無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

44 / 69
第参章 20 夜の散歩は終わる (Fate編)

 

 

 正直な所、がっつり拍子抜けしている。

 

 目の前にはセイバー・アーチャー各ペアの計四人がいるが、最初の一撃以降はそれぞれのサーヴァントも積極的に攻撃を加えてくる様子はなく、ぎゃあぎゃあと騒いでいる主達を眺めている。勿論の事、それは此方を警戒しながらではあるが。

 どうにも聞いていると遠坂凛が俺たち発見の報を聞くや否や、反射的にアーチャーへ攻撃命令を出してしまい、衛宮がそれを咎めて遠坂が反省するといったところらしい。言い合いするのは構わんが、完全に敵対状態の俺達の接近の対処を投げてまでする事か? それとも予想以上に頭が回り、此方が好戦的な戦闘方針を採らないのを把握して、戦力的に叶わな事も(かんが)み、敵意が無い様に振舞っているのだろうか?

 良い感じにテンション上げて来たってのに、コレでは気勢が()がれること(おびただ)しい。後ろから向けられるライダーの困惑の視線も良く解る。

 なんつーか、お前らホント何しに来たんだ?

 

 

 

 さてはて、あれから一分が過ぎ、ようよう言い合いが一段落したのか話の矛先がこっちにくるりと向いてきた。

 

シーカー(探す者)とかセイバーに名乗ったらしいわね。 それで、どうして教会なんて襲ってんのよ?」

「ふむ……」

 

 まだバゼットの戦闘には気付いてないか。それなりに距離があり林の奥とは言え、戦闘中の気配はサーヴァントなら感じ取れるかもと思ったが?

 チラリと赤と青のサーヴァントを見やると、青の方は純粋に気付いていないようだが、赤い方はどうにも表情が読めん。まぁ彼の場合、身の上を考えてみれば知った上で黙っている事で神父の死亡を間接的に狙っているとしても頷ける。というより、そっちの可能性が大きいように思えるな。

 

「簡単な事だ。あの教会の神父がサーヴァントを保有し、他者を襲っているからだ」

「ッ!? ……それ、本当なんでしょうね?」

「事実だ。マスターの一人が、監督役だからと油断した所を背後から致命傷を負わされ、サーヴァントを奪われている。会った事があるだろう? お前達を捕まえた彼女が、ランサーの元マスターだ」

 

 憤懣(ふんまん)やるかたないと言わんばかりの怒気。

 

「あんのクサレ神父……!」

 

 ふむり。

 若干ながら、予想外の反応である。

 彼女達は俺達との戦闘によって大きく戦力を低下させている。この状況で知り合いで調停役でもある神父を訪れるのだから、彼女にとってそれなり以上に重要な相手と危惧していたのだが……この様子では心配したような此方への攻撃は無いか?

 

 

「お前等はここに何の用だ? まさかその様子で再戦という訳でもあるまい」

 

 セイバーは身構えてはいるものの、その両手には寸鉄帯びず。

 弓兵の主である彼女も、ただの一日では戦闘レベルでの魔術行使など利にならん事くらいは、その聡明さで分かっているだろう。

 と、なるとだ。

 教会が戦争の調停役として果たす役割に用事があったという事。

 此方との遭遇は完全に偶然の代物だろう。

 僅かながら、此方と接点を持つことで情報の取得、又は戦力の取り込み等を考えた作戦かと疑いもあるし、今からそういった事を思いつく可能性は無きにしも非ずだが…。

 兎にも角にも、調停者とは戦争での中立者だ。それに用があるとすれば、目的はかなり絞られる。敵との交渉、降伏の宣言、中立者の取り込み、後は…、敗者の保護か。

 彼女達の性格からして降伏の類いではあるまい。

 交渉にしても、彼女達の持ち物で相手が一番欲しがるだろう物はセイバーとアーチャーの命だ。この線も薄い。

 となると……保護か?

 彼女達に降伏の意思は無いのは見りゃ分かる。だとしたら、自分達以外の非戦闘員を抱えた?

 ――あぁ、そういや居たな。サクラさんか。

 彼女を預けに来たのか? 一回攫われて、んでようやく心配になったと。

 多分こんなとこだろう。

 姿こそ見えないが、おそらく先制の矢の後で一足先に逃がしたか。

 

 

 彼女、遠坂凛は忌々しそうに小さく鼻を鳴らし、嫌々ながら認める。

 

「残念ながら、その通りね。今の私たちじゃアンタ達には勝てない。逃げきるのが精一杯ってとこ。ここに来たのはクサレ神父に用があったからで、アンタ達に会ったのは偶然よ。その用事も無駄足みたいだけど」

「だろうな。ヤツのサーヴァントは既に戦闘不能、本人は逆襲者が追っかけてる。じきにケリもつくだろう」

「ちょっと待ってくれ! ケリって、まさか殺すんじゃないだろうな!?」

 

 チッ、また五月蝿(うるさ)いのが出てきたよ。

 

「知らねェし、どうでも良い事だ」

「どうでも良くなんて無いだろ、生き死にの問題なん…」

「ついでに言えばッ! ……お前にも関係の無い事だ」

「っ!」

 

 おーおー。

 納得できねぇって感じで歯ぁ食いしばちゃって。

 どうにもこうにもコイツは極端に行き過ぎてる奴だな。正義の味方ってーよりも、どちらかと言えば人死にが嫌で嫌で(たま)らんといったところか。

 その感性自体は極当たり前なんだが、それが目の届かん所で起きたモノでも反応するってーのは、ちと精神的に重症だな。大抵の人間はメディアでそういった記事が流れても、客観視する立場ゆえに実感に(とぼ)しく、良く言えば“折り合いをつけて”、悪く言えば“人事だと思って”スルーするのが大体だ。

 衛宮の場合はそこの所を、まるで身近な知り合いが死んだかのようにでも感じるのか? まぁ何にせよ、こいつの感性は行き過ぎだ。

 

「さて、それでアンタ等はどうする?」

「帰るわよ。はぁ、とんだ無駄足になったわ」

 

 ……ん?

 ありゃ? 魔術隠蔽されたサーヴァントの反応?

 

「そりゃ御愁傷様。ところで一つ聞きたいんだが

 

 ―――そいつ誰だ?」

 

 

 俺の問いを切っ掛けにして忽然(こつぜん)と現れる暴虐の気配。夜気を震わせ吹き上がる殺戮への狂気と暴意に、剣士と弓兵は驚愕を隠しもせず反射的に各々(おのおの)の主を抱えて飛び退る。

 

「ふふ、ばれちゃった♪

 私の魔術をあっさり見破るなんて、貴方凄いのね? サーヴァントなのかとも思ったけど、とても英霊には見えないし……」

 

 隠蔽の魔術の下から現れたのは、雪の精と見紛(みまが)う幼い少女と、その脇にそびえる鉛色の肌をもった巨人。

 

「君は、イリヤスフィール!?」

 

 驚愕。

 一言でもって万国共通に表せる表情で叫ぶ衛宮。

 

「こんばんわ、お兄ちゃん♪ それと、イリヤスフィールじゃなくてイリヤって呼んで?」

「あ、ああ、久しぶり。って違う! 何で君みたいな子供がこんな事してるんだ!?」

「ん~??? おかしな事言うのね、お兄ちゃんは。

 ―――あぁ、そういう事。聞いてないんだ?」

 

 その小さな身体から察する歳とは裏腹に、薄っすらと弧を描いた口元は氷河を想起する残酷で冷酷な“魔術師”の笑み。

 士郎はその言葉に、その笑いに、背骨に氷柱を差し込まれたような不吉な予感を覚え、身を振るわせた。

 

「聞いてないって、どういう事だ?」

「隣のトオサカ・リンによ。ねぇお兄ちゃん、この聖杯戦争を創ったのはね、私の家とリンの家、それとマキリって家なの」

「――――うそ、だろ?」

 

 信じられない事実に凍った思考のまま、隣の遠坂を見る。

 だが、彼女は士郎の嘘であってくれという思いも虚しく、冷たい表情で“敵”を見据えるのみ。

 士郎は遠坂凛の事を優しいやつと思っていた。思っている。

 実際に遠坂は他人を襲ってサーヴァントを強化するような事はしないし、そういうヤツらを止めようとしていた。

 だけど、彼女は聖杯戦争自体には全然反対していない。それどころか、(むし)ろ積極的と言って良い程やる気だった。なら遠坂はこんな戦争を始めた自分の家を肯定してるのか?

 ぐるぐると頭の中で知りたくも無かった事実が渦を巻き、士郎を揺さぶる。

 

 だが凛にとって、今はそんな事(・・・・)よりも今のセイバーとアーチャーでアレを、(ほと)んどのステータスがAランク以上という規格外の巨人を止められるかが重要だった。

 前回のエンカウントで向こうが容赦無く攻撃を加えようとしてきた事は記憶に新しい。衛宮士郎を兄などと呼んではいるが、それは親しみというよりも、どこか幼さゆえの無邪気な狂気を感じさせる。彼女が止まる理由にはなりえない。

 文字通りの死活問題。

 あのサーヴァントの体躯からして、明らかに接近戦に(ひい)でた英雄。それも凶悪なまでに強力な英雄だ。剣を持たないセイバーがアレと対峙して抑えられるとは、悪いけれども欠片も思えない。以前は白髭ロボの出現で有耶無耶になったが、今前回と同じように問答無用で襲い掛かられたら最悪皆殺しだろう。それどころか、そうなる可能性の方が高かった。

 

(戦闘は(まず)い。少しでも会話で時間を稼いで、隙を見て離脱するわ。アーチャー、お願い)

(了解した)

 

「貴方のサーヴァント、バーサーカーね?」

「そうよリン。貴方のはアーチャーね?」

「ええ。あれから出会わなかったけど、私たちの戦いを覗き見でもしていたのかしら?」

 凛の言葉にイリヤはぷうっ、と頬を膨らませて怒る。

 その様子はまるっきり子供のそれだ。

 

「レディに向かって失礼ね! 確かに見ていたけど、覗きじゃなくて情報収集よ。それに見てたのは貴方達じゃなくて『彼』なんだから」

 

 その汚れ無い新雪のように白い髪から覗く紅い瞳が、先程から完全に傍観者といった風情(ふぜい)で腕を組み(たたず)む黒川へ向く。

 

「俺?」

「そう、貴方。だって見てると面白いんだもん。最初はサーヴァントと思ってたけど、ステータスは見えないしロボットは出すし。そのくせ魔術も使えるんだから、おかしな話よね?」

 

 いやはや、これはこれは。

 

「魔術も気付いたか。随分とまた良く見てらっしゃったようで」

「ふふん、私の目は誤魔化されないんだから♪」

 

 おうおう。胸を張って、ってよりは仰け反って得意になるあたり、見たまんまの子供だな。

 

「それで、どんな術かは分かったかい、お嬢さん?」

 

 にしても、俄然(がぜん)興味がわいた。

 永劫破壊(エイヴィヒカイト)を(はた)から見て、その機能の一部でも読み取り理解できるようなら、それは信じられないほどの魔術の能力だ。正直、才能とかのレベルどころではない。魔術式の構成を見たところで理解できるような容易(たやす)い代物ではないし、隠蔽も術式を創った本人であるメルクリウスが、神である己の視点からみても解らないほど仕込んだ。

 

 それがもし、解るというのであるなら。

 

 この小さな子供は才能など鼻で笑うような、それこそ桂翁の予知能力じみた感じで直感的に理解したとしか思えん。

 だが、そのような“人間”が果たして居るものか?

 宝くじを買った事はないが、たぶん同じような気持ちで尋ねる。

 

「すっっっごく悔しいけど、全然解らなかったわ。けど気付いた事ならある。

 人の魂を使ってる事。

 そして、この世界の魔術じゃない事」

 

 

 

「ハッ」

 

 おやおや。

 

「ハハッ」

 

 おやおやまぁまぁ。

 

 ぱんっぱんっぱんっ!

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!

 凄い凄い、いやホント凄いわ! 良くも気付けたな? くははっはははははは!!」

 

 手を打ち鳴らし、大爆笑である。

 永劫生きた蛇が、その全てを振るい渾身でもって編み上げた秘術が、世界に生まれ出でて十も年月を経ていない子供に看破された!!!!

 くっ、くく……、あっはっはっは!!

 これだから世の中は面白い! 神の目から逃れ得るほどのありとあらゆる隠蔽を、防御を、至極簡単に抜き去ったのは子供の直感か!?

 

 あは、あっはははは! いやはやいやはや、これでは下手な考えでなくとも休むに似たりと言われてしまうな。

 

「くふっ、っは、あはは…はぁ。ふぅ。

 いやはや、笑わせて貰いましたお嬢さん。っと、これじゃあ失敬だな。

 ――御見それ致しました、イリヤスフィールさん。よろしければ何故気付かれたかを、教えてくださいますか?」

「イリヤって呼んでいいわ。 って言っても簡単なことよ? 魂の方は私の生まれでそういうのに敏感だから何となく分かったの。そしてもう一つの方は、貴方の魔術がずっと発動しているみたいだから」

「うそっ!?」

「馬鹿な――」

 

「うん、その通りだな」

 

 イリヤの言葉に驚愕の呻きが其処彼処(そこかしこ)から上がる。

 うん、当てられたんだからここは素直に認めましょう。

 にしても彼女達の驚きも理解できる。そりゃそうだろう、今声を上げた遠坂やセイバーは、俺の使っている魔術があの耐久性をもたらしたと感付いているだろうが、宝具の一撃で傷一つ付かない障壁を常時展開しているというのは流石に想像の埒外だったのだろう。というより、考えたくなかったか。

 

 この世界の魔術は使用するのにオドかマナを必要とする。だから常時強力な魔術を使用している等と言うのは、燃料たるオドやマナを開きっぱなしの蛇口のように垂れ流しているという事に他ならない。

 体内エネルギーであり魔術回路によって魔力へ変換する素となるオドでそんな事をしようものなら、あっという間に搾りつくされたミイラが出来上がるだろうし、世界に漂うマナを使ったら使ったで、やはり出力を支えきれずあっという間にマナが枯渇してしまう。

 他の世界の魔術なら最初の魔力を呼び水にして精霊なんかに一定時間働いて貰ったり出来るが、生憎と世界自体に刻まれた魔術基盤の使用が魔術の基本なため、魔力自体で何かするって事そのものが出来ないらしい。いや、ヌルの情報では確か魔法使いの一人が放出だけなら出来るらしいとか……?

 まぁいいや。

 

 とか思っていたら。

 

「アンタ未来から来たとかって言って、あの時嘘ついたのね?」

 

 遠坂嬢がご立腹のようです。ばれちゃ仕方ない。

 

「丸っきり嘘でも無いさ。確かに他の世界ではあるけど、ここより未来から来たのは確かだからね」

 

 屁理屈だけど。

 

「屁理屈ね」

 

 全くで。

 

「アナタ、大師父の関係者?」

「誰、それ?」

「宝石翁、魔法使いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ」

「会った事どころか聞いた事も無いな。

 まぁ俺の話しはどうでも良い。で、見事看破したイリヤ嬢はどうします? 俺にそのサーヴァントで挑みますか?」

 

 ん~ と子供らしく悩む姿は和む。和むのだが、脇に直立する鉛色の巨人が放つ威圧感が半端でない。現に先程から衛宮少年がいっぱいいっぱいのようだ。遠坂さんは気丈にも耐えているが、この子も大概苦労してるなぁ……

 とまぁ、人事(ひとごと)らしく軽く考える。うむ。

 

 その時、ちょうど良くヌルの声が。

 

『反応アリ。マスター、バゼットが殺害に成功し、こちらに向かっています』

 

 お、終わったか。

 ちょうど良いタイミングで響くヌルの声に頷く。

 

(負傷はあるか?)

『子機からの送信バイタルは平常値です。目立った負傷は無いかと』

(そりゃぁ重畳。あぁ、そういや神父の死体の心臓って腐れ聖杯の欠片だったか何かだよな? ヌル、バゼットの死体処理に隠れて、気付かれないようこっそり消滅させておいてくれるか?)

『了解致しました。

 ――――――――――――――強制情報解体、完了。消滅を確認』

(サンクス、ヌル)

『いえ』

 

 言葉少なに返される返答もいつもの事。頼りになる相方です。

 さてと。

 

「神父の方の片がついた」

 

 色々と端折(はしょ)って唐突に告げた意味に幾人かが反応する。

 それぞれ違う感情だろうが、俺としてはそれを細かくは感知せん。良く知りもしない相手にまで感情移入してたら身が持たんものな。

 

「こっちの目的は完了した。味方と合流し次第、俺たちは離脱させて貰う。後は好きにしてくれ。

 いくぞ、ライダー」

「はい」

 

 色々と知られた事だし、ごちゃごちゃ言われる前にさっさと逃走を決め込もう。

 と言ってはみるが、どうせ後で何処からか話しが広まって厄介な事になるんだよな? 流石に何回もそういう目に会えば、幾ら俺でも”人の口に戸は立てられぬ”って真実を認めるしかなくなる。本当に、厄介なもんだ……。

 

「あっ、まだ話の途中なのに帰っちゃうなんてっ!」

 

 とっとと走り出した後ろでイリヤ嬢が怒っているようだが、正解の景品も無くて悪いね。まぁ彼女には衛宮少年というおもちゃがまだ残っているんだから我慢して頂こう。

 知識によれば、彼対応を誤るとバーサーカーに四肢を切り落とされて人間達磨にされた挙句、死なないよう処置されて部屋の前衛美術的オブジェになるらしい。少年の性格からして余計な事言った末、喋るインテリアへとジョブチェンジを強要される羽目になる可能性は随分と高そうだ……

 しかしまぁ、自業自得という言葉も世にはある。丈を越えた行動すりゃリスクもデメリットも跳ね上がるのは至極当たり前。ついでに言えば、そいつをおっ被るのも本人って訳だ。

 うむ。世は並べて事もなし。

 

 ついでに思考を廻らせて見ると、どうもセイバーも遠坂嬢もエクスカリバーについて言及してこなかったのが、気になるといえば気になる。が、そこ等辺は精神的ななんやかんやがあるんで、俺としても好き好んで触りたく無いから好都合と言えば好都合。ドロドロしたのは勘弁してください。以前首突っ込んで酷い目に会ったし。

 俺の好みはシンプル・イズ・ベスト。

 あちらの世界でも此方の世界でも、行ってやる事は殴り蹴りに切った張ったがメイン。割りと短絡思考に染まってきてるのが最近の悩みです。これって精神的な生活習慣病かと思う今日この頃。

 

 

(む?)

 

 どうやら怒るイリヤ嬢を隙と見たのか、セイバーとアーチャーもそれぞれの主人を引っ抱えて離脱に移ったようだ。

 確かに彼らはバーサーカーとの交戦経験を持たないが、それでもあのステータスと気配には挑む気になれなかったらしい。サーヴァントの迷いの無い動きから察するに遠坂嬢の指示だったんだろう。正解だな。

 

「トウリ、バゼットです」

「お、本当だ。ランサーの石像抱えてるが――なぁ、こうやって見ると良く抱えてられるよな?」

 

 ライダーの視線の先、無残な教会の入り口を見て思わず感心してしまった。

 バゼットの背丈は普通といったところだが、対するランサーが並外れて背がでかい。石化した時のポーズが槍を構えた姿勢だから持ち難くは無いだろうが、それだけでかけりゃ重量も余計に(かさ)む。

 

「バゼットにとって大事な人みたいですから」

「祖先って訳じゃないけど、昔の大先輩みたいなものか」

「ええ、そう聞いています」

「そりゃ落とせんわな」

 

 ふっ と笑いが零れる。

 恋だの何だのは似合わず、そういった体育会系がぴたりと似合うのはいい歳した女としてどうかと思うが、『バゼット』にはそれが相応しく思えてしまうのだから、彼女はあれで良いのだろう。

 

「バゼット! 身体の調子は大丈夫か?」

「ええ、特に戦闘中に体調が悪くなったりはしませんでした」

「そりゃ良かった」

「正直な話、この体には随分と助けられました。どういった魔術かは知りませんが、コトミネが殺しても再生してきたので最後は力技で叩き潰すことになってしまって」

「あー、そりゃまた何ともはや。ホントに神父なのか?」

「残念ながら」

 

 しっかし、致命傷から再生って……

 もしかして、神父の心臓ヤッたのファインプレーだったかねぇ?

 

「ま、いっか。

 用件は済んだ。撤収しよう」

「分かりました」

「ランサーは私が抱えて行きますので」

 

 バゼットよ、ルーン魔術で身体強化してまで自分で運ぶか。

 

 ともあれ、こうして夜の散歩は終わり、一人も欠けず一日ぶりに我等が拠点へ帰還する事と相成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ(・・)は、200年前に汲み上げられた時とは余りにも違っていた。

 未分化な力は、三回目の儀式に紛れ込んだ異分子によって染めあげられた。

 完全なる悪そのもの。

 それも悪い事に”人”という存在に重ねられた『黒』。

 自我もあれば意思もある。

 結果、染まった杯は四回目と五回目で狂い間違ってしまった正常を行う。

 六回目には、杯の中身完成に利するとして黒川氏の分体を引きずり込むという真似を、自発的に(・・・・)行うに至った。

 

 別に異分子の自我その物がある訳ではない。

 酷く単純な、それこそ人間の本能に近い欲求が生まれただけだ。

 

 単純に利を求め、害を退ける。

 だからこそ黒川氏を引きずり込んだ。

 

 

 

 今、聖杯システムに生まれたばかりの本能は恐怖(・・)を感じていた。

 

 四回目の儀式に招いた最も上質である材料が横取りされた事。システムの断片と呼んでも良いモノが二度に(わた)って破壊された事。

 一度は山中で。

 二度は教会で。

 

 つまり、それは外から招いたアレが自身を破壊できる存在だと、偶然の可能性すらなく証明されたという事だから。

 

 ここでシステムは更なる自発的行動を採る。

 器の一つを幾度も破壊されながらも、少しずつ溜まっていた汚染された聖杯の中身。それに方向性を与え、故意に流出させたのだ。

 与えられた方向性によって明確な形を獲得した存在は、直近の儀式にて取り込まれた溶かしきれていないかった存在ばかりだが、それ以外の”泥”と合わせた全てで危険を排除しようとする。

 

 アレが存在すれば、いずれシステムが破壊される。

 何よりも優先してあの存在を殺害しなければならない。

 同時に、それが成功すれば杯を満たすだけの材料が手に入る。

 害を廃して利を寄せる。

 すぐさまそれ(・・)は行われた。

 

 システムの自覚無き暴走は、ここに来て明確な攻撃性を持ったのだ。

 

 

 





弟に勧められ、デモンズ・ソウルをプレイ。
デモンズ・ソウルやってて皆が口にするだろう言葉。

・何だあれ。
・ふざけんな。
・無理無理無理無理。

ボスの中でも凶悪なヤツで、碌なダメージも与えられないまま嬲り殺されると、最初のセリフがクソッタレという気持ちと共に口をついて出る。

※ちなみに私は初回から蛮族で初期ステータス縛りに挑戦しました。何故か心が滾ったのです。己の魂のみで戦い抜いてやると!!

 我が弟の言葉 兄ちゃん、アホだろ?

ついでに人に自分達の後始末を押し付けようとしている要人(かなめびと)ですが、最初の会話時にコントローラーを下に置いた拍子にスティックが倒れ、会話中にそのまま去ってしまいました。
背後で虚しくフェードアウトしてゆくとっちゃんボーヤの声が、もの凄まじく哀れを誘っていました。

そして、この思わぬ事故によってプロローグ的な事情説明を飛ばし唖然とする俺の脇で、俺の無様な死に様を笑い者にしようと待ち構えていた弟は、腹が捻じれるほどに大爆笑。
今日も、笑いが満ちている……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。