仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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今回からブレイド編でございます。
ブレイドって仮面の剣部分はずせば青い人間っぽいよね。


ブレイドの試練
第18話 混乱のハーレクイン


 

 

「どうなのだ? 彼らは」

 

 

どこともつかぬ書斎、そこに三人の男女が椅子に座って何かトランプゲームに興じている。

部屋を満たすこの世のものとは思えない紅茶の香りは、ここが楽園なのではないかとも思わせるくらいの魅力があった。

小さい少年が一人、小さい少女が一人、女性が一人。それぞれは五枚のカードを持って薄ら笑いを浮かべている。

 

どうなのだ?

女性のその言葉に少年は微妙な表情を浮かべて山札に手を伸ばす。

 

 

「まあまあじゃないかな? ディケイドの件を含めて彼らはとても運がいい。この調子なら――」

 

 

少年は交換されたカードを見てニヤリと笑う。

 

 

「いけるかもね」

 

 

どうやらいいカードを引き当てた様だ、

隣にいた少女はそんな少年を見てギョッと自分の手札を焦った様に確認する。

どうやら彼女の手札はあまりよろしく無いらしい。

 

 

「運か。成る程、運も実力の内と言う言葉があったな」

 

 

女性の表情は変わらない。

あくまでもポーカーフェイスと言う訳、少年はニヤリと笑ったまま手札を扇の様にして扇ぎ始めた。

相当の余裕があるみたいだ、どうやら少年はこの女性に勝っている自信があるらしい。

 

 

「聖司と言ったか? ディケイドライバーの介入によって彼の運命は大きな変化を遂げた」

 

「まあ、それは電王もね!」

 

 

少女は祈る様にカードを交換する。

しかしやはり現実は甘くないらしい、少女は手札を見るとガックリとうな垂れた。

 

 

「とにかく、そなた達は今まで通りに彼らを導けば良い。

 今回は『ヤツ』もデータ計算からより良いチームを選出したらしいのでな」

 

 

女性は紅茶を飲みながら静かに笑う。

 

 

「それで巻き込まれちゃ気の毒ってものですけどね」

 

「確かに里奈達は災難だったわね……ぇ」

 

 

少女はもう諦めたのか、テーブルに顔を付して不機嫌そうに頬を膨らませていた。

少年はそんな少女の仕草にクるものがあったらしく、彼女の頭を優しく撫でている。

女性はと言うと少女の言葉にクスクスと笑うだけ。

 

 

「彼女も再構築者の域だ、決して無駄なものではない」

 

 

それに――

 

 

「代わりはいくらでもいる。今回が駄目なら次を探せばいいだろう?」

 

「おーおー、流石人間じゃない人は言う事が違う!」

 

 

さあもう時は来た、勝負の時間だ。

 

 

「ブタさんだわぁ……!」

 

 

少女フルーラはテーブルに手札をオープンさせる。

しかし役は無し、運命の女神は彼女には微笑みを向けてくれなかった様だ。

対照的に少年ゼノンは嫌らしい笑みを浮かべて女性を見ていた。

そしてドヤ顔のままテーブルに五枚のカードをたたきつける。

 

 

「彼らが切り札な事に変わりは無い。ボクらは彼らに期待してますよ」

 

「………」

 

 

そこにあったのはダイアの10・J・Q・K・A

 

 

「あーあ、これはボクの勝ちみたいですねぇ?」

 

 

ゼノンは主人の女性に勝ったのが嬉しい様で彼女を馬鹿に、煽る様にしてニヤニヤと笑みをぶつける。

しかし女性の表情は柔らかい、手に持ったカードを少年の視界に入る様にしてオープンさせる。

 

 

「げッ!!」

 

 

彼女の手札には異なるスート、かつ同じ数字が四枚。そしてワイルドのカードが鎮座していた。

 

 

「その切り札はどんな活躍を見せてくれるのだろうか?

 期待しているぞゼノン、フルーラ。今回の世界でもナビゲーターとして! フフフフフ!」

 

「はいはい、ボクの負けだよ……ッ!」

 

 

ゼノンは悔しそうに笑みを浮かべると、投げやりな返事を返して椅子から立ち上がる。

彼が立ち上がった事で自動的にフルーラも立ち上がり、二人はそのまま書斎を後にした。

残された女性は、尚も薄ら笑いを浮かべてテーブルにあった本を手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ちゃん!待ってよぉ…」

 

 

少女は目に涙を浮かべて走っていた、目の前を走っていく少年に追いつくために。

 

 

「ははっ! 早く来いよ! 置いてくぜ!」

 

 

少年はそんな少女の事などおかまいなしのようだ。

少女は必死に追いつこうとしているが、少年はもうずっと先にいる。

いつもそうだ、彼は自分のずっと先を行っている。ずるい、うらやましい。

 

 

「きゃ!」

 

 

ふいにバランスを崩して少女は倒れる。

ほんの少しの沈黙と、襲ってくる痛みに少女は耐えられず泣き出してしまった。

 

 

「うぇぇぇんッ!」

 

「!」

 

 

少年ははるか後方で泣き出した少女に気づくと、少女の方に向って走り出す。

 

 

「ったくしょうがねぇな!」

 

「!!」

 

 

少女は少年が自分の所に来てくれたのを見ると、先程までの事が嘘のように笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイてめぇ今何つった? ああ?」

 

「聞こえなかったのか? じゃあもう一回言ってやる――」

 

 

うまいのは、たけのこの方だ――

 

 

「ざけんじゃねぇえええええッ! 表でろこらぁああああッ!! きのこの方に決まってんだらぁぁぁあがぁあああああああああッッッ!!!」

 

「ほぉ! 頭だけでなく味覚までおかしくなったのか? 可哀想だな椿! 現実、現実を直視してみろホレホレwww!」

 

「は? おいおいおいタケノコ厨さんよ、なんか勘違いしてねぇか? 売り上げだけでモノ語るなんざソレこそカス! カスにわか乙」

 

「結果は結果だろうが! その事から目をそらすな負け犬が!!」

 

「うわぁう! だいたいたけのこなんて小学生の食いモンなんだよ! 何なの? あの粉っぽいのちょっと勘弁してほしいっすねww! あ、ごめんなさい! 咲夜センパイ()って胸に栄養行き過ぎて脳に栄養いかなかったんですよね……なら仕方ないかッ!」

 

「きwwのwwこwwっのwwっこwwっのwwこwきwwのwこっwwこ! どう考えてもたけのこの方がおいしいです、本当にありがとうございましたッ!!」

 

「上等だごらぁあああああああああああああああああ! やるか? 俺は別に構わんぜ? ん? やるかぁあああああッ!?」

 

 

「お、落ち着けよお前ら。あ…の…2つ好きじゃ駄目…なのかな?なんて…」

 

「ああッッ!? 消えろよ中立きどりの三流が!」

 

「そんな事ぬかしておいて、どうせア○フォートが一番うまいと思っているんだろう? 浅い、浅すぎる!! 出直してこいッ!」

 

「ごっ! ごめなさぁああああああああああああい!!」

 

 

ユウスケは涙を浮かべて走り去る。

しかし二人はそんな彼に目もくれず言い合いを再開した。

 

 

「咲夜さんよぉ! そろそろ決めようや、どっちが正しく、どっちがカスなのかを!」

 

「泣いて謝るなら許してやらんでもないぞ。せいぜい未来の自分に怯えるんだな!!」

 

「「………」」

 

 

見えない火花を散らす二人。

やれやれと思いながらも、司が仲裁に入る。今日も今日とてこの二人は相変わらずである。

本当に仲が良いのか悪いのか。いや、少なくとも良くは無いか。

 

 

「まあ落ち着けよお前ら。そんなきのこ、たけのこで争わなくてもいいだろ。皆違って皆いいんだよ」

 

 

しかし司の言い分空しく、二人はまたギャーギャーと騒ぎ始める。

 

 

「あああああッッ! もううるせぇよ!! お前らさっきから聞いてればアホみたいな意見ばっかだな! どうかんがえてもマーチ様が最強だろうが! いい加減理解しろよ! 破壊しちゃうぞ!?」

 

「本性現しやがったなコアラ野郎が! あ? 何か? 自分は高みの位置にいるとでも思ってんのか? あ? オーストラリアに帰ってろよ!!」

 

「コアラなんて劣化たけのこだろう。司、考えを改めた方が良い」

 

「んだとごらぁああああああああああああああああ!!」

 

「「「グゥゥウゥウッッ!!」」」

 

 

司、椿、咲夜の三人は互いににらみ合う。

 

 

「どっちもおいしいですよねー」

 

 

夏美はにやけながらソレらを口に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、椿。今何かふざけた発言が聞こえたんだが大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない。コーヒー>>>紅茶でファイナルアンサー」

 

「椿、屋上へ……行こうか? 久しぶりに、キレてしまったよ」

 

「デュフフwwそうですねwwそうですよねwwサーセンww本当の事言われたらそら困りますモンねwwフォカヌポウwwww!」

 

「貴様ァァアアァアアアッ!! あの嗜好の芸術とも言える紅茶を冒涜した罪は重いぞぉおおおおッ!!」

 

「はっ! 来いよ弱小がぁあああああッ!! コォフュィの偉大な力でねじ伏せてやるからさぁ!」

 

「偉大な力ぁ? ハッ! あんなモノ×××で×××だろうが!」

 

「おいてめぇ今なんつったゴラァアアアアっっ!」

 

「まあまあ落ち着けよお前ら、コーヒーと紅茶どっちがうまいかなんて人それぞれだろ? そんな事で喧嘩なんて――」

 

 

しかし司の言い分虚しく――

 

 

「あああああああ! もう、うるせぇなクソがっ!! そもそもさっきから紅茶とかコーヒーとか訳分からん事ばっか言いやがって! 緑茶が最強に決まってんだろうが! いいのか? あ? 破壊しちゃうぞ? ああ!?」

 

「「「ガルルルルルっ!」」」

 

 

三人は睨みつけ、互いに注意を払いながら熱弁していく。

 

 

「どっちもおいしいですよねー」

 

 

そう言って夏美はゴクゴクとそれらを飲み干すのだった。

 

 

 

 

 

「オイてめぇ! 今のだけは許せねぇわ、ちょっと…ホント、マジで!!」

 

「奇遇だな、ワタシもだ。本気で貴様を潰したいと思ってきたよ!」

 

「なあ…オイ? もう一回だけ聞くぞ? 本気で言ってんのか? 目玉焼きに醤油って、お前本気で言っちゃってるんですかww?」

 

「ついに常識すら理解できなくなったのか。醤油こそ目玉焼きに合う究極の調味料だと何故気づかん? 結局お前もただの×××かッ!!」

 

「ざけんなテメェエエエエエエエっ! あー、かっちーんっ! 椿君かっちーんときちった! 目覚めるぅ! 目覚めるよぉ俺のなかの堕天使がぁ!」

 

「はいはい、厨二乙、乙。なんだ? ソースかけてれば大人になったつもりか? 笑わせるなよ三流がぁああああああああああああッッ!!」

 

 

「まあまあお前ら、目玉焼きってのはな――」

 

「「うるせぇえええええええ!」」

 

 

司の……

 

 

「上等だよお前らァアアアアアアアアアア! 塩が一番って事を嫌でも理解させてやるからなくそがぁあああああ! 破壊してやるよォォォオッッ!」

 

「「「ガルルルルルルッッ!」」」

 

「全部かけてもおいしいですよねぇー」

 

 

夏美は目玉焼きの黄身だけをくりぬいて食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

「はい、つぶあんが最高。はいつぶあん派の勝ち。はい椿はアホ」

 

「はいー、アホー、お前アホー! こしあんー! こしあん最強ー! お前アホー!」

 

「まあまあお前ら……なんて言うと思ったか馬鹿共がぁああああ! たい焼き、上級者はカスタード一択なんだよど素人共が!」

 

「「「ガルルルルルルルル!」」」

 

 

「zzzzzzzz………」

 

 

夏美は夢の中。

 

 

 

 

 

「うーん。本当に凄いわねあの二人……」

 

「ずっとあんな感じなんです。昔はそうじゃなかったみたいなんですけど……」

 

 

葵とアキラはため息をついて椿と咲夜を見ていた。

ある時はお菓子の種類、ある時は漫画のキャラどっちが強いかと言うモノ、ある時はどちらが先に寝るか。

とにかくそんな下らない争いをほぼ毎日繰り返している。

もう皆そんな二人にあきれて放置状態と言う感じになっているのだが、アキラはそうでもなかった。

やはり尊敬する先輩と、慕っている先輩と言う事で仲良くしてほしいのが本心である。

我夢もそれは同じのようだが――

 

 

「我夢君が言うにはアレで仲がいいらしいんですよ。私は信じられなくて」

 

「うーん。そうね、でもまあ確かに険悪って訳じゃなさそうだけど……」

 

 

葵は紅茶をアキラに差し出す。

葵が入れる紅茶はとても香りがいい、アキラはお礼を言ってそれを受け取ると少しだけ口に入れる。

 

 

「おいしい…!」

 

「ふふっ、よかった」

 

 

笑顔になる二人。

だが、そこにまた騒ぐ二人の声が聞こえてくる。

 

 

「また貴様は野菜を残して! はっ! そんな事でライダーになれるのかぁ?」

 

「ああああああウッセー! つか野菜とか食わなくてもいいんですぅ! 野菜ジュースで補うんですぅ! つかお前仮にも幼馴染だろうが! いいか、よく聞けよ!」

 

 

幼馴染っつたらまず朝起こしにきて。

そんで主人公の為に尽くしてくれちゃって。

なんかふとした拍子に赤面しちゃったりなんかしちゃって。

でもちょっと報われなかったりしちゃうのが幼馴染の条件――

 

 

「っておい聞けよ!!」

 

「あーすまんすまん、ちょっと居眠りしてたわー!」

 

「嘘付つくならもっとマシなのにしろよ! あああ、くそっ!」

 

「夢を見すぎなのだお前は! いいからさっさと野菜を食え!」

 

「ぐああああああ! みっ、右手が疼く!? クソッ! ヤツか!? ヤツが目覚めるのか!? ちくしょう! 封印からまだ百年しか経ってねぇのによ! ああ、そうか。魔界三銃士が目覚めたか! くそっ! やるしかねぇのかぁあああ」

 

「あーはいはい、凄いすごーい。さあ早く食え食え!」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

「あらあら――」

 

 

葵は苦笑いしながら二人を見る。もうどこかへ行ってしまったわけだが――

確かにアキラが悩む理由も分かると言う物。

 

 

「どうすれば仲良くなってくれますかね……?」

 

「うーん、まずそもそもどうして二人はあんな感じなのかな?」

 

「さ、さあ? 気づけばもうあんな感じで」

 

 

でもああなる原因は確かにあったわけで。アキラはふとそう思う。

それは葵も同じようで――

 

 

「多分きっと、昔になにかあったんじゃないかなって」

 

 

そんなの分かる訳ない、聞いても絶対に教えてくれなさそうだし。

 

 

「はぁ…」

 

 

アキラはもう一度ため息をつくのだった。

 

 

「ホラホラ、ため息ばかりついてると運が逃げちゃうよ? おかわりいる?」

 

「ふふっ、そうですね。すみません、いただきます」

 

 

葵に聞いてもらえて、アキラも少しは心が安らいだようだ。

紅茶のいい香りに少し笑みを浮かべると、カップにゆっくりと口を付けるのだった

 

 

「……よし!」

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「仲直り、ですか?」

 

「はい、我夢君はどう考えます?」

 

 

アキラは我夢に協力を求めていた。

世界移動にはまだ時間がある。その隙にもっと椿と咲夜の仲を良好にしておきたかったのだ。

いつまでもあんな調子でいいのか? いや、きっと良くないはずだ! 余計なお世話だろうがなんだろうがアキラはそう決めたのである。

 

 

「まあ、そう……ですね。僕としても先輩たちには仲良くしてほしいですし」

 

 

我夢はうんうんと首を振る。

でも正直あの二人ってあれで完成してる気もしなくもな――

 

 

「ありがと……我夢くん。うれしいです」

 

「……ッ」

 

 

服の裾を軽くつまんでアキラは照れたように微笑んだ。

いきなりの行動に我夢の思考が停止する。

 

 

(かわいい……天使みたいだ)「い、いやいや!」

 

「?」

 

「で、でも、どうしますか? 何かいい手とかあるんでしょうか?」

 

「そ、それは…」

 

 

アキラは黙ってしまう、コレと言った案は無いようだ。

どうしようかと二人は考える。すると、背後からいきなり声が聞こえてきた。

 

 

「フッ、それぞれが互いをどう思っているのか聞いてみるのもいいかもな」

 

「「!?」」

 

 

ソファーで小説を読んでいたのは双護だ。

双護はニヤリと笑って立ち上がると、二人のそばにやって来る

 

 

「そ、双護先輩! い、いたんですか!? すいません!」

 

「気にするな、ちょっと気配を消す練習をしてみたんだ。アキラはとっくに気づいていたようだがな」

 

 

なんていう練習してんですかこの人は……。

我夢の突っ込みに双護は笑い、受け流す。どうやら双護も協力してくれるらしい。

まあ協力者は多いほうがいいので喜んでそれを受けた

 

 

「正直おもし――大変そうだからな。俺でよければ力になろう」

 

「今、面白そうっていいませんでした? いや言いましたよね? ちょ、あの寝ないでください!」

 

 

だが、まあそうと決まれば話しは早い。

椿が咲夜をどう思っているのか、また逆に咲夜が椿をどう思っているのか聞いてみるのもいいだろう。

まあ本心を教えてくれるのかは微妙なところではあるが。

 

 

「トゥッ!」

 

「「ひぃぃっ!」」

 

 

突如開け放してあった窓から美歩が飛び込んでくる!

まるで特殊部隊のような動きで受身をとると、美歩はその目を輝かせて近づいてきた。

 

 

「ちょ! 美歩先輩ココ二階なんですけど!」

 

「気にしない気にしない! つか何々? え! 聞いちゃうのソレ! やだーっ! 興味ある! 美歩ちゃんも混ぜて混ぜて!」

 

 

もはや好奇心を隠す気すらない美歩。

 

 

「もう! 遊びじゃありませんよ!」

 

「分かってる! 分かってるって!」

 

 

アキラは何とか納得したようで、美歩を仲間に加えた。

でも絶対分かってないよこの人!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ? あの女? そうですね、存在自体が誰得って所ですかねハイ。フォカヌポゥww!」

 

「そんな事言っておいて実はそれほど嫌いじゃないとか言うヤツだろう?」

 

「oh……馬鹿野郎! 冗談きついぜ」

 

 

椿は真っ青になって走っていってしまった。

 

 

「うーん……! やっぱりですか」

 

「フッ、まあ本当に嫌いなわけではないだろうがな」

 

 

本音かどうかは置いておいても想像以上かもしれない。

我夢と双護は互いにため息をついたのだった。

 

 

「ええ、こっちもです」

 

 

それは咲夜も同じようで――

 

 

『はっ? 誰が? ワタシ? ワタシが椿の事を好き? 冗談は止めてくれ。アイツと豆腐が崖から落ちそうになっていたらワタシはまず豆腐を助けにいく』

 

「とか言われちゃってさぁ」

 

 

アキラと美歩は困ったように笑う。やはり無駄だったようだ

 

 

「はぁ…」

 

 

本当にどうしたら仲良くしてくれるのか。

アキラは何度目かもう分からないため息をついた。

 

 

 

 

 

 

そして翌日、ついに次の世界へやってきた。

 

 

「見たところちょっと普通の町並みじゃないね」

 

「ええ、少しファンタジックというか……外国?」

 

 

屋上では翼達が今回の世界を見回していた。

現代の様な町並みではなく、ビルも存在していない。

変わりにコロッセウムの様なものや見慣れない建物から神話、それこそファンタジーな世界を思わせる。

だが街の人の中には携帯電話や車に乗っている人も多いため、過去の世界と言う訳ではないようだ。

 

 

「なんだかおかしな世界だな」

 

「しかし、世界移動の際の光と衝撃はいつになっても慣れないな……」

 

 

双護は頭を抱えて苦笑いを浮かべる。耳鳴りがやっと収まった所だ。

 

 

「多分移動の際に時間とか空間を超えるからだと思うよ」

 

「良太郎は平気そうだな」

 

「うん。ぼくとハナさんは特異点だから平気なんだ。時間移動の影響は受けないからね」

 

「羨ましいな……」

 

 

そう言って一同はこの世界をもう一度見回す。

この世界ではどんな事がまっているのだろうか?

 

 

「……チッ」

 

 

椿は自分の影を見て首を振る。

ブレイドの試練の始まり、彼はそれを想像して舌打ちを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイドになる為にはアンデッドの力が無いと駄目なんだ。ブレイドのライダーは皆アンデッドの力があってこそ、その能力を発揮できる訳だからな」

 

 

空き教室で司は椿にブレイドの情報を与えていた。

本人が覚えている範囲、しかももしかしたら情報に誤認があるかもしれないというデメリットもあるが。

だがそれでも知らないよりはマシだ、今まで見てきた記憶を信じようではないか。

椿もブレイドの事はせいぜいカードを使うライダーと言う事と、容姿くらいしか知らない。

司の話を聞いて少しでもイメージを近づけたいところだ。

 

 

「はい! 司せんせーに質問があります!」

 

「なんだ椿君、言って見なさい」

 

「でゅ、デュフフ! あ、あのですね…よ、幼女のアンデッドとかいる――イデッッ!」

 

 

司の投げたチョークと後ろに座っていた咲夜の踵落としが同時にヒットする。

痛そうではあるがこれではヒーローどころか逮捕モノである。仕方ないのだ、多分。

 

 

「おい! つか、テメェ何でココにいんだよっ!」

 

「お前と口論していたせいで話を聞きそびれてしまったのだ!」

 

 

椿と咲夜のにらみ合いが始まる。

司はため息をついて二人を制止させた。

 

 

「一応もう皆には伝えてあるから。戦える奴らにはアンデッドを探しに行ってもらった」

 

 

椿はそれを聞くと、すこし不満そうだが席に着いた。

司はその後も自分が知りえる情報を二人に伝えていく。

だが今までの世界を見るに、その情報はあまり役に立たないかもしれないと言う事は考えてあった。

きっとこの世界もなんらかの情報変更点があるのだろう。例えばそう、アンデッドの力を借りずに変身できたりとか。

 

 

「――ってな訳だ。後はお前ら次第って事かな」

 

 

まあ考えすぎか、司はそう思いながら二人に情報を伝えきる。

もっと何かあったような気がしたが、正直今自分が思いだせるのはここまでだろう。

 

 

「俺もアンデッドを探しに行ってくる。

 お前らはここで待機しておいてくれ、なんなら校庭のほうがいいか?」

 

 

椿と咲夜が頷くのを確認すると、司は外へ出かけに行くのだった。

とにかくまずは彼が変身する為に最も必要となるスペードのアンデッドを探しに行かなければ。

 

 

「意外だな」

 

「あん?」

 

 

司が出て行って残された二人は暫く沈黙を続けていた。

だが、ふと咲夜が椿に話しかける。

 

 

「正直、もっとビビるかと思っていたが」

 

 

咲夜はニヤリと笑って椿を見た。

しかしその笑みは馬鹿にしているとかじゃなく、少し見直したと言った感じだろうか。

あまり見ないそんな彼女の表情に椿は思わず笑ってしまう。

 

 

「はっ、俺は既に暗黒帝王と契約を結んだ身だからな。今さらどうって事ねぇよ」

 

「またお前はそんな事を……」

 

 

それも一瞬、また冷たい視線に変わる咲夜。

椿は困ったように笑みを浮かべると、立ち上がって歩き出した。

 

 

「校庭に行くのか?」

 

「まあな、お前どうするんだよ?」

 

 

その言葉に咲夜は頷き、彼と同じように立ち上がる。

どうやら一緒について行くようだ。

 

 

「わー うれしーなーぼくもさくやさんといっしょでうれしーやー」

 

「露骨な棒読みはやめろ」

 

「さーせん。あー……じゃあ先行っててくれ、忘れモンしたわ」

 

 

咲夜は頷くと校庭に向って歩き出す。椿はそれをしばらくボーっと見つめ、視界から消えるのをまった。

そして完全に咲夜の気配がなくなるのを感じると、深くため息をつく。

 

 

「いやいや、普通ビビるだろ。正直漏れそうだわ」

 

 

大きく震えだす足。正直気を張るのは疲れる。本心としては弱音を吐いて逃げ出したくて、泣きたい程怖い。

緊張してるのだ。でも、そう言う行動は拓真に先をこされたから少なくとも自分はそんな事はできない。

二番煎じなんてそれこそヘタレもいいところだ。

 

 

「……まあアレだな。仲間の知らない所で実は苦しんでましたってのはカッコいいからな。うん、そうだな!」

 

 

昔からプレッシャーには弱かったが、今までの人生何とかなっていった連続だ。

とりあえずそう思っておこう。椿はもう一度深呼吸して、校庭に向うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんていうか…遊園地に来てるみたいだな」

 

 

司はそう言って辺りを見回す。

外国の街並は彼にそう言った印象を与えたのか、物珍しそうにしていた。

 

 

「結構人もいるみたいだけど……」

 

 

街には人の姿も多い、それほど物騒じゃないようで安心する。

いや、むしろ今までの世界が危険すぎたのか。感覚が麻痺してくるのは恐ろしい事だ。

 

 

「なんか……とりあえず情報が欲しいところだな」

 

 

司達は適当に人を捕まえて少しこの街の話を聞いてみる。

とりあえずココ最近おかしな事が起きたかどうかとか、変なモンスターが出たかどうかだ。

 

 

「あぁ、そう言えば……」

 

 

そんな中、一人の貴婦人が気になる事を言う

 

 

「ココ最近変な怪物が出るらしいねぇ。まあ街の外の方だからまだ皆注意していないんだけど……それに彼らもいるし」

 

「彼ら?」

 

「代々この街を守ってくださる方達さ。まだ若いのにたいしたもんだよ」

 

「そ、そうですか…」

 

 

司達は貴婦人にお礼をいう。

変な怪物、そして彼らと言われた存在。なかなか気になる情報は得られた。

 

 

「街の外の方にはたしか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!」『Standing by』『Complete』

 

「変身!」

 

 

デルタとファムは目の前のソレに向って武器を構える。

 

 

「ジィイイイイイイイイイッッ!!」

 

 

ゴキブリに似たその外見はまさに『ローチ』の名に相応しいだろう。

ダークローチと言われる三体のソレは、ファムとデルタに今にも襲い掛からんとしていた。

 

 

「うへー! ゴキブリとかマジ勘弁なんですけどぉ!!」

 

「しかも大きいし……!」

 

 

あ、でも――

 

 

「男の子とかって虫に怖がる女の子にキュンキュンしやがるみたいっすよ友里さん?」

 

「あらそうでしたの美歩さん。きゃーむしこわーい!!」

 

 

その言葉と共にデルタは拳を大きく振りかぶって、そのままローチの顔面目掛け殴りつけた。

拳がローチにめり込むと、ローチは大きく吹き飛ぶ!

 

 

「こわーい!!」

 

「……アンタの方がね」

 

 

その行動を開戦といわんばかりにローチとデルタ達は動き出す。

ローチはその爪でファムを切り裂こうとするが、ファムは最小限の動きでソレを防ぐ。

振り下ろされた爪をブランバイザーで弾き、隙を見て強烈な突きを繰り出していった。

 

 

「ジィイイイイイイイッッ!」

 

「フッ! ハァ!」

 

 

白いマントを翻し攻撃をかわすその姿は美しく、時折白い羽が舞い散る。

ファムはまさに蝶の様に舞い、蜂のように刺す。そんな戦闘を見せた。

 

 

「タァッ!」

 

「ジィイイイィィッッ!」

 

 

ファムはローチの膝に突きを当てる。

その衝撃で体勢を崩すローチ、そこにできた隙を見逃さない。

ファムは一枚のカードをバイザーにセットさせた。

 

 

『アクセルベント』

 

 

瞬時、ファムの動きが高速に変わり見えない突きの連打を繰り出す!

ローチは一瞬で蜂の巣にされ、そのまま消滅した。

爆発ではなく消滅。黒い霧のようなモノになってローチは消えていく。

 

 

「あたしもっ! 決めるよ!」

 

 

左右から突進してくるローチに青い光弾を当てていくデルタ。

一体が怯む隙にもう一体に弾を当てていき次第にその距離を離していく。

ある程度距離が離れたのを見計らってデルタはミッションメモリーを抜き出し、腰にあるデルタショットにメモリーを装填する。

 

 

『READY』

 

 

電子音が鳴ると共にデルタはソレを構え走り出す!

 

 

「チェック!」『Exceed Charge』

 

 

光がショットに収束していき、デルタは思い切りローチを殴り飛ばす。

 

 

「ジャアアアアアア!」

 

 

直後△のマークが現れ、ローチは消滅する!

もう一体のローチもファムの突きによって息絶えるのだった。

 

 

「うぃー! 終わりー!」

 

 

変身を解いて二人はハイタッチを決める。

 

 

「よしよし、あたしらも役に立ってる感じだよね!」

 

「うんうん、もちもち! さ、帰ろ――」

 

 

そこで美歩は言葉を止める。

何事かと友里は振り向くが、瞬時にその意味を理解するのだった。

 

 

「はぁ、一匹いれば十匹はいるって言ったモンだけど……」

 

「ほんと、うんざりするよね」

 

 

二人の背後の方で、新たなローチ達が爪を構えてやってくる。

二人はやれやれと思いながらも、再びローチたちを倒すべく変身アイテムを構えた。

 

 

「え?」

 

 

だが不思議な事にローチの体から突如火花が散り、

直後ローチ達は何かを警戒するように後ろへ後退していった。

 

 

「!」

 

 

そして気づく、後ろから誰かがローチに攻撃を仕掛けたからだと。

友里と美歩はそれが誰なのかを確かめる為に振り返った。

 

 

「貴方達! そいつから早く離れて!」

 

「危険だよ! 逃げて!」

 

「「!」」

 

 

美歩達の所へ二人の人間が駆け寄ってくる、攻撃と言う事からクラスメイトだと思っていたがどうやら違った様だ。

一人はカールのかかった金髪の少女で、もう一人は栗毛で背の高い少年だった。

二人は美歩達をかばうように立つとローチの群と対峙する。

 

 

「あ…あのっ、貴方達は?」

 

「私たちの事は気にしなくて良いから! 早く逃げて!」

 

 

どうやら二人は自分達の事を純粋にローチに襲われている一般人だと思っているらしい。

助けようとしてくれているのだから彼らは当然味方の筈だ。友里は自分達も戦えるのだと二人に告げようとするが――

 

 

「言う通りにするのが一番しょ? 逃げよ友里!」

 

「え!? あ! ちょっと!」

 

 

美歩は友里の手を引いて岩陰に隠れる。

自分達も戦えるのだから、逃げる必要はないのではないかと問いかける友里。

そんな彼女を美歩はまあまあと落ち着かせる、どうやら何か企みがあるようだ。

 

 

「別に、やばくなったら助けりゃいいって話。問題はどうしてアタシら逃がしたかって事! まあ見てれば分かるっしょ」

 

「う……うぅん?」

 

 

ローチと対峙している二人に聞こえないようにしながら、美歩達は計画をたてる。

問題の二人は美歩達が隠れたのを見ると、早速何かを取り出した。

 

 

「あ、あれ!」

 

「うーんビンゴ、やっぱしな。美歩ちん、今日さえまくりだわ!」

 

 

二人がそれぞれ取り出したのはバックルと一枚のカード。

そのまま彼らはカードをバックルに装填し、腰へとセットした。

この世界でカードが何を意味しているのか、もはや説明さえ不要だろう。

 

 

「気をつけてね、ダイアナ」

 

「クロハありが――……ふ、ふん! あ、アンタもね!」

 

 

そして二人はポーズをとり、バックルに付いているハンドルを勢いよく引く!

 

 

「「変身!」」『『ターン・アップ』』

 

 

二人のベルトから光のカードが現れ、ローチ達を吹き飛ばした。

二人はそのカードに向って走り出してそのままカードを通過する。すると二人の姿が変わり、アーマーに包まれたモノへと変化を遂げた。

 

 

「おぉ!!」

 

 

現れたのは緑と、赤のライダー。

緑のライダーはその手に構えたロッドでローチ達に激しい攻撃をしかけ、赤いライダーは銃で緑のライダーを援護していく。

 

 

「赤と緑。ねえ、アレって――!」

 

 

友里は司から聞いた話を思い出す。

ブレイドの仮面ライダーで赤色、そして銃を使うのは仮面ライダーギャレンだ。

と、なると緑のライダーはレンゲルだろう。

 

 

「あの人らが、この世界の仮面ライダーってわけじゃん!」

 

 

 

二人が見守る中、レンゲルとギャレンはローチ達をなれた手つきで攻撃していく。

おそらくコレが初めての戦闘ではないのだろう。

立ち振る舞いや、攻撃の無駄のなさからソレが思い知らされた。

 

 

『ブリザード』

 

 

レンゲルは一枚のカードを発動する。

直後ロッドから冷気が発生しローチ達の動きを封じた。凍てつく檻にて拘束される、ローチの群。

 

 

『ファイア』『アッパー』【バーニング・スタンプ】

 

 

ギャレンの拳が紅く燃え上がり、そのままローチ達を殴りつけていく。

次々に消滅するローチ達。しばらくして全てのローチは二人のライダーによって倒されたのだった。

 

 

「ふぅ。終わったね」

 

「ええ、そうね。貴女達! 出てきていいわよ!」

 

 

その言葉を聞き、美歩と友里は岩陰から姿を出す。

 

 

「ココは危ないわ! 早く街に帰りなさい!」

 

「あの……実は――」

 

「ッ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「どうぞ」」

 

「あ、どうも」

 

「……ありがとう」

 

 

咲夜と椿はそれぞれにジュースを差し出す。しかし、ピタリと二人の動きが止まった。

椿と咲夜はそれぞれが出したジュースを凝視する。一見普通の炭酸飲料なのだが、どうしたのだろうか?

 

 

「おい咲夜、お前……お客様に何出したんだ?」

 

「コーラだが……それより椿、お前まさか…!」

 

 

二人がなにか怪しいオーラを出していたが、クロハは気にせずコップに手を伸ばす。

だが! 椿はその手を弾いて、代わりにコップを奪い取り一気に飲み干す!

 

 

「ええええええ!?」

 

 

何でー!?

何でお客にだしたもの飲むのーっ!?

混乱するクロハ、だが二人は気にする事なく続ける。

 

 

「何をするんだお前は!?」

 

「お客様にだすのはペ○シのゼロカロリーって決まってるでしょーがっ! だから飲んだ! はやく持って来い!」

 

「はぁぁ、いるんですよね稀にこう言う馬鹿が……ッ!」

 

 

咲夜は構えをとる。それを確認すると椿もまた、構えをとる!

 

 

「やはりお前とは相容れないようだな…」

 

「そうみたいだな。まあ別にそれでいいけど…」

 

 

「コーラのほうが――」

 

「ペ○シのほうが――」

 

「「うまいんだよぉぉおぉぉぉおおッッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

「……何? アレ」

 

「頼むから気にしないでくれ……頼むから…」

 

 

さて、ここからいよいよ本題だ。

 

 

「でも驚いたわ、まさかアンデッドの力を借りずに変身できるライダーがいたなんて」

 

 

金髪の少女ダイアナと、長身の少年クロハはディケイド達を不思議そうに見詰めていた。

街を守っている二人が敵である筈がない、司達は早速彼女達に協力を求めたのだった。

 

 

「他の世界か。にわかには信じがたい話ではあるけど、君たちを見れば頷ける話だよ」

 

 

クロハは少しも迷うそぶりを見せず、その手を差し出した。

一見戸惑う司だが、すぐにそれが協力の証である事を理解して笑顔に変わる。

 

 

「僕でよければ力になるよ、よろしく」

 

「あ、ああ! ありがとう!」

 

 

にこやかな笑顔を浮かべるクロハに司は安心する。

想像以上にいい人のようだ、クロハは皆と握手をしてまた笑顔を浮かべた。

しかしダイアナの方は対照的のようだ、腕を組み口をへの字にしている。怪訝そうにクロハを見つめて少し鼻をならした。

 

 

「ちょっとクロハ! あなたまたそうやって。私達だって今、大変なのにッ!」

 

「それは本当に申し訳ないと思っている。ただ少しだけでいい、協力して欲しいんだ! どうか、俺達に力を貸してくれないか?」

 

「え? あぁ…えとっ…!」

 

 

頭を下げる司にダイアナは一瞬どうしていいか分からないという表情になる。

しかし代わりにクロハが苦笑いを浮かべて口を開いた。

 

 

「気にしなくていいよ。ダイアナは口が少しキツイだけで君たちにちゃんと協力してくれるから」

 

「そ、そうなのか…?」

 

「え…あ…そ、そうね! あなた達がどうしてもっていうならいいわよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

 

照れながら笑うダイアナ。クロハはくすくすと笑いソレを見ていた。

どうやら一見すれば強気な方のダイアナが実権を握っているかに思えるが、彼女の理解しているクロハの方が……と、言った感じだろうか。

 

 

「だから、言ったでしょ? ダイアナは優しいんだけど、少し照れ屋なだけだって」

 

「なっ! か、勘違いしないでくれる? 私はあなた達の為にやるんじゃ――」

 

「テンプレキタアアアアアアアアアアアアアア!」

 

「きゃあ!?」

 

 

今まで黙っていた椿が目を光らせ立ち上がる。

しばらく絶滅危惧種だの、今時いねぇよこんなお手本どおりのツンデレなんてだの――

よく見れば貧乳じゃねぇかオイッ! あれ? ちょっと待てよ…! この声……似てる! くぎゅぅうううううううううッッ!!

なんて喚いていたが、咲夜の手刀で沈められるとそのまま部屋から退場していった。

 

 

「………」

 

「な、なかなかアクティブなスキンシップをするんだね彼らは……!」

 

 

冷や汗をかきながらクロハと司は、うはうはとぎこちなく笑う。

ダイアナは顔を真っ赤にしながらクロハを睨みつけるのだった。

 

 

「と、ところで、あのモンスターは?」

 

 

司のその言葉に二人の表情が険しく変わる。

街を守っている彼らなら、あのモンスターを知っている筈だ。

この世界で何が起こっているのかも。

 

 

「ダークローチ。ココ最近になって街の付近に現れだしたんだ。日を重ねる毎に数が増えていっている気がする」

 

「噂によれば数ヶ月前、この街にピエロの格好をした"道化師"ってヤツが現れてから出現する様になったらしいの。だから私達はその道化師ってヤツを探しているんだけど……」

 

「道化師!?」

 

 

司達の脳裏にファイズの試練の記憶が蘇る。

たしかあのクラウンと爆弾を設置したのも道化師と言う名前の存在だった筈。

 

 

「またその道化師ってヤツか」

 

「知っているの!?」

 

「あ……ああ、こことは違う世界だけど、一応」

 

 

となると、道化師も世界を移動できる!?

だがもしかしたら道化師は複数いるのかもしれないし、別物の可能性だってある。駄目だ、情報が少なすぎる。まだ何も分からない。

クロハ達は道化師を探しているのだが、なにぶん街を守りながらの捜索の為なかなか見つからないらしい。

警察や一般市民にも道化師の情報を伝えているが、それでも目撃したと言う情報すらこない始末。

このままでは街にローチが攻めてくるまでそう時間は掛からないだろう。

 

 

「それだけじゃないんだ」

 

「?」

 

 

クロハはこの街。いや、世界について話し始めた。

 

 

 

この世界ははるか昔、人間の他に様々な種族が生きていたらしい。

しかし種族間抗争が起こった事で大規模な戦争が行われる事となった。

そんな中、戦争を嫌う人間と各種族から戦争に否定派の者たちが集まり一丸となって行動し始めた。

 

戦争は凄まじいもので、結局生き残ったのは否定派の者達だけとなった。

もちろん人間だけで戦争を乗り越えられた訳ではない、むしろ人間はほぼ無力といってもいいだろう。

 

人間が生き残れたのは人間以外の種族のおかげなのだ。人はその人ならざる者達を称え、人ならざる者達もまた人間と深い絆を持つ事になった。

人間は歴史の中で絶大な知恵を手にいれ、人ならざる者達を擬似的な不死者へと変えた。そして神として代々称え、祀る事となったのだ。

 

だが、絆が深くなったとは言えその時代の人間と…というだけの話。人ならざる者はいつからか人間に絶望しはじめた。

欲深き人間達はいつしか神として崇めていた筈の彼らを『アンデッド』と称し、その力を道具の様に扱いだしたのだ。

これに絶望したアンデッド達は、人間に見切りをつけて。

 

『自分達が認めた人間』

 

以外には手を貸さないという事にしたのだった。

こうして、計52体のアンデッド達は、その数から自分達をトランプに見立てそれぞれのスートとカテゴリーに別れた。

それぞれ自分達が定めた定義に従い人間に力を貸すことにしたのだ、自らの力を鎧に変えるバックルをつくり。

 

 

「その気になればアンデッドは僕たちを滅ぼす事もできただろうから……このルールはありがたいよ」

 

「じゃあ、つまりクロハ達は――」

 

「うん。僕とダイアナはクラブとダイヤに選ばれたんだ」

 

 

話は見えてきた。

と、なるとやはり大事なのはただ一つ。

 

 

「スペードの契約者はいるのか!?」

 

「ううん、いないよ。今は僕たち二人だけさ」

 

 

ほっと司は胸をなで降ろす。

どうやら、この世界でやらなければならない事が見えてきた。しかし何より気になるのは――

 

 

「それで、大変な事って?」

 

 

そうだった。と、クロハはまた表情を変える

 

 

「ハートのスートが消えたんだ。アンデッドと一緒に」

 

 

アンデッドと誰かが契約を結べばその人間の情報をそれぞれのスートのキングに伝える事になっているのだが、ハートからの念波が途絶えたらしい。

誰かと契約したと言う事だろうが全く情報が無く、今どこにいるのかさえ不明という事なのだ。

 

 

「ありえないとは思うけど誰かに悪用なんてされたら……」

 

「ハートの面々は気まぐれなヒトが多いから多分普通に契約したんだと思うんだけど一応……って事もあるから」

 

 

成る程と一同は頷く。そして同時に込み上げる疑問。

 

 

「クロハたちはどうやって選ばれたんだ?」

 

「ダイアナは代々家がダイヤのスートと契約を結んでてね、彼女も幼い頃からいろいろ努力して無事にダイヤのキング、ギラファさんに選ばれたって訳さ」

 

「ちょ! ちょっと! 勝手に言わないでよ!」

 

 

ダイアナは赤くなってクロハの口を押さえる。

 

 

「へー! 凄いんですね!」

 

「そそそんなんじゃないんだからね! ただちょっと何て言うか…」

 

「はいまたテンプレはいりましたァァァっ!」

 

 

はしゃぎながら戻ってくる椿、さらに彼にめり込むチョップ。

倒れる椿、引きずる咲夜……

 

 

「……気にしないでくれ」

 

「え、ええ…」

 

「クロハ君は?」

 

「クロハは完全に運がよかっただけ!道に迷っているおばあさんを助けたのを見ていたクローバーのキングがクロハを気に入ってそのまま契約!」

 

「あはは…クローバーの皆はヒトがいいから」

 

 

そう言って二人は笑う。

 

 

「へー。じゃあスペードのキングに交渉して、力を貸してもらうってのもそんなに難しい事じゃないのか!」

 

 

椿が身を乗り出してくる。

よかった、そんなにキツそうでもない! これなら直ぐに仮面ライダーになれる、皆の足を引っ張る事はなくなる訳だ。

 

 

「いやっ…! それが……」

 

 

クロハとダイアナは急に押し黙ってしまう。その様子に椿の余裕が消えた、何か嫌な予感がする。

っていうか嫌な予感しかしない。

 

 

「その…できれば、なんだけど……」

 

「どうしても、ブレイドにならなくちゃいけないの?」

 

「あ…ああ、もう今契約していないのはブレイドだけなんだろ!?」

 

 

クロハとダイアナは困ったように顔を見合わせる。

 

 

「何か問題が?」

 

 

司の問いに二人は頷く。

確実に問題がある、止めておいたほうがいいと顔が語っているのだ。

 

 

「ブレイド――つまりスペードのアンデッド組みは、ある条件さえクリアできれば誰でも、どんなヤツにでも忠誠を誓って力を貸すんだ」

 

 

つまり椿がもしブレイドになりたいなら、そのテストをクリアすれば良いだけの話しと言う事になる。

 

 

「テスト……?」

 

 

どんどん膨れ上がる嫌な予感。

椿の顔から笑みが完全に消える。テスト――

 

 

「それは…どういう――ッ」

 

「多分、今も誰かやってるから、行ってみる?」

 

「クロハっ!」

 

 

ダイアナは信じられないと言う眼で彼をみる。

 

 

「あなた本気なの? あれを一般人に見せるって……どうかしてる!」

 

「彼らは一般人じゃないだろ?それにブレイドになろうとする事がどういう事かを見せないと……彼らも、ぼくらも先に進めないんだよ」

 

「っ!」

 

 

ダイアナは渋々といった様子で椅子に座る。

だが今だに納得していない様子で、時折小声で信じられないと何度も呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「……静かになったな」

 

 

スペードのアンデッド達に会うべく、椿達はその場所まで歩いていた。

緊張して黙っていた椿の少し後ろを咲夜は歩く。

 

 

「普段はあれだけ偉そうに喋るクセにいざとなったらソレか? それとも右腕に眠っている魔王が暴れだしているのかー?」

 

 

小馬鹿にしたように笑う咲夜。椿はムッとした様子で彼女を睨む。

 

 

「うるせぇな……! つか、ちったぁテメェ空気読めよ!」

 

「おーおー、マジレスか」

 

「チッ!」

 

 

咲夜は呆れたように笑い肩をすくめる。

椿は軽く舌打ちをすると、咲夜の隣に寄って歩く速度を合わせた。

 

 

「だいたいお前なんで一緒に来てんだ? 関係ねぇだろうが、帰ってろよ」

 

「……はっ、ビビるお前の姿でもみてやろうと思ってな」

 

「かぁー、さすが血の色が緑の咲夜さんはおっしゃる事が違いますねー。昔はあんなに可愛かったのにー」

 

「はぁっ!?」

 

 

表情を変える咲夜を見て椿はニヤリと笑う。

どうやら期待通りの表情が見れた様で満足したようだ。

 

 

「冗談だよ。つか昔の事なんざカケラとて覚えてねぇよ」

 

「………」

 

「あんなの黒歴史の塊だぜ――っておい、なんかお前寂しそうな顔してねぇか? これあれか? 実は俺達将来結婚の約束でもしてました的なベタってる展開か? それ何てエロゲ?」

 

「うるさいわ! ワタシもとんだ黒歴史だったよ!」

 

「「ケッ!」」

 

 

二人はまたいつもの様に罵り合いながら、足を進めるのだった。

 

 

 

そして椿達はそこへ連れてこられた。

グラディエーターが出てきそうな中世をイメージしたコロシアム。

命を賭して戦士達が戦う場所、そこにそのアンデッドは立っていた。

 

スペードのキング、コーカサスビートルアンデッド。

キングはその手に剣を構え、目の前に転がっているモノを見ていた。

ソレは苦しそうに呻きながら地面を這いずりまわっている。それを笑うのでもなく、追うでもなくただじっとキングはソレを見ていた

 

 

「あれが……キング」

 

「ッ!」

 

 

今まで学校に篭っていただけに人間の姿からかけ離れた姿に椿はいっそう気分が悪くなる。

そして『ソレ』を見てしまいその恐怖は確信へ変わった。

 

 

「おい……あれって――」

 

「!」

 

 

椿が指差したところをみて司達の表情も変わる。

キングが見つめていたモノ、それはまさに仮面ライダーブレイドそのものではないか!

 

 

「なっ!?」

 

 

ブレイドはまだ契約してないんじゃなかったのか?

司の問いにクロハはしっかりと答えた。スペードのアンデッド達に認めてもらう条件はたった一つ。

 

 

「それは、キングを倒す事」

 

「!!」

 

「ブレイドに変身させて、キングと一騎打ち。

 それで勝てば彼らはそれがどんな人間だろうと協力するのよ。本当、信じられない」

 

 

苦々しく『それ』をダイアナは見る。

その性質上、安易に力を求める輩や私欲の為に力を手に入れようとする者が後を絶たない。

だが結果として誰もキングに勝つ事はできなかった。今、下で転がっているブレイドもそういった人間なんだろうか?

 

 

「彼はもう……負けたんだね」

 

 

クロハの言うとおりだった。

倒れているブレイドは息も切れ切れで、キングから逃げ様と這いずっていく。

そしてその口から漏れるのは命乞いの言葉。

 

 

「たっ……たすけて……くれっ!」

 

『………』

 

 

一歩、キングがブレイドに近づく。

ブレイドはさらに命乞いを続けてキングに助けを求めた。

 

 

「おい、負けたら……どうなるんだよ?」

 

 

震える声で椿がクロハに問う。

いや、分かっている。命乞いなんかしてる時点でもう完全にだ。

でも否定したかった。否定してほしかった。だって次は自分じゃないか!

 

 

「殺される。どうあっても……」

 

「……!」

 

しかし、無情にもその言葉が放たれ、椿の心に突き刺さった。

思わず腰を抜かして倒れこむ。そんな、そんな条件ってアリかよ!

恐怖で頭がおかしくなりそうだ。椿のそんな思いを知らず、視線の先のキングはブレイドに剣を向けていく。

 

 

「うっうわあああああ! 助けて! おれが悪かった! もう二度と現れないから!!」

 

『悪いがそれはできない。私は最初に言った筈だ、敗北は死を意味すると。そして貴様は敗北した。潔く――』

 

 

死ね。

 

 

「うわああああああああああッ!」

 

 

 

 

「おいおい! 悪いけど黙って見過ごす訳にはいかないぜ!」

 

 

司はディケイドライバーをセットし、一枚のカードを装填する。

 

 

『カメンライド』「変身!」『ディケイド!』

 

 

司の周りに九つの紋章が出現し、収束する。

そしてそれらが弾けディケイドに変身を完了させた。

ディケイドはそのままコロシアムの中心に向って飛び降りる。

 

 

「……っ!」

 

 

それをクロハは複雑そうな表情で見ていた、何故ならクロハとて同じ事をしたからだ。

過去にテストに敗れた人間を、ディケイドと同じように助けに入った事がある。

だが――

 

 

『ほう。異質な気を感じると思えば』

 

「悪いが、このまま殺させる訳にはいかないな!」

 

 

ディケイドはブレイドを庇うように立っていた。

既にブレイドは恐怖で気絶しており、動ける状態ではない。

キングはディケイドとブレイドを交互に見ると、すこしだけため息をついた。

 

 

『貴様は何かを勘違いしている。我々は互いに誓いを立て神聖なる約束の下にこの戦いをしているのだ。私は決して私欲や娯楽の為に人間を殺すのではない』

 

「それは理解するつもりだ。ただ殺さなきゃ駄目なのかよ!」

 

『当然だ。命を賭けた戦いこそ偽りの無き結果が生まれる。それにこれは力の獲得を賭けた戦いだ――』

 

 

力を得ると言う事は人を狂わせる可能性を持っているモノでもある。

それにこれは抑止の意味も含まれた故の行動だ。安易に力を求めようとする事は死を招くと人々に伝えなければならない。

誰でも手に入れていいものではない、それをキングが見極める為のテストでもあるのだ。

命を賭けてまで力を得る意思があるのかどうか、そう言ってキングは手を上げる。

 

 

「何……を――ッッ!!」

 

 

ふと、ディケイドの目の前に何かが迫る。

そして気づいた、それはキングの剣! 寸止めこそされているが、ディケイドの眼前にキングの剣先があったのだ。

 

 

「!?」

 

 

それだけではない。

いつのまにかディケイドの周りはアンデッド達が包囲しており、それぞれの武器をディケイドに突きつけているではないか!

 

 

「なんだ…っ!?」

 

 

いつの間に囲まれたのか?

そもそもいつの間に剣を突きつけられたのか全く分からなかった。

それこそ一瞬、そして直後後ろから何かが落ちる音。

 

 

「ッッ!!」

 

 

ブレイドの変身が解かれ、一人の人間が倒れていた。

そしてそのすぐそばにはカテゴリーエース。ビートルアンデッドが剣を持ち立っている

その剣からは血が滴っている。そう、そして男を見た。

 

無い。

 

何が?

 

首が。

 

首が無いのだ男には。それがどういう事なのか瞬時に理解する。遅かった、間に合わなかったと。

ビートルアンデッドはブレイドだった男の首を一撃で切り取り即死させた、おそらく男に苦しみは無かっただろう。

だが、ソレを見ていた椿は恐怖でもう声すら出せなくなっていた。

 

 

「くっ!」

 

『変身を解除しろ、我らは無益な殺生だけはしない。苦しませる事もしない、誓おう』

 

『ご理解ください、これがルールなのです』

 

 

ディケイドを嗜めるようにジャック、イーグルアンデッドは優しい口調で囁く。

しかし彼もまたディケイドに武器を向けており、抵抗すれば――ディケイドもまた、攻撃対象となるのだろう。

 

 

「っっ!」

 

 

ディケイドは勝ち目が無いと悟り、変身を解除する。

それを合図に、ディケイドの周りで構えていたアンデッド達も散り散りになっていく。

 

 

「………」

 

 

クロハも同じだった。彼も以前は試練に失敗した人間を助けようとした。

そして知る、"タイムスカラベ"の存在を。スペードスート以外の時間を停止するその力がある限り、彼らを止める事はできないのだ。

時間停止中は攻撃する事はできないが、すぐに囲まれてしまうし、逃げようともすぐ追いつかれてしまう。

 

 

『………』

 

 

ふと、椿とキングの目が合った。

圧倒的な威圧感、アレに勝つ!? 初めて人が殺されるシーンをまじまじと見たこともあってか、ついに椿に限界が訪れる。

 

 

「う、うわぁあああああああああ!!」

 

「!」

 

 

恐怖で錯乱した椿はコロシアムから逃げるように走り去る。

 

 

「お、おい! 椿ッ!」

 

 

咲夜は椿を追いかけ、自らも走り去っていく。

それをキングは何も言わずに見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァッ……オエッ…ッ!」

 

 

緊張と恐怖、こみ上げる吐き気が椿を包んでいた。

もう自分が立っているのかどうかすら分からない。ブレイドになるにはアイツと戦う?

一騎打ち? 負けたら死ぬ!? ふざけてる、無理ゲー、いくら補正がかかってるからって仮にも向こうは王を語るキング。

負ける、戦う前から分かってるだろそんなの! もっと簡単な試練にしろよ、なんだよコレッ!!

 

 

「やべぇ、マジこれ無理だ……ッッ!」

 

「おい、椿。大丈夫か」

 

「っ!」

 

 

後ろから追って来た咲夜に気づくと、椿は静かに頷いた。

 

 

「ほ、本当に大丈夫か?」

 

 

辛そうな椿を見て、咲夜は背中をさすろうと手を伸ばす。

しかし椿はその手を振り払い咲夜に詰め寄った、普段見ない椿の眼に咲夜は思わず息を呑む。

 

 

「な、なあおいお前、あいつに勝てる自信あるか?」

 

「っ? あいつ…?」

 

「キングだよ! あんなヤツに勝てるかって聞いてんだ!」

 

「……ッ」

 

 

ついイライラして咲夜の肩に強く掴みかかってしまう。

表情を強張らせる咲夜、椿はそれに気づくと小さな声で謝った。

 

 

「ワタシは…どうだろう――ッ」

 

「はっきり言えよ。無理だろ? そうだ、勝てるわけねぇよ! 一人でなんて!!」

 

「………ッ」

 

 

咲夜は答えない。答えられない。

安易な気持ちで勝てると、勝てないと答えても結果は同じだろう。結局椿が欲しいのは同調の言葉といい訳の理由。

誰も自分を責められない。そうだ! あんなヤツに勝てる訳ないのだからと!

だが、いい訳の理由を作ろうが作らなかろうが極論として彼はブレイドにならなければならない。

どんなに同情を買おうがそれで自分達の世界が滅びの道からそれる事はないのだ。

 

 

「なら、戦わないのか…?」

 

 

悪気を込めたつもりは無い。

すくなくとも咲夜はそう思っていた。

だが、この一言が椿をより追い詰める事になる。

 

 

「ッッ!!」

 

 

椿は顔を真っ青にしてその場にへたり込む。

 

 

「だって勝てねぇよ! 殺される! 俺はそんなの嫌だ……ふざけんなよ!」

 

「………」

 

 

正直、なめていた。椿は心からそう思う。

ユウスケの時も、亘の時も、翼、拓真、真志。ここまで全員がクリアできた。

だから自分もできる。そう思っていた。少しの苦労、あとは変身して終わり。そんなモノだと考えていた――

 

 

だが違う。そうだ、ユウスケ達は皆一つ間違えれば死んでいたのだ。

いやそれだけではない、拓真の時に至ってはもしかしたら自分まで死んでいたのかもしれないのである。

でもいつだって、そんな事は無いと思っていた。テレビを見ているような、自分は大丈夫だというような感覚。

そう考えていたのだ。しかし今死と言うリアルが自分を包み、現実を直視させる。

 

それに他のメンバーはまだ希望があった。クウガの時からディケイドはいたから彼らは助け合って試練を進めた。

仲間はどんどんと増えていき、それぞれの力があったからこそここまで来れたと言っても良いくらい。

しかし自分は違う。キングとの一騎打ちにはどあっても他のメンバーは参加できない。

不正をしたらしたで、自分はキングに認めてもらえないのだから。

 

じゃあ自分は一人で戦うしかない?

キングと名のつく実力者と、今までアニメやゲームしかしてこなかった自分が?

いくらブレイドの力をもらえたって、いくら戦い方が頭の中に入ってきたところで――

 

 

「勝てる訳が無い! 俺に死ねってか!? 冗談じゃねぇぞッ!」

 

「だ、誰もそんな事言ってないだろ!」

 

「同じようなモンじゃねぇか、あんな化け物に勝てるかよ!

 ブレイドになったとしても俺はアイツには勝てない! 分かるんだよそれくらい!」

 

「………」

 

 

ガタガタと震える椿。咲夜は思わずどうしていいか分からなくなる。

いつも大口を叩いていた椿が、今はこんなに怯えているのだ。

 

 

「い、いやな予感はしてたんだよ。ここまで順調だった、決まってミスをするのはそれを自覚した時の事さ!」

 

「……椿」

 

「笑いたきゃ笑えよ! 分かってるさ俺だって情けないって事くらい! でも怖いんだよ! しかたねぇだろクソ!!」

 

 

なんでよりによって自分の時だけこんな限定的な条件なんだ!

椿は頭を掻き毟りうめき声をあげる。

 

 

「わ、笑わないさ!」

 

 

ただ、なんて声をかけていいか分からない。

 

 

「椿、ワタシは…ワタシはお前の事をこんな事で見損なったりはしない!」

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キヒヒヒヒヒッ!』

 

「「!」」

 

 

ふと、笑い声が聞こえて二人はその方向を見る。

 

 

「なっ!」

 

「ッッ!?」

 

 

二人を見ていたのはカミキリ虫の様な姿をした化け物だった。

 

 

『キヒッ! ヒヒヒヒヒ!!』

 

 

青が目立つその姿、化け物は不気味な笑い声をあげて二人に近づいてくる。

何故笑っているのか二人にはまったく理解できない。

そして同時に怖い、また死が明確にイメージされてしまう。

 

 

「ッ!」

 

「ひぃっ!」

 

『キヒヒヒヒヒ……!』

 

 

化け物の手には鎌の様なブーメランが握られていた。

街の外に現れるというローチでは無いようだが危険なのは確かだ。

いや、もしかしたらもっとヤバイのかもしれない。咲夜は腰を抜かしている椿をなんとか担いで逃げれないかと考える。

 

 

「ちっ!」

 

「!」

 

 

嫌な予感ほど当たるものだと咲夜は切にそう思う、化け物の周りからローチが現れた。

ローチ達はすぐに咲夜を取り囲む!

 

 

「くそ……ッ!!」

 

 

自分一人なら前のヤツに蹴りを決め、その隙に逃げられるのに……!

 

 

「お……おい!」

 

「あ?」

 

 

椿は震える声で小さく呟く

 

 

「俺を、おいて逃げろ……」

 

「はっ! かっこつけるのは他の女相手にしろ。そんなモンじゃワタシはときめかんぞ」

 

「ば、馬鹿かお前ッ! い、言ってる場合じゃねぇだろ!」

 

 

咲夜は冷や汗を浮かべながらもニヤリと笑う。

最初の世界でもこんな感じだったな。慣れたと思っていても、やはり怖いものだ。

 

 

「椿、何が何でも走れよ!」

 

「あ! おい!」

 

 

咲夜は一気に走り出し、一体のローチにとび蹴りを決める!

それに気をとられたローチや化け物は咲夜が厄介な敵と判断し、彼女に攻撃をしかけた!

 

 

「うっ!」

 

 

ギリギリ、しかし咲夜はローチ達の攻撃を紙一重でかわしていく。

それだけでなく椿から狙いが外れるように徐々に彼から離れていった。

 

 

「す! すまん! 直ぐに助けをよんで――」

 

 

椿は這うように化け者達から離れていく。

くそっ、情けない! だが早く何とかしないと! 椿は携帯を開いて助けを求める。

 

 

「早く! 早く! ああもう焦るなクソ!」

 

『キヒヒヒヒッ!!』

 

「ッ! あ?」

 

 

そんな彼の目の前で化け物が笑っていた。

 

 

「ッ!! しまった!」

 

 

咲夜はまわし蹴りでローチ達を吹き飛ばすと、全速力で椿の所へ走っていく!

ローチに気を取られていたせいで化け物が椿の所へ向かったのに気がつかなかった。

 

 

「あ…あ……ッ!」

 

『キヒヒヒヒヒヒ』

 

 

化け物はどこからか出したダーツを構え、狙いを定める。

椿の事をただの的としか思っていないその素振りに絶大な恐怖が襲ってくる

 

 

「う…ぉ…!!」

 

『キヒヒッ!』

 

 

化け物はダーツを投げる!

目をつぶる椿、そして聞こえる苦痛の声――

 

 

「お、お前っ!」

 

「くぅ……ッッ!」

 

 

咲夜は椿を庇い、かわりにダーツを背中で受け止めていた。

化け物は咲夜が間に合った事が愉快なのか、腹を抱えて笑い出したのだった。

 

 

「お、おい!大丈夫か!」

 

「ぐ――ッッ! あ、ああ……!」

 

 

咲夜はよろよろと立ち上がりもう一度構えた。防御力は上昇している為、苦痛ではあるが命に別状はないようだ。

ダーツという事もあってかそこまで深い傷でもない。咲夜はダーツを引き抜くよう椿に言う。

椿は少し戸惑いながらも、ソレを抜いた。

 

 

「グッ!」

 

「だっ、大丈夫か!?」

 

「ああ…これくらい…ッッ!」

 

『ピピピピ!』

 

『キヒィィッ!』

 

 

その時だった。空から銃弾の雨が降ってきてローチと化け物の動きを封じる。

上空から現れたのはオートバジン。バジンは椿達を守る様に立つと、その拳とガトリングでローチ達を攻撃していく

 

 

「ジジジジィィィイ!!」

 

 

断末魔をあげてローチ達は霧となって消滅していく

だがカミキリ虫の化け物は消滅しておらず、バジンに向って攻撃をしかけに向かった。

化け物は軽快な動きでバジンの攻撃をかわし自らの武器で攻撃していく。バジンもソレをしっかりとガードし、鉄拳で化け物を押していった。

しばらくはその攻防が続いていたが、バジンはふいに化け物を投げ飛ばすと自分をバイクの姿・ビークルモードに変える。

そして椿達の前に移動すると、二人を乗せて走り去るのだった。

 

 

『キヒヒヒ!』

 

 

もちろんそのまま黙って見逃すわけが無い。

化け物はブーメランを構え、咲夜の首を狙う。

 

 

『キヒッ!?』

 

 

しかしそこに割り込む様に一人の少年が物陰から現れた。

化け物は新たなる標的の登場に笑いを上げる……が、立ちふさがった少年はそれに怯む事なく、何かを取り出したではないか。

 

 

『キヒヒヒ?』

 

 

少年・拓真は、ファイズギアを装着するとファイズフォンに変身コードを素早く入力する。

 

 

「僕の友達を傷つけた代償は……」『5』『5』『5』

 

『キヒヒヒヒヒヒ!』

 

 

化け物はもう待ちきれないのか、ブーメランを放つ!

風を切り裂く音と共にブーメランは拓真に向かっていく、だが拓真は怯まない!

 

 

「払ってもらう! 変身!」『Complete』

 

 

拓真はブーメランをかわし、フォンをバックルにはめ込んだ。

彼の体を赤い光が包み、仮面ライダーファイズへと姿を変える!

 

 

「ハァァッ!」

 

『ギヒッ!』

 

 

ファイズは素早く化け物に近づくと、その拳で化け物の顔を殴り飛ばす。

怯む化け物にもう一発、さらにもう一発と拳を打ち付けていく。

 

 

『ギヒヒッ!』

 

「フッ!」

 

 

大きく仰け反る化け物を逃がすまいと、ファイズは肩を掴んで引き寄せた。

そしてさらに、今度は胴体を殴りつけていく。

 

 

「たぁァッ!」

 

 

ファイズは後ろから戻ってきたブーメランを蹴りで弾き飛ばす。

その反動で化け物は拘束から逃れたが、ファイズは気にする事なく攻撃をしかけていった。

 

 

『ヒヒヒヒヒィィイ!』

 

「!」

 

 

化け物のタックル。

ファイズはガードをしようと構えるが、それはフェイント。化け物はファイズの足を払い蹴り飛ばす。

 

 

「くっ!」

 

『キヒヒヒヒヒヒっ!』

 

 

 

倒れたファイズに向って、化け物はブーメランを振り下ろす。

だが、ファイズは地面を転がりそれを何とか回避に成功した。

化け物は諦めずに再び狙いを定めるが、ファイズは素早くフォンを抜き取りコードを入力する

 

 

『Single Mode』

 

 

フォンを銃に変え、迫ってきた化け物に発射する。

腹部に衝撃がはしり、化け物はたまらず後退していった。

ダメージを受けているにも関わらず笑い続ける化け物に、ファイズはクラウンを重ねた。

この世界に道化師がいるのかは分からないが、この不快な笑い声を沈黙させる事が先だろう

 

 

『READY』

 

 

ファイズはミッションメモリをファイズポインターに装填させると、足へと装備する。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

そしてエンターのボタンを押すと共に狙いを定めに入った。

ポインターに赤い光が充満したのを確認すると、ファイズは飛び上がって赤い光を発射する!

 

 

『キヒヒヒーッ! ヒヒヒ!』

 

「!」

 

 

化け物から突如黒い霧が噴出され、その霧がローチ達になり具現化する。

ローチの群は化け物を隠すだけでなくポインターから発射された光を防ぐ盾にもなった

 

 

「くっ!」

 

 

今さらキックを中断する事はできない。

ファイズはそのままとび蹴り、クリムゾンスマッシュをローチに命中させる。

 

 

「ジィイイイイイイイッッ!」

 

 

Φの紋章と共に数体のローチは消滅する。だが、肝心の化け物の姿が無い!

 

 

「くそっ……!」

 

 

逃がしたか。

それよりあの化け物の噴射した霧がこのローチの正体だったとは――

いろいろ考察してみるが、その間にもファイズの周りをローチの群が取り囲んでいく。

そしてその爪を構え、今にもファイズに襲いかからんとしているではないか。

 

だが、ファイズに焦る様子はない。

冷静に、淡々とウォッチからメモリを抜き取ると、それを装填した。

 

 

『Complete』

 

 

ファイズの胸部が展開し、色が黒へと変わる。

そしてウォッチを起動させ、超高速の世界へと突き進む!

 

 

『Start Up』

 

 

ファイズはローチの攻撃から一瞬で抜け出すと、

ファイズショットにメモリを装填し再びエンターのボタンを押した。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

そのまま無抵抗に近いローチ達に無数の連撃をくらわせる!

アクセルグランインパクト。目にも留まらぬ速さでファイズはローチの群れを殴り飛ばしていった。

 

 

『Time Out』

 

 

十秒後、全てのローチにΦのマークが出現し、消滅した。

 

 

「………」

 

 

拓真は変身を解いて息を吐いた。すでにもう街にもローチの群が現れたと聞く。

そしてその発生源が分かったのだ。いろいろ情報が多い、ここは一旦皆と合流すべきだろう。

拓真は頷くと、走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

「ハァァッ!!」

 

 

街に徘徊するローチ達を龍騎は豪快に切り裂いていく!

ドラグセイバーで素早く動きまわるその様は、まさに舞を踊っているかのようだ。

 

 

「ジィイイイッ!」

 

「ダァッ!」

 

 

振り下ろす剣をローチは腕を盾にしてガードする。

しかし腹部に蹴りを入れられ再び体勢を崩したところに、斬撃がおそいかかった!

 

 

「フッ! タァアアアアッ!」

 

 

ドラグセイバーが赤く輝き、炎がまとわり付く。

そしてそのまま龍騎はローチ達をなぎ払った。必殺技の"龍舞斬"が決まり、ローチは全て焼き尽くされる。

黒い霧になっていくローチ達、龍騎と少し離れた所で戦っている電王も必殺技をローチに決めていた。

 

 

「……ダイナミック・チョップ!」

 

 

力強い電王の一撃がローチを無へと返す。

龍騎と電王は混乱している街の人たちを安全な所へ避難させると、その場に座り込んだ。

 

 

「……? どうしたんだ、キンタロス」

 

 

龍騎は完全に力を抜いていたが、電王は何故かアックスを構えたままだった。

それに疑問をもった龍騎が問いかける。敵は全滅させたのに?

 

 

「なんか、変な感じがするんや」

 

「え?」

 

 

電王は辺りを見回す。

龍騎も同じようにするが特におかしいところはない、だが相変わらず電王は意識を集中させていた。

 

 

「………ッ!」

 

 

そして電王は斧を構えて誰もいない方向へと体を向けた。

龍騎は不思議そうにその方向に視線を送る、特に何も無いように見えるが?

 

 

「何モンや、出て来い!」

 

「え!?」

 

 

すこしだけ沈黙が起こり、すぐに拍手の音が聞こえてきた。

一体どこから聞こえてくるのか? 龍騎は同じように拳を構えて辺りを見回す。

その時、同時に響く不快な笑い声。

 

 

「くくっ! ヒャハハハ! なかなかやりますねぇ!」

 

「!」

 

 

誰もいないと思っていたが、物影からピエロの格好をした男が現れる。

カラフルな格好に顔が上半分隠れた仮面をつけていた。仮面は不気味な笑みを浮かべており、サイケデリックな印象を持つ。

年齢は若い方だ。しかし瞬時に整理される情報、ここでピエロの格好をしているヤツと言えば間違いなく――

 

 

「ど、道化師ッ!!」

 

「そのとぉーり!!」

 

 

道化師は龍騎を指さすと笑みを浮かべた。

何なんだコイツ、気味が悪い。龍騎は得体の知れない恐怖を覚える。

本来ピエロと言うのはサーカスを盛り上げる道化だが、ホラーの題材にもよく使われる為に得体の知れない不気味さがある。

 

 

「それにしても貴方達、見ない顔ですね。一体何モノかなぁ? 気になるなー?」

 

 

道化師はオーバーな動きでアクションをとっている。

電王と龍騎はそれぞれ武器を構えゆっくりと道化師との距離をつめていった。

道化師はファイズの世界を考えるに完全に敵である事は間違いないだろう。できれば一気に決着を決めたいが――

 

 

「んー、しかし残念! ワタシも貴方たちと遊びたいんだけど……」

 

 

残念!

そう言って道化師はポケットから何かを取り出す。

 

 

「ジョーカーを回収しないとい・け・な・い! 君たちの相手はこの子達がしてあげますよ☆」

 

 

ケラケラ笑う道化師が取り出したのは小さなキノコ、道化師はソレを勢い良く空へと投げる!

一見すると意味のない行動だが、投げられたキノコは瞬時に巨大化し、人の形へと変わった。

驚く龍騎と電王。キノコが化け物になったのもそうだが、なによりも注目すべきはその容姿だ。

 

 

『ヒャハハハハハハ!』

 

『キャハハハハーッ!』

 

「こ、こいつ等ッ!!」

 

 

聞き覚えのある不快な笑い声とその姿。

間違いない、ファイズの試練で戦ったクラウンオルフェノクではないか。

道化師はクラウン達が現れたのを確認すると、甲高い笑い声をあげて走り去っていった。

 

 

「くそっ、待てよッ!」

 

 

追おうとする二人を邪魔する為、クラウン達はナイフを振り回す。

 

 

「ムンッッ!!」

 

 

電王はナイフを体で受け止める。

その堅い装甲はナイフをへし折るだけでなく、クラウンの手に衝撃を走らせた。

痛がるクラウンを電王は吹き飛ばすと、同時に斧を投げる。

 

 

『ヒャヤヤアハハハアハアアアア!!』

 

 

斧はクラウンに命中し、そのまま爆発させるのだった。

 

 

「オッラアアアアッ!」

 

『ギャハバババッ!!』

 

 

龍騎の蹴りがクラウンの腹部にめり込む。

苦しそうにしながらも笑うクラウン、まさにあの時と同じだった。

何故違う世界にいた筈の道化師がここにいるのかは分からない、言語を話せないコイツから情報を聞き出すのは不可能だ。

龍騎はそれを悟ると、クラウンを殴り飛ばしカードを発動させる。

 

 

『ファイナルベント』

 

「フッ! ハァァァァアアア……ッ!」

 

 

意識を集中させ、そのままドラグレッダーと共に空へ舞い上がる。

ドラグレッダーの炎を纏い、龍騎はそのままクラウン目掛けとび蹴りを食らわせた!

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『ギャアァァハハハハハッァァァァアァ!』

 

 

クラウンは真紅の一撃を受け爆死する。

二人は急いで道化師の後を追うが、全く見当たらない。それだけでなく街のあちらこちらにローチが見えた。

 

 

「今は追ってる場合じゃないみたいだなッ!」

 

「そやな、アイツが原因って事は分かっとるのにっ!」

 

 

少し悔しそうに、彼らはローチ達に向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

「クロハ! 危ない、気をつけて!」

 

 

レンゲルの背後にいるローチを、ギャレンが撃ち抜く。

とっさの攻撃だが弾丸はローチの急所を捉えており一撃で霧へと変える程だ、流石はずっとこの世界を守ってきただけの事はある。

 

 

「大丈夫!?」

 

「うん、助かったよダイアナ。ありがとう」

 

「べべべべ別にアンタの為なんかじゃ……」

 

「ないんだからねッッ! ってか!」

 

 

ディケイドは半ばうんざりしながらローチを切り裂いていく。

動揺しながら弁解するギャレンを無視して、ディケイドは戦いを続けた。

 

 

「くそっ! いつの間にこんなッ!」

 

 

ディケイド、ギャレン、レンゲルの3人は、街中に徘徊するローチ達に手こずっていた所だ。

このローチ達、気のせいか時間がたつに連れて増えていくような感じがする。

だがそうは思うが根拠のない話しでもある。とにかくローチ達をはやく倒さなければ。

 

 

「くっ! きりが無い。このまま増え続けられたら!」

 

「馬鹿! 変な事考えてないで集中しなさい!」

 

 

三人はローチの群に囲まれ、少しづつ離れ離れになっていく。

 

 

「うわっ!」

 

 

戦いに集中していたため、ディケイドは今自分が立っている所が崖の近くという事に気づかなかった。

ローチの攻撃を反射的にかわしてしまい、バランスを崩す!

 

 

「しまっ――ッ!」

 

 

もう遅い。ディケイドは崖から下に転落していく!

 

 

「司君!」

 

「大丈夫! あそこはそんなに高い崖じゃないからッ!」

 

 

しかも変身しているのだ、死ぬことはないだろう。

助けに行くことは難しい。一刻も早くこのローチ達をなんとかしなければ。

 

 

「ダイアナ!」

 

「くっ!」

 

 

ギャレンとレンゲルは少し早急かと思いつつも、状況を打破するカードを使うのだった。

 

 

『アブソーブ・クイーン』『アブソーブ・クイーン』

 

 

二人は自分の腕に装備されているラウズアブソーバを起動させる。

そしてさらに一枚のカードをラウズさせた。

 

 

『『フュージョン・ジャック!』』

 

 

象と孔雀を模った紋章が二人の体に現れ、金色が鎧に追加されていく。

それだけでなく、二人の武器に変化が訪れた。ギャレンラウザーには刃が、レンゲルラウザーには鉄球がそれぞれ追加される。

 

 

「ウオォオオオオオオオオッッ!!!」

 

 

レンゲルが周りのローチをまとめてぶっ飛ばす。

ジャックの力を借りる、文字通りジャックフォームに変わった二人はローチ達を全滅させる為にその武器をふるうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……グッ!」

 

 

体中が痛い、ディケイドはよろつきながら立ち上がった。

いくら低いとはいえ崖から落ちたとなれば無事ではすまない。

しかし特にどこも折れてたりしていない様なので、それは安心する。

 

 

「とり合えず……戻るか…ッ!」

 

 

まだローチはあちこちにいるだろう。

全く、クラウン、シアゴースト達といい最近こんなのが多いな……。

全ての人を守りきる事は難しいだろう。その事に少しイラつきを感じ、ディケイドは歩き出し――

 

 

「みーつけた」

 

「は?」

 

 

思わず足を止める。

岩の上に人が座っていた、その人に話しかけられたのだ。

 

 

「初めまして……じゃ、ないんだね。フフ」

 

 

年齢は司と同じくらいだろうか?

男は立ち上がると、司を見下す様に視線を送った。

 

 

「?」

 

 

なんだか偉そうだな、まあいいか。

ディケイドは妙に余裕のある彼に声をかける。

 

 

「今は危ないですよ! 早く避難してください!」

 

「ああ、もちろん分かっているとも」

 

「は?」

 

 

あれ? そう言えばコイツどこかで――

それにさっき確か、初めましてじゃないって。

 

 

「………」

 

 

ディケイドは記憶の糸をたどる。

ええと、たしか――

 

 

「あ!!」

 

 

思い出した! あの時! あの時だッ!!

 

 

「思い出してくれたのかな? そうさ、司だったね」

 

 

そう言って男は何かを投げてきた。

ディケイドはそれを受け取ると、なんなのかを確かめる。

 

 

「こ、これっ!」

 

 

それは赤い体操着入れ! 間違いない、コイツ――!

 

 

「ぼくは海東(かいとう)大輝(だいき)、トレジャーハンターさ。まあでも、そのお宝は返すよ」

 

 

海東と言う少年はニヤリと笑ってディケイドを見る。

 

 

「だから――」『カメンライド』

 

「!?」

 

 

彼はどこからか変わった形の銃を取り出し、そこへ一枚のカードを装填した。

そして耳に聞こえてくる電子音。その音を聞いてディケイドは思わず身構える。

叫ぶディケイド、俺のディケイドライバーと同じだと!?

 

 

「僕のお宝も、返してもらうよ! 変身ッ!」『ディエンド!』

 

 

海東が銃の引き金を引く。すると、青いカード・プレートの様なモノがいくつも発射された。

同時に海東の周りにはホログラムのビジョンが現れ、不規則な動きをした後カードと共に収束し装着される。

そして最後に銃声が聞こえ、彼の体にシアンの色素が満たされる。

現れたのは、おそらく自分と同じ仮面ライダー。だが、ディエンド!?

 

 

「お前……ッ! いや! それより返すって――」

 

「決まってるだろう? ソレは元々僕の物だったんだ。あの時、君にぶつからなければ――」

 

 

ディエンドは銃をディケイドに向ける。

それは敵対の証明だろう。

 

 

「あんなベタな展開で……! ああ、僕としたことがトレジャーハンター失格だよ」

 

 

まあでもと、ディエンドは笑う。

 

 

「拾った物をどうしようと君の勝手と言えばそうなる。と言う訳で――」

 

「!!」

 

「試させてもらうよッ! ディケイド!!」

 

 

ディエンドは銃の引き金に手をかけた。

ディケイドもすぐにライドブッカーを銃に変えて構えるが――!

 

 

「くっ!」『アタックライド』

 

「ふふっ!」『アタックライド』

 

『『ブラスト!!』』

 

 

二人の放つマゼンダとシアン色の銃弾が交差し、互いにぶつかり合う。

だがやはりその形状が物語るのか、ディエンドの銃弾の量がディケイドのモノよりも多くシアンの銃弾がディケイドに多数ヒットしていった。

 

 

「うわっ!」

 

 

怯むディケイドにディエンドは蹴りを浴びせる。

避けようとするが、その先には銃が待っており弾かれてしまう。案外接近戦もできるようだ。

だがディケイドもやられてばかりではない! 攻撃の隙を見計らい、ディエンドに向ってライドブッカーソードを振り下ろす。

 

 

「くっ!」

 

 

今度はこっちの方が有利らしい。

銃で受け止めるディエンドだが、横ががら空きだ。

ディケイドは回し蹴りをディエンドに食らわせると、カードをライドさせた。

 

 

「変身!」『カメンライド』『クウガ!』

 

 

ディケイドの姿がクウガに変わる。

銃を構えなおそうとするディエンドの手を弾くと、拳と蹴りでディエンドを押していく。

なんとか銃を奪いさえすれば、ペガサスで終わらせることができるのだが……ッ!

 

 

「フッ…! どうやら少しはやるようだね」『カメンライド』

 

 

ディエンドもまたカードを装填し、引き金をひく。

どうやら向こうもカメンライドを使える様だ、さあ何に変わってくる?

ディケイドは意識を集中させるが――

 

 

『カイザ!』『ガイ!』

 

「なっ!?」

 

 

ディエンドの銃からビジョンが出現し、形を作る。

そこに現れたのは、仮面ライダーカイザと仮面ライダーガイ。どちらもこの世界のライダーではないはずだが?

それよりも呆気にとられたのはてっきり向こうが変身するものと思っていたが。

 

 

「そうか…! そっちは召喚って訳か!」

 

「正解! さあ、行け!」

 

 

カイザとガイはその命令に従い、ディケイドに攻撃をしかけていく。

一人ならまだしも二人がかりは流石にキツイ。ディケイドの装甲から火花が散る。

攻撃を受け、さらにディエンドの銃が火を噴き襲い掛かる。

 

 

「クソッ!」『カメンライド・リュウキ!』

 

 

ディケイドの姿が龍騎に変わる。

そのままカイザ達の攻撃をかわし、素早くカードをライドさせた

 

 

『アタックライド』『ストライクベント!』

 

 

ディケイドの手にドラグクローが装着される。

襲ってきたガイを殴り飛ばすと、金色のカードをライドさせた。

 

 

『ファイナルアタックライド・リュリュリュリュウキ!』

 

 

「はぁぁぁ……ッッ」

 

 

ドラグクローの口元が赤く輝く!

ディエンドはそれを確認し、舌打ちをするとガイにとび蹴りをくらわせた。

 

 

「ヤァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

大きく吹き飛ぶガイ。だがそのおかげで、ディケイドが放った炎の弾丸を回避できたのだった。

しかしその炎弾が着弾した際に巻き起こる煙が、ディケイド達を巻き込む!

 

 

「ちっ、コレが目的だったと言う事かな?」

 

 

煙でディケイドの姿は完全に隠れていた、これに乗じて奇襲をしかけるつもりなのだろう。

ディエンドは神経を集中させる。なるべく背後が空かない様に移動して銃を構えた。

 

 

「………」

 

 

実は、見えないのはディケイドも同じだった。

だがディケイドはソレを気にする事もなく。二枚のカードを取り出す。

 

 

「………はっ」

 

 

それはイリュージョンとキバのカード。

ディケイドは小さく笑い、それを発動させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオォオオオオオオオ!」

 

「……っ!1」

 

 

 

煙の中、大声が聞こえる。同時に現れるドッガフォームのキバ!

煙は計算ではなかったのか? ならば話しは早い、ディエンドはもちろんその方向に銃を構え同時に発砲した。

しかしドッガの鎧はソレを弾き、そのままコチラに向ってくる。

 

 

「成る程、作戦は無く真っ向からと言う訳か!」

 

 

でも。

 

 

「残念。ぼくには効かない、あきらめたまえ」『ファイナルアタックライド・クロスアタック!』

 

 

カイザのブレイガンから金色のポインターが発射される。怯まない事に慢心していたのか、ディケイドはそれを受けてしまった。

網目の様に光は広がり、完全にディケイドの動きを拘束した。そしてその背後にはガイが契約モンスター、メタルゲラスと共に立っている。

ガイはそのままメタルゲラスに飛び乗ると突進攻撃ヘビープレッシャーを発動。カイザもまた、ブレイガンを構えた突進ゼノクラッシュを発動し挟み撃ちを仕掛けた。

 

 

「!!」

 

 

ディケイドは逃げ様とするが、拘束が外せない!

 

 

「――ッ!!」

 

 

2つの突進がディケイドに命中し、ディケイドを吹き飛ばす!

ディケイドはそのまま動かなくなってしまった。どうやらこの戦いは、ディエンドの勝利のようだ。

 

 

「やれやれ、正直ガッカリかな。もっとぼくを楽しませてくれると思っていただけに残念だよ」

 

 

ディエンドは期待はずれのディケイドを見る。

転がるディケイド――

 

 

 

 

 

 

 

そしてデータの残骸となるディケイド。

 

 

「なっ!?」

 

 

やられたッ! これは分身、つまりイリュージョンか!

その時、頭部に何かを突きつけられる感覚を覚える。

振り向くと、ディケイドがライドブッカーガンを構えて立っていた。

防御力を込めていたとは言え、もう少しディエンドが銃で分身を撃っていたらアウトだったろう

 

 

「くッ!」

 

 

ディエンドもまた振り返り銃を構える。交差する二つの銃。

突きつけあう両者。

 

 

「どうだ? 少しは期待にそえたかな?」

 

「ああ……前言を撤回するよ」

 

 

二人は同時にバックステップで距離をとる。

 

 

「まあ、合格点をあげてもいいかな。もういいや、それは君に預けておくことにするよ。感謝したまえ!」

 

「それは……どうも」

 

「だが勘違いしないでくれたまえよ。ぼくはトレジャーハンター、そのドライバーはいずれこのお宝パイレーツストロングツイスタースターズが頂こう」

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

「いや、だからいずれそれは頂くよって…」

 

「あ、いや違う違う、そのもうちょっと前、何ていった?」

 

「いや……だから! いずれそのドライバーはお宝パイレーツストロングツイスタースターズが頂くよって……」

 

 

「………ん?」

 

「え?」

 

「今…ちょ――っ 悪い、何て言ったの?」

 

「いや、だーかーら! そのドライバーはお宝パイレーツストロングツイスタースターズが――ッ!」

 

「え……あ、あの…お宝…何?」

 

「いや、お宝パイレーツストロングツイスタースターズ!!」

 

 

「お…おっぱいって………引くわ」

 

「違うよ! やめてよ! お宝だよッ!」

 

「お宝……?」

 

「そう! お宝! 次はパイレーツ! その次はストロング!」

 

「お宝…パイレーツ、ストロング…」

 

 

「そう! やればできるじゃないか !その後はツイスター! 最後はスターズ!」

 

「ツイスタースターズ!」

 

「よくできましたッ! さあ繋げてみたまえ!」

 

 

「え……あ、えーと、お宝ストロングパイレーツスター…あれ? スターツイン…?」

 

「もう、違う! 違う! 違うよ! お宝パイレーツストロングツイスタースターズ!!」

 

「ああ、悪い! えっと、お宝パイレーツ……パイレーツ…えと…」

 

 

「ス!ス!ス!」

 

「スター!」

 

「ああああああああああ!! いや、だから――」

 

 

 

 

 

「しつけぇええええええええええええええ!!」

 

 

緑色の何かが飛んできてディエンドの頭にヒットする。

 

 

「いてっ!」

 

「!」

 

 

ディエンドは投げられたメダルを投げた本人に投げ返す。

 

 

「何をするんだ!」

 

「それはこっちの台詞だ! そんな事してないでさっさと帰るぞ!」

 

 

少年、ディスは嫌がるディエンドを掴んで引きずっていく。

 

 

「悪かったな、司……だったか? ウチのリーダーが迷惑をかけた」

 

 

ディスは少しやる気のなさそうな眼をしていたが、それに反して深く頭を下げる。

 

 

「ああ…まあ、別に…」

 

「お詫びと言ってはなんだが、少しだけ情報を」

 

「情報?」

 

 

ディスはメガネを整えて強い眼光を彼に向ける。

 

 

「ああ、どうやら今街にいるローチは"ジョーカー"と言う化け物から生まれた存在の様だ」

 

「ジョーカー……」

 

「そう、だからローチを撃退するよりジョーカーを見つけ出して殺せ。そうすればローチは全て死ぬ」

 

 

逆に言えばどれだけローチを倒そうがジョーカーが生きている限り無駄なものとなる。

ジョーカーが体から発生させる闇の霧が、ローチとなるのだから。

 

 

「成る程――ッ!」

 

 

この世界でのジョーカーの役割と言う事なのだろう。

世界が違えば、それだけ違った個体も存在する。

 

 

「今はこれくらいしか言える事はない。せいぜい頑張ってくれ、またいずれ会うかもしれないからな」

 

「?」

 

 

そう言って二人は司の前から姿を消した。

 

 

「ディエンド、アイツは一体……」

 

 

また疑問が増えてしまった。一体何モノなんだ?

 

 

「まあ、覚えておくぜ。お宝パイレーツツイスターストロングブラスター!」

 

 

司はジョーカーを探すため、走り出すのだった――

 

 

 

名前を間違っている事には気がつかないまま。

 

 





※この世界ではレンゲルもターンアップです。
 加えてターンアップはディケイド仕様となってます。

次は多分来週辺りにでも。
ではでは

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