トリスティン魔法学院北側に位置するらしい、ヴェストリの広場。
北以外の三方を塔で塞がれているからか真っ昼間だと言うのに微妙に薄暗い。
だからそんなに人が入らない前提の簡単な手入れしか施されていない様だが、俺とギーシュの決闘を聞きつけたのかやけにギャラリーが多く、歓声もそれ相応に大きかった。
…まあ大方貴族に口答えした平民がノされるのを待ち構えている口だろうが、今にその歓声…悲鳴に変えてやるよ。
「諸君!決闘だ!」
俺がギーシュと対峙するポジションに入るや否や、キザったらしく薔薇の造花を掲げ、それに呼応するかの様に観客の声も大きくなる。
どうやら
…今はその自惚れに浸っているがいいさ、直ぐにそのウザい顔をフルボッコにする予定だしな。
「逃げずに来た事は褒めてやろうじゃないか」
「はっ、こっちから吹っ掛けたんだ、逃げる訳がねぇ」
「減らず口もそこまでだ、君には少し貴族への礼儀という物を教えて上げよう」
とこっちを挑発する物言いをしつつ造花を構えるギーシュに反応し、俺もシルバーチャリオッツを、俺に重ねる様に発現して、レイピアを構える右腕に重ねる様にして右拳を突き出す。
…さっきの腹への掌底は腹下しで誤魔化しはしたが、同じ手はそうそう通じない。
今度は小賢しい手を使っただとか変な能力があるだとか、因縁付けであっても追及が及ぶだろう。
故に、俺と重ねて置く事でレイピアの剣撃を、俺の右パンチで何とか誤魔化せる様にしておく。
と、誤魔化し方を試してみたら…何だ、この感覚は?
あの時と似ている…そう、ルイズとのコントラクト・サーヴァントでルーンが刻まれた、あの時と。
あの痛みはもう無いが、力を漲らせる様な、燃え上がらせる様な熱はあの時と一緒。
これが…最高に『ハイ』って奴かっ!
いける…いけるぜ…これなら目前のキザったらしい馬鹿貴族をノすのも簡単だなっ!
「僕はメイジだ。故に魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「はっ、当然だ。逆に聞くが、魔法以外にどう戦うんだ、貴族って奴は?」
「…どうやら僕を怒らせたい様だね…!来い、『ワルキューレ』!」
それを知ってか知らずか、俺の挑発に簡単に乗ってくれたギーシュが造花を振りかざし、1枚の花弁が地面へ落ちるや否や、そこから女戦士っぽい外見の青銅で出来ているっぽい像が出て来た。
…ギーシュの系統は土、か…やっぱゴーレム使うんだな。
「僕はギーシュ。『青銅』のギーシュだ。だからこの青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「なら俺も名乗るか。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、サイト・ヒラガ…てめーに武器は必要無ぇ。この拳でぶちのめすっ!」
「…貴様っ!」
…正確にはレイピアだがなっ!
そんな突っ込みを心の中でしつつ、突進してきたワルキューレを、前進しつつ迎え撃つ。
その俺の様子を嘲笑したのか、クスクスと言った感じの声が聞こえる。
…まぁルイズ以外はシルバーチャリオッツが見えていないのだし、俺が右拳を構えている様にしか見えなければ笑うのも当然か、それがどうした、と。
…その笑い、一瞬で凍り付かせてやるっ!
「オラァ!」
ドギャァァァァァン!
「「「なっ!?」」」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺はシルバーチャリオッツの剣で、ワルキューレの剣を弾こうとしたら、何故かワルキューレがホームランされ、挙げ句木端微塵になった。
な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何をしたのか分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
スーパーサイヤ人だとかアランカルだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。
もっと(ry
「な…何を…した…!」
「二度言うつもりは無いが…まあ良い…俺は拳でぶちのめしただけだ」
「嘘を付くな!唯の平民の拳で僕のワルキューレが木端微塵になる筈が…答えろ!これは命令だ!」
「何度聞こうが結果は同じだ。てめーの木偶の坊は俺の拳でぶちのめされる程度だって事だ」
俺ですら驚いているのだから、他の連中は一瞬だけザ・ワールドが発動したかの様に静まり、直ぐに恐怖するかの様な叫びが広まる。
ましてや当事者のギーシュにとってはそれも絶大だろう。
押し問答を繰り広げつつ接近する俺に戦慄でも覚えたか、しゃにむに杖を振り回し、ワルキューレを量産する。
その数6体、1対1ではどうにもならないから集団戦って奴か、やれやれだ。
「わ、ワルキューレ!その平民を串刺しにしろ!」
ギーシュの号令で各々の武器を構えつつこっちに突進して来るワルキューレ達。
…だが…やけに遅いな、まるでメイドインヘブンで『加速された世界』について行けなくなった生物たちみたいだぜ。
「オラァ!」
最初の掛け声と共に前方に突き出して最初の一体を吹っ飛ばし、
「無駄ぁ!」
次の掛け声と共に右側を薙ぎ払って、次の一体を吹っとばしつつもう一体巻き添えにし、
「ドラァ!」
更なる掛け声と共に柄の部分で、何時の間にか回り込んだ様なポジションにいた一体を殴り付けて粉々にし、
「去りやがれっ!」
最後の掛け声で二体纏めて袈裟斬りにしてやった。
「次にお前は、『この平民風情がっ!』と言う」
「こ…この平民風情が…はっ!?」
「そう…その傲慢と慢心が」
最後に残ったのはギーシュ、お前だけだっ!
「最大の敗因って奴だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドゴシャァァァァァァァァァァァァァァ!
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺のアッパーカットが見事に決まり、宙を舞うギーシュ。
その際、杖として使っていた造花が手を離れたが、俺は抜け目無くそれを回収し、こっそり隠す。
確かメイジは決闘の際、杖を地べたに落としたら負けとかいう暗黙のルールがあるらしいからな、ここで落とされては、コイツをフルボッコにする大義名分が失われちまう。
それに、
グイッ
「まだ勝負は終わっちゃあいないぜ?」
「ひぃっ!ま…参っ」
バキィッ!
「がはっ!?」
「降参は無しだ、場が白けちまう。勝敗を決める権利があるのはなぁ…審判か勝者になる奴だけだっ!」
ドガッ!
「てめーが!」
ボゴッ!
「泣きじゃくるまで!」
ズドォン!
「俺は!」
ごすぅ!
「殴るのを!」
ぐしゃぁ!
「止めないっ!」
メメタァ!
「オラオラオラオラ…」
ドガガガガガガガガ!
「オラァ!」
これで…止めだっ!
がしぃっ!
「もう止めて!」
「…何のつもりだ?女」
だが止めの一撃は、後ろから来た1人の女子生徒によって止められた…この金髪の縦ロール…ああ、さっきギーシュを振ったモンモランシーとかいう2年生か。
「もう勝負は着いているわ!彼は…ギーシュはもう戦えないわ!」
「何を言っている?メイジは杖を地面に落としたら負けという暗黙のルールがあるらしいな…だがコイツの杖…落ちていないぞ?」
正確には俺が持っているがなっ!
「それに…アンタはコイツの浮気にキレて、あんな酷い文言で振ったんだ…今更何故庇う?」
「そ、それは…とにかくもう止めなさい!これは命令よ、平民!」
だが断る、と、もし止めたのが彼女やケティでなければ言っていた(それが例えルイズであろうと)が…白けた。
「おい、モンモン。1つ言っておく」
「私はモンモランシーよ!ふざけた間違いを「今更そうやって必死こいて気遣う位なら、一時の怒りであんな振り方をするんじゃねぇ!」え、え!?」
「ギーシュがした事は、確かに許される事じゃあねぇ。被害者であるアンタなら尚の事だ。だがな、振った相手を、こうやってボコボコにされるのが耐えられない位、未練タラタラだったんだろう!気があったんだろう!だったら浮気を責める前に、浮気したい気にさせない位に自分の魅力を高めやがれっ!」
「は、はいっ!」
「そしてギーシュ!」
「う…あ…」
「ハーレムは男のロマンだ、とかいう事については否定するつもりはねぇ。だがな、隠れてこそこそとやっていたんじゃあ、それは単なる浮気だっ!付き合っている女への最大の裏切りだっ!今こう言われて尚、ハーレムを夢見るんならな、いっそ皆纏めて愛してやると声高に叫ぶ位の図々しさを持ちやがれっ!それが出来ないんなら、ちゃんと本命を1人見つけて、そいつだけを全力で愛しやがれっ!」
「は…はい…!」
やれやれだ、さっきまで徹底的にフルボッコにしてやろうと思っていた奴に、絶対許さないと思っていた連中の一角に、まさか説教する事になるとはなぁ…と。
「後、ルイズと此処にいるモンモランシー…最後にケティに誠心誠意謝罪しろ。てめーはそれだけの侮辱行為を彼女たちにしたんだ。いいなっ!」
「わ…分かった!」
ルイズへの謝罪を取り付けたは良いが結局、決闘は最後の方が有耶無耶になっちまったみてーだな。
まあ良い、これでメイジであるギーシュを、平民にして使い魔である俺が圧倒したという情報は瞬く間に学院中に木霊するだろう。
必然的に俺の強さ、危険度は上がり、それ即ち主人であるルイズの評価に繋がる。
もうルイズをゼロだと言わせない、言ったら即座に俺の撲殺劇が幕を開ける…む?
「貴様っ!見ているなっ!」
何やら背後から、遠くから覗き見するかの様な視線を感じたので、振り向きつつ威嚇したが、そこには何も無かった。
…気のせいか?