無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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うーむ、今回はちょーっとギャグ調? かな。

書いてて思った。
通常だとセイバーは士郎よりも筋力が低いらしい。それが魔力ブーストでバーサーカーと互角とはいかないまでも、それなりに打ち合えるだけの筋力を得られる。
それだけ魔力を保有していて、ステータスは魔力B。

良く見たら、なんとアーチャーも魔力がBだった。びっくり。
ちなみにセイバーのマスターが凛に変わって、全力が出せるようになった状態で魔力ステがA。あんだけ派手に魔力撒き散らしてたのにA+とかA++じゃなかった。むぅ。



第参章 10 英雄の戦い (Fate編) 武器能力追加

 

 黒川がメデューサに追い付き視認した時には、彼女はボロボロだった。

 狙われたのか、それとも腕に抱いた者を庇ったのか、背中と腕に幾本かの矢が刺さり、切り裂かれた傷が無数に血を流していた。

 生存に安堵し、全身の負傷を確認した瞬間、頭に血が上る。

 

「テメェら何してやがるッ」

 

 駆けた速度のまま大跳躍。狙いは今まさにライダーへ切り掛ろうとしているセイバー。空中で回転しながら悪魔の蔓延る世界で手に入れた成人男性程もある巨剣を生成、渾身の力で叩きつける。

 

 

「オォォォラアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「なっ!?」

 

 セイバーは忽然と俺の手に現れた禍々しく巨大な大剣に意表を突かれながらも、とっさに此方へ向き直り超重量の一撃を迎え撃つ。

 

 ドッ!

 

    ッゴオォッッッ!!!

 

「グゥゥゥゥッ!?」

 

 受けた衝撃にセイバーの脚甲に覆われた両足が地面にめり込み、地を揺るがす衝撃波がアスファルトをめくり上げ、微塵に吹き飛ばす。

 

「ぐっ、ァアアアアア! 風よ!」

 

 凄まじい重量に膝を付き掛けたセイバーが目で見えるほどの魔力を迸らせ、同時に見えない武器に纏わりついていた豪風を開放する。

 魔力による瞬間的なブーストは絶大な力をその細い腕にもたらし、解き放たれた風は逆巻きながら吹き荒れる。一気に頭上から抵抗ごと両断せんと押し込む巨剣を持ち主ごと押し返した。

 

   ギャリンッ!

 

 不可視のベールが風と共に失われ、本来の黄金の姿をさらした聖なる剣が現れる。握り締めるガントレットが力を振り絞り、巨剣をいなす。

 

 ゴドンッ!

 

 巨剣は黄金の聖剣に逸らされた軌道のまま叩き割ろうとした頭を掠めて地面に突き刺さる。

 すかさず持ち手を両断しようと翻る聖剣。

 しかし、必殺を期した剣閃は空を切った。

 

「ッ!?」

 

 セイバーの顔に浮かぶのは驚愕。

 明らかに人間が扱うには巨大きすぎる剣、それを振るった直後に斬撃を叩き込んだのだ。にも拘らず手応えは無い。

 あれ程の斬撃を放つ者はサーヴァントに他ならず、振るわれたのが恐ろしい気配を纏った魔性の大剣としたら、それはサーヴァントの象徴たる宝具としか思えない。

 

(それをまさかあっさりと手放すとは!)

 

 己の宝具を最初の一撃で捨てる思い切りの良さに驚愕する。

 

(後ろっ)

 

 スキル:直感 Rank A

 戦闘時に自身に最適な展開を第六感で“感じ取る”能力だ。ことに彼女の保有するAランクともなれば、その勘は予知能力並みの的中率を誇る。

 この瞬間もまた、その能力は遺憾なく発揮された。

 五感でも経験でもなく、警鐘を鳴らす第六感によって瞬時に敵の居場所を悟り、放たれるであろう攻撃を回避するべく全力で前に跳躍する。

 しかし10メートルを刹那で飛び越え着地した時、止むどころか最大級の危機感が彼女を襲う。

 もはや考える間もなく反射的に背後へ剣を叩きつける。

 

 だが遅い。

 

 まるで初めからそこに居たかのように佇む青年。その手はそっと軽く鎧の上からセイバーの背中に触れていた。

 

 どむっ

 

「カハッ」

 

 先の激突とは比べ物にならない小さく、こもった音。彼女を守る白銀の鎧に罅は見当たらず、にも拘らず響いたのは深々と肉を抉る殴打の衝音。

 それ一つでセイバーはぐらりと(かし)いだ。

 即座に追撃。

 体勢を崩した相手に本命たる右の一撃が(くろがね)の鉄槌として振り下ろされる。

 

 がぎぎぃんっ!

 

 金の髪に包まれた頭部が落としたスイカの如く砕かれようとする刹那、遠方より飛来した矢が腕を打った。サーヴァントに比肩する速度で動く相手の()を狙うその神技に目を剥く間もなく、死をもたらすはずの鉄拳は僅かに逸れ空を切る。

 

 そして目の前に敵は止めの一撃を外した隙を逃すような相手ではない。

 

「っ、ハァッ!」

 

 一瞬で体勢を立て直し逆袈裟に全力で切りつける。

 右脇腹から左肩口へ一閃、黄金が奔り抜け、弾き飛ばされた身体が砲弾のように吹き飛び、ビルの壁を砕いて見えなくなる。

 

「くっ」

 

 辛うじて動けるライダーが吹き飛んだ黒川を追ってビルの穴へ入っていく。

 

「今のは学校で会ったイレギュラー?」

 

 唯でさえ少ない魔力を迎撃に消費し、剣を支えに荒い息をつきながら呟く。

 吹き飛んだ一瞬、目に映ったのは確かにあの遥か未来から呼ばれたという男だった。

 そこへ離れて援護に徹していたアーチャーが合流する。

 

「無事かセイバー」

「はい。助力を感謝します」

 

 魔力消費もばかにならず、見た目に反して異様に強力な打撃をもらったが、致命的な負傷はない。

 

「先程の一撃、仕留めたか?」

 

 アーチャーがその鋭い眼を細め、未だ粉塵の舞うビルの穴を油断なく見る。

 

「いえ、仕留めていません。それどころか傷を負ったかも怪しい」

「なに?」

「斬れませんでした」

 

 聞き捨てなら無い言葉に思わず振り返るアーチャーに、セイバーは再び風を纏い不可視になった己の武器を、少しだけ持ち上げてみせる。

 

「バーサーカーと同じです。刃が立ちませんでした」

「……ちっ、あんなバケモノと同じとはな。以前学校で見せた速度といい、未来の世界とやらはいったいどうなってる?」

「同感です。まさか宝具でもないのに英霊の攻撃が通らないとは私も思いませんでした」

 

 ずしん,,,

 

「……来たようだな」

「……ええ」

 

 ずしん

    ずしん

 

「……ところでイヤな予感がするのだが、君はこの音を何だと思う?」

「……私に聞かないでください」

 

 ずしん!

     ギュピーン

 

「――――」

「――――」

 

 壁にあいた穴、その暗闇で光りを放ったのはピンクの単眼。

 だが、目にしては明らかに位置がおかしい。

 派手に崩れた壁の穴はかなりの大きさだが、単眼が光っているのはその天辺付近なのだ。

 

 どごぉ!

  ずしん!

 

「なんでさ……」

「はぁ……」

 

 赤い騎士は呆気にとられて思わず昔の口癖を呟き、少女騎士は失われつつある大切な何か(はかな)むように、手甲に包まれた両手で顔を覆った。

 

 瓦礫を軽々と蹴散らして夜の街に姿を現わしたのは、体高四メートルに達しようかという白い機械仕掛けの巨人だった。

 つるりとした柔らかそうに見える装甲で見上げんばかりの巨体を覆い、姿勢を大きく前傾させて明らかに大きすぎる両腕を地面に着けた、ぱっと見で類人猿かゴリラを彷彿とさせるロボット。首の無い、胴体から盛り上がった頭部と思しき場所にガラス質のドームがあり、その向こうでぐりぐりと動く単眼が輝いている。

 

『よくも仲間を可愛がってくれたな? この『猿人(エイプマン)』で仕置きしてやる』

 

 巨人は威勢の良い声と共にビシィ!! と巨大な腕を伸ばして指を突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、くそが」

 

 汚い罵りが出る。

 頭に血を上らせて突っ込んだ挙句、セイバーにあっさりとぶっ飛ばされた。

 知識にある聖剣とやらは剣として以外に霊的攻撃も持ち合わせているらしいから、もし持ち主がフルの能力を発揮していたら、此方のエイヴィヒカイトの装甲を突破していたかもしれん。ま、破れなかったお陰で俺は壁をぶち抜き、色んな物を薙ぎ倒しながら瓦礫に埋まっている訳だが。

 

(……桂師匠には見せられんザマだな)

 

 だがこれで頭は冷えた。

 

「ふっ」

  ゴシャ!

   ボゴッ!

 

 とりあえず瓦礫から腕と足を突き出す。

 

「よっ、ぬ、くぬっ、~~~っ、ほりゃ!」

 

 まるでダンボール箱に尻からはまり込んだ様にえらい起き上がりづらかったが、何とか上に乗っていた瓦礫を持ち上げて起き上がる。丁度どっかの部屋の壁を砕いて止まったから、上からごろごろとコンクリ片が落ちてきたんだな。

 

 ジャリ,,,

 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、ライダーか」

 

 俺が開けた穴の方から現れたのはサクラさんを抱えたメデューサだった。一応外だからクラスで呼ぶ。

 俺が突っ込んだ間でほんの少しは休めたのか、体中にあった傷が僅かに直りかけている。自分で引き抜いたのか、背中と腕に刺さっていた矢も傷跡を残してなくなっていた。

 腕に抱えられたサクラさんは振り回されたからか、とっくの昔に気絶したらしく目を閉じてぐったりした様子。彼女を抱えなおしながらライダーは心配そうに此方を見る。

 

「大丈夫大丈夫。ほら、この通り怪我一つ無いよ」

 

 持っていた壁の残骸を投げ捨て、手を広げてみせる。

 装甲抜かれなかったから服すら破れていない。というか、傷すら付いていない。

 

「な?」

「……凄まじいですね。あの斬撃を受けて無傷とは」

「ま、向こうが本調子なら分からんがね」

「確かにセイバーはマスター側から魔力供給が十分に成されていないようです。私を追っていた時も魔力を節約しようとする動きが見られました」

 

 ふむふむ。

 それだと全開で戦うにはマスター自体を変えるしかないのかな? 学校で見た赤毛の少年がマスターなんだろうけど、彼を見る限り魔術師としてトラブル中ってよりも、単純にマスターとしてサーヴァントを十分に喰わせる魔力を持っていないって考えた方がシックリ来る。

 

「なら一人で足止めできそうだな。その間にライダーは反対側からでも先に離脱してくれ」

 

 流石にサーヴァント二人を相手に足止めを買って出るとは思わなかったのだろう、ライダーから驚いた気配がする。

 

「バゼットは直接拠点の方に行くだろうし、ライダーもサクラを抱えてる。なにより心配しなくても、俺は一人でも人霊の上位版程度には負けんさ。さ、行った行った」

 

 行けと手を振ると、ライダーも負傷した自分が居ても助けになれないと判断したのか、こっちに一度頷いて駆け去っていった。

 

「さってと、じゃあ昔々の大昔に名を上げた黄泉帰りの英雄殿に、機械文明の武器って奴を見せてやるとするか」

 

 ざァァァァァァァァァァ

 

 周囲に散乱していた瓦礫を全て分解する。

 渦を巻いて立ち昇る輝きを操り、一つの形を構築してゆく。

 虹色に輝く霧とも表現できる”素”は空中で漏斗状に渦巻き、下降してチリチリと音を立てながら降り積もる。ほんの四・五秒で輝きは天井を破るほどに積もり、一際発光して飛び散る。

 光が収まったそこには、白い柔装甲に包まれた”試作新型『猿人』スーパー式改造Ver”が立っていた。

 

 

 説明しよう!

 

 この『猿人』、見た目はシャギーの世界で手に入れた機体だ。しかし! 後にスーパーなロボットが大戦を駆け抜ける世界であまりの超技術、というか質量保存やエネルギー保存の法則を軽く無視する謎の技術に感動した俺が、技術の結晶たるロボット達を記憶にコピーするついでに技術試験もかねて改造を施したのだ。

 

 当然ながらこの試みは謎技術の実証のためだから、なんら遠慮もせず、徹底的に弄繰り回したのだ。

 結果、弱点だった内部構造は超合金Zっぽい金属やらのお陰で脆弱性は見事に解決され、特徴であり長所だった衝撃を跳ね返す柔らかい装甲は、斬撃に対する耐性を大幅にアップする事に成功した。元から優れていた敏捷性も輪を掛けて素早くなり、挙句に新技術によって大量に生まれたデッドスペースを利用して張り巡らせた人工筋肉によって、更なる打撃力の強化にまで成功する。

 代わりに長所を生かすために重火器を含む火器の類いは廃止し、攻撃は打撃と大型の特殊合金製ナイフによる格闘戦にしか対応していない。

 

 これが生まれ変わった我が『猿人(エイプマン)』だ!

 

 

 さて。

 後部に回り、完全密閉型のコックピットへ入る為にわざと開けておいた穴に四つん這いになってノソノソと潜り込む。

 元々かなり乗るスペースが小さいこの機体、原作では搭乗者は手足を切り落として特殊ジェルに満たされた中に入って動かしていた。俺も操作系の入出力デバイスであるコネクタを繋いだ後、手足の義体を外してしまう。最後に再び”素”を操作して入口の穴を塞いで準備は完成だ。

 

「奇襲するのも良いが、ここはやっぱ演出に拘らなくちゃな」

 

 ずしん

 

 瓦礫を踏み砕きながら歩き出す。

 

 ずしんずしんと足を踏み出すたびに床が派手に陥没するが、気にしない気にしない。

 しかしこのビルの持ち主も災難だね。明日見たら卒倒するんじゃなかろうか?

 まぁご愁傷様ってことで。

 それとも魔術師かなんかの連中が証拠隠滅でもすんのかねぇ?

 

 若干外の方が明るいか、穴の向こうで此方を凝視しているサーヴァント二人が暗視装置に良く映る。

 丁度見えないくらいの暗がりで足元の瓦礫を勢い良く粉砕して立ち止まり、緑のモビルスーツよろしくモノアイを発光させる。

 

 ギュピーン

 って、この音と一緒に暗闇でモノアイが光るのがカッコいいんだよ。うん。

 

 サーヴァント達は呆気に取られてこっちを見ている。

 

 フハハハ! オカルトの結晶共よ、超科学の結晶をその目に焼き付けるが良い!

 そしてさっき吹っ飛ばされたのと、家のライダーボコッてくれた借りを返させてもらう!

 

 ビシィ!! と音を立てんばかり指を突きつけて言い放つ。

 

『よくも仲間を可愛がってくれたな? この『猿人(エイプマン)』で仕置きしてやる』

 

 覚悟しろよ、オマエら?

 

 

 

 するとあいつ等、失礼にもこっちから視線を逸らしてぼそぼそ言い始めた。

 

 

「…………」

「…………、御指名のようだぞ、セイバー?」

「それはライダーに矢を射掛けた貴方でしょう、アーチャー」

「私は凛に言われて援護に来ただけだ。アレとやりあう理由が無い」

「貴方は私を見捨てる気ですか!? それでも騎士ですか!」

「ふっ。生憎この身は騎士とは程遠くてな。そら、強大な敵にこそ挑まねば騎士の名が泣くぞ?」

「そもそもあんなのが出て来たのは貴方の幸運値が低いせいでは?」

「な!? た、確かに私の幸運は低いが、あんな物を呼ぶ込むほどではない!」

 

 

 目を逸らして言い争う二人に、すっ、と影が差す。

 

 ぴたりと言い合いが止み、二人とも恐ろしく苦い物を噛んだような顔をして、必死に目を背けていた物を直視する。

 夜の街の僅かな光を遮ったのは、当然ながら我が搭乗機たる白い巨人。

 

『二人揃って仕置きされれば良い』

 

 強弓を引くかのように引き絞られた巨腕を振り下ろす。

 

「「 ッ! 」」

 

 ドゴォッ!

 

 そこは英霊、当たったら反省は来世でする事になりそうな豪腕を、咄嗟に右と左に飛び退いて回避し、すかさず前衛と後衛に分かれて攻撃を開始した。セイバーは一気呵成、前衛として己の剣で挑みかかり、アーチャーは後衛として『猿人』を中心に大きく弧を描きながら矢を打ち込み援護に徹する。

 だがどれ程の強度があるのか、高性能な銃火器のように途切れる事無く様々な部位に飛んでいく矢は、装甲の表面を僅かにへこませるだけで一本すら刺さる事無く弾かれていく。

 装甲は言うに及ばず、肘の内側や膝の裏、脇の下に股関節といった間接にも刺さらず、装甲に覆われておらず他と明らかに質感の違う頭部と思しき部分のガラス質のドームですら難なく弾き返すのだ。

 

 それもそのはず、この装甲は元でさえ対戦車地雷の直撃を耐え抜き、大質量徹甲弾である戦車砲や航空機関砲ですら跳ね返す代物(シロモノ)。そこから更に尋常ならざる改造を経た今、生半な攻撃など通る方がおかしい。

 

「ちっ、幾らなんでも硬すぎるぞ。本人だけでなくロボットまでコレとは!」

 

 機関銃の様な速度で矢を射掛けてきていた赤い男が、忌々しそうに言ってくる。

 

 確かに狙いは異様なほどに正確だし、威力も一発一発がライフル弾に超える威力だが、それでもこの機体を相手取るには役者不足だな。

 

 それでも喰らい続けるのも気分が悪いし、適度に両腕で飛来する矢を叩き落していく。それを待ってきたのか、矢に紛れ、接近した剣の英雄が切りかかってくる。

 

「ハアアアア!」

 

 矢を払い、ついでとばかりになぎ払った腕をあっさりかいくぐり、胴体に切りつけられる。彼女の手に握られるのは、たとえ姿を隠されていようと英雄が携えるに相応しい一振り。

 総身が鋼だろうとも一刀の下に切り伏せんという気迫で両断しようとしてくる。が、機体を包む柔らかい不可思議な装甲は切れる事無く刃を受け止め、それどころか一拍の時をおいて込めた力をそのまま本人に跳ね返す。

 

「くぁっ!?」

 

 剣を握る両腕が跳ね返された己の筋力で粉砕される寸前、危機的直感で咄嗟に魔力によるブーストを行使、衝撃に跳ねる剣を辛うじて押さえ込んだ。

 

『ほう、流石は剣の英雄だな。普通なら今ので手を砕かれる所なのだが』

 

 セイバーは見えぬ剣を改めて握り直し、隙無く此方を窺がいながら問い掛けてくる。

 

「いったいその表皮はどうなっている? ドラゴンの鱗でもあるまいに、我が剣を何の神秘も持たず、こうも容易く跳ね返すとは。まさか何かの宝具でもあるまい?」

『何を言うかと思えば。この装甲は純粋な科学の産物、そちらの剣で切れなかったのは、そういう事だろうよ』

「それはどういう―――まさか」

 

 ようやく気付いたか?

 

『そうだ。大原則、過去へと向かう神秘は未来へと向かう科学の灯に打ち消される。ましてその代表格である聖剣の類いではな。相手が唯の鋼の塊なら粘土の様に切り裂けようと、この科学の結晶たる機体では不思議な神秘で切れますよとはいかんな?こっちからすれば、それは壊れない切れ味の良い剣だ』

 

 此方の種明かしにセイバーとアーチャーは素晴らしくゲンナリする。

 もはやその表情からやる気というものが根こそぎ枯れ果て、さっさと帰りたいという思いが今にも聞こえて来そうなほどだ。

 

「――セイバー、私は霊体化して帰還する。後は頼んだぞ」

「ちょっ、アーチャー!? また私を見捨てようと!?」

「付き合ってられん……」

 

 疲れた顔で透明になって離脱しようとするアーチャーに、原作の知識では霊体化できないとあるセイバーが慌てふためく。可愛そうなくらいに焦っているな。

 俺から見てもアーチャーはヒドイ……

 

『だが逃がさん』

 

 少し離れた所に突き刺さったままだった最初の奇襲に使った巨剣をむんずと掴む。

 元が巨人族が扱うために打たれた剣だ、長さ二メートル、幅四十センチの規格外がこの機体で扱うと丁度いいサイズで手に収まる。

 一足飛びに霊体化したアーチャーの元へ跳び寄り、剣を大雑把に突き込んだ

 

『喰らえ』

 

 ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 突如、狂気的な咆哮が轟いた。

 剣より溢れ出すどす黒い瘴気、その腹には幾百の亡者が水面を通して見るかのように揺らめきながらひしめき、飢餓の絶叫を迸らせる。

 

 ゴォォォォォッ

 

 ひたすらに貪欲に呑む。

 大気に満ちるエネルギー・魔力素、セイバーの魔力噴射とアーチャーの矢が消滅した際に空間に飛散した魔力を、まるで底なしの穴へ呑むように喰い尽くしてゆく。

 

「何!?」

 

 当然、最も密度の高い魔力体である霊体化したアーチャーもその身をガリガリと削られる。

 

「ぐああ!?」

 

 咄嗟に剣から飛び退きながら実体化、転げながら距離をとるアーチャー。

 この巨剣、空間や術によって生まれた魔力は喰えるが、流石に形を持っている魔力までは強引に喰えない。直接突き刺しでもすれば話しは別だが。

 

「き、貴様未来の英雄ではなかったのか!? 何だその禍々しい物騒な剣は!?」

 

 いきなり捕食されかかってかなり真剣に命の危機を感じたのか、ぜぇはぁと息を荒らげたアーチャーが理不尽な展開に怒りの声を上げる。

 

『ふっふっふ、こいつは”巨人の悪魔殺し(サルトルの魔剣)”。

 異世界で巨人族の悪魔狩りであるサルトルが、純粋な魔力体である魔族を殺す為に振るった魔を喰らう一品よ。同じような存在であるサーヴァントには天敵となるな、御馳走になりたくなければ精々切られないように気を付けるがいい」

 

「今度は異世界……ホントに貴様は何処から来たのだ? 絶対未来じゃないだろ」

 

 疑いしか見て取れない表情を無視し、改めて剣を振り上げる。

 

『さあ? それは俺に勝ってから聞き出すんだな』

 

 力強く振り下ろした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッギンッ!

   ごっ、ゴガァ!!

ずどん

    ゴゴゴゴゴォン!

   ガギィ、ギ、ギギ、ギャリンッ!

 

『ハッハハァ! 流石英雄! 流石は世界の契約者だ!』

「くっ、無駄口を叩くとは余裕だな!?」

「フッ、ハアッ!」

『効かんさ!』

「ああああああ!」

 

どこん!

  ゴッ

    ボアアアアアア!

 

「チッ! 埒が明かん、セイバー時間を稼げ!」

「承知!」

『やらせるかァ!』

 

 巨人は嵐の如く巨剣を振り回し叩き付け、巻き込まれれば微塵と化す災厄となって押し通ろうとし、騎士は唯の一歩も引く事無く雷火と魔力を迸らせながら目まぐるしく剣を操り、全てを叩き潰そうとする暴風を片端から叩き落してゆく。

 

 

『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 騎士は激突の度に軋む全身から力を振り絞り戦う。その全てが、一撃一撃が渾身をもって放たれる。僅かなりとも力を抜けば、その瞬間に受けた剣は手を離れ己の身体が二つになるのだから。

 

 巨人は膂力に任せて少女を容赦なく切り潰そうと巨剣を数え切れないほど叩きつける。その剣が例え此方を切り裂く事が出来なくとも、幾多の戦を駆け抜けた彼女をそれしきで侮れないから。その機転で足場を崩されればアーチャーへ肉薄する事など叶わず、その一撃は必死の一刺しとなろうから。

 

 

『――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)』

 

 ギシッ

     ギリ、ギリギリ,,,

 

 赤い弓兵は恐ろしく静かに、歪に捻じれ狂った矢を強弓に(つが)え、鋼の如き腕を軋らせて引き絞る。

 

 ゴゥ!

 

 稀代の名工が、その生涯の集大成として彫り起こした奇跡の彫像の如き姿。

 何処までも曲がらず、ただただ鍛え続けた極地。

 弓を引くその身体から赤い魔力が立ち昇る。

 セイバーの激しく迸る魔力とは違う、練りに練られた恐ろしく濃密な魔力が陽炎のように揺らめき、番えた螺旋の矢へごうごうと流れ込んでいく。

 

 

 全ての準備が整った。

 セイバーはアーチャーの気配を読み。

 渾身の一撃で巨剣を真正面から打ち返し。

 微かに四半歩、よろめいた巨人を無視して。

 

 死に物狂いで“射線”から飛び出した。

 

 

 

『―――――“偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)”』

 

 

 


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