈なのに……。

何故? 何故今自分はこんなにもボロボロなのか? 惨めに草むら掻き分けて、無様によろよろと逃げてッ!

こんな筈じゃない! 自分はもっと有能だ! あんな雑魚共にやられる訳がないッッ!!

 

自分は『道化師(ピエロ)』だ! その役割を与えられた!

確かに戦闘力はあまり高くはない、だが自分にはそれを補えるだけの装備と知力があったはず!

違うのか!? 人間なんて俺の玩具なんだよッッ!!

 

おい! どうなってんだ! この世界は滅びるんじゃないのか?

どうしてローチが消えている? ふざけんなッ! 次のジョーカーはどこだよ! おい! おいッ!

 

 

「いねぇよそんなモン」

 

「!」

 

 

前からディケイドが歩いてくる。

ああ、クソッ! すっかり忘れていた!!

 

 

「あああああ! クソがぁあああ! テメェは何なんだよ!?」

 

「俺? 俺は―――」

 

 

ディケイドはその言葉を止める。

不思議に思った道化師が後ろを見てみると……

 

 

「ヒッ!」

 

 

クロハ、ダイアナ、椿の三人が立っていた。それぞれはベルトを装着し道化師を睨みつける。

危険だ、非常にまずい! 道化師の中で膨れ上がる最悪の結末。それだけは避けなければ――ッッ!!

 

 

「ハハッ! い、嫌だなぁ皆! 冗談ですよ、冗談! ワタシは皆さんの世界を危険に晒すつもりなんてな――」

 

 

ビュン! と何かが飛んできて道化師の頬を掠める!

三人の誰かが撃ったのではない。では誰が? 椿達もソレが飛んできた方向を見てみる。

 

 

「は!?」

 

 

椿は思わず間抜けな声をあげてしまった、だが理解した。

飛んできたのは矢だ、この中で矢を武器にしているヤツと言えば――

 

 

「今まで散々やってくれたな」

 

「あ、貴女は!?」

 

 

道化師は完全に怯えていた。

鋭い目で蛇に睨みつけられた、まさに蛙のように。

 

 

「ワタシと彼女達が許すと本気で思っているのか?」

 

 

椿達の横に、もう一人の女が並ぶ。

既に彼女の腰にもベルトが巻かれており、残りの3人はソレを理解する。

 

 

「凄いね、どうやって選ばれたの?」

 

「ワタシも彼女達もアイツにいいように遊ばれた被害者だ。それで意気投合してな」

 

『わらわ、パラドキサアンデッド率いるスートハートはこの女を主人にするぞ。よいな』

 

 

相変わらず自由だな、キング達の声が聞こえる。

椿たちは最初こそ驚いたが、今はもう彼女に目を向ける事なく道化師を直視した。

四つの『人間』の視線が、『道化師』を刺すように襲い掛かる。それはまさに剣の様に。

 

 

「なっ! そんな! ヒャァアアアアアアァァアアアッッ!」

 

 

驚く道化師をディケイドは投げ飛ばす。

そして、同時に一斉にポーズをとる四人の契約者達。

 

スートダイヤ・ダイアナ。

スートクローバー・クロハ。

スートスペード・守輪椿。

そしてスートハート・広瀬咲夜。

彼女は決してやられっぱなしで満足するような女では無い!

転んでもタダじゃ起きない彼女がとった行動は、同じ被害者であるハート達との契約を結ぶ事だったのだ

 

 

「道化師、覚えておけ。俺は破壊者さ!」

 

 

ビシリと道化師を指差すディケイド。

 

 

「だから……この腐ったショーを破壊するッッ!」

 

「っくしょぉおおおおおォォォオオッッ!!」

 

 

道化師は自らの正体、"トードスツールオルフェノク"へと姿を変える。

四人もまたベルトのハンドルを同時に引いた!

 

 

「「「「変身!!」」」」『『『『ターン・アップ!』』』』

 

 

四つのエレメントを同時に通過する椿達。

現れたのはギャレン、レンゲル、ブレイド、カリス!

 

 

「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

トードスツールは棍棒を構えて走り出す。同時に『キング』のカードをライズするブレイド達。

Kの効果は、自らが望んだカードコンボを発動できると言うモノ。哀れな道化師をあざ笑う、王の一撃ッ!

 

 

【ライトニング・ブラスト】【スピニング・アタック】

 

【バーニング・スマッシュ】【ブリザード・クラッシュ】

 

 

「「「「ヤアアアアアアアアアアアッッ!!」」」」

 

「ギュアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

四人の飛び蹴りがトードスツールに命中する。

大きく吹き飛ぶトードスツール!

 

 

『ファイナルフォームライド』『ブブブブレイド!』

 

 

ブレイドの体が光り輝き、巨大な剣に変化する。

ブレイドブレード。ディケイドはソレを掴み取ると、金色のカードを発動させた!

 

 

『ファイナルアタックライド』『ブブブブレイド!』

 

 

ブレイドブレードが光り輝く。

そのままディケイドは飛び上がると、トードスツールに狙いを定めた。

 

 

「『終わりだァァアアァアアアアアッッ!!』」

 

「ッ! アアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

一刀両断ッッ!!!

トードスツールオルフェノクは爆発し、その幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、おい咲夜よぉ」

 

「あん?」

 

「ハートって逆さからみるとおケツに見えないか?」

 

「―――シュッ!!」

 

 

「ぃ……ってぇぇ――」

 

「空気を読め! お前は本当に馬鹿だな!」

 

「うるせぇよ、でもまあ――」

 

 

やっぱ、お前はそうしてる方がお前らしいわ。

ブレイドの言葉に、カリスは小さく笑う。

 

 

「一緒に帰るか、椿」

 

「ああ、そうだな」

 

 

一緒にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが――

 

 

「―――ハァ! ハァッッ!!」

 

 

道化師は、まだ死んでいなかった。

ブレイドブレードが振り下ろされる瞬間に自らの意識をクラウン用のキノコに移し、生き延びていたのだ。

しかし自らは弱いクラウン、必死に走って逃げ延びる今の姿はなんとも醜いものだ。

 

 

「ハァっ…! ハァッ! クソッ!」

 

 

何故自分がこんな屈辱を受けているのか?

腹立たしい! 人間が絶望する顔を見るのが好きなのにッ! なのになんでコッチが追い込まれてんだよッッ!!

気になるのはアンデッドの力を借りずに戦っていた連中だ、あんなライダーがいるなんて知らなかった。

一体あいつ等は………?

 

 

「ハァ…ハァッ!」

 

 

ジョーカーもカードスリーブも回収しそこねた。

まあカードスリーブはこの世界のアンデッド限定だったから諦めはつく。

だがジョーカーを失ったのは痛い。最悪の気分だ、本当に。今からまた研究所に帰って――

 

 

「どこへ、いくんだい?」

 

「!?」

 

 

ふと、目の前をみる。

そこに居たのは二人の子供、しかし何やら只者ではない雰囲気を見せている。

道化師も思わず構えた。自分よりも遥かに小さい、小学生程度の子供に怯えるのか。

 

 

「初めまして道化師、君にはお世話になったよ。おかげでファイズとブレイドのノルマはクリアできた」

 

「は?」

 

「ワタシ達は感謝してるのよ? だから、お礼を受け取ってもらいたいの」

 

 

二人はそう言って笑うとそれぞれのメモリを取り出す。

ヒートとトリガー、二人の髪と同じ色のメモリ。特別おかしなこともないが――その時だ。

 

 

「お前らまさか!! ヒッ! ヒィイイィィイイイッッ!!」

 

「「?」」

 

 

道化師は怯えたように走り出すと崖から転げ落ちていった。

二人は少し驚いて崖の下を見る、しかし暗い。何も見えない。

 

 

「おや? 殺そうとしたのがバレちゃったのかな?」

 

「……もしかして。ゼノン、道化師はメモリを見て」

 

 

フルーラの顔を見て、ゼノンも何が言いたいのか瞬時に理解した。

手に持ったメモリをブラブラと回して虚空を睨みつける。

 

 

「なるほどね……! なら、なおさらアイツを追いたいけど――」

 

「ええ。深追いは危険だわ、恐らくもう既にこの世界に来ているんじゃないかしら」

 

 

ゼノン達はため息をつく。

そして灰色のオーロラを出現させるとその中に消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アグォ……!」

 

 

崖から転げ落ちた道化師は、地面を虫の様に這いずり回っていた。

もう身なりを気にしている場合ではない! 何故"あれ"がこの世界に!?

 

 

「まさか…ッ! ワタシを始末する気なのか!? 馬鹿な……ッ!?」

 

「その通りですよ。トードスツール」

 

「ッ!?」

 

 

既に辺りは夜に変わっていた。

もう月もでている、そんな月に重なる影が一つ。

 

 

「お、お前はっ!?」

 

「私の名はクルス」

 

 

クルス、その名を聞いた道化師は叫び声を上げてのた打ち回る。

逃げようとしているのだが体が言う事を聞かないのだ。

 

 

「やはりッ! 何故だ!? 何故ワタシが!」

 

 

クルスと言う可憐な少女は、うんざりするようにため息をつく

そして苦笑、彼女の瞳が道化師を映す。

 

 

「貴方はこの世界を滅ぼしにきた筈では? なのに何ですか、この現状は」

 

「たっ! 確かにワタシはこの世界を滅ぼす事はできなかった! だが前回の功績があるじゃないか!」

 

「……ッ? 何をおっしゃっているのか、理解できませんが?」

 

「ハァッ!?」

 

 

驚く道化師にクルスはふと思いつく。

尤もそれが彼女にとって信じられない事なのだが

 

 

「まさか、知らないんですか?」

 

「な、何がだ!?」

 

 

クルスの道化師を見る目が完全にゴミを見るときのソレに変わる。

いよいよ道化師の心に恐怖が襲い掛かってきた。

逃げなければ――ッ!

 

 

「貴方が前回訪れた世界は滅んでなんかいません。クラウンゲームは人間側の勝利で終わったのです」

 

「ばっ! 馬鹿なァァアアッッ!?」

 

「おやおや、コレは驚きですね。まさか担当した世界の現状を把握していないとは」

 

「あ、ありえないッ! 人間がアレをクリアできるなど!!」

 

 

尚も信じ様としない道化師にクルスは苛立ちを覚える。

クルスは舌打ちをすると、道化師にある映像を見せた。それは道化師がクラウンゲームを仕掛けた世界の映像だった。

 

 

「まさか!!」

 

 

街を囲んでいた檻は消え去り、人々は楽しそうに笑っている。

檻が消えていると言う事は爆弾が発動しなかったと言う事だ。

そして、そのカメラの前に一人の男が立っていた。顔は帽子を深くかぶっている為分からないが、明らかにカメラに気づいている。

男は暫く黙っていたが、周りに人がいなくなるのを確認するとカメラの前に移動していく。

 

 

『やあ、爆弾をしかけたのは君たちかな? 悪いんだけど、あの爆弾は……』

 

 

僕が頂いたよ。

 

 

「なっ!?」

 

『やっぱりどうしてもトレジャーハンターとしてあんなお宝を見逃すことはできないからね。感謝したまえよ、君たちにはもったいないお宝だ! アハハハ』

 

 

そう言って男は走り去る。沈黙する道化師とソレを睨みつけるクルス。

これは、完全な失敗――

 

 

「二度にわたる世界崩壊の失敗、これだけならばまだ許されたでしょうに」

 

「グ……ッ!」

 

「問題はあの巨大爆弾と言う絶大な物を用意させておいてのあの結果です。もうあれほどの爆弾は手に入りません。世界を崩壊させる確実なカードをもっておいてアレとは……」

 

 

クルスが天に手をかざすと、その容姿からは想像もつかない程の大鎌が現れた。

その可憐な姿には不釣合いな程の武器、クルスはソレを迷う事無く道化師へと向ける!

 

 

「貴方のような無能は、偉大なる我が組織には不要です。『子供達(チルドレン)』も貴方の様な玩具はいらないと判断したようですよ」

 

「そんな馬鹿なッ! 頼む待ってくれ! いいのか!? ワタシの知識は組織にとって必要なはずだ!!」

 

「無能は必要ないんですよ。正直言いますが、ブラックカードスリーブを作る必要はあったのでしょうかね?」

 

 

お遊び、クルスは道化師の研究を遊戯と一蹴する。

 

 

「カリスに変身したところでどうにかなる訳でもない。貴方は楽しいかも知れませんが……正直、貴方は中途半端なんですよ。全てにおいて」

 

 

命乞いを始める道化師、しかしクルスはそれを聞くつもりはない。

もう道化師に狙いを定めているのだ。

 

 

「大方、このショーを上の方に見せてご機嫌をとろうとしていたんでしょう? 残念、失敗すれば全て無駄になるのですよ」

 

 

クルスは優しく微笑んで鎌を道化師の首にかける。

錯乱しながら助けを求める道化師に、もう一度優しく微笑むと――

 

 

 

 

 

クルスは思い切り手を引いた。

 

 

「さよなら、道化師さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂が辺りを包む。

その中でクルスは立っていた、地面には二つになった道化師が転がっている。

 

 

「終わったのか?」

 

「ほぅ、綺麗に切り取れたものだなぁ」

 

「………」

 

 

クルスの後ろには三人の男がいる。

体格のいい軍服を着た男、ガル。

メガネと白衣という見るからに科学者の様な男、№6。

そして若い少年だ。クルスは足元に転がる道化師の顔を踏み潰すと、屈託のない柔らかな笑顔を浮かべる。

 

 

「まあ! 皆さんどうも。どうしたんですか? 各隊の代表たる皆様が何故ここに?」

 

「近いうちに例の議会が開かれるそうだ。お前も参加者に選ばれた」

 

「それは! ああ何てことでしょう! すごく嬉しいです!」

 

 

クルスは嬉しそうに手を叩いて、微笑んだ。その様子に男達も笑みを浮かべる。

一人だけはうつむいたままだったが。

 

 

「クルスゥ、お前の研究は大きな評価を受けたのだ、それだけの資格があるというもの」

 

 

白衣を着た男はルービックキューブをそろえ様と必死なようだ。

時折いきなり面が変わるのは何故だろうか? 一瞬で色の配置が変わる。

不思議な光景だ。しかし誰もその事を問わないわけだが。

 

 

「では、皆様まいりましょうか? この世界はもう諦めるしかありません。一度失敗した世界は何故か異常な力が働いてしまいます」

 

 

一瞬だけクルスの瞳が異形のソレへと変わる。

殺意と憎悪に満ちた狂気の瞳。

 

 

「……このゴミには誇り高き大鷲の紋章を刻む資格は無かったと言う事ですね」

 

 

そう言ってクルスは道化師の胴体を何度も切り裂く、道化師の胸に飾られていた黄金のワッペンが引き裂かれる。

細切れになっていく体、その様を他の男達は楽しそうに見ているだけだった。

ただ一人を除いては――

 

 

「………」

 

 

クルスは灰色のオーロラを出現させ男たちを先に行かせる。

謙虚な態度だ。そう、他人から見れば彼女はとても可愛い女の子。

 

 

「さあ、貴方もどうぞ?」

 

「一つ、聞いてもいいか?」

 

「はい?」

 

 

若い少年はクルスにたった一言だけ投げかける。

美しい顔立ちで、青い瞳がクルスを捉えた。とても儚げな少年だった。

 

 

「殺す必要はあったのか?」

 

 

その言葉にクルスは満面の笑みで答える。

何も知らない人間が見ればそれは天使の笑顔とまで称されたかもしれない

 

 

「もちろんです――」

 

 

COBRAさん!

 

 

「………」

 

 

少年、COBRAは暗い表情でうつむくと自らもオーロラの中に消えていったのだった。

その場に取り残されたクルスは自らの功績が認められた事が嬉しいのか、ニッコリと微笑む。

そして携帯を取り出した。

 

 

「もしもし、私です」

 

『はぁい、クルス』

 

 

世界を越える電話、その向こうからは若い女性の声が聞こえてくる。

鼻にかかる甘く妖艶な声、姿は見えないがそうとうの美人なのだろう、声だけで男性を魅了してしまいそうだ。

 

 

「どうですか? そちらは」

 

『ええ、言われた通りにやったわよ。それにしても素敵な夜、とても美しい月、思わず体が熱くなるわ』

 

 

甘く切ない声がクルスの耳に入ってくる。

彼女はクスリと笑うと、会話を続けた。

 

 

「ありがとう、優秀な部下を持って私は幸せです。しかし今回は控えてくださいよ、あくまでも財団の皆様に提供する大切な情報収集なのですから」

 

 

ですが、うまくいけば世界が滅ぶようにしておいてくださいとクルスは付け足す。

電話の向こうの相手も了解したようだ。

 

 

「一度そちらへ行くつもりです。貴女は戻ってもらっても結構ですので」

 

『はぁい、了解したわ』

 

「ええ、ではさようなら――」

 

 

クルスはもう一度お礼を言って部下の名前を呼ぶ。

 

 

「チェーンソーリザード」

 

『うふっ、じゃあね』

 

 

電話が切られる。

クルスはもう一度黒い笑みを浮かべると、オーロラを出現させて消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

咲夜は学校の屋上から街を見回していた。

ローチはもう居ない、この街……いや世界の崩壊は免れたのだろう。ホッと胸をなでおろすだけだ。

 

 

「よお」

 

「……お前か」

 

 

椿は少し笑みを浮かべて咲夜の隣に立つ、咲夜も少し笑うものの二人は何も喋らない。

そのまま二人は暫く何も言わずこの世界を見ていた。

 

 

「あぁ、えっと……コレ」

 

 

椿は下で買ってきたジュースを咲夜に渡す。

咲夜はお礼を言うと小さく呟く。

 

 

「―――ぅ」

 

「あ?」

 

「ありがとう」

 

「………」

 

 

椿はそれを聞くと苦笑する。似合わない、顔がそう語っている。

咲夜は少しムッとしたが、今回は何も言わなかった。

 

 

「俺、最高にイケメンだったろ? これはアレだね、流石にフラグ立つレベルだわ」

 

「ハッ! 冗談キツイなイケメン(笑)さん」

 

 

二人はニヤニヤと笑い合う。

 

 

「ちっ、待ってろよ。今に椿君の魅力でメロメロにしてやるぜ」

 

「はいはい、せいぜい楽しみにしてるよ」

 

 

あくまでも楽しそうに、二人はジュースのフタを開ける。

 

 

 

ブシュウウウウウウウウッ!!

 

 

「………」

 

「フォオォオオオ! どうだ? 椿くん必殺スプラッシュ――ッ……おい、おいって! お前なんで蹴りの構えとってんだ…? ちょ、おまっ…まさか! いや! 嘘だろ!? おい! 聞いてんのか!? なあって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーッッ!!

 

椿の悲鳴が空に消えていく。二人の関係は変わってない様で変わったのか? 変わった様で変わってないのか?

他者からは分からないかもしれない。でもただ一つ分かることがあればそれは――

 

 

「はははっ!」

 

「テメェ笑ってんじゃねーぞ! イデッ! え? ……嘘、ちょっとやだ…割れてるッ!? おけつが二つに割れてる!? イヤアアアアア!! 割られたァァァァ!!」

 

「あはははっ! 元々だぞそれは!」

 

 

 

二人は仲がいいと言う事だ。

 

 

 




ブレイドはね、キングフォームがお気に入りです。
最強形態の中でもトップクラスで好きだな。あの重厚感と必殺技の厨二具合がたまらん。

はい、でまあ次はいつかな?
なるべく近いうちに。

ではでは

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