無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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今話は短いです。
代わりに、話の中で出てきたFate系の能力と、主人公の能力の説明を結構入れました。



第参章 4 治療は人体改造から (Fate編) + 魔術システム説明表

 

 Main Side 黒川冬理 In.

 

 

「どうしようか、コレ」

『・・・』

 

 ランサーに教えてもらった洋館には無事着く事ができた。若干ながら迷いそうになったが、そこはヌルのサポートに助けられて。

 だが現在論ずるべきは些か怪しい俺の方向感覚ではなく、目の前には男装の女性についてだ。

 いや。先客がいたのは問題じゃない。居る事自体には全く問題無いのだが、それが血の抜けた青白い肌をして、元血の海だっただろうどす黒く染まった床に転がっているとなると事情は違ってくる。不意でも襲われたのだろう、腕が綺麗に切り落とされている以外に抵抗の跡が見られなかった。

 外傷はそのバッサリやられた片腕のみ。死因の方は、外傷性ショック症状で手当てが出来ず、そのまま大量出血で失血死といったところか。

 

「ランサーはコレを知ってたから、あんな難しい顔をしてたのか」

『彼の意図が不明ですね。このような死体、したい、……マスター』

「ん?」

『彼女、仮死状態でぎりぎり生きてます』

 

「――おやまあ。それじゃアイツは助けろって俺に教えたのか」

 

 だったら最初からそう言えば良いのに。と、そう思わないでもないが、言わなかったところを見るにヤツのマスターが殺そうとして、そんで仮死状態で生きてるのを知らないって辺りか。それに腕が切り落とされているって事は、令呪とやらを腕ごと奪われたからというのが妥当なところだろう。

 となれば、そこまでランサーが庇うって事は、ランサーの元マスターの可能性が高い。

 ランサー自身、好んで策を巡らすタイプには見えんし、この女性を助けても支障は無いだろう。まさか殺人狂の血狂いとかじゃ無いだろうし。

 

 そういう訳でベッドに運んで治療開始。

 

 幸い相手は仮死状態。バランスを崩さないように弄る事にする。

 まずは人体改造から。“素”を利用した存在変換で彼女の細胞に再生因子を作り出す。もちろん副作用を除いた最初期型だ。ついでに再生因子の活動に耐えられるよう、エンジェル特有の強靭な体に細胞単位で書き換えていく。

 因子の活性化に伴ってかなりのカロリーが消費されるだろうから、そこは俺が外部から補給する。主にそこいらのボロい机とか変換して直接。

 

 準備が出来たところで再生因子の活性化を開始。

 

 見る見るうちに冷たかった体が人並みの体温を取り戻し、軽く飛び越える。通常これだけの体温になれば茹で人間が出来上がるだけだ。脳や細胞それ自体が耐えられないのだが、エンジェルの体は同じ炭素生命体でありながら、それに持ち堪えることが出来る。

 進んだ遺伝子技術の賜物と言えば一言だが、人間から見れば同じ種族とは思い難いかもしれんな。

 

 つらつら考えつつも、エネルギー欠乏を起こさぬよう逐次、元机の栄養素を投入する。

 乾ききっていた傷口の組織が分解され、それすらも糧に腕が再生していくさまは、まるで植物のハイスピードカメラ映像の様。

 やはり最初期型の再生因子は、副作用を除いてしまえば異常な性能だな。

 

 やがて三時間もすると完全に指の先まで綺麗に生え揃った。体温の方も落ち着き、今は安らかな寝顔を見せている。

 これでようやく一安心。

 目が覚めた時、彼女は超人となっているだろう。

 

 ……何か目的とずれている気がするが、まあ良い。

 

 残った素を使って毛布を構成、かけてあげる。ついで起きた時の為に水と食事としてシチューも生成するが、肝心の置く場所である机自体が分解されてコレに化けている事に気付いた。

 さてはて、としばし迷った末に、ベッドの近くの床に書置きを残す事にした。鍋は持ったまま一階端の食堂へ。荒れ果てたキッチンの埃やゴミを分解、水と湯気を立てているシチュー入りの鍋を置いておく。

 

「コレで良しと。再生因子使った後は体調は悪いし、それ以上に喉が渇いて腹も減るからな」

 

 やはり此処にも書置きを残し、自身が目をつけていた玄関から程近い一室に足を向ける。

 

 入ってみれば案の定と言いますか、他と同じように荒れ放題だった。

 手早くキッチンと同じように汚れを分解してしまう。

 そのついでに、先程分解して出来た素と併せて一センチ四方の高密度キューブにしておく。

 これは分解する為の予備として確保しておく為だ。幾ら素が何を分解しても、それこそ空間自体だとしても、手に入るとはいえ、分解しても構わない物の無い空中とかで戦う際に、そう幾つも幾つも空間に穴を開ける訳にいかない。

 穴を開けるという事は、水に満たされた水槽の中にビー玉を落とす様な物だ。水の総量は変わらないがビー玉の分だけ水位は上がるし、それによってもしかしたら水槽から溢れてしまうかもしれない。

 慎重に行動しないと世界に危機が訪れてしまうだろう。

 

「ま、素はこれで十分過ぎるだろうけどな。このキューブがあればMSがもう一機作れる」

 

 質量保存? エネルギー保存?

 懐かしい言葉だ……

 

 

「それじゃ俺も寝るとしようかな。もう空が白んで来そうだけど」

 

 自分用にもう一枚構成した毛布を羽織り、無造作に床へ転がった。

 人間なら固い床板で体が痛くなるんだろうけど、生憎とこの体は人間を真似した外世界の水、痛くなるような代物ではない。本来なら眠る必要も無いのだが、精神的に何となく眠った方が気が楽なのだ。けして二度寝の心地よさが忘れ難いのではない。

 

『お休みなさいませ、マスター』

「お休み、ヌル。変なのが来たら起こしてくれ」

『分かりました、良い夢を』

 

 

 ふぅ、と息を一つ。

 この世界に来てたった半日では色々あった。

 明日はもっと沢山の出来事があるだろう。

 蒼い槍兵とやり合ってみて、サーヴァントとやらが仁や塊クラスに戦える存在だと確信した。あいつ等と別れて以来の強者、それも近接戦闘で最高のエンジェルとタメを張れるほどの。

 あの時は全力を出せなかった様だが、次に期待しても良いし他のサーヴァントを狙ってみても良い。

 いっその事、俺に出会ったら終了みたいな位置づけで彷徨っても良い。

 うん、そうしようかな?

 

(くふっ、だんだん楽しみになってきた)

 

 興奮とは違う、静かな期待に心が躍る。

 これから眠ろうってのに、いやはやまったく。

 

 桂師匠の戦闘狂が移ったかねぇ?

 

 

 Main Side 黒川冬理 out.

 

 


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