昼休みの決闘にて俺がギーシュをフルボッコにしてから、色々と騒動めいた事が起こった。
まずは、
「ちょっとサイト、あれどういう事よ!シルバーチャリオッツは人並み程度の力しか無いって言ってたでしょ!明らかに嘘じゃない!」
「あーそうだったな。けどあれは俺も驚いた。その認識で剣を弾こうと思ったらまさか本体を吹っ飛ばしたからな…もしかしたら使い魔のルーンと関係有るんじゃあ無いか?」
「ルーン?…確かにルーンには、使い魔に何らかの能力を与えるけど…だけど普通の平民が青銅の塊を吹っ飛ばすまで力を強化するルーンなんて聞いた事無いわよ!」
「俺みたいな人間の使い魔自体、聞いた事無いだろう…それと同じだと思うがな」
想像を絶する強化が成された俺(とシルバーチャリオッツ)について、ルイズから追求された事。
…これは俺ですら驚くような事だ、予想は容易い。
次に、
「貴様ら、見ているなっ!」
「きゅい!?」
メイジであるギーシュをノした俺の事が学園中に広まり、俺を影から睨む様な視線が感じられた事。
中には『使い魔は主人の目となり、耳となる』という法則からか、使い魔を介した視線も混じる。
…大方『ドット程度(どうやらギーシュは土のドットらしい)を倒した位でいい気になるな平民の癖に』とか『メイジに刃を向ける危険分子めがっ!』といった意味合いだろうが、これはそもそも、そのつもりでノしたんだ、むしろ(後述する事態以外は)望む所って奴だ。
…だが、
「さぁ『我らの拳』!存分に飲み食いしてくれよ!シエスタ!恩返しといっては何だがちゃんと運んでやれよ!」
「はいっ!マルトーさん!」
夕食時『アルヴィーズの食堂』に入ろうとした俺をシエスタが無理矢理引っ張って行き、厨房まで連れていかれたと思ったら…何故かパーティーめいた盛り上がりが待っていた。
何でもこの学院の料理長であるマルトーさんは大の貴族嫌いで、平民である俺が貴族を一方的にノした事でえらく気に入ったらしい。
…ちょっとその言い分にカチンと来た(主に大の貴族嫌いを表現する所)ので、
「その大っ嫌いな貴族の1人であり、俺の主人であるルイズが罵詈雑言を浴びせられるのが我慢ならなかった…それが理由でもか?」
と、意地悪めいた物言いをついしてしまった、が、
「聞いたかお前ら!『我らの拳』は自分の主が悪いように言われるのが我慢出来なくてそいつをノした!この様に、達人ってのはな、自利自欲の為に腕を振るうんじゃあないっ!誰かの、大切な人の為に腕を振るうんだっ!分かったなっ!」
「「はいっ!達人は自分の為では無く、誰かの為に腕を振るう!」」
と、逆に盛り上げた格好になった…何か複雑だな…
「あ、あの…サイトさん。さっきはすいませんでした…逃げ出したりして…」
「シエスタか…別に良いさ。俺がシエスタの立場だったとしても、同じ事していただろうし。それより、ケーキの配膳ほっぽり出して悪かったな。あの後どうした?」
「あ、はい。全て配膳しましたよ。尤も…それ所ではありませんでしたけど」
ですよねー。
しかしまあ改めて間近で見ると、本当に良い娘だよな。
学院に仕える使用人だからって事情もあるだろうが、細かい所にも気配りが及ぶし、胸は…脱いだら凄いんじゃあないかっ!?
「ヒューヒュー!2人きりで良い雰囲気作っちゃってっ!お似合いだねぇ!」
「「ヒューヒュー!カップルになっちゃいなよっ!」」
「え、ちょ、何言っているんですか皆さん!」
「…カップル、ねぇ。シエスタみたいな良い女が彼女なら人生バラ色だな」
「え、良い女って…さ、サイトさんも何言っているんですかもぅ!」
こんな感じで、宴はヒートアップして行く…
だが俺は知らない、これがまだ今日の騒動の、前半部分の様な物でしか無かった事を…
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「あ゛ー…初めての酒は、がぶ飲みする物じゃあ無いな…今頃遅いが…」
結局、シエスタに勧められるままワインを飲みまくり、出されたご馳走を食べまくり…要は暴飲暴食をした俺は、完全に酔っ払っていますと言わんばかりの千鳥足でルイズの部屋を目指していた。
何とか腹からのリバースを回避し、ルイズの部屋のある階にたどり着いたが、そこに、
「きゅるきゅる」
「お前…あのビッチの使い魔か」
でかい火トカゲが待ち構えていた。
この階に部屋を持つ女子で、こいつを呼び出せるとしたら、火の系統であるあのビッチしかいまい。
…大方、酔い潰れている様を確認してから、汚物は消毒だっ!てか?…やれやれだ。
「きゅるきゅる」
「おいてめー何しやがる、服が破けるだろうが、てかそもそも足引っ張るな!」
メメタァ!
「ぎゅるっ!?」
酒が入ったせいで気が短くなったのだろうか、ジーンズの袖をくわえて無理矢理引っ張り出した火トカゲに腹が立った俺は即座にシルバーチャリオッツを発現させ、その腹部を足蹴にしてやった。
だが尚もジーンズをくわえ(今度は恐る恐るといった感じで)引っ張ろうとする火トカゲにぷっつんしそうになった俺は再びシルバーチャリオッツにキックの構えを取らせ、
「余り私のフレイムを苛めないで下さらない?」
突如ある一室のドアが開き、そこからあのビッチが顔だけ出して俺に注意した。
…誰が苛めるだぁ?人を闇討ちすべく使い魔をけしかけたのはアンタだろうが。
「…何の用だ?俺は酒のせいで気が短くなっている。下らない用ならギーシュの二の舞にするぞっ!」
「…フレイムを使ったのは御免なさい…思えば警戒して当然だったわね…お詫びに私の部屋にいらっしゃらない?」
「…悪いが、ご主人様を待たせる訳には行かねぇ…明日にしてくれ…」
「待って、少しで良いから」
そう言って飛び出してきたビッチ…もう面倒くさいからキュルケと呼ぶか…キュルケの恰好は…下着だけだった。
…成る程、正攻法では無く色仕掛けって訳か…やれやれだ…
「帰れ、そして服を着ろ」
「あら、つれないわね。そんなにルイズの事が大事?」
「…ルイズは俺のご主人様だ、大事にしておかしな事があるか?」
「そんなに肩肘張っていると疲れるわよ。それより私の部屋でそれを癒さない?」
「何時寝首を掻かれるか分からない場所の方がよっぽど疲れると思うがな」
「もう、分からない?女性が夜に男性を部屋に連れ込むとしたら用は一つでしょ?
私、貴方に恋しているの!」
…オレェ?
「貴方の決闘での姿、凄く恰好良かったわ!ギーシュのゴーレムを素手で捻じ伏せるそのパワー!誰が相手であろうと全力を尽くすその姿勢!モンモランシーに水を差されても悪い顔せず、女のあるべき姿を説く器の広さ!ギーシュに、男が恋に対してすべき覚悟を説いたその恋愛観!あれを、まるで伝説のイーヴァルディの勇者の様な姿を見せられた瞬間、私の心に火がついたの!情熱っ!そう、『恋』という名の情熱よ!」
…これこそ予想外の事態その2だった。
…使い魔による監視の目は多数あれど、こんな突如起こった様な好意の目はコイツだけじゃあねえか?
だが、
「悪いがキュルケ、アンタが俺にどんな感情を持っていようが勝手だが、俺はこれっぽっちもアンタへの好意は無い。他を当たってくれ。そのなりなら幾らでも相手はいるだろ?」
「もう、意地悪。でもそこも良いわ!」
「いい加減人の話を聞け。使い魔に休日は無いんだ。早く休みたい」
「ほんの数分で良いの!私が此処まで情熱を燃やすのは貴方だけよ!」
「アンタがそうでも俺は違う。悪いがアンタの想いに答える気は無い」
「ふふっ主人のルイズに義理立てしているの?良いじゃない、あんな男っ気の欠片も無いルイズなんて」
プッツーン
「…今…」
「あら、やっとその気になって…く…れ…」
「ルイズの事何つったぁぁぁぁぁぁ!?」
ヒュン!
「ヒッ!?」
「ルイズが魔法の素質『ゼロ』だとぉ!?」
「そ…そんな事一言も」
「今確かに聞こえたぞゴルァァァァァァ!」
ドギャァ!
「ぎゅるぅっ!?」
「フレイム!?」
不愉快だ…明らかに好意を寄せている奴にさせて良い筈が無い気分だ…
「4点…Poorだ…再試験を受けるにも値しない…」
「え…?」
「ルイズの言う通り…ツェルプストー家は牛の糞の様な家だな…嗅いだらゲロ以下の匂いがプンプンしそうだ…!」
そう言い残し、俺はルイズの部屋に入った。
これ以上こんな奴と付き合っていたら、それでこそ大暴れだ、ルイズの為にもそれは避けないとな。
「悪い…遅くなったな、ルイズ」
「サイト、今物凄い物音と叫び声がしたけど、アンタの仕業?」
「まあ…そうだな。部屋の前にキュルケと、その使い魔がいた。なんでも決闘の時の姿に惚れたらしく、俺に色仕掛けなぞ仕掛けやがった」
「はぁ!?あの色ボケツェルプストーめ!私の使い魔を誘惑だなんてふざけんじゃないわ!」
「大丈夫だ、あんな最低な奴の色仕掛けなんて乗る訳が無い」
「あ…そ、そう…まあ、それは良いとして…大変な事が起こったわ」
「どうしたんだ、ルイズ?」
俺とキュルケに何が起こったか、俺が夕食時に何していたかを殆ど聞かずに切り出したルイズの顔は、真剣そのものだった。
…ルイズの性格からしてそんな事は異例だと思う、それだけ重大な事態が起こっているんだな…
「さっき…ヴァリエール領にいるお母様から手紙が届いてね…」
その手紙の詳細はこうだ。
昨日の午後、突如としてルイズの家族の周りに人の様な異形が現れた。
突然の事態に杖を構える等して威嚇するも、動く気配が全くと言って良い程無い。
しかもこの異形、家族の側を離れない様について来るし、その姿が家族以外は…領外からやって来る役人等はおろか領内の使用人ですら…見る事が出来ないという。
そしてその翌日には、アカデミー(魔法について研究している機関…要は研究所らしい)に勤めているルイズの一番上の姉にも似た様な現象が確認され、挙げ句彼女が歩いた後が砂塗れになってしまうらしい。
家族皆に同じ現象が見られるが故、もしかしたらルイズにも同じ事が起こっているかもしれないから気を付けてほしい、と手紙はそこで締められた。
こ、これは…!
「ま、まさかルイズ…」
「ええサイト、そのまさかで間違いないわ。これは…」
「「スタンド!」」
「アンタ昨日、スタンド使いになる方法の1つとして、血縁者がスタンド使いになる事って説明したわよね?…その法則が当てはまって、私の家族皆がスタンド使いになった…そういう事よ」
な、何てこった…!
スタンドの存在を知らないルイズの家族がスタンド使いになっただけじゃあ無く、もしかしたらスタンドを制御出来ず、暴走させるかも分からない…そういう事か…!
「サイト、こうしちゃいられないわ!幸い明日は虚無の曜日、休みよ。朝一でヴァリエール領に帰って、スタンドの事をお母様達に伝えるわ!良いわね!」
「了解だ、ルイズ!」
万が一暴走したら、スタンドの知識の無いこのハルケギニアで混乱が起こるのは、コーラを飲んだらゲップが出るっていう位確実だっ!
何としてもそれは避けないと…!