仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

14 / 84
はい、と言う訳でのファイズ編後半。

ではどうぞ


第12話 227255417452

 

 

 

「うぅ……ッ!」

 

 

川辺で拓真はうずくまっていた。

先程よりはマシになったが、まだ強い吐き気が彼を襲っている。

もう何でもいいから開放されたい。そんな事を思いながらも彼は答えを出し切れずにいた。

 

わかっている。

オルフェノクになればいいだけの話しなのだ、そうすれば自分も戦える。それは何度も思った。

でも無理だった! どんなに分かったつもりでいて、決断した気になっていても結局自分は怯えるだけ。

何もできない、していない! なんで? 決まってる。怖いからだ!

 

 

「拓真!」

 

 

そんな時、彼の心に光が灯る。

 

 

「友里ちゃん!」

 

 

拓真は安心する。

そうだ、友里ちゃんなら分かってくれる。彼女なら僕を攻めたりなんかしない!

 

 

「あ……」

 

 

しかし友里の手にはファイズギアと変身一発。

拓真の心にどす黒い感情が湧き上がってきた、どうして? なんで――ッ!

 

 

「友里……ちゃん?」

 

「拓真、お願いがあるの――」

 

 

友里は少し申し訳なさそうに目をそらすが、すぐに拓真を直視してベルトを差し出す。

 

 

「お願い拓真、戦って!」

 

「……ッッ!」

 

「ゴメンね……! でも、このままじゃこの世界も、皆も危険なの!

 ううん。皆死んじゃう! でも拓真が変身すれば少しでもその可能性は少なくなる! もしかしたら――」

 

 

限界だった。拓真の意思とは関係なく、彼の心は爆発する。

気がつくと、彼はただ苛立ちと恐怖を乗せて怒鳴っていた。

それが愚かな行為だと彼だって分かっている。しかし、そんなに強くないのだ。だからぶつけなければ自己を守れない。

 

 

「じゃあ! 友里ちゃんは僕に化け物になれって言うのか!?」

 

「ッッ!」

 

「友里ちゃんはいいよ、別に変身しなくていいんだからさ!」

 

 

やめろ! 拓真の理性がそれを止めようとする。

しかしうまくはいかなかった、強い口調で叫んでしまう。彼は初めて友里の怯える姿をみたかもしれない。

 

 

「拓真……」

 

「く――ッッ!」

 

 

拓真は友里から目をそらす。

申し訳ない気持ちと、どうしようもない怒りが拓真に降りかかる。

 

 

「そう……だよね。ごめんね拓真」

 

 

後ろから震えるような声が聞こえる。

拓真は耐えられなくなって振り返る。謝ろう、そう思って――

 

 

「え……」

 

 

その光景は拓真は信じられないモノだった。

友里が、飲んでいる。変身一発を。

 

 

「友里…ちゃん…?」

 

 

何で? どうして彼女はその薬を飲んでいるんだ? 意味が分かってるのか?

拓真の思考がついていけない。友里は変身一発を全て飲み干すと、苦いねと笑った。

その笑顔はいつもの彼女と一緒、拓真はつられて口だけは吊り上げた。

 

 

「うぐっ……ッ! あぁ!」

 

 

友里は胸を押さえて苦しそうにうめく。

拓真はまだ回復しない意識のなか、彼女に手を伸ばした。しかし友里は大丈夫と拓真から離れる。

 

 

「拓真ぁ……聞いて、お願い…!」

 

「ぇ……え?」

 

 

友里は、あたしは締め付けられる胸の中で彼に自分の訴えを投げる。

拓真は言ってくれたよね、どうして僕の事を守ってくれるのかって。

違うんだよ、ゴメン拓真。守ってもらっていたのはあたしの方、あたしなんだよ。

 

 

昔から正義感は強い方だった。

悪い事が許せなかった、それがどんな小さな事でも、あたしは正義の味方。

ううん。正義でいたかった。だってそうでしょ、正しいことばかりしていたらきっと神様はご褒美をくれるって信じてたから!

 

だけど、できなかった。

無理だった。怖かったの、誰かに注意したり駄目って言ったりするのが。

結局あたしは心で反発するだけ。カンニングの手伝いを強要されたり、ちょっと強い子が誰かをいじめようと提案した時、あたしは嫌だっていえなかった。

だって嫌だなんて言ったらあたしがいじめられちゃう……!

 

なにもしない。見てるだけ、だけどいじめられてる子が助けを求めても知らないふり。

最低だ、自分が嫌いだった。苦しかった辛かった嫌だった、自分が思っていた自分と違う! でもそれはあたしが弱いから!

 

そんな時、あなたを見つけた。

クラス替えで一緒になった君、その時は同じマンションに住んでるなんて知らなかったっけ。

最初は気の弱そうな子としか思わなかった。だけど、同じクラスの子がやんちゃな子にいじめられてる時――

 

 

『やめなよ……嫌がってるじゃないか』

 

 

あなたは凄く嫌そうな顔だったけど確かにそう言ったね。

胸倉を掴まれてもあなたは怯まなかった。強い目で、また拒絶の言葉を口にした

 

 

『やめろよ。殴りたきゃ僕を殴れよ』

 

 

かっこよかった。あなたは結局その後ボコボコにされちゃったけどね。

あたしの心に光が灯った。あなたがとても眩しく見えた!

 

 

『大丈夫……?』

 

『ッ?』

 

 

手を差し伸べる、あなたはすこし戸惑ったけど小さく言ったね。

 

 

『僕に近づかない方がいいよ。君まで変な目でみられる』

 

 

そう言って一人で立ち上がろうとするあなたを、あたしは抱きかかえた。

貴方は驚いた顔をしていたから、あたしはそれが可笑しくて笑ってたっけ。

 

 

『……どうして』

 

『だって――』

 

 

それが、ただしい事だから。

 

 

『あたし友里、園田友里。あなたは?』

 

『犬養……拓真』

 

『うん! 拓真、よろしくね!』

 

 

それから――

 

 

『拓真、一つ聞いてもいい?』

 

『何?』

 

『どうしてあんな事言ったの?』

 

『見過ごすなんて……できないよ。気持ち悪くなるんだ、だから止める。もしそれで僕が殴られたとしても、僕はそれで納得できるから……』

 

 

あなたを守りたい、あなたと一緒にいたい。本当にそう思った。そう思えた。

あたしにはできない事、できなかった事、でもあなたは――

 

 

「拓真は違う」

 

「僕が……僕が行動していたのは弱かったからだよ……ッ!」

 

 

全てをいい終えた友里、彼女は拓真に憧れと自分の夢を重ねていた。

たとえそれが弱さから生まれたものだとしても、彼はしっかりと自分の意思を貫いているじゃないか。

拓真にとっての自己防衛も、友里から見ればとても凄い事だったのだ。

 

 

「あたしも弱いから、一緒」

 

「友里ちゃん……っ」

 

「拓真……大丈夫だよ――」

 

 

拓真はあたしが――

 

 

「守って……あげるからね」

 

 

そう言って友里はファイズギアを置く、だってコレは彼のモノ。

そしてそのまま拓真に背を向けると走り出した。ラボへと。

 

 

「………」

 

 

拓真は友里がいなくなったのを確認すると、ぼんやりとファイズギアを拾い上げる。

 

 

「……ッ」

 

 

ポタリと、ファイズギアに一粒の雫が落ちた。

 

 

「――ッッ!! クソぉおおおッ!」

 

 

ファイズギアについているアイテムを乱暴に引き剥がし、川へ投げ捨てる。

ポインター、ショット、フォン。ファイズを構成するツール達がバラバラな箇所へと落ちていく。

 

 

「くそっ! クソッ! ちくしょう!」

 

 

一つ、また一つ、川へとツールを投げ捨てていく。悔しくて、悲しくて死にたくなった。

 

 

いや、違う。

 

殺した。僕が

 

友里ちゃんを。

 

大好きだった、女の子を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『きゃはははははは!』

 

『アヒャハハハッハハハハハ!』

 

 

「ぐわぁッッ!!」

 

 

クウガはクラウン達の攻撃を受けて地面に倒れる。

数が多すぎるのだ。クウガの疲労は蓄積されつづけ、クラウン達は続々増えていく。

そんな長期戦でいつまでも優位にたてる訳が無い。

 

 

『ユウスケ!!』

 

「ははっ、ちょっとキツイかも……」

 

 

ぞろぞろと現れるクラウン達にクウガは敗北寸前だった。

しかし負けられない、ここで倒れればこの世界は終わるのだから。

 

 

「この世界の皆だって笑っていたいんだ! ゲーム? 刺激? ふざけんな!」

 

 

クウガはクラウンの肩を掴みとび蹴りを食らわせる。

しかし威力が弱い! 連戦に次ぐ連戦でクウガの精神はもやは限界に近かった。

クラウンにまともなダメージを与える事すらできない程に。

 

 

『ハヤハッハアハハハアッッ!』

 

「ぐぁぁあっ!」

 

 

クラウンのとび蹴りをまともに受け、クウガはついに立ち上がる事すら難しい程のダメージを受けてしまう。

それがチャンスだとクラウン達はクウガを囲んだ。

 

 

『キャハハハハハーアハッッ!』

 

「くそっ! 動け! 動けぇえ!」

 

 

全身に力を入れるが力が入らない。

絶体絶命、クラウン達はクウガに止めを刺す為にナイフを構えた。

だがその時、その音声が場に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Standing by』

 

「!」

 

『ヒャハ――………?』

 

 

クラウンですら沈黙し、音がした方向をみる。

そこに立っていたのは――

 

 

「ゆ、友里ちゃん!?」

 

『友里! あんたまさか!』

 

 

現れたのは園田友里、彼女の腰にはベルトが巻かれている。

そしてその手には銃の様なモノが握られているではないか。

まさか、クウガは息を呑んで彼女が行おうとしている事を見た。

 

 

「……変身!」

 

 

友里はその銃をベルトに装填する。そして、眩い光が彼女を包み込んだ!

 

 

『Complete』

 

 

黒と銀、そしてオレンジの瞳。友里は"デルタ"を選んだのだった。

デルタは銃、"デルタムーバー"を引き抜くと口元に持って行く。音声認証でデルタムーバーはモードをチェンジするのだ。

 

 

「ファイア」『Burst Mode』

 

 

音声と共に引き金を引く。

同時に青白い光弾がクラウンに向けて発射された。

 

 

『ギョエェエ――』

 

『ビャハハッ――』

 

 

まさに、一撃だった。光弾に触れた瞬間クラウン達は燃えるように消滅していく。

対オルフェノクの名に恥じぬ威力と言ったところか、あれだけのオルフェノクはものの数十秒で全て消滅したではないか。

 

 

「友里ちゃんっ!?」

 

「大丈夫? ユウスケ、薫!」

 

 

デルタはクウガの手を握り、引き起こす。

沈黙するクウガ、いったいどんな言葉をかけていいのか分からなかった。

それに呆気にとられたと言えばいいか。てっきり拓真が変身するだけとばかり思っていただけに彼女の変身は予想外の出来事だったのだ。

 

 

『友里、アンタ――』

 

「大丈夫! 大丈夫だよ!」

 

 

デルタは強引に話を打ち切る。

空はすでにオレンジに染まろうとしていた。

 

 

「もうすぐタイムリミット。だけどのこり三十分に開始されるラストチャンスで一気に決めちゃうんだから!」

 

 

そう言ってデルタから友里へと戻る。

ユウスケ達は一瞬だけだが確かに見えた、見えてしまった。友里の姿が白黒の化け物になっていたのを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたの?」

 

 

拓真の心はぐちゃぐちゃになっていた。

だがそれでも目の前で泣いているウノを見過ごす事はできない。うつろな瞳でウノを見つめる。

 

 

「もうすぐ…爆弾が…爆発しちゃうって……グスッ」

 

 

大丈夫だよ。いつもならそう言っていただろう、だが今の彼にそんな言葉をかける資格はなかった。

拓真は何も言わずに黙り込んでしまう。

 

 

「死ぬのは……怖いよぉ!」

 

 

声をあげて泣き始めるウノ。

拓真も泣いてしまいたい気分だった、何も声を掛けれずにただ呆然と立ち尽くすだけ。

 

 

「もっと……やりたい事だって! したい事だってあったのに!」

 

「ッ!」

 

 

したい事、やりたい事――

友里を守りたい、それが拓真のやりたい事だった。

だが彼女は、人間の彼女はもう死んだのだ。どれだけ自分を責めてもその結果が変わることは無い。

結論はただ一つ、彼女を守ることはできなかったと言うそれだけ。

 

 

「夢」

 

「え……」

 

「ウノくんは……夢、ある?」

 

 

拓真の弱々しい一言に、ウノはすこし動揺する。しかし、彼はハッキリと答えた

生きたいと。生きて檻に囲まれていない空が見たいと!

 

 

「――ッ」

 

 

正への渇望、望みなど普通の人間、普段の日々を生きているなら絶対に抱かない夢。

拓真は思う、もし自分が今からでも覚悟を決めたなら――

 

いや、無理だ。どうせ自分にはできない。

いつもそうなんだから、今回もそうなんだろう。結局友里ちゃんを守れなかった。

その事実が彼の心を突き刺し、足を、体を重くする。

 

 

「大丈夫だよ」

 

「え?」

 

「!」

 

 

自分が言えなかった言葉を、目の前からやってきた翼は平然と言ってのけた。

 

 

「先生……」

 

「もうすぐラストチャンスが始まる。そこで全てが決まる」

 

 

でも大丈夫、そう言って翼はウノを優しく撫でた。

拓真は疑問に思う、なぜ? どうして根拠もない事が言えるんですか! その疑問さえ翼はにこやかに笑って答えた。

 

 

「私達が諦めたら終わりだと思わないかい? せめて最期の時まで戦い続ける――」

 

 

だって、自分達は。

翼は"達"と言う事を強めて言った。

 

 

「正義の味方。仮面ライダーなんだから」

 

 

まあ、まともに見たことの無い私が言うのもどうかと思うけどね。

そう翼は笑ってみせる。拓真は複雑そうに表情をゆがめた後、うつむいて拳を握り締める。

 

 

「………」

 

 

過去、それは自分だって見たことがある。

正義のヒーロー。どんな時でも諦めない、そして奇跡が起きる。それは別にライダーに限った話じゃなくて例えばよくあるフィクションのドラマだったり。

 

 

「だけど僕は駄目なんです、結局迷ってばかりで。

 友里ちゃんを守りたかった、でも迷ってたせいで結局――……こんな僕にヒーローを語る資格なんて」

 

 

だったら、と翼は笑う。

 

 

「死んでみるのも悪くないかもしれないよ」

 

「えっ!?」

 

 

翼は時計を確認すると緊張したようにため息をつく。

 

 

「もうすぐ三十分前だね。私はもう行くよ」

 

 

翼は拓真に待ってるよと笑い、マシントルネイダーを発進させる。

拓真は今言われたことを何度も繰り返し、理解しようとした。

死んでみるのもいいかもね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラストチャンスの場所はこの街にあるスーパーアリーナとなっております』

 

『人間の皆様が無事に生還できる事を心から願っておりません   道化師』

 

 

電子掲示板にその文字が何度もリピートされている。

いよいよゲームも大詰めと言う訳か、同時に世界の運命もまたしかりだ。

 

 

「どこまでもふざけやがって……ッ!」

 

 

ユウスケは怒りに満ちた表情で壁を殴る。

何がゲームだ、人の命をなんだと思ってる!!

 

 

「でも、道化師って奴がラストチャンスを設けなかったらボク達今頃絶望してますよ。くやしいけど、このラストチャンスはありがたいです」

 

 

亘の言うとおりだ、ココで決着をつけなければ自分達の勝利は無い。

今現在ユウスケ達はアリーナの入り口に立っていた。翼も合流し、いよいよこの世界の命運を決めるであろう戦いに挑む。

 

 

「………」

 

 

司は携帯でなにやらメールを打ち、送信する。

そして皆に向かって作戦を伝えるのだった。普通に考えればこれはチャンスかもしれない。

しかし本当にそうなのだろうか? 司にはその考えが頭を離れなかったのだ。

 

 

「は!? 本気か司!」

 

「大丈夫なの、兄さん?」

 

 

司の作戦はかなり衝撃的なものだった。

圧倒的に勝つ確立が低い、だがしかし司はこれしかないと言う。

 

 

「どうせ、道化師の野郎は全うに勝負を挑む気なんて無いさ。この作戦以外だと時間切れで確実に終わりだ」

 

「そうだね、私もそう思うよ。ここはかなり危険だけど司君の作戦でいこう」

 

 

翼がそう言うと皆はこくりと頷く。流石に緊張してしまう、数字は今だに千を切ってはいない。

つまり千を超えるクラウンを三十分で倒さなければいけないのだ

 

 

「大丈夫、大丈夫だって! あたしがバンバンっってやっちゃうからさ!」

 

 

友里は笑う。司達も頷き、それぞれの配置につくのだった。

ラストチャンスの名が示すとおり、この世界最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ」

 

 

拓真の心は揺れていた。

ウノの夢、自分の夢、叶えられなかった夢と望む夢。

拓真の心に今からでも間に合うのではないかと言う期待と、今さら自分に何ができるのかという迷い。

そしてなによりファイズギアはツールを含めバラバラになって川に沈んでいるのだ。

それを今から探しに行って間に合うわけがない。だが迷う、どうしてこんなに苦しいのか自分でも分からなかった。

いっそ全てを放棄して死ねば楽になれるのだろうか? 翼の言った言葉の意味とはそう言う事だったのか?

 

 

「拓真! ここにいたんだな」

 

 

真志がこちらに走ってくる。

拓真は目を合わせる事なく、身体だけ真志の方へ向いた。

 

 

「どうしたの……?」

 

「お前に一つだけ聞きたいことがあるんだ」

 

「……なに?」

 

 

「拓真、お前の夢ってなんだ?」

 

「えっ?」

 

 

真志はなんの遠慮もなくそんな事を聞いてくる。

夢? 何だいきなり……でもその瞬間に拓真の心に笑顔の友里が浮かんだ。

そうか、そうだな。それが僕の夢だった。

 

 

「……ッ 僕は――」

 

「あー……答えなくてもいい! でも、一つだけ覚えておいてくれ」

 

「え?」

 

「いいか、拓真。夢ってヤツはさ、たとえ叶わなくとも持ってるだけで意味あるよな。

 なんか、生きる気力とか活力とか沸いてくるつうか。オレ、世界中の人が幸せになれればいいとか思ったりして」

 

 

ハハハと真志は苦笑する、

 

 

「ま、叶わないよな、叶う訳ねぇよ。当然だわな。

 だけどな、よく考えてみろ。お前の夢はまだ叶うんじゃないのかよ、終わってないんだよな!」

 

 

友里を守りたい。それは真志はとっくに分かっていた。

だからこそ拓真に気づいてもらいたかった。拓真はオルフェノクになる事を恐れていたのではないと――

 

 

「友里はどんな姿になっても友里だろ? お前も友里も、そう思ってるんじゃないのかよ!」

 

「……っ!」

 

 

あぁ、そうだったんだ。

拓真はやっと自分の本当の気持ちに気づいた。

あの時、変身一発を飲めなかったのはオルフェノクになるのが怖いからだとばかり思っていた。

だが、違うのだ。ただ単に――

 

 

(友里ちゃんに嫌われたくなかったんだ……)

 

 

化け物になる事で友里が自分を恐れてしまうのではないかと、怖かったのだ

 

 

「そんな事あるかよ!」

 

「!」

 

 

まるで心が分かってるかの様に真志はそれを否定した。

 

 

「友里はそんなヤツじゃない。お前がどんな姿になろうと、お前の事を変わらずに想っていてくれるだろ!

 そう言うヤツだ。それはお前が一番知ってるんじゃねぇのかよ、そうだろう?」

 

 

今まで友里と一緒に過ごしてきた日々、思い出が蘇る。

ああ、そうだ。友里ちゃんは優しくて、強いから――

 

 

「僕っ……友里ちゃんを信じられなかった…ずっと好――」

 

 

好きだったのに、その言葉を真志は止める、

 

 

「だからさ、まだ終わってねぇんだよ」

 

「終わってない……?」

 

「そうさ拓真。いくら親しい人だったりしても傷つけないとか疑わないなんてありえないぜ。

 だってオレ達人間なんだからな。大切なのはそれからだろ? そう思わないか?」

 

 

拓真の瞳に少しだけ光が灯る。

だがそれはまだ弱弱しい光でしかない。

 

 

「拓真、お前は友里を守れる力が手に入るって分かったとき嬉しかったろ? だってお前の夢だもんな、そりゃあ嬉しいよな!」

 

 

それが夢を持つものの特権だろ?

真志は笑う。もうすぐ世界も自分も死ぬかもしれないのに。

 

 

「まだ、お前の夢は終わってねぇ。友里を、皆をまだお前は守れるんだ!」

 

「僕は…まだ……ッ」

 

 

どんどん大きくなるその光、拓真の中にいるマイナス思考が消え去っていく。

 

 

「どうだ嬉しいか? 嬉しいよな! 夢はまだ終わってないんだ」

 

 

そして真志は両手を広げる。

 

 

「皆、夢をもってるんだよ!」

 

「あ……」

 

 

ウノの夢を思い出す。

生きたい。当たり前のような事、だけど彼にとってはそれが希望なのだ

 

 

「皆にも、夢が、希望がある! だから頼む拓真。どうか皆の夢を、希望を――」

 

 

そう言って真志は拓真にそれを投げつける。

 

 

「守ってくれないか?」

 

「………!」

 

「もう一本あったんだよ」

 

 

拓真はそれを受け取る。『変身一発』その瞬間、拓真の目に朱色の光が宿る。

一瞬だが、瞳の奥に仮面の戦士が見えた。

 

 

「悪いな、辛い役目を押し付ける」

 

 

真志の言葉に拓真は首を振る。と、同時に携帯がなった

 

 

「司くんからだ……」

 

 

司からのメールはとても短いものだった。

しかし拓真はそのメールを何ども読み返す。そして笑った。

 

 

「ううん。そうだね、僕の夢は終わっていないんだ。諦めるのはおかしいよね」

 

 

僕はもう吹っ切れた。いっそ死んで、楽になるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友里、いいか?」『カメンライド』『ディケイド!』

 

「おっけー! 変身!」『Standing by』『Complete』

 

 

二人は変身を完了させ、ホールの扉の前に立つ。

覚悟を決めたはずだが、襲い掛かるのは恐怖、緊張、そして重圧。

もしも、自分たちがクラウンを全て死滅させる事ができなければ――世界は死ぬのだから。

 

 

「中がやけに静かだな……気をつけろよ!」

 

「そだね。じゃあ……行くよっ!」

 

 

二人はドアを開けて素早く中に転がり込む。

アリーナホールは真っ暗で、とても静かだった。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

だが、ゲストが登場した事をきっかけに、ホールに明かりが灯る。

ラストチャンスの始まりだ。

 

 

「くっ!!」

 

「ッ!」

 

 

分かっていた、理解していたつもりだったが二人はその光景に目を疑う。

アリーナホールの客席にクラウン達が座っている。1000を超えるクラウン達が皆同じように腰掛けていたのだ!

 

 

「――ッ!!」

 

 

これを全て、あと三十分で――ッ!?

 

 

「うぅうう……ッ!」

 

 

アリーナホールはあまり大きくない、そのせいで客席全てが満席になっていた。

それがむしろ逆に恐怖と緊張を倍増させていく。満席になっているスタジアム、異常な光景。

そして、電子掲示板に表示される残りクラウン数と時間。

始まりを告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

『……ハハ』

 

『――ヒャハハ』

 

 

 

ヒャハああああああああアアア八ははハハはヒャハハハはヒャハはやははあハッはハッハハハハッはハハッはーッハハハッッハハハははきゃハハはくひゃはぁぁあ

アアアァアアアアアァアアアハハハハハハハーハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハッハハハヒーッヒヒヒヒイヒヒイイッヒッハハハハハヒャハハハハハハ

アハハハハハッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハアハハハハハハハハハハハハハ!!!!!

 

 

アリーナホールに狂気の『笑』が巻き起こる。

それだけではない、クラウン達は一斉に立ち上がるとディケイドとデルタを無視して、自分の席から一番近い出口に走っていった。

ホールの出口は全部で四つ、東西南北に設置されている出口へとクラウン達は向かう。

結局、道化師は人間に勝たせると言う事など考えていない。

 

残りのクラウンを全てを一箇所に集めると言う事で人間に希望を持たせる。

そしてすぐにクラウン達を散り散りにさせ、タイムアップを狙う。

希望を持った人間が絶望に落ちるだけのイベント。それが道化師の仕掛けたラストチャンスだった。

 

 

『ヒャハハ! ……アヒャ?』

 

 

クラウン達は扉を開けようとする。

しかし開かない、クラウン達は外に出られずただ混乱するだけ。

 

 

「うおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

足止めされたクラウンに打ち込まれる青い弾丸。

そう、司は分かっていたのだ。クラウン達が逃げることを、だからこそ対策をとる。

 

 

「やっぱり逃げるつもりだったのか! ふざけやがって!」

 

 

南扉をタイタンフォームが。

東扉をアックスフォームが。

西扉をストームフォームが。

そして北扉をドッガハンマーを構えたキバがそれぞれ押さえつけていた。

戦力が激減するかなり危険な賭け。しかしここで誰かが鍵の役割をしなければクラウン達は外に逃げてしまう。もはやこれ以外に道は無い。

 

 

「うらぁああああッ!」『カメンライド』『アギト!』

 

 

ヒャハハハハハハハハハハハ!!

 

 

何百ものクラウンの中へ飛び込んでいくデルタとディケイド。

デルタの弾丸は一撃でクラウンを葬り去るが、ディケイドはそうもいかない。

残りクラウン数と時間に焦りを感じる。

 

 

『フォームライド――アギト・ストーム!』

 

 

だが諦めない。諦めるわけにはいかない。

心が死ねば、その時点でこの世界も――、自分達も死ぬ。

 

 

「はァアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

巻き起こる嵐、次々と巻き上がるクラウン。そして笑う声。

 

 

『バヤハハハハハハヒャハハハハ!』

 

「ぐああああああ!!」

 

 

背中に鋭い痛みを感じて振り返る。

客席に座っているクラウン達がナイフを投げてきたのだ。

一つ一つは小さいものだが、数が多すぎる。ナイフはまるで鳥の群れの如くホールに飛び交った。他のクラウンに刺さろうがお構いなしに!

 

 

「くっ! 友里!」『カメンライド・クウガ!』『フォームライド』『クウガ・タイタン!』

 

 

タイタンフォームに変わりデルタをかばう。

ディケイドの体から次々と火花があがるが、ダメージはそれほどでもない。

 

 

「司! 大丈夫っ!?」

 

「ああ、お前が頼りだからな! しっかり頼むぜ……ッ!」

 

「う、うん!」

 

 

無数のナイフもタイタンに変われば何の事はない。

しかしクラウン達はそれを瞬時に理解すると、群れを成してディケイドにのしかかってきた。

 

 

「ぐうぅうっ!」

 

 

重い、重すぎる! すぐに地面に倒れてしまうディケイド。

そこにクラウン達は馬乗りになってナイフで刺しまくる。

助けようとしたデルタも嵐の様なナイフに巻き込まれ、引き離されてしまった。

 

 

「ウッ! あぁあああっ!」

 

「ぐあぁああッッ!」

 

 

「兄さんッ!」

 

「友里ちゃん!」

 

 

ゲート越しにキバ達はその絶望的な状況を確認する。

助けに行きたいと、その衝動に駆られるが動けない。

ここを動いてしまえばクラウン達が外に逃げ出してしまう!

詰み、最悪の状況だった。

 

 

「くそぉおおっ」『カメンライド・キバ!』

 

『ひゃはははああああああああああああああああああ!!!』

 

 

カメンライド時に発生する衝撃波でクラウン達を吹き飛ばす。

しかしすぐに足を、手を、肩をつかまれ引き倒されてしまった。手を掴まれているせいでカードを持つことができない!

 

 

「どけぇえええええええッッッ!!!」

 

 

ヒャハッハハハハハハハ!

誰も彼もが同じ声で笑い続ける。もはやソレは笑みと言うよりも泣き声と言った方がいいだろう。

 

 

「くっ……そぉ!」

 

 

ナイフでズタズタになりながらも、デルタはディケイドを抑えているクラウン目掛け発砲する。

次々にクラウンは灰に変わるが、尚もナイフの雨はデルタに振りかかっている。

激しく火花を散らす装甲。そして切りかかってくるクラウン。一撃で倒せるデルタも時間と共に限界が近づく。

 

 

『ヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

「ぐっ! がぁああああ!」

 

 

殴る、蹴るの嵐がディケイドを、無数のナイフがデルタを襲う!

暴力の雨は二人の体と心を一方的に蝕んでいくばかりだ。

小さな力であったとしても集中すれば凄まじいモノとなる。

 

 

「しま――ッッ!!」

 

 

クラウンの一体がデルタムーバーを弾く。

デルタはすぐに拾おうと手を伸ばすがその時だった――

 

 

「アッ! ぐぅっっ…ガフッ!」

 

 

クラウンの拳がわき腹を抉る。

あまりの苦痛にその場に倒れるデルタ。

 

 

「大丈―――がはッ!」

 

 

ディケイドの首を締め上げ、クラウンは楽しそうに振り回す。

そして二、三回地面に叩きつけると、デルタの所へ蹴り飛ばした。

 

 

「「ぐあぁああ!」」

 

 

吹き飛ばされる二人、数百体のクラウンオルフェノク。

迫り来る制限時間、減らないメーター、明確な焦りは募れど打開策は一向に浮かばない。

やはり安易な考えだったか、二人ではどうする事もできなかった。

 

 

「良太郎! ヤバイで!」

 

『良太郎。アレで行こうぜ!』

 

『そうだね。限界だ! 二人助けに行こう!』

 

 

それを確認した電王は何かを決心して扉を開けようとする。

扉を開ければクラウンを逃がす可能性もあるが、もう二人は限界のはず。

しかし――

 

 

「言った筈だよ電王。邪魔しないでくれってね」

 

『ゼノン君……!』

 

 

電王の後ろでダブルが銃を構えて、ベンチに座っていた。

 

 

「君がいきなり"ソレ"を使わず、さらにディケイドを壁役にしなかった事はボクらも不思議に思っていたんだ。何故だい? 君は彼らのなかでも一番強いはずだ」

 

 

尤も、その強さが少し目障りなんだけどね。

ダブルは冗談まじりにバンっと銃を撃つ動作を行う。

 

 

『……司君に頼まれたんだ。でも、もう限界だよ、助けに行かなくちゃ!』

 

『残念だけれど、させないわ』

 

『え?』

 

「ボクらは救世主の登場を大人しく待とうじゃないか。ねえ? 電王」

 

 

ダブルは扉に照準を合わせている。

ここで抵抗すれば扉を破壊されるだろう。扉を破壊されれば逃がす可能性もあがる。その中でダブルの妨害を受けつつディケイド達を守る事は流石の電王とて難しい。

結果、電王は大人しくダブルに従うしかなかった。本当ならば強引に押し切るべきなのだろうが、それにしてはゼノンが言った言葉が引っかかる。

救世主? つまりこの展開を打破できる力を持つ者が現れる可能性があると言う事だ。

 

 

「電王、それにしても君は分かっているのかい?

 このまま君が彼らに味方するという行為がどのような結果をもたらすのか――」

 

「……ッ」

 

『もう既に貴方たちはその領域に足を踏み入れてしまったのよ? そこまでして彼らに味方する理由が貴方達にはあるのかしら?』

 

 

フルーラの問いかけに電王は少しだけ動揺を見せる。

しかし、直ぐにその迷いを否定するかのように答えた。

 

 

『ぼく達は人間なんだ。そして彼らは友達……友達は助ける。それだけだよ』

 

「まあ、君がソレでいいならボク達は何も言わないけれどね」

 

 

ニヤニヤしながら近くにあったベンチに腰掛けるゼノン。

最後に彼はたった一言良太郎へ問いかける。

 

 

「電王、君はこの世界……滅ぶと思うかい?」

 

 

ダブルの問いに迷わず電王、良太郎は答える。

 

 

『絶対にこの世界は滅ばない』

 

 

ダブルはニヤリと笑う。やはり面白い、彼らからは未だかつて無い可能性を感じる。

そしてその時だった、バイクのエンジン音が外から聞こえてきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒャハハハハハハハハハ!!』

 

『アーッハハハハハハハハ!!』

 

「ぐっ! ハァ…ハァ…ッッ!」

 

 

デルタとディケイドは飛び交うナイフを受けながらも何とか立ち上がる。

彼らは自らの命が無くなるまで戦うのをやめないだろう。

圧倒的絶望、しかし彼らは歩き出す。歩かなければならないのだ。

たとえナイフで切り裂かれようと、殴られ蹴られようとも。

 

 

『ヒャハハハハハハハアハハハハッハハハハハハハ!!』

 

 

ナイフを構えてクラウン達が走り出す! 次は、耐えられる?

それとも――

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

銃を構えるデルタ。向かってくるクラウン。

もうろうとする意識の中でデルタは必死に照準を合わせようとするが――

 

 

「――ッ!!」

 

 

守る、その為に戦う。デルタは鈍い世界の中で思う。

あたしは――

 

 

ヒャハハハハハハハ

アハハハハ! アハハハハ!

アアアアアッッハハハハハ!!!

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 

「………」

 

 

デルタは膝をついていた。

雨のようなナイフは彼女の体力と精神を確実に奪っていたのだ、目の前には大きくナイフを振り上げているクラウン。

ディケイドが何か叫んでいるがうまく聞き取れない、徐々に意識ももうろうとしてくる。もうおそらく限界なのだろう。

 

 

「大……丈夫――だよ……拓――……真」

 

 

薄れる意識の中、彼女はそっと呟く。

 

 

「あたし…が…守っ…てあげ…る…か……ら――」

 

 

大好きな――

 

 

「あ…な…た……を…」

 

 

ごめん、もう駄目かも。

さよなら拓真。彼女はそっと口にする、届くだろうか?

 

 

「バイ……バイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バヒャッバババババババ!!』

 

「!」

 

 

突如、無数の弾丸がデルタの前にいたクラウンをぶち抜いていく。

デルタを攻撃しようとした者達は全て吹き飛ばされて地面に倒れていく。

 

 

「え……?」

 

『ビャハハハーハハハッ!!』

 

 

さらにディケイドの周りにいた者達も同じだった。

鉄拳がクラウンを吹き飛ばしていく!

 

 

『ピピピピピ』

 

 

デルタの前に立っていたのは――オートバジン!

 

 

「え…? あ……!」

 

 

鮮明になっていく意識、同時にディケイドの声が鮮明に届いた。

 

 

「お、遅すぎなんだよーッ!!」

 

 

マジで焦った、そう言ってディケイドはその方向を指差す。

 

 

「あ――」

 

 

デルタはその方向を見る。そして、見つけた!

 

 

「あ…あ…!」

 

 

どうしてだろうか、デルタ。

友里の目から涙があふれてくる。でも、震える声であろうとも、彼女は笑った。

 

 

「遅い…ぞっ! 拓真ぁ!!」

 

 

その視線の先には――犬養拓真!

 

 

「遅くなってゴメン。司君、友里ちゃん」

 

 

クラウン達も何事かと黙り、拓真の方に視線を移す。

拓真はクラウン達を睨みつけると、自らの正義。ファイズギアを取り出した。

それを腰に装着し、ファイズフォンを手にする!

 

 

『5』

 

 

拓真は思い出す。

 

 

「辛い役目を押し付けるな。すまん……」

 

 

真志の言葉に拓真は首を振る。と、同時に携帯がなった。

 

 

「司くんからだ…」

 

 

司からのメールはとても短いものだった。

 

 

『闇を切り裂き、光をもたらす。夢の守り人、ファイズ』

 

 

唐突な内容の文章に拓真は何故かおかしくなってプッと吹きだしてしまった。

別に背中を押す文章でもなければ、自分達に任せろというニュアンスを含んでいるわけでもない。

ただ彼の好みにあふれた文章。だがこっちのほうが拓真の気持ちとしては楽でいい。

 

 

「ううん。そうだね、僕の夢は終わっていないんだ。諦めるのはおかしいよね」

 

 

拓真は変身一発を一気に飲み干すと、苦いと笑う。

真志は少し複雑な顔をしながらも、しっかりと笑い返した。

だが拓真の顔が真っ青になる。そうだ、ファイズに変身するための道具を川に投げ捨ててしまった。しかもツールを全部バラバラにして!

 

 

「くっ!」

 

 

今から拾いに行けばぎりぎり間に合うかもしれない!

せめてベルトとファイズフォンだけでも―――

 

 

「行くのか、拓真? 間に合わないかもしれないぜ?」

 

「それでも、僕はもう……迷いたくないんだッ! 迷っているうちに誰かが傷つくのはもうたくさんだ!」

 

 

それを聞いて、真志はうつむく。

 

 

「――たぜ」

 

「え?」

 

 

そして、彼はニヤリと笑いながら顔を上げた。

 

 

「待ってたぜ、その言葉!」

 

 

 

 

 

 

『5』

 

 

 

 

 

顔を上げた真志はニヤリと笑っている。

そして、ポケットからそれを取り出した。

 

 

「それ!」

 

 

それは泥だらけになったファイズフォンだった。

怒りに任せて川へ投げ捨てたツールの一つ。

 

 

「あ……」

 

 

そこで初めて気づいた。真志のズボンが泥だらけだと言う事を。

まさか――

 

 

「ま、ポケットに入れるのはちょっとアレだけど今さら汚れてもな。里奈ちゃん!」

 

「はーいっ!」

 

 

真志が手を上げると物陰から里奈が現れ猛スピードでこっちに来る。

 

 

「え? え!?」

 

 

訳が分からない拓真をおいて、里奈は真志からファイズフォンを受け取る。

そして自らのポケットからタオルを取り出してゴシゴシとファイズフォンを拭いていった。

 

 

「んしょ! んしょ!」

 

 

一生懸命に泥を拭い取っていく里奈。

ファイズフォンはみるみる綺麗になっていき――

 

 

「よぅし! できました!」

 

「よーし、ありがとうな里奈ちゃん! 皆、出てきていいぞ!」

 

「!?」

 

 

真志の合図と共に、学校に待機している筈のメンバー全員が現れる。

それだけじゃない。皆泥だらけで、手には――

 

 

「あ……」

 

「はい! どうぞ!」

 

 

夏美はファイズドライバーを拓真へ渡す。

 

 

「えへへ、大変でしたよぉ。我夢くんとアキラちゃんの三人で見つけたんです」

 

「今の私達にはこれくらいしかできません。拓真先輩、応援しています」

 

「僕達に出来ることがあればいつでもいってください。力になりますから」

 

「あ、ありがとう! 夏美さん! アキラちゃん、我夢くん」

 

 

何故か顔まで泥だらけの夏美達はえへへと笑う。

 

 

「はい…どうぞ!」

 

「ありがとう真由ちゃんっ!」

 

 

真由はファイズポインターを拓真に差し出す。

 

 

「お兄ちゃんと…ハナちゃんと一緒に見つけたのぉ…」

 

「お願いね拓真!」

 

「フッ、期待してるぞ救世主」

 

 

泥だらけなのだが無駄にイケメンの双護に拓真は笑ってしまう。

 

 

「あはは、まあやってみるよ。ありがとう、ハナちゃん。双護くん」

 

「たくまぁー」

 

「ひっ!」

 

 

藻だらけの美歩が背後から現れる。

一瞬化け物かと思って拓真は腰を抜かしそうになってしまった。

 

 

「受け取ってくれ拓真。これは君のものだ」

 

「途中でこけて散々だったおww」

 

 

同じく藻だらけの椿と咲夜は、ファイズショットを拓真に差し出す。

 

 

「ありがとう! 咲夜さん、椿くん、美歩さん!」

 

「お前が川にファイズギア投げ捨てるの見ちまって、皆で拾う事にしたんだ……余計なお世話にならなくて良かったぜ」

 

「だったらアンタも汚れろぉおおお!」

 

 

後ろから美歩が真志に抱きつく!

 

 

「ぎゃあああああああ! 藻がぁあああああああ!」

 

 

泥と藻で汚れた顔をすり寄せる美歩。

真志は振り落とそうとするが美歩は離そうとしない!

 

 

「薄い本もでねぇなこの格好じゃ、あとコレ!」

 

 

椿は拓真に腕時計の様なツールを渡す。

 

 

「これは?」

 

「あのロリバカップルが見つけたやつだ」

 

「え? ゼノンくんとフルーラちゃん!?」

 

 

まだ会った事はないけど、話を聞く限りとても手伝いそうにないのだが……と拓真は思う。

それを感じたのか、椿はニヤリと笑った。

 

 

「引きずりこんでやったんだよ」

 

「え、えぇ!?」

 

 

気になる事は多いが、今はとにかく時間がない。

拓真は皆から受け取ったモノを組み合わせ、ファイズギアを完成させる。

 

 

「それから……君も」

 

 

拓真は自分の下へ走ってきたオートバジンを優しく撫で、そしてそれに乗り込んだ。

 

 

「……じゃあ、行って来るよ」

 

「おう、行ってらっしゃい」

 

 

真志達はいつもの調子で拓真に手を振るのだった。

 

 

『5』

 

 

そして現在、拓真は迷うことなくエンターのボタンを押した。

 

 

『Standing by』「僕はもう迷わない。弱虫の犬養拓真は――」

 

 

翼に言われた言葉。

それを思い出してバックルにフォンをセットする!

 

 

「死んだんだッ!」『Complete』

 

 

赤い光がアリーナホールを包み込む。

闇を切り裂き、光をもたらす――仮面ライダー・ファイズ!

 

 

「司君も、皆も、友里ちゃんもっ、僕が守るッッ!」

 

「拓真!」

 

「……ははっ」

 

 

ディケイドは力強く立ち上がりクラウン達を一瞥した。

沈黙のクラウンは一勢にディケイドへと視線を移動させる。

 

 

「聞けっ! クラウン共! 今この瞬間っ、お前らの勝利はなくなった!」

 

 

ディケイドは三枚のカードを取り出す。

そう、ファイズの封印が解かれたと言う事だ!

 

 

『……キャハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 

再びクラウン達は笑いだし、ナイフを構える。

しかしもうディケイド達の心に焦りも、恐怖も微塵とて存在していなかった。

 

 

「お前らからして見れば俺達はちっぽけな存在なんだろうな」

 

 

だけど――

 

 

「ちっぽけだから守らなくちゃいけないんだよ!」

 

 

ディケイドは三枚のカードをドライバーに放り込む。

ファイズもまた、自らの腕に装備されているウォッチからメモリーを抜き取り、装着した!

 

 

「俺は破壊者ディケイド! この世界のふざけた結末を――」

 

『アタックライド・イリュージョン!』『カメンライド・ファイズ!』

 

 

ディケイドの両隣に分身が現れ、そのままファイズに変身する。

拓真を含めると、計四人のファイズがこの場所に存在するのだ。

 

 

「破壊するッッ!」『フォームライド』『ファイズ・アクセル!』

 

「……ッ!」『Complete』

 

四人のファイズの胸部が同時に展開する。

そして色も黒を中心にした姿に変わった、ファイズアクセル。超高速の戦士!

 

 

『READY』

 

 

拓真はメモリをポインターにセットし、足へと装備する。

目で合図し合うディケイドとファイズ。

 

 

「いくぜ、拓真」

 

「うん!」

 

『『『『Start Up』』』』

 

 

刹那、四人のファイズ達の姿が消えた。

そして、それはまさに――紅い光のシャワー

 

 

「「うォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」」

 

 

赤い雨。

いや違うッ! 雨ではない! 円錐状の赤い光はクラウンに命中すると動きを止めるポインター!

四人のアクセルが放つポインターの大雨! 逃げようとするクラウン達だが、数が多いことが仇となり逃げられない。

次々と拘束されていくクラウン達。赤く染まる客席! もやは彼らは笑っていない! 全滅の危機の前にただ逃げ惑うだけだ。

そしてこの間、現実時間にしてわずか五秒。五秒で客席を含む大半のクラウンにロックが施されていた!

 

 

「すごい……ッ!」

 

 

赤い光のなかデルタはポツリと呟く。

一人でも強力なアクセルフォームが四人もいるのだ、それはそうだろう。

紅く染まる世界。しかし忘れてはいけない、本番はこれからなのだ。愚かな道化達への――

 

 

処刑が始まる

 

 

「「「「タアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」」」

 

『ビャハアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

超高速で放つとび蹴りの嵐、アクセルクリムゾンスマッシュ!

次々に爆発していくクラウン達、一つの爆発は連鎖を起こし新しい爆発を巻き起こす。

そこに残るのはΦのマークのみ。

 

 

「ウォオオォオオオオオオォオオオッッ!!」

 

「ヤァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

客席では赤いウェーブが巻きおこる。

満席だった客席が徐々に空席へと変わっていく! 怒涛の勢いで減少していく残りクラウン数。

守る――! 心がまた夢を見てる! さあ、夢はまだ死んでいない! 自由に飛びまわれ!

 

 

「タァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『Time Out』『Reformation』

 

 

元に戻るディケイドとファイズ。

アリーナは無数のΦが存在するだけで、清清しいほど静まり返っていた。

辺りを包む静寂、もう笑い声はかけらとて聞こえてこない。

 

 

「終わったな……」

 

 

流石にエネルギーを使いすぎたのか、ディケイドはその場に倒れこむ。

肉体的にも精神的にも拾うがピークにきている。

 

 

「うん!」

 

 

ファイズはディケイドに手を差し伸べる。

これで世界は守られたのだ。安心する二人、しかしデルタはそうではなかった。

 

 

「待って! 止まってない! 時間もメーターもッ!!」

 

「何ッ!?」

 

 

残り時間が止まってない!?

当然だ、残りクラウン数が『1』を示している。

 

 

「まだあと一体残ってるっ!!」

 

「馬鹿なッ!」

 

 

三人はあたりを見回すがクラウンの気配は無い。

いやもしかしたらどこかに居るのかもしれないが、皮肉にもΦの弾幕がそれを隠していた。

 

 

「やばい! のこり三十秒しかないッッ!」

 

29

 

「だめだ! アクセルが使えないと、見つけても倒す手段が!!」

 

28

 

「どこだっ! どこにいるッッ!!」

 

27

 

叫んでみても何もおこらない!

 

26

 

無常にも残り時間は過ぎていく。

 

25

 

駄目なのか!?

 

24

 

この世界は滅びる運命にあるのかッ!?

 

23

 

「………ッッ!」

 

22

 

「違うッッ!」

 

21

 

諦めるなっ! たとえ最期の瞬間だろうとも!

 

20

 

「諦めてたまるかぁあああああああッッ!!」

 

19

 

そして、その思いがこの状況を――

 

18

 

破壊する!!

 

『ウェイクアァァァァップッ!!』

 

17

 

亘、キバはドッガハンマーを構え辺りを見回す。

そしてそのドッガハンマーに備えられているトゥルー・アイが真実を映し出した!

 

16

 

「兄ィィィィィィィィさぁあああああああああん!!」

 

15

 

亘はありったけの力を込めて叫ぶ!

 

「北ゲートのすぐ近くの男子トイレッ!! その個室の中に一人隠れてる!!」

 

14

 

その言葉を聞いて、ディケイドは素早く二枚のカードをセットした!

 

13

 

『ファイナルフォームライド』『ファファファファイズ!』

 

12

 

ファイズの体が変形し、巨大なバズーカーに変身する!

 

11

 

ファイズブラスター。ディケイドはそれを構えた!

 

10

 

北ゲートの方向へファイズブラスターを向ける!

 

9

 

『ファイナル・アタックライド――』

 

8

 

『ファファファファイズ!』

 

7

 

「はぁぁああああぁああああ――………ッッ!」

 

6

 

赤い光が砲口へと集中していく!

 

5

 

『「やああああああああああッッ!!」』

 

4

 

発射!

 

3

 

強大な赤い閃光は、北ゲートだけでなくその周りも粉砕していく!

 

2

 

「――……ッ!!」

 

沈黙。そして――

 

1

 

「!!」

 

 

1

 

 

「あ……」

 

「残り時間が――」

 

 

1

 

 

「止まっ…たぁ……」

 

 

1

 

 

そして、のこりクラウン数は――

 

 

『0』

 

 

「やぁったぁ……!!」

 

 

三人は力なくへたり込む。そして少しずつ笑い出した。

 

 

「うはは…! やっばかったなぁ! 本気で焦ったぞ! あハハッ!」

 

「あたしもぉぉ! もう寿命縮みまくり!」

 

 

それぞれの扉を押さえていたユウスケ達も、集まって喜びを分かち合っているのが見えた。

一番活躍した亘が胴上げされている。

 

 

「あー、本当に亘がいなかったら終わってたなー」

 

「今度何かお礼しないとね!」

 

 

すっと、へたり込む二人に差し出される手。

 

 

「帰ろうか。司君、友里ちゃん」

 

 

一瞬の沈黙。

 

 

「うん!」「ああ!」

 

 

だが二人はしっかりと笑うと、拓真の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、拓真」

 

「何?」

 

 

もし、世界が私達の敵になったとしても――ずっと、一緒にいようね

 

 

「……うん」

 

 

いつまでも、一緒に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラウン達が全て消滅した事をきっかけに、この街を囲っていた檻も消え去る。

喜びに歓喜する人々、安心から泣き崩れる人も。ウノは帰ってきた拓真達に駆け寄ると、笑顔でお礼の言葉を述べた。

彼の夢は叶ったのだ。檻に囲まれぬ空を、生命の希望を、また得ることができたのだ!

博士やウノの紹介もあってか、街の人達はそろって拓真達にお礼がしたいと言ってきた。

だが、彼らはソレを断る。

 

 

「抑える技術も身につけないとね……」

 

「………」

 

 

拓真と友里は、ふとした時にオルフェノクの刻印が浮かんでしまう。

もし、それが街中で出てしまったら……

 

 

「人は怯え、同時に不信感を抱くだろうな」

 

「そんなモンなのかねぇ……」

 

 

少し離れた所で椿と双護が話していた。

お礼を拒んだ理由はやはりそこにあったのだ、この世界にもうオルフェノクはいらない。

だから、自分たちは早く次の世界に行かなければ。

 

 

「その場はいいかもしれん。だが、時間が少し経てば徐々にそう言った感情が芽生えるだろうな。それが普通だ」

 

「街中を救ったヒーローなのにな」

 

「フッ、人は心にどす黒い感情を常に潜ませているものさ」

 

「……お前にもあるん?」

 

「……ああ、この前もこの心を悪に染めてしまった」

 

「な、何ぞ…? つかイケメンで暗い過去とか…ど真ん中すぎるだろ…」

 

「聞いて驚くな――」

 

 

ごくり、と椿は緊張した様子で双護を見る。

 

 

 

 

 

 

 

「ユウスケのおやつを……つまみ食いしてしまったのだ――ッ!」

 

「あぁそう……」

 

 

椿は拍子抜けして、深くため息をつく。

自らの行動の罪深さに苦悩する双護を冷めた目で見つめると、また深くうな垂れたのだった

 

 

「夢が叶ったら、どうなるの?」

 

 

拓真は喜びに踊る人々を屋上で見ていた。

皆本当に嬉しそうで、楽しそうだった。拓真はそれが嬉しかったが同時に疑問にも思う。

 

 

「また新しい夢をみつけるだけだろ」

 

 

司はそう言って笑う。拓真も頷き笑った。

 

 

「しかし……イリュージョンでアクセルはキツイもんだな。全身が痛い――ッ」

 

「あはは、動きがロボットみたいだ」

 

 

二人は喜ぶ人達とはちょっと違う笑顔を浮かべ、学校へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、どことも言えぬ書斎の様な場所。そこに女は座っていた。

その眼には拓真の姿が映っており、女はニヤリと笑って視線を移す。

電王、野上良太郎へと。

 

 

「どうやら、彼らはこのままディケイド側に付くようですよ」

 

「それが彼らの選択なのかしら!」

 

「………」

 

 

女の背後から声が聞こえる、ゼノンとフルーラだ。

二人は相変わらずクスクスとつかみどころの無い笑顔を浮かべて椅子に座る。

ゼノン達は彼女に若干の敬語を使っているあたり、主従関係の様なモノがあるのだろう。

だが、それでもゼノン達は堂々と足を組んで座ったりしているわけだが――

 

 

「成る程……」

 

 

女は小さくそう言って笑った。それもまた一つの運命だろう。

 

 

「ああ、でもゼノン。実はワタシまだよく分かってないの。電王は何がマズイのかしら?」

 

「うん、ならすこしヒントをあげようね、愛しのフルーラ!」

 

 

ゼノンはフルーラの手にキスをする。

そしてテーブルに置いてあったティーカップと、ポットを手にした。

 

 

「見ててごらん」

 

 

ゼノンは二つのカップに紅茶を注いでいく。

 

 

「彼らの世界はとてもよく似ている。同じ紅茶というカテゴリーに分けられ、銘柄も近い!」

 

 

だけど、やはり同じじゃない。

そう言ってゼノンは右の紅茶にスライスレモンを投入した。

あっという間にレモンティーとホットティー、似ているが別々の紅茶の完成だ。

 

 

「良太郎……そう、電王をこのレモンに例えようか?」

 

 

そしてゼノンはレモンティーに入っていたレモンを取り出すと、

それをそのままホットティーの中へと移した。

 

 

「これが今の状況さ。レモンティーの中に入っていたレモンが、ホットティーの中へ移動した状態」

 

「分かったわ! ホットティーの味が変わってしまうのね!」

 

「いや干渉された側の世界がどうなろうともソレはただの結果としてでるだけで、そこまで危険視する必要はないよ。ホットティーにレモンが入るのはさして問題じゃない」

 

「まあ、ワタシもたまに入れるもんね」

 

「フフフ、そうだね。だけど……問題はコッチ」

 

 

そう言ってゼノンが指差したのはレモンが無くなったレモンティーだった。

 

 

「この世界……いや、この紅茶はレモンがあって始めて完成される世界なんだ。別にレモンが食べられてなくなったのなら誰も文句は言わないよ。だけど突然レモンが消えちゃったら……それはおかしな事だろう?」

 

「ええ、そうね! レモンが無いレモンティーなんて矛盾に溢れているもの!」

 

「うん、だから――」

 

 

そしてゼノンはニヤリと笑って新しいスライスレモンを取り出すと、

それを何も浮かんでいないレモンティーに入れる。

 

 

「こうするのさ。いや、こうなるのさ」

 

「新しいレモンが追加されたわ! これで問題はないわね!」

 

「あははは! そうだねフルーラ。もうこの紅茶は完成されてるんだ、レモンは一つでいい」

 

 

ゼノンはそのままレモンティーを女に差し出す。女は鼻で笑うとそれを受け取り口を付けた。

そしてゼノンは次はホットティーに浮かべられたレモンをスプーンですくい上げる。

 

 

「もうレモンティーにはちゃんと新しいレモンがあるんだ。だったらもうこの古いレモンは……レモンティーには――」

 

 

要らない。

 

 

「……フッ」

 

 

女はもう一度良太郎とハナを見る。

 

 

「さてどうする? 電王」

 

 

早くしないと――

 

 

「フフフッ!」

 

 

女は楽しそうに紅茶を楽しむ。

結果がどうであれ彼女は満足なのかも、しれない。

 

 

 




次はちょっと遅れるかも?

まあ未定で。

ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。