ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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見事に土くれのフーケを捕まえた才人達は、意気揚々と学院に帰る。そこに待っていたのは…


13話

「しかし、ミス・ロングビルが土くれのフーケだったとは…信じられん…」

 

ロングビル、いや、土くれのフーケを捕まえ、学院へと戻った俺達は真っ先にオールド・オスマンに事の顛末を報告した。

それを聞くなりやけに苦い顔をするオールド・オスマン…話によると偶々訪れた居酒屋で働いていたロングビルを見掛け、尻を触る等のセクハラをしても嫌な顔しなかったらしいので秘書に誘ったらしい…全く、やれやれだぜ…

 

「ま、まあともかく君たちは良くぞフーケを捕まえ『破壊の杖』を取り戻してくれた。この件で、君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出す事にした。追って沙汰が来るじゃろう。といってもミス・タバサは既に持っておるから、精霊勲章の授与の申請にしておく」

「本当ですか!?」

「ああ、君たちはそれだけの事をしたのじゃから」

 

失態の誤魔化しのつもりか、3人を褒め出し、今回の活躍を宮廷に報告すると伝えたオールド・オスマン…それにキュルケは驚いた様に声をあげ、タバサも礼のつもりか首を縦に振るが、

 

「…オールド・オスマン。サイトには何も無いのですか?」

「残念ながら彼は貴族ではない」

「そ、そんな!」

 

ルイズだけは複雑そうな顔で俺への対応に異を唱える…やれやれだ、気遣いは嬉しいがな。

 

「俺は構いませんよ、主人を守るのが使い魔の仕事ですから」

「そ、そうかの。彼もそう言っておるのじゃし、この話はそこまでじゃ。さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。『破壊の杖』もこうして戻ってきたし、その立役者たる君達が主役。しっかり着飾って来るのじゃぞ」

 

俺の言葉に、完全には納得していないながらも引き下がるルイズ達は、外に出ようとしたが、

 

「サイト?」

「ああ、ルイズ。先に行ってくれ。ちょいとオールド・オスマンに聞きたい事があるんだ」

 

心配そうな顔したルイズ達だったが、構わず行かせた。

 

「ふむ…どうやら私に聞きたいことがおありの様じゃな。まあ爵位を与えられぬせめてもの詫びじゃ。何なりと聞こう」

「ありがとうございます。ではまず…あの『破壊の杖』を何処で手に入れたんですか?あれは俺の故郷でよく使われる武器なんです」

「何と!?じゃが…君の故郷とは一体?」

「ルイズ達には既に伝えていますが…俺はこのハルケギニアの人間ではありません。ルイズの『サモン・サーヴァント』によって、いわゆる『異世界』から召喚された者です」

「い、異世界から!?成る程…それなら辻褄が合う」

 

俺が異世界出身だと分かり一瞬驚くも、直ぐに納得した様子を見せるオールド・オスマン…一体何なんだ、て言うか、まだ質問に答えて貰って無いが。

 

「あ、いや、すまぬ。『破壊の杖』の出所じゃったな。あれをくれたのは、私の命の恩人じゃ。今から数十年前の事、とある用事で森を散策しておった私は、ワイバーンに襲われたのじゃ。余りに不意な事で詠唱する事も叶わず、絶体絶命のピンチじゃったが…そこを救ってくれたのが、『破壊の杖』の持ち主じゃ。彼は『破壊の杖』を2本所持していて、その内の1本でワイバーンを吹き飛ばしたのじゃが、ばたりと倒れてしまった。酷い怪我を負っていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看病したが…」

「死んだ…そういう事ですか?」

「うむ…私は彼が使った1本を彼の墓に埋め、もう1本を宝物庫にしまい込んだ。恩人の形見として。彼はベッドの上で、死ぬまでうわ言の様に繰り返しておった。『ここは何処だ。元の世界に戻りたい』と。もしかしたら彼は、君と同じ世界の人間じゃったのかも知れぬな…じゃが、彼が何処からどうやって来たのか、それは結局分からず仕舞いじゃった。すまぬ」

「そうですか…」

 

…やれやれだ、俺の世界にある筈の物がこっちにあって、前にも俺のいた世界からハルケギニアに飛ばされた奴がいたと分かって、帰る手筈が整うかと思ったが、その持ち主は既にこの世にはいなくて、足取りも掴めないまま、か。

 

「もう1つ。早朝に教師コルベールが俺をガン…と呼ぼうとしていましたね。あれは一体?」

「…やはり聞かれておったか。そしたら順を追って話すかのう。春の使い魔召喚の儀の際、ミスタ・コルベールが君のルーンをスケッチしておったであろう。あれについて調べておったらの、驚くべき事がわかったのじゃ」

「驚くべき事…それは一体?」

「それはガンダールヴのルーン。伝説の使い魔のルーンじゃ」

「で、伝説の!?」

「そうじゃ。ガンダールヴは始祖ブリミルの使い魔の1体で、主人の命を守るべく、ありとあらゆる武器を使いこなし、襲い来る敵を容易く撃破したそうじゃ。曰く『神の盾』もしくは『神の左手』という。ミスタ・グラモンとの決闘、君も気づいておろうが『遠見』の魔法を通じて見させて貰った。素手にも関わらずあの圧倒振り、そして私達の遠方からの視線をあっさりと察知した、感の鋭さ…正にガンダールヴであると確信したのじゃ」

 

これに、そんな力が…だが同時に『そうみたいだな』とも思える。

ギーシュとの決闘以来、シルバーチャリオッツと重なる様にして構えるとあの最高にハイな感覚が蘇って来る。

それに青銅で出来たギーシュのゴーレム『ワルキューレ』を、レイピアの一振りでホームランした…俺の知っているシルバーチャリオッツでは、そんな芸当は不可能だ。

だがこのガンダールヴのルーンで、シルバーチャリオッツもまたパワーアップしたとしたら…

そして魔法について殆ど知らない俺が、『遠見』による監視に気付ける程に感が冴えていたとしたら…大体の説明がつく。

…む、待てよ?確か始祖ブリミルは、今では失われた『虚無魔法』を使っていたらしいな。

その使い魔であるガンダールヴに俺がなったとしたら…まさか、ルイズは…!?

 

「何故君が異世界からこのハルケギニアに、ガンダールヴとしてミス・ヴァリエールによって召喚されたのか…分からない事は山積みじゃが、私なりに力を尽くそうと思う。安心して欲しい、私はお主の味方じゃ、ガンダールヴよ」

 

俺がそんな考えを巡らせている事を知ってか知らずか、オールド・オスマンはそう言うや否や、突然立ち上がり、地べたに膝を着いた…まさか…?

 

「我が恩人の杖を取り戻してくれて、ありがとう…!この恩は、絶対忘れぬ…!」

「…!」

 

数分前まで、良くいる好色な管理職キャラかと思っていた俺を殴りたい。

確かにそういった一面こそあるが、彼はヴァリエール家以外に初めて見た、紛う事無き『貴族』だった。

貴族や平民といった身分に関係なく気にかけ、上に立つ者としての義務と誇りを忘れない…無意識にオールド・オスマンと敬称を付けて呼んでいたのも、それを感じ取ったからかも知れない。

 

「お主が何故このハルケギニアに降り立ったのか…私なりに調査に力を注ぐつもりじゃ。しかし…」

「見つからない可能性もある、と?それは最初から覚悟している事ですよ」

「そうかの…なぁに、お主の世界とは勝手が違いすぎるであろうが、此処も住めば都じゃ」

「ははは…まあ言えていますね。ルイズも良くしてくれますし」

「そうか、ミス・ヴァリエールとも上手くやっているかの。それは良き事じゃ」

「あ、そのルイズが待っているのでこれで失礼しますね」

「うむ、吉報を待っておるのじゃぞ」

 

------------

 

何時も食事をとっているアルヴィーズの食堂の上階にあるホールにて行われていた『フリッグの舞踏会』。

普段は皆同じ制服の生徒達や教師陣も、この日ばかりはと言わんばかりに着飾り、豪華な料理が盛られたテーブルの周囲で歓談したり、中央のダンスステージで音楽に合わせて踊ったりしていた。

で、俺はと言うと…

 

「相棒、中で食わねえのか?てか、何だその服?」

「パーティーは初体験でな、勝手が分からねぇ。それにこれは俺の正装だっ!」

 

ジョジョ第3部にて承太郎と共に旅をした『花京院典明』が着ていた緑色の学ラン、茶色の革靴をしっかりと着こなし、バルコニーでワインを飲んでいた…これを選んだのは簡単だ、このハルケギニアに呼ばれた際に唯一持っていた正装(らしき物)が、これだったからだ。

そういえば、ルイズは遅いな…女の子の支度は時間が掛かると言うが、それにしても遅い…ルイズと同じ時間に支度を始めたと思うキュルケやタバサは既に来ている(そしてさっきキュルケからダンスの誘いを受けたが断った)というのに。

と、思っていたら、

 

「ヴァリエール公爵の息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の、おなーりー!」

 

門に控えていた衛兵の大仰な呼び出しで、来た事に気づき振り向いた…ら…

 

「ブラボー…おぉ、ブラボー…」

「馬子にも衣装って奴「てめー今ルイズの事なんつったぁ!?」あべしっ!?」

 

ふざけた事を抜かすデルフリンガーはさておき、舞踏会にやって来たルイズのその姿は、何時も以上に綺麗で、それこそダイヤモンドの様に輝いていた。

パレッタで纏められた、長い桃色の髪。

可憐さを表現したかの様な白いパーティードレス。

高貴さを強調する白い、肘まである長い手袋。

そのどれもが、ただでさえ神々しいと言えるルイズの綺麗さをより高みへと押し上げている様だった。

…実際、これまで歯牙にも掛けないどころか『ゼロ』のルイズと罵倒していた男子生徒共が盛んにダンスの申し込みをしていた…やれやれだぜ。

しかしルイズはそれを軽くあしらいつつ、真っ直ぐに歩みを進めていた。

そこにいたのは…

 

「あら、此処にいたのね」

「おおルイズ…随分と綺麗だな、本当に」

 

お、オレェ…

 

「どうして俺の所に?踊らないのか?」

「…踊る相手がいないのよ」

「…そうか」

 

さっきまでダンスを申し込んでいた奴らは例外なく、今までルイズの事を『ゼロ』だと罵倒していたのだ。

それが今回のフーケ討伐で一番頑張って、そしてこの舞踏会で綺麗さに磨きを掛けた途端に心変わりである…俺だってルイズの立場に置かれたら、絶対に断っている所だ。

と、思っていた俺の目の前に、ルイズがすっと手を差し伸ばした…これって…

 

「わたくしと踊って下さいませんこと、ジェントルマン?」

 

その手を見て思わず前に向き直った俺が目にしたのは、顔を赤らめつつも俺に一礼し、ダンスに誘うルイズの姿だった。

その姿は…今迄俺が目にしてきたルイズの姿の中でも一番と言える位綺麗で…愛らしかった。

…ご主人様にそこまでされて、素気無く断るのは使い魔じゃあねぇ!

 

「俺で良ければ…喜んでお受けいたします、レディ」

 

何時もなら絶対言わない様な気取ったセリフでルイズの手を取る…と、勇んで出たは良いのだが、俺ダンスやった事無いんだよな…キュルケの誘いを断ったのは、その点もあったからだと言うのに、何恰好付けているんだ俺…

 

「初めて?なら私に合わせて」

「分かった」

 

それを察したのかフォローしてくれたルイズ…はぁ情けねぇな俺…

…だが始まってみると、ルイズが合わせやすい振りにしてくれたのか思ったよりスムーズに踊れている…やってみると、楽しい物だな。

 

「ねぇサイト…やっぱり、帰りたい?元の世界に」

「まぁ…な。俺にも家族やダチはいる…今頃心配しているかも知れねぇ」

「そう…よね。やっぱり…帰りたいよね…」

「だが…ルイズがどんな力を持ったメイジなのか、どんな可能性があるのか、何が出来るのか…それが分かるまでは帰らない」

「え…?」

「この数日、お前の使い魔としてずっとお前の事を見てきた…そして1つ分かった事がある。お前は、このハルケギニアの歴史に名を刻む、そんな凄ぇメイジになる。その一端を見届けないまま帰ったら…俺は絶対に後悔すると思う」

「…」

 

家族やダチには悪いが、当分はまだルイズの使い魔として頑張るつもりだ。

例え今日明日中に帰る方法が見つかったとしても…まだだ。

 

「ありがとうね、サイト」

「ん?どうした、急に?」

「その…あの時、私を必死な感じで励ましてくれたじゃない」

「ああ、あの時か。必死も何もあれは正直俺もマジギレしていたしな…要点しか覚えてねぇや」

「何よそれ、人を怒鳴り散らして置いて…でもやり方がどうあれ、あそこまで必死に私を励ましてくれたのは初めてだった。あの事があったから…ずっと忌み嫌っていた私の失敗魔法にも向き合う事が出来た。キラークイーンを使って何が出来るか、真剣に考える事が出来た。あの事が無かったら、フーケを捕まえる事は出来なかったかも知れないし、こうしてアンタとダンスを踊る事も無かったかもね」

「そうか…使い魔として、役に立った様で何よりだ」

「もう…ずっとそうね、事ある毎に使い魔使い魔って」

 

それまでダンスを踊りつつ、寂しそうにしたりにこやかにしたりして話していたルイズの表情が、少し不機嫌そうになった…ど、どうした?

 

「それじゃあまるで、私がアンタの主人じゃ無かったら助けなかったと言っている様な物じゃない。それとも、本当に私の使い魔だから助けてくれたの?」

 

ああ…そういう事か、そりゃあそうだよな。

 

「誰か困っている奴を助けるのに、理由なんていらないさ。それが俺の尊敬する…ジョジョだ」

「…そう」

 

俺はジョジョによって育てられたと言っても良い…そのジョジョによって育てられた正義の心故に、例えルイズと何の接点が無かったとしても、迷わず助け、励ましていたと思う。

ハルケギニアに来る前まではそんな漫画の様な展開等そうそう無かったから確信出来なかったが、今はそう思う、そう言い切れる。


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