ファイズはアクセルフォームがめちゃくちゃかっこいいよね。
第11話 11514155417452
昔の夢を見た。
プレッシャーが無意識にあったのだろう、また彼女に助けられる夢。
でもその後に言われた言葉がずっと思い出に残っていた。
「ねぇ、拓真。大きくなったらあたし達結婚しようね!」
「え……えぇ!?」
遠い過去の何気ない約束だ、子供ながらに言った言葉には重みなんて無い。
ただなんとなく好きだから、それは友人としての意味だけだったのだろうが、ずっと一緒にいられると理由での言葉だった。
彼女はそう思っていただけかもしれない。だけどあの時は何も言えなかったけど嬉しかったんだ、だから僕は君を守りたい。
それが――
「たーくま! おっはよ!」
「……うん、おはよう。有里ちゃん」
僕の夢なんだと。
拓真は自分の影、ファイズの姿を見て曖昧な笑みを浮かべた。
檻、それがこの世界最初の感想だった。
その文字の通りこの街は巨大な檻で囲まれていたのだ。
どこを見ても鉄の網目にさえぎられ、その広い青空でさえドーム状の檻を介してでしか確認できない。
「なんか……気味が悪いな」
「檻で閉じ込められているのか、それとも何かからこの街を守るために檻で囲んだのか……気になるところではあるね」
この世界がファイズに関わる物である以上、おそらくオルフェクが何らかの形で関わってくるのだろうとは思う。
しかしただ檻を見せられてもヒントにすらならない。空には転々として何かが見えるが、それもまだ分からない状態ではある。
「つか、そもそも檻……ていうか柵っていうか分かんないけどさ。それに出口がちゃんとついてっかもよ?」
檻というのはイメージなだけであって、実際は檻とは違う何かなのかもしれない。
いろいろ話し合って、結局外に出て調査してみようと言ういつもの答えになった。
ただ、こんな鉄の網に囲まれてる街、あまりいい気はしな訳で――正直、行きたくないですオーラをそれぞれは発する。
檻と言う単語でいい気がする訳がない、それぞれは沈黙の抵抗をつづける。
「金髪ツインテール幼女にならペットにされてもいいですけどね。ハァハァ…」
「椿、少し黙ってろ。ぶち抜くぞ」
だがまあいつまでも黙っていても始まらない。
司は元気良く立ち上がり、その手を高く振り上げた。
「じゃんけんだ! じゃんけんで決めるぞッッ!」
良太郎、亘、翼はこくりと頷くと、手を出す
「そう……だな。よし、じゃんけんでいこう!」
ユウスケはうんうんとその手を構える、しかしそれを他ならぬ司が制した。
「ん!? ん?」
「ユウスケ、今回のじゃんけんは少し特殊なモノでいく」
「あ…ああ、あっち向いてホイとかみたいなヤツだな」
「ああ。そうだ」
その名も――ッ! 司はそう言ってユウスケを指差す!
「ユウスケ敗北じゃんけんポンッッ!」
「………」
「………」
「いや、あの…ごめん。ちょっと嫌な予感しかしないんだけど……一応ルール聞いといていいかな?」
「なんとッ! ユウスケは古代マンマルチーダ王国に代々伝わるこのじゃんけんを知らないとっ!?」
「ま、まんまるちー?」
椿は信じられないと言った目でユウスケを見る。
完全に悪ノリである、がしかしユウスケはそうなのかと眉をひそめた。
まずい、何も分からないのだが――
「ああ、このじゃんけんはな、一見普通のルールに見えるかもしれない」
「う、うん」
「まあ実際普通にじゃんけんをやるんだ。だが、このじゃんけんには一つ特殊なルールがある」
「うん、何?」
「それはな、小野寺ユウスケが既に敗北していると言う事なんだ」
「うん……」
「うん?」
「ユウスケ敗北じゃんけんぽん……まさか世界にはそんなじゃんけんがあったなんて意外だなぁ、もっと世界の事勉強しないと」
「ユウスケさん、あんたは怒っていい。怒っていいんだっ!」
結局じゃんけんに負けた亘とユウスケ、薫。拓真が街を歩く。
街自体は特にこれといった特徴も無いものだ。家の構造が違うだけで、コンビにやスーパーも存在している。
だが建物の構造等はとくに見るべきものはないが……?
「何か、それにしても」
亘はキョロキョロと辺りを見回す。
街の至る所に風船やピエロのお面が飾ってあり、花の飾り物やきらきら光るネオンが目立つ。
まるでお祭りでもしているかの様な風景。しかしおかしい、その割には人がいないのだ。楽しそうな音楽や飾りつけがかえって不気味になる。
「どうしたんだろう?」
「うぅん……?」
ユウスケがふと空をみると鳥の模様が入った気球が見えた。
そこには電光掲示板が備えられており、そこには数字の2000と表示されている。
「なんだろうか、あの数字……」
「さあ……――ん?」
突如電光掲示板の文字が変わる。
『GAME・START』
「?」
その文字が表示されると共に、なんだろうか? 気球から何かが落ちてくる。
そして同時に――
「うぉおおっ!」
「「「!?」」」
それが何か確認する前に物陰から小さな影が飛び出した。
「こ、子供?」
ぼろぼろの服を着た子供が地に降りたその何かに向かって走り出す。
その手にはおもちゃのピストルが握られていた。掲示板が示したとおり何かゲーム、イベントが始まったとでもいうのか?
一同は事態が飲み込めずにただ目を丸くする事しかできなかった。
「っ!?」
気球から降りてきたのはピエロ。
体は白黒、顔はお面をかぶっていて表情は分からないが、そのジェスチャーでおどけてみせる。
しかし子供はそのピエロに憎悪の言葉を投げつけ、玩具のピストルを向けた。
「お前はぼくがやっつけてやるッ! バンっバンッッ!」
男の子はひたすらに撃ちまくるが所詮は玩具。
効果があるわけがないし、弾すらでない。しかし男の子は必死に撃ち続ける。
ピエロも効いている様な素振りを見せながら徐々に男の子に向かっていった。
「な、なにかのゲームかな?」
「ど、どうだろうね」
おどけるピエロ達と怒り狂う子供。あまりの強烈な違和感にユウスケ達はうすら寒いモノを感じる。
ピエロと言う物はサーカスでは観客を楽しませる道化ではあるが、よく他の作品ではサイコでホラーちっくなイメージを持つものだ。
そしてすぐにユウスケ達は自分の目を疑う事になる。ピエロの足が、男の子に文字通りめり込んだ。
いや正確には少し違う。さも当たり前といった雰囲気でピエロは男の子を蹴り飛ばした。
そのあまりの光景に、ユウスケ達は何が起こったのか、思考が麻痺してしまう。
「……は?」
思考の整理が追いつかない。
今起こった事を理解できない! この男の子はどうなった!?
「が……ハッ! げほッ!ゲホッッ!」
「だ! 大丈夫っ!?」
我に返った拓真が男の子の元へと駆け寄る。
同時にユウスケ達もやっと今起こった事を理解して、ピエロに詰め寄った。
あれは明らかに冗談のレベルで行った蹴りではない。おもちゃの銃での攻撃に対してはあまりにも理不尽な返し。
「おい! 何するんだよお前ッッ!」
ユウスケはピエロに掴みかかるが、ピエロは何も動じない。むしろ相変わらず笑っておどけて見せた。
男の子の様子を見る薫、やはりピエロは本気で男の子に攻撃を加えたようだ。苦痛に歪む男の子の表情がソレを証明していた。
「お前ッ!」
ユウスケに怒りの感情が芽生える。
しかしピエロは狂ったように笑うと、姿を化け物へと豹変させた。
それは色彩無き道化。キノコをイメージさせる帽子に、笑っている仮面をつけた化け物だった。
「なっ!」
「あれが……オルフェノク!」
『ヒャハハハハハ!』
笑いながらもクラウンオルフェノクはユウスケを"殺そう"と彼に襲い掛かる。
ユウスケはクラウンの攻撃をぎりぎりでかわすと、ベルトを出現させた。
ベルトは赤い旋風を巻きこしてユウスケの手足、胴体をクウガに変える。
彼は眼前にいたクラウンの一体を掴むと、頭突きと共に声を上げた!
「変身!!」
『ヒャハハァハハアハアアハハ!』
頭突きと共にユウスケは完全にクウガに変身する。
怯んだクラウンに、クウガの拳が叩き込まれる。一発、二発と打ち込まれていく一撃。
しかしクラウンは笑い続けるだけ、三体のクラウンが奏でる狂気の笑いはクウガの心に不安を焚きつける。
「くそっ、効いてるのか…?」
『キョワハハハハハァアアアアッハハハ!』
殴られる度にクラウンは笑う。他の二体も仲間が殴られているのを楽しそうに見ていた。
まるでパニック映画に出てくるゾンビだ。何をしても効いているのか分からない、ただ狂ったように笑い続けるだけ。
『ヒャハハハハハッ!』
「うわっ!」
殴られ続けていたクラウンがいきなり身体を反らし、クウガの攻撃を流す。
そのままクウガの手を掴み、膝打ちを入れ、投げ飛ばした。どうやら彼らはただ殴られるだけのサンドバッグと言う訳ではない様だ。
明確な殺意と狂気を孕んだ知的生命体。原作と同じく元は自分達と同じ人間なのだろうか?
少なくともクウガにはそう思えなかった訳だが。
「ユウスケさん!」
「大丈夫! ………ッ!」
クウガは借りるよ、と優しく男の子に呟き、男の子が持っていた玩具のピストルを手にする。
同時にベルトが緑の旋風を巻き起こした。各種の装甲が赤から緑に色彩を変化させていく。
「超変身!」
クウガの姿が緑に、ペガサスフォームへ変わる。
そのまま玩具のピストルをペガサスボウガンに練成させると、狙いを定めた。
「ブラスト――ッッ!! ペガサス!」
『ぎぇはハッハハアハアアヒハハウァハハハっ!』
烈風の弓矢がクラウンの胸を打ち抜く。
クウガの紋章が現れると、クラウンは楽しそうに両手を広げ爆発。
「はぁ…はぁ……ッ!!」
自分の攻撃が通用すると安心したが、それでも尚、謎の緊張感がクウガを包む。
得体の知れない相手がここまで心を追い詰めるとは。ペガサスの精神的負担も倍加したように感じる。
疲労感がクウガを襲うが、まだクラウンは二体残っているのだ。
『フヤァハハハ!』
『ピロピロピオロォォハハハハハハ!』
クラウン達は馬鹿にした様におどけながら、クウガに背を向けてスキップで走り出す。
一体の先には男の子と亘達が、もう一体の先には何も無いがこのままでは逃げられてしまう。
「くっ! うッッ!」
クウガは二体を追う為に一歩踏み出すが、そのまま膝をついてしまった。
想像以上にペガサスで体力を持っていかれたのだろう。緊張から生まれる心のブレがペガサスの制御力を落としてしまった。
『困った時のキバットバットぉおお!』
『ピャハハハハハラハハハラアラアぁアぁ!』
だがこのままでは終わらない、亘達に近づいてきたクラウンをキバットがなぎ払う。
そしてそのまま差し出された亘の手へと噛みついた。刻印が亘に刻まれると、彼はベルトにキバットをセットする。
『がぶーっ!』「変身!」
闇のオーラが装甲を与え、キバットが発する力が音の波となり外殻を弾き飛ばす。
現れたのはキバ。彼はすぐに蹴り上げで近くにいたクラウンを弾き上げると、そのまま回し蹴りの連続でクラウンを押し出していく。
『バハハハハッハハハハハハハ!』
向こうに逃げたクラウンもうまくはいかない。
校庭の方角から拓真の危険を察知したオートバジンが掛けつけ、クラウンをガトリングとパンチでクウガの方へと押し戻していく。
「超変身ッ!」
ドラゴンフォームへとクウガは姿を変えた。
駆け寄ってきた薫をドラゴンロッドに練成させ、クラウン達を見る。
『ユウスケ、大丈夫?』
「あ、ああ!」
クウガはその場でドラゴンロッドを振り回し、力を込める。
ロッドの両端が淡く輝くのを確認すると、クウガは肩膝をついて止まった。ロッドは地面と平行にして構えており、封印の力を一気に解放する。
「はあッ!」
キバは回し蹴りから渾身の力を込めクラウンを蹴り飛ばす。
オートバジンも同様に掌底でクラウンを吹き飛ばす。
そして二体のクラウンが吹き飛ばされた先にはドラゴンロッドの先端、二体のクラウンはその先端に触れてしまう。
『ひゃハハハハアハハハッハアッッ』
『キャパアアアアアアアハハハハハアアア!』
スプラッシュドラゴンによってクラウンオルフェノクは爆散して消え去る。
クウガたちは敵がいなくなったのを確認すると、男の子を抱えて一度学校へと戻るのだった。
「はぁあッ!」
『ヒャハハハッハハハハア!』
アギトの拳をクラウンは笑いながら受ける。翼と司もまたクラウンオルフェノクと戦闘中だった。
学校で待機していたところ、窓からクラウンの姿を見つけたのだ。
人々を襲うクラウンを放っておくわけが無い。二人は変身し、クラウンに戦いを挑んだのだった。
「気味悪い奴らだな!」『アタックライド』『スラッシュ!』
ライドブッカーを剣に変えクラウンに切りかかる。
クラウンは避けようともせず、剣をその身体に受けても楽しそうに笑うだけ。
「たあああああああああっ!」
『ヒャハァアアアアアアアアア!』
斬撃が強化され、クラウンを断ち切る。
絶命の瞬間までクラウンは笑い続けていた。恐怖の感情がないのかコイツらは?
死に対して何の抵抗も見せないなんて、明らかに普通の人間ではない。それに複数の固体が存在している所を見ても一人の人間が変身しているとは考えにくい。
「司君! 後ろだ!」
「え? ぐっ!」
アギトの声を聞き、ディケイドは身体を反らす。
おかげで直撃は免れたが、クラウンの攻撃がディケイドにヒットしてしまう。
笑い続けるだけとも思えば反撃もしてくるか。、すます意図が分からない。
しかし、やはりと言うかその攻撃は正当防衛の意味を含んでいなかった。つまり生きるために攻撃するのではないと言うこと。
「くそっ、無駄に数が多い!」
「気をつけて、一体破壊するごとに反撃してくるみたいだ」
ナイフを構えて走ってくるクラウンを見て、アギトは腰の中心から刀を取り出す。
「集え、炎よ!!」
左腕が炎に包まれ、赤に染まっていく。
炎が弾けると、胸部と左腕が赤くなったアギトへと変わった。
「おお! フレイムフォーム!!」
剣のデザインが司の知っている物とは違うがアギトの姿は紛れも無くフレイムフォームだ。
剣と言うよりは刀と言った方がいいか、トライホーンの様なモノが無い。本物よりシンプルになっていた。
アギトは鞘からフレイムセイバーを引き抜くと、鞘と一緒に構えて立つ。
『ひゃははははーははは! バッ!』
クラウンのナイフをセイバーでいなし、鞘で殴りつける。
体勢を崩したクラウンに回し蹴りを決め、そのまま地面へと叩きつけた。
狂ったように笑いながらクラウンはじたばたともがく。だが周りにいた数体のクラウンはそれを気にする事無く、ナイフを構えアギトへと向かっていった。
どうやら彼らに仲間意識は存在しない様だ。生物である事は確かだろうが、行動には機械的な物を感じる。
「やれやれ、仕方ない――ッ!」
アギトは踏みつけていたクラウンを蹴り飛ばすと、後ろに下がる。
そしてセイバーを鞘にしまい居合いの構えをとった。
「はぁぁぁぁあ―――……ッッ」
アギトの紋章が地面に現れ、エネルギーを集中させる。
クロスホーンが展開し、炎の力がアギトを中心に発生していった。
『ヒャハハハハアハハハハハーハハハッ!』
クラウン達がそのオーラに触れた瞬間、何か赤い光の様なモノが見えた。
しかしアギトが何かをした様子もない、今も居合いの構えを保ち続けたままだ。
だがクラウン達は何故かアギトを素通りして走っていく。
「?」
ディケイドは不思議に思う、そして気づいた。鞘から刀が少しだけ出ている。
アギトはクラウン達が全て自分の後ろへ行くと、刀を鞘へ納める。
そしてカチリと音がして――
「!!」
その音をきっかけにしてクラウン達の身体に赤い線が刻まれる。
そしてすぐにクラウンの体は、ずれる様に歪み爆発した。
「か、かっけぇえええ! 先生凄いじゃないですか! いつの間に斬ったんですか? いや全然見えなかった!」
「ハハハ、ありがとう」
恥ずかしそうに笑うアギト。だがまたアギトは声を上げる。
その言葉に反応して振り返るディケイド。
『ヒャハハハーッッ!』
「うおっ!」
油断したディケイド達に再びクラウンの群れが襲い掛かる。
見ればさらなるクラウン達がナイフを構えてやってきたではないか!
「またかよっ! ぞろぞろと!!」
「司君! あの数字が変わってる」
その言葉を確かめるためにディケイドは空を見上げる。
先程気球の電子掲示板に書かれていた数字は2000だ。しかし今、数字は1983になっている。
「……! 司君、時間は掛けられない、一掃しよう!」
「ああ、分かりました!」『ファイナルフォームライド』『アアアアギト!』
アギトはアギトトルネイダーへと姿を変え、猛スピードでクラウン達を吹き飛ばしていく。
ディケイドはトルネイダーに飛び乗ると、ライドブッカーを構え二枚のカードを差し込んだ。
『ファイナルアタックライド――』『アアアアギト!』
アギトの紋章を潜り抜けると、アギトトルネイダーは金色の光に包まれ加速する。
そのままクラウン達を吹き飛ばしながら、辺りを飛び回るアギトトルネイダー。
ディケイドの意思で自由に飛びまわれるだけでなく、アギト自身のサポートでも動く事ができる為、クラウン達には動きを捉える事ができない!
『ディディディディケイド!』
ディケイドの目の前にホログラムカードが出現する。
彼はそれをサッカーボールの様に蹴り飛ばす。すると、カードはある程度飛んだ後にその場に静止して留まった。
それを繰り返し、五枚のホログラムカードを空中に展開させる。
「『たあああああああああッッ!!』」
アギトトルネイダーがその一枚をくぐり抜けた瞬間、まさに一瞬で次のホログラムカードまで移動する。
あまりのスピードに金色の残像がその場に現れる程だ。残像には攻撃判定があり、直接アギトトルネイダーに弾かれたクラウンはもちろん、それに触れたクラウンまでもに大ダメージを与える。
そして一秒か二秒で全てのホログラムカードを通過し残像を爆発させる。
ディケイドトルネード。
ホログラムカードで連鎖のラインを整えた後、超高速誘導でエネルギーを残像に乗せる。
ディケイドもまたライドブッカーで相手を切りつけるダブルアタック。クラウンは一掃され、二人は変身を解いた。
「司君。やはり数字が変わっているね」
翼は電子掲示板を指差した。数字が1970に変わっている。
「あ、本当だ。何の数字なんだろうか……」
「おそらく今倒したピエロの様な怪人の数じゃないかな。今倒したのも十三体だったからね」
「成る程! 全然数えてなかった……」
でも、司の表情が険しくなる。
「そうだね。あれがオルフェノクの残り数だと考えると……かなり厳しい戦いになるかもしれない」
「それにあのクラウン、みんな声が同じだった。ッてことはやっぱり量産された存在だって事ですかね?」
「どうだろうね、とにかく対策を立てないと私達だけじゃ厳しい戦いになるよ、これは……」
「ぅ……ぅうっ!」
「あ! 気がつきました?」
男の子はゆっくりと目を開けて辺りを見回す。
夏美は優しく微笑むと、男の子を抱き上げた。
「お名前は?」
「ウノ……」
「ウノ君ですね。私は夏美っていいます。大丈夫ですか?」
ウノはこくりと首をふる。
「……ここはどこなの?」
「私達の学校です。まあ、細かい事は気にしないで!
それよりもウノ君、もしよかったらこの世界で何が起こってるのか教えてくれませんか?」
「え?」
「あの数字、ピエロみたいな化け物。何でもいいんです」
「あ……うん!」
ウノは力強い返事をすると、この世界の事を話し始めるのだった。
「お、おいっ!あんた等!」
「ん?」
一方司達が学校へ戻ろうとした時、襲われていた男の一人が声をあげる。
逃がしたと思っていたが近くに隠れていたようだ。男の顔は未だ恐怖に満ちており、司達は足を止めた。
「どうしたんですか? もし良かったら家に送って――」
「たっ、頼む! 助けてくれっ! もう時間がないんだ!!」
「え?」
男もまた語り始める。この世界の事を――
「それは…本当ですか!?」
「ああ! この街は一ヶ月前までは普通の街だったんだ。だけど……アイツが現れた」
「アイツ?」
「ああ、ピエロみたいな格好だった。そいつは自分の事を『道化師』って言ってたがそれ以上は知らない。それで……ッ! そいつは俺達にこう言ったんだ。」
皆さん刺激は足りていますか? いきなりそんな事を言われて答える人間はいない。
それに彼は特定の個人ではく全体に問いかけたのだから。とにかく街の人々はいきなり現れた道化師を変人としてしか見ていなかった。
警察を呼べば良いのか、ココから逃げたらいいのか、各々が思考をめぐらせていると――
『足りないでしょう!? だって人間なんて誰もが刺激を求めるモノ! ならばこの廃った世界に潤いを!』
その言葉と共に、この街は巨大な柵に囲まれてしまったんだと男は言う。
それだけじゃない、あのピエロみたいな化け物が現れていきなり暴れ始めたのも同時期だった。
これが道化師が行った事だというのに人々はすぐに気づいたが、何も対処などできる訳も無い。
そのまま道化師は言葉を続けていく。
『ゲームをしましょう! 制限時間内にクラウン達を全員倒せたら貴方達の勝ち! もしできなかったら……』
「で、できなかったら……?」
「爆発!?」
「うん……この街ごと全部無くなっちゃうんだって――!」
ウノの話によるとこの街の地下に巨大な爆弾が仕掛けられており、制限時間内にクラウンオルフェノクを全て倒さないと爆発するらしい。
「そんな……めちゃくちゃな――」
「そのめちゃくちゃな理由で俺達はもうすぐ死ぬんだっ!」
「す、すいません…」
司も夏美と同じ事を思っただろう。
男はその場で声を殺して泣いた。確かにめちゃくちゃな話ではあるが、クラウンを出現させ街を檻で囲む程の道化師ならばソレを用意する事も可能の筈。
ならば彼が言った言葉は本当。本当にクラウンを死滅させなければこの世界は終わるという事かなのだ。
「残り時間はあとどのくらいなんですか?」
「二日だ……」
「!」
あと二日で1970体を倒さないと駄目。無理だ、普通に考えて。
多少は気球に隠れているのかもしれないが、それでも全てではないだろう。
クラウン達がどこに隠れているのか、それすらも分からない状態でそれだけの数を倒さなければいけないなんて――
「先生、学校に街の人間を避難させるってのは?」
「そうだね、多少無理やりにでも押し込めば――」
「無理だよ」
「!」
ゼノンとフルーラがくすくすと笑いながら、灰色のオーロラから現れる。
出鼻をくじいてやったと言わんばかりのドヤ顔に司は不快な表情で二人に詰め寄った。
「無理?」
「ええ。爆弾が爆発すればこの世界は消し飛ぶわ、だから貴方たちもゲームオーバーと言う訳」
「たしかにあの学校は安全だけれど世界そのものが無くなっちゃったら意味ないからさぁ」
残念でした。
そう顔で語るフルーラ、さてそうなると。
「つまり――」
「ええ、がんばってね。あと1970体……うふふ」
「ククッ! 期待しているよ破壊者ディケイド!
土下座でもしてくれるなら、ボク達も百体くらいは手伝ってあげるよ――! フフフッ!!」
それだけ言って二人は砂のオーロラに消えていく。
沈黙がしばらく続いた後、翼はゆっくりと口を開いた。
「やろう、司君」
「はい……ッ!」
二人は静かに覚悟を決めた。
もはや迷っている時間は無い、この世界を救うためには一刻を争うのだから。
一方、ある場所では――
「へっ、コレがその爆弾様ってか?」
燃えるような赤い髪と黄色のメッシュ。それは文字通り炎の様な髪に見える。
それに派手で露出の多い服、そして何より鋭い目の少女はそれを見上げた。
「
メガネを掛けたやる気の無さそうな緑髪の少年が言う。
朱雀と呼ばれた少女は、へいへいと投げやりに答えて後ろへ下がった。
彼女達の前には見上げなければ視界に捉えきれない程の爆弾があった。少しでも刺激すれば今にも爆発しそうにも思えてしまう。
「ディス君。こ、こわいよ……もう帰ろうよ……!」
まだ少し幼さが残る銀髪の少年がブルブルと震えながら、メガネの少年ディスに問いかける。
確かにこんな爆弾の前にいるのはいい気がしない、だが他のメンバーは特に怖がる様子もないようだ。
むしろ興味がなさそうな様子、どうやら彼らがココにいるのは本心ではないようだ。
「かぁー! 安心しろよリラ。爆発するのはまだ先なんだからよぉ!」
「で、でも……!」
リラと呼ばれた少年はそれを、巨大な爆弾を見上げる。
彼らがいるのはこの街の地下、つまり道化師が爆弾を仕掛けた所だった。
荒れた鉱山の様な所に小さなビルほどの大きさがある爆弾が置いてある。
爆弾にはたくさんのピエロのお面とお菓子がくっついていた。
「リラの言う事はもっともですわ。こんな所、一分一秒だっていたくありません。あの悪趣味なモノを見ているだけで吐き気がします」
三人から少し離れた所に深い青色の髪の少女が座っている。
少女がいる場所には地下だというのに日傘が刺さっており、豪華なティーセットが置いてあった。
少女の服、座っている椅子から見て、相当のお嬢様なのだろう。こんな場所とはとても不釣合いに見えるが――
「マリンお嬢様、あまり悪く言うものではありませんよ。リーダーはアレを欲しがっているのですから」
「分かっていますタイガ、全く、彼のセンスには理解しがたいモノがありますわ」
執事服に身を包んだ金髪の少年タイガは、仕えているマリンを落ち着かせる。
「ところで、その肝心のリーダ様はどこに行ったんだ? もう集合の時間はとっくに過ぎてるぞ」
「おう、そうだぜ! アイツから呼び出しといて遅刻たぁよぉ。しっかも一人に至っては来てねーし」
五人の少年少女は辺りを見回す。しかしどこにもそれらしい人はいない。
全く、マリンはため息をついてうなだれた。こうやって集まる時にはほぼ必ず誰かしらはこないものだ、今も結局二人のメンバーがいないというものである。
特にその一人は自分達をココに集合させておいて現れないと来た。なんてヤツだ、他のメンバー達は怒りに表情を歪ませる。
「あのトレジャーハンターならお宝を探しにいったよ」
「!」
岸壁の上からゼノンとフルーラが現れ、彼らを見下す様に笑う。
どうやら一同とは知り合いの様だ、彼らもゼノンたちに一瞬驚きこそすれど存在を疑う事はない。
「お前らか……」
「お久しぶり、なのかしら? えぇと……なんだっけゼノン?」
「お…お宝っ…パイレーツ…ブプッ! プクククっ…! お宝パイレーツ……ぶふーッ!!」
「ああ! 思い出したわ! お宝パイレーツストロングツイスタースターズね!」
二人は完全に馬鹿にした目で彼らを見る。
「センスの欠片もないねぇ、君達」
「長い名前ー! 略すとおぱんつ?」
「ちょっと、違うよフルーラ。でも愛しい君が言うならそれにしよう!」
「おぱんつーおぱんつー」
「おぱんつーおぱんつー!」
「うるせぇ馬鹿ヤローッ! つかその名前で呼ぶんじゃねぇよッ!!」
「言っておくがこのクッソダサい名前をつけたのはアイツだからな! 僕達じゃないからな!」
朱雀とディスが真っ赤になって否定するがゼノンとフルーラはケラケラと笑うだけ。
どうやら二人に振り回されると言う点では彼らも司たちと共通するものがある様だ。
「ぷぷっ、まあそう言う事にしておいてあげる。あら! マリン、今日も素敵なお洋服ね!」
フルーラの目がきらきらと輝く。マリンも嬉しそうに胸を張った。
「ふふっ、ありがとうフルーラ。貴方もとってもかわいいですわよ。」
「へっ、オレにはわっかんねーな。こんなフリフリのどこがいいんだ?」
朱雀はマリンのフリルを強引に掴むと不思議そうに二人を見る。
マリンはムッと頬を膨らませ、その手を弾いた。
「お黙りなさい露出狂! 貴女の担当は『色欲』じゃないでしょう!」
「貴女みたいな半裸に言われるとはお終いなのかしら……」
「はあっ! 半裸ぁあ!? ろ、ろしゅ!」
顔を真っ赤にして朱雀は冷たい目をしている二人を睨む。
「だ、大丈夫! この前ちょっと見えちゃったけど……! まだ普通だよ朱雀ちゃん!」
「見えたって何がだよぉおお!」
「くっ、ぐるじいぃ…!」
リラを掴んで振り回す朱雀。
そんな二人を呆れた目で見ながら、ディスは二人に視線を移す。
「はぁ……ところでフルーラ、ゼノン。僕達に何か?」
ゼノンとフルーラはそうだったと顔を見合わせる。
「君達、この爆弾は放って置いてくれよ」
「いかにもあのトレジャーハンターが好きそうなものじゃない。忠告しにきたの」
五人は爆弾をみる。そして確かにと頷く。
現にリーダーはこれをほしがり、奪うつもりだった。
「あほリーダーは使えそうなモノ程簡単に手放すからな」
「ええ、あとイメージ・リングの件については感謝するわ。とっても助かったのよ!」
「はーん……で、どうなんだ? まだ顔もみてねーけどよ。そいつ等は?」
ゼノンとフルーラはニヤリと笑って五人を見る。
それは少なくともマイナスの意味を持つモノではないと言う事が朱雀たちには理解できた。
どうやら今回は当たりの様だ。どうやら今回はじめて自分達はかかわりを持つかもしれないと彼らは思う。
「なかなか……いや、かなりいいんじゃないかな。彼らはね、もしかすると君達と同じく――」
ゼノンはそこから何も言わなかったが、五人は頷く。
そこまで言えばもう意味を理解した様だ。どうやら今回は本気と言う事なのだろう。
いや、以前も本気だったのかもしれないがゼノンたちから感じられる期待値も合わさってそう感じた。
「成る程。まあ、いずれ会う事になるかもな」
さて、じゃあもう帰ろうかな。
そう言って五人はゼノンとフルーラに背を向けて歩き出す。
「おや、もういいのかい?」
「ああ。リーダーもこないんじゃここにいる意味も無い」
「ディケイド達に会ってみないの?」
「そいつらが有能ならいずれ会うことになるだろ? 別に今じゃなくても構わないさ」
そう言って彼らは消えて行く。
残されたゼノンとフルーラは尚もニヤついていた。
「あら、でもゼノン。別に爆弾くらい撤去してしまえばいいのではないかしら?」
「駄目だよフルーラ。教えていなくてもリハーサルじゃ意味はない、失敗できない本番じゃないとね」
ゼノンは爆弾を見ながら、静かに笑うのだった。
「君達、酷いじゃないか。リーダーを置いていくなんて」
「アンタが勝手にどっか行ったんだろ!」
ディスの言い分をさらりと流しリーダと呼ばれた男はヘラヘラと笑う。
「んで、どーすんだよ。お宝つうか爆弾つうか」
「うーん、トレジャーハンターとしてはアレを見逃す手はないんだけど……」
「あんなモノがアジトにあったら落ち着きませんわ。スルーです! スルー!」
マリンの激しい拒絶に彼はやれやれと首を振った。
「しょうがない、見逃そうか。感謝したまえよ、この偉大なトレジャーハンターがあきらめるんだから」
「よし、じゃあもうこの世界には用はねぇな! 何か食いにいこうぜ!」
「君から話す時はだいたい食べ物の話題だねぇ。さすが『暴食』だ、太るよ?」
「う、うるせーな!」
「大食いで何食べても、うまい、ですからね」
鼻を鳴らす朱雀。暴食をつかさどるものにはそれなりのプライドがあるのだと彼女は言っていた。
それは何を意味する事なのだろうか? 今の状態では何も分からない。
「へっ、オレは動くからいいんだよ。でもよマリン、お前は甘いモンばっか食ってる割には動いてねぇよな? 怠惰ってのは結構だけどよ? 太るのはお前の方じゃねぇのかぁ!」
「う、うるさいですわ!」
そう言って笑う彼らの前に――
『ヒャハハハハハ!』
『アーハハハハ! キハハハハハ!』
狂ったように笑うクラウン達。
だが彼らは嘲笑する。現れた化け物に対する恐怖の感情は欠片とて無い様だ。
正確にはリラは震えているが、それでも朱雀たちに怯む様子もクラウンを珍しがる素振りも無い。そこにいるのが当たり前だといわんばかりの態度ではないか。
「おいおい、誰にケンカうってんだ?」
朱雀はどこか楽しそうに、何かを取り出すとそれを弾いた。
ピンッ!
回転しながら落ちてくるそれを掴む為に、手を伸ばす。
しかしそれより早くリーダーと呼ばれていた男がそれを奪う。
「あ! おい、なにすんだ?」
「ここはぼくに任せたまえ。せっかく司……だったっけ? 彼らとお宝を探しに来たのに、どっちも見つけられなかったんだ」
興ざめだと彼はいう。せめてこのイライラを誰かにぶつけなければ気がすまない。
彼はそういって一同の前に出た。
「ああそうかよ、じゃあ二人でやるぞ! つかお前司ってヤツに会った事あるんだろ!?」
「ああ。でもあの時はぼくも急いでいたからね、覚えていないんだよ」
「海東らしいですわね。さて、わたくし達は戻りましょう?」
そう言ってマリン達は歩いていく。残されたのは――
「さて、ひと暴れすっかな!」
「ふっ、ほどほどにしたまえよ」
海東と呼ばれた男はニヤリと笑う。
そしておかしな形をした銃をとりだすと、クラウン達に向けて発砲した。
「ふっ…」
海東はどこからか一枚のカードを取り出し銃に装填する。
『カメンライド――』
「へっ!」
「ん……!?」
「?」
屋上で様子を確認していた真志は何か音声のようなモノを確認して表情を変えた。
となりにいた美歩は不思議そうな表情で彼を見る。
「今なんか聞こえなかったか?」
「何が?」
「なんか…ディッエーンッ……みたいな」
「はぁ?」
「いや、だからディッエーンッだって!」
「ディッエーンッ?」
「そう、ディッエーンッ!」
………。
「イエス! ディッエーンッ!」
「カモン! ディッエーンッ!」
「「ディッエーンッ!!」」
「うるせええええええええええええええええええええええッッ!!」
椿は屋上の二人に向けて吼えるのだった。
「ねぇ……お兄…ちゃん」
「ん? どうしたんだ真由?」
一方同じく校庭にいた双護と真由。
二人もまた真志と同様なにか音声を確認したらしい。
「何か…お歌が…聞こえたの…」
「歌?」
「うん…なんかね…たぁじゃぁどぉぉりゅぅぅ! って!」
「………」
「………」
「うまいぃぃいッッ!! さすがは俺の妹だ! 将来はアイドルかな!」
「本……当!? お兄…ちゃん!」
「ああ! もう一回歌ってみてくれ!」
「うん…! たああああじゃああああ!」
「最高だぞ真由ぅぅぅぅうううううう!」
「お前らもうるせえええええええええええええええええええッッ!!」
次は中庭にいる二人に椿は声を荒げたのだった。
「でも実際俺が一番うるせぇえええええええええええええええええ!!
どんどこどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッッ!!」
イライラするときは、叫ぶのがいいかもしれない。
そして、二日目――
「変身!」『カメンライド・アギト!』
光と共にディケイドはアギトにフォームチェンジを行う。
襲い掛かるクラウン達の攻撃をいなし、反撃を繰り返してダメージを与えていく。
居合いの様な立ち回りのアギト、相手の攻撃をいなして自らの拳をクラウンの胴体に打ち当てる。
「ほらほらー! バンバン!!」
さらに追撃としてガンフォームの銃弾がクラウン達に命中していく。
クラウンの狂った笑いも、リュウタロスにとっては楽しそうなものと映る様だ。
あれからクウガ、ディケイド、電王、キバ、アギトと戦える全てのライダーがクラウン討伐に向かっているが、それでもなかなか数字が減る事はなかった。
一度に現れるクラウンの数もまちまちで、このままならかなり危険な状況となってしまう。
『フォームライド』『アギト・ストーム!』
風と共にアギトの姿が変わる。そのまま一気に風の力を解放して、クラウンを一箇所に収束させた。
嵐の力には対抗できず、ボールの様に纏められて空へ持ち上げられるクラウン達。そこに電王の必殺技が向けられる。
『FULL CHARGE』
ワイルドショット。
紫の巨大な光弾は一箇所に集まったクラウン達を全て灰へと変えた。
「……次にいこうか」
「は、はい……!」
さすがの二人も疲労であまり動けない様だ。
空は曇天、相変わらず数字はほとんど変わっていなかった。
果たして、間に合うのだろうか? 翼は明確な焦りを感じていた。圧倒的に効率が悪い、これでは確実に――ッ!
「ねえ、友里ちゃん……」
「ん? どうしたの?」
「僕、ココに居ていいのかな?」
「え?」
学校、教室の隅で拓真が小さく呟いた。
皆がこの世界の為に頑張ってるのに、一番頑張らなきゃいけない自分が何もしてないなんて。
それに状況を考えると自分が変身して戦ってもいけるかどうかの瀬戸際なんだ。だったら一刻も早く自分は行動しなければいけないのではないのか?
しかしその思いとは裏腹に動けない自分もいた。ファイズになるにはファイズギアを手に入れなければならない。
その検討がつかない以上、下手に動くのは逆に足手まといとなってしまう。現在はディケイド達が戦闘の間に探してくれているが、それでも拓真としては色々と思う所があるのだろう。
それを聞くと、友里は優しく微笑みながら拓真の隣に座った。
「無理しなくていいよ拓真。きっと大丈夫だから」
「でも――」
「でもじゃない! ホラホラ、拓真がそんな顔してるとあたしも悲しいな」
「う、うん」
拓真はまだ納得していない様だがなんとか笑顔を浮かべる。
その様子に友里は満足そうに頷いた。
「そうそう! 拓真は笑ったほうが素敵なんだからそうしてた方がいいって!」
「え!」
拓真の顔が赤くなる。
冗談なんだろうか? それでも嬉しい、拓真は恥ずかしそうに微笑んだ。
それにつられて友里も笑う。そうしていると教室の扉が開いて真志が入ってきた。
「あ、真志君どうしたの?」
真志は拓真を見つけると、先程ウノから聞いた情報を教えた。
それは中々興味深い情報で、ぜひ拓真にと思ったのだ。
「ウノの両親達がいる地下シェルターがあるんだが、そこに村野博士って人がいるらしい」
「その人がどうかしたの?」
「本人曰く天才らしいんだが、その人が対クラウン用の武器を作っているらしい」
周りの人間は気味悪がって近づかないらしいが、ウノが見た時その人の作ってる武器がベルトに見えたと言う情報を聞いたのだ。
「ベルト……」
「この世界ってベルトって言ったらもうそれしかないだろ。どうだ? 行ってみねぇか?」
「う、うん!」
その時、拓真の中に期待が。
そして同時に遠い記憶が蘇る。それは彼にとっていつか越えなければならないラインとも言えるもの。
「こらぁー! あんた達っ!」
「うぇ! 友里だ! 逃げろ、お前ら!」
「くそっ、本当にうるせぇ女だぜ!」
「あーあ。白けた白けた! 帰ろうぜぇ」
友里が睨む中、男の子達はそそくさと走っていく。
気の弱い拓真はいじめの標的になりやすい。そして反対に気の強い友里はその光景が許せなかった。
それが拓真でなかったとしても彼女は助けに向かっただろう。そして拓真にとって彼女は希望とも言える存在だった事は確かだ。
「拓真! 大丈夫っ?」
地面に落ちていた拓真のランドセルを友里は拾う。
友里はにっこり笑ってそれを拓真へ差し出した。
「はいっ!」
「あ……りがとう」
拓真は曖昧な笑みを浮かべてそれを受け取った。
やはり彼も弱いとはいえ男だ、女の子に助けてもらうのは若干の抵抗がある。
しかも少し気になる相手だ、子供心にかなり複雑な感情が裏にはあった事だろう。
「大丈夫? それにしても酷い! どうしてあんな事されてたの?」
拓真がいじめられる事は少なくない、その度に友里は彼を助けていた。
しかし何分クラスが違うため、いつもいじめられる前に助けられないのが彼女の悩みである。
「今度のテスト。皆でカンニングしようって話になって…嫌だって言ったら…」
拓真は服についた汚れを落としながら笑う。
しかし目は全く笑っていなかった。彼は気が弱いとは言われれど、駄目と思う所には徹底的に駄目と意見を述べる。
やはりそれが面白くないと思う相手も多いはずだ。真面目に生きているつもりでも、それがうとましく思われる事はある。
「うん、偉いぞ拓真! 拓真は優しいもんね。あたし、そんな拓真が好きだよ」
「え!」
友里の笑顔を見て拓真の顔が赤くなる。
彼女は自分のやる事を間違いだとは言わない。むしろ正しい事をしているのだから胸を張れといってくれる。
悪い事をしてまでなじむクラスなんて間違っている。彼女はそう言って笑ってくれた。
「それに安心して! これからも拓真はあたしが守ってあげるからね!」
「………」
「?」
拓真の表情が曇るのを友里は理解できなかった。
友里にとってはそれが当たり前なのだから、何も不思議な事など無いのに
「友里ちゃんは…どうして僕の事を守ってくれるの? 同じマンションに住んでるから?」
「え?」
「今はまだ大丈夫かもしれないけど……いつか標的が友里ちゃんになるかもしれないんだ」
その言葉に友里は少し沈黙する。そして、また笑った。
「拓真が、あたしに似てるからかな……」
「っ?」
拓真にはその顔が笑顔に見えただろう。
しかし友里は決して笑ってはいなかった、拓真と同じ、口だけ吊り上げる。
偽りの笑顔、彼女もまた色々と思う所があったのだろう。
「拓真だってたまには言い返してもいいんじゃない? ガツンとやっちゃいなよ!」
「いいんだ。僕、そういうの嫌いだから」
「もう、拓真は優しすぎる!」
嫌い? 優しい? 違う、僕はできなかただけだ。
純粋に――ッ! ただ純粋に動かなかっただけ、動けなかっただけ。
「大丈夫、拓真?」
「……うん。大丈夫」
我に返る拓真、あの時から自分は少しでも変われているのだろうか?
真志、亘、拓真と友里の4人はその天才がいるというシェルターに向かっていた。
本当にバイクが乗れる事に驚きながらも彼らは進んでいく。
「それにしてもオレのバイクだけ浮いてね? これ本当にライダー乗ってたのかよ……!」
亘が乗っているのはマシンキバーと呼ばれるキバのバイク。
見た目はまだ普通だが馬のファンガイアの脳が移植されており、亘を認識して自動操縦も可能と言うまさに生きるバイクなのだ。
そして拓真が乗っているのはオートバジン、すでに使用もしているが彼の危険を察知してAIが作動する。
これもまた生きるバイクだ、通常のビークルモードからロボットの様な形態に変形できる。
しかし真志のバイクはどうみても普通のスクーター、スクーターなのである。
「兄さんが言うには、それ変身前の人が乗っていたヤツらしいっすよ」
「なんでオレだけ……」
「あはは、ドンマイ!」
女性陣にはバイクは与えられていない。
よって友里は現在拓真の後ろに乗っていた。そして拓真の表情は硬い、やはり緊張しているようだ。
「安心しろよ、緊張するなって方が無理さ」
「そうだよ拓真さん。ボクだって本当に怖かったんだから」
真志と亘のフォローに拓真は笑みを浮かべる。
しかしやはりそれは少しぎこちないモノだった。
「拓真! いくら拓真が優しいからってクラウンは殴らなきゃだめだからね!」
「う、うん……」
優しい? 違うよ友里ちゃん。拓真はずっと昔からそれを抱えていた。
僕は優しくなんてない。弱いんだ、弱いから何もできなかった。君に迷惑を掛けてばかりで何もできない弱虫野郎だ――ッ!!
だけど今はもう違う。僕はもうすぐファイズになれるんだ! ファイズの力があれば友里ちゃんを守ってあげられる。
夢が叶うんだ! 悔しくない訳がなかった。
情けなく思わない訳がない。好きな女の子に守られて、いつも励まされて!
でも僕にそんな状況を変えるだけの力なんてない。頭が特別いい訳じゃないし、運動ができるわけでもない。
そんな駄目な僕をいつも支えてくれた彼女。毎日が不安だった、いつ彼女に愛想をつかされるんじゃないかって怯えてた。
だけどそれを口にしたり今を変える為の努力もできない……
(僕は……クズだ――ッ!)
優しい? そうじゃない。弱いんだよ僕は。
昔からそうだ。クラスの皆が団結して答えを教えあう協力カンニング、あの時だって僕を優しいって言ってくれたっけ?
違う、僕は別にカンニングが嫌だった訳じゃない。先生に怒られたり君に嫌われないかが気になって参加できなかっただけだ。
正義感とかじゃない、怯えてただけ。情けない。ああ、本当に!
だけど、それももうすぐ終わる。
生まれ変わるんだ、ファイズになって僕は生まれ変わる!
友里ちゃんや皆を守って、頼りにされる。もう昔の僕じゃないんだ! 拓真の心に激しい焦りと期待が交差する。
ずっと自分の夢だった、友里を守る事。それがもうすぐ現実へ変わるのだ。
シェルターが見えてくる。拓真の心臓が期待の鼓動を強くならした。
「わしの作った対クラウンオルフェノク用の兵器が欲しいとな!」
「はいっ! どうか、譲っていただけませんか!」
ごちゃごちゃとよく分からない機械が散乱しているラボ、そこに村野博士はいた。
拓真達が兵器の存在を口にすると、博士は上機嫌に笑う。
「ほうほう! わしの言葉を信じる者がついに現れたか! よいよい!」
博士は足の踏み場も無いところをズンズン歩いていき、大きなトランクを抱えて戻ってくる。
同時に膨れ上がる拓真の期待、それはもう間違いの無い事だった。
博士がトランクから取り出したのは紛れも無い、自らが変身する為のアイテム。
「わしは、この世界に代々伝わる救世主のベルトを元に改良を加え3つのベルトを開発した」
博士はベルトをずらりと並べる。
「カイザ、デルタ、サイガ……」
そして――
博士はすこし溜めて、そのベルトを持ち上げる。
「これが救世主のベルト、ファイズギア!」
「救世主!?」
「ああそうじゃ。この世界に古くから伝わる伝説のアイテム」
それなのに他のやつ等は信じようとしない!
あろう事か玩具だのガラクタだのと! 博士は不満を爆発させる。
確かに自分も最初は都市伝説の類だと思ったものだ。過去に人を変えると言う力をもたらす機械があったとは到底思えない。
しかし現に彼はそれを発見し、研究する事に成功した。もちろん研究といっても公式だのと言うモノでないために解明と開発には多くの時間をかけたが。
「これを元にわしはカイザ、デルタ、サイガのベルトをつくった。
闇を切り裂き光をもたらす、それがこのファイズギアなんじゃよ!」
分析自体は難しくない事だ、元があれば複製に近い品を作る事は可能だった。
というよりもファイズギアのパーツを一部流用する事でそのハードルを下げられた事もできた。
なによりも彼は紛れも無い天才だ、この世界の技術力は彼の力を振るうには充分な設備と物がある。
「今までもこの街が危険に晒された事はある。
しかしそれを知っているのはわしだけになってしまった。わしの言葉を誰も信じない!」
「そうなんですか……」
「貴方は変身をしなかったんですか?」
眉を落としてうなずく博士、技術と知識は日々向上していく彼も体力には限界がある。
ファイズギアの力は絶大だが、それに耐えうる肉体と、環境が必要なのだ。
それにいくら天才とは言えど、ファイズギアを解明してレプリカ達を作る事は至難の道を極めた。
結果、他のベルトはデメリットや制限が高いモノとなってしまったのだ。
「君がコレを必要としているなら渡そう。そしてどうかクラウン達を倒してくれないか?」
道化師が言うには残り三十分になるとクラウン達は一箇所に集まるらしい。
ラストチャンスと言われるイベント、そこで一気に根絶やしにできればと言う事だった。
成程、その情報は一同にとって何よりの希望だ。ラストチャンスがあればまだ自分達にも勝機はある。
博士は自分の作ったベルトやファイズギアの能力を嬉しそうに話始める。対オルフェノクを強く意識しているらしく、何でも一撃で粉砕できるとかなんとか。
「変身のデメリット……副作用は? 特にカイザギアとデルタギアです」
真志は司から聞いていた話を思い出す。
いくら世界が違うといえど設定が同じかもしれないからだ。
それを聞くと苦い顔をする博士、どうやら同じく副作用に近いものがあるらしい。
「ふむ、カイザギアはどうしてもエネルギーの暴走がおさえられんかった」
「つ、つまり?」
「変身する際に細胞の適合、不適合が決められ、もしも不適合になった物は変身後に死亡してしまう」
冷や汗を浮かべる真志達。どうやらカイザギアには触れない方がよさそうだ。
博士もこれはオススメできないと念を押す。しかしファイズはオリジナルである為に複雑な副作用は無い。
デルタ、サイガについても同じ事だった。
「ふぁ、ファイズをもらってもいいですか!? どうしてもそれが必要なんです」
拓真たちは自分たちの事情を博士に全て打ち明ける。
彼も流石と言うべきなのか事態を疑う事無く認め、力になれればとファイズギアを差し出した。
「!」
拓真は両手を上げて叫びたい程の衝動に駆られる。
これで夢が叶う! 友里を、皆を守る事ができる! もう馬鹿にされる事も自分に負い目を感じる事もなくなる!
「じゃ、じゃあ今すぐにでも――ッ!」
拓真は受け取ったファイズギアを装着する。
「あー……その、なんじゃ……」
しかし、そこで博士は何かを思い出したかの様に言葉を濁した。
言葉を詰まらせ、なんだか気が引けている様な。
「え?」
「その……すまない。一番大切な事を忘れとった」
博士は申し訳なさそうに何かを取り出す。
「今のままじゃ君はファイズにはなれない……」
「ど、どうして!?」
しかしコレを飲めばと、博士は手に持っていた小ビンを差し出す。
怯む拓真だが対処方法があるのならばどうでもいいとすぐに割り切る。
「『変身一発』じゃ、コレを飲めば一応――」
「わ、わかりました」
特に疑問にも思わず拓真はそれを手にしようとしていた。
どうせ少しまずい程度だろう、それくらいにしか拓真は考えてなかった。
しかし真志は違う。司から話を聞いていた彼はふと浮かんだ疑問を博士にぶつける。
「なんでそれを飲まなくちゃいけないんです?」
「うむ……それは――」
拓真が変身一発を手にしようとした時、それを他ならぬ博士が止めた。
「な、何ですか?」
「ファイズギアには変身後のデメリットは無いが、それに至るまでにある過程をふまなければならん」
「そ、それはどういう意味――」
「ファイズギアは変身者が相手と同じ体になることによって内部から細胞、性質を解析し、もっとも有効な攻撃を判断する訳なんじゃ」
つまり、あの化け物と同じ体にならなければファイズにはなれないと言う事。
「……え?」
拓真の体から一気に嫌な汗が染み出る。
今何て言った? あの化け物とはつまり、オルフェノクにならなければならないと?
博士は拓真の持っている変身一発を指差す。
「すでにギア達には対オルフェノクと設定をしてしまった」
敵の力を経て、敵と同じ力を組み込む事でファイズギアは完成された。
つまり今のファイズギアはオルフェノクならば誰でも変身ができ、その後の副作用もないと言う事だ。
これはデルタ、サイガにも言える事だった。博士が開発した変身一発は細胞をオルフェノクのソレに変質させる薬。
クラウンの死体から採取できた細胞を使った薬だという。
「肉体をオルフェノクに変えてからファイズギアやその他のギアに認識させるしか、ない」
でなければ、エラーと見なされ変身はできないらしい。
そんな事って、拓真は青ざめて目を見開いていた。
「え……あ――ッ!?」
変身一発を持つ手がブルブルと震える。
何なんだ? 変身一発ってそう言う意味だったのか!? 拓真の心に嫌な重圧感が押し寄せる。
いや別にいいじゃないかオルフェノクになるくらい!
それで皆を守れるんだ! どうして迷うんだよ! ほら! さっさと飲めよ!
呼吸が荒くなる、なんだか気分が悪い。別にオルフェノクになるくらいいいじゃないか、むしろ普通の人間より強くなれるんだ。結局同じことじゃないか!
「……ッッ!」
変身一発を口元に持って行く。
「っっ!!」
しかし飲めない。数分前の自分の気持ちすら思い出せない!
無性に吐き気がして目の前の液体に猛烈な嫌悪感を覚えてしまう。
笑えてくる、自分はさっきまで救世主になれるかもしれない。皆を救うヒーローになれるかもしれないと妄想を重ねた。
しかし今自分がオルフェノク、つまりは化け物になる事を拒絶している。ファイズになる事とオルフェノクになることに何の違いがあるのだろうか?
所詮はイメージ、敵のオルフェノクと主人公のファイズ、ただの印象だ。なのに今、自分はこの薬を飲めなくなっている。
それが紛れも無い事実であり、拓真の心に芽生えた明確な負の感情だった。人間を辞める、そのシンプルで重い理由が彼を取り巻いていた。
どうして、どうして自分だけこんな制約がつくんだ! 拓真は理不尽ともいえるシステムに苛立ちを覚えた。
「はぁ……はぁっ!」
何で!? どうして!? ただこの薬を飲めばいいだけ!
それだけなのに身体が動かない! どんなに力を入れても腕が動かない!
『化け物』
もし全ての事が終わって、日常に戻れたとして僕の正体が世間にばれたらどうなるのか――?
『化け物として、迫害される』
「――ッッ!!」
猛烈にこみ上げ吐き気についに耐えられなくなったのか、拓真は変身一発を置いて走り出す。
真司達は止めない、止められるわけがない。
「……世界救う為に化け物になる。すぐに決められるか?」
「まあ、無理ですね」
亘も一応人間ではない様なものではある。彼の体内には人には流れていない力があるのだから。
しかしその本質的な姿は亘そのものであり、それが今後崩れる事はないだろう。
だが拓真は違う。彼は人の体を仮の姿に変更しなければならないのだ。本当の自分は灰色の化け物、オルフェノクとして存在する事になる。
その事に対しての迷いは、やはり誰よりも重くのしかかってくると言うものだった。
「拓真…ッッ!」
友里はベルトと薬を持ち、ラボを飛び出す。
博士は仕方ないとため息をついて椅子へ座った。
「大切なことを言うのを忘れたのはわしじゃ。無理強いなどできる訳も無い」
真志と亘は何とも言いがたい虚無感に陥る。
変身における明確な代償は今回が初めてかもしれない。いや、言ってしまえばそれは代償ではなくむしろサービスなのかもしれない。
弱い人間の力よりも、オルフェノクの力を手に入れる事ができる。ファイズの原作と違うのだから寿命に悩まされる事も、種族の裏切りだといわれる事もない。
ただ純粋に人を超越した力を手にする事ができるのだ。それは他者に見下され、蔑まれた拓真にはピッタリのオプションではないのだろうか?
彼を狙ういじめっ子などもう存在しなくなる。なのにも関わらず拓真はそれを拒絶しようとしている。彼だってその意味が分からない訳ではない、しかしやはり人を捨てると言う事は簡単にできる事ではないのだ。
「………」
亘は空に浮かぶ掲示板を見る。
絶望の数字はいまだに千を切る気配をみせない。どうやらラストチャンスに賭けるしか無いようだ。
『亘さん! たいへんっす!』
数字を見ていたら目の前にキバットが現れる。
彼には街の見回りをお願いしたのだが、この様子を見るに何か良くない事があったのだろう。
「っ! どうしたの?」
『実は……!』
「うぁあああああああっ!」
「ヒィイイィイイイイ!!」
『キャハハハハハ! アハハハハっ!』
恐怖で顔を引きつらせて逃げ惑う人々。対照的に笑い続けるクラウン。
悲鳴と狂笑のハーモニーはシェルターを包み込む。ぞろぞろと現れるクラウン達に人々は絶望していた。
クラウン達は一瞬の隙をついてシェルターの中に入り込み、続々と仲間を呼び寄せたのだ。
シェルターの中にクラウン達の笑い声が反響する、それを聞いてまた人々はパニックに陥り泣き叫ぶ。
『ヒャハアハアハハアハ!』
運悪く一組の親子がクラウンの標的となってしまった。
泣き叫ぶ母親を弾き飛ばし、クラウンは男の子を掴みあげる。
そしてまるで雑巾を絞るかのように締め上げた。助けを求める母親をあざ笑い、クラウンは男の子を殺そうと力を込める。
「ぐっ…がぁ!」
『ヒャハハハハアーッハハハア!』
絶望。そんな空間だった。
だが、しかし……
その絶望に、文字通り――亀裂が走る。
「ウオオオオオオオオォォォォオオオオォオオオオオッッ!」
ガラスが割れる様に空間が割れ、屋内だと言うのに美しい月が見える夜へと世界は姿を変えた。
そしてほとばしる青い閃光! 男の子を締め上げていたクラウンを瞬時に切り裂き、息の根を止める。
それだけでは終わらない、そのまま辺りのクラウンを次々に切り裂く、抉る! 刈り取る!
「ガアアアアアアアアアアアアアッッ!」
ガルルセイバーを構えた青いキバが怒りの咆哮を上げる。
その衝撃にまわりのクラウンは苦しそうに耳を押さえ、うずくまった。
「ラァアアアアアァアアアァアアァァァッ!」
流れるように切り裂き、野獣のような動きでクラウン達を攻撃していく。
時に馬乗りになり、時に喉元に噛み付き、時に爪を強化させて切り刻む。
美しい月がその野獣を照らし、同時に絶大な力を与える。
『ヒャハハハハハハ!』
『ヒャーハハハハハハッ!』
クラウンはナイフを構えて一斉にキバへと向かう。
2、3体ならばキバも受け流す事はできただろう。だが相手は20体くらいを超えている、キバは抵抗むなしくクラウンの群れの中に消えていった。
それはまるで餌に群がる鳥たちの様。キバは無数のクラウンに囲まれ、ナイフで滅多刺しにされてしまう。
だが、何か硬い物にぶつかる音がしてクラウン達は動きを止めた。そして瞬時、紫の光が周りのクラウンを吹き飛ばす!
「うらぁああああああああぁあッッッ!!!」
ドッガハンマーにチェンジしたキバはその厚い装甲とパワーでクラウンを弾くと、渾身の力を込めて地面を叩く。
その力がエネルギーの衝撃を発生させ、キバの紋章を形作った。
そこに触れたクラウンは皆まるでステンドガラスの様に変質し、動きを止める。
キバはもう一度同じ様に地面を叩く! すると、ガラス化したクラウンはばらばらに砕け散った。
「はぁ…はぁッ! ――っクソ!」
長時間のウェイクアップはキバの体力をみるみる削っていく。
しかしここで止まる訳にはいかない、諦める訳にはいかない。クラウンの群れはまだまだいるのだから。
「ウオオォオオオオオッッ!!」
バッシャーに変わり水流弾を撃ちまくる。
キバは襲い掛かる疲労を無視するかのように力強く引き金を引くのであった。
当時ファイズに凄いハマッてた時があって、唯一ゲームを買ったんですよ。
まあおかげで、ちょっとは連打力が養われたのかなw?
はい、まあいいや。
では次もよろしくお願いします。