無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

13 / 69
新規の人にはごめんなさい。
思いついて書きたくなったんで、落ちとか無しで小話をひとつ。
またぞろ人によりけりなものですが、宜しければ御一つ。


こっちはカッコ無しVerです。




小話 閻魔と行き逢い 書き方その2

「四季映姫、と言ったか

 まさか音に聞く閻魔が地蔵とは……」

 

「――出会うなり不躾ですね

 少々無礼ではないですか」

 

「自ら閻魔に就いたのではあるまい

 大方、そうするに都合の良い能力でも見つかったか」

 

「だまりなさい

 今閻魔は休暇ですから、それ以上要らない口を開けば四季映姫として許しませんよ」

 

「地蔵にヤマザナドゥの名は重かろう

 裁きを下すは辛かろう」

 

「――――」

 

「命ぜられたか?

 否とは言えなんだか?」

 

 

「―――――ッッッ!!!」

 

 

「――そこまで触れて欲しくは無いか

 そうか。そうか」

 

「異国の神か、真性の化物か――

 お前のようなモノに……何がわかる……」

 

「分かるとも

 日ノ本で最も民草に慕われた地蔵菩薩よ」

 

 

「古き大和の神は朝廷に捨てられた

 大陸より新たに招かれたのは数多の仏神」

 

 

「しかしその全ては、氏族など力有る者のみ祀った

 何故なら日々を飢え苦しむ民に、僧や社へ奉げる物など何一つ持てないから」

 

 

「神の救いを説く僧は、民には縁がない

 八百万の神を徹底して奪われ、仏神は富める者しか救わない」

 

 

「貧しい時代

 盗みに殺生、やらねば生きてすらゆけぬ時代」

 

 

「現世は畜生に堕し

 死後は想像も出来ぬ苦しみがと、絶望する」

 

 

「地蔵菩薩は

 それら苦界の民草の唯一の救いとして生まれた神」

 

 

「要るは祈りだけ

 老人だろうと死病人だろうと、犯し殺しの極悪人だろうと構わない」

 

 

「だれでもいい

 どんな人間でも、地蔵菩薩に救いを求めていい」

 

 

「大いなる幸いが降るわけではない

 祈る者も、そのような絵空事は望めもせぬ」

 

 

「地蔵菩薩がくださる救いとは――」

 

「――地獄に落ちた罪人達に

 永く地獄の責めを受ける咎人達に、唯寄り添う事」

 

「ただ傍にいて、自分を見ていてくださる

 釜で煮られ、針の山を登らされ、飢え渇きに苦しみ、鬼に体を鋸引かれようとも」

 

「ただ傍で見ている

 ……見ているだけ」

 

「地蔵菩薩は

 四季映姫、お前はずっと、そうやって救われぬ者を救い続けてきた」

 

 

「だから他のどの神よりも慕われた

 日ノ本のあらゆる地で小さな神像が作られ、死後の小さな安寧が願われた」

 

 

「お前ほど罪人の苦しみを知る者は少ない

 ――突き落とすのは、辛いか」

 

「――貴方は、全部分かってて言ってたんですね」

 

 

「やりたくはありません

 勤めとて、辛い」

 

 

「何十年何百年、むごい責め苦を受け続ける

 気が狂う事も許されず、唯ひたすらに苦を魂魄に刻まれる」

 

 

「……幻想郷に地蔵はいません

 私が裁いた罪人は、救いがありません」

 

 

「黒を白とするは、私の能力が許さない

 罪業は過たず行く先を指し示します」

 

 

「ですが、彼らとて世に迫られたと

 そして悪因悪果として命を落としたとも、思います」

 

 

「私は神です

 救いを願われ生まれたものとして、救うべき者を地獄に落としたくはありません」

 

「――そうか」

 

 

 

 

 




※本話では日本仏教で途中から始まった『閻魔は地蔵菩薩の化身のひとつ』という説を抜いています。
 元々閻魔は不人気でほとんど知られていなかったんですが、鎌倉時代に『地蔵菩薩発心因縁十王経』というやたら名前の長い、もとい中国原産と見せかけ出回った偽経典に『閻魔は地蔵菩薩の化身のひとつ』っぽい事が書かれていて、既に超メジャーだった地蔵様繋がりで有名になってきました。
 ちなみに。
 実は日本に来る前の元々では閻魔と地蔵は同じらしいんですが、別々に伝わったので別の神になった、という話も。

 『地蔵菩薩発心因縁十王経』、略して『地蔵十王経』は三途の川や奪衣婆も登場。現代のイメージの元はこれらしいです。と言う事はこまっちゃんも登場していると言う事。


 こうして調べると日本の神話も面白かったり。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。