ファイアーエムブレム 竜の軍師   作:コウチャカ・デン

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第8章「烈火の剣」

 一度はロイ達リキア同盟軍本隊と合流したエリウッド達であったが、ベルンの竜に対抗するため再び独自の行動を開始する。

 彼らが目指すは、リキアが一つの国であった頃に作られた祭壇。

 オスティア郊外の山中にある、かつて封印されていた溶岩洞窟であった。

 

「烈火の剣デュランダル。人竜戦役時に八神将の一人、勇者ローランが振るったとされる大剣……マジで実在したんすね」

「ああ……当時は竜を薙ぎ払うほどのとてつもない力を持っていたため、悪用されぬように厳重な封印がなされていたんだ。今はかつてほどの力は持たないらしいけど、それでも十分強力な武器だよ」

 

 感慨深くつぶやく傭兵クルザードに、エリウッドは自身が知りうる知識を付け加える。

 その言葉に、クルザードはかすかな疑問を覚える。

 

「まるで見たことがあるような物言いですね……それに、封印されていた?」

「20年ほど前、いろいろあってね……だが、今は感謝すべきなのかもしれないな。あの一件が無ければ、我々は封印に阻まれて神将器を目指すことすらできなかっただろうから」

「……それほど厳重な封印されていた場所に、俺みたいな傭兵を連れて行ってよかったんですかい?」

 

 特に気にした様子もなく語るエリウッドに、さしものクルザードも軽く冷や汗を流す。

 神将器の情報など、一介の傭兵に話すには過ぎた情報だ。まさかこの後口封じなんてことにとなるのではと不安になるクルザードに、エリウッドは苦笑しつつ続ける。

 

「こんな不利な状況のリキアに付く傭兵だ。これを疑ってしまえば、私は誰を信じればいいというんだい?」

「……かないませんね」

 

 両手を上げて、クルザードは降参を示す。

 クルザードも傭兵をしてそれなりに長いが、金の切れ目が縁の切れ目である傭兵をここまで信用する雇い主なんて、未だかつて見たことが無い。

 そうつぶやくと、エリウッドの脇に控えた戦士と魔導師が力強く同意する。

 

「俺は元々ベルンの人間だが、フェレに移住する際はいろいろと融通を利かせてもらったな」

「私もいろいろ事情があるんだけど、フェレでしばらくお世話になったことがあったんだ」

「……本当に、かなわねぇなぁ」

 

 歴戦の傭兵であるクルザードの目から見ても、戦士ドルカスと魔道士ニノは超が付く一流だ。

 この難事に際し、これ程の人物が集うエリウッドの人柄に、クルザードはただただ感服する他無かった。

 そのまま黙ってしまった傭兵を置いて、ドルカスは先程から疑問に思っていたことをニノへとぶつける。

 

「……それはともかくニノ、息子が同盟軍にいるのではなかったのか?」

「うっ……そ、そうなんだけど……」

「? 何か言いにくい事でもあったのか?」

「その、何と言いますか……」

 

 ドルカスの問いかけに、ニノは落ち着きを無くす。せわしなく動き回る視線は、何かやましいことがあるのではと勘繰るに十分な物であったのだが、さすがに見かねたエリウッドがフォローに入る。

 

「……ルセアの下で平和に暮らしていると思っていたら、この状況だ。どんな顔をして会えばいいのかわからなくなるのも、わからないではない」

「なるほど……」

 

 エリウッドの一言に、ドルカスは納得する。

 ようやく安全を確保して迎えに来てみれば、孤児院は焼き払われ、院長であったルセアは亡くなっていたのだ。

 ニノ達に事情があったとはいえ、子どもたちが納得出来るかは別問題だ。今更どんな顔をして会いに行けばいいのかわからないというのもうなずける。

 

「うぅ……『今更何しに来た!』とか言われちゃったらどうすればいいの……?」

「……とはいえ、このままというわけにはいかないだろうに」

 

 大丈夫などと無責任な事を言うわけにもいかず、ドルカスは聞きたくないだろう正論を述べるしかなかった。

 結局、ニノには選択肢などない。遅くなればなるほど再会した時の反発は強くなるだろうと想像できるのだから。

 周囲にできる事と言えば、事前にニノの事情をルゥに告げることだが、下手をすれば余計な反発を呼びかねない。

 

「まぁ、なんにせよオスティアに戻ってからだ」

「そうですね、どうやら招かれざるお客さんがいるようですし」

「……敵か」

 

 今できる事は無いと、ある意味無慈悲に告げるエリウッドに、ニノはため息ひとつでその意識を切り替える。

 目前に迫った目的地である洞窟からは、何とも粘つく殺気が漏れ出していた。

 

「おいおい、なんでこんな聖域から殺気が漏れてんだよ……」

「……おそらく、賊が根城にしているんだろう」

「ふむ、確かにここ以上に隠れるに適した場は無いだろうな」

 

 確かにこの場はクルザードの言うように神将器が収められた聖域であるが、その事実を知る者は限りなく少ないのだ。

 そしてこの洞窟は人目から隔離された場所にあるため、賊が潜むには適していると言わざるを得ない。

 

「しまったな……賊がいるとわかっていれば、もっと人数を用意してくるべきだったか?」

「……いや、必要ないだろう」

「おっさん!?」

 

 ドルカスのあまりに無謀と思える言葉に、思わずクルザードが叫ぶ。

 だが、クルザードを責めるのは酷というものだろう。いくら賊とはいえ、オスティア近郊を根城とする輩なのだから、そこら辺の賊と思っては痛い目を見るのは間違いない。

 さらに言えば、相手の根城にこの少人数で乗り込むなど、正気の沙汰とは思えなかった。

 しかし、ドルカスだって何の根拠もなくこのような事を口にしたわけではない。

 

「……あのマークが、この事態を予想していなかったとは思えん。ならば、この面子で十分対処できるだろう」

「さすがにそれは妄信が過ぎるんじゃ……」

「でも、あそこに私たちが苦戦するほどの手練れがいるようには見えないよ?」

 

 ドルカスの言い分をニノが補強するのを聞いたエリウッドは、素早く決断を下す。

 

「よし、ではこのまま突き進もう」

「マジですか……」

 

 思わず天を仰ぐクルザードであったが、戦うと決まったからには泣き言など言ってられない。

 洞窟から漏れる殺気から察するに、こちらの接近は気付かれているだろう。

 奇襲すらできずに正面から乗り込むドルカスに続いて洞窟に入るが、そこで彼は援軍など必要ないというのが真実であったことを知る。

 

「すげぇ……」

 

 待ち構えていた賊どもも、その鋼の斧の一撃を前にすれば防御など意味をなさない。運よく生き残ったとしても、それは苦痛を引き延ばしただけに過ぎなかった。

 かろうじて生き残った賊にはニノのサンダーの魔法が飛び、その命を刈り取っていくのだから。

 いや、そこまでならまだよかった。

 

「やれやれ、仮にもここを拠点にしているのに、この程度も把握していないのかい?」

 

 エリウッドの指揮通りに動けば、圧倒的な数の不利を感じることなく戦えるだけで無く、この洞窟そのものが味方になった気さえするのだ。

 事実として時々床から炎があふれ出るが、その炎が焼くのは賊ばかりである。

 敵の本拠地であるのに全くその事実を感じさせない指揮は、もはや未来が見えているのではと思えるものであった。

 しかし、それほどの力と知恵を示してなお、エリウッド達は賊どもを圧倒することができないでいた。

 

「……やはりこの数が相手となると、辛いものがあるな」

 

 いかにドルカスやニノが武勇に優れようとも、同時に相手取れる人数には限りがある。

 さらにエリウッドが指揮に徹して武器を振るわないことも気付かれ、戦局は徐々に傾くのであった。

 

「くそっ! これ以上来られたら防ぎきらんぞ!」

「そんなこと言われても……!」

「……こちらも手一杯だ!」

 

 ドルカスやニノには完全に足止めが目的の賊が群がり、その隙にエリウッドを目指す敵が増えたのだ。

 何とかこれを防ごうとするクルザードであったが、彼にドルカス達ほどの能力は無い。

 かろうじて自分の身を守るだけで、声を上げるだけで精一杯だった。

 

「エリウッド様ッ!」

「死ねぃ!」

 

 護衛をすり抜け、敵の指揮官へと斧を振りかぶった賊たちは勝利を確信した。

 そう、賊たちは知らなかった。今目の前にいる男が、かつてリキア一の騎士と呼ばれていたことを。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

 振り下ろされた斧は空を切り、返礼とばかりに突きだされたエリウッドの持つ銀の槍が賊の体を貫く。

 もちろん、エリウッドの攻撃がその一撃で途絶えるはず無い。二撃、三撃と放たれる槍は、その数だけ賊を駆逐する。

 そこに至って、ようやく賊たちも気付いたのだ。

 

「く、くっそ、こんなの勝てるわけねーよ!」

「はぁ!? じゃあどうしろってんだよっ!」

 

 一騎当千と呼んでも過言ではない戦士、魔道士、騎士を前に勝ち目がないと悟り、同時にここが出入り口が一つしかない洞窟であり、逃げ場がないことを思いだし絶望する。

 かといって投降しても死罪になることは間違いなく、故に彼らのとれる道は一つしかない。

 万に一つの勝利を妄想して、特攻を仕掛けるしかなかったのだ。

 

「……まあ、こんなもんだろう」

 

 やけになって突っ込んでくる賊どもをドルカス達が薙ぎ払うのを見て、エリウッドは人知れず大きく息を吐きだす。

 それと同時に胸に鋭い痛みを感じるが、エリウッドは努めて平然と振る舞う。

 

(せっかく私自身も強者であると印象付けたんだ……そのイメージを崩すわけにはいかない!)

 

 そう、病にその身を侵されたエリウッドは、決して十全の戦闘行為をこなせるわけではないのだ。

 本気で戦えるのはせいぜい二、三度。それを超えれば、ただの足手まといになり下がるだろう。

 だからこそ最初の一戦で、苦労してドルカス達をすり抜けても意味がないと教え込んで、賊どもをただやみくもに突っ込むだけの烏合の衆に変えたのだ。

 このエリウッドの策が成功した今、賊どもにドルカスやニノを倒す術は存在しない。

 彼らはもはやただ作業をこなすかが如く賊どもを殲滅していき、ついには賊のリーダーであるヘニングをも討ち果たすのであった。

 

「や、やっぱりだめだった、か……」

「……どうか、安らかに……」

 

 ヘニングが完全に息を引き取ったことを確認したエリウッドは、静かに弔いの言葉をかける。

 その声はごく小さなものであったのだが、その言葉が聞こえてしまったクルザードはエリウッドの行為に首をかしげる。

 それによりエリウッドは、先の呟きが聞かれてしまったことに気付いたのだろう。苦笑しながら、言い訳をする。

 

「確かに彼らは賊で、私にはそれを討つ義務がある。だが、そもそも彼らが賊に墜ちた理由はなんだったんだろうね?」

「それは……」

「傲慢に聞こえるかもしれないが、為政者である私ならその理由を無くすことができたかもしれないとつい考えてしまう……賊なのだから討って当然……そう思う事が、私にはどうしてもできないんだ」

 

 そんなもしもの話なんて、考えるだけ無駄なのかもしれない。

 だが、エリウッドにはそう割り切ることができなかった。

 そして、そのことが間違っているとも思っていなかった。

 

「……変な事を言ってしまったね」

「いえ……」

「では、本来の用事を済ませよう。少し待っていてくれ」

 

 エリウッドはそう言い置き祭壇へ向かうと、クルザードの下へドルカスとニノが近づいてきた。

 

「……エリウッド様があんな人だから、あたし達はここにいるんだよ」

「そう、でしたか……」

 

 ニノの一言で、どうしてこれほどの腕を持った魔道士が野ざらしにされているのか理解する。

 彼女らは昔、公に出来ないことをしでかし、そこをエリウッドに救われたのだろう。

 そんな僅か数言を交わす間に、エリウッドが目的の剣を持って戻ってきた。

 

「これが、神将器……」

「ああ、烈火の剣デュランダルだよ」

 

 わずかに鞘から抜かれた刀身を見たクルザードは、そのあまりの威容に飲まれそうになるのを感じた。

 

「神々しいというか、なんていうか……とんでもなくすごい剣だってことはわかります」

「……神々しい、か……」

 

 クルザードの感想を聞いて、思わずエリウッドは自嘲の笑みを浮かべる。

 それは、間違いなくかつての自分も思ったことなのだから。

 

「クルザード……これはただの剣だよ。この剣には、正義も悪もないという事をよく覚えておくといい」

「エリウッド様?」

 

 そう告げるエリウッドの瞳には、強大な力を前に自身を律する強い意志の他に、何か別の感情が見え隠れしていたが、その感情を確認することはできなかった。

 

「エリウッド様!」

「ニノ!?」

 

 ニノの警告と共に突き飛ばされたエリウッドは、つい先ほどまで自分が立っていた場所が闇魔法ミィルによって蹂躙されたのを視認した。

 それと同時に、自分たちが奇襲を受けたことを認識し、すぐさま次撃に備え体勢を整える。

 

「ニノ、無事か!?」

「大丈夫!」

『……っち、まさかあれを躱すとはな』

 

 エリウッド達の警戒に、これ以上の奇襲は不可能と判断したのだろう。襲撃者たちが、その姿を見せる。

 とはいえ、その身は完全にローブに覆われ、襲撃者の年齢や容姿は全く判別がつかなかったが……

 

「……全部で4人……そう判断するのは早計かな」

「うん、そこの岩陰にもう1人いる」

『……』

 

 最後の伏兵をも看破された襲撃者たちは、今度こそ奇襲を観念したのか全員がその姿をエリウッド達の眼前に晒す。

 だが、彼らの殺気は伏兵を見破られた程度で収まることはなかった。

 

「目的は神将器か? 諦める気は……聞くまでもなさそうだな」

『……神将器を置いて行くなら、命だけは助けてやろう』

「貴様たちが何者かは知らんが、その提案を私たちが受け入れるとでも?」

『ならば……ここに屍を晒すといい!』

 

 交渉とも呼べない確認はすぐさま決裂し、襲撃者たちが剣を持ってエリウッド達に飛び掛かる。

 だが、やはり相手が悪かった。

 

「そんな雑な攻撃が……!」

「通るはず無いでしょう!」

 

 ドルカスの鋼の斧が、ニノのサンダーの魔法がそれぞれ襲撃者を捉え、その身を弾き飛ばす。

 だが、その程度は問題ないとばかりに残った3人がニノ達の間合いに踏み込み、その剣を振り下ろす。

 

「……!」

「この……!」

「つぅ……!」

 

 襲撃者の斬撃をドルカスは無言で堪え、クルザードが受け止めるが、魔道士であるニノはそうはいかなかった。

 それなり以上のダメージに思わず苦痛の声を漏らすが、それでも彼女は歴戦の魔道士だ。

 襲撃者が再び剣を振るう前にニノは再び雷を呼び、目の前の敵へと叩きつけ、その手ごたえの異常さに気付いた。

 

「なにこれ……全く通ってない!?」

「魔法だ!」

 

 ニノが気付いた事実にエリウッドは一瞬瞠目し、すぐに警告を発する。

 攻撃が通っていないという事は、先ほど弾き飛ばした敵もまだ健在という事なのだから。

 その警告の通り、ドルカスめがけて2つのミィルが飛んできたのを確認したニノは、即座に編み上げたサンダーでもって迎撃をする。

 だが、いかにニノとて2つの魔法を完全に相殺することはかなわなかった。その余波がドルカスの体力を削り、戦場の天秤をまた少し傾ける。

 

「一体何がどうなってるの!?」

「落ち着け、ニノ……死なぬとわかれば、それ相応の戦い方がある」

 

 こちらの攻撃が効果を見せない事に若干の混乱を見せるニノであったが、エリウッドが冷静に対処法を述べる。

 

「体を切りつけても無意味なら、四肢を切り飛ばせ。雷撃を撃ちつけても動き続けるのなら、死体も残らぬよう燃やし尽くせばいい」

 

 エリウッドの言葉に、なるほどと一つ頷きドルカスが前に出る。

 しかし、襲撃者たちとてただの木偶ではない。各個撃破を狙い、逆に一つ前に出たドルカスを囲うように動きだす。

 もっとも、それを簡単に許すようなエリウッド達ではなかった。

 

「させないよ!」

『むっ!?』

 

 命中精度を度外視して放たれた幾重もの雷は、襲撃者たちを捕らえることなく洞窟の床を砕き、その直下を通っていた炎をあふれさせる。

 足元を焼く炎の奔流に、ほんの数秒であったがタイミングを外された襲撃者たちの攻撃など、何の脅威もない。

 ドルカスは渾身の力で斧を振るい襲撃者の右腕を切り落とし、頭蓋を叩き潰す。

 もちろん、彼らの攻撃はこれだけに収まらない。

 

「俺の事も忘れて貰っちゃ困るぜ!」

『雑魚の分際で……!』

 

 ドルカスやニノの危険度が高すぎたため、半ば放置され始めていたクルザードが躍り出て、これまた襲撃者の腕を切り飛ばす。

 だが、それで襲撃者の戦闘能力を完全に奪ったわけではない。彼らは剣のほかに、闇魔法まで扱えるのだから。

 しかし、これも不発に終わってしまう。クルザードへ意識の大部分を割いてしまった襲撃者は、その瞬間に放たれたニノの魔法に反応すらできず、その頭部を消し飛ばされたのだった。

 

『これほどとは……!』

 

 思わず感嘆の声を上げる襲撃者であったが、その声にはまだ余裕がある。

 おそらくリーダーなのであろう人物が指示を出し、残った2人がドルカスとクルザードの足止めをすべく散開する。

 

「あたし1人が相手なら勝てるって、本気で思っているの!」

『確かに貴様は優秀だが……それだけでは我らには勝てん!』

 

 同時に詠唱に入った2人であったが、詠唱自体はやはりニノのほうが速かった。

 雷がニノの手から襲撃者に迫り、直前にその起動が不自然に歪んだ。

 

「っ!?」

『理魔法など、強大な闇の前では無力であると知るがいい!』

 

 驚愕するニノに告げられた言葉は、覚えがあるものであった。

 面倒な原理はともかくとして、魔法には三すくみなるものが存在し、その一つが闇魔法は理魔法に対し優位を保つというものだ。今の現象は、その三すくみが強く影響した結果であろう。

 ニノは足元に浮かび上がった魔法陣から素早く回避行動を取ろうとするが、その逃げ出した先にも再び魔法陣が現れる。

 

「このっ!」

『無駄だ!』

 

 魔法陣から飛び退くこと6回。それだけの数をこなし、ようやくようやく魔法陣から逃れたニノであったが、次の瞬間にそれが間違いであったことを思い知る。

 

「囲まれた!?」

『気づくのが遅い! 喰らえ、ミィル・オブセシオ!!』

「ニノッ!」

 

 エリウッドが慌てて援護に向かおうとするが、さすがに遅すぎた。全周囲から迫るミィルを前に、逃げ場などない。ならば、無茶であろうとニノは迎撃を選択する。

 

「消し飛べっ!」

 

 そうしてニノが放つのは雷撃。それも、全方位に向けた6連撃であった。

 

『馬鹿な!?』

「いや、まだだ!」

 

 ニノの技量に驚愕する襲撃者に、とどめと言わんばかりにエリウッドが立ちふさがる。

 その手に握られているのは、先程の戦いで使っていた銀の槍……ではない。

 

『デュ、デュランダル……!?』

 

 振りかぶられた剣から放たれる力の波動は、これをまともに喰らえば消し飛ぶと襲撃者に悟らせるには十分な物であった。

 

「はああぁぁっ!」

『ぬおおおぉぉ……!』

 

 剣を、魔法をもって全力で抗おうとする襲撃者であったが、相手は竜を滅する力を秘めた神将器だ。

 最後の抵抗は実を結ぶことなく、彼は文字通り欠片も残さず消し飛ばされることになったのであった。

 

「……終わり、ですか」

「……そのようだな」

 

 すでにドルカスはクルザードに向かった襲撃者も合わせて撃破しており、これにてようやく戦いが終結したのだ。

 その一言を聞いて座り込むクルザードを、ニノは即座にライブの杖を使い、傷を癒す。

 また、ドルカスや自分の傷の治療を行いつつも、彼女は油断なく周囲への警戒を続けていた。

 

「奴らは、何者だったんでしょうね……」

「……わからん。神将器が狙いだったようだが、あの様子ではろくな目的ではないだろうな」

 

 正直なところ、可能ならば捕らえていろいろ話を聞きたかったのだが、それを許すような敵でなかったし、状況でもなかった。

 一番怪しいのはベルンだろうが、だとしたら魔法剣士部隊などという破格の部隊の情報が世に出ていないというのはありえないはずだ。

 

「神将器に関しては、詳しい人物に心当たりがある。ひょっとしたら、あの襲撃者について何か知っているかもしれん」

 

 エリウッドは大賢者の弟子や稀代の軍師を思い浮かべ、今はそれ以上に割ととんでもないことをして見せた魔道士へと意識を向ける。

 

「ところでニノ、最後の魔法は一体……?」

「あ、最後のサンダーの事? ん~、なんかやってみたら出来ちゃったんだ」

「……は?」

 

 呆気にとられるエリウッド達に、ニノはさらに驚愕の事実を続ける。

 

「あたしは魔法を覚えるとき、詠唱を聞いてそれを何度か口に出して唱えて覚えるんだけど、その延長みたいな感じかな?」

「つ、つまり……?」

「さっきの人の詠唱を、ミィルからサンダーに変えて、あと包囲集束から拡散迎撃に変えたら出来ちゃった」

「……」

 

 ここに魔法に詳しい者がいなかったのは、ある意味幸いだったのだろう。もしいれば、絶句する程度では済まなかっただろうから。

 それはともかく、目的のデュランダルは何とか回収したのだ。これ以上この場に留まる必要など、ありはしない。

 

「襲撃者の仲間が来る可能性も無くは無い。早急にこの場を離れよう」

「分かりました」

 

 そうしてエリウッド達は、再びオスティアへと足を向ける。

 息子たちの、戦友たちの無事を信じながら。

 




アンケートご協力ありがとうございました。
活動報告にも書きましたが、西方三島はエキドナさんルートに決定いたしました。

イリア・サカルートはもうしばらく期間があるので保留です。

あと、人物紹介についてアンケートを取りたいと思いますので、もしよろしければ活動報告の方をご一読ください。
参加していただけると更にうれしいです。

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