無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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アンケートによる方針決定

あっという間の反応、ありがとうございます。
結果……筆者の暴走が青春した事が黒歴史的に明らかになりました。
いやお恥ずかしい。
ちょっとした修正や地道な手直しをしつつ、とにかく追い付くまで上げさせてもらい、その上で『放浪記』を追加する隙を覗おうと思います。
たびたび、いや頻繁にふらふらして誠にすみません。




第壱章 1 外と思ったら中だった…… (正式品)

 

 

(ぁぁぁあああぁぁあぁああああぁあぁぁぁぁぁああああ!!!!!!)

 

 今現在。

 俺は流れていた。流されていた。抗いようも無い勢いで押し流されていた。

 

 

 カッコつけて世界から出たまでは良かった。

 俺の入れる世界探しなんて言ってみたけど、実際に世界の外がどうなっているかなんて分かる筈もなし。この世界を支えてるのが巨大な巨大な、巨大に過ぎる樹のような代物というのは分かっていたから、普通の木や神話に出てくる世界樹の絵のように、もっと大きい世界の中に巨大な樹があって、その枝や葉っぱの上に俺達の世界がある―――みたいに漠然と考えていた。

 

 だから何となく、世界の外に出たらジャックと豆の木ばりに木登りとか、もしかしたら重力とか無くて飛びながら探せるかなー、なんて楽観視していたんだ。ぶっちゃけ空気が無いとか、とにかく人間の生きられない環境でした、ってのが一番可能性が大きかったんだろうけど、今の俺の存在は純粋な『巨木』産の実で一から組み上げた物。

 あの体の名残を残したくて結局手足は無いままだが、それでも自身が『巨木』と同じ物で構成されているため、そこ等辺は大して心配していなかった。それに姿形こそ人間だが中身はまったく違う。喋る為に口や肺らしき物こそ生成したが、心臓や脳、果ては骨や筋肉、皮膚といった物は無く、完全に『巨木』成分純度100%の塊となっているのだから。

 

 

 しかし、一点だけ。大変な誤算、いや予想外があった。

 

 いやはや、いやはや。

 実に考えが甘かった。

 

 

 『巨木』の芽は地面から生えていた。そこからいくら非常識な存在だろうと、『巨木』も木に近い形や性質を持っていると予想していた。

 実際そうだったのだろう。

 世界の外に出た後に『巨木』には枝葉がある事を確認した。

 

 問題は世界が”『巨木』の上”、ではなく(・・・・)、葉っぱに当たる物の()にあったということだ。

 

 おかげで世界から出た瞬間、何かは分からないが水の様な物に揉みくちゃにされて物凄いスピードで流されている。

 目を開けても真っ暗で何も見えず、流れている場所も広すぎるうえに流れが速くて、端を探して掴まるような真似も出来ない。もっとも手も足も無い様でこの勢いでは、掴まるまでもなく叩きつけられて哀れな事になるのが落ちだが。

 

 

(しっかし、それにしてもいつまで流されるんだ、コレ?)

 

 もうずいぶんな距離と時間を流されている。始めは窒息して一巻の終わりかと思いきや、一向に苦しくならんし、意識も霞んで来ない。パニックを起こして訳が分からなくなっていたが、よくよく考えてみればこの体に酸素は必要無い。自作ぼでぃバンザイ。

 

 かといっても意識のベースは人間だ。補給が要らんと言っても腹は減ったような気がしてくる。まぁ、しかしある物といったらこの水しかないのだから、とりあえずこれを飲んでいる。

 

 実際飲んでみればさすがと言うか、何と言うか。この液体も『巨木』の一部なだけあって、飲んでみればコレが俺の食べた二つの実に近い物だと感じた。

 あれは世界の中で成長し、生った実だけあって、それぞれが生命と知恵という性質に染まっていた。しかしこれはより純粋だ。

 

(何と言うか、これを材料にして色をつけるとあの実になる感じがする)

 

 とりあえず飲めば腹の足しになる上に、取り込むほどに自分の存在がより厚く、より密度を高めていくのが分かる。ここまで分かったらやる事は一つしかないだろう。食事兼、存在の強化でガブガブとひたすらに呑んでいる。

 

 

 

 その他にも異常な事があった。

 

 どうやら知っている木とは違い、この水流のような物は根から幹を通り枝葉にではなく、今の所は枝葉から幹へ向かっている。それに伴ってこの流れも他の支流と次々に合流し、より大きな流れになっているようなのだ。

 

 これはなす術無く流されている俺にはどうにもならないが、問題は支流が合流するたびに自分と同じ様に流されて来る者がいること。そしてそれが当然のように必ずぶつかって来て、衝撃があったかと思った瞬間にこっちの体に潜り込んで来てしまう事だ。

 

 最初は見ず知らずの他人と比喩抜きで合体する、という気持ち悪い事この上ない出来事に気が狂いそうになって悶えていたが、それが連続して幾千幾万と繰り返されるに至って幾分冷静になった。

 落ち着いて考えてみればこれはかなりおかしい。合体まではまぁ実際起こってるんだから良いとしても、毎度毎回こちらの意識以外の精神が無い。始めはたまたま此方の意識が残ったのかで済ませていたが、一度や二度なら運で済むが、何らかの要因が無ければ五分の可能性の物が、これだけ一方的に此方が残るとは考えられない。

 

 

 

 真剣に自らの体を精査しながら、更に数え切れないほどの融合(合体はどうも気持ち悪い)があった。出来る事が考える事と飲む事しかない状況は、集中するのには実に良い環境であった。お陰で幾つか判明した事がある。

 

 

(まさか『俺』がこれほどにいるとは)

 

 そう。

 なんとこの流れてくる存在は、どうやら別の世界の『俺』らしいのだ。

 

 判明した原因なのだが、融合した相手にも存在の大きさがあったのだ。

 どうやら流れてくる途中で、此方のように融合し続けながら来たらしく、根に向かって流れれば流れる程に、合流し融合してくる相手の存在が大きく複雑になってきている。

 

 その結果、次第に融合の瞬間に、ほんの極々微かな精神を感じ取ることが出来るようになってきている。まるで眠っているかのように曖昧な感触だったが。その精神の中心、核とでも言えば良いのか、その部分が俺の精神と同一の物だった。

 もっとも、それ以外はそれこそ同じ物が一つとして無く、とても核が同じとは思えない有様だったのだが。

 

 

 次にぶつかった時の感触だが、まるきり千差万別で、老若男女、健康不健康とひたすらにバラバラだった。しかも驚いた事に全員が”肉の体”だったのだ。この時点でこの現象が融合ではなく、一方的な捕食に近い関係だと悟る。

 

 

 今のこの存在は自身の意思に『巨木』成分で肉付けしたようなもの。対して相手はどこかの世界の中から出てきた炭素ベースの体。しかもご丁寧に精神が消滅しかけの状態で此方に向かってくるのだ。一方的な制圧も頷ける。

 

 挙句、此方の予想を裏付けるように元の世界で得た知識とは違う、まったく別系統の知識が増えていってるのだ。

 

 

(この事から推察するに、俺が世界から溢れたために全ての世界に存在する『俺』に当たる存在も流出した)

 

(何故か。

 考えるに、これはそれぞれの世界を、”一番最初の世界”から樹形図的に枝分かれした世界としてみると納得出来る。

 あの完全なる循環型だった世界の様に、全ての世界は多様性こそあれ、自身に内包する『材料』の様な物自体はまったく同一の存在なのだろう。それこそドッペルゲンガーの様な、存在自体が裏で繋がっている・・・・・・。

 その一つが完全に欠けた時、他世界の同一存在もまた、同じように欠けるのではないか)

 

(だが、この『外の世界』にとって『俺』という存在はもともと一つ。同一の『俺』がわらわらと存在する事は認められない。だからこそ、最初に現れた俺に統合しようとしている。といったところか?)

 

 

 とまぁ、こんなところか。

 

(完全に当て推量だが、まぁ外れてたら外れてたで別に害も無いしな)

 

 そもそもこの筋道立てた考え方自体、筋道が地球産の常識で括られているので、そこから通用しない率が高い。

 

 まぁそんな訳で、一先ず考えがついた辺りでやる事が無くなった。

 水の方もいったいどれ程の量を飲んだのか、自身の存在もこの『巨木の水』を極限まで密度を高めた結晶の様になっている。元居た世界の物質とは根本からして違うのか、こんなになっても一向に限界というヤツが訪れず、幾らでも入っていくのが異様に不思議だ。物理学よ、さようなら……

 

 

(むぅ。こうなったらひたすらに水を吸収しながら、寝てしまおう!)

 

 何せここは真っ暗。

 しかも支流の先端を流れていた時に比べ、流れの道自体が大きくなったからか、格段に緩やかな流れになっているのだ。

 こうなれば何とか寝る事も可能だろう。

 

 

(さて。どこに、どれくらい掛かって着くのやら、な)

 

 

 

 ぐぅ……………

 

 

 


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