無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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手直しの結果、本話は抜きます。
色々見直したら無くていいのでは? というより、無いほうがいいのでは。
という結論に達しました。
上げた後で申し訳ない。



●本日の移転作業日記

今日は少し早かった。
柿の木には変な毛虫がいる。
服越しに刺された。まだいたい。
弟が(妹だったか?)柿の木に近付きたがらない訳だ。


●これまでのあらすじ

 身体の機能が次々に死んでいく謎の病に犯された主人公は、死にたくない一心で弟と共に生き残る為の方法を探す。

 色々検討した結果、残りの時間で医学を学ぶより、オカルトの奇跡に頼る事にした主人公。弟に気が触れたかと心配されながらも、とうとう神の創った『楽園』に辿り着く。

 そこで知恵の実と目的である生命の実を食べ、病は治るが、”成長”する人間が生命の実を食べる事で、神と同じ永遠の命を得るのを嫌う神に瀕死の重症を負わされる。

 何とか生き延びるのだが、肉体を失い世界と同化してしまう。
 しかし自己の意識を保った事で世界に負担をかけてしまい、主人公は弟の住む世界を無くさぬ為に、世界を出て自分が住む事の出来る別の世界探す旅に出る。


×××  第壱章 1 外が内とはこれ如何に

 

 

(ぁぁぁあああぁぁあぁああああぁあぁぁぁぁぁああああ!!!!!!)

 

 

 今現在、俺は流れていた。

 流されていた。抗いようも無い勢いで押し流されていた。

 

 

 

 主体というモノが曖昧になると、何故ああもカッコつけた言葉になるのだろう? なんて思う間もない。

 世界から出たまでは良かったのだ。

 俺の入れる世界探しなんて言ってみたけど、実際に世界の外がどうなっているかなんて分かる筈もなし。この世界を支えてるのが巨大な巨大な、巨大に過ぎる樹のような代物というのは分かっていたから、普通の木や神話に出てくる世界樹の絵のように、もっと大きい世界の中に巨大な樹があって、その枝や葉っぱの上に俺達の世界がある―――みたいに漠然と考えていた。

 

 だから何となく、世界の外に出たらジャックと豆の木ばりに木登りとか、もしかしたら重力とか無くて飛びながら探せるかなー、なんて楽観視していた。ぶっちゃけ空気が無いとか、とにかく人間の生きられない環境でした、ってのが一番可能性が大きかったんだろうけど、今の俺の存在は純粋な『巨木』産の実で一から組み上げた物。

 あの体の名残を残したくて結局手足は無いままだが、それでも自身が『巨木』と同じ物で構成されているため、そこ等辺は大して心配していなかった。それに姿形こそ人間だが中身はまったく違う。喋る為に口や肺らしき物こそ生成したが、心臓や脳、果ては骨や筋肉、皮膚といった物は無く、完全に『巨木』成分純度100%の塊となっているのだから。

 

 

 しかし、一点だけ。大変な誤算、いや予想外があった。

 

 いやはや、いやはや。

 実に考えが甘かった。

 

 

 『巨木』の芽は地面から生えていた。そこからいくら非常識な存在だろうと、『巨木』も木に近い形や性質を持っていると予想していた。

 実際そうだったのだろう。

 世界の外に出た後に『巨木』には枝葉がある事を確認した。

 

 問題は世界が”『巨木』の上”、ではなく(・・・・)、葉っぱに当たる物の()にあったということだ。

 

 おかげで世界から出た瞬間、何かは分からないが水の様な物に揉みくちゃにされて物凄いスピードで流されている。

 目を開けても真っ暗で何も見えず、流れている場所も広すぎるうえに流れが速くて、端を探して掴まるような真似も出来ない。もっとも手も足も無い様でこの勢いでは、掴まるまでもなく叩きつけられて哀れな事になるのが落ちだが。

 

 

(しっかし、それにしてもいつまで流されるんだ、コレ?)

 

 もうずいぶんな距離と時間を流されている。始めは窒息して一巻の終わりかと思いきや、一向に苦しくならんし、意識も霞んで来ない。

 元々水は俺にとっての鬼門。手足が無いから風呂だろうとトイレだろうと落ちれば死ぬ。パニックを起こして訳が分からなくなっていたが、よくよく考えてみればこの体に酸素は必要無かった。自作ボディバンザイ。

 

 かといっても意識のベースは人間である。補給が要らんと言っても腹は減ったような気はしてくる。残念ながらある物といったらこの水しかないのだから、とりあえずこれを飲むしかないのだが。

 

 ところが流石はと言べきか、この液体も『巨木』の一部なだけあった。身の内へ取り込んでみれば、コレが俺の食べた二つの実に近い物だと分かる。あれは世界の中で成長し生った実だけあって、それぞれが生命と知恵という性質に染まっていた。しかしこれはより純粋なのだ。

 丸めて色をつければあの実になるかも知れないが、着色というのは元を損なう行為である。それで出来るのがあの実(正直食いたくない)とあらば、文字通り水でも飲んでた方がマシであった。

 

 いや、とりあえず飲めば腹の足しになる上に、取り込むほどに自分の存在がより厚く、より密度を高めていくのが分かるから、有益ではある。非常に。……しかし味気ない。

 

 まぁ、この状況でそんな事を求めているのは余裕がある証拠。

 つまりは|我侭≪わがまま≫。

 であれば。やる事は一つ。食事兼、存在の強化でガブガブとひたすらに呑むべし。

 何はともあれ、遠慮なく好きなだけ飲めるというのは実に久方ぶりでもあった。

 

 

 しかしその他にも異常な事がある。

 

 どうやら知っている木とは違い、この水流のような物は根から幹を通り枝葉にではなく、今の所は枝葉から幹へ向かっている。それに伴ってこの流れも他の支流と次々に合流し、より大きな流れになっているようなのだ。

 

 これはなす術無く流されている俺にはどうにもならないが、問題は支流が合流するたびに自分と同じ様に流されて来る者がいること。そしてそれが当然のように必ずぶつかって来て、衝撃があったかと思った瞬間にこっちの体に潜り込んで来てしまう事だ。

 

 最初は見ず知らずの他人と比喩抜きで合体する、という気持ち悪い事この上ない出来事に、恐ろしい違和感にさいなまれていた。

 しかしそれも幾千幾万と繰り返されれば慣れる。実際、今は冷静にこの現象を観察していた。

 落ち着いて考えてみればこれはかなりおかしい。合体まではまぁ実際起こってるんだから良いとしても、毎度毎回こちらの意識以外の精神が無い。1+1は2になるものだ。始めは『たまたま此方の意識が残ったか』で済ませていたが、それが一度や二度でなくなれば何らかの原因、要因による必然でしかない。

 

 そうこうする内も流れ流れ。

 行き着く先は明日とも知れず。素晴らしく不安になりはする。が、こうして『水』を飲めば利になる内は大人しく流されようか……

 そう。少しぐらいの休憩になればいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 相変わらず流れに翻弄されている。

 辛くは無いのだが……いささか以上に陸が恋しい。俺は魚じゃない。陸上生物だったのだ。

 ……過去形でしか称せないのが悲しい。

 

 さて――と真剣に自らの体を精査した。

 あれから更に数え切れないほどの融合が(未だに遠慮したいものではあるが)あった。

 それにしてもやることが無い。

 外界に変化が無いというのは実に退屈である。

 もっとも出来る事が考える事と飲む事しかない状況は、集中するのには良い環境だった。お陰で幾つか新しい発見もあった。

 

(まさか『俺』がこれほどにいるとは)

 

 驚いた事に、なんとこの流れてくる存在は、どうやら別の世界の『俺』らしい。これだけでは何が何やら分からないが、言葉通り、そうなのである。

 判明した原因なのだが、融合した相手にも存在の大きさがある事に気付いたのが始点だった。

 今考えれば、それらも同じように流され、途中で此方のように融合し続けながら来たのだろう。先へ向かって流れれば流れる程に融合する相手の存在も大きく複雑になり、加速度的に存在規模が膨れ上がる。結果、俺との融合の瞬間に、次第にほんの極々微かな精神を感じ取ることが出来るようになってきていた。

 それはまるで眠っているかのように曖昧な感触だったが、その精神の中心、魂、核とでも言えば良いのか、その部分の特徴が瓜二つ。

 |それ≪・・≫を言語では表現し辛いが、何であれ、作られた物には作り手の“手”が表れるという。その“手”と同じようなものだ。

 

 で、同一の物と理解できたのが決定打。

 ……まあ、同じと言ってもそれ以外は、それこそ同じ部分が一つとして無く、とても核が同じとは思えない有様だったのだが。その多様性もまた暇潰しの糧になったのだから、全くもって人生、人生? ――は何が幸いするか分からない。

 

 

 この常識では測れない出来事は、まあ納得した。

 理解できないのは仕方が無い。

 ここは元居た世界の『外側』なのだ。内側の常識とは何もかもが違うと考えて間違いは無い。というよりそう考えていたほうが心に優しい。理系に伸びた植物は繊細なのだ。そう何度も理不尽な打撃を受けていては透き通ったハートが割れてしまう。

 ――言っててなんだが、脳裏の夏樹が言ってる。“メッチャ固い完全結晶だから透き通ってんだろ?”って。

 

 ※完全結晶:結晶という言葉が指す本来の存在。完全に規則的なパターン配列の物質であり、『端』が出来てしまうリアルでは厳密には存在し得ない。ちなみに存在したら固体として強度の限界に迫るだろうと言われる。

 

(おお、口の悪い弟よ……)

 

 なんか切なくなってきた。

 

 

 

 

 いや、落ち込んでいても仕方が無い。

 そう持ち直したのは主観推察で二時間後。……もっと長いかもしれない。寂しさとか心細さとか懐かしさとか、やつら手を組みやがったんだ。

 

 ――兎にも角にも続きである。

 

(“水”の中に流れているのは『俺』だった。言い直せば、世界の外には『俺』だけがいて、そしてそれだけの『俺』が何処からか来た、のだろう)

 

 俺自身がこうして流されているのは自分がやった事だ。

 だがそれ以外の俺が流れている理由が分からない。

 合わさった際に自分の物となる記憶や感情、先程の核、あるいは魂と言ってもいいだろう部分。それら全てを丁寧に越し取っても、こうなる経緯が一欠け足りと出てこない。

 有り余る時間を利用して一千万程も調べたが、ついぞ出てこなかった。

 それでも現時点の総数からすれば悲しくなるほど微々たる割合なので、この先続ければ当たりが出るかもしれないのだが……いい加減飽きた。

 他人の人生の一部分だけだからストーリー性もクソも無い。そんなのを延々一千万も見続けてまだとは、苦行にも程があろう。

 とりあえず、今の範囲で整理すればこうなる。

 

 

・俺以外の『俺』と同じ存在が大量に世界外に存在する。

・俺以外の存在はどうやら居ない可能性が大きい。

・同じ流れの中に入った俺同士は引き合い、融合、いや同化という言葉に近い現象が起きる。

・上の同化の後、相手側の自我は残らない。これは彼我の存在の大小に関わらず。

・連中には世界の外へ出るような原因に心当たりが無い可能性がある。

 

 

 そして最後に、

 

・世界というシステムはアーコロジーと表現して良く、基本的に内から外への流出はバランスの崩壊を招く。

 

 という前提が入る。

 最後に前提を入れるのは変な感じがするが、そこはどうでもよかった。

 

 

 

 さて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――どうやら俺が諸悪の根源らしい。

 

 

 

 


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