無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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まずは読んでくださる皆さんに心よりの感謝を。
私がプロローグが長すぎると心配したのを読んだ方で、あれはあれで良いとおっしゃってくださる方が大勢いてくださりました。その様に言ってくださり、嬉しく思います。

これからも向上を目指して執筆を続けていきます。
ありがとうございました。


さて、私がSSを書く上で表現したい部分があります。
それは原作や他の作品にも出てこないような展開であり、私自身の考えという究極の自分勝手が描き出す物語の断片です。(全部じゃありませんよ?そうするとSSじゃなくなるような気がしますので)

……何が言いたいかといいますと、荒唐無稽にちょっと目を瞑ってほしいな~、と。


ところでランサーってバゼットの事を何て呼んでたっけ?
マスター? それともバゼット?
憶えてない原作を使った弊害が途切れる事無く襲ってくるよ。助けてママン……

うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
アイディアが湧く!!
それは良い。それ自体は良いんだ。
だがアイディアがマヴラブ編のばかりとはどういうことだ!?
あの世界に行ったら”アレ”を敵に出そうかな……
とある戦記物の長編ライトノベルで出て来たヤツで、『マメのサヤ』、と言って分かる人がいるだろうか? ミスマルカの人の作品ですね。
BETAを遥かに越える物量戦法を取り、BETAを鼻で笑う凶悪さが特徴の“アレ”。 BETAの上位互換と言って問題ないようなヤツです。
だけどマヴラブ世界のお馬鹿な国々では、ちょっと信じられないくらいあっさりと負けそう。一ヶ月も持たないろうな~。いや、一週間すら持たないかも。特にあいつ等相手には失地回復が有り得ないのがきつ過ぎる。


●執筆しながらちょくちょくと書き足していたら前書きなのに長くなってしまいました。読者の方々にとって邪魔でなかったら幸いです



第参章 17 対峙 (Fate編)

 現在、俺達はこの街唯一の教会へ向かっていた。

 メンバーは俺とバゼット、メデューサの三人。

 サクラさんは本人との打ち合わせ通り、屋敷の一室に外から鍵をかけて閉じ込めてある。あいつ等がアーチャーか起きたセイバーに助けられる時に、一緒に『救出』される事になる。サーヴァントなら屋敷内の素人(しろうと)の気配くらい分かるだろう。

 

 でだ、教会に何しに行くかといえばまぁ……

 

「コトミネ、首を洗って待っていなさい? フフフフフ」

 

 とか脇で呟いてる人を見てもらえば分かるだろう。

 ギラついたその気配は、何と言うか、こう、目を逸らしたくなる感じがすごいする。バゼット怖すぎです。そしてコトミネとかいうヤツの未来に同情する。俺は助けないんで、来世に望みをかけながら撲殺されてください。

 

 にしても、バゼットの戦闘適正には正直驚かせられてばかりだ。

 

 魔術による肉体強化を基盤に、ボクシングを主体にして徹底的に合理性を追求した格闘スタイルを操り、数々の戦闘経験で磨き上げた戦闘理論を持つ。

 あの年でコレだけでも十分なんだが、俺に遺伝子改変者(エンジェル)に改造されて以来、必死に習っていた錬気を使った戦闘法がこの短時間で形になったのだ。順応力が並じゃない。

 ホルダーの錬気に関わる基本プログラムだけ取っ掛かりとしてインストールしたんだが、数えて二日目の朝、サクラさんの作った朝飯食ってたら窓の外でプログラム起動無しでシャドーしながら遠当て飛ばしてるのを見て、俺の口の中身も飛び出した。

 

 今では錬気発動して俺が昨日戦ったセイバーと同レベルの身体能力、ジャブやらの射程が五メートル近くにストレートに至っては九メートル。その威力は岩を砕く。

 

 ―――あれ?ちょっと、強すぎね?

 

 ま、まぁ遺伝子改変が予想を遥かに超えて馴染んだのが原因だからな。

 あれはバゼットの身体自体が強かったから、改変された遺伝子側を逆にコントロールして上手く取り込んでしまったんだろう。若干非常識だが、鍛えられた生命力溢れる人間の場合、そういう事が在り得るのはとある世界でサイボーグの類いを研究した時に良く経験し、実感した。

 

 昔の俺のように機械の方が馴染むというのとは違うが、あの類いは生命活動に異物を取り込んででも生き抜こうとする生命力が物を言う。

 生命力や生きようとする強靭な意志に欠ける者は、例え完璧な処置をしても、やがて生身の部分にストレスが溜まってそこから崩壊していく。逆に”何が何でも生きてやる!”って人間は凄い。医学的に判断してちょっと考えられない程の回復を見せたり、義体や代替内臓等の異物に対して完全な適合をみせたりする。

 そのような事例を幾度もこの目で見ると、生命と意思は直結しているのだと思ってしまう。

 思考など所詮は脳内で行われる電気信号のやり取りだ。そう思う者も多くいるだろう。俺自身、一時期はその考えに完全にかぶれていた。

 しかし事実は事実。

 心と体、揃ってこその人間だ。

 難しく考えずにいれば、意外に己の足元に真理は転がっているのかもしれないな。

 

 

 何にせよコトミネ神父は哀れな事になるだろう。

 昔は非常に強かったらしいが、第一線を引いてから鉄火場に出るのは随分久しいらしい。それに加えて前回の聖杯戦争での後遺症も患っていて、全盛期の戦いは到底無理だそうだ。

 ご愁傷様である。

 

 

 

 

 

 教会が見えてくる。

 ここはそれなりに中心街から離れており、あまり街灯も無く薄暗い。

 だが人影があるかどうか位は判別できる。

 

 特に、槍なんて物を持った人影は。

 

 

「よう」

「青タイツ……」

 

 二回目のエンカウントを果たした槍兵は、ピキッ! と待ってたぜと言わんばかりの表情を引き攣らせる。

 

「おいクロカワ、てめ」

「悪いごめん間違った。改めて……数日ぶりだな、ランサー」

 

 いかんいかん。

 初対面のインパクトが強すぎて、あの時の印象で呼んでしまった。

 

「――ランサー」

 

 そこで、バゼットが進み出た。

 

「よう、生きてたかバゼット」

 

 にやりとする槍兵。

 そこには相手が生きてて良かったとホッとした感情など無く、単純に生き延びた事に対する賞賛しかない。生粋の武人、それも(いくさ)が日常で、友が帰らぬなど珍しくも無かった戦士の生き方だ。

 

「貴方のお陰です。貴方が彼に教えてくれたから」

「あの傷で何日も生きてるとは思わなかったがな、流石だ。その腕、作りもんか?」

「ええ、これもトウリが用意したものです」

「そうか」

 

 フゥォン

 

 肩に(かつ)いだ朱槍がゆるりと夜の空気をかき回し、始めからそう在ったかの如く構えられる。ピタリとバゼットの心の臓を指した穂先からは研ぎ澄まされた殺意がほとばしり、その引き絞られた筋肉に鎧われた全身からは魔力と戦意が立ち昇る。

 

「なら―――()りあうとするか」

 

 ようやくなのだろう。令呪によって掛けられた全力での戦闘を封じる枷が、ここに来てようやく外れたのだ。そして目の前にはサーヴァント一騎にモドキ一騎、己の主だった女傑が一人。

 死して世界へ願った死力を振り絞る闘争の相手として不足無し。

 担い手の気迫に呪いの槍も赤い魔力を吹き上げる。

 

「ライダー、頼めるか?」

「はい。あれとは相性が良い」

「任せた。危なくなったら無理せず呼んでくれ。

 ……俺はもう一騎をヤる」

 

 俺の言葉ににメデューサ、バゼットから驚いた気配が伝わる。

 

『私は感じ取れませんが、私達でランサーを倒した後にそちらも二人で掛かった方が良いのでは?』

 

 メデューサが念話でたずねる。

 

『相手は対多を得意とする手数の多いサーヴァントだ。数の利はあまり有効じゃない』

 

 一つ頷き彼女は納得の意を伝えてくる。

 メデューサは数歩前へ、ランサーと対峙するバゼットの肩を掴み後ろへ押しやる。

 

「ライダー、彼は私が!」

「目的を間違えてはいけません。あなたが拳を向ける相手は教会の中でしょう?」

 

 律儀に待ってくれているランサーを一瞥し、唇を噛んで頷く。

 

「頼みました」

 

 ランサーの脇を抜けて教会へ向けて走り去る。

 そこに言葉は無い。

 俺もその後を追おうとし、振り返ってメデューサの頭に手を載せてぽんぽんと撫でる。今の俺は四肢が聖遺物で、義手義足としての形状もかなり大振りでガッチリしているから背丈でみればメデューサを僅かに超える。だから女性としては長身なメデューサ抱えたり撫でたり出来る。

 

「死ぬなよ? まだお姉さん達を助けていないんだからな。さっさと終わらせて追いついて来い」

 

 言って駆ける。

 ランサーはそれも見逃す。

 当たり前だ、最速のサーヴァントである自身と同等の速度を持ち、己を超える筋力を持つサーヴァントが目の前にいる。余計な隙など見せればその刹那であの鉄杭が頭蓋を粉砕し脳髄を吹き飛ばすだろう。

 

「相手はお前か、ライダー」

「―――――――」

 

 問答はいらぬ、といった感じでない。顔の半分を覆う眼帯から覗く肌が真っ赤に染まっている。どことなく雰囲気もボーっとしている。

 どちらかと言えばライダーが隙だらけである。

 

「……おいっ」

 

 苛立つ槍兵。

 ようやく訪れた全力の戦いの相手が呆けているのだ。

 朱槍の穂先が一切ぶれないのは流石だが、(ただ)でさえ気の短いランサーはもう色々と限界だった。

 

「――――あの人は、まったく」

 

 正気づくように振られた頭に淡い紫の長髪がつられる。

 くすりと一つ笑い、呪われた象徴である忌々しい瞳を封じる眼帯に触れる。

 

「ランサー。申し訳ありませんが、早々に勝負を決めさせて貰います。()がお呼びですので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギャンッッ!!!

 

 人外の速度で先を走るバゼットが教会の分厚い両開きの扉を蹴り開けようとして、勢いというか力が余って盛大に蹴破った。それなりの大きさの木片が素晴らしい速度で礼拝堂を蹂躙、天使や聖母の描かれた高価なステンドグラスや燭台などを粉砕し、吹き飛ばす。

 

「コトミネ!!!」

 

 勇ましく叫ぶが、追いついた俺にはやりすぎた? という表情が丸見えだ。

 そしてその名の持ち主は主の磔刑を表す像の前、祭壇に立っていた。

 

「ほう、バゼットか。このような夜更けにどうしたのかね?」

 

 穏やかな笑みなのだが、どこか、というよりその笑みの源泉が腐っている感じがする。元の元が嫌悪を(もよお)すものなら、そこから生まれたものにもまた、嫌悪を催すのは道理だ。

 

「……ここに来るまで、貴方を見るまで何故あのような事をしたのか聞くつもりでしたが、もはや聞く必要は無いようですね」

 

 こげ茶のスーツのポケットからルーンの刻まれた皮の手袋を取り出す。両手に嵌めるとその皮が軋むほど強く握り締めた。どこか男性的な魅力の漂う(かんばせ)を研ぎ澄まされた刃物のように鋭く引き締め、カソックを身に纏ったかつての戦友を見据える。

 背に負った筒には手をかけず、新たに手に入れた遺伝子改変者(エンジェル)としての身体能力をメインに戦うつもりのようだ。

 

「元代行者、神父・言峰綺礼。魔術協会所属、封印指定執行者・Bazett Fraga Mcremitz.が、その首、貰い受けます」

 

 

 

 その宣言を受けた神父はそれでも笑う。

 

「そうか。語る言葉が無いというのならば、仕方があるまい。ギルガメッシュ」

 

 呼び声が聖堂に響く。

 ごつ、ごつ。

 と金属が石を叩く音がする。

 聖者の像の影から現れるのは黄金造りの鎧を身に纏う最古の英雄王ギルガメッシュ。

 

 

 

 通称金ぴかだ。

 

 

 オホン。

 

「ってわけで、俺がアンタの相手だ。金ぴか王様?」

「ほう? 我を知っていた事は褒めて遣わす。――が、王たる俺に向かってその物言い。不遜だな雑種」

 

 ふむふむ。

 俺がギルガメッシュについて全く驚いていない事を気にしない、か。

 器が大きいというのかねぇ、こういうのは。

 

「俺の役目はアンタを殺す事なんでな。これから首を取る相手に不遜も何も無いだろう」

「雑種め、よくぞほざいた……」

「ここだとアンタにゃ狭いだろう? 外でやろうぜ。建物が崩れて埃塗れにでもなったら興醒めだ」

「フン、よかろう。己が処刑される場所くらいは選ばせてやろうではないか」

 

 

 警戒する事も無く背中を向ける。

 知識に加えて実際に話して確信した。傲慢極まりないが、プライドも天を突くほど高い男だ。勝負を前に背中を襲うなど万に一つも可能性は無いだろう。

 

 教会を出る。

 来た方向とは別、メデューサとランサーの戦場と逆の方へ一分ほど歩く。

 

「ここでいいだろう。準備は良いか、英雄王?」

「貴様……。よかろう、聞いてやろうではないか。

 雑種、貴様は何者だ? 未来より来た等という戯言は偽りであろう?」

 

 顔には不遜な男への不快と怒り、そして僅かな興味。

 

「あぁ。俺は別の世界からの旅人さ」

「ほう? 何故(なにゆえ)オレの世界に来た?」

 

 わざわざ聞いてくれた金ぴかにクフリと笑いが洩れた。

 引き歪んだ口元。あらわな嘲笑。

 黄金の怒気が天井知らずに膨れ上がる。

 

「―――何がおかしい、雑種?」

「くっくっ、いやなに、俺の目的はな? アンタみたいなヤツの力をサンプルにする事さ」

「―――――――」

 

 もはや怒りが臨界に達したのか、表情すら無くしている。

 後一押しで糸が切れるだろう。

 

「特にアンタみたいなのは俺にとって在り難いかぎりだね。なんせ大量の道具を満足に使いこなせもしない男が持ち歩いてんだ、鴨がネギを背負ってって言うのはこういうのを……」

()く死ね」

 

 

 


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