レジスタンスの少女ララムから助けを求められ、ロイ達はレジスタンスと無理やり働かされているという島の人々を救う為にエブラクム鉱山へと向かう。
同行しているパントからの理解は得られたが、それでもエトルリア本国との関係は間違いなく悪化するだろう。
そんな未来に胸を重くしつつも、ロイ達はその歩みを止めることはしなかった。
自分たちの行動が多くの人々を救うと信じ、胸を張ってリキアに帰るのだと、毅然たる態度を崩すこともまた無かった。
「マーク殿」
「ランスか、怪我はもう大丈夫なのか?」
エブラクム鉱山への道中、西方三島に駐在するエトルリア軍との戦いに備えてパントからの情報をまとめていたマークの下に、リキアから合流したランスが訪ねてきた。
マークが最後に見たときはまだ完治していなかった右腕だが、今はもう包帯などをつけている気配は無かった。
「はい、リキアで起こった反乱騒ぎでも戦いに参加できましたから、もう心配いりません」
「それは良かった」
むしろ、怪我をする前よりも太くなった腕を見せるランスに、マークは他意のない笑みを見せる。
今後の戦いを思えば、ランスの参入は非常に心強かった。
実際にそう言って歓迎するマークにランスは最善を尽くすことを約束し、リキアを発つ際にエリウッドより預かったと言う荷物を差し出すのであった。
「これは……剣か?」
「はい。マーク殿も前線に立つのなら少しでも良い武具を身に着けてほしいと、エリウッド様がおっしゃっておりました」
オスティアでは細身の剣を手に竜騎士たちと戦い、彼らの堅さを前に全く歯が立たなかったと聞いたエリウッドがマークのために準備したのだが、エトルリアからの要請が急であったこともあり、出陣に間に合わなかったらしい。
「時間をかけただけあって、扱いやすく、耐久に優れ、それでいて見栄えのする物となったそうです」
「別に必要ないのに……」
元々、マークが剣を握ったのはたった一人で完全に無防備な状態で戦場に立つのがためらわれたからであり、正式に剣技を修めたわけではないのだ。
とはいえ、今日まで戦場に立ってきた故か、そこそこの腕になってきているのも事実であり、扱いやすく優れた剣があると言うのはありがたい。
「まぁ、エリウッドからの好意だ。この剣を持つに恥じない程度の腕にならなくちゃな」
本格的な鍛錬とまではいかないまでも、少し剣を振るう時間を作ろうと決意し、マークは席を立つのであった。
そしてマークを見送ったランスは、いつも通り自分を磨くべく天幕に戻り、マークの言うところの一人遊びに精を出す。
「やはり、ここはナイトを……いや、アーマーでじっくりと攻めるべきか?」
同盟軍に合流するまでに、何とか二度ほど攻略に成功させたランスであったが、その代償として図面の上には兵士が溢れかえっている。
それを睨みながら唸っていると、本来この場で聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「ランス、ちょっといいかな?」
「ロイ様……!?」
この軍の将として多忙を極める主君が、わざわざ一介の騎士の天幕を訪れるなど欠片も想像していなかったランスは、慌ててロイを迎え入れる。
「何か御用があるのでしたら、呼びつけていただければ……」
「いや、そんな大したことじゃないから……怪我はもう大丈夫なのか確認したくってね」
「……はい、ご心配おかけして申し訳ありません。もう大丈夫です」
「そう……ならいいんだ」
念のためとはいえ、一度は軍を離れなければならなかったのだ。庇われたロイからしてみれば、ちゃんと確認したかったと言うのも頷ける話だろう。
だが、ランスから言わせてみれば、マーク達に無理やり残されたと言った方がしっくりくるのだ。
「……元々、クルザードに反乱を起こさせる予定だったので、戦力を残すため為というのが本音だったらしいです」
「そうだったのか……」
「結果から言えば、多少過剰戦力気味になってしまいましたけど」
怪我の療養という名目で残されたランスと、その実力とは裏腹に世間に名が知られていない魔道士ニノ、元イリアの天馬騎士であるオスティア侯爵夫人フロリーナ。
これに、十全な状態とは言わないがリキア一の騎士エリウッドが加われば、もはやリキアにかなう者などいない。
まして敵首魁であるクルザードと通じているとなれば、この機会を好機と見た愚か者の未来などあるはずもない。
ランスが語った戦いの詳細を聞けば、さすがのロイも苦笑せざるを得なかった。
「まあ、問題無く制圧できたのなら良かったよ」
「内通者は排除され、残った者たちの団結は高まりました。例えベルンが攻めてきたとしても、そうやすやすと落されたりはしないでしょう」
リキアが安定し、ロイはひそかに感じていた焦燥が薄れるのを感じた。
そうすると自然と視野が広くなり、ふとランスの手元にあったフェレ城の見取り図がロイの目に入った。
「これは?」
「あ、これは……マーク殿からの課題、といった所でしょうか」
いくらロイの訪問が急であったとはいえ、城の見取り図を開いたままにしていたことを気まずく思うランスであったが、ロイはそのことに気付かず、ただ図上に配置された兵たちについて思案する。
「ひょっとして、防衛戦?」
「いえ、今は攻城戦です」
かつてマークから教わった『一人遊び』の事をロイに説明し、今は再び防御に隙が無いかを検討中だとランスは告げる。
その話を聞いたロイは将の顔つきになり、もし自分だったらどう攻めるのかを検討し始める。
「ずいぶんと厚い陣営だね……こちらの戦力を集中させ、相手の戦力を分散させなければ突破は難しいかな?」
「はい……しかし、その分散させることが難しいです」
両軍ともランスが動かしていることもあるだろうが、相手を出し抜く策というのはとても難しい。
そういうランスに、ロイは少し訂正を加える。
「確かに、相手の考えの上を行くのは重要だけど、策というのはそれだけじゃないよ」
「と、言いますと?」
「例えば……罠だとわかっても、乗らなければいけないように仕向けるのはどうかな?」
城内の兵が多いことを確認したロイは、まず兵糧の問題を挙げる。
「これだけの兵を養うには相応の食料がいるし、長期戦の構えを見せれば、どうしても城から打って出ないわけにはいかなくなる」
「……」
「他にも、あえて動かさない兵を作る事で、相手にも余力を残すことを強制させたりするのもいいかな」
自分の考えた策をいかに超えるかと一生懸命考えていたランスには、ロイの敵を自分の思い通りに動かすという考えは衝撃的であった。
だが、確かに戦術書にはその類の策も乗っていたことを思いだし、知識として知っていることと、技術として体得したことの違いを深く理解する。
「……私は、まだまだ未熟ですね」
「僕も同じだよ」
共に深いため息を吐くのは、目の前にある壁があまりに高く、自身の成長が感じられないためだろう。
さらに、こんなことでは自分たちを守るために散ったマーカスも安心できないと、己を追いこんでしまう。
もし本人が居れば、年季が違うと一言で切り捨てただろうが、この場にマークはもちろん、他にも指摘できる者はいなかった。
そのように2人が無駄に落ち込んでいる間、マークは新たな剣を手にしてかつてリンディスの行っていた型をなぞっていた。
その腕前はリンディスと比べればまだまだ未熟であったが、一介の傭兵と言っても通じる程度のものにはなって来ただろうか。
「まぁ、こんなもんかな?」
一朝一夕で身に付くような物でもないし、他にも多くの作業を抱えている以上そろそろ切り上げなくてはと思い天幕へ戻ろうとしたマークに、鋭い殺気が叩きつけられる。
「はぁっ!」
「……なっ!」
同時に死角から振るわれた剣を回避したマークは、襲撃者の顔を確認し思わず息をのむ。
「……ルトガー、さすがに冗談が過ぎるぞ?」
「……」
マークの言葉に、無言のまま佇むルトガーからは先程の殺気が感じられなかったが、それでも怒気というか、不快さを表すことまでは止めなかった。
その機嫌の悪さに心当たりが無かったマークがかすかに首をかしげるのを見たルトガーは、さらに眉を顰めマークを糾弾する。
「……貴様もベルンに恨みがあるのだろう? なぜそんなに呑気にしていられる」
「あー……」
要するにルトガーは、ベルンとの戦うでもなく西方に渡り、目的から遠ざかったにもかかわらず全く平然としているマークにいら立っているのだ。
確かに、同朋がベルンとの戦いから離れてエトルリアのいざこざに頭を突っ込んでいるのを見れば、ルトガーにとって気分のいいものではないだろう。
だが、軍師であるマークには剣士であるルトガーとは違った考えがあるのだ。
「今ベルンと戦っても、勝ち目はないだろう? それともルトガーは、感情のおもむくままにベルンの兵士を斬り捨てて、そのまま玉砕するのが望みか?」
「……」
正直に言えば、怒りに身を任せたい激情も確かにあるルトガーであったが、同時にその程度では済まさないと言う憎悪も身に宿していた。
故に明確な言葉にはできず、ただマークの言葉を聞き続ける。
「そんな末端なんか、どうでもいい。俺の本命は、この戦いの元凶だ」
「……なら、いい」
若干険しくなったマークの気配に、ルトガーも納得する。
肩を並べた同朋が健在と知り満足したルトガーはそのままマークに背を向けこの場を去ろうとして、思い出したかのように助言をする。
「持て余しているのだろう、もっとその力に見合った剣の使い方を知れ」
「そうなのか?」
マークはわかっていないようだが、ルトガーの見立てにそう誤りはないだろう。
今のマークはルトガーやフィルに近い剣技を操っているが、適性を言えばディークやクルザードのそれの方が近い。
そんなこともわかっていないマークに、ルトガーは呆れを隠せなかった。
「本当に、剣に関しては素人なのだな。先程も剣で迎え撃つこともしなかったし……それは本来の貴様の戦い方ではないんだろうな」
「……」
剣を使って受けることも流すこともしないマークは、やはり剣を扱う者として異端なのだろう。
だが、それも当然と言えば当然だ。マークは名の知れた軍師であり、剣士ではないのだから。
(……だが、それにしては回避の仕方が様になっていた気もするがな)
剣のお粗末さに対して異常なまでの冴えを見せる回避能力は、マークの異質さを際立たせる。
(正直、本来の得物の使用を禁じていると言われた方がまだ納得出来る)
そんなあり得ない事を想像し、ルトガーは思わず失笑を漏らす。誰が好き好んで本来の武器を封じ、命のやり取りをする戦場に出るものか、と。
軽く頭を振って下手な妄想をよそへと追いやり今度こそ立ち去ったルトガーを、マークはどこか苦い顔で見続けていた。
リキア同盟軍がエブラクム鉱山へと軍を進める間、鉱山の監督を任されていた司祭オロも、来る戦いの準備を行っていた。
その対策の一つとして、本国より派遣されたクレイン将軍にこのような報告を行う。
『リキア同盟軍は賊と通じて、エトルリアに対する謀反の疑いあり』
これを聞いたクレイン将軍は憤り、雇ったイリアの傭兵天馬騎士団と共にリキア同盟軍を討つ準備を始めるのであった。
「ねぇティト、リキア同盟軍の謀反って本当なの?」
「……隊長と呼んで。クレイン様からの話ではそうらしいわね」
「ふーん……きな臭い話ねぇ」
隊長であるティトの注意を聞き流した天馬騎士の女性は、再び先程の話を吟味する。
そんな相変わらずの部下にため息ひとつついたティトは、仕方なく話を進める。
「あなたがなんて思おうと、雇い主の命令は絶対よ。それが、イリア騎士の誓いなんだから」
「わかってるって! ……ホント、ティトって姉貴に似て来たよね」
「それは光栄ね」
じと目で見てくる女性の言葉をさらりと受け流したティトであったが、それだけで終わらせるわけにはいかない。
なぜなら彼女は、今でこそティトの部下であるが、天馬騎士としてはかなりの先輩にあたるからである。
かなりの期間、イリアから離れて独自に依頼を受けて回っていた彼女は、いかに実力があっても指揮官を任せられる信頼が騎士団で築けていなかったのだ。
はっきり言って、部下として接しなければいけないのはそれなりにストレスを感じるが、戦場での命令系統の混乱は許容できるものではないから仕方がない。
「それで、きな臭いって言うのはどういう意味?」
「今のリキアの盟主はエリウッド様でしょう? あの人が賊と通じるなんてありえないって」
「でも、あなただって最近エリウッド様にあったわけではないんでしょう?」
「そりゃそうだけど……」
人は変わると言外に言うティトに、わずかに言いよどませる女性であったが、それでも確信があるのかやはりありえないと断言する。
だが、それを証明する手段が無いと肩を落とすのであった。
「やっぱり戦いは避けられないかぁ……」
「……そんなにリキアと戦いたくないの?」
「当然! 私はまだ死にたくないもの」
あたかも敗北が確定しているかの女性の物言いに、さすがのティトも目を見開く。
「まさか、『すご腕』を自称して、事実イリアでも3指に入る実力者のあなたが?」
「普段のリキアだったらともかく、今はマークさんがいるからね……」
女性のため息交じりの言葉に、ティトは思わず息をのむ。
常に傲岸不遜の態度を崩さない彼女ですら敵に回したくないと言う軍師を敵に回すのだと、今更ながらに実感する。
しかし、たとえ親兄弟を敵に回しても戦うと誓ったイリアの騎士ならば、いかな強敵を前にしようと戦いを辞めるわけにはいかない。
「まぁ、マークさんもかつての戦友やその息子を、好き好んでは討たないでしょ。なるべく早くクレイン様が投降するように祈ってましょう」
「……クレイン様は弓兵だから、わたし達天馬騎士が前に出ることになると思うけどね」
「げっ!?」
思わずみっともない声を上げた女性であったが、そのある意味いつも通りの反応にティトは何とか平静さを保つのであった。
イリアの傭兵天馬騎士団がこれからの戦いに頭を抱えている最中、レジスタンス達も同様に苦しい状況に陥っていた。
「参りましたね。少し気が急いてしまったのでしょうか?」
「同盟軍と合流できれば、戦力的な不利もなんとかなっただろうからな。つい焦っちまうのも仕方ねぇさ」
「でも、エルフィンがこんな失敗するなんて珍しいじゃないかい?」
レジスタンスの参謀であるエルフィンと、リキア同盟軍の使者であるディーク、それにレジスタンスのリーダーであるエキドナは、エトルリアの兵士たちの目から何とか逃れながら、鉱山ふもとの町までやってきていた。
「情けない話ですが、少し公私を混同してしまいました」
「……そんなに楽しみだったのかよ。ウチの軍師に会えることが」
「まあ、あたしだって楽しみなぐらいだからね。同業者ならなおさらってか?」
「そんなところですね」
周囲はエトルリア兵であふれているのに、それでも平静さを失わないのはさすがというべきか、それとも呑気というべきか……
「……慣れてるんですね」
「基本的に逃げ隠れする日々だからね」
ディーク達とほぼ同時期にレジスタンスと合流したタニアの公女ティーナの呟きに、肩をすくめてエキドナが応える。
「あたしたちに出来るのは、精々嫌がらせ位なもんだからね」
「一国相手にそれだけできれば充分でしょう」
「違いない!」
機嫌よさそうに笑うエキドナであったが、それだけでは満足できないと思っているのがわかる笑い方であった。
だが、同盟軍と合流できればそんな鬱屈した想いともおさらば出来るだろう。
「同盟軍さえ来れば、ね」
「予定通りなら、あと3日ってとこか?」
そう、ディーク達が出発する前の予定では、鉱山への到着予定は3日後になっていた。
それまで逃げ切れば、レジスタンスの目的は達成されたも同然だ。
しかし、そんな願いも容易く裏切られる。業を煮やした城主が、レジスタンス捜索の兵を倍増してきたからだ。
「……もし今、城を攻めることが出来たら、あっという間に制圧できるんじゃないか?」
「あり得そうで怖いですね」
ディークがついそう思ってしまうのも仕方がないほどの兵を吐きだしたエトルリア軍は、少しずつではあるが確実にレジスタンス達を追い詰めていった。
「おい大将、そろそろ限界だぜ!」
「わかってるよ、ダン!」
レジスタンスの自称特攻隊長であるダンが急かすのも無理はない。
エトルリア軍に発見されてなし崩し的に戦闘を開始するよりは、こちらから打って出た方が確実にいくらかマシな状況に持っていけるのだから。
だが、いかにマシな状況を作れたとしても、援軍が無ければ何の意味もない。リキア同盟軍が到着しなければ、いかに善戦仕様がどうにもならないのだ。
エトルリア軍もそれがわかっているからこそ、早期発見に躍起になっているのだから。
そして、先手を打つ最後の機会が訪れるのであった。
「仕方ありません。ダンを先陣に、ディーク殿達はその援護を、殿はエキドナとガント殿にお願いします」
「了解だ!」
「目的は脱出です。リキア同盟軍も近くに来ているでしょうから、無理をせずにその時まで生き残ってください!」
エルフィンの険しい声と共に、特攻隊長ダンがエトルリア兵の前に飛び出し、その斧を振り下ろす。
「死にたい奴からかかってきな!」
「あんま挑発するな!」
「治療にも体力を消費するんですから、敵を集めるようなマネは止めてください!」
エキドナとティーナからの叱責を受けたダンであったが、この面子の中では自分が一番戦闘に長けているという自負があり、他の面子の負担を減らすという目的があるのだ。
ほんのわずかに肩をすくめるだけで、ダンは敵の挑発を辞めるつもりは無かった。
レジスタンス達の戦いが始まったころ、ロイ達もようやくエブラクム鉱山へと到着しようとしていた。
そう、リキア同盟軍が鉱山へ着くには、いましばらく時間がかかる位置であったのだ。
だが、幸か不幸かマークが放っていた密偵が鉱山の情報をいち早くつかみ、その情報を持ち帰っていた。
「なんだって? もう戦いが始まっているのか!」
「はい、我々の事は伝わっているでしょうから、あと少しが待てずにエトルリア軍に発見されたんだと思います」
「すぐに出陣する!」
「はっ!」
マシューからの報告でロイは即座に出陣を決断し、全軍へと指令を出す。
その傍ら、マークとパントはマシューから更なる情報を聞き、その対処に動くのであった。
「パントの息子か……」
「ああ、本国に残しておくのは不安だったから、西方に出張らせたんだ」
「抜け目のない……」
本国で起こる混乱に巻き込まれないように、されど相応の試練を課すパントは、過保護なのか厳しいのか判断しにくい子育てをしているようである。
「あの子にはファリナ殿を雇えるように手配したから、少し急がないと甚大な被害が出るかもしれないね」
「フロリーナとルイーズで早急に説得してくれ!」
「はい!」
「わかりましたわ」
うまくファリナを使われれば、ロイにイサドラが付いていてもかなり厳しくなる。故に可能な限り早く対処するべきなのだが、さすがにいくらかのずれは生じるだろう。
また、マシューの仕入れた情報はこれで終わりではないのだ。
「竜騎士も近くにいるのか……」
「目的はわからないけど、ヒースあたりが来ると厄介だな」
マークの危惧に、パントも同意する。
もとより西方へのベルンの介入は覚悟していたが、それがヒースや竜将クラスであるのなら、マーク達だって油断はできない。
万が一の事態を思えば、ロイ達から引き離したいところである。
そのようにマーク達からかなりの警戒を受けることになった竜騎士は、鉱山の上空でゆっくりと旋回しながら戦局を見渡していた。
「見覚えのある顔も多そうだねぇ……ヒース、アンタの報告より増えてるんじゃないのかい?」
「西方に滞在していた者たちとも合流したのでしょう。それより、本当に俺達だけでやるんですか、隊長?」
ヒースに隊長と呼ばれて相変わらずだと少し呆れるヴァイダであったが、その目は変わらずに鋭く、戦意に満ちていた。
「当然だよ! ここならまだ竜将の管轄外とギリギリで言えるし、他の奴らには関係ないけじめだからね!」
「まぁ、それはそうなんですが……」
それは、20年前に共に戦ったマーク達への決別の儀式か。ヴァイダには、どうしても彼らと本気で戦う前に会っておく必要があったのだ。
「結局、あの戦いはアイツ等だけの問題じゃなかったからね……」
その言葉を最後に、ヴァイダは口を閉ざす。その時が来るのを、ただ静かに待つのであった。